説明

LED電球

【課題】演色性の向上とグレアの低減とを実現したLED電球を提供する。
【解決手段】LED電球1は、LEDモジュール2と、LEDモジュール2が設置された基体部3と、基体部3に取り付けられたグローブ4とを具備する。LEDモジュール2は、基板7上に実装された紫外乃至紫色発光のLEDチップ8を備える。基体部3には点灯回路と口金6とが設けられる。グローブ4の内面には、LEDチップから出射された紫外乃至紫色光を吸収して白色光を発光する蛍光膜9が設けられている。蛍光膜9は80〜800μmの範囲の膜厚を有する。LED電球1は、グローブ4から漏出する紫外線量が0.1mW/nm/lm以下とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、LED電球に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED)を用いた発光装置は、液晶表示装置のバックライト、信号装置、各種スイッチ類、車載用ランプ、一般照明等の照明装置に幅広く利用されている。特に、LEDと蛍光体とを組合せた白色発光型のLEDランプは、白熱電球の代替品として注目されており、その開発が急速に進められている。LEDランプを適用した電球(以下、LED電球と記す)としては、例えば電球口金が設けられた基体部にグローブを取り付けると共に、グローブ内にLEDチップを配置し、さらに基体部内にLEDチップの点灯回路を設けた一体型のランプ構造を有するものが知られている。
【0003】
従来のLED電球においては、青色発光のLEDチップ(青色LED)と、青色LEDから出射された青色光を吸収して黄色光を発光する黄色蛍光体(YAG蛍光体等)との組合せが適用されており、青色LEDからの青色光と黄色蛍光体からの黄色光との混色により白色光を得ている。青色LEDと黄色蛍光体とを組合せたLED電球は、明るさを確保しやすいというような特徴を有する。しかしながら、青色LEDからの青色光と黄色蛍光体からの黄色光との混色に基づく白色光は、平均演色評価数(Ra)等で評価される演色性に劣るという難点を有する。
【0004】
従来の青色LEDと黄色蛍光体とを組合せたLED電球は、光の分布が青色成分と黄色成分とに偏っており、赤色成分の光が不足しているため、LED電球からの光で物体を見たときの反射光が太陽光の下で見る自然色とは異なるという難点を有している。また、従来のLED電球では、青色LEDから出射された光が白色光の生成に使用されるため、電球全体の輝度を均一化することが難しく、これにより電球のぎらつきや局所的なまぶしさ、いわゆるグレアを低減することが困難であるという難点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−005546号公報
【特許文献2】特開2009−170114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、演色性の向上とグレアの低減とを実現したLED電球を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態のLED電球は、LEDモジュールと、LEDモジュールが設置された基体部と、LEDモジュールを覆うように基体部に取り付けられたグローブとを具備する。LEDモジュールは、基板上に実装された紫外乃至紫色発光のLEDチップを備える。基体部には、LEDチップを点灯させる点灯回路と、点灯回路と電気的に接続された口金とが設けられる。グローブの内面には、LEDチップから離間させて蛍光膜が設けられる。蛍光膜はLEDチップから出射された紫外乃至紫色光を吸収して白色光を発光するものであり、80μm以上800μm以下の範囲の膜厚を有する。実施形態のLED電球は、グローブから漏出する紫外線量が0.1mW/nm/lm以下とされている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1の実施形態によるLED電球を一部断面で示す図である。
【図2】第2の実施形態によるLED電球を示す図である。
【図3】LED電球における蛍光体膜の膜厚と紫外線漏れ量及び相対輝度との関係を示す図である。
【図4】蛍光体膜の膜厚の測定方法を説明する図である。
【図5】蛍光体膜が凹凸を有する場合の膜厚の規定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態のLED電球について、図面を参照して説明する。図1は第1の実施形態によるLED電球の構成を一部断面で示す図である。図2は第2の実施形態によるLED電球を示す図である。これらの図に示すLED電球1は、LEDモジュール2と、LEDモジュール2が設置された基体部3と、LEDモジュール2を覆うように基体部3上に取り付けられたグローブ4と、基体部3の下端部に絶縁部材5を介して取り付けられた口金6と、基体部3内に設けられた点灯回路(図示せず)とを具備する。
【0010】
LEDモジュール2は、基板7上に実装された紫外乃至紫色発光のLEDチップ8を備えている。基板7上には複数のLEDチップ8が面実装されている。紫外乃至紫色発光のLEDチップ8には、InGaN系、GaN系、AlGaN系等の発光ダイオードが用いられる。基板7の表面(さらに必要に応じて内部)には、配線網(図示せず)が設けられており、LEDチップ8の電極は基板7の配線網と電気的に接続されている。LEDモジュール2の側面もしくは底面には、図示を省略した配線が引き出されており、この配線が基体部3内に設けられた点灯回路(図示せず)と電気的に接続されている。LEDチップ8は、点灯回路を介して印加される直流電圧により点灯する。
【0011】
グローブ4の内面には、LEDチップ8から出射された紫外乃至紫色光を吸収して白色光を発光する蛍光膜9が設けられている。従来の蛍光体粒子をLEDチップの封止樹脂中に分散させたLEDモジュールとは異なり、蛍光膜9はLEDチップ8から離間するようにグローブ4の内面に設けられている。LED電球1に印加された電気エネルギーは、LEDチップ8で紫外乃至紫色光に変換され、さらに蛍光膜9でより長波長の光に変換されて白色光として放出される。LED電球1から放出される白色光は、従来の青色LEDと黄色蛍光体とを組合せたLED電球とは異なり、蛍光膜9の発光のみにより構成される。
【0012】
LED電球1はグローブ4の内面全体に設けられた蛍光膜9が発光するため、従来の蛍光体粒子を封止樹脂中に分散させたLEDモジュールとは異なり、蛍光膜9全体を面発光させることができ、蛍光膜9から全方位に白色光が広がる。また、従来の青色LEDと黄色蛍光体とを組合せたLED電球とは異なり、蛍光膜9からの発光のみで白色光を得ているため、局所的な輝度ムラ等を抑制することができる。これらによって、ぎらつきが無く、均一で柔らかい白色光が得られる。すなわち、LED電球1のグレアを従来の青色LEDと黄色蛍光体とを組合せたLED電球に比べて大幅に低減することが可能となる。
【0013】
グローブ4の形状は特に限定されるものではなく、図1に示すようなドーム型形状や図2に示すようなナス型形状を適用することができる。なお、図2ではグローブ4内の構成の図示を省略したが、グローブ4の形状が異なることを除いて、図2に示すLED電球1は図1に示すLED電球1と同様な構成を備えている。グローブ4は透光性部材からなり、例えば透光性を有するガラス製グローブ4や樹脂製グローブ4等が使用される。グローブ4は、例えば白熱電球と同等の大きさを有している。
【0014】
LED電球1の発光色は、LEDチップ8の発光波長と蛍光膜9を構成する蛍光体との組合せにより決定される。紫外乃至紫色光のLEDチップ8と組合せて白色光を得るにあたって、蛍光膜9は青色蛍光体、緑色乃至黄色蛍光体、及び赤色蛍光体を含む混合蛍光体(BGR又はBYR蛍光体)で構成することが好ましい。混合蛍光体は、さらに青緑色蛍光体及び深赤色蛍光体から選ばれる少なくとも1種の蛍光体を含んでいてもよい。混合蛍光体を構成する各蛍光体は特に限定されるものではないが、LEDチップ8からの紫外乃至紫色光との組合せ、また得られる白色光の色温度や演色性(平均演色評価数Ra等)の観点から以下に示す蛍光体を使用することが好ましい。
【0015】
青色蛍光体としては、発光のピーク波長が430〜460nmの範囲の蛍光体が用いられ、例えば式(1)で表される組成を有するユーロピウム(Eu)付活アルカリ土類クロロ燐酸塩蛍光体を使用することが好ましい。
一般式:(Sr1-x-y-zBaxCayEuz5(PO43・Cl …(1)
(式中、x、y、及びzは0≦x<0.5、0≦y<0.1、0.005≦z<0.1を満足する数である)
【0016】
緑色乃至黄色蛍光体としては、発光のピーク波長が490〜580nmの範囲の蛍光体が用いられ、例えば式(2)で表される組成を有するユーロピウム(Eu)及びマンガン(Mn)付活アルカリ土類アルミン酸塩蛍光体、式(3)で表される組成を有するユーロピウム(Eu)及びマンガン(Mn)付活アルカリ土類珪酸塩蛍光体、式(4)で表される組成を有するユーロピウム(Eu)付活サイアロン蛍光体、及び式(5)で表される組成を有するユーロピウム(Eu)付活サイアロン蛍光体から選ばれる少なくとも1種を使用することが好ましい。
一般式:(Ba1-x-y-zSrxCayEuz)(Mg1-uMnu)Al1017 …(2)
(式中、x、y、z、及びuは0≦x<0.2、0≦y<0.1、0.005<z<0.5、0.1<u<0.5を満足する数である)
一般式:(Sr1-x-y-z-uBaxMgyEuzMnu2SiO4 …(3)
(式中、x、y、z、及びuは0.1≦x≦0.35、0.025≦y≦0.105、0.025≦z≦0.25、0.0005≦u≦0.02を満足する数である)
一般式:(Si,Al)6(O,N)8:Eux …(4)
(式中、xは0<x<0.3を満足する数である)
一般式:(Sr1-xEuxαSiβAlγδω …(5)
(式中、x、α、β、γ、δ、及びωは0<x<1、0<α≦3、12≦β≦14、2≦γ≦3.5、1≦δ≦3、20≦ω≦22を満足する数である)
【0017】
赤色蛍光体としては、発光のピーク波長が580〜630nmの範囲の蛍光体が用いられ、例えば式(6)で表される組成を有するユーロピウム(Eu)付活酸硫化ランタン蛍光体、式(7)で表される組成を有するユーロピウム(Eu)付活カズン蛍光体、及び式(8)で表される組成を有するユーロピウム(Eu)付活サイアロン蛍光体から選ばれる少なくとも1種を使用することが好ましい。
一般式:(La1-x-yEuxy22S …(6)
(式中、MはSm、Ga、Sb、及びSnから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、x及びyは0.08≦x<0.16、0.000001≦y<0.003を満足する数である)
一般式:(Ca1-x-ySrxEuy)SiAlN3 …(7)
(式中、x及びyは0≦x<0.4、0<x<0.5を満足する数である)
一般式:(Sr1-xEuxαSiβAlγδω …(8)
(式中、x、α、β、γ、δ、及びωは0<x<1、0<α≦3、5≦β≦9、1≦γ≦5、0.5≦δ≦2、5≦ω≦15を満足する数である)
【0018】
青緑色蛍光体としては、発光のピーク波長が460〜490nmの範囲の蛍光体が用いられ、例えば式(9)で表される組成を有するユーロピウム(Eu)及びマンガン(Mn)付活アルカリ土類珪酸塩蛍光体を使用することが好ましい。
一般式:(Ba1-x-y-z-uSrxMgyEuzMnu2SiO4 …(9)
(式中、x、y、z、及びuは0.1≦x≦0.35、0.025≦y≦0.105、0.025≦z≦0.25、0.0005≦u≦0.02を満足する数である)
【0019】
深赤色蛍光体としては、発光のピーク波長が630〜780nmの範囲の蛍光体が用いられ、例えば式(10)で表される組成を有するマンガン(Mn)付活マグネシウムフロロジャーマネート蛍光体を使用することが好ましい。
一般式:αMgO・βMgF2・(Ge1-xMnx)O2 …(10)
(式中、α、β、及びxは3.0≦α≦4.0、0.4≦β≦0.6、0.001≦x≦0.5を満足する数である)
【0020】
混合蛍光体を構成する各蛍光体の比率は、LED電球1の発光色等に応じて適宜に設定されるものであるが、例えば混合蛍光体は質量割合で、10〜60%の範囲の青色蛍光体、0〜10%の範囲の青緑色蛍光体、1〜30%の範囲の緑色乃至黄色蛍光体、30〜90%の範囲の赤色蛍光体、及び0〜35%の範囲の深赤色蛍光体を含むことが好ましい。このような混合蛍光体によれば、相関色温度が6500K〜2500Kというような広範囲の白色光を同一蛍光種で得ることができる。従来の青色LEDと黄色蛍光体との組合せの場合、2色の組合せのみでは2800Kの電球色を、偏差を含めて調整することは困難であり、青色励起で発光する赤色蛍光体を追加することが必要となる。
【0021】
蛍光膜9は、例えば混合蛍光体の粉末を有機樹脂等からなるバインダと混合し、この混合物(例えばスラリー)をグローブ4の内面に塗布した後に加熱・硬化させることによって形成される。混合蛍光体粉末は平均粒子径(粒度分布の中位値(D50))が3〜50μmの範囲であることが好ましい。このような平均粒子径を有する混合蛍光体(蛍光体粒子)を使用することによって、LEDチップ8から出射される紫外乃至紫色光の吸収効率を高めることができ、LED電球1の輝度を向上させることが可能となる。
【0022】
LED電球1の励起源として紫外乃至紫色発光のLEDチップ8を使用した場合には、従来の青色LEDと黄色蛍光体とを組合せたLED電球とは異なり、上述したように蛍光膜9を種々の蛍光体で構成することができる。すなわち、蛍光膜9の構成する蛍光体種の選択幅が広がるため、LED電球1から放出される白色光の演色性等を高めることができる。具体的には、相関色温度が6500K以下で、平均演色評価数(Ra)が85以上の白色光を得ることができる。このような白色光を得ることによって、白熱電球の代替品としてのLED電球1の実用性等を向上させることが可能となる。
【0023】
LEDチップ8は紫外乃至紫色発光タイプ(発光ピーク波長が350〜430nm)のLEDであればよいが、特に発光ピーク波長が370〜410nmの範囲であると共に、発光スペクトルの半値幅が10〜15nmのLEDチップ8を使用することが好ましい。このようなLEDチップ8と上述した混合蛍光体(BGR又はBYR蛍光体、さらに必要に応じて青緑蛍光体や深赤色蛍光体を加えた混合蛍光体)で構成した蛍光膜9とを組合せて使用した場合、相関色温度(発光色)についてはLEDチップ8の出力バラツキにかかわらず安定した白色光を得ることができ、LED電球1の歩留りを高めることが可能となる。従来の青色LEDと黄色蛍光体との組合せは、LEDチップの出力バラツキが直接相関色温度(発光色)に影響するため、LED電球の歩留りが低下しやすい。
【0024】
また、基板7上に面実装された複数のLEDチップ8は、透明樹脂層10で覆われていることが好ましい。すなわち、LEDモジュール2は、基板7上に面実装された複数のLEDチップ8と、複数のLEDチップ8を覆うように基板7上に設けられた透明樹脂層10とを備えることが好ましい。透明樹脂層10には、例えばシリコーン樹脂やエポキシ樹脂等が用いられ、特に耐紫外線性に優れるシリコーン樹脂を使用することが好ましい。このように、複数のLEDチップ8を透明樹脂層10で覆うことによって、各LEDチップ8から出射された光が互いに伝播し、グレアの一因となる局所的な光の強弱が緩和されると共に、光の取出し効率を高めることができる。
【0025】
ところで、蛍光膜9の励起源として紫外乃至紫色発光のLEDチップ8を用いた場合、グローブ4からの紫外線の漏出を抑制することが重要となる。グローブ4から漏出した紫外線は、LED電球1の近傍やLED電球1が配置された室内空間等に存在する印刷物、食品、薬品、人体等に悪影響を及ぼすおそれがある。このような点から、実施形態のLED電球1はグローブ4から漏出する紫外線量(紫外線のエネルギー量)を0.1mW/nm/lm以下としている。このような紫外線の漏れ量であれば、蛍光灯等の従来の照明器具と同等レベルもしくはそれ以下であり、印刷物の色劣化、食品や薬品の変質、人体等への悪影響を極力抑えることができ、LED電球1の実用性を高めることが可能となる。
【0026】
グローブ4からの紫外線の漏れ量を低減するためには、蛍光膜9の膜厚を厚くすることが有効である。ここで、実施形態のLED電球1は蛍光膜9からの発光のみで白色光を得ているため、蛍光膜9の膜厚を厚くすることができ、その場合にもLED電球1から放出される白色光の色度等に影響を及ぼすことがない。ただし、蛍光膜9の膜厚を厚くしすぎると、LED電球1の明るさが低下する。そこで、実施形態のLED電球1は膜厚が80〜800μmの蛍光膜9を備えている。膜厚が80〜800μmの蛍光膜9を適用することによって、グローブ4から漏出する紫外線量を0.1mW/nm/lm以下まで低減しつつ、LED電球1の明るさの低下を抑制することができる。
【0027】
紫外線の漏れ量は、後述する測定システムにより測定された発光スペクトルにおいて、370nm以上415nm以下の範囲の紫外乃至紫色発光のピーク値(単位:mW/nm)を、LED電球1の光束(単位:lm)で除した値(単位:mW/nm/lm)を示すものとする。なお、上記波長範囲の発光ピーク値とは、発光ピークが存在する波長におけるスペクトル高さを示すものであり、発光スペクトルの面積を示すものではない。370nm以上415nm以下の範囲の紫外乃至紫色発光のピークとは、LEDチップ8からの発光そのものである。LEDチップ8から放射される光の全量が蛍光膜9に吸収された場合、上記波長範囲に発光ピークは存在しないことになる。ただし、蛍光膜9の吸収効率は100%ではないため、LEDチップ8から放射される光が一部に残存する。
【0028】
この実施形態では蛍光膜9の膜厚を厚くし、LEDチップ8の残存光がLED電球1の外部に放射されないようにしているが、それでも一部の光は外部に漏出する。この実施形態で規定する紫外線の漏れ量とは、LED電球1から放射される光の全量に対して、LEDチップ8からの直接光がどの程度の割合で含まれるかを簡易的に示したものである。また、紫外線の漏れ量と定義しているが、実際には紫外線以外の発光成分も含まれている。例えば、発光ピーク波長が405nmであるLEDチップ8を用いた場合、50%以上の紫色光と50%未満の紫外光とが混合した光がグローブ4から漏出することになる。ここでは、紫色光と紫外光との混合光に関しても一括して紫外線の漏れ量と定義する。
【0029】
図3に蛍光膜9の膜厚とグローブ4からの紫外線の漏れ量及びLED電球1の点灯時の明るさ(相対輝度)との関係を示す。ここではドーム形状のポリカーボネート製グローブ4の内面に膜厚が異なる蛍光膜9を形成し、蛍光膜9の膜厚と紫外線の漏れ量との関係を調べた。なお、グローブ4の厚さは約1.5mm、光透過率は88%であった。蛍光膜9は、青色蛍光体として平均粒子径が28.0μmのEu付活クロロリン酸塩蛍光体粉末、緑色蛍光体として平均粒子径が30.5μmのEu及びMn付活珪酸塩蛍光体粉末、赤色蛍光体として平均粒子径が29.2μmのEu付活酸硫化ランタン蛍光体粉末を使用し、これらの混合物(色温度:2700K)を用いて形成した。
【0030】
図3に示すように、紫外線の漏れ量は蛍光膜9の膜厚が厚くなると共に減少し、特に膜厚100μmまでは急激に減少し、その後は緩やかに減少する。この点から、上記した条件では紫外線の漏れ量を抑制する上で、蛍光膜9の膜厚を100μm以上とすることが望ましい。このとき、膜厚100μmにおける紫外線の漏れ量は0.104mW/nm/lmであった。紫外線の漏れ量の抑制のみの観点からは、蛍光膜9の膜厚が厚いほど望ましいが、あまり厚くしすぎると蛍光膜9の明るさが低下する。上記した条件では蛍光膜9の明るさは膜厚が約500μmで最大となり、約700μmで相対輝度が70%まで低下した。このときのLED電球1の明るさは35[lm/W]であり、これ以上低下すると実用上問題となる。このため、蛍光膜9の膜厚は700μm以下とすることが好ましい。
【0031】
蛍光膜9の明るさや膜密度は、それを構成する蛍光体粒子の粒子径により変化する。従って、紫外線の漏れ量や蛍光膜9の明るさは、蛍光体の粒子径の影響を受ける。通常は蛍光体の粒子径が小さくなるほど最適膜厚が薄くなる。上記条件では平均粒子径が約30μmの蛍光体粒子を用いたが、蛍光体の平均粒子径はそれより小さくてもよいし、また大きくてもよい。前述したように、この実施形態のLED電球1においては、平均粒子径が3〜50μmの範囲の蛍光体を使用することが好ましい。
【0032】
そこで、平均粒子径が約3μmの蛍光体を用いて蛍光膜9を形成して紫外線の漏れ量を測定したところ、蛍光膜9の膜厚を80μm以上とすることによって、紫外線の漏れ量を0.1mW/nm/lm以下とすることができる。また、平均粒子径が約50μmの蛍光体を用いた場合、最適膜厚は図3に示すデータより厚い方向にシフトするが、膜厚が800μmを超えるとLED電球1の明るさが35[lm/W]より低下する。なお、平均粒子径が3μmの蛍光体を用いた場合、明るさの観点のみからは膜厚が80μm以下でも実用的な明るさが得られたが、蛍光膜9の膜厚が一定値以下まで薄くなると紫外線の漏れ量が多くなるため、膜厚は80μmが限界であった。
【0033】
ここで、蛍光膜9およびその膜厚は、以下のように定義される。蛍光膜9は、蛍光体粉末を含有する被膜状部材であって、通常は有機樹脂等をバインダとして、蛍光体粒子が連続被膜を形成しているものである。バインダとして用いる有機樹脂は、光透過性と接着能力とを有するものであれば特に限定されるものではない。蛍光体粒子を結合させて被膜状とするバインダは、有機樹脂に限られるものではなく、同様の機能を有していれば無機材料(無機バインダ)を使用することも可能である。
【0034】
蛍光膜9は単層膜であってもよいし、また多層膜であってもよい。蛍光膜9の膜厚は、単層膜の場合にはそれ自体の膜厚を意味する。蛍光膜9が多層膜の場合には、各単層膜の個別の膜厚は無視し、多層膜全体を単一膜と見なして、重なり合った複数の単層膜の最上端から最下端までの厚さを、蛍光膜9の膜厚とする。この場合、同一種類の蛍光体からなる多層膜でも、異なる種類の蛍光体からなる多層膜であっても、膜厚の定義は同じである。また、各単層膜の一部に隙間が存在したり、介在物が存在するような場合でも、それらは無視して単一膜と見なし、全体の厚さを測定して蛍光膜9の膜厚とする。
【0035】
蛍光膜9の膜厚の総体的な定義は上記の通りであるが、詳細な規定は以下の通りである。蛍光膜9中に蛍光体粒子が含有されていることは当然であるが、その分布状態は様々である。特に、バインダとして有機樹脂等を用いた蛍光膜9においては、蛍光膜9中で蛍光体粒子と樹脂とが分離し、蛍光体粒子が偏析する場合がある。例えば、有機樹脂としてシリコーン樹脂を使用する場合、蛍光体粉末と樹脂との混合物を塗布した後に加熱乾燥することによって、樹脂を硬化させて蛍光膜9を形成(固化)する。この際、樹脂が完全に硬化するまでの間に樹脂液中で蛍光体粒子が沈降し、蛍光膜9の下部の蛍光体粒子が密な層と上部の蛍光体粒子が疎な層とに分離することがある。このような場合には、実質的に蛍光体が存在する部分、あるいは蛍光体と同様の機能を有する部分のみを蛍光膜9と見なす。ただし、具体的には以下の二通りの状態に分けて定義される。
【0036】
第1のケースは、バインダとして近紫外線をほとんど吸収しない樹脂等を使用した場合である。この場合、単一層の蛍光膜9であっても、実質的に蛍光体粒子の存在する部分を蛍光膜とし、実質的に蛍光体粒子の存在しない部分は単なる樹脂層と見なし、蛍光膜9の膜厚から除外する。有機バインダとしては、一般的に紫外線を吸収しない樹脂材料が使用される。なぜなら、樹脂材料が紫外線を吸収すると、蛍光体を発光させるための紫外線量が減少し、明るさが低下するおそれがある。さらに、樹脂材料が紫外線により劣化し、膜剥がれ等が生じるおそれがある。蛍光体粒子を含有しない樹脂のみの層は、発光することもなく、また紫外線を吸収することもないので、蛍光膜9とは見なさない。
【0037】
第2のケースは、バインダとして近紫外線を一定量以上吸収する樹脂等を使用した場合である。第1のケースで述べたように、一般的にはバインダとして、紫外線を吸収する材料を選択することはない。しかし、紫外線吸収能力を積極的に活用する場合は別である。極端な例として、蛍光膜9の直上に樹脂材料(バインダ)100%の紫外線吸収層を形成した場合が想定される。この実施形態において、蛍光体の平均粒子径は3〜50μmの範囲が好ましい。蛍光膜9の明るさは、構成する蛍光体の粒子径に依存しており、蛍光体の粒子径が小さいほど、輝度が最大となる膜厚が薄くなる傾向がある。蛍光膜9の膜厚は、紫外線の漏れ量を抑制する上で、少なくとも80μm以上必要である。このため、蛍光体の平均粒子径は3μm以上であることが好ましい。
【0038】
しかしながら、例えば平均粒子径が2.5μmの蛍光体を使用した場合、膜厚が約65μmの蛍光膜でほぼ同等の輝度が得られる。ただし、蛍光膜の膜厚が80μmより薄くなるため、紫外線の漏れ量は0.1mW/nm/lmを超えてしまう。このような場合において、蛍光膜9上に透明樹脂による紫外線吸収層を、例えば30μmの膜厚で形成すると、蛍光膜の輝度は略同等で、同時に紫外線の漏れ量が低減される。このような場合、紫外線吸収層には蛍光体粒子が含有されていないが、紫外線吸収能において蛍光体粒子が存在するのと同じ効果が得られるため、紫外線吸収層も実質的に蛍光膜9の一部であると見なし、蛍光膜9の膜厚に加味することとする。この場合、蛍光膜9の膜厚は65μmではなく、紫外線吸収層の厚さ(30μm)を加えた95μmとなる。
【0039】
紫外線吸収層による効果は、蛍光膜9の膜厚の下限値近傍のみならず、上限値近傍でも同等である。例えば、膜厚が800μmの蛍光膜を形成し、その上に50μmの紫外線吸収層を形成すれば、膜厚が800μmの蛍光体の単独膜に対して、輝度が略同等で紫外線漏れ量をより改善した蛍光膜が得られる。この場合、膜厚が800μmの蛍光体の単独膜で既に紫外線の漏れ量が規定値以下となるため、この蛍光膜に膜厚が10μmの紫外線吸収層を形成しても、膜厚が100μmの紫外線吸収層を形成しても、紫外線の漏れ量は規定値以下となる。蛍光膜9の膜厚の上限値近傍において、紫外線吸収層の膜厚を蛍光膜の膜厚に加味すると、上限値が曖昧な数値となってしまう。従って、このような場合においては、便宜上実質的に蛍光体粒子が存在する部分の厚さを蛍光膜9の膜厚と解釈する。
【0040】
なお、上述した蛍光膜9の定義において、紫外線を吸収しない有機バインダ(樹脂材料)とは、ダウコーニング社製のシリコーン樹脂・EG−6301(商品名)の390nmにおける紫外線吸収量と略同等またはそれ以下の材料を指すものである。紫外線を吸収する有機バインダとは、サンユレック社製のエポキシ樹脂・NLD−SL−2101(商品名)の400nmにおける紫外線吸収量と略同等またはそれ以上の材料を指すものである。紫外線吸収量の具体的な値は、前者が10%以下、後者が55%以上に相当する。上記2つの樹脂に対して、紫外線吸収量が中間値を示す材料が使用されることは、ほとんど想定されないが、仮に使用された場合、両者の紫外線吸収量の中間値を境界として、サンユレック社製のエポキシ樹脂・NLD−SL−2101(商品名)に近い吸収量のものを、紫外線を吸収するバインダ、またダウコーニング社製のシリコーン樹脂・EG−6301(商品名)に近い吸収量のものを、紫外線を吸収しないバインダとして区別する。
【0041】
蛍光膜9の膜厚は、以下のようにして測定した値を示すものとする。以下では代表例としてドーム状の蛍光膜9の測定方法を記載する。他の形状の蛍光膜9でも同様の方法を採用するものとする。測定用のサンプルは以下の手順で作製する。まず、ドーム状蛍光膜9の頂点を通過する任意の面で、蛍光膜9を略2等分する。すると、図4に示すような断面が得られる。この断面をさらに略4等分し、第1の周辺部P1、第1の中心部C1、第2の中心部C2、第2の周辺部P2に分割する。各部位から任意の1箇所を選択し、顕微鏡観察を行い、倍率が100倍の断面写真を計4枚撮影する。
【0042】
次に、得られた写真を利用して膜厚を計測する。膜厚の測定方法は図5に示す通りである。測定対象の蛍光膜9の表面に凹凸がある場合、図5に示すように、得られた断面写真の最頂部aと最底部bとを求め、両者の平均値を表面高さとする。このような方法で蛍光膜9の膜厚を計測し、合計4個の膜厚データを得る。これら4個のデータのうち、最大値と最小値は除外し、中間値2個の平均値を求めて蛍光膜9の膜厚とする。
【0043】
なお、ここで記載した測定対象の蛍光膜9とは、前述した蛍光膜9の定義に従うものとする。前述の定義において、実質的に蛍光体粒子が存在する部分は、写真判定法で具体的に以下のように取り扱うものとする。すなわち、蛍光体粒子とバインダ材料とが混在している部分の断面写真において、蛍光体粒子の占める面積比が40%以上の部分を、実質的に蛍光体粒子が存在する部分とする。
【0044】
蛍光膜9を形成するグローブ4の材質としては、前述したようにポリカーボネート、アクリル樹脂、環状オレフィン共重合体(COC)等の有機樹脂やガラス等が挙げられる。ここで、グローブ4の形成材料に要求される特性としては、可視光を透過すること、内面に蛍光膜9が塗布可能であること、連続点灯時の昇温等により熱変形しないこと等である。なかでも、可視光の透過率は重要であり、グローブ4は光透過率が80%以上の透光性部材からなることが好ましい。グローブ4の光透過率が80%未満の場合、蛍光膜9の膜厚が膜厚範囲の下限値近傍や上限値近傍の場合に、実用的な明るさを得ることができないおそれがある。ここで、光透過率は厚さ3mmの試験片を用いて、ASTM D 1003に規定される方法にしたがって測定した値を示すものとする。
【0045】
また、グローブ4の形成材料には、紫外線の漏れ量を低減する観点からも様々な材料が選択可能である。紫外線の漏れ量を低減する上で、グローブ4は可視光をできるだけ多量に透過し、紫外線をほとんど透過しない材料で形成することが好ましい。材質は同じでも、グローブ4の厚さを厚くして紫外線の漏れ量を低減することも可能である。また、グローブ4の形成材料中に紫外線吸収材を混入したり、グローブ4の内外面に紫外線吸収膜を塗布することも有効であり、同様な効果が得られる。
【0046】
グローブ4の形成材料中に混入させる紫外線吸収材としては、例えば酸化亜鉛が挙げられる。酸化亜鉛をグローブ4の形成材料中に混入すると、紫外線の漏れ量はより低減されるが、可視光の一部も吸収されてLED電球1の明るさも低下するため、目的に応じて使い分けることが好ましい。なお、この実施形態のLED電球1は、蛍光膜9の膜厚に基づいて紫外線の漏れ量を低減しているため、紫外線の漏れ防止の観点からグローブ4の形成材料や形状等を制限されることはない。
【0047】
この実施形態において、より好ましい形態としては蛍光膜9の膜厚を紫外線の漏れ量と明るさの両面から設定すると共に、グローブ4の形成材料として透明ガラスを使用したLED電球1が挙げられる。ガラス材の場合、紫外線をほとんど透過させる種類もあるが、この実施形態では紫外線を蛍光膜9で遮断しているため、グローブ4をガラス材で形成しても紫外線の漏れ量を低減することができる。その上で、可視光の透過率が高いガラス材でグローブ4を形成することによって、LED電球1の明るさを高めることができる。
【0048】
グローブ4の形成材料としての樹脂材料は、一般にガラス材より紫外線の吸収量が多く、特にポリカーボネートは優れた吸収能力を有している。光透過率の高いポリカーボネートをグローブ4の形成材料として使用すれば、明るさの面でも、また紫外線の漏れ量の面でも良好な特性が得られる。さらに、樹脂材料はガラス材のように割れることがなく、安全面でも優れている。このような点から、特に好ましい形態としてはポリカーボネート製のグローブ4を有するLED電球1が挙げられる。
【0049】
上述したように、この実施形態のLED電球1によれば、蛍光膜9の膜厚を80μm以上800μm以下の範囲とすることによって、実用的な明るさを確保しつつ、紫外線の漏れ量を0.1mW/nm/lm以下まで低減することができる。従って、紫外線による周辺部品の劣化等を抑制することが可能となる。蛍光膜9の膜厚は、LED電球1の明るさの観点から150μm以上600μm以下の範囲とすることがより好ましい。この膜厚範囲は明るさが実用下限値より5%以上向上し、より明るい蛍光膜9が得られる範囲である。このため、LED電球1の蛍光膜9に使用可能な蛍光体の組合せの選択幅が広がり、様々な演色性を有するLED電球1を作製することが可能となる。
【0050】
この実施形態のLED電球1は、例えば以下のようにして作製される。まず、蛍光体粉末を含む蛍光体スラリーを調製する。蛍光体スラリーは、例えば蛍光体粉末をシリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等のバインダ樹脂やアルミナ、シリカ等の充填材と混合して調製される。蛍光体とバインダ樹脂との混合比は、蛍光体の種類や粒子径により適宜に選択されるが、例えば蛍光体を100質量部としたとき、バインタ樹脂を20〜1000質量部の範囲とすることが好ましい。蛍光体の種類、平均粒子径、混合比等は目的とする白色光に応じて、前述した条件範囲から適宜に設定することが好ましい。
【0051】
次に、グローブ4の内面に蛍光体スラリーを塗布する。蛍光体スラリーの塗布は、例えばスプレー法やディップ法、あるいはグローブ4を回転させる方法等により実施され、グローブ4の内面に均一に塗布する。次いで、蛍光体スラリーの塗布膜をドライヤやオーブン等の加熱装置を用いて加熱乾燥させることによって、グローブ4の内面に蛍光膜9を形成する。この際、蛍光膜9の膜厚は80〜800μmの範囲となるように調整する。蛍光膜9の膜厚は、蛍光体スラリー中の固形分量、バインダ粘度、硬化温度や時間等により調整される。この後、LEDモジュール2や口金6等を設置した基体部3に、蛍光膜9を有するグローブ4を取り付けることによって、目的とするLED電球1を作製する。
【実施例】
【0052】
次に、具体的な実施例及びその評価結果について述べる。
【0053】
(実施例1〜10)
まず、青色(B)蛍光体として平均粒子径が40μmのEu付活アルカリ土類クロロ燐酸塩((Sr0.604Ba0.394Eu0.0025(PO43Cl)蛍光体、青緑色(BG)蛍光体として平均粒子径が20μmのEu及びMn付活アルカリ土類珪酸塩((Sr0.225Ba0.65Mg0.0235Eu0.1Mn0.00152SiO4)蛍光体、緑色乃至黄色(BY)蛍光体として平均粒子径が17μmのEu及びMn付活アルカリ土類珪酸塩((Sr0.675Ba0.25Mg0.0235Eu0.05Mn0.00152SiO4)蛍光体(1)、及び平均粒子径が38μmのEu及びMn付活アルミン酸珪酸塩((Ba0.9Mg0.5Eu0.2Mn0.4)Al1017)蛍光体(2)、赤色(R)蛍光体として平均粒子径が45μmのEu付活酸硫化ランタン((La0.9Eu0.122S)蛍光体(1)、及び平均粒子径が11μmのEu付活サイアロン((Sr0.9Eu0.12Si7Al3ON13)蛍光体(2)、深赤色(DR)蛍光体として平均粒子径が12μmのMn付活マグネシウムフロロジャーマネート(3.5MgO・0.5MgF2・(Ge0.75Mn0.25)O2)蛍光体を用意した。
【0054】
上述した各蛍光体を表1に示す割合でそれぞれ混合し、これら混合蛍光体を用いて以下のようにしてLED電球をそれぞれ作製した。まず、バインダ樹脂としてのシリコーン樹脂に蛍光体を分散し、脱泡を行う。次に、グローブ内に所望の膜厚となる量の蛍光体スラリーを投入し、グローブの内面に均一に広がるように角度を変化させながらグローブを回転させる。次いで、赤外線ヒータやドライヤ等を用いて、蛍光体スラリーが硬化し始めて塗布膜が流れなくなるまで加熱を行う。この後、オーブン等を用いて100℃×5時間程度の条件で熱処理し、蛍光体スラリーの塗布膜を完全に硬化させる。このようにして形成した蛍光膜の膜厚は、それぞれ表1に示す通りである。
【0055】
LEDモジュールは、発光ピーク波長が400nm、発光スペクトルの半値幅が15nmのLEDチップを126個使用し、これらLEDチップを基板上に面実装し、さらにシリコーン樹脂で被覆して構成したものである。また、グローブは光透過率が88%のポリカーボネート製のドーム型形状を有するものを使用した。グローブの厚さは約1mmである。このようにして得たLED電球を後述する特性評価に供した。
【0056】
(比較例1〜2)
蛍光膜の膜厚を55μmとする以外は、実施例1と同様にしてLED電球を作製した(比較例1)。また、蛍光膜の膜厚を990μmとする以外は、実施例1と同様にしてLED電球を作製した(比較例2)。これらのLED電球を後述する特性評価に供した。
【0057】
(比較例3)
青色発光のLEDチップと黄色蛍光体(YAG蛍光体)との組合せを適用したLED電球を用意し、これを後述する特性評価に供した。黄色蛍光体からなる蛍光膜は青色LEDチップの直上に塗布してLED電球を構成した。
【0058】
次に、実施例1〜10、比較例1〜3の各LED電球を点灯させ、各LED電球から放出される光の光束(ルーメン)、明るさ(lm/W)、色度(x/y,u/v)、演色評価数(Ra)、相関色温度(Tc)、主波長(Dominant)、ピーク波長(nm)、半値幅(FWHM)等を測定した。また、これらの測定結果から紫外線の漏れ量(370nm以上415nm以下の範囲の紫外乃至紫色発光のピーク値(単位:mW/nm)を、光束(単位:lm)で除した値(単位:mW/nm/lm))を算出した。これらの測定・評価結果を表1に示す。
【0059】
上記特性はラブスフェア(labsphere)社製の20インチ積分球を備えた光量測定装置を用いて測定した。この装置は分光放射強度標準ランプで校正を実施しているため、従来の視感度補正フィルタ付き検出器を用いた方式と異なり、高精度の測定が可能である。校正に使用する分光放射強度標準ランプは、照明エンジニアリング協会(IGSNA:Illuminating Engineering Society)により推奨されたガイドラインにしたがって校正されており、校正データはNIST(米国国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology))スタンダードにトレーサブルである。測定対象については吸収補正ランプを用いて測定治具やサンプルに対して標準ランプとの補正を実施した。
【0060】
実際の測定は、周囲温度Ta=25℃にて、LED電球を20インチ積分球内に口金を下にして固定して実施した。測定サンプルは、事前に30分以上のエージングを実施し、灯具の温度を安定させておく。その後、測定の際の脱着を速やかに行い、点灯数分後(約3〜5分程度)に測定を行った。
【0061】
【表1】

【0062】
表1から明らかなように、実施例1〜10によるLED電球は紫外線の漏れ量が少なく、また実用的な明るさが得られていることが分かる。さらに、実施例1〜10によるLED電球は、比較例3のLED電球と比べて色温度や平均演色評価数Raに優れ、白熱電球の代替品として実用性に優れることが分かる。また、各LED電球の点灯時のぎらつきや局所的なまぶしさ(グレア)を目視で評価したところ、実施例1〜10によるLED電球は比較例3によるLED電球に比べてグレアが低減されていることが確認された。
【0063】
(実施例11)
実施例8の蛍光膜(膜厚=645μm)上に蛍光体粒子を含まない膜厚が160μmのシリコーン樹脂膜を形成する以外は、実施例8と同様にしてLED電球を作製した。このLED電球の特性を測定したところ、明るさが40lm/W、色温度が2800K、演色評価数Raが90、紫外線の漏れ量が0.02mW/nm/lmであった。
【0064】
(実施例12)
比較例1の蛍光膜(膜厚=55μm)上に蛍光体粒子を含まない樹脂膜として、膜厚が50μmのエポキシ樹脂膜を形成する以外は、比較例1と同様にしてLED電球を作製した。ここで、エポキシ樹脂膜は前述したサンユレック社製のエポキシ樹脂・NLD−SL−2101(商品名)を用いて形成した。このLED電球の特性を測定したところ、明るさが22lm/W、色温度が2705K、演色評価数Raが89、紫外線の漏れ量が0.1mW/nm/lmであった。
【0065】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0066】
1…LED電球、2…LEDモジュール、3…基体部、4…グローブ、6…口金、7…基板、8…LEDチップ、9…蛍光膜、10…透明樹脂層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に実装された紫外乃至紫色発光のLEDチップとを備えるLEDモジュールと、
前記LEDモジュールが設置された基体部と、
前記LEDモジュールを覆うように前記基体部に取り付けられたグローブと、
前記グローブの内面に前記LEDチップから離間させて設けられ、前記LEDチップから出射された紫外乃至紫色光を吸収して白色光を発光する蛍光膜と、
前記基体部内に設けられ、前記LEDチップを点灯させる点灯回路と、
前記点灯回路と電気的に接続された口金とを具備し、
前記蛍光膜は80μm以上800μm以下の範囲の膜厚を有し、前記グローブから漏出する紫外線量が0.1mW/nm/lm以下であることを特徴とするLED電球。
【請求項2】
請求項1記載のLED電球において、
前記蛍光膜は150μm以上600μm以下の範囲の膜厚を有することを特徴とするLED電球。
【請求項3】
請求項1又は2項記載のLED電球において、
前記蛍光膜は、青色蛍光体、緑色乃至黄色蛍光体、及び赤色蛍光体を含むことを特徴とするLED電球。
【請求項4】
請求項3記載のLED電球において、
前記青色蛍光体は
一般式:(Sr1-x-y-zBaxCayEuz5(PO43Cl
(式中、x、y、及びzは0≦x<0.5、0≦y<0.1、0.005≦z<0.1を満足する数である)
で表される組成を有するユーロピウム付活アルカリ土類クロロ燐酸塩蛍光体であり、
前記緑色乃至黄色蛍光体は
一般式:(Ba1-x-y-zSrxCayEuz)(Mg1-uMnu)Al1017
(式中、x、y、z、及びuは0≦x<0.2、0≦y<0.1、0.005<z<0.5、0.1<u<0.5を満足する数である)
で表される組成を有するユーロピウム及びマンガン付活アルカリ土類アルミン酸塩蛍光体、
一般式:(Sr1-x-y-z-uBaxMgyEuzMnu2SiO4
(式中、x、y、z、及びuは0.1≦x≦0.35、0.025≦y≦0.105、0.025≦z≦0.25、0.0005≦u≦0.02を満足する数である)
で表される組成を有するユーロピウム及びマンガン付活アルカリ土類珪酸塩蛍光体、
一般式:(Si,Al)6(O,N)8:Eux
(式中、xは0<x<0.3を満足する数である)
で表される組成を有するユーロピウム付活サイアロン蛍光体、及び
一般式:(Sr1-xEuxαSiβAlγδω
(式中、x、α、β、γ、δ、及びωは0<x<1、0<α≦3、12≦β≦14、2≦γ≦3.5、1≦δ≦3、20≦ω≦22を満足する数である)
で表される組成を有するユーロピウム付活サイアロン蛍光体から選ばれる少なくとも1種であり、
前記赤色蛍光体は
一般式:(La1-x-yEuxy22
(式中、MはSm、Ga、Sb、及びSnから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、x及びyは0.08≦x<0.16、0.000001≦y<0.003を満足する数である)
で表される組成を有するユーロピウム付活酸硫化ランタン蛍光体、
一般式:(Ca1-x-ySrxEuy)SiAlN3
(式中、x及びyは0≦x<0.4、0<x<0.5を満足する数である)
で表される組成を有するユーロピウム付活カズン蛍光体、及び
一般式:(Sr1-xEuxαSiβAlγδω
(式中、x、α、β、γ、δ、及びωは0<x<1、0<α≦3、5≦β≦9、1≦γ≦5、0.5≦δ≦2、5≦ω≦15を満足する数である)
で表される組成を有するユーロピウム付活サイアロン蛍光体から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とするLED電球。
【請求項5】
請求項3又は4項記載のLED電球において、
前記蛍光膜は、さらに青緑色蛍光体及び深赤色蛍光体から選ばれる少なくとも1種の蛍光体を含むことを特徴とするLED電球。
【請求項6】
請求項5記載のLED電球において、
前記青緑色蛍光体は
一般式:(Ba1-x-y-z-uSrxMgyEuzMnu2SiO4
(式中、x、y、z、及びuは0.1≦x≦0.35、0.025≦y≦0.105、0.025≦z≦0.25、0.0005≦u≦0.02を満足する数である)
で表される組成を有するユーロピウム及びマンガン付活アルカリ土類珪酸塩蛍光体であり、
前記深赤色蛍光体は
一般式:αMgO・βMgF2・(Ge1-xMnx)O2
(式中、α、β、及びxは3.0≦α≦4.0、0.4≦β≦0.6、0.001≦x≦0.5を満足する数である)
で表される組成を有するマンガン付活マグネシウムフロロジャーマネート蛍光体であることを特徴とするLED電球。
【請求項7】
請求項3乃至6のいずれか1項記載のLED電球において、
前記蛍光膜は質量割合で、10%以上60%以下の前記青色蛍光体、0%以上10%以下の前記青緑色蛍光体、1%以上30%以下の前記緑色乃至黄色蛍光体、30%以上90%以下の前記赤色蛍光体、及び0%以上35%以下の前記深赤色蛍光体を含むことを特徴とするLED電球。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項記載のLED電球において、
前記蛍光膜は、平均粒子径が3μm以上50μm以下の範囲の蛍光体粒子を含有することを特徴とするLED電球。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項記載のLED電球において、
前記グローブは、光透過率が80%以上の透光性部材からなることを特徴とするLED電球。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項記載のLED電球において、
前記LEDチップから出射される紫外乃至紫色発光は、発光ピーク波長が370nm以上410nm以下の範囲であると共に、発光スペクトルの半値幅が10nm以上15nm以下の範囲であることを特徴とするLED電球。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項記載のLED電球において、
前記蛍光膜から発光される前記白色光は、相関色温度が6500K以下で、平均演色評価数(Ra)が85以上であることを特徴とするLED電球。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1項記載のLED電球において、
前記LEDモジュールは、前記基板上に面実装された複数の前記LEDチップと、前記複数のLEDチップを被覆するように前記基板上に設けられた透明樹脂層とを備えることを特徴とするLED電球。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか1項記載のLED電球において、
前記グローブは、ドーム型形状又はナス型形状を有することを特徴とするLED電球。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−74348(P2012−74348A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48926(P2011−48926)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【特許番号】特許第4862098号(P4862098)
【特許公報発行日】平成24年1月25日(2012.1.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(303058328)東芝マテリアル株式会社 (252)
【Fターム(参考)】