説明

Li2O−Al2O3−SiO2系結晶化ガラスの製造方法

【課題】 As、Sbを含まないにも関わらず、電気リボイルによる泡不良を抑制することが可能なLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの製造方法を提供する。
【解決手段】 白金又は白金合金製装置を含む溶融設備を使用するとともに、電気による加熱を用いてLiO−Al−SiO系結晶性ガラスを溶融、成形した後、結晶化させるLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの製造方法であって、粘度logηが4.0のときのガラス融液の電気抵抗が4.4Ω・cm以上、液相粘度がlogηで4.35以上、且つAs及びSbを実質的に含有しない結晶性ガラスとなるように調製したバッチを使用することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、石油ストーブ、薪ストーブ等の前面窓、カラーフィルターやイメージセンサー用基板等のハイテク製品用基板、電子部品焼成用セッター、電子レンジ用棚板、電磁調理用トッププレート、防火戸用窓ガラス等の材料として、LiO−Al−SiO系結晶化ガラスが用いられている。例えば特許文献1〜3等には、主結晶としてβ−石英固溶体(LiO・Al・nSiO[ただしn≧2])やβ−スポジュメン固溶体(LiO・Al・nSiO[ただしn≧4])を析出してなるLiO−Al−SiO系結晶化ガラスが開示されている。
【0003】
LiO−Al−SiO系結晶化ガラスは、熱膨張係数が低く、機械的強度も高いため、優れた熱的特性を有している。また結晶化工程における熱処理条件を変更することによって析出結晶を変化させることができるため、同一組成の原ガラスから透明な結晶化ガラス(β−石英固溶体が析出)と白色不透明な結晶化ガラス(β−スポジュメン固溶体)の両方を製造することが可能であり、用途に応じて使い分けることができる。
【0004】
ところでLiO−Al−SiO系結晶化ガラスは、高粘性のガラスであるため、1400℃を超える温度で溶融される。このため清澄剤として、高温での溶融時に清澄ガスを多量に発生させることができるAsやSbが使用される。しかしながらAsやSbは毒性が強く、ガラスの製造工程や廃ガラスの処理時等に環境を汚染する可能性がある。そのため、AsやSbを使用せずにガラスを溶融する方法が検討されている。例えばAsやSbの代替清澄剤として、SnOやClを使用する方法が提案されている(特許文献4、5)。
【0005】
また脈利発生防止や失透防止の理由から、LiO−Al−SiO系結晶化ガラスの溶融設備は、フィーダーや成形装置の少なくともガラスと接する表面に白金や白金合金(以下、白金等と略す)が使用される。この場合、これらの装置に通電してガラスを加熱或いは保温することが行われる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭39−21049号公報
【特許文献2】特公昭40−20182号公報
【特許文献3】特開平1−308845号公報
【特許文献4】特開平11−228180号公報
【特許文献5】特開平11−228181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
通電加熱のように、電気による加熱を用いる溶融設備において、AsやSbを使用せずにLiO−Al−SiO系結晶化ガラスを溶融すると、白金等装置の表面から電気に起因するリボイル泡が多量に発生する現象が生じ、泡品位の良いガラスが得難くなることが判明した。この現象は、ラボでの坩堝による静置した溶融評価試験では認識することが困難な現象である。
【0008】
本発明の目的は、As、Sbを含まないにも関わらず、電気リボイルによる泡不良を抑制することが可能なLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの製造方法は、白金又は白金合金製装置を含む溶融設備を使用するとともに、電気による加熱を用いてLiO−Al−SiO系結晶性ガラスを溶融、成形した後、結晶化させるLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの製造方法であって、粘度logηが4.0のときのガラス融液の電気抵抗が4.4Ω・cm以上、液相粘度がlogηで4.35以上、且つAs及びSbを実質的に含有しない結晶性ガラスとなるように調製したバッチを使用することを特徴とする。
【0010】
ここで「LiO−Al−SiO系結晶化ガラス」とは、LiO、Al及びSiOを必須成分として含み、β−スポジュウメン及び/又はβ−石英固溶体を主結晶とする結晶化ガラスを意味する。「LiO−Al−SiO系結晶性ガラス」とは、LiO、Al及びSiOを必須成分として含み、熱処理によってβ−スポジュウメン及び/又はβ−石英固溶体を主結晶として析出する性質を有する非晶質ガラスを意味する。「白金又は白金合金装置」とは、溶融ガラスとの接触面が白金又は白金合金で形成された装置を意味しており、これには装置全体が白金等で構成される装置のみならず、溶融ガラスとの接触部分を白金等で被覆した装置も含む。「電気による加熱」とは、電極による溶融ガラスの直接通電加熱、白金又は白金合金装置を含む溶融設備等への通電加熱等を含む。「粘度logηが4.0のときの電気抵抗」とは、バッチを溶融して融液状となったガラスの粘度logηが4.0を示すときのガラスの電気抵抗を意味している。粘度は白金球引上げ法により求め、ガラスの電気抵抗は2端子法で1kHzの交流電源を用いて測定した値を使用する。「液相粘度」は、白金ボートにガラスを入れ、1550℃で30分溶融した後に温度傾斜炉に20時間入れて液相温度を測定する。さらに白金球引上げ法を用いることにより、液相温度に相当するガラスの粘度を求める。「As及びSbを実質的に含有しない」とは、これらの成分を原料として積極的に使用しないことを意味する。より客観的な基準としては、不純物として混入する場合も含めてAsの含有量が1000ppm未満、Sbの含有量が1000ppm未満であることを意味する。「バッチ」とは、天然原料や合成原料等の生原料のみならず、廃ガラスカレット等も含む。
【0011】
上記構成によれば、ガラスの製造工程や廃ガラスの処理時に環境を汚染するおそれがあるAs及びSbを使用しなくても、泡品位に優れたLiO−Al−SiO系結晶化ガラスを得ることが可能になる。
【0012】
本発明においては、LiO、NaO及びKOの合量が4.7質量%以下となるようにバッチを調製することが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、粘度logηが4.0のときのガラスの電気抵抗を4.4Ω・cm以上にすることが容易になる。
【0014】
本発明においては、LiOが4.1質量%以下となるようにバッチを調製することが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、粘度logηが4.0のときのガラスの電気抵抗を4.4Ω・cm以上にすることが容易になるとともに、所望の特性を得るのに必要な量のβ−スポジュウメンやβ−石英固溶体を析出させることが容易になる。
【0016】
本発明においては、Alが24質量%以下となるようにバッチを調製することが好ましい。
【0017】
上記構成によれば、ムライトの析出を効果的に抑制することが可能となり、液相粘度を高くすることができる。その結果、より粘性の高い状態、言い換えればより電気抵抗の高い状態でガラスを溶融することが可能になる。
【0018】
本発明においては、SnO及び/又はClを清澄剤として使用することが好ましい。
【0019】
上記構成によれば、As及びSbを使用しなくても、泡品位に優れたLiO−Al−SiO系結晶化ガラスを得ることが可能になる。
【0020】
本発明においては、SnOが0.1〜0.5質量%となるようにバッチを調製することが好ましい。
【0021】
上記構成によれば、As及びSbを使用しなくても、泡品位に優れたLiO−Al−SiO系結晶化ガラスを得ることが可能になる。
【0022】
本発明においては、TiOが1.5質量%以上となるようにバッチを調製することが好ましい。
【0023】
As及びSbを使用せずに電気抵抗を高めようとすると、得られる透明結晶化ガラスが白濁しやすくなる。この現象は、特に電気抵抗を高めるためLiOを低減すると顕著に起こる。その理由は、LiO、As、Sbを低減すると結晶性が低下して均質に結晶化が起こりにくくなるためである。そこで上記構成を採用すれば、透明結晶化ガラスの白濁を防止することが容易になる。
【0024】
本発明においては、質量%で、SiO 50〜67%、Al 12〜24%、LiO 2.5〜4.1%、MgO 0〜5%、ZnO 0〜10%、BaO 0〜8%、NaO 0〜0.5%、KO 0〜0.5%、TiO 1.5〜8%、ZrO 0〜2.4%、P 0〜7%含有するようにバッチを調製することが好ましい。
【0025】
本発明においては、電気による加熱が白金又は白金合金装置への通電加熱であることが好ましい。ここで「電気による加熱が白金又は白金合金装置への通電加熱である」とは、少なくとも通電加熱を用いて溶融ガラスを加熱又は保温することを意味し、通電加熱以外の加熱方法、例えば電極を用いた直接通電加熱や、バーナーによる燃焼加熱等との併用を排除するものではない。
【0026】
白金又は白金合金装置への通電によりガラスを加熱すると、電気リボイルが発生し易くなる。よって上記構成の溶融設備の場合に本発明の効果を一層享受し易くなる。
【0027】
本発明においては、白金又は白金合金装置がフィーダー又は成形装置であることが好ましい。
【0028】
フィーダー又は成形装置が白金又は白金合金で構成されていると、電気リボイルが発生し易くなる。よって上記構成の溶融設備の場合に本発明の効果を一層享受し易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】ガラス製造設備の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
電気リボイルは、ガラス融液とこれに接する導電体(白金等)との間で以下の反応が生じ、正極に当たる部位で酸素泡が発生する現象である。
【0031】
正極 : 2O2− → O(リボイル泡) + 4e
負極 : O + 4e → 2O2−
LiO−Al−SiO系結晶化ガラスは、ガラス組成中にアルカリ金属成分(LiO等)を含んでいる。またこの系のガラスは失透し易いことから、成形は低粘度域、換言すれば高温域で行われる。つまりこのガラス系は、溶融ガラスの電気抵抗が低く、電気が流れ易い状態にある。ここで溶融ガラスの加熱に電気が使用されている場合、溶融ガラスの異なる部分間で電位差が生じると白金等を介した回路が形成されやすく、正極に相当する白金等/溶融ガラス界面で酸素泡が発生する。特にロール成形等のように、ガラスが成形装置やその下流側に位置する移送装置等までガラスが連続している場合には回路が容易に形成され、電気リボイルが極めて発生しやすい。
【0032】
ところで清澄剤として使用されるAsやSbは、溶融〜清澄工程での温度上昇に伴い、価数変化してガラス中に酸素を放出する。
【0033】
→ M + O (M:As、Sb)
さらに清澄〜成形での温度低下に伴い、酸素を吸収する。
【0034】
+ O → M
この温度低下時の反応によって、電気リボイルで生じた泡はAsやSbに吸収され、消滅する。AsやSbを含まないLiO−Al−SiO系結晶化ガラスにおいて、電気リボイルによる泡問題が顕在化したのは、AsやSbのようなリボイル泡を吸収できる成分が存在しないことが原因である。
【0035】
AsやSbを含まないガラスにおいて、電気リボイルを発生し難くするには、フィーダーや成形部でのガラス融液の抵抗を上げることが効果的であることが分かった。具体的は、高温粘度logηが4.0のときに4.4Ω・cm以上、好ましくは4.7Ω・cm以上である。
【0036】
ガラス融液の抵抗は、アルカリ量と粘性に影響を受ける。アルカリ量が少なく、粘度が高いほど抵抗が上がるため好ましい。しかし、粘性を高くしすぎると失透する問題がある。その問題を解消するには、液相粘度が高くなるような組成設計を行い、フィーダーや成形部での粘性を高くしても失透が生じないようにする必要がある。そこで本発明では、ガラスの電気抵抗を高めると同時に、ガラスの液相粘度が高くなるようにバッチを調製することを特徴としている。具体的なガラスの液相粘度は、logηで4.35以上、好ましくは4.40以上、より好ましくは4.45以上である。
【0037】
次に本発明のLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの製造方法を説明する。
【0038】
まず高温粘度logηが4.0のときの電気抵抗が4.4Ω・cm以上、液相粘度がlogηで4.35以上、且つAs及びSbを実質的に含有しないガラスとなるようにバッチを調製する。なお以降の説明では、特に断りがない限り、「%」は「質量%」を意味する。またバッチを構成する原料は酸化物等に限定されるものではなく、各種化合物、ガラスカレット等種々の形態で使用可能である。
【0039】
高温粘度logηが4.0のときの電気抵抗を4.4Ω・cm以上とするためには、バッチ中に含まれるLiO、NaO、KOといったアルカリ金属成分の含有量を少なくすることにより達成することができる。具体的にはLiO、NaO及びKOの合量が4.7%未満、4.5%以下、4.4%以下、特に4.3%以下となるようにバッチを調製することが好ましい。また、β−スポジュウメンやβ−石英固溶体の結晶構成成分であるLiO以外のアルカリ金属成分、即ちNaOやとKOを極力含有しないようにすることが望ましい。具体的にはNaO及びKOの含有量が各々0.5%以下となるようにバッチを調製することが好ましい。なお、NaOよりもKOの含有量を少なくすることが望ましい。具体的にはKOの含有量が0.4%以下、特に0.3%以下となるようにバッチを調製することが好ましい。
【0040】
液相粘度logηを4.35以上とするためには、バッチ中に含まれるAlやLiOの含有量を低下させることにより達成することができる。
【0041】
この系のガラスの失透結晶種は、析出速度の高いムライトであることが多い。つまりムライトの析出を抑制すれば、液相粘度を高めることが可能になる。ムライトの析出はAlの含有量の影響を受け、Alが多く含まれるほどムライトが析出し易くなる。このような観点からAlの含有量が24%以下、23%以下、特に22.6%以下となるようにバッチを調製することが好ましい。
【0042】
またムライトが析出しないように組成設計した場合の失透結晶種は、β−スポジュウメンとなる。液相粘度をさらに高めたい場合には、β−スポジュウメンの液相粘度を上げる必要がある。β−スポジュウメンの液相粘度はLiOが少ないほど高くなる。このような観点からLiOの含有量が4.1%以下、4.0%以下、特に3.9%以下となるようにバッチを調製することが好ましい。
【0043】
上述の通り、電気抵抗や液相粘度を高める観点から、アルカリ金属成分の含有量は少ない方がよい。ところでアルカリ金属成分は、溶解工程でSiOの溶解を促進し、未清澄泡を低減させる働きがある。上記のようにアルカリ成分を低減して電気リボイルを防いだとしても、未清澄泡が増えれば泡品位の良い製品が得られない。特に清澄効果の高いAsやSbを使用しない場合、アルカリ金属成分を少なくすることに起因して未清澄泡が著しく増加するおそれがある。そのような場合には、SiO量を制限する必要がある。具体的には、SiOの含有量が67%以下、特に66.5%以下となるようにバッチを調製することが望ましい。
【0044】
また未清澄泡を減少させる目的で、SnO又はClを、AsやSbの代替清澄剤として用いることができる。なおClは、金型や成形ロールを腐食して、ガラスの表面品位を低下させやすいという欠点がある。よってClよりも、SnOを優先的に用いる方が良い。ただし機構の詳細は不明であるが、SnOはβ-スポジュメンの析出速度を高める働きがあるため、使用量は厳密に規制すべきである。具体的にはSnOの含有量が0.5%以下、0.4%以下、特に0.3%以下となるようにバッチを調製することが好ましい。なおSnOの清澄効果を得るには、SnOの含有量が0.1%以上となるようにバッチを調製することが望ましい。
【0045】
上記のように各種成分の含有量を適切に調整することで、泡品位に優れたLiO−Al−SiO系結晶化ガラスを得ることが可能になるが、透明結晶化ガラスを得ようとすると、結晶化ガラスが白濁しやすくなるという問題が起こる場合がある。この白濁は、TiOを多く含ませることで解決可能である。具体的には、TiOの含有量が1.5%以上、1.6%以上、特に1.8%以上となるようにバッチを調製することが好ましい。なおZrOもTiOと同様の効果があるが、ZrOを増量すると失透温度が上がり、液相粘度が下がるため好ましくない。このような観点から、ZrOの含有量が2.4%以下となるようにバッチを調製すべきである。
【0046】
またバッチには、上記以外にも種々の成分を添加することが可能である。例えばCaOの含有量が5%以下となるように、Ca成分を含む原料をバッチに添加することができる。またBの含有量が10%以下となるように、B成分を含む原料をバッチに添加することができる。また着色剤として種々の成分を添加可能である。例えばVの含有量が1.5%以下、1.0%以下、特に0.8%以下となるようにV成分を含む原料をバッチに添加することができる。またNdの含有量が1%以下となるように、Nd成分を含む原料をバッチに添加することができる。
【0047】
本発明における好適なバッチ組成は以下の通りである。
(1)SiO 50〜67%、Al 12〜24%、LiO 2.5〜4.1%、MgO 0〜5%、ZnO 0〜10%、BaO 0〜8%、NaO 0〜0.5%、KO 0〜0.5%、TiO 1.5〜8%、ZrO 0〜2.4%、P 0〜7%
(2)SiO 55〜67%、Al 16〜24%、LiO 3.0〜4.1%、MgO 0.1〜2.5%、ZnO 0〜3%、BaO 0〜4%、NaO 0〜0.5%、KO 0〜0.5%、TiO 1.5〜5%、ZrO 0〜2.3%、P 0〜5%
(3)SiO 58〜67%、Al 18〜24%、LiO 3.2〜4.1%、MgO 0.1〜2.0%、ZnO 0〜2.5%、BaO 0〜3%、NaO 0〜0.5%、KO 0〜0.5%、TiO 1.5〜5%、ZrO 0〜2.3%、P 0〜3%
次にガラス原料を、白金又は白金合金を含む溶融設備に投入し、溶融、成形する。また本発明において使用する溶融設備では、設備の少なくとも一部分で電気を使用して溶融ガラスを加熱,保温する。溶融ガラスの加熱は、白金又は白金合金の発熱体をガラス融液に接触させる方法、より具体的には溶解槽内での電極による直接通電加熱や、フィーダー、成形装置等への通電加熱等により行われる。特にフィーダー等への通電加熱を採用すれば、失透傾向の強いLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの溶融、成形に有利である。溶融設備は、連続生産可能なタンク窯を採用することが好ましい。ガラス原料の溶融条件は、上記組成のガラスの場合、最高温度1600〜1800℃で20〜200時間程度であることが好ましい。なお何れの加熱方法を採用した場合にも、電気リボイルが発生する可能性がある。特にフィーダー、成形装置等への通電加熱を行うと、電気リボイルが発生し易くなる。
【0048】
続いてガラス融液を所望の形状に成形し、LiO−Al−SiO系結晶性ガラス成形体を得る。成形方法としてはロール成形、プレス成形、フロート成形等、種々の方法を採用することができる。
【0049】
既述のように、電気による加熱方法を採用した場合、電気リボイルにより白金等の表面に酸素泡が発生する可能性がある。しかし本発明においては、溶融、成形時のガラスの電気抵抗が高くなるようにバッチを調製していることから、ガラス融液中に電気が流れにくくなり、電気リボイル現象を抑制することができる。
【0050】
なおロール成形やフロート成形を採用した場合、結晶性ガラス成形体の切断(切り離し)が成形後となる。特にガラスの温度が十分に低い、言い換えればガラスの粘度が十分に高くなった後に切断工程を行う場合、溶融設備内の高温のガラスと成形機やディバリーマシン内の低温のガラスとが連続体となる。このような場合、温度差による熱起電力が生じやすくなり、電気リボイルが一層発生しやすくなる。そこで溶融設備内外のガラスの温度差が小さくなるように、ガラス融液の出口、例えばオリフィスから出た直後のガラスの粘度をlogηで3.0以上に調整することが好ましい。また低粘度でガラスが供給される成形法、例えばロール成形法を採用する場合、成形装置の上流側ガラスと下流側ガラスとの温度差による熱起電力によってもリボイルが生じることがある。この場合、成形装置の上流側と下量側との温度差が極力小さくなるように調節することが望ましい。
【0051】
続いてLiO−Al−SiO系結晶性ガラス成形体を700〜800℃で1〜4時間保持して核形成を行い、透明な結晶化ガラスとする場合は800〜950℃で0.5〜3時間熱処理してβ−石英固溶体を析出させる。また白色不透明な結晶化ガラスとする場合は核形成後に1050〜1250℃で0.5〜2時間熱処理してβ−スポジュメン固溶体を析出させればよい。
【0052】
このようにしてAsやSbを実質的に含有しないにも関わらず、泡品位に優れたLiO−Al−SiO系結晶化ガラスを得ることができる。なお得られたLiO−Al−SiO系結晶化ガラスは、切断、研磨、曲げ加工、延伸成形等の後加工を施したり、表面に絵付けを施したりして種々の用途に供される。
【実施例】
【0053】
以下、実施例に基づいて本発明のLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの製造方法を説明する。
【0054】
表1は本発明の方法を用いた実施例(No.1、2)及び比較例(No.3〜7)をそれぞれ示している。
【0055】
【表1】

【0056】
図1は、本実施例で使用する製造設備を示している。製造設備は、溶解槽11及びフィーダー12を有する溶融設備10と、ロール成形機20と、デリバリーマシン30と、徐冷炉(図示せず)、切断機(図示せず)で構成される。溶解槽11は耐火物で構成されるとともに、供給されたバッチを加熱し、溶解する酸素燃焼式バーナーが設けられている。フィーダー12は、溶解槽11と接続され、溶解槽11で溶解されたガラス融液を成形機まで搬送する。フィーダー12は白金にて構成されている。またフィーダー本体に通電可能なように、電源(図示せず)と接続された白金製のターミナル(図示せず)がフィーダー両端に設置されている。またフィーダー12の端部には、溶融ガラスを連続的に流出させるための白金製のオリフィス13が設けられている。オリフィスの下方には、一対のローラーを備えたロール成形機20が設置されている。ロール成形機20の下方にはロール成形によりリボン状になったガラスを徐冷炉に搬送するデリバリーマシンが設置されている。デリバリーマシンの下流には、徐冷炉及び切断機が設置されている。
【0057】
次に上記製造設備に用いた各試料の調製方法を説明する。
【0058】
まず表の組成を有するガラスとなるように各原料を酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩等の形態で調合し、均一に混合した。その後、この原料バッチを溶解槽11に投入し、溶解効率2.5m/(t/day)で溶解した。溶解されたガラス融液は、通電加熱されているフィーダー12内を通ってロール成形機に供給される。ロール成形機にて板状に成形されたリボン状のガラスは、デリバリーマシン4で徐冷炉(図示せず)へ搬送され、徐冷、除歪される。その後、切断機によって切断し、結晶性ガラス成形体を得た。
【0059】
得られた結晶性ガラス成形体を、780℃で30分加熱して核形成を行った後、890℃で10分の熱処理を行って結晶を成長させ、結晶化を完了した。得られた透明結晶化ガラスについて、白濁の有無を評価した。
【0060】
表1から明らかなように、本発明方法を用いた試料No.1及び2の試料では、AsやSbを使用していないにも関わらず、未清澄泡が少なく、かつ電気リボイルの発生を抑制できていた。また結晶化後の白濁も無く製造できることができることが分かった。
【0061】
なお電気抵抗は2端子法で1kHzの交流電源を用いて測定した。
【0062】
液相粘度は次のようにして行った。まず結晶性ガラス成形体の粉砕物を、白金ボートに投入し、1500℃、30分加熱してリメルトした。次に白金ボートを温度傾斜炉に入れ20時間保持した後に取り出して液相温度を求めた。さらに白金球引上げ法により液相粘度におけるガラスの粘度を求めた。なお、液相温度の測定対象となる結晶種は、析出速度が速く成形時に問題となりやすいβ−スポジュメン及びムライトのうち、最も高温側で析出した結晶とする。結晶種の同定にはEPMAを使用することができる。
【0063】
ムライト析出の有無は顕微鏡観察により析出した結晶の形態より確認した。
【0064】
未清澄泡の有無は、溶解槽出口で採取した泡数を計測し、kgあたりの泡個数に換算して10個/kg未満の場合を「なし」、10個/kg以上の場合を「あり」と判定した。
【0065】
リボイルの有無は、溶解槽の出口で採取したガラスと成形後のガラスの泡数をそれぞれkgあたりの泡個数に換算し、成形後のガラスの泡数の個数の方が攪拌前のガラスの個数の2倍未満の場合を「なし」、2倍以上の場合を「あり」と判定した。
【0066】
白濁の有無は、結晶化ガラスを黒色の台紙の上にのせ、蛍光灯下で外観を観察して評価した。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の方法は、石油ストーブ、薪ストーブ等の前面窓、カラーフィルターやイメージセンサー用基板等のハイテク製品用基板、電子部品焼成用セッター、電子レンジ用棚板、電磁調理用トッププレート、防火戸用窓ガラス等の種々の材料として使用されるLiO−Al−SiO系結晶化ガラスを、AsやSbを使用することなく製造する方法として好適である。特にLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの失透を防止する目的で、フィーダー等に通電加熱する場合に効果的である。
【符号の説明】
【0068】
10 溶融設備
11 溶解槽
12 フィーダー
13 オリフィス
20 ロール成形機
30 ディバリーマシン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金又は白金合金製装置を含む溶融設備を使用するとともに、電気による加熱を用いてLiO−Al−SiO系結晶性ガラスを溶融、成形した後、結晶化させるLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの製造方法であって、粘度logηが4.0のときのガラス融液の電気抵抗が4.4Ω・cm以上、液相粘度がlogηで4.35以上、且つAs及びSbを実質的に含有しない結晶性ガラスとなるように調製したバッチを使用することを特徴とするLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの製造方法。
【請求項2】
LiO、NaO及びKOの合量が4.7質量%以下となるようにバッチを調製することを特徴とする請求項1に記載のLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの製造方法。
【請求項3】
LiOが4.1質量%以下となるようにバッチを調製することを特徴とする請求項1又は2に記載のLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの製造方法。
【請求項4】
Alが24質量%以下となるようにバッチを調製することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの製造方法。
【請求項5】
SnO及び/又はClを清澄剤として使用することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの製造方法。
【請求項6】
SnOが0.1〜0.5質量%となるようにバッチを調製することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの製造方法。
【請求項7】
TiOが1.5質量%以上となるようにバッチを調製することを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載のLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの製造方法。
【請求項8】
質量%で、SiO 50〜67%、Al 12〜24%、LiO 1〜4.1%、MgO 0〜5%、ZnO 0〜10%、BaO 0〜8%、NaO 0〜0.5%、KO 0〜0.5%、TiO 1.5〜8%、ZrO 0〜2.4%、P 0〜7%含有することを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載のLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの製造方法。
【請求項9】
電気による加熱が白金又は白金合金装置への通電加熱であることを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載のLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの製造方法。
【請求項10】
白金又は白金合金装置がフィーダー又は成形装置であることを特徴とする請求項1〜9の何れかに記載のLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2012−218978(P2012−218978A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86961(P2011−86961)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】