説明

LiCoO2粒子材料、その製造方法およびそれを用いた二次電池

【課題】全体としての粒子材料の形状が特定方向に揃ったLiCoO粒子材料、前記LiCoO粒子材料の製造方法、および前記LiCoO粒子材料を正極活物質として用いた二次電池を提供する。
【解決手段】ワイヤー形状物を含み、XRD測定したピークが(104)面に相当する主要ピークを有するLiCoO粒子材料、ワイヤー形状のCo含有前駆体粒子を用意する工程、フラックス中、Li源と前記ワイヤー形状のCo含有前駆体粒子とを接触させてワイヤー形状物を含むLiCoO粒子材料を生成させる工程、および得られたLiCoO粒子材料を他の成分から分離取得する工程を含む、前記方法、および前記LiCoO粒子材料を正極活物質として用いた二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なLiCoO粒子材料、その製造方法およびそれを用いた二次電池に関し、さらに詳しくは全体としての粒子材料の形状が特定方向に揃ったLiCoOを含み、電子伝導が速くて電池の出力特性を向上し得るLiCoO粒子材料、その製造方法およびそれを用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高電圧および高エネルギー密度を有する電池としてリチウムイオン二次電池などの二次電池が実用化されている。二次電池の用途が広い分野に拡大していることおよび高性能の要求から、電池の更なる性能向上のために種々の研究が行われている。
例えば、負極材料として炭素材料やアルミニウム合金等が実用電池に実用化されているが、高容量化および/又は高電位化に対しては十分ではなくさらなる性能向上のために検討がなされている。
一方、正極材料についても高容量化、高電位化、出力特性向上の必要性がある。
【0003】
前記正極材料の必須成分である正極活物質としては、様々な金属化合物が提案されているが代表的なものの1つにLiCoOがあり、層状粉末であるLiCoO粉末が提案されている。
このように、LiCoOは特定の構造を有し得ることから、LiCoOの構造と二次電池の性能との関係について検討がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、導電性基板上に正極活物質、電解質層および負極活物質層が順次形成された固体リチウム二次電池におけるc軸が基板の法線に対して少なくとも60°傾いている正極活物質LiCoO、および導電性基板上にリチウムソース材料およびコバルトソース材料を供給して製膜する際に正極活物質の膜形成初期段階において両ソース材料を基板の法線となす角60〜90°の範囲の入射角で供給する気相製膜法による正極活物質LiCoOの形成法が記載されている。そして、具体例として膜のX線回折パターンが(003)面による回折強度に対する(104)面による回折強度の比率([104]/[003])が1.1〜4.3である厚さ約1μmのLiCoO膜を得た例が示されている。
【0005】
また、引用文献2には、シート状の集電体と、前記集電体に担持された活物質層とを具備し、前記活物質層は、少なくとも1つの屈曲部を有する複数の柱状粒子を含み、前記柱状粒子は、リチウムの吸蔵および放出が可能である、リチウム二次電池用電極が記載され、柱状粒子がケイ素単体およびケイ素酸化物から選ばれる又は遷移金属元素を含む酸化物、固溶体又はこれらの複合体を含むこと、そして前記遷移金属元素を含む酸化物の一例としてLiCoOが例示されている。そして、具体例として、正極活物質として平均粒径10μmのコバルト酸リチウム(LiCoO)粉末を用い、負極集電体に屈曲部を有する柱状粒子であるケイ素酸化物からなる負極活物質層を蒸着法で形成して電池を得た例が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−132887号公報
【特許文献2】特開2008−186809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前記公知技術の気相製膜法では、全体としての粒子材料の形状が特定方向であって、電子伝導が速くて電池の出力特性を向上し得るLiCoO粒子材料を得ることは困難である。
従って、本発明の目的は、全体としての粒子材料の形状が特定方向に揃ったLiCoO粒子材料を提供することである。
また、本発明の他の目的は、全体としての粒子材料の形状が特定方向に揃ったLiCoO粒子材料の製造方法を提供することである。
また、本発明の他の目的は、全体としての粒子材料の形状が特定方向に揃ったLiCoO粒子材料を正極活物質として用いた二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ワイヤー形状物を含み、XRD測定したピークが(104)面に相当する主要ピークを有するLiCoO粒子材料に関する。
【0009】
また、本発明は、前記LiCoO粒子材料の製造方法であって、
ワイヤー形状のCo含有前駆体粒子を用意する工程、
フラックス中、Li源材料と前記ワイヤー形状のCo含有前駆体粒子とを加熱下に接触させてワイヤー形状物を含むLiCoO粒子材料を生成させる工程、および
得られたLiCoO粒子材料を他の成分から分離取得する工程
を含む、前記方法に関する。
【0010】
また、本発明は、前記LiCoO粒子材料が正極活物質として用いられた二次電池に関する。
【0011】
本発明においてワイヤー形状とは、線形状又は線状で、外径(円換算の直径)が0.5〜10μmであり、また、長さが20〜1000μmであることを示し、ワイヤー形状物とはLiCoOからなるワイヤー形状のものである。
また、本発明において、主要ピークとは、後述の実施例の欄に詳述するXRD測定法により任意の複数個のLiCoO粒子を含む試料について測定したX線回折パターンを分析し、最も大きい回折強度を示すピークである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、全体としての粒子材料の形状が特定方向に揃ったLiCoO粒子材料を得ることができる。
また、本発明によれば、全体としての粒子材料の形状が特定方向に揃ったLiCoO粒子材料を容易に得ることができる。
また、本発明によれば、全体としての粒子材料の形状が特定方向に揃ったLiCoO粒子材料を用いた二次電池を得ることができる。
なお、前記の全体としての粒子材料の形状が特定方向に揃ったとは、粒子全体として前記(104)面のピークが主要であることを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の実施例で得られたLiCoO粒子材料の試料について測定したSEM像の写しである。
【図2】図2は、図1で示すLiCoO粒子材料の試料のうちのワイヤー形状物について測定した断面SEM像の写しである。
【図3】図3は、本発明の実施例で得られたLiCoO粒子材料の試料および公知のLiCoO粒子試料についてのXRD測定によるX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
特に、本発明において、以下の実施態様を挙げることができる。
1)CuKα線を用いてXRD測定して(104)面に相当する2θ=45.2〜46.2°に主要ピークを有する前記LiCoO粒子材料。
2)前記ワイヤー形状物が、5以上のアスペクト比を有する前記LiCoO粒子材料。
3)前記ワイヤー形状物が、断面をSEM観察して六角柱状である前記LiCoO粒子材料。
4)前記ワイヤー形状のCo含有前駆体粒子を用意する工程が、フラックス中、Co源材料と耐熱性繊維状物質とを加熱下に接触させてワイヤー形状のCo含有前駆体粒子を生成させる工程、および生成したワイヤー形状のCo含有前駆体粒子を他の成分から分離取得する工程
を含む、前記製造方法。
5)前記耐熱性繊維状物質が、VGCFである前記製造方法。
6)前記フラックスが、KCl、LiClおよびNaClから選ばれる少なくとも1つを含む前記製造方法。
7)前記ワイヤー形状のCo含有前駆体が、ワイヤー形状のCoOである前記製造方法。
8)500〜1000℃の温度に加熱下に接触させる前記製造方法。
【0015】
本発明においては、ワイヤー形状物を含み、XRD測定したピークが(104)面に相当する主要ピークを有するLiCoO粒子材料であることが必要であり、これによって(104)面に垂直な方向に粒子材料の形状が揃ったLiCoO粒子材料を得ることができる。
【0016】
前記のLiCoO粒子材料は、例えば、ワイヤー形状のCo含有前駆体粒子を用意する工程、
フラックス中、Li源材料と前記ワイヤー形状のCo含有前駆体粒子とを加熱下に接触させてワイヤー形状物を含むLiCoO粒子材料を生成させる工程、および
得られたLiCoO粒子材料を他の成分から分離取得する工程
を含む、方法によって得ることができる。
【0017】
以下、図面を参照して本発明を詳述する。
本発明の実施態様のLiCoO粒子材料は、図1に示すように、ワイヤー形状物を含むものである。
そして、前記ワイヤー形状物は、図1に示すように、アスペクト比(粒子の長手方向の長さ/長手方向に垂直な面で切断した断面の円換算の直径)が5以上、例えば5〜250であり得る。
また、前記ワイヤー形状物は、図2に示すように、断面をSEM観察して六角柱状であることが理解される。しかし、本発明のLiCoO粒子材料におけるワイヤー形状の粒子は、前記断面について前記形状(六角形状)に限定されず任意の形状であり得る。
【0018】
さらに、本発明の実施態様のLiCoO粒子材料は、図3の(A)に示すように、CuKα線を用いたXRD測定パターンが(104)面に相当する2θ=45.2〜46.2°に主要ピークを有することが理解される。
つまり、CuKα線を用いたXRDパターンの(104)面のピーク強度と(003)面のピーク強度との比[(104)/(003)]は1より大、例えば1より大で5未満であり得ることが理解される。
これにより、本発明の実施態様のLiCoO粒子材料は、全体として電子伝導の速い方向に配向していることが理解される。
【0019】
これに対して、従来公知のLiCoO粒子材料は、図3の(B)に示すように、CuKα線を用いたXRD測定パターンが(003)面に相当する2θ=約20°に主要ピークを有することが理解される。
つまり、従来のLiCoO粒子材料は、(003)面の回折ピークが主要なピークとなり粒子材料の形状が特定方向に揃ってなく、配向がランダムであることが理解される。
【0020】
前記本発明のLiCoO粒子材料の製造方法において、ワイヤー形状のCo含有前駆体粒子を用意する工程は、例えば、耐熱性容器、例えばアルミナるつぼを用いて、フラックス中、Co源材料と耐熱性繊維状物質とを加熱下に接触させてワイヤー形状のCo含有前駆体粒子を生成させる工程、および生成したワイヤー形状のCo含有前駆体粒子を他の成分から分離取得する工程を含み得る。前記ワイヤー形状のCo含有前駆体粒子を生成させる工程は、好適にはフラックスを機械的な攪拌を実施しないで行われる。
【0021】
前記ワイヤー形状のCo含有前駆体粒子は、例えばワイヤー形状のCoOであり得る。
前記Co源材料と耐熱性繊維状物質とを加熱下に接触させる際に、耐熱性容器は500℃以上、例えば500℃以上1000℃未満の温度に加熱され得る。前記耐熱性容器の加熱により、フラックスも前記の温度範囲に加熱され得る。また、前記加熱時間は1時間以上、例えば5〜24時間程度であり得る。
【0022】
前記のフラックス(融剤)としては、KCl、LiCl、NaCl、NaおよびNaCOから選ばれる少なくとも1つ、好適にはKCl、LiClおよびNaClから選ばれる少なくとも1つが挙げられる。
また、前記耐熱性繊維状物質としては、繊維状炭素、好適にはVGCF[Vapor Growth Carbon Fiber(気相成長炭素繊維)]が挙げられる。前記VGCFは、通常、直径が約0.1〜0.5μm、アルペクト比が10以上、例えば100以上の繊維であり得る。
【0023】
また、前記Co源材料としては、金属Co、CoO、Co、Coなどが挙げられる。
前記各成分の割合は、フラックスに対して、Co源材料が0.1〜10mol%であって、耐熱性繊維状物質が0.1〜10質量%であり得る。
【0024】
前記の工程で生成されたワイヤー形状のCo含有前駆体粒子は、例えば、耐熱性容器を冷却後、フラックスから分離取得し得る。
前記のフラックスからワイヤー形状のCo含有前駆体粒子を分離取得する際に、例えばフラックスを含む混合物をフラックス溶解性溶媒、例えば水で洗い流すことによって行われ得る。
【0025】
次いで、前記の製造方法は、耐熱性容器、例えば白金るつぼを用いて、フラックス中、Li源材料と前記ワイヤー形状のCo含有前駆体粒子とを加熱下に接触させてワイヤー形状物を含むLiCoO粒子を生成させる工程、および得られたワイヤー形状物を含むLiCoO粒子材料を他の成分から分離取得する工程を含む。前記ワイヤー形状物を含むLiCoO粒子材料を生成させる工程は、好適にはフラックスを機械的な攪拌を実施しないで行われる。
【0026】
前記Li源と前記ワイヤー形状のCo含有前駆体粒子とを加熱下に接触させる際に、耐熱性容器は500℃以上、例えば500℃以上1000℃未満の温度、特に700〜1000℃に加熱され得る。前記耐熱性容器の加熱により、フラックスも前記の温度範囲に加熱され得る。また、前記加熱時間は1時間以上、例えば3〜24時間程度であり得る。
前記のフラックスとしては、前記のワイヤー形状のCo含有前駆体粒子を用意する工程で挙げたものの中から選択され得て、好適にはNaClが挙げられる。
前記Co源材料としては、金属Li、LiO、LiO、LiOHなどが挙げられる。
前記各成分の割合は、フラックスに対して、Li源材料が1〜10質量%、ワイヤー形状のCo含有前駆体粒子が1〜10質量%であり得る。
【0027】
前記の工程で生成されたワイヤー形状物を含むLiCoO粒子材料は、例えば、耐熱性容器を冷却後、フラックスから分離取得し得る。
前記のフラックスからワイヤー形状物を含むLiCoO粒子材料を分離取得する際に、耐熱性容器を冷却後、フラックスを含む混合物をフラックス溶解性溶媒、例えば水で洗浄することによって行われ得る。
【0028】
前記の方法によって得られるLiCoO粒子材料は、前述のようにワイヤー形状物を含み、XRD測定したピークが(104)面に相当する主要ピークを有するLiCoO粒子であり、二次電池の正極活物質として用いられ得る。
【0029】
二次電池、例えばリチウムイオン二次電池は、通常、主要な構成材としての正極活物質を含む正極、電解質(場合によりセパレータに含まれる)および負極から構成される。
【0030】
前記正極は、正極集電体とその少なくとも一面に設けられた本発明の前記LiCoO粒子材料からなる正極活物質を含む正極活物質層とを有し得る。
前記正極集電体は、例えば、アルミニウム、ニッケル又はステンレスなどの金属材料によって構成され得る。
【0031】
前記正極活物質層には、正極活物質として本発明の前記LiCoO粒子材料からなる正極活物質単独又は本発明の前記LiCoO粒子材料からなる正極活物質とともに該活物質とは異なる物質であるLiドープ剤、例えばLiO、LiおよびLiNiOからなる群から選択される少なくとも1種又は2種以上が含まれ得る。
また、正極活物質層には、通常、電解質、バインダー、例えば、ポリアニリン、ポリチオフェンスチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリレート、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)などの高分子材料や、導電剤、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック又はケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、フラーレン等を単独で又は2種以上を組み合わせた炭素材料が含まれ得る。
【0032】
また、前記セパレータとしては、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)などのポリオレフィン製の多孔質膜、セラミック製の多孔質膜が挙げられる。例えば、多層構造、例えばPE/PP/PEの3層構造のポリオレフィン製の多孔質膜が好適に使用される場合がある。
【0033】
前記電解質としては電解液、ゲル状の電解質又は固体電解質が挙げられる。
電解液は溶剤と電解質塩とを含んでいて、溶剤としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートが好適に挙げられる。その中でも、エチレンカーボネートあるいはプロピレンカーボネートなどの高粘度溶剤とジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどの低粘度溶剤の少なくとも1種又は2種以上とを混合した混合溶剤が好適である。
【0034】
前記電解液には、一般的に電解質塩が支持塩として含有されている。この電解質塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、過塩素酸リチウム(LiClO4 )、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6 )、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(C25 SO22 )、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3 SO3 )、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO22 )、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド(LiC(CF3 SO23 )、塩化リチウム(LiCl)あるいは臭化リチウム(LiBr)など、好適には六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )が挙げられる。
【0035】
前記ゲル状の電解質は、例えば正極および負極を作製し、これらに溶剤と電解質塩とを含む電解液を塗布した後に溶剤を揮発させて形成し得る。
また、前記固体電解質としては、例えばリチウム二次電池の固体電解質材料として用いられ得る材料の粉末であれば限定されず、例えばLiO−B−P、LiO−SiO、LiO−B、LiO−B−ZnOなどの固体酸化物系非晶質電解質粉末、LiS−SiS、LiI−LiS−SiS、liI−liS−P、LiI−LiS−B、LiPO−LiS−SiS、LiPO−LiS−SiS、LiPO−LiS−SiS、LiI−LiS−P、LiI−LiPO−P、LiPS、LiS−Pなどの固体硫化物系非晶質電解質粉末、あるいはLiI、LiI−Al、LiN、LiN−LiI−LiOH、Li1.3Al0.3Ti0.7(PO、Li1+x+yTi2−xSi3−y12(A=Al又はGa、0≦x≦0.4、0<y≦0.6)、[(B1/2Li1/21−z]TiO(B=La、Pr、Nd、Sm、C=Sr又はBa、0≦x≦0.5)、LiLaTa12、LiLaZr12、LiBaLaTa12、LiPO(4−3/2w)(w<1)、Li3.6Si0.60.4などの結晶質酸化物粉末や酸窒化物粉末など、好適には固体硫化物電解質粉末が挙げられる。
【0036】
本発明の前記LiCoO粒子材料からなる正極活物質を用いて正極を得る方法としてはそれ自体公知の方法、例えば各成分からなる正極合剤を得てプレスする方法、前記LiCoO粒子材料からなる正極活物質を含むペーストを正極集電体上に塗布した後、乾燥させて正極集電体上に正極活物質層を形成する塗布法が挙げられる。前記正極活物質を含むペースト又はこのペーストにさらに溶剤を加えて正極集電体上に塗布した後、乾燥し、プレスすることによって得ることができる。
【0037】
前記負極は、負極集電体とその少なくとも一面に設けられた負極活物質を含む負極活物質層とを有し得る。
前記負極集電体としては、銅、または銅を主成分とする合金が挙げられる。負極集電体の形状は、リチウムイオン二次電池の形状等に応じて異なり得るため特に制限はなく、棒状、板状、シート状、箔状、メッシュ状等の種々の形態であり得る。車両搭載用高出力電源として用いられるリチウムイオン二次電池の負極の集電体としては、厚さが5〜100μm程度の銅箔が好適に用いられる。
【0038】
また、前記負極活物質層には、電荷担体となるリチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質が含まれ得る。
前記負極活物質としては、従来からリチウムイオン二次電池に用いられる物質の一種または二種以上が挙げられる。例えば、カーボン粒子が挙げられる。少なくとも一部にグラファイト構造(層状構造)を含む粒子状の炭素材料(カーボン粒子)が挙げられる。いわゆる黒鉛質のもの(グラファイト)、難黒鉛化炭素質のもの(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素質のもの(ソフトカーボン)、これらを組み合わせた構造を有するもののいずれの炭素材料も好適に挙げられる。中でも特に、黒鉛粒子を好適に挙げられる。
【0039】
また、前記負極活物質層は、典型的には、その構成成分として、上記負極活物質の他に、導電剤、バインダー、溶剤等の任意成分を必要に応じて含有し得る。前記バインダーとしては、一般的なリチウムイオン二次電池の負極に使用されるバインダーと同様のものであり得て、前記の正極の構成要素におけるバインダーとして機能し得る各種のポリマー材料を好適に挙げられる。
前記導電剤としては、炭素材料、リチウムと合金化し難い金属、導電性高分子材料等が挙げられ、炭素材料が好適である。前記炭素材料としては、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、フラーレン等を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
また、前記の溶剤としては、アルコール、グリコール、セロソルブ、アミノアルコール、アミン、ケトン、カルボン酸アミド、リン酸アミド、スルホキシド、カルボン酸エステル、リン酸エステル、エーテル、ニトリル等が挙げられる。具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、2−プロパノール、1−ブタノール、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−アミノエタノール、アセトン、メチルエチルケトン、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミド、N−メチルピロリドン、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、アセトニトリル、プロピオニトリルが挙げられる。
【0041】
前記の負極を得る方法として、例えば各成分からなる負極合剤を得てプレスする方法、前記負極活物質を含むペースト又はこのペーストにさらに溶剤を加えて負極集電体上に塗布した後、乾燥し、プレスして、集電体上に負極材料層を形成する塗布法が挙げられる。
【0042】
前記の方法によって、本発明の正極活物質を用いて得られた正極、他の構成材、例えば負極、セパレータおよび電解質を用いて二次電池、例えばリチウムイオン二次電池が得られる。
前記二次電池、例えばリチウムイオン二次電池としては任意の形状を有するものが挙げられる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例を示す。
以下の実施例は単に説明するためのものであり、本発明を限定するものではない。
以下の各例において、XRD測定は任意に選択された複数個のLiCoO粒子を含む測定試料についてCuKα線を用いて、以下の装置を用いて測定を行った。
なお、このCuKα線を用いたXRD測定法および測定装置は例示であって当業者が同等と考える測定法および測定装置も同様に用い得る。
XRD測定装置:リガク社、MiniFlexII
また、以下の各例において、SEM観察は、以下の装置を用いて測定を行った。なお、このSEM観察法および観察装置は例示であって当業者が同等と考える観察法および観察装置も同様に用い得る。
SEM観察装置:日本電子社、JCM−5700
【0044】
実施例1
1.ワイヤー形状の粒子を含むCoO粒子の作製
アルミナるつぼ(純度99.9%)に、フラックスとしてKCl(和光純薬社)とLiCl(和光純薬社)とを40.5:59.5の比率(モル比)で450g、Co源材料としてCo(アルドリッチ社)をフラックスに対して1mol%の割合で入れ、VGCF(昭和電工社)0.45gを入れ、るつぼを700℃で10時間加熱した。冷却後、フラックスを水で洗い流し、ワイヤー形状のCoO粒子を得た。
なお、得られたCoO粒子の形状については、SEM観察によって確認を行った。
【0045】
2.ワイヤー形状物を含むLiCoO粒子材料の作製
白金るつぼ(フルヤ金属社)に、フラックスとしてNaCl(和光純薬社)1.482g、Li源材料としてLiOH・HO(和光純薬社)0.112g、Co源材料として上記のワイヤー形状のCoO粒子0.100gを入れ、るつぼを900℃で5時間加熱した。冷却後、フラックスを水で洗い流し、ワイヤー形状物を含むLiCoO粒子材料を得た。
【0046】
得られた任意の複数個のLiCoO粒子を含むLiCoO粒子材料についてSEM観察を行った。得られた結果を図1に示す。また、ワイヤー形状のLiCoOについて断面のSEM観察を行った。結果を図2に示す。
また、得られた任意の複数個のLiCoO粒子を含むLiCoO粒子材料についてXRD測定を行った。結果を図3の(A)に示す。
【0047】
比較例1
一般的なLiCoO粒子材料のXRDパターンとしてInternational Center for Diffraction DataのPDFカード番号01−075−0532のデータを用いた。
結果を図3の(B)に示す。
【0048】
図1から、実施例1で得られたLiCoO粒子材料は、ワイヤー形状物を含み、このワイヤー形状物はアスペクト比が10以上であることが示された。
また、図2から、ワイヤー形状物は、六角柱状であることが示された。
さらに、図3の(A)から、実施例1で得られたLiCoO粒子材料は、CuKα線を用いたXRDパターンが(104)面に相当する2θ=45.2〜46.2°に主要ピークを有するLiCoO粒子材料であることが示された。
これに対して、図3の(B)から、従来のLiCoO粒子材料は、CuKα線を用いたXRD測定パターンが(003)面に相当する2θ=約20°に主要ピークを有することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、特定方向に粒子形状が揃った粒子を主要成分として含み、XRD測定したピークが(104)面に相当する主要ピークを有し、電子伝導が速くて電池の出力特性を向上し得るLiCoO粒子材料を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤー形状物を含み、XRD測定したピークが(104)面に相当する主要ピークを有するLiCoO粒子材料。
【請求項2】
CuKα線を用いてXRD測定して(104)面に相当する2θ=45.2〜46.2°に主要ピークを有する請求項1に記載のLiCoO粒子材料。
【請求項3】
前記ワイヤー形状物が、5以上のアスペクト比を有する請求項1又は2に記載のLiCoO粒子材料。
【請求項4】
前記ワイヤー形状物が、断面をSEM観察して六角柱状である請求項1〜3のいずれか1項に記載のLiCoO粒子材料。
【請求項5】
請求項1に記載のLiCoO粒子材料の製造方法であって、
ワイヤー形状のCo含有前駆体粒子を用意する工程、
フラックス中、Li源と前記ワイヤー形状のCo含有前駆体粒子とを加熱下に接触させてワイヤー形状物を含むLiCoO粒子材料を生成させる工程、および
得られたLiCoO粒子材料を他の成分から分離取得する工程
を含む、前記方法。
【請求項6】
前記ワイヤー形状のCo含有前駆体粒子を用意する工程が、
フラックス中、Co源材料と耐熱性繊維状物質とを加熱下に接触させてワイヤー形状のCo含有前駆体粒子を生成させる工程、および
生成したワイヤー形状のCo含有前駆体粒子を他の成分から分離取得する工程
を含む請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記耐熱性繊維状物質が、VGCFである請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記フラックスが、KCl、LiClおよびNaClから選ばれる少なくとも1つを含む請求項5〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記ワイヤー形状のCo含有前駆体が、ワイヤー形状のCoOである請求項5〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
500〜1000℃の温度に加熱下に接触させる請求項5〜9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のLiCoO粒子材料を正極活物質として用いた二次電池。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−28517(P2013−28517A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167243(P2011−167243)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】