説明

LKLF/KLF2遺伝子発現促進剤

1.本発明は、メバロン酸代謝経路を阻害する物質の有効量を投与することを特徴とするLKLF/KLF2遺伝子発現促進方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、血管に関連する疾患、例えば糖尿病、労作狭心症、不安定狭心症、安静狭心症、心筋梗塞、粥状動脈硬化症、血管内皮機能障害、PTCA後の再狭窄、過敏性肺炎、間質性肺炎、気道狭窄、気道閉塞、眼底出血(網膜静脈閉塞症、飛蚊症等)、脳血管性痴呆、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、痔等の治療・症状緩和に有用な、クルッペルライクファクター2(lung Kruppel−like factor/KLF2、以下LKLF/KLF2と略す)遺伝子発現促進剤に関する。
【背景技術】
LKLF/KLF2は、プロリン繰り返し配列、活性部位、核内局在シグナル、及びジンクフィンガー部分の構造を有する転写調節因子蛋白質である(Kozyrev SVらFEBS Lett.1999 Apr 1;448(1):149−52)。LKLF/KLF2の作用としては、血球の分化に重要であること(Kuo CTら Genes Dev.1997 11(22):2996−3006、Anderson KPら Mol.Cell Biol.1995 15(11):5957−65)や、血管内皮細胞と平滑筋細胞の重要な情報伝達因子であること(Monajemi Hら Thromb.Haemost.2001 86(1):404−12)、また、T cellの増殖を抑制し、細胞の大きさや蛋白合成を抑制し、細胞表面の活性因子を減少させること(Buckley AFら Nat.Immunol.2001 2(8):698−704)、さらには血管の安定化に必須であること(Kuo CTら Genes Dev.1997 11(22):2996−3006)等が知られている。
一方、粥状動脈硬化症の初期病変は、血流が大きく変化する血管の湾曲部や分岐部に高発することが知られている。その発生原因として、血流の血管内皮に及ぼす剪断応力(shear stress)が関与しているといわれているが、最近の報告によると、LKLF/KLF2はshear stressにより血管内皮細胞から発現し(Dekker RJら Blood 2002 100(5):1689−98)、粥状動脈硬化症の発生に対して抑制的に関わることが指摘されている(Karin Arkenbout Eら Thromb.Haemost.2003 89(3):522−9)。このように、血管内皮細胞から発現するLKLF/KLF2は、血管由来の病変に対して抑制的に作用することが推測される。
従って、LKLF/KLF2遺伝子の発現を促進することにより、動脈硬化症をはじめとする、血管に関連する疾患の症状の緩和、あるいは治療ができることが期待されるが、これまで、LKLF/KLF2遺伝子の発現を促進する物質は、生理的なものも含めて全く知られていない。
【発明の開示】
本発明の目的は、血管に関連する疾患、例えば糖尿病、労作狭心症、不安定狭心症、安静狭心症、心筋梗塞、粥状動脈硬化症、血管内皮機能障害、PTCA後の再狭窄、過敏性肺炎、間質性肺炎、気道狭窄、気道閉塞、眼底出血(網膜静脈閉塞症、飛蚊症等)、脳血管性痴呆、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、痔等の治療・症状緩和に有効なLKLF/KLF2遺伝子発現促進剤を提供することにある。
そこで本発明者らは、ヒトの培養細胞系を用いてLKLF/KLF2遺伝子発現に影響を及ぼす物質を探索した結果、全く意外にもメバロン酸代謝経路を阻害する物質が、LKLF/KLF2遺伝子の発現を促進する作用を有することを見出し、本発明を完成した。
また、本発明者らは上記メバロン酸代謝経路を阻害する物質の内、HMG−CoA還元酵素阻害剤として知られている後記一般式(1)で表される化合物、そのラクトン体又はそれらの塩、特にピタバスタチンカルシウムが、LKLF/KLF2遺伝子の発現を促進する作用を有することを見出した。
さらに、本発明者らはメバロン酸代謝経路を阻害する物質の内、FTI−276等のファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤やGGTI−286等のゲラニルゲラニルトランスフェラーゼI阻害剤、あるいはTcdB(Clostridium difficile Toxin B)等のグルコシルトランスフェラーゼにもLKLF/KLF2遺伝子発現促進作用を有することを見出した。
すなわち、本発明は、メバロン酸代謝経路を阻害する物質を有効成分とするLKLF/KLF2遺伝子発現促進剤を提供するものである。
また、本発明は、一般式(1)

(式中、Rは有機基を示し、Xは−CHCH−又は−CH=CH−を示し、Rは水素原子又はアルキル基示す。)
で表される化合物、そのラクトン体又はそれらの塩を有効成分とするLKLF/KLF2遺伝子発現促進剤を提供するものである。
また、本発明は、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤を有効成分とするLKLF/KLF2遺伝子発現促進剤を提供するものである。
また、本発明は、ゲラニルゲラニルトランスフェラーゼI阻害剤を有効成分とするLKLF/KLF2遺伝子発現促進剤を提供するものである。
また、本発明は、グルコシルトランスフェラーゼを有効成分とするLKLF/KLF2遺伝子発現促進剤を提供するものである。
また、本発明は、LKLF/KLF2遺伝子発現促進剤製造のためのメバロン酸代謝経を阻害する物質の使用を提供するものである。
また、本発明は上記一般式(1)で表される化合物、そのラクトン体又はそれらの塩の、LKLF/KLF2遺伝子発現促進剤製造のための使用を提供するものである。
また、本発明は、LKLF/KLF2遺伝子発現促進剤製造のためのファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤の使用を提供するものである。
また、本発明は、LKLF/KLF2遺伝子発現促進剤製造のためのゲラニルゲラニルトランスフェラーゼI阻害剤の使用を提供するものである。
また、本発明は、LKLF/KLF2遺伝子発現促進剤製造のためのグルコシルトランスフェラーゼの使用を提供するものである。
また、本発明は、メバロン酸代謝経路を阻害する物質の有効量を投与することを特徴とするLKLF/KLF2遺伝子発現促進方法を提供するものである。
また、本発明は上記一般式(1)で表される化合物、そのラクトン体又はそれらの塩の有効量を投与することを特徴とするLKLF/KLF2遺伝子発現促進方法を提供するものである。
また、本発明は、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤の有効量を投与することを特徴とするLKLF/KLF2遺伝子発現促進方法を提供するものである。
また、本発明は、ゲラニルゲラニルトランスフェラーゼI阻害剤の有効量を投与することを特徴とするLKLF/KLF2遺伝子発現促進方法を提供するものである。
さらにまた、本発明は、グルコシルトランスフェラーゼの有効量を投与することを特徴とするLKLF/KLF2遺伝子発現促進方法を提供するものである。
本発明によれば、血管に関連する疾患、例えば糖尿病、労作狭心症、不安定狭心症、安静狭心症、心筋梗塞、粥状動脈硬化症、血管内皮機能障害、PTCA後の再狭窄、過敏性肺炎、間質性肺炎、気道狭窄、気道閉塞、眼底出血(網膜静脈閉塞症、飛蚊症等)、脳血管性痴呆、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、痔等の治療・症状緩和に有効なLKLF/KLF2遺伝子発現促進方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、ピタバスタチンカルシウムのLKLF/KLF2遺伝子の発現を示す図である。
図2は、ピタバスタチンカルシウムのLKLF/KLF2遺伝子発現に対するメバロン酸及びその各種代謝物の影響を示す図である。
図3は、メバロン酸代謝経路を阻害する物質のLKLF/KLF2遺伝子発現を示す図である。
図4は、メバロン酸代謝経路を阻害する物質のLKLF/KLF2遺伝子発現に対する濃度依存性を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明で使用するメバロン酸代謝経路を阻害する物質とは、アセチル−CoA→アセトアセチル−CoA→HMG−CoA→メバロン酸→メバロニル−5−リン酸→メバロニル−5−ピロリン酸→イソペンテニルピロリン酸→ゲラニルピロリン酸→ファルネシルピロリン酸→スクアレン→スクアレンエポキシド→ラノステロール→(デスモステロール又はラソステロール)→コレステロールの主経路の他、(イソペンテニルピロリン酸又はファルネシルピロリン酸)→ゲラニルゲラニルピロリン酸→ゲラニルゲラニル化タンパク質群(例えば、RhoAB、Rapla、Rac、Cdc42等のRhoタンパク質ファミリー等)の経路、及び、ファルネシルピロリン酸→ファルネシル化タンパク質群(例えば、Ras、RhoB等)の経路を含む、メバロン酸代謝に関わるあらゆる代謝経路を阻害する物質が含まれる。このうち、HMG−CoA還元酵素阻害剤、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤、ゲラニルゲラニルトランスフェラーゼI阻害剤、グルコシルトランスフェラーゼが好ましく、中でもHMG−CoA還元酵素阻害剤、特にピタバスタチンまたはその塩が最も好ましい。
本発明で使用する一般式(1)で表される化合物、そのラクトン体又はそれらの塩は、高脂血症治療薬として有用なHMG−CoA還元酵素阻害剤として知られている化合物である。
一般式(1)で表される化合物のRで示される有機基は、置換基を有していてもよい環構造を有する有機基が好ましい。
環構造を有する有機基としては、インドリル基、インデニル基、ピリジル基、ピロロピリジル基、ピラゾロピリジル基、チエノピリジル基、ピリミジル基、ピラゾリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、インドリジル基、キノリル基、ナフチル基、ヘキサヒドロナフチル基、シクロヘキシル基、フェニルシリルフェニル基、フェニルチエニル基又はフェニルフリル基が挙げられ、特にヘキサヒドロナフチル基、インドリル基、ピリジル基、ピリミジル基、ピロリル基又はキノリル基が好ましい。
これらの環構造を有する有機基に置換していてもよい置換基としては、ヒドロキシ基、直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基、アルキルオキシアルキル基、アルキルカルボニルオキシ基、アルキル置換アミノ基、置換アルキルスルホニルアミノ基、置換フェニルスルホニルアミノ基、アルキル、フェニル等が1個又は2個置換していてもよいカルバモイル基、ハロフェニル基、アルキルフェニル基、アルコキシフェニル基、フェニル基、オキソ基等が挙げられる。
これらの環構造を有する有機基に置換してもよい置換基のうち、炭素数1〜6の直鎖、分岐鎖又は環状アルキル基、炭素数2〜7のアルキルオキシアルキル基、炭素数1〜4のアシルオキシ基、炭素数1〜4のアルキル置換アミノ基、炭素数1〜4のアルキル置換炭素数1〜4のアルキルスルホニルアミノ基、炭素数1〜4のアルキル置換フェニルスルホニルアミノ基、炭素数1〜4のアルキル置換カルバモイル基、フェニル置換カルバモイル基、フルオロフェニル基、ブロモフェニル基、ヨードフェニル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基又はフェニル基が好ましく、特にイソプロピル基、シクロプロピル基又はp−フルオロフェニル基が好ましい。
で示されるアルキル基としては、炭素数1〜6の直鎖、分岐鎖又は環状アルキル基が挙げられる。
ラクトン体は、対応する一般式(1)で表される化合物を、常法、例えば酸性条件下にラクトン化することにより得られる。
一般式(1)で表される化合物及びそのラクトン体の塩は、生理学的に許容し得る塩であって、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、フェネチルアミン塩等の有機アミン塩又はアンモニウム塩等が挙げられるが、ナトリウム塩、カルシウム塩がより好ましい。
これらの化合物は、例えば米国特許第4,739,073号及びヨーロッパ特許出願公開第114,027号;ヨーロッパ特許出願公開第367,895号;米国特許第5,001,255号、第4,613,610号、第4,851,427号、第4,755,606号、第4,808,607号、第4,751,235号、第4,939,159号、第4,822,799号、第4,804,679号、第4,876,280号、第4,829,081号、第4,927,851号、第4,588,715号;及びF.G.Kathawala,Medical Research Reviews,11,121−146(1991)、ヨーロッパ特許出願公開第304,063号;ヨーロッパ特許出願公開第330,057号、米国特許第5,026,708号、第4,868,185号;ヨーロッパ特許出願公開第324,347号;ヨーロッパ特許出願公開第300,278号;米国特許第5,013,749号、第5,872,130号、第5,856,336号、米国特許第4,231,938号、米国特許第4,444,784号、米国特許第4,346,227号、米国特許第5,354,772号、米国特許第5,273,995号、米国特許第5,177,080号、米国特許第3,983,140号、日本国特許第2,648,897号、米国特許第5,260,440号、Bioorganic & Medicinal Chemistry,5,437,(1977)、日本国特許第2,569,746号、ヨーロッパ特許第304,063号、米国特許第5,856,336号等に記載されている。
本発明のLKLF/KLF2遺伝子発現促進方法の有効成分としては、ロバスタチン(米国特許第4,231,938号:(+)−(1S,3R,7S,8S,8aR)−1,2,3,7,8,8a−ヘキサヒドロ−3,7−ジメチル−8−[2−[(2R,4R)−テトラヒドロ−4−ヒドロキシ−6−オキソ−2H−ピラン−2−イル]エチル]−1−ナフチル (S)−2−メチルブチレート)、シンバスタチン(米国特許第4,444,784号:(+)−(1S,3R,7S,8S,8aR)−1,2,3,7,8,8a−ヘキサヒドロ−3,7−ジメチル−8−[2−[(2R,4R)−テトラヒドロ−4−ヒドロキシ−6−オキソ−2H−ピラン−2−イル]エチル]−1−ナフチル 2,2−ジメチルブタノエート)、プラバスタチン(米国特許第4,346,227号:(+)−(3R,5R)−3,5−ジヒドロキシ−7−[(1S,2S,6S,8S,8aR)−6−ヒドロキシ−2−メチル−8−[(S)−2−メチルブチリルオキシ]−1,2,6,7,8,8a−ヘキサヒドロ−1−ナフチル]ヘプタン酸)、フルバスタチン(米国特許第5,354,772号:(3RS,5SR,6E)−7−[3−(4−フルオロフェニル)−1−(1−メチルエチル)−1H−インドール−2−イル]−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸)、アトルバスタチン(米国特許第5,273,995号:(3R,5R)−7−[2−(4−フルオロフェニル)−5−イソプロピル−3−フェニル−4−フェニルカルバモイル−1H−ピロル−1−イル]−3,5−ジヒドロキシヘプタン酸)、セリバスタチン(米国特許第5,177,080号:(3R,5S)−エリスロ−(E)−7−[4−(4−フルオロフェニル)−2,6−ジイソプロピル−5−メトキシメチル−ピリジン−3−イル]−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸)、メバスタチン(米国特許第3,983,140号:(+)−(1S,3R,7S,8S,8aR)−1,2,3,7,8,8a−ヘキサヒドロ−7−メチル−8−[2−[(2R,4R)−テトラヒドロ−4−ヒドロキシ−6−オキソ−2H−ピラン−2−イル]エチル]−1−ナフチル(S)−2−メチルブチレート)、ロスバスタチン(米国特許第5,260,440号、日本国特許第2,648,897号:7−[4−(4−フルオロフェニル)−6−イソプロピル−2−(N−メチル−N−メタンスルホニルアミノピリミジン)−5−イル]−(3R,5S)−ジヒドロキシ−(E)−6−ヘプテン酸)、ピタバスタチン(米国特許第5,856,336号、日本国特許第2,569,746号:(3R,5S,6E)−7−[2−シクロプロピル−4−(4−フルオロフェニル)−3−キノリル]−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸、又はそれらの塩等が好ましく、特にピタバスタチン又はその塩が好ましい。
本発明で使用するファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤としては、FTI−276、FTI−277、FPT Inhibitor I、FPT Inhibitor II、FPT Inhibitor III、FTase Inhibitor I、FTase Inhibitor II、FTase Inhibitor III、FTase Inhibitor IV(いずれもCalbiochem社製)等が挙げられる。
また、本発明で使用するゲラニルゲラニルトランスフェラーゼI阻害剤としては、GGTI−286、GGTI−287、GGTI−297、GGTI−298、GGTI−2133、GGTI−2147(いずれもCalbiochem社製)等が挙げられる。
また、本発明で使用するグルコシルトランスフェラーゼとしては、TcdB(Clostridium difficile Toxin B)、Clostridium sordellii haemorrhagic toxin、Clostridium sordellii lethal toxin(いずれもSigma社製)等が挙げられる。
本発明のメバロン酸代謝経路を阻害する物質、中でも前記化合物(1)、そのラクトン体及び該化合物又はラクトン体の塩、あるいはファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤、ゲラニルゲラニルトランスフェラーゼI阻害剤及びグルコシルトランスフェラーゼ等は、ヒト細胞においてLKLF/KLF2のmRNAの発現を有意に促進するので、本発明のLKLF/KLF2遺伝子発現促進方法に有用であり、LKLF/KLF2が関与する疾患の処置、特に血管に関連する疾患の処置に有用である。
またメバロン酸代謝経路を阻害する物質、中でも前記化合物(1)、そのラクトン体及び該化合物又はラクトン体の塩、あるいはファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤、ゲラニルゲラニルトランスフェラーゼI阻害剤及びグルコシルトランスフェラーゼ等を用いれば、LKLF/KLF2が関与する実験系の開発、新規な医薬のスクリーニング等が可能となる。
本発明におけるメバロン酸代謝経路を阻害する物質、中でも前記化合物(1)、そのラクトン体及び該化合物又はラクトン体の塩、あるいはファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤、ゲラニルゲラニルトランスフェラーゼI阻害剤及びグルコシルトランスフェラーゼ等の投与経路としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与又は静脈内注射剤、筋肉内注射剤、坐剤、吸入剤、経皮吸収剤、点眼剤、点鼻剤等による非経口投与が挙げられる。
またこのような種々の剤型の医薬製剤を調製するには、この有効成分を単独で、又は他の薬学的に許容される賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤等を1種又はそれ以上と適宜組み合わせて用いることができる。
これらの投与経路のうち、経口投与が特に好ましい。
例えば前記化合物(1)の経口投与用製剤の調製にあたっては、有効成分の安定性を考慮してpHを調整(特開平2−6406号、日本国特許第2,774,037号、WO97/23200号等)するのが好ましい。
これらの医薬の投与量は、患者の体重、年齢、性別、症状等によって異なるが、通常成人の場合、有効成分を一般式(1)で表される化合物として、一日0.01〜1000mg、特に0.1〜100mgを、1回又は数回に分けて経口投与又は非経口投与するのが好ましい。
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
正常ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を3×10cells/10cm dishに蒔いた2日後に、ピタバスタチンカルシウム(図中Pitと表示)を1.1μmol/Lになるように添加した。コントロールには、ピタバスタチンカルシウムの溶媒であるジメチルスルホキシド(終濃度0.0066v/v%)を添加した。添加後8時間後に、「ISOGEN」(商標名、日本ジーン社製)を用いて全RNAを抽出した。以下の操作は、Affymetrix社の使用手順書に従った。すなわち、得られた全RNAより常法に従い、mRNAを精製し、これを元にcDNAを合成した。さらにin vitro転写によりビオチン標識cRNAを合成し、精製した後、熱処理により断片化し、遺伝子発現解析に用いるための断片化cRNAを調整した。
遺伝子発現解析方法:断片化cRNAを、「Human Genome Focus Array」(商標名、Affymetrix社製)に注入し、45℃、16時間ハイブリダイゼーションを行った。洗浄後、フィコエリスリン標識したストレプトアビジン及びビオチン化ストレプトアビジン抗体による染色を施し、「GeneChipTN用スキャナー」(商標名、Hewlett Packard製)にて遺伝子発現情報を取り込んだ。得られた情報はGENECHIP SOFTWARE(Affymetrix社製)にて解析し、発現量を比較した。
測定結果を図1に示す。
HUVECにおいて、サンプル添加8時間後のLKLF/KLF2遺伝子の発現は、コントロールでは発現量で271であるのに対し、ピタバスタチンカルシウム添加群では761と有意に促進された。また、このピタバスタチンカルシウム添加の効果は、ゲラニルゲラニルピロリン酸(GGPP)10μMの添加によって355まで減少した。従って、その作用機序としてRho因子ファミリーが関与していることが示唆された。
【実施例2】
正常ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を6×10cells/6well plateに蒔いた4日後に、ピタバスタチンカルシウム(1μmol/L、図中Pitと表示)及び、メバロン酸(100μmol/L、図中MVAと表示)、ファルネシルピロリン酸(10μmol/L、図中FPPと表示)、ゲラニルゲラニルピロリン酸(10μmol/L、図中GGPPと表示)またはコレステロール(10μmol/L、図中Choと表示)のメバロン酸及びその各種代謝物を添加した。なおコントロールとして、薬物無添加群(終濃度0.1%のDMSO)を、対照群としてピタバスタチンカルシウム(1μmol/L)単独添加群も用意した。各薬物添加8時間後に「ISOGEN」(商標名、日本ジーン社製)を用いて全RNAを抽出した。得られた全RNAから逆転写酵素を用いてDNAを合成し、以下のプライマーを用いてABI PRISM 7000 Sequence Detection System(Applied Biosystems)で測定した。Kruppel−like factor 2(KLF2):the forward primer(TCTCTCCCACCGGGTCTACAC:配列番号1);the reverse primer(GCAGACAGTACAAATTAAGGCCCTTA:配列番号2)and the TaqMan probe(AGAGGATCGAGGCTTGTGATGCCTTGT:配列番号3)。内部標準:the forward primer(GCTGGAAGTACCAGGCAGTGA:配列番号4);the reverse primer(TCCGGTAGTGGATCTTGGCTTT:配列番号5)and the TaqMan probe(TCTTTCCTCTTCTCCTCCAGGGTGGCT:配列番号6)。
結果を図2に示す。ピタバスタチンカルシウム単独添加群では、対薬物無添加群比693%のLKLF/KLF2遺伝子発現の増加が見られた。この増加は、メバロン酸、ファルネシルピロリン酸、ゲラニルゲラニルピロリン酸の添加により、減少したが、コレステロールには影響されなかった。従って、ピタバスタチンカルシウムによるLKLF/KLF2遺伝子発現の促進は、メバロン酸代謝経路の中でも、最終産物であるコレステロール以外の中間産物により減少することが判明した。
【実施例3】
正常ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を6×10cells/6well plateに蒔いた4日後に、ピタバスタチンカルシウム(1μmol/L、図中Pitと表示)、FTI−276(10μmol/L、図中FTIと表示)、GGTI−286(10μmol/L、図中GGTIと表示)、Clostridium difficile Toxin B(50ng/ml、図中TcdBと表示)の各薬物、及びコントロールとしてDMSO(終濃度0.1%)を添加した。添加24時間後に「ISOGEN」(商標名、日本ジーン社製)を用いて全RNAを抽出した。測定は実施例2と同様に行った。
結果を図3に示す。メバロン酸代謝経路を阻害する各薬物はLKLF/KLF2遺伝子発現に対し、いずれもコントロール比544%〜2157%と強い発現促進作用を示した。
【実施例4】
正常ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を6×10cells/6well plateに蒔いた4日後に、ピタバスタチンカルシウム(0.1,1,10μmol/L、図中Pitと表示)、FTI−276(0.1,1,10μmol/L、図中FTIと表示)、GGTI−286(0.1,1,10μmol/L、図中GGTIと表示)の各薬物、及びコントロールとしてDMSO(終濃度0.1%)を添加した。添加8時間後及び24時間後に「ISOGEN」(商標名、日本ジーン社製)を用いて全RNAを抽出した。測定は実施例2と同様に行った。
図4に示すごとく、メバロン酸代謝経路を阻害する各薬物はLKLF/KLF2遺伝子発現に対し、いずれも濃度依存的な促進作用があることが判明した。
【配列表】




【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
メバロン酸代謝経路を阻害する物質を有効成分とするLKLF/KLF2遺伝子発現促進剤。
【請求項2】
メバロン酸代謝経路を阻害する物質が次の一般式(1)

(式中、Rは有機基を示し、Xは−CHCH−又は−CH=CH−を示し、Rは水素原子又はアルキル基示す)
で表される化合物、そのラクトン体又はそれらの塩である請求項1記載のLKLF/KLF2遺伝子発現促進剤。
【請求項3】
が、置換基を有していてもよいインドリル基、インデニル基、ピリジル基、ピロロピリジル基、ピラゾロピリジル基、チエノピリジル基、ピリミジル基、ピラゾリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、インドリジル基、キノリル基、ナフチル基、ヘキサヒドロナフチル基、シクロヘキシル基、フェニルシリルフェニル基、フェニルチエニル基又はフェニルフリル基である請求項2記載のLKLF/KLF2遺伝子発現促進剤。
【請求項4】
有効成分が、ロバスタチン、プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、セリバスタチン、アトルバスタチン、ロスバスタチン、メバスタチン、ピタバスタチン又はそれらの塩である請求項2記載のLKLF/KLF2遺伝子発現促進剤。
【請求項5】
有効成分が、ピタバスタチン又はその塩である請求項2記載のLKLF/KLF2遺伝子発現促進剤。
【請求項6】
メバロン酸代謝経路を阻害する物質がファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤である請求項1記載のLKLF/KLF2遺伝子発現促進剤。
【請求項7】
メバロン酸代謝経路を阻害する物質がゲラニルゲラニルトランスフェラーゼI阻害剤である請求項1記載のLKLF/KLF2遺伝子発現促進剤。
【請求項8】
メバロン酸代謝経路を阻害する物質がグルコシルトランスフェラーゼである請求項1記載のLKLF/KLF2遺伝子発現促進剤。
【請求項9】
LKLF/KLF2遺伝子発現促進剤製造のためのメバロン酸代謝経路を阻害する物質の使用。
【請求項10】
一般式(1)

(式中、Rは有機基を示し、Xは−CHCH−又は−CH=CH−を示し、Rは水素原子又はアルキル基示す)
で表される化合物、そのラクトン体又はそれらの塩のLKLF/KLF2遺伝子発現促進剤製造のための使用。
【請求項11】
が、置換基を有していてもよいインドリル基、インデニル基、ピリジル基、ピロロピリジル基、ピラゾロピリジル基、チエノピリジル基、ピリミジル基、ピラゾリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、インドリジル基、キノリル基、ナフチル基、ヘキサヒドロナフチル基、シクロヘキシル基、フェニルシリルフェニル基、フェニルチエニル基又はフェニルフリル基である請求項10記載の使用。
【請求項12】
有効成分が、ロバスタチン、プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、セリバスタチン、アトルバスタチン、ロスバスタチン、メバスタチン、ピタバスタチン又はそれらの塩である請求項10記載の使用。
【請求項13】
有効成分が、ピタバスタチン又はその塩である請求項10記載の使用。
【請求項14】
LKLF/KLF2遺伝子発現促進剤製造のためのファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤の使用。
【請求項15】
LKLF/KLF2遺伝子発現促進剤製造のためのゲラニルゲラニルトランスフェラーゼI阻害剤の使用。
【請求項16】
LKLF/KLF2遺伝子発現促進剤製造のためのグルコシルトランスフェラーゼの使用。
【請求項17】
メバロン酸代謝経路を阻害する物質の有効量を投与することを特徴とするLKLF/KLF2遺伝子発現促進方法。
【請求項18】
メバロン酸代謝経路を阻害する物質が次の一般式(1)

(式中、Rは有機基を示し、Xは−CHCH−又は−CH=CH−を示し、Rは水素原子又はアルキル基示す)
で表される化合物、そのラクトン体又はそれらの塩である請求項17記載のLKLF/KLF2遺伝子発現促進方法。
【請求項19】
が、置換基を有していてもよいインドリル基、インデニル基、ピリジル基、ピロロピリジル基、ピラゾロピリジル基、チエノピリジル基、ピリミジル基、ピラゾリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、インドリジル基、キノリル基、ナフチル基、ヘキサヒドロナフチル基、シクロヘキシル基、フェニルシリルフェニル基、フェニルチエニル基又はフェニルフリル基である請求項18記載の方法。
【請求項20】
有効成分が、ロバスタチン、プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、セリバスタチン、アトルバスタチン、ロスバスタチン、メバスタチン、ピタバスタチン又はそれらの塩である請求項18記載の方法。
【請求項21】
有効成分が、ピタバスタチン又はその塩である請求項18記載の方法。
【請求項22】
メバロン酸代謝経路を阻害する物質がファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤である請求項17記載のLKLF/KLF2遺伝子発現促進方法。
【請求項23】
メバロン酸代謝経路を阻害する物質がゲラニルゲラニルトランスフェラーゼI阻害剤である請求項17記載のLKLF/KLF2遺伝子発現促進方法。
【請求項24】
メバロン酸代謝経路を阻害する物質がグルコシルトランスフェラーゼである請求項17記載のLKLF/KLF2遺伝子発現促進方法。

【国際公開番号】WO2004/091660
【国際公開日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【発行日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505426(P2005−505426)
【国際出願番号】PCT/JP2004/005316
【国際出願日】平成16年4月14日(2004.4.14)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】