説明

MEMS走査型ミラーの製造方法

【課題】ミラー面の鏡面性と製造歩留りに優れたMEMS走査型ミラーの製造方法を提供する。
【解決手段】空洞HOが形成されるハンドル層Hと表面が鏡面仕上げされたデバイス層B、Tとがシリコン酸化膜を介して接合されたウエハを準備する工程、デバイス層にMEMS走査型ミラーの下層構成要素に対応しかつデバイス層に形成すべき下層構造体を形成する工程、下層構造体形成後のウエハのデバイス層にシリコン酸化膜を介して上層のデバイス層を形成するためのウエハを接合する工程、上層のウエハを加工して所定厚さの上層のデバイス層を形成する工程、上層のデバイス層にMEMS走査型ミラーの上層構成要素に対応しかつ上層のデバイス層に形成すべき上層構造体を形成する工程、ハンドル層Hに空洞を形成する工程、下層構造体のシリコン酸化膜を除去してMEMS走査型ミラーを完成させる工程とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ電気機械機構(MEMS)、とりわけ、MEMS走査型ミラーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、光学機器の多機能化・高速化に伴って、高速の光路切り替えや、所望のパターンのベクトル描画が必要となっている。例えば、光波距離計においては、測定誤差を補償するため、光波距離計から外部の目標までの距離を測定するための外部光路と機器の内部に設けた内部光路との間での、交互切り替えが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1に示す距離測定装置の調光装置に記載の技術では、調光のために光路切り替えが必要である。また、光波距離計による測定対象捕捉では、規定の角度への光ビーム投射が行われなければならない。さらに、レーザー光走査による線画表示機器においては、所望のパターンを描くために、それに応じた光走査ができなければならない。
【0004】
これらいずれの場合においても、高速化や低消費電力化が重要であり、そのために、光の反射方位変更や走査へのMEMS走査型ミラーの応用が検討されている。また、アクチュエータの高速化や低消費電力化に加え、光の反射を行うミラー部の鏡面性や製造歩留りの向上は、この開発分野における中心課題となっている。ここで、鏡面性とは、ミラー部の表面の表面粗さに対応しており、表面粗さの小さい平滑な面は、鏡面性が高いと言われる。
【0005】
図6は、段差付き静電櫛歯アクチュエータを有するMEMS走査型ミラー27の従来例を示す模式図である。この図6に示すように、可動櫛歯27eと固定櫛歯27fA、27fBとの間には一定の段差が設けられている。
【0006】
この段差付き静電櫛歯アクチュエータを有するMEMS走査型ミラー27は、円盤状のミラー板27aを有する。このミラー板27aには半径方向に伸びる一対の軸部27bが形成されている。その一対の軸部27bはばね部27cを介して固定部27dに連結されている。
【0007】
可動櫛歯27eはその軸部27bの途中に形成されている。固定櫛歯27fA、27fBは可動櫛歯27eにそれぞれ臨まされている。この可動櫛歯27eと固定櫛歯27fA、27fBとは左右一対の静電アクチュエータを構成している。
【0008】
この左右一対の静電アクチュエータはミラー板27aの回転駆動に用いられる。すなわち、左右一対の固定櫛歯27fA、27fBに電圧を印加することにより、ミラー板27aが矢印F方向に回転駆動される。なお、駆動方式としては、左右の一方又は両方の固定櫛歯と可動櫛歯との間にDC電圧を印加することにより、第1角度から第2角度への回転を行うDC駆動、及び例えばAC電圧のような周期的電圧を印加して共振に基づく回転を行う共振駆動の2通りがある。
【0009】
段差付き静電櫛歯アクチュエータを有するMEMS走査型ミラーの製造については、種々の方法が知られている。例えば、特許文献2に記載の一軸周りに回転駆動可能な2層のシリコンウエハを含むMEMS走査型ミラーの製造工程は、
(a)第1のシリコンウエハの表面に固定櫛歯構造を形成する工程、
(b)第1のシリコンウエハの固定櫛歯構造を形成した側の表面に第2のシリコンウエハを接合する工程、
(c)(b)の工程後、第2のシリコンウエハを所定の厚みにまで薄くした上で鏡面性を得るためにグラインディングや研磨加工を施す工程、
(d)(c)の工程後、第1のシリコンウエハの固定櫛歯構造を形成した側とは反対の表面からミラー板の下部に相当する部分を除去する工程、
(e)(d)の工程後、第2のシリコンウエハに可動櫛歯及びミラー板を形成する工程、
(f)(e)の工程後、第1及び第2のシリコンウエハ間の酸化層を除去することにより、段差付き静電櫛歯アクチュエータを有するMEMS走査型ミラーを得る工程、
からなっている。なお、ミラー板には、その光学的特性を高めるため、蒸着等により金、アルミニウム等がコートされることもある。
【0010】
また、特許文献3に記載の2軸回りに回転駆動可能なMEMS走査型ミラーの製造工程は、
(a)SOI(Silicon−on−Isulator)のデバイス層に固定櫛歯を有するMEMS走査型ミラーの下層構造を形成する工程、
(b)別のシリコンウエハに凹部を形成する工程、
(c)(b)の工程後、この下層構造とその凹部とが向き合った状態でSOIウエハのデバイス層とシリコンウエハとを接合する工程、
(d)(c)の工程後、SOIウエハのハンドル層を所定の厚みまで薄くした後、鏡面仕上げを施す工程、
(e)(d)の工程後、このハンドル層に可動櫛歯とミラー板とを有するMEMS走査型ミラーの上層構造を形成する工程、
(f)(e)の工程後、露出したシリコン酸化層を除去することにより段差付き静電櫛歯アクチュエータを得る工程、
からなっている。
【0011】
なお、ミラーは、(e)で形成されたミラー板へクロムを下地とした金を成膜することにより完成される。
【0012】
また、例えば、特許文献4に示すMEMS構造に関する技術も知られている。
【特許文献1】特開2008−65293号公報
【特許文献2】アメリカ特許文献第6758983号公報
【特許文献3】アメリカ特許文献第6914710号公報
【特許文献4】アメリカ特許文献第6641273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、例えば、特許文献2、特許文献3に示す従来の段差付き静電櫛歯アクチュエータを有するMEMS走査型ミラーは、ミラー板がデバイスの最上面に形成されているため、以下に説明する問題があり、鏡面性の高いミラーを得ること、製造歩留りを向上させることが困難な状況にある。
【0014】
すなわち、従来、ミラー板を形成する際に、鏡面性を高めるために、グラインディング、ラッピング、研磨等の加工が、デバイスの最表面層に施されている。その際、例えば、特許文献3に開示の製造方法にみられるように、この加工を施されるシリコンウエハの下部に予め櫛歯や空洞等の構造が形成されている場合、とりわけ、ミラー板の下部に空洞が形成されている場合、この加工の均一性を確保することが難しい。その結果、ミラー表面に傷が残り、高い鏡面性を歩留り良く得ることが困難となる。
【0015】
さらに、従来、ミラー部がデバイスの最上面に形成されているために、ミラー部の形成後のマスク形成、エッチング、マスク除去、成膜等の加工工程の後の加工工程において、ハンドリングや内部応力等によるミラー部の破損や、ミラー表面の傷の発生等を生じ易く、これらも良好な鏡面性や高い製造歩留りを実現する上での障害となっている。
【0016】
このような問題は、この後加工工程において、ミラー板部の下部に空洞が形成されている場合に特に顕著である。
【0017】
また、例えば、特許文献4では、具体的な製造方法が開示されておらず、ミラー板の表面及び裏面全体を覆うシリコン酸化膜を取り除くことにより、この表面および裏面を露出させたり、段差付き櫛歯構造形成時にミラー板の下部にハンドル層が存在するように製造したり、ミラー板の下部にハンドル層が存在する状態で段差付き櫛歯構造を形成した後、シリコン酸化膜を除去する製造方法により、ミラー板の表面を露出させることによる高い製造歩留まりを実現することができない。
【課題を解決するための手段】
【0018】
請求項1に記載のMEMS走査型ミラーの製造方法は、ハンドル層の上部に段差付き静電櫛歯アクチュエータを形成するための少なくとも二つのデバイス層が設けられ、最上層のデバイス層以外のデバイス層にミラー面を有するミラー板が形成されているMEMS走査型ミラーの製造方法であって、
空洞が形成されるハンドル層と表面が鏡面仕上げされたデバイス層とがシリコン酸化膜を介して接合されたウエハを準備する工程と、
前記デバイス層に前記MEMS走査型ミラーの下層構成要素に対応しかつ該デバイス層に形成すべき下層構造体を形成する工程と、
前記下層構造体形成後のウエハの前記デバイス層にシリコン酸化膜を介して上層のデバイス層を形成するためのウエハを接合する工程と、
該上層のウエハを加工して所定厚さの上層のデバイス層を形成する工程と、
該上層のデバイス層に前記MEMS走査型ミラーの上層構成要素に対応しかつ該上層のデバイス層に形成すべき上層構造体を形成する工程と、
前記ハンドル層に前記空洞を形成する工程と、
前記下層構造体のシリコン酸化膜を除去して前記MEMS走査型ミラーを完成させる工程とを含むことを特徴とする。
【0019】
請求項2に記載の少なくとも3層のシリコンを含む部分を有する少なくとも1つの段差付き静電櫛歯アクチュエータを有するMEMS走査型ミラーの製造方法は、段差付き櫛歯構造形成時にミラー板の下部にハンドル層が存在することを特徴とする。
【0020】
請求項3に記載の少なくとも1つの段差付き静電櫛歯アクチュエータを有するMEMS走査型ミラーの製造方法は、ミラー板下部にハンドル層が存在する状態で段差付き櫛歯構造を形成した後、シリコン酸化膜を除去することによりミラー板表面を露出させることを特徴とする。
【0021】
請求項4に記載のMEMS走査型ミラーの製造方法は、シリコン酸化膜を除去することによりミラー板表面を露出させることを特徴とする。
【0022】
請求項5に記載のMEMS走査型ミラーの製造方法は、ミラー板の表面および裏面全体を覆うシリコン酸化膜を取り除くことにより、当該表面および裏面を露出させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る少なくとも1つの段差付き静電櫛歯アクチュエータを用いたMEMS走査型ミラーの製造方法によれば、ミラーがデバイス最上面よりも下の位置に形成されており、ウエハ接合後はグラインド、ラッピング又は研磨加工による鏡面形成が行われないので、ミラーの鏡面性が良好である。
【0024】
また、デバイスの完成直前までミラー板の下には空洞が存在しないことから、加工中の破損やミラー板表面の傷の発生を防ぐことができる。更には、デバイス最上面の仕上がり粗さへの要求を緩和することができる。従って、鏡面性に優れたミラーを有する、少なくとも1つの段差付き静電櫛歯アクチュエータを有するMEMS走査型ミラーを歩留りよく製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係るMEMS走査型ミラーの第1の実施例を示す説明図であって、(a)は平面図、(b)は(a)に示すA−A’線に沿う断面図、(c)は(a)に示すB−B’線に沿う断面図である。
【図2】本発明に係るMEMS走査型ミラーの第2の実施例を示す説明図であって、(a)は平面図、(b)は(a)に示すB−B’線に沿う断面図、(c)は(a)に示すA−A’線に沿う断面図である。
【図3】本発明に係るMEMS走査型ミラーの第3の実施例を示す説明図であって、(a)は平面図、(b)は(a)に示すB−B’線に沿う断面図、(c)は(a)に示すA−A’線に沿う断面図である。
【図4】本発明に係るMEMS走査型ミラーの製造方法の実施例を示す説明図であって、(a)は準備工程の説明図、(b)はデバイス層への構造体の形成工程の説明図、(c)はシリコンウエハ接合工程の説明図、(d)は最上層のデバイス層の形成工程の説明図、(e)はハンドル層へのマスクの形成工程の説明図である。
【図5】本発明に係るMEMS走査型ミラーの製造方法の実施例を示す説明図であって、(a’)は最上層のデバイス層への構造体の形成工程の説明図、(b’)はハンドル層への空洞の形成工程の説明図、(c’)はシリコン酸化膜除去工程の説明図、(d’)は各デバイス層への膜形成工程の説明図である。
【図6】従来の段差付き静電櫛歯アクチュエータを有するMEMS走査型ミラーの概略構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0026】
以下に、図面を参照しつつ、本発明に係る段差付き静電櫛歯アクチュエータを有するMEMS走査型ミラーの製造方法を説明する。
【0027】
図1は、本発明に係る1つの段差付き静電櫛歯アクチュエータを有するMEMS走査型ミラーの模式図を示している。このMEMS走査型ミラーは、図1(a)〜図1(c)に示すように、3層構造を呈しており、最上層のデバイス層T、最下層のハンドル層H及びこれらの間に存在するデバイス層Bからなる。
【0028】
デバイス層T、デバイス層Bはn型又はp型にドープされた導電性のシリコンからなる。ハンドル層Hには絶縁性若しくは導電性シリコン又はガラスが用いられる。これらの各層の間は、絶縁層Iによって電気的に絶縁されている。絶縁層Iは、ハンドル層Hがシリコンの場合、シリコン酸化物であることが好ましい。
【0029】
そのハンドル層Hには空洞HOが形成されている。各デバイス層T、デバイス層Bに形成される静電櫛歯アクチュエータの構成要素はその空洞HOの上方に位置する。この各デバイス層T、デバイス層Bに形成される静電櫛歯アクチュエータの構成要素については、各層を示す符号T、Bに添字を付して説明する。
【0030】
デバイス層Bに形成される静電櫛歯アクチュエータの各構成要素はミラー板10B、可動櫛歯11B、軸13B、ばね14B及び枠15Bである。これらの各構成要素の全ては一体とされ、電気的に等電位である。
【0031】
ミラー板10Bには、一方向に伸びる一対の軸13Bが形成されている。その一対の軸13Bは、ばね14Bを介して枠15Bに連結されている。軸13Bの途中には、可動櫛歯11Bが形成されている。なお、ミラー板10Bの表面には、金、アルミニウム等による膜が形成されていてもよい。
【0032】
デバイス層Tには、構成要素として、右固定櫛歯12T1、左固定櫛歯12T2、右土台16T1及び左土台16T2がそれぞれ形成されている。右固定櫛歯12T1、左固定櫛歯12T2は、それぞれ右土台16T1、左土台16T2に一体に形成され、電気的にはこれらと同電位である。右土台16T1、左土台16T2の電位は、互いに独立に設定可能である。
【0033】
デバイス層Bには、その表面が優れた鏡面を有するシリコンウエハが用いられ得る。このデバイス層Bとハンドル層Hとを絶縁層Iを介して接合した材料がMEMS走査型ミラーの作製用に提供され得る。デバイス層B、絶縁層I、ハンドル層Hがあらかじめ一体化されたSOIウエハを用いても良い。SOIウエハのデバイス層Bの表面は、優れた鏡面状態に仕上げることができる。
【0034】
いずれの材料を用いてMEMS走査型ミラーを作製する場合でも、デバイス層Bの優れた鏡面をそのまま用いることにより、鏡面性の良好なミラー板10Bを実現することができる。
【0035】
このMEMS走査型ミラーでは、図1(a)、図1(b)に示すようにデバイス層Tで定義される最上面TOPSよりも下にミラー板10Bの表面10BSが位置する。
【0036】
従来の静電櫛歯アクチュエータを有するMEMS走査型ミラーでは、ミラーが最上面に形成され、ミラー板の形成後、ミラー板の表面が外部に曝されたままその後の加工が行われることに対して、この発明に係わるMEMS走査型ミラーでは、完成直前までデバイス層Bの表面10BSをシリコン酸化膜等の絶縁層Iにより保護することができるので、後述するマスク形成、エッチング、マスク除去、成膜等の各工程において、ハンドリング等によりミラー板10Bの表面10BSに傷が発生することや表面10BSが汚染されることを防止することができることとなる。
【0037】
可動櫛歯11Bは右固定櫛歯12T1、左固定櫛歯12T2に対して段差をもって交差指状に位置している。可動櫛歯11Bと固定櫛歯12T1、12T2間に電圧が印加されると、静電エネルギーが低下するように、可動櫛歯11B、すなわち、ミラー板10BにX−X’軸周りのトルクが発生する。
【0038】
このMEMS走査型ミラーの駆動方法は、従来のMEMS走査型ミラーの駆動方法と同じである。ミラー板10Bの回転は、図1(a)に示すX−X’軸周りに生じる。 好ましくは、デバイス層B全体は接地(符号GNDで示す)され、固定櫛歯12T1、12T2にそれぞれ電圧V1、V2を印加することにより、MEMS走査型ミラー(デバイス)が駆動される。
【0039】
例えば、DC駆動の場合、左右固定櫛歯12T1、12T2のいずれか一方へのDC電圧の印加又は両固定櫛歯12T1、12T2への異なるDC電圧の印加によりミラー板10Bを回転させることができる。また、共振駆動の場合、例えば、AC電圧のような周期的電圧を左右固定櫛歯12T1、12T2のいずれか一方又は両固定櫛歯12T1、12T2に印加する。
【0040】
図2は、本発明に係わる2つの段差付き静電櫛歯アクチュエータを有するMEMS走査型ミラーの模式図を示している。図1に示すミラー板10BSは一軸周りの回転であったが、この実施例のミラー板は、図2(a)、(b)に示すX−X’軸、Y−Y’軸の2軸周りの回転が可能である。
【0041】
このMEMS走査型ミラーも、図2(a)〜図2(c)に示すように、図1のものと同様に3層構造を呈しており、最上層のデバイス層T、最下層のハンドル層H及びこれらの間に存在するデバイス層Bからなる。
【0042】
デバイス層T、デバイス層Bはn型又はp型にドープされた導電性のシリコンからなる。ハンドル層Hには絶縁性若しくは導電性シリコン又はガラスが用いられる。これらの各層の間は、絶縁層Iによって電気的に絶縁されている。絶縁層Iは、ハンドル層Hがシリコンの場合、シリコン酸化物であることが好ましい。
【0043】
そのハンドル層Hには空洞HOが形成されている。各デバイス層T、デバイス層Bに形成される静電櫛歯アクチュエータの構成要素はその空洞HOの上方に位置する。この各デバイス層T、デバイス層Bに形成される静電櫛歯アクチュエータの構成要素については、各層を示す符号T、Bに添字を付して説明する。
【0044】
デバイス層Bに形成される静電櫛歯アクチュエータの各構成要素は、ミラー板30B、X軸周りの可動櫛歯31B、X軸周りのばね33B、内枠34B、外枠38B、Y軸周りの可動櫛歯36B、Y軸周りのばね下部311Bである。これらの各構成要素は全てが一体とされ、電気的に等電位である。
【0045】
ミラー板30Bには、X−X’軸に沿って伸びる一対のX軸周りのばね33Bが形成されている。ミラー板30Bには、X−X’軸に対して直交する方向にX軸周りの可動櫛歯31Bが形成されている。
【0046】
これらの各構成要素30B、31Bは、内枠34Bの内側に位置している。ミラー板30Bと内枠34BとはX軸周りのばね33Bを介して連結されて、ミラー板30Bは内枠34Bと一体化されている。
【0047】
内枠34Bには、Y−Y’軸に対して直交するY軸周りの可動櫛歯36B、Y−Y’軸に沿って伸びる一対のY軸周りのばね下部311Bが形成されている。内枠34Bと外枠38BとはY軸周りのばね下部311Bを介して連結されている。この構造により、デバイス層Bに形成される全ての構成要素は一体化される。なお、ミラー板30Bの表面には、金、アルミニウム等による膜が形成されていてもよい。
【0048】
デバイス層Tに形成される静電櫛歯アクチュエータの各構成要素は、X軸周りの上固定櫛歯32T1、X軸周りの下固定櫛歯32T2、内側上土台35T1、内側下土台35T2、Y軸周りの左固定櫛歯37T1、Y軸周りの右固定櫛歯37T2、外側上土台39T1、外側下土台39T2、外側左土台310T1、外側右土台310T2、Y軸周りの上ばね上部312T1、Y軸周りの下ばね上部312T2である。
【0049】
X軸周りの上固定櫛歯32T1、内側上土台35T1、Y軸周りの上ばね上部312T1及び外側上土台39T1は一体化され、X軸周りの下固定櫛歯32T2、内側下土台35T2、Y軸周りの下ばね上部312T2及び外側下土台39T2は一体化され、Y軸周りの左固定櫛歯37T1及び外側左土台310T1は一体化され、Y軸周りの右固定櫛歯37T2及び外側右土台310T2は一体化されている。これら一体化されている構成要素ごとに、互いに独立に電圧を設定することができる。
【0050】
デバイス層Bには、図1のものと同様に、その表面が優れた鏡面を有するシリコンウエハが用いられ得る。このデバイス層Bとハンドル層Hとを絶縁層Iを介して接合した材料がMEMS走査型ミラーの作製用に提供され得る。デバイス層B、絶縁層I、ハンドル層Hがあらかじめ一体化されたSOIウエハを用いても良い。SOIウエハのデバイス層Bの表面は優れた鏡面状態に仕上げることができる。
【0051】
いずれの材料を用いてMEMS走査型ミラーを作製する場合でも、デバイス層Bの優れた鏡面をそのまま用いることにより、鏡面性の良好なミラー板30Bを実現することができる。
【0052】
このMEMS走査型ミラーも、図2(a)、図2(b)に示すように、デバイス層Tで定義される最上面TOPSよりも下にミラー板30Bの表面30BSが位置している。
【0053】
従来の静電櫛歯アクチュエータを有するMEMS走査型ミラーでは、ミラーが最上面に形成され、ミラー板の形成後、ミラー板の表面が外部に曝されたままその後の加工が行われるのに対して、この実施例に係わるMEMS走査型ミラーでは、実施例1と同様に、完成直前までデバイス層Bの表面30BSをシリコン酸化膜等の絶縁層Iにより保護することができるので、後述するマスク形成、エッチング、マスク除去、成膜等の各工程において、ハンドリング等によりミラー板30Bの表面30BSに傷が発生することや表面30BSが汚染されることを防止することができることとなる。
【0054】
X軸周りの可動櫛歯31Bは、X軸周りの上下固定櫛歯32T1、32T2に対して段差をもって交差指状に位置している。可動櫛歯31Bと上下固定櫛歯32T1、32T2間に電圧が印加されると、静電エネルギーが低下するように、X軸周りの可動櫛歯31B、すなわちミラー板30BにX−X’軸周りのトルクが発生する。
【0055】
また、Y軸周りの可動櫛歯36Bは、Y軸周りの左右固定櫛歯37T1、37T2に対して段差をもって交差指状に位置している。可動櫛歯36Bと左右固定櫛歯37T1、37T2間に電圧が印加されると、静電エネルギーが低下するように、Y軸周りの可動櫛歯36B、すなわち、ミラー板30Bを有する内枠34BにY−Y’軸周りのトルクが発生する。
【0056】
このMEMS走査型ミラーは、X−X’軸及びY−Y’軸の2軸周りに駆動が可能である。好ましくは、デバイス層Bの全体は接地され、X軸周りの上下固定櫛歯32T1、32T2、Y軸周りの左右固定櫛歯37T1、37T2に、それぞれ電圧Vx1、Vx2、Vy1、Vy2を印加することにより、MEMS走査型ミラー(デバイス)が駆動される。
【0057】
このものによれば、2軸共にDC駆動、1軸がDC駆動で他の1軸が共振駆動、2軸共に共振駆動のいずれをも採用することができる。例えば、Vx1、Vx2、Vy1、Vy2のいずれもDC電圧とした場合、2軸共にDC駆動となる。また、これらのいずれもAC電圧とすると、2軸共に共振駆動が得られる。また、例えば、Vx1、Vx2をDC電圧とし、Vy1、Vy2をAC電圧とすれば、X−X’軸周りにDC駆動、Y−Y’軸周りに共振駆動を実現できる。
【0058】
図3は本発明に係る1つの段差付き静電櫛歯アクチュエータを有するMEMS走査型ミラーの他の例の模式図を示している。このものでは、図2のものと同様に、ミラー板はX−X’軸、Y−Y’軸の2軸周りの回転が可能であるが、Y−Y’軸周りの駆動は、共振駆動に限定される。
【0059】
このMEMS走査型ミラーも、図1、図2のものと同様に3層構造を呈しており、最上層のデバイス層T、最下層のハンドル層H及びこれらの間に存在するデバイス層Bからなる。デバイス層T、デバイス層Bはn型又はp型にドープされた導電性のシリコンからなる。ハンドル層Hには絶縁性若しくは導電性シリコン又はガラスが用いられる。これらの各層の間は、絶縁層Iによって電気的に絶縁されている。絶縁層Iは、ハンドル層Hがシリコンの場合、シリコン酸化物であることが好ましい。
【0060】
そのハンドル層Hには空洞HOが形成されている。各デバイス層T、デバイス層Bに形成される静電櫛歯アクチュエータの構成要素はその空洞HOの上方に位置する。この各デバイス層T、デバイス層Bに形成される静電櫛歯アクチュエータの構成要素については、各層を示す符号T、Bに添字を付して説明する。
【0061】
デバイス層Bに形成される静電櫛歯アクチュエータの各構成要素は、ミラー板40B、X軸周りの可動櫛歯41B、X軸周りのばね43B、内枠44B、Y軸周りの可動櫛歯46B、Y軸周りの左固定櫛歯47B1、Y軸周りの右固定櫛歯47B2、外枠48B、Y軸周りのばね下部410B、外側左土台412B1、外側右土台412B2、溝413である。
【0062】
ミラー板40Bには、X−X’軸に沿って伸びる一対のX軸周りのばね43Bが形成されている。ミラー板40Bには、X−X’軸に対して直交する方向にX軸周りの可動櫛歯41Bが形成されている。
【0063】
これらの構成要素40B、41Bは内枠44Bの内側に位置している。ミラー板40Bと内枠44BとはX軸周りのばね43Bを介して連結されて、ミラー板40Bは内枠44Bと一体化されている。内枠44Bには、Y−Y’軸に対して直交するY軸周りの可動櫛歯46B、Y−Y’軸に沿って伸びる一対のY軸周りのばね下部410Bが形成されている。外枠48Bには、溝413が形成されている。
【0064】
これにより、外枠48Bに対して絶縁された外側左土台412B1、外側右土台412B2が形成される。外側左右土台412B1、412B2にはY軸周りの左固定櫛歯47B1、Y軸周りの右固定櫛歯47B2がそれぞれ形成されている。
【0065】
デバイス層Bに形成された各構成要素40B、41B、43B、44B、46B、48B、410Bは一体とされ、電気的には等電位である。
【0066】
Y軸周りの左右固定櫛歯47B1、47B2は、溝413により外枠48Bと電気的に分離した外側左土台412B1、外側右土台412B2にそれぞれ連結されているので、外枠48B、外側左土台412B1、外側右土台412B2には、それぞれ独立に電圧を印加することができる。なお、ミラー板40Bの表面は、金、アルミニウム膜等が形成されていてもよい。
【0067】
デバイス層Tに形成される静電櫛歯アクチュエータの各構成要素は、X軸周りの上固定櫛歯42T1、X軸周りの下固定櫛歯42T2、内側上土台45T1、内側下土台45T2、外側上土台49T1、外側下土台49T2、Y軸周りの上ばね上部411T1、Y軸周りの下ばね上部411T2である。
【0068】
X軸周りの上固定櫛歯42T1、内側上土台45T1、Y軸周りの上ばね上部411T1、外側上土台49T1は一体化され、X軸周りの下固定櫛歯42T2、内側下土台45T2、Y軸周りの下ばね上部411T2、外側下土台49T2は一体化され、これら一体の構成要素ごとに独立に電圧を設定することができる。
【0069】
デバイス層Bには、図2と同様に、その表面が優れた鏡面を有するシリコンウエハが用いられ得る。このデバイス層Bとハンドル層Hとを絶縁層Iを介して接合した材料がMEMS走査型ミラーの作製用に提供され得る。デバイス層B、絶縁層I、ハンドル層Hがあらかじめ一体化されたSOIウエハを用いても良い。SOIウエハのデバイス層Bの表面は、優れた鏡面状態に仕上げることができる。
【0070】
いずれの材料を用いてMEMS走査型ミラーを作製する場合でも、デバイス層Bの優れた鏡面をそのまま用いることにより、鏡面性の良好なミラー板40Bを実現することができる。
【0071】
このMEMS走査型ミラーも、図3(a)、図3(b)に示すように、デバイス層Tで定義される最上面TOPSよりも下にミラー板40Bの表面40BSが位置している。従来の静電櫛歯アクチュエータを有するMEMS走査型ミラーでは、ミラーが最上面に形成され、ミラー板の形成後、ミラー板の表面が外部に曝されたままその後の加工が行われることに対して、このMEMS走査型ミラーでは、図1のものと同様に、完成直前までデバイス層Bの表面40BSをシリコン酸化膜等の絶縁層Iにより保護することができるので、後述するマスク形成、エッチング、マスク除去、成膜等の各工程において、ハンドリング等によりミラー板40Bの表面40BSに傷が発生することや表面40BSが汚染されることを防止することができることとなる。
【0072】
X軸周りの可動櫛歯41Bは、X軸周りの上下固定櫛歯42T1、42T2に対して段差をもって交差指状に位置している。可動櫛歯41Bと上下固定櫛歯42T1、42T2間に電圧が印加されると、静電エネルギーが低下するように、X軸周りの可動櫛歯41B、すなわち、ミラー板40BにX−X’軸周りのトルクが発生する。また、Y軸周りの左右固定櫛歯47B1、47B2は、いずれも、Y軸周りの可動櫛歯46Bに対して交差指状に位置している。可動櫛歯46Bと左右固定櫛歯47B1、47B2間にAC電圧が印加されると、ミラー板40Bを有する内枠44BにY−Y’軸周りの振動が励起される。
【0073】
このMEMS走査型ミラーは、X−X’軸、Y−Y’軸の2軸周りに駆動が可能である。好ましくは、デバイス層Bの全体は接地され、X軸周りの上下固定櫛歯42T1、42T2、Y軸周りの左右固定櫛歯47B1、47B2に、それぞれ電圧Vx1、Vx2、Vy1、Vy2を印加することにより、MEMS走査型ミラー(デバイス)が駆動される。ここで、X軸周りの固定櫛歯42T1、42T2、可動櫛歯41Bは、一組の段差付き静電櫛歯を構成するが、Y軸周りの固定櫛歯47B1、47B2可動櫛歯46Bは、一組の段差のない静電櫛歯を構成しており、Y軸周りは共振駆動のみが可能である。
【0074】
このものによれば、X−X’軸周りがDC駆動でかつY−Y’軸周りが共振駆動又は2軸共に共振駆動のいずれをも採用することができる。例えば、Vx1、Vx2にDC電圧、Vy1、Vy2にAC電圧を印加すると、X−X’軸周りがDC駆動でY−Y’軸周りが共振駆動となる。これらのいずれの電圧もAC電圧とすると、2軸共に共振駆動が得られる。
【0075】
図1に示す1つの段差付き静電櫛歯アクチュエータを有するMEMS走査型ミラーの製造方法の一例を図4を参照しつつ説明する。この図4に示す模式図は、図1のA−A’線に沿う断面に対応している。
【0076】
なお、このMEMS走査型ミラーの製造方法は、図2、図3に示すMEMS走査型ミラーの製造方法にも適用できるものである。
1.準備工程
図4(a)はMEMS走査型ミラーの各構成要素に対応する構造体形成前のウエハMMの図1のA−A’線に相当する断面図を示している。
【0077】
ウエハMMは、デバイス層Bとハンドル層Hとが絶縁層Iを介して一体に形成されている。デバイス層Bの表面BSは加工前にあらかじめ鏡面仕上げされている。
デバイス層B、ハンドル層Hは好ましくはシリコンであり、絶縁層Iはシリコン酸化膜である。ここでは、ハンドル層Hの表面HSにもシリコン酸化膜(絶縁層I)が形成されている。
【0078】
ウエハMMには、市販のSOI(Silicon-on-Insulator)ウエハを用いることができる。シリコン酸化膜(絶縁層I)には、後加工において利用する第1アラインメントマーク(図示を略す)を形成する。この第1アラインメントマークは、シリコン酸化膜(絶縁層I)上にあらかじめ感光性レジストを用いてアライメントパターンを形成した後、フッ化水素、緩衝フッ化水素により感光性レジストで覆われていない部分のシリコン酸化膜をエッチングにより除去することにより形成できる。感光性レジストは、エッチング後、例えば、アセトン洗浄により除去できる。
【0079】
2.デバイス層BへのMEMS走査ミラーの下層構成要素に対応する下層構造体の形成工程
デバイス層Bに、ミラー板10B、可動櫛歯11B、軸13B、ばね14B、枠15Bに対応する構造体10B’、11B’、13B’、14B’、15B’を形成する。図4(b)にはその構造体10B’、11B’、15B’が示されている。
【0080】
この加工は、第1アラインメントマークを用いて、あらかじめ、デバイス層Bの表面に感光性レジストでこの構造体に対応するパタ−ンを形成した後、ボッシュプロセスによるDRIE(Deep Reactive Ion Etching)法を用いて行うことができる。なお、図4(b)はDRIE後に感光性レジストを除去した状態を示している。
3.デバイス層Bへのシリコンウエハ接合工程
デバイス層Bに、図4(c)に示すように、シリコン酸化膜(絶縁層I)が表面に形成されたシリコンウエハ52が接合される。この接合はデバイス層Bの最上面とシリコンウエハ52の表面とを接触させ、例えば、1000℃から1100℃に加熱処理することにより行われる。
【0081】
4.シリコンウエハのグラインディング及びラッピング工程
図4(c)に示すシリコンウエハ52をグラインディング及びラッピングすることにより、シリコンウエハ52の厚みを減少させ、図4(d)に示すように、所定の厚さを有する上層のデバイス層Tを形成する。
従来のMEMS走査型ミラーでは、貼り合せウエハの最上面にグラインディング、ラッピング、研磨加工を施して得られる表面がミラーに供せられる。
【0082】
研磨後の表面状態は鏡面性能(ミラー性能)を決定するため、従来の加工に許容される表面精度が厳しく要求される。また、従来の加工が施されるシリコンウエハの下部に貼り合せられたシリコンウエハの下部、とりわけ、ミラー板に相当する部分の下に空洞が形成されている場合、ウエハ面内の加工の均一性が劣化し、優れた鏡面性をもつミラー板を歩留りよく得ることが困難である。
【0083】
これに対して、本発明に係る実施例よれば、ミラーはデバイスの最上面ではなく、あらかじめ鏡面加工されたウエハの表面に形成するので、鏡面仕上げのための研磨加工を省略できると共に、グラインディング、ラッピング加工に許容される表面粗さの要求精度が従来に較べて緩和される。
【0084】
また、後述するように、あらかじめ鏡面加工されたウエハの表面は、デバイスの完成直前までシリコン酸化膜で保護されているので、本発明によれば、ミラー板10Bは表面の優れた鏡面性が確保される。従って、本発明のMEMS走査ミラーによれば、製造歩留りの向上を図ることができる。
5.ハンドル層Hへのマスクの形成工程
ハンドル層Hに空洞を形成するエッチング工程で用いるマスク51を形成するために、図4(e)に示すように、ハンドル層Hの表面HSのシリコン酸化膜(絶縁層I)の一部を除去する。マスク51の形成には、第1アラインメントマークを用い、シリコン酸化膜(絶縁層I)上に予め感光性レジストでパタン形成した後、フッ化水素、緩衝フッ化水素により感光性レジストで覆われていない部分のシリコン酸化膜をエッチングにより除去することにより、マスク51が得られる。
【0085】
なお、エッチング後に感光性レジストは、アセトン洗浄等により除去される。なお、エッチング時に用いるこのマスク51は、少なくともミラー板10B、可動櫛歯11Bに対応する構造体の下の部分を覆わないように形成する。
【0086】
なお、このハンドル層Hへのマスク51の形成工程のエッチング時間の短縮化を図るために、準備工程1において、マスク51を予め形成しておけば、デバイス層Bへのシリコンウエハ接合工程3で生じるマスク開口部の薄いシリコン酸化膜(絶縁層I)を短時間のエッチングにより除去できる。
6.デバイス層TにMEMS走査ミラーの上層構成要素に対応する上層構造体を形成する形成工程
次に、デバイス層Tに、右固定櫛歯12T1、左固定櫛歯12T2、右土台16T1、左土台16T2に対応する構造体12T1’、12T2’、16T1’、16T2’を形成する。図5(a’)には構造体12T2’が示されている。
【0087】
この形成工程では、段差付き櫛歯構造(図5(a’)には、12T2’11B’が示されている。)は形成されているが、ミラー板10Bの表面は未だ露出されず、シリコン酸化膜(絶縁層I)により保護されている。また、ミラー板10Bに対応する構造体の下部にはハンドル層Hが存在し、機械的強度を維持している。
【0088】
このデバイス層TにMEMS走査ミラーの上層構成要素に対応する上層構造体を形成する形成工程には、デバイス層BへのMEMS走査ミラーの下層構成要素に対応する下層構造体の形成工程で用いた加工方法と同様の加工方法を用いる。なお、この加工工程にも、第1アラインメントマークを利用可能である。
【0089】
しかし、工程2から工程5に至る加工の際に、第1アラインメントマークが不鮮明となり、十分なアライメント精度が得られないと考えられる場合には、工程2において、デバイス層Bに図示を略す第2アラインメントマークを形成し、工程6に先立って第1アラインメントマークを用いてボッシュプロセスによりデバイス層Tにデバイス層Bに至る貫通穴を第2アラインメントマークを囲むように形成しておくことにより、この第2アラインメントマークを用いて精度よくこの加工を実施できる。
7.ハンドル層Hにエッチングによる空洞の形成工程
工程5で形成されたマスク51を用い、ボッシュプロセスによりハンドル層Hをエッチングすることにより、図5(b’)に示すように、少なくともデバイスのミラー板10Bと可動櫛歯11Bに対応する下層構造体の下に空洞HOを形成する。
【0090】
これにより、ミラー板10B、可動櫛歯11Bが回転動作を行う際に、ハンドル層Hと衝突することが回避される。この工程7では、未だ可動櫛歯11B、ミラー板10Bはシリコン酸化膜(絶縁層I)により固定されており、リリースされていない。
8.シリコン酸化膜除去工程
工程7で形成された空洞を有するハンドル層H、デバイス層T、Bの表面に形成されている露出部分のシリコン酸化膜(絶縁層I)は、図5(c’)に示すようにエッチングにより除去される。エッチング液にはフッ化水素を用いることができる。この段階で、可動櫛歯11B、ミラー板10Bはシリコン酸化膜(絶縁層I)による固定が外され、リリースされた状態となり、MEMS走査型ミラーが完成される。
9.デバイス層B、Tの表面への膜形成工程
デバイス層B、Tの表面には、図5(d’)に示すように、金、アルミニウム、誘電多層膜等の膜53を蒸着、スパッタリング等の手法により形成するのが望ましい。これにより、ミラーの反射率が向上、すなわち、ミラー特性が向上する。ミラーにより反射させる光の波長に応じて、好ましい反射・吸収特性を有する素材を選択するか又は多層膜を光学的に設計して採用すると、なお、一層好ましい。
【0091】
本発明に係る少なくとも1つの段差付き静電櫛歯アクチュエータを有するMEMS走査型ミラーの製造方法によれば、ミラーが最上面よりも下に形成され、シリコン酸化膜(絶縁層I)を除去することにより、初めてミラー板10Bの表面10BSを露出させるので、鏡面性に優れたMEMS走査型ミラーを歩留りよく製造することができる。
【0092】
更に、ミラー板10Bの表面10BS、裏面の全体がシリコン酸化膜(絶縁層I)により覆われた状態で、工程6以降のボッシュプロセスによるエッチングを実施しているので、ミラー板10Bの表面10BS、裏面がエッチング時にシリコン酸化膜(絶縁層I)により保護されていることになり、このため、鏡面性に優れたMEMS走査型ミラーを歩留りよく製造することができる。
【0093】
また、デバイス層TにMEMS走査ミラーの構成要素に対応する構造体の形成工程でも、少なくとも3層のシリコンを含む部分を有する構造において、ミラー板10Bの下部にハンドル層Hが存在するので、ミラー板10Bの部分の機械的強度が向上し、鏡面性に優れたMEMS走査型ミラーを歩留りよく製造することができる。
【符号の説明】
【0094】
B、T…デバイス層
H…ハンドル層
HO…空洞


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドル層の上部に段差付き静電櫛歯アクチュエータを形成するための少なくとも二つのデバイス層が設けられ、最上層のデバイス層以外のデバイス層にミラー面を有するミラー板が形成されているMEMS走査型ミラーの製造方法であって、
空洞が形成されるハンドル層と表面が鏡面仕上げされたデバイス層とがシリコン酸化膜を介して接合されたウエハを準備する工程と、
前記デバイス層に前記MEMS走査型ミラーの下層構成要素に対応しかつ該デバイス層に形成すべき下層構造体を形成する工程と、
前記下層構造体形成後のウエハの前記デバイス層にシリコン酸化膜を介して上層のデバイス層を形成するためのウエハを接合する工程と、
該上層のウエハを加工して所定厚さの上層のデバイス層を形成する工程と、
該上層のデバイス層に前記MEMS走査型ミラーの上層構成要素に対応しかつ該上層のデバイス層に形成すべき上層構造体を形成する工程と、
前記ハンドル層に前記空洞を形成する工程と、
前記下層構造体のシリコン酸化膜を除去して前記MEMS走査型ミラーを完成させる工程とを含むことを特徴とするMEMS走査型ミラーの製造方法。
【請求項2】
少なくとも3層のシリコンを含む部分を有する少なくとも1つの段差付き静電櫛歯アクチュエータを有するMEMS走査型ミラーの製造方法であって、段差付き櫛歯構造形成時にミラー板の下部にハンドル層が存在することを特徴とするMEMS走査型ミラーの製造方法。
【請求項3】
少なくとも1つの段差付き静電櫛歯アクチュエータを有するMEMS走査型ミラーの製造方法であって、ミラー板の下部にハンドル層が存在する状態で段差付き櫛歯構造を形成した後、シリコン酸化膜を除去することによりミラー板の表面を露出させることを特徴とするMEMS走査型ミラーの製造方法。
【請求項4】
少なくとも1つの段差付き静電櫛歯アクチュエータを有しかつミラーが最上面よりも下に形成されているMEMS走査型ミラーの製造方法であって、
シリコン酸化膜を除去してミラー板の表面を露出させることによって、前記ミラーを最上面よりも下に形成することを特徴とするMEMS走査型ミラーの製造方法。
【請求項5】
少なくとも1つの段差付き静電櫛歯アクチュエータを有しかつミラーが最上面よりも下に形成されているMEMS走査型ミラーの製造方法であって、
ミラー板の表面及び裏面全体を覆うシリコン酸化膜を取り除いて表面および裏面を露出させることによって、前記ミラーを最上面よりも下に形成することを特徴とするMEMS走査型ミラーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−29849(P2013−29849A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−202197(P2012−202197)
【出願日】平成24年9月14日(2012.9.14)
【分割の表示】特願2008−277897(P2008−277897)の分割
【原出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000220343)株式会社トプコン (904)
【Fターム(参考)】