説明

MEMS振動子および発振器

【課題】不要な振動モードが生じることを抑制できるMEMS振動子を提供する。
【解決手段】MEMS振動子100は、基板10と、基板10の上方に配置された第1電極20と、第1電極20との間に空隙を有した状態で配置され、第1電極20との間の静電力によって基板10の厚み方向に振動可能となる梁部32、および梁部32を支持する支持部34を有する第2電極と、を含み、第2電極30は、梁部32を複数有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS振動子および発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、MEMS(Micro Electro Mechanical System)技術を用いて製作されたMEMS振動子が注目されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、基板上に検出電極(固定電極)と、可動部(可動電極)および可動部を支持する支持部を有する構造体と、を備えたMEMS振動子が開示されている。このようなMEMS振動子では、可動電極に交番電圧を印加し、可動電極と固定電極との間に働く静電力の強さを径時的に変化させることにより、可動電極を振動させ、固定電極から固有の共振周波数が出力されるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−111831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1に開示されたMEMS振動子では、可動部(可動電極)が、1つの支持部で支持された片持ち梁構造(片持ち支持構造)を有している。このような片持ち梁構造では、例えば、支持部に接する膜や基板に起因した応力が発生しても、この応力が可動電極に与える影響を小さくすることができる。
【0006】
しかしながら、このような片持ち梁構造のMEMS振動子では、可動電極を振動させる際に、可動電極がねじれたり、波打ったりする場合がある。例えば、挿入損失等の特性向上のために可動電極の面積を大きくした場合には、特に、可動電極にねじれ等が生じやすい。MEMS振動子では、振動時に可動電極にねじれ等が生じると、所望の振動モードとは異なる不要な振動モードが発生してしまい、所望の周波数特性が得られない場合がある。
【0007】
本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、不要な振動モードが発生することを抑制できるMEMS振動子を提供することにある。また、本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、上記MEMS振動子を有する発振器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るMEMS振動子は、
基板と、
前記基板の上方に配置された第1電極と、
前記第1電極との間に空隙を有した状態で配置され、前記第1電極との間の静電力によって前記基板の厚み方向に振動可能となる梁部、および前記梁部を支持する支持部を有する第2電極と、
を含み、
前記第2電極は、前記梁部を複数有する。
【0009】
このようなMEMS振動子によれば、梁部を振動させる際に生じる梁部のねじれ等を抑制することができる。そのため、梁部のねじれ等に起因する不要な振動モードが発生することを抑制することができる。
【0010】
なお、本発明に係る記載では、「上方」という文言を、例えば、「特定のもの(以下、「A」という)の上方に他の特定のもの(以下、「B」という)を形成する」などと用いる場合、A上に直接Bを形成するような場合と、A上に他のものを介してBを形成するような場合とが含まれるものとして、「上方」という文言を用いている。
【0011】
本発明に係るMEMS振動子において、
複数の前記梁部は、前記支持部から同じ方向に延出していてもよい。
【0012】
このようなMEMS振動子によれば、製造工程において、梁部の長さを揃えることが容易になり、各梁部間における固有振動数のばらつきを低減することができる。
【0013】
本発明に係るMEMS振動子において、
複数の前記梁部の長さは、等しくてもよい。
【0014】
このようなMEMS振動子によれば、複数の梁部が同じ固有振動数を有することができる。
【0015】
本発明に係るMEMS振動子において、
複数の前記梁部は、前記第1電極と前記第2電極との間に生じる静電力によって、同じ周期かつ同じ位相で振動してもよい。
【0016】
このようなMEMS振動子によれば、単一のピーク(周波数)を有する信号を出力することができる。
【0017】
本発明に係るMEMS振動子において、
前記第2電極は、前記梁部の一端が前記支持部で固定された片持ち梁状に形成されていてもよい。
【0018】
このようなMEMS振動子によれば、梁部のねじれ等に起因する不要な振動モードが発生することを抑制することができる。
【0019】
本発明に係るMEMS振動子において、
前記第2電極は、前記支持部を複数有してもよい。
【0020】
このようなMEMS振動子によれば、梁部を複数列に配列することができる。
【0021】
本発明に係る発振器は、
本発明に係るMEMS振動子と、
前記MEMS振動子の前記第1電極および前記第2電極と電気的に接続された回路部と、
を含む。
【0022】
このような発振器によれば、良好な発振特性を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施形態に係るMEMS振動子を模式的に示す平面図。
【図2】本実施形態に係るMEMS振動子を模式的に示す平面図。
【図3】本実施形態に係るMEMS振動子を模式的に示す断面図。
【図4】従来のMEMS振動子の梁部の振動の状態を説明するための図。
【図5】従来のMEMS振動子の出力信号の一例を示すグラフ。
【図6】本実施形態に係るMEMS振動子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図7】本実施形態に係るMEMS振動子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図8】本実施形態に係るMEMS振動子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図9】本実施形態に係るMEMS振動子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図10】本実施形態の第1変形例に係るMEMS振動子を模式的に示す平面図。
【図11】本実施形態の第2変形例に係るMEMS振動子を模式的に示す平面図。
【図12】本実施形態に係る発振器を示す回路図。
【図13】本実施形態に係る発振器を模式的に示す平面図。
【図14】本実施形態に係る発振器の変形例を模式的に示す平面図。
【図15】本実施形態の変形例に係る発振器を示す回路図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0025】
1. MEMS振動子
まず、本実施形態に係るMEMS振動子について、図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係るMEMS振動子100を模式的に示す平面図である。図2は、MEMS振動子100を模式的に示す平面図であり、図1の領域IIを拡大した図である。図3は、MEMS振動子100を模式的に示す断面図である。なお、図3は、図2のIII−III線断面図である。
【0026】
MEMS振動子100は、図1〜図3に示すように、基板10と、第1電極20と、第2電極30と、を含む。
【0027】
基板10は、図3に示すように、支持基板12と、第1下地層14と、第2下地層16と、を有することができる。
【0028】
支持基板12としては、例えば、シリコン基板等の半導体基板を用いることができる。支持基板12として、セラミックス基板、ガラス基板、サファイア基板、合成樹脂基板などの各種の基板を用いてもよい。
【0029】
第1下地層14は、支持基板12上に形成されている。第1下地層14としては、例えば、トレンチ絶縁層、LOCOS(local oxidation of silicon)絶縁層、セミリセスLOCOS絶縁層を用いることができる。第1下地層14の材質は、例えば、酸化シリコンである。第1下地層14は、MEMS振動子100と支持基板12に形成された他の素子(図示せず)とを電気的に分離することができる。
【0030】
第2下地層16は、第1下地層14上に形成されている。第2下地層16の材質としては、例えば、窒化シリコンが挙げられる。第2下地層16は、後述するリリース工程においてエッチングストッパー層として機能することができる。
【0031】
第1電極20は、基板10上に配置されている。第1電極20の形状は、例えば、層状又は薄膜状である。第1電極20の平面形状は、例えば、図1に示すように、長方形である。なお、第1電極20の平面形状は、特に限定されず、例えば、長方形以外の多角形であってもよい。第1電極20は、基板10上に固定されている。第1電極20は、第1配線40に接続されている。
【0032】
第1電極20の長さL1は、例えば、5μmである。ここで、第1電極20の長さL1とは、Y方向(梁部32の延出方向)の第1電極20の大きさである。また、第1電極20の幅W1は、例えば、500μmである。ここで、第1電極20の幅W1とは、X方向の第1電極20の大きさである。また、第1電極20の厚さT1は、例えば、300nmである。
【0033】
第2電極30は、梁部32と、梁部32を支持する支持部34と、を有する。梁部32は、第1電極20に対して対向配置されている。支持部34は、基板10上に形成されている。第2電極30は、第2配線42に接続されている。
【0034】
梁部32は、第1電極20との間に空隙を有した状態で配置されている。梁部32と第1電極20との間の距離(ギャップ)Gは、例えば、300nmである。梁部32は、支持部34から+Y方向に延出している。梁部32は、支持部34と接する基部32aから先端部32bまで+Y方向に延出している。第2電極30は、梁部32の一端(基部32a)を支持部34で固定し、梁部32の他端(先端部32b)を自由にした片持ち梁状(カンチレバー状)に形成されている。
【0035】
梁部32の長さL2は、例えば、3〜5μm程度である。ここで、梁部32の長さL2とは、基部32aと先端部32bとの間の距離である。すなわち、梁部32の長さL2とは、Y方向の梁部32の大きさである。また、梁部32の幅W2は、例えば、1μm程度である。ここで、梁部32の幅W2とは、X方向の梁部32の大きさである。また、梁部32の厚さT2は、例えば、300nmである。
【0036】
梁部32は、複数(図示の例では30本)設けられている。すなわち、第2電極30は、複数(30本)の梁部32で構成されている。第2電極30を構成する梁部32の数は、図示の例では、30本であるが、これに限定されない。第2電極30を構成する梁部32の数は、例えば、30〜1000本程度である。第2電極30を構成する複数(30本)の梁部32は、支持部34から同じ方向(+Y方向)に延出している。第2電極30を構成する複数(30本)の梁部32は、X方向に1列に並んでいる。第2電極30を構成する複数(30本)の梁部32は、配線42に対して互いに電気的に並列に接続されている。隣り合う梁部32間の距離Sは、例えば、1μm程度である。
【0037】
第2電極30を構成する梁部32の長さL2は、図示の例では、すべて等しい。これにより、第2電極30を構成する梁部32の全部が、同じ固有振動数を有することができる。ここで、複数の梁部の長さが等しいとは、例えば、各梁部の長さが設計上同じ長さであることを意味し、各梁部の長さが完全に等しい場合と、製造誤差の範囲内で各梁部の長さが異なっている場合とを含むものとする。
【0038】
また、第2電極30を構成する梁部32は、例えば、すべて同じ形状を有している。すなわち、第2電極30を構成する梁部32は、長さL2だけでなく、幅W2、厚さT2、ギャップG、がすべて同じ大きさを有している。これにより、第2電極30を構成する梁部32の全部が、同じ固有振動数を有することができる。第2電極30を構成する梁部32の全部が同じ固有振動数を有することにより、第2電極30を構成する梁部32は、電極20,30間に生じる静電力によって、互いに同じ周期かつ同じ位相で振動することができる。
【0039】
なお、ここでは、第2電極30を構成する梁部32の形状(長さL2、幅W2、厚さT2、ギャップG)が、すべて同じ場合について説明したが、第2電極30を構成する梁部32は、電極20,30間に生じる静電力によって、互いに同じ周期かつ同じ位相で振動することができれば、それぞれ異なる形状を有していてもよい。
【0040】
支持部34は、基板10上に配置されている。支持部34は、梁部32を支持している。図示の例では、1つの支持部34が、第2電極30を構成する梁部32の全部を支持している。支持部34は、例えば、基板10上に固定されている。
【0041】
第1電極20および第2電極30の材質は、例えば、所定の不純物をドーピングすることにより導電性が付与された多結晶シリコンである。
【0042】
なお、MEMS振動子100は、第1電極20および第2電極30を減圧状態で気密封止する被覆構造体を有していてもよい。これにより、梁部32の振動時における空気抵抗を減少させることができる。
【0043】
MEMS振動子100では、第1電極20および第2電極30の間に電圧(交番電圧)が印加されると、第2電極30を構成する梁部32は、電極20,30間に発生する静電力により、基板10の厚み方向に振動することができる。なお、ここで、基板10の厚み方向とは、基板10の主面(素子が形成される面)の垂線Pに沿う方向(Z方向)をいう。第2電極30を構成する梁部32は、電極20,30間の静電気力により、互いに同じ周期かつ同じ位相で振動することができる。これにより、例えば、第1電極20(第1配線40)から所定の周波数(梁部の固有振動数に応じた周波数)の信号(出力信号)を出力することができる。MEMS振動子100は、静電力によって動作する静電型のMEMS振動子である。
【0044】
MEMS振動子100は、例えば、以下の特徴を有する。
【0045】
MEMS振動子100では、第2電極30が、梁部32を複数有することができる。これにより、例えば、第2電極30を構成する梁部32の全部の面積と同じ面積を1つの梁部で形成した場合と比べて、梁部を振動させる際に生じる梁部のねじれ等を抑制することができる。そのため、ねじれ等に起因する不要な振動モードが発生することを抑制することができる。したがって、MEMS振動子100によれば、所望の周波数特性(発振特性)を得ることができる。以下、詳細に説明する。
【0046】
図4は、従来のMEMS振動子の梁部1032の振動の状態を説明するための図である。図4(A)は、梁部1032が単一の振動モードで振動している状態を示す図である。図4(B)、図4(C)は、梁部1032にねじれや波打ちが生じて梁部に不要な振動モードが生じている状態を示す図である。
【0047】
梁部1032は、図4(A)に示すように、単一の振動モード(主振動)で振動していることが望ましい。図5(A)は、梁部1032が、単一の振動モードで振動しているときの出力信号の一例を示すグラフである。梁部が単一の振動モードで振動しているときには、図5(A)に示すように、出力信号は単一のピークを有し、良好な周波数特性を得ることができる。
【0048】
これに対して、図4(B)および図4(C)に示すように、梁部1032にねじれや波打ちが生じることにより、梁部1032には、図4(A)での振動モード(主振動)とは異なる不要な振動モードが生じている。図5(B)は、梁部1032に不要な振動モード(主振動以外の振動)が生じた場合の出力信号の一例を示すグラフである。図5(B)に示すように、梁部1032にねじれや波打ちが生じることにより、出力信号には、主振動以外の振動によるピーク(スプリアス)が生じる。このように、梁部にねじれ等が生じると、意図しない周波数で発振が起こってしまい、所望の周波数特性(発振特性)が得られない場合がある。
【0049】
このような課題に対して、本実施形態に係るMEMS振動子100では、上述したように、第2電極30が梁部32を複数有することにより、梁部を振動させる際に生じる梁部のねじれ等を抑制することができる。そのため、MEMS振動子100では、梁部32のねじれ等に起因する不要な振動モードが発生することを抑制することができる。したがって、所望の周波数特性(発振特性)を得ることができる。
【0050】
また、MEMS振動子100では、梁部32の数を増やすことで、梁部32の面積(平面視において梁部32と第1電極20とが重なる領域の面積)を大きくすることができる。そのため、梁部32の面積を大きくしても、梁部のねじれ等に起因する不要な振動モードが発生することを抑制することができる。したがって、不要な振動モードを抑制しつつ、梁部32の面積を大きくして挿入損失などの特性を向上させることができる。
【0051】
MEMS振動子100によれば、第2電極30を構成する梁部32が、支持部34から同じ方向(+Y方向)に延出していることができる。これにより、例えば、製造工程において、梁部32の長さを揃えることが容易になり、第2電極30を構成する各梁部32間における固有振動数のばらつきを低減することができる。
【0052】
第2電極30を構成する梁部32の全部が、同じ方向に延出していない場合、梁部をパターニングする工程において、マスク合わせにずれが生じた場合、梁部の長さが、梁部が延出する方向によって異なってしまう場合がある。MEMS振動子100では、第2電極30を構成する梁部32の全部が同じ方向(+Y方向)に延出しているため、マスク合わせにずれが生じても、梁部32の長さのずれ量が同じになる。したがって、第2電極30を構成する各梁部32の長さにばらつきが生じることを抑制することができる。これにより、第2電極30を構成する各梁部32間における固有振動数のばらつきを低減することができる。そのため、各梁部32の固有振動数を所定の値に集中させることができ、その重ね合わせであるMEMS振動子の発振特性を向上させることができる。
【0053】
MEMS振動子100によれば、第2電極30を構成する各梁部32の長さが、互いに等しいため、各梁部32が同じ固有振動数を有することができる。
【0054】
2. MEMS振動子の製造方法
次に、本実施形態に係るMEMS振動子の製造方法について、図面を参照しながら説明する。図6〜図9は、本実施形態に係るMEMS振動子100の製造工程を模式的に示す断面図である。
【0055】
図6に示すように、支持基板12上に、第1下地層14および第2下地層16をこの順で形成して、基板10を得る。第1下地層14は、例えば、LOCOS法により形成される。第2下地層16は、例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、スパッタ法により形成される。
【0056】
次に、基板10上に第1半導体層2を成膜する。第1半導体層2の成膜は、例えば、CVD法、スパッタ法により行われる。第1半導体層2の材質は、例えば、多結晶シリコン(ポリシリコン)である。
【0057】
次に、第1半導体層2に不純物を注入する。これにより、第1半導体層2に対して導電性を付与することができる。注入される不純物としては、例えば、リン(P)やボロン(B)が挙げられる。また、不純物を活性化するための熱処理を行ってもよい。
【0058】
図7に示すように、第1半導体層2をパターニングして、第1電極20を形成する。また、第1半導体層2のパターニングにより、さらに、第1配線40が形成されてもよい。第1半導体層2のパターニングは、例えば、フォトリソグラフィー技術によって行われる。
【0059】
次に、第1電極20を覆う被覆層(犠牲層)4を形成する。被覆層4は、例えば、酸化シリコン層である。被覆層4は、例えば、第1電極20を熱酸化することにより形成される。被覆層4の厚みによって、第1電極20と第2電極30との間の距離(ギャップG)が決定される。
【0060】
図8に示すように、被覆層4上に第2半導体層6を成膜する。図示の例では、第2半導体層6は、被覆層4上および基板10上に形成される。第2半導体層6の成膜は、例えば、CVD法、スパッタ法により行われる。第2半導体層6の材質は、例えば、多結晶シリコンである。
【0061】
次に、第2半導体層6に不純物を注入する。これにより、第2半導体層6に対して導電性を付与することができる。注入される不純物としては、例えば、リン(P)やボロン(B)が挙げられる。また、不純物の活性化を活性化するための熱処理を行ってもよい。
【0062】
図9に示すように、第2半導体層6をパターニングして、複数の梁部32および支持部34を有する第2電極30を形成する。また、第2半導体層6のパターニングにより、さらに、第2配線42が形成されてもよい。第2半導体層6のパターニングは、例えば、フォトリソグラフィー技術により行われる。
【0063】
ここで、第2電極30を構成する梁部32は、上述したように、全部が同じ方向(+Y方向)に延出するように形成される。そのため、第2半導体層6のパターニングの際に、第1電極20と第2電極30をパターニングするためのマスク(図示せず)との間に位置ずれが生じたとしても、梁部32の長さL2のずれ量は、全部の梁部32で同じになる。したがって、製造工程において、第2電極30を構成する各梁部32の長さにばらつきが生じることを抑制することができる。
【0064】
図3に示すように、被覆層4を除去する(リリース工程)。被覆層4の除去は、例えば、フッ化水素酸や緩衝フッ酸(フッ化水素酸とフッ化アンモニウムとの混合液)などを用いたウェットエッチングにより行われる。このとき、第2下地層16は、エッチングストッパー層として機能することができる。
【0065】
以上の工程により、MEMS振動子100を製造することができる。
【0066】
3. MEMS振動子の変形例
3.1. 第1変形例
次に、本実施形態の第1変形例に係るMEMS振動子について、図面を参照しながら説明する。図10は、本実施形態の第1変形例に係るMEM振動子200を模式的に示す平面図である。以下、MEMS振動子200において、上述したMEMS振動子100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0067】
上述したMEMS振動子100の例では、図1に示すように、第2電極30は、複数(30本)の梁部32に対して1つの支持部34を有していた。
【0068】
これに対して、MEMS振動子200では、図10に示すように、第2電極30は、複数(30本)の梁部32に対して複数(2つ)の支持部34a,34bを有している。
【0069】
第2電極30は、図示の例では、2つの支持部(第1支持部34aおよび第2支持部34b)を有している。第1支持部34aおよび第2支持部34bは、それぞれ15本の梁部32を支持している。すなわち、第2電極30は、30本の梁部32と、2つの支持部34a,34bを有している。なお、図示の例では、第1支持部34aおよび第2支持部34bがそれぞれ同じ数(15本)の梁部32を支持しているが、例えば、第1支持部34aと第2支持部34bが異なる数の梁部32を支持していてもよい。また、図示の例では、支持部34a,34bの数は2つだが、その数は特に限定されず3つ以上であってもよい。第1支持部34aおよび第2支持部34bは、接続部36によって接続されている。
【0070】
第1支持部34aに支持されている梁部32および第2支持部34bに支持されている梁部32は、ともに、支持部34a,34bから同じ方向(+Y方向)に延出している。梁部32は、図示の例では、2列に配列されている。なお、例えば、支持部34を3つ以上設けて、梁部32を3つ以上の列に配列してもよい。第2電極30を構成する複数(30本)の梁部32は、配線42に対して、互いに電気的に並列に接続されている。そのため、第2電極30を構成する梁部32は、電極20,30間に生じる静電力によって、互いに同じ周期かつ同じ位相で振動することができる。
【0071】
第1電極20は、第1支持部34aに支持されている梁部32との間に空隙を有した状態で配置される第1部分20aと、第2支持部34bに支持されている梁部32との間に空隙を有した状態で配置される第2部分20bと、を有する。第1部分20aと第2部分20bとは、接続部22によって接続されている。
【0072】
MEMS振動子200は、例えば、以下の特徴を有する。
【0073】
MEMS振動子200によれば、上述したMEMS振動子100と同様に、第2電極30が、梁部32を複数有することができる。これにより、梁部32のねじれ等に起因する不要な振動モードが発生することを抑制することができる。したがって、MEMS振動子200によれば、所望の周波数特性が得ることができる。
【0074】
MEMS振動子200によれば、上述したMEMS振動子100と同様に、第2電極30を構成する梁部32の全部が、支持部34a,34bから同じ方向(+Y方向)に延出していることができる。これにより、例えば、製造工程において、梁部32の長さを揃えることが容易になり、第2電極30を構成する各梁部32間における固有振動数のばらつきを低減することができる。
【0075】
MEMS振動子200では、第2電極30が、支持部34a,34bを複数有している。これにより、梁部32を複数列に配列することができる。したがって、MEMS振動子の外形の形状を容易に変更することができ、例えば、MEMS振動子と駆動回路とを同一基板上に配置する場合に、設計の自由度が向上する。
【0076】
なお、MEMS振動子200の製造方法は、上述したMEMS振動子100の製造方法と同様であり、その説明を省略する。
【0077】
3.2. 第2変形例
次に、本実施形態の第2変形例に係るMEMS振動子について、図面を参照しながら説明する。図11は、本実施形態の第2変形例に係るMEM振動子300を模式的に示す平面図である。以下、MEMS振動子300において、上述したMEMS振動子100,200の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0078】
上述したMEMS振動子100の例では、図1に示すように、第2電極30を構成する梁部32の全部が、支持部34から同じ方向(+Y方向)に延出していた。
【0079】
これに対して、MEMS振動子300では、図11に示すように、第2電極30を構成する梁部32の全部が、支持部から同じ方向に延出しておらず、第1支持部34aに支持されている梁部32が+Y方向に延出し、第2支持部34bに支持されている梁部32が、−Y方向に延出している。
【0080】
第1支持部34aで支持されている梁部32は、第1支持部34aから+Y方向に延出している。第2支持部34bで支持されている梁部32は、第2支持部34bから−Y方向に延出している。これにより、例えば、上述した図10の例のように第1電極20に2つの部分20a,20bを設けることなく、梁部32を2列に配列することができる。
【0081】
MEMS振動子300は、例えば、以下の特徴を有する。
【0082】
MEMS振動子300によれば、上述したMEMS振動子100,200と同様に、第2電極30が、梁部32を複数有することができる。これにより、梁部32のねじれ等に起因する不要な振動モードが発生することを抑制することができる。したがって、MEMS振動子300によれば、所望の周波数特性が得ることができる。
【0083】
MEMS振動子300では、上述したMEMS振動子200と同様に、第2電極30が、支持部34a,34bを複数有している。これにより、梁部32を複数列に配列することができる。したがって、MEMS振動子の外形の形状を容易に変更することができ、例えば、MEMS振動子と駆動回路とを同一基板上に配置する場合に、設計の自由度が向上する。
【0084】
なお、MEMS振動子300の製造方法は、上述したMEMS振動子100の製造方法と同様であり、その説明を省略する。
【0085】
4. 発振器
次に、本実施形態に係る発振器について、図面を参照しながら説明する。図12は、本実施形態に係る発振器400を示す回路図である。
【0086】
発振器400は、図12に示すように、本発明に係るMEMS振動子(例えばMEMS振動子100)と、反転増幅回路410と、を含んで構成されている。
【0087】
MEMS振動子100は、第1電極20(第1配線40)に電気的に接続された第1端子100aと第2電極30(第2配線42)に電気的に接続された第2端子100bとを有している。MEMS振動子100の第1端子100aは、反転増幅回路410の入力端子410aと少なくとも交流的に接続する。MEMS振動子100の第2端子100bは、反転増幅回路410の出力端子410bと少なくとも交流的に接続する。
【0088】
図示の例では、反転増幅回路410は、1つのインバーターから構成されているが、所望の発振条件が満たされるように、複数のインバーター(反転回路)や増幅回路を組み合わせて構成されていてもよい。
【0089】
発振器400は、反転増幅回路410に対する帰還抵抗を含んで構成されていてもよい。図12に示す例では、反転増幅回路410の入力端子と出力端子とが抵抗420を介して接続されている。
【0090】
発振器400は、反転増幅回路410の入力端子410aと基準電位(接地電位)との間に接続された第1キャパシター430と、反転増幅回路410の出力端子410bと基準電位(接地電位)との間に接続された第2キャパシター432と、を含んで構成されている。これにより、MEMS振動子100とキャパシター430,432とで共振回路を構成する発振回路とすることができる。発振器400は、この発振回路で得られた発振信号fを出力する。
【0091】
図13は、本実施形態に係る発振器400を模式的に示す平面図である。なお、図13において、MEMS振動子100および回路部401,402は、簡略化して図示している。
【0092】
発振器400を構成するトランジスターやキャパシター等の素子は、基板10上の回路部401,402に形成されている。これにより、MEMS振動子100と反増幅回路410をモノリシックに形成することができる。また、基板10上には、発振器400を、外部の装置(図示せず)と接続するための外部接続端子403が形成されている。回路部401,402は、MEMS振動子100の第1電極20および第2電極30と電気的に接続されている。
【0093】
図14は、本実施形態に係る発振器400の変形例を模式的に示す平面図である。
【0094】
図14に示す変形例では、発振器400は、上述したMEMS振動子200を含んで構成されている。図13に示すMEMS振動子100と、図14に示すMEMS振動子200は、平面視において、外形が異なる。具体的には、平面視において、MEMS振動子200の外形は、MEMS振動子100の外形と比べて、より正方形に近い形状を有している。このように、本発明に係るMEMS振動子は、第2電極30が複数の梁部32を有しているため、例えば、梁部32を1列に並べたり(MEMS振動子100の例)、複数列に配列したり(MEMS振動子200,300の例)することにより、平面視における外形(平面形状)を変えることができる。そのため、例えば、回路部401,402の大きさや形状に応じてMEMS振動子の外形(平面形状)を容易に変更することができるため、設計の自由度が高い。
【0095】
発振器400を構成するトランジスター等の素子を基板10上に形成する場合、発振器400を構成するトランジスター等の素子を、上述したMEMS振動子100を形成する工程と同一の工程で形成してもよい。具体的には、被覆層4を形成する工程において(図7参照)、トランジスターのゲート絶縁層を形成してもよい。さらに、第2電極30を形成する工程において(図8および図9参照)、トランジスターのゲート電極を形成してもよい。このように、MEMS振動子100の製造工程と発振器400を構成するトランジスター等の素子の製造工程を共通化することで、製造工程の簡素化を図ることができる。
【0096】
発振器400によれば、不要な振動モードが生じることを抑制できるMEMS振動子100を含む。そのため、良好な発振特性を有することができる。
【0097】
発振器400は、図15に示すように、さらに、分周回路440を有していてもよい。分周回路440は、発振回路の出力信号Voutを分周し、発振信号fを出力する。これにより、発振器400は、例えば、出力信号Voutの周波数よりも低い周波数の出力信号を得ることができる。
【0098】
なお、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば各実施形態及び各変形例は、複数を適宜組み合わせることが可能である。
【0099】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0100】
2 第1半導体層、4 被覆層、6 第2半導体層、10 基板、12 支持基板、
14 第1下地層、16 第2下地層、20 第1電極、20a 第1部分、
20b 第2部分、22 接続部、30 第2電極、32 梁部、32a 基部、
32b 先端部、34 支持部、34a 第1支持部、34b 第2支持部、
36 接続部、40 第1配線、42 第2配線、100 MEMS振動子、
100a 第1端子、100b 第2端子、200,300 MEMS振動子、
400 発振器、401 回路部、402 回路部、403 外部接続端子、
410 反転増幅回路、410a 入力端子、410b 出力端子、420 抵抗、
430 第1キャパシター、432 第2キャパシター、440 分周回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の上方に配置された第1電極と、
前記第1電極との間に空隙を有した状態で配置され、前記第1電極との間の静電力によって前記基板の厚み方向に振動可能となる梁部、および前記梁部を支持する支持部を有する第2電極と、
を含み、
前記第2電極は、前記梁部を複数有する、MEMS振動子。
【請求項2】
請求項1において、
複数の前記梁部は、前記支持部から同じ方向に延出している、MEMS振動子。
【請求項3】
請求項1または2において、
複数の前記梁部の長さは、等しい、MEMS振動子。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、
複数の前記梁部は、前記第1電極と前記第2電極との間に生じる静電力によって、同じ周期かつ同じ位相で振動する、MEMS振動子。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、
前記第2電極は、前記梁部の一端が前記支持部で固定された片持ち梁状に形成されている、MEMS振動子。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、
前記第2電極は、前記支持部を複数有する、MEMS振動子。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載のMEMS振動子と、
前記MEMS振動子の前記第1電極および前記第2電極と電気的に接続された回路部と、
を含む発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−110493(P2013−110493A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252354(P2011−252354)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】