LED素子、その製造方法、及びLED素子の色調補正方法

【課題】個体ごとの光学特性が安定したLED素子、その製造方法、及びLED素子の色調補正方法を提供する。
【解決手段】ベース基板110に配置されたLEDチップ120は、透光性を有する樹脂層150によって封止される。プリント制御システムにより、半導体量子ドットを含んだナノ蛍光体溶液が樹脂層150に噴射される。ナノ蛍光体溶液が硬化されて、ナノ蛍光体層160が積層される。半導体量子ドットは、LEDチップ120から放射され、ナノ蛍光体層160に入射した光子の少なくとも一部を吸収し、その入射した光子とは波長が異なる光子を放出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体方式のLED素子、その製造方法、及び色調補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LED(発光ダイオード)は、電圧の印加によって発光する半導体の一種であり、P型半導体(正孔が多い半導体)とN型半導体(電子が多い半導体)とが接合された「PN接合」によって構成されている。LEDチップに順方向の電圧が印加されると、電子と正孔(キャリア)の移動によって電流が流れる。キャリアは、接合部付近で再結合する。キャリアが禁制帯を越えて再結合することで、再結合エネルギーが光として放出される。
【0003】
半導体を構成する化合物によって、放出される光の波長が変化する。化合物の種類に応じて、多様な発光色のLEDが製造されている。化合物としては、例えばGa(ガリウム)、N(窒素)、In(インジウム)、Al(アルミニウム)、及びP(リン)等が使用される。
【0004】
白色光は、可視光領域における連続したスペクトルを含んだ光である。また、三原色に対応する3つのピーク波長、又は補色関係にある2つのピーク波長が混合された光も視覚的には白色と認識される。LEDによって連続したスペクトルの光を放射することは困難であるため、上記の視覚特性を利用して、発光色が視覚的に白色と認識されるLED(白色LED)が製造されている。代表的なものとして、蛍光体を使用した蛍光体方式のLEDがある。蛍光体方式のLEDは、青色光又は紫外光を放射するLEDチップが、蛍光体によって覆われたものである。LEDチップが放射した光は、一部が蛍光体によって異なる波長の光に変換され、一部がそのまま放射される。この2種類の光が混合されて、白色として認識される。蛍光体方式の白色LEDとして、例えば、青色LEDチップと黄色に蛍光する蛍光体(黄色蛍光体)とが使用されたものがある。
【0005】
引用文献1、2に記載されたような、蛍光体方式のLED及び製造方法が知られている。例えば、LEDチップの波長を調整することで、LEDの演色性を微調整する製造方法が知られている(特許文献1を参照)。また、窒化物赤色蛍光体を使用することで、高い演色性を実現するLEDが知られている(特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−177368号公報
【特許文献2】特開2010−155891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
蛍光体方式のLEDは、LEDチップが、蛍光体の混入された樹脂等によって封止されたものである。従来の蛍光体の粒径は、数μm〜数十μm程度である。この蛍光体粒子の大きさのため、従来の蛍光体は分散性に乏しく、沈殿しやすい。そのため、LEDチップの個体ごとに、蛍光体の量や分散状態のばらつきが生じる。また、蛍光体の量や分散状態ばらつきに加えて、LEDチップ自体にも、個体ごとに、波長及び輝度のばらつきが存在する。
【0008】
以上の理由により、完成したLEDの個体ごとに、放射される光の光学特性に大きなばらつきが生じる。LEDを光学特性に基づきクラス(グレード)分けするために、製造プロセスの最終工程において、全ての個体が検査される。例えば、比較的上位のクラスに分類されたものは、光学特性の要件が厳格なバックライトユニットや高輝度照明用LEDとして使用される。下位のクラスに分類されて規格外と判断されたものは、一部が組み合わされて、照明用モジュール等に使用されるが、大部分が破棄される。
【0009】
本発明は、上述された事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、個体ごとの光学特性が安定したLED素子、その製造方法、及びLED素子の色調補正方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1) 本発明に係るLED素子は、PN接合された半導体層を有し、当該半導体層への電圧の印加によって光子を放出するLEDチップと、上記LEDチップに積層されており、上記LEDチップから放出された光子を透過する第1層と、上記第1層に積層されており、上記LEDチップから放出された光子を透過する媒体中に半導体量子ドットを含んだ第2層と、を備えている。上記半導体量子ドットは、上記第2層に入射した光子の少なくとも一部を吸収し、その入射した光子とは波長が異なる光子を放出する。
【0011】
ここで、本発明における半導体量子ドットとは、最大粒子径が50nm以下の半導体粒子であり、特定の波長の光子を吸収して、異なる波長の光子を放出するものである。半導体量子ドットは、電子を離散的なエネルギー準位をとる状態に閉じこめるものであり、電子のエネルギー準位の変化によって、光子を吸収・放出するものである。
【0012】
LEDチップには、第1層が積層されており、第1層の上面に第2層が積層されている。LEDチップが放出した光子の少なくとも一部は、第2層に含まれる半導体量子ドットによって、異なる波長の光子へと変換される。半導体量子ドットの量や種類を調整することで、多様な発光スペクトルのLED素子を安定して製造することができる。半導体量子ドットは従来の蛍光体よりも粒子サイズが小さいため、量や分散状態のばらつきが起こりにくく、LED素子が放射する光の光学特性を安定させることができる。
【0013】
(2) 上記LEDチップは、紫外光子又は青色の光子を放出するものであってもよい。上記第2層は、互いに異なる波長の光子を放出する複数種類の半導体量子ドットを含み、肉眼において白色と認識される光を放射するものであってもよい。
【0014】
従来の蛍光体においては、励起波長(吸収する光子の波長)と蛍光波長(放出する光子の波長)とが1対1に対応しているため、蛍光体の選択の幅に制限がある。半導体量子ドットにおいては、1つの励起波長に対して、様々な蛍光波長を有するものが製造可能である。したがって、紫外光子又は青色の光子を放出するLEDチップに対して、蛍光波長が異なる複数種類の半導体量子ドットを使用することができる。それにより、例えば青色LEDチップと黄色蛍光体とを使用した従来のLED素子よりも、演色性の高い白色光を放射することができる。
【0015】
(3) 上記第1層は、上記LEDチップが放出した光子によって蛍光する蛍光体を含み、肉眼において白色と認識される光を放射するものであってもよい。上記第2層は、上記第1層から放射された光とは輝度又はスペクトルの少なくとも一方が異なる光を放射するものであってもよい。
【0016】
ここで、本発明における蛍光体とは、例えば従来のLED素子に利用される、数〜数十μmの発光粒子である。以下、半導体量子ドットの蛍光する性質を利用したものを「ナノ蛍光体」と表記することもあり、従来の「蛍光体」と区別して表記する。LEDチップが放出した光子の一部が、第1層の蛍光体によって異なる波長の光子に変換されて、LED素子は、白色と認識される光を放射する。この光に含まれる一部の光子の波長が半導体量子ドットによってさらに変更される。LED素子が放射する白色光の光学特性(色調)が補正され、より演色性の高い白色光となる。
【0017】
(4) 本発明に係るLED素子の製造方法は、電圧の印加によって光子を放出するLEDチップをベース部材に配置し、導電性のリードを当該LEDチップへ接続する第1ステップと、上記LEDチップに、上記LEDチップから放出された光子を透過する第1層を積層する第2ステップと、上記LEDチップから放出された光子を透過する媒体中に、当該媒体に入射した光子の少なくとも一部を吸収し、その入射した光子とは波長が異なる光子を放出する半導体量子ドットを含んだ第2層を、上記第1層に積層する第3ステップと、を含む。
【0018】
本発明に係るLED素子は、例えば上記のような方法で製造可能である。ここで、本発明におけるベース部材とは、LEDチップを支持するものであり、例えば基板である。また、本発明におけるリードとは、LEDチップに電圧を印加するためのものであり、例えば導電性の線材である。また、ベース部材及びリードは同一の部材であってもよい。
【0019】
(5) 上記第3ステップにおいて、半導体量子ドットを含んだ液の微少液滴を上記第1層に吹き付けることにより、上記第2層を形成してもよい。
【0020】
上述された通り、半導体量子ドットは従来の蛍光体よりも粒子サイズが小さいため、半導体量子ドットを含んだ微少液滴を、例えばインクジェット方式で吹き付けることができる。このような方法により、第2層の膜厚や半導体量子ドットの量を高精度に制御することができる。
【0021】
(6) 本発明に係るLED素子の製造方法は、複数の上記LEDチップが形成されたウエハーに光を放射させ、当該光を光学センサーによって検知する第4ステップと、上記ウエハー面における光の光学特性の分布に基づき、当該ウエハー面の位置ごとに、半導体量子ドットの種類及び量の少なくとも一方を決定する第5ステップと、をさらに含んでいてもよい。上記第3ステップにおいて、上記決定された半導体量子ドットの種類及び量を含む上記第2層が積層されてもよい。
【0022】
ここで、本発明における「半導体量子ドットの種類」とは、例えば、半導体量子ドットの励起波長や蛍光波長に基づく種類のことである。LEDチップの製造工程において、LEDチップは、ウエハー上に複数が製造される。ウエハーは、プロービングと呼ばれる方法によって、電気特性や光学特性が検査される。プロービングで検査された光学特性の分布に基づいて、第2層に含まれる半導体量子ドットの種類や量を決定する。これにより、LEDチップごとに最適な種類や量の半導体量子ドットを使用することが可能となり、光学特性のばらつきを少なくすることができる。
【0023】
なお、「半導体量子ドットの種類及び量の少なくとも一方を決定する」には、必ずしも半導体量子ドットの種類や量を直接算出する必要はない。例えば半導体量子ドットを規定の分量含んだ液体を数種類用意しておき、各液体の種類や量を算出することで、間接的に半導体量子ドットの種類や量を決定してもよい。
【0024】
(7) 本発明に係るLED素子の製造方法は、上記第2層が積層されたLEDチップに光を放射させ、上記第2層を通して放射された光を光学センサーによって検知する第6ステップと、上記第6ステップで上記光学センサーが検知した光の光学特性が閾値内にある否かを判断し、閾値内にないと判断された場合、当該光学特性を閾値内のものにするために必要な半導体量子ドットの種類及び量の少なくとも一方を決定する第7ステップと、上記第7ステップで決定された半導体量子ドットの種類及び量を含む上記第2層をさらに積層する第8ステップと、をさらに含むをさらに含んでいてもよい。
【0025】
本構成では、第2層が積層されたLED素子が放射する光の光学特性を検査する。検査の結果、光学特性が閾値内になかった場合、光学特性を閾値内のものにするために必要な半導体量子ドットの種類や量を決定する。決定された半導体量子ドットの種類や量に基づき、再度第2層が積層される。このような方法によると、従来は破棄されていたLED素子の光学特性を補正して、再利用することができる。
【0026】
(8) 本発明は、電圧の印加によって光子を放出するLEDチップに、上記LEDチップから放出された光子を透過する第1層が積層されたLED素子の色調補正方法である。本発明に係るLED素子の色調補正方法は、上記LED素子に光を放射させ、当該光を光学センサーによって検知する第9ステップと、上記第9ステップで上記光学センサーが検知した光の光学特性を閾値内のものにするために必要な半導体量子ドットの種類及び量の少なくとも一方を決定する第10ステップと、上記LEDチップから放出された光子を透過する媒体中に、上記第10ステップで決定された半導体量子ドットの種類及び量を含む第2層を上記第1層に積層する第11ステップと、を含む。上記半導体量子ドットは、上記第2層に入射した光子の少なくとも一部を吸収し、その入射した光子とは波長が異なる光子を放出するものである。
【0027】
従来のLED素子に半導体量子ドットを含んだ第2層を積層することで、光学特性を補正することができる。このような方法によると、従来は破棄されていたLED素子を再利用することができる。
【0028】
(9) 上記第11ステップにおいて、半導体量子ドットを含んだ液の微少液滴を上記第1層に吹き付けることにより、上記第2層を形成してもよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によると、LED素子の個体ごとの光学特性を安定させることができる。また、従来は規格外として破棄されていたLED素子の光学特性を補正して、再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、LED素子100の上面を示した斜視図である。
【図2】図2は、LED素子100の下面を示した斜視図である。
【図3】図3は、LED素子100の分解斜視図である。
【図4】図4は、図1のIV−IV切断面におけるLED素子100の断面図である。
【図5】図5は、LED素子100の製造フローを、各工程で使用される装置と共に示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、適宜図面が参照されて、本発明の好ましい実施形態が説明される。なお、以下に説明される実施形態は、本発明の一例に過ぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で、本発明の実施形態が適宜変更できることは言うまでもない。
【0032】
[LED素子100の概略構成]
図1から図4に示されるように、ベース基板110には、LEDチップ120が配置されている。LEDチップ120からは、ワイヤー130がベース基板110に向けて延出されている。LEDチップ120の周囲を隔壁140が円形に囲っており、ベース基板110と隔壁140とによって凹条の窪みである凹部141が形成されている。凹部141の内側では、透光性を有する樹脂が硬化されて樹脂層150が形成されている。樹脂層150によって封止されている。樹脂層150には、半導体量子ドットを含んだナノ蛍光体層160が積層されている。
【0033】
本構成では、LEDチップ120が放射した光のスペクトルが、ナノ蛍光体層160によって変換される。それにより、LED素子100は、視覚的に白色と認識される光(以下、単に白色光とも称される。)を放射する。以下、LED素子100を構成する各部材がより詳細に説明される。
【0034】
[ベース基板110]
図1から図4に示されるベース基板110(本発明のベース部材に相当)は、ガラスエポキシ樹脂等で形成された略平板状の部材である。ベース基板110上には、導電性の金属によって回路パターンが形成されている。回路パターンは、電気的に分割された第1リード111と、第2リード112とによって形成されている。第1リード111及び第2リード112は、ベース基板110の側縁を経緯して、ベース基板110の上面(図1のLEDチップ120が配置された面)から下面(上面と対向する面)に延出されている。第1リード111は、ベース基板110の上面において、LEDチップ120が配置される配置領域113を形成している。配置領域113は、後述されるLEDチップ120のN型半導体層122と接触し、N型半導体層122と電気的に接続される。第2リード112は、ワイヤー130によって、後述されるLEDチップ120のP型半導体層121と電気的に接続される。図2に示されるように、第1リード111及び第2リード112は、ベース基板110の下面において、LED素子100に電圧を印加するための接点114をそれぞれ形成している。なお、第1リード111、第2リード112、及びワイヤー130が本発明のリードを構成するものである。また、P型半導体層121及びN型半導体層122が、本発明の半導体層を構成するものである。
【0035】
[LEDチップ120]
図4に示されるように、LEDチップ120は、P型半導体で形成されたP型半導体層121と、N型半導体で形成されたN型半導体層122とが接合(PN接合)されたものである。接合部123付近では電子と正孔と(多数キャリア)が互いに拡散して結びつくことで、多数キャリアの少ない空乏層が形成されている。P型半導体層121とN型半導体層122との間に順方向の電圧(P型半導体層121に正電圧)が印加されると、空乏層の拡散電位が減少して電流が流れる。P型半導体層121及びN型半導体層122から注入された多数キャリアは、接合部123付近で再結合する。多数キャリアが禁制帯を超えて再結合することで、再結合エネルギーが光子として放出される。即ち、LEDチップ120は光を放射する。
【0036】
本実施形態におけるLEDチップ120は、青色光を放射するものであってもよい。LEDチップ120が放射する光の波長は、P型半導体層121及びN型半導体を形成する半導体材料のバンドギャップの大きさにより決定される。青色の光を放射するLEDチップ(青色LEDチップ)は、例えば半導体材料としてGaN(窒化ガリウム)、Al(サファイア)、SiC(炭化珪素)、又はGaAs(ガリウムヒ素)を使用することで製造される。また、LEDチップ120は、例えば紫外線を放射するものであってもよい。紫外線を放射するLEDチップ120は、例えば半導体材料としてGaN(窒化ガリウム)、又はC(ダイヤモンド)を使用することで製造される。
【0037】
LEDチップ120は、ベース基板110における第1リード111の配置領域113に、導電性のペースト等によって固定されている。ペーストの原料には、例えばAg(銀)が使用される。LEDチップ120は、N型半導体層122がベース基板110側に位置するように固定されており、N型半導体層122は、第1リード111と電気的に接続されている。P型半導体層121には、導電性製のワイヤー130が接続されている。ワイヤー130の他端は、第2リード112に接続されている。ワイヤー130には、例えばAu(金)が使用される。即ち、P型半導体層121は、第2リード112と電気的に接続されている。以上の構成により、ベース基板110の下面に形成された接点114を通じて、P型半導体層121とN型半導体層122との間に電圧を印加することができる。
【0038】
[隔壁140]
図1から図4に示されるに示される隔壁140は、ベース基板110の上面に遮光性の樹脂等で形成されている。隔壁140は、LEDチップ120の周囲を円形に囲うように形成されている。ベース基板110と隔壁140とによって凹条の窪みが形成されており、その窪みの中にLEDチップ120が配置された状態になっている。ベース基板110と隔壁140とによって形成される窪みが、凹部141と称される。隔壁140は、LEDチップ120が放射した光が進行する方向を規定するものである。隔壁140の高さ及び内周面の傾斜角度等は、光が放射されるべき方向に基づいて、適宜決定される。また、光が拡散して放射されることが求められる場合には、隔壁140は必ずしも必須の構成要素ではない。
【0039】
[樹脂層150]
図1、3、及び4に示される樹脂層150(本発明の第1層に相当)は、凹部141に流し込まれて硬化された透光性を有する樹脂である。LEDチップ120は、樹脂層150によって封止されている。LED素子100が隔壁140を備えない構成では、樹脂がベース基板上に直接滴下されて、LEDチップ120を封止してもよい。LEDチップ120が放射した光は、樹脂層150を透過して、後述されるナノ蛍光体層160(本発明の第2層に相当)に入射する。
【0040】
[ナノ蛍光体層160]
図4に示されるナノ蛍光体層160は、半導体量子ドットを含んだナノ蛍光体溶液が、樹脂層150の上面に塗布又は吹き付けられて硬化したものである。なお、説明の便宜上、図4のナノ蛍光体層160は、実際のものよりも厚みがあるように示されている。実際には、ナノ蛍光体層160は、厚さ数μmの薄膜である。ナノ蛍光体溶液は、透光性を有する硬化性の媒体に半導体量子ドットが含有されたものである。媒体には、例えば感光性樹脂が使用される。半導体量子ドットは、最大粒子径が50nm以下の微粒子であり、特定の波長の光子を吸収して、異なる波長の光子を放出するものである。半導体量子ドットには、離散的なエネルギー準位をとる電子が閉じこめられている。電子のエネルギー準位が変化することで、半導体量子ドットは光子を吸収・放出する。また、半導体量子ドットの結晶の大きさにより、半導体量子ドットが吸収・放出する光子のエネルギーは変化する(量子サイズ効果)。
【0041】
さらに半導体量子ドットの粒子構造が以下に説明される。本発明で使用される半導体量子ドットには、コアシェル型半導体量子ドットと呼ばれるものが使用可能である。コアシェル型半導体量子ドットは、発光部としてのコアが保護膜としてのシェルにより被膜されたものである。例えば、コアにはCdSe(セレン化カドミウム)、シェルにはZnS(硫化亜鉛)が使用可能である。CdSeの粒子の表面欠陥がバンドギャップの大きいZnSにより被膜されることで量子収率が向上する。また、半導体量子ドットは、コアが第1シェル及び第2シェルにより二重に被膜されたものであってもよい。コアにはCdSe、第1シェルにはZnSe(セレン化亜鉛)、第2シェルにはZnSが使用可能である。CdSeとZnSとの界面に、両者の中間的な格子定数を持つZnSe層がエピタキシャル的に挟み込まれている。このような粒子構造によると、CdSeとZnSの間の格子のミスマッチによる歪みが、亜鉛とセレンを原料としたZnSにより緩和される。それにより、半導体量子ドットの物性ははるかに向上する。ただし、上述されたコアシェル型半導体量子ドットの構造は一例に過ぎず、コア及びシェルには他の物質が使用されてもよい。例えば、コアには、InP(リン化インジウム)又はCdTe(テルル化カドミウム)が使用されてもよい。また、シェルには、CdS(硫化カドミウム)が使用されてもよい。
【0042】
また、これらの半導体量子ドットをナノ蛍光体溶液とする場合には、表面置換や表面処理も重要なものとなる。これらの処理に使用される物質は、溶液への親和性が高く、水分や酸素の遮へい性、さらには半導体量子ドットに対して不活性であるものが望ましい。例えばホスフィンやアミン系の化学品、及びフッ素系やシリコーン系等の樹脂のモノマーやポリマー等が挙げられる。この処理によって、蛍光体溶液とする半導体量子ドットの物性や耐性がはるかに向上する。このように、可視光域に蛍光波長をもつ半導体量子ドットであって、複合構造をもち、適切な表面処理置換をされたものが、本発明のナノ蛍光体溶液として利用可能である。
【0043】
半導体量子ドットの励起波長(吸収する光子の波長)は、LEDチップ120が放出する光子の波長にマッチングされている。LEDチップ120として青色LEDチップが使用される場合、半導体量子ドットの励起波長は、例えば450nm前後である。また、ナノ蛍光体層160を通して放射される光が白色となるように、半導体量子ドットの蛍光波長が決定されている。本実施形態においては、蛍光波長が520nm(緑色)及び660nm(赤色)の半導体量子ドットがそれぞれ使用されている。LEDチップ120が放出した青色の光子の一部が、半導体量子ドットによって緑色又は赤色の光子に変換されることで、LED素子100は、赤色、緑色、及び青色の光子をほぼ均等に有する白色光を放射する。
【0044】
紫外線を放射するLEDチップ120が使用される場合は、蛍光波長が、例えば450nm(青色)、520nm(緑色)及び660nm(赤色)の半導体量子ドットが使用される。LEDチップ120が放出した紫外光子の一部が、半導体量子ドットによって青色、緑色、又は赤色の光子に変換されることで、LED素子100は、赤色、緑色、及び青色の光子を均等に有する白色光を放射する。紫外光子は不可視であるため、一部がそのまま放出されても、視覚には影響しない。
【0045】
ただし、半導体量子ドットの種類や分量等は上述された例に限定されるものではない。当業者は、LEDチップ120が放出する光子の波長、及び半導体量子ドットの種類や分量を任意に変化させることで、用途ごとにLED素子100が放射する光の特性を変化させることができる。例えば、緑色の光を放射するLEDチップ120に対して、蛍光波長が660nm(赤色)の半導体量子ドットを使用することで、発光色が黄色のLED素子100を製造することができる。
【0046】
また、LED素子100が液晶ディスプレイのバックライトとして使用される場合、液晶ディスプレイに求められる要件に応じて半導体量子ドットの種類や分量を変化させることで、光の特性が若干ずつ異なるLED素子100を製造することができる。また、照明の対象(例えば、食品や衣類等)、及び使用される用途(例えば、集魚灯や植物工場用照明等)ごとに光の特性が異なるLED素子100を製造することも可能である。
【0047】
また、樹脂層150は、従来より使用される例えばYAG系の蛍光体を含んでいてもよい。その場合、樹脂層150を通して放射される白色光の輝度やスペクトルに基づいて、ナノ蛍光体層160に含まれる半導体量子ドットの量や種類を決定することで、白色光の輝度やスペクトルを補正することができる。
【0048】
ナノ蛍光体層160は、異なる半導体量子ドットが規定の分量で配合されたナノ蛍光体溶液によって形成されてもよい。あるいは、1種類の半導体量子ドットのみが含まれたナノ蛍光体溶液の層が積層された後に、異なる半導体量子ドットが含まれたナノ蛍光体溶液の層が積層されてもよい。即ち、ナノ蛍光体層160は、互いに異なる半導体量子ドットを含んだ多重の層として形成されてもよい。また、ナノ蛍光体層160の上からさらに樹脂層150が積層されて、ナノ蛍光体層160が樹脂層150の間に挟み込まれてもよい。
【0049】
[LED素子100の製造方法]
LED素子100の製造方法が以下に説明される。図5の製造フロー400において、LED素子100の製造のための各工程がアルファベットのA、B、C、D、及びEで示される。LED素子100の製造方法は、ウエハーの検査工程(A)、LED素子100の組立工程(B)、ナノ蛍光体層160の積層工程(C)、LED素子100の検査工程(D)、及びLED素子100の調整工程(E)を含むものである。製造フロー400の矢印の方向は、各工程の前後関係を示したものである。例えば、ウエハーの検査工程(A)の後に、LED素子100の組立工程(B)が行われる。また、図中の各アルファベットの上方には、その工程で使用される機材や装置の概略図が示されている。例えば、ナノ蛍光体層160の積層工程(C)及びLED素子100の調整工程(E)では、プリント制御システム320が使用される。また、データ転送方向510、520は、通信ケーブル313、332を介して、データが転送される方向を示したものである。各工程の詳細が図5を参照しながら、以下に説明される。
【0050】
[ウエハー200の検査工程(A)]
LED素子100に使用されるLEDチップ120は、ウエハー200上に複数形成されたものが、それぞれ分離されて使用される。LEDチップ120が形成されたウエハー200は、上述された半導体材料により、基板上に半導体の層を成長させることで製造される。半導体の層の成長には、当業者にとって公知な方法が使用される。例えば、半導体材料として窒化物が使用される場合は、特開2008−288572号公報に開示されている方法が使用可能である。ウエハー200の製造は、本発明の必須の構成要素ではなく、ウエハー200には市販のものが使用されてもよい。
【0051】
ウエハー200は、プローバー310によって電気特性や光学特性が検査される。この工程はプロービングと呼ばれる。プロービングにおいて、ウエハー200は検査用のプローブ針311によって通電される。プローブ針311は、ウエハー200上を移動しながら異なる位置に複数回通電を行う。通電される位置は、例えばデジタル画像処理によって決定される。通電によってウエハー200の一部が発光し、放射された光は光学センサー312で検知される(本発明の第4ステップに相当)。以上の手順がコンピュータ制御によって行われる。プローブ針311が検知した電流や光学センサー312が検知した光に基づく信号が規定のアルゴリズムによって分析されて、ウエハー200の位置ごと又はLEDチップ120ごとの電気特性や光学特性が決定される。決定された電気特性や光学特性の情報は、通信ケーブル313を介してプリント制御システム320に転送される。この情報は、ナノ蛍光体層160の積層工程(C)において使用される。
【0052】
[LED素子100の組立工程(B)]
続けて、LED素子100の組立工程(B)が説明される。製造フロー400には、Bに対応する装置が示されていないが、本工程では一般的なLED素子の製造に使用される装置が用いられる。ベース基板110には、上述された第1リード111及び第2リード112が形成されている。ベース基板110の配置領域113には、熱せられたAg(銀)のペーストが塗布される。ペーストの上にLEDチップ120が配置される。その際、LEDチップ120は、N型半導体層122側の面がペーストに接触する向きに配置される。ペーストが硬化して、LEDチップ120がベース基板110に固定される。LEDチップ120の上面のP型半導体層121には、Au(金)で形成されたワイヤー130が接続される。ワイヤー130の他端は、第2リード112に接続される。ワイヤー130の接続には、同様にペーストが使用される。こうして、P型半導体層121及びN型半導体層122は、それぞれ第1リード111及び第2リード112と電気的に接続される。なお、LED素子100の組立工程(B)のここまでが、本発明の第1ステップに相当するものである。
【0053】
LEDチップ120の周囲を円形に囲うように、隔壁140が形成される。隔壁140は、例えば遮光性の樹脂がベース基板110の上面に固着されることで形成される。隔壁140の形成には、例えば型を使用したモールディングが使用される。隔壁140の高さや内周面の傾斜角度等は、光が放射されるべき方向に基づき、適宜決定される。
【0054】
隔壁140の内側、即ち凹部141には、透光性を有する樹脂が流し込まれて硬化される(本発明の第2ステップに相当)。樹脂には、例えば光硬化性樹脂が使用される。硬化した樹脂により、樹脂層150が形成される。LEDチップ120は、樹脂層150によって封止される。
【0055】
以上が、LED素子100の組立工程(B)である。なお、ベース基板110は、複数が隣接して一枚の基板を形成していてもよい。その場合、隣接するベース基板110は、製造フロー400の任意の段階で分割されてもよい。
【0056】
[ナノ蛍光体層160の積層工程(C)]
樹脂層150の上面には、ナノ蛍光体層160が積層される。ナノ蛍光体層160は、ナノ蛍光体溶液が硬化される事で形成される。ナノ蛍光体溶液は、例えば半導体量子ドットを含んだ感光性樹脂である。ナノ蛍光体溶液の製造については後述される。異なる種類の半導体量子ドットを含んだナノ蛍光体溶液は、それぞれ異なるタンク322に充填されている。例えば、LEDチップ120として、青色LEDチップが使用される場合、蛍光波長が520nm(緑色)の半導体量子ドットを含んだナノ蛍光体溶液、及び蛍光波長が660nm(赤色)の半導体量子ドットを含んだナノ蛍光体溶液が、それぞれ異なるタンク322に充填される。それぞれのタンク322は、プリントヘッド321にナノ蛍光体溶液を注送可能に繋がっている。プリントヘッド321は、ナノ蛍光体溶液を霧状にして任意の分量ずつ噴射することができる。プリントヘッド321には、一般的なインクジェットプリンタと同様の構成が使用可能である。例えば、プリントヘッド321は、異なるタンク322に接続された複数のノズル(不図示)を有する。それぞれのノズルは、同時に又は順番にナノ蛍光体溶液を霧状にして樹脂層150に向けて噴射する。ナノ蛍光体溶液が噴射される方向は、例えば偏向電極(不図示)によって制御される。ナノ蛍光体溶液の噴射には、コンティニュアス型、オンデマンド型、ピエゾ方式、又はサーマル方式等の公知の方法が使用可能である。噴射されたナノ蛍光体溶液は、樹脂層150の上面に吹き付けられて硬化することで、ナノ蛍光体層160を形成する。例えば、プリントヘッド321が、ナノ蛍光体溶液を1:1の分量比で噴射した場合、蛍光波長が、520nm(緑色)及び660nm(赤色)の半導体量子ドットをほぼ同量ずつ含んだナノ蛍光体層160が積層される。また、LEDチップ120が紫外線を放射するものである場合、蛍光波長が、450nm(青色)、520nm(緑色)、及び660nm(赤色)の半導体量子ドットをそれぞれ含んだ3種類のナノ蛍光体溶液が使用されてもよい。
【0057】
噴射されるナノ蛍光体溶液の種類や分量は、上述されたウエハー200の検査工程(A)で決定された電気特性や光学特性の情報に基づき、規定の演算が行われることで算出される。上述された通り、ウエハー200の検査工程(A)で決定された電気特性や光学特性の情報は、プリント制御システム320に転送される。プリント制御システム320は、この情報に基づき、当該ウエハー200の位置ごと又はLEDチップ120ごとに、使用されるナノ蛍光体溶液の種類や分量を算出する(本発明の第5ステップに相当)。電気特性や光学特性の情報とは、例えばLEDチップ120が放射する光の輝度やスペクトルに関する情報である。例えば、LEDチップ120として青色LEDチップが使用される場合であって、LEDチップ120の発光スペクトルが平均的な個体よりも長い波長に偏っている場合、プリント制御システム320は、その偏りに応じて、平均よりも少ないナノ蛍光体溶液の分量を算出する。このような演算によって、プリント制御システム320は、LEDチップ120ごとの光学特性のばらつきを補正する。なお、プリントヘッド321がナノ蛍光体溶液を噴射する工程が、本発明の第3ステップに相当するものである。
【0058】
また、ナノ蛍光体層160は、膜厚が不均一となるように積層されてもよい。即ち、樹脂層150の上面において、使用される半導体量子ドットの数が位置的に変化してもよい。この変化のパターンは、例えばLEDチップ120が放射する光の輝度の分布によって決定される。仮に樹脂層150に3つのLEDチップ120が封止される場合、ナノ蛍光体層160は、各LEDチップ120の周辺で最も膜厚が厚くなるように積層される。即ち輝度が高い部分に多くの半導体量子ドットを集中させ、光学特性を安定させる。このようなナノ蛍光体層160は、プリントヘッド321が噴射するナノ蛍光体溶液の分量を精密に制御することによって積層することができる。
【0059】
以下に、本工程で使用されるナノ蛍光体溶液の製造方法が説明される。なお、ナノ蛍光体溶液を製造する工程は、本発明の必須の構成要素ではない。
【0060】
上述されたコアシェル型半導体量子ドットは、例えば特開2003−225900号公報や再表2005/023704号公報に記載の方法により製造される。例えば、CdSe/ZnS構造の半導体量子ドットは以下の方法で得ることができる。まず、5mlのオクタデセンに、165μlのオクチルアミン及び26.6mgの酢酸カドミウムを添加した溶液と、25mlのトリオクチルホスフィン(TOP)に494μlのセレンを溶解させた溶液とを1:1で混合する。混合溶液をシリンジポンプに充填して275℃に加熱したマイクロ流路を通過させる。これにより、核微粒子としてのCdSe微粒子溶液(平均粒径が3nm)が得られる。
【0061】
続けて、[(CH3)2NCSS]2ZnをTOPに溶解させた溶液をシリンジポンプに充填し、得られたCdSe微粒子溶液に対して1:1(50vol%:50vol%)となるように混合器で混合し、その混合溶液を、予め180℃に加熱された内径0.2mmのマイクロ流路を通過させる。流路内でCdSeがZnSに被膜され、CdSe/ZnS構造のナノ蛍光体が得られる。このようなマイクロリアクターを用いた製造方法により、高性能のナノ蛍光体が連続的に得られる。得られた半導体量子ドットは、精製され、濃度調整され、揮発性の溶媒に分散される。揮発性の溶媒には、例えば10wt%の半導体量子ドットが含まれている。揮発性の溶媒は、例えば感光性樹脂と混合される。この混合液から揮発性の溶媒が揮発される。以上の工程を経て、ナノ蛍光体溶液が得られる。
【0062】
[LED素子100の検査工程(D)、LED素子100の調整工程(E)]
LED素子100の検査工程(D)において、ナノ蛍光体層160が積層された全てのLED素子100は、検査システム330によって検査される。検査システム330は、LED素子100の接点114を通じてLEDチップ120に電圧を印可し、LED素子100を発光させる。LED素子100が放射した光は、光学センサー331によって検知される(本発明の第6ステップに相当)。検査システム330は、光学センサー331が検知した光の信号に基づいて規定の演算を行い、光学特性をデータ化する。ここでデータ化される光学特性は、例えば輝度やスペクトルである。検査システムは、光学特性のデータに基づいて、LED素子100を、複数のクラスのうちの1つに分類する。例えば、光学特性が良好なものは、上位のクラスに分類され、バックライトや高演色照明用LEDとして使用される。光学特性が閾値内になかったものは、LED素子100の調整工程(E)に送られる(本発明の第7ステップの前半)。閾値は、LED素子100に許容される輝度やスペクトルの範囲を定めたものであり、輝度やスペクトルの他にも複数の条件が組み合わされて決定されてもよい。
【0063】
LED素子100の調整工程(E)では、ナノ蛍光体層160の積層工程で使用されたプリント制御システム320が使用される。検査システム330は、閾値を満たさなかったLED素子100の光学特性のデータを、通信ケーブル332を介してプリント制御システム320に転送する。プリント制御システム320は、転送された光学特性のデータに基づき、規定の演算を行うことで、光学特性を閾値内のものにするために必要なナノ蛍光体溶液の種類や分量を算出する(本発明の第7ステップの後半)。例えば、スペクトルにおいて、660nm(赤色)周辺の波長が平均よりも弱い場合、プリント制御システムは、蛍光波長が660nm(赤色)の半導体量子ドットを含んだナノ蛍光体溶液の分量を算出する。プリントヘッドは、算出された種類や分量のナノ蛍光体溶液をナノ蛍光体層160に向けて噴射する(本発明の第8ステップに相当)。ナノ蛍光体溶液が硬化することで、ナノ蛍光体層160の膜厚が増加し、ナノ蛍光体層160に含まれる半導体量子ドットの分量比が変化する。こうして、LED素子100が放射する光の光学特性が補正される。光学特性が補正されたLED素子100は、再びLED素子100の検査工程(D)に送られる。光学特性が閾値内になるまで、LED素子100の検査工程(D)とLED素子100の調整工程(E)とが繰り返されてもよい。また、LED素子100の検査工程(D)及びLED素子100の調整工程(E)の後に、ナノ蛍光体層160の上からさらに樹脂層150が積層されて、ナノ蛍光体層160が樹脂層150の間に挟み込まれてもよい。
【0064】
ナノ蛍光体層160の積層工程(D)及びLED素子100の調整工程(E)において、使用されるナノ蛍光体溶液の分量を算出する方法は、当業者が適宜決定することができる。例えば、各ナノ蛍光体溶液について、それが単位分量使用された場合の各波長成分ごとの増減量を示すベクトルを計算又は測定によって割り出す。各ナノ蛍光体溶液を異なる分量ずつ使用した場合の増減量は、分量を係数として各ベクトルを線形結合することで得られる。したがって、必要な増減量から係数を逆算することで、各ナノ蛍光体溶液の分量を算出することができる。
【0065】
使用されるナノ蛍光体溶液の種類や分量を算出するプログラムは、プリント制御システムによって動的に変更されてもよい。ナノ蛍光体層160の積層工程(C)及びLED素子100の調整工程(E)において、プリント制御システムは、ナノ蛍光体溶液が吹き付けられた後の予測される光学特性を算出して予測データとして記憶しておく。続くLED素子100の検査工程(D)において、検査システム330によって検知された光学特性のデータ(検知データとする。)は、通信ケーブル332を介してプリント制御システム320に転送される。プリント制御システムは、予測データと検知データとを比較して、その差が少なくなるようにプログラムを変更していく。例えば、プログラム内部で使用される変数の値を更新する。即ち、検知された光学特性をプログラムにフィードバックする。また、使用されたナノ蛍光体溶液の種類や分量、及びナノ蛍光体溶液が吹き付けられる前後の検知データがデータベースに保存されてもよい。プリント制御システムは、蓄積されたデータに基づく機械学習を行い、その結果に基づいてプログラムを変更するように構成されていてもよい。
【0066】
[実施形態の作用効果]
本実施形態に係るLED素子100及びその製造方法によると、半導体量子ドットの量や種類を調整することで、多様な発光スペクトルのLED素子100を実現することができる。半導体量子ドットは従来の蛍光体よりも粒子サイズが小さいため、量や分散状態のばらつきが起こりにくく、LED素子100が放射する光の光学特性を安定させることができる。
【0067】
また、紫外光子又は青色の光子を放出するLEDチップ120に対して、蛍光波長が異なる複数種類の半導体量子ドットを使用することが可能である。それにより、青色LEDチップと黄色蛍光体とを使用した従来のLED素子よりも、演色性の高い白色光を実現することができる。
【0068】
また、樹脂層150が従来の蛍光体を含み、白色光を放射するものであっても、この光に含まれる一部の光子の波長が半導体量子ドットによってさらに変更されることで、LED素子100が放射する白色光の光学特性(色調)が補正される。
【0069】
また、半導体量子ドットは従来の蛍光体よりも粒子サイズが小さいため、半導体量子ドットを含んだナノ蛍光体溶液を、例えばインクジェット方式で吹き付けることが可能である。このような方法により、ナノ蛍光体層160の膜厚や半導体量子ドットの量を高精度に制御することができる。
【0070】
また、プロービングで検査された電気特性や光学特性の分布に基づいて、ナノ蛍光体層160の種類や量を決定することで、LEDチップごとの光学特性のばらつきを少なくすることができる。
【0071】
また、検査されたLED素子100の光学特性が閾値内になかった場合、光学特性を閾値内のものにするために再度ナノ蛍光体層160が積層されるため、従来は破棄されていたLED素子の光学特性を補正して、再利用することができる。
【0072】
[変形例]
続けて、上述された実施形態の変形例が説明される。本変形例は、ナノ蛍光体層160を有しない従来のLED素子の色調を補正するためのものである。本変形例で色調が補正されるLED素子は、ナノ蛍光体層160が積層されていない点以外は、上述されたLED素子100と同様の構成を有する。ただし、色調を補正することができるLED素子は、必ずしもそのような構成に限定されるものではない。例えば、色調が補正されるLED素子は、LED素子100とは各部の形状が異なったものでもよい。また、樹脂層150に従来の蛍光体(例えば、YAG系の蛍光体)が使用された白色LED素子であってもよい。
【0073】
本変形例で色調が補正されるLED素子は、上述されたLED素子100の検査工程(D)及びLED素子100の調整工程(E)と同様の工程を通過する。なお、本変形例で使用されるプリント制御システム320及び検査システム330は、上述されたものと同様のものである。
【0074】
まず、LED素子は、上述されたLED素子100の検査工程(D)と同様の工程を通過する。即ち、検査システム330は、LED素子に光を放射させ、当該光を光学センサー331によって検知する(本発明の第9ステップに相当)。検査システム330は、光学センサー331が検知した光の信号に基づいて規定の演算を行い、光学特性をデータ化する。
【0075】
LED素子は、上述されたLED素子100の調整工程(E)と同様の工程に送られる。検査システム330は、LED素子における光学特性のデータを、通信ケーブル332を介してプリント制御システム320に転送する。プリント制御システム320は、検査システム330より転送された光学特性のデータに基づき、規定の演算を行うことで、光学特性を閾値内のものにするために必要なナノ蛍光体溶液の種類や分量を算出する(本発明の第10ステップに相当)。プリントヘッド321は、算出された種類や分量のナノ蛍光体溶液を樹脂層150に向けて噴射する(本発明の第11ステップに相当)。ナノ蛍光体溶液が硬化することで、上述された実施形態と同様のナノ蛍光体層160が形成される。
【0076】
以上の工程を通過して、LED素子が放射する光の光学特性(色調)が補正される。光学特性が補正されたLED素子は、再びLED素子100検査工程(D)に送られて検査される。光学特性が既定の条件を満たすまで、LED素子100検査工程(D)及びLED素子100の調整工程(E)が複数回繰り返されてもよい。また、ナノ蛍光体層160の上からさらに樹脂層150が積層されて、ナノ蛍光体層160が樹脂層150の間に挟み込まれてもよい。
【0077】
以上の通り、従来のLED素子にナノ蛍光体層160を積層することで、光学特性を補正することができる。このような方法によると、従来は破棄されていたLED素子を再利用することができる。
【符号の説明】
【0078】
100・・・LED素子
110・・・ベース基板(ベース部材)
111・・・第1リード(リード)
112・・・第2リード(リード)
120・・・LEDチップ
121・・・P型半導体層(半導体層)
122・・・N型半導体層(半導体層)
130・・・ワイヤー(リード)
150・・・樹脂層(第1層)
160・・・ナノ蛍光体層(第2層)
200・・・ウエハー
312・・・光学センサー
331・・・光学センサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PN接合された半導体層を有し、当該半導体層への電圧の印加によって光子を放出するLEDチップと、
上記LEDチップに積層されており、上記LEDチップから放出された光子を透過する第1層と、
上記第1層に積層されており、上記LEDチップから放出された光子を透過する媒体中に半導体量子ドットを含んだ第2層と、を備え、
上記半導体量子ドットは、上記第2層に入射した光子の少なくとも一部を吸収し、その入射した光子とは波長が異なる光子を放出するLED素子。
【請求項2】
上記LEDチップは、紫外光子又は青色の光子を放出するものであり、
上記第2層は、互いに異なる波長の光子を放出する複数種類の半導体量子ドットを含み、肉眼において白色と認識される光を放射する請求項1に記載のLED素子。
【請求項3】
上記第1層は、上記LEDチップが放出した光子によって蛍光する蛍光体を含み、肉眼において白色と認識される光を放射するものであり、
上記第2層は、上記第1層から放射された光とは輝度又はスペクトルの少なくとも一方が異なる光を放射するものである請求項1又は2に記載のLED素子。
【請求項4】
電圧の印加によって光子を放出するLEDチップをベース部材に配置し、導電性のリードを当該LEDチップへ接続する第1ステップと、
上記LEDチップに、上記LEDチップから放出された光子を透過する第1層を積層する第2ステップと、
上記LEDチップから放出された光子を透過する媒体中に、当該媒体に入射した光子の少なくとも一部を吸収し、その入射した光子とは波長が異なる光子を放出する半導体量子ドットを含んだ第2層を、上記第1層に積層する第3ステップと、を含むLED素子の製造方法。
【請求項5】
上記第3ステップにおいて、半導体量子ドットを含んだ液の微少液滴を上記第1層に吹き付けることにより、上記第2層を形成する請求項4に記載のLED素子の製造方法。
【請求項6】
複数の上記LEDチップが形成されたウエハーに光を放射させ、当該光を光学センサーによって検知する第4ステップと、
上記ウエハー面における光の光学特性の分布に基づき、当該ウエハー面の位置ごとに、半導体量子ドットの種類及び量の少なくとも一方を決定する第5ステップと、をさらに含み、
上記第3ステップにおいて、上記決定された半導体量子ドットの種類及び量を含む上記第2層が積層される請求項4又は5に記載のLED素子の製造方法。
【請求項7】
上記第2層が積層されたLEDチップに光を放射させ、上記第2層を通して放射された光を光学センサーによって検知する第6ステップと、
上記第6ステップで上記光学センサーが検知した光の光学特性が閾値内のものである否かを判断し、閾値内のものでないと判断された場合、当該光学特性を閾値内のものにするために必要な半導体量子ドットの種類及び量の少なくとも一方を決定する第7ステップと、
上記第7ステップで決定された半導体量子ドットの種類及び量を含む上記第2層をさらに積層する第8ステップと、をさらに含む請求項4から6のいずれかに記載のLED素子の製造方法。
【請求項8】
電圧の印加によって光子を放出するLEDチップに、上記LEDチップから放出された光子を透過する第1層が積層されたLED素子の色調補正方法であって、
上記LED素子に光を放射させ、当該光を光学センサーによって検知する第9ステップと、
上記第9ステップで上記光学センサーが検知した光の光学特性を閾値内のものにするために必要な半導体量子ドットの種類及び量の少なくとも一方を決定する第10ステップと、
上記LEDチップから放出された光子を透過する媒体中に、上記第10ステップで決定された半導体量子ドットの種類及び量を含む第2層を上記第1層に積層する第11ステップと、を含み、
上記半導体量子ドットは、上記第2層に入射した光子の少なくとも一部を吸収し、その入射した光子とは波長が異なる光子を放出するものであるLED素子の色調補正方法。
【請求項9】
上記第11ステップにおいて、半導体量子ドットを含んだ液の微少液滴を上記第1層に吹き付けることにより、上記第2層を形成する請求項8に記載のLED素子の色調補正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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