説明

MALDIのためのレーザ集束及びスポット撮像を一体に組み込むための装置

【課題】MALDIのためのレーザ集束及びスポット撮像を一体に組み込むための装置および方法。
【解決手段】MALDIイオン源10は、サンプルプレート15と、レーザ30と、レーザ放射を第1の光路に沿って目標エリアに向けて誘導するよう配置された第1の光学素子32と、レーザ放射を目標エリア上に集束させるよう第1の光路に沿って配置された第2の光学素子38とを含む。第1及び第2の光学素子32と38は、目標エリアから反射された光が第1及び第2の光学素子32と38を通して第1の光路に沿って進行するように配置される。第1の光学素子32は、第1の方向に沿ってレーザ放射を反射し、第1の光路を第2の方向に横断してきた目標エリアからの反射光を透過する。プレート表面を視認する撮像デバイス40は、目標エリアから反射されて第1および第2の光学素子32と38を通して第1の光路を横断してきた光を受光するように配置可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学システム及び分光システムに関し、より詳細には、限定はしないが、マトリックス支援レーザ脱離イオン化(MALDI)のためのレーザ集束及びスポット撮像を一体に組み込むための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マトリックス支援レーザ脱離イオン化のようなマトリックス支援イオン化法は、有機化合物及び生物化合物の分光分析において有用であることがわかっている。MALDI技法では、サンプルが、そのサンプルと共結晶化する有機マトリックスと結合され、その後、サンプルプレート上に置かれる。サンプルプレートは、それぞれがプレートの表面上の小さなエリアを占める、多数のそのようなサンプルを含むことができる。そのサンプルプレートは、MALDIイオン源の中に置かれ、そこで、サンプルに向けられたレーザビームがマトリックスを気化し、サンプル内の分析物化合物をイオン化する。
【0003】
MALDIシステムでは、レーザビームが、対象となる特定のサンプルを含む、サンプルプレート上の特定の目標エリアに集束される。対象となるサンプルの位置を特定して、その位置が目標エリア内に確実に存在するようにし、レーザビームが目標エリア内のサンプルに突き当たるために正確に位置合わせされていることを確認し、さらにレーザビームとサンプルマトリックスとの相互作用を視認するために、撮像デバイスが、その目標エリア、及びレーザビームの経路を視覚化するように構成される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のMALDI源では、サンプルを気化させるために用いられるレーザビーム、及びサンプルから反射され、撮像デバイスによって収集される光放射(通常、可視光放射)は、個別の光路に従う。詳細には、そのレーザビームは、紫外線放射を含むことができ、通常は他の光路とは別の専用の光路に沿って誘導される。これらの光路が別であることから、撮像デバイスを用いて視認されるサンプルプレート表面上のエリアが、レーザビームが突き当たる目標エリアと一致しないという、位置合わせ不良による誤差を避けるのは難しく、その結果、レーザビームが目標エリア内の対象となるサンプルに向けられているか否かを判定するのが難しくなる。
【0005】
さらに、より小さな目標エリア及びサンプルを視認し、イオン化できるようにすることにより、そのようなシステムの解像度を高めることができる、集束及び拡大を提供する強力な光学レンズのような光学デバイスを用いることは、そのようなデバイスをいずれかの(又は両方の)光路において用いることによって、光路の位置合わせ不良がさらに大きくなる可能性があるか、又は光路を調整し直すための高価な二重の仕組みを必要とするので、レーザ光路と可視光路とが別であるMALDIシステムでは特に問題になる。光学解像度を高めることにより、MALDI源のスループット及び効率を高めることができるので、そのような位置合わせ不良問題が生じる可能性がないか、又ははるかに限られた程度でしか起こらないようにし、サンプル利用率及びスループットを改善するのを容易にする光学デバイスを利用できるようにする、MALDIシステム及び方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様では、本発明は、サンプルを収容するためのサンプルプレートと、サンプルをイオン化するためにレーザ放射を生成するためのレーザと、目標エリアに向かって第1の光路に沿ってレーザ放射を誘導するように配置された第1の光学素子と、目標エリア上にレーザ放射を集束するために第1の光路に沿って配置された第2の光学素子と、を備えるイオン源を提供する。第1の光学素子及び第2の光学素子は、目標エリアから反射された光が第1の光学素子及び第2の光学素子を通って第1の光路に沿って進行するように配置され、第1の光学素子は第1の方向に沿ってレーザ放射を反射し、且つ目標エリアから反射されて第1の光路を第2の方向に横断してきた光を透過する。プレート表面を視認するための撮像デバイスが、目標エリアから反射されて第1の光学素子と第2の光学素子との間の第1の光路を第2の方向に横断してきた光を受光するように配置されることができる。
【0007】
一実施形態では、イオン源は第1の光学素子と第2の光学素子との間の第1の光路内に配置された第3の光学素子をさらに備えることができる。第3の光学素子は、第1の方向に向けられたレーザ放射を第2の光学素子に向かって反射し、第2の方向に向けられた反射光を第1の光学素子に向かって誘導するように配置される。
【0008】
別の態様では、本発明は、紫外線(UV)レーザ放射を第1の光路に沿って目標エリアに誘導し、目標エリア内のサンプルをイオン化すること、及び目標エリアから反射され、第1の光路を横断する光放射を収集することを含む、マトリックス支援レーザ脱離イオン化のための方法を提供する。
【0009】
また本発明には、イオン源、及びマトリックス支援レーザ脱離イオン化のための方法を用いることができる質量分析計も含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
最初に、本明細書において単数形の構成要素を参照する場合でも、複数の同じ構成要素が存在する可能性があることに留意されたい。より具体的には、本明細書及び添付の特許請求の範囲において用いられるとき、単数形「ある」、「1つの」、「前記」、「その」等は、その文脈において別途明確に指示されない限り、複数の参照物を含む。
【0011】
図1は、本発明による、MALDIイオン源の第1の実施形態の概略図を示す。イオン源10は、1つ又は複数の空間的に個別の、マトリックスベースの分析物サンプルを含む表面を有する可動サンプルプレート15と、サンプルプレート表面上の1つのエリアに作用する光ビームを放射するように配置される照明デバイス20と、サンプルプレート表面上の目標エリアに向けられる高輝度コヒーレント放射のビームを生成するレーザ源30とを備える。またイオン源10は、照明デバイスによって照明されるサンプルプレート上のエリア、又はその一部を撮像するための撮像デバイス40も備える。これらの素子は、サンプルプレートの目標エリアに突き当たるレーザ放射、及びサンプルプレートによって反射され(又はサンプルプレートから放射され)、その後、撮像デバイスによって収集される光が部分的に同じ光路を共有するように、互いに、且つさらに別の光学素子(後に説明される)に対して配置される。上記の素子の全てが必ずしも密閉空間又はチャンバ内に収容される必要がない(そして、一般的には収容されない)ことに留意されたい。たとえば、撮像デバイス及びレーザ源はいずれも、サンプルプレートを収容するチャンバの外部に配置することができる。
【0012】
再び図1を参照すると、照明デバイス20は、サンプルプレート15に隣接して、且つ離隔して配置される。照明デバイス20を用いて、サンプルプレート15を直に照明することができるか、又は照明デバイスとサンプルプレートとの間に、照明デバイスに隣接して、光ファイバ22及び/又はレンズ素子24のような光学素子を配置して、照明デバイスから放射される光(これ以降、「照明放射」と呼ばれる)が、サンプルプレートの表面に達する前に、その光の方向性を高め、且つ/又はその光を集束することができる。オプションで、照明放射をフィルタリング及び/又は偏光するために、照明源20の直ぐ隣にフィルタ28を収容することもできる。一実施形態では、照明源及び関連する光学素子は省略され、目標エリアは周囲光で照明される。
【0013】
有利な実施態様では、本出願の譲受人に譲渡された同時係属中の「Ion Source Sample Plate Illumination System」と題する米国特許出願番号第11/148,786号に記述されるように、照明放射が0〜15°の仰角でサンプルプレート表面に入射するように、照明デバイス20が配置される。しかしながら、この構成は単に1つの都合の良い実施態様であり、本発明の範囲を決して限定するものと見なされるべきでないことを強調しておきたい。
【0014】
レーザ源30は、照明が指向性の光源に由来するときに、照明放射の方向に対して或る角度でレーザビームを誘導するように配置することができる。図示される実施形態では、レーザビームは照明放射に対して概ね垂直であるが、これは1つの実施態様を表すにすぎず、本発明の範囲を限定するものと見なされるべきではない。レーザ源30は、サンプルのマトリックスを気化させて、その後、分析物分子をイオン化するのに適した輝度及び周波数のコヒーレント放射を生成する。数多くの分光学の応用形態では、紫外線放射が、マトリックス支援脱離及びイオン化の目的を果たすのに適した光子エネルギーを有することがわかっている。
【0015】
マトリックスにレーザビームが突き当たることによって、気化したイオンが、サンプルプレートから柱状噴流となって流出し、その柱状噴流は、ガス流及び/又はイオン源10内に存在する静電力によって細管60に引き寄せられる。イオン及び任意の同伴ガスは、圧力勾配によって、細管の中を通って質量分析器(図示せず)に向かって吸い込まれる。
【0016】
第1の光学素子32が、レーザ源から放射されるビームの初期経路内の、レーザ源30とサンプルプレート15との間に配置される。第1の光学素子32は半反射性であり、紫外線帯域内の入射する放射のかなりの部分を反射することができ、可視光帯域内の入射する放射のかなりの部分を透過することもできるビームスプリッティングミラーを含むことができる。適当なビームスプリッタは光学の技術分野において知られている。レンズ素子34がレーザ源に隣接して、且つその正面に配置され、第1の光学素子32に向かって、その初期経路上にあるレーザビームを調節することができる。第1の光学素子32は、レーザビームの初期経路に対して、30〜60°の範囲内の角度を成すことができる。都合の良い実施態様では、入射するレーザビームがその初期経路に対して概ね垂直な方向に反射されるように、第1の光学素子はレーザビームの経路に対して約45°の角度を成すことができる。第1の光学素子32から反射されるレーザビームは、第1の光学素子と、サンプルプレート15上の目標エリアとの間に延在する「第1の光路」に沿って進行する。第1の光学素子32から目標エリアまで第1の光路に沿って反射されたレーザビームの方向は、ここでは「第1の」方向と呼ばれ、反射された光放射が、目標エリアから第1の光学素子32まで第1の光路に沿って進む逆の方向は、「第2の」方向と呼ばれる。図1は第1の方向に進行するレーザビームの光路と、第1の光路に沿って、わずかに空間的に離隔するように第2の方向に進行する反射光とを示すが、これは単に例示するためであり、レーザ放射及び光放射は空間的に重なり合うことに留意されたい。
【0017】
当業者によく知られているような種々の光学的な要因及びパラメータに応じて、第2の光学素子38が、第1の光学素子32に対する第1の方向に沿ってさらに光路内に配置され、サンプルプレートに隣接して配置されることができる。詳細には、第2の光学素子38と、サンプルプレート上の目標エリアとの間の距離である「作動距離」は、約20mm又はそれよりも長くすることができる。第2の光学素子38は屈折性であり、レーザ放射に対して有効である1つ又は複数のレンズ素子、すなわち、レーザが紫外線放射である場合には1つ又は複数の紫外線レンズを含む。第2の光学素子38は、高い集束及び拡大能力を有することができ、目標エリア内の選択されたサンプルをイオン化するためにサンプルプレート上(又は下)にある小さな目標エリアに向かってレーザを集束するための役割を果たすことができる。レーザビームの目標エリアは、第2の光学素子の集束能力によって、25マイクロメートル程度の小さなエリアまで縮小することができ、それにより、サンプル解像度を大幅に改善することができる。
【0018】
図示される実施形態では、第3の反射性光学素子36が、第1の光学素子32と第2の光学素子38との間に配置され、入射する放射を反射して、向きを変更する。第3の反射性素子36は、可視帯域及び紫外線帯域の両方において光放射を実効的に反射できることが好ましい。第3の光学素子36は、図1において図示され、説明されたようなサンプルプレート15、照明源20、レーザ源30及び撮像デバイスを空間的に都合良く配置できるようにする。
【0019】
目標エリアから第1の光路に沿って第2の方向に進行する光放射は、第3の光学素子36から第1の光学素子32に向かって反射される。その光放射のかなりの部分が、第1の光学素子32を透過して、撮像デバイス40に向かって伝搬される。たとえば、紫外線遮断フィルタ及び/又は偏光フィルタを含むことができるフィルタ素子42および光学レンズ素子44を、第1の光学素子32と撮像デバイス40との間に配置することができる。フィルタ素子42は、紫外線放射を遮断することができ、且つ/又は第1の光学素子32を透過して第1の光路から伝搬する光放射の偏光を改善することができ、撮像を妨害する可能性がある外部の放射を除去する。光学レンズ素子44は、透過した光放射を、撮像デバイス40の光検出素子に向かって集束する。
【0020】
撮像デバイス40は、たとえばカメラを含む、光放射に応答する任意の検出デバイスを含むことができるが、電荷結合素子(CCD)又は相補形金属酸化膜半導体(CMOS)カメラ等の、デジタル化された出力を与えるカメラを利用するのが最も容易である。撮像デバイスは、表示するために、イオン源(図3に示される)の外部にあるモニタに接続することができる。
【0021】
一実施形態では、第1の光路に沿って第2の方向に進行する光放射は、レーザ励起に応答して目標エリアから放射される蛍光放射を含むことができ、光学素子42、44及び撮像デバイス40も、この現象を最適に透過し、検出し、さらに観測するために選択することができる。
【0022】
動作に関しては、レーザ源30によって生成されるレーザビームはレンズ素子34によって集束され、その後、第1の光学素子32によって反射され、第1の光学素子32は、レーザビームの角度を変更し、第1の光路に沿って第1の方向にレーザビームを誘導する。第1の光路に沿って、レーザビームは、或る角度を成して、第3の光学素子によってサンプルプレート15上の目標エリアに向かって反射される。目標エリアへの光路に沿って、レーザビームは第2の光学素子38を通過し、そこで集束されて、目標エリアに突き当たる前に、ビーム径が細くされ、結果として輝度が高められる。
【0023】
レーザビームが突き当たることによって、目標エリア内に含まれるマトリックス及び分析物のかなりの部分が脱離し、気化する。また、マトリックスの分子のうちのいくつかはレーザビームによってイオン化される。その際、マトリックスイオンは、電荷移動の過程によって、分析物分子をイオン化する。気化した粒子は柱状噴流として放出され、その後、柱状噴流内のイオンは、静電的に、及び/又はガス流によって、細管60の入口に向かって誘導され、細管60によって、イオンは、質量分析器を含む質量分析計の下流のステージに向かって輸送される。さらに、マトリックスが蛍光性化合物を含む場合には、レーザビームはそのような化合物を励起することができ、それらの化合物は、レーザ励起に応答して、蛍光放射を放射することができる。
【0024】
同時に、照明源からの照明放射が、目標エリアを含むサンプルプレート表面上のエリアを照明するために、サンプルプレート15上に誘導される。照明の最も重要な用途は、目標エリア内のサンプル結晶の位置を特定することである。しかしながら、照明によって、サンプル上でのレーザビームの衝撃が収集され、記録されるか、又はモニタを介してリアルタイムに表示されるようになる。先に説明されたように、照明放射は、光学素子22、24、28によってフィルタリングされ、誘導され、さらに集束されて、サンプルプレート15の表面の小さなエリアにおいて照明の集束及び輝度を高めることができる。
【0025】
照明放射は、目標エリアにおいて、又はその近くで、サンプルプレート15の表面から反射、回折及び/又は散乱され、この反射された光放射の一部が、第2の方向に第1の光路に沿って進行する。第1の光路に沿って、光放射は、第2の光学素子38によって集束され、その後、第3の光学素子36によって、第1の光学素子に向かって反射される。光放射のかなりの部分が、第1の光学素子32を透過して、撮像デバイス40に向かって伝搬する。撮像デバイス40に達する前に、その光放射を、それぞれの光学素子42、44によって再びフィルタリングし、集束することができる。
【0026】
この方法によれば、照明放射が、レーザビームがサンプルプレートに突き当たるエリアを包含する限り、目標エリアの画像が撮像デバイスによって収集される。なぜなら、撮像デバイスによって収集される光放射、及びレーザビームが同じ光路に沿って進行し、その光路内にある同じ屈折性光学素子、すなわち第2の光学素子38によって変更されるためである。逆に、撮像デバイスが目標エリア内の対象となるサンプルを「視認する」限り、レーザビームはサンプル上に誘導されるであろう。たとえば、第3の光学素子36の角度が図らずも変更される場合には、レーザビームの目標エリアが変化するように、この素子からレーザビームが反射されるので、この変更によってレーザビームの経路が変更されるであろう。しかしながら、同じく、「新たな」目標エリアによって反射される任意の光放射がサンプルプレートの表面から第3の光学素子36に向かって進行し、その後、変更された第3の光学素子によって反射され、第1の光学素子32に戻され、撮像デバイス40に向かうことになるので、その光放射もレーザビームと同じ角度の経路を有することになる。こうして、本発明のMALDI源システムは、レーザビーム及び光放射が同じ第1の光路に沿って進行し、その光路内の共通の光学系を共有し、互いに自動的に一致するという点で、自己補正する。
【0027】
図2は、第3の光学素子が用いられない、本発明の代替の実施形態を示す。この場合には、第1の光学素子32は、レーザビームに対して約45°の角度を成し、レーザビームがサンプルプレート15の表面に向かって直に反射されるようにする。こうして、この場合には、第1の光路は、第1の光学素子から第2の光学素子を通るサンプルプレート表面までの光路であり、第1の光学素子と第2の光学素子との間に反射性素子は介在しない。同様に、サンプルプレート15の目標エリアから生じる、反射、散乱、回折又は放射される光放射は、逆方向に、第2の光学素子38を通って第1の光学素子32まで直に進行する。この実施形態では、撮像デバイス40の配置が第1の実施形態とは異なり、第1の実施形態の位置に対して、20〜70°(第1の光学素子32の角度に応じる)の範囲内で時計回りに回転し、第1の光学素子を透過する光放射を収集する。
【0028】
本発明のシステム及び方法は、MALDIを実行するための数多くの便益及び利点を提供する。先に言及されたように、イオン源が、第1の光学素子を目標エリアに結ぶ1つの主光路を含むので、位置合わせ不良による誤差がはるかに容易に回避される。これは、可視化の際の視差を除去する。これは、レーザを目標エリア上に正確に誘導するために重要である。
【0029】
さらに、第2の光学素子において1つ又は複数の高倍率の紫外線レンズを用いることにより、20mm以上の都合の良い作動距離とともに、はるかに高い光学解像度が得られるようになる。そのようなレンズ素子を用いて、サンプルのさらに細かい部分を選択することができる程度まで、さらにはサンプル目標エリアの表面下の或る深さに位置する部分まで、レーザビームを集束することができる。これは、たとえば、液体マトリックス内に埋め込まれる結晶構造に「衝撃を与える」ことが望まれるときに行われる場合がある。また高倍率のレンズによって、サンプルの深さ及び厚みを非常に正確に測定できるようになるとともに、最新のx/yステージモーション制御を用いて得ることができるサンプルプレートの動きの精度に相当する正確なサイズを測定できるようになる。これらの技術的な利点によって、サンプルプレート当たりの目標エリアの数を、10倍以上に増やすことができる。たとえば、MALDIイオン源では、典型的には、96のサンプルエリアを有するサンプルプレートが用いられる。本発明の改善されたレーザ集束及び画像集束によれば、1536もの数のサンプルエリアをサンプルプレート上に配置できるようになり、イオン化及び撮像のために正確に目標を定めることができるようになる。
【0030】
図3は、図1に関して先に説明されたMALDIイオン源を利用する質量分析計システムを概略的に示す。質量分析計100は、イオン源10と、イオン検出器92を含む質量分析器90とを含み、それらは、1つ又は複数の真空ステージ及びイオンガイド82を含むことができる1つ又は複数の中間チャンバ80(この図では単一のチャンバによって表される)によって接続される。観測用として、イオン源内の撮像素子に外部モニタ70を接続することができる。しかしながら、図3においてイオン源筐体内に示される、撮像デバイス、照明デバイス及びレーザ源等の、素子のうちのいくつかは、外部に配置することもできることに再び留意されたい。
【0031】
制御システム110をイオン源10に接続することができ、詳細には、撮像デバイスからの入力を受信し、イオン源内のサンプルプレート15に出力制御信号を送信するために接続することができる。その制御システムは、画像認識及び自動目標物捕捉のためのアルゴリズムを格納してもよく、撮像デバイスによって収集された画像情報から、サンプルプレート上の目標エリアが対象となるサンプルを含むか否かを認識できるようにし、その後(受信した入力に応じて)、目標エリア内の対象となるサンプル結晶の位置を特定できるように、ステージモーション制御を用いてx及びy方向において、その平面内のサンプルプレートの配置を調整するための信号を送信できるようにする。
【0032】
質量分析計100の質量分析器90は、四重極、三連四重極、線形イオントラップ、3次元イオントラップ、飛行時間、オービトラップ、FT−ICR(フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴)又は当該技術分野において知られている他の質量対電荷分析器を含むことができる。
【0033】
使用時に、MALDIイオン源が大気圧で使用される場合には、初期の中間チャンバ80は、大気圧よりも概ね2桁だけ低い圧力に保持されることができ、さらに別の中間チャンバが続けてさらに低い圧力に保持される。質量分析器90は一般的に、中間チャンバ(複数可)よりも約2〜4桁だけ低い圧力に保持される。イオン源10において生成されるイオンは細管に入り、中間チャンバ80内に押し出され、その中でイオンガイド(複数可)82を用いて調節され、その後、質量分析器90まで輸送され、そこで検出される。質量分析器90は、イオンのm/z比を求め、その後、その比を用いて、イオンが生成されたサンプルについてのさらに別の情報を導出することができる。
【0034】
具体的な実施形態に関して本発明を記述してきたが、さらに別の変更及び変形が明らかであり得るか、又は当業者であれば思いつくことができるので、その記述は限定を意図するものではないことを理解されたい。本発明は、添付の特許請求の範囲内に入るような全てのそのような変更及び変形を包含することを意図している。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態による、MALDIイオン源の1つの例示的な実施形態の概略図である。
【図2】本発明による、MALDIイオン源の別の例示的な実施形態の概略図である。
【図3】本発明による、1つの例示的な質量分析計システムの概略図である。
【符号の説明】
【0036】
10:イオン源
15:サンプルプレート
20:照明デバイス
22:光ファイバ
24:レンズ素子
28:フィルタ
30:レーザ源
32:第1の光学素子
34:レンズ素子
36:第3の光学素子
38:第2の光学素子
40:撮像デバイス
42:フィルタ素子
44:レンズ素子
60:細管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン源(10)であって、
サンプルを収容するためのサンプルプレート(15)と、
前記サンプルをイオン化するためのレーザ放射を生成するレーザ(30)と、
前記サンプルプレート(15)上の目標エリアに向かって第1の光路に沿って前記レーザ放射を誘導するように配置された第1の光学素子(32)と、
前記目標エリア上に前記レーザ放射を集束させるために前記第1の光路に沿って配置された第2の光学素子(38)と、
を備え、
前記第1の光学素子(32)及び前記第2の光学素子(38)は、前記目標エリアから反射された光が該第1の光学素子(32)及び該第2の光学素子(38)を通って前記第1の光路に沿って進行するように配置され、該第1の光学素子(32)は第1の方向に沿って前記レーザ放射を反射し、且つ前記目標エリアから反射されて前記第1の光路を第2の方向に横断してきた光を透過する、イオン源。
【請求項2】
前記プレートの表面を視認するための撮像デバイス(40)をさらに備え、該撮像デバイスは、前記目標エリアから反射されて前記第1の光学素子(32)と前記第2の光学素子(38)との間の前記第1の光路を前記第2の方向に横断してきた光を受光するように配置される、請求項1に記載のイオン源。
【請求項3】
前記第1の方向及び前記第2の方向は互いに垂直である、請求項1に記載のイオン源。
【請求項4】
前記第1の光学素子(32)と前記第2の光学素子(38)との間の前記第1の光路内に配置された第3の光学素子(36)をさらに備え、該第3の光学素子(36)は、前記第1の光学素子(32)と前記第2の光学素子(38)との間で前記レーザ放射を誘導し、且つ前記第2の光学素子(38)から到来する反射光を前記第1の光学素子(32)に誘導するように配置される、請求項2に記載のイオン源。
【請求項5】
前記レーザは紫外線(UV)放射を含み、前記第3の光学素子(36)は紫外線(UV)ミラーを含む、請求項4に記載のイオン源。
【請求項6】
マトリックス支援レーザ脱離イオン化のための方法であって、
サンプルプレート(15)上の目標エリアに、該目標エリア内のサンプルをイオン化するためのレーザ放射を含む紫外線(UV)放射を、第1の光路に沿って誘導するステップと、
前記目標エリアから反射され、前記第1の光路を横断する光放射を収集するステップと、
を含む、方法。
【請求項7】
前記サンプルプレート(15)の表面上の目標エリアを照明するステップをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の光路の第1の端部において、前記反射された光放射を前記紫外線放射から分割するステップをさらに含み、
前記反射された光放射及び前記紫外線放射は、前記第1の光路に沿って逆方向に進行する、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の光路を横断する前記紫外線放射を前記サンプルプレート(15)の前記目標エリア上に集束するステップをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の光路内に配置された紫外線(UV)レンズを用いて、前記集束するステップを実行するステップをさらに含む、請求項9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−127653(P2007−127653A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−300109(P2006−300109)
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【住所又は居所原語表記】5301 Stevens Creek Boulevard Santa Clara California U.S.A.
【Fターム(参考)】