説明

MR造影剤、造影製剤及び該造影製剤を用いた画像検査法

本発明は、過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩、その造影剤としての使用、過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩を含む造影製剤及びかかる造影製剤を用いた13C−MR検出法に関する。さらに、本発明は、過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩を製造する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩、その造影剤としての使用、過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩を含む造影製剤及びかかる造影製剤を用いた13C−MR検出法に関する。さらに、本発明は、過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴(MR)イメージング(MRI)は、X線のような潜在的に有害な放射線に患者及び医療従事者を被曝させることなく非侵襲的に患者の身体又はその一部の画像を得ることができるため、医師にとって特に魅力的なイメージング技術である。高画質の画像並びに良好な空間的及び時間的解像度が得られるので、MRIは軟組織及び器官の好適なイメージング技術である。
【0003】
MRIは、MR造影剤の使用の有無を問わず実施できる。しかし、コントラスト増強MRIでは一般にはるかに微小な組織変化を検出することができ、そのため例えば微小な腫瘍や転移のような初期組織変化を検出するための強力なツールとなる。
【0004】
何種類かの造影剤がMRIに用いられている。水溶性の常磁性金属キレート、例えばOmniscan(商標)(GE Healthcare社)のようなガドリニウムキレートは、広く用いられているMR造影剤である。これらは低分子量であるので、血管系に投与されると速やかに細胞外空間(血液及び間質)に分布する。また、比較的速やかに体外に排出される。
【0005】
上述の造影剤が優れた特性を備えていることに議論の余地はないが、それらの利用にリスクがないわけではない。常磁性金属キレートは通常は高い安定度定数を有しているが、投与後に体内で有毒な金属イオンが放出される可能性がある。さらに、この種の造影剤は特異性に乏しい。
【0006】
国際公開第99/35508号には、高T1剤の過分極溶液をMRI造影剤として用いる患者のMR検査法が開示されている。「過分極」という用語は、高T1剤に存在するNMR活性核種、つまり核スピンがゼロでない核種、好ましくは13C又は15N核種の核分極の増強を意味する。NMR活性核種の核分極を高めると、これらの核種の励起状態と基底状態の核スピンの分布差が大幅に増大して、MR信号強度が100倍以上増幅される。過分極13C及び/又は15N濃縮高T1造影剤を用いると、13C及び/又は15Nの天然存在比が無視できるほど小さいので、バックグラウンド信号による干渉がほぼなくなり、画像コントラストが高まるという利点がある。従来のMRI造影剤とこれらの過分極高T1剤の主な相違点は、前者では、体内の水のプロトンの緩和時間に影響を与えることによってコントラスト変化が生じるのに対して、後者の薬剤は、得られる信号は専ら薬剤によって生じるので非放射性トレーサーとみなすことができることである。
【0007】
国際公開第99/35508号には、非内在性及び内在性の化合物を含め、MR造影剤としての使用に適している可能性のある様々な高T1剤が開示されている。後者の例として、通常の代謝サイクルの中間体が挙げられており、代謝活性のイメージングに好ましいと記載されている。代謝活性のインビボイメージングによって、組織の代謝状態に関する情報を得ることができ、その情報を正常組織と患部組織との識別などに利用することができる。
【0008】
例えば、ピルビン酸はクエン酸回路に関与する化合物であり、過分極13C−ピルビン酸からその代謝物である過分極13C−乳酸、過分極13C−重炭酸及び過分極13C−アラニンへの変換をヒト体内における代謝過程のインビボMR研究に利用することができる。
【0009】
過分極13C−ピルビン酸からその代謝物の過分極13C−乳酸、過分極13C−重炭酸及び過分極13C−アラニンへの代謝変換は十分に速く、親化合物(過分極131−ピルビン酸)及びその代謝物からの信号を検出できるので、かかる代謝変換をヒト体内における代謝過程のインビボMR研究に利用することができる。アラニン、重炭酸塩及び乳酸塩の量は、検査中の組織の代謝状態に依存する。過分極13C−乳酸、過分極13C−重炭酸及び過分極13C−アラニンのMR信号強度は、これらの化合物の量と検出時の残存分極度とに関係するので、過分極13C−ピルビン酸から過分極13C−乳酸、過分極13C−重炭酸及び過分極13C−アラニンへの変換をモニターすれば、非侵襲的なMRイメージング及び/又はMR分光法を用いて、ヒト又はヒト以外の動物の体内の代謝過程をインビボで研究することができる。
【0010】
ピルビン酸塩の様々な代謝物からのMR信号強度は組織の種類に応じて異なる。アラニン、乳酸、重炭酸及びピルビン酸で形成される固有の代謝ピークパターンを、検査中の組織の代謝状態に関するフィンガープリントとして使用することができる。
【0011】
過分極13C−ピルビン酸塩は、例えば、国際公開第2006/054903号に詳細に記載されている通り、心筋組織のバイアビリティをMRイメージングで評価するためのMR造影剤として、また国際公開第2006/011810号に詳細に記載されている通り、腫瘍のインビボイメージング用のMR造影剤として使用し得る。
【0012】
腫瘍組織は、灌流が増大し代謝活性が高まるという特徴を示すことが多い。血管床が増加する過程、つまり血管新生は、代謝要求の増大及び/又は毛細血管からの距離が離れているため、エネルギー恒常性の維持に必要なエネルギーを供給することのできる基質を十分に確保することのできない細胞によって惹起される。代謝パターンの顕著な変化が期待されるのは、このような十分なエネルギーの生成に問題がある領域である。エネルギー恒常性の維持に問題を有する組織では、そのエネルギー代謝が変化して、特に乳酸産生量が増大する。過分極13C−ピルビン酸塩をMR造影剤として用いれば、その代謝活性の向上を13C−乳酸産生量の増大によって観察することができ、13C−MR検出法で検出することができる。しかし、インビボ造影剤として適した過分極13C−ピルビン酸塩の製造には、課題がないわけではなく、代謝活性、特に腫瘍学の分野での代謝活性に関する情報を得るのに使用できる別の過分極造影剤に対するニーズが存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第2007/069909号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
今回、我々は、かかる造影剤として過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩を使用できることを見出した。
【0015】
α−ケトイソカプロン酸はロイシンへと可逆的に代謝され、この反応は酵素の分枝鎖アミノトランスフェラーゼによって触媒され、補助基質としてグルタミン酸/α−ケトグルタル酸が必要とされる。さらに、α−ケトイソカプロン酸が分枝鎖α−ケト酸デヒドロゲナーゼによって脱炭酸されると、CO2、次いで重炭酸塩が生成する。α−ケトイソカプロン酸のこれらの代謝変換は共にミトコンドリア内で起こる。従って、過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩を造影剤として用いると、代謝活性を評価することができる。
【0016】
そこで、第一の態様では、本発明は、過分極13C−α−ケトイソカプロン酸を含む造影剤を提供する。
【0017】
「造影製剤」という用語は、過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩をMR活性剤つまり造影剤として含む液体組成物を意味する。
【0018】
本発明の方法で用いられる造影製剤は、インビボ13C−MR検出、つまりヒト又はヒト以外の動物の生体における造影製剤として使用できる。さらに、本発明の方法で用いられる造影製剤は、例えば、細胞培養物、サンプル(例えば尿、唾液、血液)、エクスビボ組織(例えば生検又は摘出器官から得られるエクスビボ組織)、その他ヒト又はヒト以外の動物の生体から得られるもののインビトロ13C−MR検出のための造影製剤としても使用できる。好ましい実施形態では、本発明の方法で用いられる造影製剤は、インビボ13C−MR検出のための造影製剤として使用できる。
【0019】
13C−MR検出」という用語は、13C−MRイメージング又は13C−MR分光法或いは13C−MRイメージングと13C−MR分光法の組合せ(即ち、13C−MR分光イメージング)を意味する。この用語はさらに、様々な時点での13C−MR分光イメージングも意味する。
【0020】
13C−α−ケトイソカプロン酸塩」という用語は、4−メチル−2−オキソペンタン酸の塩、つまり4−メチル−2−オキソペンタン酸陰イオンを含む塩であって、13Cで同位体濃縮された塩を意味する。
【0021】
過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩の同位体濃縮度は、好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上であり、90%を超える同位体濃縮度が最も好ましい。理想的には、濃縮度は100%である。一般に、本発明の過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩は、分子中の任意の炭素原子で同位体濃縮することができる。ただし、長いT1を達成するため、13C−α−ケトイソカプロン酸塩は、C1位(以下、131−α−ケトイソカプロン酸塩という)、又はC2位(以下、132−α−ケトイソカプロン酸塩という)又はC4位(以下、134−α−ケトイソカプロン酸塩という)で13C同位体濃縮するのが好ましい。C1位とC2位(以下、131,2−α−ケトイソカプロン酸塩という)、C1位とC4位(以下、131,4−α−ケトイソカプロン酸塩という)、又はC1位とC2位とC4位(以下、131,2,4−α−ケトイソカプロン酸塩という)での同位体濃縮のような複数の位置での濃縮も可能である。C1位での同位体濃縮が好ましい。
【0022】
以下、「過分極」という用語と「分極」という用語は互換的に用いられ、0.1%過剰の核分極レベル、さらに好ましくは1%過剰、最も好ましくは10%過剰の核分極レベルをいう。
【0023】
分極レベルは、例えば、固体13C−α−ケトイソカプロン酸塩(例えば、13C−α−ケトイソカプロン酸塩の動的核分極(DNP)で得られた固体過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩)の固体NMR測定によって求めることができる。固体13C−NMR測定は、好ましくは、低フリップ角を用いた単純パルス取得NMRシーケンスからなる。NMRスペクトルにおける過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号強度を、分極プロセス前に取得しておいたNMRスペクトルにおける13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号強度と比較する。次いで、分極前後の信号強度の比から分極レベルを計算する。
【0024】
同様に、溶解した過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩の分極レベルは、液体NMR測定によって求めることができる。この場合も、溶解過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号強度を、分極前の溶解13C−α−ケトイソカプロン酸塩の分極レベルと比較する。次いで、分極前後の13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号強度の比から分極レベルを計算する。
【0025】
NMR活性13C核の過分極は、例えば国際公開第98/30918号、同第99/24080号及び同第99/35508号(これらの開示内容はいずれも援用によって本明細書の内容の一部をなす)に記載されている様々な方法によって達成でき、当技術分野で公知の過分極方法には、希ガスからの分極移動、「ブルートフォース(brute force)」、スピン冷凍、パラ水素法及び動的核分極(DNP)がある。
【0026】
過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩は、13C−α−ケトイソカプロン酸塩を直接分極させるか、或いは13C−α−ケトイソカプロン酸を分極させ、次いで酸を塩基で13C−α−ケトイソカプロン酸塩に変換(中和)することによって得ることができる。塩基での中和は追加段階であるので、13C−α−ケトイソカプロン酸塩を直接分極するのが好ましい。好適な13C−α−ケトイソカプロン酸塩は市販されているし、市販の13C−α−ケトイソカプロン酸/13C−α−ケトイソカプロン酸塩から調製することもでき、後で詳しく説明する。
【0027】
過分極13C−α−ケトイソカプロン酸/13C−α−ケトイソカプロン酸塩を得るための一つの方法は、国際公開第98/30918号に記載されている過分極希ガスからの分極移動である。非ゼロ核スピンを有する希ガスは、円偏光を用いて過分極させることができる。過分極希ガス(好ましくはHe又はXe或いはかかるガスの混合物)を用いて13C核の過分極を達成することができる。過分極ガスは気相であってもよく、液体/溶媒中に溶解したものでもよく、或いは過分極ガス自体を溶媒として使用してもよい。別法として、ガスを冷却固体表面上に凝縮させ、この形態で使用してもよいし、或いは昇華させてもよい。過分極ガスと13C−α−ケトイソカプロン酸/13C−α−ケトイソカプロン酸塩とを均質に混合するのが好ましい。
【0028】
過分極13C−α−ケトイソカプロン酸/13C−α−ケトイソカプロン酸塩を得るための別の方法は、極低温及び高磁場での熱力学的平衡化によって13C核に分極を付与するものである。過分極は、NMR分光計の動作磁場及び温度に比べ、非常に高い磁場及び非常に低い温度(ブルートフォース)の使用によって達成される。使用する磁場強度はできるだけ高くすべきであり、好適には1Tより高く、好ましくは5Tより高く、さらに好ましくは15T以上であり、特に好ましくは20T以上である。温度は非常に低くすべきであり、例えば4.2K以下、好ましくは1.5K以下、さらに好ましくは1.0K以下、特に好ましくは100mK以下である。
【0029】
過分極13C−α−ケトイソカプロン酸/13C−α−ケトイソカプロン酸塩を得るための別の方法は、スピン冷凍法である。この方法は、スピン冷凍分極による固体化合物又は系のスピン分極をカバーする。かかる系には、3次以上の対称軸をもつ好適な結晶質常磁性物質(例えば、Ni2+、ランタニド又はアクチニドイオン)をドープするか或いは均質に混合する。共鳴励起磁場を全く加えないので均一な磁場は必要とされず、その計装はDNPで必要なものよりも簡単である。このプロセスは、磁場の方向に直角な軸の周りでサンプルを物理的に回転させることによって実施される。この方法の前提条件は、常磁性種が異方性の高いg因子をもつことである。サンプル回転の結果として、電子常磁性共鳴が核スピンと接触し、核スピン温度が低下する。サンプルの回転は、核スピン分極が新たな平衡に達するまで実施される。
【0030】
好ましい実施形態では、過分極13C−α−ケトイソカプロン酸/13C−α−ケトイソカプロン酸塩を得るのにDNP(動的核分極)が用いられる。DNPでは、分極すべき化合物のMR活性核種の分極は、不対電子を含む化合物である分極剤又はいわゆるDNP剤によって達成される。DNPプロセスでは、エネルギーは通常はマイクロ波放射の形態で供給され、まずDNP剤が励起される。基底状態へと崩壊する際に、DNP剤の不対電子から分極すべき化合物のNMR活性核種(例えば、13C−α−ケトイソカプロン酸/13C−α−ケトイソカプロン酸塩の13C核)への分極の移動が起こる。一般に、DNPプロセスでは中程度又は高い磁場と極低温が用いられ、例えばDNPプロセスは液体ヘリウム中約1T以上の磁場で実施される。別法として、中程度の磁場及び十分な分極増強が達成される任意の温度を使用することもできる。DNP技術は、例えば国際公開第98/58272号及び同第01/96895号にさらに記載されており、それらの開示内容はいずれも援用によって本明細書の内容の一部をなす。
【0031】
DNP法で化学物質(つまり化合物)を分極させるには、分極すべき化合物とDNP剤を含む組成物を調製し、次いでこれを適宜凍結して分極用のDNP分極装置内に挿入する(前もって凍結していない組成物は装置内で凍結する)。分極後、凍結した固体過分極組成物は、融解又は好適な溶解媒質中への溶解によって速やかに液体状態へと移行させる。溶解が好ましく、凍結過分極組成物の溶解プロセス及びそのための好適な装置は国際公開第02/37132号に記載されている。融解プロセス及び融解用の好適な装置は、例えば国際公開第02/36005号に記載されている。
【0032】
分極させるべき化合物で高い分極レベルを得るには、DNPプロセスの際に上記化合物とDNP剤とが緊密に接触している必要がある。これは、組成物が凍結又は冷却時に組成物が結晶化する場合には当てはまらない。結晶化を避けるには、組成物中にガラス形成剤を存在させるか、或いは凍結時に結晶化せずにガラスを形成する化合物を分極用として選択する必要がある。
【0033】
一実施形態では、13C−α−ケトイソカプロン酸、好ましくは131−α−ケトイソカプロン酸を出発物質として用いてDNP法によって過分極13C−α−ケトイソカプロン酸を得て、これを次いで塩基で中和して過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩へと変換する。別の実施形態では、DNP法によって過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩を得るための出発物質として、13C−α−ケトイソカプロン酸塩、好ましくは131−α−ケトイソカプロン酸塩を用いる。
【0034】
第1の実施形態では、DNP法によって過分極13C−α−ケトイソカプロン酸を得て、これを次いで塩基で中和して過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩へと変換するための出発物質として、13C−α−ケトイソカプロン酸、好ましくは131−α−ケトイソカプロン酸を用いる。13C−α−ケトイソカプロン酸は市販されている化合物である。別法として、13C−α−ケトイソカプロン酸は、市販の13C−α−ケトイソカプロン酸ナトリウムから酸で変換することによって調製してもよく、そのプロセスは当技術分野で周知であり、本願の実施例で例示する。
【0035】
第2の実施形態では、DNP法によって過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩を得るための出発物質として13C−α−ケトイソカプロン酸塩、好ましくは131−α−ケトイソカプロン酸塩を用いる。好適な13C−α−ケトイソカプロン酸塩は、13C−α−ケトイソカプロン酸ナトリウム又はNH4+、K+、Rb+、Cs+、Ca2+、Sr2+及びBa2+からなる群から選択される無機陽イオン、好ましくはNH4+、K+、Rb+又はCs+、さらに好ましくはK+、Rb+、Cs+、最も好ましくはCs+を含む13C−α−ケトイソカプロン酸塩であり、国際公開第2007/111515号に記載されている(その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす)。別の実施形態では、有機アミン又はアミノ化合物の13C−α−ケトイソカプロン酸塩、さらに好ましくはTRIS−13C−α−ケトイソカプロン酸塩又はメグルミン−13C−α−ケトイソカプロン酸塩を出発物質として用いる。これらの塩は、国際公開第2007/069909号に記載されており、その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。
【0036】
「TRIS」という用語は2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオールを意味し、「TRIS−13C−α−ケトイソカプロン酸塩」という用語は、13C−α−ケトイソカプロン酸陰イオンとTRIS陽イオンつまりTRISアンモニウム(2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオイルアンモニウム)を含む塩を意味する。
【0037】
DNP法で13C−α−ケトイソカプロン酸/13C−α−ケトイソカプロン酸塩を過分極するには、13C−α−ケトイソカプロン酸塩又は13C−α−ケトイソカプロン酸とDNP剤とを含む組成物を調製する。
【0038】
DNP剤は、その選択が13C−α−ケトイソカプロン酸/13C−α−ケトイソカプロン酸塩で達成できる分極レベルに多大な影響を与えるので、DNPプロセスで決定的な役割を果たす。様々なDNP剤(国際公開第99/35508号では「OMRI造影剤」と呼ばれている)が知られている。国際公開第99/35508号、同第88/10419号、同第90/00904号、同第91/12024号、同第93/02711号又は同第96/39367号に記載されているような酸素系、硫黄系又は炭素系の安定なトリチルラジカルを使用すると、多種多様なサンプルで高い分極レベルが得られた。
【0039】
好ましい実施形態では、本発明の方法で使用する過分極13C−α−ケトイソカプロン酸/13C−α−ケトイソカプロン酸塩はDNPによって得られ、使用するDNP剤はトリチルラジカルである。上記で簡単に触れた通り、DNP剤(トリチルラジカル)の大きな電子スピン分極は電子のラーモア周波数に近いマイクロ波照射によって13C−α−ケトイソカプロン酸又は13C−α−ケトイソカプロン酸塩の13C核の核スピン分極に変換される。マイクロ波は、e−e及びe−n遷移による電子スピン系と核スピン系との連絡を刺激する。効果的なDNP、つまり13C−α−ケトイソカプロン酸/13C−α−ケトイソカプロン酸塩で高い分極レベルを達成するには、トリチルラジカルはこれらの化合物又はその溶液中で安定かつ可溶であって、13C−α−ケトイソカプロン酸/13C−α−ケトイソカプロン酸塩とトリチルラジカルとの緊密な接触を達成するものでなければならない。かかる緊密な接触は、上述した電子スピン系と核スピン系との連絡に必要とされる。
【0040】
好ましい実施形態では、トリチルラジカルは次の式(1)のラジカルである。
【0041】
【化1】

式中、
Mは水素又は1当量の陽イオンを表し、
R1は同一又は異なるものであって、1以上のヒドロキシル基で任意に置換された直鎖又は枝分れC1〜C6アルキル基或いは−(CH2n−X−R2基(式中、nは1、2又は3であり、XはO又はSであり、R2は1以上のヒドロキシル基で任意に置換された直鎖又は枝分れC1〜C4アルキル基である。)を表す。
【0042】
好ましい実施形態では、Mは水素又は1当量の生理学的に許容される陽イオンを表す。「生理学的に許容される陽イオン」という用語は、ヒト又はヒト以外の動物の生体によって許容される陽イオンを意味する。好ましくは、Mは水素又はアルカリ陽イオン、アンモニウムイオン又は有機アミンイオン(例えばメグルミン)を表す。最も好ましくは、Mは水素又はナトリウムを表す。
【0043】
DNP法で過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩を得るための出発物質として13C−α−ケトイソカプロン酸塩を用いる場合には、R1は好ましくは同一であり、さらに好ましくは直鎖又は枝分れC1〜C4アルキル基、最も好ましくはメチル、エチル又はイソプロピルである。或いは、R1は好ましくは同一であり、さらに好ましくは1以上のヒドロキシル基で置換された直鎖又は枝分れC1〜C4アルキル基、最も好ましくは−CH2−CH2−OHである。或いは、R1は好ましくは同一であり、−CH2−OC24OHを表す。
【0044】
DNP法で過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩を得るための出発物質として13C−α−ケトイソカプロン酸を用いる場合には、R1は同一又は異なるもの、好ましくは同一であり、好ましくは−CH2−OCH3、−CH2−OC25、−CH2−CH2−OCH3、−CH2−SCH3、−CH2−SC25又は−CH2−CH2−SCH3、最も好ましくは−CH2−CH2−OCH3を表す。
【0045】
上記の式(1)のトリチルラジカルは、国際公開第88/10419号、同第90/00904号、同第91/12024号、同第93/02711号、同第96/39367号、同第97/09633号、同第98/39277号及び同第2006/011811号に記載の通り合成できる。
【0046】
一般に、DNPプロセスのため、出発物質の13C−α−ケトイソカプロン酸又は13C−α−ケトイソカプロン酸塩(以下「サンプル」という)とDNP剤(好ましくはトリチルラジカル、さらに好ましくは式(1)のトリチルラジカル)との溶液が調製しる。DNP剤とサンプルの溶解を促進するため溶媒又は溶媒混合物を使用する必要がある。過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩をインビボ13C−MR検出用の造影剤として使用しようとする場合、溶媒の量を最小限に抑えるのが好ましい。インビボ造影剤として使用する場合、過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩は通常比較的高い濃度で投与される。換言すれば、DNPプロセスで好ましくは高濃縮サンプルを使用して、溶媒量を最小限に抑えるのが好ましい。これに関連して、サンプルを含む組成物(DNP剤とサンプルと適宜溶媒)の質量をできるだけ小さく保つことも重要である。例えば13C−MR検出用の造影剤として使用するため、DNPプロセス後に過分極13C−α−ケトイソカプロン酸/13C−α−ケトイソカプロン酸塩を含む固体組成物を溶解によって液体状態に変える場合、質量が大きいと溶解プロセスの効率に悪影響を与える。これは、溶解プロセスで溶解媒質の体積が一定である場合、組成物の質量が増加すると組成物と溶解媒質との質量比が減少するためである。さらに、ある種の溶媒を使用すると、それらが生理学的に許容されないことがあり、本発明の造影製剤に用いられる過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩をヒト又はヒト以外の動物に投与する前に溶媒の除去が必要とされることがある。
【0047】
DNPによって過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩を得るための出発物質として13C−α−ケトイソカプロン酸を使用する場合、室温で液体である13C−α−ケトイソカプロン酸中にDNP剤(好ましくはトリチルラジカル、さらに好ましくは式(1)のトリチルラジカル)を溶解した溶液を調製する。適宜、グリセロール又はグリコールのようなガラス形成剤を添加してもよい。化合物の均質な混合は、当技術分野で公知の幾つかの手段(例えば、撹拌、ボルテックス(渦流混合)又は音波処理及び/又は温和な加熱)によって促進できる。
【0048】
13C−α−ケトイソカプロン酸塩、例えばTRIS−13C−α−ケトイソカプロン酸塩等を出発物質として用いる場合、これを適当な溶媒(好ましくは水)又は溶媒混合物に溶解し、この溶液にDNP剤を添加すればよい。別の実施形態では、適当な溶媒又は溶媒混合物にDNP剤を溶解してから、その溶液に13C−α−ケトイソカプロン酸塩を添加する。例えば13C−α−ケトイソカプロン酸ナトリウムの場合、グリセリン又はグリコールのようなガラス形成剤を適宜添加してもよい。この場合にも、化合物の均質な混合は、当技術分野で公知の幾つかの手段(例えば、撹拌、ボルテックス又は音波処理及び/又は温和な加熱)によって促進できる。
【0049】
例えば13C−α−ケトイソカプロン酸ナトリウムのように凍結すると結晶化する13C−α−ケトイソカプロン酸塩を出発物質として用いる場合、溶媒又は溶媒混合物にガラス形成剤を添加するのが好ましい。13C−α−ケトイソカプロン酸塩の好適な溶媒は水であり、好適なガラス形成剤は例えばグリコール又はグリセリンである。そこで、一実施形態では、溶媒又は溶媒混合物に13C−α−ケトイソカプロン酸塩を溶解し、この溶液にDNP剤及びガラス形成剤を添加する。別の実施形態では、溶媒又は溶媒混合物にDNP剤を溶解し、この溶液に13C−α−ケトイソカプロン酸塩及びガラス形成剤を添加する。さらに別の実施例では、DNP剤をガラス形成剤に溶解し、この溶液に13C−α−ケトイソカプロン酸塩及び溶媒又は溶媒混合物を添加する。
【0050】
13C−α−ケトイソカプロン酸又は13C−α−ケトイソカプロン酸塩とDNP剤とを含むDNP分極させるべき組成物はさらに常磁性金属イオンを含んでいてもよい。国際公開第2007/064226号(その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす)に記載されているように、常磁性金属イオンが存在すると、DNPで分極させる化合物の分極レベルが増大することが判明している。
【0051】
「常磁性金属イオン」という用語は、塩又はキレート(つまり常磁性キレート)の形態の常磁性金属イオンを意味する。後者はキレーターと常磁性金属イオンを含む化学物質であって、常磁性金属イオンとキレーターは錯体つまり常磁性キレートを形成している。
【0052】
好ましい実施形態では、常磁性金属イオンはGd3+を含む塩又は常磁性キレート、好ましくはGd3+を含む常磁性キレートである。さらに好ましい実施形態では、常磁性金属イオンは分極させるべき組成物に可溶かつ安定である。
【0053】
上述のDNP剤の場合と同じく、分極すべき13C−α−ケトイソカプロン酸/13C−α−ケトイソカプロン酸塩も常磁性金属イオンと緊密に接触していなければならない。13C−α−ケトイソカプロン酸又は13C−α−ケトイソカプロン酸塩とDNP剤と常磁性金属イオンとを含むDNP用の組成物は、幾つかの方法で得ることができる。
【0054】
13C−α−ケトイソカプロン酸を出発物質として用いる場合、13C−α−ケトイソカプロン酸塩にDNP剤を固体又は溶液として添加するのが好ましい。DNP剤として式(1)のトリチルラジカルを用いる場合、好ましくは固体として添加する。次の段階では、常磁性金属イオンを添加する。常磁性金属イオンは固体又は溶液として添加し得る。或いは、DNP剤と常磁性金属イオンの溶液を調製し、この溶液に13C−α−ケトイソカプロン酸を添加してもよいし、この溶液を13C−α−ケトイソカプロン酸塩に添加してもよい。この場合にも、化合物の均質な混合は、当技術分野で公知の幾つかの手段(例えば、撹拌、ボルテックス又は音波処理及び/又は温和な加熱)によって促進できる。
【0055】
TRIS−13C−α−ケトイソカプロン酸塩のような13C−α−ケトイソカプロン酸塩を出発物質として用いる場合、これを適当な溶媒又は溶媒混合物に溶解して、この溶液にDNP剤を添加してもよい。DNP剤(好ましくはトリチルラジカル)は固体又は溶液として添加し得る。次の段階では、常磁性金属イオンを添加する。常磁性金属イオンも、固体又は溶液として添加し得る。別の実施形態では、DNP剤と常磁性金属イオンを適当な溶媒混合物又は溶媒に溶解し、この溶液に13C−α−ケトイソカプロン酸塩を添加する。さらに別の実施例では、DNP剤(又は常磁性金属イオン)を適当な溶媒に溶解し、固体又は溶解13C−α−ケトイソカプロン酸塩に添加する。次の段階では、この溶液に、常磁性金属イオン(又はDNP剤)を固体又は溶液として添加する。好ましくは、すべての化合物を溶解するための溶媒量を最小限に保つ。上述の通り、例えば13C−α−ケトイソカプロン酸ナトリウムのように凍結すると結晶化する13C−α−ケトイソカプロン酸塩を出発物質として使用する場合、ガラス形成剤を溶媒又は溶媒混合物に添加するのが好ましい。この場合にも、化合物の均質な混合は、当技術分野で公知の幾つかの手段(例えば、撹拌、ボルテックス又は音波処理及び/又は温和な加熱)によって促進できる。
【0056】
トリチルラジカルをDNP剤として使用する場合、かかるトリチルラジカルの好適な濃度は、DNPに用いられる組成物中で1〜25mM、好ましくは2〜20mM、さらに好ましくは10〜15mMである。常磁性金属イオンを組成物に添加する場合、かかる常磁性金属イオンの好適な濃度は組成物中で0.1〜6mM(金属イオン)であり、0.3〜4mMの濃度が好ましい。
【0057】
13C−α−ケトイソカプロン酸又は13C−α−ケトイソカプロン酸塩とDNP剤と任意には常磁性金属イオンを含む組成物を調製した後、組成物を当技術分野で公知の方法で凍結させる。例えば、フリーザー内又は液体窒素中で凍結するか、或いは単にDNP分極装置内に配置するだけでも液体ヘリウムで凍結する。好ましい実施形態では、組成物を分極装置内に挿入する前に「ビーズ」として凍結させる。かかるビーズは、組成物を液体窒素中に滴下することによって得られる。かかるビーズは溶解効率が高まることが認められており、これは、例えば化合物をインビボ13C−MR検出法で使用しようとする場合に、大量の13C−α−ケトイソカプロン酸又は13C−α−ケトイソカプロン酸塩を分極させる際に重要となる。
【0058】
組成物中に常磁性金属イオンが存在する場合、かかる組成物を凍結前に、例えばヘリウムガスを吹き込む(例えば2〜15分間)ことによって脱気してもよいが、脱気は他の公知の慣用法によっても達成できる。
【0059】
DNP技術は例えば国際公開第98/58272号及び同第01/96895号に記載されており、それらの開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。一般に、DNPプロセスでは極低温で中程度又は高い磁場を利用でき、例えば液体ヘリウム中約1T以上の磁場でDNPプロセスを実施できる。別法として、中程度の磁場及び十分な分極の増強が達成される温度を用いてもよい。好ましい実施形態では、DNPプロセスは液体ヘリウム中約1T以上の磁場中で実施される。好適な分極装置は例えば国際公開第02/37132号に記載されている。好ましい実施形態では、分極装置はクライオスタットと分極手段(例えば、超伝導磁石のような磁場発生手段で囲繞された中央ボア内のマイクロ波源と導波管で接続したマイクロ波チャンバー)を備える。ボアは垂直方向下方に少なくとも超伝導磁石近傍の、磁場強度がサンプル核の分極を起こすのに十分に高い(例えば1〜25T)P領域まで延在している。プローブ(つまり、分極すべき凍結組成物)用のボアは好ましくは密閉可能で、例えば1mbar以下のオーダーの低圧まで脱気できる。プローブ導入手段(例えば着脱可能な輸送管)はボア内に収容でき、この管をボアの上からマイクロ波チャンバー内のP領域の位置まで挿入すればよい。P領域は液体ヘリウムで分極を起こすのに十分な低温、好ましくは0.1〜100K、さらに好ましくは0.5〜10K、最も好ましくは1〜5Kの温度に冷却する。プローブ導入手段は、ボア内で部分真空を維持できるように好ましくはその上端で適切に密閉できる。プローブ導入手段内部の下端にプローブ保持カップのようなプローブ保持容器を着脱可能に取り付けてもよい。プローブ保持容器は好ましくは比熱容量が低く極低温特性に優れるKelF(ポリクロロトリフルオロエチレン)又はPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)のような軽量材料からなる。プローブ保持容器は、2以上のプローブを保持できるように設計してもよい。
【0060】
プローブをプローブ保持容器に入れて液体ヘリウムに浸漬し、マイクロ波、好ましくは周波数約94GHzのものを200mWで照射する。マイクロ波照射の際に、プローブの固相13C−NMR信号を得ることによって分極レベルをモニターしてもよい。一般に、13C−NMR信号と時間との関係を示すグラフで飽和曲線が得られる。そこで、最適及び/又は十分な分極レベルに何時達したかを求めることができる。固体13C−NMR測定は、好適には低フリップ角を用いた単純パルス取得NMRシーケンスからなる。動的核分極で分極した核、つまり13C−α−ケトイソカプロン酸又は13C−α−ケトイソカプロン酸塩の13C核の信号強度を、DNP前の13C−α−ケトイソカプロン酸又は13C−α−ケトイソカプロン酸塩の13C核の信号強度と比較する。次いで、DNP前後の信号強度の比から分極レベルを計算する。
【0061】
DNPプロセス後、過分極13C−α−ケトイソカプロン酸又は13C−α−ケトイソカプロン酸塩を含む固体組成物を固体状態から液体状態に移行(つまり液化)させる。これは、適当な溶媒又は溶媒混合物(溶解媒質)に溶解すること或いは固体組成物を融解することによって実施できる。溶解が好ましく、溶解プロセス及びそのための好適な装置は国際公開第02/37132号に記載されている。融解プロセス及び融解用の好適な装置は、例えば国際公開第02/36005号に記載されている。簡単に述べると、分極装置から物理的に分離しているか、或いは分極装置と溶解ユニット/融解ユニットとを備える装置の一部である溶解ユニット/融解ユニットを用いる。好ましい実施形態では、緩和を改善して過分極の最大を保持するため、溶解/融解は高磁場中(例えば、分離装置内)で実施される。磁場節点は避けるべきであり、低磁場では上記の対策を講じても緩和の増大をもたらすことがある。
【0062】
動的核分極用の出発物質として13C−α−ケトイソカプロン酸塩を使用し、過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩を含む固体組成物を溶解によって液化する場合には、水性担体、好ましくは生理学的に許容されかつ薬学的に許容される水性担体(例えば、水、緩衝液又は食塩水)が溶媒として好適に用いられるが、これは、過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩をインビボ13C−MR検出用の造影製剤に使用するときに特に好ましい。水性担体は、最終溶液のpHがインビボ投与に適するように、そのpHを調節するための塩基を含んでいてもよい。好適なpH範囲は6.8〜7.8である。インビトロ用途には、例えば、DMSO又はメタノール或いは水性担体と非水性溶媒を含む混合物(例えば、DMSOと水との混合物又はメタノールと水との混合物)のような非水性溶媒又は溶媒混合物も使用できる。別の好ましい実施形態では、水性担体又は非水性溶媒若しくは非水性溶媒混合物は、遊離の常磁性イオンと結合又は錯形成できる1種以上の化合物(例えばDTPA又はEDTAのようなキレート剤)を含んでいてもよい。
【0063】
動的核分極用の出発物質として13C−α−ケトイソカプロン酸を用いた場合には、得られる過分極13C−α−ケトイソカプロン酸を13C−α−ケトイソカプロン酸塩に転化させる必要がある。過分極13C−α−ケトイソカプロン酸を含む固体組成物を溶解によって液化し、過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩をインビボで使用する場合には、溶解媒質は好ましくは水性担体(例えば、水又は緩衝液、好ましくは生理学的に許容される緩衝液)であるか、或いは水性担体(例えば、水又は緩衝液、好ましくは生理学的に許容される緩衝液)を含んでいる。以下、「緩衝溶液」及び「緩衝液」という用語は互換的に用いられる。本願の文脈では、「緩衝液」は1種以上の緩衝液を意味し、緩衝液の混合物も包含する。
【0064】
好ましい緩衝液は生理学的に許容される緩衝液であり、さらに好ましくは約7〜8のpH域で緩衝作用を有する緩衝液、例えばリン酸塩緩緩衝液(KH2PO4/Na2HPO4)、ACES、PIPES、イミダゾール/HCl、BES、MOPS、HEPES、TES、TRIS、HEPPS又はTRICINである。
【0065】
過分極13C−α−ケトイソカプロン酸を過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩に転化させるには、一般に13C−α−ケトイソカプロン酸を塩基と反応させる。一実施形態では、13C−α−ケトイソカプロン酸を塩基と反応させて13C−α−ケトイソカプロン酸塩に転化させる。インビボ用途では、次いで水性担体を添加する。別の好ましい実施形態では、水性担体と塩基を混合して1つの溶液とし、この溶液を13C−α−ケトイソカプロン酸に添加して、それを溶解すると同時に13C−α−ケトイソカプロン酸塩へと転化させる。好ましい実施形態では、塩基はNaOH、Na2CO3又はNaHCO3の水溶液であり、最も好ましくは塩基はNaOHである。
【0066】
別の好ましい実施形態では、水性担体緩衝液又は(該当する場合には)水性担体/塩基混合溶液は、さらに遊離の常磁性イオンと結合又は錯形成し得る1種以上の化合物(例えば、DTPA又はEDTAのようなキレート剤)を含んでいる。
【0067】
過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩のインビトロ用途では、非水性溶媒又は非水性溶媒混合物、例えばDMSO、メタノール、又は水性担体と非水性溶媒とを含む混合物(例えばDMSOと水、メタノールと水との混合物)を使用することもできる。
【0068】
過分極がDNP法で実施される場合、過分極13C−α−ケトイソカプロン酸又は13C−α−ケトイソカプロン酸塩を含む液体からDNP剤(好ましくはトリチルラジカル)及び任意の常磁性金属イオンを除去してもよい。過分極13C−α−ケトイソカプロン酸又は13C−α−ケトイソカプロン酸塩をインビボ用途の造影製剤に使用する場合には、これらの化合物を除去するのが好ましい。DNP用の出発物質として13C−α−ケトイソカプロン酸を使用した場合には、まず過分極13C−α−ケトイソカプロン酸を13C−α−ケトイソカプロン酸塩へと転化させ、転化後にDNP剤と任意の常磁性金属イオンを除去するのが好ましい。
【0069】
トリチルラジカル及び常磁性金属イオンを除去するのに有用な方法は当技術分野で公知であり、国際公開第2007/064226号及び同第2006/011809号に記載されている。
【0070】
好ましい実施形態では、本発明の造影製剤の過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩は、13C−α−ケトイソカプロン酸又はTRIS−13C−α−ケトイソカプロン酸塩又は13C−α−ケトイソカプロン酸ナトリウム、式(1)のトリチルラジカル及び任意にはGd3+を含む常磁性キレートを含む組成物の動的核分極によって得られる。
【0071】
本発明の造影製剤は、インビトロ13C−MR検出、例えば細胞培養物、サンプル、ヒト又はヒト以外の動物の身体に由来するエクスビボ組織又は摘出器官の13C−MR検出用の造影製剤として使用できる。この目的のために、造影製剤は、例えば細胞培養物、尿、血液又は唾液のようなサンプル、生検組織又は摘出器官のようなエクスビボ組織に添加するのに適した組成物として提供される。かかる造影製剤は、好ましくは、造影剤、すなわち過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩に加えて、インビトロ細胞アッセイ又は組織アッセイに適合性を有し、また用いられる溶媒、例えばDMSO若しくはメタノール又は水性担体と非水性溶媒とを含む溶媒混合物、例えばDMSOと水若しくは緩衝液又はメタノールと水若しくは緩衝液の混合物を含む。当業者には明白であるように、薬学的に許容される担体、賦形剤及び処方助剤は、かかる造影製剤中に存在してもよいが、但し、これらはかかる目的のためには不要である。
【0072】
さらに、本発明の造影製剤は、インビボ13C−MR検出、すなわちヒト又はヒト以外の動物の生体で実施される13C−MR検出用の造影製剤として使用できる。この目的のためには、造影製剤は、ヒト又はヒト以外の動物の生体に投与するのに適する必要がある。従って、かかる造影製剤は、好ましくは、造影剤、すなわち過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩に加えて、水性担体、好ましくは生理的に許容され、かつ薬学的に許容される水性担体、例えば水、緩衝液又は生理食塩水等を含む。かかる造影製剤は、さらに、ヒト用又は動物用の医薬品に含まれる、診断用組成物にとって常套的な、従来型の医薬用又は動物用の担体又は賦形剤、例えば安定化剤、浸透圧調整剤、可溶化剤のような処方助剤等を含みうる。
【0073】
本発明の造影製剤が、インビボ13C−MR検出、すなわちヒト又はヒト以外の動物の生体で利用される場合には、かかる造影製剤は、好ましくはかかる身体に非経口的に、好ましくは静脈内に投与される。一般に、検査の対象となる身体は、MR磁石内に配置される。専用の13C−MR RF−コイルが、対象領域を網羅するように配置される。造影製剤の正確な用量及び濃度は、毒性や投与経路のような要因の範囲に依存する。一般に、造影製剤は、体重1kg当たり13C−α−ケトイソカプロン酸塩が最大1mmol、好ましくは0.01〜0.5mmol/kg、さらに好ましくは0.1〜0.3mmol/kgの濃度で投与される。投与後400秒未満、好ましくは投与後120秒未満、さらに好ましくは投与後60秒未満、特に好ましくは20〜50秒で、周波数及び空間選択的手段を組み合わせて対象の容積をエンコードする、MR画像シーケンスを作動させる。MRシーケンスを作動させる正確な時間は、対象の容積に大きく依存する。
【0074】
本発明の造影製剤は、好ましくは、13C−MR検出法で用いられ、かかる方法は、本発明のもう1つの態様である。
【0075】
従って、第2の態様では、本発明は、過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩を含む造影製剤を用いた13C−MR検出法を提供する。
【0076】
好ましい第1の実施形態では、本発明は、過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩を含む造影製剤を用いた13C−MR検出法であって、13C−ロイシンの信号及び任意には13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号を検出する13C−MR検出法を提供する。
【0077】
好ましい第2の実施形態では、本発明は、過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩を含む造影製剤を用いた13C−MR検出法であって、13CO2の信号及び/又は13C−重炭酸塩の信号及び任意には13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号を検出する13C−MR検出法を提供する。
【0078】
好ましい第3の実施形態では、本発明は、過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩を含む造影製剤を用いた13C−MR検出法であって、13C−ロイシンの信号及び13CO2の信号及び/又は13C−重炭酸塩の信号及び任意には13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号を検出する13C−MR検出法を提供する。
【0079】
13C−ロイシンの信号及び任意には13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号を検出する」という用語は、本発明の方法では、13C−ロイシンの信号のみを検出すること、或いは13C−ロイシンの信号及び13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号を検出することを意味する。
【0080】
13CO2の信号及び/又は13C−重炭酸塩の信号及び任意には13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号を検出する」という用語は、本発明の方法では、13CO2の信号のみ又は13C−重炭酸塩の信号のみを検出すること、或いは13CO2及び13C−重炭酸塩の信号を検出すること、或いは13CO2及び13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号、若しくは13C−重炭酸塩及び13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号を検出すること、或いは13CO2の信号及び13C−重炭酸塩の信号及び13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号を検出することを意味する。
【0081】
13C−ロイシンの信号及び13CO2の信号及び/又は13C−重炭酸塩の信号及び任意には13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号を検出する」という用語は、本発明の方法では、13C−ロイシンの信号及び13CO2の信号又は13C−ロイシンの信号及び13C−重炭酸塩の信号又は13C−ロイシンの信号及び13CO2の信号及び13C−重炭酸塩の信号を検出することを意味する。これは、さらに、13C−ロイシンの信号及び13CO2の信号及び13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号又は13C−ロイシンの信号及び13C−重炭酸塩の信号及び13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号又は13C−ロイシンの信号及び13CO2の信号及び13C−重炭酸塩の信号及び13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号を検出することを意味する。
【0082】
13C−ロイシン」という用語は、13Cで同位体濃縮された、すなわち、13C同位体の量が、天然存在量よりも多い、2−アミノ−4−メチル−ペンタン酸をいう。別途規定しない限り、「13C−ロイシン」という用語は、C1位及び/又はC2位及び/又はC4位で13C濃縮された化合物をいう。13C−ロイシンの同位体濃縮位置は、当然、その親化合物である13C−α−ケトイソカプロン酸塩の同位体濃縮位置に依存する。従って、例えば、本発明の方法で使用される造影製剤に過分極131−α−ケトイソカプロン酸塩を用いると、131−ロイシンの信号が検出される。
【0083】
13C−重炭酸塩」という用語は、13Cが同位体濃縮された、つまり13C同位体量が、天然存在量よりも多いHCO3-をいう。同様に、「13CO2」という用語は、13Cで同位体濃縮された、つまり13C同位体量が天然存在量よりも多い二酸化炭素をいう。13C−重炭酸塩及び/又は13CO2を検出できるかどうかは、当然、その親化合物である13C−α−ケトイソカプロン酸塩の同位体濃縮位置に依存する。本発明の方法で用いられる造影製剤にC1位で13C濃縮された13C−α−ケトイソカプロン酸塩を用いる場合に限り、13C−重炭酸塩及び13CO2が生成し、従って、13C−MR検出によってこれらを検出することができる。
【0084】
131−α−ケトイソカプロン酸塩について、α−ケトイソカプロン酸塩からロイシン及び二酸化炭素への代謝変換を、スキーム1に示す。*は、13C濃縮を表す。13C−α−ケトイソカプロン酸塩は、分岐鎖アミノトランスフェラーゼ(BCAT、EC2.6.1.42)によって131−ロイシンに変換され、また分岐鎖α−ケト酸デヒドロゲナーゼ(BCKD、EC1.2.4.4.)によって13CO2(その後、13C−重炭酸塩)に変換される。
【0085】
【化2】

本発明の文脈において、「信号」という用語は、13C−MRスペクトル内の、13C−ロイシン、13CO213C−重炭酸塩及び/又は13C−α−ケトイソカプロン酸塩を表すピークの、ノイズに対するMR信号の強度又は積分値又はピーク面積をいう。好ましい実施形態では、信号はピーク面積である。
【0086】
本発明の方法の好ましい実施形態では、13C−ロイシン、13CO213C−重炭酸塩及び/又は13C−α−ケトイソカプロン酸塩の上記信号は、ヒト又はヒト以外の動物の生体の代謝プロファイルを生成するために用いられる。かかる代謝プロファイルは、全身から導くことができ、例えば全身インビボ13C−MR検出から得ることができる。或いは、かかる代謝プロファイルは、対象物の部位又は容積から、すなわち、ある組織、器官又はかかるヒト又はヒト以外の動物の身体の一部から生成される。
【0087】
本発明の方法の別の好ましい実施形態では、13C−ロイシン、13CO213C−重炭酸塩及び/又は13C−α−ケトイソカプロン酸塩の上記信号は、細胞培養物中の細胞の、尿、血液又は唾液のようなサンプルの、生検組織のようなエクスビボ組織の又はヒト若しくはヒト以外の動物に由来する摘出器官の代謝プロファイルを生成するために用いられる。次いで、かかる代謝プロファイルは、インビトロ13C−MR検出によって、生成される。
【0088】
従って、好ましい第1の実施形態では、本発明は、過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩を含む造影製剤を用いた13C−MR検出法であって、13C−ロイシンの信号及び任意には13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号が検出され、また、かかる信号が代謝プロファイルを生成するために用いられる、13C−MR検出法を提供する。
【0089】
好ましい第2の実施形態では、本発明は、過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩を含む造影製剤を用いた13C−MR検出法であって、13CO2の信号及び/又は13C−重炭酸塩の信号及び任意には13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号が検出され、また、かかる信号が代謝プロファイルを生成するために用いられる、13C−MR検出法を提供する。
【0090】
好ましい第3の実施形態では、本発明は、過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩を含む造影製剤を用いた13C−MR検出法であって、13C−ロイシンの信号及び13CO2の信号及び/又は13C−重炭酸塩の信号及び任意には13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号が検出され、また、かかる信号が代謝プロファイルを生成するために用いられる、13C−MR検出法を提供する。
【0091】
さらに好ましい第1の実施形態では、13C−ロイシンの信号及び13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号が、かかる代謝プロファイルを生成するために用いられる。
【0092】
一実施形態では、13C−ロイシン及び任意には13C−α−ケトイソカプロン酸塩のスペクトル信号強度が、代謝プロファイルを生成するために用いられる。別の実施形態では、13C−ロイシン及び任意には13C−α−ケトイソカプロン酸塩のスペクトル信号積分値が、代謝プロファイルを生成するために用いられる。別の実施形態では、13C−ロイシン及び13C−α−ケトイソカプロン酸塩の個別の画像に由来する信号強度が、代謝プロファイルを生成するために用いられる。さらに別の実施形態では、13C−ロイシン及び任意には13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号強度が、13C−ロイシンの変化速度及び任意には13C−α−ケトイソカプロン酸塩の変化速度を計算するために、2つ以上の時点で求められる。
【0093】
別の実施形態では、代謝プロファイルは、13C−ロイシン及び任意には13C−α−ケトイソカプロン酸塩の処理済みの信号データ、例えば信号の比、補正された信号又は複数のMR検出の信号パターン、すなわちスペクトル又は画像から推測される動的若しくは代謝速度定数情報を含み又はこれらを利用して生成される。
【0094】
従って、好ましい実施形態では、補正後の13C−ロイシンの信号、すなわち13C−α−ケトイソカプロン酸塩に対する13C−ロイシンの信号が、代謝プロファイルに含まれ又はこれを生成するために用いられる。さらに好ましい実施形態では、全13C−炭素に対して補正された13C−ロイシンの信号が、代謝プロファイルに含まれ又は代謝プロファイルを生成するために用いられ、但し、全13C−炭素の信号は、13C−ロイシン及び13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号の合計である。さらに好ましい実施形態では、13C−α−ケトイソカプロン酸塩に対する13C−ロイシンの比が、代謝プロファイルに含まれ又は代謝プロファイルを生成するために用いられる。
【0095】
さらに好ましい第2の実施形態では、13CO2及び/又は13C−重炭酸塩及び13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号が、かかる代謝プロファイルを生成するために用いられる。
【0096】
一実施形態では、13CO2及び/又は13C−重炭酸塩及び任意には13C−α−ケトイソカプロン酸塩のスペクトル信号強度が、代謝プロファイルを生成するために用いられる。別の実施形態では、13CO2及び/又は13C−重炭酸塩及び任意には13C−α−ケトイソカプロン酸塩のスペクトル信号積分値が、代謝プロファイルを生成するために用いられる。別の実施形態では、13CO2及び13C−重炭酸塩及び任意には13C−α−ケトイソカプロン酸塩の個別の画像又は13CO2及び13C−α−ケトイソカプロン酸塩の個別の画像又は13C−重炭酸塩及び13C−α−ケトイソカプロン酸塩の個別の画像に由来する信号強度が、代謝プロファイルを生成するために用いられる。さらに別の実施形態では、13CO2及び/又は13C−重炭酸塩の信号強度及び任意には13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号強度が、13CO2及び/又は13C−重炭酸塩の変化速度及び任意には13C−α−ケトイソカプロン酸塩の変化速度を計算するために、2つ以上の時点で求められる。
【0097】
別の実施形態では、代謝プロファイルは、13CO2及び/又は13C−重炭酸塩及び任意には13C−α−ケトイソカプロン酸塩の処理済みの信号データ、例えば信号の比、補正された信号又は複数のMR検出の信号パターン、すなわちスペクトル又は画像から推測される動的若しくは代謝速度定数情報を含み又はこれらを利用して生成される。
【0098】
従って、好ましい実施形態では、補正後の13CO2及び/又は13C−重炭酸塩の信号、すなわち13C−α−ケトイソカプロン酸塩に対する13CO2の信号又は13C−α−ケトイソカプロン酸塩に対する13C−重炭酸塩の信号が、代謝プロファイルに含まれ又は代謝プロファイルを生成するために用いられる。さらに好ましい実施形態では、全13C−炭素に対して補正された13CO2及び/又は13C−重炭酸塩の信号が、代謝プロファイルに含まれ又は代謝プロファイルを生成するために用いられ、但し、全13C−炭素の信号は、13CO2及び/又は13C−重炭酸塩の信号及び13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号の合計である。さらに好ましい実施形態では、13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号に対する13CO2及び/又は13C−重炭酸塩の信号の比が、代謝プロファイルに含まれ又は代謝プロファイルを生成するために用いられる。
【0099】
さらに好ましい第3の実施形態では、13C−ロイシン及び13CO2及び/又は13C−重炭酸塩及び任意には13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号が、代謝プロファイルを生成するために用いられる。
【0100】
一実施形態では、13C−ロイシン及び13CO2及び/又は13C−重炭酸塩及び任意には13C−α−ケトイソカプロン酸塩のスペクトル信号強度が、代謝プロファイルを生成するために用いられる。別の実施形態では、13C−ロイシン及び13CO2及び/又は13C−重炭酸塩及び任意には13C−α−ケトイソカプロン酸塩のスペクトル信号積分値が、代謝プロファイルを生成するために用いられる。別の実施形態では、13C−ロイシン及び13CO2及び13C−重炭酸塩及び任意には13C−α−ケトイソカプロン酸塩の個別の画像又は13C−ロイシン及び13CO2及び任意には13C−α−ケトイソカプロン酸塩の個別の画像又は13C−ロイシン及び13C−重炭酸塩及び任意には13C−α−ケトイソカプロン酸塩の個別の画像に由来する信号強度が、代謝プロファイルを生成するために用いられる。さらに別の実施形態では、13C−ロイシン及び13CO2及び/又は13C−重炭酸塩及び任意には13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号強度が、13C−ロイシンの変化速度及び13CO2の変化速度及び/又は13C−重炭酸塩の変化速度及び任意には13C−α−ケトイソカプロン酸塩の変化速度を計算するために、2つ以上の時点で求められる。
【0101】
別の実施形態では、代謝プロファイルは、13C−ロイシン及び13CO2及び/又は13C−重炭酸塩及び任意には13C−α−ケトイソカプロン酸塩の処理済みの信号データ、例えば信号の比、補正された信号又は複数のMR検出の信号パターン、すなわちスペクトル又は画像から推測される動的若しくは代謝速度定数情報を含み又はこれらを利用して生成される。
【0102】
従って、好ましい実施形態では、補正後の13C−ロイシン及び13CO2及び/又は13C−重炭酸塩の信号、すなわち13CO2に対する13C−ロイシンの信号又は13C−重炭酸塩に対する13C−ロイシンの信号及び任意には13C−α−ケトイソカプロン酸塩に対する13C−ロイシンの信号が、代謝プロファイルに含まれ又はこれを生成するために用いられる。さらに好ましい実施形態では、全13C−炭素に対して補正された13C−ロイシン及び13CO2及び/又は13C−重炭酸塩の信号が、代謝プロファイルに含まれ又は代謝プロファイルを生成するために用いられ、但し、全13C−炭素の信号は、13C−ロイシン及び13CO2及び/又は13C−重炭酸塩の信号及び任意には13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号の合計である。さらに好ましい実施形態では、13C−α−ケトイソカプロン酸塩に対する13C−ロイシン及び13CO2及び/又は13C−重炭酸塩の信号の比が、代謝プロファイルに含まれ又は代謝プロファイルを生成するために用いられる。
【0103】
本発明の方法の好ましい実施形態で生成された代謝プロファイルは、検査対象の身体、身体の一部、細胞、組織、身体サンプルのような代謝活性に関する情報を提供し、かかる情報は、次の段階、例えば疾患の識別に用いることができる。
【0104】
かかる疾患は、好ましくは癌であるが、それは、腫瘍組織は、通常健康な組織よりも代謝活性が高いことで特徴づけられるためである。腫瘍又は腫瘍のエクスビボサンプルの代謝プロファイルを、健康な組織(例えば、周囲組織又は健康なエクスビボ組織)の代謝プロファイルと比較することによって、かかる高い代謝活性が明らかになり、また13C−ロイシン及び/又は13CO2及び/又は13C−重炭酸塩の信号が強まることによって、或いは13C−ロイシン及び/又は13CO2及び/又は13C−重炭酸塩の補正後の信号が強くなり又は13C−α−ケトイソカプロン酸塩に対する13C−ロイシンの信号の比及び/又は13C−α−ケトイソカプロン酸塩に対する13CO2及び/又は13C−重炭酸塩の信号の比が高くなり又は全炭素信号に対する13C−ロイシン信号の比及び/又は全炭素信号に対する13CO2及び/又は13C−重炭酸塩の信号の比が高くなり又は13C−ロイシン及び/又は13CO2及び/又は13C−重炭酸塩の代謝速度が速くなることが積み重なって、代謝プロファイルの中にその全貌を現しうる。
【0105】
癌組織内では、健康組織内よりもグルタミン酸塩の濃度が高いことが多い。この補助基質は、BCAT活性が高い癌組織内で、13C−α−ケトイソカプロン酸塩から13C−ロイシンへの回転率を高めることを可能にする。
【0106】
「高い」という用語は相対的な用語であり、上記のような患部組織の代謝プロファイルに見られる「向上した信号、比、代謝速度」等とは、健康な組織の代謝プロファイルに見られる信号、比、代謝速度等に比較して増加していることと理解されなければならない。
【0107】
肝臓脂肪症では、肝臓中の酵素BCKDの活性が低下しており、13C−α−ケトイソカプロン酸塩の脱炭酸に基づく13C−呼気検査が、かかる疾患状態を診断するのに用いられる。この検査では、吐き出された13CO2を動的に収集し、当技術分野の方法で定量する。従って、本発明の方法の好ましい実施形態で生成した代謝プロファイルから得られた情報を、脂肪肝、肝線維症又は肝硬変のような肝関連疾患を識別するために使用できることが示唆される。かかる肝関連疾患の場合、健康な肝臓の代謝プロファイルと比較したときに、13CO2及び/又は13C−重炭酸塩の信号の変化及び/又は、これら代謝物の13C−α−ケトイソカプロン酸塩に対する比が変化していることから、かかる疾患は、罹患肝臓の代謝プロファイル中に、顕在化するであろうと仮定することができる。
【0108】
さらに別の疾患として、腎関連疾患を挙げることもできるが、それは、13C−α−ケトイソカプロン酸塩から13C−ロイシンへの変換を触媒するBCAT活性が、腎臓中では非常に活性であることが知られているためである。BCAT活性の変化によって顕在化する腎疾患では、かかる変化は、13C−ロイシン信号の変化及び/又は13C−α−ケトイソカプロン酸塩に対する13C−ロイシンの比の変化でありうるが、これは健康な腎臓/健康な周辺腎臓組織の代謝プロファイルと比較したときの、罹患した腎臓/罹患した腎臓組織の代謝プロファイルにおいて検出し得る、と仮定することができる。
【0109】
解剖学的情報及び/又は適切な場合には灌流情報を、疾患を識別するための本発明の方法に含めることができる。解剖学的情報は、例えば、本発明の方法の前又は後において、適当な造影剤を使用又は使用せずに、プロトン又は13C−MR画像を取得することによって得ることができる。
【0110】
別の好ましい実施形態では、過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩を含む造影製剤が繰返し投与され、従って動的試験が可能となる。毒性効果を(高用量において)示すおそれのある、従来型のMR造影剤を用いたその他のMR検出法と比較して、これは本発明の方法の更なる利点である。α−ケトイソカプロン酸塩は、人体内に存在しており、過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩は、本願の実施例に記載されている、発明者らが用いた動物モデルで良好な耐容性を示した。従って、過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩は、患者においても良好な耐容性を示し、従って、本化合物の反復用量投与が可能なはずであることが期待される。
【0111】
上記のように、代謝プロファイルは、検査対象の身体、身体の一部、細胞、組織、身体サンプルのような代謝活性に関する情報を提供し、かかる情報は、次の段階、例えば疾患の識別に用いることができる。しかし、医師は、検査対象患者について適切な治療を選択するための更なる段階において、この情報を利用することもできる。
【0112】
従って、かかる情報は、治療に対する反応、例えば、上記疾患の治療の奏功をモニターするのに用いることができ、その感度は、本方法を、初期治療反応、すなわち治療開始直後の治療に対する反応をモニターするのに、特に好適なものにしている。
【0113】
さらに別の実施形態では、本発明の方法は、薬物の有効性を評価するのに用いることができる。かかる実施形態では、ある種の疾患を治療するための候補薬物、例えば抗癌剤等は、薬物スクリーニング、例えば、かかるある種の疾患にとって重要なモデルである細胞培養物中において、インビトロ又は罹患エクスビボ組織もしくは罹患摘出器官で行われる薬物スクリーニングの非常に早い段階で試験し得る。或いは、ある種の疾患を治療するための候補薬物は、例えば、かかるある種の疾患にとって重要な動物モデルのインビボ薬物スクリーニングの非常に早い段階で試験し得る。候補薬物による治療の前後で、かかる細胞培養物、エクスビボ組織、摘出物又は試験動物の代謝プロファイルを比較することによって、かかる薬物の有効性、従って治療反応及び治療奏功を判定することができ、これはもちろん、候補薬物のスクリーニングにおいて有用な情報を提供する。
【0114】
本発明のさらに別の態様は、13C−α−ケトイソカプロン酸又は13C−α−ケトイソカプロン酸塩、DNP剤及び任意には常磁性金属イオンを含む組成物である。かかる組成物は、本発明の造影製剤中の造影剤(MR活性薬剤)として使用できる過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩を、動的核分極(DNP)で得るのに使用できる。
【0115】
一実施形態では、本発明の組成物は、13C−α−ケトイソカプロン酸、DNP剤及び任意には常磁性金属イオンを含む。好ましい実施形態では、かかるDNP剤はトリチルラジカルであり、さらに好ましくは、式(1)のトリチルラジカルであり、最も好ましくは式(1)のトリチルラジカルであり、式中、Mは水素又はナトリウムを表し及びR1は同一であり又は異なり、好ましくは同一であり、また好ましくは−CH2−OCH3、−CH2−OC25、−CH2−CH2−OCH3、−CH2−SCH3、−CH2−SC25又は−CH2−CH2−SCH3を表し、最も好ましくは−CH2−CH2−OCH3を表す。別の好ましい実施形態では、かかる組成物は、常磁性金属イオンを、好ましくは、Gd3+を含む塩又は常磁性キレートを、さらには、Gd3+を含む常磁性キレートを含む。任意には、かかる組成物は、1種類以上の溶媒及び/又はガラス形成剤をさらに含む。好ましい実施形態では、組成物は、例えばグリセリンのようなガラス形成剤を含む。上記組成物は、動的核分極(DNP)によって、高分極レベルを有する過分極13C−α−ケトイソカプロン酸を得るのに使用できる。かかる過分極13C−α−ケトイソカプロン酸は、本願においてすでに記載したように、塩基、例えばNaOHと共に溶解することによって、過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩に変換可能である。
【0116】
別の実施形態では、かかる組成物は、13C−α−ケトイソカプロン酸塩、好ましくはTRIS−13C−α−ケトイソカプロン酸塩又は13C−α−ケトイソカプロン酸ナトリウム、DNP剤及び任意には常磁性金属イオンを含む。好ましい実施形態では、かかるDNP剤は、トリチルラジカルであり、さらに好ましくは式(1)のトリチルラジカルであり、最も好ましくは式(1)のトリチルラジカルであり、式中、Mは水素又はナトリウムを表し及びR1は好ましくは同一であり、さらに好ましくは直鎖又は枝分れC1〜C4アルキル基であり、最も好ましくは、メチル、エチル、若しくはイソプロピルであり又は、R1は好ましくは同一であり、さらに好ましくは、1つのヒドロキシ基で置換された直鎖又は枝分れC1〜C4アルキル基であり、最も好ましくは−CH2−CH2−OHであり又は、R1は好ましくは同一であり、−CH2−OC24OHを表す。別の好ましい実施形態では、かかる組成物は、常磁性金属イオン、好ましくはGd3+を含む塩又は常磁性キレートであり、さらには、Gd3+を含む常磁性キレートである。かかる組成物は、1種類以上の溶媒、好ましくは1種類の水性担体を含むのが好適である。任意には、かかる組成物は、例えばグリセリンのようなガラス形成剤を含む。上記組成物は、動的核分極(DNP)によって、高分極レベルを有する過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩を得るのに使用できる。
【0117】
本発明のさらに別の態様は、過分極13C−α−ケトイソカプロン酸又は過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩、DNP剤及び任意には常磁性金属イオンを含む組成物であり、かかる組成物は、前段に記載の組成物を動的核分極することによって得られる。
【0118】
本発明のさらに別の態様は、過分極13C−α−ケトイソカプロン酸又は過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩であり、好ましくは、TRIS−13C−α−ケトイソカプロン酸塩又は13C−α−ケトイソカプロン酸ナトリウムである。好ましい実施形態は、過分極131−α−ケトイソカプロン酸又は過分極131−α−ケトイソカプロン酸塩であり、好ましくは、TRIS−131−α−ケトイソカプロン酸塩又は131−α−ケトイソカプロン酸ナトリウムである。上記化合物は、本発明の造影製剤中の造影剤(MR活性薬剤)として利用可能であり、かかる造影製剤は、本発明の13C−MR検出法で使用できる。
【0119】
本発明のさらに別の態様は、過分極13C−α−ケトイソカプロン酸又は過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩を製造する方法であり、この方法は、13C−α−ケトイソカプロン酸又は13C−α−ケトイソカプロン酸塩、DNP剤及び任意には常磁性金属イオンを含む組成物を調製する段階及びかかる組成物について動的核分極を実施する段階を含む。かかる組成物の調製及びかかる組成物について動的核分極を行う方法は、本願において、これまでに詳細に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】過分極131−α−ケトイソカプロン酸ナトリウムを含む造影製剤を投与した後の、マウス肝臓における131−α−ケトイソカプロン酸塩から131−ロイシンへの変換を示す図である。時系列分解された13C−NMRスペクトルを取得し、131−α−ケトイソカプロン酸塩及び131−ロイシン(176.8ppm)を検出した。
【図2】過分極131−α−ケトイソカプロン酸ナトリウムを含む造影製剤を投与した後の、健康なラットの主として腎臓の13C−化学シフト画像における、13C−α−ケトイソカプロン酸塩及び13C−ロイシンの信号強度を示す図である。
【図2a】断面図を示す図である。
【図2b】13C−ロイシンの信号分布を示す図である。
【図2c】13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号分布を示す図である。
【図3】マウス脇腹の皮下に成長したリンパ腫マウス(腫瘍)(EL−4)の13C−化学シフト画像における、13C−α−ケトイソカプロン酸塩及び13C−ロイシンの信号強度を示す図である。
【図3a】13C−ロイシンの信号分布を示す図である。
【図3b】13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号分布を示す図である。
【図3c】比率画像(13C−ロイシン:13C−α−ケトイソカプロン酸塩)を示す図であり、腫瘍を明示している。
【図3d】1H対照を示す図であり、Omniscan(商標)増強画像によって得られた。本発明は、以下の非限定的な実施例によって説明される。
【実施例】
【0121】
実施例1
過分極TRIS−131−α−ケトイソカプロン酸塩を含む造影製剤の製造
実施例1a
TRIS−131−α−ケトイソカプロン酸塩の調製
マイクロ試験管に、131−α−ケトイソカプロン酸ナトリウム(Cambridge Isotopes、151.2mg、0.987mmol)、TRIS(156.7mg、0.994mmol)及びメタノール2mlを加えた。試験管を超音波処理すると、白色粉末(NaCl)が析出した。上清をシリンジに取り、シリンジフィルター(0.45μm)を通して、ジエチルエーテル35mlを含む別の試験管内に濾過した。沈殿を遠心分離し、エーテルを真空除去した。
【0122】
実施例1b
TRIS−131−α−ケトイソカプロン酸塩の動的核分極
実施例1aで得られたTRIS−131−α−ケトイソカプロン酸塩(73.2mg、0.29mmol)を、国際公開第98/39277号の実施例7(44.0mg、30.8μmol)に従って合成したトリス(8−カルボキシ−2,2,6,6−(テトラ(ヒドロキシエチル)−ベンゾ−[1,2−4,5’]−ビス−(1,3)−ジチオール−4−イル)−メチルナトリウム塩(トリチルラジカル;44.0mg、30.8μmol)と、国際公開第2007/064226号の実施例4に従って、グリセリン(1543μl、1948mg)中で合成した1,3,5−トリス−(N−(DO3A−アセトアミド)−N−メチル−4−アミノ−2−メチル−フェニル)−[1,3,5]トリア−ジナン−2,4,6−トリオンのGd−キレート(常磁性金属イオン;2.30mg、1.1μmol)との混合物、50.0mg中に溶解した。全化合物が溶解するように、得られた組成物を超音波処理し、穏やかに加熱した。当該組成物(80μl、トリチルラジカル中に10mM及びGd3+中に1mM)を、ピペットでサンプルカップ(プローブ保持容器)に移し、これを速やかに液体窒素中に浸漬し、次いでDNP分極装置に挿入した。マイクロ波(93.89GHz)で照射しながら、3.35Tの磁場、1.2KのDNP条件下で当該組成物を分極させた。分極後に、固体13C−NMRを行い、固体分極は、36%であることが判明した。
【0123】
実施例1c
溶解及び造影製剤の製造
動的核分極を120分間行った後、得られた凍結分極組成物を、リン酸緩衝液(pH7.3、40mM)6ml中に溶解した。溶解した組成物を含む、最終溶液のpHは7.3であった。かかる最終溶液中のTRIS−131−α−ケトイソカプロン酸塩の濃度は50mMであった。
【0124】
液体分極は、400MHzの液体13C−NMRによって、34%であることが判明した。
【0125】
実施例2
過分極131−α−ケトイソカプロン酸ナトリウムを含む造影製剤の製造
実施例2a
131−α−ケトイソカプロン酸ナトリウムの動的核分極
131−α−ケトイソカプロン酸ナトリウム(19.5mg、0.126mmol)を、国際公開第98/39277号の実施例7(44.0mg、30.8μmol)に従って合成したトリス(8−カルボキシ−2,2,6,6−(テトラ(ヒドロキシエチル)−ベンゾ−[1,2−4,5’]−ビス−(1,3)−ジチオール−4−イル)−メチルナトリウム塩(トリチルラジカル;44.0mg、30.8μmol)と、国際公開第2007/064226号の実施例4に従って、グリセリン(1543μl、1948mg)中で合成した1,3,5−トリス−(N−(DO3A−アセトアミド)−N−メチル−4−アミノ−2−メチル−フェニル)−[1,3,5]トリア−ジナン−2,4,6−トリオンのGd−キレート(常磁性金属イオン;2.30mg、1.1μmol)との混合物50.0mg中に溶解した。この溶液に水5μlを添加した。全化合物が溶解するように、得られた組成物を超音波処理し、穏やかに加熱した。当該組成物(110μl、トリチルラジカル中に12.5mM及びGd3+中に1.3mM)を、ピペットでサンプルカップに移し、これを速やかに液体窒素中に浸漬し、次いでDNP分極装置に挿入した。マイクロ波(93.89GHz)で照射しながら、3.35Tの磁場、1.2KのDNP条件下で当該組成物を分極させた。分極後に、固体13C−NMRを行い、固体分極は、約30%であることが判明した。
【0126】
実施例2b
溶解及び造影製剤の製造
動的核分極を120分間行った後、得られた凍結分極組成物を、リン酸緩衝液(pH7.3、40mM)6ml中に溶解した。溶解した組成物を含む、最終溶液のpHは7.3であった。かかる最終溶液中の131−α−ケトイソカプロン酸ナトリウムの濃度は50mMであった。
【0127】
液体分極は、400MHzの液体13C−NMRによって、29%であることが判明した。
【0128】
実施例3
過分極131−α−ケトイソカプロン酸ナトリウムを含む造影製剤の製造
実施例3a
131−α−ケトイソカプロン酸の調製
131−α−ケトイソカプロン酸ナトリウム(210.0mg、1.37mmol)を、水2ml中に濃H2SO4を500μl含む、冷却した溶液に溶解した。当該混合物を、ジエチルエーテル6mlで4回抽出した。有機相を集め、MgSO4上で脱水した。MgSO4の粒を取り除くために、脱水溶液を濾過(0.45μmのシリンジフィルター)し、ジエチルエーテルを真空除去した。131−α−ケトイソカプロン酸175mg(98%)を得た。
【0129】
実施例3a
131−α−ケトイソカプロン酸の動的核分極
国際公開第2006/011811号の実施例1に従って合成したトリチルラジカル、トリス(8−カルボキシ−2,2,6,6−(テトラ(メトキシエチル)−ベンゾ−[1,2−4,5’]−ビス−(1,3)−ジチオール−4−イル)−メチルナトリウム塩(1.18mg、0.74mmol)及び、国際公開第2007/064226号の実施例4に従って合成した1,3,5−トリス−(N−(DO3A−アセトアミド)−N−メチル−4−アミノ−2−メチル−フェニル)−[1,3,5]トリア−ジナン−2,4,6−トリオンのGd−キレートの水溶液1.52mg(常磁性金属イオン、溶液1g当たり14.5μl)を、131−α−ケトイソカプロン酸(50.5mg、0.19mmol)49μl中に溶解した。全化合物が溶解するように、得られた組成物を超音波処理し、穏やかに加熱した。当該組成物(42μl、トリチルラジカル中に14mM及びGd3+中に1.5mM)を、ピペットでサンプルカップに移し、これを速やかに液体窒素中に浸漬し、次いでDNP分極装置に挿入した。マイクロ波(93.89GHz)で照射しながら、3.35Tの磁場、1.2KのDNP条件下で、当該組成物を分極させた。分極後に、固体13C−NMRを行い、固体分極は、27%であることが判明した。
【0130】
実施例3c
溶解及び造影製剤の製造
動的核分極を90分間行った後、得られた凍結分極組成物を、リン酸緩衝液(pH7.3、40mM)5.97ml及びNaOH水溶液(12M)30μlから調製した溶液6ml中に溶解した。溶解した組成物を含む、最終溶液のpHは7.3であった。かかる最終溶液中の131−α−ケトイソカプロン酸ナトリウムの濃度は50mMであった。
【0131】
液体分極は、400MHzの液体13C−NMRによって、25%であることが判明した。
【0132】
実施例4
過分極131−α−ケトイソカプロン酸ナトリウムを含む造影製剤を用いた、マウス内の肝臓を検出するために配置された表面コイルによるインビボ13C−MR検出
実施例1に記載の通り調製した過分極131−α−ケトイソカプロン酸ナトリウムを含む造影製剤175μlを、C57B1/6マウスに6秒かけて注射した。かかる造影製剤中の131−α−ケトイソカプロン酸ナトリウムの濃度は、約50mMであった。12mm表面コイル(炭素用に調節済み)を、肝臓部位を覆うようにマウス上に配置し、代謝プロファイルを生成するために、13C−α−ケトイソカプロン酸塩及び13C−ロイシンの信号を、2.4T Bruker分光器で実施した13C−MR分光法で検出した。反復時間5秒及び30°RFパルスで、全10件の13C−スペクトルを取得した。結果を図1に示す。この実施例では、13C−ロイシンの信号は、13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号の約1%である。
【0133】
実施例5
過分極131−α−ケトイソカプロン酸ナトリウムを含む造影製剤を用いた、健康なラット腎臓のインビボ13C−化学シフト画像
実施例2に記載の通り調製した過分極131−α−ケトイソカプロン酸ナトリウムを含む造影製剤2mlを、ウィスター系ラットに6秒かけて注射した。かかる造影製剤中の131−α−ケトイソカプロン酸ナトリウムの濃度は、約50mMであった。ラットコイル(炭素及びプロトン用に調節済み)を、腎臓部位を覆うようにラット上に配置し、腎臓部位の代謝プロファイルを生成するために、131−α−ケトイソカプロン酸塩及び13C−ロイシンの信号を、2.4T Bruker分光器を用いて実施した13C−MR分光法で検出した。次のパラメーターを用いて13C−化学シフト画像を取得した:FOV 12.6×12.6mm2×12mm、マトリックスサイズ 18×18、7°RFパルス、TR=66ms。全取得時間は15秒であり、化学シフト画像は、造影製剤の注射を開始して18秒後に開始した。高解像プロトン画像を参照用に取得した。結果を図2に示す。
【0134】
実施例6
過分極131−α−ケトイソカプロン酸ナトリウムを含む造影製剤を用いた、皮下マウスリンパ腫(EL−4)上に配置された表面コイルによるインビボ13C−化学シフト画像
皮下マウスリンパ腫を形成するために、EL−4細胞を、C57B1/6マウスに注射した。実施例2に記載の通り調製した過分極131−α−ケトイソカプロン酸ナトリウムを含む造影製剤175μlを、マウスに6秒かけて注射した。かかる造影製剤中の131−α−ケトイソカプロン酸ナトリウムの濃度は、約50mMであった。20mm表面コイル(炭素用に調節済み)を、皮下腫瘍上に配置し、腫瘍及び周囲健常組織の代謝プロファイルを生成するために、13C−α−ケトイソカプロン酸塩及び13C−ロイシンの信号を、2.4T Bruker分光器を用いて実施した13C−MR分光法で検出した。次のパラメーターを用いて13C−化学シフト画像を取得した:FOV 35×35mm2×10mm、マトリックスサイズ 16×16、10°RFパルス、TR=35ms。全取得時間は11秒(呼吸を検出しなくなるまで)であり、化学シフト画像は、造影製剤の注射を開始して15秒後に開始した。腫瘍の位置及び灌流を確認するために、Omniscan(商標)(GE Healthcare社)増強プロトンイメージングを実施した。結果を図3に示す。13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号が、大血管で最も強い。但し、13C−α−ケトイソカプロン酸塩の分布は、表面コイルの視野全体にわたり認められる。13C−ロイシンの分布は、腫瘍部位に限られ、比率画像(13C−ロイシン:13C−α−ケトイソカプロン酸塩)で腫瘍部位が明示されているが、これは、コントラスト増強プロトン画像でも観察・確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩を含む造影製剤。
【請求項2】
前記過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩が過分極131−α−ケトイソカプロン酸塩である、請求項1記載の造影製剤。
【請求項3】
前記過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩が過分極TRIS−13C−α−ケトイソカプロン酸塩又は過分極13C−α−ケトイソカプロン酸ナトリウムである、請求項1又は請求項2記載の造影製剤。
【請求項4】
インビボ又はインビトロ13C−MR検出に用いられる、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の造影製剤。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の造影製剤を用いる、13C−MR検出方法。
【請求項6】
13C−ロイシンの信号及び任意には13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号を検出する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
13CO2及び/又は13C−重炭酸塩の信号及び任意には13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号を検出する、請求項5記載の方法。
【請求項8】
13C−ロイシン及び13CO2及び/又は13C−重炭酸塩の信号及び任意には13C−α−ケトイソカプロン酸塩の信号を検出する、請求項5記載の方法。
【請求項9】
当該方法がインビボ13C−MR検出法であって、代謝プロファイルがヒト又はヒト以外の動物の生体の代謝プロファイルである、請求項5乃至請求項8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
当該方法がインビトロ13C−MR検出法であって、代謝プロファイルが、細胞培養物の細胞、サンプル、エクスビボ組織又はヒト若しくはヒト以外の動物に由来する摘出器官の代謝プロファイルである、請求項5乃至請求項8のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記代謝プロファイルが疾患、好ましくは癌を識別するために用いられる、請求項9又は請求項10記載の方法。
【請求項12】
13C−α−ケトイソカプロン酸塩又は13C−α−ケトイソカプロン酸、DNP剤及び任意には常磁性金属イオンを含む組成物。
【請求項13】
前記常磁性金属イオンが存在し、Gd3+を含む常磁性キレートである、請求項12記載の組成物。
【請求項14】
前記DNP剤が、式(1)のトリチルラジカルである、請求項12又は請求項13記載の組成物
【化1】

式中、Mは水素又は1当量の陽イオンを表し、
R1は同一又は異なるものであって、1以上のヒドロキシル基で任意に置換された直鎖又は枝分れC1〜C6アルキル基或いは−(CH2n−X−R2基(式中、nは1、2又は3であり、XはO又はSであり、R2は1以上のヒドロキシル基で任意に置換された直鎖又は枝分れC1〜C4アルキル基である。)を表す。
【請求項15】
動的核分極に用いられる、請求項12乃至請求項14のいずれか1項記載の組成物。
【請求項16】
過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩又は13C−α−ケトイソカプロン酸、DNP剤及び任意には常磁性金属イオンを含む組成物であって、請求項12乃至請求項14のいずれか1項記載の組成物の動的核分極によって得られる組成物。
【請求項17】
過分極13C−α−ケトイソカプロン酸塩又は過分極13C−α−ケトイソカプロン酸。

【図1】
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【図2】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図3】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図3d】
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【公表番号】特表2011−506015(P2011−506015A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538748(P2010−538748)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【国際出願番号】PCT/EP2008/067986
【国際公開番号】WO2009/080739
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(305040710)ジーイー・ヘルスケア・リミテッド (99)
【Fターム(参考)】