MALDI質量分析に向けたターゲットプレート上で反応を行うための方法および装置
本発明は、関心のある多岐に渡る発色性または蛍光性のペプチドまたはタンパク質基質を個別に親水性担体に懸濁または溶解させ、各基質のアリコートを反応部位のアレイもしくはマイクロアレイ、または「ドット」に沈着させる、ペプチドまたはタンパク質マイクロアッセイの方法および装置に関する。各ドットは、分析目的のために生物学的サンプルを適用することのできる、関心のあるペプチドまたはタンパク質を含有する個別の反応容器を提供する。サンプルは、注目されている多様なサンプル適用技術のうちの一つをもって、クロスコンタミネーションを引き起こすドット同士の連通流路を形成することなく、ドットのアレイまたはマイクロアレイにおける各ドットに適用される。さらなる態様として、本発明は、続いてのMALDI MS分析のために、サンプルを電気泳動ゲルからターゲットプレートに移転する方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的研究および生命医学的診断用の、ペプチドまたはタンパク質を用いたマイクロアッセイチップおよび分析方法に関する。付随的な面として、本発明は対象とする分子を電気泳動ゲルからMALDI質量分析用のターゲットプレート(target plate)へ
と直接に移行させる方法に関する。さらなる側面としては、ターゲットプレート上で化学反応を進行させる方法、MALDI質量分析用のサンプルを調製する方法、およびMALDIマトリックスをターゲットプレート上に沈着(deposit)させる方法を包含する。
【背景技術】
【0002】
生物学的研究および生命医学、産業上の利用において、ゲノム内の特定遺伝子またはDNA配列、一塩基多型(SNP)のような特定の遺伝子突然変異、およびmRNAの種類を検出するための大規模な遺伝子評価は、充分に確立された方法論である。これらの方法論は、アレイ(array)上で特定の核酸配列が合成されるか、あるいは高度に限定された位置にそれ
ぞれ沈着されているDNAチップおよびマイクロアレイ(microarray)を利用するものであ
る。
【0003】
核酸配列を含有するこれらのアレイは、シリコンもしくはガラスといった固体、またはナイロン膜のような材料を支持物としている。そうした核酸配列は、それぞれのマイクロサンプル、103または104オーダーでアレイの中に存在できる。個々の「ドット」または「ピクセル」は、サブミリメーターの特徴となる長さを有するからである。これらのチップは、ゲノム内にある遺伝子の存在の検出および同定(遺伝子型の同定:genotyping)、あるいは細胞および組織系における遺伝子調節のパターンの評価(mRNAプロファイリング)のために数多く応用されている。しかしながら、これらの核酸に基づくシステムは、遺伝子産物、すなわち合成されたタンパク質の活性または調節についての情報を何ら与えない。
現在、DNAチップおよびマイクロアレイは、リン酸化および開裂状態により調節され得
る酵素活性についての情報を提供することなく、遺伝子型の同定および発現プロファイリングを可能にしている。現在のところ、タンパク質チップは、固定化されたDNA配列への
タンパク質の捕捉、または固定化されたペプチド、抗体またはタンパク質のライブラリーを必要とする。タンパク質アレイのための3通りの主要な形式(format)としては、平滑なガラススライド、三次元ゲルパッドチップ(「マトリックス」チップ)またはナノウェル(nanowell)チップが用いられる。しかしこれらの形式はいずれも、簡単なアッセイで多数の酵素を同定するために、可溶性の基質を利用していない。
【0004】
プロテオミクス的手法(proteomic method)は、タンパク質を分離するために典型的には二次元電気泳動ゲルを使用し、続いてゲル中の関連した個々のタンパク質を特徴づけるために酵素消化マッピング(enzyme digest mapping)および/または質量分析法を行う
。DNAチップも二次元電気泳動も、タンパク質の活性またはその反応速度論動態について
の情報を与えない。例えば、ある酵素は完全な活性を有するためにリン酸化または脱リン酸化を必要とすることがあるが、先行するチップ技術はこの情報を与えない。
現在、開裂産物が強く呈色し特定波長の光を吸収するようになる発色性(chromogenic
)基質で酵素をインキュベートすることにより、酵素活性を測定できる。そのような基質の代わりとして、開裂することにより、特定波長で励起させたときに強い蛍光を発する官能基を残す蛍光性(fluorogenic)基質であってもよい(8-EX)。開裂で残った官能基の
発光波長は、極大値8-EMの上と下、10〜20nmに広がる。このことは、異なる3種の酵素活性をアッセイするために、2または3種よりも多い異なる蛍光発色性基質を単一のサンプル
に使用することの妨げとなる。各基質の発光はその他の基質の発光と深刻に重複するからである。広帯域の発光は、色のクロストーク(cross-talk)を招き、誤ったシグナルをもたらす。そのため、10から100個の異なる蛍光性基質を単一の流動体サンプルに添加する
ことは、発光が極度に重なってくるために不可能である。これらの反応は、典型的には蛍光光度計のキュベットまたはプレートリーダー中で追跡され、0.2から3mlの体積で足りる。そのため、サンプルはかなり希釈される。
微量の生物学的サンプル(1.0から100nL)に含有される様々なタンパク質および/または酵素を評価することは、数多くの研究分野において、それらのタンパク質および/または酵素活性の分析にとって有用になるであろう。細胞生物学および癌の分野においては、細胞分裂の時機調整は、多数のサイクリン依存キナーゼ(cdk)、cAMP依存キナーゼ(PKA)、cGMP依存キナーゼ(PKG)、ならびにカルシウム依存タンパク質キナーゼ(PKC)、チロシンキナーゼおよびチロシンフォスファターゼにより調節される。血液学の分野において、血液の機能は、血栓形成および血栓溶解の機構に必要なプロテアーゼおよび阻害因子である様々な血液凝固因子、補体因子、線溶系因子により調節されている。アポトーシス(プログラムされた細胞死)の過程では、様々なカスパーゼが事象カスケードに必要不可欠である。同様に、敗血症、血栓症または感染症における好中球の活性化は、エラスターゼ、プロテアーゼまたは他の酵素の放出と連携している。腫瘍の浸潤および血管内膜の肥厚化は、金属メタロプロテアーゼ(MMPs)およびメタロプロテアーゼ組織性阻害因子(TIMPs)の活動を伴う。種々のウィルス性活動(例:プロテアーゼ)は、プロテアーゼ阻害
剤の薬剤スクリーニングの検出に適している。
【0005】
それゆえ、ペプチドまたはタンパク質のチップの領域における先行技術の発達にも拘わらず、診断、予後または臨床上の医薬におけるペプチドまたはタンパク質のマイクロアレイの必要性は大きく、そして充分に満たされていない。先行技術には、極めて多種多様の懸濁性もしくは溶解性の発色基質または蛍光性基質を支持体表面に配列して沈着させているだけであり、流動体サンプルをそこに簡単に適用するだけで評価することのできるチップは存在しない。本明細書記載の時点で、例えば、標準的な接触型もしくは非接触型マイクロアレイを使用して直接に作製されるペプチドまたはタンパク質のチップは知られていない。まして結合されていない基質分子上に液状の層のサンプルを適用することは、そのような液状サンプル層に避けがたいクロスコンタミネーションが発生することから、考えられないことであろう。結果として、標準的なマイクロアレイヤー(microarrayer)装置を用いて容易に作製できるチップを提供する、あるいはペプチドもしくはタンパク質の結合または反応停止(quenching)の層のような複雑な補正を必要としないシステムを提供
する、ならびにサンプルを簡便かつ容易に適用できる、単純で効果的および安価なペプチドまたはタンパク質のアレイまたはマイクロアレイシステムへの必要性が残されている。
【0006】
また、反応物の位置の間でのクロスコンタミネーションがないまま、アレイまたはマイクロアレイにある個々の反応物の位置へ迅速に少量の液状サンプルを送達することができるシステムへの必要性もまた消えずに残っている。
プロテオミクスおよびハイスループット・スクリーニング(HTS)は、何百〜何百万も
のサンプルの分析を要する作業である。薬剤スクリーニングにおいて、反応はウェルプレートで行われ、適合物の同定を知らせる光学的なシグナル(蛍光、燐光)を生み出す。無標識(label-free)の薬剤スクリーニングの探索は、処理量に優れたマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析(MS)法に依拠する。しかしながら、その反応構
成分が、時間がかかる高価な一連の工程を経てMS用に調製されなくてはならず、HTSにつ
いてMALDIの利用を制限していた。
【0007】
プロテオミクス研究における一般的なアプローチは、複雑なタンパク質サンプル(細胞または組織の溶解物)を、二次元ゲル電気泳動分離によって分離することである。色素染色で示される、タンパク質濃度の高い場所は、バンドまたは栓としてゲルから物理的に切
り出される。サンプルを含有するゲルは、サンプルを分散させるために粉砕され、タンパク質溶質を含有する液体を取り出すための分離技術が施される。サンプル中のタンパク質は、化学的な開裂またはタンパク質消化性の分解(典型的にはトリプシンによる)が施され、質量分析法に適したより小さなフラグメントが生成する。塩イオン類はイオン交換樹脂を用いて液状サンプルから除去される。このサンプルは、MALDIマトリックスと混合し
、容積式液体操作(positive displacement liquid handling)によりMALDIターゲット位置に送達するための準備が整っている。このサンプルは乾燥していてもよく、質量分析法による分析にかけられる準備が整っている。
米国特許5,808,300(Caprioli, "Method and Apparatus for Imaging Bioligical Samples with MALDI MS"「MALDI MSを用いた生物学的サンプル投影のための方法および装置」)は、マトリックス溶液をサンプルにエレクトロスプレーする(electrospraying)こと
により、MALDIマトリックス材料を組織サンプルに沈着させる方法を開示している。
【0008】
米国特許公開2002/0195558は、組織サンプルにMALDIマトリックス材料を沈着させるた
めに、音波を用いる射出(acoustic ejection)方法の利用が開示されている。
米国特許6,288,390(Siuzdak, "Desorption/Ionization of analytes from porous light-absorbing semiconductors"「多孔性光吸収半導体からの分析物の脱離イオン化」)は、マトリックスフリー(matrix-free)質量分析のために、従来のMALDIに代えて多孔性半導体を使用することを教示している。特許6,288,390は、マトリックス材料を必要とせず
にサンプルを分析するための代替技術である。
【0009】
米国特許6,569,383(Nelson, "Bioactive chip mass spectrometry"「生物活性チップ
質量分析法」)は、標的表面への分析物の捕捉(生物学的親和力または化学的結合を介した結合)に依拠している。
【0010】
Caprioli, R. M., Mass Spectrometry 38: 1081-1092 (2002)は、組織サンプルにマト
リックスをスプレーするための手順を開示している。およそ20mlのマトリックス溶液をガラス製の試薬噴霧器(Kontes Glass Company, Vineland NJ USA)に入れ、組織表面の全
体にマトリックスの多重層にスプレーすることによる。MALDI標的における薬剤発見反応
のための方法を用いることについては言及されておらず、開示された方法は超音波ノズルの使用についても記載していない。
【0011】
Caprioli, R. M., Electrophoresis, 23,3125-3135 (2002)には、組織へのエアロゾル
沈着コーティング方法が記載されている。商業的に入手可能な、コンタミネーションを最小限にするための窒素ボトル(噴霧ガラス)に繋がれているガラス製スプレーネビュライザー(nebulizer)を使用して、マトリックスは区画にエアスプレーされる。薬剤スクリ
ーニング反応にこの方法を利用することについての言及はない。
【0012】
MALDI MS分析技術を利用した、ハイスループットな調製のためのサンプル処理、ならびにサンプルのスクリーニングにおける改良が、引き続き必要とされている。MALDI標的に
おけるHTSの実施は、ラベルフリーHTSに対する産業的要求を、高い能力(1日あたり10K
から100Kのスクリーン)で満たすだろう。
[本発明の概要]
この要求を満たすため、本発明は、関心のある多岐の発色性もしくは蛍光性のペプチドまたはタンパク質の基質を個別に親水性担体に懸濁または溶解させ、各基質のアリコートが反応部位のアレイまたはマイクロアレイ、または「ドット」に沈着されているペプチドまたはタンパク質のマイクロアッセイの方法および装置である。したがって、各ドットは、関心のあるペプチドまたはタンパク質を収容する個別の反応容器(そこに分析目的のため、生物学的サンプルが適用される)を提供する。サンプルは、焦点となる多様なサンプル適用技術(サンプルのエアゾール化または霧状化、あるいはサンプルの標的適用(targ
et application)が挙げられる)のうちの一つをもって、クロスコンタミネーションを引き起こすかもしれないドット同士の連通流路を形成することなく、ドットのアレイまたはマイクロアレイにおける各ドットに適用される。本発明の最初の態様として、サンプルは霧状化またはエアゾール化される。ドット間の過剰なサンプルの小滴はどのようなものでも、最も近いドットへ移動するか、そこへ吸収されるか、あるいは蒸発しがちではあるが、そのようなエアゾール化されたサンプルをドットに適用することにより、他のドットへの流動性反応物の連通を生じさせることなく、各ドットを独立の反応チャンバーとしたまま、サンプルは個別のドットに吸収されることになる。既知の探索(scanning)およびデータベースの構築技術は、ドットのアレイに反応の指標が現れるか、現れないかを分析するために用いてもよい。
【0013】
本発明は、HTSの方法およびMALDI質量分析用サンプルを調製する方法を提供する。溶液中の溶質は、化学的結合、固定化、表面への吸着をすることなく、MALDIを介して分析さ
れる。溶質へのいかなる変化(薬剤スクリーニング反応、化学反応または酵素反応を介する)も液相中で起こり、その表面への化合物の結合を必要としない。
【0014】
本発明では、HTS反応をMALDIプレート上で直接行い、引き続きMALDI MS分析を50ナノリットルのサンプル中に1フェムトモルという検出限界で行うことを可能にする。本発明の
方法は、MALDIプレートに1平方センチメートルあたり1000滴まで積載させるために、接触ピンプリンターの動力を用いる。本発明の方法を使用することにより、MALDIマトリック
スを高品質に適用することができる。結果として、超微量の液状サンプルを(顕著な結晶が生成していたとしても)MALDI処理に用いることができ、超高感度の検出を可能とする
。
【0015】
本発明の方法は、ナノリットルからマイクロリットル体積の液体反応をそれぞれ質量分析(MS)ターゲットプレート上の部位において行える能力をもたらす。その標的は、平坦な、あるいはサンプルの位置を保持するためのウェル、被覆、溝、またはその他の手段を有する非多孔性金属表面である。反応を開始するために、様々な液体取り扱いプロトコルにしたがって、各サンプル位置に試薬が添加される。MALDI質量分析のために各反応の構
成成分および生成物は、乾燥およびMALDIマトリックスの沈着により調製される。脱塩、
抽出、溶媒交換、温浸(digestion)、MALDIマトリックスの添加および生成といった様々な操作のために、MSターゲットからサンプルを取り出す必要はない。これらの方法は、反応の最適化、ハイスループットの薬剤発見、ハイスループットの薬剤選別プロファイリングまたは毒性試験のために使用できる。
【0016】
より具体的には、本発明は下記の工程を含む、電気泳動ポリマーゲルからMALDIターゲ
ットプレートに関心のある分子を移行させる方法を提供する;
(i)関心のある1以上の分子を含有する電気泳動ゲルを準備する;
(ii)電気泳動ゲル内の水分を共溶媒混合物で置換する;
(iii)該ゲルの上にピンを位置させ、ゲルにピンを貫通させる;
(iv)関心のある1以上の分子を取り囲む範囲のゲルを水分枯渇させる(deplete)た
めにピンにエネルギーを付与し、共溶媒混合物(cosolvent mixture)が関心のある1以
上の分子を取り囲むようにさせる;
(v)ピンをゲルから抜き、このピンは関心のある1以上の分子を含有する共溶媒混合
物の液滴を担持している;および
(vi)MALDIターゲットプレートに該ピンを接触させ、関心のある1以上の分子を含有
する共溶媒混合物の液滴をMALDIターゲットプレート上に沈着させる。
【0017】
さらなる側面において、本発明は、反応物の液滴をターゲットプレートに沈着させる;沈着させた液滴に試薬が接触するようターゲットプレートに試薬を沈着する;化学反応を
進行させる、ことを含有する、MALDIターゲットプレート上で化学反応を行う方法を提供
する。
【0018】
その上のさらなる側面において、本発明は下記の工程を含む、MALDI質量分析用サンプ
ルの調製方法を提供する;
(i)サンプルの液滴を有するターゲットプレートを準備する;
(ii)該サンプル液滴から溶媒を除去するためにターゲットプレートを乾燥させる;
(iii)MALDIマトリックスを乾燥させたターゲットプレートに沈着させる;
(iv)ターゲットプレートを加湿する;および
(v)サンプル液滴の分析のために、ターゲットプレートをMALDI質量分析にかける。
【0019】
さらなる態様として、本発明は下記の工程を含む、MALDIマトリックスの1以上の層をターゲットプレートに沈着させる方法を提供する;
(i)サンプルをその上に有するターゲットプレートを準備する;
(ii)マトリックスをエアゾール化する;および
(iii)ターゲットプレートを動かしながら、エアゾール化したマトリックスを該ター
ゲットプレート上にスプレーする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、関心のある多岐の発色性もしくは蛍光性のペプチドまたはタンパク質の基質を個別に親水性担体に懸濁または溶解させ、各基質のアリコートが反応部位のアレイまたはマイクロアレイ、または「ドット」に沈着されているペプチドまたはタンパク質のマイクロアッセイの方法および装置である。したがって、各ドットは、関心のあるペプチドまたはタンパク質を収容する個別の反応容器(そこに分析目的のため、生物学的サンプルが適用される)を提供する。サンプルは、焦点となる多様なサンプル適用技術(サンプルのエアゾール化または霧状化、あるいはサンプルの標的適用(target application)が挙げられる)のうちの一つをもって、クロスコンタミネーションを引き起こすかもしれないドット同士の連通流路を形成することなく、ドットのアレイまたはマイクロアレイにおける各ドットに適用される。本発明の最初の態様として、サンプルは霧状化またはエアゾール化される。ドット間の過剰なサンプルの小液滴はどのようなものでも、最も近いドットへ移動するか、そこへ吸収されるか、あるいは蒸発しがちではあるが、そのようなエアゾール化されたサンプルをドットに適用することにより、他のドットへの流動性反応物の連通を生じさせることなく、各ドットを独立の反応チャンバーとしたまま、サンプルは個別のドットに吸収されることになる。既知の走査およびデータベースの構築技術は、ドットのアレイに反応の指標が現れるか、現れないかを分析するために用いてもよい。
【0021】
一般的に本発明はバイオテクノロジーおよび生物医学の研究の分野に応用できる。より具体的には、この発明は酵素活性(酵素の補助因子、阻害剤および活性化因子についても同様である)の研究に用いることができる。一つの応用として本アッセイは、通常、十から何千にものぼる酵素の活性、あるいは血液化学、マトリックスメタロプロテアーゼ、血管形成、チロシン・リンタンパク質・ホスファターゼ、またはアポトーシス調節における薬剤相互作用に対する、膨大なコンビナトリアル・ライブラリーの化合物による作用をスクリーニングすることによる、薬剤研究、すなわち薬剤探索発見において用いられる。
【0022】
本アッセイは、ゲノムまたはプロテオミクスの研究、特に酵素系のエピジェネティック(epigenetic)な調節において応用できる。さらなる応用として、このアッセイは、遺伝
子制御においてキナーゼおよびホスファターゼといった、シグナル伝達経路の研究に用いることができる。本アッセイはまた、酵素基質の特異性における点突然変異に関わるコンビナトリアルな学問の構造および機能的研究に対して用いることもできる。このアッセイは、血液研究、すなわち、血液凝固診断法および血栓溶解研究に応用できる。あるいは、
本アッセイは、ウィルス調査、ならびにウィルス性のプロテアーゼおよびプロセッシング活性の診断法に応用できる。したがって、このアッセイは、その明快さおよび用途の広さにより、生物学的研究の様々な分野において利用できる。上述のように、このアッセイは、既存の走査技術と併せてゲノム研究のために用いることに適している。
【0023】
上述のまたは以後の記載において、次の用語は以下のように理解される。「反応部位」(reaction loci)とは、固体表面上の流体が、通常、付着性であって拡散しない容量で
ある。反応スポットは、「スポット」、「ドット」、「反応ゾーン」、「反応中心」、「マイクロドット」または「マイクロアッセイ」とよぶこともある。「チップ」とは、拡散することのない反応ドットを含む平面的な表面である。チップは、「ガラススライド」、「スライド」、「表面」、「固体基体」、「バイオ反応マイクロアレイ」、「バイオ反応チップ」および「バイオ反応スライド」とよぶこともある。「スプレー」とは、反応スポットを有する固体表面に液状サンプルのエアゾールを送達することを指す。スプレーは、「ミスト」、「エアゾール」、「霧化ミスト(atomized mist)」、「小滴(droplet/s)」または「霧状ミスト(nebulized mist)」とよぶこともある。
【0024】
本アッセイは一般的に、液相でのマイクロ反応(microreaction)を含む。これはペプ
チド基質もしくはタンパク質基質の流体混合物、親水性担体溶媒、および揮発性溶媒を少量ずつ非多孔性表面に適用することにより創出される、当該液相で揮発性溶媒の蒸発により、高度に局在化した長期持続性の液体または半固体のドット、あるいは親水性担体溶媒にある基質のマイクロドット残渣が生じる。もしあるのであれば、親水性担体中にある基質は、サンプルが適用された後に反応の分析を可能にするため、発色性または蛍光性のものとされる。流体混合物を送達するための非多孔性表面として、シリコン、ガラス、シリカ、石英、ポリスチレンまたはその他の非多孔質のポリマー膜が挙げられる。全体としては、アッセイの構成要素は、通常、コンピュータ制御のアプリケーションシステムによって一緒にして適用され、マイクロ反応はコンピュータ依拠の走査およびデータベース構築システムを介してモニターされる。
【0025】
特に含まれるアレイがマイクロアレイである場合、揮発性溶媒の存在は、形成される流体混合物の全体の粘度を低減させるため、マイクロドットの流体形成を助長する。揮発性溶媒は通常蒸発能を有し、好ましい揮発性溶媒として、限定されるものではないが、ジメチルスルホキシド(DMSO)、クロロホルム、アセトン、酢酸、水、メタノール、エタノールまたはプロパノールなどのアルコール、エチルエーテルまたはアルカンが挙げられる。非多孔性表面に該流体混合物を適用した後、親水性担体溶媒および懸濁もしくは溶解した発色性または蛍光性の基質を含有するマイクロドットを残して、揮発性溶媒は蒸発する。これらの成分は、基質の結晶化または沈積を伴うことなく液体または半固体中の状態で残存する。
【0026】
サンプルを適用する際に、親水性担体は、後で適用する生物学的サンプルとともにバイオ反応ポテンシャルを最大化するため、基質を懸濁または溶解する。親水性担体は通常、以下の特性を有する:揮発性溶媒との混和性;水との混和性;水性の生物学的流体との混和性;高濃度でも発色性または蛍光性の基質の安定的な溶液もしくはサスペンジョンを維持する適合性;1センチポイズから10,000センチポイズの範囲の適度な粘性;核酸、ペプ
チド、タンパク質および糖などの生体分子との相溶性;アレイ化(arraying)に用いられるマイクロアレイピンまたはマイクロシリンジの中空チップといったマイクロキャピラリー(microcapillary)デバイスへの出入りに適した流動性;アレイ後のスポット内のバイオ反応流体が広がらない、安定した限定レンズを形成するのに充分な比接触角(接触角>0が必要とされる);スポットの付着性が限られているために基体上を転がってしまうほどに粘着性が低すぎることはないが、安定的で付着性を有するレンズを形成するのに充分な程度に低い比接触角(接触角<90が必要とされる);ならびに、反応ゾーンが蒸散し
てしまわないような低い揮発性。グリセロール(1,2,3-プロパントリオール)は、これらの特性すべてを有する流体の例である。その他の親水性担体溶媒の例としては、1,2-エタンジオールまたは2,3-ブタンジオールのようなポリアルコールが挙げられる。加えて、担体溶媒は、デキストラン、プルロン酸(pluronic acid)、ペントース、リボースもしく
はヘキソースのファミリーの炭水化物または関連する多糖類、あるいはポリエチレングリコールポリマーといった増粘剤を含有してもよい。
【0027】
マイクロドットは通常、マイクロアレイの配置において、非多孔性表面に適用される。揮発性溶媒が蒸発した後の最終的なマイクロドットの体積は、直径10μmで約1nLのマイ
クロドットから、100μmで1〜10nLのドットまでにわたる。マイクロドットは、直接容積型ポンピング(direct positive displacement pumping)の流体取り扱い方法によって適用される。あるいはマイクロドットは「アレイング」によって適用される。そこでは、コンピュータ制御された金属、ガラスまたはプラスチック製のチップが、毛細管作用により流体の小滴を貯蔵槽から取り上げて固体表面に接触させるか、あるいはレーザープリント技術またはジェットプリント技術による。アレイングは、充分に確立されたピン技術(すなわち、Telechem Pins, GeneMachine arrayer)を使用することにより遂行される。マイクロドットの間隔距離は、50から1000μmにわたる。処方された配合物1〜10nLを送達す
ることは、マイクロドットの形成のためには充分である。
【0028】
マイクロドットの高密度アレイ(各マイクロドットは、特定の発色性もしくは蛍光性のレポーター基質を含有し、その他の反応調節物(reaction modifiers)になりそうなものを含有してもよい)を形成したのち、生物学的流動体の少量サンプルが、それらのマイクロドットに適用される。各マイクロドットには、生物学的流動体を適用することにより、一般にはバイオチップに細かなミストを沈着させることを通じてサンプルが接種される。そのミストは、濡れた膜を形成せず、また二つの隣接するグリセロール液滴を連接させないようにして適用される。換言すれば、それらのドットにエアゾール化されたサンプルを適用する結果、サンプルが個々のドットに吸収されることとなる。これに対しドット間の過剰なサンプル液滴はどのようなものであれ、最も近いドットに向かって移動してそこに吸収されるか、あるいは蒸発するか、いずれかの傾向にある。その際、他のいかなるドットにも流体反応物質により接続されることなく、各ドットは独立の反応チャンバーのままである。対応する関連酵素を含有する生物的流動体の送達は、各グリセロール小滴で発色性もしくは蛍光性の基質の反応およびそれと同時に活性化を引き起こす。換言すれば、生物的流動体の酵素または化学成分は、マイクロドットにおいて蛍光性基質の活性化または活性化の拮抗(antagonism)を引き起こし、エピ蛍光(epifluorescence)もしくは共焦
点走査(confocal scanning)、直接イメージング(direct imaging)または吸光によっ
て読みとり可能な蛍光または発色のシグナルを発生する。個別チップは、多数のプロテアーゼ、キナーゼ、フォスファターゼ、オキシドレダクターゼ、リパーゼおよびこれらの酵素の阻害剤または活性化因子の活性を、関心のある反応ごとの個々のドットまたはマイクロドット部位において知らせるように構築することができる。
本発明のペプチドまたはタンパク質チップは、大方の(全部でないにしても)先行技術の取り合わせよりもかなり簡単であろうということを心中に留めておくべきである。そうした先行技術の取り合わせは、ガラススライドもしくはチップへのペプチドもしくはタンパク質の直接的な物理的吸着もしくは結合の手段を含有するか、あるいは、反応停止用オーバーレイヤー(quenching overlayers)、ゲルパッド、または本発明の反応部位よりもさらに複雑な他の特徴を含む(ただしこれらに限定されない)多数の構成要素を含むものである。本発明の実施と相容れない要素とは、関心のあるペプチドまたはタンパク質を含有する別々の反応容器、ならびにサンプルの吸収、反応および反応の検出を促進するために意図された他のすべての構成要素を親水性担体が提供することを妨害しうるあらゆるものである。
【0029】
本発明をさらに、図1〜5に沿って説明する。
図1を参照すると、バイオチップ10の上に複数の反応部位12が配列されている。それらの上に、エアゾール化された、またはミスト化された、あるいはインクジェットでプリントされたサンプル小滴14が適用される。垂直の矢印は、サンプル小滴14の垂直方向の沈着を表す。
【0030】
図2A、2Bおよび2Cはそれぞれ、本発明によるアレイング、エアゾールサンプルの沈着、および基質の転換についての側面からの立面図である。図2Aにおいて、マイクロアレイアーチップ16が反応部位12をバイオチップ10の上に沈着させている様子が示されている。図2Bにおいて、エアゾール化またはミスト化されたサンプル小滴14が、反応部位12の上に沈着するプロセスが示されている。図2Cでは、サンプル小滴14が反応部位12に吸収されるか、または蒸発してバイオチップ10から完全に消える様子が示されている。図2Cにおいて、基質転換の結果、個々の反応部位12は発色または蛍光を発することが可能である。
【0031】
図3Aはバイオチップ10の全部の反応部位12上に、正方形または長方形のパターン18でブランケットサンプル(blanket sample)を適用する様子を示す模式図である。これに対して、図3Bの反応物は、バイオチップ10の反応部位12の領域内に静置されているだけである。図3Bにおいて示される結果は、様々な機構により生じる。その機構としては、反応部位12同士の間から蒸発するエアゾールまたはミストとしてブランケットサンプルの適用が行われる機構、または、レーザープリンターもしくはインクジェットプリンターなどによってサンプルが反応部位12に向けて適用するためにターゲットされる機構、あるいは、反応部位12以外のいかなる領域にもサンプルが適用されることを遮断するマスクまたはテンプレートを通じてサンプルを適用する機構が挙げられる(ただしこれらに限定されない)。
【0032】
図4は、液体22で満たされた超音波発生器(振動子)21を含有し、サンプル26を内部に有する容器25を受けとめることに適合した、ネビュライザー20の断面を図示している。そのネビュライザーでは、振動子21によってサンプル26にエネルギーが与えられ、サンプル26から作られたエアゾールミストをノズル32から出し、バイオチップ10上に沈着させることができる。必要に応じて、キャリアガス24を引入口23から容器に入れてもよい。そのキャリアガス24は、エアゾール化したサンプル26をバイオチップ10上への沈着のために移すことを助ける。図4の目的のために、バイオチップ10が他の図に示されたバイオチップの配置と比較したときに逆さまになっていることは留意されるべきである。ネビュライザー20は、容器25を所定位置に保持するための配置ガイド28もまた任意で有する。図示したように容器25のためのキャップ30(ノズル32はそれを通して延びる)も同様である。
【0033】
図5は、バイオチップ10、反応部位12およびサンプル小滴14が近接して位置するように、本発明のアッセイシステムの様々な構成要素が並置する様子を説明する模式図である。それらの構成要素としては、限定されるものではないが、サンプル適用のためのプリントヘッド、xyzポジショナー、電源、制御装置(コントローラー)、励起光の供給および放
出シグナルの検知のための手段が、各種の構成要素の中でも特に挙げられる。より具体的には、アッセイシステム(装置)の主要な構成要素には、シリアルまたはパラレルポートを介して、開始、停止、作動のセットポイント確立およびアッセイ装置の副構成要素を制御するためのシグナルを送信するコンピュータ・ソフトウェアに組み込まれた一連の作動指示が含まれる。それによって各副構成要素は、内部または外部の常設した制御装置またはドライバーを有していてもよい。そうした装置の副構成要素としては、以下のものが挙げられる:複式容積型(multiple positive displacement)マイクロシリンジポンプ;圧力ノズル、超音波ノズル、インクジェットプリントヘッド、位置起動型(position-actuated)インクジェットプリントヘッド、表面起動型(surface-actuated)インクジェット
プリントヘッド、流体接触型もしくは流体非接触型の超音波発生器といったエアゾール発生装置;ガス流量計/制御器;xyポジショナーシステム;および排気/ろ過ファン。
【0034】
エアゾール化されたサンプルの適用は、コンピュータ制御されたマイクロシリンジの使用により容易に行うことができる。コンピュータ制御されたマイクロシリンジは、一定の低速で行われる時限式のサンプル送達のために用いられる。各容積型シリンジは、1.0μ
L〜1000μLの生物学的サンプルを収容することが可能である。その場合サンプルは、有機分子、蛍光性分子、ペプチド、タンパク質、脂質、ポリマーの希釈溶液、被覆マイクロビーズを含む液体、サンプル緩衝液、洗浄緩衝液、生物細胞および細胞画分であってよい。各容積型ポンプは、そのサンプルをエアゾール発生の場に送る。容積型ポンプは、冷蔵、室温または加熱の環境下に維持してよい。容積型ポンプは、コンピュータからのシグナルを受信する装置により制御される。
本システムへの適用に向け、サンプルをエアゾール化する方法には様々なものがある。あるシステムは圧力ノズルに依拠し、それによりエアゾール化されるべき流体サンプルは小さな開口部のノズルから高圧でポンプ送液され、エアゾールスプレーが発生する。あるノズルでは、その流体は加圧された不活性キャリアガス(窒素、ヘリウム、空気または酸素など)によって運ばれる。ベルヌーイ効果によって流体サンプルをノズル内部に引き入れてノズル開口部を通すために、高速気流を使用することもできる。次いでキャリアガスは、エアゾールを個々の反応ドットに沈着させるためにバイオチップへ送達する。ノズルはエアゾールの形成を容易にするための内部部品を有していてもよい。一例として、少量の生物学的サンプル(0.1〜1ml)が、加圧された気流(5〜30ポンド/平方インチ(psig)
の窒素)によりノズルに引き込まれ、噴霧を促進するための210マイクロメートルの内部
ニードルを備えた250マイクロメートルの開口を通される。
【0035】
あるいはスプレーのエアゾール化は、容積流量(volumetric flow rate)および一様な低速(10cm/秒未満)のミストを与える超音波ノズルの使用に基づいても良い。ノズル内の超音波定常波は、ノズル先端において流体の霧化を引き起こす。0.01〜1000μL/秒と
いう低い流速は、25kHz〜240kHzで作動する圧電型超音波発生器を有するノズル体の中へ
サンプルをマイクロポンプによって送達させることにより達成され、一滴の平均サイズが直径5〜15μメートルのミストを形成することになる。圧電性超音波発生器は、低いワッ
ト数(0.1〜25ワット)を利用することができるので、サンプルの好ましくない加熱が避
けられる。例えば、粘度0.01ポイズの生物学的サンプルは、120kHz(0.1〜1ワット)で作動する超音波ノズルの中へ、0.1〜1μL/秒の流速でマイクロシリンジポンプにより送液
される。キャリアガスのノズル外への流れは、ミストをバイオ反応チップの表面に導く助けとなる。
【0036】
エアゾール化されたサンプルを作成するもう一つの手段は、底部に圧電式超音波発生器を有するウェル内に流体が配置された超音波ネビュライザーに接触させることに依拠する。その発生器は、1.0〜3.0MHzで作動する。サンプル・チャンバーにある液体表面上部に
おける高周波振動が、流体小滴が霧化または霧状化した雲の形成を助長する。霧状化作用は、そのチャンバー上方に吊り下げられているバイオ反応チップ表面に向けて、該チャンバーから霧状化したエアゾールを浮上させる。さらに、霧状化室内へキャリアガスを上に向けて導入し、その雲を移動させることができる。あるいは、キャリアガスを霧状化室の上部を通過させ、ベルヌーイ効果により霧状化エアゾールをキャリアガスの流れに引き込むことが可能である。キャリアガスはエアゾールを受けるためサンプルに向けられる。霧化した流体粒子の直径(d)は、次の近似式:d〜(T/pf3)1/3により、表面張力(T)、密度(p)、周波数(f)と関係している。例えば、水の霧状化(T=0.0729N/m, f=2.4MHz)は、1.7マ
イクロメートルの霧の小滴を発生させる。
【0037】
エアゾール発生のさらなる手段は、非接触型超音波ネビュライザーに依拠する。そこでは、送達させる流体が超音波伝導に適した薄壁のプラスチック製底部を有するチューブに、入れ置かれる。そのチューブは、超音波発生器と接触している伝導流体(conducting f
luid)中に置かれ、そのゆえエアゾール化される流体サンプルは、それ自体が超音波発生器と接触することは決してない。その発生器は一般に、1.0〜3.0MHzで作動する。サンプ
ルチューブ内にある液体表面上部における高周波振動が、サンプルチューブ内において流体小滴が霧化または霧状化した雲の形成を助長する。霧状化作用は、霧状化したエアゾールを反応室内で上昇させ、また、キャリアガスはミストを(必要なら大きめの小滴を除去するために、目の粗い収集フィルターを通してもよい)移動させてバイオ反応チップに向かわせるために、サンプルチューブ内に導入される。この非接触型超音波ネビュライザーを用いて調製された霧状化された流体サンプルの液滴サイズは、一般に1〜25マイクロメ
ートルにわたる。
【0038】
最後に、非加熱インクジェット技術を活用してプリンティング・ヘッドの中に生物学的流体を送達させるインクジェット・ピエゾプリンティングを、サンプル流体をバイオ反応スポットに向けて推進させるために使用してもよい。ピエゾプリンティングの最初のアプローチにおいて、プリントヘッドは、反応スポット上かガラス上かというその位置を区別することなく、ラスターパターン(raster pattern)のプリントで連続的に生物学的流動体をスライド全体にわたり「プリント」する。操作のこの非特異的様式において、インクジェットはスプレーヘッドとして機能する。極めて狭いスプレーの領域を生み出すものであり、また、バイオ反応スライド全体を動かすためには、スライド上で時間とともにxyポジショニングを必要とするものではあるが。このアプローチにおいて、調製流体(グリセロール)の新しい反応ゾーンの隔離、ならびにプリントされた生物学的流動体が濡れた膜または連続的な層を形成することなくプリントする能力は、例え表面全体がプリントされたときにもスポットからスポットへと交差連絡することなしに反応をコンパートメントに分けることを可能とする。
【0039】
ピエゾプリントの二番目のアプローチにおいて、プリントヘッドは生物学的流動体を不連続的な時間で送達する。流体小滴の反応スポットへの送達は、(1) 反応スポットの既知の位置に対する、その位置についての既知の情報により、または(2) インクジェットプリントを介した反応スポットへの流体の送達を引き起こす、グリセロールスポットの特性を感知することにより引き起こされる。例えば、二股に分岐した光ファイバーは、反応スポットで蛍光染色(その発光は光ファイバーケーブルを介して発光フィルターおよび光電子増倍管へと伝達される)を励起することが可能である。光電子増倍管からの出力は増幅され、デジタル化され、プリントイベントの引き金となる。あるいは、バイオ反応ゾーンの活性化を引き起こすためには、反応スポットのいかなる光学的特性を感知してもよい。
上記のいかなるサンプル適用技術またはそれらと同等技術とともに、マスキングデバイスを、サンプルを直接マイクロドットに適用することを促進するために用いてもよい。テンプレートまたはパターンといったマスキングデバイスを、ドットアレイまたはマイクロアレイの上方に一時的に配置してもよく、あるいはサンプル適用の装置にマスキング材料を組み入れてもよい。本発明においては、マスキングは任意のものであると理解されるべきである。
【0040】
アッセイは好ましくはコンピュータ制御された気体流速計測システムに組み込まれる。不活性ガスは、システムの圧力を制御する調節器を用いて、50 psig未満の高圧で供給さ
れる。典型的な設定圧力は5〜15 psigの範囲である。活性化される標的スライドに向けてエアゾールの流れを押し出すために、ガスの流れはベルヌーイ効果を利用する。キャリアガスは、次のどれであってもよい:空気、酸素、窒素、ヘリウムまたはアルゴン。ガスの流速は、様々なノズルからエアゾールを誘導する助けとするためには、0.1〜5 L/分の範
囲にあればよい。あるいは、ベルヌーイ効果によって液状サンプルを圧力ノズル内に運び入れるために、ガス・フローを用いることができる。しかし、これらのキャリアガスの使用は本発明の方法および装置に対して任意であることを理解すべきである。
【0041】
サンプル適用およびアッセイ・モニタリングのため、アッセイシステムはx軸およびy軸の動きが独立している、コンピュータ制御のxyポジショナーを含有することが好ましい。xyポジショナーは、マイクロドット適用およびアッセイ活性化の準備が整ったアッセイチップ用に利用しやすい収容部を包含する移動可能なステージを移す。そうした移動可能なステージは、アレイヤー(arrayer)からスプレイヤー(sprayer)までの移動、さらには操作者と個々のスライドとの間で、接触する方向を避けながらインキュベーターまでの移動を可能にする。
【0042】
xyポジショナーは、0.1m×0.1m〜10 m×10mまでの移動範囲を有する。xyポジショナー
・ステージのより短い距離の移動は、リニア・ステッパー・モーター(linear stepper motor)またはサーボモーターにより達成可能である。より長い距離は、主作動コンピュータからの駆動シグナルを受信する個々の装置により制御される、モーター化されたベルト駆動一式およびモーターにより達成可能である。0.1〜20 in/秒の速度は、エアゾールの
下、スライドを急速に移動させることにより達成可能である。
【0043】
具体的には本アッセイ方法は、蛍光発生基質を10μM〜1Mの濃度で多くのDMSOに溶解す
ることを伴ってもよい。その場合、0.1〜1体積のグリセロールを基質/DMSO溶液と混合す
る。この溶液は、小さい直径の金属もしくはプラスチックのプローブの極微操作によってガラス基体に送達される。マイクロドットは室温にて揮発性のDMSO成分を放出することができる。マイクロドット間の領域の少なくとも一部をカバーするために、ガラス基体上にマスクが配置される。生物学的流動体のマイクロスプレーはマスクを通じて表面上のマイクロドットに送達される。そのマイクロドットアレイは0〜180分間、4〜37℃で、0〜100
%の湿度でインキュベートされる。基質の転換は、マイクロドットにおいて励起(350〜400nm)および420nmより長波長での発光により、利用可能なあらゆる検出手段を用いて、
検出される。
【0044】
本発明の実施にあたって、サンプルアッセイのプロセスにおいてそれほど遅くになってからも形成されるのであれば、基質は発色性または蛍光性のものとして出発する必要がないことも銘記されるべきである。この目的のために、レポーター基質を含有する2番目のスプレーについて、後述する実施例1において記載する。
【0045】
行われた実施例、あるいは示された場合の他でも、明細書および請求の範囲で用いられた成分の量、反応条件などのすべての数字は、いずれの場合でも用語「約」によって改変されることが理解されるべきである。したがって、そうでないと示されない限り、以下の明細書および添付された請求項に記載された数字パラメーターは概数であり、本発明によって得ることを追求される所望の特性に応じて変動しうるであろう。請求項の範囲に対して均等論原理の適用を制限することは極めて少なく、意図するものではないが、少なくとも各数字のパラメーターは、既に報告された数多くの意味のある数字に鑑みて、または通常の丸める技術を適用することにより、解釈されるべきである。
【0046】
本発明の広範な範囲に示されている数値範囲およびパラメーターは概数であるものの、具体的な実施例に記載された数量は可能な限り正確に報告されている。しかし、どのような数量も、それぞれの測定方法に見られる標準偏差に由来するある程度の誤差を必然的に含有している。
【0047】
また、本明細書に再引用しているどのような数値範囲も、そこに包含されるすべてのサブレンジ(sub-range)もまた含むことを意図していることを理解すべきである。例えば
、“1〜10”なる範囲は、その間の全サブレンジならびに再引用している最小値1および再引用している最大値10を含む。つまり、1に等しいか、それよりも大きい最小値、ならび
に10に等しいか、それより小さい最大値を有するのである。
【0048】
別の態様において、本発明は下記の工程を含み、電気泳動ポリマーゲルからMALDIター
ゲットプレートに関心のある分子を移行させる方法を提供する;
(i)関心のある1以上の分子を含有する電気泳動ゲルを準備する;
(ii)電気泳動ゲル中の水分を共溶媒混合物で置換する;
(iii)ゲルの上にピンを位置させ、該ゲルにピンを貫通させる;
(iv)関心のある1以上の分子を取り囲む範囲におけるゲルを枯渇(deplete)するた
めに前記ピンにエネルギーを付与し、共溶媒混合物が関心のある1以上の分子を取り囲むようにする;
(v)前記ピンをゲルから抜き、このピンは関心のある1以上の分子を含有する共溶媒
混合物の液滴を担持している;および
(vi)MALDIターゲットプレートに前記ピンを接触させ、関心のある1以上の分子を含
有する共溶媒混合物の液滴をMALDIターゲットプレートに沈着させる。
【0049】
この態様を図解した模式図を図24に示す。
最初のサンプル中にある問題分子を充分に分離するかぎり、いかなるゲル電気泳動の分離方法を使用することもできる。
【0050】
関心のある分子を分離した後、そのゲルを水とポリオールとの共溶媒混合物の中でインキュベートする。ポリオールはグリセロールが好ましいが、粘度、表面張力および蒸気圧がグリセロールと類似している他のポリオールを用いることもできる。これらの物性は、ピンがゲルに接触する際に流体の液滴を取り去ることができるようにピンに付着する能力を共溶媒混合物に与えるとともに、その液滴をターゲットプレートに付着させることで液滴をターゲットプレートに移動させることを可能にする。これらの物性はさらに、一以上の関心のある分子を含有する共溶媒混合物の液滴が、実質的に蒸発することなく、MALDI
ターゲットプレート上での位置を保持することを確実なものとする。
【0051】
前記共溶媒混合物は、好ましくはポリオール10〜90体積%、通常はポリオール15〜35体積%である。電気泳動ゲル中の水は、そのゲルを共溶媒混合物中で15〜120分間、インキ
ュベートすることにより、共溶媒混合物に置換される。
【0052】
ピンは、通常のマイクロプリンティングまたはピンプリンティング装置に用いられているような、先端が中空もしくは中実のピンであり、当業者には知られているだろう。ピンの先端(ゲルと接触する点)の直径は、好ましくは50〜500マイクロメートルである。典
型的には、ピンは、色素染色により示されるタンパク質(または他の分子)が高濃度である範囲のゲル上部に配置される。
【0053】
ピンには、超音波または他の手段によりエネルギーが加えられる。超音波が用いられるならば、超音波の振動エネルギーは0.1〜5ワット/平方センチメートルであり、周波数は10キロヘルツ〜1メガヘルツである。ピンは10〜120秒間エネルギーが加えられる。
【0054】
ピンにエネルギーを加える結果、ピンの周辺領域のポリマーゲルでは水分枯渇(depletion)または破壊が起きる。共溶媒混合物およびゲルからの他の流体が破壊された領域に
流入し、ピンの周辺領域にある一以上の関心のある分子を取り囲む。共溶媒混合物の粘度、表面張力および蒸気圧によって当該ピンがゲルを離れる際に、ピンは一以上の関心のある分子を含有する共溶媒混合物の液滴を運搬するであろう。この液滴は、ピンがMALDIタ
ーゲットプレートに接触することにより、該プレート上に沈着される。一以上の関心のある分子を含有する共溶媒混合物の液滴は、MALDIターゲットプレートに付着し、そこに沈
着するであろう。その後、該ピンは沈水浴槽(submersion bath)中で洗浄される。ター
ゲットプレート上に複数の液滴を沈着させるために、このステップは一回以上繰り返され
る。ここで、用語「液滴(drops)」および「スポット(spots)」は、MALDIターゲット
プレート上に沈着されたサンプルを呼ぶために、相互に交換可能で用いることができる。
【0055】
本発明の方法によってMALDIターゲットプレート上に沈着する共溶媒混合物の液滴(問
題分子を含有する)は、1〜2000ナノリットルの量、より好ましくは1〜100ナノリットル
の量になる。液滴の直径は50〜500マイクロメーターになり、プレート上の液滴の密度は1平方センチメートルあたり100〜1000液滴である。
【0056】
液滴が上記ターゲットプレート上に沈着した後、関心のある分子と反応させるために選ばれた試薬が、沈着した一以上の関心のある分子を含有する液滴と接触するように、関心のある分子上に沈着させられ、その結果反応が進行する。試薬は、当業界で知られている通常の方法により沈着される。その方法としてエアゾール沈着、マイクロプリンティング(microprinting)、ピンプリンティング(pin printing)、容積型ピペット(positive displacement pipetting)、ピエゾプリンティング(piezo printing)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
一以上の関心のある分子としては、タンパク質、ペプチド、DNA、RNA、ヌクレオチド、酵素、アミノ酸、基質、触媒、塩、緩衝液、補助因子、反応改変化合物(reaction-altered chemical compounds)、化合物コンビナトリアルライブラリーの一員たる化学物質、薬剤スクリーニング反応の一成分およびこれらの組み合わせが挙げられるが、限定されるものではない。
【0058】
反応が進行して完結した後、沈着した液滴の付いたターゲットプレートは、沈着した液滴を乾燥させ、MALDIマトリックスを用いてそのターゲットプレートを被覆することによ
り、MALDI質量分析の準備がなされる。
【0059】
さらなる態様において、本発明は、反応物質の液滴をターゲットプレートに沈着させる;沈着した液滴に試薬が接触するようターゲットプレートに試薬を沈着させる;化学反応を進行させる、ことを含む、MALDIターゲットプレート上で化学反応を行う方法を提供す
る。液滴および試薬は、当業界で知られている適切な手段(エアゾール沈着、マイクロプリンティング、ピンプリンティング、ピエゾプリンティングおよび容積型ピペットが挙げられるが、これらに限定されるものではない。)によりターゲットプレート上に沈着される。好ましくは、沈着された液滴の各々の体積は、1〜2000ナノリットルであり、また好
ましくは、ターゲットプレート上の液滴の密度は、1平方センチメートルあたり100〜1000液滴である。適切な試薬および反応物質としては、タンパク質、ペプチド、DNA、RNA、ヌクレオチド、酵素、アミノ酸、基質、触媒、塩、緩衝液、補助因子、反応改変化合物(reaction-altered chemical compounds)、化合物コンビナトリアルライブラリーの一員たる化学物質、薬剤スクリーニング反応の一成分およびこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0060】
次のさらなる態様において、本発明は下記の工程を含む、MALDI質量分析用サンプルの
調製方法を提供する;
(i)サンプルの液滴を有するターゲットプレートを準備する;
(ii)サンプル液滴から溶媒を除去するためにターゲットプレートを乾燥させる;
(iii)MALDIマトリックスを乾燥させたターゲットプレートに沈着させる;
(iv)ターゲットプレートを加湿する;および
(v)サンプル液滴の分析のために、該ターゲットプレートをMALDI質量分析にかける
。本発明のこれらの態様を図25の模式図により図説する。
【0061】
液状サンプルのサンプル液滴は、一以上の反応物質と一以上の試薬との反応生成物を含
有する。好適な反応物質および試薬としては、タンパク質、ペプチド、DNA、RNA、ヌクレオチド、酵素、アミノ酸、基質、触媒、塩、緩衝液、補助因子、反応改変化合物(reaction-altered chemical compounds)、化合物コンビナトリアルライブラリーの一員たる化学物質、薬剤スクリーニング反応の成分およびこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0062】
好ましくは、液状サンプルの液滴の体積は1〜2000ナノリットルであり、ターゲットプ
レート上の液状サンプルの液滴の密度は、1平方センチメートルあたり100〜1000液滴である。
【0063】
前記乾燥工程は、例えば減圧乾燥または空気乾燥などの適切な方法によりなされる。
好ましくは、マトリックスは当業界で知られているように、エアゾール沈着法により沈着される。また好ましくはマトリックスは、厚さ50マイクロメートル未満の層で沈着され、ターゲットプレートの5平方センチメートルごとに10マイクロリットル未満のマトリッ
クスが沈着される。所望の厚さを達成するために一または複数の層を沈着することができる。
【0064】
上記マトリックスの材料は、揮発性溶媒および過飽和濃度のマトリックス化合物を含有する。マトリックス材料は当業界でよく知られており、「飛行時間型マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI-TOF)用マトリックス材料:選択のガイドライン」(APPLIED
BIOSYSTEMS-Voyger-DE-Biospectrometry Workstations)に記載されているような、表 2および3に記載した組成物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
加湿工程は、標準的な科学用加湿チャンバー内で、40%〜80%の相対湿度、22℃〜37℃の温度で、10〜120分間行われる。MALDIマトリックス被覆上に実質的に水滴が沈着することなく加湿が行われることを確実なものとするよう、注意しなくてはならない。加湿はサンプル液滴を半固体状になるようにし、マトリックスの成分はサンプル滴中の反応生成物と混合することができる。
本発明の方法により形成されたマトリックスは、サンプル液滴あたり1〜50フェムトモ
ル範囲のサンプル液滴中の反応生成物を検出できるようにする。マトリックスの沈着後、液滴のサイズは超微小であるため、サンプル液滴中の塩イオンは反応生成物から周囲のマトリックスへと拡散し、続くMALDI MS分析のための顕著な結晶を供給する。本発明の方法は、例えば、反応物質が生物学的な分子、試薬が薬剤物質である場合の、分子に対する薬剤の活性を検出するために用いることができる。
さらなる態様において、本発明は下記の工程を含む、MALDIマトリックスの1以上の層をターゲットプレートに沈着させる方法を提供する;
(i)サンプルをその上に有するターゲットプレートを準備する;
(ii)マトリックスをエアゾール化する;および
(iii)ターゲットプレートを動かしながら、エアゾール化したマトリックスをターゲ
ットプレート上にスプレーする。
マトリックスは、超音波ノズルまたはスプレーノズルを用いるなど、当業界で知られている通常の方法によりエアゾール化できる。極小の小滴および極めて薄いマトリックスの層を沈着させることができるため、好ましくは超音波ノズルが用いられる。超音波ノズルまたはスプレーノズルのガスの流速は、毎分0.1〜5マイクロリットル、より好ましくは毎分0.5〜2.0マイクロリットルである。超音波ノズルが用いられるのであれば、ノズルのエネルギーは好ましくは0.1〜2ワット、より好ましくは0.5〜1ワットに設定される。好ましくは、マトリックスは50マイクロメートル未満の厚さで沈着され、ターゲットプレートは毎秒0.1〜5インチ、より好ましくは毎秒0.5〜2インチで直線方向に移動する。
[実施例]
【実施例1】
【0068】
各グリセロールスポット(直径50〜250マイクロメートルで、スポットの間隔が50〜500マイクロメートル)が、タンパク質もしくはタンパク質断片、合成ペプチド、有機低分子、核酸配列または合成ポリマーといった、単一の分子種"A"を含有している、グリセロー
ル部位のマイクロアレイを作成する。この分子種は10picomolar〜10millimolarの濃度で
スポットに存在する。1"×3"のガラススライドを、100〜1000スポット/cm2で配列された10cm2を越えるグリセロール部位が得られるよう形成する。
【0069】
酵素(1picomolar〜10 millimolar)を含有するエアゾールをアレイに送達させる。酵
素の小滴が反応スポットと融合し、一方でスライドに当たった小滴は速やかに蒸発する。しばらくの時間、典型的には1〜60分間、酵素を化学種と結合平衡となるようにさせる。
第2のスプレーは、その酵素活性を検出するレポーターシステムを含有する。そのようなレポーターシステムとして、蛍光性基質、発色性基質、補助因子転換の検出システムを加えた補助因子、または補助因子および基質が挙げられ、補助因子転換は検出可能なシグナルを発する。このレポーターシステムは10nM〜100mMの濃度で蛍光性基質とともに送達さ
れる。
【0070】
分子種"A"が酵素"E"の活性部位またはアロステリック位置と結合するのであれば、レポーターシステムの活性化(例:蛍光性基質の転換)は妨げられる。レポーターシグナルを発しないか、または減衰したレポーターシグナルを発する反応ゾーンは、酵素阻害剤として同定される。その阻害作用は、分子種"A"が、拮抗型阻害剤、自殺型阻害剤、非拮抗型
阻害剤、アロステリック・モジュレーター、基質に対する複合体形成試薬(complexation
agent)、補助因子結合のアンタゴニスト、または補助因子もしくは非拮抗型阻害剤に対する複合体形成試薬として振る舞うことによるものであってよい。
【実施例2】
【0071】
抗原・抗体間の結合事象を分析するためのマイクロアレイを構成する。はじめに、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を、金コロイド(10nM〜200nM)またはラテッ
クスビーズ(10nM〜200nM)といったコロイド状物と化学的に結合させる。抗体と共有結
合したラテックスビーズをグリセロールに添加し、マイクロアレイ用の懸濁液を調製する。このグリセロールは、検出すべき特定の抗原に対する非結合のポリクローナル抗体または非結合のモノクローナル抗体を含有していてもよい。ビーズに共有結合した抗体の濃度は、ビーズの1平方マイクロメートルあたり1〜10,000サイトの範囲であればよい。溶液中における遊離の抗体の濃度は0〜100μMの範囲とすることができる。
【0072】
スポットの配列を生成する(スポットのサイズは直径50〜250マイクロメートルであり
、スポットの間隔は50〜500マイクロメートルである)。各スポットは特有の組成を有し
ており、抗体と結合したコロイド状物を単一の濃度で維持しつつ、反応停止性の(quenching)遊離抗体を一連のスポット群で濃度を上昇させながら保有している。検出する抗原
を含有する生物学的サンプルを、スプレー機構を介してアレイに送達させる。各反応スポットにおいて、反応停止性抗体は抗原に結合する(遊離の抗体はビーズに結合した抗体よりも大きなブラウン運動をしていることによって、より早い反応である)。もし抗原の濃度が反応停止性抗体の濃度より高いならば、遊離の抗原が残存しており、ビーズへの結合に利用することができる。ビーズは抗原を仲介とした凝集を受ける。凝集した金コロイドまたはラテックスビーズは、コンピュータ支援による凝集物(aggregates)イメージング、凝集物により増強された光散乱、または凝集物により減衰した光の伝導によって定量される。一連のスポット群において濃度が上昇していく反応停止性抗体の既知濃度を利用し、抗原の濃度は、凝集を妨げている反応停止性抗体の最低濃度に等しいものと推定することができる。
【実施例3】
【0073】
生物学的流動体における抗原の検出は、濃度が未知の非蛍光性種を用いてなされる。結合部を有する蛍光性種を各々が含有する、一連のグリセロールの小滴を配列する。レポーター分子は30kDa未満であろう。そのようなレポーター分子は、一本鎖Fvフラグメントが
検出すべき抗原との高い結合親和性を有する、GFP-ScFvキメラタンパク質であろう。
検出すべき抗原はアレイ表面にスプレーされ、充分に巨大であり(5kDaより大きい)、検出分子(detector molecule)/抗原複合体の総分子量に顕著な変化をもたらす。この検出分子/抗原複合体は、システムを偏光で励起した際に、レポーター分子単独よりも大き
な偏光である複合体により発光する蛍光の偏光によって分析される。
【実施例4】
【0074】
血漿における血液凝固経路のセリンプロテアーゼ(30年以上にわたって充分に特性が明らかにされている)を、複合酵素流動体のマイクロアッセイへの送達を観察するための系として選択した。DMSO/グリセロール中の蛍光性基質をガラススライドで分析した。
【0075】
スプレー塗布した後、トロンビンは、boc-VPR-MCA基質の転換後に、蛍光活性を65倍に
増大させた。純粋なプラスミン(1μM)は、アレイに沈着させたとき、トロンビンおよびカリクレイン基質についての検出可能な活性とともに、boc-VLK-MCA基質について強いシ
グナル(バックグラウンドの25倍高い)を発した。プラスミンは、tPAおよび因子Xa基質
に対して検出可能な活性を持たないが、boc-VPR-MCAおよびZ-FR-MCAについて活性を有す
ると報告されている(Morita, 1977)。純粋なtPA(10μM)の検知アレイへのエアゾール沈着は、tPA、トロンビンおよびXa基質の顕著な開裂を引き起こし、バックグラウンドよ
りも18倍から20倍高い蛍光になった。
【0076】
マイクロアレイは、再石灰化した希釈血漿において、因子Xaおよびトロンビンの活性レベルが低いことにより凝固経路のささやかな活性化を検出した(Butenas, 1997; Rand, 1996)。トウモロコシのトリプシンインヒビターは第XIIa因子を阻害することは示されず
(Rand, 1996)、接触システムの穏やかな活性化およびカリクレイン生成はカリクレイン基質の転換により検出された。再石灰化およびクエン酸処理した血漿は、プラスミン基質転換の欠如と矛盾することなく、∀2-アンチプラスミンおよび∀2-マクログロブリンよりも多い量のプラスミンを生成しない。カリクレイン基質の転換が、プレカリクレインからカリクレインへの接触活性化から生じ、プラスミンによる非特異的Z-FR-MCA基質の開裂によるものではないことをマイクロアレイは明らかにした。
【0077】
希釈、再石灰化、クエン酸処理した血漿へのプラスミン(最終濃度0.43μM)の添加に
より、∀2-アンチプラスミンよび∀2-マクログロブリンの阻害的な濃度に打ち勝った。このプラスミン活性は、プラスミン基質のスポットにおける強力なシグナルにより検出された。プラスミンは因子Xaを不活性化でき(Pryzdial, 1999)、この因子Xaの活性低下はマイクロアッセイで観察された。プラスミンも因子XUから因子XUaへの強力な活性化因子で
あり、後者もプレカリクレインをカリクレインへと転換することもできる。プラスミンを介するカリクレイン基質の転換から期待されるものよりも高いレベルのカリクレイン基質の転換が、プラスミン処理した血漿において記載された。アレイにおいてより高いレベルのプラスミン(最終濃度2.14〜1μM)の添加により、各基質は顕著に開裂することとなった。プラスミンを介した因子XIIaの活性化に起因してカリクレインが産生され、それとともに、プラスミンを介した因子Xaから因子Xaaへのタンパク質分解をしのぐのに充分なだ
け、内因性の経路による因子Xaの生成が増大することをマイクロアレイは明らかにした。
【実施例5】
【0078】
プログラムされた細胞死(アポトーシス)は、カルシウムの流入、酸化ストレス、細胞骨格干渉(cytoskeletal interference)、タンパク質合成の阻害剤、細胞膜破裂またはDNA破損といった細胞内の諸現象により引き起こされる。多数の化学物質が特定タイプの細胞にアポトーシスを誘発し、そのような化学物質として、受容体リガンド(TRAIL, FasL
)、セラミド系脂質、タキソール、ビンブラスチン、サイトカラシンD、トポイソメラー
ゼ阻害剤(エトポシド)、DNA架橋剤、タンパク質キナーザ阻害剤およびミトコンドリア
透過性剤(ベツリン酸、ロテノン)が挙げられる。
【0079】
アポトーシスは、表層のレセプターの活性化/凝集の後に起こる。最も研究された細胞死のレセプターはTNFRI(p55またはDC120a)およびCD95(FasRまたはApo1)である。他の
細胞死のレセプターとして、DR3(Apo3)、DR4およびDR5(TRAIL-R2, Apo2)が挙げられ
る。癌治療学において、溶解性のTRAIL(Apo2L)はそのレセプターであるDR4およびDR5に結合し、形質転換された細胞系ではアポトーシスを活性化するが、通常の細胞では活性化しない。細胞死レセプターの下流へのシグナル伝達は充分に理解されているが、複雑である。例として、ホモ三量体のCD95LはCD95と結合してクラスターを形成し、引き続きFADD
(Fas-結合細胞死ドメイン)タンパク質(このものはカスパーゼ8(FLICE)を活性化す
る)と結合する。オリゴマー化した後、カスパーゼ8は自己活性化を経て、カスパーゼ9
を活性化する。TRNR1に結合しているTNF、DR3に結合しているApoL3、DR4またはDRSに結合しているApoL2から離れた経路は、レセプターの多量体化、アダプター、およびカスパー
ゼの活性化に帰結する。いくつかのカスパーゼは、タンパク質分解的にポリ(ADP-リボー
ス)ポリメラーゼ(PARP)を不活性化し、核のラミンを分解することができ、これらはア
ポトーシスのキー・サイン(key signatures)となる。
【0080】
アポトーシスにおけるミトコンドリアの役割は、真核細胞を生み出した20億年前の過去の共生に起因すると考えられている。ミトコンドリア保全状態の喪失はエネルギー(ATP
)の生産を破壊し、カスパーゼ活性化を引き起こし、細胞の酸化還元電位を乱す。カスパーゼの活性化において、ミトコンドリアから放出されるシトクロムc(アポトーシス阻害
因子bcl-2によりブロックされる)は、Apaf-1およびプロカスパーゼ9と複合体を形成し、結果としてカスパーゼ9を活性化させることができる。
【0081】
カスパーゼ(システイニルアスパラギン酸−特異的プロテアーゼ)は、タンパク質基質をカルボキシル末端側のアスパラギン酸(P1位置)で開裂する。P2、P3およびP4の位置もまた、カスパーゼの間で基質選択性の規定において最も重要な役割を有するP4残基とともに、基質特異性に貢献する。これまで総計13の別個のカスパーゼが同定されている。様々なカスパーゼが所定の蛍光性基質を開裂することができる。用語「カスパーゼ3基質」の
使用は、他のカスパーゼがこの基質を開裂しない、あるいはカスパーゼ3が他の基質を開
裂しないといったことを意味しない。カスパーゼの基質特異性は、発色性および蛍光性ペプチドライブラリーの作製を通じて研究されてきた(Talanian, 1997; Thornberry, 1997)。Thornberryは、60個の化合物の蛍光性位置探索ライブラリー(fluorogenic positional scanning library)Ac-X-X-X-Asp-AMCを、カスパーゼ1[WEHD]、カスパーゼ2[DEHD
]、カスパーゼ3[DEVD]、カスパーゼ4[(W/L)EHD]、カスパーゼ5[(W/L)EHD]、カス
パーゼ6[VEHD]、カスパーゼ7[DEVD]、カスパーゼ8[LETD]、カスパーゼ9[LEHD]およびグランザイムB[IEPD]の括弧(brackets)における特異性を評価するために用いた
。同様に、様々なペプチドアルデヒドが、二次速度定数>105M-1s-1を有する阻害特異性について試験されている(Garcia-Calvo, 1998)。
【0082】
【表3】
【実施例6】
【0083】
生物学的流動体がエアゾールとしてチップ表面に送達される。この流動体は、血液、尿、唾液、生検、微生物もしくは微生物調製物、ウィルスもしくはウィルス調製物、細胞溶解物もしくは細胞懸濁液または食物または農産物から得られる液状サンプルである。あるいは、エアゾールは、タンパク質、ウィルス粒子または微生物粒子が分散しているサンプルガスと混合させた窒素または空気といったキャリアガスを含有していてもよい。グリセロールMCA基質および酵素に蛍光性基質が配列されているサンプルについて、酵素活性の
試験が行われる。
【実施例7】
【0084】
細胞、DNA、全RNAまたはmRNAの懸濁液が、マイクロアッセイチップ上に配列されている反応ゾーンに送達される。個々の反応ゾーンは、PCRプライマー、逆転写酵素プライマー
、染料ラベル化オリゴ配列、核酸塩基または蛍光性塩基、および逆転写酵素、DNAポリメ
ラーゼ、RNAse、DNAse、熱安定性DNAポリメラーゼまたは開裂酵素といった酵素を含有す
る。チップは、PCRの熱サイクルまたは核酸合成または蛍光性タグの取り込みまたは配列
依存性反応(sequence dependent reaction)を介してのクエンチ(quenched)実体物の
蛍光活性化にかけられる。後続の検出においては、配列依存性反応により近接している独立の二蛍光プローブ間でエネルギー伝達が引き起こされてもよく、配列依存性反応によってクエンチ分子のクエンチ解除(dequenching)も含まれる。応用としては、mRNA種の表
現型分析、DNA種の遺伝子型分析および一塩基多型(SNPs)の検出が挙げられる。
【実施例8】
【0085】
マイクロアレイはプロテアーゼ工学およびプロテオミクスにおいて数多くの応用を有する。19個の異なるアミノ酸をP2、P3およびP4位置に有する蛍光性ペプチドについての定位置P1探索ライブラリー(constant P1 positional scanning library)(57サブライブラ
リー)(Backes, 2000)は、試薬を最小限用いて1cm2未満のマイクロアレイに収容することができる。19〜20個の異なるアミノ酸をP1〜P4位置に有する完全な探索蛍光性ライブラリー(Harris, 2000)(<1200スポット)は、グリセロール・スポッティングおよびエア
ゾール沈着技術の性能範囲内で、1"×3"のスライドのウェル上に収容することができる。この実施例では、単一のプロテアーゼが、位置探索ライブラリー(positional scanning library)からチップ上に配列された個々の蛍光性基質に適用される。基質の転換および
基質特異性は、単一のマイクロアッセイチップ上で決定される。また、各位置における各アミノ酸の同定が充分に確立されている蛍光性ペプチドのコンビナトリアルライブラリーを、マイクロアッセイチップ上に用いることができる。
【実施例9】
【0086】
・ゲルからのサンプルの取り出しおよびMALDIターゲットプレートへの移動
直接的な検出のため、レーン当たり1μgの精製ヒトフィブリノゲンを、SDSランニング
バッファー(Tris-EDTA, pH 8.0, 2% vol/vol SDS, 8M尿素)中で、95℃で5分間、加熱
する。タンパク質サンプルは一次元方向に4〜15%濃度勾配のポリアクリルアミドゲル中
で泳動させ、クマシーブルー色素を用いて60分間染色し、バンド位置を書き留め、ゲルをNH4/HCO3/50%アセトニトリルで脱色し、30体積%のグリセロール中で120分間、室温にて穏やかなオービタルミキシング(orbital mixing)でインキュベートする。ゲルを蒸留水で簡単にすすぎ、ピンをタンパク質バンド位置の上部に位置させ、ゲルの半ばまで沈めて、超音波振動子(30kHz, Sonicare)に繋いで20分間ピンにエネルギーを加える。ピンを
ゆっくりとゲルから抜き、コンタクトプリンティング(contact printing)(GeneMachines Ascent)により、金属のMALDIターゲット表面に接触させるように置く。
【0087】
シングルピン・プロトコル(single pin protocol)(Telechem社(Sunnyvale, CA)製
のステルスSMP15XBピンを使用)により、Genemachines社(現在Genomic Solutions社、Ann Arbor, MIの一部門)製のOmniGrid Accentマイクロアレイヤーを使用して、SSプレート上に500μmスポットをプリントする。
【0088】
タンパク質分解による消化のため、フィブリノゲン(「フィブリノーゲン」としても表示される。)を10μMヒトトロンビン(50mMクエン酸ナトリウム、0.2M NaCl, 0.1% PEG-8000, pH6.5)により活性化する。ヒトトロンビンを120kHz超音波ノズル(Sonotek, Milton, NY)を介してアレイに送達する。サンプルを液体流速400nl/s でノズル(UMPIIフローポンプ(World Precision Instruments, Saratoga, FL)を使用)中へエアゾール化し、2.3L/分のキャリア空気の流れで包み込む。エアゾールを2〜4秒間沈着させた後、反応を伴
うSSプレートを37℃で4時間インキュベートする。反応はオーバーナイトでのグリセロール抽出により停止させ、トロンビン:フィブリノペプチドA(平均分子量:1536.57Da)、フィブリノペプチドB(平均分子量:1569.60Da)の存在下に、フィブリノゲン開裂産生物の高純度結晶が後に残る。開裂産生物は、Applied Biosystems社(Foster City, CA)製
のVoyager De-PRO飛行時間型マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI TOF)質量
分析器(MS)を用いて検出する。検出目的のため、プレートは3,5-ジメトキシ-4-ヒドロ
キシ桂皮酸(シナピン酸)50%エタノール溶液の薄いフィルムで被覆する。これはMALDI TOF MS用に用いられる代表的な陽イオンモードマトリックスである。MSは、レーザー源を全検出用に一定出力を維持したポジティブリニアモード(positive linear mode)で使用する。フィブリノペプチドAおよびBのピークは、それぞれのm/z質量レンジで得られる(
データは記載せず)。
【実施例10】
【0089】
・ハイスループットスクリーニング
平板な表面にプリントされたライブラリーを用いてナノリットル反応(nanoliter reaction)を行う能力は、HTS反応を探るためにMALDI質量分析法を利用することを可能なものとする。フィブリノゲン溶液を金属MALDIターゲットにプリントし、続いてフィブリノペ
プチドAおよびBを放出するためにトロンビンをエアゾール沈着させることによるラベルフリー(label-free)反応の実行可能性を立証した。反応におけるグリセロールを除去し、MALDIマトリックスを、FPA/FPBの質量分析検出用に好適な薄いフィルム(図26A)になる
よう沈着させた。ナノリットル反応においてベンズアミジンは反応を完全に阻害した(図26B)。3〜300nMの範囲において、検定物質(calibrants)および転換された基質を検出
できる、このようなMALDIの感受性は、HTSアッセイで必要とされる典型的な反応条件にとって理想的である。
【0090】
濃度を変化させたフィブリノゲンおよびフィブリノペプチドMSスタンダードを含有するOmniGridマイクロアレイヤーを用いて、8×12の配列の反応をプリントした。ある反応は1mMベンズアミジンを含有していた。アレイはトロンビンにより活性化し、湿気の下でインキュベートし(上列、A)、グリセロールを除去し(中列、A)、およびMALDIマトリック
スで被覆した(下列、A)。
【0091】
その後個々の反応は、フィブリノペプチドAおよびBの分析のためMALDIにかけられた。
強いシグナルが、トロンビンで処理した1、10および100μg/mlのフィブリノゲン(3、30
および30nM)では見られたが、ベンズアミジンを含有するスクリーニング反応(B)では
見られなかった。MALDI MSの条件は、以下のとおりであった:Voyager-DE PRO(シナピン酸マトリックス)、Glu1-フィブリノペプチドB(1μg/ml)コントロール、リフレクショ
ンモード、陽極性、1000-2000 Da取得範囲、20000V加速電圧、2033レーザー強度(20.0Hz; 100/spectrum)、抽出遅延時間:150nsec、グリッド電圧:75%、ガイドワイヤ電圧:0.002%
【実施例11】
【0092】
・タンパク質/酵素相互作用の検出
プラスミノゲン不含ヒトフィブリノゲン(分子量:330kDa)をEnzyme Research Labs社(South Bend, IN)から購入した。製造者が推奨する10mMリン酸塩、20mMクエン酸塩、0.15M NaCl(pH7.4)緩衝液に、これを36mg/mlの濃度で小分けした。プラスミノゲン不含ヒトフィブリノゲンおよびグリセロール 1:1の6通りの希釈液−18mg/ml、9mg/ml、4.5mg/ml、3mg/ml、1.5mg/ml、0.75mg/mlを調製し、それぞれ小分けした。各溶液の12個の複製物を、一枚のブランクのステンレススチール(SS)質量分析用プレート(Applied Biosystems社(Foster City, CA)製)の上にプリントした。シングルピン・プロトコル(Telechem社(Sunnyvale, CA)製のステルスSMP15XBピンを使用)により、Genemachines社(現
在Genomic Solutions社、Ann Arbor, MIの一部門)製のOmniGrid Accentマイクロアレイ
ヤーを用いて、SSプレート上に500μmスポットをプリントした。スポットとスポットとの間隔は1000μmであった。
【0093】
次に、10μMのヒトトロンビン(50mMクエン酸ナトリウム、0.2M NaCl, 0.1% PEG-8000,
pH6.5)によりフィブリノゲンを活性化した。ヒトトロンビンは120kHz超音波ノズル(Sonotek, Milton, NY)を介してアレイに送達した。サンプルを液体流速400nl/s でノズル
の中へエアゾール化し(UMPIIフローポンプ(World Precision Instruments, Saratoga, FL)を使用)、2.3L/分のキャリア空気の流れで覆った。エアゾールを2〜4秒間沈着させた後、反応を伴っているSSプレートを37℃で4時間インキュベートした。反応はオーバーナ
イトでのグリセロール抽出により停止し、トロンビン、フィブリノペプチドA(平均分子
量:1536.57Da)、フィブリノペプチドB(平均分子量:1569.60Da)の存在下に、フィブ
リノゲンの開裂産生物の高純度結晶が後に残った。
【0094】
開裂産生物は、Applied Biosystems社(Foster City, CA)製Voyager De-PRO飛行時間
型マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI TOF)質量分析器(MS)を用いて検出
した。検出目的のため、プレートは3,5-ジメトキシ-4-ヒドロキシ桂皮酸(シナピン酸)50%エタノール溶液の薄いフィルムで被覆した。これはMALDI TOF MS用の代表的な陽イオ
ンモードマトリックスである。MSは、レーザー源を全検出用の一定の出力を維持した、ポジティブリニアモード(positive linear mode)で使用した。フィブリノペプチドAおよ
びBのピークは、それぞれのm/zマスレンジで得られた。質量スペクトルデータは、18mg/ml、3mg/mlおよび0.75mg/mlのサンプルについて、図27A〜Oに示す。
【0095】
本発明について、特定の材料および方法に言及しながら上記のように説明したが、本発明は、特許請求の範囲に示した範囲においてのみ限定される。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】図1は、本発明によるアレイの部分的な斜視図である。
【図2】図2A、2Bおよび2Cはそれぞれ、アレイ、エアゾールサンプルの沈着、および基質転換についての側面からの立面図である。
【図3】図3Aおよび3Bは、サンプルの適用前および適用後の、ペプチドまたはタンパク質マイクロアレイの概念図である。
【図4】図4は、超音波霧状化装置の断面図である。
【図5】図5は、アッセイ機器の機能概念図である。
【図6】図6は、担体溶媒(グリセロール)マイクロドットのアレイである。
【図7】図7は、プレスプレー(prespray)された担体溶媒(グリセロール)マイクロドットのアレイである。
【図8】図8は、水系サンプルをスプレーしたマイクロドットのアレイである。
【図9】図9は、スプレーしたマイクロドットのアレイの、ミストが蒸発した後の基部の様子である。
【図10】図10は、活性化したマイクロドットアレイである。
【図11】図11は、サンプルを含有する水滴とグリセロールのマイクロドットとの融合を示す。
【図12】図12は、マイクロドットアッセイによるトロンビン活性の検出を示す。
【図13】図13A、13B、13Cおよび13Dは、個々の反応コンパートメントに試薬を送達するためのマイクロ流体工学を示す。
【図14】図14は、超音波ノズルから発生したスプレーを用いた、反応スポットへの分子の送達を示す。
【図15】図15は、超音波振動子(transducer)および非接触チャンバー(non-contacting chamber)を用いた、超微細ミストの発生を示す。
【図16】図16は、超音波振動子および非接触チャンバーにより発生させた小滴スプレーを用いる分子の反応スポットへの送達を示す。
【図17】図17は、ミストをスプレーして送達させた後に、隣接する反応スポットがクロスコンタミネーションを起こさないことを示す。
【図18】図18は、精製酵素およびヒト血漿のマイクロアレイアッセイを示す。
【図19】図19は、カスパーゼ基質のマイクロアレイである。
【図20】図20は、活性化したカスパーゼのマイクロアレイを示す。
【図21】図21は、アッセイシステムにより送達されたミストを示す。
【図22】図22は、マイクロアレイに送達した蛍光ミストを示す。
【図23】図23は、静電気電荷を用いた、ミストのマイクロアレイ上への捕捉を示す。
【図24】図24は、関心のある分子を電気泳動ゲルからMALDIターゲットプレートへ移動させる方法を図解した概念図である。
【図25】図25は、化学反応をターゲットプレート上で直接行ってからMALDI質量分析用のターゲットプレートを調製する方法を図示した概念図である。
【図26】図26A-Bは、実施例10に記載された分析から得られた、コンピュータで作製した描画およびマススペクトルデータである。
【図27−1】図27A-Cは、実施例11に記載された分析から得られたマススペクトルデータである。
【図27−2】図27D、Eは、実施例11に記載された分析から得られたマススペクトルデータである。
【図27−3】図27F-Hは、実施例11に記載された分析から得られたマススペクトルデータである。
【図27−4】図27I、Jは、実施例11に記載された分析から得られたマススペクトルデータである。
【図27−5】図27K-Mは、実施例11に記載された分析から得られたマススペクトルデータである。
【図27−6】図27N、Oは、実施例11に記載された分析から得られたマススペクトルデータである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的研究および生命医学的診断用の、ペプチドまたはタンパク質を用いたマイクロアッセイチップおよび分析方法に関する。付随的な面として、本発明は対象とする分子を電気泳動ゲルからMALDI質量分析用のターゲットプレート(target plate)へ
と直接に移行させる方法に関する。さらなる側面としては、ターゲットプレート上で化学反応を進行させる方法、MALDI質量分析用のサンプルを調製する方法、およびMALDIマトリックスをターゲットプレート上に沈着(deposit)させる方法を包含する。
【背景技術】
【0002】
生物学的研究および生命医学、産業上の利用において、ゲノム内の特定遺伝子またはDNA配列、一塩基多型(SNP)のような特定の遺伝子突然変異、およびmRNAの種類を検出するための大規模な遺伝子評価は、充分に確立された方法論である。これらの方法論は、アレイ(array)上で特定の核酸配列が合成されるか、あるいは高度に限定された位置にそれ
ぞれ沈着されているDNAチップおよびマイクロアレイ(microarray)を利用するものであ
る。
【0003】
核酸配列を含有するこれらのアレイは、シリコンもしくはガラスといった固体、またはナイロン膜のような材料を支持物としている。そうした核酸配列は、それぞれのマイクロサンプル、103または104オーダーでアレイの中に存在できる。個々の「ドット」または「ピクセル」は、サブミリメーターの特徴となる長さを有するからである。これらのチップは、ゲノム内にある遺伝子の存在の検出および同定(遺伝子型の同定:genotyping)、あるいは細胞および組織系における遺伝子調節のパターンの評価(mRNAプロファイリング)のために数多く応用されている。しかしながら、これらの核酸に基づくシステムは、遺伝子産物、すなわち合成されたタンパク質の活性または調節についての情報を何ら与えない。
現在、DNAチップおよびマイクロアレイは、リン酸化および開裂状態により調節され得
る酵素活性についての情報を提供することなく、遺伝子型の同定および発現プロファイリングを可能にしている。現在のところ、タンパク質チップは、固定化されたDNA配列への
タンパク質の捕捉、または固定化されたペプチド、抗体またはタンパク質のライブラリーを必要とする。タンパク質アレイのための3通りの主要な形式(format)としては、平滑なガラススライド、三次元ゲルパッドチップ(「マトリックス」チップ)またはナノウェル(nanowell)チップが用いられる。しかしこれらの形式はいずれも、簡単なアッセイで多数の酵素を同定するために、可溶性の基質を利用していない。
【0004】
プロテオミクス的手法(proteomic method)は、タンパク質を分離するために典型的には二次元電気泳動ゲルを使用し、続いてゲル中の関連した個々のタンパク質を特徴づけるために酵素消化マッピング(enzyme digest mapping)および/または質量分析法を行う
。DNAチップも二次元電気泳動も、タンパク質の活性またはその反応速度論動態について
の情報を与えない。例えば、ある酵素は完全な活性を有するためにリン酸化または脱リン酸化を必要とすることがあるが、先行するチップ技術はこの情報を与えない。
現在、開裂産物が強く呈色し特定波長の光を吸収するようになる発色性(chromogenic
)基質で酵素をインキュベートすることにより、酵素活性を測定できる。そのような基質の代わりとして、開裂することにより、特定波長で励起させたときに強い蛍光を発する官能基を残す蛍光性(fluorogenic)基質であってもよい(8-EX)。開裂で残った官能基の
発光波長は、極大値8-EMの上と下、10〜20nmに広がる。このことは、異なる3種の酵素活性をアッセイするために、2または3種よりも多い異なる蛍光発色性基質を単一のサンプル
に使用することの妨げとなる。各基質の発光はその他の基質の発光と深刻に重複するからである。広帯域の発光は、色のクロストーク(cross-talk)を招き、誤ったシグナルをもたらす。そのため、10から100個の異なる蛍光性基質を単一の流動体サンプルに添加する
ことは、発光が極度に重なってくるために不可能である。これらの反応は、典型的には蛍光光度計のキュベットまたはプレートリーダー中で追跡され、0.2から3mlの体積で足りる。そのため、サンプルはかなり希釈される。
微量の生物学的サンプル(1.0から100nL)に含有される様々なタンパク質および/または酵素を評価することは、数多くの研究分野において、それらのタンパク質および/または酵素活性の分析にとって有用になるであろう。細胞生物学および癌の分野においては、細胞分裂の時機調整は、多数のサイクリン依存キナーゼ(cdk)、cAMP依存キナーゼ(PKA)、cGMP依存キナーゼ(PKG)、ならびにカルシウム依存タンパク質キナーゼ(PKC)、チロシンキナーゼおよびチロシンフォスファターゼにより調節される。血液学の分野において、血液の機能は、血栓形成および血栓溶解の機構に必要なプロテアーゼおよび阻害因子である様々な血液凝固因子、補体因子、線溶系因子により調節されている。アポトーシス(プログラムされた細胞死)の過程では、様々なカスパーゼが事象カスケードに必要不可欠である。同様に、敗血症、血栓症または感染症における好中球の活性化は、エラスターゼ、プロテアーゼまたは他の酵素の放出と連携している。腫瘍の浸潤および血管内膜の肥厚化は、金属メタロプロテアーゼ(MMPs)およびメタロプロテアーゼ組織性阻害因子(TIMPs)の活動を伴う。種々のウィルス性活動(例:プロテアーゼ)は、プロテアーゼ阻害
剤の薬剤スクリーニングの検出に適している。
【0005】
それゆえ、ペプチドまたはタンパク質のチップの領域における先行技術の発達にも拘わらず、診断、予後または臨床上の医薬におけるペプチドまたはタンパク質のマイクロアレイの必要性は大きく、そして充分に満たされていない。先行技術には、極めて多種多様の懸濁性もしくは溶解性の発色基質または蛍光性基質を支持体表面に配列して沈着させているだけであり、流動体サンプルをそこに簡単に適用するだけで評価することのできるチップは存在しない。本明細書記載の時点で、例えば、標準的な接触型もしくは非接触型マイクロアレイを使用して直接に作製されるペプチドまたはタンパク質のチップは知られていない。まして結合されていない基質分子上に液状の層のサンプルを適用することは、そのような液状サンプル層に避けがたいクロスコンタミネーションが発生することから、考えられないことであろう。結果として、標準的なマイクロアレイヤー(microarrayer)装置を用いて容易に作製できるチップを提供する、あるいはペプチドもしくはタンパク質の結合または反応停止(quenching)の層のような複雑な補正を必要としないシステムを提供
する、ならびにサンプルを簡便かつ容易に適用できる、単純で効果的および安価なペプチドまたはタンパク質のアレイまたはマイクロアレイシステムへの必要性が残されている。
【0006】
また、反応物の位置の間でのクロスコンタミネーションがないまま、アレイまたはマイクロアレイにある個々の反応物の位置へ迅速に少量の液状サンプルを送達することができるシステムへの必要性もまた消えずに残っている。
プロテオミクスおよびハイスループット・スクリーニング(HTS)は、何百〜何百万も
のサンプルの分析を要する作業である。薬剤スクリーニングにおいて、反応はウェルプレートで行われ、適合物の同定を知らせる光学的なシグナル(蛍光、燐光)を生み出す。無標識(label-free)の薬剤スクリーニングの探索は、処理量に優れたマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析(MS)法に依拠する。しかしながら、その反応構
成分が、時間がかかる高価な一連の工程を経てMS用に調製されなくてはならず、HTSにつ
いてMALDIの利用を制限していた。
【0007】
プロテオミクス研究における一般的なアプローチは、複雑なタンパク質サンプル(細胞または組織の溶解物)を、二次元ゲル電気泳動分離によって分離することである。色素染色で示される、タンパク質濃度の高い場所は、バンドまたは栓としてゲルから物理的に切
り出される。サンプルを含有するゲルは、サンプルを分散させるために粉砕され、タンパク質溶質を含有する液体を取り出すための分離技術が施される。サンプル中のタンパク質は、化学的な開裂またはタンパク質消化性の分解(典型的にはトリプシンによる)が施され、質量分析法に適したより小さなフラグメントが生成する。塩イオン類はイオン交換樹脂を用いて液状サンプルから除去される。このサンプルは、MALDIマトリックスと混合し
、容積式液体操作(positive displacement liquid handling)によりMALDIターゲット位置に送達するための準備が整っている。このサンプルは乾燥していてもよく、質量分析法による分析にかけられる準備が整っている。
米国特許5,808,300(Caprioli, "Method and Apparatus for Imaging Bioligical Samples with MALDI MS"「MALDI MSを用いた生物学的サンプル投影のための方法および装置」)は、マトリックス溶液をサンプルにエレクトロスプレーする(electrospraying)こと
により、MALDIマトリックス材料を組織サンプルに沈着させる方法を開示している。
【0008】
米国特許公開2002/0195558は、組織サンプルにMALDIマトリックス材料を沈着させるた
めに、音波を用いる射出(acoustic ejection)方法の利用が開示されている。
米国特許6,288,390(Siuzdak, "Desorption/Ionization of analytes from porous light-absorbing semiconductors"「多孔性光吸収半導体からの分析物の脱離イオン化」)は、マトリックスフリー(matrix-free)質量分析のために、従来のMALDIに代えて多孔性半導体を使用することを教示している。特許6,288,390は、マトリックス材料を必要とせず
にサンプルを分析するための代替技術である。
【0009】
米国特許6,569,383(Nelson, "Bioactive chip mass spectrometry"「生物活性チップ
質量分析法」)は、標的表面への分析物の捕捉(生物学的親和力または化学的結合を介した結合)に依拠している。
【0010】
Caprioli, R. M., Mass Spectrometry 38: 1081-1092 (2002)は、組織サンプルにマト
リックスをスプレーするための手順を開示している。およそ20mlのマトリックス溶液をガラス製の試薬噴霧器(Kontes Glass Company, Vineland NJ USA)に入れ、組織表面の全
体にマトリックスの多重層にスプレーすることによる。MALDI標的における薬剤発見反応
のための方法を用いることについては言及されておらず、開示された方法は超音波ノズルの使用についても記載していない。
【0011】
Caprioli, R. M., Electrophoresis, 23,3125-3135 (2002)には、組織へのエアロゾル
沈着コーティング方法が記載されている。商業的に入手可能な、コンタミネーションを最小限にするための窒素ボトル(噴霧ガラス)に繋がれているガラス製スプレーネビュライザー(nebulizer)を使用して、マトリックスは区画にエアスプレーされる。薬剤スクリ
ーニング反応にこの方法を利用することについての言及はない。
【0012】
MALDI MS分析技術を利用した、ハイスループットな調製のためのサンプル処理、ならびにサンプルのスクリーニングにおける改良が、引き続き必要とされている。MALDI標的に
おけるHTSの実施は、ラベルフリーHTSに対する産業的要求を、高い能力(1日あたり10K
から100Kのスクリーン)で満たすだろう。
[本発明の概要]
この要求を満たすため、本発明は、関心のある多岐の発色性もしくは蛍光性のペプチドまたはタンパク質の基質を個別に親水性担体に懸濁または溶解させ、各基質のアリコートが反応部位のアレイまたはマイクロアレイ、または「ドット」に沈着されているペプチドまたはタンパク質のマイクロアッセイの方法および装置である。したがって、各ドットは、関心のあるペプチドまたはタンパク質を収容する個別の反応容器(そこに分析目的のため、生物学的サンプルが適用される)を提供する。サンプルは、焦点となる多様なサンプル適用技術(サンプルのエアゾール化または霧状化、あるいはサンプルの標的適用(targ
et application)が挙げられる)のうちの一つをもって、クロスコンタミネーションを引き起こすかもしれないドット同士の連通流路を形成することなく、ドットのアレイまたはマイクロアレイにおける各ドットに適用される。本発明の最初の態様として、サンプルは霧状化またはエアゾール化される。ドット間の過剰なサンプルの小滴はどのようなものでも、最も近いドットへ移動するか、そこへ吸収されるか、あるいは蒸発しがちではあるが、そのようなエアゾール化されたサンプルをドットに適用することにより、他のドットへの流動性反応物の連通を生じさせることなく、各ドットを独立の反応チャンバーとしたまま、サンプルは個別のドットに吸収されることになる。既知の探索(scanning)およびデータベースの構築技術は、ドットのアレイに反応の指標が現れるか、現れないかを分析するために用いてもよい。
【0013】
本発明は、HTSの方法およびMALDI質量分析用サンプルを調製する方法を提供する。溶液中の溶質は、化学的結合、固定化、表面への吸着をすることなく、MALDIを介して分析さ
れる。溶質へのいかなる変化(薬剤スクリーニング反応、化学反応または酵素反応を介する)も液相中で起こり、その表面への化合物の結合を必要としない。
【0014】
本発明では、HTS反応をMALDIプレート上で直接行い、引き続きMALDI MS分析を50ナノリットルのサンプル中に1フェムトモルという検出限界で行うことを可能にする。本発明の
方法は、MALDIプレートに1平方センチメートルあたり1000滴まで積載させるために、接触ピンプリンターの動力を用いる。本発明の方法を使用することにより、MALDIマトリック
スを高品質に適用することができる。結果として、超微量の液状サンプルを(顕著な結晶が生成していたとしても)MALDI処理に用いることができ、超高感度の検出を可能とする
。
【0015】
本発明の方法は、ナノリットルからマイクロリットル体積の液体反応をそれぞれ質量分析(MS)ターゲットプレート上の部位において行える能力をもたらす。その標的は、平坦な、あるいはサンプルの位置を保持するためのウェル、被覆、溝、またはその他の手段を有する非多孔性金属表面である。反応を開始するために、様々な液体取り扱いプロトコルにしたがって、各サンプル位置に試薬が添加される。MALDI質量分析のために各反応の構
成成分および生成物は、乾燥およびMALDIマトリックスの沈着により調製される。脱塩、
抽出、溶媒交換、温浸(digestion)、MALDIマトリックスの添加および生成といった様々な操作のために、MSターゲットからサンプルを取り出す必要はない。これらの方法は、反応の最適化、ハイスループットの薬剤発見、ハイスループットの薬剤選別プロファイリングまたは毒性試験のために使用できる。
【0016】
より具体的には、本発明は下記の工程を含む、電気泳動ポリマーゲルからMALDIターゲ
ットプレートに関心のある分子を移行させる方法を提供する;
(i)関心のある1以上の分子を含有する電気泳動ゲルを準備する;
(ii)電気泳動ゲル内の水分を共溶媒混合物で置換する;
(iii)該ゲルの上にピンを位置させ、ゲルにピンを貫通させる;
(iv)関心のある1以上の分子を取り囲む範囲のゲルを水分枯渇させる(deplete)た
めにピンにエネルギーを付与し、共溶媒混合物(cosolvent mixture)が関心のある1以
上の分子を取り囲むようにさせる;
(v)ピンをゲルから抜き、このピンは関心のある1以上の分子を含有する共溶媒混合
物の液滴を担持している;および
(vi)MALDIターゲットプレートに該ピンを接触させ、関心のある1以上の分子を含有
する共溶媒混合物の液滴をMALDIターゲットプレート上に沈着させる。
【0017】
さらなる側面において、本発明は、反応物の液滴をターゲットプレートに沈着させる;沈着させた液滴に試薬が接触するようターゲットプレートに試薬を沈着する;化学反応を
進行させる、ことを含有する、MALDIターゲットプレート上で化学反応を行う方法を提供
する。
【0018】
その上のさらなる側面において、本発明は下記の工程を含む、MALDI質量分析用サンプ
ルの調製方法を提供する;
(i)サンプルの液滴を有するターゲットプレートを準備する;
(ii)該サンプル液滴から溶媒を除去するためにターゲットプレートを乾燥させる;
(iii)MALDIマトリックスを乾燥させたターゲットプレートに沈着させる;
(iv)ターゲットプレートを加湿する;および
(v)サンプル液滴の分析のために、ターゲットプレートをMALDI質量分析にかける。
【0019】
さらなる態様として、本発明は下記の工程を含む、MALDIマトリックスの1以上の層をターゲットプレートに沈着させる方法を提供する;
(i)サンプルをその上に有するターゲットプレートを準備する;
(ii)マトリックスをエアゾール化する;および
(iii)ターゲットプレートを動かしながら、エアゾール化したマトリックスを該ター
ゲットプレート上にスプレーする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、関心のある多岐の発色性もしくは蛍光性のペプチドまたはタンパク質の基質を個別に親水性担体に懸濁または溶解させ、各基質のアリコートが反応部位のアレイまたはマイクロアレイ、または「ドット」に沈着されているペプチドまたはタンパク質のマイクロアッセイの方法および装置である。したがって、各ドットは、関心のあるペプチドまたはタンパク質を収容する個別の反応容器(そこに分析目的のため、生物学的サンプルが適用される)を提供する。サンプルは、焦点となる多様なサンプル適用技術(サンプルのエアゾール化または霧状化、あるいはサンプルの標的適用(target application)が挙げられる)のうちの一つをもって、クロスコンタミネーションを引き起こすかもしれないドット同士の連通流路を形成することなく、ドットのアレイまたはマイクロアレイにおける各ドットに適用される。本発明の最初の態様として、サンプルは霧状化またはエアゾール化される。ドット間の過剰なサンプルの小液滴はどのようなものでも、最も近いドットへ移動するか、そこへ吸収されるか、あるいは蒸発しがちではあるが、そのようなエアゾール化されたサンプルをドットに適用することにより、他のドットへの流動性反応物の連通を生じさせることなく、各ドットを独立の反応チャンバーとしたまま、サンプルは個別のドットに吸収されることになる。既知の走査およびデータベースの構築技術は、ドットのアレイに反応の指標が現れるか、現れないかを分析するために用いてもよい。
【0021】
一般的に本発明はバイオテクノロジーおよび生物医学の研究の分野に応用できる。より具体的には、この発明は酵素活性(酵素の補助因子、阻害剤および活性化因子についても同様である)の研究に用いることができる。一つの応用として本アッセイは、通常、十から何千にものぼる酵素の活性、あるいは血液化学、マトリックスメタロプロテアーゼ、血管形成、チロシン・リンタンパク質・ホスファターゼ、またはアポトーシス調節における薬剤相互作用に対する、膨大なコンビナトリアル・ライブラリーの化合物による作用をスクリーニングすることによる、薬剤研究、すなわち薬剤探索発見において用いられる。
【0022】
本アッセイは、ゲノムまたはプロテオミクスの研究、特に酵素系のエピジェネティック(epigenetic)な調節において応用できる。さらなる応用として、このアッセイは、遺伝
子制御においてキナーゼおよびホスファターゼといった、シグナル伝達経路の研究に用いることができる。本アッセイはまた、酵素基質の特異性における点突然変異に関わるコンビナトリアルな学問の構造および機能的研究に対して用いることもできる。このアッセイは、血液研究、すなわち、血液凝固診断法および血栓溶解研究に応用できる。あるいは、
本アッセイは、ウィルス調査、ならびにウィルス性のプロテアーゼおよびプロセッシング活性の診断法に応用できる。したがって、このアッセイは、その明快さおよび用途の広さにより、生物学的研究の様々な分野において利用できる。上述のように、このアッセイは、既存の走査技術と併せてゲノム研究のために用いることに適している。
【0023】
上述のまたは以後の記載において、次の用語は以下のように理解される。「反応部位」(reaction loci)とは、固体表面上の流体が、通常、付着性であって拡散しない容量で
ある。反応スポットは、「スポット」、「ドット」、「反応ゾーン」、「反応中心」、「マイクロドット」または「マイクロアッセイ」とよぶこともある。「チップ」とは、拡散することのない反応ドットを含む平面的な表面である。チップは、「ガラススライド」、「スライド」、「表面」、「固体基体」、「バイオ反応マイクロアレイ」、「バイオ反応チップ」および「バイオ反応スライド」とよぶこともある。「スプレー」とは、反応スポットを有する固体表面に液状サンプルのエアゾールを送達することを指す。スプレーは、「ミスト」、「エアゾール」、「霧化ミスト(atomized mist)」、「小滴(droplet/s)」または「霧状ミスト(nebulized mist)」とよぶこともある。
【0024】
本アッセイは一般的に、液相でのマイクロ反応(microreaction)を含む。これはペプ
チド基質もしくはタンパク質基質の流体混合物、親水性担体溶媒、および揮発性溶媒を少量ずつ非多孔性表面に適用することにより創出される、当該液相で揮発性溶媒の蒸発により、高度に局在化した長期持続性の液体または半固体のドット、あるいは親水性担体溶媒にある基質のマイクロドット残渣が生じる。もしあるのであれば、親水性担体中にある基質は、サンプルが適用された後に反応の分析を可能にするため、発色性または蛍光性のものとされる。流体混合物を送達するための非多孔性表面として、シリコン、ガラス、シリカ、石英、ポリスチレンまたはその他の非多孔質のポリマー膜が挙げられる。全体としては、アッセイの構成要素は、通常、コンピュータ制御のアプリケーションシステムによって一緒にして適用され、マイクロ反応はコンピュータ依拠の走査およびデータベース構築システムを介してモニターされる。
【0025】
特に含まれるアレイがマイクロアレイである場合、揮発性溶媒の存在は、形成される流体混合物の全体の粘度を低減させるため、マイクロドットの流体形成を助長する。揮発性溶媒は通常蒸発能を有し、好ましい揮発性溶媒として、限定されるものではないが、ジメチルスルホキシド(DMSO)、クロロホルム、アセトン、酢酸、水、メタノール、エタノールまたはプロパノールなどのアルコール、エチルエーテルまたはアルカンが挙げられる。非多孔性表面に該流体混合物を適用した後、親水性担体溶媒および懸濁もしくは溶解した発色性または蛍光性の基質を含有するマイクロドットを残して、揮発性溶媒は蒸発する。これらの成分は、基質の結晶化または沈積を伴うことなく液体または半固体中の状態で残存する。
【0026】
サンプルを適用する際に、親水性担体は、後で適用する生物学的サンプルとともにバイオ反応ポテンシャルを最大化するため、基質を懸濁または溶解する。親水性担体は通常、以下の特性を有する:揮発性溶媒との混和性;水との混和性;水性の生物学的流体との混和性;高濃度でも発色性または蛍光性の基質の安定的な溶液もしくはサスペンジョンを維持する適合性;1センチポイズから10,000センチポイズの範囲の適度な粘性;核酸、ペプ
チド、タンパク質および糖などの生体分子との相溶性;アレイ化(arraying)に用いられるマイクロアレイピンまたはマイクロシリンジの中空チップといったマイクロキャピラリー(microcapillary)デバイスへの出入りに適した流動性;アレイ後のスポット内のバイオ反応流体が広がらない、安定した限定レンズを形成するのに充分な比接触角(接触角>0が必要とされる);スポットの付着性が限られているために基体上を転がってしまうほどに粘着性が低すぎることはないが、安定的で付着性を有するレンズを形成するのに充分な程度に低い比接触角(接触角<90が必要とされる);ならびに、反応ゾーンが蒸散し
てしまわないような低い揮発性。グリセロール(1,2,3-プロパントリオール)は、これらの特性すべてを有する流体の例である。その他の親水性担体溶媒の例としては、1,2-エタンジオールまたは2,3-ブタンジオールのようなポリアルコールが挙げられる。加えて、担体溶媒は、デキストラン、プルロン酸(pluronic acid)、ペントース、リボースもしく
はヘキソースのファミリーの炭水化物または関連する多糖類、あるいはポリエチレングリコールポリマーといった増粘剤を含有してもよい。
【0027】
マイクロドットは通常、マイクロアレイの配置において、非多孔性表面に適用される。揮発性溶媒が蒸発した後の最終的なマイクロドットの体積は、直径10μmで約1nLのマイ
クロドットから、100μmで1〜10nLのドットまでにわたる。マイクロドットは、直接容積型ポンピング(direct positive displacement pumping)の流体取り扱い方法によって適用される。あるいはマイクロドットは「アレイング」によって適用される。そこでは、コンピュータ制御された金属、ガラスまたはプラスチック製のチップが、毛細管作用により流体の小滴を貯蔵槽から取り上げて固体表面に接触させるか、あるいはレーザープリント技術またはジェットプリント技術による。アレイングは、充分に確立されたピン技術(すなわち、Telechem Pins, GeneMachine arrayer)を使用することにより遂行される。マイクロドットの間隔距離は、50から1000μmにわたる。処方された配合物1〜10nLを送達す
ることは、マイクロドットの形成のためには充分である。
【0028】
マイクロドットの高密度アレイ(各マイクロドットは、特定の発色性もしくは蛍光性のレポーター基質を含有し、その他の反応調節物(reaction modifiers)になりそうなものを含有してもよい)を形成したのち、生物学的流動体の少量サンプルが、それらのマイクロドットに適用される。各マイクロドットには、生物学的流動体を適用することにより、一般にはバイオチップに細かなミストを沈着させることを通じてサンプルが接種される。そのミストは、濡れた膜を形成せず、また二つの隣接するグリセロール液滴を連接させないようにして適用される。換言すれば、それらのドットにエアゾール化されたサンプルを適用する結果、サンプルが個々のドットに吸収されることとなる。これに対しドット間の過剰なサンプル液滴はどのようなものであれ、最も近いドットに向かって移動してそこに吸収されるか、あるいは蒸発するか、いずれかの傾向にある。その際、他のいかなるドットにも流体反応物質により接続されることなく、各ドットは独立の反応チャンバーのままである。対応する関連酵素を含有する生物的流動体の送達は、各グリセロール小滴で発色性もしくは蛍光性の基質の反応およびそれと同時に活性化を引き起こす。換言すれば、生物的流動体の酵素または化学成分は、マイクロドットにおいて蛍光性基質の活性化または活性化の拮抗(antagonism)を引き起こし、エピ蛍光(epifluorescence)もしくは共焦
点走査(confocal scanning)、直接イメージング(direct imaging)または吸光によっ
て読みとり可能な蛍光または発色のシグナルを発生する。個別チップは、多数のプロテアーゼ、キナーゼ、フォスファターゼ、オキシドレダクターゼ、リパーゼおよびこれらの酵素の阻害剤または活性化因子の活性を、関心のある反応ごとの個々のドットまたはマイクロドット部位において知らせるように構築することができる。
本発明のペプチドまたはタンパク質チップは、大方の(全部でないにしても)先行技術の取り合わせよりもかなり簡単であろうということを心中に留めておくべきである。そうした先行技術の取り合わせは、ガラススライドもしくはチップへのペプチドもしくはタンパク質の直接的な物理的吸着もしくは結合の手段を含有するか、あるいは、反応停止用オーバーレイヤー(quenching overlayers)、ゲルパッド、または本発明の反応部位よりもさらに複雑な他の特徴を含む(ただしこれらに限定されない)多数の構成要素を含むものである。本発明の実施と相容れない要素とは、関心のあるペプチドまたはタンパク質を含有する別々の反応容器、ならびにサンプルの吸収、反応および反応の検出を促進するために意図された他のすべての構成要素を親水性担体が提供することを妨害しうるあらゆるものである。
【0029】
本発明をさらに、図1〜5に沿って説明する。
図1を参照すると、バイオチップ10の上に複数の反応部位12が配列されている。それらの上に、エアゾール化された、またはミスト化された、あるいはインクジェットでプリントされたサンプル小滴14が適用される。垂直の矢印は、サンプル小滴14の垂直方向の沈着を表す。
【0030】
図2A、2Bおよび2Cはそれぞれ、本発明によるアレイング、エアゾールサンプルの沈着、および基質の転換についての側面からの立面図である。図2Aにおいて、マイクロアレイアーチップ16が反応部位12をバイオチップ10の上に沈着させている様子が示されている。図2Bにおいて、エアゾール化またはミスト化されたサンプル小滴14が、反応部位12の上に沈着するプロセスが示されている。図2Cでは、サンプル小滴14が反応部位12に吸収されるか、または蒸発してバイオチップ10から完全に消える様子が示されている。図2Cにおいて、基質転換の結果、個々の反応部位12は発色または蛍光を発することが可能である。
【0031】
図3Aはバイオチップ10の全部の反応部位12上に、正方形または長方形のパターン18でブランケットサンプル(blanket sample)を適用する様子を示す模式図である。これに対して、図3Bの反応物は、バイオチップ10の反応部位12の領域内に静置されているだけである。図3Bにおいて示される結果は、様々な機構により生じる。その機構としては、反応部位12同士の間から蒸発するエアゾールまたはミストとしてブランケットサンプルの適用が行われる機構、または、レーザープリンターもしくはインクジェットプリンターなどによってサンプルが反応部位12に向けて適用するためにターゲットされる機構、あるいは、反応部位12以外のいかなる領域にもサンプルが適用されることを遮断するマスクまたはテンプレートを通じてサンプルを適用する機構が挙げられる(ただしこれらに限定されない)。
【0032】
図4は、液体22で満たされた超音波発生器(振動子)21を含有し、サンプル26を内部に有する容器25を受けとめることに適合した、ネビュライザー20の断面を図示している。そのネビュライザーでは、振動子21によってサンプル26にエネルギーが与えられ、サンプル26から作られたエアゾールミストをノズル32から出し、バイオチップ10上に沈着させることができる。必要に応じて、キャリアガス24を引入口23から容器に入れてもよい。そのキャリアガス24は、エアゾール化したサンプル26をバイオチップ10上への沈着のために移すことを助ける。図4の目的のために、バイオチップ10が他の図に示されたバイオチップの配置と比較したときに逆さまになっていることは留意されるべきである。ネビュライザー20は、容器25を所定位置に保持するための配置ガイド28もまた任意で有する。図示したように容器25のためのキャップ30(ノズル32はそれを通して延びる)も同様である。
【0033】
図5は、バイオチップ10、反応部位12およびサンプル小滴14が近接して位置するように、本発明のアッセイシステムの様々な構成要素が並置する様子を説明する模式図である。それらの構成要素としては、限定されるものではないが、サンプル適用のためのプリントヘッド、xyzポジショナー、電源、制御装置(コントローラー)、励起光の供給および放
出シグナルの検知のための手段が、各種の構成要素の中でも特に挙げられる。より具体的には、アッセイシステム(装置)の主要な構成要素には、シリアルまたはパラレルポートを介して、開始、停止、作動のセットポイント確立およびアッセイ装置の副構成要素を制御するためのシグナルを送信するコンピュータ・ソフトウェアに組み込まれた一連の作動指示が含まれる。それによって各副構成要素は、内部または外部の常設した制御装置またはドライバーを有していてもよい。そうした装置の副構成要素としては、以下のものが挙げられる:複式容積型(multiple positive displacement)マイクロシリンジポンプ;圧力ノズル、超音波ノズル、インクジェットプリントヘッド、位置起動型(position-actuated)インクジェットプリントヘッド、表面起動型(surface-actuated)インクジェット
プリントヘッド、流体接触型もしくは流体非接触型の超音波発生器といったエアゾール発生装置;ガス流量計/制御器;xyポジショナーシステム;および排気/ろ過ファン。
【0034】
エアゾール化されたサンプルの適用は、コンピュータ制御されたマイクロシリンジの使用により容易に行うことができる。コンピュータ制御されたマイクロシリンジは、一定の低速で行われる時限式のサンプル送達のために用いられる。各容積型シリンジは、1.0μ
L〜1000μLの生物学的サンプルを収容することが可能である。その場合サンプルは、有機分子、蛍光性分子、ペプチド、タンパク質、脂質、ポリマーの希釈溶液、被覆マイクロビーズを含む液体、サンプル緩衝液、洗浄緩衝液、生物細胞および細胞画分であってよい。各容積型ポンプは、そのサンプルをエアゾール発生の場に送る。容積型ポンプは、冷蔵、室温または加熱の環境下に維持してよい。容積型ポンプは、コンピュータからのシグナルを受信する装置により制御される。
本システムへの適用に向け、サンプルをエアゾール化する方法には様々なものがある。あるシステムは圧力ノズルに依拠し、それによりエアゾール化されるべき流体サンプルは小さな開口部のノズルから高圧でポンプ送液され、エアゾールスプレーが発生する。あるノズルでは、その流体は加圧された不活性キャリアガス(窒素、ヘリウム、空気または酸素など)によって運ばれる。ベルヌーイ効果によって流体サンプルをノズル内部に引き入れてノズル開口部を通すために、高速気流を使用することもできる。次いでキャリアガスは、エアゾールを個々の反応ドットに沈着させるためにバイオチップへ送達する。ノズルはエアゾールの形成を容易にするための内部部品を有していてもよい。一例として、少量の生物学的サンプル(0.1〜1ml)が、加圧された気流(5〜30ポンド/平方インチ(psig)
の窒素)によりノズルに引き込まれ、噴霧を促進するための210マイクロメートルの内部
ニードルを備えた250マイクロメートルの開口を通される。
【0035】
あるいはスプレーのエアゾール化は、容積流量(volumetric flow rate)および一様な低速(10cm/秒未満)のミストを与える超音波ノズルの使用に基づいても良い。ノズル内の超音波定常波は、ノズル先端において流体の霧化を引き起こす。0.01〜1000μL/秒と
いう低い流速は、25kHz〜240kHzで作動する圧電型超音波発生器を有するノズル体の中へ
サンプルをマイクロポンプによって送達させることにより達成され、一滴の平均サイズが直径5〜15μメートルのミストを形成することになる。圧電性超音波発生器は、低いワッ
ト数(0.1〜25ワット)を利用することができるので、サンプルの好ましくない加熱が避
けられる。例えば、粘度0.01ポイズの生物学的サンプルは、120kHz(0.1〜1ワット)で作動する超音波ノズルの中へ、0.1〜1μL/秒の流速でマイクロシリンジポンプにより送液
される。キャリアガスのノズル外への流れは、ミストをバイオ反応チップの表面に導く助けとなる。
【0036】
エアゾール化されたサンプルを作成するもう一つの手段は、底部に圧電式超音波発生器を有するウェル内に流体が配置された超音波ネビュライザーに接触させることに依拠する。その発生器は、1.0〜3.0MHzで作動する。サンプル・チャンバーにある液体表面上部に
おける高周波振動が、流体小滴が霧化または霧状化した雲の形成を助長する。霧状化作用は、そのチャンバー上方に吊り下げられているバイオ反応チップ表面に向けて、該チャンバーから霧状化したエアゾールを浮上させる。さらに、霧状化室内へキャリアガスを上に向けて導入し、その雲を移動させることができる。あるいは、キャリアガスを霧状化室の上部を通過させ、ベルヌーイ効果により霧状化エアゾールをキャリアガスの流れに引き込むことが可能である。キャリアガスはエアゾールを受けるためサンプルに向けられる。霧化した流体粒子の直径(d)は、次の近似式:d〜(T/pf3)1/3により、表面張力(T)、密度(p)、周波数(f)と関係している。例えば、水の霧状化(T=0.0729N/m, f=2.4MHz)は、1.7マ
イクロメートルの霧の小滴を発生させる。
【0037】
エアゾール発生のさらなる手段は、非接触型超音波ネビュライザーに依拠する。そこでは、送達させる流体が超音波伝導に適した薄壁のプラスチック製底部を有するチューブに、入れ置かれる。そのチューブは、超音波発生器と接触している伝導流体(conducting f
luid)中に置かれ、そのゆえエアゾール化される流体サンプルは、それ自体が超音波発生器と接触することは決してない。その発生器は一般に、1.0〜3.0MHzで作動する。サンプ
ルチューブ内にある液体表面上部における高周波振動が、サンプルチューブ内において流体小滴が霧化または霧状化した雲の形成を助長する。霧状化作用は、霧状化したエアゾールを反応室内で上昇させ、また、キャリアガスはミストを(必要なら大きめの小滴を除去するために、目の粗い収集フィルターを通してもよい)移動させてバイオ反応チップに向かわせるために、サンプルチューブ内に導入される。この非接触型超音波ネビュライザーを用いて調製された霧状化された流体サンプルの液滴サイズは、一般に1〜25マイクロメ
ートルにわたる。
【0038】
最後に、非加熱インクジェット技術を活用してプリンティング・ヘッドの中に生物学的流体を送達させるインクジェット・ピエゾプリンティングを、サンプル流体をバイオ反応スポットに向けて推進させるために使用してもよい。ピエゾプリンティングの最初のアプローチにおいて、プリントヘッドは、反応スポット上かガラス上かというその位置を区別することなく、ラスターパターン(raster pattern)のプリントで連続的に生物学的流動体をスライド全体にわたり「プリント」する。操作のこの非特異的様式において、インクジェットはスプレーヘッドとして機能する。極めて狭いスプレーの領域を生み出すものであり、また、バイオ反応スライド全体を動かすためには、スライド上で時間とともにxyポジショニングを必要とするものではあるが。このアプローチにおいて、調製流体(グリセロール)の新しい反応ゾーンの隔離、ならびにプリントされた生物学的流動体が濡れた膜または連続的な層を形成することなくプリントする能力は、例え表面全体がプリントされたときにもスポットからスポットへと交差連絡することなしに反応をコンパートメントに分けることを可能とする。
【0039】
ピエゾプリントの二番目のアプローチにおいて、プリントヘッドは生物学的流動体を不連続的な時間で送達する。流体小滴の反応スポットへの送達は、(1) 反応スポットの既知の位置に対する、その位置についての既知の情報により、または(2) インクジェットプリントを介した反応スポットへの流体の送達を引き起こす、グリセロールスポットの特性を感知することにより引き起こされる。例えば、二股に分岐した光ファイバーは、反応スポットで蛍光染色(その発光は光ファイバーケーブルを介して発光フィルターおよび光電子増倍管へと伝達される)を励起することが可能である。光電子増倍管からの出力は増幅され、デジタル化され、プリントイベントの引き金となる。あるいは、バイオ反応ゾーンの活性化を引き起こすためには、反応スポットのいかなる光学的特性を感知してもよい。
上記のいかなるサンプル適用技術またはそれらと同等技術とともに、マスキングデバイスを、サンプルを直接マイクロドットに適用することを促進するために用いてもよい。テンプレートまたはパターンといったマスキングデバイスを、ドットアレイまたはマイクロアレイの上方に一時的に配置してもよく、あるいはサンプル適用の装置にマスキング材料を組み入れてもよい。本発明においては、マスキングは任意のものであると理解されるべきである。
【0040】
アッセイは好ましくはコンピュータ制御された気体流速計測システムに組み込まれる。不活性ガスは、システムの圧力を制御する調節器を用いて、50 psig未満の高圧で供給さ
れる。典型的な設定圧力は5〜15 psigの範囲である。活性化される標的スライドに向けてエアゾールの流れを押し出すために、ガスの流れはベルヌーイ効果を利用する。キャリアガスは、次のどれであってもよい:空気、酸素、窒素、ヘリウムまたはアルゴン。ガスの流速は、様々なノズルからエアゾールを誘導する助けとするためには、0.1〜5 L/分の範
囲にあればよい。あるいは、ベルヌーイ効果によって液状サンプルを圧力ノズル内に運び入れるために、ガス・フローを用いることができる。しかし、これらのキャリアガスの使用は本発明の方法および装置に対して任意であることを理解すべきである。
【0041】
サンプル適用およびアッセイ・モニタリングのため、アッセイシステムはx軸およびy軸の動きが独立している、コンピュータ制御のxyポジショナーを含有することが好ましい。xyポジショナーは、マイクロドット適用およびアッセイ活性化の準備が整ったアッセイチップ用に利用しやすい収容部を包含する移動可能なステージを移す。そうした移動可能なステージは、アレイヤー(arrayer)からスプレイヤー(sprayer)までの移動、さらには操作者と個々のスライドとの間で、接触する方向を避けながらインキュベーターまでの移動を可能にする。
【0042】
xyポジショナーは、0.1m×0.1m〜10 m×10mまでの移動範囲を有する。xyポジショナー
・ステージのより短い距離の移動は、リニア・ステッパー・モーター(linear stepper motor)またはサーボモーターにより達成可能である。より長い距離は、主作動コンピュータからの駆動シグナルを受信する個々の装置により制御される、モーター化されたベルト駆動一式およびモーターにより達成可能である。0.1〜20 in/秒の速度は、エアゾールの
下、スライドを急速に移動させることにより達成可能である。
【0043】
具体的には本アッセイ方法は、蛍光発生基質を10μM〜1Mの濃度で多くのDMSOに溶解す
ることを伴ってもよい。その場合、0.1〜1体積のグリセロールを基質/DMSO溶液と混合す
る。この溶液は、小さい直径の金属もしくはプラスチックのプローブの極微操作によってガラス基体に送達される。マイクロドットは室温にて揮発性のDMSO成分を放出することができる。マイクロドット間の領域の少なくとも一部をカバーするために、ガラス基体上にマスクが配置される。生物学的流動体のマイクロスプレーはマスクを通じて表面上のマイクロドットに送達される。そのマイクロドットアレイは0〜180分間、4〜37℃で、0〜100
%の湿度でインキュベートされる。基質の転換は、マイクロドットにおいて励起(350〜400nm)および420nmより長波長での発光により、利用可能なあらゆる検出手段を用いて、
検出される。
【0044】
本発明の実施にあたって、サンプルアッセイのプロセスにおいてそれほど遅くになってからも形成されるのであれば、基質は発色性または蛍光性のものとして出発する必要がないことも銘記されるべきである。この目的のために、レポーター基質を含有する2番目のスプレーについて、後述する実施例1において記載する。
【0045】
行われた実施例、あるいは示された場合の他でも、明細書および請求の範囲で用いられた成分の量、反応条件などのすべての数字は、いずれの場合でも用語「約」によって改変されることが理解されるべきである。したがって、そうでないと示されない限り、以下の明細書および添付された請求項に記載された数字パラメーターは概数であり、本発明によって得ることを追求される所望の特性に応じて変動しうるであろう。請求項の範囲に対して均等論原理の適用を制限することは極めて少なく、意図するものではないが、少なくとも各数字のパラメーターは、既に報告された数多くの意味のある数字に鑑みて、または通常の丸める技術を適用することにより、解釈されるべきである。
【0046】
本発明の広範な範囲に示されている数値範囲およびパラメーターは概数であるものの、具体的な実施例に記載された数量は可能な限り正確に報告されている。しかし、どのような数量も、それぞれの測定方法に見られる標準偏差に由来するある程度の誤差を必然的に含有している。
【0047】
また、本明細書に再引用しているどのような数値範囲も、そこに包含されるすべてのサブレンジ(sub-range)もまた含むことを意図していることを理解すべきである。例えば
、“1〜10”なる範囲は、その間の全サブレンジならびに再引用している最小値1および再引用している最大値10を含む。つまり、1に等しいか、それよりも大きい最小値、ならび
に10に等しいか、それより小さい最大値を有するのである。
【0048】
別の態様において、本発明は下記の工程を含み、電気泳動ポリマーゲルからMALDIター
ゲットプレートに関心のある分子を移行させる方法を提供する;
(i)関心のある1以上の分子を含有する電気泳動ゲルを準備する;
(ii)電気泳動ゲル中の水分を共溶媒混合物で置換する;
(iii)ゲルの上にピンを位置させ、該ゲルにピンを貫通させる;
(iv)関心のある1以上の分子を取り囲む範囲におけるゲルを枯渇(deplete)するた
めに前記ピンにエネルギーを付与し、共溶媒混合物が関心のある1以上の分子を取り囲むようにする;
(v)前記ピンをゲルから抜き、このピンは関心のある1以上の分子を含有する共溶媒
混合物の液滴を担持している;および
(vi)MALDIターゲットプレートに前記ピンを接触させ、関心のある1以上の分子を含
有する共溶媒混合物の液滴をMALDIターゲットプレートに沈着させる。
【0049】
この態様を図解した模式図を図24に示す。
最初のサンプル中にある問題分子を充分に分離するかぎり、いかなるゲル電気泳動の分離方法を使用することもできる。
【0050】
関心のある分子を分離した後、そのゲルを水とポリオールとの共溶媒混合物の中でインキュベートする。ポリオールはグリセロールが好ましいが、粘度、表面張力および蒸気圧がグリセロールと類似している他のポリオールを用いることもできる。これらの物性は、ピンがゲルに接触する際に流体の液滴を取り去ることができるようにピンに付着する能力を共溶媒混合物に与えるとともに、その液滴をターゲットプレートに付着させることで液滴をターゲットプレートに移動させることを可能にする。これらの物性はさらに、一以上の関心のある分子を含有する共溶媒混合物の液滴が、実質的に蒸発することなく、MALDI
ターゲットプレート上での位置を保持することを確実なものとする。
【0051】
前記共溶媒混合物は、好ましくはポリオール10〜90体積%、通常はポリオール15〜35体積%である。電気泳動ゲル中の水は、そのゲルを共溶媒混合物中で15〜120分間、インキ
ュベートすることにより、共溶媒混合物に置換される。
【0052】
ピンは、通常のマイクロプリンティングまたはピンプリンティング装置に用いられているような、先端が中空もしくは中実のピンであり、当業者には知られているだろう。ピンの先端(ゲルと接触する点)の直径は、好ましくは50〜500マイクロメートルである。典
型的には、ピンは、色素染色により示されるタンパク質(または他の分子)が高濃度である範囲のゲル上部に配置される。
【0053】
ピンには、超音波または他の手段によりエネルギーが加えられる。超音波が用いられるならば、超音波の振動エネルギーは0.1〜5ワット/平方センチメートルであり、周波数は10キロヘルツ〜1メガヘルツである。ピンは10〜120秒間エネルギーが加えられる。
【0054】
ピンにエネルギーを加える結果、ピンの周辺領域のポリマーゲルでは水分枯渇(depletion)または破壊が起きる。共溶媒混合物およびゲルからの他の流体が破壊された領域に
流入し、ピンの周辺領域にある一以上の関心のある分子を取り囲む。共溶媒混合物の粘度、表面張力および蒸気圧によって当該ピンがゲルを離れる際に、ピンは一以上の関心のある分子を含有する共溶媒混合物の液滴を運搬するであろう。この液滴は、ピンがMALDIタ
ーゲットプレートに接触することにより、該プレート上に沈着される。一以上の関心のある分子を含有する共溶媒混合物の液滴は、MALDIターゲットプレートに付着し、そこに沈
着するであろう。その後、該ピンは沈水浴槽(submersion bath)中で洗浄される。ター
ゲットプレート上に複数の液滴を沈着させるために、このステップは一回以上繰り返され
る。ここで、用語「液滴(drops)」および「スポット(spots)」は、MALDIターゲット
プレート上に沈着されたサンプルを呼ぶために、相互に交換可能で用いることができる。
【0055】
本発明の方法によってMALDIターゲットプレート上に沈着する共溶媒混合物の液滴(問
題分子を含有する)は、1〜2000ナノリットルの量、より好ましくは1〜100ナノリットル
の量になる。液滴の直径は50〜500マイクロメーターになり、プレート上の液滴の密度は1平方センチメートルあたり100〜1000液滴である。
【0056】
液滴が上記ターゲットプレート上に沈着した後、関心のある分子と反応させるために選ばれた試薬が、沈着した一以上の関心のある分子を含有する液滴と接触するように、関心のある分子上に沈着させられ、その結果反応が進行する。試薬は、当業界で知られている通常の方法により沈着される。その方法としてエアゾール沈着、マイクロプリンティング(microprinting)、ピンプリンティング(pin printing)、容積型ピペット(positive displacement pipetting)、ピエゾプリンティング(piezo printing)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
一以上の関心のある分子としては、タンパク質、ペプチド、DNA、RNA、ヌクレオチド、酵素、アミノ酸、基質、触媒、塩、緩衝液、補助因子、反応改変化合物(reaction-altered chemical compounds)、化合物コンビナトリアルライブラリーの一員たる化学物質、薬剤スクリーニング反応の一成分およびこれらの組み合わせが挙げられるが、限定されるものではない。
【0058】
反応が進行して完結した後、沈着した液滴の付いたターゲットプレートは、沈着した液滴を乾燥させ、MALDIマトリックスを用いてそのターゲットプレートを被覆することによ
り、MALDI質量分析の準備がなされる。
【0059】
さらなる態様において、本発明は、反応物質の液滴をターゲットプレートに沈着させる;沈着した液滴に試薬が接触するようターゲットプレートに試薬を沈着させる;化学反応を進行させる、ことを含む、MALDIターゲットプレート上で化学反応を行う方法を提供す
る。液滴および試薬は、当業界で知られている適切な手段(エアゾール沈着、マイクロプリンティング、ピンプリンティング、ピエゾプリンティングおよび容積型ピペットが挙げられるが、これらに限定されるものではない。)によりターゲットプレート上に沈着される。好ましくは、沈着された液滴の各々の体積は、1〜2000ナノリットルであり、また好
ましくは、ターゲットプレート上の液滴の密度は、1平方センチメートルあたり100〜1000液滴である。適切な試薬および反応物質としては、タンパク質、ペプチド、DNA、RNA、ヌクレオチド、酵素、アミノ酸、基質、触媒、塩、緩衝液、補助因子、反応改変化合物(reaction-altered chemical compounds)、化合物コンビナトリアルライブラリーの一員たる化学物質、薬剤スクリーニング反応の一成分およびこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0060】
次のさらなる態様において、本発明は下記の工程を含む、MALDI質量分析用サンプルの
調製方法を提供する;
(i)サンプルの液滴を有するターゲットプレートを準備する;
(ii)サンプル液滴から溶媒を除去するためにターゲットプレートを乾燥させる;
(iii)MALDIマトリックスを乾燥させたターゲットプレートに沈着させる;
(iv)ターゲットプレートを加湿する;および
(v)サンプル液滴の分析のために、該ターゲットプレートをMALDI質量分析にかける
。本発明のこれらの態様を図25の模式図により図説する。
【0061】
液状サンプルのサンプル液滴は、一以上の反応物質と一以上の試薬との反応生成物を含
有する。好適な反応物質および試薬としては、タンパク質、ペプチド、DNA、RNA、ヌクレオチド、酵素、アミノ酸、基質、触媒、塩、緩衝液、補助因子、反応改変化合物(reaction-altered chemical compounds)、化合物コンビナトリアルライブラリーの一員たる化学物質、薬剤スクリーニング反応の成分およびこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0062】
好ましくは、液状サンプルの液滴の体積は1〜2000ナノリットルであり、ターゲットプ
レート上の液状サンプルの液滴の密度は、1平方センチメートルあたり100〜1000液滴である。
【0063】
前記乾燥工程は、例えば減圧乾燥または空気乾燥などの適切な方法によりなされる。
好ましくは、マトリックスは当業界で知られているように、エアゾール沈着法により沈着される。また好ましくはマトリックスは、厚さ50マイクロメートル未満の層で沈着され、ターゲットプレートの5平方センチメートルごとに10マイクロリットル未満のマトリッ
クスが沈着される。所望の厚さを達成するために一または複数の層を沈着することができる。
【0064】
上記マトリックスの材料は、揮発性溶媒および過飽和濃度のマトリックス化合物を含有する。マトリックス材料は当業界でよく知られており、「飛行時間型マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI-TOF)用マトリックス材料:選択のガイドライン」(APPLIED
BIOSYSTEMS-Voyger-DE-Biospectrometry Workstations)に記載されているような、表 2および3に記載した組成物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
加湿工程は、標準的な科学用加湿チャンバー内で、40%〜80%の相対湿度、22℃〜37℃の温度で、10〜120分間行われる。MALDIマトリックス被覆上に実質的に水滴が沈着することなく加湿が行われることを確実なものとするよう、注意しなくてはならない。加湿はサンプル液滴を半固体状になるようにし、マトリックスの成分はサンプル滴中の反応生成物と混合することができる。
本発明の方法により形成されたマトリックスは、サンプル液滴あたり1〜50フェムトモ
ル範囲のサンプル液滴中の反応生成物を検出できるようにする。マトリックスの沈着後、液滴のサイズは超微小であるため、サンプル液滴中の塩イオンは反応生成物から周囲のマトリックスへと拡散し、続くMALDI MS分析のための顕著な結晶を供給する。本発明の方法は、例えば、反応物質が生物学的な分子、試薬が薬剤物質である場合の、分子に対する薬剤の活性を検出するために用いることができる。
さらなる態様において、本発明は下記の工程を含む、MALDIマトリックスの1以上の層をターゲットプレートに沈着させる方法を提供する;
(i)サンプルをその上に有するターゲットプレートを準備する;
(ii)マトリックスをエアゾール化する;および
(iii)ターゲットプレートを動かしながら、エアゾール化したマトリックスをターゲ
ットプレート上にスプレーする。
マトリックスは、超音波ノズルまたはスプレーノズルを用いるなど、当業界で知られている通常の方法によりエアゾール化できる。極小の小滴および極めて薄いマトリックスの層を沈着させることができるため、好ましくは超音波ノズルが用いられる。超音波ノズルまたはスプレーノズルのガスの流速は、毎分0.1〜5マイクロリットル、より好ましくは毎分0.5〜2.0マイクロリットルである。超音波ノズルが用いられるのであれば、ノズルのエネルギーは好ましくは0.1〜2ワット、より好ましくは0.5〜1ワットに設定される。好ましくは、マトリックスは50マイクロメートル未満の厚さで沈着され、ターゲットプレートは毎秒0.1〜5インチ、より好ましくは毎秒0.5〜2インチで直線方向に移動する。
[実施例]
【実施例1】
【0068】
各グリセロールスポット(直径50〜250マイクロメートルで、スポットの間隔が50〜500マイクロメートル)が、タンパク質もしくはタンパク質断片、合成ペプチド、有機低分子、核酸配列または合成ポリマーといった、単一の分子種"A"を含有している、グリセロー
ル部位のマイクロアレイを作成する。この分子種は10picomolar〜10millimolarの濃度で
スポットに存在する。1"×3"のガラススライドを、100〜1000スポット/cm2で配列された10cm2を越えるグリセロール部位が得られるよう形成する。
【0069】
酵素(1picomolar〜10 millimolar)を含有するエアゾールをアレイに送達させる。酵
素の小滴が反応スポットと融合し、一方でスライドに当たった小滴は速やかに蒸発する。しばらくの時間、典型的には1〜60分間、酵素を化学種と結合平衡となるようにさせる。
第2のスプレーは、その酵素活性を検出するレポーターシステムを含有する。そのようなレポーターシステムとして、蛍光性基質、発色性基質、補助因子転換の検出システムを加えた補助因子、または補助因子および基質が挙げられ、補助因子転換は検出可能なシグナルを発する。このレポーターシステムは10nM〜100mMの濃度で蛍光性基質とともに送達さ
れる。
【0070】
分子種"A"が酵素"E"の活性部位またはアロステリック位置と結合するのであれば、レポーターシステムの活性化(例:蛍光性基質の転換)は妨げられる。レポーターシグナルを発しないか、または減衰したレポーターシグナルを発する反応ゾーンは、酵素阻害剤として同定される。その阻害作用は、分子種"A"が、拮抗型阻害剤、自殺型阻害剤、非拮抗型
阻害剤、アロステリック・モジュレーター、基質に対する複合体形成試薬(complexation
agent)、補助因子結合のアンタゴニスト、または補助因子もしくは非拮抗型阻害剤に対する複合体形成試薬として振る舞うことによるものであってよい。
【実施例2】
【0071】
抗原・抗体間の結合事象を分析するためのマイクロアレイを構成する。はじめに、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を、金コロイド(10nM〜200nM)またはラテッ
クスビーズ(10nM〜200nM)といったコロイド状物と化学的に結合させる。抗体と共有結
合したラテックスビーズをグリセロールに添加し、マイクロアレイ用の懸濁液を調製する。このグリセロールは、検出すべき特定の抗原に対する非結合のポリクローナル抗体または非結合のモノクローナル抗体を含有していてもよい。ビーズに共有結合した抗体の濃度は、ビーズの1平方マイクロメートルあたり1〜10,000サイトの範囲であればよい。溶液中における遊離の抗体の濃度は0〜100μMの範囲とすることができる。
【0072】
スポットの配列を生成する(スポットのサイズは直径50〜250マイクロメートルであり
、スポットの間隔は50〜500マイクロメートルである)。各スポットは特有の組成を有し
ており、抗体と結合したコロイド状物を単一の濃度で維持しつつ、反応停止性の(quenching)遊離抗体を一連のスポット群で濃度を上昇させながら保有している。検出する抗原
を含有する生物学的サンプルを、スプレー機構を介してアレイに送達させる。各反応スポットにおいて、反応停止性抗体は抗原に結合する(遊離の抗体はビーズに結合した抗体よりも大きなブラウン運動をしていることによって、より早い反応である)。もし抗原の濃度が反応停止性抗体の濃度より高いならば、遊離の抗原が残存しており、ビーズへの結合に利用することができる。ビーズは抗原を仲介とした凝集を受ける。凝集した金コロイドまたはラテックスビーズは、コンピュータ支援による凝集物(aggregates)イメージング、凝集物により増強された光散乱、または凝集物により減衰した光の伝導によって定量される。一連のスポット群において濃度が上昇していく反応停止性抗体の既知濃度を利用し、抗原の濃度は、凝集を妨げている反応停止性抗体の最低濃度に等しいものと推定することができる。
【実施例3】
【0073】
生物学的流動体における抗原の検出は、濃度が未知の非蛍光性種を用いてなされる。結合部を有する蛍光性種を各々が含有する、一連のグリセロールの小滴を配列する。レポーター分子は30kDa未満であろう。そのようなレポーター分子は、一本鎖Fvフラグメントが
検出すべき抗原との高い結合親和性を有する、GFP-ScFvキメラタンパク質であろう。
検出すべき抗原はアレイ表面にスプレーされ、充分に巨大であり(5kDaより大きい)、検出分子(detector molecule)/抗原複合体の総分子量に顕著な変化をもたらす。この検出分子/抗原複合体は、システムを偏光で励起した際に、レポーター分子単独よりも大き
な偏光である複合体により発光する蛍光の偏光によって分析される。
【実施例4】
【0074】
血漿における血液凝固経路のセリンプロテアーゼ(30年以上にわたって充分に特性が明らかにされている)を、複合酵素流動体のマイクロアッセイへの送達を観察するための系として選択した。DMSO/グリセロール中の蛍光性基質をガラススライドで分析した。
【0075】
スプレー塗布した後、トロンビンは、boc-VPR-MCA基質の転換後に、蛍光活性を65倍に
増大させた。純粋なプラスミン(1μM)は、アレイに沈着させたとき、トロンビンおよびカリクレイン基質についての検出可能な活性とともに、boc-VLK-MCA基質について強いシ
グナル(バックグラウンドの25倍高い)を発した。プラスミンは、tPAおよび因子Xa基質
に対して検出可能な活性を持たないが、boc-VPR-MCAおよびZ-FR-MCAについて活性を有す
ると報告されている(Morita, 1977)。純粋なtPA(10μM)の検知アレイへのエアゾール沈着は、tPA、トロンビンおよびXa基質の顕著な開裂を引き起こし、バックグラウンドよ
りも18倍から20倍高い蛍光になった。
【0076】
マイクロアレイは、再石灰化した希釈血漿において、因子Xaおよびトロンビンの活性レベルが低いことにより凝固経路のささやかな活性化を検出した(Butenas, 1997; Rand, 1996)。トウモロコシのトリプシンインヒビターは第XIIa因子を阻害することは示されず
(Rand, 1996)、接触システムの穏やかな活性化およびカリクレイン生成はカリクレイン基質の転換により検出された。再石灰化およびクエン酸処理した血漿は、プラスミン基質転換の欠如と矛盾することなく、∀2-アンチプラスミンおよび∀2-マクログロブリンよりも多い量のプラスミンを生成しない。カリクレイン基質の転換が、プレカリクレインからカリクレインへの接触活性化から生じ、プラスミンによる非特異的Z-FR-MCA基質の開裂によるものではないことをマイクロアレイは明らかにした。
【0077】
希釈、再石灰化、クエン酸処理した血漿へのプラスミン(最終濃度0.43μM)の添加に
より、∀2-アンチプラスミンよび∀2-マクログロブリンの阻害的な濃度に打ち勝った。このプラスミン活性は、プラスミン基質のスポットにおける強力なシグナルにより検出された。プラスミンは因子Xaを不活性化でき(Pryzdial, 1999)、この因子Xaの活性低下はマイクロアッセイで観察された。プラスミンも因子XUから因子XUaへの強力な活性化因子で
あり、後者もプレカリクレインをカリクレインへと転換することもできる。プラスミンを介するカリクレイン基質の転換から期待されるものよりも高いレベルのカリクレイン基質の転換が、プラスミン処理した血漿において記載された。アレイにおいてより高いレベルのプラスミン(最終濃度2.14〜1μM)の添加により、各基質は顕著に開裂することとなった。プラスミンを介した因子XIIaの活性化に起因してカリクレインが産生され、それとともに、プラスミンを介した因子Xaから因子Xaaへのタンパク質分解をしのぐのに充分なだ
け、内因性の経路による因子Xaの生成が増大することをマイクロアレイは明らかにした。
【実施例5】
【0078】
プログラムされた細胞死(アポトーシス)は、カルシウムの流入、酸化ストレス、細胞骨格干渉(cytoskeletal interference)、タンパク質合成の阻害剤、細胞膜破裂またはDNA破損といった細胞内の諸現象により引き起こされる。多数の化学物質が特定タイプの細胞にアポトーシスを誘発し、そのような化学物質として、受容体リガンド(TRAIL, FasL
)、セラミド系脂質、タキソール、ビンブラスチン、サイトカラシンD、トポイソメラー
ゼ阻害剤(エトポシド)、DNA架橋剤、タンパク質キナーザ阻害剤およびミトコンドリア
透過性剤(ベツリン酸、ロテノン)が挙げられる。
【0079】
アポトーシスは、表層のレセプターの活性化/凝集の後に起こる。最も研究された細胞死のレセプターはTNFRI(p55またはDC120a)およびCD95(FasRまたはApo1)である。他の
細胞死のレセプターとして、DR3(Apo3)、DR4およびDR5(TRAIL-R2, Apo2)が挙げられ
る。癌治療学において、溶解性のTRAIL(Apo2L)はそのレセプターであるDR4およびDR5に結合し、形質転換された細胞系ではアポトーシスを活性化するが、通常の細胞では活性化しない。細胞死レセプターの下流へのシグナル伝達は充分に理解されているが、複雑である。例として、ホモ三量体のCD95LはCD95と結合してクラスターを形成し、引き続きFADD
(Fas-結合細胞死ドメイン)タンパク質(このものはカスパーゼ8(FLICE)を活性化す
る)と結合する。オリゴマー化した後、カスパーゼ8は自己活性化を経て、カスパーゼ9
を活性化する。TRNR1に結合しているTNF、DR3に結合しているApoL3、DR4またはDRSに結合しているApoL2から離れた経路は、レセプターの多量体化、アダプター、およびカスパー
ゼの活性化に帰結する。いくつかのカスパーゼは、タンパク質分解的にポリ(ADP-リボー
ス)ポリメラーゼ(PARP)を不活性化し、核のラミンを分解することができ、これらはア
ポトーシスのキー・サイン(key signatures)となる。
【0080】
アポトーシスにおけるミトコンドリアの役割は、真核細胞を生み出した20億年前の過去の共生に起因すると考えられている。ミトコンドリア保全状態の喪失はエネルギー(ATP
)の生産を破壊し、カスパーゼ活性化を引き起こし、細胞の酸化還元電位を乱す。カスパーゼの活性化において、ミトコンドリアから放出されるシトクロムc(アポトーシス阻害
因子bcl-2によりブロックされる)は、Apaf-1およびプロカスパーゼ9と複合体を形成し、結果としてカスパーゼ9を活性化させることができる。
【0081】
カスパーゼ(システイニルアスパラギン酸−特異的プロテアーゼ)は、タンパク質基質をカルボキシル末端側のアスパラギン酸(P1位置)で開裂する。P2、P3およびP4の位置もまた、カスパーゼの間で基質選択性の規定において最も重要な役割を有するP4残基とともに、基質特異性に貢献する。これまで総計13の別個のカスパーゼが同定されている。様々なカスパーゼが所定の蛍光性基質を開裂することができる。用語「カスパーゼ3基質」の
使用は、他のカスパーゼがこの基質を開裂しない、あるいはカスパーゼ3が他の基質を開
裂しないといったことを意味しない。カスパーゼの基質特異性は、発色性および蛍光性ペプチドライブラリーの作製を通じて研究されてきた(Talanian, 1997; Thornberry, 1997)。Thornberryは、60個の化合物の蛍光性位置探索ライブラリー(fluorogenic positional scanning library)Ac-X-X-X-Asp-AMCを、カスパーゼ1[WEHD]、カスパーゼ2[DEHD
]、カスパーゼ3[DEVD]、カスパーゼ4[(W/L)EHD]、カスパーゼ5[(W/L)EHD]、カス
パーゼ6[VEHD]、カスパーゼ7[DEVD]、カスパーゼ8[LETD]、カスパーゼ9[LEHD]およびグランザイムB[IEPD]の括弧(brackets)における特異性を評価するために用いた
。同様に、様々なペプチドアルデヒドが、二次速度定数>105M-1s-1を有する阻害特異性について試験されている(Garcia-Calvo, 1998)。
【0082】
【表3】
【実施例6】
【0083】
生物学的流動体がエアゾールとしてチップ表面に送達される。この流動体は、血液、尿、唾液、生検、微生物もしくは微生物調製物、ウィルスもしくはウィルス調製物、細胞溶解物もしくは細胞懸濁液または食物または農産物から得られる液状サンプルである。あるいは、エアゾールは、タンパク質、ウィルス粒子または微生物粒子が分散しているサンプルガスと混合させた窒素または空気といったキャリアガスを含有していてもよい。グリセロールMCA基質および酵素に蛍光性基質が配列されているサンプルについて、酵素活性の
試験が行われる。
【実施例7】
【0084】
細胞、DNA、全RNAまたはmRNAの懸濁液が、マイクロアッセイチップ上に配列されている反応ゾーンに送達される。個々の反応ゾーンは、PCRプライマー、逆転写酵素プライマー
、染料ラベル化オリゴ配列、核酸塩基または蛍光性塩基、および逆転写酵素、DNAポリメ
ラーゼ、RNAse、DNAse、熱安定性DNAポリメラーゼまたは開裂酵素といった酵素を含有す
る。チップは、PCRの熱サイクルまたは核酸合成または蛍光性タグの取り込みまたは配列
依存性反応(sequence dependent reaction)を介してのクエンチ(quenched)実体物の
蛍光活性化にかけられる。後続の検出においては、配列依存性反応により近接している独立の二蛍光プローブ間でエネルギー伝達が引き起こされてもよく、配列依存性反応によってクエンチ分子のクエンチ解除(dequenching)も含まれる。応用としては、mRNA種の表
現型分析、DNA種の遺伝子型分析および一塩基多型(SNPs)の検出が挙げられる。
【実施例8】
【0085】
マイクロアレイはプロテアーゼ工学およびプロテオミクスにおいて数多くの応用を有する。19個の異なるアミノ酸をP2、P3およびP4位置に有する蛍光性ペプチドについての定位置P1探索ライブラリー(constant P1 positional scanning library)(57サブライブラ
リー)(Backes, 2000)は、試薬を最小限用いて1cm2未満のマイクロアレイに収容することができる。19〜20個の異なるアミノ酸をP1〜P4位置に有する完全な探索蛍光性ライブラリー(Harris, 2000)(<1200スポット)は、グリセロール・スポッティングおよびエア
ゾール沈着技術の性能範囲内で、1"×3"のスライドのウェル上に収容することができる。この実施例では、単一のプロテアーゼが、位置探索ライブラリー(positional scanning library)からチップ上に配列された個々の蛍光性基質に適用される。基質の転換および
基質特異性は、単一のマイクロアッセイチップ上で決定される。また、各位置における各アミノ酸の同定が充分に確立されている蛍光性ペプチドのコンビナトリアルライブラリーを、マイクロアッセイチップ上に用いることができる。
【実施例9】
【0086】
・ゲルからのサンプルの取り出しおよびMALDIターゲットプレートへの移動
直接的な検出のため、レーン当たり1μgの精製ヒトフィブリノゲンを、SDSランニング
バッファー(Tris-EDTA, pH 8.0, 2% vol/vol SDS, 8M尿素)中で、95℃で5分間、加熱
する。タンパク質サンプルは一次元方向に4〜15%濃度勾配のポリアクリルアミドゲル中
で泳動させ、クマシーブルー色素を用いて60分間染色し、バンド位置を書き留め、ゲルをNH4/HCO3/50%アセトニトリルで脱色し、30体積%のグリセロール中で120分間、室温にて穏やかなオービタルミキシング(orbital mixing)でインキュベートする。ゲルを蒸留水で簡単にすすぎ、ピンをタンパク質バンド位置の上部に位置させ、ゲルの半ばまで沈めて、超音波振動子(30kHz, Sonicare)に繋いで20分間ピンにエネルギーを加える。ピンを
ゆっくりとゲルから抜き、コンタクトプリンティング(contact printing)(GeneMachines Ascent)により、金属のMALDIターゲット表面に接触させるように置く。
【0087】
シングルピン・プロトコル(single pin protocol)(Telechem社(Sunnyvale, CA)製
のステルスSMP15XBピンを使用)により、Genemachines社(現在Genomic Solutions社、Ann Arbor, MIの一部門)製のOmniGrid Accentマイクロアレイヤーを使用して、SSプレート上に500μmスポットをプリントする。
【0088】
タンパク質分解による消化のため、フィブリノゲン(「フィブリノーゲン」としても表示される。)を10μMヒトトロンビン(50mMクエン酸ナトリウム、0.2M NaCl, 0.1% PEG-8000, pH6.5)により活性化する。ヒトトロンビンを120kHz超音波ノズル(Sonotek, Milton, NY)を介してアレイに送達する。サンプルを液体流速400nl/s でノズル(UMPIIフローポンプ(World Precision Instruments, Saratoga, FL)を使用)中へエアゾール化し、2.3L/分のキャリア空気の流れで包み込む。エアゾールを2〜4秒間沈着させた後、反応を伴
うSSプレートを37℃で4時間インキュベートする。反応はオーバーナイトでのグリセロール抽出により停止させ、トロンビン:フィブリノペプチドA(平均分子量:1536.57Da)、フィブリノペプチドB(平均分子量:1569.60Da)の存在下に、フィブリノゲン開裂産生物の高純度結晶が後に残る。開裂産生物は、Applied Biosystems社(Foster City, CA)製
のVoyager De-PRO飛行時間型マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI TOF)質量
分析器(MS)を用いて検出する。検出目的のため、プレートは3,5-ジメトキシ-4-ヒドロ
キシ桂皮酸(シナピン酸)50%エタノール溶液の薄いフィルムで被覆する。これはMALDI TOF MS用に用いられる代表的な陽イオンモードマトリックスである。MSは、レーザー源を全検出用に一定出力を維持したポジティブリニアモード(positive linear mode)で使用する。フィブリノペプチドAおよびBのピークは、それぞれのm/z質量レンジで得られる(
データは記載せず)。
【実施例10】
【0089】
・ハイスループットスクリーニング
平板な表面にプリントされたライブラリーを用いてナノリットル反応(nanoliter reaction)を行う能力は、HTS反応を探るためにMALDI質量分析法を利用することを可能なものとする。フィブリノゲン溶液を金属MALDIターゲットにプリントし、続いてフィブリノペ
プチドAおよびBを放出するためにトロンビンをエアゾール沈着させることによるラベルフリー(label-free)反応の実行可能性を立証した。反応におけるグリセロールを除去し、MALDIマトリックスを、FPA/FPBの質量分析検出用に好適な薄いフィルム(図26A)になる
よう沈着させた。ナノリットル反応においてベンズアミジンは反応を完全に阻害した(図26B)。3〜300nMの範囲において、検定物質(calibrants)および転換された基質を検出
できる、このようなMALDIの感受性は、HTSアッセイで必要とされる典型的な反応条件にとって理想的である。
【0090】
濃度を変化させたフィブリノゲンおよびフィブリノペプチドMSスタンダードを含有するOmniGridマイクロアレイヤーを用いて、8×12の配列の反応をプリントした。ある反応は1mMベンズアミジンを含有していた。アレイはトロンビンにより活性化し、湿気の下でインキュベートし(上列、A)、グリセロールを除去し(中列、A)、およびMALDIマトリック
スで被覆した(下列、A)。
【0091】
その後個々の反応は、フィブリノペプチドAおよびBの分析のためMALDIにかけられた。
強いシグナルが、トロンビンで処理した1、10および100μg/mlのフィブリノゲン(3、30
および30nM)では見られたが、ベンズアミジンを含有するスクリーニング反応(B)では
見られなかった。MALDI MSの条件は、以下のとおりであった:Voyager-DE PRO(シナピン酸マトリックス)、Glu1-フィブリノペプチドB(1μg/ml)コントロール、リフレクショ
ンモード、陽極性、1000-2000 Da取得範囲、20000V加速電圧、2033レーザー強度(20.0Hz; 100/spectrum)、抽出遅延時間:150nsec、グリッド電圧:75%、ガイドワイヤ電圧:0.002%
【実施例11】
【0092】
・タンパク質/酵素相互作用の検出
プラスミノゲン不含ヒトフィブリノゲン(分子量:330kDa)をEnzyme Research Labs社(South Bend, IN)から購入した。製造者が推奨する10mMリン酸塩、20mMクエン酸塩、0.15M NaCl(pH7.4)緩衝液に、これを36mg/mlの濃度で小分けした。プラスミノゲン不含ヒトフィブリノゲンおよびグリセロール 1:1の6通りの希釈液−18mg/ml、9mg/ml、4.5mg/ml、3mg/ml、1.5mg/ml、0.75mg/mlを調製し、それぞれ小分けした。各溶液の12個の複製物を、一枚のブランクのステンレススチール(SS)質量分析用プレート(Applied Biosystems社(Foster City, CA)製)の上にプリントした。シングルピン・プロトコル(Telechem社(Sunnyvale, CA)製のステルスSMP15XBピンを使用)により、Genemachines社(現
在Genomic Solutions社、Ann Arbor, MIの一部門)製のOmniGrid Accentマイクロアレイ
ヤーを用いて、SSプレート上に500μmスポットをプリントした。スポットとスポットとの間隔は1000μmであった。
【0093】
次に、10μMのヒトトロンビン(50mMクエン酸ナトリウム、0.2M NaCl, 0.1% PEG-8000,
pH6.5)によりフィブリノゲンを活性化した。ヒトトロンビンは120kHz超音波ノズル(Sonotek, Milton, NY)を介してアレイに送達した。サンプルを液体流速400nl/s でノズル
の中へエアゾール化し(UMPIIフローポンプ(World Precision Instruments, Saratoga, FL)を使用)、2.3L/分のキャリア空気の流れで覆った。エアゾールを2〜4秒間沈着させた後、反応を伴っているSSプレートを37℃で4時間インキュベートした。反応はオーバーナ
イトでのグリセロール抽出により停止し、トロンビン、フィブリノペプチドA(平均分子
量:1536.57Da)、フィブリノペプチドB(平均分子量:1569.60Da)の存在下に、フィブ
リノゲンの開裂産生物の高純度結晶が後に残った。
【0094】
開裂産生物は、Applied Biosystems社(Foster City, CA)製Voyager De-PRO飛行時間
型マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI TOF)質量分析器(MS)を用いて検出
した。検出目的のため、プレートは3,5-ジメトキシ-4-ヒドロキシ桂皮酸(シナピン酸)50%エタノール溶液の薄いフィルムで被覆した。これはMALDI TOF MS用の代表的な陽イオ
ンモードマトリックスである。MSは、レーザー源を全検出用の一定の出力を維持した、ポジティブリニアモード(positive linear mode)で使用した。フィブリノペプチドAおよ
びBのピークは、それぞれのm/zマスレンジで得られた。質量スペクトルデータは、18mg/ml、3mg/mlおよび0.75mg/mlのサンプルについて、図27A〜Oに示す。
【0095】
本発明について、特定の材料および方法に言及しながら上記のように説明したが、本発明は、特許請求の範囲に示した範囲においてのみ限定される。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】図1は、本発明によるアレイの部分的な斜視図である。
【図2】図2A、2Bおよび2Cはそれぞれ、アレイ、エアゾールサンプルの沈着、および基質転換についての側面からの立面図である。
【図3】図3Aおよび3Bは、サンプルの適用前および適用後の、ペプチドまたはタンパク質マイクロアレイの概念図である。
【図4】図4は、超音波霧状化装置の断面図である。
【図5】図5は、アッセイ機器の機能概念図である。
【図6】図6は、担体溶媒(グリセロール)マイクロドットのアレイである。
【図7】図7は、プレスプレー(prespray)された担体溶媒(グリセロール)マイクロドットのアレイである。
【図8】図8は、水系サンプルをスプレーしたマイクロドットのアレイである。
【図9】図9は、スプレーしたマイクロドットのアレイの、ミストが蒸発した後の基部の様子である。
【図10】図10は、活性化したマイクロドットアレイである。
【図11】図11は、サンプルを含有する水滴とグリセロールのマイクロドットとの融合を示す。
【図12】図12は、マイクロドットアッセイによるトロンビン活性の検出を示す。
【図13】図13A、13B、13Cおよび13Dは、個々の反応コンパートメントに試薬を送達するためのマイクロ流体工学を示す。
【図14】図14は、超音波ノズルから発生したスプレーを用いた、反応スポットへの分子の送達を示す。
【図15】図15は、超音波振動子(transducer)および非接触チャンバー(non-contacting chamber)を用いた、超微細ミストの発生を示す。
【図16】図16は、超音波振動子および非接触チャンバーにより発生させた小滴スプレーを用いる分子の反応スポットへの送達を示す。
【図17】図17は、ミストをスプレーして送達させた後に、隣接する反応スポットがクロスコンタミネーションを起こさないことを示す。
【図18】図18は、精製酵素およびヒト血漿のマイクロアレイアッセイを示す。
【図19】図19は、カスパーゼ基質のマイクロアレイである。
【図20】図20は、活性化したカスパーゼのマイクロアレイを示す。
【図21】図21は、アッセイシステムにより送達されたミストを示す。
【図22】図22は、マイクロアレイに送達した蛍光ミストを示す。
【図23】図23は、静電気電荷を用いた、ミストのマイクロアレイ上への捕捉を示す。
【図24】図24は、関心のある分子を電気泳動ゲルからMALDIターゲットプレートへ移動させる方法を図解した概念図である。
【図25】図25は、化学反応をターゲットプレート上で直接行ってからMALDI質量分析用のターゲットプレートを調製する方法を図示した概念図である。
【図26】図26A-Bは、実施例10に記載された分析から得られた、コンピュータで作製した描画およびマススペクトルデータである。
【図27−1】図27A-Cは、実施例11に記載された分析から得られたマススペクトルデータである。
【図27−2】図27D、Eは、実施例11に記載された分析から得られたマススペクトルデータである。
【図27−3】図27F-Hは、実施例11に記載された分析から得られたマススペクトルデータである。
【図27−4】図27I、Jは、実施例11に記載された分析から得られたマススペクトルデータである。
【図27−5】図27K-Mは、実施例11に記載された分析から得られたマススペクトルデータである。
【図27−6】図27N、Oは、実施例11に記載された分析から得られたマススペクトルデータである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程を含む、関心のある分子を電気泳動ポリマーゲルからMALDIターゲットプレー
トに移行させる方法:
(i)関心のある1以上の分子を含有する電気泳動ゲルを準備する;
(ii)電気泳動ゲルの水分を共溶媒混合物で置換する;
(iii)ゲルの上にピンを位置させ、該ゲルにピンを貫通させる;
(iv)関心のある1以上の分子を取り囲む範囲におけるゲルを枯渇するために該ピンにエネルギーを付与し、共溶媒混合物が関心のある1以上の分子を取り囲むようにする;
(v)ピンをゲルから抜き、このピンは関心のある1以上の分子を含有する共溶媒混合
物の液滴を担持している;および
(vi)MALDIターゲットプレートにピンを接触させ、関心のある1以上の分子を含有する共溶媒混合物の液滴をMALDIターゲットプレート上に沈積させる。
【請求項2】
共溶媒混合物の粘度、表面張力および蒸気圧は、ゲル中の関心のある1以上の分子を含
有する共溶媒混合物の液滴をピンに付着させるものであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
共溶媒混合物の粘度、表面張力および蒸気圧は、関心のある1以上の分子を含有する共
溶媒混合物の液滴をピンからMALDIターゲットプレートに移行および付着させるものであ
ることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
共溶媒混合物の粘度、表面張力および蒸気圧は、関心のある1以上の分子を含有する共
溶媒混合物の液滴を、実質的に蒸発することなくMALDIターゲットプレート上の位置を保
持させるものであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記の共溶媒混合物は10〜90体積%がグリセロールである、水とグリセロールとの混合物であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記の共溶媒混合物は水とポリオールとの混合物であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ピンへのエネルギーの付与は超音波振動により果たされることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
超音波振動のエネルギーは1平方センチメートル当たり0.1〜5ワットであることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
超音波振動の振動数は10キロヘルツ〜1メガヘルツであることを特徴とする請求項7に
記載の方法。
【請求項10】
ピンは10〜120秒間エネルギーを付与されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
ピンの先端での直径は50〜500マイクロメートルであることを特徴とする請求項1に記
載の方法。
【請求項12】
1以上の関心のある分子を含有する共溶媒混合物の液滴は1〜2000ナノリットルの体積であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
1以上の関心のある分子を含有する共溶媒混合物の液滴は1〜100ナノリットルの体積で
あることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
MALDIターゲットプレート上に沈積した液滴の直径は50〜500マイクロメートルであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項15】
ターゲットプレート上に複数の液滴を沈積するため、さらにピンを沈水浴槽で洗浄する工程を含み、請求項1の工程を1回以上繰り返すことを特徴とする請求項1に記載の方法
。
【請求項16】
ターゲットプレート上の液滴の密度は1平方センチメートルあたり100〜1000液滴であることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
1以上の関心のある分子を含有する共溶媒混合物の沈積した液滴と試薬とが接触するよ
う、試薬をターゲットプレート上に沈積させる工程をさらに含み、該試薬を沈積した液滴中にある1以上の関心のある分子と反応させることを特徴とする請求項15に記載の方法
。
【請求項18】
試薬の沈積は、エアゾール沈積、マイクロプリンティング、ピンプリンティング、容積型ピペットおよびピエゾプリンティングからなる群より選択される手段によりなされることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
1以上の関心のある分子は、タンパク質、ペプチド、DNA、RNA、ヌクレオチド、酵素、
アミノ酸、基質、触媒、塩、緩衝液、補助因子、反応改変化合物、化合物コンビナトリアルライブラリーの一員たる化学物質、薬剤スクリーニング反応の成分およびこれらの組み合わせからなる群より選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項20】
電気泳動ゲル中の水は、該ゲルを共溶媒混合物中で15〜120分間インキュベートするこ
とにより共溶媒混合物と置換されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項21】
沈積した液滴を乾燥し、ターゲットプレートをMALDIマトリックスで被覆することによ
る、沈積した液滴を備えたMALDI質量分析用のターゲットプレートの調製をさらに含むこ
とを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
ターゲットプレート上に反応物質の液滴を沈積させ;
試薬が沈積した液滴と接触するよう、ターゲットプレート上に試薬を沈積させ;および
化学反応を進行させることを含む、
MALDIターゲットプレート上で化学反応を行う方法
【請求項23】
液滴は、ピンプリンティング、ピエゾプリンティング、マイクロプリンティングおよび容積型ピペットからなる群より選択される手段によりターゲットプレート上に沈積されることを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項24】
試薬は、エアゾール沈積、マイクロプリンティング、ピンプリンティング、ピエゾプリンティングおよび容積型ピペットからなる群より選択される手段により標的プレー上に沈積されることを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項25】
沈積した液滴の各々の体積は1〜2000ナノリットルであることを特徴とする請求項22
に記載の方法。
【請求項26】
ターゲットプレート上の液滴の密度は1平方センチメートルあたり100〜1000液滴である
ことを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項27】
試薬および反応物質は、タンパク質、ペプチド、DNA、RNA、ヌクレオチド、酵素、アミノ酸、基質、触媒、塩、緩衝液、補助因子、反応改変化合物、化合物コンビナトリアルライブラリーの一員たる化学物質、薬剤スクリーニング反応の成分およびこれらの組み合わせからなる群より選択されることを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項28】
下記工程を含む、MALDI質量分析用のサンプルを調製する方法:
(i)液状であるサンプル液滴を有するターゲットプレートを準備する;
(ii)サンプル液滴から溶媒を除去するためターゲットプレートを乾燥する;
(iii)乾燥したターゲットプレート上にMALDIマトリックスを沈積させる;
(iv)ターゲットプレートを加湿する;および
(v)サンプル液滴の分析のためターゲットプレートをMALDI質量分析にかける。
【請求項29】
液状のサンプル液滴は、タンパク質、ペプチド、DNA、RNA、ヌクレオチド、酵素、アミノ酸、基質、触媒、塩、緩衝液、補助因子、反応改変化合物、化合物コンビナトリアルライブラリーの一員たる化学物質、薬剤スクリーニング反応の成分およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、一以上の反応物質と一以上の試薬との反応生成物を含有することを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項30】
液状のサンプル液滴は1〜2000ナノリットルの体積を有することを特徴とする請求項2
8に記載の方法。
【請求項31】
ターゲットプレート上の液状サンプル液滴の密度は1平方センチメートルあたり100〜1000液滴であることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項32】
乾燥工程は減圧乾燥または空気乾燥によりなされることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項33】
マトリックスはエアゾール沈積により沈積されることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項34】
マトリックスは厚さ50マイクロメートル未満の層で沈積されることを特徴とする請求項33に記載の方法。
【請求項35】
10マイクロリットル未満のマトリックスがターゲットプレートの5平方センチメートル
ごとに沈積されることを特徴とする請求項33に記載の方法。
【請求項36】
マトリックスは揮発性溶媒および過飽和濃度のマトリックス化合物を含有することを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項37】
前記加湿工程は、マトリックス被覆上に水滴が実質的に沈積することなく、相対湿度40〜80%、温度22〜37℃で、10〜120分間かけてなされることを特徴とする請求項28に記
載の方法。
【請求項38】
加湿工程の後、サンプル液滴は半固体状になり、マトリックスの成分はサンプル液滴中の反応生成物と混合することができることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項39】
形成されたマトリックスは、1サンプル液滴あたり1〜50フェムトモルの範囲にある、サンプル液滴中の反応生成物を検出することを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項40】
マトリックスの沈積後、サンプル液滴中の塩イオンは反応生成物から周囲のマトリックスへ拡散することを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項41】
反応物質は生物学的分子であり、試薬は薬剤であり、該分子に対する該薬剤の活性を検出するために用いられることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項42】
下記工程を含む、1以上のMALDIマトリックスの層をターゲットプレート上に沈積させる方法:
(i)サンプルをその上に有するターゲットプレートを準備する;
(ii)マトリックスをエアゾール化する;および
(iii)ターゲットプレートを移動させながらエアゾール化したマトリックスをターゲ
ットプレート上にスプレーする。
【請求項43】
マトリックスは超音波ノズルまたはスプレーノズルを用いてエアゾール化されることを特徴とする請求項42に記載の方法。
【請求項44】
超音波ノズルまたはスプレーノズルのガス流速は毎分0.5〜20マイクロリットルである
ことを特徴とする請求項43に記載の方法。
【請求項45】
超音波ノズルのエネルギーは1平方センチメートルあたり0.5〜1ワットであることを特
徴とする請求項44に記載の方法。
【請求項46】
マトリックスは厚さ50マイクロメートル未満で沈積されることを特徴とする請求項42に記載の方法。
【請求項47】
ターゲットプレートは毎秒0.5〜2インチの速度で移動することを特徴とする請求項42に記載の方法。
【請求項1】
下記工程を含む、関心のある分子を電気泳動ポリマーゲルからMALDIターゲットプレー
トに移行させる方法:
(i)関心のある1以上の分子を含有する電気泳動ゲルを準備する;
(ii)電気泳動ゲルの水分を共溶媒混合物で置換する;
(iii)ゲルの上にピンを位置させ、該ゲルにピンを貫通させる;
(iv)関心のある1以上の分子を取り囲む範囲におけるゲルを枯渇するために該ピンにエネルギーを付与し、共溶媒混合物が関心のある1以上の分子を取り囲むようにする;
(v)ピンをゲルから抜き、このピンは関心のある1以上の分子を含有する共溶媒混合
物の液滴を担持している;および
(vi)MALDIターゲットプレートにピンを接触させ、関心のある1以上の分子を含有する共溶媒混合物の液滴をMALDIターゲットプレート上に沈積させる。
【請求項2】
共溶媒混合物の粘度、表面張力および蒸気圧は、ゲル中の関心のある1以上の分子を含
有する共溶媒混合物の液滴をピンに付着させるものであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
共溶媒混合物の粘度、表面張力および蒸気圧は、関心のある1以上の分子を含有する共
溶媒混合物の液滴をピンからMALDIターゲットプレートに移行および付着させるものであ
ることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
共溶媒混合物の粘度、表面張力および蒸気圧は、関心のある1以上の分子を含有する共
溶媒混合物の液滴を、実質的に蒸発することなくMALDIターゲットプレート上の位置を保
持させるものであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記の共溶媒混合物は10〜90体積%がグリセロールである、水とグリセロールとの混合物であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記の共溶媒混合物は水とポリオールとの混合物であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ピンへのエネルギーの付与は超音波振動により果たされることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
超音波振動のエネルギーは1平方センチメートル当たり0.1〜5ワットであることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
超音波振動の振動数は10キロヘルツ〜1メガヘルツであることを特徴とする請求項7に
記載の方法。
【請求項10】
ピンは10〜120秒間エネルギーを付与されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
ピンの先端での直径は50〜500マイクロメートルであることを特徴とする請求項1に記
載の方法。
【請求項12】
1以上の関心のある分子を含有する共溶媒混合物の液滴は1〜2000ナノリットルの体積であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
1以上の関心のある分子を含有する共溶媒混合物の液滴は1〜100ナノリットルの体積で
あることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
MALDIターゲットプレート上に沈積した液滴の直径は50〜500マイクロメートルであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項15】
ターゲットプレート上に複数の液滴を沈積するため、さらにピンを沈水浴槽で洗浄する工程を含み、請求項1の工程を1回以上繰り返すことを特徴とする請求項1に記載の方法
。
【請求項16】
ターゲットプレート上の液滴の密度は1平方センチメートルあたり100〜1000液滴であることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
1以上の関心のある分子を含有する共溶媒混合物の沈積した液滴と試薬とが接触するよ
う、試薬をターゲットプレート上に沈積させる工程をさらに含み、該試薬を沈積した液滴中にある1以上の関心のある分子と反応させることを特徴とする請求項15に記載の方法
。
【請求項18】
試薬の沈積は、エアゾール沈積、マイクロプリンティング、ピンプリンティング、容積型ピペットおよびピエゾプリンティングからなる群より選択される手段によりなされることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
1以上の関心のある分子は、タンパク質、ペプチド、DNA、RNA、ヌクレオチド、酵素、
アミノ酸、基質、触媒、塩、緩衝液、補助因子、反応改変化合物、化合物コンビナトリアルライブラリーの一員たる化学物質、薬剤スクリーニング反応の成分およびこれらの組み合わせからなる群より選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項20】
電気泳動ゲル中の水は、該ゲルを共溶媒混合物中で15〜120分間インキュベートするこ
とにより共溶媒混合物と置換されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項21】
沈積した液滴を乾燥し、ターゲットプレートをMALDIマトリックスで被覆することによ
る、沈積した液滴を備えたMALDI質量分析用のターゲットプレートの調製をさらに含むこ
とを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
ターゲットプレート上に反応物質の液滴を沈積させ;
試薬が沈積した液滴と接触するよう、ターゲットプレート上に試薬を沈積させ;および
化学反応を進行させることを含む、
MALDIターゲットプレート上で化学反応を行う方法
【請求項23】
液滴は、ピンプリンティング、ピエゾプリンティング、マイクロプリンティングおよび容積型ピペットからなる群より選択される手段によりターゲットプレート上に沈積されることを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項24】
試薬は、エアゾール沈積、マイクロプリンティング、ピンプリンティング、ピエゾプリンティングおよび容積型ピペットからなる群より選択される手段により標的プレー上に沈積されることを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項25】
沈積した液滴の各々の体積は1〜2000ナノリットルであることを特徴とする請求項22
に記載の方法。
【請求項26】
ターゲットプレート上の液滴の密度は1平方センチメートルあたり100〜1000液滴である
ことを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項27】
試薬および反応物質は、タンパク質、ペプチド、DNA、RNA、ヌクレオチド、酵素、アミノ酸、基質、触媒、塩、緩衝液、補助因子、反応改変化合物、化合物コンビナトリアルライブラリーの一員たる化学物質、薬剤スクリーニング反応の成分およびこれらの組み合わせからなる群より選択されることを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項28】
下記工程を含む、MALDI質量分析用のサンプルを調製する方法:
(i)液状であるサンプル液滴を有するターゲットプレートを準備する;
(ii)サンプル液滴から溶媒を除去するためターゲットプレートを乾燥する;
(iii)乾燥したターゲットプレート上にMALDIマトリックスを沈積させる;
(iv)ターゲットプレートを加湿する;および
(v)サンプル液滴の分析のためターゲットプレートをMALDI質量分析にかける。
【請求項29】
液状のサンプル液滴は、タンパク質、ペプチド、DNA、RNA、ヌクレオチド、酵素、アミノ酸、基質、触媒、塩、緩衝液、補助因子、反応改変化合物、化合物コンビナトリアルライブラリーの一員たる化学物質、薬剤スクリーニング反応の成分およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、一以上の反応物質と一以上の試薬との反応生成物を含有することを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項30】
液状のサンプル液滴は1〜2000ナノリットルの体積を有することを特徴とする請求項2
8に記載の方法。
【請求項31】
ターゲットプレート上の液状サンプル液滴の密度は1平方センチメートルあたり100〜1000液滴であることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項32】
乾燥工程は減圧乾燥または空気乾燥によりなされることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項33】
マトリックスはエアゾール沈積により沈積されることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項34】
マトリックスは厚さ50マイクロメートル未満の層で沈積されることを特徴とする請求項33に記載の方法。
【請求項35】
10マイクロリットル未満のマトリックスがターゲットプレートの5平方センチメートル
ごとに沈積されることを特徴とする請求項33に記載の方法。
【請求項36】
マトリックスは揮発性溶媒および過飽和濃度のマトリックス化合物を含有することを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項37】
前記加湿工程は、マトリックス被覆上に水滴が実質的に沈積することなく、相対湿度40〜80%、温度22〜37℃で、10〜120分間かけてなされることを特徴とする請求項28に記
載の方法。
【請求項38】
加湿工程の後、サンプル液滴は半固体状になり、マトリックスの成分はサンプル液滴中の反応生成物と混合することができることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項39】
形成されたマトリックスは、1サンプル液滴あたり1〜50フェムトモルの範囲にある、サンプル液滴中の反応生成物を検出することを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項40】
マトリックスの沈積後、サンプル液滴中の塩イオンは反応生成物から周囲のマトリックスへ拡散することを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項41】
反応物質は生物学的分子であり、試薬は薬剤であり、該分子に対する該薬剤の活性を検出するために用いられることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項42】
下記工程を含む、1以上のMALDIマトリックスの層をターゲットプレート上に沈積させる方法:
(i)サンプルをその上に有するターゲットプレートを準備する;
(ii)マトリックスをエアゾール化する;および
(iii)ターゲットプレートを移動させながらエアゾール化したマトリックスをターゲ
ットプレート上にスプレーする。
【請求項43】
マトリックスは超音波ノズルまたはスプレーノズルを用いてエアゾール化されることを特徴とする請求項42に記載の方法。
【請求項44】
超音波ノズルまたはスプレーノズルのガス流速は毎分0.5〜20マイクロリットルである
ことを特徴とする請求項43に記載の方法。
【請求項45】
超音波ノズルのエネルギーは1平方センチメートルあたり0.5〜1ワットであることを特
徴とする請求項44に記載の方法。
【請求項46】
マトリックスは厚さ50マイクロメートル未満で沈積されることを特徴とする請求項42に記載の方法。
【請求項47】
ターゲットプレートは毎秒0.5〜2インチの速度で移動することを特徴とする請求項42に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図18】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27−1】
【図27−2】
【図27−3】
【図27−4】
【図27−5】
【図27−6】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図18】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27−1】
【図27−2】
【図27−3】
【図27−4】
【図27−5】
【図27−6】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公表番号】特表2007−514173(P2007−514173A)
【公表日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−545353(P2006−545353)
【出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【国際出願番号】PCT/US2004/042007
【国際公開番号】WO2005/059552
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(503278795)ユニバーシティ オブ ペンシルベニア (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【国際出願番号】PCT/US2004/042007
【国際公開番号】WO2005/059552
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(503278795)ユニバーシティ オブ ペンシルベニア (2)
【Fターム(参考)】
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