LEDを光源とする照明装置
【課題】白色LED光源を用いてヒトの眼疲労や聴覚を介した認知・判断力の低下を抑制する。
【解決手段】
青色LED素子と、該LED素子の光を放射する側に配置された前記青色LED素子の発光波長より長い波長の蛍光を発する蛍光体とからなる白色LEDパッケージを光源とし、前記白色光LEDパッケージの光を放射する側に集光レンズを配置した照明装置であって、420nm乃至450nmに青色LEDに起因する第1のピークと、600nm乃至680nmにブロードな第2のピークを有するとともに、480nm乃至500nmに肩部が形成されており、ヒトの視覚誘導電位(F−VEP P100波)の出現潜時の変化、および/または聴覚誘導電位(P300波)の遅延を実質的に増大しない光を照射する照明装置。
【解決手段】
青色LED素子と、該LED素子の光を放射する側に配置された前記青色LED素子の発光波長より長い波長の蛍光を発する蛍光体とからなる白色LEDパッケージを光源とし、前記白色光LEDパッケージの光を放射する側に集光レンズを配置した照明装置であって、420nm乃至450nmに青色LEDに起因する第1のピークと、600nm乃至680nmにブロードな第2のピークを有するとともに、480nm乃至500nmに肩部が形成されており、ヒトの視覚誘導電位(F−VEP P100波)の出現潜時の変化、および/または聴覚誘導電位(P300波)の遅延を実質的に増大しない光を照射する照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LED(発光ダイオード)を光源とする、ヒトの視覚誘導電位(F−VEPP100波)の出現潜時の変化、および/または聴覚誘導電位(P300波)の遅延を実質的に増大しない光を輻射する照明装置に関する。ここでF−VEP P100波の出現潜時は変化しないこと、すなわちF−VEP P100波の出現潜時が長くも短くもならないことが、眼疲労が小さいことを意味し、P300波の出現潜時は遅延しないことが、視覚を介した認知・判断力の低下が低いこと、すなわちP300波の出現潜時の遅延が短いほど認知・判断力が高いことを意味する。
【背景技術】
【0002】
本出願人等は、眼科領域における障害や疾病の臨床検査に使用される視覚誘発電位(VEP)に着目した照明と眼疲労との研究に基づき、視作業により眼疲労が発生すると前記VEPにおけるP100波の出現潜時が遅延する現象を見出し、同時に、P100波の出現潜時の遅延が眼疲労の進行に応じて増大することから遅延の増大を測定することにより、照明に基づく眼疲労を定量化しうる事実を見出した。そして、本出願人等は、これらの知見に基づき、ヒトのVEPにおけるP100波の出現潜時を実質的に遅延しない光を照射する照明装置を提案している(例えば、特許文献1参照)。この照明装置は、眼疲労を起こし難い光を照射する発明であって、その光源としてキセノンガス封入白熱電球に定格電圧の105〜140%の直流電圧を印加することによって、VEPにおけるP100波の出現潜時を実質的に遅延しない光源としている。さらに、光源としては、多波長域発光形蛍光灯などの高演色性蛍光灯、キセノン放電灯などの放電灯を挙げている。
【0003】
さらに、本出願人等は、照明に使用してストレスを起こしにくい照明装置を提供することを目的として、内科領域においてクッシング症候群や副腎腫瘍の臨床検査方法として知られている副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)に着目して照明とストレスの関係について研究した。その結果、ストレスが起こると、ヒトの血液におけるACTHレベルが上昇する現象を見出し、このACTHレベルの上昇はストレスの大きさに応じて増大することから、血液におけるACTHレベルを測定することにより、照明によるストレスの起こしやすさを定量化することを見出した。なお、ACTHは下垂体前葉から分泌される39個のアミノ酸からなる分子量約4,500のペプチドホルモンであり、副腎皮質におけるステロイドホルモンの生産・分泌を促す物質である。また、ヒトの血液におけるACTHレベルには日内変動があり、早朝最高レベルに達し、以後深夜に向けて漸減することが知られている。
【0004】
上記知見に基づき、本出願人等が種々の光源を検索した結果、ヒトの血液におけるACTHレベルを実質的に上昇させない光は、照明に使用してストレスを起こし難く、快適な照明空間を指向する照明装置に好適であることが判明した。
【0005】
本出願人等は、この結果に基づき、クリプトンガスおよび窒素ガスを含んでなる組成物、またはキセノンガスおよび窒素ガスを含んでなる組成物を封入した白熱電球であって、点灯時に波長約290nm乃至400nmの紫外線に富む光を輻射することができる白熱電球と、その白熱電球をその定格の約105%乃至130%以下の直流電圧下で付勢する電源手段とを備え、ヒトの血液における副腎皮質刺激ホルモンレベルを実質的に上昇させない光を輻射する照明装置を提供している。(例えば、特許文献2参照)
【0006】
さらに、本出願人等は、クリプトンガスおよび窒素ガスを含んでなる組成物、またはキセノンガスおよび窒素ガスを含んでなる組成物を、点灯時に白熱電球内圧が約700トール乃至800トールになるように封入した白熱電球と、その白熱電球をその定格の約105%乃至130%以下の直流電圧下で付勢する電源手段とを備え、ヒトの事象関連電位(聴覚誘導電位)におけるP300波の出現潜時を実質的に遅延させない光を輻射する照明装置を提供している(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
また、本出願人等は、ヒトのセロトニン神経系を活性化させて、血中のノルアドレナリンレベルを実質的に上昇させず、攻撃性を低下させていわゆる「キレる」状態になる要因を低減する作用を有する光を輻射する照明装置の発明について、出願している(例えば、特許文献4参照)。
【0008】
この発明では、波長380nm以上780nm以下の可視光成分とともに、波長320nm以上380nm未満の近紫外線を含む光が、ヒトのセロトニン神経系を活性化する作用を有すること、さらにこの光が血中のノルアドレナリンレベルを実質的に向上させない作用を有することを見出し、そのような光を輻射する光源を用いた照明装置を通常の夜間または室内の照明として用いると、ヒトのセロトニン神経系を活性化し、血中のノルアドレナリンレベルを実質的に向上させず、ヒトが「キレる」状態になる要因を低減させることを見出して発明を完成させている。
【0009】
また、最近は、LED(発光ダイオード)を光源とする照明装置が、発光効率が高く消費電力が低い、長寿命である、サイズが小さく取り扱いやすい、水銀等の有害物質を含まない、熱の発生が比較的小さい等の利点があることから、白熱電球や蛍光灯等の従来の照明装置に替えて照明用途としての普及が広がっている。
【0010】
しかしながら、特許文献1乃至3には、LEDを光源とした照明装置で、上記の効果を奏するものは開示されていない。また特許文献4においては、LEDを光源とする照明装置が例示されているものの、青色LED素子と該素子が放射する光により蛍光を発する蛍光体とを組み合わせた白色光LEDの放射する光により、眼疲労や認知・判断力の低下が軽減されることは示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3230003号公報
【特許文献2】特許第2934923号公報
【特許文献3】特許第2934926号公報
【特許文献4】国際公開番号WO2010/041717A1
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】「臨床脳波学第4版」大熊輝雄、医学書院、1991年11月15日、「23脳脊髄誘発電位、事象関連電位」P443〜445、「視覚誘発電位」P461〜468、「事象関連電位」P468〜474
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記特許文献などに示されるように、特定の光が、ヒトの副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)のレベルを抑えてストレスを軽減し、目の疲労や認知・判断力の低下を起こし難いという効果を奏することも確認されている。しかし、青色発光LED素子による青色光と、青色光で励起された蛍光体からのより長波長の光により白色光を放射するLEDや有機ELを光源に用いた場合にも、こうした眼疲労や聴覚を介した認知・判断力の低下が軽減されることの確認はこれまで行われていない。本発明は、LEDを用いた光源においてもヒトの眼疲労や認知・判断力の低下を抑制することができる照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、光源に青色発光LED素子による青色光と、青色光で励起された蛍光体からのより長波長の光により白色光を放射するLEDを用いた照明装置であり、実質的にヒトの眼疲労の指標となる視覚誘導電位(F−VEP P100波:視覚刺激に対する脳の反応)の出現潜時の変化および/または認知・判断力低下の指標となる聴覚誘導電位(P300波)の出現潜時の遅延を実質的に増大させない光を放射することを特徴とし、眼疲労や認知・判断力の低下を生じ難いという作用効果を奏するものである。本明細書における脳波については、非特許文献1を参照。
【0015】
本発明は、上記作用効果を奏するために、後述する特性を有するLED素子からなる光源を用いて、照明装置を構成する。本発明にかかる照明装置は、卓上照明、シーリングライト等の室内、屋外、車内等で用いられる種々の照明とすることができる。
【0016】
光源となるLEDは、青色発光LED素子と蛍光体を組み合わせた白色光を発するLED(以下白色光LEDと称する)で、青色発光LED素子による青色光と、青色光で励起された蛍光体からのより長波長の光により、全体として上記作用効果を奏する白色光を得ている。青色発光LED素子はサファイアベース窒化ガリウム系の材料からなる425nm乃至465nmの光を放射するLED素子であり、前記蛍光体はシリカ系の材料からなり、青色LEDの発光に励起されて600nm乃至680nmにピークを有する蛍光を発するものである。なお、本明細書においては、青色LED素子、蛍光体、電極、封入剤などの部材から構成され白色光を発する部品を「白色光LEDパッケージ」と称する。
【0017】
本発明は、照明装置において、白色光LEDパッケージを光源とし、ヒトの視覚誘導電位(F−VEP P100波)の変化および/または聴覚誘導電位(P300波)の出現潜時の遅延を実質的に増大しない光を照射するようにした。
【0018】
本発明は、上記白色光LEDが、青色LED素子と、該LED素子の光を放射する側に配置された前記青色LED素子の発光波長より長い波長の蛍光を発する蛍光体とからなり、前記白色光LEDは、分光エネルギーが波長400nm乃至800nmの可視光領域において連続したスペクトラムを有し、かつ、425nm乃至465nmに青色LED素子に起因する第1のピークと、600nm乃至680nmに蛍光体に由来するブロードな第2のピークを有するとともに、480nm乃至510nmに肩部を形成する白色光を放射するものとした。
【0019】
本発明は、前記白色光LEDが、並列に接続された3個のLED素子と、これら3個のLED素子の光を放射する側に配置した前記LED素子よりも長い波長の蛍光を発する蛍光体からなり、照射部が、複数の白色光LEDを直列に接続した直列接続支を複数並列に接続したものと、白色光LEDの光を放射する側に設けた集光レンズプレートおよび集光レンズから構成される照明装置とした。
【0020】
本発明は、上記白色光LEDに直列にスイッチング素子を接続し、該スイッチング素子をパルス幅制御により通電率を制御する電源装置および調光回路を備えた。
【0021】
本発明の照明装置は、卓上照明装置、屋内照明装置または車内照明装置もしくは航空機室内、船内、屋外などの照明に用いることができ、照明の対象となる空間は、どのような空間であってもよい。照明の対象となる空間としては、その他、個人住宅、マンション、学校、スタジオ、美容院、病院、工場、社屋、事務所、旅館、ホテル、レストラン、宴会場、結婚式場、会議場、商店、スーパーマーケット、デパート、美術館、博物館、演奏会場、ホール、体育館、競技場、畜舎、鶏舎、養魚場、動物工場、植物工場などの各種施設の室内外の空間であってよい。また、アームライト、デスクランプ、ハリケーンランプ、テーブルランプ、ミニランプなどの卓上照明器具、あるいは、棚下付け灯、天井付け灯、ダウンライト、壁付け灯、吊り下げ灯、シャンデリア、スワッグランプ、フロアランプ、庭園灯、門灯などの室内外照明器具に収容するか取り付けるとともに、それら照明器具を住宅や施設における書斎、アトリエ、子供部屋、寝室、リビングルーム、ダイニングルーム、キッチン、トイレ、洗面所、浴室、廊下、階段、バルコニー、玄関、閲覧室、教室、ホール、ロビー、待合室、治療室、手術室、制御室、事務室、製図室、実験室、ラウンジ、客室、クラークルーム、調理室、運転室、飼育室、栽培室における室内外の適所に据付けるか取付ければよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明にかかるLED光源を用いた照明装置の構成を説明する正面図である。
【図2】図2は、図1のA−A線での断面図である。
【図3】図3は、本発明の照明ヘッドの底面図である。
【図4】図4は、集光レンズプレートにおける集光レンズとLEDの配置を説明する図である。
【図5】図5は、本発明にかかるLED光源のスペクトルを説明する図である。
【図6】図6は、本発明にかかるLED回路の構成を説明する図である。
【図7】図7は、本発明にかかる駆動用電源回路の構成を説明する図である。
【図8】図8は、本発明にかかる操作スイッチの動作と照度の関係を説明するタイムチャートである。
【図9】図9は、本発明光と通常光のF−EVP P100波の出現潜時の変化率を説明する図である。
【図10】図10は、本発明光と通常光のP300波の出現潜時の変化率を説明する図である。
【図11】図11は、本発明光と近紫外線を含む光源のF−EVP P100波の出現潜時の変化率を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0023】
本発明の第1の実施例にかかる白色光LED光源を用いた卓上照明装置の構成を、図1〜図4を用いて説明する。図1は卓上照明装置の正面図、図2は図1におけるA−A線での断面図、図3は照明ヘッド部の底面図である。図4は集光レンズプレートにおけるLED素子の配置と集光レンズの関係を説明する図である。
【0024】
卓上照明装置は、基台1と、アーム2と、照明ヘッド3とを有して構成される。基台1は、基盤11と、アーム取付部13と、操作スイッチ15と、ターンテーブル機構17とを有しており、さらに図示を省略した駆動用電源装置を基盤11内に備えている。基盤11はアーム2および照明ヘッド3を転倒させずに支持できる重さもしくは支持機構を有している。アーム取付部13はアーム2を支持するとともにアーム2を前後に傾斜可能とする機構を備えている。操作スイッチ15は照明装置を点滅させるとともに、LED光源の照度を変化させるスイッチである。ターンテーブル機構17は、アーム2を左右に回転可能とする機構である。
【0025】
アーム2は、照明ヘッド3を支持する部材である。アーム2は例えば可撓性を有していない中空状の管21に形成され、アーム取付部13により前後に傾斜可能かつその角度維持可能とされている。アーム2の内部にはLED素子に電力を供給する電線23が収容される。
【0026】
照明ヘッド3は、合成樹脂製の集光レンズプレート31と、合成樹脂を半球状に形成した集光レンズ33と、ヘッドカバー35と、アーム取付部37とを有している。照明ヘッドの照射部は、集光レンズプレート31、集光レンズ33、および白色光LEDから構成される。集光レンズプレート31は、図示を省略した白色LEDと白色光LEDの光を放射する側を覆って集光レンズ33が設けられる透明な部材である。集光レンズプレート31の集光レンズ33以外の部分をスモーク加工して不透明とし背面に位置するLED基板を隠している。集光レンズ33は、背面に設けた白色光LEDからの光を集光し拡散させる働きを有している。ヘッドカバー35は、照明ヘッド3の上面を覆う部材である。アーム取付部37はアーム2の先端に照明ヘッドを取り付ける部材で、前後左右に移動可能とされている。集光レンズプレート31には、このプレートを照明ヘッド3に取り付ける固定穴39が複数個所設けられている。
【0027】
図4を用いて、照明ヘッド3の集光レンズプレート31の構造を説明する。図4は集光レンズプレート31の正面図(図3の下方向から見た図)である。集光レンズプレート31には、一例として24個の集光レンズ33が同心円状に設けられている。集光レンズ33の背面には白色LEDがそれぞれ1個ずつ配置されており、照射面における照度のむらが生じないように構成されている。このような構成・構造とすることにより、眼疲労や認知・判断力の低下が効果的に抑制されるものとなっている。すなわち、アームを湾曲した形状とすることにより圧迫感を生じさせず、照明ヘッドを平たく圧迫感がない形状とすることによって、真横から見たときに照射部や集光レンズ部分が直接見えないようになっている。さらに、白色光LEDパッケージの光を放射する側に半球状のレンズを設置することにより、光がビーム状や絞り込んだ形状とならずに卓上(作業領域)に適度の範囲を照射しながら、かつ、不必要に拡散することもない。白色光LEDをマルチチップ型(一つのパッケージに青色LED素子を3個使用し、三角形に配置)としたことも光を適度に拡散させる効果がある。同心円状にならんだLEDはどの円周上でも同程度になるように配置されているので、卓上の作業領域を十分カバーできる範囲をむらなく照射できる。また、集光レンズによりLEDからの光の不必要な拡散を抑え、レンズプレートをスモーク加工し、さらに照射部が適度に覆われていることにより、LED光源からのまぶしさを感じにくくなっている。これらの効果により目に対する負担や不快感が低減されて、本発明の効果がより効果的に発揮される。
【0028】
LED素子32は、サファイアベース窒化ガリウム系材料からなる青色発光するLEDであり、425nm乃至465nmに発光極大を有する光を放射し、実質的に近紫外線領域の光を放射しない。LED素子32の光を放射する側をシリコン樹脂又はエポキシ樹脂などの合成樹脂製の透明な封入剤に封入したシリカ系の蛍光体(図示省略)で覆っている。青色発光したLED素子32からの青色光が前記蛍光体を励起してより波長の長い蛍光を発し、青色光と長波長の蛍光とが合成されて白色光を発する。シリカ系の蛍光体としては、母体となる結晶性無機化合物に発光中心となる付活剤を導入したものが使用でき、母体となる結晶と付活剤の組み合わせとしては、(「母体結晶:付活剤」の形で表す)、例えば、(Sr,Ca,Ba)2SiO4:Eu系(黄色蛍光体)、(Ba,Sr)2SiO4:Eu系(黄色蛍光体)、La3Si6N11:Ce系(黄色蛍光体)、(Ca,Sr)2Si5N8:Eu系(赤色蛍光体)、CaAlSiN3:Eu系(赤色蛍光体)、(Sr,Ba)3SiO5:Eu系(赤色蛍光体)、(Ca,Sr)AlSiN3:Eu系(赤色蛍光体)、(Ba,Sr)2SiO4:Eu系(緑色蛍光体)、Ca3Sc2Si3O12:Ce系(緑色蛍光体)、Ca3(Sc,Mg)2Si3O12:Ce系(緑色蛍光体)、(Sr,Ba)SiO2N2:Eu系(緑色蛍光体)、Ba3Si6O12N2:Eu系(緑色蛍光体)、Cax(Si、Al)12(O,N)16:Eu系(橙色蛍光体)、(Ba,Sr,Ca)Si2O2N2:Eu系(黄〜緑色蛍光体)、Ca8MgSi4O16C12:Eu系(緑色蛍光体)などの基本組成を有するものを、1種または2種以上組み合わせて使用することができる。なお、各蛍光体の発光強度及び波長は、母体結晶の組成または付活剤の種類および濃度により調節でき、本発明に好ましい光を得ることができる。LED素子32はそれぞれ白色光LEDに3個ずつ用いられ、この例では合計72個のLED素子を備えている。
【0029】
この照明ヘッド3からの白色光のスペクトルの一例を図5に示す。図5のスペクトルは、430nm付近に青色LED素子に起因する青色の第1のピーク(約100μW/nm)と、620nm付近にブロードな橙色の第2のピーク(約200μW/nm)を有し、さらに490nm付近に水色の肩部(約80μW/nm)を形成している。
【0030】
このような白色光LED光源を使用した本発明の照明装置の光は、以下の特徴を有している。
A.第2のピークの分光エネルギー強度は、第1のピークに対して1乃至3倍、好ましくは、1.5乃至2.5倍、さらに好ましくは1.7乃至2.2倍が望ましく(試験に用いた実機では約2倍)、また、肩部に対して1乃至3倍、好ましくは1.5乃至2.5倍、さらに好ましくは1.7乃至2.2倍が望ましい(試験に用いた実機では、2倍強)。
B.照射される光は、電球色乃至昼光色で、好ましくは色温度2,500K乃至4,000Kが望ましい(試験に用いた実機では3,022K)。
C.平均演色評価数(Ra)が90以上、好ましくは95以上であり(試験に用いた実機では96.4を達成)、特殊演色評価数(R1乃至R14)のいずれも80以上、好ましくは90以上(試験に用いた実機では90.1以上を達成)の極めて演色性に優れたものが望ましい。
D.照度としては、例えば、照射部から40cmの距離において500ルクス乃至2,500ルクスの照度が得られるものが望ましい(試験に用いた実機では2,000ルクス、集光レンズなしでは580ルクスである)。
【0031】
LED回路の構成の一例を、図6を用いて説明する。LED回路40は、3個の青色LED素子32−11,32−12,32−13を並列に接続して白色LEDパッケージD1を形成し、このような白色LEDパッケージD1〜D6の6個を直列に接続して直列接続支S1を形成し、このような直列接続支S1〜S4を並列に接続して構成される。
【0032】
このLED素子の駆動用電源装置の構成の一例を、図7を用いて説明する。駆動用電源装置5は、スイッチング安定化電源51と、制御マイコン53と、電流制限抵抗55と、スイッチング素子57とを備えて構成される。スイッチング安定化電源51は、交流端子Tadを介して入力された交流入力を直列接続されたLEDの点灯に必要な24Vの直流電圧に変換するとともに、制御マイコン53の動作に必要な直流5Vを供給する手段である。制御マイコン53は、LEDのオンオフや調光を担当するマイコンである。スイッチング安定化電源51の24V出力には、電流制限抵抗55が直列に接続され直流端子Tdcを介してLED回路40が接続される。制御マイコン53の出力に接続されるスイッチング素子57は、LED回路40の電流をスイッチングする手段であり、LED回路40の点灯/滅灯(消灯)および点灯時の通電率(デューティー比)を制御する。さらに、制御マイコン53には、操作スイッチ15が接続されており、LEDの動作電流を制御する。スイッチング安定化電源51および制御マイコン53は市販の部品を適宜使用することができる。
【0033】
図8のタイムチャートを用いて駆動用電源装置5の動作を説明する。図8の(A)は、LEDの発光強度(照度)を示し、(B)は操作スイッチ15の操作状態を示している。今時刻T0で操作スイッチ15をオンにすると、制御マイコン53が、スイッチング素子57を通電状態とし、LED回路40は、予め設定された最高照度に設定される。操作スイッチ15を押し続けると、制御マイコン53が、予め設定された時刻T1から予め設定された最低照度に向けてスイッチング素子57の通電率を一定の割合で徐々に引き下げ時刻T2で最低照度に達する。制御マイコン53が、時刻T2から予め設定された時刻T3までスイッチング素子57の通電率を一定に保ち最低照度を維持する。時刻T3になると制御マイコン53が、最高照度に向けてスイッチング素子57の通電率を一定の割合で徐々に増加させ、LED回路40は時刻T4で再び最高照度に達する。操作スイッチ15をオンとしている限り制御マイコン53が、時刻T0からT4までの明暗の点灯シーケンスをくり返す。例えば、時刻T6で操作スイッチ15をオフとすると、これ以降、時刻T6の照度で照明が維持される。このようにして任意の照度を選択して照明することができる。LED回路40を滅灯するには、時刻t6以降の任意の時点で、再度操作スイッチ15をオンオフすればよい。
【0034】
このような白色光LEDを光源とする照明装置は、ボランティア試験の結果、以下のような効果を奏することが判明した。
【0035】
[ボランティア試験の概要]
6名の被験者(20代の健常人男女3名ずつ)に対し、本発明の白色光LED光源を用いた照明装置からの白色光または通常光環境下で90分間読書を行った。読書前および読書開始から30分ごと(30分、60分、90分)に誘導電位測定装置により視覚誘導電位(F−VEP P100波)および調覚誘導電位(P300波)の出現潜時を測定した。各誘導電位の測定値について、経時的な変化を読書前と比較し、光源による眼疲労度、認知・判断力変化の比較を行った。各被験者には、本発明にかかる白色光LEDを光源とする光および通常光の両環境下でクロスオーバー法により実施した。すなわち、視作業および誘導電位の測定には、2回目以降慣れが生じる可能性が考えられたため、被験者の半数は、本発明にかかる白色LED光−通常光の順、残りの半数は、通常光−本発明にかかる白色LED光の順で実施した。その間1週間の間隔を設けた。作業場所の照度は2000ルクスとした。通常光は、ツインバード工業株式会社製インバータ蛍光灯、KL−H599を用いた。窓を遮光して太陽光等外部の光の影響を受けないようにした。試験は午前中に実施した。被験者同士が与える影響を最小限に抑えられるよう、各作業スペースをパーティションで区切った。
【0036】
疲労誘導のための視作業として、読書を行った。書籍、読書スピードなどは特に統一しなかったが、原則として「日本語の文庫本で、1ページ当たりの行数が16行程度のもの」を、被験者各自が持参し、各自のペースで読書した。
【0037】
[誘導電位の測定]
誘導電位測定とは、ある刺激(光、パタ−ン、音など)に対する脳の反応を脳波として記録し脳の働きを調べるものである。ただし、この脳波は非常に弱いので、通常の脳波の波に埋もれて観察できない。そこで、刺激に伴って発生する脳波を複数回(今回の試験においては、視覚誘導は100回、聴覚誘導は30回)重ね合わせることによって、背景となる通常の脳波を消去し、刺激に対して反応した脳波のみを解析するものである。
【0038】
視覚による脳波は刺激からおよそ100ミリ秒後に特有の波形を示しP100波と呼ばれる下向きのピークとして観察される(今回の試験においては、視覚誘導電位として、閃光による刺激に対する反応(Flash Visual Evoked Potential,F−VEP)を測定した。)聴覚による脳波は刺激からおよそ300ミリ秒後の特有の波形を示し、P300波と呼ばれる下向きのピークとして観察される。眼疲労や認知・判断力が低下すると、刺激に対する脳の反応が影響を受け、これら特有ピークの出現時間(潜時)が遅れたりぶれたりする現象が観察されるようになるため、潜時を比較することで疲労度や認知度を客観的に判断することができる。この試験は、日本電気社製の「誘導電位測定装置SYNAX ER1100」と、キセノンフラッシュ制御のために日本電気三栄社製の「多用途脳波計1A97A」を用いて測定を行った。なお、誘導電位測定を行うに当たっては、特に資格は必要としない。
【0039】
[誘導電位の測定方法の詳細]
1) 頭皮および耳朶に電極を装着した装着部分を70%アルコール綿で拭き脱脂を行っ た。装着部分および電極に装着用ペーストを塗り、電極を装着し、ガーゼで固定し た。一人10箇所に装着した。
2) 測定用ベッドに横になり、脳波により緊張の度合いをモニタしながら、リラックス できた時点で各誘導電位を測定した。
3) 視覚誘導電位の測定は、眼前30cmにおいてキセノンフラッシュライトを1秒間 隔で計100回点滅させた。被験者はその間安静にしていた。視覚誘導電位の測定 を2回行った。
4) 聴覚誘導電位は、ヘッドフォンを装着して測定した。およそ0.7秒間隔で一定の 周波数の音(プー)を発するが、不定期に周波数の異なる音(ピー)が混入する。 被験者がその混入した音(ピー)の混入回数を数えた。混入音に対して正常に反応 した回数が合計20回になるまで継続した。この測定を2回行った。
5) 電極を装着したまま読書テーブルに移動し読書を開始した。
6) 30分おきに上記1)から5)を繰り返した、
7) 電極を取り外し、付着した電極装着用ペーストを70%のアルコール綿で拭きとり 、測定を終了した。
【0040】
測定結果をもとに、誘導電子測定装置SYNAXER1100を用いて視覚誘導によるP100波の出現潜時、聴覚誘導によるP300波の出現潜時を解析した。視作業後の各測定値をもとに、被験者ごとに、作業前の測定値に対する各時間における出現潜時の変化率を、下記数1式に従って算出した。すなわち、P100波(P300波)の出現潜時の変化率は、各時間の視作業後における出現潜時の測定値から視作業前の出現潜時の測定値を引いた値を視作業前の出現潜時の測定値で除したもので示される。
【0041】
【数1】
【0042】
[眼疲労に対する本発明装置の効果]
作業後90分までの視覚誘導電位(F−VEP P100波)の出現潜時の変化率を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
作業後90分後までのF−VEP P100波の出現潜時変化のデータを表1に示した。F−VEPは光に対する脳の単純な反応であり、眼疲労によって起こるP100波の出現潜時の変化は、視神経から大脳の視覚野への視覚信号の伝達速度の遅延ではなく、視覚野における反応時間がずれることによって起こるものである。したがって、多少の測定誤差を除いて、反応時間が大きく短縮されることは考え難く、長時間作業をしても出現潜時に変化が起こらないことが、眼疲労を低減していることを示唆していると捉えることができる。
【0045】
図9を用いて、視覚誘導電位(F−VEP P100波)の変化率の解析結果を説明する。図9において、上段の図9(A)は本発明の白色光LED光源を用いた場合のF−VEP P100波の変化率を示し、下段の図9(B)は、通常光の場合のF−VEP P100波の変化率を示している。データを解析した結果、前記数1式で示される視作業前の出現潜時を基準とした視作業後出現潜時(F−VRP P100波)の変化率で比較した場合、多くの被験者で、本発明にかかるLED光源を用いた照明光(本発明光)では通常光と比較して出現潜時の変化が小さく、変化率は大きくても5%であった。一方、通常光を用いた場合、作業前に対するF−VEP P100波の出現潜時の変化率の変動は大きく、10%程度にまでなる場合があった(図9(B)参照)。本発明のLED光源を用いた場合、通常光源を用いた場合よりもF−VEP P100波の出現潜時の変化率は「0」に近いところで推移しており(図9(A)参照)、被験者間でのばらつきも小さい傾向にあった。この結果は、本発明光は眼疲労を起こしにくいという特徴を有することを示唆している。
【0046】
[認知・判断力低下に対する本発明聡明装置の効果]
作業後90分までの聴覚誘導電位(P300波)の出現潜時の変化率を表2に示した。
【0047】
【表2】
【0048】
図10を用いて、聴覚誘導電位(P300波)の変化率の解析結果を説明する。図10において、上段の図10(A)は本発明の白色光LED光源を用いた場合のP300波の出現潜時の変化率を示し、下段の図10(B)は、通常光の場合のP300波の出現潜時の変化率を示している。聴覚誘導電位(P300波)は、脳の高次機能を見るもので、大脳皮質の一次聴覚野に達した聴覚信号が、二次感覚野である程度の意味を自動的に判断し、連合野に至るまでの時間を見るものであり、認知・判断力の低下により、出現潜時が遅延する傾向が強い。P300波について両光源間でのデータを解析した結果、視作業前の出現潜時を基準とした視作業後の出現潜時の変化率で比較した場合、通常光の場合は、P300波の出現潜時の変化率が「0」より大きくなる、すなわち遅延が増大する傾向を示した(図10(B)参照)のに対し、本発明光では通常光と比較して、視作業開始から90分後まで聴覚誘導電位(P300波)の出現潜時の変化率が明らかに小さく(すなわち、遅延が小さい)、特に60分後まではその差が顕著であった(図10(A)参照)。この結果は、本発明光は聴覚を介した認知・判断力の低下を起こしにくいという特徴を有することを示唆している。
【0049】
すなわち、本発明によれば、ヒトの視覚誘導電位(F−VEP P100波)の出現潜時の変化および/または聴覚誘導電位(P300波)の遅延を実質的に増大させないことができる。
【0050】
以上の結果から、本発明光環境下では、通常の蛍光灯と比べてF−VEP P100波の出現潜時のぶれが小さく、P300波の出現潜時の遅延が小さいことから、眼疲労や聴覚を介した認知・判断力低下が低減しやすいことが示唆された。
【0051】
以上の説明では、本発明のLED光源を用いた照明装置として、卓上照明装置を例にとって説明したが、本発明は、本発明光の働きからみて卓上照明装置にかかわらず他の室内照明や屋外照明にも当然に適用でき、その効果も同様に期待できる。
【0052】
〈比較例〉
特許文献4の実施例1〈実験1〉で用いたものと同じ、320nm乃至380nmの近紫外線を可視光の放射エネルギーに対して5%含有する照明装置を対照に用い、上記ボランティア試験と同様に、眼疲労に対する影響を調べ、本発明の照明装置と比較した。結果を表3および図11示した。図11において、上段の図11(A)は本発明の白色光LED光源を用いた場合のF−VEP P100波の出現潜時の変化率を示し、下段の図11(B)は、特許文献4の実施例1〈実験1〉で用いたものと同じ対照光の場合のF−VEP P100波の出現潜時の変化率を示している。
【0053】
【表3】
【0054】
表3および図11をみると、本発明の装置を用いた場合、近紫外線成分を含む対照光を用いた場合よりも、視覚誘導電位(F−VEP P100波)の出現潜時の変化率が小さかった。このことは、本発明の照明装置は、近紫外線を含む光を放射する照明装置と比較して、眼疲労を起こしにくい効果が強いことを示唆している。
【0055】
すなわち、特許文献4においては、実施例2において、眼疲労を起こしにくい効果も奏すると考えられることが記載されているが、本願発明の照明装置との相違点は、下記A、B、Cが挙げられる。
A.特許文献4の実施例2の実施態様1の照明は、紫外線〜近紫外線を励起光とし、青、緑、赤の蛍光体を発光させたものであること。
B.近紫外光を含むこと。
C.卓上照明として、眼疲労や認知判断力低下を効果的に抑制するための構造・構成とすることについては開示がないこと。
本願発明の照明装置については、図1〜図4に示すような構造・構成とすることによって、F−VEP P100波の変化率の低減に効果がみられ、眼疲労を起こしにくい効果が強いことを示唆している。
【符号の説明】
【0056】
1:基台
11:基盤
13:アーム取付部
15:操作スイッチ
17:ターンテーブル機構
2:アーム
21:中空状の管
23:電線
3:照明ヘッド
31:集光レンズプレート
32:LED素子
33:集光レンズ
35:ヘッドカバー
37:アーム取付け部
39:固定穴
40:LED回路
5:駆動用電源装置
51:スイッチング安定化電源
53:制御マイコン
55:電流制限抵抗
57:スイッチング素子
【技術分野】
【0001】
本発明は、LED(発光ダイオード)を光源とする、ヒトの視覚誘導電位(F−VEPP100波)の出現潜時の変化、および/または聴覚誘導電位(P300波)の遅延を実質的に増大しない光を輻射する照明装置に関する。ここでF−VEP P100波の出現潜時は変化しないこと、すなわちF−VEP P100波の出現潜時が長くも短くもならないことが、眼疲労が小さいことを意味し、P300波の出現潜時は遅延しないことが、視覚を介した認知・判断力の低下が低いこと、すなわちP300波の出現潜時の遅延が短いほど認知・判断力が高いことを意味する。
【背景技術】
【0002】
本出願人等は、眼科領域における障害や疾病の臨床検査に使用される視覚誘発電位(VEP)に着目した照明と眼疲労との研究に基づき、視作業により眼疲労が発生すると前記VEPにおけるP100波の出現潜時が遅延する現象を見出し、同時に、P100波の出現潜時の遅延が眼疲労の進行に応じて増大することから遅延の増大を測定することにより、照明に基づく眼疲労を定量化しうる事実を見出した。そして、本出願人等は、これらの知見に基づき、ヒトのVEPにおけるP100波の出現潜時を実質的に遅延しない光を照射する照明装置を提案している(例えば、特許文献1参照)。この照明装置は、眼疲労を起こし難い光を照射する発明であって、その光源としてキセノンガス封入白熱電球に定格電圧の105〜140%の直流電圧を印加することによって、VEPにおけるP100波の出現潜時を実質的に遅延しない光源としている。さらに、光源としては、多波長域発光形蛍光灯などの高演色性蛍光灯、キセノン放電灯などの放電灯を挙げている。
【0003】
さらに、本出願人等は、照明に使用してストレスを起こしにくい照明装置を提供することを目的として、内科領域においてクッシング症候群や副腎腫瘍の臨床検査方法として知られている副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)に着目して照明とストレスの関係について研究した。その結果、ストレスが起こると、ヒトの血液におけるACTHレベルが上昇する現象を見出し、このACTHレベルの上昇はストレスの大きさに応じて増大することから、血液におけるACTHレベルを測定することにより、照明によるストレスの起こしやすさを定量化することを見出した。なお、ACTHは下垂体前葉から分泌される39個のアミノ酸からなる分子量約4,500のペプチドホルモンであり、副腎皮質におけるステロイドホルモンの生産・分泌を促す物質である。また、ヒトの血液におけるACTHレベルには日内変動があり、早朝最高レベルに達し、以後深夜に向けて漸減することが知られている。
【0004】
上記知見に基づき、本出願人等が種々の光源を検索した結果、ヒトの血液におけるACTHレベルを実質的に上昇させない光は、照明に使用してストレスを起こし難く、快適な照明空間を指向する照明装置に好適であることが判明した。
【0005】
本出願人等は、この結果に基づき、クリプトンガスおよび窒素ガスを含んでなる組成物、またはキセノンガスおよび窒素ガスを含んでなる組成物を封入した白熱電球であって、点灯時に波長約290nm乃至400nmの紫外線に富む光を輻射することができる白熱電球と、その白熱電球をその定格の約105%乃至130%以下の直流電圧下で付勢する電源手段とを備え、ヒトの血液における副腎皮質刺激ホルモンレベルを実質的に上昇させない光を輻射する照明装置を提供している。(例えば、特許文献2参照)
【0006】
さらに、本出願人等は、クリプトンガスおよび窒素ガスを含んでなる組成物、またはキセノンガスおよび窒素ガスを含んでなる組成物を、点灯時に白熱電球内圧が約700トール乃至800トールになるように封入した白熱電球と、その白熱電球をその定格の約105%乃至130%以下の直流電圧下で付勢する電源手段とを備え、ヒトの事象関連電位(聴覚誘導電位)におけるP300波の出現潜時を実質的に遅延させない光を輻射する照明装置を提供している(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
また、本出願人等は、ヒトのセロトニン神経系を活性化させて、血中のノルアドレナリンレベルを実質的に上昇させず、攻撃性を低下させていわゆる「キレる」状態になる要因を低減する作用を有する光を輻射する照明装置の発明について、出願している(例えば、特許文献4参照)。
【0008】
この発明では、波長380nm以上780nm以下の可視光成分とともに、波長320nm以上380nm未満の近紫外線を含む光が、ヒトのセロトニン神経系を活性化する作用を有すること、さらにこの光が血中のノルアドレナリンレベルを実質的に向上させない作用を有することを見出し、そのような光を輻射する光源を用いた照明装置を通常の夜間または室内の照明として用いると、ヒトのセロトニン神経系を活性化し、血中のノルアドレナリンレベルを実質的に向上させず、ヒトが「キレる」状態になる要因を低減させることを見出して発明を完成させている。
【0009】
また、最近は、LED(発光ダイオード)を光源とする照明装置が、発光効率が高く消費電力が低い、長寿命である、サイズが小さく取り扱いやすい、水銀等の有害物質を含まない、熱の発生が比較的小さい等の利点があることから、白熱電球や蛍光灯等の従来の照明装置に替えて照明用途としての普及が広がっている。
【0010】
しかしながら、特許文献1乃至3には、LEDを光源とした照明装置で、上記の効果を奏するものは開示されていない。また特許文献4においては、LEDを光源とする照明装置が例示されているものの、青色LED素子と該素子が放射する光により蛍光を発する蛍光体とを組み合わせた白色光LEDの放射する光により、眼疲労や認知・判断力の低下が軽減されることは示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3230003号公報
【特許文献2】特許第2934923号公報
【特許文献3】特許第2934926号公報
【特許文献4】国際公開番号WO2010/041717A1
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】「臨床脳波学第4版」大熊輝雄、医学書院、1991年11月15日、「23脳脊髄誘発電位、事象関連電位」P443〜445、「視覚誘発電位」P461〜468、「事象関連電位」P468〜474
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記特許文献などに示されるように、特定の光が、ヒトの副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)のレベルを抑えてストレスを軽減し、目の疲労や認知・判断力の低下を起こし難いという効果を奏することも確認されている。しかし、青色発光LED素子による青色光と、青色光で励起された蛍光体からのより長波長の光により白色光を放射するLEDや有機ELを光源に用いた場合にも、こうした眼疲労や聴覚を介した認知・判断力の低下が軽減されることの確認はこれまで行われていない。本発明は、LEDを用いた光源においてもヒトの眼疲労や認知・判断力の低下を抑制することができる照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、光源に青色発光LED素子による青色光と、青色光で励起された蛍光体からのより長波長の光により白色光を放射するLEDを用いた照明装置であり、実質的にヒトの眼疲労の指標となる視覚誘導電位(F−VEP P100波:視覚刺激に対する脳の反応)の出現潜時の変化および/または認知・判断力低下の指標となる聴覚誘導電位(P300波)の出現潜時の遅延を実質的に増大させない光を放射することを特徴とし、眼疲労や認知・判断力の低下を生じ難いという作用効果を奏するものである。本明細書における脳波については、非特許文献1を参照。
【0015】
本発明は、上記作用効果を奏するために、後述する特性を有するLED素子からなる光源を用いて、照明装置を構成する。本発明にかかる照明装置は、卓上照明、シーリングライト等の室内、屋外、車内等で用いられる種々の照明とすることができる。
【0016】
光源となるLEDは、青色発光LED素子と蛍光体を組み合わせた白色光を発するLED(以下白色光LEDと称する)で、青色発光LED素子による青色光と、青色光で励起された蛍光体からのより長波長の光により、全体として上記作用効果を奏する白色光を得ている。青色発光LED素子はサファイアベース窒化ガリウム系の材料からなる425nm乃至465nmの光を放射するLED素子であり、前記蛍光体はシリカ系の材料からなり、青色LEDの発光に励起されて600nm乃至680nmにピークを有する蛍光を発するものである。なお、本明細書においては、青色LED素子、蛍光体、電極、封入剤などの部材から構成され白色光を発する部品を「白色光LEDパッケージ」と称する。
【0017】
本発明は、照明装置において、白色光LEDパッケージを光源とし、ヒトの視覚誘導電位(F−VEP P100波)の変化および/または聴覚誘導電位(P300波)の出現潜時の遅延を実質的に増大しない光を照射するようにした。
【0018】
本発明は、上記白色光LEDが、青色LED素子と、該LED素子の光を放射する側に配置された前記青色LED素子の発光波長より長い波長の蛍光を発する蛍光体とからなり、前記白色光LEDは、分光エネルギーが波長400nm乃至800nmの可視光領域において連続したスペクトラムを有し、かつ、425nm乃至465nmに青色LED素子に起因する第1のピークと、600nm乃至680nmに蛍光体に由来するブロードな第2のピークを有するとともに、480nm乃至510nmに肩部を形成する白色光を放射するものとした。
【0019】
本発明は、前記白色光LEDが、並列に接続された3個のLED素子と、これら3個のLED素子の光を放射する側に配置した前記LED素子よりも長い波長の蛍光を発する蛍光体からなり、照射部が、複数の白色光LEDを直列に接続した直列接続支を複数並列に接続したものと、白色光LEDの光を放射する側に設けた集光レンズプレートおよび集光レンズから構成される照明装置とした。
【0020】
本発明は、上記白色光LEDに直列にスイッチング素子を接続し、該スイッチング素子をパルス幅制御により通電率を制御する電源装置および調光回路を備えた。
【0021】
本発明の照明装置は、卓上照明装置、屋内照明装置または車内照明装置もしくは航空機室内、船内、屋外などの照明に用いることができ、照明の対象となる空間は、どのような空間であってもよい。照明の対象となる空間としては、その他、個人住宅、マンション、学校、スタジオ、美容院、病院、工場、社屋、事務所、旅館、ホテル、レストラン、宴会場、結婚式場、会議場、商店、スーパーマーケット、デパート、美術館、博物館、演奏会場、ホール、体育館、競技場、畜舎、鶏舎、養魚場、動物工場、植物工場などの各種施設の室内外の空間であってよい。また、アームライト、デスクランプ、ハリケーンランプ、テーブルランプ、ミニランプなどの卓上照明器具、あるいは、棚下付け灯、天井付け灯、ダウンライト、壁付け灯、吊り下げ灯、シャンデリア、スワッグランプ、フロアランプ、庭園灯、門灯などの室内外照明器具に収容するか取り付けるとともに、それら照明器具を住宅や施設における書斎、アトリエ、子供部屋、寝室、リビングルーム、ダイニングルーム、キッチン、トイレ、洗面所、浴室、廊下、階段、バルコニー、玄関、閲覧室、教室、ホール、ロビー、待合室、治療室、手術室、制御室、事務室、製図室、実験室、ラウンジ、客室、クラークルーム、調理室、運転室、飼育室、栽培室における室内外の適所に据付けるか取付ければよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明にかかるLED光源を用いた照明装置の構成を説明する正面図である。
【図2】図2は、図1のA−A線での断面図である。
【図3】図3は、本発明の照明ヘッドの底面図である。
【図4】図4は、集光レンズプレートにおける集光レンズとLEDの配置を説明する図である。
【図5】図5は、本発明にかかるLED光源のスペクトルを説明する図である。
【図6】図6は、本発明にかかるLED回路の構成を説明する図である。
【図7】図7は、本発明にかかる駆動用電源回路の構成を説明する図である。
【図8】図8は、本発明にかかる操作スイッチの動作と照度の関係を説明するタイムチャートである。
【図9】図9は、本発明光と通常光のF−EVP P100波の出現潜時の変化率を説明する図である。
【図10】図10は、本発明光と通常光のP300波の出現潜時の変化率を説明する図である。
【図11】図11は、本発明光と近紫外線を含む光源のF−EVP P100波の出現潜時の変化率を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0023】
本発明の第1の実施例にかかる白色光LED光源を用いた卓上照明装置の構成を、図1〜図4を用いて説明する。図1は卓上照明装置の正面図、図2は図1におけるA−A線での断面図、図3は照明ヘッド部の底面図である。図4は集光レンズプレートにおけるLED素子の配置と集光レンズの関係を説明する図である。
【0024】
卓上照明装置は、基台1と、アーム2と、照明ヘッド3とを有して構成される。基台1は、基盤11と、アーム取付部13と、操作スイッチ15と、ターンテーブル機構17とを有しており、さらに図示を省略した駆動用電源装置を基盤11内に備えている。基盤11はアーム2および照明ヘッド3を転倒させずに支持できる重さもしくは支持機構を有している。アーム取付部13はアーム2を支持するとともにアーム2を前後に傾斜可能とする機構を備えている。操作スイッチ15は照明装置を点滅させるとともに、LED光源の照度を変化させるスイッチである。ターンテーブル機構17は、アーム2を左右に回転可能とする機構である。
【0025】
アーム2は、照明ヘッド3を支持する部材である。アーム2は例えば可撓性を有していない中空状の管21に形成され、アーム取付部13により前後に傾斜可能かつその角度維持可能とされている。アーム2の内部にはLED素子に電力を供給する電線23が収容される。
【0026】
照明ヘッド3は、合成樹脂製の集光レンズプレート31と、合成樹脂を半球状に形成した集光レンズ33と、ヘッドカバー35と、アーム取付部37とを有している。照明ヘッドの照射部は、集光レンズプレート31、集光レンズ33、および白色光LEDから構成される。集光レンズプレート31は、図示を省略した白色LEDと白色光LEDの光を放射する側を覆って集光レンズ33が設けられる透明な部材である。集光レンズプレート31の集光レンズ33以外の部分をスモーク加工して不透明とし背面に位置するLED基板を隠している。集光レンズ33は、背面に設けた白色光LEDからの光を集光し拡散させる働きを有している。ヘッドカバー35は、照明ヘッド3の上面を覆う部材である。アーム取付部37はアーム2の先端に照明ヘッドを取り付ける部材で、前後左右に移動可能とされている。集光レンズプレート31には、このプレートを照明ヘッド3に取り付ける固定穴39が複数個所設けられている。
【0027】
図4を用いて、照明ヘッド3の集光レンズプレート31の構造を説明する。図4は集光レンズプレート31の正面図(図3の下方向から見た図)である。集光レンズプレート31には、一例として24個の集光レンズ33が同心円状に設けられている。集光レンズ33の背面には白色LEDがそれぞれ1個ずつ配置されており、照射面における照度のむらが生じないように構成されている。このような構成・構造とすることにより、眼疲労や認知・判断力の低下が効果的に抑制されるものとなっている。すなわち、アームを湾曲した形状とすることにより圧迫感を生じさせず、照明ヘッドを平たく圧迫感がない形状とすることによって、真横から見たときに照射部や集光レンズ部分が直接見えないようになっている。さらに、白色光LEDパッケージの光を放射する側に半球状のレンズを設置することにより、光がビーム状や絞り込んだ形状とならずに卓上(作業領域)に適度の範囲を照射しながら、かつ、不必要に拡散することもない。白色光LEDをマルチチップ型(一つのパッケージに青色LED素子を3個使用し、三角形に配置)としたことも光を適度に拡散させる効果がある。同心円状にならんだLEDはどの円周上でも同程度になるように配置されているので、卓上の作業領域を十分カバーできる範囲をむらなく照射できる。また、集光レンズによりLEDからの光の不必要な拡散を抑え、レンズプレートをスモーク加工し、さらに照射部が適度に覆われていることにより、LED光源からのまぶしさを感じにくくなっている。これらの効果により目に対する負担や不快感が低減されて、本発明の効果がより効果的に発揮される。
【0028】
LED素子32は、サファイアベース窒化ガリウム系材料からなる青色発光するLEDであり、425nm乃至465nmに発光極大を有する光を放射し、実質的に近紫外線領域の光を放射しない。LED素子32の光を放射する側をシリコン樹脂又はエポキシ樹脂などの合成樹脂製の透明な封入剤に封入したシリカ系の蛍光体(図示省略)で覆っている。青色発光したLED素子32からの青色光が前記蛍光体を励起してより波長の長い蛍光を発し、青色光と長波長の蛍光とが合成されて白色光を発する。シリカ系の蛍光体としては、母体となる結晶性無機化合物に発光中心となる付活剤を導入したものが使用でき、母体となる結晶と付活剤の組み合わせとしては、(「母体結晶:付活剤」の形で表す)、例えば、(Sr,Ca,Ba)2SiO4:Eu系(黄色蛍光体)、(Ba,Sr)2SiO4:Eu系(黄色蛍光体)、La3Si6N11:Ce系(黄色蛍光体)、(Ca,Sr)2Si5N8:Eu系(赤色蛍光体)、CaAlSiN3:Eu系(赤色蛍光体)、(Sr,Ba)3SiO5:Eu系(赤色蛍光体)、(Ca,Sr)AlSiN3:Eu系(赤色蛍光体)、(Ba,Sr)2SiO4:Eu系(緑色蛍光体)、Ca3Sc2Si3O12:Ce系(緑色蛍光体)、Ca3(Sc,Mg)2Si3O12:Ce系(緑色蛍光体)、(Sr,Ba)SiO2N2:Eu系(緑色蛍光体)、Ba3Si6O12N2:Eu系(緑色蛍光体)、Cax(Si、Al)12(O,N)16:Eu系(橙色蛍光体)、(Ba,Sr,Ca)Si2O2N2:Eu系(黄〜緑色蛍光体)、Ca8MgSi4O16C12:Eu系(緑色蛍光体)などの基本組成を有するものを、1種または2種以上組み合わせて使用することができる。なお、各蛍光体の発光強度及び波長は、母体結晶の組成または付活剤の種類および濃度により調節でき、本発明に好ましい光を得ることができる。LED素子32はそれぞれ白色光LEDに3個ずつ用いられ、この例では合計72個のLED素子を備えている。
【0029】
この照明ヘッド3からの白色光のスペクトルの一例を図5に示す。図5のスペクトルは、430nm付近に青色LED素子に起因する青色の第1のピーク(約100μW/nm)と、620nm付近にブロードな橙色の第2のピーク(約200μW/nm)を有し、さらに490nm付近に水色の肩部(約80μW/nm)を形成している。
【0030】
このような白色光LED光源を使用した本発明の照明装置の光は、以下の特徴を有している。
A.第2のピークの分光エネルギー強度は、第1のピークに対して1乃至3倍、好ましくは、1.5乃至2.5倍、さらに好ましくは1.7乃至2.2倍が望ましく(試験に用いた実機では約2倍)、また、肩部に対して1乃至3倍、好ましくは1.5乃至2.5倍、さらに好ましくは1.7乃至2.2倍が望ましい(試験に用いた実機では、2倍強)。
B.照射される光は、電球色乃至昼光色で、好ましくは色温度2,500K乃至4,000Kが望ましい(試験に用いた実機では3,022K)。
C.平均演色評価数(Ra)が90以上、好ましくは95以上であり(試験に用いた実機では96.4を達成)、特殊演色評価数(R1乃至R14)のいずれも80以上、好ましくは90以上(試験に用いた実機では90.1以上を達成)の極めて演色性に優れたものが望ましい。
D.照度としては、例えば、照射部から40cmの距離において500ルクス乃至2,500ルクスの照度が得られるものが望ましい(試験に用いた実機では2,000ルクス、集光レンズなしでは580ルクスである)。
【0031】
LED回路の構成の一例を、図6を用いて説明する。LED回路40は、3個の青色LED素子32−11,32−12,32−13を並列に接続して白色LEDパッケージD1を形成し、このような白色LEDパッケージD1〜D6の6個を直列に接続して直列接続支S1を形成し、このような直列接続支S1〜S4を並列に接続して構成される。
【0032】
このLED素子の駆動用電源装置の構成の一例を、図7を用いて説明する。駆動用電源装置5は、スイッチング安定化電源51と、制御マイコン53と、電流制限抵抗55と、スイッチング素子57とを備えて構成される。スイッチング安定化電源51は、交流端子Tadを介して入力された交流入力を直列接続されたLEDの点灯に必要な24Vの直流電圧に変換するとともに、制御マイコン53の動作に必要な直流5Vを供給する手段である。制御マイコン53は、LEDのオンオフや調光を担当するマイコンである。スイッチング安定化電源51の24V出力には、電流制限抵抗55が直列に接続され直流端子Tdcを介してLED回路40が接続される。制御マイコン53の出力に接続されるスイッチング素子57は、LED回路40の電流をスイッチングする手段であり、LED回路40の点灯/滅灯(消灯)および点灯時の通電率(デューティー比)を制御する。さらに、制御マイコン53には、操作スイッチ15が接続されており、LEDの動作電流を制御する。スイッチング安定化電源51および制御マイコン53は市販の部品を適宜使用することができる。
【0033】
図8のタイムチャートを用いて駆動用電源装置5の動作を説明する。図8の(A)は、LEDの発光強度(照度)を示し、(B)は操作スイッチ15の操作状態を示している。今時刻T0で操作スイッチ15をオンにすると、制御マイコン53が、スイッチング素子57を通電状態とし、LED回路40は、予め設定された最高照度に設定される。操作スイッチ15を押し続けると、制御マイコン53が、予め設定された時刻T1から予め設定された最低照度に向けてスイッチング素子57の通電率を一定の割合で徐々に引き下げ時刻T2で最低照度に達する。制御マイコン53が、時刻T2から予め設定された時刻T3までスイッチング素子57の通電率を一定に保ち最低照度を維持する。時刻T3になると制御マイコン53が、最高照度に向けてスイッチング素子57の通電率を一定の割合で徐々に増加させ、LED回路40は時刻T4で再び最高照度に達する。操作スイッチ15をオンとしている限り制御マイコン53が、時刻T0からT4までの明暗の点灯シーケンスをくり返す。例えば、時刻T6で操作スイッチ15をオフとすると、これ以降、時刻T6の照度で照明が維持される。このようにして任意の照度を選択して照明することができる。LED回路40を滅灯するには、時刻t6以降の任意の時点で、再度操作スイッチ15をオンオフすればよい。
【0034】
このような白色光LEDを光源とする照明装置は、ボランティア試験の結果、以下のような効果を奏することが判明した。
【0035】
[ボランティア試験の概要]
6名の被験者(20代の健常人男女3名ずつ)に対し、本発明の白色光LED光源を用いた照明装置からの白色光または通常光環境下で90分間読書を行った。読書前および読書開始から30分ごと(30分、60分、90分)に誘導電位測定装置により視覚誘導電位(F−VEP P100波)および調覚誘導電位(P300波)の出現潜時を測定した。各誘導電位の測定値について、経時的な変化を読書前と比較し、光源による眼疲労度、認知・判断力変化の比較を行った。各被験者には、本発明にかかる白色光LEDを光源とする光および通常光の両環境下でクロスオーバー法により実施した。すなわち、視作業および誘導電位の測定には、2回目以降慣れが生じる可能性が考えられたため、被験者の半数は、本発明にかかる白色LED光−通常光の順、残りの半数は、通常光−本発明にかかる白色LED光の順で実施した。その間1週間の間隔を設けた。作業場所の照度は2000ルクスとした。通常光は、ツインバード工業株式会社製インバータ蛍光灯、KL−H599を用いた。窓を遮光して太陽光等外部の光の影響を受けないようにした。試験は午前中に実施した。被験者同士が与える影響を最小限に抑えられるよう、各作業スペースをパーティションで区切った。
【0036】
疲労誘導のための視作業として、読書を行った。書籍、読書スピードなどは特に統一しなかったが、原則として「日本語の文庫本で、1ページ当たりの行数が16行程度のもの」を、被験者各自が持参し、各自のペースで読書した。
【0037】
[誘導電位の測定]
誘導電位測定とは、ある刺激(光、パタ−ン、音など)に対する脳の反応を脳波として記録し脳の働きを調べるものである。ただし、この脳波は非常に弱いので、通常の脳波の波に埋もれて観察できない。そこで、刺激に伴って発生する脳波を複数回(今回の試験においては、視覚誘導は100回、聴覚誘導は30回)重ね合わせることによって、背景となる通常の脳波を消去し、刺激に対して反応した脳波のみを解析するものである。
【0038】
視覚による脳波は刺激からおよそ100ミリ秒後に特有の波形を示しP100波と呼ばれる下向きのピークとして観察される(今回の試験においては、視覚誘導電位として、閃光による刺激に対する反応(Flash Visual Evoked Potential,F−VEP)を測定した。)聴覚による脳波は刺激からおよそ300ミリ秒後の特有の波形を示し、P300波と呼ばれる下向きのピークとして観察される。眼疲労や認知・判断力が低下すると、刺激に対する脳の反応が影響を受け、これら特有ピークの出現時間(潜時)が遅れたりぶれたりする現象が観察されるようになるため、潜時を比較することで疲労度や認知度を客観的に判断することができる。この試験は、日本電気社製の「誘導電位測定装置SYNAX ER1100」と、キセノンフラッシュ制御のために日本電気三栄社製の「多用途脳波計1A97A」を用いて測定を行った。なお、誘導電位測定を行うに当たっては、特に資格は必要としない。
【0039】
[誘導電位の測定方法の詳細]
1) 頭皮および耳朶に電極を装着した装着部分を70%アルコール綿で拭き脱脂を行っ た。装着部分および電極に装着用ペーストを塗り、電極を装着し、ガーゼで固定し た。一人10箇所に装着した。
2) 測定用ベッドに横になり、脳波により緊張の度合いをモニタしながら、リラックス できた時点で各誘導電位を測定した。
3) 視覚誘導電位の測定は、眼前30cmにおいてキセノンフラッシュライトを1秒間 隔で計100回点滅させた。被験者はその間安静にしていた。視覚誘導電位の測定 を2回行った。
4) 聴覚誘導電位は、ヘッドフォンを装着して測定した。およそ0.7秒間隔で一定の 周波数の音(プー)を発するが、不定期に周波数の異なる音(ピー)が混入する。 被験者がその混入した音(ピー)の混入回数を数えた。混入音に対して正常に反応 した回数が合計20回になるまで継続した。この測定を2回行った。
5) 電極を装着したまま読書テーブルに移動し読書を開始した。
6) 30分おきに上記1)から5)を繰り返した、
7) 電極を取り外し、付着した電極装着用ペーストを70%のアルコール綿で拭きとり 、測定を終了した。
【0040】
測定結果をもとに、誘導電子測定装置SYNAXER1100を用いて視覚誘導によるP100波の出現潜時、聴覚誘導によるP300波の出現潜時を解析した。視作業後の各測定値をもとに、被験者ごとに、作業前の測定値に対する各時間における出現潜時の変化率を、下記数1式に従って算出した。すなわち、P100波(P300波)の出現潜時の変化率は、各時間の視作業後における出現潜時の測定値から視作業前の出現潜時の測定値を引いた値を視作業前の出現潜時の測定値で除したもので示される。
【0041】
【数1】
【0042】
[眼疲労に対する本発明装置の効果]
作業後90分までの視覚誘導電位(F−VEP P100波)の出現潜時の変化率を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
作業後90分後までのF−VEP P100波の出現潜時変化のデータを表1に示した。F−VEPは光に対する脳の単純な反応であり、眼疲労によって起こるP100波の出現潜時の変化は、視神経から大脳の視覚野への視覚信号の伝達速度の遅延ではなく、視覚野における反応時間がずれることによって起こるものである。したがって、多少の測定誤差を除いて、反応時間が大きく短縮されることは考え難く、長時間作業をしても出現潜時に変化が起こらないことが、眼疲労を低減していることを示唆していると捉えることができる。
【0045】
図9を用いて、視覚誘導電位(F−VEP P100波)の変化率の解析結果を説明する。図9において、上段の図9(A)は本発明の白色光LED光源を用いた場合のF−VEP P100波の変化率を示し、下段の図9(B)は、通常光の場合のF−VEP P100波の変化率を示している。データを解析した結果、前記数1式で示される視作業前の出現潜時を基準とした視作業後出現潜時(F−VRP P100波)の変化率で比較した場合、多くの被験者で、本発明にかかるLED光源を用いた照明光(本発明光)では通常光と比較して出現潜時の変化が小さく、変化率は大きくても5%であった。一方、通常光を用いた場合、作業前に対するF−VEP P100波の出現潜時の変化率の変動は大きく、10%程度にまでなる場合があった(図9(B)参照)。本発明のLED光源を用いた場合、通常光源を用いた場合よりもF−VEP P100波の出現潜時の変化率は「0」に近いところで推移しており(図9(A)参照)、被験者間でのばらつきも小さい傾向にあった。この結果は、本発明光は眼疲労を起こしにくいという特徴を有することを示唆している。
【0046】
[認知・判断力低下に対する本発明聡明装置の効果]
作業後90分までの聴覚誘導電位(P300波)の出現潜時の変化率を表2に示した。
【0047】
【表2】
【0048】
図10を用いて、聴覚誘導電位(P300波)の変化率の解析結果を説明する。図10において、上段の図10(A)は本発明の白色光LED光源を用いた場合のP300波の出現潜時の変化率を示し、下段の図10(B)は、通常光の場合のP300波の出現潜時の変化率を示している。聴覚誘導電位(P300波)は、脳の高次機能を見るもので、大脳皮質の一次聴覚野に達した聴覚信号が、二次感覚野である程度の意味を自動的に判断し、連合野に至るまでの時間を見るものであり、認知・判断力の低下により、出現潜時が遅延する傾向が強い。P300波について両光源間でのデータを解析した結果、視作業前の出現潜時を基準とした視作業後の出現潜時の変化率で比較した場合、通常光の場合は、P300波の出現潜時の変化率が「0」より大きくなる、すなわち遅延が増大する傾向を示した(図10(B)参照)のに対し、本発明光では通常光と比較して、視作業開始から90分後まで聴覚誘導電位(P300波)の出現潜時の変化率が明らかに小さく(すなわち、遅延が小さい)、特に60分後まではその差が顕著であった(図10(A)参照)。この結果は、本発明光は聴覚を介した認知・判断力の低下を起こしにくいという特徴を有することを示唆している。
【0049】
すなわち、本発明によれば、ヒトの視覚誘導電位(F−VEP P100波)の出現潜時の変化および/または聴覚誘導電位(P300波)の遅延を実質的に増大させないことができる。
【0050】
以上の結果から、本発明光環境下では、通常の蛍光灯と比べてF−VEP P100波の出現潜時のぶれが小さく、P300波の出現潜時の遅延が小さいことから、眼疲労や聴覚を介した認知・判断力低下が低減しやすいことが示唆された。
【0051】
以上の説明では、本発明のLED光源を用いた照明装置として、卓上照明装置を例にとって説明したが、本発明は、本発明光の働きからみて卓上照明装置にかかわらず他の室内照明や屋外照明にも当然に適用でき、その効果も同様に期待できる。
【0052】
〈比較例〉
特許文献4の実施例1〈実験1〉で用いたものと同じ、320nm乃至380nmの近紫外線を可視光の放射エネルギーに対して5%含有する照明装置を対照に用い、上記ボランティア試験と同様に、眼疲労に対する影響を調べ、本発明の照明装置と比較した。結果を表3および図11示した。図11において、上段の図11(A)は本発明の白色光LED光源を用いた場合のF−VEP P100波の出現潜時の変化率を示し、下段の図11(B)は、特許文献4の実施例1〈実験1〉で用いたものと同じ対照光の場合のF−VEP P100波の出現潜時の変化率を示している。
【0053】
【表3】
【0054】
表3および図11をみると、本発明の装置を用いた場合、近紫外線成分を含む対照光を用いた場合よりも、視覚誘導電位(F−VEP P100波)の出現潜時の変化率が小さかった。このことは、本発明の照明装置は、近紫外線を含む光を放射する照明装置と比較して、眼疲労を起こしにくい効果が強いことを示唆している。
【0055】
すなわち、特許文献4においては、実施例2において、眼疲労を起こしにくい効果も奏すると考えられることが記載されているが、本願発明の照明装置との相違点は、下記A、B、Cが挙げられる。
A.特許文献4の実施例2の実施態様1の照明は、紫外線〜近紫外線を励起光とし、青、緑、赤の蛍光体を発光させたものであること。
B.近紫外光を含むこと。
C.卓上照明として、眼疲労や認知判断力低下を効果的に抑制するための構造・構成とすることについては開示がないこと。
本願発明の照明装置については、図1〜図4に示すような構造・構成とすることによって、F−VEP P100波の変化率の低減に効果がみられ、眼疲労を起こしにくい効果が強いことを示唆している。
【符号の説明】
【0056】
1:基台
11:基盤
13:アーム取付部
15:操作スイッチ
17:ターンテーブル機構
2:アーム
21:中空状の管
23:電線
3:照明ヘッド
31:集光レンズプレート
32:LED素子
33:集光レンズ
35:ヘッドカバー
37:アーム取付け部
39:固定穴
40:LED回路
5:駆動用電源装置
51:スイッチング安定化電源
53:制御マイコン
55:電流制限抵抗
57:スイッチング素子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
白色光LEDパッケージを光源とし、ヒトの視覚誘導電位(F−VEP P100波)の出現潜時の変化および/または聴覚誘導電位(P300波)の出現潜時の遅延を実質的に増大しない光を照射する照明装置。
【請求項2】
前記白色光LEDパッケージが、青色LED素子と、該LED素子の光を放射する側に配置された前記青色LED素子の発光波長より長い波長の蛍光を発する蛍光体とを備え、前記白色光LEDパッケージは、分光エネルギーが、波長400nm乃至800nmの可視光領域において連続したスペクトラムを有し、かつ、425nm乃至465nmに青色LED素子に起因する第1のピークと、600nm乃至680nmに蛍光体に起因するブロードな第2のピークを有するとともに480nm乃至500nmに肩部を形成する光を放射することを特徴とする請求項1に記載の照明装置。
【請求項3】
前記スペクトラムにおいて、前記第2のピークの分光エネルギー強度が、前記第1のピークに対して1乃至3倍であり、前記肩部に対して1乃至3倍であることを特徴とする請求項2記載の照明装置。
【請求項4】
前記青色LED素子がサファイアベース窒化ガリウム系材料からなり、前記蛍光体がシリカ系材料から選ばれる1種または2種以上の材料からなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の照明装置。
【請求項5】
前記白色LEDパッケージを直列に接続した直列接続支を複数並列に接続したものを同心円状に配置し、LEDパッケージの光を放射する側に集光レンズを設け、ヒトの視覚誘導電位(F−VEP P100波)出現潜時の変化および/または聴覚誘導電位(P300波)の遅延を実質的に増大させないようにしたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の照明装置。
【請求項6】
前記白色LEDパッケージに直列にスイッチング素子を接続し、該スイッチング素子をパルス幅制御により制御する電源装置および調光回路を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の照明装置。
【請求項7】
前記照明装置が、卓上照明装置または屋内照明装置もしくは車内照明装置であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の照明装置。
【請求項1】
白色光LEDパッケージを光源とし、ヒトの視覚誘導電位(F−VEP P100波)の出現潜時の変化および/または聴覚誘導電位(P300波)の出現潜時の遅延を実質的に増大しない光を照射する照明装置。
【請求項2】
前記白色光LEDパッケージが、青色LED素子と、該LED素子の光を放射する側に配置された前記青色LED素子の発光波長より長い波長の蛍光を発する蛍光体とを備え、前記白色光LEDパッケージは、分光エネルギーが、波長400nm乃至800nmの可視光領域において連続したスペクトラムを有し、かつ、425nm乃至465nmに青色LED素子に起因する第1のピークと、600nm乃至680nmに蛍光体に起因するブロードな第2のピークを有するとともに480nm乃至500nmに肩部を形成する光を放射することを特徴とする請求項1に記載の照明装置。
【請求項3】
前記スペクトラムにおいて、前記第2のピークの分光エネルギー強度が、前記第1のピークに対して1乃至3倍であり、前記肩部に対して1乃至3倍であることを特徴とする請求項2記載の照明装置。
【請求項4】
前記青色LED素子がサファイアベース窒化ガリウム系材料からなり、前記蛍光体がシリカ系材料から選ばれる1種または2種以上の材料からなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の照明装置。
【請求項5】
前記白色LEDパッケージを直列に接続した直列接続支を複数並列に接続したものを同心円状に配置し、LEDパッケージの光を放射する側に集光レンズを設け、ヒトの視覚誘導電位(F−VEP P100波)出現潜時の変化および/または聴覚誘導電位(P300波)の遅延を実質的に増大させないようにしたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の照明装置。
【請求項6】
前記白色LEDパッケージに直列にスイッチング素子を接続し、該スイッチング素子をパルス幅制御により制御する電源装置および調光回路を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の照明装置。
【請求項7】
前記照明装置が、卓上照明装置または屋内照明装置もしくは車内照明装置であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の照明装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−221937(P2012−221937A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96534(P2011−96534)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【Fターム(参考)】
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