説明

LPG用水蒸気改質触媒の製造方法及びLPG用水蒸気改質触媒

【課題】 低温領域で活性に優れた液化石油ガス用の水蒸気改質触媒を提供する。
【解決手段】 活性金属となるルテニウム化合物と添加物となるニッケル化合物と溶解させた混合液と触媒担体となる粉体のアエロジルアルミナを懸濁させた懸濁液とを混合させ、この混合物を乾燥させた後、顆粒状に整粒し、この整粒したものを所定温度以上の温度雰囲気下で水素ガス気流により還元処理した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化石油ガス(LPG)の水蒸気改質に使用するのに適した触媒の製造方法及び触媒に関し、特に低温領域での活性に優れたLPG用水蒸気改質触媒の製造方法及び触媒を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
ルテニウム含有の触媒は、高活性且つ低スチーム/カーボン比の運転条件下でも耐炭素析出性に優れるという優れた触媒性能を示すことから、近年、炭化水素の水蒸気改質に多用されている。
【0003】
ルテニウム含有触媒に関しては、ジルコニア担体にルテニウムを担持させた触媒(特許文献1)や、アルミナを担体とし、ジルコニアゾルを前駆体とするジルコニアを助触媒として坦持してなり、かつルテニウムを活性成分として含有してなる触媒(特許文献2)、あるいは、ルテニウム化合物、ジルコニウム化合物及びアルカリ土類金属または希土類元素の化合物を含有する溶液を担体に接触させることにより、ルテニウム成分を担体上でジルコニウム成分の近傍に高分散状態に担持させたもの(特許文献3)等が提案されている。
【特許文献1】特開平2−002879号公報
【特許文献2】特開平5−220397号公報
【特許文献3】特開平8−196907号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
炭化水素、特に液化石油ガスの水蒸気改質により水素製造を行う場合、製造プロセスの省エネルギー化・高耐久性が望まれる。従来の改質触媒では、その平衡組成を超えた水素濃度の改質ガスを得るのは難しいとされ、所定の高濃度水素の改質ガスを得るためには、600℃を超える温度領域で改質を行う必要があるととともに、システムの閉塞化を引き起こす炭素析出を抑制するために、スチーム/カーボン(S/C)比を3.0以上にする必要がある。その結果、改質のための投入熱量を少なくして省エネルギー化を図ることが難しい。また、水素分離膜型改質器においては、600℃を超えると、分離膜の耐久性が著しく低下するという問題がある。
【0005】
このような点に着目して、本発明は、低温領域で活性に優れた液化石油ガス用の水蒸気改質触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の本発明は、LPG用水蒸気改質触媒の製造するにあたり、活性金属となるルテニウム化合物と添加物となるニッケル化合物と溶解させた混合液と触媒担体となる粉体のアエロジルアルミナを懸濁させた懸濁液とを混合させ、この混合物を乾燥させた後、顆粒状に整粒し、この整粒したものを所定温度以上の温度雰囲気下で水素ガス気流により還元処理したことを特徴としている。
【0007】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1の構成に加えて、ニッケル化合物とともに第2添加物としてリチウム化合物を添加してアエロジルアルミナを溶液に溶解混合させるようにしたことを特徴とし、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載した発明でのルテニウム化合物の混合割合が0.5〜1.0wt%、ニッケル化合物の混合割合が0.5〜1.0wt%であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、活性金属となるルテニウム化合物と添加物となるニッケル化合物と溶解させた混合液と触媒担体となる粉体のアエロジルアルミナを懸濁させた懸濁液とを混合させ、この混合液を乾燥・整粒し、所定温度以上の温度雰囲気で水素ガスによる還元処理を施して、LPG用水蒸気改質触媒を得るようにしていることから、活性金属をより高分散の状態で担体に坦持させることができる。
【0009】
上述の方法で形成された本発明のLPG用水蒸気改質触媒では、水蒸気改質の逐次反応としておきる一酸化炭素及び二酸化炭素のメタン化を抑制することができ、従来の改質触媒を用いた水蒸気改質の平衡組成よりも高い濃度の水素を得ることができる。このことから、より低い温度で改質を行うことができるようになり、改質工程での投入熱量の低減を図ることができ、省エネルギーを図ることができるとともに、改質器に用いている水素分離膜への熱のダメージを減少化させて、水素分離膜の長寿命化を図ることができる。
【0010】
また、上述の方法で形成された本発明のLPG用水蒸気改質触媒では、従来の触媒よりも小さなS/C比で改質することができることから、蒸気化のために要する熱量を小さくすることができ、省エネルギーを図ることができる。
【0011】
さらに、上述の方法で形成された本発明のLPG用水蒸気改質触媒では、空間速度(SV)値を上げると水素濃度を上げることができる。これにより、触媒量の削減も見込むことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、本発明に係るLPG用水蒸気改質触媒製造方法の手順を説明するフローである。
まず、活性金属であるルテニウム化合物と添加物であるニツケル化合物とをイオン交換水に溶解させる操作(S1)と、担体となる表面積100cm/g程度の粉体からなるアエロジルアルミナをイオン交換水に懸濁させた後に一旦沸騰させ、しかる後に所定温度(80℃)程度に冷却する操作(S2)とを並行して行う。
【0013】
次に、ルテニウム化合物とニツケル化合物が溶解しているイオン交換水と、アエロジルアルミナを懸濁させた後に一旦沸騰し、さらに冷却させたイオン交換水とを混合し(S3)、この混合溶液を蒸発させて固結させる(S4)。
【0014】
ついで、固結した固結物をさらに60℃程度の温度で加熱乾燥させ(S5)、乾燥物を顆粒状に整粒する(S6)。
【0015】
この整粒された顆粒状物をさらに、550℃以上の温度雰囲気のもとで水素ガスを2時間流して還元処理を施し(S7)、LPG用水蒸気改質触媒を得る。
【実施例1】
【0016】
ルテニウム化合物としての塩化ルテニウムを0.24088gとニッケル化合物としての硝酸ニッケルとを0.50558gを50mlのイオン交換水に溶解させたものを用意する。他方、9.8gのアエロジルアルミナを250mlのイオン交換水に懸濁させたのちに一旦沸騰させ、しかる後、80℃程度に冷却したものを用意する。
【0017】
このルテニウム化合物とニッケル化合物とを溶解してなるイオン交換水と、アエロジルアルミナを懸濁後、加熱−冷却した溶液とを混合して、充分攪拌混合したのち、水分を蒸発させて、ルテニウム化合物とニッケル化合物とをアエロジルアルミナに分散させた状態で固結する。
【0018】
水分を蒸発させた固結物を60℃程度の温度に設定した乾燥器内で6時間乾燥させた後、粒径1.4〜2.0mm程度の顆粒状に整粒する。この整粒したものを600℃以上の温度雰囲気内で40cc/min程度の流速に設定した水素ガスと5時間作用させて、還元処理して触媒を得る。この触媒の組成としては、活性金属のルテニウムが1wt%、添加物であるニツケルが1wt%含まれたものとなっている。なお、この還元処理時に、ルテニウムとニッケルとが合金化しているとおもわれる。
【0019】
図2は、水蒸気改質器の試験装置である。
この試験装置は、内部に改質触媒(1)を収容する内筒(2)と、この内筒(2)を加熱すヒータ(3)とで構成してあり、内筒(2)の内部に触媒ストッパー(4)をストッパー支持筒(5)を介して支持することで、改質触媒収容部(6)を形成している。図中符号(7)は改質触媒収容部(6)の流入側に充填した石英ウール、符号(8)は導出ガス路(9)に配置した再凝縮装置、符号(10)は触媒層の温度を検出する熱電対で構成した温度検出器、符号(11)は内筒外の温度を検出する温度検出器である。なお、前記触媒ストッパー(4)とストッパー支持筒(5)とは、いずれもステンレス製メッシュ板で構成してある。
【0020】
上述の方法で作成した水蒸気改質用触媒を上記試験装置に充填し、プロパンガスと水蒸気とを、空間速度:2,000/h、圧力:0.53MPaG、S/C:2.8の条件を維持した試験装置に温度変化させて流通させ、導出した水素ガスの濃度を測定した。その結果を表1に示す。
比較例として、粒状アルミナを担体とし、活性金属として5%のルテニウムを含む触媒を使用した場合について、導出した水素ガスの濃度を測定した。ちなみに、同じ温度条件下での平衡状態での水素ガス濃度とも比較した。
【0021】
【表1】

【0022】
そして、経過時間と水素濃度との関係を図3に示す。
【0023】
この結果、本発明に係る触媒では、各温度帯で1〜1.5%程度水素濃度が上がっていることが確認できた。ちなみに、導出ガスでの一酸化炭素濃度が本発明触媒を使用したものでは、平衡状態での一酸化炭素濃度よりも、約1%程度高い値を示した。これは、本発明に係る触媒がメタネーション反応を抑制しているためと考えられる。
【0024】
以上の結果、同等の水素濃度を得るのに、本発明に係る触媒では処理温度の低温化を図ることができる。そして、処理温度の低温化は投入熱量の削減に寄与できる上、水素分離膜の耐久性を向上を図ることができる。
また、本発明に係る触媒では、ルテニウム含有量が従来のルテニウム含有触媒に較べて1/5程度となっているので、高価なルテニウムの量を削減することができる。
【0025】
また、空間速度の水素濃度に与える影響を調べるために、空間速度を変化させ、処理温度:600℃、圧力:0.53MPaG、S/C:2.8の条件を維持した試験装置に温度変化させて流通させ、導出した水素ガスの濃度を測定した。その結果を表2に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
この結果、従来のルテニウム含有水蒸気改質用触媒を用いた場合には、空間速度に変化にかかわらず、水素濃度は一定であるのに対し、本発明に係る触媒では、空間速度が上昇すると、水素濃度が上昇することが確認された。これにより、同等の水素濃度を得るのに、触媒量を削減でき、水蒸気改質に要する費用のコストダウンを図ることができる。
【0028】
上記の実施例では、触媒の組成として、活性金属のルテニウムが1wt%、添加物であるニツケルが1wt%含んだものについて説明したが、ルテニウムの混合割合としては0.5〜1.0wt%、ニッケル化合物の混合割合が0.5〜1.0wt%の範囲であれば、上述の作用効果を奏することができる。また、第2の添加物として、リチウム化合物を上限0.5wt%程度添加するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、液化石油ガスを原料とする水素製造技術に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係るLPG用水蒸気改質触媒製造方法の手順を説明するフローである。
【図2】水蒸気改質器の試験装置を示す図である。
【図3】水素濃度と経過時間との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性金属となるルテニウム化合物と添加物となるニッケル化合物と溶解させた混合液と触媒担体となる粉体のアエロジルアルミナを懸濁させた懸濁液とを混合させ、この混合物を乾燥させた後、顆粒状に整粒し、この整粒したものを所定温度以上の温度雰囲気下で水素ガス気流により還元処理したことを特徴とするLPG用水蒸気改質触媒の製造方法。
【請求項2】
ニッケル化合物とともに第2添加物としてリチウム化合物を添加してアエロジルアルミナを溶液に溶解混合させるようにした請求項1に記載のLPG用水蒸気改質触媒の製造方法。
【請求項3】
ルテニウム化合物の混合割合が0.5〜1.0wt%、ニッケル化合物の混合割合が0.5〜1.0wt%である請求項1または2に記載のLPG用水蒸気改質触媒の製造方法。
【請求項4】
リチウム化合物の混合割合が0.1〜0.5wt%である請求項2に記載のLPG用水蒸気改質触媒の製造方法。
【請求項5】
ルテニウム化合物が塩化ルテニウムであり、ニッケル化合物が硝酸ニッケルである請求項1〜4に記載のLPG用水蒸気改質触媒の製造方法。
【請求項6】
触媒担体となるアエロジルアルミナに活性金属となるルテニウム化合物と添加物となるニッケル化合物とを担持させてなるLPG用水蒸気改質触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−220082(P2009−220082A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−70577(P2008−70577)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、共同研究「高耐久性メンブレン型LPガス改質装置の開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000158312)岩谷産業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】