説明

MALDI−MSを用いる動的画素走査

動的画素質量分析結像または動的画素結像のための方法が開示される。方法は、レーザビームを走査される試料に当て、その結果、レーザビームが試料から検体を放出することを含む。レーザビームおよび試料は次いで、互いに対して移動され、その結果、レーザビームは、試料上の所定の経路を実質的に連続的にトレースし、所定の経路に沿って試料から検体を放出する。放出された検体の質量分析が行なわれる。方法は、試料に関係する仮想の限定領域を作ることをさらに包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2006年7月19日に出願された米国仮特許出願第60/807,776号の利益を主張し、この仮特許出願の内容の全体が本明細書において参考として援用される。
【0002】
本明細書において用いられる項の見出しは、編成の目的のみのためであり、説明される本件を限定するものとして決して解釈されるべきではない。
【0003】
(分野)
出願人の教示は、動的画素質量分析結像(dynamic pixel mass spectrometric imaging)または動的画素結像(dynamic pixel imaging)に関する。
【背景技術】
【0004】
(序論)
質量分析結像は、質量分析計を用いて、二次元の表面をその分子構造に関して分析する技術である。質量分析結像によって作られる画像マップは、試料の表面全体にわたり1つのイオンまたは多数のイオン信号の検出を示す質量マップまたはイオン(m/z)強度マップである。試料は、例えば組織片を含み得る。静止の点ごと(spot−to−spot)の走査方法は、長方形の画素が試料上に定義され、レーザが、画素を有する一箇所においてのみであるが試料からイオンを除去する場合において用いられる。質量スペクトルは、画素内の静止点から得られる。試料は次いで、(試料ステージを介して)レーザに対して移動され、その結果、レーザは次の画素内に集中され、質量スペクトルが得られる。試料ステージは、各スペクトルが得られている間、移動されない。従って、質量スペクトルは、画素ずつに連続して収集される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
(概要)
出願人の教示は、動的画素質量分析結像または動的画素結像に関する。さらに、出願人の教示は、試料を走査する方法に関する。方法は、レーザビームを走査される試料に当てることであって、レーザビームは、試料から検体を放出する、ことと、レーザビームおよび試料を互いに対して移動させ、その結果、レーザビームは、試料上の所定の経路を実質的に連続的にトレースし、所定の経路に沿って試料から検体を放出することと、放出された検体の質量分析を行なうこととを包含する。
【0006】
さらに、出願人の教示の様々な実施形態に従って、方法は、試料に関係する仮想の限定領域を作ることをさらに包含し、限定領域は、レーザビームが試料上の所定の経路を実質的に連続的にトレースする境界を定義する。
【0007】
出願人の教示の一部の実施形態に従って、限定領域は、複数のパーセルに分割される。
【0008】
出願人の教示の一部の実施形態に従って、放出された検体の質量分析は、所定の経路に沿って試料から放出された検体からの選択化合物のピーク強度の分布をプロットするために用いられる。
【0009】
パーセルのサイズは、レーザビームのサイズに関係して選択され、分布プロットの解像度および感度を設定し得る。
【0010】
出願人の教示の一部の実施形態に従って、限定領域はグリッドであり、複数のパーセルはグリッド要素である。
【0011】
出願人の教示の一部の実施形態に従って、試料は、エネルギ吸収基質が備えられている。
【0012】
さらに、出願人の教示の様々な実施形態に従って、レーザは、選択パルス周波数で試料に当る。
【0013】
さらに、出願人の教示の一部の実施形態に従って、方法は、試料に関係する少なくとも1つの他の限定領域を仮想的に作ることを包含し、少なくとも1つの他の限定領域は、レーザビームが試料上の少なくとも1つの他の所定の経路を実質的に連続的にトレースする境界を定義し、少なくとも1つの他の限定領域においてレーザビームからの放出された検体の質量分析を行なう。
【0014】
第1の限定領域および少なくとも1つの他の限定領域から得られた質量分析は、それぞれの限定領域内の検体からの選択化合物のピーク強度の分布をプロットするために用いられ得る。
【0015】
出願人の教示の一部の実施形態に従って、第1の限定領域および少なくとも1つの他の限定領域が重なり合う領域からのピーク強度は、合計され得る。さらに、第1の限定領域および少なくとも1つの他の限定領域が重なり合う領域からのピーク強度は、数学的に解析され得る。
【0016】
出願人の教示の様々な実施形態に従って、第1の所定の経路をトレースした後に、レーザビームおよび試料は後に、互いに対して移動され得、その結果、レーザビームは、第1の所定の経路の少なくとも一部分と実質的に同一の広がりをもつ、少なくとも、試料上の第2の所定の経路を実質的に連続してトレースする。
【0017】
出願人の教示の一部の実施形態に従って、質量分析は、質量分析計によって行われる。質量分析計は、例えば、飛行時間型質量分析計、トリプル四重極分光計、またはイオントラップ質量分析計であり得るが、これらに限定され得ない。
【0018】
出願人の教示の様々な実施形態に従って、限定仮想領域は、コンピュータによって生成される。試料に対するレーザビームの移動は、コンピュータによって制御され得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
当業者は、以下に説明される図面が例示的な目的のみのためであることを理解する。図面は、いかなる方法においても出願人の教示の範囲を限定することは意図されない。
【図1】図1は、MALDI標的プレートに載せられた試料を示す。
【図2】図2は、図1の試料上に定義される分析の領域を示す。
【図3】図3は、画素に細分された図2の拡大された領域を示す。
【図4】図4は、図3の個々の画素内のレーザの所定の経路を示す。
【図5】図5は、ラットの脳の冠状切開面において得られた個々の画素に関する動的画素質量分析画像を示す。
【図6】図6は、ラットの脳の矢状切開面において得られる動的画素結像技術から得られた最終画像を示す。
【図7】図7は、画素ごとの質量分析結像技術を示す。
【図8】図8は、図7の質量分析結像技術を用いた質量分析画像を示す。
【図9a】図9aは、図7の個々の画素の拡大された区画を示す。
【図9b】図9bは、図9aに示された画素から収集された質量スペクトルのグラフを示す。
【図10a】図10aは、質量分析結像技術を用いた画像を示す。
【図10b】図10bは、図10aに類似の画像であるが、動的画素結像技術を用いた画像を示す。
【図11】図11は、出願人の教示の様々な実施形態に従った、試料に対するレーザの所定の経路を示す。
【図12】図12は、オフセット画素に細分された図2の拡大された領域を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(様々な実施形態の説明)
出願人の教示は、動的画素質量分析結像または動的画素結像に関する。出願人の教示に従って、試料(例えば、組織などであるがそれに限定されない)を走査する方法が開示される。
【0021】
手短に言えば、出願人の教示に従って、試料を走査する方法は、レーザビームを走査される試料に当て、その結果、レーザビームは、試料から検体を放出する。レーザビームおよび試料は互いに対して移動され、その結果、レーザビームは、試料上の所定の経路を実質的に連続的にトレースし、所定の経路に沿って試料から検体を放出する。放出された検体の質量分析が行なわれる。
【0022】
出願人の教示の一部の実施形態に従って、質量分析は、質量分析計によって行われる。生成された、結果としての画像は、試料の表面全体にわたり1つのイオンまたは多数のイオン信号の検出を示す質量マップまたはイオン(m/z)強度マップである。
【0023】
出願人の教示は、マトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析計(MALDI MS)計器を用い得る。しかしながら、適切な表面から物質をイオン化して引き離す能力のある供給源を有する任意の質量分析計が用いられ得る。
【0024】
出願人の教示の一部の実施形態に従って、レーザは、例えば、20Hzのパルス周波数で動作するが、これに限定されない周波数で動作する窒素レーザであり得る。しかしながら、出願人の教示に従って、より高い周波数レーザが用いられ得、該レーザは、同様に、検体検出感度を維持しながら、実例試料からの検体の蓄積時間を短くし得る。例えば、1kHz(例示であり、これに限定されない)で動作するNd:YAG高周波レーザ(例示であり、これに限定されない)が用いられ得る。
【0025】
出願人の教示に従って、レーザビームおよび試料は、互いに対して移動され、その結果、レーザビームは、試料上の所定の経路を実質的に連続してトレースし、所定の経路に沿って試料から検体を放出する。一般的に試料は、平行移動するステージ(図示されていない)上に提供され、平行移動のステージは、X軸およびY軸の両方の方向に試料を移動するかまたは動かす。コンピュータは、平行移動のステージの動きを制御し得る。
【0026】
出願人の教示の一部の実施形態に従って、レーザビームは、試料上の所定の経路を実質的に連続してトレースし、以下のように検体を放出する。図を参照すると、図1は、少なくとも1つの試料12が載っているMALDI標的プレート10を例示する。
【0027】
図2に例示されるように、分析する領域は次いで、標的プレート上で選択される。出願人の教示に従って、試料に関係する仮想の限定領域が作られる。限定領域は、レーザビームが試料12上の所定の経路を実質的に連続してトレースする境界を定義する。図2において、選択された限定領域は、14で例示される。出願人の教示の様々な実施形態において、コンピュータは、限定領域を生成する。
【0028】
出願人の教示の様々な実施形態に従って、所定の領域はさらに、複数のパーセルに分割され得、一部の実施形態に関して、パーセルはより小さい画素またはグリッドであり得る。図3は、複数のグリッドまたは画素16に分割される、試料12の領域14を例示する。コンピュータは、限定領域14を複数のグリッドまたは画素に分割し得る。
【0029】
出願人の教示を例示する目的のために、図4に例示されるように、図3の画素16のうちの1つが拡大される。拡大された画素18は、出願人の教示の一部の実施形態に従い、関連する矢印20a〜20fを有するレーザビームの所定の経路を示すために用いられる。
【0030】
特に、レーザビーム17は、選択された画素18における所定の位置において開始する。出願人の教示の一部の実施形態に関して、開始位置は、例えば、図4に例示されるように、位置22(画素18の中心)であり得るが、これに限定されない。レーザビームは、位置22において開始し、矢印20aに沿って経路を実質的に連続的にトレースし、それから経路は、矢印20bによって示されるように、方向を変えかつ継続し、それから経路は、矢印20cによって示されるように、方向を変えかつ継続し、矢印20dによって示されるように、方向を変えかつ継続し、矢印20eによって示されるように、方向を変えかつ継続し、そして、矢印20fによって示されるように、方向を変えかつ継続する。図4に例示される経路は、例示の目的のみであり、出願人の教示に従って画素内における任意の他の連続的トレースもまた適用され得る。
【0031】
さらに出願人の教示に従って、レーザビームは、試料12上において図4の所定の経路20a〜20fを実質的に連続的にトレースし、従って、検体は試料12から実質的に連続的に放出され、レーザは所定の経路に沿って試料12に当る。従って、レーザが試料に対して実質的に連続して移動されると、質量スペクトルは、試料12から収集される。
【0032】
出願人の教示の動的画素走査技術は、同期的なリアルタイムプロセスとしてインプリメントされ、その結果、走査される各画素は、レーザと試料との間の移動の領域に一致する。移動、パターン、速度、持続時間は、どの画素でも一貫し得る。移動の各領域に関する一部の実施形態に関して、試料は、レーザがオンにされた後に移動を開始し、レーザがオフにされた後に停止する。レーザは次いで、隣接する画素の適切な位置に置かれ、レーザがオンにされ、隣接する画素内の、レーザの所定の経路が完了するまでプロセスが繰り返され、それからレーザがオフにされ、試料の移動が停止される。レーザは次いで、以前のようにさらなる隣接の画素に置かれ、試料が完全に走査されるまで、処理が繰り返される。出願の教示の一部の実施形態において、レーザはオンのままであり、試料に対して移動され、その結果、試料は実質的に連続して走査される。
【0033】
出願人の教示の局面は、次の例示を考慮してさらに理解され得、該例示は、本教示の範囲を限定するものとして決して解釈されるべきではない。
【0034】
レーザビームが試料に対して実質的に継続して移動されるとき、試料12から放出された検体の質量分析は、選択化合物のピーク強度の分布をプロットするために用いられる。図5は、薬剤投与された組織の動的画素質量分析画像を示し、特に、図5は、ラットの脳の冠状切開面である。この例示に用いられる基質は、シナピン酸(sinapinic acid)基質である。但し、当該分野において公知のような他の適切な基質が用いられ得る。試料はMSMSモードで結像される。親質量は347ダルトンであり、検出されたフラグメントは112ダルトンである。図5に示される動的画素質量分析画像は、ラットの脳の冠状切開面の試料の表面上に112ダルトンイオンの検出によって生成される。図5において、白い画素は、分子検出の最も集中した領域を示し、黒い画素は、検体の検出がないことを示し、グレーの陰は検体の検出の様々な程度を示す。
【0035】
図6は、出願人の教示の動的画素質量分析結像を用いて図5に関して得られる画像に類似の画像であるが、ラットの脳の矢状切開面に関して得られる画像を示す。再び、白い画素は、分子検出の最も集中した領域を示し、黒い画素は、検体の検出がないことを示し、グレーの陰は検体の検出の様々な程度を示す。
【0036】
この例示に関して、出願人の教示の増加された感度は、図5および図6からの画像と静的質量分析結像技術(図8を参照されたい)によって得られる画像とを比較することによって、理解され得る。
【0037】
静的質量分析結像技術は、図7に例示されるように、画素ごとに走査される複数のグリッドまたは画素を有する。特に静的質量分析結像技術は、各画素内の静止点から得られる質量スペクトルを有する。図7において、試料24は、限定境界26内に提供される。境界26は画素28に細分される。質量スペクトルは、次のように、各画素内の静止点30から得られる。各画素に関して、平行移動のステージは移動され、その結果、レーザは点30において隣接する画素内に集中される。一旦集中されると、質量スペクトルが得られる。各スペクトルは、それに関係するロケータタグを有し、標的プレート上における試料の位置を決定する。しかしながら、静的分析結像に関して、画素のスペクトルが得られるとき、平行移動のステージは移動しない。
【0038】
この例示の目的のために、試料24は、出願人の教示を用いて結像されかつ図6に示されたように、同じ組織すなわちラットの脳の矢状切開面である。
【0039】
図8は、薬剤投与された組織24に関する静的質量分析画像を例示する。再びこの例示に用いられた基質は、シナピン酸基質である。但し、当該分野において公知のような他の適切な基質が用いられ得る。試料はMSMSモードで結像される。親質量は347ダルトンであり、検出されたフラグメントは112ダルトンである。図8に示される質量分析画像は、各画素の中心28から112ダルトンイオンの検出によって生成され、この間、レーザおよび試料は互いに対して静止したままである。スペクトルは、画素ごとに収集される。図8において、白い画素は、分子検出の最も集中した領域を示し、黒い画素は、検体の検出がないことを示し、グレーの陰は検体の検出の様々な程度を示す。
【0040】
図5からの出願人の教示の動的画素結像技術と図8に示される静的質量分析画像とを比較すると、出願人の教示が化合物の検出の感度を増加させることが示され得る。また、この例示の目的のために、図8に示される静的質量分析画像が、まず得られた。図8に示される画像が得られた後に、同じ試料が出願人の教示の動的画素結像技術を受け、図5に示される画像であるが増加した化合物の検出の感度を有する画像を生成した。
【0041】
出願人の教示の動的画素結像技術において、レーザビームが試料上の所定の経路を実質的に連続的にトレースすると、レーザビームによって検体が試料から放出される。従って、レーザおよび試料が互いに対して移動される間、質量スペクトルが得られる。出願人の教示に従って、動的画素結像に関して、レーザは各画素内のより多くの領域をカバーし得る。さらに、1画素当りの獲得時間は、質量分析画像技術の場合と同じままであり得る。
【0042】
図7に関連して別の例示が示され得、図9aおよび図9bおよび10aからの例示(これらのすべては静的質量分析結像技術を用いた結果を示す)は、図10aの静的質量分析結像後に生成されるが出願人の教示の動的画素結像技術を用いる、同じ試料の画像である図10bと比較する。この例示の目的のために、図10aおよび図10bに示されかつ結像される試料は、図8および図5に結像された試料と同じ組織試料すなわち、ラットの脳の冠状切開面である。
【0043】
図7からの選択画素32が、図9aに例示される。レーザは、画素32の中心箇所30において静止試料に当たる。個々の画素32の質量スペクトルは、9bに示されるように、静的質量分析結像を用いて収集される。
【0044】
イオンm/z強度マップは次いで、質量スペクトルが試料24において得られる二次元領域全体に生成され得る。図10aは、試料における天然化合物すなわち化合物アデノシン一リン酸(AMP)の静的質量分析結像を用いるイオン強度マップである。親質量は348ダルトンであり、検出されたフラグメントは136ダルトンである。再び、白い画素は検出の最高レベルを示し、黒い画素は検出がないことを示す。グレーレベルは検出の適度なレベルを示す。
【0045】
図10bは、親348ダルトン質量からの検出された136ダルトンのフラグメントイオンであって、出願人の教示の動的画素結像を用いるイオン強度マップにおいて表示されたフラグメントイオンを示す。前の例示の場合のように、静的質量分析結像を受けた後に、同じ試料が、出願人の教示の動的画素結像技術を受け、図10aを生成する。再び、図10bに関して、白は検出の最高レベルを示し、黒は検出がないことを示す。グレーレベルは検出の適度なレベルを示す。図10bは、10aからの画像より10倍(10×)明るい状態で見られ得る。
【0046】
MALDI用途において、出願人は、レーザが組織に対して固定された位置に選択時間より長く維持されたときクエンチング(quenching)が起こり得ることに注目した。クエンチングプロセスは、基質結晶の表面における基質化合物構造における物理的変化、または例えば、高周波レーザの熱強度に長時間曝されることによって起こる局所的加熱によって引き起こされ得る。クエンチングプロセスは、組織/基質標的によるレーザ吸収を効果的に減少し、供給源におけるMALDIイオン形成を抑制し得る。
【0047】
出願人は、質量分析結像によって、例えば1kHzなどのより高い周波レーザが基質除去プロセスのクエンチングを引き起こし得ることに注目した。1kHzなどの高周波レーザは、組織に対して固定された位置において約200ミリ秒で基質をクエンチングし得る。低周波レーザ(例えば、窒素レーザ)は、固定された組織位置においてクエンチングが起こるまで10〜15秒かかり得る。高周波レーザは、検体の蓄積時間を短くし得る。
【0048】
出願人の教示に従って、レーザが試料上において実質的に連続的に所定の経路をトレースするようにレーザが移動する限定領域は、十分な基質冷却を可能にするようであり、任意の所定の地点における基質クエンチングを効果的に防ぐ。
【0049】
さらに出願人の教示に従って、レーザの連続的な移動はまた、観察されたクエンチング反応に関わらず、組織からのイオン化を向上させ得る。出願人は、MALDIイオン化中に起こり得る2つのステップがあると考える。除去現象は、試料表面から基質(コクリスタル化(cocrystallized)検体によって)を排出させる高エネルギプロセスである。レーザが検体イオンのプルーム(plume)と相互作用すると、第2のプロセスが起こる。出願人は、第2のプロセスが、気相において試料の表面から離れて起こり、レーザから基質イオン/クラスタイオンを介して検体分子へのエネルギ転送をなおも伴い得ると考える。レーザが基質コーティングされた表面を連続的に移動しているとき、第2のプロセスは促進されるようである。
【0050】
レーザが移動する長方形の限定領域は、任意のユーザが例えばコンピュータソフトウェアを用いて画像収集法で事前定義し得る、水平および垂直の解像度設定によって定義される。基本的には移動の各領域は、図3に示されるように画素16を表し得る。静止の地点から地点への走査すなわち図7に例示される質量分析結像において、レーザは、画素の中心においてのみ除去する。長方形の画素の面積が組織上のレーザ地点よりも大きい場合、画素の一部分のみが実際に走査される。これは、大きい画素面積に対し真に表現する走査とはならない。
しかしながら、動的画素結像は、限定領域内において試料標的をレーザに対してリアルタイムに常時移動させ、十分な基質冷却を可能にし、任意の所定の地点における基質クエンチングを効果的に防ぐ。上に詳述される出願人の例示に従って、出願人の教示は、動的画素結像が測定上10〜20倍の感度向上を提供することを示す。従って、出願人の教示は、検出される余剰の化合物が非常に少なく、組織試料における検体の高速である検出を可能にする。
【0051】
図2および図3(図3はより小さい画素またはグリッドに細分化されている領域を例示する)に例示される限定仮想領域は、典型的には、コンピュータにおいて仮想的に作られた。コンピュータは次いで、レーザビームに対して試料を移動し得、その結果、レーザは、仮想の限定領域内において所定の経路を実質的に連続的にトレースする。典型的には、試料は、X軸およびY軸の両方に試料を移動させ得る平行移動のステージ上に提供される。
【0052】
出願人の教示に従ってレーザおよび試料は、互いに対して実質的に連続的に移動するので、特定の画素上の検体は、はるかに長い時間フレームの間、実行され得る。このことは、質量分析計が例えば製品イオン走査などの例えばタンデム質量スペクトル実験を実行しているとき、多くの化合物に対する複合反応監視を容易にし得る。換言すると、1つの結像実行内において複数の実験が、同じ画素内において同時に獲得され得る。含まれる実験の各々は、種々の獲得パラメータを有し得る。このことはまた、画像実験がなされていると、information dependant acquisition(IDA)を行う能力に導く。結像IDAはソフトウェアツールから結果として生じ、該ソフトウェアツールは、初期調査MS実験を用い、画像が獲得されると、各画素に対して何の更なるディペンデント実験が実行されるべきかを決定する。
【0053】
さらに飛行時間(TOF)MSモードにおいて、基質が十分に除去され、試料内における感度の向上および余剰の少ない種類のより良い検出が可能になるまで、スペクトルが獲得され得る。
【0054】
出願人の教示の様々な実施形態に従って、二次元資料の質量スペクトル分析は、試料ステージが常時動作している状態で行われ得、その結果、レーザは、試料の全領域をカバーする所定の経路またはパターンを定義する。
【0055】
図11は、MALDIプレート210上の試料212を例示する。適切な限定領域214は、試料212の全体の周りに定義される。図4と同様に、レーザのための所定の経路が選択され、その結果、レーザは、図11において矢印220a〜220kによって示される経路を実質的に連続的にトレースする。例えば、レーザビームが222において試料に対して動作するとき、質量分析器が質量スペクトルを記録するたびに、質量スペクトルは記録され、ソフトウェアは位置参照タグを生成し得、その結果、ソフトウェアは標的プレート上に試料の位置を決定し得る。
【0056】
図12は、動的画素結像法が、レーザの地点サイズを減少させる必要なく、より高い解像度の画像を生成し得るような、出願人の教示の様々な実施形態を例示する。図12に示されるような出願人の教示の様々な実施形態に関して、試料312はMALDIプレート310上に提供され、限定領域314は図3と同様に定義される。
【0057】
グリッドまたは画素316aなどの、試料上の限定領域は次いで、作られ、前の図4に関するように、レーザは試料に対して移動され、その結果、ビームはグリッド316a内において試料上の所定の経路を実質的に連続してトレースする。図12に例示されるように、グリッドまたは画素316bなどの少なくとも1つの他の限定領域が、第1の定義された領域または画素316aに関して仮想的に作られる。該少なくとも1つの他の限定領域は、レーザビームが試料上の少なくとも1つの他の所定の経路を実質的に連続してトレースする境界を定義する。
【0058】
所定の全領域上におけるレーザビームからの検体の質量分析が得られる。それぞれの限定領域内における検体からの選択化合物の強度分布ピークは、前述の実施形態に従ってプロットされ得る。330における場合などのように、限定領域が重なる領域からの複数のピーク領域は、合計される。出願人の教示に従って、解像度の増加した試料の画像が得られ得る。重なった領域を合計することなく、より高い解像度はレーザの地点サイズを減少させることによって得られるが、これは、同等のデータが収集され得る時間を増加させる。
【0059】
出願人の教示の一部の実施形態に従って、第1の限定領域およびもう一方の限定領域が重なる領域を介するピーク強度は、例えば、ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope)のためにNASAによって開発された「Drizzle」などの、より低い解像度の画像によって高い解像度をつくるための天文学技術を用いて、これに限定されないが、数学的に解析され得る。
【0060】
さらに、出願人の教示の一部の実施形態に従って、レーザが試料上の所定の経路を連続的にトレースした後に、レーザおよび試料は、その後、互いに対して移動され、その結果、レーザビームは、第1の所定の経路の少なくとも一部分と実質的に同一の広がりをもつ、試料上の少なくとも第2の所定の経路を実質的に連続してトレースする。試料上において複数の走行を実行し、次いで得られたスペクトルを合計することによって、信号におけるノイズが減少され得る。
出願人の教示が様々な実施形態に関連して説明されるが、出願人の教示は、そのような実施形態に限定されることは意図されない。それどころか、当業者によって理解されるように、出願人の教示は、様々な代案、修正、および均等物を包含する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を走査する方法であって、該方法は、
(a)レーザビームを走査される試料に当てることであって、該レーザビームは、該試料から検体を放出する、ことと、
(b)該レーザビームおよび該試料を互いに対して移動させることであって、その結果、該レーザビームは、該試料上の所定の経路を実質的に連続的にトレースし、該所定の経路に沿って該試料から検体を放出する、ことと、
該放出された検体の質量分析を行なうことと
を包含する、方法。
【請求項2】
前記試料に関係する仮想の限定領域を作ることをさらに包含し、該限定領域は、前記レーザビームが該試料上の前記所定の経路を実質的に連続的にトレースする境界を定義する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記限定領域は、複数のパーセルに分割される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記放出された検体の質量分析は、前記所定の経路に沿って前記試料から放出された該検体からの選択化合物のピーク強度の分布をプロットするために用いられる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記パーセルのサイズは、前記レーザビームのサイズに関係して選択され、前記分布プロットの解像度および感度を設定する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記限定領域はグリッドであり、前記複数のパーセルはグリッド要素である、請求項3〜5のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記試料は、エネルギ吸収基質が備えられている、請求項1〜6のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記レーザは、選択パルス周波数で前記試料に当る、請求項1〜7のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記試料に関係する少なくとも1つの他の限定領域を仮想的に作ることをさらに包含し、該少なくとも1つの他の限定領域は、前記レーザビームが該試料上の少なくとも1つの他の所定の経路を実質的に連続的にトレースする境界を定義し、該少なくとも1つの他の限定領域において該レーザビームから、放出された検体の質量分析を行なう、請求項2〜8のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の限定領域および前記少なくとも1つの他の限定領域から得られた質量分析は、該それぞれの限定領域内の前記検体からの選択化合物のピーク強度の分布をプロットするために用いられる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の限定領域および前記少なくとも1つの他の限定領域が重なり合う領域からのピーク強度は、合計される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の限定領域および前記少なくとも1つの他の限定領域が重なり合う領域からのピーク強度は、数学的に解析される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
第1の所定の経路をトレースした後に、前記レーザビームおよび前記試料は、その後、互いに対して移動され、その結果、該レーザビームは、該第1の所定の経路の少なくとも一部分と実質的に同一の広がりをもつ、該試料上の少なくとも第2の所定の経路を実質的に連続してトレースする、請求項1〜12のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記質量分析は、質量分析計によって行われる、請求項1〜13のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記質量分析計は、飛行時間型質量分析計、トリプル四重極分光計、またはイオントラップ質量分析計である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記限定仮想領域は、コンピュータによって生成される、請求項2〜15のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記試料に対する前記レーザビームの移動は、前記コンピュータによって制御される、請求項16に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9a】
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【図9b】
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【図10a】
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【図10b】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2009−544018(P2009−544018A)
【公表日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−519766(P2009−519766)
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際出願番号】PCT/CA2007/001276
【国際公開番号】WO2008/009121
【国際公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(508153855)エムディーエス アナリティカル テクノロジーズ, ア ビジネス ユニット オブ エムディーエス インコーポレイテッド, ドゥーイング ビジネス スルー イッツ サイエックス ディビジョン (17)
【出願人】(500069057)アプライド バイオシステムズ インコーポレイテッド (120)
【Fターム(参考)】