説明

MIF分泌抑制剤

【課題】MIF分泌抑制剤の提供
【解決手段】マユマメの抽出物を含むマクロファージ遊走阻止因子分泌抑制剤

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マクロファージ遊走阻止因子(MIF)分泌抑制剤、炎症性疾患の改善剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マクロファージ遊走阻止因子(以下、MIFと記載する)は、炎症・免疫のメディエーターの1つであり、マクロファージの遊走を制御し、炎症部位にマクロファージを集め、貪食能を高める液性因子である。MIFは慢性関節リウマチ(非特許文献1:Expert Opin Ther Targets, 7, 2, 153-164, 2003)、腎炎(非特許文献2:Expert Opin Ther Targets, 7, 2, 153-164, 2003)、アトピー性皮膚炎(非特許文献3:Biochem Biophys Res Commun, 240, 11, 173-8, 1997)、乾癬(非特許文献4:B J Dermatol, 141, 1061-66, 1999)、潰瘍性大腸炎、敗血症、接触性皮膚炎(非特許文献5:Eur J Immunol, 33, 1478-87, 2003)、紫外線による炎症(非特許文献6:J Invest Dermatol, 112, 2, 210-15, 1999)、遅延性アレルギー(非特許文献7:Pro Natl Acad Sci USA, 93, 7849-54, 1996)などの急性・慢性炎症疾患(J End, 179, 15-23, 2003)、関節炎、移植片拒絶反応、腫瘍成長、血管新生、貧血、脳脊髄炎等の炎症性疾患の病理過程に関与しており、MIFを阻害することにより、これら炎症性疾患を軽減させることが期待される。
MIFの活性阻害剤は種々開発されている(特許文献1:特表2003−513065号公報、特許文献2:特表2005−500266号公報、特許文献3:特表2006−517977号公報)が、MIFの分泌抑制剤は知られていない。
本発明者は、MIFの分泌抑制に着目し、MIFの分泌抑制剤に関する研究開発を継続しているが、先に本発明者は、ヒメジョオン又はその抽出物をMIFの分泌抑制剤とする技術を特願2008−022588号に提案した。
マユマメは腎病に食してよく、無毒であると知られている。(非特許文献8:中薬大辞典(小学館) p 2075)。しかし、マユマメ抽出物によるMIFの分泌抑制効果は知られていない。
【0003】
【特許文献1】特表2003−513065号公報
【特許文献2】特表2005−500266号公報
【特許文献3】特表2006−517977号公報
【非特許文献1】Expert Opin Ther Targets, 7, 2, 153-164,2003
【非特許文献2】Expert Opin Ther Targets, 7, 2, 153-164,2003
【非特許文献3】Biochem Biophys res Commun, 240, 11,173-8, 1997
【非特許文献4】B J Dermatol, 141, 1061-66, 1999
【非特許文献5】Eur J Immunol, 33, 1478-87, 2003
【非特許文献6】J Invest Dermatol, 112, 2, 210-15, 1999
【非特許文献7】Pro Natl Acad Sci USA, 93, 7849-54, 1996
【非特許文献8】中薬大辞典(小学館) p 2075
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はMIF分泌抑制剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
マユマメ(Vigna cylindrical)抽出物が、マクロファージ遊走阻止因子分泌抑制作用を有することを見出し、本発明を完成させた。
本発明の主な構成は、次のとおりである。
1.マユマメの抽出物を含むマクロファージ遊走阻止因子分泌抑制剤。
2.1.記載のマクロファージ遊走阻止因子分泌抑制剤を含む皮膚外用剤。
3.1.記載のマクロファージ遊走阻止因子分泌抑制剤を含む炎症性疾患の改善剤。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、MIF異常分泌が認められるアトピー性皮膚炎への新たな治療剤または予防剤の提供が可能となった。
アトピー性皮膚炎以外にMIFの異常分泌や関与が示唆されている、乾癬や紫外線による皮膚炎症、血管腫、蕁麻疹、敗血症、呼吸器炎症、潰瘍性大腸炎、慢性関節リウマチ、腎炎、接触性皮膚炎、遅延性アレルギーなどの急性・慢性炎症疾患、関節炎、移植片拒絶反応、腫瘍成長、血管新生、貧血、脳脊髄炎、その他菌感染による炎症への治療や予防にも効果を期待できる。MIF分泌抑制剤を皮膚外用剤として局所に処方することにより、マクロファージ遊走阻止因子の働きを抑えて、皮膚の炎症部位におけるマクロファージの機能を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で使用されるマユマメ(眉豆、黒目豆)(学名 Vigna cylindricalは、マメ科 vigna属の植物であり、一年草の直立草本。種子の色はクリーム色地に黒の大きな斑紋を持つ。
【0008】
マユマメ抽出物としてはマユマメの種子をそのまま粉砕し、あるいは乾燥させた後に粉砕して、水あるいはエタノール等のアルコール、エーテル、アセトン、1,3−ブチレングリコール、1,2−ペンタンジオール、プロピレングリコール、酢酸エチルなどの有機溶媒により抽出した粗抽出物、および粗抽出物を分配抽出やカラムクロマトなどの各種クロマトグラフィーなどで段階的に精製して得られた抽出物画分を含む。これらは単独で用いても良く、また2種以上混合して用いても良い。マユマメの種子を生のまま抽出操作に供しても良いが、細切、乾燥、粉砕等の処理を行なった後、抽出を行なう方が効率がよい。抽出は抽出溶媒に浸漬して行なうことができる。抽出効率を上げる為に、抽出溶媒を攪拌したり、抽出溶媒中で破砕均一化したり、抽出溶媒中で圧力をかけることもできる。抽出温度は5〜100℃程度が適切であり、抽出時間は5分〜1ヶ月程度である。これらの条件は適宜設定することができる。
前記マユマメ抽出物はそのまま、また、水、エタノール等の有機溶媒にけんだくさせた状態で、MIF分泌抑制剤、炎症性疾患の改善剤、特に皮膚の炎症性疾患改善剤として使用できる。また、必要に応じて抽出溶媒を留去し、その乾燥物を用いてもよい。
【0009】
マユマメ抽出物は、乾燥物として、0.0001〜1000mg/日の範囲で適用することができ、さらに、この範囲に限らず、対象、適用形態、症状に応じてその量を適宜設定することができる。
本発明のマユマメ抽出物の配合量としては、0.0001〜10重量%程度が好ましいが、用いる剤型、使用対象等の様々の条件に応じて、100重量%までの広範囲でその配合量を適宜設定できる。
【0010】
本発明の製剤は、経口で又は非経口で投与することができる。
本発明の製剤は、例えば水溶液、油剤、乳液、けんだく液等の液剤、ゲル、クリーム等の半固形剤、粉末、顆粒、カプセル、マイクロカプセル、固形等の固形剤の形態で適用可能である。従来から公知の方法でこれらの形態に調製し、ローション剤、乳剤、ゲル剤、クリーム剤、軟膏、硬膏、ハップ剤、エアゾル剤、坐剤、注射剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤、丸剤、シロップ剤、トローチ剤等の種々の剤型とすることができる。これらを身体に塗布、貼付、噴霧、飲用等により適用することができる。特にこれら剤型の中で、皮膚外用剤であるローション剤、乳剤、クリーム剤、軟膏剤、硬膏剤、ハップ剤、エアゾル剤等が適している。
通常、医薬において使用される製剤化方法にしたがって、これらの剤型、組成物として製造することができる。
以下、本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0011】
マユマメ抽出物の調製
マユマメ種子乾燥物100gを6Lの99.5%エタノールに1週間浸漬し、得られたエタノール抽出液の溶媒を留去して、1gのマユマメ抽出物を得た。
【0012】
マユマメ抽出物のMIF分泌抑制試験
1.ケラチノサイトを用いたUVB誘導性MIF分泌抑制試験
MIFは皮膚の構成細胞の一つであるケラチノサイトで強く発現することが知られている。そして、ケラチノサイトにUVBを照射することにより、MIFの分泌が促進されることが知られている(J Invest Dermatol, 112, 2, 210-15, 1999)。そこで、ケラチノサイトにUVBを照射したときのMIFの分泌を、マユマメ抽出物が抑制するか調べた。
ヒトケラチノサイトを7.0×104cells/cm2でφ35mm dishに播種し、KBM・KGM培地(LONZA社製)で5日間培養した。マユマメ抽出物の入ったKBM・KGM培地(BPE(-))に交換し、1晩培養後、HANKS(-)存在下で、UVBを1.0 W/m2、20 mJ/m2照射し、マユマメ抽出物の入ったKBM・KGM培地(BPE(-))に交換し、6時間培養した。培養上清を回収し、hMIF ELISA kitを用いて、定法に従い上清中MIF量を測定し、MIF分泌量を算出した。さらに、細胞をCell Lysis Bufferで溶解し、溶解液中の蛋白質をプロテインアッセイキットで測定し、dishあたりの蛋白量を算出した。マユマメ抽出物無添加、UVB(-)処理を100%とし、マユマメ抽出物添加時の単位蛋白質当たりのMIF分泌率の比較を行った。結果を表1に示す。また、表1をグラフ化したものを図1に示す。なお、本試験におけるコントロールとマユマメ抽出物添加の細胞のタンパク質量を比較した結果、両者におけるタンパク質量に差は認められず、マユマメの細胞毒性は本試験系において認められなかった。
【0013】
【表1】

【0014】
ケラチノサイトにマユマメ抽出物を添加することにより、MIFの分泌が顕著に抑制された。MIFの発現が増加し、症状が悪化することが知られている紫外線による皮膚障害・炎症、アトピー性皮膚炎、乾癬、接触性皮膚炎等の皮膚の炎症性疾患に対して改善効果が期待できる。
【0015】
2.THP-1細胞を用いたLPS誘導性MIF分泌抑制試験
菌感染や異物などの刺激によりマクロファージからのMIF分泌が促進されることが知られている。マクロファージのモデル細胞であるヒト単球性白血病細胞であるTHP-1細胞は、菌感染モデルのLPSの刺激により、MIFを分泌する (FEBS Let 551, 78-88, 2003)。そこで、LPSで刺激したTHP-1細胞のMIF分泌をマユマメ抽出物が抑制するか調べた。
【0016】
THP-1細胞を1%血清・RPMI培地中で3時間培養後、同培地で1×106cells/well(12well plate)で播種し、マユマメ抽出物を添加した。マユマメ抽出物添加45分後に、LPSを終濃度10μg/mlで添加し、4時間培養した。培養後に400×gで遠心し、細胞上清を回収し、hMIF ELISA kitを用いて、定法に従い上清中MIF量を測定し、MIF分泌量を算出した。マユマメ抽出物無添加、LPS(-)処理を100%とし、マユマメ抽出物添加時のMIF分泌率の比較を行った。結果を表2に示す。また、表2をグラフ化したものを図2に示す。
【0017】
【表2】

【0018】
THP-1細胞にマユマメ抽出物を添加することにより、MIFの分泌が抑制された。ニキビ、敗血症、などの菌感染による炎症や、浸潤性炎症、アレルギー、慢性関節リウマチなどの慢性炎症疾患の予防や改善が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ケラチノサイトを用いたUVB誘導性MIF分泌抑制試験結果の表1をグラフ化したものである。
【図2】THP−1細胞を用いたLPS誘導性MIF分泌抑制試験結果の表2をグラフ化したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マユマメの抽出物を含むマクロファージ遊走阻止因子分泌抑制剤。
【請求項2】
請求項1記載のマクロファージ遊走阻止因子分泌抑制剤を含む皮膚外用剤。
【請求項3】
請求項1記載のマクロファージ遊走阻止因子分泌抑制剤を含む炎症性疾患の改善剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−70484(P2010−70484A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−239010(P2008−239010)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【Fターム(参考)】