説明

LED発光装置

【課題】蛍光体の耐湿性に優れることから、高温多湿環境下でも光度が低下しにくいLED発光装置を提供する。
【解決手段】LEDチップと、前記LEDチップを囲繞する樹脂フレームと、樹脂フレームが形成する凹部に充填される蛍光体層を備えるLED発光装置であって、前記蛍光体層は、蛍光体と封止樹脂とを含有し、前記蛍光体は、最表面に向かって、蛍光体母体1と中間層2と表面層3とを有し、ケイ素に対するアルカリ土類金属のモル比が1.5以上であり、かつ、該LED発光装置は、温度60〜90℃、相対湿度60〜90%、電流20〜120mAの条件で1000時間通電した後の光度保持率が90%以上であるLED発光装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LED発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、白色光を発する半導体発光素子(白色LED)は、低消費電力、高効率、環境にやさしい,長寿命等の長所を兼ね備えているため、次世代光源として注目を浴びている。
白色LEDにおいて、白色光を作り出す方法としては、青色や紫外光のLEDとそれらの光によって励起されうる蛍光体(赤、黄、緑色蛍光体等)とを組み合わせる方法が一般的用いられている。
【0003】
また、アルカリ土類金属元素を有するケイ酸塩(シリケートとも呼ばれる)蛍光体は、組成調節により広範囲な発光波長を容易に得られることと、発光効率が高いこと等の特徴を有するため注目されている。このようなケイ酸塩蛍光体の例として、例えば、特許文献1に記載の緑色蛍光体、特許文献2に記載の橙色蛍光体、及び、特許文献3に記載の黄色蛍光体が代表例として挙げられる。
【0004】
しかしながら、このようなアルカリ土類金属元素を有するケイ酸塩蛍光体は、空気中の水蒸気や水分によって表面が分解劣化しやすいという問題があった。そのため、大気中での長時間使用の場合に、発光強度の低下や色調の変化が起こりやすく、蛍光体としての特性が低下し、耐久性に大きな問題があった。
これに対して、蛍光体の耐湿性を改善する方法として、気相法(乾式法)、液相法(湿式法)等を用いて、蛍光体粒子の表面を酸化物等で被覆する方法が検討されている。
例えば、気相法による方法としては、化学的気相成長法(CVD)を用いる方法(特許文献4)や、プラズマ法を用いる方法(特許文献5)によって硫化物蛍光体粒子の表面に酸化アルミニウム膜をコーティングする方法が開示されている。
【0005】
また、液相法による方法としては、ゾルーゲル反応法と中和沈殿法が挙げられ、例えば、特許文献6には、0〜20℃の反応温度でSi、Ti等のアルコキシド及び/又はその誘導体を多量のアンモニア水の存在下で加水分解、脱水重合により蛍光体粒子への表面処理方法を開示されている。
更に、特許文献7には、ゾルーゲル反応法を用いたジルコニア膜の被覆方法が開示されている。特許文献8には、アルミニウム等のイオン含有酸性溶液を、蛍光体を分散させたアルカリ性溶液中に添加し、中和反応によって蛍光体粒子の表面に金属水酸化物を析出する方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献4及び5に開示された気相法では、微粉末である蛍光体粒子を完全に分散することが困難であるため、1個1個の蛍光体粒子の表面に均一かつ全面に被覆することが現実的に難しく、ピンホールや被覆バラツキ等が生じやすいという問題があった。また、気相法は、通常400℃以上の高温で行われるため、蛍光体の種類によっては処理後に蛍光特性が著しく低下してしまうという問題もあった。更に、装置が大掛かりなものとなるため、製造コストが高くなっていた。
【0007】
一方、液相法であるゾルーゲル反応法を用いた場合(特許文献6、7)では、被覆物種類の選択自由度が大きいが、出発原料である金属アルコキシドは通常反応性が高く、蛍光体粒子の表面のみで加水分解反応を起させるための反応条件の制御が非常に難しかった。また、ゾルーゲル反応法で得られた膜には、不完全な加水分解のため残されたアルコキシル基や加水分解反応で脱離したアルコール等の有機成分が含まれるため、通常緻密な膜が得られにくかった。
更に、特許文献6に開示された被覆方法は、加水分解反応が多量のアンモニア水の存在下で行うため、殆どの原料が蛍光体粒子表面以外の溶液中に反応、消費され、反応効率とコストにも問題点があった。加えて、多量のアンモニア水が含まれるので、処理過程中に蛍光体が加水分解によって劣化する恐れもあった。
特許文献7に開示された方法は、長時間の反応と精密な温度及びプロセスの制御が必要であり、効率とコストの点に問題があった。
一方、特許文献8に開示された中和沈殿法では、被覆物を蛍光体粒子の表面に連続膜として析出することは事実上困難であった。
このように、従来の蛍光体は、耐湿性等の面で大きな問題があり、このような蛍光体をLED発光装置に用いた場合は、特に高温多湿の環境下で長時間使用した場合に、光度が大幅に低下するという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2009−515030号公報
【特許文献2】特開2007−131843号公報
【特許文献3】特開2007−186674号公報
【特許文献4】特開2001−139941号公報
【特許文献5】特表2009−524736号公報
【特許文献6】特開2008−111080号公報
【特許文献7】特開2009−132902号公報
【特許文献8】特開平11−256150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、蛍光体の耐湿性に優れることから、高温多湿環境下でも光度が低下しにくいLED発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、LEDチップと、前記LEDチップを囲繞する樹脂フレームと、樹脂フレームが形成する凹部に充填される蛍光体層を備えるLED発光装置であって、前記蛍光体層は、蛍光体と封止樹脂とを含有し、前記蛍光体は、最表面に向かって、蛍光体母体と中間層と表面層とを有し、ケイ素に対するアルカリ土類金属のモル比が1.5以上であり、かつ、該LED発光装置は、温度60〜90℃、相対湿度60〜90%、電流20〜120mAの条件で1000時間通電した後の光度保持率が90%以上であるLED発光装置である。
以下、本発明を詳述する。
【0011】
本発明者らは、鋭意検討した結果、LED発光装置に使用する蛍光体として、最表面に向かって、蛍光体母体と中間層と表面層とを有し、かつ、ケイ素に対するアルカリ土類金属のモル比が所定の範囲内である蛍光体を用いることで、蛍光特性を低下させることなく、耐湿性を大幅に改善することができ、かつ、高い分散性を有する蛍光体が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
本発明のLED発光装置は、温度60〜90℃、相対湿度60〜90%、電流20〜120mAの条件で1000時間通電した後の光度保持率が90%以上である。
特に、温度85℃、相対湿度85%、電流20mAの条件で1000時間通電した後の光度保持率が90%以上である。
上記光度保持率が90%未満であると、実際使用時に発光強度が経時により低下しやすく、耐久性が足りないことがある。上記光度保持率は、好ましくは95%以上である。
なお、上記光度保持率とは、上述した条件で通電前後の光度の比率[(通電後の光度/通電前の光度)×100]を表し、上記光度は、例えば、オプトロニックラボラトリーズ社製のOL770測定システムを用いて測定することができる。
【0013】
図1に本発明のLED発光装置の一形態を示す。なお、本発明のLED発光装置は、図1に示したようなパッケージカップ型に限定されず、適宜変更することができる。
【0014】
本発明のLED発光装置は、基板(支持体)100に設置されたLEDチップ103と、上部開口部が底面部より広いカップ形状の凹部107を有する樹脂フレーム104と、上記凹部に充填された蛍光体層110を有する。以下、各部について詳述する。
【0015】
(1)LEDチップ
凹部107の略円形底面中央部には、LEDチップ103がAgペースト等によりマウントされている。
上記LEDチップ103としては、蛍光体を励起しうる光を発光するものであれば良い。通常は、近紫外領域から青色領域までの波長の光を発するものが使用され、中でも、GaN系化合物半導体を使用したGaN系LEDが好ましい。GaN系LEDは、発光出力や外部量子効率が格段に大きく、前記蛍光体と組み合わせることによって、非常に低電力で非常に明るい発光が得られる。GaN系LEDとしては、AlGaN発光層、GaN発光層又はInGaN発光層を有しているものが好ましい。GaN系LEDにおいては、それらの中でInGaN発光層を有するものが発光強度が非常に強いので、特に好ましい。なお、上記においてx+yの値は通常0.8〜1.2の範囲の値である。GaN系LEDにおいて、これら発光層にZnやSiをドープしたものやドーパント無しのものが発光特性を調節する上で好ましいものである。
上記GaN系LEDはこれら発光層、p層、n層、電極及び基板を基本構成要素としたものであり、発光層をn型とp型のAlGaN層、GaN層、又はInGaN層などでサンドイッチにしたヘテロ構造を有しているものが、発光効率が高く、好ましく、さらにヘテロ構造を量子井戸構造にしたものが、発光効率がさらに高く、より好ましい。
【0016】
LEDチップ103の電極(図示せず)は、Au等からなるボンディングワイヤー105及び106によって、リード101及びリード102にそれぞれ接続されている。なお、リード101および102の配置は、適宜変更することができる。
LEDチップ103としては、n型電極とp型電極とを同一面上に有するフリップチップ型のものを用いることも可能である。この場合には、ワイヤーの断線や剥離、ワイヤーによる光吸収等のワイヤーに起因した問題を解消して、信頼性の高い高輝度な半導体発光装置が得られる。また、LEDチップ103にn型基板を用いて、次のような構成とすることもできる。具体的には、n型基板の裏面にn型電極を形成し、基板上の半導体層上面にはp型電極を形成して、n型電極またはp型電極をリードにマウントする。p型電極またはn型電極は、ワイヤーにより他方のリードに接続することができる。LEDチップ103のサイズ、凹部107の寸法および形状は、適宜変更することができる。
【0017】
(2)樹脂フレーム
樹脂フレーム104は、LEDチップ103、蛍光体層110を保持するためのものである。樹脂フレーム104の上面には、カップ形状の凹部107が形成され、LED発光装置から放出された光に指向性をもたせることができ、放出する光を有効に利用できるようになっている。更に、樹脂フレーム104の凹部の内面111は、銀などの金属メッキにより、可視光域全般の光の反射率を高められており、これにより、フレームの凹部内面に当たった光も、発光装置から所定方向に向けて放出できるようになっている。
【0018】
樹脂フレーム104の凹部107の底部には、LEDチップ103が設置されている。樹脂フレーム104とLEDチップ103との間は銀ペースト(接着剤に銀粒子を混合したもの)によって接着されている。この銀ペーストは、LEDチップ103で発生した熱を樹脂フレーム104に効率よく放熱する役割も果たしている。
更に、樹脂フレーム104には、LEDチップ103に電力を供給するための金製のワイヤー106と105が取り付けられている。この金製のワイヤーはワイヤボンディングによって結線されていて、このワイヤーを通電することによってLEDチップ103に電力が供給され、LEDチップ103から光を発するようになっている。
【0019】
(3)蛍光体層
樹脂フレーム104の凹部107内には、蛍光体層110が充填される。この蛍光体層110は、所定の割合の蛍光体108を封止樹脂109中に分散、もしくは沈降させることによって形成することができる。
【0020】
(3−1)蛍光体
本発明のLED発光装置を白色発光の発光装置として構成する場合には、所望の白色光が得られるように、1種以上の蛍光体を適切に組み合わせればよい。光源として青色発光素子を使用する場合は蛍光体として青色の補色関係にある黄色蛍光体を、より演色性の高い白色を得るには赤、及び緑色蛍光体を使用することが好ましい。近紫外光を発する半導体発光素子を用いる場合は赤、緑、青の3色の蛍光体を使用するのが好ましい。
具体的に、本発明のLED発光装置を白色発光の発光装置として構成する場合における、光源と、蛍光体との好ましい組み合わせの例としては、以下の(i)〜(iii)の組み合わせが挙げられる。
(i)光源として青色発光体(青色LED等)を使用し、蛍光体として赤色蛍光体および緑色蛍光体を使用する。
(ii)光源として近紫外発光体(近紫外LED等)を使用し、蛍光体として赤色蛍光体、緑色蛍光体及び青色蛍光体を併用する。
(iii)光源として青色発光体(青色LED等)を使用し、橙色蛍光体および緑色蛍光体を使用する。
【0021】
本発明の蛍光体は、最表面に向かって、蛍光体母体と中間層と表面層とを有する。
図2は、上記蛍光体の断面を模式的に示したものである。
図2に示すように、蛍光体母体1の外表面には、中間層2が形成されており、更に、中間層2の外表面には、表面層3が形成されている。
【0022】
上記蛍光体は、ケイ素と、アルカリ土類金属とを含有する。
このような元素を含有することで、蛍光体の輝度と安定性が向上されると同時に、発光波長の調節が容易となる。上記アルカリ土類金属とは、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム等の周期律表第2族に属する元素をいう。
なかでも、上記蛍光体は、上記アルカリ土類金属を有するケイ酸塩類を含有することが好ましい。
【0023】
上記アルカリ土類金属を有するケイ酸塩類としては、例えば、母体結晶構造として、MSiO又はMSiOの結晶構造と実質的に同じ構造(ただし、MはMg、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種を表す)を有し、かつ、付活剤としてFe、Mn、Cr、Bi、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbからなる群から選択される少なくとも1種を含有する蛍光体が挙げられる。
上記アルカリ土類金属を有するケイ酸塩類は、例えば、Zn、Ga、Al、Y、Gd、Tb等を適量含有してもよい。また、上記蛍光体は、少量のハロゲン元素(例えば、F,Cl,Br)、硫黄(S)またはリン(P)を適量含有してもよい。
【0024】
上記蛍光体は、ケイ素に対するアルカリ土類金属のモル比が1.5以上である。
上記モル比が1.5未満であると、結晶構造が不安定となり、安定な蛍光特性が得られにくくなる。好ましくは1.7以上である。
【0025】
上記最表面に向かって、蛍光体母体と中間層と表面層とを有し、ケイ素に対するアルカリ土類金属のモル比が1.5以上である蛍光体としては、例えば、最表面に向かって、アルカリ土類金属を含有する蛍光体母体と、アルカリ土類金属を含有する中間層と、アルカリ土類金属と、周期律表第4〜6族の元素、イットリウム及びケイ素から選択される少なくとも1種を含有する表面層とを有する蛍光体であって、前記蛍光体母体、中間層及び表面層におけるアルカリ土類金属の含有量が下記(1)及び(2)式を満たす蛍光体が好ましい。
【0026】
【数1】

【0027】
式中、Cは蛍光体母体におけるアルカリ土類金属の含有量、Cは中間層におけるアルカリ土類金属の含有量、及び、Cは表面層におけるアルカリ土類金属の含有量を示す。
【0028】
また、CはCの2/3以下であることが好ましい。これにより、中間層2は実質的にSiとOがリッチな層になり、蛍光体の耐湿性が向上されることとなる。2/3を超えると、耐湿性が不充分となることがある。1/3以下であることがより好ましい。
【0029】
本発明において、上記アルカリ土類金属の含有量は、蛍光体母体、中間層又は表面層を構成する全元素に対するアルカリ土類金属の含有量(重量%)で表す。
上記各層中のアルカリ土類金属の含有量は、電界放射型透過電子顕微鏡に付属されているエネルギー分散型X線分析器(Energy−Dispersive X−ray Spectrometer、EDX)を用いることで測定することができる。
【0030】
上記蛍光体に用いられる蛍光体母体は、アルカリ土類金属を含有する。このようなアルカリ土類金属を有する蛍光体母体は、例えば、硫化物、アルミン酸塩、窒化物、酸窒化物、リン酸塩、ハロンリン酸塩、ケイ酸塩等が挙げられる。
なかでも、上記蛍光体母体は、アルカリ土類金属元素を有するケイ酸塩類を含有することが好ましい。
【0031】
上記蛍光体母体の例としては、例えば、下記式(3)のような構造を有する蛍光体母体、下記式(4)のような構造を有する蛍光体母体、下記式(5)のような構造を有する蛍光体母体等が挙げられる。
【0032】
【化1】

式(3)中、MはMg、Ca、Ba、Znからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、xとyは、それぞれ0≦x≦0.5、2.6≦y≦3.3の範囲内である。
【0033】
【化2】

式(4)中、L1はMg、Ca、Ba及びZnからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、L2はB、Al、Ga、C、Ge、N及びPからなる群より選択される少なくとも1種であり、L3はF、Cl、Br、N及びSからなる群より選択される少なくとも1種であり、xは1.5〜2.5である。
【0034】
【化3】

式(5)中、M1及びM2はMg、Ca、Ba、Znからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、a、x、y、z、uは、それぞれ0.6≦a≦0.85、0.3≦x≦0.6、0.85≦y≦1、1.5≦z≦2.5、2.6≦u≦3.3の範囲内である。
【0035】
上記蛍光体母体の具体例としては、例えば、SrSiO:Eu2+、(Sr0.9Mg0.025Ba0.075SiO:Eu2+、(Sr0.9Mg0.05Ba0.052.7SiO:Eu2+等を主成分とする橙色蛍光体、(Sr0.6Ba0.4SiO:Eu2+、(Sr0.7Ba0.3SiO:Eu2+、(Ba,Sr,Ca)(Mg,Zn)Si:Eu2+等を主成分とする緑色蛍光体、0.72[(Sr1.025Ba0.925Mg0.05)Si1.03Eu0.050.12]・0.28[SrSi1.02Eu0.60.13]等を主成分とする黄色蛍光体、及び、BaMgSi:Eu2+、BaZnSi:Eu2+等を主成分とする青色蛍光体が挙げられる。
【0036】
上記蛍光体母体の粒子径としては特に限定されないが、中央粒径(D50)で通常0.1〜100μm範囲内であることが好ましく、より好ましくは1.0〜50μm、さらに好ましくは2.0〜30μmである。上記D50が小さすぎると、輝度が低下するだけではなく、蛍光体母体自体が凝集しやくなり、均一な被覆処理が困難になる。また、D50が大きすぎると、樹脂における分散性が悪くなり、発光素子の特性に悪影響を与える恐れがある。
【0037】
上記中間層は、アルカリ土類金属を含有し、かつ、上記蛍光体母体及び表面層に比べてアルカリ土類金属の含有量が低いことが特徴である。このようにアルカリ土類金属の含有量が低いことは、アルカリ土類金属以外の金属の含有量が高いことを意味する。例えば、MSiO又はMSiO等の構造を有する蛍光体母体の表面が化学改質され、表面層及び中間層が形成された場合、中間層のアルカリ土類金属の含有量が、蛍光体母体中のアルカリ土類金属含有量より低くなり、その結果、中間層はアルカリ土類金属が欠損になり、Si及びOの含有量が高いものとなる。
【0038】
このような中間層が形成されていることで、被覆処理工程において水による蛍光体の劣化が生じることを防止することができる。一般的に、耐湿性に劣る蛍光体を処理する場合には、水溶液の使用を避ける必要がある。例えば、ケイ酸塩からなる蛍光体の場合、純水中では数分間以内に脱色劣化が生じるケースが多い。このため、ゾルーゲル反応法等の湿式法により表面処理をする場合にはアルコールなどの有機溶媒中で行うのが殆どである。
これに対して、本発明では、100%の水溶液中で被覆処理を行った場合でも、水による蛍光体の脱色劣化が見られない。この原因は必ずしも明らかではないが、上記アルカリ土類金属含有量の低い中間層が被覆処理の初期に早く形成されていることで、被覆処理過程中の水による劣化が抑制されたものと考えられる。また、被覆処理が水溶液中で行えることは、有機溶媒を使用する場合における廃液処理等の問題がなくなるだけでなく、コストの低減にもつながる。
更に、上記アルカリ土類金属の含有量が低い中間層が形成されることで、水に対する安定性が増し、蛍光体の使用時の耐湿性についても向上させることができる。
【0039】
上記中間層におけるアルカリ土類金属の含有量の好ましい下限は0.01重量%、好ましい上限は40重量%である。上記中間層のアルカリ土類金属の含有量が上記範囲外であると、被覆処理過程中において蛍光体が水による分解劣化が生じる恐れがある。
【0040】
上記中間層には、上記アルカリ土類金属のほか、フッ素を含有してもよい。
上記中間層中におけるフッ素とアルカリ土類金属との合計含有量は、40重量%以下であることが好ましい。上記フッ素とアルカリ土類金属との合計含有量が40重量%を超えると、相対的にケイ素及び酸素の含有量が低下し、蛍光体の耐湿性が低下することになる。
また、中間層にフッ素が存在することで、フッ素とアルカリ土類金属との間にフッ化物が形成されることができる。アルカリ土類金属のフッ化物は水に不溶性のものであり、同種金属のケイ酸塩よりは耐水性が高い。
【0041】
上記中間層の厚みは特に限定されず、通常、0.5〜2000nmであることが好ましい。より好ましくは1〜1000nm、更に好ましくは2〜500nmである。上記中間層の厚みが薄すぎると、前述した水による劣化防止効果が不充分となり、厚すぎると、蛍光体の蛍光特性に悪影響を与えることがある。
【0042】
上記表面層は、周期律表第4〜6族の元素、イットリウムおよびケイ素から選択される少なくとも1種を含有する。
【0043】
上記表面層における周期律表第4〜6族の元素、イットリウムおよびケイ素から選択される少なくとも1種の存在形態は明らかではないが、フッ化物、酸化物又は複酸化物であることが好ましい。特に、酸化物が好ましい。また、複酸化物(例えば、チタン酸バリウム(BaTiO))等が形成されていてもよい。
上記フッ化物、酸化物又は複酸化物は、耐湿性が高いため、上記表面層が形成されていることで、耐湿性が更に向上される。特に、Ti、Zr又はケイ素等の酸化物は耐水性が高いので、表面層におけるこのような金属の含有量が高ければ高いほど望ましい。
【0044】
上記表面層における、周期律表第4〜6族の元素、イットリウムおよびケイ素から選択される少なくとも1種の含有量の好ましい下限が30重量%である。上記含有量が30重量%以上にすることで、上記表面層は周期律表第4〜6族の元素、イットリウムおよびケイ素から選択される少なくとも1種が実質的に主成分になり、蛍光体の耐湿性が向上される。例えば、表面層に含有されるアルカリ土類金属がBa(70重量%)で、アルカリ土類金属以外の金属がTi(30重量%)である場合に、TiとBaの組成比(モル比)に換算すると、Tiの数がBaの約3倍になる。
【0045】
上記表面層がアルカリ土類金属を含む場合、蛍光体母体に由来するアルカリ土類金属であることが好ましい。ここで、蛍光体母体に由来するとは、蛍光体の母体結晶を構成する一部(通常最表面)が化学処理によって改質され、蛍光体の母体結晶構造または組成と違った構造または組成になったことを意味する。
【0046】
上記表面層の厚みは特に限定されず、通常、0.5〜2000nmであることが好ましい。より好ましくは1.0〜1000nm、更に好ましくは2.0〜500nmである。上記表面層の厚みが薄すぎると、劣化防止効果が不充分となり、厚すぎると、蛍光体の蛍光特性に悪影響を与えることがある。
【0047】
(中間層及び表面層の形成方法)
上記中間層及び表面層は、蛍光体母体をMF2−錯体イオン(Mは、周期律表第4〜6族の元素、イットリウム及びケイ素から選択される少なくとも1種)含有溶液に分散し、接触させることにより中間層及び表面層を形成する工程を有する方法を用いることが好ましい。通常、多層を形成する場合には、いくつかの工程を分けて層の形成工程を行う必要があるが、本発明では、従来のような煩雑な工程が必要なく、上記中間層と表面層が同一処理溶液にて一つのプロセスで実現することできる。
【0048】
上記蛍光体の製造方法を用いることで、上記中間層及び表面層が形成されるメカニズムは必ずしも明らかではないが、下記のような三つの過程を経て形成されることと考えられる。
1)蛍光体母体の最表面層からのアルカリ土類金属の溶出;
2)溶出したアルカリ土類金属イオンが蛍光体の表面においてフッ素イオンと反応し不溶性のフッ化物を形成する;
3)MF2−錯体イオンが加水分解し、MO酸化物が蛍光体の表面に形成する。
実際には、上記三つの過程がほぼ同時に進行すると考えられる。
【0049】
上記アルカリ土類金属のケイ酸塩を含有する蛍光体母体は水に弱いので、水中に浸漬すると浸漬時間に伴ってアルカリ土類金属の溶出量が増えることが本発明者らによって確認されている。従って、上記蛍光体母体をMF2−錯体イオンを含有する水溶液に分散し接触する時に、金属イオンの溶出反応が同様に発生すると考えられる。しかし、純粋な水の場合と違って、MF2−錯体イオンを含有する水溶液では、下記反応式(6)によって溶液中に遊離のフッ素イオンが存在するため、溶出したアルカリ土類金属イオンが蛍光体の表面近傍にフッ素イオンと反応し、不溶性のフッ化物を形成することができる。蛍光体の表面にこのような不溶性のフッ化物が形成されることによって、金属の溶出反応の進行が抑制されることと考えられる。また、アルカリ土類金属が溶出したところにはケイ素と酸素がリッチになる。このケイ素と酸素のリッチな層(上記中間層)の形成もアルカリ土類金属の継続溶出を抑制する働きをすると考えられる。
更に、上記アルカリ土類金属とフッ素イオンとの反応によってフッ素イオンが消費される。反応式(7)から分かるように、フッ素イオンが消費されると、MF2−錯体イオンの加水分解反応が促進され、反応が右へ進む。その結果、MO酸化物が形成される。上述したように、MO酸化物は水に対する安定性が非常に高いので、MOの形成によって、蛍光体の耐湿性が更に向上される。
【0050】
MF2−+nHO → [TiF6−n(OH)2− + nH + nF (6)
MF2− + 2HO → MO + 4H + 6F (7)
BO3− + 6H+ + 4F → BF4− + 3HO (8)
【0051】
反応時の上記MF2−錯体イオン濃度は、0.0005〜2.0Mであることが好ましく、より好ましくは0.001〜1.0Mで、更に好ましくは0.005〜0.5Mである。上記MF2−錯体イオン濃度が低すぎると、処理工程中に蛍光体の加水分解による劣化を抑えることができなくなる。一方、上記MF2−錯体イオン濃度が高すぎると、溶液自身が不安定になるか、反応が速すぎて、良質な膜が得られにくいことがある。
【0052】
上記加水分解反応の反応速度を促進するために、適量の加水分解促進剤を添加してもよい。本発明に使用する加水分解促進剤は、ホウ素(B)又はアルミニウム(Al)を含有する化合物から選ぶことができる。上記式(8)に示すように、ホウ素またはアルミニウムはフッ素イオンと安定な錯体を作ることができる。ホウ素を含有する化合物及びアルミニウムを含有する化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0053】
上記ホウ素を含有する化合物としては、例えば、酸化ホウ素、四ホウ酸ナトリウム、ホウ酸(HBO)等が挙げられる。これらの中では、ホウ酸が好ましい。
上記アルミニウムを含有する化合物としては、例えば、AlCl、AlBr、水酸化アルミニウム(Al(OH))等が挙げられる。
【0054】
上記MF2−錯体イオンに対する加水分解促進剤の量は特に限定されないが、通常、1モルのMF2−錯体イオンに対して加水分解促進剤の量が0.1モル以上、好ましくは、0.2〜5モル程度、より好ましくは0.5〜4モル程度とすればよい。
【0055】
反応時間は、目的とする中間層および表面層の厚み、反応液の濃度、温度等の反応条件に応じて適宜調整すればよく、通常、5分〜20時間程度、好ましくは10分〜10時間程度である。
一般には、仕込みの蛍光体の量が一定であれば、反応時間が長くなるほど膜厚が厚くなる。反応時間が短すぎると酸化物層の形成が不完全となる。一方、反応時間が長すぎると非経済的である。
反応温度は、目的とする酸化物層の厚みに応じて適宜調整すればよく、通常、0〜90℃程度、好ましくは5〜70℃程度、より好ましくは、10〜50℃程度とすればよい。
反応時の分散条件は特に限定されず、蛍光体を分散させることができる条件であればよい。例えば、磁気スターラー攪拌、モーター付きの機械的な攪拌、ガスバーブリング、液循環、超音波分散、ボールミルやロータリーミキサーのような回転分散、又は上記方法を併用することによって行うことができる。
【0056】
反応後に、蛍光体をろ過、洗浄、乾燥工程を経て回収する。乾燥は常圧乾燥でもよく、減圧乾燥でもよい。
また、上記蛍光体の製造方法では、上記回収した蛍光体を50〜600℃の温度で熱処理することが好ましい。
【0057】
上記蛍光体には、最表面に撥水層が更に形成されていることが好ましい。
最表面に撥水層を形成することで以下の効果を有する。
1)上記撥水層は、水をはじく性質を有し、湿気や水を蛍光体の表面へ接近しにくくする作用が期待される。これにより、蛍光体の耐湿性を更に向上させることができる。蛍光体の耐湿性を向上するためには、蛍光体の表面近傍に湿気や水を存在させないことが重要である。
2)上記蛍光体の樹脂における分散性を改善することができる。純無機の蛍光体は基本的に樹脂との親和性が悪いが、表面に単分子層レベルの撥水層を形成することによって、樹脂との親和性を改善することができる。また、この撥水層は単分子レベルの厚みであるため、表面層の厚みに比べて無視できる。
上記撥水層はフッ素含有化合物からなることが好ましい。
【0058】
(撥水層の形成方法)
上記フッ素含有化合物からなる撥水層の形成方法としては、例えば、フッ素系シランカップリング剤を溶解した溶液中で処理する方法等が挙げられる。
上記フッ素含有カップリング剤としては、例えば、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン(CFCHCHSi(OCH)、トリエトキシ−1H,1H,2H,2H−トリデカフルオロ−n−オクチルシラン(CF(CFCHCHSi(OC)、トリメトキシ−1H,1H,2H,2H−トリデカフルオロ−n−オクチルシラン(CF(CFCHCHSi(OCH)、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリメトキシシラン(CF(CFCHCHSi(OCH)等が挙げられる。
【0059】
上記フッ素系カップリング剤を溶かす溶媒としては、フッ素系カップリング剤の種類によって適宜選択すればよい。例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール、水とアルコールの混合液等が好適である。また、加水分解反応を促進するために、上記溶媒に適量の酸(酢酸、塩酸、硝酸、硫酸等)を添加してもよい。
上記フッ素系カップリング剤の濃度としては、蛍光体の量に対して0.1〜5重量%の範囲が好ましい、0.5〜2重量%がより好ましい。
【0060】
上記撥水層を形成する際、処理時間は5分〜5時間が好ましく、10分〜3時間がより好ましい。上記所定時間処理した後に、蛍光体を溶液から取り出し、ろ過、洗浄した後に、100〜150℃の温度で乾燥する。乾燥時間は1〜60分間が好ましい。
また、上記撥水層の形成は、湿式法のほかに乾式法を用いることもできる。乾式法として、例えば、乾式攪拌により分散された蛍光体に、上記フッ素含有シランカップリング剤の原液又は適当な溶媒で希釈した希釈液を噴霧する方法が適用できる。
また、乾式法のもう一つの形態として、アルゴン等の不活性ガスで希釈されたフッ素含有反応性ガス中での大気圧プラズマ処理を用いることができる。フッ素含有反応性ガスとしては、CF、C、C、C、CHF等のフッ素化炭化水素から選ぶことができる。
【0061】
上記撥水層の厚みは、上記フッ素系カップリング剤の分子の鎖長にもよるが、通常は5nm以下であることが好ましい。
【0062】
(3−2)封止樹脂
上記封止樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等を使用することができる。具体的には例えば、ポリメタアクリル酸メチル等のメタアクリル樹脂;ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体等のスチレン樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリエステル樹脂;フェノキシ樹脂;ブチラール樹脂;ポリビニルアルコール;エチルセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート等のセルロース系樹脂;エポキシ樹脂;フェノール樹脂;シリコーン樹脂等が挙げられる。
特に照明等のように、大出力の発光装置が必要な場合、耐熱性や耐光性等を目的としてケイ素含有化合物を使用するのが好ましい。
【0063】
上記ケイ素含有化合物とは分子中にケイ素原子を有する化合物をいい、ポリオルガノシロキサン等の有機材料(シリコーン系材料)、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素等の無機材料、及びホウケイ酸塩、ホスホケイ酸塩、アルカリケイ酸塩等のガラス材料を挙げることができる。中でも、ハンドリングの容易さ等の点から、シリコーン系材料が好ましい。
【0064】
上記シリコーン系材料とは、通常、シロキサン結合を主鎖とする有機重合体をいい、例えば、下記式(9)で表される化合物及び/又はそれらの混合物が挙げられる。
(RSiO1/2(RSiO2/2(RSiO3/2(SiO4/2 (9)
ここで、RからRは同じであっても異なってもよく、有機官能基、水酸基、水素原子からなる群から選択される。またM、D、T及びQは0から1未満であり、M+D+T+Q=1を満足する数である。
上記シリコーン系材料を半導体発光素子の封止に用いる場合、液状のシリコーン系材料を用いて封止した後、熱や光によって硬化させて用いることができる。
上記シリコーン系材料の種類としては、通常付加重合硬化タイプ、縮重合硬化タイプ、紫外線硬化タイプ、パーオキサイド架硫タイプ等が挙げられる。これらの中では、付加重合硬化タイプ(付加型シリコーン樹脂)、縮合硬化タイプ(縮合型シリコーン樹脂)、紫外線硬化タイプが好適である。
【0065】
本発明のLED発光装置の製造方法は特に限定されないが、例えば、以下の方法で製造することができる。
まず、リードを有する基板に、LEDチップを搭載した後、更に開口部が底面部より広いカップ形状の凹部を有する樹脂フレームを形成する。次いで、以下の方法で作製した蛍光体と封止樹脂とを含有する蛍光体樹脂組成物を凹部に充填することで作製することができる。
【0066】
上記蛍光体樹脂組成物を作製する方法としては、蛍光体が封止樹脂中に均一に分散する方法であれば特に限定されない。
具体的には例えば、液状の封止樹脂、蛍光体、シリカ微粒子等のフィラー、架橋剤、硬化触媒及びその他の添加剤を配合し、ミキサー、高速ディスパー、ホモジナイザー、3本ロール、ニーダー等で混合することができる。この場合、前記成分を全て混合して、1液の形態として液状樹脂組成物を製造することができる。また、(i)液状の封止樹脂と蛍光体を主成分とする樹脂組成物と、(ii)架橋剤と硬化触媒を主成分とする架橋剤液の2液を調製しておき、使用直前に樹脂組成物と架橋剤液を混合して最終的な液状樹脂組成物を製造しても良い。
【0067】
上記蛍光体樹脂組成物における蛍光体の配合量としては、封止樹脂100重量部に対して0.1重量部以上であることが好ましく、0.5重量部以上であることがより好ましく、1重量部以上であることが更に好ましい。また、封止樹脂に対して、100重量部以下であることが好ましく、80重量部以下であることがより好ましく、60重量部以下であることが更に好ましい。上記蛍光体の配合量が少なすぎると、所望の発光量が得られず、多すぎるとコストがかかり経済面で不利である。
【0068】
本発明のLED発光装置の用途は特に制限されず、通常のLED発光装置が用いられる各種の分野に使用することが可能である。また、単独で、又は複数個を組み合わせて用いても良い。具体的には、例えば、照明ランプ、液晶パネル用等のバックライト、超薄型照明等の種々の照明装置、画像表示装置の光源として使用することができる。なお、本発明のLED発光装置を画像表示装置の光源として用いる場合には、カラーフィルターと併用してもよい。
【発明の効果】
【0069】
本発明によれば、空気中の水蒸気や水による表面の分解劣化を防止でき、長時間または高温高湿環境での使用においても光度の低下や色調の変化が起こることのない、耐湿性に優れた蛍光体を得ることができ、その結果、高温多湿環境下でも光度が低下しにくいLED発光装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明のLED発光装置の断面模式図である。
【図2】本発明のLED発光装置に使用される蛍光体の断面模式図である。
【図3】実施例1で得られた表面処理蛍光体のFE−TEM断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0071】
以下に実施例を掲げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0072】
[実施例1]
0.1mol/Lチタンフッ化アンモニウム((NHTiF)及び0.1mol/Lほう酸を含有する混合水溶液250mlに、中央粒径(D50)約16μmの緑色ケイ酸塩蛍光体(主成分:(Ba,Sr)SiO:Eu2+)12.5gを添加した。
蛍光体を添加した混合液を攪拌によって分散しながら、35℃で2時間を反応させた。反応後に、ろ過、洗浄工程を経て回収した蛍光体を120℃で1時間真空乾燥した。
なお、得られた表面処理蛍光体のFE−TEM断面写真を図3に示す。
【0073】
得られた蛍光体をシリコーン樹脂(ダウー・コーニング社製、OE6630)100重量部に対して8重量部混合分散し、更に脱泡することにより蛍光体樹脂組成物を調製した。次に、調製した蛍光体樹脂組成物を、図1に示すようなLEDチップ(発光ピーク波長460nm)を実装し、かつ、開口部が底面部より広いカップ形状の凹部を有する樹脂フレームが形成された基板の上に注入、充填し、更に150℃で2時間加熱することにより、樹脂組成物を硬化させ、LED発光装置とした。
【0074】
[比較例1]
蛍光体として、表面層及び中間層を有さず表面未処理の中央粒径(D50)約16μmの緑色ケイ酸塩蛍光体(主成分:(Ba,Sr)SiO:Eu2+)を用いた以外は実施例1と同様にしてLED発光装置を作製した。
【0075】
(評価方法)
<通電特性評価>
実施例及び比較例で得られたLED発光装置について、圧力1大気圧、温度85℃、相対湿度85%の雰囲気において、電流20mAで1000時間通電し、通電前後の光度を測定した。なお、測定装置には、オプトロニックラボラトリーズ社製のOL770測定システムを用いた。
そして、通電前の光度に対する通電後の光度の保持率を算出した。また、得られた光度保持率から、相対耐湿性を評価した。結果を表1に示した。
【0076】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によれば、蛍光体の耐湿性に優れることから、高温多湿環境下でも光度が低下しにくいLED発光装置を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LEDチップと、前記LEDチップを囲繞する樹脂フレームと、樹脂フレームが形成する凹部に充填される蛍光体層を備えるLED発光装置であって、
前記蛍光体層は、蛍光体と封止樹脂とを含有し、
前記蛍光体は、最表面に向かって、蛍光体母体と中間層と表面層とを有し、ケイ素に対するアルカリ土類金属のモル比が1.5以上であり、かつ、
該LED発光装置は、温度60〜90℃、相対湿度60〜90%、電流20〜120mAの条件で1000時間通電した後の光度保持率が90%以上であることを特徴とするLED発光装置。
【請求項2】
蛍光体は、最表面に向かって、アルカリ土類金属を含有する蛍光体母体と、アルカリ土類金属を含有する中間層と、アルカリ土類金属と、周期律表第4〜6族の元素、イットリウム及びケイ素から選択される少なくとも1種を含有する表面層とを有する蛍光体であって、
前記蛍光体母体、中間層及び表面層におけるアルカリ土類金属の含有量が下記(1)及び(2)式を満たすことを特徴とする請求項1記載のLED発光装置。
【数1】

式中、Cは蛍光体母体におけるアルカリ土類金属の含有量、Cは中間層におけるアルカリ土類金属の含有量、及び、Cは表面層におけるアルカリ土類金属の含有量を示す。
【請求項3】
蛍光体母体は、下記式(3)で表される構造を有することを特徴とする請求項1又は2記載のLED発光装置。
【化1】

式(3)中、MはMg、Ca、Ba、Znからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、xとyは、それぞれ0≦x≦0.5、2.6≦y≦3.3の範囲内である。
【請求項4】
蛍光体母体は、下記式(4)で表される構造を有することを特徴とする請求項1又は2記載のLED発光装置。
【化2】

式(4)中、L1はMg、Ca、Ba及びZnからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、L2はB、Al、Ga、C、Ge、N及びPからなる群より選択される少なくとも1種であり、L3はF、Cl、Br、N及びSからなる群より選択される少なくとも1種であり、xは1.5〜2.5である。
【請求項5】
蛍光体母体は、下記式(5)で表される構造を有することを特徴とする請求項1又は2記載のLED発光装置。
【化3】

式(5)中、M1及びM2はMg、Ca、Ba、Znからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、a、x、y、z、uは、それぞれ0.6≦a≦0.85、0.3≦x≦0.6、0.85≦y≦1、1.5≦z≦2.5、2.6≦u≦3.3の範囲内である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−79883(P2012−79883A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223100(P2010−223100)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】