説明

LKB1活性化剤

【課題】安全性が高いLKB1活性化剤を提供する。
【解決手段】カテキン類、カプサイシン類及びフラバノン類からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含有するLKB1活性化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LKB1活性化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
LKB1(またはSTK11ともいう)は、1998年に、ポイツ・イェーガー症候群(PJS)の原因因子として見出された(例えば、非特許文献1参照)。PJSは、皮膚及び口腔粘膜の色素沈着と、消化管におけるポリポーシスを特徴とする、常染色体優性の遺伝性疾患である。疫学的調査から、PJS患者は健常人と比較して様々な癌の発症リスクが顕著に高いということが明らかにされている。このため、PJSの原因遺伝子であるLKB1は癌抑制遺伝子であることが推測されている。
最近の研究により、LKB1はSTRAD(STe20-Related Adaptor Protein)及びMO25(Mouse Protein 25)と呼ばれる活性調節分子と複合体を形成し、細胞の分化や極性を制御していること、少なくとも12個のキナーゼを標的分子としてリン酸化し、活性化するマスターキナーゼであることが明らかとなっている(例えば、非特許文献2〜4参照)。
【0003】
LKB1の標的分子の一つとして、SIK(salt inducible kinase)がある。SIKは、高塩食負荷したラットの副腎において、特異的に誘導される塩誘導性キナーゼとして1999年にクローニングされた(例えば、非特許文献5参照)。その後の研究により、副腎皮質を副腎皮質刺激ホルモンで刺激するとSIKが誘導され、その結果ステロイドホルモン産生の律速酵素の遺伝子発現が調節されることが明らかになってきた(例えば、非特許文献6参照)。副腎で産生されるステロイドホルモンは、糖代謝、脂質代謝、血圧の調節、生殖機能の維持等の機能をもっており、生体活動の維持に必須なホルモンである。副腎機能が低下してステロイドホルモンが減少すると、慢性的な脱力感や全身倦怠感が引き起こされることが一般的に知られている。そのため、副腎機能を正常に保つことは健常な生活を送るうえで大変重要なことである。LKB1は、副腎に特異的に高発現し副腎機能の調節作用を持つSIKの活性を制御する作用を有する。そのため、LKB1をリン酸化し活性化するLKB1活性化剤は、副腎機能調節剤として大変有用であると考えられる。
【0004】
さらに、BRSK(Brain-Specific Kinases)1(またはSAD−Bともいう)及びBRSK2(またはSAD−Aともいう)もLKB1の標的分子となることが知られている。BRSK1及びBRSK2は脳に特異的に発現しており、脳神経細胞の分化及び極性調節を担う重要な分子である。脳神経細胞の極性とは、未分化の脳神経細胞が樹状突起または軸索という相異なる性質を持つことをいい、脳神経系の発生分化に重要である。脳神経細胞の活動電位は樹状突起で発生し、軸索を伝播して他の神経細胞に伝達されていく。そのため、脳神経細胞の分化及び極性を制御することは、脳神経系の働きを正常に保つうえで非常に重要である(例えば、非特許文献7参照)。LKB1は、BRSK1及び/又はBRSK2を活性化するため、LKB1活性化剤はBRSK1及び/又はBRSK2の活性化を介し、脳神経細胞の分化及び極性を制御することにより脳機能の調節剤として有用であると考えられる。
【0005】
上述のように、LKB1を活性化することは副腎機能及び/又は脳機能の調節に効果的であると言える。しかし、これまでにLKB1活性化剤についてはほとんど報告がない。
アディポサイトカインの一つであるアディポネクチンや、糖尿病の治療薬として用いられるメトホルミンがLKB1を活性化することが報告されている(例えば、非特許文献8及び非特許文献9参照)。この一方でメトホルミンのアナログであるフェンホルミンはLKB1を活性化しないという報告もなされている(例えば、非特許文献10参照)。そのため、LKB1活性化剤についてはほとんど知られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nature、1998年、第391巻、p.184−187
【非特許文献2】J.Biol.、2003年、第2巻、p.28
【非特許文献3】FEBS Lett.、2003年、第546巻、p.159−165
【非特許文献4】EMBO J.、2004年、第23巻、p.833−843
【非特許文献5】FEBS Lett.、1999年、第453巻、p.135−139
【非特許文献6】Mol.Endocrinol.、2001年、第15巻、p.1264−1276
【非特許文献7】Science、2005年、第307巻、p.929−932
【非特許文献8】Science、2005年、第310巻、p.1642−1646
【非特許文献9】Biochem.Biophys.Res.Comm.、2006年、第351巻、p.595−601
【非特許文献10】Am.J.Physiol.Endocrinol.Metab.、2004年、第287巻、p.E310−E317
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、安全性が高いLKB1活性化剤を提供することを課題とする。
また、本発明は、脳機能の調節等に有効な脳神経細胞の極性調節剤を提供することを課題とする。
さらに、本発明は、副腎機能の調節等に有効な副腎機能調節剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、安全で、副作用の少ないLKB1活性化剤の探索を行った。その結果、カテキン類、カプサイシン類及びフラバノン類にLKB1活性化作用という全く新しい機能を見い出した。さらに、LKB1はSIK、BRSK1及びBRSK2をリン酸化することによりそれら分子の活性を調節する。そのため、カテキン類、カプサイシン類及びフラバノン類は副腎機能及び脳機能の調節等に有効であることも見い出した。本発明は、これらの知見に基づき完成するに至った。
【0009】
本発明は、カテキン類、カプサイシン類及びフラバノン類からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含有することを特徴とするLKB1活性化剤に関する。
また、本発明は、カプサイシン類及びフラバノン類からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含有することを特徴とする脳神経細胞の極性調節剤に関する。
また、本発明は、カテキン類、カプサイシン類及びフラバノン類からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含有することを特徴とする副腎機能調節剤に関する。
さらに、本発明は、LKB1活性化剤、脳神経細胞の極性調節剤又は副腎機能調節剤製造のためのカテキン類、カプサイシン類及び/又はフラバノン類の使用に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、安全性が高いLKB1活性化剤を提供することができる。
また、本発明によれば、脳機能の調節等に有効な脳神経細胞の極性調節剤を提供することができる。
さらに、本発明によれば、副腎機能の調節等に有効な副腎機能調節剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】肝細胞株(Hepa1−6)を用いたEGCG、カプサイシン及びフラバノンのLKB1活性化作用を示す電気泳動図である。
【図2】肝細胞株(Hepa1−6)を用いたカテキン類のLKB1活性化作用を示す電気泳動図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について、その好ましい実施態様に基づき詳細に説明する。
本発明のLKB1活性化剤は、カテキン類、カプサイシン類及びフラバノン類からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含有することを特徴とする。
カテキン類は、緑茶や紅茶などに含まれていることが知られている。カプサイシン類は、トウガラシの辛味成分として知られている。フラバノン類は、みかん、レモンなどに含まれていることが知られている。これらの食品及び飲料は、天然物素材から製造され、広く摂取されているものであり、安全性が高い。従って、本発明のLKB1活性化剤は安全性が高い。
【0013】
緑茶や紅茶等に含まれているカテキン類には、コレステロール上昇抑制作用、血糖上昇阻害作用、持久力向上作用等、生理的な有益性があると報告されている(例えば、特開昭60−156614号公報、特開平4−253918号公報及び特開2005−89384号公報参照)。しかしながら、カテキン類がLKB1を活性化することはもとより、副腎機能等を調節する作用についてはこれまで全く知られていない。
【0014】
トウガラシの辛味成分であるカプサイシン類は、脂質代謝亢進作用、体脂肪燃焼作用、食欲増進作用、発汗作用、抗菌作用、鎮痛作用などの種々の薬理作用を有する物質として広く知られている。また、フラバノン類には、エストロゲン受容体結合能、骨芽細胞へのカルシウム沈着増強作用、ウレアーゼ活性阻害作用、8−OHdG産生抑制によるシミ・シワ防止効果があることが知られている(例えば、特開2003−2830号公報、特開2003−26572号公報、特開2004−91338号公報及び特開2003−2819号公報参照)。しかしながら、カプサイシン類及びフラバノン類のLKB1に対する作用は全く知られておらず、副腎機能、脳機能等を調節するという報告もなされていない。
【0015】
本発明における「カテキン類」には、カテキン(以下、「C」とも称する)、ガロカテキン(以下、「GC」とも称する)、カテキンガレート(以下、「CG」とも称する)、ガロカテキンガレート(以下、「GCG」とも称する)、エピカテキン(以下、「EC」とも称する)、エピガロカテキン(以下、「EGC」とも称する)、エピカテキンガレート(以下、「ECG」とも称する)及びエピガロカテキンガレート(以下、「EGCG」とも称する)が含まれる。LKB1活性化能の観点から、ガロカテキン、カテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレートが特に好ましい。
【0016】
本発明において、カテキン類の調製方法については特に制限はなく、カテキン類を含有する植物体から抽出する方法、ワイン、ジュース類等のブドウを原料とする加工食品又はカカオ豆を原料とする加工食品から抽出する方法等が挙げられる。また、カテキン類を通常の方法により化学合成することもできる。
【0017】
本発明におけるカテキン類は、カテキン類を含有する植物体から抽出したカテキン類であることが好ましい。カテキン類を含有する植物体としては特に制限はなく、茶葉、コーヒー豆、カカオ豆、ブドウ、リンゴ等が挙げられる。本発明においては、前記カテキン類が茶葉から抽出した茶カテキン類であることが好ましい。
【0018】
本発明において、カテキン類の抽出に用いることができる茶葉に特に制限はないが、カメリア(Camellia)属(例えばC.sinensis、C.Assamica)、やぶきた種、及びそれらの雑種から得られる茶葉から製茶された茶葉が挙げられる。当該製茶された茶葉には、(1)煎茶、番茶、玉露、てん茶、釜入り茶等の緑茶類、(2)総称して烏龍茶と呼ばれる鉄観音、色種、黄金桂、武夷岩茶などの半発酵茶、(3)紅茶と呼ばれるダージリン、ウバ、キーマン等の発酵茶が含まれる。茶葉などの植物体からカテキン類を抽出する方法は特に限定されず、適当な溶媒を用いた常法の抽出方法によって調製することができる。例えば、茶葉に水や熱水、エタノール、メタノール、アセトン等の水溶性有機溶剤、場合によってはこれに抽出助剤を添加したもので抽出することができる。茶葉からカテキン類を抽出する方法については、撹拌抽出など従来の方法により行うことができる。また抽出時の水に、あらかじめアスコルビン酸ナトリウムなどの有機酸又は有機酸塩類を添加してもよい。また煮沸脱気や窒素ガス等の不活性ガスを通気して溶存酸素を除去しつつ、いわゆる非酸化的雰囲気下で抽出する方法によりカテキン類を抽出してもよい。抽出条件は通常の条件を適用でき、例えば茶葉などの植物体を40〜100℃で1分〜1日間浸漬又は加熱還流すればよい。また、このようにして得られた茶葉抽出物、茶葉抽出物の濃縮物又は精製物をカテキン類として用いてもよい。ここでいう茶葉抽出物の濃縮物とは、茶葉から熱水もしくは水溶性有機溶剤により抽出された抽出物を適当な方法により濃縮したものである。茶葉抽出物の精製物とは、適当な溶剤やカラムを用いて精製したものである。例としては、特開昭59−219384号公報、特開平4−20589号公報、特開平5−260907号公報、特開平5−306279号公報等に詳細に例示されている方法で調製したものが挙げられる。カテキン類抽出物の濃縮物又は精製物の市販品としては、東京フードテクノ株式会社「ポリフェノン」、株式会社伊藤園「テアフラン」、太陽化学株式会社「サンフェノン」、サントリー株式会社「サンウーロン」等が挙げられる。茶葉抽出物の濃縮物及び茶葉抽出物の精製物の形態としては特に制限はなく、固体、水溶液、スラリー状等種々のものが挙げられる。茶葉抽出物の濃縮物又は茶葉抽出物の精製物を溶解、希釈する液は、水、炭酸水等の通常用いられる溶解、希釈液が挙げられる。
本発明において、カテキン類としては、一般的に茶葉抽出物の濃縮物又は茶葉抽出物の精製物を用いることが好ましく、緑茶抽出物の濃縮物又は緑茶抽出物の精製物を用いるのがより好ましい。
【0019】
本発明におけるカプサイシン類には、カプサイシン(Capsaicin)、ジヒドロカプサイシン(Dihydrocapsaicin)、ノルジヒドロカプサイシン(Nordihydrocapsaicin)、N−バニリルデカンアミド(N-Vanillyldecanamide)、N−バニリルノナンアミド(N-Vanillylnonanamide)、カプシエイト(Capsiate)が含まれ、カプサイシンが好ましい。
【0020】
本発明において、カプサイシン類の調製方法については特に制限はなく、例えば、トウガラシ(Capsicum annuum Linne)等カプサイシン類を含有する天然物から直接抽出する方法等が挙げられる。カプサイシン類の天然物からの抽出手段としては、水や熱水、有機溶剤、またはそれらの混合物等を用いた一般的な溶剤抽出の他、蒸留、圧搾法が挙げられる。これに遠心分離、限界濾過膜、高速液体クロマトグラフやカラムクロマトグラフ等による分離・精製方法を適宜組み合わせることができる。有機溶剤としては、メタノールやエタノール等のアルコール系有機溶剤が好ましく、特にエタノールが好ましく、適宜水を加えて10〜90%(V/V)エタノール水としてもよい。抽出条件は通常の条件を適用でき、例えばトウガラシなどの天然物を40〜100℃で1分〜1日間浸漬又は加熱還流すればよい。また、カプサイシン類抽出物の濃縮物又は精製物をカプサイシン類として用いてもよい。ここでいうカプサイシン類抽出物の濃縮物とは、天然物から抽出溶剤により抽出されたカプサイシン類抽出物を適当な方法により濃縮したものである。カプサイシン類抽出物の精製物とは、適当な溶剤やカラムを用いて精製したものである。カプサイシン類抽出物の濃縮物及びカプサイシン類抽出物の精製物の形態としては特に制限はなく、固体、水溶液、スラリー状等種々のものが挙げられる。カプサイシン類抽出物の濃縮物又はカプサイシン類抽出物の精製物を溶解、希釈する液は、水、炭酸水等の、通常用いられる溶解、希釈液が挙げられる。
また、カプサイシン類を通常の方法により化学合成することもできる。
【0021】
本発明におけるフラバノン類とは、フラバノン(2,3−ジヒドロフラボン)、フラバノンにおける少なくとも一つの水素原子が水酸基及び/又はアルコキシ基に置換されたフラバノン誘導体、及びそれらの配糖体の総称である。ここで、アルコキシ基としては、炭素数1〜5の直鎖又は分岐状のアルコキシ基が挙げられ、メトキシ基又はエトキシ基が好ましく、メトキシ基が特に好ましい。配糖体を構成する糖残基としては、D−グルコース、L−ラムノース等の単糖残基又は斯かる単糖が2〜6個結合したオリゴ糖残基、例えばルチノースが挙げられる。当該配糖体は、多くの場合、胃液、小腸や肝臓の酵素或いは腸管内の微生物によって加水分解され、遊離体になりやすい。
【0022】
本発明におけるフラバノン類としては、フラバノン、ナリンゲニン(Naringenin)、ナリンギン(Naringin)、サクラネチン(Sakuranetin)、サクラニン(Sakuranin)、ヘスペリジン(hesperetin)、ヘスペレチン(hesperetin)、エリオジクチオール(Eriodictyol)が好ましく、フラバノン、ナリンゲニン、ヘスペレチン、エリオジクチオールがより好ましい。
【0023】
本発明において、フラバノン類の調製方法については特に制限はなく、有機化学的合成やカルス又は微生物を用いた合成等、通常の方法により製造することもできる(例えば、Carbohydr.Res.、2006年、第341巻、p.964−970、Bulletin of the Chemical Society of Japan、1977年、第50巻、p.3298−3301及びChem.Pharm.Bull.(Tokyo)、2005年、第53巻、p.547−554参照)。
【0024】
また、本発明において、フラバノン類は、上記合成の方法の他に、フラバノン類を含有する天然物から通常の抽出方法により調製することもできる。斯かる天然物は、例えば、サクラソウ科Primula pulverulenta等の葉や果実、ミカン、レモン及びザボン等の柑橘類の果皮や果汁、リンゴ、トマト、ピーマン、セロリ、シュンギク、パセリ、ダイコン、ソバ、茶、タマネギ、ブドウ等が挙げられる。フラバノン類の天然物からの抽出手段としては、水や熱水、エタノール、メタノール、アセトン等の有機溶剤等を用いた一般的な溶剤抽出の他、蒸留、圧搾法が挙げられる。これに遠心分離、限界濾過膜、高速液体クロマトグラフやカラムクロマトグラフ等による分離・精製方法を適宜組み合わせることができる。有機溶剤としては、メタノールやエタノール等のアルコール系有機溶剤が好ましく、特にエタノールが好ましく、適宜水を加えて20〜95%(V/V)エタノール水としてもよい。抽出条件は通常の条件を適用でき、例えばフラバノン類を含有する植物を50〜100℃で1分〜1日間浸漬又は加熱還流すればよい。また、フラバノン類抽出物の濃縮物又は精製物をフラバノン類として用いてもよい。ここでいうフラバノン類抽出物の濃縮物とは、フラバノン類を含有する植物から抽出溶剤により抽出されたフラバノン類抽出物を適当な方法により濃縮したものである。フラバノン類抽出物の精製物とは、適当な溶剤やカラムを用いて精製したものである。フラバノン類抽出物の濃縮物及びフラバノン類抽出物の精製物の形態としては特に制限はなく、固体、水溶液、スラリー状等種々のものが挙げられる。フラバノン類抽出物の濃縮物又はフラバノン類抽出物の精製物を溶解、希釈する液は、水、炭酸水等の、通常用いられる溶解、希釈液が挙げられる。
【0025】
上記合成又は抽出等により得られるカテキン類、カプサイシン類及びフラバノン類は、上記抽出等方法及び/又は分離・精製方法により医薬品上又は飲食品上許容し得る規格に適合し、本発明の効果を発揮するものであれば、粗精製物であってもよい。または、上記化合物に、例えば酸化チタン、炭酸カルシウム、蒸留水、乳糖、デンプン等の適当な液体または固体の賦形剤または増量剤を加えて用いてもよい。
また、単離されたカテキン類、カプサイシン類及びフラバノン類の各化合物を単独又は混合して用いてもよい。
【0026】
後記実施例に示すとおり、カテキン類、カプサイシン類及びフラバノン類は、LKB1活性化作用を有する。そのため、カテキン類、カプサイシン類及びフラバノン類は、これらから選ばれる単独物又は混合物を有効成分とするLKB1活性化剤として使用することができる。さらに、LKB1活性化剤を製造するために使用することが出来る。LKB1活性化剤は、LKB1の活性化を介して、LKB1の制御下にある生命現象を制御することが出来、例えば、副腎機能及び脳神経細胞の極性を調節することができる(例えば、非特許文献6、非特許文献7参照)。従って、カテキン類、カプサイシン類及びフラバノン類からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含有することを特徴とする本発明の脳神経細胞の極性調節剤及び副腎機能調節剤は、それぞれ、脳神経細胞の極性及び副腎機能の調節等に有用である。
【0027】
本明細書において、「脳神経細胞の極性調節」とは、神経細胞の分化を制御しその機能を正常にすることを意味する。「副腎機能調節」とは、副腎の機能を正常に保つことを意味する。
【0028】
本発明のLKB1活性化剤は、LKB1活性化、副腎機能調節、脳機能調節等の効果を発揮する、医薬品、医薬部外品等として使用可能である。さらに、本発明のLKB1活性化剤はそれらの製造のために使用可能である。副腎機能としては例えばステロイドホルモンの産生調節機能などが、脳機能としては例えば脳神経細胞の分化及び極性調節などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明のLKB1活性化剤を医薬品や医薬部外品として使用する場合、例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤等の経口用固形製剤や、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤とすることができる。
【0029】
斯かるカテキン類、カプサイシン類及びフラバノン類からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含有する上記製剤は、それぞれ通常の製造方法により、直接又は製剤上許容し得る担体とともに混合、分散した後、所望の形態に加工することができる。この場合、前記カテキン類、カプサイシン類及びフラバノン類からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物ほかに、かかる形態に通常用いられる動植物油等の油性基剤、鎮痛消炎剤、鎮痛剤、殺菌消毒剤、収斂剤、皮膚軟化剤、ホルモン剤、ビタミン類、保湿剤、紫外線吸収剤、アルコール類、キレート類、pH調整剤、防腐剤、増粘剤、色素、香料等を本発明の効果を妨害しない範囲で適宜配合することができる。
【0030】
本発明のLKB1活性化剤、脳神経細胞の極性調節剤及び副腎機能調節剤におけるカテキン類、カプサイシン類及びフラバノン類からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物の配合量は、その使用形態により異なるが、例えば錠剤、顆粒剤、カプセル剤等の経口用固形製剤の場合は、通常0.1〜95質量%であり、1〜90質量%とするのが好ましく、20〜70質量%とするのがより好ましい。また、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤等の場合は、通常0.01〜90質量%であり、0.1〜50質量%とするのが好ましく、1〜30質量%とするのがより好ましい。
本発明のLKB1活性化剤の投与量(有効摂取量)は、一日当り10〜3000mg/60kg体重とするのが好ましく、30〜1500mg/60kg体重とするのがより好ましく、50〜1000mg/60kg体重とするのが更に好ましい。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0032】
実験例1
カテキン類、カプサイシン類及びフラバノン類のLKB1活性化作用は、肝細胞株(Hepa 1-6)を用い、LKB1のリン酸化を指標として、次法により評価した。
肝細胞株(Hepa 1-6)を25cm2フラスコにまき、DMEM(+10%FBS、+抗菌剤)中37℃で1〜2日培養した。サブコンフルエントになった時点で培養液を除去し、PBS(−)で洗浄後、DMEM(−FBS)に置き換え更に1日培養した。培養液を除去後、C、GC、CG、GCG、EC、EGC、ECG、EGCG(いずれも和光純薬工業社)150μM、カプサイシン(フナコシ社)100μM、又はフラバノン(2,3−ジヒドロフラボン:シグマアルドリッチ社)500μMを含むDMEM(−FBS)を加え、30分間培養した。その後、培養液を除去し、PBS(−)で洗浄後、細胞溶解液(10mM Tris(pH7.4)、50mM塩化ナトリウム、30mMピロリン酸ナトリウム、0.5質量%Triton X-100、1質量%protease inhibitor cocktail(SIGMA、商品名:P2714)、1質量%phosphatase inhibitor cocktail-1(SIGMA、商品名:P2850)、1質量%phosphatase inhibitor cocktail-2(SIGMA、商品名:P5726))を200μL添加し、セルスクレイパーで細胞溶解液を回収した。回収した細胞溶解液は、25Gの針付シリンジを3回通すことにより十分にホモジナイズし、その後30分間氷上に放置した。15000rpmで15分間、4℃で遠心した後、その上清タンパク質を以下の測定に用いた。
【0033】
上清タンパク質の濃度をBCA Protein Assay Kit(商品名、PIERCE社)で測定した後、各サンプルのタンパク質濃度を2mg/mLで一定になるよう調製した。その三分の一量のSDS Sample Buffer(Novagen社)を加えた後、95℃で5分間熱変性、4℃で急冷し、電気泳動用のサンプルを調製した。
上記で調製したサンプル(タンパク質量として20μg)をSDS−PAGE(10%ゲル)に供し、イモビロン−P トランスファーメンブレン(ミリポア社)へ転写後、3%スキムミルクを用いて室温で1時間、ブロッキング反応を行った。続いてanti-phospho-LKB1(Ser428)抗体(Cell Signaling社)を1000倍希釈して、4℃で一晩、一次抗体反応を行った。反応後、1000倍希釈したanti-rabbit-HRP抗体(Cell Signaling社)を用いて、室温で1時間、二次抗体反応を行った。その後、phototope-HRP Western Detection System(商品名、Cell Signaling社)を検出試薬とし、化学発光検出装置ChemiDoc XRS(バイオラッド社)を用いてphospho-LKB1を検出した。試料無添加の溶媒コントロール群を対象(コントロール)とした。その結果を図1及び図2に示す。
【0034】
図1からわかるように、EGCG、カプサイシン及びフラバノンを添加することによりphospho-LKB1が生成された。このことから、EGCG、カプサイシン及びフラバノンは、LKB1活性化作用を有することがわかる。また、図2からわかるように、カテキン類を添加するとphospho-LKB1が生成された。このことから、カテキン類も、LKB1活性化作用を有することがわかる。
以上の結果から、カテキン類、カプサイシン及びフラバノンはいずれも優れたLKB1活性化作用を有することが明らかとなった。従って、カテキン類、カプサイシン類及びフラバノン類は、脳神経細胞の極性調節効果及び副腎機能調節効果を有することが分かった。
【0035】
処方例1 錠剤の調製
常法により、下記成分からなる組成物(1錠当り300mg)を打錠し、錠剤を製造した。
(成分) (成分量)
茶カテキン(商品名:ポリフェノン70S、三井農林製) 30質量%
コーンスターチ 30質量%
セルロース 10質量%
ビタミンC 15質量%
乳糖 10質量%
カフェイン 5質量%
【0036】
処方例2 錠剤の調製
常法により、下記成分からなる組成物(1錠当り300mg)を打錠し、錠剤を製造した。
(成分) (成分量)
茶カテキン類(緑茶抽出物、花王製) 50質量%
コーンスターチ 30質量%
セルロース 10質量%
ビタミンC 5質量%
乳糖 5質量%
【0037】
処方例3 カプセル剤の調製
通常のカプセル化剤中に下記成分からなる組成物(300mg)を常法により封入し、カプセル化剤を調製した。
(成分) (成分量)
エピガロカテキンガレート((-)-没食子酸エピガロカテキン、和光純薬工業製))
30質量%
コーンスターチ 30質量%
セルロース 10質量%
ビタミンC 10質量%
乳糖 10質量%
カフェイン 10質量%
【0038】
処方例4 顆粒剤の調製
常法により、下記成分からなる組成物(1袋当り500mg)を混合し、顆粒剤を製造した。
(成分) (成分量)
カプサイシン(フナコシ社製) 20質量%
コーンスターチ 20質量%
セルロース 10質量%
ビタミンC 20質量%
乳糖 20質量%
カフェイン 10質量%
【0039】
処方例5 カプセル剤の調製
通常のカプセル化剤中に下記成分からなる組成物(300mg)を常法により封入し、カプセル化剤を調製した。
(成分) (成分量)
フラバノン(シグマ社製) 20質量%
コーンスターチ 45質量%
セルロース 15質量%
トコフェロール 2質量%
乳糖 18質量%
【0040】
処方例6 内服液の調製
常法により、下記成分からなる組成物を混合し、内服液剤(30ml)を調製した。
(成分) (成分量)
茶カテキン(商品名:テアフラン90S、伊藤園製) 5質量%
スクロース 15質量%
アスパルテーム 5質量%
安息香酸 0.1質量%
クエン酸 1質量%
精製水 残量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテキン類、カプサイシン類及びフラバノン類からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含有することを特徴とするLKB1活性化剤。
【請求項2】
前記カテキン類が、カテキン、エピカテキン、カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキン、エピガロカテキン、ガロカテキンガレート及びエピガロカテキンガレートであることを特徴とする請求項1記載のLKB1活性化剤。
【請求項3】
前記カテキン類が、茶葉から抽出した茶カテキン類であることを特徴とする請求項1又は2記載のLKB1活性化剤。
【請求項4】
前記カプサイシン類が、カプサイシン、ジヒドロカプサイシン、ノルジヒドロカプサイシン、N−バニリルデカンアミド、N−バニリルノナンアミド及びカプシエイトであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のLKB1活性化剤。
【請求項5】
カプサイシン類及びフラバノン類からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含有することを特徴とする脳神経細胞の極性調節剤。
【請求項6】
カテキン類、カプサイシン類及びフラバノン類からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含有することを特徴とする副腎機能調節剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−215563(P2010−215563A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−64550(P2009−64550)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】