LDL亜画分を用いた冠動脈疾患の判定方法
【課題】高価な測定装置が必要なく、簡便で性能の高い冠動脈疾患の判定方法の提供。
【解決手段】本発明は、陰イオン交換樹脂を用いて、LDLを吸着させた後、LDL亜画分のうち、結合力の弱い画分である、LDLfを溶出させ、続いて、LDL亜画分のうち、結合力の強い画分である、LDLsを溶出させる測定法において、LDLsが高値を示した場合に冠動脈疾患である可能性が高いと判別する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、陰イオン交換樹脂を用いて、LDLを吸着させた後、LDL亜画分のうち、結合力の弱い画分である、LDLfを溶出させ、続いて、LDL亜画分のうち、結合力の強い画分である、LDLsを溶出させる測定法において、LDLsが高値を示した場合に冠動脈疾患である可能性が高いと判別する方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
イオン交換樹脂を用いて分離、測定されるLDL亜画分を用いて、冠動脈疾患を判定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血清中のリポ蛋白には、大きく分類して、比重の軽い順にカイロマイクロン(CM)、超低比重リポ蛋白(VLDL)、中間型リポ蛋白(IDL)、低比重リポ蛋白(LDL)、高比重リポ蛋白(HDL)の5種類が知られている。VLDLは肝臓で産生され、血液中で代謝されることによりIDLを経由し、LDLとなる。LDLは抹消組織細胞に脂質を供給する。LDLには比重の異なるものが存在していることが知られており、近年、血液中に比重の高いLDLが多いことは、動脈硬化を進展させる主要なリスクファクターになると考えられている(非特許文献1)。また、近年、LDLの中でも、粒子系の小さなSmall, dense LDLや、酸化を受けたOxidized LDL(以下、酸化LDLと呼ぶ)が特に動脈硬化性疾患のリスクファクターとして指摘され注目されている(非特許文献2、3)。
【0003】
このように、LDLを更に詳細に分離し測定することにより、LDLのどのような分子が高い動脈硬化性疾患のリスクファクターであるかを理解することは、動脈硬化性疾患の治療及び予防を進めるうえで重要である。
【0004】
Small, dense LDLを分離測定する方法としては、超遠心分離装置(非特許文献1、4)、NMR分析装置(非特許文献5、6)、ゲルろ過クロマトグラフィー(非特許文献7)、電気泳動(非特許文献8)、沈殿法(非特許文献9)による方法があるが、超遠心分離装置やNMR分析装置は高価な装置であり、汎用性に乏しい。また、NMR分析装置、ゲルろ過カラム、電気泳動、沈殿法による方法は各リポ蛋白の亜画分を分離する能力が十分でないという問題点がある。酸化LDLの測定法は、モノクローナル抗体を用いたイムノアッセイによる方法で簡便ではあるが、用いるモノクローナル抗体の種類が異なる場合や、分離したLDL試料を用いる方法と希釈した血清を試料として用いる方法など種々の方法があり、方法により値が異なるという問題がある(非特許文献3)。
【0005】
【非特許文献1】Griffin Bら、Atherosclerosis 106、p241(1994)
【非特許文献2】Carmena Rら、Circulation、109.pIII−2(2004)
【非特許文献3】Itabe Hら、J Atheroscler Thromb、14、p1(2007)
【非特許文献4】Guerin Mら、Arteriosclerosis Thrombosis and Vascular Biology 20、p189(2000)
【非特許文献5】Ikewaki Kら、Journal of Atherosclerosis and Thrombosis 11、p278(2004)
【非特許文献6】Otvos J D、Handbook of Lipoprotein Testing 2nd Edition、p609(2000)
【非特許文献7】Okazaki Mら、Handbook of Lipoprotein Testing 2nd Edition、p647(2000)
【非特許文献8】Hoefner D Mら、Clinical Chemistry 47、p266(2001)
【非特許文献9】Hiranoら、J Lipid Research、44、p2193(2003)
【非特許文献10】Yamaguchi Yら、J Chromatogr B、731、p223(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、Small, dense LDLや酸化LDLの測定法が構築され冠動脈疾患との関連が検討されているが、冠動脈疾患との関連を検討する方法として性能が満足できるものではなく、その評価結果も一定の成績が得られていない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、陰イオン交換樹脂を用いたリポ蛋白の分離分析法を考案し、更にLDLの中の結合力が強い画分を測定する方法を確立した。この測定法はLDL亜画分を分離する能力が高く、再現性も良好な方法であった。この測定法を用いて、冠動脈疾患患者の血清を測定することにより、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、陰イオン交換樹脂を用いて、LDLを吸着させた後、LDL亜画分のうち、結合力の弱い画分である、LDLfを溶出させ、続いて、LDL亜画分のうち、結合力の強い画分である、LDLsを溶出させる測定法において、LDLsが高値を示した場合に冠動脈疾患である可能性が高いと判別する方法である。ここで、陰イオン交換樹脂に対する結合力の強弱は、当該LDL亜画分を陰イオン交換樹脂から溶出させる際に使用する溶出液の塩濃度で判断する。すなわち、溶出液の塩濃度が相対的に高い場合に溶出する亜画分を結合力の強い画分(LDLs)といい、溶出液の塩濃度が相対的に低い場合に溶出する亜画分を結合力の弱い画分(LDLf)という。
【0009】
従って、本願は以下の発明を包含する。
1.LDL亜画分のうち、陰イオン交換樹脂に対して、結合力が強いLDL亜画分(以下、LDLs)を指標として用いる、冠動脈疾患の判定方法。
2.LDLsのコレステロール濃度を比較することにより、冠動脈疾患を判定する、1に記載の方法。
3.被験者から得られるLDLsのコレステロール濃度が、健常者から得られるLDLsのコレステロール濃度の平均値よりも高い場合に、冠動脈疾患であると判定する、2に記載の方法。
4.溶離液の塩濃度勾配を利用して、LDLからLDLsを分離し、測定したものを指標として用いる、1〜3のいずれか一つに記載の方法。
5.LDLを吸着させるための溶離液(溶離液1)、LDL亜画分のうち、結合力の弱い画分を溶出させるための溶離液(溶離液2)、LDL亜画分のうち、結合力が強い画分を溶出させるための溶離液(溶離液3)の塩濃度の異なる溶離液を、溶離液1、2、3の順に陰イオン交換樹脂に流すことにより、LDLからLDLsを分離し、測定したものを指標として用いる、1〜4のいずれか一つに記載の方法。
6.溶離液1の塩濃度が130mmol/Lから180mmol/Lであり、溶離液3の塩濃度が溶離液1の塩濃度より20mmol/Lから50mmol/L高く、溶離液2の塩濃度が、溶離液1の塩濃度よりも高く、溶離液3の塩濃度よりも低い、1〜5のいずれか一つに記載の方法。
7.溶離液2の塩濃度が、溶離液1と溶離液3の塩濃度の差に対して35%から60%分溶離液3より低い、1〜6のいずれか一つに記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、イオン交換樹脂を用いて分離、測定されるLDL亜画分を用いて、簡便で性能の高い冠動脈疾患を判定する方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明について、詳細に説明する。
LDLの亜画分の分離測定方法としては、超遠心分離装置を用いた方法が一般に用いられており、分離する能力も高いが、一方で、手技が難しく、また、超遠心分離装置は高価なため、多くの研究者が利用することは出来ない。NMRやゲルろ過クロマトグラフィーによる測定方法の手技は難しくないが、どちらもLDLの亜画分を分離する能力は十分とは言えない。電気泳動による測定方法も、手技は難しくないが、分離する能力は十分とは言えないし、一般的に定量性という面で性能の低い測定方法である。
【0012】
陰イオン交換クロマトグラフィーによるリポ蛋白の分離は、一般的な液体クロマトグラフィーの装置を用いて実施することが可能である。分離後は、コレステロールと反応する市販の酵素液(例えば総コレステロールEテストワコー、和光純薬株式会社製)と混合して反応させ、可視光検出器で測定することができ、簡便で定量性も良いことが知られている(Hirowatari Yら、Journal of Lipid Research 44、p1404(2003))。我々は、この陰イオン交換クロマトグラフィーによるリポ蛋白分析の手法を用いて、LDLの亜画分を分離することを試みた。具体的には、LDL2の含まれる量の多い画分(LDLf)とLDL3の含まれる量の多い画分(LDLs)の2つに、各々3つの溶離液を用いたステップ溶出により、LDLの亜画分を分離することを試みた。
【0013】
使用出来る陰イオン交換カラムに充填されるゲルとしては、シリカ系やポリマー系のゲルにジエチルアミノエチル(DEAE)基や第4級アミノエチル(QAE)基が結合されたもの、また、そのゲルの表面に1000オングストローム程度の孔があるもの(多孔質)と孔がないもの(非多孔質)があるが、好ましくは、リポ蛋白に対して分離性能の高い非多孔質のタイプ、例えばポリマー系の非多孔質タイプの表面にDEAE基を持つゲルをカラムに充填したTSK−GEL DEAE−NPR(東ソー(株)製)が挙げられる。溶離液は、リポ蛋白の分離能力の高い過塩素酸ナトリウムなどのカオトロピックイオンを含んだ溶離液が望ましい。
【0014】
LDLの分離は、イオン交換樹脂、例えばイオン交換カラムを使用し、溶離液の塩濃度勾配を利用して行うことができる。好ましくは、分離に使用する塩濃度の異なる溶離液1、2、3を、塩濃度の低い順にカラムに流す。この3種類の溶離液の役割としては、溶離液1はLDL画分を吸着させるとともにHDL画分を溶出させ、溶離液2はLDL2(密度1.035〜1.045g/ml)の含まれる量が多い画分(LDLf)を溶出させ、溶離液3はLDL3(密度1.045〜1.063g/ml)の含まれる量が多い画分(LDLs)を溶出させことにある。かつ、溶離液3は、陰イオン交換カラムにおいて、LDLよりも溶出の遅いIDL、VLDL、CMがLDLsから溶出しない塩濃度とする。それらが同時に溶出すると、LDLsの精度が低下する。IDLは3型高脂血症という遺伝性の病態以外ではその量は少なくLDLsの精度に大きな支障をもたらさないが、VLDLやCMは病状の軽い高脂血症においても、ある程度存在するので、LDLsの測定精度を著しく低下させ、問題となる。また、溶離液1と2や溶離液2と3の間にLDL亜画分の分離を高めるために更に新たな塩濃度の溶離液を加えたり、分離溶出する条件として、段階的に溶離液の塩濃度を高める条件を加えたりしても良い。
【0015】
使用するカラムや溶離液に入れる塩の種類により若干異なるが、本分離における最も好ましい条件においては、DEAE基を持つ非多孔質のポリマー系のゲルを充填したカラムを用い、そのカラムに用いる溶離液に過塩素酸ナトリウムを含み、溶離液1の塩濃度が130mmol/Lから180mmol/Lであり、溶離液3は溶離液1より20mmol/Lから50mmol/L高く、溶離液2は溶離液3に比べ溶離液1と溶離液3の塩濃度の差に対して35%から60%分塩濃度が低い溶離液とする。
【0016】
好ましい塩として、上述のとおり過塩素酸ナトリウムが使用されるが、その他、チオシアン酸ナトリウム、ヨウ化カリウムなどが挙げられる。また、溶離液の塩濃度とは、加えた試薬の解離しているイオンの濃度であり、過塩素酸ナトリウムの場合には、ほぼ100%が解離しているので、過塩素酸ナトリウムを100mmol/L入れた場合には、その塩濃度は100mmol/Lとなる。緩衝液に依存する塩濃度はその試薬の解離定数から算出するが、実施例で使用した50mmol/Lのトリス緩衝液については、pH8のときの解離した分子の濃度(塩濃度)は、トリスのpKa=8.1から算出すると、約28mmol/Lとなる。
【0017】
使用する溶離液には、緩衝液を加えて、pHを6から9に調整することが好ましい。加える緩衝液の種類としては、例えばTris−HCl、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液など、当業界において慣用のあらゆるものを使用することができる。
【0018】
また、実施例4において、高脂血症患者の血清を用いて、溶離液1及び3に適した塩濃度を検討し、さらに、LDLs濃度が異なる高脂血症患者において、溶離液1及び3中の塩濃度を固定した条件で溶離液2の塩濃度を変動させたとき、LDLsの測定値は変動するものの、溶離液2の濃度が、溶離液1と溶離液3の塩濃度の差に対して34%分以上溶離液3より低い条件では、各患者間の測定値の順序には変動がないことを確認している。これらのことから、前述した分離条件の範囲内であれば、LDLsの値が変動するものの、同じ分離条件で得られた複数の個人の測定値と比較して、その値の高さから冠動脈疾患である可能性を判別することは可能である。
【0019】
本分析法を用いて実施例に示したように、冠動脈疾患患者と健常人を測定して比較したところ、LDLsは冠動脈疾患患者において、有意に高値を示した(表4、図14)。このことから、LDLsを測定することにより冠動脈疾患を判定することが出来ることが分かる。例えば、LDLs中のコレステロール濃度について、健常人の測定値と、冠動脈疾患患者との測定値とを比較して判定を行う。具体的には、LDLs中のコレステロール濃度について、健常人の平均測定値と被験者から得られる測定値を比較し、被験者の測定値が高い場合に、好ましくは5%以上高い場合に、より好ましくは10%以上高い場合に、なおより好ましくは20%以上高い場合に、更により好ましくは30%以上高い場合に、特に好ましくは40%以上高い場合に、最も好ましくは50%以上高い場合に、その被験者は冠動脈疾患である可能性が高いと判断することができる。
【0020】
次に、本発明について、実施例を用いて説明する。ただし、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0021】
(実施例1)
図1に装置の形態を示す。実施例に用いた装置構成を下記に示す。
溶離液A(1)は50mM Tris−HCl+1mM EDTA2Na pH7.5、溶離液B(2)は50mM Tris−HCl+1mM EDTA2Na+500mM 過塩素酸ナトリウム pH7.5である。溶離液AとBを流すポンプ(4)はCCPM2(東ソー(株)製)を用いた。CCPM2は、ポンプヘッドを2つもち、溶離液2液のグラディエントを行えるポンプである。溶離液AとBを混合するミキサー(5)はスタティックミキサーC(東ソー(株)製)を用いた。オートサンプラー(6)はAS−8020(東ソー(株)製)を、カラムオーブン(9)はCO−8021(東ソー(株)製)を用いた。カラム(8)はDEAE−NPRカラムサイズ4.6mmI.D.x35mm(東ソー(株)製)を、フィルター(7)はHLC−723GHb3型用のカラムフィルターSタイプ(東ソー(株)製)を用いた。コレステロール反応液(10)はTCHO−CL(セロテック社製)を、ポンプ直前にエアートラップ(11)を設置した。コレステロール反応液のためのポンプ(12)はDP−8020(東ソー(株)製)を用いた。溶離液AとBおよびコレステロール反応液については、脱気装置(3)を設置した。コレステロール反応液のラインに、抵抗管(13)0.1mmI.D.x2mを2つ直列につないで設置した。反応コイル(14)は、0.25mmI.D.x30mとした。検出器はUV−8020(東ソー(株)製)(15)を用いた。溶離液はAとBをあわせて0.5mL/minの流速とし、コレステロール反応液の流速は0.25mL/minとした。カラムオーブンの温度は25℃とし、反応コイルは37℃に保温した。検出器は600nmで検出した。
【0022】
溶離液による溶出パターンを、0.0分から20.0分はBの組成を10.0%(その他の組成は全てA、以下同じ)から37.0%へのリニアグラディエントとし、20.0分から21.8分はBの組成を37.0%に固定し、21.8分から22.3分はBの組成を37.0%から100.0%へのリニアグラディエントとし、22.3分から23.8分はBの組成を100.0%に固定し、23.8分から24.3分はBの組成を100.0%から10.0%へのリニアグラディエントとし、24.3分から40.0分はBの組成を10.0%に固定し、HDL亜画分の検討を行った。なお、本分析において、1検体の測定時間は40分とした。なお、本測定機器のこの溶出パターンの時間の設定と実際にカラムに流れる溶離液の組成には、ポンプからカラムまでの配管容量とカラムから溶出してから反応して検出するまでに要する時間により4分のタイムラグが生じる。
【0023】
健常人の血清検体と、健常人から超遠心分離装置を用いた方法で得られたHDL2(密度1.063〜1.125g/ml)とHDL3(密度1.125g/ml以上)を測定した。健常人検体では、溶出時間9.27分にHDL3を主体としたピークが、溶出時間12.60分にHDL2を主体としたピークが、溶出時間16.08分にLDLが、溶出時間19.20分にVLDLが確認された(図2)。HDL2試料を分析した際には、主要なピークが溶出時間12.29分に確認され、小さなピークが溶出時間17.00分に確認された(図3)。なお、このマイナーピークと主要なピークとの性質の差は現時点では不明である。HDL3試料を分析した際には、溶出時間として11.42分のピークが確認された(図4)。これらの結果から、イオン交換クロマトグラフィーにおいてHDL3はHDL2より早く溶出する性質を有することがわかった。
【0024】
また、図2の溶出パターンを見ると、HDL3の溶出はグラディエント条件15%ぐらいから始まっている。図3の超遠心で分離したHDL3の試料を測定した結果では、グラディエント条件18%ぐらいから溶出が始まっているが、この差は超遠心で分離したHDL3の試料には血清由来の蛋白が含まれないためだと考えられる。これらの結果からHDL亜画分を測定する場合のHDL全体を吸着させる溶離液(溶離液1’)は確実に吸着が起こる8%以下が好ましい。8%の時の過塩素酸ナトリウム濃度は40mmol/Lであり、50mmol/L トリス緩衝液 pH7.5の塩濃度は40mmol/Lであるので、全体で80mmol/L以下が望ましいと言える。また、HDL2は図3からわかるように、18%の時から溶出が開始され28%には完全に溶出が終了する。このことから、HDL画分をすべて溶出する溶離液(溶離液3’)は18%の組成の溶離液(塩濃度130mmol/L)を流し長い時間をかけて溶出するか、28%の組成の溶離液(塩濃度180mmol/L)を短時間流せば良い。溶離液3’の塩濃度は130〜180mmol/Lの範囲が好ましいと言える。
【0025】
次に、pH8.0の溶離液を用いて、溶離液による溶出パターンを、0.0分から20.0分はBの組成を10.0%(その他の組成は全てA、以下同じ)から37.0%へのリニアグラディエントとし、20.0分から22.0分はBの組成を37.0%に固定し、22.0分から26.0分はBの組成を100.0%に固定し、26.0分から40.0分はBの組成を10.0%に固定し、LDL亜画分の検討を行った。なお、1検体の測定時間は40分とした。
【0026】
健常人の血清検体と、高脂血症患者から超遠心分離装置を用いた方法で得られたLDL1(密度1.019〜1.035g/ml)とLDL2(密度1.035〜1.045g/ml)とLDL3(密度1.045〜1.063g/ml)を測定した。健常人検体では、溶出時間12.81分と13.91分に2つに分かれてHDL3を主体としたピークが、溶出時間15.89分にHDL2を主体としたピークが、溶出時間19.20分にLDLが確認され、LDLと分離したピークとして確認はされていないが22分ぐらいに溶出されている画分はVLDLと推定される(図5)。LDL1試料を分析した際には、溶出時間として19.85分のピークが確認された(図6)。LDL2試料を分析した際には、主要なピークが溶出時間19.49分に確認され、小さなピークが溶出時間21.70分に確認された(図7)。なお、このマイナーピークと主要なピークとの性質の差は現時点では不明である。LDL3試料を分析した際には、溶出時間として19.92分のピークが確認された(図8)。これらの結果から、イオン交換クロマトグラフィーにおいて、LDL亜画分の溶出する順序は、LDL2、LDL1、LDL3となることがわかる。
前述したように、HDL画分をすべて溶出する溶離液(溶離液3’)の塩濃度は130〜180mmol/Lの範囲が好ましいとわかった。このことから、HDL画分を吸着、もしくは、溶出させて、なおかつ、LDL画分を吸着させるための溶離液(溶離液1)も同様に130〜180mmol/Lの範囲が好ましいと言える。実際に図5から8を見ると、LDLの溶出は約30%(塩濃度は、過塩素酸濃度が150mmol/L、50mmol/L トリス緩衝液 pH8.0の塩濃度は28mmol/Lであるので、全体で約180mmol/Lとなる。)から始まっている。また、LDL画分をすべて溶出するための溶離液(溶離液3)は、LDL画分の溶出する溶離液の塩濃度が図6〜8から30〜34%程度(塩濃度で178〜198mmmol/L)となり、30%程度の溶離液を長時間流すか、あるいは、34%程度の溶離液を短時間流すかのどちらかを選択する。このことから、溶離液3の濃度は、30〜34%程度(塩濃度で178〜198mmmol/L)が好ましい濃度となり、溶離液1との差はおおむね20〜50mmol/Lである。
【0027】
(実施例2)
実施例1と同じ装置を用い、溶離液のpHは8.0として、検討を行った。溶離液の溶出パターンは、0.0分から0.01分はBの組成を8.0%(その他の組成は全てA、以下同じ)に固定、0.01分から3.0分はBの組成を19.0%に固定、3.0分から6.0分はBの組成を24.5%に固定、6.0分から9.5分はBの組成を27.8%に固定、9.5分から13.0分はBの組成を29.5%に固定、13.0分から16.5分はBの組成を33.0%に固定、16.5分から20.0分はBの組成を43.0%に固定、20.0分から25.0分はBの組成を63.0%に固定、25.0分から35.0分はBの組成を8.0%に固定した。なお、1検体の測定時間は35分とした。
【0028】
健常人の血清検体と、健常人から超遠心分離装置を用いた方法で得られたHDL2(密度1.063〜1.125g/ml)、HDL3(密度1.125g/ml以上)、LDL1(密度1.019〜1.035g/ml)、LDL2(密度1.035〜1.045g/ml)、LDL3(密度1.045〜1.063g/ml)、IDL(密度1.006〜1.019g/ml)、VLDL(密度0.930〜1.006g/ml)、CM(密度0.930g/ml以下)を測定した。
【0029】
HDL3試料については、溶出時間5.9分に主たるピークが見られ、溶出時間8.4分にマイナーなピークが確認され、HDL2試料については、溶出時間8.5分にピークが確認された(図9)。LDL3試料は、溶出時間12.9分に主たるピークが見られ、溶出時間15.1分にマイナーなピークが確認され、LDL2試料は、溶出時間12.1分に主たるピークが見られ、溶出時間15.0分と18.8分にマイナーなピークが確認され、LDL1試料は、溶出時間12.3分に主たるピークが見られ、溶出時間15.1分にマイナーなピークが確認された(図9)。IDL試料は、溶出時間18.6分に主たるピークが見られ、溶出時間15.9分にマイナーなピークが確認され、VLDL試料は、溶出時間22.0分に主たるピークが見られ、溶出時間25.2分にマイナーなピークが確認され、CM試料では、ピークは確認されなかった(図9)。これらの結果から、健常人の血清検体において見られる溶出時間6.7分、8.6分、12.1分、15.2分、18.8分、21.9分、25.2分のピークは、それぞれ、HDL3が主要な成分であるHDL3+、HDL2が主要な成分であるHDL2+、LDL1とLDL2が主要な成分であるLDLf、LDLfに比べLDL3の含量が多いLDLs、IDL、VLDL、CMのピークであると言える(図9)。
【0030】
次に、高脂血症患者検体においても、同様の検討を行った。各画分の分析結果から、高脂血症患者の血清検体において見られる溶出時間6.5分、8.5分、11.8分、15.1分、18.8分、22.0分、25.1分のピークは、それぞれ、健常人血清と同様に、HDL3が主要な成分であるHDL3+、HDL2が主要な成分であるHDL2+、LDL1とLDL2が主要な成分であるLDLf、LDLfに比べLDL3の含量が多いLDLs、IDL、VLDL、CMのピークであると言える(図10)。
【0031】
このように、溶離液B8%(過塩素酸ナトリウム40mmol/l)において、リポ蛋白画分を吸着させ、溶離液B19%(過塩素酸ナトリウム95mmol/l)において、HDL3を多く含むHDL画分を溶出させ、溶離液B24.5%(過塩素酸ナトリウム122.5mmol/l)において、HDL2を多く含むHDL画分を溶出させることが出来る。そして、溶離液B24.5%(過塩素酸ナトリウム122.5mmol/l)において、HDL画分がすべて溶出した後に、溶離液B27.8%(過塩素酸ナトリウム139mmol/l)において、LDL2を多く含むLDLf画分を溶出させ、溶離液B29.5%(過塩素酸ナトリウム147.5mmol/l)において、LDL3を多く含むLDLs画分を溶出させることが出来る。その後、溶離液B33.0%(過塩素酸ナトリウム165mmol/l)においてIDL画分を、溶離液B43.0%(過塩素酸ナトリウム215mmol/l)においてVLDL画分を、溶離液B63.0%(過塩素酸ナトリウム315mmol/l)においてCM画分を溶出する。以上のように、ステップ溶出を用いることにより、HDL3+、HDL2+、LDLf、LDLs、IDL、VLDL、CMの7つのリポ蛋白画分を良好に分離し測定することが出来る。
【0032】
以上の結果から、ステップ溶出によるLDL亜画分の最も好ましい溶出条件においては、溶離液1は塩濃度143〜163mmol/l(溶離液B23〜27%)であり、溶離液2は溶離液1と3の塩濃度の差の34%分溶離液3より低く(溶離液3が溶離液B29.5%であり、溶離液2が溶離液B27.8%である。)、溶離液3は175.5〜188mmol/l(溶離液B29.5〜32%)である。
【0033】
(実施例3)
実施例2と同じ条件で、LDLfとLDLsの溶出条件を検討することを目的として、LDLfを溶出する溶離液をB25.0〜29.0%(過塩素酸ナトリウム125〜145mmol/l)に変動させて、測定を実施した。高脂血症患者2名の血清試料を用いた。結果を表1と2に示す。また、そのLDLs/LDLfの比率(%)の変動を図11に示した。図11から、溶離液B26.3%(過塩素酸ナトリウム131.5mmol/l)以下になると急激に高くなることがわかる。溶離液B26.3%でLDLf画分を溶出する前の溶離液はB24.5%であり、LDLs画分を溶出する溶離液はB29.5%であるので、LDL亜画分を溶出する条件として、2番目に流す溶離液と3番目に流す溶離液の塩濃度の差はB%として3.2%であり、1番目に流す溶離液と3番目に流す溶離液の塩濃度の差はB%として5%であるので、その割合(低下率)は64%である。このことから、安定して測定するには、2番目に流す溶離液の塩濃度の低下率としては64%以下である必要がある。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
また、LDL3の含量はLDL全体の5〜30%程度とわかっており、LDLsのLDL3の含量が適当となるLDLs/LDLfの比率(%)は、5.3〜43%となる。このことを考慮すると、LDLfを溶出する塩濃度はB28.7%以下であり、これは、上記のように算出すると2番目に流す溶離液の塩濃度の低下率16%である。これらのことから、適切な2番目に流す溶離液の塩濃度の低下率は概ね20〜60%といえ、さらに安定的に値を得るための好ましい塩濃度はB26.9〜28.4%であるので、低下率としては22〜52%である。
【0037】
(実施例4)
実施例3で記述したLDLsについて、LDL亜画分への溶出条件の影響を確認するために、LDLfを溶出する溶離液をB25.5〜29.0%(過塩素酸ナトリウム127.5〜145mmol/l)に変動させて、測定を実施した(表3)。3つの高脂血症患者の血清試料を用いた。2番目に流す溶離液の塩濃度の低下率が約35%〜60%の場合、LDLsの測定値は変動するものの、各患者間の測定値の順序には変動がないことが分かる。
【0038】
【表3】
【0039】
(実施例5)
測定方法は、実施例1と同じとした。ただし、カラムは同じ種類であるが充填を別に行なったものであり、そのため分離条件を一部変更した。
【0040】
実施例5で用いた装置の形態を図12に示す。溶離液A(1);50mM Tris−HCl pH8.0、溶離液B(2);50mM Tris−HCl+500mM 過塩素酸ナトリウム pH8.0、溶離液AとBを流すポンプ(4);DP−8020を2台(東ソー(株)製)、溶離液AとBを混合するミキサー(5);スタティックミキサーC(東ソー(株)製)、オートサンプラー(6);AS−8020(東ソー(株)製)、カラムオーブン(9);CO−8021(東ソー(株)製)、カラム(8);DEAE−NPR カラムサイズ4.6mmI.D.×35mm(東ソー(株)製)、フィルター(7);HLC−723GHb3型用のカラムフィルターSタイプ(東ソー(株)製)、コレステロール反応液(10);TCHO−CL(セロテック社製)、ポンプ直前のエアートラップ(11);エアートラップG(東ソー(株)製)、コレステロール反応液のためのポンプ(12);DP−8020(東ソー(株)製)、反応コイル(14);0.25mmI.D.×30m。検出器(15);UV−8020(東ソー(株)製)。溶離液AとB及びコレステロール反応液については、脱気装置(3)を設置し、コレステロール反応液のラインに、抵抗管(13)0.1mmI.D.×2mを2つ直列につないで設置した。溶離液はAとBをあわせて0.5mL/minの流速とし、コレステロール反応液の流速は0.25mL/minとした。カラムオーブンの温度は25℃とし、反応コイルは37℃に保温した。検出器は600nmで検出した。溶離液の溶出パターンは、0.0分から0.01分はBの組成を8.0%(その他の組成は全てA、以下同じ)に固定、0.01分から3.0分はBの組成を19.0%に固定、3.0分から6.0分はBの組成を24.5%に固定、6.0分から9.5分はBの組成を28.0%に固定、9.5分から13.0分はBの組成を30.0%に固定、13.0分から16.5分はBの組成を32.0%に固定、16.5分から20.0分はBの組成を60.0%に固定、20.0分から25.0分はBの組成を100.0%に固定、25.0分から35.0分はBの組成を8.0%に固定した。なお、1検体の測定時間は35分とした。なお、この条件における各溶離液中におけるBの組成はそれぞれ、溶離液1が24.5%(塩濃度で150.5mmol/L)、溶離液2が28%(塩濃度で168mmol/L)、溶離液3が30%(塩濃度で178mmol/L)である。
【0041】
この測定条件により、測定検体はHDL3(結合力が弱いHDL亜画分)、HDL2(結合力が強いHDL亜画分)、LDLf(結合力が弱いLDL亜画分)、LDLs(結合力が強いLDL亜画分)、IDL、VLDL、カイロミクロン(CM)の順に溶出され、その後のポストカラム検出により、各リポ蛋白のコレステロール濃度を測定できる。
【0042】
健常者(Healthy)14例と冠動脈疾患(CAD)患者17例を本測定法に供し、各リポ蛋白中のコレステロール濃度を測定した。測定結果を表4に示す。また、測定結果のうち、LDLfコレステロール、LDLsコレステロール、総LDLコレステロールについては、健常者及び冠動脈疾患患者個々の測定値をプロットしたものを図13から15に示した。なお、図中のバーはノンパラメトリック統計による中心値(50%パーセンタイル値)を、四角は25から75パーセンタイル値の範囲(IQR)をそれぞれ示す。
【0043】
各リポ蛋白中のコレステロール濃度について、健常人の測定値と、冠動脈疾患患者との測定値とで、ウェルチのt検定(非等分散の2標本を対象とするt検定)を行ない、有意差判定(p<0.05)を行なったところ、LDLfコレステロール(図13、表4)、LDLsコレステロール(図14、表4)、総LDLコレステロール(図15、表4)、カイロマイクロンコレステロール(表4)、総コレステロール(表4)について、冠動脈疾患患者が有意な高値を示した。総LDLコレステロール、総コレステロールについては、以前から冠動脈疾患のリスクファクターとして知られていたものであり、本測定法で得られた値の結果と一致した。また、カイロマイクロンコレステロールについては、特に詳細な評価結果はないが、レムナント様リポ蛋白が多く含まれていることが知られているリポ蛋白画分であり、このことからも推測される結果と言える。なお、LDLfコレステロール、LDLsコレステロールについては、我々が今回得た新しい知見である。
【0044】
【表4】
【0045】
次に、LDLfコレステロール、LDLsコレステロール、総LDLコレステロールの3つの値について、それぞれの相関関係を見た(図16から18)。図16を見ると明らかなように、LDLfはLDL全体の主たる画分であることから、LDLfコレステロールと総LDLコレステロールは相関性が高く、総LDLコレステロールと同様の病態を判断するための数値であると言える。しかしながら、LDLの中で陰イオン交換カラムへの吸着力が強い画分であるLDLsについて解析すると、LDLsコレステロールと総LDLコレステロール(図17)、及びLDLsコレステロールとLDLfコレステロール(図18)の相関性は極めて低く、病態において総LDLコレステロールと異なる動きを示すことがわかる。このことから、LDLsは、総LDLコレステロールとは独立した冠動脈疾患の判定因子であることが明らかとなった。
【0046】
Yamaguchi Yら(非特許文献10)は、DEAEグルコマンナンゲルを充填したカラムを用いて、ウサギの血液から超遠心分離法で得たLDLに塩化銅を5μmol/L濃度になるように加え保存することにより酸化させ、その挙動を検討している。その結果は、LDLを酸化させると溶出時間が遅くなることというものである。我々も、LDLsと酸化LDLとの関連を調べるために、同様の実験を試みた。すなわち、健常人血清より超遠心分離法によりLDL(密度1.019〜1.063g/ml)試料を採取し、EDTAを含まないリン酸緩衝生理食塩水にて1晩透析後、3μmol/Lの硫酸銅を加え、35℃で4時間加温したところ、LDLf画分が主であったLDL試料は、LDLs画分が主へと変化した(図19)。この結果から、冠動脈疾患で高値となる酸化LDLがLDLsの中には多く含まれていることが推測され、これは、LDLsの有用性の高さを示唆するものである。
【0047】
また、高脂血症患者40例を用いて、酸化LDLのキット(協和メデックス株式会社製)と、本測定法によるLDLfコレステロール、LDLsコレステロール、総LDLコレステロールとの比較を行なった(図20から22)。LDLfコレステロール(図20)と総LDLコレステロール(図22)については、有意な相関関係は認められなかった(p>0.05)が、LDLsコレステロール(図21)では有意な相関関係(p=0.0002)が認められた。このことからも、LDLsと酸化LDLとの関係は強く、間接的ではあるが、LDLsの有用性の高さを示すデータである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例1〜4で用いた装置。
【図2】実施例1の結果(健常人血清)。
【図3】実施例1の結果(HDL2試料)。
【図4】実施例1の結果(HDL3試料)。
【図5】実施例1の結果(健常人血清)。
【図6】実施例1の結果(LDL1試料)。
【図7】実施例1の結果(LDL2試料)。
【図8】実施例1の結果(LDL3試料)。
【図9】実施例2の結果(健常人血清と超遠心分離法によるリポ蛋白試料)。
【図10】実施例2の結果(高脂血症患者血清と超遠心分離法によるリポ蛋白試料)。
【図11】実施例3の結果(高脂血症患者検体を用いたLDLfの溶出条件の検討)。
【図12】実施例5で用いた装置。
【図13】実施例5の結果(健常人と冠動脈疾患患者におけるLDLfコレステロールの比較)。
【図14】実施例5の結果(健常人と冠動脈疾患患者におけるLDLsコレステロールの比較)。
【図15】実施例5の結果(健常人と冠動脈疾患患者における総LDLコレステロールの比較)。
【図16】実施例5の結果(総LDLコレステロールとLDLfコレステロールの相関関係)。
【図17】実施例5の結果(総LDLコレステロールとLDLsコレステロールの相関関係)。
【図18】実施例5の結果(LDLfコレステロールとLDLsコレステロールの相関関係)。
【図19】実施例5の結果(LDLsと酸化LDLとの関係)。
【図20】実施例5の結果(酸化LDLとLDLfコレステロールの相関関係)。
【図21】実施例5の結果(酸化LDLとLDLsコレステロールの相関関係)。
【図22】実施例5の結果(酸化LDLと総LDLコレステロールの相関関係)。
【符号の説明】
【0049】
1 溶離液A
2 溶離液B
3 脱気装置
4 ポンプ
5 ミキサー
6 オートサンプラー
7 フィルター
8 カラム
9 カラムオーブン
10 コレステロール反応液
11 エアートラップ
12 コレステロール反応液のためのポンプ
13 抵抗管
14 反応コイル
15 検出器
【技術分野】
【0001】
イオン交換樹脂を用いて分離、測定されるLDL亜画分を用いて、冠動脈疾患を判定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血清中のリポ蛋白には、大きく分類して、比重の軽い順にカイロマイクロン(CM)、超低比重リポ蛋白(VLDL)、中間型リポ蛋白(IDL)、低比重リポ蛋白(LDL)、高比重リポ蛋白(HDL)の5種類が知られている。VLDLは肝臓で産生され、血液中で代謝されることによりIDLを経由し、LDLとなる。LDLは抹消組織細胞に脂質を供給する。LDLには比重の異なるものが存在していることが知られており、近年、血液中に比重の高いLDLが多いことは、動脈硬化を進展させる主要なリスクファクターになると考えられている(非特許文献1)。また、近年、LDLの中でも、粒子系の小さなSmall, dense LDLや、酸化を受けたOxidized LDL(以下、酸化LDLと呼ぶ)が特に動脈硬化性疾患のリスクファクターとして指摘され注目されている(非特許文献2、3)。
【0003】
このように、LDLを更に詳細に分離し測定することにより、LDLのどのような分子が高い動脈硬化性疾患のリスクファクターであるかを理解することは、動脈硬化性疾患の治療及び予防を進めるうえで重要である。
【0004】
Small, dense LDLを分離測定する方法としては、超遠心分離装置(非特許文献1、4)、NMR分析装置(非特許文献5、6)、ゲルろ過クロマトグラフィー(非特許文献7)、電気泳動(非特許文献8)、沈殿法(非特許文献9)による方法があるが、超遠心分離装置やNMR分析装置は高価な装置であり、汎用性に乏しい。また、NMR分析装置、ゲルろ過カラム、電気泳動、沈殿法による方法は各リポ蛋白の亜画分を分離する能力が十分でないという問題点がある。酸化LDLの測定法は、モノクローナル抗体を用いたイムノアッセイによる方法で簡便ではあるが、用いるモノクローナル抗体の種類が異なる場合や、分離したLDL試料を用いる方法と希釈した血清を試料として用いる方法など種々の方法があり、方法により値が異なるという問題がある(非特許文献3)。
【0005】
【非特許文献1】Griffin Bら、Atherosclerosis 106、p241(1994)
【非特許文献2】Carmena Rら、Circulation、109.pIII−2(2004)
【非特許文献3】Itabe Hら、J Atheroscler Thromb、14、p1(2007)
【非特許文献4】Guerin Mら、Arteriosclerosis Thrombosis and Vascular Biology 20、p189(2000)
【非特許文献5】Ikewaki Kら、Journal of Atherosclerosis and Thrombosis 11、p278(2004)
【非特許文献6】Otvos J D、Handbook of Lipoprotein Testing 2nd Edition、p609(2000)
【非特許文献7】Okazaki Mら、Handbook of Lipoprotein Testing 2nd Edition、p647(2000)
【非特許文献8】Hoefner D Mら、Clinical Chemistry 47、p266(2001)
【非特許文献9】Hiranoら、J Lipid Research、44、p2193(2003)
【非特許文献10】Yamaguchi Yら、J Chromatogr B、731、p223(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、Small, dense LDLや酸化LDLの測定法が構築され冠動脈疾患との関連が検討されているが、冠動脈疾患との関連を検討する方法として性能が満足できるものではなく、その評価結果も一定の成績が得られていない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、陰イオン交換樹脂を用いたリポ蛋白の分離分析法を考案し、更にLDLの中の結合力が強い画分を測定する方法を確立した。この測定法はLDL亜画分を分離する能力が高く、再現性も良好な方法であった。この測定法を用いて、冠動脈疾患患者の血清を測定することにより、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、陰イオン交換樹脂を用いて、LDLを吸着させた後、LDL亜画分のうち、結合力の弱い画分である、LDLfを溶出させ、続いて、LDL亜画分のうち、結合力の強い画分である、LDLsを溶出させる測定法において、LDLsが高値を示した場合に冠動脈疾患である可能性が高いと判別する方法である。ここで、陰イオン交換樹脂に対する結合力の強弱は、当該LDL亜画分を陰イオン交換樹脂から溶出させる際に使用する溶出液の塩濃度で判断する。すなわち、溶出液の塩濃度が相対的に高い場合に溶出する亜画分を結合力の強い画分(LDLs)といい、溶出液の塩濃度が相対的に低い場合に溶出する亜画分を結合力の弱い画分(LDLf)という。
【0009】
従って、本願は以下の発明を包含する。
1.LDL亜画分のうち、陰イオン交換樹脂に対して、結合力が強いLDL亜画分(以下、LDLs)を指標として用いる、冠動脈疾患の判定方法。
2.LDLsのコレステロール濃度を比較することにより、冠動脈疾患を判定する、1に記載の方法。
3.被験者から得られるLDLsのコレステロール濃度が、健常者から得られるLDLsのコレステロール濃度の平均値よりも高い場合に、冠動脈疾患であると判定する、2に記載の方法。
4.溶離液の塩濃度勾配を利用して、LDLからLDLsを分離し、測定したものを指標として用いる、1〜3のいずれか一つに記載の方法。
5.LDLを吸着させるための溶離液(溶離液1)、LDL亜画分のうち、結合力の弱い画分を溶出させるための溶離液(溶離液2)、LDL亜画分のうち、結合力が強い画分を溶出させるための溶離液(溶離液3)の塩濃度の異なる溶離液を、溶離液1、2、3の順に陰イオン交換樹脂に流すことにより、LDLからLDLsを分離し、測定したものを指標として用いる、1〜4のいずれか一つに記載の方法。
6.溶離液1の塩濃度が130mmol/Lから180mmol/Lであり、溶離液3の塩濃度が溶離液1の塩濃度より20mmol/Lから50mmol/L高く、溶離液2の塩濃度が、溶離液1の塩濃度よりも高く、溶離液3の塩濃度よりも低い、1〜5のいずれか一つに記載の方法。
7.溶離液2の塩濃度が、溶離液1と溶離液3の塩濃度の差に対して35%から60%分溶離液3より低い、1〜6のいずれか一つに記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、イオン交換樹脂を用いて分離、測定されるLDL亜画分を用いて、簡便で性能の高い冠動脈疾患を判定する方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明について、詳細に説明する。
LDLの亜画分の分離測定方法としては、超遠心分離装置を用いた方法が一般に用いられており、分離する能力も高いが、一方で、手技が難しく、また、超遠心分離装置は高価なため、多くの研究者が利用することは出来ない。NMRやゲルろ過クロマトグラフィーによる測定方法の手技は難しくないが、どちらもLDLの亜画分を分離する能力は十分とは言えない。電気泳動による測定方法も、手技は難しくないが、分離する能力は十分とは言えないし、一般的に定量性という面で性能の低い測定方法である。
【0012】
陰イオン交換クロマトグラフィーによるリポ蛋白の分離は、一般的な液体クロマトグラフィーの装置を用いて実施することが可能である。分離後は、コレステロールと反応する市販の酵素液(例えば総コレステロールEテストワコー、和光純薬株式会社製)と混合して反応させ、可視光検出器で測定することができ、簡便で定量性も良いことが知られている(Hirowatari Yら、Journal of Lipid Research 44、p1404(2003))。我々は、この陰イオン交換クロマトグラフィーによるリポ蛋白分析の手法を用いて、LDLの亜画分を分離することを試みた。具体的には、LDL2の含まれる量の多い画分(LDLf)とLDL3の含まれる量の多い画分(LDLs)の2つに、各々3つの溶離液を用いたステップ溶出により、LDLの亜画分を分離することを試みた。
【0013】
使用出来る陰イオン交換カラムに充填されるゲルとしては、シリカ系やポリマー系のゲルにジエチルアミノエチル(DEAE)基や第4級アミノエチル(QAE)基が結合されたもの、また、そのゲルの表面に1000オングストローム程度の孔があるもの(多孔質)と孔がないもの(非多孔質)があるが、好ましくは、リポ蛋白に対して分離性能の高い非多孔質のタイプ、例えばポリマー系の非多孔質タイプの表面にDEAE基を持つゲルをカラムに充填したTSK−GEL DEAE−NPR(東ソー(株)製)が挙げられる。溶離液は、リポ蛋白の分離能力の高い過塩素酸ナトリウムなどのカオトロピックイオンを含んだ溶離液が望ましい。
【0014】
LDLの分離は、イオン交換樹脂、例えばイオン交換カラムを使用し、溶離液の塩濃度勾配を利用して行うことができる。好ましくは、分離に使用する塩濃度の異なる溶離液1、2、3を、塩濃度の低い順にカラムに流す。この3種類の溶離液の役割としては、溶離液1はLDL画分を吸着させるとともにHDL画分を溶出させ、溶離液2はLDL2(密度1.035〜1.045g/ml)の含まれる量が多い画分(LDLf)を溶出させ、溶離液3はLDL3(密度1.045〜1.063g/ml)の含まれる量が多い画分(LDLs)を溶出させことにある。かつ、溶離液3は、陰イオン交換カラムにおいて、LDLよりも溶出の遅いIDL、VLDL、CMがLDLsから溶出しない塩濃度とする。それらが同時に溶出すると、LDLsの精度が低下する。IDLは3型高脂血症という遺伝性の病態以外ではその量は少なくLDLsの精度に大きな支障をもたらさないが、VLDLやCMは病状の軽い高脂血症においても、ある程度存在するので、LDLsの測定精度を著しく低下させ、問題となる。また、溶離液1と2や溶離液2と3の間にLDL亜画分の分離を高めるために更に新たな塩濃度の溶離液を加えたり、分離溶出する条件として、段階的に溶離液の塩濃度を高める条件を加えたりしても良い。
【0015】
使用するカラムや溶離液に入れる塩の種類により若干異なるが、本分離における最も好ましい条件においては、DEAE基を持つ非多孔質のポリマー系のゲルを充填したカラムを用い、そのカラムに用いる溶離液に過塩素酸ナトリウムを含み、溶離液1の塩濃度が130mmol/Lから180mmol/Lであり、溶離液3は溶離液1より20mmol/Lから50mmol/L高く、溶離液2は溶離液3に比べ溶離液1と溶離液3の塩濃度の差に対して35%から60%分塩濃度が低い溶離液とする。
【0016】
好ましい塩として、上述のとおり過塩素酸ナトリウムが使用されるが、その他、チオシアン酸ナトリウム、ヨウ化カリウムなどが挙げられる。また、溶離液の塩濃度とは、加えた試薬の解離しているイオンの濃度であり、過塩素酸ナトリウムの場合には、ほぼ100%が解離しているので、過塩素酸ナトリウムを100mmol/L入れた場合には、その塩濃度は100mmol/Lとなる。緩衝液に依存する塩濃度はその試薬の解離定数から算出するが、実施例で使用した50mmol/Lのトリス緩衝液については、pH8のときの解離した分子の濃度(塩濃度)は、トリスのpKa=8.1から算出すると、約28mmol/Lとなる。
【0017】
使用する溶離液には、緩衝液を加えて、pHを6から9に調整することが好ましい。加える緩衝液の種類としては、例えばTris−HCl、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液など、当業界において慣用のあらゆるものを使用することができる。
【0018】
また、実施例4において、高脂血症患者の血清を用いて、溶離液1及び3に適した塩濃度を検討し、さらに、LDLs濃度が異なる高脂血症患者において、溶離液1及び3中の塩濃度を固定した条件で溶離液2の塩濃度を変動させたとき、LDLsの測定値は変動するものの、溶離液2の濃度が、溶離液1と溶離液3の塩濃度の差に対して34%分以上溶離液3より低い条件では、各患者間の測定値の順序には変動がないことを確認している。これらのことから、前述した分離条件の範囲内であれば、LDLsの値が変動するものの、同じ分離条件で得られた複数の個人の測定値と比較して、その値の高さから冠動脈疾患である可能性を判別することは可能である。
【0019】
本分析法を用いて実施例に示したように、冠動脈疾患患者と健常人を測定して比較したところ、LDLsは冠動脈疾患患者において、有意に高値を示した(表4、図14)。このことから、LDLsを測定することにより冠動脈疾患を判定することが出来ることが分かる。例えば、LDLs中のコレステロール濃度について、健常人の測定値と、冠動脈疾患患者との測定値とを比較して判定を行う。具体的には、LDLs中のコレステロール濃度について、健常人の平均測定値と被験者から得られる測定値を比較し、被験者の測定値が高い場合に、好ましくは5%以上高い場合に、より好ましくは10%以上高い場合に、なおより好ましくは20%以上高い場合に、更により好ましくは30%以上高い場合に、特に好ましくは40%以上高い場合に、最も好ましくは50%以上高い場合に、その被験者は冠動脈疾患である可能性が高いと判断することができる。
【0020】
次に、本発明について、実施例を用いて説明する。ただし、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0021】
(実施例1)
図1に装置の形態を示す。実施例に用いた装置構成を下記に示す。
溶離液A(1)は50mM Tris−HCl+1mM EDTA2Na pH7.5、溶離液B(2)は50mM Tris−HCl+1mM EDTA2Na+500mM 過塩素酸ナトリウム pH7.5である。溶離液AとBを流すポンプ(4)はCCPM2(東ソー(株)製)を用いた。CCPM2は、ポンプヘッドを2つもち、溶離液2液のグラディエントを行えるポンプである。溶離液AとBを混合するミキサー(5)はスタティックミキサーC(東ソー(株)製)を用いた。オートサンプラー(6)はAS−8020(東ソー(株)製)を、カラムオーブン(9)はCO−8021(東ソー(株)製)を用いた。カラム(8)はDEAE−NPRカラムサイズ4.6mmI.D.x35mm(東ソー(株)製)を、フィルター(7)はHLC−723GHb3型用のカラムフィルターSタイプ(東ソー(株)製)を用いた。コレステロール反応液(10)はTCHO−CL(セロテック社製)を、ポンプ直前にエアートラップ(11)を設置した。コレステロール反応液のためのポンプ(12)はDP−8020(東ソー(株)製)を用いた。溶離液AとBおよびコレステロール反応液については、脱気装置(3)を設置した。コレステロール反応液のラインに、抵抗管(13)0.1mmI.D.x2mを2つ直列につないで設置した。反応コイル(14)は、0.25mmI.D.x30mとした。検出器はUV−8020(東ソー(株)製)(15)を用いた。溶離液はAとBをあわせて0.5mL/minの流速とし、コレステロール反応液の流速は0.25mL/minとした。カラムオーブンの温度は25℃とし、反応コイルは37℃に保温した。検出器は600nmで検出した。
【0022】
溶離液による溶出パターンを、0.0分から20.0分はBの組成を10.0%(その他の組成は全てA、以下同じ)から37.0%へのリニアグラディエントとし、20.0分から21.8分はBの組成を37.0%に固定し、21.8分から22.3分はBの組成を37.0%から100.0%へのリニアグラディエントとし、22.3分から23.8分はBの組成を100.0%に固定し、23.8分から24.3分はBの組成を100.0%から10.0%へのリニアグラディエントとし、24.3分から40.0分はBの組成を10.0%に固定し、HDL亜画分の検討を行った。なお、本分析において、1検体の測定時間は40分とした。なお、本測定機器のこの溶出パターンの時間の設定と実際にカラムに流れる溶離液の組成には、ポンプからカラムまでの配管容量とカラムから溶出してから反応して検出するまでに要する時間により4分のタイムラグが生じる。
【0023】
健常人の血清検体と、健常人から超遠心分離装置を用いた方法で得られたHDL2(密度1.063〜1.125g/ml)とHDL3(密度1.125g/ml以上)を測定した。健常人検体では、溶出時間9.27分にHDL3を主体としたピークが、溶出時間12.60分にHDL2を主体としたピークが、溶出時間16.08分にLDLが、溶出時間19.20分にVLDLが確認された(図2)。HDL2試料を分析した際には、主要なピークが溶出時間12.29分に確認され、小さなピークが溶出時間17.00分に確認された(図3)。なお、このマイナーピークと主要なピークとの性質の差は現時点では不明である。HDL3試料を分析した際には、溶出時間として11.42分のピークが確認された(図4)。これらの結果から、イオン交換クロマトグラフィーにおいてHDL3はHDL2より早く溶出する性質を有することがわかった。
【0024】
また、図2の溶出パターンを見ると、HDL3の溶出はグラディエント条件15%ぐらいから始まっている。図3の超遠心で分離したHDL3の試料を測定した結果では、グラディエント条件18%ぐらいから溶出が始まっているが、この差は超遠心で分離したHDL3の試料には血清由来の蛋白が含まれないためだと考えられる。これらの結果からHDL亜画分を測定する場合のHDL全体を吸着させる溶離液(溶離液1’)は確実に吸着が起こる8%以下が好ましい。8%の時の過塩素酸ナトリウム濃度は40mmol/Lであり、50mmol/L トリス緩衝液 pH7.5の塩濃度は40mmol/Lであるので、全体で80mmol/L以下が望ましいと言える。また、HDL2は図3からわかるように、18%の時から溶出が開始され28%には完全に溶出が終了する。このことから、HDL画分をすべて溶出する溶離液(溶離液3’)は18%の組成の溶離液(塩濃度130mmol/L)を流し長い時間をかけて溶出するか、28%の組成の溶離液(塩濃度180mmol/L)を短時間流せば良い。溶離液3’の塩濃度は130〜180mmol/Lの範囲が好ましいと言える。
【0025】
次に、pH8.0の溶離液を用いて、溶離液による溶出パターンを、0.0分から20.0分はBの組成を10.0%(その他の組成は全てA、以下同じ)から37.0%へのリニアグラディエントとし、20.0分から22.0分はBの組成を37.0%に固定し、22.0分から26.0分はBの組成を100.0%に固定し、26.0分から40.0分はBの組成を10.0%に固定し、LDL亜画分の検討を行った。なお、1検体の測定時間は40分とした。
【0026】
健常人の血清検体と、高脂血症患者から超遠心分離装置を用いた方法で得られたLDL1(密度1.019〜1.035g/ml)とLDL2(密度1.035〜1.045g/ml)とLDL3(密度1.045〜1.063g/ml)を測定した。健常人検体では、溶出時間12.81分と13.91分に2つに分かれてHDL3を主体としたピークが、溶出時間15.89分にHDL2を主体としたピークが、溶出時間19.20分にLDLが確認され、LDLと分離したピークとして確認はされていないが22分ぐらいに溶出されている画分はVLDLと推定される(図5)。LDL1試料を分析した際には、溶出時間として19.85分のピークが確認された(図6)。LDL2試料を分析した際には、主要なピークが溶出時間19.49分に確認され、小さなピークが溶出時間21.70分に確認された(図7)。なお、このマイナーピークと主要なピークとの性質の差は現時点では不明である。LDL3試料を分析した際には、溶出時間として19.92分のピークが確認された(図8)。これらの結果から、イオン交換クロマトグラフィーにおいて、LDL亜画分の溶出する順序は、LDL2、LDL1、LDL3となることがわかる。
前述したように、HDL画分をすべて溶出する溶離液(溶離液3’)の塩濃度は130〜180mmol/Lの範囲が好ましいとわかった。このことから、HDL画分を吸着、もしくは、溶出させて、なおかつ、LDL画分を吸着させるための溶離液(溶離液1)も同様に130〜180mmol/Lの範囲が好ましいと言える。実際に図5から8を見ると、LDLの溶出は約30%(塩濃度は、過塩素酸濃度が150mmol/L、50mmol/L トリス緩衝液 pH8.0の塩濃度は28mmol/Lであるので、全体で約180mmol/Lとなる。)から始まっている。また、LDL画分をすべて溶出するための溶離液(溶離液3)は、LDL画分の溶出する溶離液の塩濃度が図6〜8から30〜34%程度(塩濃度で178〜198mmmol/L)となり、30%程度の溶離液を長時間流すか、あるいは、34%程度の溶離液を短時間流すかのどちらかを選択する。このことから、溶離液3の濃度は、30〜34%程度(塩濃度で178〜198mmmol/L)が好ましい濃度となり、溶離液1との差はおおむね20〜50mmol/Lである。
【0027】
(実施例2)
実施例1と同じ装置を用い、溶離液のpHは8.0として、検討を行った。溶離液の溶出パターンは、0.0分から0.01分はBの組成を8.0%(その他の組成は全てA、以下同じ)に固定、0.01分から3.0分はBの組成を19.0%に固定、3.0分から6.0分はBの組成を24.5%に固定、6.0分から9.5分はBの組成を27.8%に固定、9.5分から13.0分はBの組成を29.5%に固定、13.0分から16.5分はBの組成を33.0%に固定、16.5分から20.0分はBの組成を43.0%に固定、20.0分から25.0分はBの組成を63.0%に固定、25.0分から35.0分はBの組成を8.0%に固定した。なお、1検体の測定時間は35分とした。
【0028】
健常人の血清検体と、健常人から超遠心分離装置を用いた方法で得られたHDL2(密度1.063〜1.125g/ml)、HDL3(密度1.125g/ml以上)、LDL1(密度1.019〜1.035g/ml)、LDL2(密度1.035〜1.045g/ml)、LDL3(密度1.045〜1.063g/ml)、IDL(密度1.006〜1.019g/ml)、VLDL(密度0.930〜1.006g/ml)、CM(密度0.930g/ml以下)を測定した。
【0029】
HDL3試料については、溶出時間5.9分に主たるピークが見られ、溶出時間8.4分にマイナーなピークが確認され、HDL2試料については、溶出時間8.5分にピークが確認された(図9)。LDL3試料は、溶出時間12.9分に主たるピークが見られ、溶出時間15.1分にマイナーなピークが確認され、LDL2試料は、溶出時間12.1分に主たるピークが見られ、溶出時間15.0分と18.8分にマイナーなピークが確認され、LDL1試料は、溶出時間12.3分に主たるピークが見られ、溶出時間15.1分にマイナーなピークが確認された(図9)。IDL試料は、溶出時間18.6分に主たるピークが見られ、溶出時間15.9分にマイナーなピークが確認され、VLDL試料は、溶出時間22.0分に主たるピークが見られ、溶出時間25.2分にマイナーなピークが確認され、CM試料では、ピークは確認されなかった(図9)。これらの結果から、健常人の血清検体において見られる溶出時間6.7分、8.6分、12.1分、15.2分、18.8分、21.9分、25.2分のピークは、それぞれ、HDL3が主要な成分であるHDL3+、HDL2が主要な成分であるHDL2+、LDL1とLDL2が主要な成分であるLDLf、LDLfに比べLDL3の含量が多いLDLs、IDL、VLDL、CMのピークであると言える(図9)。
【0030】
次に、高脂血症患者検体においても、同様の検討を行った。各画分の分析結果から、高脂血症患者の血清検体において見られる溶出時間6.5分、8.5分、11.8分、15.1分、18.8分、22.0分、25.1分のピークは、それぞれ、健常人血清と同様に、HDL3が主要な成分であるHDL3+、HDL2が主要な成分であるHDL2+、LDL1とLDL2が主要な成分であるLDLf、LDLfに比べLDL3の含量が多いLDLs、IDL、VLDL、CMのピークであると言える(図10)。
【0031】
このように、溶離液B8%(過塩素酸ナトリウム40mmol/l)において、リポ蛋白画分を吸着させ、溶離液B19%(過塩素酸ナトリウム95mmol/l)において、HDL3を多く含むHDL画分を溶出させ、溶離液B24.5%(過塩素酸ナトリウム122.5mmol/l)において、HDL2を多く含むHDL画分を溶出させることが出来る。そして、溶離液B24.5%(過塩素酸ナトリウム122.5mmol/l)において、HDL画分がすべて溶出した後に、溶離液B27.8%(過塩素酸ナトリウム139mmol/l)において、LDL2を多く含むLDLf画分を溶出させ、溶離液B29.5%(過塩素酸ナトリウム147.5mmol/l)において、LDL3を多く含むLDLs画分を溶出させることが出来る。その後、溶離液B33.0%(過塩素酸ナトリウム165mmol/l)においてIDL画分を、溶離液B43.0%(過塩素酸ナトリウム215mmol/l)においてVLDL画分を、溶離液B63.0%(過塩素酸ナトリウム315mmol/l)においてCM画分を溶出する。以上のように、ステップ溶出を用いることにより、HDL3+、HDL2+、LDLf、LDLs、IDL、VLDL、CMの7つのリポ蛋白画分を良好に分離し測定することが出来る。
【0032】
以上の結果から、ステップ溶出によるLDL亜画分の最も好ましい溶出条件においては、溶離液1は塩濃度143〜163mmol/l(溶離液B23〜27%)であり、溶離液2は溶離液1と3の塩濃度の差の34%分溶離液3より低く(溶離液3が溶離液B29.5%であり、溶離液2が溶離液B27.8%である。)、溶離液3は175.5〜188mmol/l(溶離液B29.5〜32%)である。
【0033】
(実施例3)
実施例2と同じ条件で、LDLfとLDLsの溶出条件を検討することを目的として、LDLfを溶出する溶離液をB25.0〜29.0%(過塩素酸ナトリウム125〜145mmol/l)に変動させて、測定を実施した。高脂血症患者2名の血清試料を用いた。結果を表1と2に示す。また、そのLDLs/LDLfの比率(%)の変動を図11に示した。図11から、溶離液B26.3%(過塩素酸ナトリウム131.5mmol/l)以下になると急激に高くなることがわかる。溶離液B26.3%でLDLf画分を溶出する前の溶離液はB24.5%であり、LDLs画分を溶出する溶離液はB29.5%であるので、LDL亜画分を溶出する条件として、2番目に流す溶離液と3番目に流す溶離液の塩濃度の差はB%として3.2%であり、1番目に流す溶離液と3番目に流す溶離液の塩濃度の差はB%として5%であるので、その割合(低下率)は64%である。このことから、安定して測定するには、2番目に流す溶離液の塩濃度の低下率としては64%以下である必要がある。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
また、LDL3の含量はLDL全体の5〜30%程度とわかっており、LDLsのLDL3の含量が適当となるLDLs/LDLfの比率(%)は、5.3〜43%となる。このことを考慮すると、LDLfを溶出する塩濃度はB28.7%以下であり、これは、上記のように算出すると2番目に流す溶離液の塩濃度の低下率16%である。これらのことから、適切な2番目に流す溶離液の塩濃度の低下率は概ね20〜60%といえ、さらに安定的に値を得るための好ましい塩濃度はB26.9〜28.4%であるので、低下率としては22〜52%である。
【0037】
(実施例4)
実施例3で記述したLDLsについて、LDL亜画分への溶出条件の影響を確認するために、LDLfを溶出する溶離液をB25.5〜29.0%(過塩素酸ナトリウム127.5〜145mmol/l)に変動させて、測定を実施した(表3)。3つの高脂血症患者の血清試料を用いた。2番目に流す溶離液の塩濃度の低下率が約35%〜60%の場合、LDLsの測定値は変動するものの、各患者間の測定値の順序には変動がないことが分かる。
【0038】
【表3】
【0039】
(実施例5)
測定方法は、実施例1と同じとした。ただし、カラムは同じ種類であるが充填を別に行なったものであり、そのため分離条件を一部変更した。
【0040】
実施例5で用いた装置の形態を図12に示す。溶離液A(1);50mM Tris−HCl pH8.0、溶離液B(2);50mM Tris−HCl+500mM 過塩素酸ナトリウム pH8.0、溶離液AとBを流すポンプ(4);DP−8020を2台(東ソー(株)製)、溶離液AとBを混合するミキサー(5);スタティックミキサーC(東ソー(株)製)、オートサンプラー(6);AS−8020(東ソー(株)製)、カラムオーブン(9);CO−8021(東ソー(株)製)、カラム(8);DEAE−NPR カラムサイズ4.6mmI.D.×35mm(東ソー(株)製)、フィルター(7);HLC−723GHb3型用のカラムフィルターSタイプ(東ソー(株)製)、コレステロール反応液(10);TCHO−CL(セロテック社製)、ポンプ直前のエアートラップ(11);エアートラップG(東ソー(株)製)、コレステロール反応液のためのポンプ(12);DP−8020(東ソー(株)製)、反応コイル(14);0.25mmI.D.×30m。検出器(15);UV−8020(東ソー(株)製)。溶離液AとB及びコレステロール反応液については、脱気装置(3)を設置し、コレステロール反応液のラインに、抵抗管(13)0.1mmI.D.×2mを2つ直列につないで設置した。溶離液はAとBをあわせて0.5mL/minの流速とし、コレステロール反応液の流速は0.25mL/minとした。カラムオーブンの温度は25℃とし、反応コイルは37℃に保温した。検出器は600nmで検出した。溶離液の溶出パターンは、0.0分から0.01分はBの組成を8.0%(その他の組成は全てA、以下同じ)に固定、0.01分から3.0分はBの組成を19.0%に固定、3.0分から6.0分はBの組成を24.5%に固定、6.0分から9.5分はBの組成を28.0%に固定、9.5分から13.0分はBの組成を30.0%に固定、13.0分から16.5分はBの組成を32.0%に固定、16.5分から20.0分はBの組成を60.0%に固定、20.0分から25.0分はBの組成を100.0%に固定、25.0分から35.0分はBの組成を8.0%に固定した。なお、1検体の測定時間は35分とした。なお、この条件における各溶離液中におけるBの組成はそれぞれ、溶離液1が24.5%(塩濃度で150.5mmol/L)、溶離液2が28%(塩濃度で168mmol/L)、溶離液3が30%(塩濃度で178mmol/L)である。
【0041】
この測定条件により、測定検体はHDL3(結合力が弱いHDL亜画分)、HDL2(結合力が強いHDL亜画分)、LDLf(結合力が弱いLDL亜画分)、LDLs(結合力が強いLDL亜画分)、IDL、VLDL、カイロミクロン(CM)の順に溶出され、その後のポストカラム検出により、各リポ蛋白のコレステロール濃度を測定できる。
【0042】
健常者(Healthy)14例と冠動脈疾患(CAD)患者17例を本測定法に供し、各リポ蛋白中のコレステロール濃度を測定した。測定結果を表4に示す。また、測定結果のうち、LDLfコレステロール、LDLsコレステロール、総LDLコレステロールについては、健常者及び冠動脈疾患患者個々の測定値をプロットしたものを図13から15に示した。なお、図中のバーはノンパラメトリック統計による中心値(50%パーセンタイル値)を、四角は25から75パーセンタイル値の範囲(IQR)をそれぞれ示す。
【0043】
各リポ蛋白中のコレステロール濃度について、健常人の測定値と、冠動脈疾患患者との測定値とで、ウェルチのt検定(非等分散の2標本を対象とするt検定)を行ない、有意差判定(p<0.05)を行なったところ、LDLfコレステロール(図13、表4)、LDLsコレステロール(図14、表4)、総LDLコレステロール(図15、表4)、カイロマイクロンコレステロール(表4)、総コレステロール(表4)について、冠動脈疾患患者が有意な高値を示した。総LDLコレステロール、総コレステロールについては、以前から冠動脈疾患のリスクファクターとして知られていたものであり、本測定法で得られた値の結果と一致した。また、カイロマイクロンコレステロールについては、特に詳細な評価結果はないが、レムナント様リポ蛋白が多く含まれていることが知られているリポ蛋白画分であり、このことからも推測される結果と言える。なお、LDLfコレステロール、LDLsコレステロールについては、我々が今回得た新しい知見である。
【0044】
【表4】
【0045】
次に、LDLfコレステロール、LDLsコレステロール、総LDLコレステロールの3つの値について、それぞれの相関関係を見た(図16から18)。図16を見ると明らかなように、LDLfはLDL全体の主たる画分であることから、LDLfコレステロールと総LDLコレステロールは相関性が高く、総LDLコレステロールと同様の病態を判断するための数値であると言える。しかしながら、LDLの中で陰イオン交換カラムへの吸着力が強い画分であるLDLsについて解析すると、LDLsコレステロールと総LDLコレステロール(図17)、及びLDLsコレステロールとLDLfコレステロール(図18)の相関性は極めて低く、病態において総LDLコレステロールと異なる動きを示すことがわかる。このことから、LDLsは、総LDLコレステロールとは独立した冠動脈疾患の判定因子であることが明らかとなった。
【0046】
Yamaguchi Yら(非特許文献10)は、DEAEグルコマンナンゲルを充填したカラムを用いて、ウサギの血液から超遠心分離法で得たLDLに塩化銅を5μmol/L濃度になるように加え保存することにより酸化させ、その挙動を検討している。その結果は、LDLを酸化させると溶出時間が遅くなることというものである。我々も、LDLsと酸化LDLとの関連を調べるために、同様の実験を試みた。すなわち、健常人血清より超遠心分離法によりLDL(密度1.019〜1.063g/ml)試料を採取し、EDTAを含まないリン酸緩衝生理食塩水にて1晩透析後、3μmol/Lの硫酸銅を加え、35℃で4時間加温したところ、LDLf画分が主であったLDL試料は、LDLs画分が主へと変化した(図19)。この結果から、冠動脈疾患で高値となる酸化LDLがLDLsの中には多く含まれていることが推測され、これは、LDLsの有用性の高さを示唆するものである。
【0047】
また、高脂血症患者40例を用いて、酸化LDLのキット(協和メデックス株式会社製)と、本測定法によるLDLfコレステロール、LDLsコレステロール、総LDLコレステロールとの比較を行なった(図20から22)。LDLfコレステロール(図20)と総LDLコレステロール(図22)については、有意な相関関係は認められなかった(p>0.05)が、LDLsコレステロール(図21)では有意な相関関係(p=0.0002)が認められた。このことからも、LDLsと酸化LDLとの関係は強く、間接的ではあるが、LDLsの有用性の高さを示すデータである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例1〜4で用いた装置。
【図2】実施例1の結果(健常人血清)。
【図3】実施例1の結果(HDL2試料)。
【図4】実施例1の結果(HDL3試料)。
【図5】実施例1の結果(健常人血清)。
【図6】実施例1の結果(LDL1試料)。
【図7】実施例1の結果(LDL2試料)。
【図8】実施例1の結果(LDL3試料)。
【図9】実施例2の結果(健常人血清と超遠心分離法によるリポ蛋白試料)。
【図10】実施例2の結果(高脂血症患者血清と超遠心分離法によるリポ蛋白試料)。
【図11】実施例3の結果(高脂血症患者検体を用いたLDLfの溶出条件の検討)。
【図12】実施例5で用いた装置。
【図13】実施例5の結果(健常人と冠動脈疾患患者におけるLDLfコレステロールの比較)。
【図14】実施例5の結果(健常人と冠動脈疾患患者におけるLDLsコレステロールの比較)。
【図15】実施例5の結果(健常人と冠動脈疾患患者における総LDLコレステロールの比較)。
【図16】実施例5の結果(総LDLコレステロールとLDLfコレステロールの相関関係)。
【図17】実施例5の結果(総LDLコレステロールとLDLsコレステロールの相関関係)。
【図18】実施例5の結果(LDLfコレステロールとLDLsコレステロールの相関関係)。
【図19】実施例5の結果(LDLsと酸化LDLとの関係)。
【図20】実施例5の結果(酸化LDLとLDLfコレステロールの相関関係)。
【図21】実施例5の結果(酸化LDLとLDLsコレステロールの相関関係)。
【図22】実施例5の結果(酸化LDLと総LDLコレステロールの相関関係)。
【符号の説明】
【0049】
1 溶離液A
2 溶離液B
3 脱気装置
4 ポンプ
5 ミキサー
6 オートサンプラー
7 フィルター
8 カラム
9 カラムオーブン
10 コレステロール反応液
11 エアートラップ
12 コレステロール反応液のためのポンプ
13 抵抗管
14 反応コイル
15 検出器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
LDL亜画分のうち、陰イオン交換樹脂に対して、結合力が強いLDL亜画分(以下、LDLs)を指標として用いる、冠動脈疾患の判定方法。
【請求項2】
LDLsのコレステロール濃度を比較することにより、冠動脈疾患を判定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
被験者から得られるLDLsのコレステロール濃度が、健常者から得られるLDLsのコレステロール濃度の平均値よりも高い場合に、冠動脈疾患であると判定する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
溶離液の塩濃度勾配を利用して、LDLからLDLsを分離し、測定したものを指標として用いる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
LDLを吸着させるための溶離液(溶離液1)、LDL亜画分のうち、結合力の弱い画分を溶出させるための溶離液(溶離液2)、LDL亜画分のうち、結合力が強い画分を溶出させるための溶離液(溶離液3)の塩濃度の異なる溶離液を、溶離液1、2、3の順に陰イオン交換樹脂に流すことにより、LDLからLDLsを分離し、測定したものを指標として用いる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
溶離液1の塩濃度が130mmol/Lから180mmol/Lであり、溶離液3の塩濃度が溶離液1の塩濃度より20mmol/Lから50mmol/L高く、溶離液2の塩濃度が、溶離液1の塩濃度よりも高く、溶離液3の塩濃度よりも低い、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
溶離液2の塩濃度が、溶離液1と溶離液3の塩濃度の差に対して35%から60%分溶離液3より低い、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項1】
LDL亜画分のうち、陰イオン交換樹脂に対して、結合力が強いLDL亜画分(以下、LDLs)を指標として用いる、冠動脈疾患の判定方法。
【請求項2】
LDLsのコレステロール濃度を比較することにより、冠動脈疾患を判定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
被験者から得られるLDLsのコレステロール濃度が、健常者から得られるLDLsのコレステロール濃度の平均値よりも高い場合に、冠動脈疾患であると判定する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
溶離液の塩濃度勾配を利用して、LDLからLDLsを分離し、測定したものを指標として用いる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
LDLを吸着させるための溶離液(溶離液1)、LDL亜画分のうち、結合力の弱い画分を溶出させるための溶離液(溶離液2)、LDL亜画分のうち、結合力が強い画分を溶出させるための溶離液(溶離液3)の塩濃度の異なる溶離液を、溶離液1、2、3の順に陰イオン交換樹脂に流すことにより、LDLからLDLsを分離し、測定したものを指標として用いる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
溶離液1の塩濃度が130mmol/Lから180mmol/Lであり、溶離液3の塩濃度が溶離液1の塩濃度より20mmol/Lから50mmol/L高く、溶離液2の塩濃度が、溶離液1の塩濃度よりも高く、溶離液3の塩濃度よりも低い、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
溶離液2の塩濃度が、溶離液1と溶離液3の塩濃度の差に対して35%から60%分溶離液3より低い、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2008−298616(P2008−298616A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−145616(P2007−145616)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【Fターム(参考)】
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