説明

MN結合および細胞接着中和活性を有するヒト抗体

【課題】MN結合および細胞接着中和活性を有するヒト抗体の提供。
【解決手段】MN細胞表面タンパク質のプロテオグリカンドメインに含まれる4個のGEEDLP反復配列を標的とするヒト抗MNモノクローナル抗体もしくはヒト抗MN抗体フラグメント。前記抗体もしくは前記抗体フラグメントの、FACSおよび免疫組織化学的方法による癌細胞および腫瘍中のMN発現の定量、およびMNがアップレギュレートされている癌の診断のための使用。また、前記抗MN IgG1が抗体依存性の細胞媒介性細胞傷害活性により腫瘍細胞を溶解するため、前記抗体によるMNがアップレギュレートされている癌の治療もしくは処置のための使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はMN結合ヒト抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
MNは多数の臨床的癌腫サンプル中で検出されるが、しかし対応する器官の正常組織中には非存在である細胞表面タンパク質である。MNのcDNAはクローン化されており(非特許文献1)、そして予測されるタンパク質はシグナルペプチド、プロテオグリカン関連配列、炭酸脱水酵素ドメイン、膜貫通セグメントおよび短い細胞内尾部よりなる。MNは通常、胃および胆管粘膜(非特許文献2)ならびに小腸中に位置する高度に増殖性の正常細胞(非特許文献3)中で発現される。しかしながら、MNは、100%の腎細胞癌(非特許文献4)、食道癌の100%(非特許文献5)、子宮頸癌の90%以上(非特許文献2)、76%の悪性結腸癌(非特許文献6)、80%の非小細胞肺癌(非特許文献7)および48%の乳癌(非特許文献8)で異所性に発現される。
【0003】
MNに対する抗体が記述されている。マウスモノクローナル抗体G250はマウスモデルにおいて腎細胞癌の腫瘍サイズの低減に有効である(非特許文献9)。この抗体は後にヒトFc領域およびマウス可変領域を含有するキメラ抗体にされた。キメラG250抗体は66%のみヒトであり、匹敵する完全にヒトの抗体に比較してヒトにおいて免疫原性のより大きな機会につながる。従って、33%マウス抗体での処置はヒトの抗マウス免疫原性応答につながり抗癌治療を無効にするかもしれない。キメラ抗体でのこれらの問題はMNに対する完全にヒトの抗体に対する必要性を明らかに生じさせる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Pastorek,J.ら、Oncogene(1994)、9、2877−2888
【非特許文献2】Liao,S.Y.ら、Am J Pathol(1994)、145、598−609
【非特許文献3】Saamio,J.ら、J Histochem Cytochem(1998)46、497−504
【非特許文献4】Liao,S.Y.、Cancer Res(1997)57、2827−2831
【非特許文献5】Turner,J.R.Hum Pathol、(1997)28、740−744
【非特許文献6】Saamio,J.ら、Am J Pathol(1998)153、279−285
【非特許文献7】Vermylen,P.ら、Eur Respir J(1999)、14、806−811
【非特許文献8】Chia,S.K.ら、J.Clin.Oncol.(2001)19、3660−3668
【非特許文献9】van Dijk、J.ら、Int.J.Cancer(1994)56、262−268
【発明の概要】
【0005】
本発明はプロテオグリカンドメイン内のGEEDLP(配列番号118)反復を標的とするモノクローナルヒトMN抗体もしくはMN抗体フラグメントより構成される。MN細胞表面タンパク質のプロテオグリカンドメインは4個の同一のこれらGEEDLP(配列
番号118)反復を含有する。所望のエピトープへの結合は競合的ELISAにより確認され、ここでELISAシグナルは本反復を含有するペプチド(PGEEDLPGEEDLP)(配列番号119)との共インキュベーションにより減弱されうる。結合のこの阻害はまた、ビアコア(BIAcore)アッセイを使用しても確認することができ、ここでは固定されたMNもしくはプロテオグリカンペプチドへの所望の抗体の結合が該ペプチド反復により阻害されうる。ペプチド反復への結合に加え、ヒト抗MN抗体はMN被覆プラスチック製プレートへのCGL−1細胞の細胞接着を阻害することができる。ヒト抗MN抗体は、FACSおよび免疫組織化学的方法を使用して癌細胞および腫瘍中のMN発現を診断および定量するのに使用されている。ヒト抗MN IgG1が抗体依存性の細胞媒介性の細胞傷害性により腫瘍細胞の溶解を媒介する一例もまた提供される。従って、これらの抗体は、MNがアップレギュレートされている癌の処置に有用であることができるか、もしくは、MNがアップレギュレートされている癌の診断に有用となり得る。
【0006】
[発明の詳細な説明]
本発明はMNに結合するヒト抗体を提供する。これらの抗体は多様な治療および診断目的上有用である。これらの目的は以下を包含する:
【0007】
ヒトMN抗体の特徴
本明細書で使用されるところの「抗体」は無傷の免疫グロブリン分子(例えばIgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgM、IgD、IgE、IgA)ならびにヒトMNタンパク質のエピトープに特異的に結合することが可能であるFab、F(ab’)、scFvおよびFvを包含する。MNに特異的に結合する抗体は、免疫化学的アッセイで使用される場合に他のタンパク質で提供される検出シグナルより最低5、10もしくは20倍より高い検出シグナルを提供する。好ましくは、ヒトMNに特異的に結合する抗体は免疫化学的アッセイで他のタンパク質を検出せずかつMNを溶液から免疫沈降させることができる。
【0008】
本明細におけるVL2および/もしくはVL3への言及はL鎖のラムダ(λ)クラスを示すことを意図している。
【0009】
MNへのヒト抗体結合のKは、リアルタイム生体分子相互作用分析(real−time Biomolecular Interaction Analysis)(BIA)(SjolanderとUrbaniczky、Anal.Chem.63、2338−2345、1991、およびSzaboら、Curr.Opin.Struct.Biol.5、699−705、1995)のような技術を包含する当該技術分野で既知のいずれかの方法を使用してアッセイすることができる。BIAは相互作用体のいずれも標識することなく実時間で生物特異的相互作用を研究するための技術である(たとえばビアコア[BIAcore]TM)。光学的現象、表面プラスモン共鳴(SPR)の変化を生物学的分子間の実時間反応の指標として使用することができる。
【0010】
ビアコア[BIAcore]TMアッセイにおいては、本発明のヒト抗体は約0.6nM(6×10−10nM)から約1800nM(1.8×10−6nM)までの範囲のKでヒトMNに特異的に結合する。図6を参照されたい。本発明のより好ましいヒト抗体はおよそ0.6nMないし約90nMのKでヒトMNに特異的に結合し、本発明のもっとも好ましい抗体はおよそ4nMのKでヒトMNタンパク質を結合する。
【0011】
好ましくは、想定される本発明の抗体は、4個の同一のGEEDLP(配列番号118)反復を含有するプロテオグリカンドメイン内のこれらの反復に結合することができる。所望のエピトープへの結合は競合的ELISA(Zavadaら、Br.J.of Cancer 82、1808−1813、2000)のような技術を包含する当該技術分野
で既知のいずれかの方法を使用して確認することができ、ここでELISAシグナルは、この反復を含有するペプチド(PGEEDLPGEEDLP)(配列番号119)との共インキュベーションにより減弱されうるが、しかしまた該プロテオグリカンドメイン内にある類似のペプチド(PSEEDSPREEDP)(配列番号120)によっては阻害されることができない。このパターンの結合阻害はまた、固定されたMNもしくはプロテオグリカンペプチドへの所望の抗体の結合が該ペプチド反復とのインキュベーションにより阻害されることができるビアコア[BIAcore]TM技術を使用しても確認することができる。好ましくは、本発明の抗体はまた、MN被覆プラスチック製プレートELISAへのMN発現細胞の細胞接着も阻害することができる(Zavadaら、Br.J.of Cancer 82、1808−1813、2000)。
【0012】
本発明はMNタンパク質に対する完全にヒトの抗体を生成させるためのMorphosysファージ−抗体技術を使用する。Morphosysライブラリーはヒトのバックボーンに基づいており、免疫原性の確率を大きく低下させる。
【0013】
上述されたMN結合および細胞接着中和の特徴を有する多数のヒト抗体がMorphoSys HuCAL Fabライブラリーをスクリーニングすることにより同定されている。HuCALライブラリーのため集成されたCDRカセットは、位置95から102までの伸長を包含する5から28アミノ酸残基までの範囲にわたる長さ分布を達成するように設計した。Knappikら、J.Mol.Biol.296、57−86、2000。上述されたMN結合および細胞接着中和の特徴を有する多数のヒト抗体がMorphoSys HuCALFabライブラリーをスクリーニングすることにより同定されている。HuCALライブラリーのため集成されたCDRカセットは、位置95から102までの伸長を包含する5から28アミノ酸残基までの範囲にわたる長さ分布を達成するように設計した。Knappikら、J.Mol.Biol.296、57−86、2000。本発明のいくつかの態様において、ヒト抗体のVH3−CDR3領域は図2に配列番号61−80に示されるアミノ酸配列を有する。本発明の他の態様において、ヒトMN抗体のVLλ1−CDR3、VLλ2−CDR3およびVLλ2−CDR1領域は、配列番号48−60に示されるところの至適化されたVH3−CDR1配列を伴い図2に配列番号81−89に示されるところのアミノ酸配列を有し、双方は図2に示される。MN結合および細胞接着中和活性を有するヒト抗体を表1および2に示し;これらの抗体内の可変領域(CDR3ループ)を表1および2に示す。
【0014】
[ヒト抗体の取得]
上述されたMN結合および細胞接着中和活性をもつヒト抗体は以下のとおりMorphoSys HuCALライブラリーから同定することができる。ヒトMNをマイクロタイタープレート上に被覆しそしてMorphoSys HuCAL−Fabファージライブラリーとともにインキュベートする(実施例1を参照されたい)。MNに結合しないファージ連結Fabをプレートから洗い流してMNにきつく結合するファージのみを残すことができる。結合されたファージはpHの変化により溶出しかつ大腸菌(E.coli)宿主の感染により増幅することができる。このパニング(panning)過程を1回もしくは2回反復してMNにきつく結合するファージ連結抗体の集団について濃縮することができる。濃縮されたプールからのFabをその後発現させ、精製しかつELISAアッセイでスクリーニングする。同定されたヒットをその後ビアコア[BIAcore]TMアッセイを使用して結合について試験し、そしてこれらのヒットを下述されるところの細胞接着アッセイでさらにスクリーニングすることができる。
【0015】
HuCAL−Fabライブラリーの初期パニングはまた、第1回に抗原としてMN、次いで第2回にBSAもしくはトランスフェリンのような担体タンパク質に融合されたMNペプチド、および第3回に再度MN抗原を用いて実施することもできる。パニングに使用
することができるヒトMNペプチドはヒトMN配列番号45−47を包含する。これらのペプチド配列は、細胞接着に関与すると考えられているMNプロテオグリカン配列由来である。
【0016】
あるいは、パニングは抗原としてMN発現細胞を使用して実施することができる。例えばMN抗原でトランスフェクトした細胞をビオチンで標識することができる。その後、これらのトランスフェクトした細胞を1:10の標識:未標識比で未標識のMNでトランスフェクトされない細胞と混合する。ファージライブラリーを細胞に添加しそしてビオチニル化し、磁石に結合されているストレプトアビジン結合磁性ビーズでMNをもつ細胞を捕捉する。非特異的ファージを洗い流し、そして、磁場を除去することにより、MNをもつ細胞が特異的に溶出される。これらの特異的に結合されたファージはさらなる回の細胞パニングのため増幅することができるか、またはペプチドおよび/もしくはタンパク質のパニングと交替させることができる。
【0017】
スクリーニング過程の詳細は下の特定の実施例に記述する。高度に活性の特異的抗体もしくは抗体フラグメントの他の選択方法は当業者により予見されかつヒトMN抗体を同定するのに使用されることができる。
【0018】
上述された特徴をもつヒト抗体はまた、抗体をコードする発現構築物でトランスフェクトした宿主細胞を包含する抗体を発現するいかなる細胞からも精製することができる。宿主細胞はそれによりヒト抗体が発現される条件下で培養する。精製されたヒト抗体を、当該技術分野で公知の方法を使用して、ある種のタンパク質、炭水化物もしくは脂質のような細胞中で該抗体と通常会合している他の化合物から分離する。こうした方法は、限定されるものでないがサイズ排除クロマトグラフィー、硫酸アンモニウム分画、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーおよび調製的ゲル電気泳動を挙げることができる。精製されたヒト抗体の調製物は最低80%純粋であり;好ましくは、調製物は90%、95%もしくは99%純粋である。調製物の純度はSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動のような当該技術分野で既知のいずれかの手段により評価することができる。本発明の精製されたヒト抗体の調製物は、上述されたMN結合および中和の特徴をもつ1以上の型のヒト抗体を含有する可能性がある。
【0019】
あるいは、ヒト抗体は、固相技術を使用する直接ペプチド合成によるようなそのアミノ酸配列の化学合成方法を使用して製造することができる(Merrifield、J.Am.Chem.Soc.85、2149−2154、1963;Robergeら、Science 269、202−204、1995)。タンパク質合成は人的技術を使用してもしくは自動化により実施することができる。自動化合成は例えばアプライド バイオシステムズ(Applied Biosystems)431Aペプチド合成機(パーキン エルマー(Perkin Elmer))を使用して達成することができる。場合によっては、ヒト抗体のフラグメントを別個に合成しかつ化学的方法を使用して結合して完全長の分子を製造することができる。
【0020】
新たに合成された分子は調製的高速液体クロマトグラフィーにより実質的に精製することができる(例えばCreighton,PROTEINS:STRUCTURES ANDMOLECULAR PRINCIPLES、WH フリーマン アンド カンパニー(WH Freeman and Co.)、ニューヨーク州ニューヨーク、1983)。合成ポリペプチドの組成はアミノ酸分析もしくは(例えばエドマン分解を使用する)配列決定により確認することができる。
【0021】
[ヒト抗体の治療的利用性の評価]
癌を治療するのに治療上有用である特定の抗体の能力を評価するために、一例として、
抗体をマウス異種移植腫瘍モデルにおいてin vivoで試験することができる。所望の場合は、ヒトFab MN抗体は治療的評価前にIgG抗体に転化することができる。本転化は実施例5に記述し、また、治療モデルの一例を実施例9に記述する。利用性はまた、実施例13に記述されるところの抗体依存性の細胞媒介性の細胞傷害性を使用しても試験することができる。
【0022】
[ヒトMN抗体をコードするポリヌクレオチド]
本発明はヒトMN抗体をコードするポリヌクレオチドもまた提供する。これらのポリヌクレオチドを例えば治療的もしくは診断的使用のための相当量の抗体を製造するのに使用することができる。
【0023】
VH−CDR3領域をコードするのに使用することができるポリヌクレオチドを配列番号14−33に示す。示されるVL−CDR3領域をコードするのに使用することができるポリヌクレオチドを配列番号34−44に示す。MorphoSys HuCALライブラリーから単離された本発明のヒト抗体のH鎖およびL鎖をコードするポリヌクレオチドは図2に示す。追加の至適化されたVH3−CDR1配列を配列番号1−13に示す。
【0024】
宿主細胞中に存在する本発明のポリヌクレオチドは、膜成分、タンパク質および脂質のような他の細胞成分を含まずに単離することができる。ポリヌクレオチドは細胞により作成されかつ標準的な核酸精製技術を使用して単離することができるか、またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のような増幅技術を使用して、もしくは自動合成機を使用することにより合成することができる。ポリヌクレオチドの単離方法は当該技術分野で慣例である。ポリヌクレオチドを得るためのいずれかのこうした技術を使用して本発明の抗体をコードする単離されたポリヌクレオチドを得ることができる。例えば制限酵素およびプローブを使用して該抗体をコードするポリヌクレオチドを単離することができる。単離されたポリヌクレオチドは他の分子を含まないか、または最低70%、80%もしくは90%含まない調製物中にある。
【0025】
本発明のヒト抗体をコードするcDNA分子は、鋳型としてmRNAを使用する標準的分子生物学技術を用いて作成することができる。その後、cDNA分子は、当該技術分野で既知かつSambrookら(1989)のような手引き書に開示される分子生物学技術を使用して複製することができる。PCRのような増幅技術を使用して該ポリヌクレオチドの追加のコピーを得ることができる。
【0026】
あるいは、合成化学技術を使用して本発明の抗体をコードするポリヌクレオチドを合成することができる。遺伝暗号の縮重は、例えば配列番号48−89に示されるそれぞれVH−CDR3、VH−CDR1もしくはVL−CDR3、L鎖またはH鎖アミノ酸配列の1種を有する抗体をコードする代替のヌクレオチド配列が合成されることを可能にする。
【0027】
[ポリヌクレオチドの発現]
本発明のヒト抗体をコードするポリヌクレオチドを発現させるために、ポリヌクレオチドを、挿入されたコーディング配列の転写および翻訳に必要な因子を含有する発現ベクターに挿入することができる。当業者に公知である方法を使用して、ヒト抗体をコードする配列ならびに適切な転写および翻訳制御因子を含有する発現ベクターを構築することができる。これらの方法は、in vitro組換えDNA技術、合成技術およびin vovo遺伝子組換えを包含する。こうした技術は例えばSambrookら(1989)およびAusubelら、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY、ジョン ワイリー アンド サンズ(John Wiley & Sons)、ニューヨーク州ニューヨーク、1995に記述される。下の実施例1−3もまた参照されたい。
【0028】
多様な発現ベクター/宿主系を利用して本発明のヒト抗体をコードする配列を含有かつ発現することができる。これらは、限定されるものでないが、組換えバクテリオファージ、プラスミドもしくはコスミドDNA発現ベクターで形質転換された細菌のような微生物;酵母発現ベクターで形質転換された酵母、ウイルス発現ベクター(例えばバキュロウイルス)に感染した昆虫細胞系、ウイルス発現ベクター(例えばカリフラワーモザイクウイルス、CaMV;タバコモザイクウイルス、TMV)または細菌発現ベクター(例えばTiもしくはpBR322プラスミド)で形質転換された植物細胞系、あるいは動物細胞系を挙げることができる。
【0029】
制御因子もしくは調節配列は、宿主細胞タンパク質と相互作用して転写および翻訳を実施するベクターの非翻訳領域(エンハンサー、プロモーター、5’および3’非翻訳領域)である。こうした因子はそれらの強さおよび特異性が変動する可能性がある。利用されるベクター系および宿主に依存して、構成的および誘導可能なプロモーターを包含するいずれかの数の適する転写および翻訳因子を使用することができる。例えば、細菌の系でクローン化する場合に、BLUESCRIPTファージミド(ストラタジーン(Stratagene)、カリフォルニア州ラホヤ)もしくはpSPORT1プラスミド(ライフ テクノロジーズ(Life Technologies))などのハイブリッドlacZプロモーターのような誘導可能なプロモーターを使用することができる。バキュロウイルスポリヘドリンプロモーターを昆虫細胞中で使用することができる。植物細胞のゲノム(例えば熱ショック、RUBISCOおよび貯蔵タンパク質の遺伝子)または植物ウイルス(例えばウイルスプロモーターもしくはリーダー配列)由来のプロモーターもしくはエンハンサーをベクター中にクローン化することができる。哺乳動物細胞系では哺乳動物遺伝子もしくは哺乳動物ウイルスからのプロモーターが好ましい。複数コピーのヒト抗体をコードするヌクレオチド配列を含有する細胞系を生成させることが必要である場合は、SV40もしくはEBVに基づくベクターを適切な選択可能なマーカーとともに使用することができる。
【0030】
[製薬学的組成物]
上述されたヒトMN抗体のいずれも製薬学的に許容できる担体を含んでなる製薬学的組成物中で提供することができる。製薬学的に許容できる担体は好ましくは非発熱原性である。該組成物は単独でもしくは安定化する化合物のような最低1種の他の作用物質とともに投与することができ、それらは、限定されるものでないが生理的食塩水、緩衝生理的食塩水、D−ブドウ糖および水を挙げることができるいずれかの滅菌の生物適合性の製薬学的担体中で投与することができる。多様な水性担体、例えば0.4%生理的食塩水、0.3%グリシンなどを使用してよい。これらの溶液は無菌かつ一般に粒子状物質を含まない。これらの溶液は慣習的な公知の滅菌技術(例えば濾過)により滅菌してよい。該組成物は、pH調節および緩衝剤などのような生理学的条件に近づけるのに必要とされるところの製薬学的に許容できる補助物質を含有してよい。こうした製薬学的製剤中の本発明の抗体の濃度は広範に、すなわち約0.5%未満から、通常は約1%もしくは最低約1%から約15もしくは20重量%まで変動することができ、そして、選択された特定の投与様式に従って、主として液体の容量、粘度などに基づいて選択することができる。米国特許第5,851,525号明細書を参照されたい。所望の場合は、例えばMN結合について異なるKをもつ1以上の型のヒト抗体を製薬学的組成物中に包含することができる。
【0031】
該組成物は単独でまたは他の作用物質、薬物もしくはホルモンとともに患者に投与することができる。有効成分に加え、これらの製薬学的組成物は、製薬学的に使用することができる製剤へと有効成分を加工するのを助長する、賦形剤および補助物質を含む適する製薬学的に許容できる担体を含有することができる。本発明の製薬学的組成物は、限定されるものでないが経口、静脈内、筋肉内、動脈内、髄内、くも膜下、脳室内、経皮、皮下、
腹腔内、鼻内、非経口、局所、舌下もしくは直腸の手段を挙げることができるいずれかの数の経路により投与することができる。
【0032】
製薬学的組成物を製造した後に、それらは適切な容器中に入れかつ指定された状態の処置のためラベルを付けることができる。こうしたラベル付けは量、頻度および投与方法を包含することができる。
[診断方法]
本発明はまた、限定されるものでないが血清、肺、肝、心、乳房、腎、結腸、細胞培養系もしくは細胞を含まない系(例えば組織ホモジェネート)のサンプルを挙げることができる試験調製物中でヒトMNを検出することができる診断方法も提供する。こうした診断方法は、例えばMNが上昇している障害を診断するのに使用することができる。こうした障害は、限定されるものでないが腎、食道、乳房、子宮頸部、結腸および肺の癌を挙げることができる。診断に使用される場合、正常サンプル中の抗体−MN複合体の量より大きい患者からの試験サンプル中の該複合体の量の検出は、該障害を有する見込みがあると該患者を同定する。癌組織中のMNの免疫組織化学的検出方法は実施例12に記述する。
【0033】
試験調製物を本発明のヒト抗体と接触させ、そして該試験調製物をその後抗体−MN複合体の存在についてアッセイする。所望の場合は、ヒト抗体は蛍光、放射性同位元素、化学発光、またはワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼもしくはルシフェラーゼのような酵素標識のような検出可能な標識を含むことができる。MNを発現する腫瘍細胞の検出のための蛍光に基づくアッセイを実施例11に示す。
【0034】
場合によっては、抗体はアッセイの自動化を適応させることができる固体支持体に結合することができる。適する固体支持体は、限定されるものでないがガラスもしくはプラスチック製スライドガラス、組織培養プレート、マイクロタイターウェル、チューブ、シリコンチップまたはビーズ(限定されるものでないがラテックス、ポリスチレンもしくはガラスビーズを挙げることができる)のような粒子を挙げることができる。共有および非共有結合、受動的吸収、もしくは抗体および固体支持体に結合された結合部分の対の使用を包含する当該技術分野で既知のいずれかの方法を使用して抗体を固体支持体に結合することができる。MNおよび抗体の結合は反応体を含有するのに適するいかなる容器中でも達成することができる。こうした容器の例はマイクロタイタープレート、試験管および微小遠心管を包含する。
【0035】
[治療法]
本発明はまた、MNが上昇されている障害の症状の軽減方法も提供する。これらの障害は、限定されるものでないが腎、食道、乳房、子宮頸部、結腸および肺の癌を挙げることができる。例えば(Liao,S.Y.、Cancer Res(1997)57、2827−2831)、(Turner,J.R.Hum Pathol、(1997)28、740−744)、(Liao,S.Y.ら、Am J Pathol(1994)、145、598−609)、(Saamio,J.ら、Am J Pathol(1998)153、279−285)および(Vermylen,P.ら、Eur Respir J(1999)、14、806−811)を参照されたい。
【0036】
本発明の一態様において、治療上有効な用量の本発明のヒト抗体を、上述された癌のようなMNが上昇されている障害を有する患者に投与する。
【0037】
[治療上有効な用量の決定]
治療上有効な用量の決定は当業者の能力内に十分ある。治療上有効な用量は、治療上有効な用量の非存在下で明らかである効力と比較して癌を効果的に治療するのに使用されるヒト抗体の量を指す。
【0038】
治療上有効な用量は最初に動物モデル、通常はラット、マウス、ウサギ、イヌもしくはブタで推定することができる。動物モデルはまた、適切な濃度範囲および投与経路を決定するのにも使用することができる。こうした情報をその後、ヒトにおける投与に有用な用量および経路を決定するのに使用することができる。皮下マウス異種移植モデルを実施例9に記述する。
【0039】
ヒト抗体の治療的有効性および毒性、例えばED50(集団の50%で治療上有効な用量)およびLD50(集団の50%に対し致死的な用量)は細胞培養物もしくは実験動物において標準的薬学的手順により決定することができる。治療効果に対する毒性効果の用量比が治療指数であり、そしてそれは比LD50/ED50として表すことができる。
【0040】
大きな治療指数を表す製薬学的組成物が好ましい。動物試験から得られるデータを使用してヒトの使用のための投薬量範囲を案出する。こうした組成物中に含有される投薬量は、好ましくはほとんどもしくは全く毒性を伴わないED50を包含する循環濃度範囲内である。該投薬量は、使用される投薬形態、患者の感受性および投与経路に依存してこの範囲内で変動する。
【0041】
正確な投薬量は処置を必要とする患者に関する因子を鑑み実地医家により決定することができる。投薬量および投与は十分なレベルのヒト抗体を提供するかもしくは所望の効果を維持するように調節する。考慮に入れられる可能性のある因子は、疾患状態の重症度、被験体の全身健康状態、被験体の齢、重量および性、食餌、投与の時間および頻度、薬物の組合せ剤(1種もしくは複数)、反応の感受性ならびに治療に対する忍容性/応答を包含する。長時間作用型の製薬学的組成物は、特定の製剤の半減期および消失速度に依存して3ないし4日ごと、毎週もしくは2週間ごとに1回投与することができる。
【0042】
本発明のヒト抗体をコードするポリヌクレオチドを構築し、そして限定されるものでないがトランスフェリン−ポリカチオン媒介性のDNA移入、裸のもしくは被包化された核酸でのトランスフェクション、リポソーム媒介性の細胞融合、DNA被覆されたラテックスビーズの細胞内輸送、プロトプラスト融合、ウイルス感染、電気穿孔法、「遺伝子銃」およびDEAEもしくはリン酸カルシウム媒介性のトランスフェクションを挙げることができる十分に確立した技術を使用して、ex vivoもしくはin vivoのいずれかで細胞中に導入することができる。
【0043】
抗体の有効なin vivo投薬量は、約5μgないし約50μg/kg、約50μgないし約5mg/kg、約100μgないし約500μg/kg患者体重、および約200ないし約250μg/kg患者体重の範囲にある。抗体をコードするポリヌクレオチドの投与について、有効なin vivo投薬量は約100ngないし約200ng、500ngないし約50mg、約1μgないし約2mg、約5μgないし約500μg、および約20μgないし約100μgのDNAの範囲にある。
【0044】
本発明のヒト抗体を含有する製薬学的組成物の投与様式は、宿主に抗体を送達するいずれの適する経路であることもできる。本発明の製薬学的組成物は非経口投与、すなわち皮下、筋肉内、静脈内もしくは鼻内投与にとりわけ有用である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】PC3mm2ヒト前立腺癌細胞はFACSによりアッセイされるとおりMNを発現する。
【図2】配列番号1から配列番号33までの配列
【図3】配列番号34から配列番号60までの配列
【図4】配列番号61から配列番号89までの配列
【図5】FabディスプレイベクターpMORPH18 Fab 1
【図6】pMORPHx9_Fab1_FSのベクター地図
【図7】抗MN抗体MN−3での細胞接着の遮断の画像
【図8】MN抗体1から39の1から22についての抗体結合対。ビアコア(BIAcore)結合親和性を表示する。
【図9】MN抗体1から39の23から39についての抗体結合対。ビアコア(BIAcore)結合親和性を表示する。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本開示で引用される全部の特許および特許出願は引用することにより本明細書に明らかに組込まれる。上の開示は本発明を一般的に記述する。より完全な理解は以下の特定の実施例への言及により得ることができ、それは具体的説明のみの目的にて提供されかつ本発明の範囲を制限することを意図していない。
【実施例1】
【0047】
ヒトコンビナトリアル抗体ライブラリー(HuCAL−Fab 1)の構築
HuCAL−Fab 1のクローニング。HuCAL−Fab 1はFab抗体フラグメント形式の完全に合成のモジュール型ヒト抗体ライブラリーである。HuCAL−Fab 1は抗体ライブラリーから出発して一本鎖形式(HuCAL−scFv;Knappikら、J.Mol.Biol.296(2000)55)で集成した。HuCAL−Fab 1をファージミド発現ベクターpMORPH18 Fab1にクローン化した(図3)。このベクターは、線状ファージの短縮された遺伝子IIIタンパク質にC末端で融合されたphoAシグナル配列を伴うFdフラグメントを含んでなり、かつ、ompAシグナル配列を伴うL鎖VL−CLをさらに含んでなる。双方の鎖はlacオペロンの制御下にある。定常ドメインCλ、CκおよびCHはHuCALのモジュラー系と完全に適合性の合成遺伝子である(Knappikら、2000)。
【0048】
最初に、VλおよびVκライブラリーを、それぞれEcoRV/DraIIIおよびEcoRV/BsiWIを使用する制限消化によりHuCAL−scFvから単離した。これらのVλおよびVκライブラリーを、それぞれEcoRV/DraIIIおよびEcoRV/BsiWIで切断したpMORPH18 Fab1にクローン化した。大腸菌(E.coli)TG−1中への連結および形質転換後に、それぞれ4.14×10および1.6×10のライブラリーの大きさを得、双方の場合にHuCAL−scFvのVLの多様性を超えた。
【0049】
同様にVHライブラリーをStyI/MunIを使用する制限消化によりHuCAL−scFvから単離した。VHライブラリーを、StyI/MunIで切断したpMORPH18−VλおよびVκライブラリーにクローン化した。大腸菌(E.coli)TG−1中への連結および形質転換後に、(207クローンの配列決定により同定されるところの)67%の正しいクローンを伴う2.09×1010のライブラリー全体の大きさを得た。
【0050】
ファージミドレスキュー、ファージ増幅および精製。HuCAL−Fabは34μg/mlクロラムフェニコールおよび1%ブドウ糖を含有する2×TY培地(2×TY−CG)中で増幅した。37℃で約0.5のOD600でのヘルパーファージ感染(VCSM13)、遠心分離および2×TY/34μg/mlクロラムフェニコール/50μg/mlカナマイシン中での再懸濁後に細胞を30℃で一夜成長させた。ファージを上清からPEG沈殿させ(Ausubelら、1998)、PBS/20%グリセロールに再懸濁しそして−80℃で保存した。2回のパニングの間のファージ増幅は以下のとお
り実施した。すなわち、対数中期のTG1細胞を溶出されたファージに感染させ、そして1%のブドウ糖および34μg/mlのクロラムフェニコールを補充されたLB寒天上でプレーティングした。30℃での一夜インキュベーション後にコロニーを掻き取りかつ0.5のOD600に調節した。ヘルパーファージを上述されたとおり添加した。
【実施例2】
【0051】
固相パニング
マキシソープ[Maxisorp]TMマイクロタイタープレート(ヌンク(Nunc))のウェルをPBS中ヒトMNタンパク質で被覆した(2μg/ウェル)。PBS中5%脱脂粉乳でブロッキングした後に、上のとおり精製した1〜5×1012HuCAL−Fabファージを20℃で1時間添加した。数回の洗浄段階後に、結合されたファージを100mMトリエチルアミンでのpH溶出により溶出し、そしてその後1Mトリス−Cl pH7.0でした。3回のパニングを実施し、各回の間に上述されたとおりにファージ増幅を実施した。
【実施例3】
【0052】
発現のための選択したFabフラグメントのサブクローニング
選択したHuCAL FabフラグメントのFabをコードする挿入物を発現ベクターpMORPHx7_FSにサブクローニングして、可溶性Fabの迅速な発現を助長した。選択したHuCAL FabクローンのDNA調製物をXbaI/EcoRIで消化してかようにFabをコードする挿入物(ompA−VLおよびphoA−Fd)を切り離した。XbaI/EcoRIで切断したpMORPHx7ベクター(以前はscFv挿入物を担持)中への精製した挿入物のサブクローニングは、pMORPHx9_Fab1_FSと呼称されるFab発現ベクターを導く(図4)。このベクター中で発現されるFabは検出および精製のための2種のC末端標識(FLAGおよびStrep)を担持する。
【実施例4】
【0053】
ELISAによるMNに結合するFabフラグメントの同定
マキシソープ(Maxisorp)ELISAプレートのウェルを、被覆緩衝液で希釈された5μg/mlの濃度のヒトMNの100μl/ウェルの溶液で被覆した。個々のFabの発現を30℃で12時間の0.5mM IPTGで誘導した。可溶性Fabを浸透圧ショックにより周辺質から抽出し(Ausubelら、1998)そしてELISAで使用した。Fabフラグメントを抗Fab抗体(ダイアノバ(Dianova))で検出した。370nmの値を、ワサビペルオキシダーゼ結合抗マウスIgG抗体およびPOD可溶性基質(ロシュ ダイアグノスティックス(Roche Diagnostics))の添加後に読み取った。
【実施例5】
【0054】
HuCAL免疫グロブリン発現ベクターの構築
H鎖のクローニング。pcDNA3.1+(インヴィトロジェン(Invitrogen))のマルチクローニング部位を除去し(NheI/ApaI)、そして、HuCALの設計に使用した制限部位と適合性のスタッファーをリーダー配列(NheI/EcoRI)、VHドメイン(EcoRI/BlpI)および免疫グロブリン定常領域(BlpI/ApaI)の連結のため挿入した。リーダー配列(EMBL M83133)はコザック配列(Kozak、1987)を装備された。ヒトIgG1(PIR J00228)、IgG4(EMBL K01316)および血清IgA1(EMBL J00220)の定常領域を、約70塩基の長さをもつ重複するオリゴヌクレオチドへと切断した。サイレント突然変異を導入してHuCALの設計と非適合性の制限部位を除去した。オリゴヌクレオチドは重複伸長PCRにより継ぎ合わせた。
【0055】
L鎖のクローニング。pcDNA3.1/Zeo+(インヴィトロジェン(Invitrogen))のマルチクローニング部位を2種の異なるスタッファーにより置き換えた。κ−スタッファーはκ−リーダー(NheI/EcoRV)、HuCAL−scFv Vκ−ドメイン(EcoRV/BsiWI、)およびκ鎖定常領域(BsiWI/ApaI)の挿入のための制限部位を提供した。λ−スタッファー中の対応する制限部位は、NheI/EcoRV(l−リーダー)、EcoRV/HpaI(Vl−ドメイン)およびHpaI/ApaI(λ鎖定常領域)であった。κ−リーダー(EMBL Z00022)ならびにλ−リーダー(EMBL L27692)は双方ともコザック配列を装備された。ヒトκ(EMBL J00241)およびλ鎖(EMBL M18645)の定常領域は上述されたとおり重複伸長PCRにより集成した。
【0056】
IgGを発現するCHO細胞の生成。CHO−K1細胞をIgGのHおよびL鎖発現ベクターの等モル混合物でコトランスフェクトした。二重耐性トランスフェクション体を600μg/ml G418および300μg/mlゼオシン(インヴィトロジェン(Invitrogen))次いで限界希釈で選択した。単一クローンの上清を捕捉ELISA(下を参照されたい)によりIgG発現について評価した。陽性クローンを、10%超低IgG−FCS(ライフ テクノロジーズ(Life Technologies))補充RPMI−1640培地中で増殖させた。上清のpHを8.0に調節しかつ滅菌濾過後に、溶液を標準的プロテインAカラムクロマトグラフィー(ポロス(Poros)20A、PE バイオシステムズ(PE Biosystems))にかけた。
【実施例6】
【0057】
CDR3ライブラリーの設計
Vλの位置1および2。元のHuCALマスター遺伝子はそれらの真正のN末端、すなわちVLλ1:QS(CAGAGC)(配列番号121)、VLλ2:QS(CAGAGC)(配列番号121)およびVLλ3:SY(AGCTAT)(配列番号122)を伴い構築した。これらのアミノ酸を含有する配列は第WO 97/08320号明細書に示される。HuCALライブラリー構築の間に最初の2アミノ酸をDIに変えてライブラリーのクローニングを助長した(EcoRI部位)。全部のHuCALライブラリーは5’端にEcoRV部位GATATC(配列番号122)(DI)をもつVLλ遺伝子を含有する。全部のHuCAL κ遺伝子(マスター遺伝子およびライブラリー中の全遺伝子)は5’端にDIを含有する。
【0058】
VHの位置1。元のHuCALマスター遺伝子はそれらの真正のN末端、すなわち第一のアミノ酸としてQ(=CAG)を伴うVH1A、VH1B、VH2、VH4およびVH6、ならびに第一のアミノ酸としてE(=GAA)を伴うVH3およびVH5を伴い構築した。これらのアミノ酸を含有する配列は第WO 97/08320号明細書に示される。HuCAL Fab 1ライブラリー中で、全部のVH鎖は第一の位置にQ(=CAG)を含有する。
【0059】
Vκ1/Vκ3の位置85。CDR3ライブラリーを導入するのに使用したカセット突然変異誘発手順(Knappikら、J.Mol.Biol.296、57−86、2000)のため、Vκ1およびVκ3の位置85はTもしくはVのいずれかである可能性がある。従って、HuCAL scFv 1ライブラリー構築の間に、Vκ1およびVκ3の位置85を以下のとおり変えた。すなわち、元のVκ1、85T(コドンACC);Vκ1ライブラリー、85Tもしくは85V(TRIMコドンACTもしくはGTT);元のVκ3、85V(コドンGTG);Vκ3ライブラリー、85Tもしくは85V(TRIMコドンACTもしくはGTT);同じことがHuCal Fab1に当てはまる。
【0060】
CDR3の設計。一定を保った全CDR3残基を表1および2(配列番号90−117)に示す。
【0061】
CDR3の長さ。設計されたCDR3の長さ分布は以下のとおりである。変えられた残基は図2に示されるところの配列表中に示す。Vκ CDR3、8アミノ酸残基(位置89ないし96)(ときに7残基)、Q90は固定;Vλ CDR3、8ないし10アミノ酸残基(位置89ないし96)(ときに7−10残基)、Q89、S90および92は固定;ならびにVH CDR3、5ないし28アミノ酸残基(位置95ないし102)(ときに4−28)、D101は固定。
【実施例7】
【0062】
エピトープマッピングのための競合ELISA
ヌンク(Nunc)マキシソープ(Maxisorp)マイクロタイタープレートを、5μg/mLの濃度のPBS中MNもしくはMN−ペプチド結合BSA100μLで4℃で一夜被覆した。各ウェルはPBS中5%脱脂乳でマイクロタイタープレート振とう機上RTで2時間ブロッキングする。プレートを0.05%トゥイーン(Tween)−20を含むPBSで洗浄する。ウェルあたり200μLの抗体または抗体+プロテオグリカンペプチドA、BもしくはC(配列番号20−22)をウェルに添加する。抗体およびプロテオグリカンペプチド濃度は50%終点の決定において最大の容易さを生じるよう至適化した。これらの抗体/ペプチド混合物をマイクロタイタープレート振とう機上RTで1.5時間インキュベートした。ELISAプレートは0.05%トゥイーン(Tween)−20を含有するTBSで迅速に5回洗浄する。結合された抗体を、ペルオキシダーゼ結合ヤギ抗Fab IgG(シグマ(Sigma))を使用して試験した。TBS−トゥイーン(Tween)でさらに洗浄した後に100μLのBM Blue POD基質(ロシュ(Roche))を添加する。30分のインキュベーション後に吸光度を370nmで読み取る。
【実施例8】
【0063】
細胞接着アッセイ
50mM重炭酸緩衝液pH9.2中の1μg/mLの精製されたMNを30μLの滴で細菌学的5cmペトリ皿の底に1.5時間吸着させた。滴を除去しかつPBSで3回すすいだ。その後、滴をDMEM中50%ウシ胎児血清でブロッキングした。滴を30mLの20〜100μg/mL抗MN IgGもしくは対照としてのPBSおよび無関係の抗体でさらに処理した。PBSで滴を洗浄した後に、斑点(spot)を30μLのCGL−1細胞懸濁物(10細胞/mL)とともにインキュベートしかつ一夜インキュベートした。MN被覆されたプレートへのCGL−1細胞の接着を遮断する抗MN抗体の能力を、滴をPBSで洗浄した後に評価した。本実験の一例を図5に示し、ここでは20μg/mlの抗MN抗体MN−3(図5A)が、対照のガンマグロブリン(図5B)および抗体処置なし(図5C)に比較して細胞接着を阻害している。
【実施例9】
【0064】
皮下異種移植癌モデル
抗MN抗体の抗腫瘍効果を、免疫不全マウスの皮下異種移植モデルを使用して評価した。HT−29細胞は10%FBSを補充されたDMEM中で接着培養物として維持した。6〜7週齢のSCIDマウスに、0.1mLの培地中の1×10細胞を右脇腹に皮下に接種した。モノクローナル抗体を500μgの用量で毎日i.p.投与した。対照マウスはPBSもしくは無関係のモノクローナル抗体で処理した。腫瘍を滑りカリパスで週2回測定した。抗腫瘍効果は、対照処置に対して抗MN抗体処置の腫瘍サイズを比較することにより評価した。
【実施例10】
【0065】
免疫複合体を用いる皮下異種移植癌モデル
抗MN抗体を、当該技術分野で既知であるプロトコル(例えばC.Liuら、Proc.Natl.Acad.Sci.(1996)、93、8618−8623)を使用して細胞傷害性の低分子に複合させた。HT−29細胞は10%FBSを補充されたDMEM中で接着培養物として維持した。6〜7週齢の雌性CB−17 SCIDマウスに、0.1mLの培地中の1×10e7腫瘍細胞を右脇腹に皮下に接種した。腫瘍サイズが65mmに達した後に、動物に0.5mgの抗体複合体を連続5日間毎日注入した。対照マウスはPBS、無関係のモノクローナル抗体もしくは遊離の複合されない薬物で処理した。腫瘍を滑りカリパスで週2回測定した。抗腫瘍効果は、対照処置に対して抗MN抗体処置の腫瘍サイズを比較することにより評価した。
【実施例11】
【0066】
蛍光標示式細胞分取アッセイ(FACSアッセイ)
細胞を診断ツールとしてMN発現についてアッセイすることができる。接着細胞系については、最初にそれらの培地を除去すること、それらを氷冷PBSで1回すすぐこと、およびそれらをPBS中1mM EDTAで細胞系に依存して5ないし10分間処理すること(フラスコを定期的に叩くことにより促進する)により、それらのフラスコから細胞をはがす。細胞を遠沈し(1500rpm、5分)かつ氷冷染色緩衝液(10%FBS、0.1%アジ化ナトリウム、PBS)で細胞を1回洗浄する。細胞を200μl中百万個の細胞で氷冷染色緩衝液に再懸濁する。一次抗体を3.2E−11ないし3.2E−8Mで添加しかつ氷上で1時間インキュベートする。結合されない抗体を氷冷染色緩衝液で洗浄する。細胞ペレットを200μlの氷冷染色緩衝液に再懸濁し、そして200μlの細胞あたり20μlのFITC結合抗ヒト二次抗体(ファーミンゲン(Pharmingen))を添加する。氷上で1時間インキュベートする。結合されない抗体を洗浄し、そして細胞を200μlの染色緩衝液中2.5μg/mlヨウ化プロピジウム(PI)(シグマ(Sigma))に再懸濁する(死細胞について排除(gate)するため)。PIを取り込む細胞を排除する(gating out)FACS分析を始める。PC3mm2ヒト前立腺癌細胞は図7に示されるところのFACSにより示されるとおりMNを発現する。赤線はヒト抗MN抗体での染色を表す一方、黒線は対照のアイソタイプを一致させたヒト抗体を表す。
【実施例12】
【0067】
腫瘍サンプルの免疫組織化学的分析
腫瘍切片をMN発現について試験することができる。MNは癌で高度に発現されかつ低発現レベルが正常組織に存在するため、MN発現を分析することは患者サンプル中の癌の診断および検出に有用である。組織切片の分析に標準的免疫組織化学的技術を使用することができる。PC−3前立腺癌を含有する組織切片をSCIDマウスに埋植した。20マイクログラム/mLの抗MN抗体を脱蝋パラフィン切片とともにインキュベートし、そしてペルオキシダーゼ結合二次抗体を使用してスライドガラスを発色させ、また、DAB色原体を使用して発色させた。強い膜関連シグナルが容易に観察され、そして前立腺癌細胞中の高いMN発現に特徴的である。
【実施例13】
【0068】
抗体依存性の細胞媒介性の細胞傷害性アッセイ(ADCCアッセイ)
抗MN IgGgの抗腫瘍活性はADCCアッセイにより媒介させることができる。MNを発現するPC−3mm2細胞およびMNを発現しないHCT−116細胞を、250ng/mL、1000ng/mLもしくは2000ng/mLのヒト抗MN IgG1もしくは対照ヒトIgG1抗ジゴキシン抗体とともにインキュベートする。ヒトPBMCをエフェクターとして:50:1、25:1および5:1の比の標的比でこれらの細胞に添
加する。クロム−51放出アッセイを実施して標的細胞の溶解のレベルを測定する。少量の溶解がHCT−116もしくはPC−3mm2細胞の存在下で対照抗体もしくは抗体なしのインキュベーションに際して観察される。この自発的レベルの溶解は50:1、25:1および5:1の標的エフェクター比についてそれぞれ10〜15%、5〜10%もしくは2〜3%である。同様に、MNを発現しないHCT−116細胞の溶解は抗MN抗体とともにインキュベートされた場合に0〜10%範囲にあった。しかしながら、ヒト抗MN IgGとともにインキュベートされた場合のPC−3mm2細胞の溶解は対照より有意により高かった。40、50および60%の溶解が、50:1の標的:エフェクター比で250ng/mL、1000ng/mLおよび2000ng/mLを使用した場合に観察された。同様に、30、33および38%の溶解が25:1の比で観察され、そして最後に8、10および15%の溶解が5:1の標的:エフェクター比で観察された。これらの実験は、ヒト抗MN抗体が抗腫瘍性ADCC活性を媒介しかつ癌の治療的処置に使用してよいことを示す。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
【表3】

【0072】
【表4】

【0073】
【表5】

【0074】
【表6】

【0075】
【表7】

【0076】
【表8】

【産業上の利用可能性】
【0077】
ヒト抗MN抗体は、FACSおよび免疫組織化学的方法を使用して癌細胞および腫瘍中のMN発現を診断および定量するのに使用されているので、本発明のヒト抗MN IgG1が抗体依存性の細胞媒介性の細胞傷害性により腫瘍細胞の溶解を媒介する一例もまた提供される。従って、本発明の抗体は、MNがアップレギュレートされている癌の処置に有用であり得、もしくは、MNがアップレギュレートされている癌の診断に有用であり得る。よって、医薬または診断薬製造業で利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト抗体であって、該ヒト抗体がMNタンパク質のプロテオグリカンドメイン内のGEEDLP反復領域に結合し、かつ、
(a)配列番号97(VH1A)、配列番号98(VH1B)、配列番号99(VH2)、配列番号100(VH3)、配列番号101(VH4)、配列番号102(VH5)および配列番号103(VH6)よりなる群から選ばれる可変重鎖領域であって、該各可変重鎖領域が重鎖CDR1、CDR2およびCDR3領域をふくむものであり、かつ、
(i)重鎖CDR1領域が配列番号48〜60よりなる群から選択されるアミノ酸配列により置換されており、そして
(ii)重鎖DR3領域が配列番号61〜80よりなる群から選択されるアミノ酸配列により置換されている、
上記可変重鎖領域、ならびに
(b)配列番号90(VLκ1)、配列番号91(VLκ2)、配列番号92(VLκ3)、配列番号93(VLκ4)、配列番号94(VLλ1)、配列番号95(VLλ2)および配列番号96(VLλ3)よりなる群から選ばれる可変軽鎖領域であって、該各可変軽鎖領域が軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3領域を含むものであり、かつ、
(i)軽鎖CDR1領域が配列番号82および83よりなる群から選択されるアミノ酸配列により置換されており、そして
(ii)軽鎖CDR3領域が配列番号84〜89よりなる群から選択されるアミノ酸配列によりちかんされている、
上記可変軽鎖領域
を含んでなることを特徴とする、上記抗体。
【請求項2】
0.6nMないし1800nMのKでヒトMNタンパク質に結合する、請求項1記載の抗体。
【請求項3】
0.6nMないし90nMのKでヒトMNタンパク質に結合する、請求項1記載の抗体。
【請求項4】
可変重鎖CDR3が配列番号64である、請求項1記載の抗体。
【請求項5】
可変軽鎖CDR3が配列番号81である、請求項1記載の抗体。
【請求項6】
可変軽鎖CDR1が配列番号82である、請求項1記載の抗体。
【請求項7】
可変重鎖CDR3領域と可変軽鎖CDR3領域が、それぞれ、配列番号61と84、配列番号62と87、配列番号63と89、配列番号64と84、配列番号65と84、配列番号66と85、および配列番号67と88よりなる群から選択されるアミノ酸配列対である、請求項1記載の抗体。
【請求項8】
可変重鎖CDR3領域と可変軽鎖CDR3領域が、それぞれ、配列番号61と86、配列番号61と85、配列番号61と87、配列番号61と88、配列番号61と89、配列番号63と86、配列番号63と85、配列番号63と87、配列番号63と88、および配列番号63と84よりなる群から選択されるアミノ酸配列対である、請求項1記載の抗体。
【請求項9】
可変重鎖CDR3領域と可変軽鎖CDR3領域が、それぞれ、配列番号71と87、配列番号61と87、配列番号72と87、配列番号73と87、配列番号74と87、配列番号75と87、配列番号76と87、配列番号77と87、配列番号78と87、配
列番号79と87、および配列番号80と87よりなる群から選択されるアミノ酸配列対である、請求項1記載の抗体。
【請求項10】
可変重鎖CDR3領域と可変軽鎖CDR3領域が、それぞれ、配列番号61と81、配列番号69と81、および配列番号70と81よりなる群から選択されるアミノ酸配列対である、請求項1記載の抗体。
【請求項11】
可変重鎖CDR3領域と可変軽鎖CDR3領域および可変重鎖CDR1領域が、それぞれ、配列番号61と86および48、配列番号61と86および49、配列番号61と86および50、配列番号61と86および51、配列番号61と86および52、配列番号61と86および53、配列番号61と86および54、配列番号61と86および55、配列番号61と86および56、ならびに配列番号61と86および57よりなる群から選択されるアミノ酸配列を含んでなる、請求項1記載の抗体。
【請求項12】
可変重鎖領域が配列番号100のアミノ酸配列である、請求項1記載の抗体。
【請求項13】
可変軽鎖領域が配列番号94もしくは95のアミノ酸配列である、請求項1記載の抗体。
【請求項14】
請求項1記載の抗体および製薬学的に許容されるキャリヤーを含んでなる製薬学的組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−260845(P2010−260845A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20670(P2010−20670)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【分割の表示】特願2003−536404(P2003−536404)の分割
【原出願日】平成14年10月18日(2002.10.18)
【出願人】(509135751)ニツポネツクス・インコーポレーテツド (3)
【Fターム(参考)】