説明

MIMO−OFDM受信装置

【課題】空間多重された複数の送信ストリームを分離する際に送受信機器間で生じる周波数偏差を適切に補正するMIMO−OFDM受信装置を提供する。
【解決手段】本発明のMIMO−OFDM受信装置は、送信ストリーム毎に直交符号となるパイロット信号がデータキャリアの間に挿入されている場合に、当該直交符号の長さに相当するシンボル毎に、異なるシンボル番号の二組のサブキャリア信号を抽出する手段(13)と、異なるシンボル番号の二組のサブキャリア信号の組み合わせを用いて、サブキャリア単位でサブキャリア方向にずらして得られる相関演算の相関値が最大となるものを検出する手段(15)と、検出した組み合わせから特定されるサブキャリア間隔の偏差量をサブキャリア間隔の整数倍の周波数偏差として検出し、受信系統毎に該周波数偏差を補正する手段(17,22)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データシンボルの前にガードインターバルを、データキャリアの間に伝搬チャネル推定のためのパイロット(例えばCP:Continual Pilot)キャリアを送信ストリーム間で直交符号となるよう挿入されたマルチキャリア変調を採用するMIMO−OFDM伝送方式に関し、特に、空間多重された複数の送信ストリームを分離する際に送受信機器間で生じる周波数偏差を適切に補正するMIMO−OFDM受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
中継現場から放送局などへ番組素材を伝送するシステムとして、直交周波数分割多重(OFDM:Orthogonal Frequency Division Multiplexing)方式のデジタル無線伝送システムが、ARIB STD−B33規格(非特許文献1)としてまとめられている。
【0003】
この規格をベースとして送信機及び受信機に複数のアンテナを用いて周波数利用効率を飛躍的に向上させるMIMO(Multi−Input Multi−Output)と呼ばれる技術が検討されている。例えば、パイロットキャリアを周波数軸上に所定間隔で配置し、時間軸上の各シンボルを送信ストリーム間で直交する符号によって変調してMIMO−OFDM信号を構成するシステムが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
尚、OFDM方式の伝送システムでは、送受信機間の周波数偏差によりサブキャリア間の直交性が崩れるキャリア間干渉(ICI:Inter Carrier Interference)により、伝送特性が劣化することが知られている。
【0005】
更に、変調信号が異なる複数のOFDM信号をそれと同数の複数のアンテナから同じ周波数で送信する従来のMIMO−OFDM方式による無線伝送では、各送信ストリームを分離するために必要な伝搬チャネル推定の更新周期がOFDM方式に比べて大きくなり、周波数偏差による各キャリアの位相回転量の増大により、分離・復号特性が大きく劣化するという問題がある。また、従来のMIMO−OFDM方式は、マルチパスの多い環境で分離・復号性能が向上するが、周波数偏差の検出精度は劣化する。
【0006】
そこで、このような周波数偏差の検出・補正方法が、OFDM方式及びMIMO−OFDM方式で提案されている(例えば、非特許文献2,特許文献2参照)。
【0007】
また、OFDM方式に関して、パイロット信号を用いて残留周波数偏差を補正する位相トラッキング法についても開示されている(例えば、非特許文献3参照)。
【0008】
また、MIMO−OFDM方式に関して、変調点と受信信号点との位相差に基づいて残留周波数偏差を推定し、その偏差に応じた位相回転を補正する方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0009】
更に、広帯域な周波数偏差の検出に関しては、OFDM方式では、FFT演算後に抽出したサブキャリアの隣接するシンボル間の相関により、キャリア間隔の整数倍の周波数偏差の検出を行う方法が知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0010】
【特許文献1】特開2005−124125号公報
【特許文献2】特開2006−135861号公報
【特許文献3】特開2006−186732号公報
【特許文献4】特開2002−280993号公報
【非特許文献1】“テレビジョン放送番組素材伝送用可搬形OFDM方式デジタル無線伝送システム”,ARIB STD−B33
【非特許文献2】関,多賀,石川,“OFDMにおけるガード期間を利用した新しい周波数同期方式の検討”,テレビジョン学会技術報告, ITE Technical Report Vol.19, No.38, p.13−18
【非特許文献3】守倉,久保田,“802.11高速無線LAN教科書”,(インプレス),p.215−216
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
非特許文献2及び特許文献2で提案されている方法は、サブキャリア間隔の1/2以内の周波数偏差の検出は可能であるが、それを超える広帯域な周波数偏差の検出はできない。また、雑音やその他の影響により、残留周波数偏差の問題が生じるため、確度の高い信号分離を実行するための精度の高い周波数偏差の検出は期待できない。
【0012】
また、非特許文献3及び特許文献3等に開示される位相トラッキングは、MIMO−OFDM方式とした場合には異なる送信ストリーム間のパイロット信号が空間多重されるため、単純にパイロット信号を用いることができず、単に適用することは困難である。また、この位相トラッキングは、復調の最終段階で行われるものであり、残留周波数偏差の影響は、空間多重されたMIMO−OFDM信号の分離・復号時には残る。
【0013】
特許文献1で提案されているように、パイロットキャリアを周波数軸上に所定間隔で配置し、時間軸上の各シンボルを送信ストリーム間で直交する符号によって変調してMIMO−OFDM信号を構成する場合、FFT演算後に抽出したサブキャリアの隣接するシンボル間の単純な相関演算だけでは広帯域な周波数偏差を検出することができないなどの問題がある。また、互いに干渉源となる送信ストリームが空間多重された信号を受信するため、従来のOFDM伝送方式に比べて周波数偏差の検出精度が劣化するという問題もある。
【0014】
そこで、本発明の目的は、空間多重された複数の送信ストリームを分離する際に送受信機器間で生じる周波数偏差を適切に補正するMIMO−OFDM受信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によるMIMO−OFDM受信装置は、同一周波数で異なる複数の送信ストリームを空間多重して伝送されたOFDM信号を受信するMIMO−OFDM受信装置であって、送信ストリーム毎に直交符号となるパイロット信号がデータキャリアの間に挿入されており、前記複数の送信ストリームのOFDM信号を復調して、当該直交符号の長さに相当するシンボル毎に、異なるシンボル番号の二組のサブキャリア信号を抽出する手段と、前記異なるシンボル番号の二組のサブキャリア信号の組み合わせを用いて、サブキャリア単位でサブキャリア方向にずらして得られる相関演算の相関値が最大となるものを検出する手段と、検出した組み合わせから特定されるサブキャリア間隔の偏差量を、サブキャリア間隔の整数倍の周波数偏差として検出し、受信系統毎に該周波数偏差を補正する手段とを備えることを特徴とする。
【0016】
また、本発明によるMIMO−OFDM受信装置において、前記異なるシンボル番号の二組のサブキャリア信号を抽出する手段は、前記複数の送信ストリームに共通のTMCC信号を取り出し、該TMCC信号からフレーム先頭位置を検出し、複数の送信ストリームが空間多重されたOFDM信号から、検出したフレーム先頭位置から当該直交符号の長さに相当するシンボル毎に、異なるシンボル番号の二組のサブキャリア信号を抽出する手段を有し、異なるシンボル番号の二組のサブキャリア信号は、直交符号長をlとして、シンボル番号nがmod(n,l)=0を満たすシンボル番号nのサブキャリア信号と、lシンボル前のシンボル番号(n−l)のサブキャリア信号とからなり、前記受信系統毎にサブキャリア間隔の整数倍の周波数偏差を補正する手段は、前記シンボル番号nのサブキャリア信号とlシンボル前のシンボル番号(n−l)のサブキャリア信号とを一組の相関演算の組み合わせとして、サブキャリア単位でサブキャリア方向にずらした所定数の相関演算の組み合わせから相関値が最大となるものを検出する補正手段を更に備えることを特徴とする。
【0017】
また、本発明によるMIMO−OFDM受信装置において、前記異なるシンボル番号の二組のサブキャリア信号を抽出する手段は、直交符号長をlとして、シンボル番号nがmod(n,l)=r(0≦r<l−1)を満たすシンボル番号nのサブキャリア信号と、lシンボル前のシンボル番号(n−l)のサブキャリア信号とからなる異なるシンボル番号の二組のサブキャリア信号を抽出する場合に、サブキャリア単位でサブキャリア方向にずらして得られる相関演算の相関値が最大となる組み合わせを選出する手段を有することを特徴とする。
【0018】
また、本発明によるMIMO−OFDM受信装置において、前記受信系統毎にサブキャリア間隔の整数倍の周波数偏差を補正する手段は、前記受信系統毎の該周波数偏差を補正した後、前記検出した相関演算の組み合わせの最大相関値の位相項から送受信機間の周波数偏差を検出する手段と、検出した送受信機間の周波数偏差を受信系統毎に補正する手段とを備えることを特徴とする。
【0019】
また、本発明によるMIMO−OFDM受信装置において、前記復調時にOFDM信号の有効シンボルの一部をコピーしたガードインターバル間で相関演算を行ってサブキャリア間隔の1/2以内の周波数偏差を検出する手段を備え、前記受信系統毎にサブキャリア間隔の整数倍の周波数偏差を補正する手段は、前記サブキャリア間隔の整数倍の周波数偏差が補正されていない間は、当該検出したサブキャリア間隔の1/2以内の周波数偏差と前記サブキャリア間隔の整数倍の周波数偏差とを加算して、その加算後の周波数偏差を補正することを特徴とする。
【0020】
また、本発明によるMIMO−OFDM受信装置において、前記受信系統毎にサブキャリア間隔の整数倍の周波数偏差を補正する手段は、前記検出したサブキャリア間隔の1/2以内の周波数偏差と前記サブキャリア間隔の整数倍の周波数偏差とを加算して、その加算後の周波数偏差を補正した後に、前記サブキャリア間隔の整数倍の周波数偏差の算出に用いた最大相関値の位相項から、1/2以内の周波数偏差を更に補正する補正量を検出し、該補正量を補正する補正手段を更に備えることを特徴とする。
【0021】
また、本発明によるMIMO−OFDM受信装置において、前記受信系統毎にサブキャリア間隔の整数倍の周波数偏差を補正する手段は、前記復調時にOFDM信号の有効シンボルの一部をコピーしたガードインターバル間で相関演算を行ってサブキャリア間隔の1/2以内の周波数偏差の検出の有無に関わらず、前記サブキャリア間隔の整数倍の周波数偏差を補正した後、サブキャリア間隔の1/2以内の周波数偏差が予め設定した閾値以下となるように、前記周波数偏差を補正する手段における補正量を巡回的に可変させて、サブキャリア間隔の周波数偏差が最小となる補正量を検出し、該補正量を補正する補正手段を更に備えることを特徴とする。
【0022】
また、本発明によるMIMO−OFDM受信装置において、前記パイロット信号のキャリア間隔を超える周波数偏差を補正するために既知のパイロットパターンが予め規定されており、前記受信系統毎にサブキャリア間隔の整数倍の周波数偏差を補正する手段は、所定の有効シンボル区間のシンボル番号nのサブキャリア信号と、前記既知のパイロットパターンとの相関演算を行う際に、サブキャリア信号の相関演算をキャリア方向にスライドさせながら繰り返し、同じキャリア位置の相関値についてシンボル方向に加算・平均した平均値を算出し、当該平均値の中から最大となるものを抽出する手段と、前記抽出した最大の平均値における受信系統のずれ量を周波数偏差として補正する手段とを更に備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、MIMO−OFDM方式の伝送を移動環境で用いる場合、周波数偏差が時間的に変動する厳しい伝搬環境であっても、広帯域かつ高精度な周波数偏差を検出し補正することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
まず、本発明による実施例1のMIMO−OFDM受信装置を説明する。
【0025】
[実施例1]
実施例1のMIMO−OFDM受信装置は、同一周波数で異なる複数の送信ストリームを空間多重して伝送されたOFDM信号を受信する装置であり、データシンボルの前にガードインターバルを、データキャリアの間に伝搬チャネル推定のためのパイロット(例えばCP:Continual Pilot)キャリアを送信ストリーム間で直交符号となるよう挿入されたマルチキャリア変調を採用するMIMO−OFDM伝送方式の受信装置として構成している。従って、MIMO−OFDM伝送方式の送信装置自体は既知であり、詳細な説明は省略する。
【0026】
特に、実施例1のMIMO−OFDM受信装置は、周波数偏差検出のために抽出するシンボルを、TMCC信号を利用して選択するように構成している。
【0027】
図1に本発明における実施例1のMIMO−OFDM受信装置を示す。MIMO−OFDM伝送方式では、送信信号は、限定するものではないが、例えばARIB STD−B33規格をベースとしたOFDM方式の信号とすることができ、複数の送信ストリームを空間多重するMIMO−OFDM方式の伝送を行うため、送信ストリーム間でパイロット信号が直交符号となるように配置されている点が異なる。本実施例では、送信ストリーム数は2とし、シンボル番号0から407で構成される1OFDMフレーム内の偶数シンボルでは送信ストリーム1、送信ストリーム2とも位相が非反転、奇数シンボルでは送信ストリーム1は位相が非反転、送信ストリーム2は位相が反転した直交符号となるパイロット信号がデータキャリアの間に挿入されているものとする。送信ストリーム数が4などの場合でも、容易に本発明を応用することができる。また、このようなパイロット信号の配置は、例えばARIB STD−B33規格をベースとしたとき、各送信ストリームに対して、各シンボルともサブキャリア番号0の位置からキャリア配置方向に8本毎に配置しているものとする。
【0028】
実施例1のMIMO−OFDM受信装置1は、アンテナ2と、周波数変換部(D/C)3と、A/D変換部4と、直交復調部5と、乗算器6と、FIRフィルタ(LPF)7と、ダウンサンプル処理(DS)8と、ガードインターバル相関(GI相関)9と、FFT部10と、TMCC検出部11と、周波数偏差を検出して補正する共通処理部12と、キャリア抽出部13と、フレーム同期検出部14と、シンボル間キャリア相関部15とを備え、TMCC検出後に受信信号を復調及び復号する既知の復調処理及び復号処理を行う処理段(図示せず)を備えることができる。共通処理部12は、局部発振器(Lo)16と、数値制御発振器(NCO:Numerical Controlled Oscillator)17と、加算器18と、セレクタ部19と、第1周波数偏差(Δfn1)検出部20と、第2周波数偏差(Δfn2)検出部21と、第3周波数偏差(Δf)検出部22と、ピーク検出部23とを備える。
【0029】
アンテナ2は、複数の送信ストリームを空間多重するMIMO−OFDM方式のOFDM信号を受信する。
【0030】
周波数変換部(D/C)3は、アンテナ2で受信したOFDM信号をディジタル信号処理が可能な周波数帯までダウンコンバートする。
【0031】
A/D変換部4は、周波数変換部(D/C)3で周波数変換された受信信号をディジタル信号に変換する。
【0032】
直交復調部5は、A/D変換部4でディジタル信号に変換された信号に対して、局部発振器(Lo)16からの所定の周波数の信号と乗算し、複数の送信ストリームが空間多重されたOFDM信号のディジタル直交復調処理を行う。
【0033】
乗算器6は、直交復調部5からの信号と、数値制御発振器(NCO)17からの周波数偏差を補正するための所定の補正信号とを乗算し、直交復調部5からの信号に対して周波数偏差の補正を行う。
【0034】
FIRフィルタ(LPF)7は、乗算器6からの信号のうち、不所望な周波数帯域の信号成分を除去するローパスフィルタとして機能する。
【0035】
ダウンサンプル処理(DS)8は、FIRフィルタ(LPF)7からの信号の周波数帯の信号をFFT変換可能な周波数に再サンプリングする機能を有する。
【0036】
ガードインターバル相関(GI相関)9は、送信側でOFDM信号の有効シンボルの一部をコピーされていたガードインターバル間で相関演算を行って、有効シンボルの範囲を特定する機能を有する。
【0037】
FFT部10は、ガードインターバル分の範囲を除去して、有効シンボルの範囲の信号を抜き出し、抜き出したOFDM時間領域信号に対してFFT演算を行う。
【0038】
TMCC検出部11は、前記複数の送信ストリームに共通のTMCC信号を取り出し、該TMCC信号を、フレーム同期検出部14に送出する。
【0039】
キャリア抽出部13は、複数の送信ストリームが空間多重されたOFDM信号から、検出したフレーム先頭位置から当該直交符号の長さに相当するシンボル毎に、異なるシンボル番号の二組のサブキャリア信号を抽出する機能を有する。より詳細な例は後述する。
【0040】
フレーム同期検出部14は、TMCC信号からフレーム先頭位置を検出する機能を有する。
【0041】
シンボル間キャリア相関部15は、異なるシンボル番号の二組のサブキャリア信号を一組の相関演算の組み合わせとして相関演算を行う機能を有する。好適には、異なるシンボル番号の二組のサブキャリア信号は、直交符号長をlとして、シンボル番号nがmod(n,l)=0を満たすシンボル番号nのサブキャリア信号と、lシンボル前のシンボル番号(n−l)のサブキャリア信号とからなり、特に、直交符号長l=2としたとき、異なるシンボル番号の二組のサブキャリア信号は、シンボル番号nがmod(n,2)=0を満たすシンボル番号nのサブキャリア信号と、2シンボル前のシンボル番号(n−2)のサブキャリア信号とからなる。
【0042】
数値制御発振器(NCO)17は、周波数偏差に対応する信号に基づいて、加算器18から出力される周波数偏差に対応する制御信号により制御された周波数の信号を乗算器6に送出し、受信系統毎に該周波数偏差を補正する。また、数値制御発振器(NCO)17は、受信系統毎の周波数偏差を補正した後、更に、シンボル間キャリア相関部15を経て検出した相関演算の組み合わせの最大相関値の位相項から、送受信機間の周波数偏差を検出し、検出した送受信機間の周波数偏差を受信系統毎に補正する機能を有する。
【0043】
加算器18は、セレクタ部19からの第1周波数偏差(Δfn1)又は第2周波数偏差(Δfn2)の信号と、第3周波数偏差(Δf)検出部22からの第3周波数偏差(Δf)の信号とを加算して、数値制御発振器(NCO)17に送出する機能を有する。
【0044】
セレクタ部19は、後述する選択条件に従って、第1周波数偏差(Δfn1)か、又は第2周波数偏差(Δfn2)の信号を選択して、加算器18に送出する。例えば、第3周波数偏差(Δf)としてのサブキャリア間隔の整数倍の周波数偏差がゼロに調整されており、且つ第1周波数偏差(Δfn1)としての1/2以内の周波数偏差が予め設定した閾値未満の場合には、第2周波数偏差(Δfn2)の信号を選択し、それ以外の場合は、当該第1周波数偏差(Δfn1)を選択するような選択条件とすることができる。これは、数値制御発振器(NCO)17によって、第3周波数偏差(Δf)が調整済であり、且つ第1周波数偏差(Δfn1)が予め設定した閾値未満の場合には、当該第2周波数偏差(Δfn2)が補正され、それ以外の場合は、当該第1周波数偏差(Δfn1)と第3周波数偏差(Δf)とを加算した周波数偏差が補正されることを意味する。或いは又、第3周波数偏差(Δf)が補正されていない間は、当該第1周波数偏差(Δfn1)と第3周波数偏差(Δf)とを加算した周波数偏差が補正されるとしてもよい。
【0045】
第1周波数偏差(Δfn1)検出部20は、ガードインターバル相関演算後のサブキャリア間隔の1/2以内の周波数偏差を互いの相関度の強さから検出する手段を備える。
【0046】
第2周波数偏差(Δfn2)検出部21は、検出した第1周波数偏差(Δfn1)と第3周波数偏差(Δf)とを加算して、その加算後の周波数偏差を補正した後に、第3周波数偏差(Δf)の算出に用いた最大相関値の位相項から、1/2以内の周波数偏差を更に補正する補正量を検出する。
【0047】
第3周波数偏差(Δf)検出部22は、検出した相関演算の組み合わせから特定されるサブキャリア間隔の偏差量を、サブキャリア間隔の整数倍の周波数偏差として検出する。
【0048】
ピーク検出部23は、サブキャリア単位でサブキャリア方向にずらした所定数の相関演算の組み合わせから相関値が最大となるものを検出する(即ち、相関ピークの検出)。好適には、シンボル番号nのサブキャリア信号と2シンボル前のシンボル番号(n−2)のサブキャリア信号とを一組の相関演算の組み合わせとして、サブキャリア単位でサブキャリア方向にずらした所定数の相関演算の組み合わせから相関値が最大となるものを検出する。
【0049】
以下、実施例1のMIMO−OFDM受信装置の動作を、図6及び図7を参照しながら、より詳細に説明する。
【0050】
図1において、1つのアンテナ2で受信した信号をディジタル信号処理が可能な周波数帯まで周波数変換部(D/C)3によりダウンコンバートする。次に、周波数変換された受信信号をA/D変換部4でディジタル信号に変換し、ディジタル直交復調処理を行う。尚、MIMO−OFDM伝送においては通常複数のアンテナを用いて受信するため、各アンテナで個別に同様の処理を行う部分と、処理を共通にできる部分あるが、説明を簡単にするため、1つのアンテナで受信した信号処理について主に説明を行い、複数アンテナを用いた場合の処理に関する詳細は後述する。
【0051】
送受信機内部では周波数変換部(D/C)3で用いられる局部発振器(図示せず)の個体差により、送受信信号間で周波数偏差が生じる。直交復調部5によるディジタル直交復調後の信号に対し(ステップS1)、後述する方法で検出した周波数偏差をフィードバックし、数値制御発振器(NCO)17を制御して、NCO17の出力信号と乗算して周波数偏差を補正する(ステップS2)。ここで、動作開始時のNCO17の初期出力は1、つまりスルーするものとする。その後、NCO17の出力は周波数偏差が検出される度に更新されることになる。
【0052】
次に、周波数偏差を検出する動作について説明する。周波数偏差は、サブキャリア間隔の1/2以内の狭帯域な周波数偏差(Δfn1)とサブキャリア間隔を単位とした広帯域な周波数偏差(Δf)に分けて検出する。初期動作では、まずOFDM方式で通常用いられる方法(例えば、非特許文献2に示される)で狭帯域な周波数偏差の検出を行う。以下簡単に説明する。
【0053】
直交復調、周波数偏差の補正処理(初期動作時は1を乗算してスルーする)を介した信号をFIRフィルタ(LPF)7に通し、ダウンサンプル処理(DS)8を施した後(ステップS3)、ガードインターバル相関(GI相関)9を行う(ステップS4)。ガードインターバル相関(GI相関)9における相関ピークの位相項からは、サブキャリア間隔の1/2以内の狭帯域な周波数偏差Δfn1を検出し、NCO17にフィードバックして周波数偏差の補正を行う(ステップS4)。検出される周波数偏差を式(1)に示す。
【0054】
【数1】

【0055】
式(1)中のCGIは、ガードインターバル相関ピーク値、Tは、有効シンボル長、記号real及びimagは、それぞれカッコ内の数値の実部及び虚部の算出値を示す。ここまでは、従来のOFDM方式における狭帯域な周波数偏差の検出と同じである。
【0056】
この方法では、キャリア間隔の1/2を超える周波数偏差(Δfn1)については、相関値の信頼性がないことから検出不可能であり、この時点の補正後の残留周波数偏差は、MIMO−OFDM方式の復調方式によっては許容範囲を超えることもある。そこで、次に示す方法で(ステップS5〜S8)、キャリア間隔の整数倍の広帯域な周波数偏差(Δf)の検出と、より高精度な周波数偏差(Δfn2)の検出を行う(図6及び7に示す“a”,“b”)。
【0057】
ガードインターバル相関で検出した切り出し位置で有効シンボルを抽出し(ステップS21)、FFT部10によりFFT演算後、TMCC検出部11により例えばDBPSK変調されて指定サブキャリアに挿入されているTMCC信号を検出する。TMCC信号は、送信ストリーム1と送信ストリーム2で共通であるため、伝搬チャネルで各ストリームが空間多重されても検出に支障はない。TMCC信号からは変調方式、誤り訂正など各種制御情報を取得することができるが、本実施例ではフレーム開始位置だけを検出して用いることができる(ステップS22)。
【0058】
フレーム同期検出部14によりTMCC信号からフレーム同期ワードを検出することで、FFT演算後のシンボル番号(0から407)を把握することができる。そこで、キャリア抽出部13により、例えば、FFT演算後のシンボルからシンボル番号nがmod(n,2)=0を満たすシンボル番号nのサブキャリア信号Cn,8kを抽出する(ステップS23)。ここで、Cn,8kはシンボル番号n、キャリア番号8kのサブキャリアの信号値(複素数)を示す。つまり、送信ストリーム数が2である本実施例では偶数番目のシンボルのサブキャリアだけをキャリア配置方向に8本毎に抽出する。8本毎に抽出するのはパイロットキャリアの間隔に対応させてサブキャリアを抽出することを目的としているためである。
【0059】
MIMO−OFDM方式では、奇数番目のシンボルはパイロット信号の値が送信ストリーム間で反転して挿入されており、送受間距離に対して送信アンテナ間隔が小さい場合など、各送信ストリームがほぼ同位相で受信されるケースでは、相殺されてレベル低下が生じ、検出精度が著しく劣化するため除外することとする。ただし、送受間距離に対して送信アンテナ間隔が広い場合など、各送信ストリームの位相が逆位相となる可能性がある場合では後述する実施例2の方式を用いる。
【0060】
次に、シンボル間キャリア相関部15により、抽出したmod(n,2)=0を満たすシンボル番号nのサブキャリア信号Cn,8kと2シンボル前のシンボル番号(n−2)のサブキャリア信号Cn−2,8kの相関演算を行う。さらに、シンボル間キャリア相関部15により、このシンボル間のサブキャリア相関演算(以下シンボル間キャリア相関と称する)を、サブキャリア単位でずらした8組について行う。式(2)に各組の相関演算値γn,mを数式で示す。ここでm(=0〜7の整数)はずらし量を、式中の*は共役複素数を示す。また、送受信機間で2サブキャリア間隔の周波数偏差があるとした場合のシンボル間キャリア相関の例をγn,0とγn,2の場合について図2及び図3に示す。図2では、シンボル間キャリア相関する組101−1〜101−3が選ばれているが、パイロット信号上(黒丸)にないことから相関値が高いとはいえない状況であり、この状況から、キャリア方向に順にシフトさせて、パイロット信号上(黒丸)にあることから相関値が高くなる位置を見つけることができる(ステップS24)。図3では、組102−1〜102−3がシンボル間キャリア相関するものとして選ばれている状況である。
【0061】
【数2】

【0062】
式(2)の8組の相関値γn,0〜γn,7 の中で絶対値が最も大きい組がγn,wであったとすると(ステップS25)、第3周波数偏差(Δf)検出部22により、広帯域な周波数偏差としてサブキャリア間隔Δfのw倍の周波数偏差Δf(=wΔf)が検出され(ステップS26)、セレクタ部19を介してΔf(Δfn1又はΔfn2)との加算器18へ送られる。ただし、検出可能な周波数偏差Δfの範囲は最大で隣接するCPキャリア間隔(=8Δf)までである。
【0063】
図4及び図5にγn,w=γn,2である場合の各組の相関絶対値の例を示す。図4は狭帯域な周波数偏差(Δfn1)が補正されたケース、図5は十分補正されていないケースであり、ここで述べた処理は狭帯域な周波数偏差(Δfn1)の補正処理が前段で行われている必要がある。
【0064】
前述した方法により検出した狭帯域な周波数偏差Δfn1と広帯域な周波数偏差Δfはセレクタ部19を介して加算器18で加算され、送受信間の全周波数偏差としてNCOにフィードバックして周波数偏差の補正が行われる。
【0065】
空間多重技術であるMIMO伝送では、受信側で伝搬チャネルの推定を行い、その結果に基づいた分離・検出などの信号処理を行う。伝搬チャネルの推定には通常、数シンボルに渡って平均して求めることが多いため、残留周波数偏差により、前半シンボルと後半シンボル間で位相差が生じ、MIMOにより空間多重された信号の分離・復号特性に影響を及ぼすことから、復号性能を発揮させるためにはさらに高精度な周波数偏差の補正が必要となる。
【0066】
そこで、狭帯域な周波数偏差Δf(Δfn1又はΔfn2)について、ガードインターバル相関ピーク値の位相差から検出して補正に用いたΔfn1を、さらに高精度な補正値Δfn2に切り替える方法について以下に説明する。
【0067】
第3周波数偏差(Δf)検出部22による、さらに高精度な補正値Δfn2の検出には、広帯域な周波数偏差(Δf)の検出時に、シンボル間キャリア相関で検出した相関ピーク値γn,wを用いる。γn,wは複素数であり、その位相角から式(3)に従って周波数偏差Δfn2を検出する(ステップS27)。
【0068】
【数3】

【0069】
式(3)中のTは有効シンボル長を示す。2Tとあるのはシンボル間キャリア相関が2シンボル間隔で行われたためで、例えば送信ストリーム数が4で、4シンボルに渡ってパイロット信号が直交符号を送信ストリーム間で構成する場合は4Tとなる。
【0070】
Δfn2はサブキャリア間隔の広帯域な周波数偏差がないか、又は補正されてΔf=0となり、且つガードインターバル相関から検出した狭帯域な周波数偏差Δfn1が閾値fth以下であれば、Δfn2より高精度な残留周波数偏差の検出が可能であり、この条件を満たした場合に、狭帯域の周波数偏差検出出力Δfとしてセレクタ部19によりΔfn2に切り替える。
【0071】
例えば、閾値fthの参考値として、サブキャリア間隔Δfcの10〜20%程度の値に設定する。仮に受信レベルの低下による検出精度の劣化や、移動によるドップラー周波数の増大により周波数偏差が増大し、Δfn2がfthを超えた場合は、再びΔfn1をΔfとして再度セレクタ部にて切り替えて出力する。セレクタ部19で出力されたΔfは、加算器18により広帯域な周波数偏差検出値Δfと加算してNCO17の制御にフィードバックする。
【0072】
以上の処理を繰り返すことで、ドップラー効果の影響などにより周波数偏差が時間的に変動する厳しい伝搬環境であっても、高精度な周波数偏差の補正を常時行うことが可能となる。
【0073】
以上の説明は1つのアンテナで受信した場合で説明したが、MIMO伝送では通常複数のアンテナで受信するため、周波数偏差の検出・補正のために、それらを利用した場合の実施例について説明する。
【0074】
2本のアンテナで受信する場合の構成例を図8に示す。同様な構成要素には同様な参照番号を付しており、同様な構成要素についての更なる詳細な説明は省略する。即ち、図8に示す実施例1の変形例のMIMO−OFDM受信装置1は、アンテナ2−1,2−2と、周波数変換部(D/C)3−1,3−2と、A/D変換部4―1、4−2と、直交復調部5−1,5−2と、乗算器6−1,6−2と、FIRフィルタ(LPF)7−1,7−2と、ダウンサンプル処理(DS)8−1,8−2と、ガードインターバル相関(GI相関)9−1,9−2と、FFT部10−1,10−2と、TMCC検出部11−1,11−2と、キャリア抽出部13−1,13−2と、フレーム同期検出部14と、シンボル間キャリア相関部15−1,15−2と、局部発振器(Lo)16と、数値制御発振器(NCO)17と、加算器18と、セレクタ部19と、第1周波数偏差(Δfn1)検出部20と、第2周波数偏差(Δfn2)検出部21と、第3周波数偏差(Δf)検出部22と、ピーク検出部23とを備える点で、図1の各々の要素と対応しているが、フレーム同期検出部14及びピーク検出部23が受信アンテナ間の平均処理を有する点と、ピーク検出・平均処理部24を更に備える点で相違する。しかしながら、基本動作は、以下の点を除き、図1と同様である。
【0075】
尚、図8に示す構成は、図1における破線で囲まれた共通処理部12以外は、受信アンテナ2−1,2−2毎に個別に動作するものである。受信アンテナ系統毎に検出した相関ピーク値(GI相関部9−1,9−2、シンボル間キャリア相関部15−1,15−2)については、フレーム同期検出部14及びピーク検出部23、並びにピーク検出・平均処理部24により各系統間で単純加算又は受信信号レベルに従って重みをつけて加算することができ、これにより信頼度の高い相関値を得ることもできる。ただし、各受信アンテナ系統では局部発振器16やNCO17などは同一の信号源を用いるなど同期しているものとする。
【0076】
実施例1のMIMO−OFDM受信装置によれば、MIMO−OFDM方式の伝送を移動環境で用いる場合、周波数偏差が時間的に変動する厳しい伝搬環境であっても、広帯域かつ高精度な周波数偏差を検出し補正することができる。
【0077】
次に、本発明による実施例2のMIMO−OFDM受信装置を説明する。
【0078】
[実施例2]
実施例2のMIMO−OFDM受信装置は、実施例1のMIMO−OFDM受信装置を更に改善したものであり、特に、周波数偏差検出のために抽出するシンボルを適応的に選択するように動作する。
【0079】
実施例1では、周波数偏差検出のために抽出するシンボルを、TMCC信号による先頭フレーム検出により指定した(偶数番目のシンボルとするなど)。たいていの場合、実施例1の受信装置で高精度な周波数偏差の検出・補正を行うことができるが、まれに送受間距離に対して、送信アンテナ間隔が比較的大きい場合など、送信ストリーム毎の伝搬経路が異なって互いに逆位相で合成されることもあり得る。その場合、検出精度の劣化が予想される。そこで、実施例2のMIMO−OFDM受信装置は、TMCC検出部11及びフレーム同期検出部14を用いて検出するシンボル番号を固定せず、周波数偏差検出のためのシンボルを伝搬環境に応じて適応的に選択するように動作する。
【0080】
図9に、実施例2のMIMO−OFDM受信装置を示す。実施例1と同様な構成要素には同一の参照番号を付して説明する。実施例2のMIMO−OFDM受信装置は、実施例1のものと比較して、TMCC検出部11及びフレーム同期検出部14を用いる代わりに、相関比較部26及び組み合わせ選択部27とを更に備え、指定シンボルのキャリア抽出のためのキャリア抽出部13の代わりに、全シンボルのキャリア抽出のためのキャリア抽出部25を備える点で相違する。
【0081】
実施例1では偶数番目のシンボルだけを抽出してシンボル間キャリア相関を行う例を説明したが、実施例2では奇数番目のシンボルについても同様にシンボル間相関を行い、偶数番目及び奇数番目のそれぞれに関して、シンボル方向に連続した二組の相関値を比較した結果を利用する。即ち、相関比較部26は、偶数番目及び奇数番目のそれぞれのシンボルに関して、シンボル方向に連続した二組の相関値を比較した結果を、組み合わせ選択部27に送出する機能を有する。
【0082】
組み合わせ選択部27は、相関比較部26で比較した相関値の結果のうち、その絶対値が最も大きい組を選択し、ピーク検出器23に送出する機能を有する。
【0083】
実施例2を説明するフローチャートを図10に示す。ただし、図6に示す実施例1のフローチャートは実施例2でも共通であるため、処理に違いがある図7に相当するフローチャートのみを示す。即ち、実施例2では、実施例1のFFT10のFFT演算までは同じ処理を行う(ステップS31)。FFT演算後は、キャリア抽出部25により全シンボルのサブキャリアを抽出し(ステップS32)、シンボル間キャリア相関部15により式(2)に示すシンボル間キャリア相関を行う(ステップS33)。ここで式(2)のnはmod(n,2)=0を満たしている必要はない。シンボル間キャリア相関部15及び相関比較部26の機能により、実施例1と同様に相関ピーク値はシンボル毎に8組ずつ求められ(ステップS33,S34)、組み合わせ選択部27は、その絶対値のうち値が大きいほうの組を選択する(ステップS35)。ピーク検出部23は、選択した組の相関ピークに対して精度を向上させるために、シンボル方向、受信アンテナ系統間で平均処理を行う。以降の処理は、実施例1と同様である(ステップS36,S37)。
【0084】
このように、実施例1で説明したような異なるシンボル番号の二組のサブキャリア信号を抽出する際に、TMCC信号からフレーム先頭位置を検出しなくとも、直交符号長をlとして、シンボル番号nがmod(n,l)=r(0≦r<l−1)を満たすシンボル番号nのサブキャリア信号と、lシンボル前のシンボル番号(n−l)のサブキャリア信号とからなる異なるシンボル番号の二組のサブキャリア信号を抽出する場合に、サブキャリア単位でサブキャリア方向にずらして得られる相関演算の相関値が最大となる組み合わせを選出するようにする。この実施例2の動作を行った後に、実施例1の動作を行えば、実施例1の利点を全て包含しつつ、送信ストリーム毎の伝搬経路が異なって互いに逆位相で合成されることを防止することができるようになる。
【0085】
次に、本発明による実施例3のMIMO−OFDM受信装置を説明する。
【0086】
[実施例3]
実施例3のMIMO−OFDM受信装置は、ガードインターバル相関ピーク値の位相差から検出したΔfn1を用いずに、シンボル間キャリア相関の結果から周波数偏差ΔfとΔfを求めるように動作する。
【0087】
シンボル間キャリア相関で周波数偏差Δfを求めるためには、初期状態で周波数偏差が閾値fth以下でなければ、正確な検出ができない。そのため、実施例1及び実施例2では、第1のステップとしてガードインターバル相関から狭帯域な周波数偏差Δfn1を検出し、NCO17にフィードバックして周波数偏差が閾値fth以下となるまで補正を行い、その後第2のステップでΔfn2に切り替える方法を説明した。
【0088】
本実施例では、ガードインターバル相関による周波数偏差を検出することなく、直接シンボル間キャリア相関で周波数偏差ΔfとΔfを求めて補正する方法について図11を用いて説明する。
【0089】
図11に、本発明による実施例3のMIMO−OFDM受信装置を示す。また、実施例3のフローチャートを図12に示す。同様な構成要素には同様な参照番号を付しており、同様な構成要素についての更なる詳細な説明は省略する。即ち、図11に示すようにガードインターバル相関による狭帯域な周波数偏差Δfn1の検出及び補正処理がなく、且つピーク検出器28が後述する2つの判定基準に基づいてNCO17を直接制御する制御信号を送出することを除いて、シンボル間キャリア相関、ピーク検出まで実施例1と構成は同じである。NCO17は、初期状態でパイロットキャリア間隔に相当する周波数範囲内で、シンボル間キャリア相関を検出する期間毎に制御周波数を巡回的に可変させている(ステップS41)。
【0090】
この制御周波数の可変量は、例えばARIB STD−B33規格(非特許文献1)ではサブキャリア間隔がΔfc=20kHz,パイロットキャリア間隔がΔfc =160kHzで、シンボル間キャリア相関による狭帯域な周波数偏差の検出が可能な量が仮にfth=4kHz以下であるとすると、その検出可能限界より小さい例えば2kHzステップで周期的に可変させる。つまり、NCOの本来の制御周波数を80MHzとすると、79.990MHz, 79.992MHz, 79.994MHz, ・・・, 80.006MHz, 80.008MHz・・・などのように巡回的に可変させる。可変させながら実施例1と同様に処理を進めるが(ステップS42〜S46)、可変させるステップを小さくすればより検出精度が向上するが、引き込む時間に遅延が生じるため、適切な値を設定する。
【0091】
従って、初期状態で周波数偏差がfthより大きい場合でも、NCO17の制御周波数を巡回的に可変することで、周波数偏差がfthより小さくなるNCO17の制御周波数とすることができ、シンボル間キャリア相関部15により正確な周波数偏差ΔfとΔfの検出が可能となる。ただし、周波数偏差がfthより小さくなった場合に、それを検知してNCO17の巡回的な制御周波数を停止させる必要がある。その方法として、シンボル間キャリア相関で検出した周波数偏差Δfの大きさがfthより小さく、且つΔf=0となることを第1の判定基準とし(ステップS49)、ピーク検出値の絶対値の大きさが事前に設定した閾値αを超えることを第2の判定基準として追加し(ステップS47,S48)、両条件をともに満たした場合にNCO17の周期的な制御周波数を停止させ(ステップS50)、実施例1と同様にΔf及びΔfの補正制御を行う(ステップS51)。上記の第1の判定基準及び第2の判定基準は、ピーク検出器28によって常に監視され、上記の判定基準を満たさなくなる場合には、NCO17の周期的な制御周波数を再開する(ステップS41)。
【0092】
これにより、ガードインターバル相関による周波数偏差を検出することなく、直接シンボル間キャリア相関で周波数偏差ΔfとΔfを求めて補正するkとができる。
【0093】
次に、本発明による実施例4のMIMO−OFDM受信装置を説明する。
【0094】
[実施例4]
実施例4のMIMO−OFDM受信装置は、パイロットキャリア間隔を超える広帯域な周波数偏差を検出するように動作する。
【0095】
実施例1〜3のシンボル間キャリア相関を用いた広帯域な周波数偏差の検出方法では、パイロットキャリア間隔を超えるより大きな周波数偏差を検出することができない。そのため、パイロットキャリア間隔を超える周波数偏差を検出する方法について図13を用いて説明する。
【0096】
図13は、本発明による実施例3のMIMO−OFDM受信装置を部分的に示す図である。指定シンボルのキャリア抽出までは、実施例1と共通であるため省略する。実施例4のMIMO−OFDM受信装置は、既知のパイロットパターンを送出する既知CPパターン送出部29を備え、シンボル間キャリア相関部15の代わりに相関比較部26を備える点で相違する。相関比較部26は、キャリア抽出部13によって抽出された指定シンボルのサブキャリアについて、既知パイロットパターンとの相関演算をキャリア方向にスライドさせながら繰り返し、同じキャリア位置の相関値についてシンボル方向に加算・平均した平均値を算出し、当該平均値をピーク位置検出部23に送出する機能を有する。ピーク位置検出部23は、当該平均値の中から最大となるものを抽出して、第3周波数偏差(Δf)検出部に送出する。
【0097】
ここで、実施例1と同様に、指定シンボルとは、送信ストリーム数が2である本実施例では偶数番目のシンボルのキャリアだけをキャリア配置方向に8本毎に抽出し、抽出したキャリアと既知パイロットパターンとの相関演算を行うものをいう。実施例1〜3では、シンボル間キャリア相関を行ったが、ここでは既知パイロットパターンとの相関演算であることに注意する。
【0098】
一例として、全キャリアにわたってスライドさせた場合の相関出力を図14に示す。図中の相関出力の絶対値が最大となる位置が既知パイロットパターンと一致するケースで、中心からのずれ量から実際の周波数偏差をキャリア間隔単位で検出することができる。
【0099】
従って、実施例4のMIMO−OFDM受信装置は、パイロット信号のキャリア間隔を超える周波数偏差を補正するために既知のパイロットパターンが予め規定されており、所定の有効シンボル区間のシンボル番号nのサブキャリア信号と、既知のパイロットパターンとの相関演算を行う際に、サブキャリア信号の相関演算をキャリア方向にスライドさせながら繰り返し、同じキャリア位置の相関値についてシンボル方向に加算・平均した平均値を算出し、当該平均値の中から最大となるものを抽出し、抽出した最大の平均値における受信系統のずれ量を周波数偏差として補正するように動作する。
【0100】
以上から、本実施例の方法によりパイロットキャリア間隔を超える周波数偏差でも検出可能であり、且つ実施例1〜実施例3までの方法と組み合わせることで、広帯域且つ高精度な周波数偏差の補正を実現することができる。
【0101】
上述の実施例については代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、実施例1〜実施例4を組み合わせて多くの変形及び置換することができることは当業者に明らかである。例えば、パイロット信号は、CPを用いるとして説明したが、他の基準信号を送信側で送信させて、TMCC情報に加えるようにして構成してもよい。従って、本発明は、上述の実施例によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲によってのみ制限される。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明によれば、空間多重された複数の送信ストリームを分離する際に送受信機器間で生じる周波数偏差を適切に補正することができるため、MIMO−OFDM受信装置を用いる用途に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明による実施例1のMIMO−OFDM受信装置を示す図である。
【図2】本発明による実施例1のMIMO−OFDM受信装置におけるシンボル間キャリア相関の例を示す図である。
【図3】本発明による実施例1のMIMO−OFDM受信装置におけるシンボル間キャリア相関の例を示す図である。
【図4】狭帯域な周波数偏差(Δfn1)が補正された場合の例を示す図である。
【図5】狭帯域な周波数偏差(Δfn1)が十分に補正されていない場合の例を示す図である。
【図6】本発明による実施例1のMIMO−OFDM受信装置の動作を説明するフローチャートである。
【図7】本発明による実施例1のMIMO−OFDM受信装置の動作を説明するフローチャートである。
【図8】本発明による実施例1の変形例のMIMO−OFDM受信装置を示す図である。
【図9】本発明による実施例2のMIMO−OFDM受信装置を示す図である。
【図10】本発明による実施例2のMIMO−OFDM受信装置の動作を説明するフローチャートである。
【図11】本発明による実施例3のMIMO−OFDM受信装置を示す図である。
【図12】本発明による実施例3のMIMO−OFDM受信装置の動作を説明するフローチャートである。
【図13】本発明による実施例4のMIMO−OFDM受信装置を部分的に示す図である。
【図14】本発明による実施例4のMIMO−OFDM受信装置における全キャリアにわたってスライドさせた場合の相関出力例を示す図である。
【符号の説明】
【0104】
1 MIMO−OFDM受信装置
2,2−1,2−2 アンテナ
3,3−1,3−2 周波数変換部(D/C)
4,4―1、4−2 A/D変換部
5,5−1,5−2 直交復調部
6,6−1,6−2 乗算器
7,7−1,7−2 FIRフィルタ(LPF)
8,8−1,8−2 ダウンサンプル処理(DS)
9,9−1,9−2 ガードインターバル相関(GI相関)
10,10−1,10−2 FFT部
11,11−1,11−2 TMCC検出部
12 共通処理部
13,13−1,13−2 キャリア抽出部
14 フレーム同期検出部
15,15−1,15−2 シンボル間キャリア相関部
16 局部発振器(Lo)
17 数値制御発振器(NCO)
18 加算器
19 セレクタ部
20 第1周波数偏差(Δfn1)検出部
21 第2周波数偏差(Δfn2)検出部
22 第3周波数偏差(Δf)検出部
23 ピーク検出部
24 ピーク検出・平均処理部
25 キャリア抽出部
26 相関比較部
27 組み合わせ選択部
28 ピーク検出器
29 既知CPパターン送出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一周波数で異なる複数の送信ストリームを空間多重して伝送されたOFDM信号を受信するMIMO−OFDM受信装置であって、
送信ストリーム毎に直交符号となるパイロット信号がデータキャリアの間に挿入されており、
前記複数の送信ストリームのOFDM信号を復調して、当該直交符号の長さに相当するシンボル毎に、異なるシンボル番号の二組のサブキャリア信号を抽出する手段と、
前記異なるシンボル番号の二組のサブキャリア信号の組み合わせを用いて、サブキャリア単位でサブキャリア方向にずらして得られる相関演算の相関値が最大となるものを検出する手段と、
検出した組み合わせから特定されるサブキャリア間隔の偏差量を、サブキャリア間隔の整数倍の周波数偏差として検出し、受信系統毎に該周波数偏差を補正する手段とを備えることを特徴とする、MIMO−OFDM受信装置。
【請求項2】
前記異なるシンボル番号の二組のサブキャリア信号を抽出する手段は、前記複数の送信ストリームに共通のTMCC信号を取り出し、該TMCC信号からフレーム先頭位置を検出し、複数の送信ストリームが空間多重されたOFDM信号から、検出したフレーム先頭位置から当該直交符号の長さに相当するシンボル毎に、異なるシンボル番号の二組のサブキャリア信号を抽出する手段を有し、
前記異なるシンボル番号の二組のサブキャリア信号は、直交符号長をlとして、シンボル番号nがmod(n,l)=0を満たすシンボル番号nのサブキャリア信号と、lシンボル前のシンボル番号(n−l)のサブキャリア信号とからなり、
前記受信系統毎にサブキャリア間隔の整数倍の周波数偏差を補正する手段は、前記シンボル番号nのサブキャリア信号とlシンボル前のシンボル番号(n−l)のサブキャリア信号とを一組の相関演算の組み合わせとして、サブキャリア単位でサブキャリア方向にずらした所定数の相関演算の組み合わせから相関値が最大となるものを検出することを特徴とする、請求項1に記載のMIMO−OFDM受信装置。
【請求項3】
前記異なるシンボル番号の二組のサブキャリア信号を抽出する手段は、直交符号長をlとして、シンボル番号nがmod(n,l)=r(0≦r<l−1)を満たすシンボル番号nのサブキャリア信号と、lシンボル前のシンボル番号(n−l)のサブキャリア信号とからなる異なるシンボル番号の二組のサブキャリア信号を抽出する場合に、サブキャリア単位でサブキャリア方向にずらして得られる相関演算の相関値が最大となる組み合わせを選出する手段を有することを特徴とする、請求項1に記載のMIMO−OFDM受信装置。
【請求項4】
前記受信系統毎にサブキャリア間隔の整数倍の周波数偏差を補正する手段は、
前記受信系統毎の該周波数偏差を補正した後、
前記検出した相関演算の組み合わせの最大相関値の位相項から送受信機間の周波数偏差を検出する手段と、
検出した送受信機間の周波数偏差を受信系統毎に補正する手段とを備えることを特徴とする、請求項1又は2に記載のMIMO−OFDM受信装置。
【請求項5】
前記復調時にOFDM信号の有効シンボルの一部をコピーしたガードインターバル間で相関演算を行ってサブキャリア間隔の1/2以内の周波数偏差を検出する手段を備え、
前記受信系統毎にサブキャリア間隔の整数倍の周波数偏差を補正する手段は、
前記サブキャリア間隔の整数倍の周波数偏差が補正されていない間は、当該検出したサブキャリア間隔の1/2以内の周波数偏差と前記サブキャリア間隔の整数倍の周波数偏差とを加算して、その加算後の周波数偏差を補正する補正手段を更に備えることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のMIMO−OFDM受信装置。
【請求項6】
前記受信系統毎にサブキャリア間隔の整数倍の周波数偏差を補正する手段は、前記検出したサブキャリア間隔の1/2以内の周波数偏差と前記サブキャリア間隔の整数倍の周波数偏差とを加算して、その加算後の周波数偏差を補正した後に、前記サブキャリア間隔の整数倍の周波数偏差の算出に用いた最大相関値の位相項から、1/2以内の周波数偏差を更に補正する補正量を検出し、該補正量を補正する補正手段を更に備えることを特徴とする、請求項5に記載のMIMO−OFDM受信装置。
【請求項7】
前記受信系統毎にサブキャリア間隔の整数倍の周波数偏差を補正する手段は、
前記復調時にOFDM信号の有効シンボルの一部をコピーしたガードインターバル間で相関演算を行ってサブキャリア間隔の1/2以内の周波数偏差の検出の有無に関わらず、前記サブキャリア間隔の整数倍の周波数偏差を補正した後、サブキャリア間隔の1/2以内の周波数偏差が予め設定した閾値以下となるように、前記周波数偏差を補正する手段における補正量を巡回的に可変させて、サブキャリア間隔の周波数偏差が最小となる補正量を検出し、該補正量を補正する補正手段を更に備えることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載のMIMO−OFDM受信装置。
【請求項8】
前記パイロット信号のキャリア間隔を超える周波数偏差を補正するために既知のパイロットパターンが予め規定されており、
前記受信系統毎にサブキャリア間隔の整数倍の周波数偏差を補正する手段は、
所定の有効シンボル区間のシンボル番号nのサブキャリア信号と、前記既知のパイロットパターンとの相関演算を行う際に、
サブキャリア信号の相関演算をキャリア方向にスライドさせながら繰り返し、同じキャリア位置の相関値についてシンボル方向に加算・平均した平均値を算出し、当該平均値の中から最大となるものを抽出する手段と、
前記抽出した最大の平均値における受信系統のずれ量を周波数偏差として補正する手段とを更に備えることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載のMIMO−OFDM受信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−74284(P2010−74284A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−236857(P2008−236857)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、総務省、「電波資源拡大のための研究開発(800MHz帯映像素材中継用移動通信システムの高度化のための研究開発)」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】