説明

MALDI質量分析法のためのマトリックス干渉の軽減

本教示は、分子のマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法のために有用なプレートおよびそのプレートを作製するためのプロセスに関する。疎水性コーティングおよびMALDIマトリックス材料とポリマーのような境界剤との混合物の薄膜コーティングを含む複合コーティングを備える、MS分析またはMS−MS分析のために適したMALDIプレートが開示される。本教示に従って作製されるMALDIプレートは、MALDI−MSスペクトルの低質量領域(1,000ダルトン未満)におけるマトリックスイオンの抑制のために有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(優先権および関連出願)
本出願は、2003年8月21日に出願された米国仮特許出願第60/496,746号による優先権を主張する。この仮出願は、本明細書中にその全体が参考として援用される。
【0002】
(導入)
本教示は、分子のマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法のために有用なプレートおよびそのプレートを作製するためのプロセスに関する。より具体的には、本技術は、低分子(分子量1,000ダルトン未満)の分析において有用なMALDIプレートに関する。
【背景技術】
【0003】
MALDIプロセスを使用する大きな生体分子(例えば、DNA、ペプチドおよびタンパク質)の質量分析測定は、標準的な方法論である。しかし、代表的には1,000ダルトン未満である低分子の分析のためには、このMALDIイオン化技術は完全には利用されていない。低分子のMALDI分析を行うことにおける1つの困難は、サンプルスポットのレーザーによるアブレーションがまた、収集される質量スペクトルの低質量領域(小さな分析物が検出される範囲と同じ範囲)において検出されるマトリックスイオンの形成も引き起こすことである。さらなる干渉もまた、この質量範囲において検出され、そしてこれはマトリックスイオンとアルカリ金属との高い親和性、ならびにマトリックスが、同様にイオン化および検出されるクラスターを形成しやすいことに起因する。これらのクラスターは、多数のマトリックス分子を含み、同時にその多くがまた、多数のアルカリ金属イオンも含む。最終的に、MALDI生成質量スペクトルのその低質量領域(1,000ダルトン未満)は非常に複雑であり、これが低分子分析物の検出を困難にする。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
(要旨)
種々の実施形態によると、MS分析に適したMALDIプレートは、一体型疎水性コーティングを備え、そしてMALDIマトリックス材料および挿入剤(例えば、ポリマー)の混合物の薄膜でその後のコーティングされるように適合される。本教示に従って作製されるMALDIプレートは、MALDI−MSスペクトルの低質量領域(1,000ダルトン未満)におけるマトリックスイオンの抑制のために有用である。これが、このようなMALDIプレートを、低分子(例えば、薬物、推定上の治療薬、それらの代謝物など)が純粋な溶液として与えられようと、生物学的基質(例えば、尿、胆汁、糞便、または血清)から抽出されようとに拘わらず、それらの低分子のMALDI−MS分析のために特に有用なものにする特質である。
【0005】
本教示のこれらの特徴および他の特徴が、本明細書中に記載される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
(種々の実施形態の説明)
目的の化合物に関する定性的情報および定量的情報の両方を提供する、低分子分析物(例えば、推定上の薬物分子)の分析のためのハイスループットな方法論に対する必要性が、近年、医薬品研究所においてかなり増加している。現在、これらの分子の分析に対する方法論は、タンデム型質量分析(MS/MSとしてもまた公知)の使用に基づき、そして代表的にはエレクトロスプレーイオン化(ESI)または大気圧イオン化(APCI)を使用し、目的の分析物に対応するイオンを形成させる。これらのイオン源は、一般に、質量分析計(例えば、四重極、イオントラップ、およびハイブリッドトラップ四重極時間飛行分析計(Q−TOF))において使用される。
【0007】
上記された方法論を使用する低分子サンプルのMS分析は、一般に、各サンプル分析が分の時間スケールで行われる連続的なプロセスである。このようなMS分析は、その分析が通常、質量分析計測定の線上にある急速なクロマトグラフィー分離と組み合わせて行われるという事実により、複雑にされる。複数のブランクサンプルおよび品質管理サンプルの使用に対するさらなる必要性が、ならびに再現性のあるクロマトグラフィー法に発展させるために必要とされる時間が、その時間スケールを構成する。先のサンプルからの分析物の持ち越しが何もないことを確認するための、収集されたデータの品質管理は、分析時間を増加させる。
【0008】
飛行時間型質量分析計(TOF−MS)(特に、MALDIのイオン化を使用するもの)は、低分子の分析のために使用される場合、スピードの利点を提供し、分よりも秒でのサンプル混合物の分析を可能にする。MALDI TOF−MSによる後の分析のための並行するサンプル調製は、サンプルのスループットの向上につながり得、そしてサンプル精製のための小さなクロマトグラフィー床を備える使い捨てのデバイスの使用が、あるサンプルから別のサンプルへの分析物の持ち越しを排除し得る。単回使用のMALDIサンプル支持体の使用は、収集されたデータの広範な品質評価の必要性を減少させ、そして同様にあるサンプルから別のサンプルへの分析物の持ち越しを排除し、それらにより、コストを減少させ、サンプルのスループットを向上させる。
【0009】
種々の実施形態に従うと、マトリックスイオンの抑制能を有し、適切な導電性を有するMALDIプレートが提供される。少なくともそのプレートのサンプルスポット領域または標的表面に、疎水性コーティングが塗布され得、その少なくとも1部分の上に、マトリックス境界物質が適用される。このマトリックス境界物質は、例えば、αシアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(αCHCA)およびポリマーであり得る挿入剤(例えば、ニトロセルロース)の混合物であり得る。プレートは、第一にそのプレート表面に疎水性コーティングを適用することにより、調製され得る。このような疎水性コーティングは、分析サンプルおよびマトリックスの調製での液滴の拡散を減少させるために役立つ。種々の実施形態において、その疎水性コーティングは、一体型コーティングであり得る。一体型コーティングにより、出願人らは、本明細書中で、その一体型コーティングの分離を妨げる1つ以上の力の相互作用(例えば、疎水性相互作用、イオン性相互作用、ファンデルワールス力相互作用など)により創られ、その結果、そのコーティングが、その基板から無傷には剥がされ得ず、むしろそのコーティングは代表的に、化学的処理(例えば、溶媒の使用)または機械的な手段(例えば、研磨処理)により、除去され得る基板上の物理的コーティングを意味する。
【0010】
種々の実施形態に従うMALDIプレートの調製のためのコーティングの適した疎水性物質は、同時係属中の米国特許出願番号第10/227,088号に記載され、その開示は本明細書中に参照として援用される。この援用される参考文献と本出願との間に任意の差異または矛盾(定義される用語、用語の使用、記載される技術などを含むが、これらに限定されない)が存在する場合、本出願に従う。簡潔に述べると、合成ワックス(例えば、パラフィンワックス)、天然ワックス(例えば、蜜蝋)、脂質、エステル、有機酸、シリコンオイルまたはシリカポリマーが、その疎水性コーティングを形成するために有用な因子であり得る。これらの物質は、そのMALDIプレートに、純粋な物質として適用されても、互いの混合物として適用されても、市販の化学組成物(例えば、金属研磨ペースト剤または植物性油)の一部として適用されてもよい。種々の実施形態において、金属光沢剤の適用は、本教示に従う所望される疎水性表面を作製するために効果的である。
【0011】
上記疎水性コーティングは、サンプル液滴を、より小さな領域に集中させる助けをし、それによりプレート上のサンプル構成成分の濃度を増加させる効果的な手段を確立し、同様にレーザーの自動的な位置決めを補助する。その疎水性コーティングの形成に引き続き、そのプレートは、マトリックス材料と挿入剤(例えば、溶媒中のポリマー)の混合物でコーティングされ得、その溶媒においてその挿入剤およびマトリックス材料はいずれも可溶性である。そして出願人らは、このさらなるコーティングが、マトリックスイオンの形成を抑制するために役に立つことを見出した。なぜこれらの結果が得られたのか関してはいずれの特定の理論にも束縛されることを意図しないが、観察からそのサンプルスポットは著しく小さく、従ってそのサンプルスポットをより小さな領域に集中させることに加えて、マトリックス対サンプル分析物比が、減少したサンプルスポットにおいて極めて低い。このより理想的なマトリックス対分析物比は、有利なイオン化条件を導き、それによりその分析物の一次イオン化を促進する。
【0012】
適したマトリックス分子は、例えばαCHCA、ジヒドロキシ安息香酸(DHB)、シナピン酸(Sinapinic acid)、ジトラノール、ポルフィリンなどのMALDI−MS分析のために代表的に使用されるものを包含し得る。適したポリマー組成物は、ニトロセルロース、ポリカーボネート、酢酸セルロースなどを包含し得る。種々の実施形態において、ニトロセルロースは、アセトン中でαCHCAと混合され得、この溶液が、その疎水性コーティングされたプレート上の少なくともサンプル標的領域上に薄膜コーティングを形成するために使用され得る。0.25mg/mlと10mg/mlとの間の各構成成分のマトリックス濃度およびポリマー濃度が、観察されるMALDI−MSデータにおいて、マトリックス信号の抑制を提供することが示されている。種々の実施形態において、0.25mg/ml〜5mg/mlの各構成成分のマトリックス濃度およびポリマー濃度が、使用され得る。種々の実施形態において、0.5mg/mL〜2.5mg/mLのマトリックス濃度およびポリマー濃度が、使用され得る。種々の実施形態において、1mg/mL〜2mg/mLのマトリックス濃度およびポリマー濃度が、使用され得る。
【0013】
種々の実施形態において、複合コーティング(疎水性コーティングおよびマトリックス境界ポリマー)は、上記プレート表面に、薄膜(例えば、単分子膜)を形成し得る。そのプレートにその複合コーティングが塗布された後、分析物溶液の液滴が、その表面上に直接加えられ得、蒸発させられ得る。サンプルスポットがレーザーで照射され、目的の分析物の脱離およびイオン化を引き起こす場合、マトリックス材料および関連する付加物に対応するピークは、収集されたスペクトルに存在しなかった。この結果は、低質量領域における「きれいな」スペクトルを生成し、これは、干渉するマトリックスピークを欠くので、所望の低分子分析物を検出する能力を強化した。出願人らは、本教示において記載される技術が、低分子分析物に対するMSデータおよびMS/MS MALDIデータの両方の収集のために有用であり得ることを見出している。低分子分析物のMALDI−MS/MS分析におけるマトリックスイオンの抑制の顕著な利点は、目的の分子が、マトリックスイオンと同じまたは近い分子量を有する場合に観察される。そのマトリックスイオンの抑制は、所望される分析物のみを断片化させ、そして類似の質量電荷比のマトリックスイオンからの寄与が最小かまたは全くなしで、生成物イオンスペクトルが目的の分子のみを示すように生成される。
【0014】
マトリックス材料および境界ポリマー溶液を用いて上記プレートをコーティングするための方法は、薄膜コーティングを作製するための技術者に公知な方法を包含し、そしてスピンコーティング、ディップコーティング、ロールコーティングなどの技術を包含し得る。
【0015】
図1aは、分析される表面上に複数のサンプルスポット12を有する、本教示に従うMALDIサンプルプレート10を示す。そのプレートは、ステンレス鋼のような伝導性物質製であり得、そして四角形として示されているが、行われるMS分析のために適切な、任意の適した形状またはサイズであり得る。図1bは、そのプレート10の断面図である。上記疎水性コーティングおよび挿入剤混合物を含み得る複合コーティング14は、少なくともサンプル標的領域を覆い得、そして代表的に、プレート10の上面全体を覆い得る。その複合コーティング14は、誇張され、それを有限の厚さの層として示しているが、代表的にはその複合コーティングは、そのステンレス鋼のMALDIプレートに塗布される単分子膜のような薄膜であり得る。
【0016】
上述の記載ならびに以下の実施例は、MALDI−MSスペクトルデータの低質量領域(1,000ダルトン未満)におけるマトリックス信号に対応するピークの抑制のために使用され得るMALDIプレートの、調製および使用について記載する。
【実施例】
【0017】
本教示の局面は、以下の実施例に照らしてさらに理解され得、これはいずれの方法においても本教示の範囲を制限すると解釈されるべきではない。
【0018】
(実施例1:マトリックス抑制MALDIプレートの調製)
従来のステンレス鋼MALDIプレートの標的表面を、米国特許出願番号第10/227,088号の教示に従って、市販のPOL金属光沢剤で研磨した。その金属光沢剤を塗布し、そしてそのMALDIプレートを光るまで研磨してこのプロセスを完了すると、その金属光沢剤の構成成分がそのプレート表面に残り、一体型疎水性コーティングを形成した。ポリマー/マトリックスコーティング溶液を、アセトン中でαシアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸およびニトロセルロースを溶解させる(約50mgの各構成成分を計量してガラス容器に入れ、そして50mLのアセトン中で可溶化した)ことにより調製した。マトリックス境界ポリマー層を、100μLのこの溶液を、金属研磨されたMALDIプレートの標的領域上に塗布することにより形成した。次いでそのプレートを直ちに、8,000RPMにて20秒間スピンし、残った溶媒を蒸発させて、そのプレート表面上の疎水性コーティング上に薄いコーティングを生成し、これは種々の溶媒に溶解されているサンプルの堆積を受け入れられる状態である。
【0019】
(実施例2)
図2aおよび図2bは、ポリマーコーティング標的プレートの使用が、どのくらいマトリックスイオン干渉を減少させるのかを示す。米国特許出願番号第10/227,088号の教示に記載されるような、従来のMALDI乾燥液滴技術が、図2aに示される。この実施例において、60%アセトニトリル中の100ng/mLテトラヒドロゾリン(m/z 201)溶液の0.5μLアリコートを、7mg/mLのαシアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸の乾燥液滴へ加え、Voyager−DETM PROワークステーション(Applied Biosystems)で分析した。マトリックスイオンは、m/z 172、190、212、335および379にて容易に観察され得るように、このMALDI−TOF−MSスペクトルにおいて支配種(dominant species)である。図2bは、実施例1に与えられる手順により作製されたマトリックス境界ポリマーコーティングされたMALDIプレートへ加えられた、テトラヒドゾリンの同じサンプルのさらなる0.5μLアリコートの分析を示す。このスペクトルにおいて、ほとんどのマトリックス信号は除去され、一方m/z 201のその分析物信号は、明瞭に識別される。
【0020】
(実施例3)
図3aおよび図3bは、異なる分子を、実施例1に記載されるように調製したマトリックス境界ポリマーコーティングされたMALDIプレートを使用して分析した場合に観察された、抑制効果をさらに示す。従来のMALDI乾燥液滴技術を、図3aに示す。この実施例において、80%アセトニトリル中の100ng/mLベラパミル(m/z 455)溶液の0.5μLアリコートを、7mg/mLのαシアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸の乾燥液滴へ加え、Voyager−DETM PROワークステーション(Applied Biosystems)で分析した。m/z 172、190、212、335、379および441にて観察されたマトリックスイオンが、このMALDI−TOF−MSスペクトルを支配する(dominate)。図3bは、実施例1に与えられる手順により作製されたポリマーコーティングされたMALDI標的プレートに加えられたベラパミル溶液の同じサンプル由来の、さらなる0.5μLのアリコートを示す。このスペクトルにおいて、ほとんどのマトリックス信号が除去され、一方m/z 455の分析物信号は明瞭に識別される。
【0021】
(実施例4)
図4aおよび図4bはさらに、なお別の分子を、実施例1に記載されるように調製したマトリックス境界ポリマーコーティングされたMALDIプレートを使用して分析した場合に観察される抑制効果を示す。従来のMALDI乾燥液滴技術を、図4aに示す。この実施例において、80%アセトニトリル中の1000ng/mLハロペリドール(m/z 376)溶液の0.5μLアリコートを、7mg/mLのαシアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸の乾燥液滴へ加え、oMALDITM 2ソース(Applied Biosystems)を備えたQSTAR(登録商標)XLシステムで、TOF−MSモードにおいて分析した。172、190、335および379に観察されたマトリックスイオンが、このMALDI−TOF−MSスペクトルを支配した。図4bは、実施例1に与えられる手順により作製されたポリマーコーティングされたMALDI標的プレートに加えられたハロペリドール溶液の同じサンプル由来の、さらなる0.5μLのアリコートを示す。このスペクトルにおいて、ほとんどのマトリックス信号が除去され、一方m/z 376の分析物信号は明瞭に識別される。
【0022】
(実施例5)
図5は、本教示に従って調製されたマトリックス境界ポリマー薄膜MALDIプレート上にスポットされた、80%アセトニトリル中の1000ng/mLベラパミル溶液の0.5μLアリコートについての、oMALDITM 2ソース(Applied Biosystems)を備えたQSTAR(登録商標)XLシステムを使用して収集した、QqTOF−MSMSスペクトルを示す。このスペクトルは、マトリックスフラグメントイオンによる汚染を何も示さず、そしてMS/MSスキャンにおける分析物フラグメントイオンの明瞭な検出を示す。
【0023】
(実施例6)
図6は、本教示に従って調製されたマトリックス境界ポリマー薄膜MALDIプレート上にスポットされた、80%アセトニトリル中の1000ng/mLハロペリドール溶液の0.5μLアリコートについての、oMALDITM 2ソース(Applied Biosystems)を備えたQStar(登録商標)XLシステムを使用して収集した、QqTOF−MSMSスペクトルを示す。このスペクトルは、マトリックスフラグメントイオンによる汚染を何も示さず、そしてMS/MSスキャンにおける分析物フラグメントイオンの明瞭な検出を示す。
【0024】
(実施例7)
図7aは、ヒト肝細胞と共にインキュベートされた12.5μMパパベリンの5μLアリコートの、従来のLC−MALDI取得を示す。これらのスペクトルを、TOF/TOFTMオプティクス(Applied Biosystems)を備えた4700Proteomics Analyzerを使用して、TOF−MSモードにおいて収集した。このスペクトルは、マトリックスイオンがこのサンプルにおける支配種であることを明瞭に示し、そしてm/z 172、190、212、335、379および441に容易に観察され得る。親化合物および複数の代謝産物もまた、このスペクトルにおいて観察される。親化合物(m/z 340.1)をウェル43に見出し、脱メチル化代謝産物(m/z 326.1)をウェル40に見出し、水酸化代謝産物(m/z 356.1)をウェル44に見出し、そして水酸化/脱メチル化代謝産物(m/z 341.1)をウェル45に見出した。観察され得るように、いずれのこれらの分析物信号も、CHCA由来のシグナルと比較して示差的ではない。上記のLC−MALDI実験を、本教示に従って調製されたマトリックス境界ポリマー薄膜MALDIプレートを使用して、パパベリンの同じサンプルにおいて繰り返す場合、図7bに示されるように、マトリックスイオンの干渉が除去されたため、親質量ならびに3つの代謝産物は容易に検出および同定される。
【0025】
(実施例8)
図8aは、ヒト肝細胞においてインキュベートされた12.5μMリスペリドンの5μLアリコートの、従来のLC−MALDI取得を示す。これらのスペクトルを、TOF/TOFTMオプティクス(Applied Biosystems)を備えた4700Proteomics Analyzerを使用して、TOF−MSモードにおいて収集した。マトリックスイオンは、ちょうどそれらが先の実施例においてしたように、このMALDI−TOFスペクトルを支配する。質量のクラスターを識別し得、そして親化合物(m/z 411.2)ならびに水酸化代謝産物(m/z 427.2)および脱水素代謝産物(m/z 409.2)を同定し得る。いずれのこれらの分析物信号も、CHCA由来のシグナルと比較して示差的ではない。本発明者らが、本教示に従って調製したMALDIプレートを使用したLC−MALDI実験を繰り返す場合、図8bに示されるように、そのマトリックス信号のほとんどは除去されたが、一方m/z 411の分析物信号ならびにm/z 427およびm/z 409の一次代謝産物イオンは、明確に識別される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
当業者は、以下に記載される図面は、例示目的のみのためのものであることを理解する。この図面は、いずれの方法においても、本教示の範囲を制限することを意図されない。
【図1】図1aは、本教示に従うMALDIプレートの平面図である。図1bは、図1aに示されるMALDIプレートの断面である。
【図2】図2aは、従来のMALDI乾燥液滴サンプル調製技術を使用してスポットされたテトラヒドロゾリンサンプルに対するMALDI TOF−MSスペクトルを示す。図2bは、本教示に従って調製されたマトリックス境界ポリマーMALDIプレートの薄膜上にスポットされた、テトラヒドロゾリンの同じサンプルのさらなるアリコートのMALDI TOF−MSスペクトルを示す。
【図3】図3aは、従来のMALDI乾燥液滴サンプル調製技術を使用してスポットされたベラパミルに対するMALDI TOF−MSスペクトルを示す。図3bは、本教示に従って調製されたマトリックス境界ポリマーMALDIプレートの薄膜上にスポットされた、ベラパミルの同じサンプルのさらなるアリコートのMALDI TOF−MSスペクトルを示す。
【図4】図4aは、従来のMALDI乾燥液滴サンプル調製技術を使用してスポットされたハロペリドールサンプルに対するMALDI TOF−MSスペクトルを示す。図4bは、本教示に従って調製されたマトリックス境界ポリマーMALDIプレートの薄膜上にスポットされた、ハロペリドールの同じサンプルのさらなるアリコートのMALDI TOF−MSスペクトルを示す。
【図5】図5は、本教示に従って調製されたマトリックス境界ポリマーMALDIプレートの薄膜上にスポットされた、ベラパミルのサンプルから収集されたMALDI QqTOF−MS/MSスペクトルを示す。
【図6】図6は、本教示に従って調製されたマトリックス境界ポリマーMALDIプレートの薄膜上にスポットされた、ハロペリドールのサンプルから収集されたMALDI QqTOF−MS/MSスペクトルを示す。
【図7】図7aは、ヒト肝細胞においてインキュベートされ、そして従来のMALDI乾燥液滴サンプル調製技術を使用してスポットされた、パパベリンサンプルから得られたLC−MALDI TOF−MSスペクトルを示す。図7bは、ヒト肝細胞においてインキュベートされ、そして本教示に従って調製されたマトリックス境界ポリマーMALDIプレートの薄膜上にスポットされた、パパベリンサンプルから得られたLC−MALDI TOF−MSスペクトルを示す。
【図8】図8aは、ヒト肝細胞においてインキュベートされ、そして従来のMALDI乾燥液滴サンプル調製技術を使用してスポットされた、リスペリドンサンプルから得られたLC−MALDI TOF−MSスペクトルを示す。図8bは、ヒト肝細胞においてインキュベートされ、そして本教示に従って調製されたマトリックス境界ポリマーMALDIプレートの薄膜上にスポットされた、リスペリドンサンプルから得られたLC−MALDI TOF−MSスペクトルを示す。
【図1a】

【図1b】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
MALDI分析のためのサンプルプレートであって、該サンプルプレートは、第一の表面を有する導電性の基板を備え、該第一の表面の少なくとも一部が、疎水性コーティングおよびマトリックスと境界ポリマーとの薄膜混合物のコーティングを含む複合コーティングでコーティングされている、サンプルプレート。
【請求項2】
前記基板が、ステンレス鋼製である、請求項1に記載のサンプルプレート。
【請求項3】
前記マトリックスが、αシアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸である、請求項1に記載のサンプルプレート。
【請求項4】
前記境界ポリマーが、ニトロセルロースである、請求項1に記載のサンプルプレート。
【請求項5】
レーザー脱離によるイオン化の際に、質量電荷比が1,000ダルトンより少ないマトリックスイオンは抑制される、請求項1に記載のサンプルプレート。
【請求項6】
前記疎水性コーティングが、パラフィン組成物、脂質、脂肪酸、エステル、シリコンオイルもしくはワックスのうちのいずれか1つ、またはそれらの組み合わせの一体型コーティング、あるいは金属表面をきれいにし、かつ保護するために設計された前述のものの混合物を含む光沢剤を含む、請求項1に記載のサンプルプレート。
【請求項7】
MALDI MS分析またはMS−MS分析のためのサンプルプレートを作製するためのプロセスであって、該プロセスは、導電性の基板の第一の表面上に疎水性コーティングを形成する工程;ならびに、該第一の表面および該疎水性コーティング上に、マトリックスおよび境界ポリマーを含有する溶液中の混合物を用いて、第二のコーティングを形成し、該基板上に複合コーティングを形成する工程、を包含する、プロセス。
【請求項8】
前記マトリックスおよび境界ポリマーの混合物が、αシアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸およびニトロセルロースの混合物であり、該混合物のどちらの構成成分も、約1mg/mLと約2mg/mLとの間の濃度である、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記マトリックスおよび境界ポリマー混合物が、アセトン中のαシアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸およびニトロセルロースの混合物である、請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
前記疎水性コーティングが、パラフィン組成物、脂質、脂肪酸、エステル、シリコンオイルもしくはワックスのうちのいずれか1つ、またはそれらの組み合わせの一体型コーティング、あるいは金属表面をきれいにし、かつ保護するために設計された前述のものの混合物を含む光沢剤を含む、請求項7に記載のプロセス。
【請求項11】
前記導電性の基板が、ステンレス鋼である、請求項7に記載のプロセス。
【請求項12】
レーザー脱離によるイオン化の際に、質量電荷比が1,000ダルトンより少ないマトリックスイオンは抑制される、請求項7に記載のプロセス。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−502980(P2007−502980A)
【公表日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523898(P2006−523898)
【出願日】平成16年8月9日(2004.8.9)
【国際出願番号】PCT/US2004/025631
【国際公開番号】WO2005/022583
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(505123697)アプレラ コーポレイション (21)
【Fターム(参考)】