MEMS共振器およびそれを用いた電気機器
【課題】装置を大型化、高コスト化することなく、共振周波数の変動を低減したMEMS共振器を提供する。
【解決手段】静電力が印加されると機械的に振動する梁状の振動子101と、前記振動子101を振動可能に支持する支持部と、空隙103を介して前記振動子101と対向する面を有する少なくとも1つの電極102とを有し、前記振動子101の振動により発生する電流を前記振動子101又は前記少なくとも1つの電極102に接続された出力端子を介して出力するMEMS共振器200であって、前記振動子は前記梁の長手軸を中心としたねじり共振モードで振動を行い、前記振動子101および前記電極102の互いに対向する面は、互いに異なる導電型の半導体からなり、前記振動子101において、前記電極102に対向する面を含む表面部分111は、他の部分より高い密度で不純物がドープされている。
【解決手段】静電力が印加されると機械的に振動する梁状の振動子101と、前記振動子101を振動可能に支持する支持部と、空隙103を介して前記振動子101と対向する面を有する少なくとも1つの電極102とを有し、前記振動子101の振動により発生する電流を前記振動子101又は前記少なくとも1つの電極102に接続された出力端子を介して出力するMEMS共振器200であって、前記振動子は前記梁の長手軸を中心としたねじり共振モードで振動を行い、前記振動子101および前記電極102の互いに対向する面は、互いに異なる導電型の半導体からなり、前記振動子101において、前記電極102に対向する面を含む表面部分111は、他の部分より高い密度で不純物がドープされている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS共振器およびそれを用いた電気機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
MEMS素子(MEMS:Micro Electro Mechanical Systems:微小電気機械システムまたは微小電気機械装置)は、高周波・無線、光、加速度センサ、バイオ、およびパワーなど、多くの分野において応用が期待されている。MEMS素子は、従来の回路部品と比較して小型であること、および半導体製造と親和性を有する製造方法で製造されることから、電気機器の小型化、集積化、および低コスト化の実現を可能にする。
【0003】
家電機器および情報通信機器が普及するにつれて、回路部品の小型化が望まれている。具体的には、IC(Integrated Circuit;集積回路)チップに外付けされる共振器、フィルタ、およびスイッチなどの部品の小型化、ならびにチップへの内蔵化が望まれている。これらの部品のうち、特定の信号を発生する発振器において用いられる共振器としては、水晶共振器等が用いられている。この水晶共振器は、小型化が困難な回路部品である。
【0004】
水晶共振器に代わる部品として、MEMS技術を利用して作製されるMEMS共振器が有望視されている。MEMS共振器とは、微小な振動子の機械的な共振周波数と同等の周波数の電気信号を発生する素子であり、振動子と、振動子と対向する少なくとも1つの電極とで構成され、振動子および当該少なくとも1つの電極のうち、いずれか1つを励振電極とし、別の1つを検出電極とする。励振電極に入力した高周波信号の電圧振幅と、振動子に印加した直流の駆動電圧とにより振動子に静電力を加えると、振動子が励振される。振動子の振動に伴って、振動子と検出電極との距離および静電容量が変化する。駆動電圧が印加されているために、MEMS共振器への給電およびMEMS共振器からの放電が繰り返されて、MEMS共振器から交流信号が出力される。出力される信号は、複数の周波数を含む高周波信号のうち、振動子の機械的な共振周波数に相当する高周波信号のみである。したがって、MEMS共振器は、信号周波数選択素子(フィルタ)として機能する。
【0005】
MEMS共振器は、前記MEMS素子の利点を有するものである。そのため、MEMS共振器は、従来適用されている水晶共振器などと比較して、発振器の小型化に大きく貢献する素子として期待されている。
【0006】
また、MEMS共振器の出力信号を増大させる方法として、特許文献1には、振動子および電極の材料として、それぞれp型およびn型半導体を用いた構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−116700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一実施形態は、装置を大型化および高コスト化することなく、共振周波数の変動が低減されるMEMS共振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明は一実施形態として、
静電力が印加されると機械的に振動する梁状の振動子と、
前記振動子を振動可能に支持する支持部と、
空隙を介して前記振動子と対向する面を有する少なくとも1つの電極とを有し、
前記振動子および前記少なくとも1つの電極のうちの1つが入力電極であり、他の1つが出力電極であり、
前記入力電極に接続された入力端子を介して印加される交流信号により生じる静電力によって前記振動子が励振されて、前記振動子の振動により発生する電流を前記出力電極に接続された出力端子を介して出力するMEMS共振器であって、
前記振動子は前記梁の長手軸を中心としたねじり共振モードで振動を行い、
前記振動子および前記電極の互いに対向する面は、不純物がドープされた、互いに異なる導電型の半導体からなり、
前記振動子において、前記電極に対向する面を含む表面部分は、他の部分より高い密度で不純物がドープされている、
MEMS共振器を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の上記一実施形態によれば、装置を大型化および高コスト化することなく、共振周波数の変動が低減されたMEMS共振器を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施の形態1におけるMEMS共振器の構成を示す横断面図
【図2】実施の形態1におけるMEMS共振器のバンド図
【図3】実施の形態1におけるMEMS共振器の出力信号の駆動電圧依存性を示すグラフ
【図4】実施の形態1の変形例におけるMEMS共振器の構成を示す横断面図
【図5】実施の形態2におけるMEMS共振器の構成を示す横断面図
【図6】実施の形態3におけるMEMS共振器の構成を示す横断面図
【図7】実施の形態4におけるMEMS共振器の構成を示す横断面図
【図8(a)】実施の形態5のMEMS共振器の製造方法の工程を示す横断面図
【図8(b)】実施の形態5のMEMS共振器の製造方法の工程を示す横断面図
【図8(c)】実施の形態5のMEMS共振器の製造方法の工程を示す横断面図
【図8(d)】実施の形態5のMEMS共振器の製造方法の工程を示す横断面図
【図8(e)】実施の形態5のMEMS共振器の製造方法の工程を示す横断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
(本発明に係る一実施形態を得るに至った経緯)
MEMS共振器においては、電極と振動子との間に直流電位差を設ける必要がある。そのため、電極または振動子には直流電源が接続されている。しかし、直流電源を用いた場合には、負荷変動および温度変動により電圧が変動し、それによりMEMS共振器の共振周波数が変動するという問題が発生する。この問題を解決するために、直流電源をより安定な電源とすることにより、電圧変動を小さくすることも可能である。しかし、電圧変動を小さくするためには、高性能な直流電源が必要となる。そのような直流電源の使用は、装置の大型化および高コスト化をもたらす。
【0013】
本発明の一実施形態は、振動子が梁状であって、その長手軸を中心としたねじり共振モードで振動を行うこと、および振動子および電極の互いに対向する面は、不純物がドープされた、互いに異なる導電型の半導体からなり、振動子において、電極に対向する面を含む表面部分が、他の部分より高い密度で不純物がドープされていることを特徴とする。これらの特徴により、電極と振動子との間に生ずるフラットバンド電圧を振動子の駆動のために利用することができ、直流電源の出力電圧を小さくしても共振器の駆動が可能となる。その結果、直流電源の電圧変動を相対的に小さくすることができ、共振周波数の変動を低減できる。また、振動子において不純物の密度の低い部分が存在するので、振動子におけるエネルギー損失を比較的小さくすることができる。
【0014】
また、共振器の構成および材料を選択することにより、直流電源の出力電圧を0Vとしても共振器を駆動させることが可能となる。すなわち、直流電源を用いずに直接接地しても共振器を駆動させることが可能となる。この場合には、フラットバンド電圧による安定した電圧が印加されるため、直流電源に起因する電圧変動が発生せず、共振周波数の変動をより低減することが可能となる。
【0015】
(態様1)
態様1は、
静電力が印加されると機械的に振動する梁状の振動子と、
前記振動子を振動可能に支持する支持部と、
空隙を介して前記振動子と対向する面を有する少なくとも1つの電極とを有し、
前記振動子および前記少なくとも1つの電極のうちの1つが入力電極であり、他の1つが出力電極であり、
前記入力電極に接続された入力端子を介して印加される交流信号により生じる静電力によって前記振動子が励振されて、前記振動子の振動により発生する電流を前記出力電極に接続された出力端子を介して出力するMEMS共振器であって、
前記振動子は前記梁の長手軸を中心としたねじり共振モードで振動を行い、
前記振動子および前記電極の互いに対向する面は、不純物がドープされた、互いに異なる導電型の半導体からなり、
前記振動子において、前記電極に対向する面を含む表面部分は、他の部分より高い密度で不純物がドープされている、
MEMS共振器である。
【0016】
(態様2)
態様2は、直流電源と接続する端子を有しない、態様1のMEMS共振器である。
【0017】
(態様3)
態様3は、前記不純物の密度は、1015/cm3以上、1020/cm3以下である、態様1または2に記載のMEMS共振器である。
(態様4)
態様4は、前記振動子において、前記表面部分のみに不純物がドープされている、態様1〜3のいずれかのMEMS共振器である。
【0018】
(態様5)
態様5は、
前記少なくとも1つの電極は、前記振動子の異なる面に対向する2つの電極であり、
前記2つの電極の一方が前記入力電極であり、前記2つの電極の他方が前記出力電極であり、
前記振動子は接地されるようになっている、態様1のMEMS共振器である。
【0019】
(態様6)
態様6は、
態様1〜5のMEMS共振器と、
直流電源と、
集積回路と、
を有し、
前記MEMS共振器が前記集積回路と接続されており、直流電源と接続されていない、
モジュールである。
【0020】
(態様7)
態様7は、
筐体をさらに含み、
前記MEMS共振器が前記筐体に接地されている、
態様6のモジュールである。
【0021】
(態様8)
態様8は、態様1〜5のいずれかのMEMS共振器を含む、電気機器である。
(態様9)
態様9は、態様6または7のモジュールを含む、電気機器である。
【0022】
(態様10)
態様10は、
態様1〜5のいずれかのMEMS共振器を用いて、前記振動子の機械的な共振周波数に相当する周波数の信号を発信させる方法であって、
前記MEMS共振器において、前記振動子および前記電極の互いに対向する面で発生するフラットバンド電圧のみを駆動電圧とする、
信号発信方法である。
【0023】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態におけるMEMS共振器の振動子および電極の構成を示す横断面図である。図1に示すMEMS共振器100は、可動な振動子101、および電極102を具備する。図1は、振動子101の長手方向に対して垂直な面の断面を示しており、振動子101は三角形の断面を有する梁状構造体である。振動子101は、長手軸(図の紙面に対して垂直な方向)を中心としたねじり共振モードで振動する。図1において、振動子101と電極102とが、振動子101の傾斜した側面にて対向して、静電容量を形成している。
【0024】
図示した形態において、振動子101が出力電極(即ち、検出電極)であり、電極102が入力電極(即ち、励振電極)である。振動子101が出力する信号は、振動101を振動可能に支持する支持部(図示せず)から出力される。さらに、図示した形態においては、振動子101の支持部に直流電源が接続されて、振動子101と電極102との間に、直流電圧が印加されている。
【0025】
図1に示すMEMS共振器100において、振動子101および電極102は、SiまたはSiGeなどの半導体材料であって、不純物が高密度でドープされた半導体材料で形成されている。振動子101および電極102は、互いに対向する面が互いに異なる導電型の半導体からなるように形成され、例えば、振動子101をp型半導体材料で形成したときには、電極102はn型半導体材料で形成され、振動子101をn型半導体材料で形成したときには、電極102はp型半導体材料で形成される。振動子101と電極102が対向する面のうち、少なくとも一方、好ましくは両方の面において、不純物密度は、アクセプタ密度NAまたはドナー密度NDが1015/cm3以上1020/cm3以下であるようにすることが好ましい。この範囲内に不純物密度がある場合には、後述するフラットバンド電圧を大きくし得る。
【0026】
この構成の微小電気機械共振器100においては、互いに異なる導電型の半導体が面しているために、振動子101と電極102のフェルミ準位EFの差を大きくすることが可能となり、フラットバンド電圧VFBを増大させることが可能となる。振動子101/ギャップ103/電極102によって、半導体/絶縁体/半導体の接合系が形成された場合、振動子101と電極102のフェルミ準位を同一のエネルギーレベルにするために接合界面のエネルギー準位が曲がる。この曲がったエネルギー準位を平坦にするのに必要な電圧がフラットバンド電圧VFBである。
【0027】
フラットバンド電圧により振動子101および電極102の対向表面に電荷が励起されるため、この電荷を出力信号に加えることにより出力信号が増大する仕組みである。つまり、振動子101に印加する、振動に必要な駆動電圧VDCの一部がフラットバンド電圧により得られるため、直流電源から供給する電圧を低減することができる。このため、直流電源に起因する負荷変動および温度変動が振動子の電位に与える影響を低減し、共振周波数の変動を低減することが可能となる。
【0028】
フラットバンド電圧VFBは、振動子101と電極102のフェルミ準位EFの差に相当し次式で表される。この数式は、振動子101および電極102をそれぞれ、p型半導体およびn型半導体を用いて形成した場合の数式である。
【0029】
【数1】
【0030】
式中、kはボルツマン定数、Tは温度、qは素電荷、niは真性半導体のキャリア密度である。
フラットバンド電圧を増大させると、蓄積される電荷量が増大し、出力信号を増大することが可能となる。このため、振動子101および電極102の少なくとも一方、好ましくは両方を高ドープ半導体とし、フェルミ準位の差を増大させることにより、フラットバンド電圧を増大させる構成とする。
【0031】
アクセプタ密度NAまたはドナー密度NDを1015/cm3よりも小さくした場合、振動子101と電極102のフェルミ準位の差およびフラットバンド電圧が小さくなり、直流電源の出力電圧を小さくする効果が十分に得られない。また、半導体におけるアクセプタ密度NAまたはドナー密度NDは、現時点では技術的に約1020/cm3が上限値である。尤も、本実施の形態において、アクセプタ密度NAまたはドナー密度NDの上限値は制限されず、更に大きくすることが可能となれば、1020/cm3以上であることが好ましい。
【0032】
例えば、振動子101をn型半導体で形成し、電極をp型半導体で形成した場合のバンド図を図2に示す。この場合、n型半導体の振動子101に直流電源から電圧を印加することによって発生する、振動子101および電極102の対向表面の電荷に加え、フラットバンド電圧VFBにより振動子101および電極102の対向表面に電荷が励起される。
【0033】
アクセプタ密度NAを1019/cm3、ドナー密度NDを1020/cm3とした場合、フラットバンド電圧VFBは1.1Vとなる。出力信号の駆動電圧依存性を測定した実験により得られたグラフを図3に示す。図示するように、出力信号は駆動電圧が−から+に変化するときに対称的に変化し、フラットバンド電圧は、対称的に変化する出力信号における対称中心の0Vからずれ量として測定される。図3に示すように、対称中心の0Vからのずれ量は、1.1Vである。
【0034】
かかる構成によれば、必要な駆動電圧のうち、1.1Vをフラットバンド電圧により得られる。したがって、所望の出力信号を得るために直流電源から供給する電圧を、フラットバンド電圧が0Vであるときと比較して1.1Vだけ低減することができる。本実施形態のMEMS共振器においては、十分な大きさの出力信号を得るために、駆動電圧として2.9V程度が必要であるから、直流電源から供給する電圧は、2.9Vから1.8Vへと低減することができる。一般に、負荷変動および温度変化による直流電源の電圧変動は、直流電源の出力電圧が大きいほど大きい。よって、本実施の形態のMEMS共振器は、駆動電圧の変動を低減でき、共振周波数の変動を小さくすることを可能にする。
【0035】
さらに、振動子101と電極102との間のギャップ等の設計により駆動電圧を小さくし、あるいは、フラットバンド電圧がより大きくなる材料を選択することにより、直流電源を用いないことが可能である。その場合には振動子101を直接接地することも可能である。図4に、本実施の形態の変形例であって、直流電源を設けない変形例のMEMS共振器110を示す。この変形例においては、振動子101が直接接地されている。このため、振動子の電位は直流電源に起因する負荷変動および温度変動に影響されず安定する。したがって、共振周波数の変動をより低減することが可能となる。接地は、例えば、MEMS共振器を、MEMS共振器110を収容する筐体(例えば、モジュールを構成する部品を収容する筐体)に接続することにより行ってよい。
【0036】
さらに別の変形例においては、直流電源を設けず、かつ振動子101を接地しない構成を採用してよい。その場合、振動子101の電位は、振動子101の支持部に接続された出力端子(振動子101が入力電極である場合には入力端子)が接続されている部品または要素の電位によって決定される。そのような変形例のMEMS共振器は、部品点数を少なくし得る、また組み立てのプロセスをより簡単なものにし得る。
【0037】
なお、不純物密度、ならびに振動子101および電極102に適用する半導体の導電型の種類は、製造容易性およびコストを勘案して、適宜選択することができる。
また、別の変形例においては、振動子101を入力電極(即ち、励振電極)とし、電極102を出力電極(即ち、検出電極)とし、電極102に直流電源からの駆動電圧を印加する構成とすることができる。
【0038】
上記したように、フラットバンド電圧の値は小さな値である。よって、駆動電圧が4.0V以上の駆動電圧を必要とする、たわみ振動モード(振動方向が一軸方向である振動モード)のMEMS共振器においては、フラットバンド電圧が、直流電源からの電圧を低減させる効果はほとんど得られない。即ち、駆動電圧が大きい場合には、フラットバンド電圧を利用しても、なお相当の駆動電圧を直流電源から供給する必要があるために、直流電源に由来する駆動電圧の減少率が小さい。したがって、フラットバンド電圧による共振周波数の変動の低減はほとんど見られない。しかし、本実施の形態のような、ねじり振動モードのMEMS共振器は小さい駆動電圧で、大きな出力信号を得ることを可能にする。そのため、フラットバンド電圧を利用することにより、直流電源に由来する電圧が駆動電圧に占める割合をより低くすることができ、場合によっては直流電源を無くすことができる。それにより、本実施の形態のMEMS共振器においては、共振周波数の変動をより有意に低減することができる。
【0039】
(実施の形態2)
図5は、実施の形態2におけるMEMS共振器の振動子および電極の構成を示す横断面図である。図5に示すMEMS共振器200は、実施の形態1の共振器100と同様に、断面が三角形の梁状構造体である振動子101、および電極102を具備する。この形態において、振動子101は出力電極であり、電極102は入力電極である。振動子101が出力する信号は、振動子101を振動可能に支持する支持部(図示せず)から出力される。図5において、振動子101と電極102とが、振動子101の傾斜した側面にて対向していて、静電容量を形成している。
【0040】
図5に示すMEMS共振器200は、振動子101の電極102に対向する面を含む表面部分において、他の部分より高い密度で不純物がドープされている高ドープ領域111が形成されている点、および直流電源が接続されず、振動子101が直接接地されている点において、実施の形態1の共振器100とは異なる。フラットバンド電圧に関係する表面にのみ、高濃度にドープすることにより、より高い不純物密度を実現することが容易であり、より大きなフラットバンド電圧を発生させることができる。したがって、MEMS共振器200は、直流電源を用いなくとも駆動させることができる。
【0041】
図示する形状の振動子101は、電極102と対向する表面が傾斜面である。この傾斜面には、容易に不純物を添加することができるから、図5に示すMEMS共振器200の構成は比較的容易に得ることができる。具体的には、振動子101を形成し、不純物注入工程を行った後、電極102を形成し、電極102への不純物注入工程を行った後、犠牲層エッチングによってギャップ103を形成することにより、図5に示す形態のMEMS共振器を得ることができる。
【0042】
高ドープ領域111の好ましい不純物密度(アクセプタ密度またはドナー密度)は、実施の形態1に関連して説明したとおりである。
【0043】
振動子101において、高ドープ領域111(即ち、表面部分)以外の部分は、不純物がより低い密度でドープされた半導体からなる低ドープ領域であってもよいし、あるいは不純物がドープされていない半導体からなる領域であってもよい。表面部分以外の部分の不純物密度が低いほど、当該部分における結晶格子がより規則的となる。そのため、振動子101が共振するときに当該部分を弾性波が伝わりやすく、振動子101におけるエネルギー損失がより少なくなり、高Q値がより維持されやすい。
【0044】
振動子101において、高ドープ領域111以外の部分が低ドープ領域である場合、低ドープ領域における不純物密度は、例えば1015/cm3未満である。高ドープ領域111は、振動子101の表面から1nm〜100nmの深さまで形成されていてよい。あるいは、高ドープ領域と低ドープ領域はその境界が明確でなくてもよく、例えば、振動子101の表面から中心に向かってドープ密度が、連続的に又は段階的に減少していてもよい。
【0045】
本実施の形態の変形例においては、振動子の電極と対向する面に加えて、またはこれに代えて、電極の振動子と対向する面に高ドープ領域を形成してよい。
【0046】
本実施の形態では、振動子および/または電極の表面に不純物を高濃度でドープするため、フラットバンド電圧をより大きくすることが可能となり、図5に示すように、直流電源を用いずに、振動子101を直接接地することができる。したがって、本実施の形態のMEMS共振器200においては、図4を参照して説明したMEMS共振器110と同様に、振動子の電位は直流電源に起因する負荷変動および温度変動に影響されずに安定し、共振周波数の変動がより低減する。直流電源は必要に応じて用いてよく、その場合には、図1を参照して説明したMEMS共振器100に関連して説明した効果を得ることができる。本実施の形態においても、接地は、振動子101を、MEMS共振器200を収容している筐体に接続することによって行ってよい。
【0047】
さらに、本実施の形態においては、三角断面振動子のねじり振動モードを利用したMEMS共振器において、振動子101の表面のみを高ドープ領域111とし、振動子101の内部をより規則的な結晶格子を有する半導体(例えば、単結晶Si)とすることができる。よって、本実施の形態のMEMS共振器は、振動子101におけるエネルギー損失をより小さくして、より高いQ値を維持することができる。
【0048】
本実施の形態においても、実施の形態1に関連して説明したように、振動子101を接地しない構成を採用してよい。
【0049】
(実施の形態3)
図6は、実施の形態3におけるMEMS共振器の振動子および電極の構成を示す横断面図である。
図6に示すMEMS共振器300は、可動な振動子101、入力電極1021、および出力電極1022を具備する。図6に示すMEMS共振器300においては、振動子101と入力電極1021、振動子101と出力電極1022が、振動子101の傾斜した2つの側面にてそれぞれ対向している。また、振動子101に、これを振動可能に支持する支持部(図示せず)を介して直流電源が接続されて、振動子101と電極1021および電極1022との間に、直流電圧が印加されている。振動子101は、電極1021に印加される交流電圧により励振されて、電極1022から共振周波数に相当する高周波信号が出力される。
【0050】
図6に示す微小電気機械共振器300において、振動子101、ならびに入力電極1021および出力電極1022は、SiまたはSiGeなどの半導体材料で形成されている。図示した形態において、振動子101は、不純物が高密度でドープされたp型半導体で形成され、入力電極1021および出力電極1022は、それとは反対の導電型である半導体材料、即ち、n型半導体材料で形成されている。ギャップ103に面している振動子101、入力電極1021、および出力電極1022の面はいずれも、実施の形態1に関連して説明した不純物密度(アクセプタ密度またはドナー密度)を有する半導体によって形成されることが好ましい。
【0051】
本実施の形態においては、入力電極1021および出力電極1022に対して、振動子101には、常にフラットバンド電圧の電位差が印加されていることとなる。そのため、所望の大きさの出力信号を取り出すのに必要な、直流電源から振動子101に印加される直流電圧を小さくできる。さらに、この実施の形態の変形例においても、MEMS共振器のギャップ等の設計により駆動電圧を小さくし、または、フラット電圧がより大きくなる材料を選択することにより、直流電源を用いずに、振動子101を直接接地することも可能である。
【0052】
本実施の形態の変形例においても、実施の形態1に関連して説明したように、振動子101を接地しない構成を採用してよい。
【0053】
(実施の形態4)
図7は、実施の形態4におけるMEMS共振器の振動子および電極の構成を示す横断面図である。図7に示す微小電気機械共振器400は、振動子101の表面部分に高ドープ領域111が形成されている点、および直流電源が接続されず、振動子101が直接接地されている点において、図6のMEMS共振器300とは異なる。
【0054】
このMEMS共振器400は、実施の形態2で説明したMEMS共振器200と、振動子101の表面部分に高ドープ領域111が形成されている点において共通する。したがって、実施の形態2に関連して説明したように、この構成によれば、励起電極1021と振動子101の間に生ずるフラットバンド電圧をより大きくして、低駆動電圧で励起電極1021と振動子101の電位差をより増大させることが可能となる。その結果、直流電源により駆動電圧を印加しなくとも、フラットバンド電圧のみを駆動電圧として用いて、振動子101の励振および共振器400の駆動が可能となる。また、振動子101が直接接地されているため、フラットバンド電圧により安定した電圧を振動子101に加えることが可能である。よって、本実施の形態によれば、直流電源を用いた場合に生じる負荷変動および温度変動による電圧変動の影響がなく、共振周波数の変動を回避することができる。
【0055】
高ドープ領域111の好ましい不純物密度(アクセプタ密度またはドナー密度)は、実施の形態1に関連して説明したとおりである。
【0056】
また、本実施の形態の変形例においても、実施の形態1に関連して説明したように、振動子101を接地しない構成を採用してよい。
【0057】
(実施の形態5)
実施の形態5として、図7に示す構成のMEMS共振器400の製造方法を説明する。MEMS共振器は、半導体製造などにおいて用いられている薄膜形成プロセス(CVD法、スパッタリング法、または蒸着法など)およびパターニングプロセスにより、製造することができる。その手順は、図8(a)〜図8(e)に示すとおりである。
【0058】
具体的には、まず、図8(a)に示すように、基板109上に、支持層108、および振動子101が形成され、フォトリソグラフィー、および異方性エッチングなどのプロセスにより、振動子101がパターニングされ、三角断面振動子の傾斜面が形成される。基板109は、Siなどの半導体材料、支持層108は、SiO2などの半導体材料、振動子101は、SiまたはSiGeなどの半導体材料からなる。
【0059】
次に、図8(b)に示すように、不純物注入工程により振動子101の表面に高ドープ領域111を形成する。高ドープ領域111は、不純物を高密度でドープすることにより形成され、不純物の種類に応じてp型またはn型のSiまたはSiGeなどの半導体材料からなる。p型のSiまたはSiGe等の半導体材料を形成する場合には、例えば、B(ホウ素)をドープする。n型のSiまたはSiGe等の半導体材料を形成する場合には、例えば、P(リン)をドープする。
【0060】
不純物密度、即ち、アクセプタ密度NAまたはドナー密度NDは、例えば、1015/cm3以上1020/cm3以下である。また、高ドープ領域111の厚さは、1nm以上100nm以下とすることができる。
【0061】
次に、図8(c)に示すように、振動子101と入力電極1021および出力電極1022との間のギャップ103を形成するために用いる犠牲層107を形成した後、フォトリソグラフィー、およびエッチングなどのプロセスにより、犠牲層107をパターニングする。犠牲層107は、SiO2などからなる。
【0062】
次に、図8(d)に示すように、入力電極1021および出力電極1022を形成した後、フォトリソグラフィー、およびエッチングなどのプロセスにより、入力電極1021および出力電極1022をパターニングする。入力電極1021および出力電極1022は、不純物が高密度でドープされたp型またはn型のSiまたはSiGeなどの半導体材料からなる。入力電極1021および出力電極1022における不純物密度、即ち、アクセプタ密度NAまたはドナー密度NDを1015/cm3以上1020/cm3以下とすることができる。
【0063】
次に、図8(e)に示すように、犠牲層107および支持層108の一部を除去し、両持ち梁構成の振動子101を得る。
【0064】
かかる製造方法によれば、振動子101の側壁を傾斜面とすることにより、振動子101の入力電極1021および出力電極1022と対向する面に、均一に不純物を注入することができる。
【0065】
前記のように、実施の形態1〜5として説明したMEMS共振器はいずれも、低電圧で駆動するねじり共振モードで振動する振動子を使用することと、導電型の異なる半導体が振動子および電極の表面を構成することとが相俟って、直流電源からの電圧が印加されなくても、駆動することができる。したがって、実施の形態1〜5のMEMS共振器は、他の要素または部品とともに回路基板に実装されるときに、直流電源と接続されることなく実装され得る。そのような実装が可能な場合、実施の形態1〜5のMEMS共振器は、直流電源と接続するための端子を有しないものであってよい。
【0066】
また、上記実施の形態のいずれかのMEMS共振器と、直流電源と、所定の機能を実行するための集積回路(IC)とを含むモジュールは、MEMS共振器が直流電源と接続されていないモジュールとして提供され得る。その場合、直流電源は、IC、および他の部品がある場合には当該部品を駆動するために使用され、MEMS共振器を駆動させる必要がないので、電圧の小さいものとすることができる。モジュールにおいて、MEMS共振器が直流電源と接続されていない場合、MEMS共振器は、例えば、MEMS共振器を収容する筐体に接地してよい。
【0067】
上記実施の形態のMEMS共振器ならびに上記実施の形態のいずれかのMEMS共振器を含むモジュールは、例えば、スイッチ素子、共振器、フィルタ、発振器、ジャイロスコープ、圧力センサ、および質量検出素子等のデバイス、ならびにそれらを用いた電機機器に広く適用され得る。電気機器は、例えば、携帯電話である。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の実施形態にかかる微小電気機械共振器は、発振器用共振器およびフィルタ共振器として、各種電気機器に用いられる。
【符号の説明】
【0069】
100、110、200、300、400 微小電気機械共振器
101 振動子
102 電極
1021 入力電極
1022 出力電極
103 ギャップ
107 犠牲層
108 支持層
109 基板
111 高ドープ領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS共振器およびそれを用いた電気機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
MEMS素子(MEMS:Micro Electro Mechanical Systems:微小電気機械システムまたは微小電気機械装置)は、高周波・無線、光、加速度センサ、バイオ、およびパワーなど、多くの分野において応用が期待されている。MEMS素子は、従来の回路部品と比較して小型であること、および半導体製造と親和性を有する製造方法で製造されることから、電気機器の小型化、集積化、および低コスト化の実現を可能にする。
【0003】
家電機器および情報通信機器が普及するにつれて、回路部品の小型化が望まれている。具体的には、IC(Integrated Circuit;集積回路)チップに外付けされる共振器、フィルタ、およびスイッチなどの部品の小型化、ならびにチップへの内蔵化が望まれている。これらの部品のうち、特定の信号を発生する発振器において用いられる共振器としては、水晶共振器等が用いられている。この水晶共振器は、小型化が困難な回路部品である。
【0004】
水晶共振器に代わる部品として、MEMS技術を利用して作製されるMEMS共振器が有望視されている。MEMS共振器とは、微小な振動子の機械的な共振周波数と同等の周波数の電気信号を発生する素子であり、振動子と、振動子と対向する少なくとも1つの電極とで構成され、振動子および当該少なくとも1つの電極のうち、いずれか1つを励振電極とし、別の1つを検出電極とする。励振電極に入力した高周波信号の電圧振幅と、振動子に印加した直流の駆動電圧とにより振動子に静電力を加えると、振動子が励振される。振動子の振動に伴って、振動子と検出電極との距離および静電容量が変化する。駆動電圧が印加されているために、MEMS共振器への給電およびMEMS共振器からの放電が繰り返されて、MEMS共振器から交流信号が出力される。出力される信号は、複数の周波数を含む高周波信号のうち、振動子の機械的な共振周波数に相当する高周波信号のみである。したがって、MEMS共振器は、信号周波数選択素子(フィルタ)として機能する。
【0005】
MEMS共振器は、前記MEMS素子の利点を有するものである。そのため、MEMS共振器は、従来適用されている水晶共振器などと比較して、発振器の小型化に大きく貢献する素子として期待されている。
【0006】
また、MEMS共振器の出力信号を増大させる方法として、特許文献1には、振動子および電極の材料として、それぞれp型およびn型半導体を用いた構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−116700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一実施形態は、装置を大型化および高コスト化することなく、共振周波数の変動が低減されるMEMS共振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明は一実施形態として、
静電力が印加されると機械的に振動する梁状の振動子と、
前記振動子を振動可能に支持する支持部と、
空隙を介して前記振動子と対向する面を有する少なくとも1つの電極とを有し、
前記振動子および前記少なくとも1つの電極のうちの1つが入力電極であり、他の1つが出力電極であり、
前記入力電極に接続された入力端子を介して印加される交流信号により生じる静電力によって前記振動子が励振されて、前記振動子の振動により発生する電流を前記出力電極に接続された出力端子を介して出力するMEMS共振器であって、
前記振動子は前記梁の長手軸を中心としたねじり共振モードで振動を行い、
前記振動子および前記電極の互いに対向する面は、不純物がドープされた、互いに異なる導電型の半導体からなり、
前記振動子において、前記電極に対向する面を含む表面部分は、他の部分より高い密度で不純物がドープされている、
MEMS共振器を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の上記一実施形態によれば、装置を大型化および高コスト化することなく、共振周波数の変動が低減されたMEMS共振器を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施の形態1におけるMEMS共振器の構成を示す横断面図
【図2】実施の形態1におけるMEMS共振器のバンド図
【図3】実施の形態1におけるMEMS共振器の出力信号の駆動電圧依存性を示すグラフ
【図4】実施の形態1の変形例におけるMEMS共振器の構成を示す横断面図
【図5】実施の形態2におけるMEMS共振器の構成を示す横断面図
【図6】実施の形態3におけるMEMS共振器の構成を示す横断面図
【図7】実施の形態4におけるMEMS共振器の構成を示す横断面図
【図8(a)】実施の形態5のMEMS共振器の製造方法の工程を示す横断面図
【図8(b)】実施の形態5のMEMS共振器の製造方法の工程を示す横断面図
【図8(c)】実施の形態5のMEMS共振器の製造方法の工程を示す横断面図
【図8(d)】実施の形態5のMEMS共振器の製造方法の工程を示す横断面図
【図8(e)】実施の形態5のMEMS共振器の製造方法の工程を示す横断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
(本発明に係る一実施形態を得るに至った経緯)
MEMS共振器においては、電極と振動子との間に直流電位差を設ける必要がある。そのため、電極または振動子には直流電源が接続されている。しかし、直流電源を用いた場合には、負荷変動および温度変動により電圧が変動し、それによりMEMS共振器の共振周波数が変動するという問題が発生する。この問題を解決するために、直流電源をより安定な電源とすることにより、電圧変動を小さくすることも可能である。しかし、電圧変動を小さくするためには、高性能な直流電源が必要となる。そのような直流電源の使用は、装置の大型化および高コスト化をもたらす。
【0013】
本発明の一実施形態は、振動子が梁状であって、その長手軸を中心としたねじり共振モードで振動を行うこと、および振動子および電極の互いに対向する面は、不純物がドープされた、互いに異なる導電型の半導体からなり、振動子において、電極に対向する面を含む表面部分が、他の部分より高い密度で不純物がドープされていることを特徴とする。これらの特徴により、電極と振動子との間に生ずるフラットバンド電圧を振動子の駆動のために利用することができ、直流電源の出力電圧を小さくしても共振器の駆動が可能となる。その結果、直流電源の電圧変動を相対的に小さくすることができ、共振周波数の変動を低減できる。また、振動子において不純物の密度の低い部分が存在するので、振動子におけるエネルギー損失を比較的小さくすることができる。
【0014】
また、共振器の構成および材料を選択することにより、直流電源の出力電圧を0Vとしても共振器を駆動させることが可能となる。すなわち、直流電源を用いずに直接接地しても共振器を駆動させることが可能となる。この場合には、フラットバンド電圧による安定した電圧が印加されるため、直流電源に起因する電圧変動が発生せず、共振周波数の変動をより低減することが可能となる。
【0015】
(態様1)
態様1は、
静電力が印加されると機械的に振動する梁状の振動子と、
前記振動子を振動可能に支持する支持部と、
空隙を介して前記振動子と対向する面を有する少なくとも1つの電極とを有し、
前記振動子および前記少なくとも1つの電極のうちの1つが入力電極であり、他の1つが出力電極であり、
前記入力電極に接続された入力端子を介して印加される交流信号により生じる静電力によって前記振動子が励振されて、前記振動子の振動により発生する電流を前記出力電極に接続された出力端子を介して出力するMEMS共振器であって、
前記振動子は前記梁の長手軸を中心としたねじり共振モードで振動を行い、
前記振動子および前記電極の互いに対向する面は、不純物がドープされた、互いに異なる導電型の半導体からなり、
前記振動子において、前記電極に対向する面を含む表面部分は、他の部分より高い密度で不純物がドープされている、
MEMS共振器である。
【0016】
(態様2)
態様2は、直流電源と接続する端子を有しない、態様1のMEMS共振器である。
【0017】
(態様3)
態様3は、前記不純物の密度は、1015/cm3以上、1020/cm3以下である、態様1または2に記載のMEMS共振器である。
(態様4)
態様4は、前記振動子において、前記表面部分のみに不純物がドープされている、態様1〜3のいずれかのMEMS共振器である。
【0018】
(態様5)
態様5は、
前記少なくとも1つの電極は、前記振動子の異なる面に対向する2つの電極であり、
前記2つの電極の一方が前記入力電極であり、前記2つの電極の他方が前記出力電極であり、
前記振動子は接地されるようになっている、態様1のMEMS共振器である。
【0019】
(態様6)
態様6は、
態様1〜5のMEMS共振器と、
直流電源と、
集積回路と、
を有し、
前記MEMS共振器が前記集積回路と接続されており、直流電源と接続されていない、
モジュールである。
【0020】
(態様7)
態様7は、
筐体をさらに含み、
前記MEMS共振器が前記筐体に接地されている、
態様6のモジュールである。
【0021】
(態様8)
態様8は、態様1〜5のいずれかのMEMS共振器を含む、電気機器である。
(態様9)
態様9は、態様6または7のモジュールを含む、電気機器である。
【0022】
(態様10)
態様10は、
態様1〜5のいずれかのMEMS共振器を用いて、前記振動子の機械的な共振周波数に相当する周波数の信号を発信させる方法であって、
前記MEMS共振器において、前記振動子および前記電極の互いに対向する面で発生するフラットバンド電圧のみを駆動電圧とする、
信号発信方法である。
【0023】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態におけるMEMS共振器の振動子および電極の構成を示す横断面図である。図1に示すMEMS共振器100は、可動な振動子101、および電極102を具備する。図1は、振動子101の長手方向に対して垂直な面の断面を示しており、振動子101は三角形の断面を有する梁状構造体である。振動子101は、長手軸(図の紙面に対して垂直な方向)を中心としたねじり共振モードで振動する。図1において、振動子101と電極102とが、振動子101の傾斜した側面にて対向して、静電容量を形成している。
【0024】
図示した形態において、振動子101が出力電極(即ち、検出電極)であり、電極102が入力電極(即ち、励振電極)である。振動子101が出力する信号は、振動101を振動可能に支持する支持部(図示せず)から出力される。さらに、図示した形態においては、振動子101の支持部に直流電源が接続されて、振動子101と電極102との間に、直流電圧が印加されている。
【0025】
図1に示すMEMS共振器100において、振動子101および電極102は、SiまたはSiGeなどの半導体材料であって、不純物が高密度でドープされた半導体材料で形成されている。振動子101および電極102は、互いに対向する面が互いに異なる導電型の半導体からなるように形成され、例えば、振動子101をp型半導体材料で形成したときには、電極102はn型半導体材料で形成され、振動子101をn型半導体材料で形成したときには、電極102はp型半導体材料で形成される。振動子101と電極102が対向する面のうち、少なくとも一方、好ましくは両方の面において、不純物密度は、アクセプタ密度NAまたはドナー密度NDが1015/cm3以上1020/cm3以下であるようにすることが好ましい。この範囲内に不純物密度がある場合には、後述するフラットバンド電圧を大きくし得る。
【0026】
この構成の微小電気機械共振器100においては、互いに異なる導電型の半導体が面しているために、振動子101と電極102のフェルミ準位EFの差を大きくすることが可能となり、フラットバンド電圧VFBを増大させることが可能となる。振動子101/ギャップ103/電極102によって、半導体/絶縁体/半導体の接合系が形成された場合、振動子101と電極102のフェルミ準位を同一のエネルギーレベルにするために接合界面のエネルギー準位が曲がる。この曲がったエネルギー準位を平坦にするのに必要な電圧がフラットバンド電圧VFBである。
【0027】
フラットバンド電圧により振動子101および電極102の対向表面に電荷が励起されるため、この電荷を出力信号に加えることにより出力信号が増大する仕組みである。つまり、振動子101に印加する、振動に必要な駆動電圧VDCの一部がフラットバンド電圧により得られるため、直流電源から供給する電圧を低減することができる。このため、直流電源に起因する負荷変動および温度変動が振動子の電位に与える影響を低減し、共振周波数の変動を低減することが可能となる。
【0028】
フラットバンド電圧VFBは、振動子101と電極102のフェルミ準位EFの差に相当し次式で表される。この数式は、振動子101および電極102をそれぞれ、p型半導体およびn型半導体を用いて形成した場合の数式である。
【0029】
【数1】
【0030】
式中、kはボルツマン定数、Tは温度、qは素電荷、niは真性半導体のキャリア密度である。
フラットバンド電圧を増大させると、蓄積される電荷量が増大し、出力信号を増大することが可能となる。このため、振動子101および電極102の少なくとも一方、好ましくは両方を高ドープ半導体とし、フェルミ準位の差を増大させることにより、フラットバンド電圧を増大させる構成とする。
【0031】
アクセプタ密度NAまたはドナー密度NDを1015/cm3よりも小さくした場合、振動子101と電極102のフェルミ準位の差およびフラットバンド電圧が小さくなり、直流電源の出力電圧を小さくする効果が十分に得られない。また、半導体におけるアクセプタ密度NAまたはドナー密度NDは、現時点では技術的に約1020/cm3が上限値である。尤も、本実施の形態において、アクセプタ密度NAまたはドナー密度NDの上限値は制限されず、更に大きくすることが可能となれば、1020/cm3以上であることが好ましい。
【0032】
例えば、振動子101をn型半導体で形成し、電極をp型半導体で形成した場合のバンド図を図2に示す。この場合、n型半導体の振動子101に直流電源から電圧を印加することによって発生する、振動子101および電極102の対向表面の電荷に加え、フラットバンド電圧VFBにより振動子101および電極102の対向表面に電荷が励起される。
【0033】
アクセプタ密度NAを1019/cm3、ドナー密度NDを1020/cm3とした場合、フラットバンド電圧VFBは1.1Vとなる。出力信号の駆動電圧依存性を測定した実験により得られたグラフを図3に示す。図示するように、出力信号は駆動電圧が−から+に変化するときに対称的に変化し、フラットバンド電圧は、対称的に変化する出力信号における対称中心の0Vからずれ量として測定される。図3に示すように、対称中心の0Vからのずれ量は、1.1Vである。
【0034】
かかる構成によれば、必要な駆動電圧のうち、1.1Vをフラットバンド電圧により得られる。したがって、所望の出力信号を得るために直流電源から供給する電圧を、フラットバンド電圧が0Vであるときと比較して1.1Vだけ低減することができる。本実施形態のMEMS共振器においては、十分な大きさの出力信号を得るために、駆動電圧として2.9V程度が必要であるから、直流電源から供給する電圧は、2.9Vから1.8Vへと低減することができる。一般に、負荷変動および温度変化による直流電源の電圧変動は、直流電源の出力電圧が大きいほど大きい。よって、本実施の形態のMEMS共振器は、駆動電圧の変動を低減でき、共振周波数の変動を小さくすることを可能にする。
【0035】
さらに、振動子101と電極102との間のギャップ等の設計により駆動電圧を小さくし、あるいは、フラットバンド電圧がより大きくなる材料を選択することにより、直流電源を用いないことが可能である。その場合には振動子101を直接接地することも可能である。図4に、本実施の形態の変形例であって、直流電源を設けない変形例のMEMS共振器110を示す。この変形例においては、振動子101が直接接地されている。このため、振動子の電位は直流電源に起因する負荷変動および温度変動に影響されず安定する。したがって、共振周波数の変動をより低減することが可能となる。接地は、例えば、MEMS共振器を、MEMS共振器110を収容する筐体(例えば、モジュールを構成する部品を収容する筐体)に接続することにより行ってよい。
【0036】
さらに別の変形例においては、直流電源を設けず、かつ振動子101を接地しない構成を採用してよい。その場合、振動子101の電位は、振動子101の支持部に接続された出力端子(振動子101が入力電極である場合には入力端子)が接続されている部品または要素の電位によって決定される。そのような変形例のMEMS共振器は、部品点数を少なくし得る、また組み立てのプロセスをより簡単なものにし得る。
【0037】
なお、不純物密度、ならびに振動子101および電極102に適用する半導体の導電型の種類は、製造容易性およびコストを勘案して、適宜選択することができる。
また、別の変形例においては、振動子101を入力電極(即ち、励振電極)とし、電極102を出力電極(即ち、検出電極)とし、電極102に直流電源からの駆動電圧を印加する構成とすることができる。
【0038】
上記したように、フラットバンド電圧の値は小さな値である。よって、駆動電圧が4.0V以上の駆動電圧を必要とする、たわみ振動モード(振動方向が一軸方向である振動モード)のMEMS共振器においては、フラットバンド電圧が、直流電源からの電圧を低減させる効果はほとんど得られない。即ち、駆動電圧が大きい場合には、フラットバンド電圧を利用しても、なお相当の駆動電圧を直流電源から供給する必要があるために、直流電源に由来する駆動電圧の減少率が小さい。したがって、フラットバンド電圧による共振周波数の変動の低減はほとんど見られない。しかし、本実施の形態のような、ねじり振動モードのMEMS共振器は小さい駆動電圧で、大きな出力信号を得ることを可能にする。そのため、フラットバンド電圧を利用することにより、直流電源に由来する電圧が駆動電圧に占める割合をより低くすることができ、場合によっては直流電源を無くすことができる。それにより、本実施の形態のMEMS共振器においては、共振周波数の変動をより有意に低減することができる。
【0039】
(実施の形態2)
図5は、実施の形態2におけるMEMS共振器の振動子および電極の構成を示す横断面図である。図5に示すMEMS共振器200は、実施の形態1の共振器100と同様に、断面が三角形の梁状構造体である振動子101、および電極102を具備する。この形態において、振動子101は出力電極であり、電極102は入力電極である。振動子101が出力する信号は、振動子101を振動可能に支持する支持部(図示せず)から出力される。図5において、振動子101と電極102とが、振動子101の傾斜した側面にて対向していて、静電容量を形成している。
【0040】
図5に示すMEMS共振器200は、振動子101の電極102に対向する面を含む表面部分において、他の部分より高い密度で不純物がドープされている高ドープ領域111が形成されている点、および直流電源が接続されず、振動子101が直接接地されている点において、実施の形態1の共振器100とは異なる。フラットバンド電圧に関係する表面にのみ、高濃度にドープすることにより、より高い不純物密度を実現することが容易であり、より大きなフラットバンド電圧を発生させることができる。したがって、MEMS共振器200は、直流電源を用いなくとも駆動させることができる。
【0041】
図示する形状の振動子101は、電極102と対向する表面が傾斜面である。この傾斜面には、容易に不純物を添加することができるから、図5に示すMEMS共振器200の構成は比較的容易に得ることができる。具体的には、振動子101を形成し、不純物注入工程を行った後、電極102を形成し、電極102への不純物注入工程を行った後、犠牲層エッチングによってギャップ103を形成することにより、図5に示す形態のMEMS共振器を得ることができる。
【0042】
高ドープ領域111の好ましい不純物密度(アクセプタ密度またはドナー密度)は、実施の形態1に関連して説明したとおりである。
【0043】
振動子101において、高ドープ領域111(即ち、表面部分)以外の部分は、不純物がより低い密度でドープされた半導体からなる低ドープ領域であってもよいし、あるいは不純物がドープされていない半導体からなる領域であってもよい。表面部分以外の部分の不純物密度が低いほど、当該部分における結晶格子がより規則的となる。そのため、振動子101が共振するときに当該部分を弾性波が伝わりやすく、振動子101におけるエネルギー損失がより少なくなり、高Q値がより維持されやすい。
【0044】
振動子101において、高ドープ領域111以外の部分が低ドープ領域である場合、低ドープ領域における不純物密度は、例えば1015/cm3未満である。高ドープ領域111は、振動子101の表面から1nm〜100nmの深さまで形成されていてよい。あるいは、高ドープ領域と低ドープ領域はその境界が明確でなくてもよく、例えば、振動子101の表面から中心に向かってドープ密度が、連続的に又は段階的に減少していてもよい。
【0045】
本実施の形態の変形例においては、振動子の電極と対向する面に加えて、またはこれに代えて、電極の振動子と対向する面に高ドープ領域を形成してよい。
【0046】
本実施の形態では、振動子および/または電極の表面に不純物を高濃度でドープするため、フラットバンド電圧をより大きくすることが可能となり、図5に示すように、直流電源を用いずに、振動子101を直接接地することができる。したがって、本実施の形態のMEMS共振器200においては、図4を参照して説明したMEMS共振器110と同様に、振動子の電位は直流電源に起因する負荷変動および温度変動に影響されずに安定し、共振周波数の変動がより低減する。直流電源は必要に応じて用いてよく、その場合には、図1を参照して説明したMEMS共振器100に関連して説明した効果を得ることができる。本実施の形態においても、接地は、振動子101を、MEMS共振器200を収容している筐体に接続することによって行ってよい。
【0047】
さらに、本実施の形態においては、三角断面振動子のねじり振動モードを利用したMEMS共振器において、振動子101の表面のみを高ドープ領域111とし、振動子101の内部をより規則的な結晶格子を有する半導体(例えば、単結晶Si)とすることができる。よって、本実施の形態のMEMS共振器は、振動子101におけるエネルギー損失をより小さくして、より高いQ値を維持することができる。
【0048】
本実施の形態においても、実施の形態1に関連して説明したように、振動子101を接地しない構成を採用してよい。
【0049】
(実施の形態3)
図6は、実施の形態3におけるMEMS共振器の振動子および電極の構成を示す横断面図である。
図6に示すMEMS共振器300は、可動な振動子101、入力電極1021、および出力電極1022を具備する。図6に示すMEMS共振器300においては、振動子101と入力電極1021、振動子101と出力電極1022が、振動子101の傾斜した2つの側面にてそれぞれ対向している。また、振動子101に、これを振動可能に支持する支持部(図示せず)を介して直流電源が接続されて、振動子101と電極1021および電極1022との間に、直流電圧が印加されている。振動子101は、電極1021に印加される交流電圧により励振されて、電極1022から共振周波数に相当する高周波信号が出力される。
【0050】
図6に示す微小電気機械共振器300において、振動子101、ならびに入力電極1021および出力電極1022は、SiまたはSiGeなどの半導体材料で形成されている。図示した形態において、振動子101は、不純物が高密度でドープされたp型半導体で形成され、入力電極1021および出力電極1022は、それとは反対の導電型である半導体材料、即ち、n型半導体材料で形成されている。ギャップ103に面している振動子101、入力電極1021、および出力電極1022の面はいずれも、実施の形態1に関連して説明した不純物密度(アクセプタ密度またはドナー密度)を有する半導体によって形成されることが好ましい。
【0051】
本実施の形態においては、入力電極1021および出力電極1022に対して、振動子101には、常にフラットバンド電圧の電位差が印加されていることとなる。そのため、所望の大きさの出力信号を取り出すのに必要な、直流電源から振動子101に印加される直流電圧を小さくできる。さらに、この実施の形態の変形例においても、MEMS共振器のギャップ等の設計により駆動電圧を小さくし、または、フラット電圧がより大きくなる材料を選択することにより、直流電源を用いずに、振動子101を直接接地することも可能である。
【0052】
本実施の形態の変形例においても、実施の形態1に関連して説明したように、振動子101を接地しない構成を採用してよい。
【0053】
(実施の形態4)
図7は、実施の形態4におけるMEMS共振器の振動子および電極の構成を示す横断面図である。図7に示す微小電気機械共振器400は、振動子101の表面部分に高ドープ領域111が形成されている点、および直流電源が接続されず、振動子101が直接接地されている点において、図6のMEMS共振器300とは異なる。
【0054】
このMEMS共振器400は、実施の形態2で説明したMEMS共振器200と、振動子101の表面部分に高ドープ領域111が形成されている点において共通する。したがって、実施の形態2に関連して説明したように、この構成によれば、励起電極1021と振動子101の間に生ずるフラットバンド電圧をより大きくして、低駆動電圧で励起電極1021と振動子101の電位差をより増大させることが可能となる。その結果、直流電源により駆動電圧を印加しなくとも、フラットバンド電圧のみを駆動電圧として用いて、振動子101の励振および共振器400の駆動が可能となる。また、振動子101が直接接地されているため、フラットバンド電圧により安定した電圧を振動子101に加えることが可能である。よって、本実施の形態によれば、直流電源を用いた場合に生じる負荷変動および温度変動による電圧変動の影響がなく、共振周波数の変動を回避することができる。
【0055】
高ドープ領域111の好ましい不純物密度(アクセプタ密度またはドナー密度)は、実施の形態1に関連して説明したとおりである。
【0056】
また、本実施の形態の変形例においても、実施の形態1に関連して説明したように、振動子101を接地しない構成を採用してよい。
【0057】
(実施の形態5)
実施の形態5として、図7に示す構成のMEMS共振器400の製造方法を説明する。MEMS共振器は、半導体製造などにおいて用いられている薄膜形成プロセス(CVD法、スパッタリング法、または蒸着法など)およびパターニングプロセスにより、製造することができる。その手順は、図8(a)〜図8(e)に示すとおりである。
【0058】
具体的には、まず、図8(a)に示すように、基板109上に、支持層108、および振動子101が形成され、フォトリソグラフィー、および異方性エッチングなどのプロセスにより、振動子101がパターニングされ、三角断面振動子の傾斜面が形成される。基板109は、Siなどの半導体材料、支持層108は、SiO2などの半導体材料、振動子101は、SiまたはSiGeなどの半導体材料からなる。
【0059】
次に、図8(b)に示すように、不純物注入工程により振動子101の表面に高ドープ領域111を形成する。高ドープ領域111は、不純物を高密度でドープすることにより形成され、不純物の種類に応じてp型またはn型のSiまたはSiGeなどの半導体材料からなる。p型のSiまたはSiGe等の半導体材料を形成する場合には、例えば、B(ホウ素)をドープする。n型のSiまたはSiGe等の半導体材料を形成する場合には、例えば、P(リン)をドープする。
【0060】
不純物密度、即ち、アクセプタ密度NAまたはドナー密度NDは、例えば、1015/cm3以上1020/cm3以下である。また、高ドープ領域111の厚さは、1nm以上100nm以下とすることができる。
【0061】
次に、図8(c)に示すように、振動子101と入力電極1021および出力電極1022との間のギャップ103を形成するために用いる犠牲層107を形成した後、フォトリソグラフィー、およびエッチングなどのプロセスにより、犠牲層107をパターニングする。犠牲層107は、SiO2などからなる。
【0062】
次に、図8(d)に示すように、入力電極1021および出力電極1022を形成した後、フォトリソグラフィー、およびエッチングなどのプロセスにより、入力電極1021および出力電極1022をパターニングする。入力電極1021および出力電極1022は、不純物が高密度でドープされたp型またはn型のSiまたはSiGeなどの半導体材料からなる。入力電極1021および出力電極1022における不純物密度、即ち、アクセプタ密度NAまたはドナー密度NDを1015/cm3以上1020/cm3以下とすることができる。
【0063】
次に、図8(e)に示すように、犠牲層107および支持層108の一部を除去し、両持ち梁構成の振動子101を得る。
【0064】
かかる製造方法によれば、振動子101の側壁を傾斜面とすることにより、振動子101の入力電極1021および出力電極1022と対向する面に、均一に不純物を注入することができる。
【0065】
前記のように、実施の形態1〜5として説明したMEMS共振器はいずれも、低電圧で駆動するねじり共振モードで振動する振動子を使用することと、導電型の異なる半導体が振動子および電極の表面を構成することとが相俟って、直流電源からの電圧が印加されなくても、駆動することができる。したがって、実施の形態1〜5のMEMS共振器は、他の要素または部品とともに回路基板に実装されるときに、直流電源と接続されることなく実装され得る。そのような実装が可能な場合、実施の形態1〜5のMEMS共振器は、直流電源と接続するための端子を有しないものであってよい。
【0066】
また、上記実施の形態のいずれかのMEMS共振器と、直流電源と、所定の機能を実行するための集積回路(IC)とを含むモジュールは、MEMS共振器が直流電源と接続されていないモジュールとして提供され得る。その場合、直流電源は、IC、および他の部品がある場合には当該部品を駆動するために使用され、MEMS共振器を駆動させる必要がないので、電圧の小さいものとすることができる。モジュールにおいて、MEMS共振器が直流電源と接続されていない場合、MEMS共振器は、例えば、MEMS共振器を収容する筐体に接地してよい。
【0067】
上記実施の形態のMEMS共振器ならびに上記実施の形態のいずれかのMEMS共振器を含むモジュールは、例えば、スイッチ素子、共振器、フィルタ、発振器、ジャイロスコープ、圧力センサ、および質量検出素子等のデバイス、ならびにそれらを用いた電機機器に広く適用され得る。電気機器は、例えば、携帯電話である。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の実施形態にかかる微小電気機械共振器は、発振器用共振器およびフィルタ共振器として、各種電気機器に用いられる。
【符号の説明】
【0069】
100、110、200、300、400 微小電気機械共振器
101 振動子
102 電極
1021 入力電極
1022 出力電極
103 ギャップ
107 犠牲層
108 支持層
109 基板
111 高ドープ領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電力が印加されると機械的に振動する梁状の振動子と、
前記振動子を振動可能に支持する支持部と、
空隙を介して前記振動子と対向する面を有する少なくとも1つの電極と、
を有し、
前記振動子および前記少なくとも1つの電極のうちの1つが入力電極であり、他の1つが出力電極であり、
前記入力電極に接続された入力端子を介して印加される交流信号により生じる静電力によって前記振動子が励振され、前記振動子の振動により発生する電流を前記出力電極に接続された出力端子を介して出力するMEMS共振器であって、
前記振動子は前記梁の長手軸を中心としたねじり共振モードで振動を行い、
前記振動子および前記電極の互いに対向する面は、不純物がドープされた、互いに異なる導電型の半導体からなり、
前記振動子において、前記電極に対向する面を含む表面部分は、他の部分より高い密度で不純物がドープされている、
MEMS共振器。
【請求項2】
直流電源と接続する端子を有しない、請求項1に記載のMEMS共振器。
【請求項3】
前記不純物の密度は、1015/cm3以上、1020/cm3以下である、請求項1または2に記載のMEMS共振器。
【請求項4】
前記振動子において、前記表面部分のみに不純物がドープされている、請求項1〜3のいずれか1項に記載のMEMS共振器。
【請求項5】
前記少なくとも1つの電極は、前記振動子の異なる面に対向する2つの電極であり、
前記2つの電極の一方が前記入力電極であり、前記2つの電極の他方が前記出力電極であり、
前記振動子は接地されるようになっている、請求項1に記載のMEMS共振器。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のMEMS共振器と、
直流電源と、
集積回路と、
を有し、
前記MEMS共振器が前記集積回路と接続されており、直流電源と接続されていない、
モジュール。
【請求項7】
筐体をさらに含み、
前記MEMS共振器が前記筐体に接地されている、
請求項6に記載のモジュール。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のMEMS共振器を含む、電気機器。
【請求項9】
請求項6または7に記載のモジュールを含む、電気機器。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のMEMS共振器を用いて、前記振動子の機械的な共振周波数に相当する周波数の信号を発信させる方法であって、
前記MEMS共振器において、前記振動子および前記電極の互いに対向する面で発生するフラットバンド電圧のみを駆動電圧とする、
信号発信方法。
【請求項1】
静電力が印加されると機械的に振動する梁状の振動子と、
前記振動子を振動可能に支持する支持部と、
空隙を介して前記振動子と対向する面を有する少なくとも1つの電極と、
を有し、
前記振動子および前記少なくとも1つの電極のうちの1つが入力電極であり、他の1つが出力電極であり、
前記入力電極に接続された入力端子を介して印加される交流信号により生じる静電力によって前記振動子が励振され、前記振動子の振動により発生する電流を前記出力電極に接続された出力端子を介して出力するMEMS共振器であって、
前記振動子は前記梁の長手軸を中心としたねじり共振モードで振動を行い、
前記振動子および前記電極の互いに対向する面は、不純物がドープされた、互いに異なる導電型の半導体からなり、
前記振動子において、前記電極に対向する面を含む表面部分は、他の部分より高い密度で不純物がドープされている、
MEMS共振器。
【請求項2】
直流電源と接続する端子を有しない、請求項1に記載のMEMS共振器。
【請求項3】
前記不純物の密度は、1015/cm3以上、1020/cm3以下である、請求項1または2に記載のMEMS共振器。
【請求項4】
前記振動子において、前記表面部分のみに不純物がドープされている、請求項1〜3のいずれか1項に記載のMEMS共振器。
【請求項5】
前記少なくとも1つの電極は、前記振動子の異なる面に対向する2つの電極であり、
前記2つの電極の一方が前記入力電極であり、前記2つの電極の他方が前記出力電極であり、
前記振動子は接地されるようになっている、請求項1に記載のMEMS共振器。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のMEMS共振器と、
直流電源と、
集積回路と、
を有し、
前記MEMS共振器が前記集積回路と接続されており、直流電源と接続されていない、
モジュール。
【請求項7】
筐体をさらに含み、
前記MEMS共振器が前記筐体に接地されている、
請求項6に記載のモジュール。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のMEMS共振器を含む、電気機器。
【請求項9】
請求項6または7に記載のモジュールを含む、電気機器。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のMEMS共振器を用いて、前記振動子の機械的な共振周波数に相当する周波数の信号を発信させる方法であって、
前記MEMS共振器において、前記振動子および前記電極の互いに対向する面で発生するフラットバンド電圧のみを駆動電圧とする、
信号発信方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8(a)】
【図8(b)】
【図8(c)】
【図8(d)】
【図8(e)】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8(a)】
【図8(b)】
【図8(c)】
【図8(d)】
【図8(e)】
【公開番号】特開2013−55647(P2013−55647A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−162874(P2012−162874)
【出願日】平成24年7月23日(2012.7.23)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年7月23日(2012.7.23)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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