MEMS共振器
【課題】振動モードを利用したMEMS共振器において、共振のQ値を高くする。
【解決手段】MEMS共振器101は、平坦な主表面1uを有する基材1と、主表面1uに固定されたアンカ部2と、アンカ部2を介することによって、主表面1uから離隔するようにして基材1に固定され、アンカ部2から側方に延在する浮き構造体4とを備える。浮き構造体4は、第1方向91に延在する第1幹部41と、第1幹部41の途中から第1方向91とは垂直な第2方向92に延在する1以上の枝部43とを含む。浮き構造体4とアンカ部2とは、浮き構造体4およびアンカ部2のいずれに比べても断面積が小さくなっている接続部3を介して接続されている。
【解決手段】MEMS共振器101は、平坦な主表面1uを有する基材1と、主表面1uに固定されたアンカ部2と、アンカ部2を介することによって、主表面1uから離隔するようにして基材1に固定され、アンカ部2から側方に延在する浮き構造体4とを備える。浮き構造体4は、第1方向91に延在する第1幹部41と、第1幹部41の途中から第1方向91とは垂直な第2方向92に延在する1以上の枝部43とを含む。浮き構造体4とアンカ部2とは、浮き構造体4およびアンカ部2のいずれに比べても断面積が小さくなっている接続部3を介して接続されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS共振器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体分野における微細加工技術を利用して、微細な機械構造を電子回路と一体化して形成するMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術が開発されており、フィルタや共振器への応用が検討されている。
【0003】
なかでもこのようなMEMS技術で作成されたマイクロメカニカル共振器は、リモートキーレスエントリシステム、スペクトラム拡散通信等のRF無線に好適に使用される。このようなMEMS技術で作成されたマイクロメカニカル共振器を利用したMEMSフィルタの一例が特開2006−41911号公報(特許文献1)に開示されている。この文献に記載されたMEMSフィルタ装置は、共振器を備える。この共振器に含まれる振動子は、正方形の板状のものであって、基板表面と平行で、なおかつ基板から離隔するように配置され、基板表面に連結された円柱で支持されている。共振器の各辺に対して所定間隔を隔てて対向するように形成された固定電極に交流電圧を印加することによって、この振動子と固定電極との間に静電気力が発生し、共振器が振動する仕組みとなっている。この場合、振動子の各辺の中心と角とが水平振動する。共振器同士が連結体で連結されている場合は、連結体は縦振動を伝えることとなる。
【0004】
また、半導体プロセスと親和性が高いシリコンプロセスを用いたRF−MEMSフィルタが、橋村 昭範ら、「ねじり振動を用いたRF−MEMSフィルタの開発」,信学技報,社団法人電子情報通信学会発行,IEICE Technical Report MW2005-185(2006-3)(非特
許文献1)で提案されている。この文献では、小型化と高Q値化の両立にねじり振動モードを利用した共振器が有効であることが紹介されている。
【0005】
ここで例に挙げた共振器のように、MEMS技術を用いて作られる装置を「MEMSデバイス」と呼ぶ。MEMSデバイスを製造するために、シリコン層をパターニングすることで形成した何らかの構造体と、絶縁性の表面を有する基材とを重ね合わせて接合する場合がある。
【0006】
ねじり振動モードを利用したMEMSデバイスとしては、基板上に梁状の振動部材を設置したものが考えられる。その場合、この梁状の振動部材に振動を付与するための電極が、基板の表面に設けられるか、または、基板の表面にある程度の高さで設けられた部材の上面に設けられる。振動部材の下面はこのよう電極に対して離隔して対向するように配置される。
【0007】
このような構造を作製するためには、まず、振動部材の部分はSiで独自に形成される
。一方、別途用意されたガラス基板の表面には導電体膜によって所望の電極パターンや引出配線が形成される。このように別々に作製された振動部材とガラス基板とが互いに陽極接合されることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−41911号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】橋村 昭範ら、「ねじり振動を用いたRF−MEMSフィルタの開発」,信学技報,社団法人電子情報通信学会発行,IEICE Technical Report MW2005-185(2006-3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、MEMSデバイスの一種であるMEMS共振器を作製する場合、梁状の振動部材はアンカ部と呼ばれる部材を介して支持されることとなる。アンカ部は基板の表面に固定された部材である。MEMS共振器としての動作には、振動部材はねじり振動を起こすが、アンカ部はねじり振動をしない。両者が互いに接続されていることによって、MEMS共振器の使用時には、アンカ部を通じて振動エネルギが失われる。このようなエネルギ損失を「アンカロス」ともいう。MEMS共振器においては、アンカロスによって、共振のQ値が小さくなってしまうという問題があった。なお、「Q値」とは、一般的な技術用語であるが、念のために説明すると、振動の状態を表す無次元数であり、大きいほど振動が安定していることを意味する。アンカロスによるQ値の低下の問題はMEMS共振器にねじり振動をさせる場合に限らず、MEMS共振器の振動モード全体についていえることである。
【0011】
そこで、本発明は、振動モードを利用したMEMS共振器において、共振のQ値を高くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に基づくMEMS共振器は、平坦な主表面を有する基材と、上記主表面に固定されたアンカ部と、上記アンカ部を介することによって、上記主表面から離隔するようにして上記基材に固定され、上記アンカ部から側方に延在する浮き構造体とを備え、上記浮き構造体は、第1方向に延在する第1幹部と、上記第1幹部の途中から上記第1方向とは垂直な第2方向に延在する1以上の枝部とを含み、上記浮き構造体と上記アンカ部とは、上記浮き構造体および上記アンカ部のいずれに比べても断面積が小さくなっている接続部を介して接続されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、浮き構造体が振動をすることによって共振器として動作する際に振動エネルギがアンカ部2に伝達されて失われる度合いを減らすことができ、共振のQ値を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に基づく実施の形態1におけるMEMS共振器の平面図である。
【図2】図1におけるII−II線に関する矢視断面図である。
【図3】本発明に基づく実施の形態1におけるMEMS共振器の変形例の平面図である。
【図4】本発明に基づく実施の形態2におけるMEMS共振器の平面図である。
【図5】本発明に基づく実施の形態3におけるMEMS共振器の部分平面図である。
【図6】本発明に基づく実施の形態4におけるMEMS共振器の部分平面図である。
【図7】本発明に基づく実施の形態5におけるMEMS共振器の第1の例のアンカ部近傍の平面図である。
【図8】本発明に基づく実施の形態5におけるMEMS共振器の第2の例のアンカ部近傍の平面図である。
【図9】本発明に基づくMEMS共振器のさらに他の例の平面図である。
【図10】本発明に基づくMEMS共振器のさらに他の例の平面図である。
【図11】本発明に基づくMEMS共振器のさらに他の例の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施の形態1)
(構成)
図1、図2を参照して、本発明に基づく実施の形態1におけるMEMS共振器について説明する。MEMS共振器の平面図を図1に示す。図1におけるII−II線に関する矢視断面図を図2に示す。本実施の形態におけるMEMS共振器101は、平坦な主表面1uを有する基材1と、主表面1uに固定されたアンカ部2と、アンカ部2を介することによって、主表面1uから離隔するようにして基材1に固定され、アンカ部2から側方に延在する浮き構造体4とを備える。浮き構造体4は、第1方向91に延在する第1幹部41と、第1幹部41の途中から第1方向91とは垂直な第2方向92に延在する1以上の枝部43とを含む。浮き構造体4とアンカ部2とは、浮き構造体4およびアンカ部2のいずれに比べても断面積が小さくなっている接続部3を介して接続されている。
【0016】
MEMS共振器101は、浮き構造体4から離隔しつつ、浮き構造体4の一部の領域に対して主表面1uに近い側から対向している対向部5を備えていてもよい。対向部5の上面は第1幹部41の下面と空隙を介して対向している。
【0017】
基材1は、基板であってもよい。アンカ部2の一部または全部と浮き構造体4とは同じ材料で一体的に形成されたものであってもよい。
【0018】
(作用・効果)
本実施の形態では、浮き構造体4とアンカ部2とは、局所的に断面積が小さくなっている接続部3を介して接続されているので、浮き構造体4が振動をすることによって共振器として動作する際に振動エネルギがアンカ部2へ伝達しにくくなる。したがって、本実施の形態では、アンカロスを小さく抑えることができ、共振のQ値を高くすることができる。
【0019】
本実施の形態では、図1に既に示されていたように、接続部3は、浮き構造体4のうち接続部3に隣接する部分よりも平面的に見て幅が小さくなっている。このような構成であれば、パターニングの際のマスク形状をそのように設計するだけで作製することができるので、好ましい。
【0020】
本発明に基づくMEMS共振器は、図3に示すMEMS共振器102のように、接続部3を長くした構成のものであってもよい。接続部3の長さが浮き構造体4の第1方向91に沿った長さより長くなっていてもよい。
【0021】
接続部3が長く柔軟である場合、共振のQ値を上げることができるという点では好ましいが、接続部3における電気抵抗が大きくなるという点ではデメリットもあるので、接続部の設計の際には最適な長さおよび断面積を考慮すべきである。
【0022】
なお、ここまでの例では、接続部3は、接続部3に隣接する部分よりも平面的に見て幅が狭いものとして説明してきたが、接続部3は局所的に断面積が小さくなっていればよいのであって、幅を狭くする代わりに、厚みを小さくしてもよい。すなわち、接続部3は、浮き構造体4のうち接続部3に隣接する部分よりも厚みが小さくなっている構成であってもよい。その場合、接続部3は局所的に厚みが薄くなった部分といえる。このような構成であっても、上述したのと同様の効果を得ることができる。接続部3は、浮き構造体4のうち接続部3に隣接する部分に比べて、幅と厚みとの両方が小さくなる構成としてもよい。あるいは、接続部3は、浮き構造体4のうち接続部3に隣接する部分に比べて、幅および厚みのうちいずれか一方については大きくなっていても、他方については小さくなっていることによって、断面積としては小さくなる構成であってもよい。
【0023】
「第1幹部」とは、浮き構造体の主軸となる部分、または、浮き構造体において振動の入力が行なわれる部分をいう。浮き構造体の中で第1幹部が他の部分に比べて最も長いとは限らない。
【0024】
なお、「接続部」については、本実施の形態では、単純な直線状の梁状の部材である例を示したが、本発明を適用する上では、接続部はこのような単純な直線状のものに限らない。接続部は、折れ曲がった構造や湾曲した構造を有してもよい。さらに、接続部は、梁状の部材が枝分かれする構造や交差する構造を含んでいてもよい。
【0025】
(実施の形態2)
(構成)
図4を参照して、本発明に基づく実施の形態2におけるMEMS共振器について説明する。本実施の形態におけるMEMS共振器103は、第1幹部41がアンカ部3に向かって突出した構造を備えている。接続部3は、第1幹部41の延長上にあり、第1幹部に比べて局所的に幅が細くなった部分である。
【0026】
(作用・効果)
本実施の形態においても、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0027】
(実施の形態3)
(構成)
図5を参照して、本発明に基づく実施の形態3におけるMEMS共振器について説明する。図5では、本実施の形態におけるMEMS共振器104の一部のみを表示している。図5〜図8では主表面1uは図示していない。
【0028】
MEMS共振器104においては、第1幹部41に対して接続部3が垂直に接続している。言い換えれば、第1幹部41から垂直に枝分かれするように接続部3が延在している。図5に示すように、第1幹部41は一点鎖線で示される中心線を有し、この中心線を軸として振動するものである。振動の際には、第1幹部41は部位5を節として振動する。本実施の形態で示すように、接続部3の断面積は、第1幹部41の断面積に比べて小さく、接続部3は、第1幹部41の振動時に節となる部位5に対して垂直に接続しており、前記接続部の振動時の波長をλとしたとき、接続部3の長さLは、λ/2の整数倍にλ/4を加えた長さであることが好ましい。
【0029】
(作用・効果)
本実施の形態においても、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。特に本実施の形態では、接続部3は第1幹部41に比べて断面積が小さくなっており、かつ、接続部3の長さLがnλ/2+λ/4(nは整数)となっているので、部位5の動きの許容幅が最大になる。その結果、アンカロスが最小になる。
【0030】
(実施の形態4)
(構成)
図6を参照して、本発明に基づく実施の形態4におけるMEMS共振器について説明する。図6では、本実施の形態におけるMEMS共振器105の一部のみを表示している。MEMS共振器105においては、第1幹部41からまず枝部43が垂直に延在しており、接続部3が枝部43の延長上に延在している。接続部3は、第1幹部41と枝部43とのいずれに比べても断面積が小さくなっている。
【0031】
(作用・効果)
本実施の形態においても、実施の形態1,2と同様の効果を得ることができる。
【0032】
なお、実施の形態1,2において、浮き構造体4は、1以上の枝部43のうち少なくともいずれかを介して第1幹部41と平行に支持される第2幹部42を備えることが好ましい。図1、図3、図4に示したMEMS共振器101,102,103は、この条件を満たした構成となっている。この構成を採用することにより、第1幹部の他に第2幹部においても振動をさせることができるので、優れた共振器とすることができる。
【0033】
(実施の形態5)
(構成)
図7を参照して、本発明に基づく実施の形態5におけるMEMS共振器について説明する。図7では、本実施の形態におけるMEMS共振器のアンカ部近傍のみを表示している。アンカ部は、接続部3に向かうにつれて幅が徐々に細くなっていることが好ましい。図7に示した例では、アンカ部2iの一部は接続部3に向かうにつれてテーパ状に幅が細くなっているが、図8に示すようにアンカ部2jの一部が接続部3に向かうにつれて曲線状に幅が細くなっていく構成であってもよい。
【0034】
(作用・効果)
アンカ部と接続部との継ぎ目近傍の形状を、本実施の形態で示したようにすれば、アンカロスをより小さくすることができる。
【0035】
なお、本発明に基づくMEMS共振器の全体の構成としては、図9、図10、図11に示すようなものであってもよい。
【0036】
図9に示すMEMS共振器106の場合、浮き構造体4iがH形となっている。第1幹部41からは複数本の枝部43が垂直に延在しており、枝部43が第1幹部41より長くなっている。
【0037】
図10に示すMEMS共振器107の場合、浮き構造体4jは片側の1ヶ所のみで支持されている。このように片持ち構造の共振器も考えられ、この場合も本発明が適用可能である。
【0038】
図11に示すMEMS共振器108の場合、浮き構造体4kはマトリックス状となっている。浮き構造体4kは複数の幹部と複数の枝部とが組み合わさることによって網目状となっている。このような構造においても本発明が適用可能である。
【0039】
なお、振動がねじり振動である場合に限らず、ねじり振動以外の振動をさせるMEMS共振器であっても本発明は適用可能である。
【0040】
なお、今回開示した上記実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0041】
1 基材、1u 主表面、2,2i,2j アンカ部、3 接続部、4,4i,4j,4k 浮き構造体、5 (振動の節となる)部位、41 第1幹部、42 第2幹部、43 枝部、91 第1方向、92 第2方向、101,102,103,104,105,106,107,108 MEMS共振器。
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS共振器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体分野における微細加工技術を利用して、微細な機械構造を電子回路と一体化して形成するMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術が開発されており、フィルタや共振器への応用が検討されている。
【0003】
なかでもこのようなMEMS技術で作成されたマイクロメカニカル共振器は、リモートキーレスエントリシステム、スペクトラム拡散通信等のRF無線に好適に使用される。このようなMEMS技術で作成されたマイクロメカニカル共振器を利用したMEMSフィルタの一例が特開2006−41911号公報(特許文献1)に開示されている。この文献に記載されたMEMSフィルタ装置は、共振器を備える。この共振器に含まれる振動子は、正方形の板状のものであって、基板表面と平行で、なおかつ基板から離隔するように配置され、基板表面に連結された円柱で支持されている。共振器の各辺に対して所定間隔を隔てて対向するように形成された固定電極に交流電圧を印加することによって、この振動子と固定電極との間に静電気力が発生し、共振器が振動する仕組みとなっている。この場合、振動子の各辺の中心と角とが水平振動する。共振器同士が連結体で連結されている場合は、連結体は縦振動を伝えることとなる。
【0004】
また、半導体プロセスと親和性が高いシリコンプロセスを用いたRF−MEMSフィルタが、橋村 昭範ら、「ねじり振動を用いたRF−MEMSフィルタの開発」,信学技報,社団法人電子情報通信学会発行,IEICE Technical Report MW2005-185(2006-3)(非特
許文献1)で提案されている。この文献では、小型化と高Q値化の両立にねじり振動モードを利用した共振器が有効であることが紹介されている。
【0005】
ここで例に挙げた共振器のように、MEMS技術を用いて作られる装置を「MEMSデバイス」と呼ぶ。MEMSデバイスを製造するために、シリコン層をパターニングすることで形成した何らかの構造体と、絶縁性の表面を有する基材とを重ね合わせて接合する場合がある。
【0006】
ねじり振動モードを利用したMEMSデバイスとしては、基板上に梁状の振動部材を設置したものが考えられる。その場合、この梁状の振動部材に振動を付与するための電極が、基板の表面に設けられるか、または、基板の表面にある程度の高さで設けられた部材の上面に設けられる。振動部材の下面はこのよう電極に対して離隔して対向するように配置される。
【0007】
このような構造を作製するためには、まず、振動部材の部分はSiで独自に形成される
。一方、別途用意されたガラス基板の表面には導電体膜によって所望の電極パターンや引出配線が形成される。このように別々に作製された振動部材とガラス基板とが互いに陽極接合されることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−41911号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】橋村 昭範ら、「ねじり振動を用いたRF−MEMSフィルタの開発」,信学技報,社団法人電子情報通信学会発行,IEICE Technical Report MW2005-185(2006-3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、MEMSデバイスの一種であるMEMS共振器を作製する場合、梁状の振動部材はアンカ部と呼ばれる部材を介して支持されることとなる。アンカ部は基板の表面に固定された部材である。MEMS共振器としての動作には、振動部材はねじり振動を起こすが、アンカ部はねじり振動をしない。両者が互いに接続されていることによって、MEMS共振器の使用時には、アンカ部を通じて振動エネルギが失われる。このようなエネルギ損失を「アンカロス」ともいう。MEMS共振器においては、アンカロスによって、共振のQ値が小さくなってしまうという問題があった。なお、「Q値」とは、一般的な技術用語であるが、念のために説明すると、振動の状態を表す無次元数であり、大きいほど振動が安定していることを意味する。アンカロスによるQ値の低下の問題はMEMS共振器にねじり振動をさせる場合に限らず、MEMS共振器の振動モード全体についていえることである。
【0011】
そこで、本発明は、振動モードを利用したMEMS共振器において、共振のQ値を高くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に基づくMEMS共振器は、平坦な主表面を有する基材と、上記主表面に固定されたアンカ部と、上記アンカ部を介することによって、上記主表面から離隔するようにして上記基材に固定され、上記アンカ部から側方に延在する浮き構造体とを備え、上記浮き構造体は、第1方向に延在する第1幹部と、上記第1幹部の途中から上記第1方向とは垂直な第2方向に延在する1以上の枝部とを含み、上記浮き構造体と上記アンカ部とは、上記浮き構造体および上記アンカ部のいずれに比べても断面積が小さくなっている接続部を介して接続されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、浮き構造体が振動をすることによって共振器として動作する際に振動エネルギがアンカ部2に伝達されて失われる度合いを減らすことができ、共振のQ値を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に基づく実施の形態1におけるMEMS共振器の平面図である。
【図2】図1におけるII−II線に関する矢視断面図である。
【図3】本発明に基づく実施の形態1におけるMEMS共振器の変形例の平面図である。
【図4】本発明に基づく実施の形態2におけるMEMS共振器の平面図である。
【図5】本発明に基づく実施の形態3におけるMEMS共振器の部分平面図である。
【図6】本発明に基づく実施の形態4におけるMEMS共振器の部分平面図である。
【図7】本発明に基づく実施の形態5におけるMEMS共振器の第1の例のアンカ部近傍の平面図である。
【図8】本発明に基づく実施の形態5におけるMEMS共振器の第2の例のアンカ部近傍の平面図である。
【図9】本発明に基づくMEMS共振器のさらに他の例の平面図である。
【図10】本発明に基づくMEMS共振器のさらに他の例の平面図である。
【図11】本発明に基づくMEMS共振器のさらに他の例の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施の形態1)
(構成)
図1、図2を参照して、本発明に基づく実施の形態1におけるMEMS共振器について説明する。MEMS共振器の平面図を図1に示す。図1におけるII−II線に関する矢視断面図を図2に示す。本実施の形態におけるMEMS共振器101は、平坦な主表面1uを有する基材1と、主表面1uに固定されたアンカ部2と、アンカ部2を介することによって、主表面1uから離隔するようにして基材1に固定され、アンカ部2から側方に延在する浮き構造体4とを備える。浮き構造体4は、第1方向91に延在する第1幹部41と、第1幹部41の途中から第1方向91とは垂直な第2方向92に延在する1以上の枝部43とを含む。浮き構造体4とアンカ部2とは、浮き構造体4およびアンカ部2のいずれに比べても断面積が小さくなっている接続部3を介して接続されている。
【0016】
MEMS共振器101は、浮き構造体4から離隔しつつ、浮き構造体4の一部の領域に対して主表面1uに近い側から対向している対向部5を備えていてもよい。対向部5の上面は第1幹部41の下面と空隙を介して対向している。
【0017】
基材1は、基板であってもよい。アンカ部2の一部または全部と浮き構造体4とは同じ材料で一体的に形成されたものであってもよい。
【0018】
(作用・効果)
本実施の形態では、浮き構造体4とアンカ部2とは、局所的に断面積が小さくなっている接続部3を介して接続されているので、浮き構造体4が振動をすることによって共振器として動作する際に振動エネルギがアンカ部2へ伝達しにくくなる。したがって、本実施の形態では、アンカロスを小さく抑えることができ、共振のQ値を高くすることができる。
【0019】
本実施の形態では、図1に既に示されていたように、接続部3は、浮き構造体4のうち接続部3に隣接する部分よりも平面的に見て幅が小さくなっている。このような構成であれば、パターニングの際のマスク形状をそのように設計するだけで作製することができるので、好ましい。
【0020】
本発明に基づくMEMS共振器は、図3に示すMEMS共振器102のように、接続部3を長くした構成のものであってもよい。接続部3の長さが浮き構造体4の第1方向91に沿った長さより長くなっていてもよい。
【0021】
接続部3が長く柔軟である場合、共振のQ値を上げることができるという点では好ましいが、接続部3における電気抵抗が大きくなるという点ではデメリットもあるので、接続部の設計の際には最適な長さおよび断面積を考慮すべきである。
【0022】
なお、ここまでの例では、接続部3は、接続部3に隣接する部分よりも平面的に見て幅が狭いものとして説明してきたが、接続部3は局所的に断面積が小さくなっていればよいのであって、幅を狭くする代わりに、厚みを小さくしてもよい。すなわち、接続部3は、浮き構造体4のうち接続部3に隣接する部分よりも厚みが小さくなっている構成であってもよい。その場合、接続部3は局所的に厚みが薄くなった部分といえる。このような構成であっても、上述したのと同様の効果を得ることができる。接続部3は、浮き構造体4のうち接続部3に隣接する部分に比べて、幅と厚みとの両方が小さくなる構成としてもよい。あるいは、接続部3は、浮き構造体4のうち接続部3に隣接する部分に比べて、幅および厚みのうちいずれか一方については大きくなっていても、他方については小さくなっていることによって、断面積としては小さくなる構成であってもよい。
【0023】
「第1幹部」とは、浮き構造体の主軸となる部分、または、浮き構造体において振動の入力が行なわれる部分をいう。浮き構造体の中で第1幹部が他の部分に比べて最も長いとは限らない。
【0024】
なお、「接続部」については、本実施の形態では、単純な直線状の梁状の部材である例を示したが、本発明を適用する上では、接続部はこのような単純な直線状のものに限らない。接続部は、折れ曲がった構造や湾曲した構造を有してもよい。さらに、接続部は、梁状の部材が枝分かれする構造や交差する構造を含んでいてもよい。
【0025】
(実施の形態2)
(構成)
図4を参照して、本発明に基づく実施の形態2におけるMEMS共振器について説明する。本実施の形態におけるMEMS共振器103は、第1幹部41がアンカ部3に向かって突出した構造を備えている。接続部3は、第1幹部41の延長上にあり、第1幹部に比べて局所的に幅が細くなった部分である。
【0026】
(作用・効果)
本実施の形態においても、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0027】
(実施の形態3)
(構成)
図5を参照して、本発明に基づく実施の形態3におけるMEMS共振器について説明する。図5では、本実施の形態におけるMEMS共振器104の一部のみを表示している。図5〜図8では主表面1uは図示していない。
【0028】
MEMS共振器104においては、第1幹部41に対して接続部3が垂直に接続している。言い換えれば、第1幹部41から垂直に枝分かれするように接続部3が延在している。図5に示すように、第1幹部41は一点鎖線で示される中心線を有し、この中心線を軸として振動するものである。振動の際には、第1幹部41は部位5を節として振動する。本実施の形態で示すように、接続部3の断面積は、第1幹部41の断面積に比べて小さく、接続部3は、第1幹部41の振動時に節となる部位5に対して垂直に接続しており、前記接続部の振動時の波長をλとしたとき、接続部3の長さLは、λ/2の整数倍にλ/4を加えた長さであることが好ましい。
【0029】
(作用・効果)
本実施の形態においても、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。特に本実施の形態では、接続部3は第1幹部41に比べて断面積が小さくなっており、かつ、接続部3の長さLがnλ/2+λ/4(nは整数)となっているので、部位5の動きの許容幅が最大になる。その結果、アンカロスが最小になる。
【0030】
(実施の形態4)
(構成)
図6を参照して、本発明に基づく実施の形態4におけるMEMS共振器について説明する。図6では、本実施の形態におけるMEMS共振器105の一部のみを表示している。MEMS共振器105においては、第1幹部41からまず枝部43が垂直に延在しており、接続部3が枝部43の延長上に延在している。接続部3は、第1幹部41と枝部43とのいずれに比べても断面積が小さくなっている。
【0031】
(作用・効果)
本実施の形態においても、実施の形態1,2と同様の効果を得ることができる。
【0032】
なお、実施の形態1,2において、浮き構造体4は、1以上の枝部43のうち少なくともいずれかを介して第1幹部41と平行に支持される第2幹部42を備えることが好ましい。図1、図3、図4に示したMEMS共振器101,102,103は、この条件を満たした構成となっている。この構成を採用することにより、第1幹部の他に第2幹部においても振動をさせることができるので、優れた共振器とすることができる。
【0033】
(実施の形態5)
(構成)
図7を参照して、本発明に基づく実施の形態5におけるMEMS共振器について説明する。図7では、本実施の形態におけるMEMS共振器のアンカ部近傍のみを表示している。アンカ部は、接続部3に向かうにつれて幅が徐々に細くなっていることが好ましい。図7に示した例では、アンカ部2iの一部は接続部3に向かうにつれてテーパ状に幅が細くなっているが、図8に示すようにアンカ部2jの一部が接続部3に向かうにつれて曲線状に幅が細くなっていく構成であってもよい。
【0034】
(作用・効果)
アンカ部と接続部との継ぎ目近傍の形状を、本実施の形態で示したようにすれば、アンカロスをより小さくすることができる。
【0035】
なお、本発明に基づくMEMS共振器の全体の構成としては、図9、図10、図11に示すようなものであってもよい。
【0036】
図9に示すMEMS共振器106の場合、浮き構造体4iがH形となっている。第1幹部41からは複数本の枝部43が垂直に延在しており、枝部43が第1幹部41より長くなっている。
【0037】
図10に示すMEMS共振器107の場合、浮き構造体4jは片側の1ヶ所のみで支持されている。このように片持ち構造の共振器も考えられ、この場合も本発明が適用可能である。
【0038】
図11に示すMEMS共振器108の場合、浮き構造体4kはマトリックス状となっている。浮き構造体4kは複数の幹部と複数の枝部とが組み合わさることによって網目状となっている。このような構造においても本発明が適用可能である。
【0039】
なお、振動がねじり振動である場合に限らず、ねじり振動以外の振動をさせるMEMS共振器であっても本発明は適用可能である。
【0040】
なお、今回開示した上記実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0041】
1 基材、1u 主表面、2,2i,2j アンカ部、3 接続部、4,4i,4j,4k 浮き構造体、5 (振動の節となる)部位、41 第1幹部、42 第2幹部、43 枝部、91 第1方向、92 第2方向、101,102,103,104,105,106,107,108 MEMS共振器。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦な主表面を有する基材と、
前記主表面に固定されたアンカ部と、
前記アンカ部を介することによって、前記主表面から離隔するようにして前記基材に固定され、前記アンカ部から側方に延在する浮き構造体とを備え、
前記浮き構造体は、第1方向に延在する第1幹部と、前記第1幹部の途中から前記第1方向とは垂直な第2方向に延在する1以上の枝部とを含み、
前記浮き構造体と前記アンカ部とは、前記浮き構造体および前記アンカ部のいずれに比べても断面積が小さくなっている接続部を介して接続されている、MEMS共振器。
【請求項2】
前記接続部は、前記浮き構造体のうち前記接続部に隣接する部分よりも平面的に見て幅が小さくなっている、請求項1に記載のMEMS共振器。
【請求項3】
前記接続部は、前記浮き構造体のうち前記接続部に隣接する部分よりも厚みが小さくなっている、請求項1または2に記載のMEMS共振器。
【請求項4】
前記接続部の断面積は、前記第1幹部の断面積に比べて小さく、前記接続部は、前記第1幹部の振動時に節となる部位に対して垂直に接続しており、前記接続部の振動時の波長をλとしたとき、前記接続部の長さは、λ/2の整数倍にλ/4を加えた長さである、請求項1から3のいずれかに記載のMEMS共振器。
【請求項5】
前記浮き構造体は、前記1以上の枝部のうち少なくともいずれかを介して前記第1幹部と平行に支持される第2幹部を備える、請求項1から4のいずれかに記載のMEMS共振器。
【請求項6】
前記アンカ部は、前記接続部に向かうにつれて幅が徐々に細くなっている、請求項1から5のいずれかに記載のMEMS共振器。
【請求項1】
平坦な主表面を有する基材と、
前記主表面に固定されたアンカ部と、
前記アンカ部を介することによって、前記主表面から離隔するようにして前記基材に固定され、前記アンカ部から側方に延在する浮き構造体とを備え、
前記浮き構造体は、第1方向に延在する第1幹部と、前記第1幹部の途中から前記第1方向とは垂直な第2方向に延在する1以上の枝部とを含み、
前記浮き構造体と前記アンカ部とは、前記浮き構造体および前記アンカ部のいずれに比べても断面積が小さくなっている接続部を介して接続されている、MEMS共振器。
【請求項2】
前記接続部は、前記浮き構造体のうち前記接続部に隣接する部分よりも平面的に見て幅が小さくなっている、請求項1に記載のMEMS共振器。
【請求項3】
前記接続部は、前記浮き構造体のうち前記接続部に隣接する部分よりも厚みが小さくなっている、請求項1または2に記載のMEMS共振器。
【請求項4】
前記接続部の断面積は、前記第1幹部の断面積に比べて小さく、前記接続部は、前記第1幹部の振動時に節となる部位に対して垂直に接続しており、前記接続部の振動時の波長をλとしたとき、前記接続部の長さは、λ/2の整数倍にλ/4を加えた長さである、請求項1から3のいずれかに記載のMEMS共振器。
【請求項5】
前記浮き構造体は、前記1以上の枝部のうち少なくともいずれかを介して前記第1幹部と平行に支持される第2幹部を備える、請求項1から4のいずれかに記載のMEMS共振器。
【請求項6】
前記アンカ部は、前記接続部に向かうにつれて幅が徐々に細くなっている、請求項1から5のいずれかに記載のMEMS共振器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−178711(P2012−178711A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40474(P2011−40474)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人科学技術振興機構、委託研究、「重点地域研究開発推進プログラム(育成研究)」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人科学技術振興機構、委託研究、「重点地域研究開発推進プログラム(育成研究)」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]