説明

LYNキナーゼの活性化剤の同定方法

本発明は、試験化合物をlynキナーゼの存在下でプレインキュベートし;ATP及び基質をlynキナーゼ及び試験化合物に添加し;試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質をインキュベートし;そして基質のリン酸化レベルを測定し、それによって基質のリン酸化レベルにおける増加が、試験化合物がlynキナーゼの活性化剤であることを示すことを含む、lynキナーゼの活性化剤の同定方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、lynキナーゼの活性化剤の同定方法及びそれに関連するキットに関する。
【背景技術】
【0002】
Lynキナーゼは、B−リンパ性及び骨髄性細胞において主に発現される非受容体タンパク質チロシンキナーゼのsrcファミリーのメンバーである。例えば、参照により本明細書に組み込まれる非特許文献1を参照のこと。Lynは、内因性チロシンキナーゼ活性がない細胞表面受容体からのシグナル伝達に関与している。IL−6によって刺激されるCD45+骨髄腫細胞の増殖には、lynキナーゼ活性の活性化が必要である。例えば、参照により本明細書に組み込まれる非特許文献2を参照のこと。糖タンパク質VIのプロリンリッチドメインによるlyn及びfynの結合は、細胞内シグナル伝達を制御する。例えば、参照により本明細書に組み込まれた非特許文献3を参照のこと。lyn/CD22/SHP―1経路は、自己免疫において重要である。例えば、参照により本明細書に組み込まれる非特許文献4を参照のこと。
【0003】
肥満、高脂血症及び糖尿病は、例えばアテローム硬化型の心臓血管疾患を含む種々の障害において原因となる役割を果たすことが示されており、それは現在、西欧社会における罹病率のうちのかなりの比率を占めている。「シンドロームX」又は「代謝症候群」と称するヒト障害は、グルコース代謝の欠陥(例えばインスリン抵抗性)、血圧の上昇(すなわち高血圧)、及び血液脂質の不均衡(すなわち脂質異常症)によって現れる。例えば非特許文献5を参照のこと。
【0004】
lynキナーゼを調節する又は上昇したグルコースレベルを管理するために現在商業的に入手可能な薬物は、いずれも血液中の脂質、リポ蛋白、インスリン及びグルコースレベルの制御において一般的な有用性がない。従って、これらの有用性の1つ又はそれ以上を有する化合物が、必要であることは明らかである。さらにまた、血清コレステロールの低下、HDL血清レベルの上昇、冠動脈性心疾患の予防、及び/又は既存の疾患、例えばアテローム性動脈硬化症、肥満、糖尿病、及びグルコース代謝及び/又はグルコースレベルの上昇に影響を受ける他の疾患の治療に有効であるより安全な薬物を開発する必要があることは明白である。従って、lynキナーゼの活性化剤を同定するアッセイは、大いに望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Briggs SD, Lerner EC, Smithgall TE: Affinity Of Src Family Kinase SH3 Domains For HIV Nef In Vitro Does Not Predict Kinase Activation By Nef In Vivo. Biochemistry 39: 489-495 (2000)
【非特許文献2】Ishikawa H, Tsuyama N, Abroun S, Liu S, Li FJ, Taniguchi O, Kawano MM: Requirements of src family kinase activity associated with CD45 for myeloma cell proliferation by interleukin-6. Blood 99: 2172-2178 (2002)
【非特許文献3】Suzuki-Inoue K, Tulasne D, Shen Y, Bori-Sanz T, Inoue O, Jung SM, Moroi M, Andrews RK, Berndt MC, Watson SP: Association of Fyn and Lyn with the proline-rich domain of glycoprotein VI regulates intracellular signaling. J. Biol. Chem. 277: 21561-21566 (2002)
【非特許文献4】Blasioli J, Goodnow CC: Lyn/CD22/SHP-1 and their importance in autoimmunity. Curr. Dir. Autoimmun. 5: 151-160 (2002)
【非特許文献5】Reaven, 1991, Annu. Rev. Med. 44: 121-131
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、試験化合物をlynキナーゼの存在下でプレインキュベートし;ATP及び基質をlynキナーゼ及び試験化合物に添加し;試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質をインキュベートし;そして基質のリン酸化レベルを測定し、それによって基質のリン酸化レベルにおける増加が、試験化合物がlynキナーゼの活性化剤であることを示すことを含む、lynキナーゼの活性化剤の同定方法を提供する。
【0007】
いくつかの実施態様では、試験化合物をlynキナーゼの存在下で約5分〜約120分プレインキュベートする。いくつかの実施態様では、試験化合物をlynキナーゼの存在下で約30分〜約90分プレインキュベートする。いくつかの実施態様では、試験化合物をlynキナーゼの存在下で約45分〜約75分プレインキュベートする。いくつかの実施態様では、試験化合物をlynキナーゼの存在下で約60分プレインキュベートする。いくつかの実施態様では、試験化合物をlynキナーゼの存在下で20〜40分プレインキュベートする。いくつかの実施態様では、試験化合物をlynキナーゼの存在下、約0℃〜約30℃でプレインキュベートする。いくつかの実施態様では、試験化合物をlynキナーゼの存在下、約0℃〜約10℃でプレインキュベートする。いくつかの実施態様では、試験化合物をlynキナーゼの存在下、約4℃でプレインキュベートする。
【0008】
いくつかの実施態様において、lynキナーゼの濃度は約10ng/ml〜約500ng/mlである。いくつかの実施態様において、lynキナーゼの濃度は約25ng/ml〜約300ng/mlである。
【0009】
いくつかの実施態様において、ATPの濃度は約5μM〜約25μMである。いくつかの実施態様において、ATPの濃度は約10μMである。
【0010】
いくつかの実施態様において、ATPは放射性標識化されている。
【0011】
いくつかの実施態様において、基質はチロシンを含むタンパク質又はペプチドである。いくつかの実施態様において、基質はチロシンを含む合成FRETペプチドである。
【0012】
いくつかの実施態様では、試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質をほぼ室温で約5分〜約90分インキュベートする。いくつかの実施態様では、試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質をほぼ室温で約30分〜約75分インキュベートする。いくつかの実施態様では、試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質をほぼ室温で約45分〜約60分インキュベートする。いくつかの実施態様では、試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質をほぼ室温で約60分インキュベートする。いくつかの実施態様では、試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質を室温で約30〜50分インキュベートする。
【0013】
いくつかの実施態様において、基質のリン酸化レベルには、放射性標識化された基質を定量的に又は定性的に測定することが含まれる。いくつかの実施態様において、基質のリン酸化レベルの測定には、合成FRETペプチド基質の蛍光を定量的に又は定性的に測定することが含まれる。
【0014】
いくつかの実施態様では、約0.05%〜約0.25%ウシ血清アルブミン、約0.5mM〜約2.5mMジチオスレイトール、約0.05%〜約0.25%ウシ血清アルブミン及び約0.5mM〜約2.5mMジチオスレイトール、又は約0.05%〜約0.25%β−メルカプトエタノールの存在下で試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質のインキュベーションを行う。いくつかの実施態様では、約0.05%〜約0.25%β−メルカプトエタノールの存在下で試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質のインキュベーションを行う。いくつかの実施態様では、約0.1%β−メルカプトエタノールの存在下で試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質のインキュベーションを行う。
【0015】
いくつかの実施態様では、試験化合物をlynキナーゼの存在下で約5分〜約120分プレインキュベートし;試験化合物をlynキナーゼの存在下、約0℃〜約30℃でプレインキュベートし;そして試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質を約0.05%〜約0.25%β−メルカプトエタノールの存在下、ほぼ室温で約5分〜約90分インキュベートする。
【0016】
いくつかの実施態様では、試験化合物をlynキナーゼの存在下で約30分〜約90分プレインキュベートし;試験化合物をlynキナーゼの存在下、約0℃〜約10℃でプレインキュベートし;そして試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質を約0.05%〜約0.25%β−メルカプトエタノールの存在下、ほぼ室温で約30分〜約75分インキュベートする。
【0017】
いくつかの実施態様では、試験化合物をlynキナーゼの存在下で約45分〜約75分プレインキュベートし;試験化合物をlynキナーゼの存在下、約4℃でプレインキュベートし;そして試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質を約0.1%β−メルカプトエタノールの存在下、ほぼ室温で約45分〜約60分インキュベートする。
【0018】
いくつかの実施態様では、試験化合物をlynキナーゼの存在下で約60分プレインキュベートし;試験化合物をlynキナーゼの存在下、約4℃でプレインキュベートし;そして試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質を約0.1%β−メルカプトエタノールの存在下、ほぼ室温で約60分インキュベートする。
【0019】
いくつかの実施態様において、試験化合物は、式II
【化1】

(式中、
1は、アルキル基であり;Xは、ハロゲンであり;Yは、O、S又はNHであり;Zは、O又はSであり;nは、0〜5の整数であり、そしてmは0又は1であり、ここにおいて、m+nは5よりも少ないか又は等しい)の化合物である。いくつかの実施態様において、アルキル基はメチルであり、そしてnは1である。いくつかの実施態様において、ハロゲンは塩素であり、そしてmは1である。いくつかの実施態様において、YはOである。いくつかの実施態様において、ZはOである。いくつかの実施態様において、R1はメチルであり、YはOであり、ZはOであり、nは1であり、そしてmは0である。いくつかの実施態様において、R1はメタ位にある。いくつかの実施態様において、Xは塩素であり、YはOであり、ZはOであり、nは0であり、そしてmは1である。いくつかの実施態様において、Xはメタ位にある。
【0020】
いくつかの実施態様において、試験化合物は
【化2】

である。
【0021】
また、本発明は、本明細書に記載されたいずれか1つ又はそれ以上の方法を実施するためのlynキナーゼ、ATP、基質及び説明書を含むキットを提供する。いくつかの実施態様においいて、キットはインキュベーション室を更に含む。
【0022】
また、本発明は、式I
【化3】

(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6及びR7のそれぞれは、独立して水素、アルコキシ、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アリールオキシ、ベンジル、シクロアルキル、ハロゲン、ヘテロアリール、ヘテロシクロアルキル、−CN、−OH、−NO2、−CF3、−CO2H、−CO2アルキル、又は−NH2であり;R8は、アルキル又は水素であり;Xは、O、S、NH又はN−アルキルであり;そしてZはO又はSである)の第一の化合物又はその医薬上許容しうる塩;及び下の表に記載された化合物から選ばれる1つ又はそれ以上の第二の化合物又はその医薬上許容しうる塩を含む組成物を含む。
【0023】
いくつかの実施態様において、第一の化合物は、式II
【化4】

(式中、
1は、アルキル基であり;Xは、ハロゲンであり;Yは、O、S又はNHであり;Zは、O又はSであり;そしてnは1〜5の整数であり、そしてmは0又は1であり、ここにおいてm+nは5より少ないか又は等しい)である。
【0024】
また、本発明は、本明細書に記載された組成物の治療上有効量を治療の必要なヒトに投与することを含む、ヒトにおける糖尿病の治療方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】化合物102とメトホルミンとの相乗効果を説明する。
【0026】
発明の説明
本明細書に使用されるように、用語「約」は、それが修飾する値の±10%を意味する。例えば、「約10」は、9〜11を意味する。
【0027】
本明細書に使用されるように、用語「アルコキシ」は、−O−アルキル基を意味し、ここにおいて、アルキルは本明細書に定義されたとおりである。アルコキシ基は非置換又は1若しくは2個の適切な置換基で置換されることができる。いくつかの実施態様において、アルキルオキシ基のアルキル鎖は、長さにおいて炭素原子1〜6個であり、本明細書において、例えば「(C1−C6)アルコキシ」と称する。
【0028】
本明細書に使用されるように、用語「アルケニル」は、その中に1つ又はそれ以上の二重結合を有する一価の非分枝又は分枝鎖炭化水素鎖を意味する。アルケニル基の二重結合は、非共役又は別の不飽和基に共役することができる。適切なアルケニル基としては、(C2−C6)アルケニル基、例えばビニル、アリル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ブタジエニル、ペンタジエニル、ヘキサジエニル、2−エチルヘキセニル、2−プロピル−2−ブテニル、4−(2−メチル3−ブテン)−ペンテニルが含まれるが、これらに制限されるわけではない。アルケニル基は非置換又は1若しくは2個の適切な置換基で置換されることができる。
【0029】
本明細書に使用されるように、用語「アルキル」は、飽和した一価の非分枝又は分枝炭化水素鎖を意味する。アルキル基の例としては、(C1−C6)アルキル基、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、2−メチル−1−プロピル、2−メチル−2−プロピル、2−メチル−1−ブチル、3−メチル−1−ブチル、2−メチル−3−ブチル、2,2−ジメチル−1−プロピル、2−メチル−1−ペンチル、3−メチル−1−ペンチル、4−メチル−1−ペンチル、2−メチル−2−ペンチル、3−メチル−2−ペンチル、4−メチル−2−ペンチル、2,2−ジメチル−1−ブチル、3,3−ジメチル−1−ブチル、2−エチル−1−ブチル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル及びヘキシル、並びにより長いアルキル基、例えばヘプチル及びオクチルが含まれるが、これらに制限されるわけではない。アルキル基は非置換又は1若しくは2個の適切な置換基で置換されることができる。
【0030】
本明細書に使用されるように、用語「アルキニル」は、その中に1つ又はそれ以上の三重結合を有する一価の非分枝又は分枝炭化水素鎖を意味する。アルキニル基の三重結合は、非共役又は別の不飽和基に共役することができる。適切なアルキニル基としては、(C2−C6)アルキニル基、例えばエチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル、メチルプロピニル、4−メチル−1−ブチニル、4−プロピル−2−ペンチニル及び4−ブチル−2−ヘキシニルが含まれるが、これらに制限されるわけではない。アルキニル基は非置換又は1若しくは2個の適切な置換基で置換されることができる。
【0031】
本明細書に使用されるように、用語「アリール」は、炭素及び水素原子を含む単環式又は多環式芳香族基を意味する。適切なアリール基の例としては、フェニル、トリル、アンタセニル、フルオレニル、インデニル、アズレニル及びナフチル、並びにベンゾ縮合した炭素環式部分、例えば5,6,7,8−テトラヒドロナフチルが含まれるが、これらに制限されるわけではない。アリール基は非置換又は1若しくは2個の適切な置換基で置換されることができる。いくつかの実施態様において、アリール基は、環が6個の炭素原子を含む単環式環であり、本明細書では「(C6)アリール」と称する。
【0032】
本明細書に使用されるように、用語「アリールオキシ」は、−O−アリール基を意味し、ここにおいて、アリールは本明細書に定義されたとおりである。アリールオキシル基は非置換又は1若しくは2個の適切な置換基で置換されることができる。いくつかの実施態様において、アリールオキシル基のアリール環は、環が6個の炭素原子を含む単環式環であり、本明細書では「(C6)アリールオキシ」と称する。
【0033】
本明細書に使用されるように、用語「ベンジル」は−CH2−フェニルを意味する。本明細書に使用されるように、用語「カルボニル」は、式−C(O)−の二価基である。
【0034】
本明細書に使用されるように、成句「本発明の化合物」は、式I及びIIの化合物、並びにそれらの医薬上許容しうる塩をひとまとめにして意味する。本発明の化合物は、本明細書においてその化学構造及び/又は化学名によって同定される。化合物は化学構造及び化学名の両方で記載されており、その化学構造と化学名とが矛盾する場合、化学構造により化合物の独自性が決まる。本発明の化合物は、1つ又はそれ以上のキラル中心及び/又は二重結合を含んでもよく、そのため立体異性体、例えば二重結合異性体(すなわち幾何異性体)、鏡像異性体又はジアステレオマーとして存在する。本発明によれば、本明細書に示された化学構造、つまり、本発明の化合物は、対応する化合物の鏡像異性体及び立体異性体の全て、すなわち、立体異性的に純粋な(例えば、幾何学的に純粋な、鏡像体的に純粋な、又はジアステレオマー的に純粋な)形態並びに鏡像異性及び立体異性混合物の両方を包含する。鏡像異性及び立体異性混合物は、よく知られた方法、例えばキラル相ガスクロマトグラフィ、キラル相高性能液体クロマトグラフィ、キラル塩錯体として化合物を結晶化させること、又はキラル溶媒中で化合物を結晶化させることによってそれらの成分の鏡像異性体又は立体異性体に分割することができる。また、鏡像異性体及び立体異性体は、立体異性的に又は鏡像体的に純粋な中間体、試薬及び触媒からよく知られた不斉合成方法によって得ることができる。本明細書に記載された同定方法に用いるとき、本明細書では、本発明の化合物を試験化合物と称する(それは、このような方法において正の対照として用いることもできる)。
【0035】
本明細書に使用されるように、用語「シクロアルキル」は、炭素及び水素原子を含み、そして炭素−炭素多重結合を持たない単環式又は多環式飽和環を意味する。シクロアルキル基の例としては、(C3−C7)シクロアルキル基、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル及びシクロヘプチル、及び飽和環式及び二環式テルペンが含まれるが、これらに制限されるわけではない。シクロアルキル基は非置換又は1若しくは2個の適切な置換基によって置換されることができる。いくつかの実施態様において、シクロアルキル基は単環式環又は二環式環である。
【0036】
本明細書に使用されるように、用語「糖尿病」及び成句「II型糖尿病」は、同じ意味で用いられ、インスリン非依存性糖尿病、尿崩症が含まれるが、これらに制限されるわけではなく、そしてインスリン抵抗性と関連があり(すなわち適切にインスリンに反応する身体能力の欠如)、そして例えば、肥満及び高コレステロールを含む関連する合併症を伴うことが多い。
【0037】
本明細書に使用されるように、用語「ハロゲン」はフッ素、塩素、臭素又はヨウ素を意味する。対応して、用語「ハロ」及び「Hal」の意味には、フルオロ、クロロ、ブロモ及びヨードが包含される。
【0038】
本明細書に使用されるように、用語「ヘテロアリール」は、炭素原子、水素原子、並びに窒素、酸素及び硫黄から独立して選ばれる1つ又はそれ以上のヘテロ原子、例えば1〜3個のヘテロ原子を含む単環式又は多環式芳香族環を意味する。ヘテロアリール基の具体的な例としては、ピリジニル、ピリダジニル、ピリミジル、ピラジル、トリアジニル、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、(1,2,3)−及び(1,2,4)−トリアゾリル、ピラジニル、ピリミジニル、テトラゾリル、フリル、チエニル、イソオキサゾリル、チアゾリル、フリル、フィエニル(phienyl)、イソオキサゾリル、並びにオキサゾリルが含まれるが、これらに制限されるわけではない。ヘテロアリール基は非置換又は1若しくは2個の適切な置換基で置換されることができる。いくつかの実施態様において、ヘテロアリール基は、環が2〜5個の炭素原子及び1〜3個のヘテロ原子を含む単環式環であり、本明細書では「(C2−C5)ヘテロアリールと称する。
【0039】
本明細書に使用されるように、用語「ヘテロシクロアルキル基」は、炭素及び水素原子、並びに窒素、酸素及び硫黄から選ばれる少なくとも1つのヘテロ原子又は1〜3個のヘテロ原子を含み、そして不飽和を有していない単環式又は多環式環を意味する。ヘテロシクロアルキル基の例としては、ピロリジニル、ピロリジノ、ピペリジニル、ピペリジノ、ピペラジニル、ピペラジノ、モルホリニル、モルホリノ、チオモルホリニル、チオモルホリノ及びピラニルが含まれるが、これらに制限されるわけではない。ヘテロシクロアルキル基は非置換又は1若しくは2個の適切な置換基で置換されることができる。いくつかの実施態様において、ヘテロシクロアルキル基は、環が3〜6個の炭素原子及び1〜3個のヘテロ原子を含む単環式又は二環式環であり、本明細書では(C1−C6)ヘテロシクロアルキルと称する。
【0040】
本明細書に使用されるように、成句「複素環式基」又は「複素環式環」は、ヘテロシクロアルキル基又はヘテロアリール基を意味する。
【0041】
本明細書に使用されるように、用語「ヒドロカルビル」は、場合により1又は2個の適切な置換基で置換された(C1−C8)アルキル、(C2−C8)アルケニル及び(C2−C8)アルキニルから選ばれる一価の基を意味する。いくつかの実施態様において、ヒドロカルビル基の炭化水素鎖は、長さにおいて1〜6個の炭素原子であり、本明細書では「(C1−C6)ヒドロカルビル」と称する。
【0042】
本明細書に使用されるように、用語「フェニル」は、−C65を意味する。フェニル基は、非置換又は1若しくは2個の適切な置換基で置換されることができる。
【0043】
本明細書に使用されるように、成句「糖尿病前症」は、患者が高いグルコースレベルを示しているが、II型糖尿病に関する障害自体をまだ完全に発症していない糖尿病の症状のことである。
【0044】
本明細書に使用されるように、成句「適切な置換基」は、本発明の化合物又はその製造に有用な中間体の合成又は医薬有用性を損なわない基を意味する。適切な置換基の例としては、(C1−C8)アルキル;(C1−C8)アルケニル;(C1−C8)アルキニル;(C6)アリール;(C3−C5)ヘテロアリール;(C3−C7)シクロアルキル;(C1−C8)アルコキシ;(C6)アリールオキシ;−CN;−OH;オキソ;ハロ、−NO2、−CO2H;−NH2;−NH((C1−C8)アルキル);−N((C1−C8)アルキル)2;−NH((C6)アリール);−N((C6)アリール)2;−CHO;−CO((C1−C8)アルキル);−CO((C6)アリール);−CO2((C1−C8)アルキル);及び−CO2((C6)アリール)が含まれるが、これらに制限されるわけではない。当業者は、本発明の化合物の安定性並びに薬理学的及び合成活性に基づいて適切な置換基を容易に選ぶことができる。
【0045】
本明細書に使用されるように、そして特に明記しない限り、本発明の組成物の「治療上有効量」という成句は、障害の少なくとも1つの有害な効果が改善又は緩和される本発明の化合物の治療上の有効性によって決定される。一実施態様において、本発明の組成物の「治療上有効量」という成句は、制限されるわけではないが、このタンパク質の上方及び下方制御を含むlynキナーゼの発現及び/又は活性を変化させる本発明の化合物の治療上の有効性によって決定される。驚くべきことに、本発明者らは、本発明の化合物の治療上有効量がlynキナーゼの発現及び/又は活性を上方制御することを見出した。
【0046】
化合物又はその医薬上許容しうる塩が、本明細書に記載された方法に使用されるとき、単離された形態、精製された形態のいずれか、又は化合物の混合物として用いられる。本明細書に使用されるように、「単離された」は、化合物が、天然供給源、例えば植物若しくは細胞、好ましくは細菌性培養物、又は合成有機化学反応混合物のいずれか他の成分から慣用の技術によって分離されることを意味する。本明細書に使用されるように、「精製された」は、単離したときに、単離物が単離物の質量によって化合物少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、又は少なくとも99%を含むことを意味する。
【0047】
本明細書に使用されるように、成句「医薬上許容しうる塩」には、本方法に用いる化合物に存在しうる酸性又は塩基性基の塩が含まれるが、これらに制限されるわけではない。性質が塩基性である本方法に含まれる化合物は、種々の無機及び有機酸と様々な塩を形成することができる。このような塩基性化合物の医薬上許容しうる酸付加塩を製造するために用いることができる酸は、非毒性酸付加塩、すなわち、薬理学上許容し得るアニオンを含む塩を形成するものであり、制限されるわけではないが、硫酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、硫酸水素塩、リン酸塩、酸性リン酸塩、イソニコチン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、サリチル酸塩、クエン酸塩、酸性クエン酸塩、酒石酸塩、オレイン酸塩、タンニン酸塩、パントテン酸塩、酒石酸水素塩、アスコルビン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、ゲンチジン酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、グルカロン酸塩、糖酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩、グルタミン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩及びパモ酸塩(すなわち1,1′−メチレン−ビス−(2−ヒドロキシ−3−ナフトエート))を含むものである。アミノ部分を含む本方法に含まれる化合物は、上記の酸に加えて種々のアミノ酸と医薬上許容しうる塩を形成することができる。性質が酸性である本方法に含まれる化合物は、種々の薬理学上許容しうるカチオンと塩基性塩を形成することができる。このような塩の例としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属塩、そして特に、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、リチウム、亜鉛、カリウム及び鉄の塩が含まれる。
【0048】
本発明は、試験化合物をlynキナーゼの存在下でプレインキュベートし;ATP及び基質をlynキナーゼ及び試験化合物に添加し;試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質をインキュベートし;そして基質のリン酸化レベルを測定し、それによって基質のリン酸化レベルにおける増加が、試験化合物がlynキナーゼの活性化剤であることを示すことを含むlynキナーゼの活性化剤の同定方法を提供する。
【0049】
試験化合物は、本明細書に記載されたすべて化合物を含む、当業者が所望のすべての化合物であることができる。試験化合物の濃度は、所望のいずれかの濃度であることができ、典型的には、試験する濃度範囲を含む。
【0050】
lynキナーゼは、例えばInvitrogen又はMilliporeから商業的に入手することができるか、又は当業者によって所望の細胞から単離することができる。いくつかの実施態様において、lynキナーゼの濃度は約10ng/ml〜約500ng/mlである。いくつかの実施態様において、lynキナーゼの濃度は約25ng/ml〜約300ng/mlである。
【0051】
いくつかの実施態様では、試験化合物をlynキナーゼの存在下で約5分〜約120分プレインキュベートする。いくつかの実施態様では、試験化合物をlynキナーゼの存在下で約30分から約90分プレインキュベートする。いくつかの実施態様では、試験化合物をlynキナーゼの存在下で約45分〜約75分プレインキュベートする。いくつかの実施態様では、試験化合物をlynキナーゼの存在下で約60分プレインキュベートする。いくつかの実施態様では、試験化合物をlynキナーゼの存在下で20〜40分プレインキュベートする。
【0052】
いくつかの実施態様では、試験化合物をlynキナーゼの存在下、約0℃〜約30℃でプレインキュベートする。いくつかの実施態様では、試験化合物をlynキナーゼの存在下、約0℃〜約10℃でプレインキュベートする。いくつかの実施態様では、試験化合物をlynキナーゼの存在下、約4℃でプレインキュベートする。
【0053】
ATPは、非標識又は放射性標識化された形態で、種々の製造者から商業的に入手することができる。いくつかの実施態様において、ATPの濃度は、約5μM〜約25μMである。いくつかの実施態様において、このATPの濃度は約10μMである。
【0054】
いくつかの実施態様において、基質はチロシンを含むタンパク質又はペプチドである。いくつかの実施態様において、基質はチロシンを含む合成FRETペプチドである。チロシンを含む多くのFRETペプチドは商業的に入手可能である。タンパク質又はペプチドの1つの例は、ポリ(Glu,Tyr)であり、そして約0.05mg/ml〜約0.25mg/mlの濃度で用いることができる。いくつかの実施態様において、基質の濃度は約0.1mg/mlである。
【0055】
いくつかの実施態様では、試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質をほぼ室温で約5分〜約90分インキュベートする。いくつかの実施態様では、試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質をほぼ室温で約30分〜約75分インキュベートする。いくつかの実施態様では、試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質をほぼ室温で約45分〜約60分インキュベートする。いくつかの実施態様では、試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質をほぼ室温で約60分インキュベートする。いくつかの実施態様では、試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質を室温で約30〜50分インキュベートする。
【0056】
いくつかの実施態様において、基質のリン酸化レベルには、放射性標識化された基質を定量的に又は定性的に測定することが含まれる。従って、基質のリン酸化における増加は、リン酸化の量を実際に測定することなく観察することができる。別法として、リン酸化の量は、当業者に知られている標準技術によって測定することもできる。いくつかの実施態様において、基質のリン酸化レベルの測定には、合成FRETペプチド基質の蛍光を定量的に又は定性的に測定することが含まれる。FRETペプチドによって放射される蛍光の測定は、熟練技術者によく知られている。
【0057】
いくつかの実施態様では、試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質のインキュベーションを約0.05%〜約0.25%ウシ血清アルブミン、約0.5mM〜約2.5mMジチオスレイトール、約0.05%〜約0.25%ウシ血清アルブミン及び約0.5mM〜約2.5mMジチオスレイトール、又は約0.05%〜約0.25%β−メルカプトエタノールの存在下で行う。いくつかの実施態様では、試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質のインキュベーションを約0.05%〜約0.25%β−メルカプトエタノールの存在下で行う。いくつかの実施態様では、試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質のインキュベーションを約0.1%β−メルカプトエタノールの存在下で行う。
【0058】
いくつかの実施態様では、試験化合物をlynキナーゼの存在下で約5分〜約120分プレインキュベートし;試験化合物をlynキナーゼの存在下、約0℃〜約30℃でプレインキュベートし;そして試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質を約0.05%〜約0.25%β−メルカプトエタノールの存在下、ほぼ室温で約5分〜約90分インキュベートする。
【0059】
いくつかの実施態様では、試験化合物をlynキナーゼの存在下で約30分〜約90分プレインキュベートし;試験化合物をlynキナーゼの存在下、約0℃〜約10℃でプレインキュベートし;そして試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質を約0.05%〜約0.25%β−メルカプトエタノールの存在下、ほぼ室温で約30分〜約75分インキュベートする。
【0060】
いくつかの実施態様では、試験化合物をlynキナーゼの存在下で約45分〜約75分プレインキュベートし;試験化合物をlynキナーゼの存在下、約4℃でプレインキュベートし;そして試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質を約0.1%β−メルカプトエタノールの存在下、約45分〜約60分室温付近でインキュベートする。
【0061】
いくつかの実施態様では、試験化合物をlynキナーゼの存在下で約60分プレインキュベートし;試験化合物をlynキナーゼの存在下、約4℃でプレインキュベートし;そして試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質を約0.1%β−メルカプトエタノールの存在下、ほぼ室温で約60分インキュベートする。
【0062】
いくつかの実施態様において、試験化合物は、式II
【化5】

(式中、R1は、アルキル基であり;Xは、ハロゲンであり;Yは、O、S又はNHであり;Zは、O又はSであり;nは0〜5の整数であり、そしてmは0又は1であり、ここにおいてm+nは5より少ないか又は等しい)の化合物である。いくつかの実施態様において、アルキル基はメチルであり、そしてnは1である。いくつかの実施態様において、ハロゲンは塩素であり、そしてmは1である。いくつかの実施態様において、YはOである。いくつかの実施態様において、ZはOである。いくつかの実施態様において、R1はメチルであり、YはOであり、ZはOであり、nは1であり、そしてmは0である。いくつかの実施態様において、R1はメタ位にある。いくつかの実施態様において、Xは塩素であり、YはOであり、ZはOであり、nは0であり、そしてmは1である。いくつかの実施態様において、Xはメタ位にある。
【0063】
いくつかの実施態様において、試験化合物は、
【化6】

である。
【0064】
また、本発明は、本明細書に記載された方法のいずれか1つ又はそれ以上を実施するためのlynキナーゼ、ATP、基質、及び説明書を含むキットを提供する。いくつかの実施態様において、キットはインキュベーション室をさらに含む。インキュベーション室、例えばミクロタイタープレート、微小遠心分離管、及び同種のものは、当業者によく知られている。
【0065】
また、本発明は、式I:
【化7】

(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6及びR7のそれぞれは、独立して水素、アルコキシ、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アリールオキシ、ベンジル、シクロアルキル、ハロゲン、ヘテロアリール、ヘテロシクロアルキル、−CN、−OH、−NO2、−CF3、−CO2H、−CO2アルキル、又は−NH2であり;
8は、アルキル又は水素であり;
Xは、O、S、NH又はN−アルキルであり;そして
Zは、O又はSである)の第一の化合物又はその医薬上許容しうる塩、及び表Iに記載された化合物から選ばれる1つ若しくはそれ以上の第二の化合物、又はその医薬上許容しうる塩を含む組成物を含む。
【0066】
いくつかの実施態様において、R8はアルキル、例えばメチルである。いくつかの実施態様において、R8は水素である。
【0067】
いくつかの実施態様において、Xは酸素である。
【0068】
いくつかの実施態様において、Zは酸素である。
【0069】
いくつかの実施態様において、R2〜R6の少なくとも1つはアルキル、例えばメチルである。いくつかの実施態様において、R2〜R6の少なくとも1つはハロゲン、例えばクロロである。いくつかの実施態様において、R2〜R6の少なくとも1つは−CNである。いくつかの実施態様において、R2〜R6の少なくとも1つは−OHである。いくつかの実施態様において、R2〜R6の少なくとも1つは−NO2である。いくつかの実施態様において、R2〜R6の少なくとも1つは−CF3である。いくつかの実施態様において、R2〜R6の少なくとも1つは−CO2Hである。いくつかの実施態様において、R2〜R6の少なくとも1つは−NH2である。いくつかの実施態様において、R2〜R6の少なくとも1つは−アルコキシである。
【0070】
いくつかの実施態様において、R2はアルキル、例えばメチルであり、そしてR1及びR3〜R8のそれぞれは水素であり、そしてX及びZはOである。
【0071】
いくつかの実施態様において、R2はハロゲン、例えばクロロであり、そしてR1及びR3〜R8のそれぞれは水素であり、そしてX及びZはOである。
【0072】
いくつかの実施態様において、R3はアルキル、例えばメチルであり、そしてR1、R2及びR4〜R8のそれぞれは水素であり、そしてX及びZはOである。
【0073】
いくつかの実施態様において、R3はハロゲン、例えばクロロであり、そしてR1、R2及びR4〜R8のそれぞれは水素であり、そしてX及びZはOである。
【0074】
いくつかの実施態様において、R4はアルキル、例えばメチルであり、そしてR1〜R3及びR5〜R8のそれぞれは水素であり、そしてX及びZはOである。
【0075】
いくつかの実施態様において、R4はハロゲン、例えばクロロであり、そしてR1〜R3及びR5〜R8のそれぞれは水素であり、そしてX及びZはOである。
【0076】
いくつかの実施態様において、R5は−CF3であり、そしてR1〜R4及びR6〜R8のそれぞれは、水素であり、そしてX及びZはOである。
【0077】
いくつかの実施態様において、R5は−NH2であり、そしてR1〜R4及びR6〜R8のそれぞれは水素であり、そしてX及びZはOである。
【0078】
いくつかの実施態様において、R6は−CF3であり、そしてR1〜R5及びR7〜R8のそれぞれは、水素であり、そしてX及びZはOである。
【0079】
いくつかの実施態様において、R6は−NH2であり、そしてR1〜R5及びR7〜R8のそれぞれは、水素であり、そしてX及びZはOである。
【0080】
いくつかの実施態様において、第一の化合物は、式II
【化8】

(式中、
1は、アルキル基であり;
Xは、ハロゲンであり;
Yは、O、S又はNHであり;
Zは、O又はSであり;そして
nは0〜5の整数であり、そしてmは0又は1であり、ここにおいてm+nは5より少ないか又は等しい)である。
【0081】
本明細書に記載された組成物及び方法に有用である化合物の具体的な例としては、以下のものが含まれるが、これらに制限されるわけではない:
【0082】
【化9】

【0083】
【化10】

【0084】
【化11】

【0085】
化合物は、例えば、米国特許第3,922,345号に記載されたような当業者に知られている有機化学技術によって合成することができ、それはその全体として参照により本明細書に組み込まれている。
【0086】
また、本発明は、治療の必要なヒトに本明細書に記載された組成物の治療上有効量を投与することを含む、ヒトにおける糖尿病の治療方法を提供する。
【0087】
本発明のいくつかの実施態様において、本発明の化合物は、少なくとも1つの他の治療剤との併用療法に用いることができる。本発明の化合物と治療剤とは、相加的に又は相乗的に作用することができる。一実施態様では、本発明の化合物を含む組成物を、本発明の化合物と同じ組成物の一部又は異なる組成物であることができる別の治療剤の投与と同時に投与する。別の実施態様では、別の治療剤を投与する前に又は後に本発明の化合物を含む組成物を投与する。一実施態様において、併用療法には、本発明の化合物を含む組成物と別の治療剤を含む組成物とを交互に投与して、例えば特定の薬物に関連する毒性を最小限にすることが含まれる。各薬物又は治療剤の投与期間は、例えば1ヵ月、3ヵ月、6ヵ月又は1年であることができる。いくつかの実施態様において、制限されるわけではないが毒性を含む有害な副作用を潜在的に生じる別の治療剤と同時に本発明の組成物を投与するとき、治療剤は、有害な側面が誘発される閾値より下となる用量で都合よく投与することができる。
【0088】
一実施態様において、「治療」又は「治療すること」は、糖尿病又はその少なくとも1つの識別可能な症状を改善することである。別の実施態様において、「治療」又は「治療すること」は、患者によって必ずしも識別可能でない少なくとも1つの測定可能な物理的パラメーターを改善することである。さらに別の実施態様において、「治療」又は「治療すること」は、身体的、例えば識別可能な症状の安定化、生理学的、例えば物理的パラメーターの安定化のいずれか、又は両方で糖尿病の進行を阻害することである。さらに別の実施態様において、「治療」又は「治療すること」は、糖尿病の発症を遅らせることである。
【0089】
いくつかの実施態様において、本発明の組成物は、糖尿病に対する予防手段として患者、好ましくはヒトに投与される。本明細書に使用されるように、「予防」又は「予防すること」は、糖尿病になる危険性を低下させることである。一実施態様において、本発明の組成物は、患者、好ましくは糖尿病に対する遺伝学的な疾病素質を有するヒトに予防手段として投与される。別の実施態様において、本発明の組成物は、糖尿病に対して非遺伝的疾病素質を有する被験者に予防手段として投与される。
【0090】
本明細書に使用されるように、「糖尿病の治療又は予防」は、制限されるわけではないが、網膜症(すなわち失明);足の潰瘍、壊疽及び切断に至る神経障害(すなわち神経損傷);透折に至る腎障害;及び心臓血管疾患を含むII型糖尿病に関連する合併症の治療又は予防を包含する。いくつかの実施態様において、II型糖尿病は、異常な/変化したlynキナーゼ活性及び/又は発現に関連する。
【0091】
従って、本発明の化合物を含む組成物は、II型糖尿病又はII型糖尿病から生じる合併症並びに代謝症候群に関連する障害及び危険因子の治療又は予防に有用である。糖尿病の合併症としては、糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、勃起障害及び腎臓疾患が含まれるが、これらに制限されるわけではなく、そして本発明の化合物は、これらの合併症の治療又は予防に有用である。
【0092】
本発明は、本発明の化合物を含む組成物の治療上有効量を患者に投与することよる治療及び予防方法を提供する。患者は、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ニワトリ、シチメンチョウ、ウズラ、ネコ、イヌ、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、などのような動物を含む哺乳動物であるが、これらに制限されるわけではなく、そしてより好ましくはヒトである。
【0093】
本発明の1つ又はそれ以上の化合物を含む本組成物は、経口投与することができる。また、本発明の化合物は、他のいずれか都合のよい経路によって、例えば、注入又はボーラス注射によって、上皮又は粘膜皮膚内層(例えば口腔粘膜、直腸及び腸の粘膜、など)を通して吸収によって投与することができ、そして別の生物学上活性な薬剤と一緒に投与してもよい。投与は全身性又は局所性であることができる。種々の送達系は、例えばリポソーム、マイクロパーティクル、マイクロカプセル、カプセル、などにおけるカプセル化が知られており、本発明の化合物を投与するために用いることができる。いくつかの実施態様では、本発明の複数の化合物を患者に投与する。投与方法としては、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、経口、舌下、鼻腔内、大脳内、経皮的、腟内、直腸内、吸入による、又は局所的に、特に耳、鼻、眼若しくは皮膚への投与が含まれるが、これらに制限されるわけではない。投与様式は、従事者の判断に任され、医学的状態の部位にある程度左右される。ほとんどの場合、投与により本発明の化合物が血流に放出されることになる。
【0094】
いくつかの実施態様において、治療の必要な領域に局所的に本発明の1つ又はそれ以上の化合物を投与することは望ましいことであると考えられる。これは、例えば、制限されるわけではないが、手術中の局所注入によって、局所適用、例えば手術後の創傷被覆材と共に、注射によって、カテーテルによって、坐剤によって、又はインプラントによって実施することができ、前記インプラントは、多孔性、非多孔性、又はゼリー状の物質であり、サイラスティック(sialastic)膜又は繊維のような膜が含まれる。一実施態様では、動脈硬化性プラーク組織の部位(又は形成部位)における直接注射によって投与することができる。
【0095】
また、例えば、吸入器若しくはネブライザー、及びエアロゾル化剤を用いた製剤を使用することによって、又はフルオロカーボン若しくは合成肺界面活性物質中の灌流により肺投与を行うことができる。いくつかの実施態様において、本発明の化合物は、トリグリセリドのような慣用の結合剤及びビヒクルを用いて坐剤として処方することができる。
【0096】
別の実施態様において、本発明の化合物は、ベシクル中、特にリポソーム中に送達することができる(Langer, 1990, Science 249: 1527−1533; Treat et al., in Liposomes in the Therapy of Infectious Disease and Cancer, Lopez−Berestein and Fidler (eds.), Liss, New York, pp. 353−365 (1989); Lopez−Berestein, ibid., pp. 317−327参照; 一般に同書を参照のこと)。
【0097】
さらに別の実施態様において、本発明の化合物は、制御放出系で送達することができる。一実施態様では、ポンプを用いてもよい(Langer, supra; Sefton, 1987, CRC Crit. Ref. Biomed. Eng. 14: 201; Buchwald et al., 1980, Surgery 88:507 Saudek et al., 1989, N. Engl. J. Med. 321 : 574参照)。別の実施態様では、ポリマー物質を用いることができる(Medical Applications of Controlled Release, Langer and Wise (eds.), CRC Pres., Boca Raton, FIa. (1974); Controlled Drug Bioavailability, Drug Product Design and Performance, Smolen and Ball (eds.), Wiley, New York (1984);Ranger and Peppas, 1983, J. Macromol. ScL Rev. Macromol. Chem. 23:61参照;またLevy et al., 1985, Science 228: 190; During et al., 1989, Ann. Neurol. 25:351; Howard et al., 1989, J. Neurosurg. 71: 105参照)。さらに別の実施態様では、放出制御系を、本発明の化合物のターゲットの近く、例えば肝臓に置くことができ、そのため全身用量の一部しか必要としない(Goodson, 前出Medical Applications of Controlled Release中, vol. 2, pp. 115−138 (1984)参照)。Langer, 1990, Science 249: 1527−1533)による総説に議論された他の放出制御系を用いてもよい。
【0098】
本組成物は、患者に適当な投与形態を提供するために、治療上有効量の本発明の化合物、場合により1つを超える本発明の化合物を、適切な量の医薬上許容しうるビヒクルと共に適切に精製された形態で含む。
【0099】
いくつかの実施態様において、成句「医薬上許容しうる」は、動物、そしてより詳しくはヒトに使用するために連邦政府若しくは州政府の監督官庁によって認可された又は米国薬局方若しくは他の一般に認められた薬局方に記載されていることを意味する。用語「ビヒクル」は、本発明の化合物と共に投与される希釈剤、補助剤、賦形剤又は担体のことである。このような医薬ビヒクルは、液体、例えば水及び石油、動物、野菜、又は合成由来のものを含む油、例えば落花生油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油及び同種のものであることができる。医薬ビヒクルは、生理食塩水、アラビアゴム、ゼラチン、デンプンのり、タルク、ケラチン、コロイドシリカ、尿素、及び同種のものであることができる。さらに、補助剤、安定化剤、増粘剤、滑沢剤及び着色剤を用いてもよい。患者に投与するとき、本発明の化合物及び医薬上許容しうるビヒクルは無菌であることが好ましい。本発明の化合物を静脈内に投与するとき、水は適切なビヒクルである。生理食塩水溶液及び水性デキストロース及びグリセリン溶液は、特に注射液用の液状ビヒクルとして使用することができる。また、適切な医薬ビヒクルには、賦形剤、例えばデンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール及び同種のものが含まれる。また、本組成物は、所望により、少量の湿潤剤又は乳化剤、又はpH緩衝剤を含むことができる。
【0100】
本組成物は、液剤、懸濁剤、乳剤、錠剤、丸剤、ペレット剤、カプセル剤、液体を含むカプセル剤、散剤、持続放出製剤、坐剤、乳剤、エーロゾル剤、スプレー剤、懸濁剤の形態又は使用に適した他のすべての形態をとることができる。一実施態様において、医薬上許容しうるビヒクルはカプセルである(例えば、米国特許第5,698,155号参照)。適切な賦形薬の他の例は、Remington's Pharmaceutical Sciences, A.R. Gennaro (Editor) Mack Publishing Co.に記載されている。
【0101】
一実施態様において、本発明の化合物は、ヒトへの静脈内投与に適合する医薬組成物として常法に従って処方される。典型的に、静脈内投与するための本発明の化合物は、等張性の滅菌水性緩衝液中の液剤である。また、必要に応じて、組成物は可溶化剤を含んでもよい。静脈内投与のための組成物は、注射部位における痛みを和らげるリドカインのような局所麻酔剤を場合により含んでもよい。一般に、成分は、例えば、活性剤の量を示すアンプル若しくはサシェのような密閉容器中の乾燥凍結乾燥粉末又は水を含まない濃縮物として、別々に又は単位剤形中に一緒に混合して供給される。本発明の化合物を注入によって投与すべき場合、例えば、医薬グレードの滅菌水又は生理食塩水を含む注入ビンを用いて施与することができる。本発明の化合物を注射によって投与する場合、投与前に成分を混合できるように注射用の滅菌水又は生理食塩水のアンプルを提供することができる。
【0102】
本発明の組成物は、経口投与される。経口送達用の組成物は、例えば、錠剤、トローチ剤、水性若しくは油性懸濁剤、顆粒剤、散剤、乳剤、カプセル剤、シロップ剤又はエリキシル剤の形態であってもよい。経口投与組成物は、医薬的に口当たりのよい製剤を得るため、場合により1つ又はそれ以上の薬剤、例えば甘味剤、例えばフルクトース、アスパルテーム又はサッカリン;着香剤、例えばペパーミント、冬緑油又はチェリー;着色剤;及び保存剤を含んでもよい。さらに、錠剤又は丸剤形態の場合、組成物をコーティングして崩壊を遅らせ、それにより延長された期間にわたって消化管内での吸収作用を持続させることができる。また、浸透圧的に活性なドライビング化合物(driving compound )を囲む選択的透過性膜は、本発明の経口投与化合物に適している。この後者のプラットフォームでは、カプセルを囲む環境からの流体が、ドライビング化合物によって吸収され、これが膨潤して孔を通して薬剤又は薬剤組成物が置き換わる。これらの送達プラットフォームは、即時放出製剤のスパイクトプロファイル(spiked profiles)とは対照的に本質的に零次送達プロファイル(essentially zero order delivery profile)を提供することができる。また、時間遅延物質、例えばグリセロールモノステアレート又はグリセロールステアレートを用いてもよい。経口組成物は、標準ビヒクル、例えばマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、ナトリウムサッカリン、セルロース、炭酸マグネシウム、などを含むことができる。このようなビヒクルは、医薬グレードであることが適切である。
【0103】
本明細書に記載された特定の障害又は状態の治療に有効な本発明の化合物の量は、障害又は状態の性質に左右され、そして標準臨床技術によって決定することができる。さらに、最適な投与量範囲を確認するためにインビトロ又はインビボアッセイを場合により用いてもよい。また、組成物に用いる正確な用量は、投与経路、及び疾患又は障害の重症度に応じて左右され、担当医師の判断及び各患者の状況に従って決定すべきである。しかしながら、経口投与に適した投与量範囲は、一般に体重1キログラム当たり本発明の化合物約0.001ミリグラム〜200ミリグラムである。いくつかの実施態様において、経口投与量は、体重1キログラム当たり0.01ミリグラム〜70ミリグラム、又は体重1キログラム当たり0.1ミリグラム〜50ミリグラム、又は体重1キログラム当たり0.5ミリグラム〜20ミリグラム、又は体重1キログラム当たり1ミリグラム〜10ミリグラムである。いくつかの実施態様において、経口投与量は、体重1キログラム当たり本発明の化合物5ミリグラムである。本明細書に記載された投与量は、投与する総量のことであり;すなわち、本発明の複数の化合物を投与する場合、投与量は投与する本発明の化合物の総量に相当する。経口組成物は、活性成分10質量%〜95質量%を含むことが好ましい。
【0104】
静脈内(i.v.)投与に適した投与量範囲は、体重1キログラム当たり0.01ミリグラム〜100ミリグラム、体重1キログラム当たり0.1ミリグラム〜35ミリグラム、そして体重1キログラム当たり1ミリグラム〜10ミリグラムである。鼻腔内投与に適した投与量範囲は、一般的には、約0.01pg/kg体重〜1mg/kg体重である。坐剤は、一般に、体重1キログラム当たり本発明の化合物0.01ミリグラム〜50ミリグラムを含み、そして0.5質量%〜10質量%の範囲で活性成分を含む。皮内、筋肉内、腹腔内、皮下、硬膜外、舌下、大脳内、腟内、経皮投与又は吸入による投与で推奨される投与量は、体重1キログラム当たり0.001ミリグラム〜200ミリグラムの範囲である。局所投与での本発明の化合物の適切な用量は、化合物を投与する領域に応じて0.001ミリグラム〜1ミリグラムの範囲であり。有効量は、インビトロ又は動物モデル試験系から誘導される用量応答曲線から推定してもよい。このような動物モデル及び系は、当分野でよく知られている。
【0105】
下の表は、代表的な薬物(使用認可された)によるII型糖尿病の薬物ターゲット、開発段階の薬物、又はそのターゲットに対する前臨床化合物を記載しており、そのうちのいずれか1つ又はそれ以上は、本発明の化合物のいずれか1つ又はそれ以上と組み合わせて用いることができる。
【0106】
【表1】

【0107】
【表2】

【0108】
また、本発明は、糖尿病を治療するための本明細書に記載された組成物の使用に関する。
【0109】
また、本発明は、糖尿病の治療に使用する薬剤の製造における本明細書に記載された化合物及び/又は組成物の使用に関する。
【0110】
本明細書に記載された本発明をより有効に理解できるように、以下に実施例を記載する。これらの実施例は、説明するためだけのものであって、如何様にも本発明を制限するものとして解釈すべきではないことを理解しなければならない。
【0111】
実施例
実施例1:Lynキナーゼ選択性
キナーゼスクリーンを実施し、化合物102(10μM)を、阻害又は活性化について49種のキナーゼに対してスクリーニングした。少なくとも20%活性化又は阻害されたすべてのキナーゼは、有意な効果であるとみなした。スクリーニングした49種のキナーゼについて、Lynキナーゼは51%活性化された。反復実験において、Lynキナーゼ活性は、57%高められた。試験した他のキナーゼについて、インスリン様成長因子受容体活性は、20.1%阻害され、そしてp70S6Kは24.3%阻害された。
【0112】
【表3】

【0113】
実施例2:Lynキナーゼ活性化最適化及びATP動態
Lynキナーゼ活性化の同定後、研究を繰り返して化合物102が介在するLynキナーゼ活性化の条件を最適化した。以下の研究を実施した:1)化合物102が介在するLynの活性化を最大にするためのプレインキュベーション条件を最適化し;そして2)試験して化合物102によるLyn活性化に介在する酵素動態を決定した。
【0114】
最適プレインキュベーション条件
実験では、キナーゼLyn(h)をDMSO又は1、3、10、30及び100μMの化合物102と共に氷上で30分プレインキュベートした。次いで、キナーゼを、線形動態が得られる濃度に希釈し、そして標準放射分析アッセイにおいて10μM ATPで、室温で40分検定した。
【0115】
この実験では、Lynキナーゼ(h)の活性は、用量に依存して化合物102の濃度と共に高まった。100μMの化合物102では、Lynキナーゼ(h)の活性は、DMSO対照で測定した活性より3倍を超えて高かった。化合物102のLynキナーゼ活性化のEC50は、650nMであった。
【0116】
ATP動態研究
上で確立されたプレインキュベーション及び実験条件を用いて動態研究を設計した。本研究では、化合物102の濃度を100μMで一定に保ち、そしてATP濃度を0〜800μMまで段階的に高めた。非線形回帰分析及び式:Y=Vmax(x)/(Km+x)を用いてATPについての動態パラメーターを算出した。Vmax=酵素の活性、そしてKm=最大半減活性に必要なATP濃度。これらの条件下で、化合物102は、LynキナーゼのVmaxを3倍高めたが、ATPについてのKmを変化させることはなかった。従って、化合物102は、ATPに依存しないやり方でLynキナーゼを高めると考えられる。
【0117】
実施例3:Lyn活性化のスクリーニング
そこで、実施例2に記載した最適化アッセイで確立された条件を用いてLynキナーゼ活性化の高処理量スクリーンを確立した。このアッセイは、Lynキナーゼの新しい活性化剤を同定するために用いる。その条件をここに示す:1)試験化合物をLynキナーゼの存在下、4℃で30分プレインキュベーションし;2)ATP及び基質の添加によりアッセイを開始し;3)室温で約40分インキュベーションし;そして4)基質のリン酸化レベルを測定する。
【0118】
実施例4:インビボキナーゼ活性化
8週齢のCDl雄マウスを本研究に用いた。マウスに食物及び水を自由に摂取させ、そして12時間の明/暗サイクルを維持した。
【0119】
マウスを18時間絶食させて血液グルコースのベースラインを測定した。グルコースレベルのベースラインの60分後、マウスに、ビヒクル、30又は100mg/kgの化合物102を服用させた。薬物投与の75分後、肝臓を解剖した。
【0120】
ビードビーター及び溶解バッファー(50mMトリス−HCl、1%NP−40、0.25%Na−デオキシコレート、150mM NaCl、1mM EDTA、1mM PMSF、1μg/mlアプロチニン、1μg/mlロイペプチン、1mM Na3VO4、1mM NaF、10%グリセロール(pH7.4))0.75ml中1.0mmガラスビーズを用いて肝臓をホモジナイズした。組織ホモジネートを遠心分離し、そして上澄みをphosphor−IRS−1のレベルについて試験した(下記参照)。
【0121】
モノクローナルホスホチロシン抗体及びタンパク質セファロースAを用いてホスホチロシン標識タンパク質を免疫沈降させた。PAGE電気泳動システム(Invitrogen; NuPageシステム)を用いて免疫沈降タンパク質を分離した。タンパク質をPVDF膜へ移した。pan−IRS−1ウサギポリクローナル抗体、二次−HRP化学発光(Upstate)を用いて、リン酸化されたIRS−1をPVDF膜上で検出した。
【0122】
実施例5:Lynキナーゼ活性化アッセイ最適化
化合物102が介在するLynキナーゼの活性化を検出するためのアッセイ条件をさらに最適化するため以下の実施例を実施した。下記のアッセイでは、Z'−LYTETM Kinase Assay Kit−Tyr Peptide−2(Invitrogen, Carlsbad, CA)を利用した。このアッセイ系は、本来、種々のチロシンキナーゼの阻害剤を検出するために開発された。系に改良を加えてlynキナーゼの活性化剤を検出するための条件を最適化した。具体的には、最適なLynキナーゼタンパク質濃度、バッファー成分、及び化合物102が介在するLynキナーゼの活性化を検出するためのアッセイ条件が、ここに記載されている。
【0123】
使用したアッセイ系は、Lynキナーゼの活性を検出するためにZ'−LYTETM Kinase Assay Kit−Tyr Peptide−2(Invitrogen, Carlsbad, CA)を利用する非放射測定アッセイであった。バッファー成分を下記のように変えた。本研究に用いたlynキナーゼタンパク質は、非リン酸化形態のタンパク質であった。この非リン酸化lynタンパク質の濃度は、25ng/mL〜300ng/mLの範囲であった。プレインキュベーション工程を30分から60分に延長した。
【0124】
すべての研究でインビトロゲン反応バッファー(Invitrogen Reaction Buffer)を用いた。この反応バッファーに以下の添加を行い、別々に試験し、そして反応バッファー単独と比較した:改変(Modification)1:0.1%BSA入り反応バッファー;改変2:1mMジチオスレイトール入り反応バッファー;改変3:0.01%BSA、1mMジチオスレイトール入り反応バッファー;及び改変4:0.1%β−メルカプトエタノール入り反応バッファー。
【0125】
表IIは、異なるバッファー成分による異なる活性化レベルを記載している。
【表4】

【0126】
バッファー改変4においてLynキナーゼについて最適活性化条件を得た。反応バッファーに0.1%β−メルカプトエタノールを添加(改変4)すると低いベースラインレベル(基質リン酸化13.7%)となり、そして化合物102の添加によりLynキナーゼが2.4倍活性化された。改変4のバッファーでは、改変1、2及び3より有意に良好に活性化された。
【0127】
本研究は、化合物102が介在するLynキナーゼの活性化を検出する最適な一貫性のある条件を記載する。これらの最適条件は以下の通りである:1)Z'−LYTETM Kinase Assay Kit−Tyr Peptide−2 (Invitrogen, Carlsbad, CA)を利用し;2)25ng/mL〜300ng/mLの濃度範囲で非リン酸化Lynキナーゼタンパク質を利用し;3)Invitrogenからの標準反応バッファーに0.1%β−メルカプトエタノールを補充し;そして4)ATPなしで30分から60分までプレインキュベーション工程を延長する。
【0128】
実施例6:併用療法
準備データに基づいて、化合物102は、既存のII型糖尿病性薬剤と組み合わせた治療に有用である。非有効量で、別々に組み合わせて動物を治療した。独立して、薬物は、組み合わせることで血液グルコースレベルを有意に低下させた。さらに、継続中の研究には、db/dbマウスにおける、スルホニル尿素(グリベンクラミド)と組み合わせた化合物102及びロシグリタゾンと組み合わせた化合物102がある。CDl雄マウスを18時間絶食させた。絶食後、記載された用量で薬物により動物を処置した(下の表を参照)。
【0129】
【表5】

【0130】
メトホルミンによる化合物の相乗効果を図1に示す。
【0131】
本発明の種々の改変は、本明細書に記載されたものに加えて、前記説明から当業者に明らかである。また、このような改良は、添付の特許請求の範囲内に帰属するものである。本明細書に引用された各文献(雑誌論文、米国及び米国以外の特許、特許出願公報、国際特許出願公報、及び同種のものを含むがこれらに制限されない)は、その全体として参照により本明細書に組み込まれる。2007年2月20日に出願された米国特許第60/890,632号は、その全体として参照により本明細書に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験化合物をlynキナーゼの存在下でプレインキュベートし;
ATP及び基質をlynキナーゼ及び試験化合物に添加し;
試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質をインキュベートし;そして
基質のリン酸化レベルを測定し、それによって基質のリン酸化レベルにおける増加が、試験化合物がlynキナーゼの活性化剤であることを示すことを含む、lynキナーゼの活性化剤の同定方法。
【請求項2】
試験化合物をlynキナーゼの存在下で約5分〜約120分プレインキュベートする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
試験化合物をlynキナーゼの存在下で約30分〜約90分プレインキュベートする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
試験化合物をlynキナーゼの存在下で約45分〜約75分プレインキュベートする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
試験化合物をlynキナーゼの存在下で約60分プレインキュベートする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
試験化合物をlynキナーゼの存在下、約0℃〜約30℃でプレインキュベートする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
試験化合物をlynキナーゼの存在下、約0℃〜約10℃でプレインキュベートする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
試験化合物をlynキナーゼの存在下、約4℃でプレインキュベートする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
lynキナーゼの濃度が約10ng/ml〜約500ng/mlである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
lynキナーゼの濃度が約25ng/ml〜約300ng/mlである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ATPの濃度が約5μM〜約25μMである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
ATPの濃度が約10μMである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
ATPが放射性標識化されている、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
基質がチロシンを含むタンパク質又はペプチドである、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
基質がチロシンを含む合成FRETペプチドである、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質をほぼ室温で約5分〜約90分インキュベートする、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質をほぼ室温で約30分〜約75分インキュベートする、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質をほぼ室温で約45分〜約60分インキュベートする、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質をほぼ室温で約60分インキュベートする、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
基質のリン酸化レベルの測定には、放射性標識化された基質を定量的に又は定性的に測定することが含まれる、請求項1〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
基質のリン酸化レベルの測定には、合成FRETペプチド基質の蛍光を定量的に又は定性的に測定することが含まれる、請求項1〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質のインキュベーションを約0.05%〜約0.25%ウシ血清アルブミン、約0.5mM〜約2.5mMジチオスレイトール、約0.05%〜約0.25%ウシ血清アルブミン及び約0.5mM〜約2.5mMジチオスレイトール、又は約0.05%〜約0.25%β−メルカプトエタノールの存在下で行う、請求項1〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質のインキュベーションを約0.05%〜約0.25%β−メルカプトエタノールの存在下で行う、請求項1〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質のインキュベーションを約0.1%β−メルカプトエタノールの存在下で行う、請求項1〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
試験化合物をlynキナーゼの存在下で約5分〜約120分プレインキュベートし;
試験化合物をlynキナーゼの存在下、約0℃〜約30℃でプレインキュベートし;そして
試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質を約0.05%〜約0.25%β−メルカプトエタノールの存在下、ほぼ室温で約5分〜約90分インキュベートする、
請求項1に記載の方法。
【請求項26】
試験化合物をlynキナーゼの存在下で約30分〜約90分プレインキュベートし;
試験化合物をlynキナーゼの存在下、約0℃〜約10℃でプレインキュベートし;そして
試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質を約0.05%〜約0.25%β−メルカプトエタノールの存在下、ほぼ室温で約30分〜約75分インキュベートする、
請求項1に記載の方法。
【請求項27】
試験化合物をlynキナーゼの存在下で約45分〜約75分プレインキュベートし;
試験化合物をlynキナーゼの存在下、約4℃でプレインキュベートし;そして
試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質を約0.1%β−メルカプトエタノールの存在下、ほぼ室温で約45分〜約60分インキュベートする、
請求項1に記載の方法。
【請求項28】
試験化合物をlynキナーゼの存在下で約60分プレインキュベートし;
試験化合物をlynキナーゼの存在下、約4℃でプレインキュベートし;そして
試験化合物、lynキナーゼ、ATP及び基質を約0.1%β−メルカプトエタノールの存在下、ほぼ室温で約60分インキュベートする、
請求項1に記載の方法。
【請求項29】
試験化合物が、式II
【化1】

(式中、
1は、アルキル基であり;
Xは、ハロゲンであり;
Yは、O、S又はNHであり;
Zは、O又はSであり;
nは、0〜5の整数であり、そしてmは0又は1であり、ここにおいて、m+nは5よりも少ないか又は等しい)
の化合物である、請求項1〜28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
アルキル基がメチルであり、そしてnが1である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
ハロゲンが塩素であり、そしてmが1である、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
YがOである、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
ZがOである、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
1がメチルであり、YがOであり、ZがOであり、nが1であり、そしてmが0である、請求項29に記載の方法。
【請求項35】
1がメタ位にある、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
Xが塩素であり、YがOであり、ZがOであり、nが0であり、そしてmが1である、請求項29に記載の方法。
【請求項37】
Xがメタ位にある、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
試験化合物が、
【化2】

である、請求項1〜28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
請求項1〜28のいずれか1項の方法を実施するためのlynキナーゼ、ATP、基質及び説明書を含むキット。
【請求項40】
インキュベーション室を更に含む、請求項39に記載のキット。
【請求項41】
式II:
【化3】

(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6及びR7のそれぞれは、独立して水素、アルコキシ、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アリールオキシ、ベンジル、シクロアルキル、ハロゲン、ヘテロアリール、ヘテロシクロアルキル、−CN、−OH、−NO2、−CF3、−CO2H、−CO2アルキル、又は−NH2であり;
8は、アルキル又は水素であり;
Xは、O、S、NH又はN−アルキルであり;そして
Zは、O又はSである)の第一の化合物又はその医薬上許容しうる塩;及び
表Iに記載された化合物から選ばれる1つ又はそれ以上の第二の化合物又はその医薬上許容しうる塩を含む組成物。
【請求項42】
第一の化合物が、式II
【化4】

(式中、
1は、アルキル基であり;
Xは、ハロゲンであり;
Yは、O、S又はNHであり;
Zは、O又はSであり;そして
nは0〜5の整数であり、そしてmは0又は1であり、ここにおいてm+nは5より少ないか又は等しい)である、請求項41に記載の組成物。
【請求項43】
請求項41又は42の組成物の治療上有効量を治療の必要なヒトに投与することを含む、ヒトにおける糖尿病の治療方法。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2010−518860(P2010−518860A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−550979(P2009−550979)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【国際出願番号】PCT/US2008/054361
【国際公開番号】WO2008/103692
【国際公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(509233574)メリオール・ファーマスーティカルズ・ワン・インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】