説明

MIMOレーダ装置

【課題】送信アンテナを介して同時に直交信号または無相関信号を送信するm個の送信サブレーダと、目標からの反射波を受信するn個の受信サブレーダとを備えたMIMOレーダ装置において、従来の位相符号変調信号を用いると、大きなドップラ周波数シフトを受けた信号を受信する場合、所要の送信信号成分を正確に弁別・分離できない問題がある。
【解決手段】各送信サブレーダ1が、送信パルス幅内を複数のサブパルスに分割し、各サブパルスで同一の基準符号によりサブパルスを位相符号変調し、全てのサブパルスに時間の2乗に比例した位相回転を与えた多値位相符号信号を発生する送信信号発生装置4を有する。各受信サブレーダは、受信信号とこれに対応する送信信号との相関処理を行なう信号弁別器16を、送信サブレーダ数mだけ並設することにより、装置規模を抑制しつつ、ドップラ周波数シフトを受けた信号であっても正確に分離できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の送信サブレーダ及び受信サブレーダ、又は複数の送受信サブレーダを備えて、移動する目標の位置及び速度を探知するMIMO(Multi Input Multi Output:多入力多出力)レーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
MIMOレーダ装置とは、例えば非特許文献1に示されているように、複数の送信サブレーダ及び受信サブレーダ、又は複数の送受信サブレーダを備えることにより、単一アンテナを有する単一サブレーダの場合よりも目標探知性能を飛躍的に向上する技術である。通常、各送信サブレーダから送信アンテナを介して互いに無相関、又は互いに直交する信号を同時に目標へ送信する。受信側ではまず、それぞれの受信アンテナを介して受信サブレーダが受信した目標反射波について、各送信サブレーダが送信した信号に対応する信号成分を弁別して分離する。即ち、送信サブレーダと受信サブレーダの組み合わせ数に相当する受信信号成分が観測される。
【0003】
これらの受信信号成分について、例えば非特許文献2で示されているようなノンコヒーレントな加算処理やコヒーレントな角度推定処理を実施することより、目標検出性能や目標分解能の向上が得られる。但し、このようなMIMOレーダ装置の能力を発揮するには、受信側において複数の受信信号を弁別するために、他の送信サブレーダからの信号成分の十分な抑圧が必要であり、一般には、例えば特許文献1や非特許文献3に示されるように、自己相関出力が大きく、かつ相互相関出力が小さい符号集合を用い、それぞれの送信信号を異なった符号で変調することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−096482号公報(第441−445頁、第1図)
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】E. Fishler et al.,”MIMO radar: an idea whose time has come”,IEEE Radar Conference 2004, pp.71−78, April 2004.
【非特許文献2】A.M. Haimovich et al.,”MIMO radar with widely separated antennas”: IEEE Signal Processing Magazine, vol.25, no.1, pp.116−129, Jan.2008.
【非特許文献3】Hai Deng,”Polyphase Code Design for Orthogonal Netted Radar Systems”,IEEE Trans.on Signal Processing, vol.52, no.11, pp.3126−3135, Nov. 2004.
【非特許文献4】M.I.Skolnik, Introduction to Radar system third edition,Ch. 6 Information from Radar signals, pp.330−339, McGrawHill, 2002.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、送信サブレーダ毎に、異なる符号で変調した信号をそれぞれ送信することにより、他の送信サブレーダからの送信信号成分を抑圧できるものの、目標の高速移動によりドップラ周波数シフトを受けた信号を受信した場合、ドップラ周波数の増加と共に自己相関出力が大きく低下し、かつ相互相関出力が大きく増加する。例えば、非特許文献4に示されているように、符号変調された送信信号のアンビギュイティ関数(時間とドップラ周波数をシフトさせた送信信号と元の送信信号との相関出力)は、時間=ドップラ周波数シフト=0の近傍にしか、相関出力を持たない。換言すれば、MIMOレーダ装置の受信側において、所望の送信サブレーダからの受信信号成分が減衰し、他の送信サブレーダからの信号成分が増加して、所要の信号弁別性能が劣化するという問題点があった。
【0007】
このような性能劣化に対処するため、例えば捜索レーダのように目標の位置及び速度が未知である場合は、対応できるドップラ周波数が少しずつ異なる自己及び相互相関器を多数個並べて並列に受信処理し、これらの中から目標速度に近い相関器出力を選択する等の方法を採用しなければならず、大規模な信号処理装置が必要となる。従来のレーダでは、このような受信信号処理の規模増大のため、比較的ドップラ周波数シフトが少ない目標の検出を目的として符号変調された送信信号が用いられている例は有るが、ドップラ周波数シフトが大きい目標に対して適用された例は少ないという問題が有った。
【0008】
この発明は前述の問題点を解決するためになされたものであり、未知の目標の高速移動により大きなドップラ周波数シフトを受けた信号を受信した場合であっても、装置規模を抑制しつつ、各送信サブレーダからの所要送信信号成分を低損失で正確に弁別することができるMIMOレーダ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係るMIMOレーダ装置は、送信信号発生装置が発生した送信信号を送信機及び送信アンテナを介して送信する複数の送信サブレーダと、目標からの反射波を受信アンテナを介して受信する受信機、前記受信機が出力した受信信号を対応する前記送信信号毎に分離する信号弁別処理装置を有する複数の受信サブレーダと、前記複数の信号弁別処理装置の出力を合成する受信信号合成装置を備え、前記送信信号発生装置が、送信パルス幅内を複数に分割した各サブパルスを同一の基準符号により多値位相符号変調し、全ての前記サブパルスに時間の2乗に比例した位相回転を与えて多値位相符号信号を送信信号として発生する耐ドップラ多値位相符号発生器を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、MIMOレーダ装置が送信信号発生装置及び信号弁別処理装置を備えることにより、目標の移動によりドップラ周波数シフトを受けた信号を受信した場合であっても、受信信号処理装置の規模を抑えつつ、各送信サブレーダからの各送信信号成分を正確に弁別し分離する性能が向上するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施の形態1に係るMIMOレーダ装置の全体構成を表す機能ブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る送信信号発生装置の細部構成を表す機能ブロック図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る信号弁別処理装置の細部構成を表す機能ブロック図である。
【図4】この発明の実施の形態1における送信信号の概念を説明する送信信号概念図である。
【図5】この発明の実施の形態1の信号弁別処理装置の特性を説明するアンビギュイティ図である。
【図6】この発明の実施の形態2に係る信号弁別処理装置の細部構成を表す機能ブロック図である。
【図7】この発明の実施の形態2の信号弁別処理装置の特性を説明するアンビギュイティ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態について説明する。図1は、実施の形態1の全体構成を示す機能ブロック図であり、一般的なMIMOレーダ装置の構成を示している。図中で、1−1〜1−mは分散して配置されるm個の送信サブレーダであり、その構成要素である2−1〜2−mは送信アンテナ、3−1〜3−mは送信機、4−1〜4−mは送信信号発生装置である。また、同図中で、5は目標、6−1〜6−nは分散して配置されるn個の受信サブレーダであり、その構成要素である7−1〜7−nは受信アンテナ、8−1〜8−nは受信機、9−1〜9−nは信号弁別処理装置であり、10は各受信サブレーダで分離された信号の受信信号合成装置である。
【0013】
次に図1における概略動作を説明する。m個の送信信号発生装置4−1〜4−mは、後述するような自己相関特性及び相互相関特性が良好な異なる信号波形S1〜Smを発生する。それぞれの送信サブレーダにおいて、送信機3−1〜3−mが各発生信号の送信周波数への変換及び電力増幅を行なった後、送信アンテナ2−1〜2−mを介して各信号を同時に空間へ送信する。目標5で反射された信号を、n個の受信サブレーダ6−1〜6−nの各受信アンテナ7−1〜7−nが受信し、受信機8−1〜8−nが受信信号の増幅、必要に応じて周波数変換、及び位相検波を行ない、A/D変換し複素ディジタル信号として出力する。この出力信号を、各信号弁別処理装置9−1〜9−nが、後述する相関処理により、m個の送信信号S1〜Smそれぞれに対応した信号波形成分を弁別し分離した後に、受信信号合成装置10が、分離された信号波形の合成処理を行なう。
【0014】
なお、ここでは、送信サブレーダと受信サブレーダは別々のものとして説明したが、その一部又は全部が、送信と受信を切替えることにより共用する送受信サブレーダであっても良く、この場合でも送信信号発生装置4−1〜4−m及び信号弁別処理装置9−1〜9−nの動作は同様である。
【0015】
図2及び図3は、実施の形態1において本発明の特徴である送信信号発生装置4−1〜4−m、及び信号弁別処理装置9−1〜9−nのそれぞれ一つの細部を示す機能ブロック図である。図2において、11は、後述する多値位相符号を発生する耐ドップラ多値位相符号発生器であり、m個の送信サブレーダ毎に異なった符号S1〜Smを発生する。また、12はそのデジタル符号をアナログ信号に変換するD/A変換器、13は安定した基準周波数信号を発生するコヒーレント発信器、14はコヒーレント発信器13の出力を位相符号変調する位相符号変調器であり、この出力信号は図1の送信機3−1〜3−mへ出力される。
【0016】
また、信号弁別処理装置を示す図3において、15は図1の受信機8−1〜8−nの出力を周波数スペクトルへ変換するフーリエ変換器、16−1〜16−mはm個の送信信号のそれぞれに対応している受信成分を分離、抽出する信号弁別器である。その構成要素である17−1〜17−mは送信サブレーダのm個の耐ドップラ多値位相符号発生器にそれぞれ対応する送信信号と同一信号を発生する耐ドップラ多値位相符号発生処理部、18はその出力のフーリエ変換及び複素共役処理部、19はフーリエ変換及び複素共役処理部の出力とフーリエ変換器15の出力との複素乗算を行なう複素乗算処理部であり、これらの過程で信号の分離が行われる。更に、20はこのようにして得られた周波数軸上の相関結果を時間軸上の信号に逆フーリエ変換する逆フーリエ変換処理部である。このようにして得られた全部でn×m個の受信信号成分は、図1の受信信号合成装置で合成処理が行われる。
【0017】
次に、実施の形態1の動作を説明する。まず、耐ドップラ多値位相符号発生器11で発生する信号の構造について、図4の送信信号概念図を用いて説明する。送信パルス幅をTとすると、これは長さがΔTのM個のサブパルスに分割される。それぞれのサブパルスは、まず、チップ長τのNビットの同じ基準符号で位相符号変調される。この基準符号はm個の送信サブレーダで異なる符号が選択され、例えば、一般的なM系列符号、特許文献1のバイナリ位相符号、又は非特許文献3の多値位相符号等の自己相関及び相互相関特性が良好なものが用いられる。
【0018】
本発明の第一の要点は、各送信サブレーダのM個のサブパルスにおいては、チップ長τのNビットの基準符号を繰り返し用いることにある。ただし、このような信号波形とすることにより、得られるアンビギュイティ関数は、非特許文献4のP.336 Figure 6.10 (b)のようになる。すなわち、このままでは時間とドップラ周波数シフト方向に、いくつもの相関出力を持つことになり、どれが真の目標か分からなくなるという問題(以降これを「アンビギュイティの発生」と呼ぶ)がある。そこで、本発明の第二の要点は、上記Nビットの基準符号をM個繰り返した信号に対し、線形周波数変調(チャープ変調)の信号波形を乗算することにより、上記の第一の要点で生じたアンビギュイティの発生を抑圧する。チャープ変調のアンビギュイティ関数は、非特許文献4のP.336 Figure 6.9のような形状であり、基準符号を繰り返した信号にチャープ変調を乗算することにより、本発明の信号波形のアンビギュイティ関数は、図4に示すように、基準符号の繰り返し信号のアンビギュイティ関数とチャープ変調のアンビギュイティ関数を乗算した形状となり、不要なアンビギュイティの発生を抑圧することができる。
【0019】
以下、本発明の信号について詳細に説明する。即ち、チップ長τで量子化した時間をtと書くと、m個のNビットの基準符号は、次式で表わされる。
【0020】
【数1】

【0021】
例えば、基準符号としてM系列符号のようなバイナリ符号が選択される場合は、その+/−に応じて、基準符号C(t)は+π/2か−π/2の値となる。もし基準符号に多値位相符号が選択される場合はC(t)はその符号の位相値となる。この符号をM個のサブパルスで繰り返し、かつ、時間の2乗に比例した位相回転を加えた信号波形X(t)はベースバンドで書くと次式となる。
【0022】
【数2】

【0023】
この信号波形により位相変調された信号S1〜Smは、m個の送信機と送信アンテナを介して同時に空間へ放射され、目標からの反射波はn個の受信アンテナ及び受信機で受信される。各受信機は、m個の送信信号成分を同時に受信するので、まずフーリエ変換器15で周波数軸上に変換した後、それぞれの送信信号に相当するm個の信号弁別器16−1〜16−mを並列に設けてこれらの成分を分離する。
【0024】
以下、この信号分別器の作用及び効果を説明する。耐ドップラ多値位相符号発生処理は17−1から17−mは、式(1)で示した送信信号と同じレプリカ信号を発生する。この信号のフーリエ変換の複素共役をX(f)(k=1,2,..,m)とし、受信信号のフーリエ変換との複素乗算を行う。
【0025】
【数3】

【0026】
もし、受信信号のフーリエ変換が送信信号X(t)以外の信号波形に相当するものである場合は、式(3)に示す複素乗算Z(f)は、これらの信号波形間の相互相関の周波数表現になるので、相互相関特性の良好な符号を選択すれば、その出力を抑圧できる。また、もし、受信信号のフーリエ変換が送信信号波形X(t)に相当するものである場合は、複素乗算Z(f)は、この信号波形の自己相関の周波数表現になる。
【0027】
図5には、受信信号が目標移動によるドップラ周波数シフトを受けた場合の、Z(f)の逆フーリエ変換出力の模式図を示す。図の横軸は時間(t=0は目標反射波の受信時刻)、縦軸はドップラ周波数であり、一般に信号波形のアンビギュイティ図と呼ばれる。更に、図には示していない紙面に垂直軸は電力を示しており、一つ一つの楕円状の軌跡は自己相関出力のピークを中心に、電力が1/2になる位置(即ち、メインローブ位置)を示しており、時間幅(即ち、パルス圧縮後のパルス幅)はτ、ドップラ周波数幅は1/Tに等しい。本実施形態で示した信号波形では、MとNを1より十分に大きく設定すれば、メインローブが直線状に周期的に現れることが特徴であり、その時間間隔はΔT、ドップラ周波数間隔は1/Tである。
【0028】
このような効果を生じる理由は以下のように説明できる。今、信号波形X(f)に相当する受信信号がドップラ周波数シフトfdを受けたと仮定すると、その時間信号は振幅項を省略すると、(2)式から次のように書ける。
【0029】
【数4】

【0030】
これは、位相回転項を除いて、近似的にドップラ周波数シフトがゼロの信号波形を、(fd/2μ)だけ時間シフトしたものと等しい。即ち、ドップラ周波数シフトがゼロ付近のメインローブが、ドップラ周波数の変化とともに傾斜(fd/2μ)の直線上に周期的に発生することになる。
【0031】
従って、本実施形態の送信信号を用いれば、目標のドップラ周波数が未知の場合でも、どれか一つのメインローブがこのドップラ周波数に対応するので、必ず自己相関出力が得られるという利点がある。一方、非特許文献4のP.338で示されているような、パルス幅T内をM・Nビットの単一の符号で位相変調する従来法の場合では、メインローブは原点を中心とする1つのみになるので、ドップラ周波数がゼロでない場合には自己相関出力が得られない。このため、ドップラ周波数が未知の場合は、ドップラ周波数軸上でメインローブ位置が1/Tずつずれた応答となる相関処理を多数並列に設けてその出力の最大値を選択する処理が必要となり、受信信号処理規模が大規模になる。反対に、本実施形態では前記の説明のように、単一の相関処理を用いて未知のドップラ周波数の受信信号に対して確実に自己相関出力を得ることができ、所要の送信信号成分を弁別し分離することが可能となるので、装置規模を抑制しつつ、高速移動する目標、或いは遠距離の目標であっても正確に弁別し分離する性能が向上するという効果を奏する。
【0032】
なお、本実施形態では、ドップラ周波数シフトがある場合のメインローブの時間位置は受信時刻(t=0)からずれるという欠点がある。しかし、μを(3)式で示した値よりも小さくすればメインローブの時間間隔がΔTより小さくなり、時間ずれ量を低減できることは自明である。或いは、通常、図1で示した受信信号合成装置10の後に設けられる目標検出・追尾処理の結果で得られる目標速度の計測結果を用いて、時間ずれ量を補正することも容易である。
【0033】
また、上記では簡単のため、受信信号のフーリエ変換に複素乗算する相関係数は対応する信号波形のフーリエ変換の複素共役X(f)であるとして説明したが、自己相関の時間サイドローブを低減する目的で、これに更に周波数軸上での窓関数を乗じた次式としても、同様の効果を奏する。
【0034】
【数5】

【0035】
実施の形態2.
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。この実施形態は、実施の形態1の信号弁別器16−mにおける相関処理を2並列に設けることにより自己相関出力の損失を低減するものであり、この他の構成要素は実施の形態1と同様である。図6は本発明の実施の形態2における信号弁別処理装置の一つの細部を示す機能ブロック図である。図中で、21−1〜21−mは実施形態2におけるm個の信号弁別器、22は相関係数に所定のドップラ周波数シフトを与えるドップラ周波数補正処理部、23は2並列の相関出力の最大値選択処理部である。このほかの構成要素については図3と同一である。
【0036】
次に、実施の形態2の動作について説明する。前述の図5で示した実施の形態1の信号波形のアンビギュイティ図では、目標のドップラ周波数シフトが、隣接する2つのメインローブの隙間の値である場合には自己相関出力に損失が生じる。従って、本実施形態では、このような損失を低減するために、信号弁別器21−1から21−mにおいて、実施の形態1と同様の第1の相関処理に加えて、フーリエ変換/複素共役処理部18出力の第1の相関係数を、ドップラ周波数補正処理部22により周波数軸上で1/(2T)だけシフトさせた第2の相関係数を用いた第2の相関処理を平行に実行する。
【0037】
図7は、このような並列相関処理でのアンビギュイティ図である。図において、実線のメインローブは実施の形態1と同じ第1の相関処理のものであり、破線はドップラ周波数補正処理部を与えた第2の相関処理のものである。つまり、目標のドップラ周波数シフトが実線の2つのメインローブの隙間である場合は、破線のメインローブの中心となり、逆に、目標のドップラ周波数シフトが破線の2つのメインローブの隙間である場合は、実線のメインローブの中心となる。従って、最大値選択処理部23を用いて、これらの並列処理結果の大きい方を選択するようにすれば、任意のドップラ周波数シフトを受けた受信信号に対して、信号損失がほとんどない状態で自己相関出力が得られる。この結果、実施の形態1において、信号弁別器16における相関処理を2並列に設けることにより自己相関出力の損失を低減する効果を奏する。
【符号の説明】
【0038】
1 送信サブレーダ、2 送信アンテナ、 3 送信機、 4 送信信号発生装置、
5 目標、 6 受信サブレーダ、 7 受信アンテナ、 8 受信機、
9 信号弁別処理装置、 10 受信信号合成装置、
11 耐ドップラ多値位相符号発生器、 12 D/A変換器、
13 コヒーレント発振器、 14 位相変調器、 15 フーリエ変換器、
16 信号弁別器、 17 耐ドップラ多値位相符号発生器、
18 フーリエ変換/複素共役処理部、 19 複素乗算処理部、
20 逆フーリエ変換処理部、 21 信号弁別器、
22 ドップラ周波数補正処理部、 23 最大値選択処理部(最大値選択処理手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信信号発生装置が発生した送信信号を送信機及び送信アンテナを介して送信する複数の送信サブレーダと、
目標からの反射波を受信アンテナを介して受信する受信機、前記受信機が出力した受信信号を対応する前記送信信号毎に分離する信号弁別処理装置を有する複数の受信サブレーダと、
前記複数の信号弁別処理装置の出力を合成する受信信号合成装置を備え、
前記送信信号発生装置が、送信パルス幅内を複数に分割した各サブパルスを同一の基準符号により多値位相符号変調し、全ての前記サブパルスに時間の2乗に比例した位相回転を与えて多値位相符号信号を送信信号として発生する耐ドップラ多値位相符号発生器を有することを特徴とするMIMOレーダ装置。
【請求項2】
前記信号弁別処理装置が、前記受信信号をフーリエ変換するフーリエ変換器と、
前記送信サブレーダの数だけ並設されて、前記受信信号とこれに対応する前記送信信号との相関処理を行なう信号弁別器とを備え、
前記信号弁別器がそれぞれ、前記フーリエ変換器の出力と、前記送信信号と同じ多値位相符号信号を発生しフーリエ変換し複素共役をとった相関係数との複素乗算の出力を逆フーリエ変換する相関処理手段を有する
ことを特徴とする請求項1に記載のMIMOレーダ装置。
【請求項3】
前記信号弁別処理装置が、前記受信信号をフーリエ変換するフーリエ変換器と、
前記送信サブレーダの数だけ並設されて、前記受信信号とこれに対応する前記送信信号との相関処理を行なう信号弁別器とを備え、
前記信号弁別器がそれぞれ、2分岐された前記フーリエ変換器の出力のうち、
一方の前記フーリエ変換器の出力と、前記送信信号と同じ多値位相符号信号を発生しフーリエ変換し複素共役をとった第1の相関係数との複素乗算の出力を逆フーリエ変換する第1の相関処理手段、
他方の前記フーリエ変換器の出力と、前記第1の相関係数に所定のドップラ周波数シフトを与えた第2の相関係数との複素乗算の出力を逆フーリエ変換する第2の相関処理手段、
前記第1及び第2の相関処理手段の出力の最大値を選択する最大値選択処理手段、
を有することを特徴とする請求項1に記載のMIMOレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−145332(P2012−145332A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1352(P2011−1352)
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】