説明

MRI造影用高分子ミセル複合体

【課題】腫瘍特異的に集積し且つ長期間の血中滞留性を有するとともに、少ない使用量で高いMRI造影コントラストを発揮することで、必要投与量をより少なく抑え副作用の低減を実現した優れた安全性を有する、高分子ミセル複合体を提供する。
【解決手段】本発明の高分子ミセル複合体は、非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントとカチオン性のポリマー鎖セグメントとを含むブロック共重合体(A)と、金属原子(M)と、MRI造影能を有する金属錯体(B)とを含んでなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MRI造影能を有する物質を内包した高分子ミセル複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性腫瘍の画像診断法の代表例としてはX線CT、超音波、核磁気共鳴映像法(MRI)が挙げられる。これらの検査は普及率が高く、それぞれの利点と欠点を併せ持つ。MRIは放射線被爆がなく、客観性と再現性が高いという利点を有するが、そのハードウェアのみでは小さな腫瘍の同定は困難であるのが現状である。その欠点を補うために、腫瘍組織の周囲組織とのコントラストを高める、様々な造影剤が開発され、実用化されている。
従来知られている代表的な造影剤としては、gadolinium diethylene triamine pentaacetic acid(Gd-DTPA)等のガドリニウム錯体が挙げられる。Gd-DTPAはキレート化してその副作用(腎毒性)はフリーのガドリニウム(Gd)よりも軽減されたものである(例えば、非特許文献1参照。)。しかしながら、Gd-DTPAは部位特異性に欠け、経静脈投与により速やかに臓器及び筋肉内に拡散するため、投与から撮影までの時間に制限が生じるほか、腫瘍とそれ以外の組織とのコントラストを明確にするために多量の投与量が必要とされる。よって、前記副作用の影響は依然として問題視されている。
【0003】
ところで、腫瘍組織においては、正常組織に比べ新生血管の増生と血管壁の著しい透過性亢進がみられること、またリンパ系が未発達であるという特性があることより、高分子量の物質でも血中から組織内に移行することができ、かつ組織内から排出されにくいため、結果的に高分子又はナノサイズの粒子が腫瘍組織内に集積しやすいという、いわゆるEPR効果が認められる(例えば、特許文献1参照。)。これにより、抗癌剤を内包したリポソームや高分子ミセル等のナノサイズの粒子は、腫瘍組織に集積することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3955992号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】P. Caravan et al., Gadolinium(III) chelates as MRI contrast agents: structure, dynamics, and applications., Chem. Rev., vol. 99, p. 2293-2352, 1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような状況下において、腫瘍特異的に集積し且つ長期間の血中滞留性を有するとともに、少ない使用量で高いMRI造影コントラストを発揮することで、必要投与量をより少なく抑え副作用の低減を実現した優れた安全性を有する、高分子ミセル複合体の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記状況を考慮してなされたもので、以下に示す、高分子ミセル複合体、MRI造影用組成物、MRI造影用キット、及び腫瘍検出用MRI造影方法等を提供するものである。
(1)非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントとカチオン性のポリマー鎖セグメントとを含むブロック共重合体(A)と、金属原子(M)と、MRI造影能を有する金属錯体(B)とを含んでなる、高分子ミセル複合体。
上記(1)の複合体は、例えば、金属原子(M)が、無毒又は低毒性の金属イオン化合物(以下、金属イオン化合物(C)と称する)由来の金属原子であるもの、さらに、金属イオン化合物(C)の中心金属原子由来の金属原子であるものが挙げられる。ここで、上記金属イオン化合物(C)は、例えば、K2PtCl4、FeCl3、NaAuCl4、CuCl2、CuBr2、ZnCl2又はAgClが挙げられる。具体的には、金属原子(M)は、白金、銅、金、鉄、亜鉛又は銀が挙げられる。
【0008】
上記(1)の複合体は、例えば、金属錯体(B)が、ガドリニウム、ユーロピウム、マンガン、鉄又は銅を中心金属原子とする金属錯体であるものが挙げられる。
具体的には、金属錯体(B)は、下記一般式(8)、(9)、(10)又は(11)で示されるものが挙げられる。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【0009】
より具体的には、金属錯体(B)は、下記式(8-a)、(9-a)、(10-a)又は(11-a)で示されるものが挙げられる。
【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【0010】
上記(1)の複合体は、例えば、ブロック共重合体(A)中、非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントが、ポリエチレングリコール、ポリ(2−メチル−2−オキサゾリン)、ポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)、ポリ(2−イソプロピル−2−オキサゾリン)、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ヒドロキシエチル及びポリ(メタクリル酸ヒドロキシエチル)からなる群より選ばれる水溶性ポリマーに由来するものであるものが挙げられる。
【0011】
具体的には、ブロック共重合体(A)は、下記一般式(I)又は(II)で示されるものが挙げられる。
【化9】

〔一般式(I)及び(II)中、R1a及びR1bはそれぞれ独立して水素原子又は未置換もしくは置換された直鎖もしくは分枝のC1-12アルキル基を表し、L1及びL2は連結基を表し、R2a及びR2bはそれぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表し、R3及びR4は水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表し、R5a、R5b、R5c及びR5dはそれぞれ独立して水酸基、オキシベンジル基、又はNH−(CH2a−X基を表し(ここで、aは1〜5の整数であり、Xはそれぞれ独立して一級、二級、三級アミン又は四級アンモニウム塩の内の一種類又は二種類以上を含むアミン化合物残基であるか、あるいはアミンでない化合物残基である)、R5aとR5bとの総数及びR5cとR5dとの総数のうち、−NH−(CH2a−X基(ここで、Xは(NH(CH22e−NH2であり、eは1〜5の整数である)が少なくとも2つ以上存在し、R6a及びR6bはそれぞれ独立して水素原子又は保護基(ここで、保護基は通常アミノ基の保護基として用いられているZ基、Boc基、アセチル基又はトリフルオロアセチル基である)であり、mは5〜20,000の整数であり、nは2〜5,000の整数であり、yは0〜5,000の整数であり、zは0〜5,000の整数であり、y+zはnより大きくないものとし、また、一般式(I)及び(II)における各繰り返し単位は記載の便宜上特定した順で示しているが、各繰り返し単位はランダムな順で存在することができる。〕
【0012】
上記(1)の複合体は、例えば、前記ブロック共重合体(A)の非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントをシェル部分とし、カチオン性のポリマー鎖セグメントをコア部分として形成されたミセル状粒子に、前記金属原子(M)及び前記金属錯体(B)が内包されてなるものが挙げられる。具体的には、上記(1)の複合体は、前記金属原子(M)及び前記金属錯体(B)が、前記カチオン性のポリマー鎖セグメントとともにミセル状粒子のコア部分を形成してなるものが挙げられる。
上記(1)の複合体は、例えば、水性媒体中における動的光散乱法により測定した平均分散粒子径が10nm〜0.2μmであるものが挙げられる。
【0013】
(2)上記(1)の複合体を含むことを特徴とする、MRI造影用組成物。
(3)被験動物の体内に上記(1)の複合体を投与することを特徴とする、腫瘍検出用MRI造影方法。
(4)上記(1)のを含むことを特徴とする、MRI造影用キット。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、腫瘍特異的に集積し且つ長期間の血中滞留性を有するとともに、少ない使用量で高いMRI造影コントラストを発揮することで、必要投与量をより少なく抑え副作用の低減を実現した優れた安全性を有する、高分子ミセル複合体、並びに、当該複合体を含むMRI造影用組成物、MRI造影用キット、及び当該複合体を用いる腫瘍検出用MRI造影方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】高分子ミセル複合体のサイズ(動的光散乱(DLS)測定データ)を示す図である。
【図2】高分子ミセル複合体の安定性を示す図である。
【図3】高分子ミセル複合体からの薬剤の放出を示す図である。
【図4A】高分子ミセル複合体等の緩和能を示す図である。
【図4B】高分子ミセル複合体等の緩和能を示す図である。なお、緩和能は以下で定義される。
【数1】

【0016】
【図5】投与後48時間における高分子ミセル複合体の毒性比較(MTT assay)の結果を示す図である。
【図6】高分子ミセル複合体注入後1、24、48時間後の血漿中のPt及びGd量(%dose)を示す図である。
【図7】腫瘍組織に対するin vivo MRI実験の結果を示す図(MRI像)である。造影剤ミセルを注射後30分で造影効果が認められ、その効果は240分まで持続することが確認された。
【図8】腫瘍組織内における高分子ミセル複合体とフリーのGd-DTPAとの造影効果の比較結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。なお、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0018】

1.高分子ミセル複合体
本発明は、高い血中滞留性と腫瘍組織への選択的かつ持続的なデリバリー性能とを有する高分子ミセルによるドラッグデリバリーシステムに着目し、当該高分子ミセル内にMRI造影能を有する金属錯体をより一層効率的に内包させるための、高分子ミセル複合体を提供するものである。
本発明の高分子ミセル複合体は、非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントとカチオン性のポリマー鎖セグメントとを含むブロック共重合体(A)と、金属原子(M)と、MRI造影能を有する金属錯体(B)とを含んでなるものである。なお、本発明においては、便宜上、上記各ポリマー鎖セグメントには、いわゆるオリゴマー鎖の範疇に入るセグメントも包含されるものとする。
【0019】
(1) ブロック共重合体(A)
ブロック共重合体(A)中、非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントとしては、限定はされないが、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ(2−メチル−2−オキサゾリン)、ポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)、ポリ(2−イソプロピル−2−オキサゾリン)、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ヒドロキシエチル及びポリ(メタクリル酸ヒドロキシエチル)からなる群より選ばれる水溶性ポリマーに由来するものが好ましく挙げられ、中でも、PEGに由来するものがより好ましい。当該非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントは、親水性であることから優れた生体適合性を本発明の高分子ミセル複合体に付与するものである。
ブロック共重合体(A)中、カチオン性のポリマー鎖セグメントとしては、限定はされないが、例えば、側鎖にカチオン性基を有するポリペプチドに由来するものが好ましく挙げられる。当該カチオン性のポリマー鎖セグメントは、金属原子(M)の脱離を抑制し、MRI造影能を有する金属錯体(B)の安定性を向上させる効果を本発明の高分子ミセル複合体に付与するものである。
【0020】
ブロック共重合体(A)としては、具体的には、下記一般式(I)及び(II)で示されるものが例示できる。
【化10】

ここで、一般式(I)及び(II)の構造式中、繰り返し単位数(重合度)が「m」のセグメントがPEG由来の非荷電性親水性ポリマー鎖セグメント(以下、PEGセグメント)であり、繰り返し単位数が「n−y−z」の部分と「y」の部分と「z」の部分とを合わせたセグメントがポリカチオン由来のカチオン性ポリマー鎖セグメント(以下、ポリカチオンセグメント)である。
【0021】
上記一般式(I)及び(II)中、R1a及びR1bは、それぞれ独立して水素原子又は未置換もしくは置換された直鎖もしくは分枝のC1-12アルキル基を表す。直鎖もしくは分枝のC1-12としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、デシル、ウンデシル等を挙げることができる。また置換された場合の置換基としては、アセタール化ホルミル基、シアノ基、ホルミル基、カルボキシル基、アミノ基、C1-6アルコキシカルボニル基、C2-7アシルアミド基、同一もしくは異なるトリ−C1-6アルキルシロキシ基、シロキシ基又はシリルアミノ基を挙げることができる。ここで、アセタール化とは、ホルミルのカルボニルと、例えば、炭素数1〜6個のアルカノールの2分子又は炭素原子数2〜6個の分岐していてもよいアルキレンジオールとの反応によるアセタール部の形成を意味し、当該カルボニル基の保護方法でもある。例えば、置換基がアセタール化ホルミル基であるときは、酸性の温和な条件下で加水分解して他の置換基であるホルミル基(−CHO:又はアルデヒド基)に転化できる。
【0022】
上記一般式(I)及び(II)中、L1及びL2は、連結基を表す。具体的には、L1は−(CH2b−NH−(ここで、bは1〜5の整数である)であることが好ましく、L2は−(CH2c−CO−(ここで、cは1〜5の整数である)であることが好ましい。
上記一般式(I)及び(II)中、R2a、R2b、R2c及びR2dは、それぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表す。R2a及びR2bのいずれもがメチレン基の場合はポリ(アスパラギン酸誘導体)に相当し、エチレン基の場合はポリ(グルタミン酸誘導体)に相当し、また、R2c及びR2dのいずれもがメチレン基の場合はポリ(アスパラギン酸誘導体)に相当し、エチレン基の場合はポリ(グルタミン酸誘導体)に相当する。これらの一般式中、R2a及びR2b(R2b及びR2a)がメチレン基及びエチレン基の両者を表す場合、及びR2c及びR2d(R2d及びR2c)がメチレン基及びエチレン基の両者を表す場合、アスパラギン酸誘導体およびグルタミン酸誘導体の反復単位は、それぞれブロックを形成して存在するか、あるいはランダムに存在できる。
【0023】
上記一般式(I)及び(II)中、R3は、水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表す。具体的には、R3は、アセチル基、アクリロイル基又はメタクリロイル基であることが好ましい。
上記一般式(I)及び(II)中、R4は水酸基、オキシベンジル基、−NH−(CH2a−X基又は開始剤残基を表す。ここで、aは1〜5の整数であり、Xは、一級、二級、三級アミン又は四級アンモニウム塩の内の1種類又は2種類以上を含むアミン化合物残基、又は、アミンでない化合物残基であることが好ましい。さらには場合により、R4が−NH−R9(ここで、R9は未置換又は置換された直鎖又は分枝のC1-20アルキル基を表す)であることが好ましい。
【0024】
上記一般式(I)及び(II)中、R5a、R5b、R5c及びR5dは、それぞれ独立して水酸基、オキシベンジル基、−NH−(CH2a−X基を表す。ここで、aは1〜5の整数であり、Xは、一級、二級、三級アミン又は四級アンモニウム塩の内の1種類又は2種類以上を含むアミン化合物残基、又は、アミンでない化合物残基であることが好ましい。
5aとR5bとの総数及びR5cとR5dとの総数のうち、−NH−(CH2a−X基(ここで、Xは(NH(CH22e−NH2(但しeは1〜5の整数)である)であるものが、少なくとも2つ以上存在することが好ましく、上記総数の50%以上存在することがより好ましく、上記総数の85%以上存在することがさらに好ましい。
また、R5a、R5b、R5c及びR5dのすべて又は一部が、−NH−(CH2a−X基(ここで、aは2であり、Xは(NH(CH22e−NH2(但しeは1)である)ことが好ましい。
【0025】
さらに、R4並びにR5a、R5b、R5c及びR5dの例示として上記した−NH−(CH2a−X基において、Xが下記の各式で表される基から選ばれるものである場合が特に好ましい。
【化11】

ここで、上記の各式中、X2は、水素原子又はC1-6アルキル基もしくはアミノC1-6アルキル基を表し、R7a、R7b及びR7cは、それぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、d1、d2及びd3は、それぞれ独立して1〜5の整数を表し、e1、e2及びe3は、それぞれ独立して1〜5の整数を表し、fは、0〜15の整数を表し、gは0〜15の整数を表し、R8a及びR8bは、それぞれ独立して水素原子又は保護基を表す。ここで、当該保護基は、通常アミノ基の保護基として用いられているZ基、Boc基、アセチル基及びトリフルオロアセチル基からなる群より選ばれる基であることが好ましい。
【0026】
上記一般式(I)及び(II)中、R6a及びR6bは、それぞれ独立して水素原子又は保護基であり、ここで保護基は通常アミノ基の保護基として用いられているZ基、Boc基、アセチル基、及びトリフルオロアセチル基からなる群より選ばれ、
上記一般式(I)及び(II)中、mは5〜20,000の整数である。また、nは2〜5,000の整数であり、yは0〜5,000の整数であり、zは0〜5,000の整数である。但し、yとzとの合計(y+z)は、nより大きくないものとする。
上記一般式(I)及び(II)における各繰り返し単位は、記載の便宜上特定した順で示しているが、各繰り返し単位はランダムな順で存在することができる。
【0027】
上記一般式(I)及び(II)で示されるブロック共重合体の分子量(Mw)は、限定はされないが、23,000〜45,000であることが好ましく、より好ましくは28,000〜34,000である。また、個々のセグメントについては、PEGセグメントの分子量(Mw)は、8,000〜15,000であることが好ましく、より好ましくは10,000〜12,000であり、ポリカチオンセグメントの分子量(Mw)は、全体で15,000〜30,000であることが好ましく、より好ましくは18,000〜22,000である。
上記一般式(I)及び(II)で示されるブロック共重合体の製造方法は、限定はされないが、例えば、R1aO−又はR1bO−とPEG鎖のブロック部分とを含むセグメント(PEGセグメント)を予め合成しておき、このPEGセグメントの片末端(R1aO−又はR1bO−と反対の末端)に、所定のモノマーを順に重合し、その後必要に応じて側鎖をカチオン性基を含むように置換又は変換する方法、あるいは、上記PEGセグメントと、カチオン性基を含む側鎖を有するブロック部分とを予め合成しておき、これらを互いに連結する方法などが挙げられる。当該製法における各種反応の方法及び条件は、常法を考慮し適宜選択又は設定することができる。上記PEGセグメントは、例えば、WO 96/32434号公報、WO 96/33233号公報及びWO 97/06202号公報等に記載のブロック共重合体のPEGセグメント部分の製法を用いて調製することができる。
【0028】
一般式(I)及び(II)で示されるブロック共重合体の、より具体的な製造方法としては、例えば、末端にアミノ基を有するPEGセグメント誘導体を用いて、そのアミノ末端に、β-ベンジル-L-アスパルテート(BLA)及びNε-Z-L-リシン等の保護アミノ酸のN-カルボン酸無水物(NCA)を重合させてブロック共重合体を合成し、その後、各セグメントの側鎖が前述したカチオン性基を有する側鎖となるように、ジエチレントリアミン(DET)等で置換又は変換する方法が好ましく挙げられる。
本発明において、一般式(I)及び(II)で示されるブロック共重合体の具体例としては、例えば、後述する実施例に記載の、PEG-poly[N-[N'-(2-aminoethyl)-2-aminoethyl)]aspartamide](PEG-PAsp(DET))や、PEG-ポリリジン(PEG-P(Lys))等が好ましく挙げられ、中でもPEG-PAsp(DET)がより好ましい。
PEG-PAsp(DET)としては、PEGセグメントの分子量(MW):12,000,Asp(DET)ユニット数:65であるもの(PEG-PAsp(DET)12-65)が特に好ましい。PEG-PAsp(DET)においては、アミノ基はAsp(DET) 1ユニットに対して2つ存在する。
また、PEG-P(Lys)としては、PEGセグメントの分子量(MW):12,000,Lys ユニット数:45であるものが特に好ましい。
【0029】
(2) MRI造影能を有する金属錯体(B)
金属錯体(B)としては、MRI造影能を有する金属錯体(これに由来する錯体化合物も含む)であればよく、限定はされないが、例えば、ガドリニウム、ユーロピウム、マンガン、鉄又は銅を中心金属原子とする金属錯体が好ましく挙げられる。当該金属錯体としては、多座配位子との金属錯体であることが好ましく、また、当該多座配位子が、アミノカルボン酸系若しくはリン酸系化合物、ポルフィリン系化合物、又はデフェリオックスアミンBであることがより好ましい。さらに、多座配位子としてのアミノカルボン酸系若しくはリン酸系化合物としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ビスメチルアミド、トリエチレンテトラミン六酢酸、ベンジロキシプロピオニック五酢酸、エチレングリコールテトラミン四酢酸、テトラアザシクロドデカン四酢酸、テトラアザシクロドデカン三酢酸、ジヒドロキシヒドロキシメチルプロピルテトラアザシクロドデカン三酢酸、ヒドロキシプロピルテトラアザシクロドデカン三酢酸、及びテトラアザシクロドデカン四リン酸等が好ましく挙げられ、中でも、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ビスメチルアミド、テトラアザシクロドデカン四酢酸、及びヒドロキシプロピルテトラアザシクロドデカン三酢酸がより好ましい。
【0030】
ここで、MRI造影能を有する金属錯体(B)としては、具体的には、例えば、下記一般式(8)、(9)、(10)及び(11)で示される金属錯体が好ましく挙げられ、中でも下記式(8)、(9)及び(10)で示される金属錯体がより好ましく、下記式(8)で示される金属錯体が特に好ましい。
【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

〔式(8)、(9)、(10)及び(11)中、M1はガドリニウム、ユーロピウム、マンガン、鉄又は銅の金属原子を表す。〕
【0031】
また、MRI造影能を有する金属錯体(B)としては、より具体的には、下記式(8-a)、(9-a)、(10-a)及び(11-a)で示される金属錯体が好ましく例示でき、中でも下記式(8-a)、(9-a)及び(10-a)で示される金属錯体がより好ましく、下記式(8-a)で示される金属錯体が特に好ましい。
【化16】

【化17】

【化18】

【化19】

【0032】
(3) 金属原子(M)
金属原子(M)としては、限定はされないが、無毒、又は低毒性(実質的に無毒であることが好ましい)の金属イオン化合物(C)由来の金属原子であることが好ましく、詳しくは、金属イオン化合物(C)の中心金属原子由来の金属原子であることが好ましい。具体的には、金属原子(M)としては、白金、銅、金、鉄、亜鉛又は銀であることがより好ましく、特に好ましくは白金である。
金属原子(M)が白金である場合、金属イオン化合物(C)としては、例えば、K2PtCl4、Na2PtCl4及び(NH4)2PtCl4が好ましく挙げられ、中でも、K2PtCl4は、無毒である上、水溶性のため高分子ミセル複合体の調製が容易となり、特に好ましい。
金属原子(M)が銅である場合、金属イオン化合物(C)としては、例えば、CuCl、CuCl2、CuBr及びCuBr2が好ましく挙げられ、中でもCuCl2及びCuBr2がより好ましく、CuCl2がさらに好ましい。
【0033】
金属原子(M)が金である場合、金属イオン化合物(C)としては、例えば、KAuCl4、KAuBr4、NaAuCl4、NaAuBr4及びNH4AuCl4が好ましく挙げられ、中でもNaAuCl4がより好ましい。
金属原子(M)が鉄である場合、金属イオン化合物(C)としては、例えば、FeCl2、FeCl3、FeBr2及びFeBr3が好ましく挙げられ、中でもFeCl3がより好ましい。
金属原子(M)が亜鉛である場合、金属イオン化合物(C)としては、例えば、ZnCl2及びZnBr2が好ましく挙げられ、中でもZnCl2がより好ましい。
金属原子(M)が銀である場合、金属イオン化合物(C)としては、例えば、AgCl及びAgBrが好ましく挙げられ、中でもAgClがより好ましい。
【0034】
本発明においては、金属原子(M)を前記金属錯体(B)とともに前記ブロック共重合体(A)から構成される高分子ミセルに内包させることにより、当該ミセル内への金属錯体(B)の導入効率(内包効率)を格段に高めることができる。これにより、本発明の高分子ミセル複合体をMRI造影剤(MRI造影用組成物)として用いた場合に、極めて高い造影コントラストを達成することができ、結果として、MRI造影検査における必要投与量をより一層抑える(少なくする)ことが可能となる。ひいては、金属錯体(B)による副作用を効果的に低減することができ、安全性に優れたMRI造影を実施することができる。
また、本発明においては、上述の通り、金属原子(M)そのものも無毒又は低毒性の金属イオン化合物(C)由来の金属原子とすることができるため、本発明の高分子ミセル複合体は、使用対象範囲を大幅に拡大することも可能であり、具体的には、健常者も含めた腫瘍と診断される前の被験者等にも使用できるため、腫瘍の存在診断に大きく貢献し得るものである。
【0035】
(4) 高分子ミセル複合体
本発明の高分子ミセル複合体の製造方法は、限定はされないが、例えば、予め、MRI造影能を有する金属錯体(B)と、金属原子(M)を含有する金属イオン化合物(C)とを水性媒体中にて混合しておき(好ましくは金属錯体(B)と金属原子(M)との複合体を形成しておき)、ここに前述したブロック共重合体(A)を加えて、高分子ミセル形成の反応をさせる方法が好ましい。
当該製造方法における反応条件としては、目的の高分子ミセル複合体が得られる限り、どのように条件を設定してもよく、例えば、ブロック共重合体(A)、金属錯体(B)、及び金属原子(M)(金属イオン化合物(C))の使用量等を、適宜設定することができる。また、反応温度は、限定はされないが、例えば5〜60℃であることが好ましい。さらに、反応溶媒となる水性媒体としては、水(特に、脱イオン水)又は各種無機もしくは有機緩衝剤、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、エタノール等の水混和有機溶媒を、本発明の複合体の形成反応に悪影響を及ぼさない範囲で含んでいてもよい。調製した高分子ミセル複合体の単離及び精製は、常法により、水性媒体中から回収することができる。典型的な方法としては、限外濾過法、ダイアフィルトレーション、透析方法が挙げられる。
【0036】
本発明の高分子ミセル複合体の形態としては、例えば、前述したブロック共重合体(A)の非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントをシェル部分とし、カチオン性のポリマー鎖セグメントをコア部分として形成されたミセル状粒子に、金属原子(M)とMRI造影能を有する金属錯体(B)とが内包された形態のものが好ましく挙げられる。通常、水性媒体(水性溶媒)中においては、本発明の高分子ミセル複合体は、凝集して、可溶化した高分子ミセル状の形態を形成し得る。非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントは、その親水性のためミセル粒子の表面側のシェル部分を構成し、カチオン性のポリマー鎖セグメントは疎水性ポリマー鎖のセグメントであるため、ミセル粒子の内部側のコア部分を構成する。金属原子(M)と金属錯体(B)とは、カチオン性のポリマー鎖セグメントとともにミセル粒子の内部に内包された状態となり、ともにコア部分を形成している状態となる。
さらに、本発明の高分子ミセル複合体では、ミセルに内包されている金属錯体(B)(例えばガドリニウム錯体等)は当該ミセルを構成するブロック共重合体(A)と結合(共有結合)して固定されてはおらず、この点で、ブロック共重合体と直接結合して固定されている従来公知の高分子ミセル型MRI造影剤(特開2008-222804号公報、国際公開第2006-003731号パンフレット 参照)とは構造的に異なるものである。また、この従来の高分子ミセル型MRI造影剤は、高分子ミセル複合体を形成している状態では内包しているガドリニウムの緩和能(造影剤の感度)が抑制されるが、この点においても、そのような抑制傾向が見られない本発明の高分子ミセル複合体とは明らかに物性が異なるものであると言える。
【0037】
本発明の高分子ミセル複合体は、水性媒体中における平均分散粒子径(動的光散乱法により測定)が、例えば、5nm〜10μmであることが好ましく、より好ましくは10nm〜200nmであり、さらに好ましくは20nm〜100nmである。
本発明の高分子ミセル複合体は、当該複合体1mgあたりの金属原子(M)の含有量が、例えば、0.001〜2μmolであることが好ましく、より好ましくは0.01〜1μmol、さらに好ましくは0.1〜0.7μmolである。また同様に、当該複合体1mgあたりの金属錯体(B)の含有量は、例えば、0.001〜1μmolであることが好ましく、より好ましくは0.01〜0.5μmol、さらに好ましくは0.01〜0.2μmolである。
【0038】

2.MRI造影用組成物
本発明においては、上述した本発明の高分子ミセル複合体を含むことを特徴とする、MRI造影用組成物(MRI造影用医薬組成物)が提供される。本発明の組成物は、MRI造影による癌(悪性腫瘍)の検出及び/又診断手段として使用することができ、ひいては治療手段の一つとして使用することもできる。腫瘍の種類は、限定はされず、公知の各種癌種を挙げることができる。
本発明の組成物において、前述した高分子ミセル複合体の含有割合は、限定はされず、MRI造影効果を勘案して適宜設定することができる。
本発明のMRI造影用組成物は、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、イヌ、ネコ等の各種動物に適用することができ、限定はされない。被験動物への投与方法は、通常、点滴静注などの非経口用法が採用され、投与量、投与回数及び投与期間などの各条件は、被験動物の種類及び状態等に応じて、適宜設定することができる。例えば、ヒトに静脈内投与をする場合の用量は、必要に応じて実験動物又はボランティアによる小実験を行い、それらの結果を考慮して、さらには患者の状態を考慮して専門医が決定するのが好ましいが、一般的には、1日1回、1.0〜10,000 mg/m2とすることができる。
【0039】
本発明のMRI造影用組成物は、MRI造影用という用途を勘案し、薬剤製造上一般に用いられる賦形材、充填材、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、潤滑剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤及び等張化剤等を適宜選択して使用することができる。
本発明においては、被験動物の体内に本発明の高分子ミセル複合体、又は本発明のMRI造影用組成物を投与することを特徴とする、腫瘍検出用MRI造影方法を提供することもできる。
【0040】

3.MRI造影用キット
本発明のMRI造影用キットは、前述した本発明の高分子ミセル複合体を含むことを特徴とする。当該キットは、前述した腫瘍検出用MRI造影方法に好ましく用いることができる。
当該キットにおいて、本発明の高分子ミセル複合体の保存状態は、限定はされず、その安定性(保存性)及び使用容易性等を考慮して、溶液状又は粉末状等の状態を選択できる。
本発明のMRI造影用キットは、前記高分子ミセル複合体以外に他の構成要素を含んでいてもよい。他の構成要素としては、限定はされないが、例えば、各種バッファー、防腐剤、分散剤、安定化剤、及び使用説明書(使用マニュアル)等を挙げることができる。

以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0041】
ポリエチレングリコール(以下、PEGという)−ポリアミノ酸ブロック共重合体により形成される高分子ミセルに、Pt(白金)原子とGd(ガドリニウム)錯体とを内包させて得られた、高分子ミセル複合体を調製した。
1.高分子ミセル複合体の調製
具体的には、まず1〜5 mMのK2PtCl4を25℃の蒸留水にて溶解し、その後1〜5 mMのgadolinium diethylene triamine pentaacetic acid(Gd-DTPA)を加えて、37℃で24時間震盪させて反応させ、PtとGd-DTPAとの複合体(以下、Pt/Gd-DTPAという)を作製した。次に、PEG-ポリアスパルタミドブロック共重合体(具体的には、PEG-poly[N-[N'-(2-aminoethyl)-2-aminoethyl)]aspartamide];PEGセグメントの分子量:12,000,Asp(DET)ユニット数:65, アミノ基はAsp(DET) 1ユニットに対して2つ存在する(以下、PEG-PAsp(DET)12-65という))を、アミノ基濃度で2.5〜5 mMとなるようにして加え、37℃で6時間震盪させた。その後、余剰のGd錯体(Gd-DTPA)、Pt錯体(K2PtCl4)、PEG-PAsp(DET)12-65を除去するため、Molecular weight cut off(以下、MWCOという)2,000の透析膜を使用し、透析(2時間、5回)を行った。さらに、MWCO 30,000のろ過装置を用いて限外濾過(3,000rpm、15min、5回)をかけ、0.22μmのフィルターを用いて粗大な凝集体を除去し、目的とする高分子ミセル複合体を得た。
【0042】
2.Gd錯体及びPt原子の内包量の評価
上記1.項で得られた高分子ミセル複合体に内包されたGd錯体(Gd-DTPA)の内包量を評価した。具体的には、Pt/Gd-DTPAの仕込み濃度と、加えるPEG-PAsp(DET)12-65の濃度とを変化させて高分子ミセル複合体を作製し、最も効率的にGd-DTPAを内包する濃度を探索した。高分子ミセル複合体に内包されるGd-DTPA及びPtの量は、当該ミセル複合体を2%硝酸に溶かし、1000〜10000倍希釈した後、イオンカップリングプラズママススペクトル(以下、ICP-MSという)(Hewlett Packard 4500)にて測定した。その結果、高分子ミセル複合体1mgあたりの、Pt含有量は0.277μmol、Gd-DTPA含有量は0.031μmolであった。
次いで、上記1.項とは別に、Pt/Gd-DTPAの仕込み濃度を5〜250mMまで施行し、PEG-PAsp(DET)12-65のアミノ基とPt/Gd-DTPAの仕込みの濃度との比(以下N/Ptという)をそれぞれ1, 0.5, 0.25の割合で変化させたときの、Gd-DTPAの内包量を測定した。その結果、Pt/Gd-DTPAの仕込み濃度及びPEG-PAsp(DET)12-65のアミノ基濃度が高いほどGd-DTPAの内包量が高いことが明らかとなった。また、Pt/Gd-DTPAの仕込み濃度が1〜5mMの場合、得られた高分子ミセル複合体に内包されたPtとGd-DTPAとの比(以下Pt/Gdという)は、Pt/Gd = 10程度であったのに対し、Pt/Gd-DTPAの仕込み濃度が125mMの場合は、Pt/Gd = 2〜3程度であった。よって、Pt/Gd-DTPAの仕込み濃度が高いほどPt/Gdの値も小さくなり、効率よくGd-DTPAを内包していることを確認した。
【0043】
なお、過剰のPt/Gd-DTPAが完全に除去できているかどうかを、透析の回数を比較して確認した。上述の方法と同様にし、5mM Pt/Gd-DTPAにPEG-PAsp(DET)12-65をN/Pt = 1, 0.5, 0.25で混合して、高分子ミセル複合体を形成した。MWCO 2,000の透析膜を使用し、透析(2時間、3回)を行った。さらに、MWCO 30,000のろ過装置を用いて限外濾過(3,000rpm、15min、3回)をかけ、0.22μmのフィルターを用いて粗大な凝集体を除去し、目的とする高分子ミセル複合体を得た。同様にして、MWCO 2,000の透析膜を使用し、透析(2時間、6回)を行った。さらに、MWCO 30,000のろ過装置を用いて限外濾過(3,000rpm、15min、6回)をかけ、0.22μmのフィルターを用いて粗大な凝集体を除去し、目的とする高分子ミセル複合体を得た。これらの高分子ミセル複合体におけるPt及びGd-DTPAの内包量をICP-MSで測定し比較を行った。結果は透析回数によりPt及びGd-DTPAの内包量に変化はなかったので、フリーのPtイオン及びGd-DTPAは完全に除去されていることを確認した。
【0044】
3.平均粒径の評価
上記2.項と同様に、PEG-PAsp(DET)12-65のアミノ基濃度と、Pt/Gd-DTPAの仕込み濃度との比(N/Pt)をそれぞれ1, 0.5, 0.25の割合で変化させることによって、高分子ミセル複合体の粒径が変化するかどうかを確認した。作製した高分子ミセル複合体の流体力学半径を、動的光散乱(DLS)測定(Zetasizer Nano ZS, Malvern Instruments)により測定した。その結果、当該高分子ミセル複合体の平均粒径は、いずれのN/Pt比の場合でも65〜70nmであり、Polydispersity Index(PdI)は、いずれのN/Pt比の場合でも0.05〜0.1であり、単分散であった(図1)。
【0045】
4.緩和能の評価
上記1.項で得られた高分子ミセル複合体の造影剤の感度を示す緩和能を測定したところ、r1=55.3 [mM-1・s-1]、r2=62.3 [mM-1・s-1]と、いずれもフリーのGd-DTPAよりも15倍以上(詳しくは約18〜19倍)高い緩和能を示した(フリーのGd-DTPAの緩和能:r1=3.1 [mM-1・s-1]、r2=3.3 [mM-1・s-1])(図4A,図4B)。なお、緩和能を示すr1及びr2は、それぞれR1及びR2と表記することもある。このことはPt/Gd-DTPA内包高分子ミセル複合体のMRI造影剤としての能力が、同濃度のGd-DTPAより15倍以上(詳しくは約18〜19倍)も高いことを意味し、極めて高いMRI造影コントラストを発揮し得るものであることが分かった。
【実施例2】
【0046】
<より高濃度のPt/Gd-DTPAの仕込み濃度での高分子ミセル複合体の作製>
40mMのK2PtCl4を25℃の蒸留水にて溶解し、その後40mMのGd-DTPAを加えて混合し、37℃で24時間震盪させて反応させ、20mM Pt/Gd-DTPAを得た。その後、アミノ基濃度が20mMのPEG-PAsp(DET)12-65を、Pt/Gd-DTPAと同体積ずつ混合し(10mM Pt/Gd-DTPA + 10mM PEG-PAsp(DET)12-65)、37℃で6時間間反応させた。その後、余剰のGd-DTPA、K2PtCl4、PEG-PAsp(DET)12-65の除去を、実施例1と同様にして行い、目的とするPt/Gd-DTPA内包高分子ミセル複合体を作製した。
得られた高分子ミセル複合体について、実施例1と同様にして各種測定等を行ったところ、粒径は68.8nm、PdIは0.085であった。また、ミセル1mgあたりのPt含有量は0.277μmol、Gd-DTPA含有量は0.031μmolであった。緩和能は、r1=55.3 [mM-1・s-1]、r2=62.3 [mM-1・s-1]であった。
【実施例3】
【0047】
<飽和に近いPt/Gd-DTPAの仕込み濃度での高分子ミセル複合体の作製>
500mMのK2PtCl4を25℃の蒸留水にて溶解し、その後500mMのGd-DTPAを加えて混合し、37℃で24時間震盪させて反応させ、250mM Pt/Gd-DTPAを得た。その後、アミノ基濃度が250mMのPEG-PAsp(DET)12-65を、Pt/Gd-DTPAと同体積ずつ混合し(125mM Pt/Gd-DTPA + 125mM PEG-PAsp(DET)12-65)、37℃で6時間間反応させた。その後、余剰のGd-DTPA、K2PtCl4、PEG-PAsp(DET)12-65の除去を、実施例1と同様にして行い、目的とするPt/Gd-DTPA内包高分子ミセル複合体を作製した。
得られた高分子ミセル複合体について、実施例1と同様にして各種測定等を行ったところ、粒径は42.1nm、PdIは0.103であった。また、ミセル1mgあたりのPt含有量は0.508μmol、Gd-DTPA含有量は0.199μmolであった。緩和能は、r1=51.5 [mM-1・s-1]、r2=55.7 [mM-1・s-1]であった。
【実施例4】
【0048】
実施例1の1.項で得られた高分子ミセル複合体の血中安定性を、生理環境下でのミセルの散乱光強度を測定することで評価した。一定量のミセルにpH7.4、10mMPBS+150mM NaClを加え、経時的に散乱光強度(Zetasizer Nano ZS, Malvern Instruments)を測定した(図2)
その結果、高分子ミセルを形成するブロック共重合体としてPEG-ポリグルタミン(PEG-P(Glu))を用いた場合(対照)は、40時間で80%以上のintensityの経時的減少が見られたが、ブロック共重合体としてPEG-P(Asp)DET12-65やPEG-ポリリジン(PEG-P(Lys))を用いた場合は、少なくとも150時間までintensityの減少は認められず、血中滞留性(血中安定性)に優れたものであった。
なお、上記PEG-P(Glu)は、PEGセグメントの分子量:12,000,Gluユニット数:20からなるものであり、上記PEG-P(Lys)は、PEGセグメントの分子量:12,000,Lysユニット数:45, アミノ基はLys 1ユニットに対して1つ存在するものである。PEG-P(Glu)やPEG-P(Lys)を用いた高分子ミセル複合体は、実施例1の1.項において、PEG-P(Asp)DET12-65の代わりにPEG-P(Glu)又はPEG-P(Lys)を用いて作製した。
【実施例5】
【0049】
高分子ミセル複合体からの、内包物(Pt、Gd-DTPA)のリリース挙動を測定した。高分子ミセルを形成するブロック共重合体としてPEG-P(Asp)DET12-65を用いた場合(実施例1の1.項参照)と、PEG-P(Glu)を用いた場合(対照;実施例4参照)の、高分子ミセル複合体について測定を行った。
具体的には、20mM,pH7.4 PBS+300mM NaCl溶液 1mlと、2mg/ml 高分子ミセル複合体溶液1mlとを混合し、MWCO 6,000の透析膜に封入した。これを10mM,pH7.4 PBS+150mM NaCl溶液99ml内に入れ、透析膜の外側の溶液を経時的にサンプリングして含有するGd及びPt量をICP-MSにて測定した。
その結果、PEG-P(Glu)を用いた高分子ミセル複合体では、Ptは緩徐に放出されるのに対し、Gdは20時間で50%が放出された。これに対し、PEG-P(Asp)DET12-65を用いた高分子ミセル複合体では、Ptの放出は150時間の間にほとんど認められず、Gdの放出も10%にとどまった(図3)。
【実施例6】
【0050】
投与後48時間における高分子ミセル複合体の毒性について、MTT assayを用いて評価した。具体的には、C-26マウス大腸癌細胞を105 cell/mlとなるように培養し、この培養液に、10段階に濃度を調整した薬剤を添加した。薬剤としては、PEG-P(Asp)DET12-65を用いた高分子ミセル複合体と、PEG-P(Asp)DET12-65ブロック共重合体とを用い、これらはポリマー濃度を基準として同一濃度となるように調整したものを使用した。薬剤添加後、37℃、CO2インキュベータ内で48時間培養した後、luminescenceを加え、30分振盪後、Cell Counterで生存細胞数をカウントした。生存細胞数が、薬剤添加前の半分となる薬剤濃度を同定し、これをIC50とした。
その結果、IC50は、PEG-P(Asp)DET12-65を用いた高分子ミセル複合体を添加した場合は1000mMであり、ブロック共重合体(PEG-P(Asp)DET12-65)のみを添加した場合と比較して同程度であることから、Pt自体の毒性は認められないことが確認された(図5)。
【実施例7】
【0051】
高分子ミセル複合体の体内動態を調べることを目的として、in vivo実験を行った。
C-26マウス大腸癌細胞を皮下移植したCDF1マウス(雌、6週齢)に、実施例1の1.項で得られた高分子ミセル複合体を尾静脈投与して1時間後、24時間後、48時間後にそれぞれ腫瘍を摘出し、下大静脈より0.1mlの血液を採取した。これらの組織内に含まれるGd、Pt濃度を測定するため、90% HNO3にてこれらの組織を溶解した後、加熱乾燥させ、蒸留水にて溶解及び希釈後、その溶液内のGd、Pt含有量をICP-MSにより測定した。
図6に、高分子ミセル複合体の注入後1、24、48時間後の、血漿中及び腫瘍中のPt、Gd量(%dose)を示した。その結果、注入後24時間でもGdは5%程度認められ、48時間後でも2%程度認められる。またPtは48時間後も10%程度認められるため、高い血中滞留性を有していた。
【実施例8】
【0052】
実施例1の1.項で得られた高分子ミセル複合体を用いて、in vivo MRI実験を行った。C-26マウス大腸癌細胞を皮下移植したCDF1マウス(雌、6週齢)を用いて撮像した。MRIは、4.7Tesla Superconductive Magnet Unit(Varian, Palo Alto, CA)VXR-MRI Consoleを用いて撮像した。撮像条件は、repetition time(TR): 500ms、echo time(TE): 15ms、field of view(FOV): 32mm x 32mm、matrix size: 128 x 128、slice thickness: 2mmで行い、Spin Echo T1wイメージを撮像した。マウスは5%イソフルレンによる吸入麻酔にて導入を行い、撮像中は1.2%イソフルレンにて維持麻酔をかけた。0.2mlのPt/Gd-DTPA内包高分子ミセル複合体(Gd濃度: 500μM)を尾静注し、マウスをコンソール内に固定した。ファントムコントロールとして蒸留水入りの1mlシリンジを同時に撮像した。撮像は尾静注後の最初の1時間は5分おきに行い、その後は15分おきに約4時間行った。また、コントロールとしてフリーのGd-DTPAを同量尾静注し、同様の方法で撮像を行った。
得られた画像はMathematica (Wolfram Research Inc.) 及びExcel (Microsoft, Inc.) によって解析を行った。
【0053】
以上の結果、高分子ミセル複合体を尾静注後30分で造影効果(腫瘍の信号強度の増加)が認められ、その効果は240分まで持続することが確認された。また、フリーのGd-DTPAと比較し、高分子ミセル複合体の方が造影効果が高く、またその造影効果は少なくとも4時間持続することが確認された(図7,8)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントとカチオン性のポリマー鎖セグメントとを含むブロック共重合体(A)と、金属原子(M)と、MRI造影能を有する金属錯体(B)とを含んでなる、高分子ミセル複合体。
【請求項2】
金属原子(M)が、無毒又は低毒性の金属イオン化合物由来の金属原子である、請求項1記載の複合体。
【請求項3】
金属原子(M)が、金属イオン化合物の中心金属原子由来の金属原子である、請求項2記載の複合体。
【請求項4】
金属イオン化合物が、K2PtCl4、FeCl3、NaAuCl4、CuCl2、CuBr2、ZnCl2又はAgClである、請求項2又は3記載の複合体。
【請求項5】
金属原子(M)が、白金、銅、金、鉄、亜鉛又は銀である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項6】
金属錯体(B)が、ガドリニウム、ユーロピウム、マンガン、鉄又は銅を中心金属原子とする金属錯体である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項7】
金属錯体(B)が、下記一般式(8)、(9)、(10)又は(11)で示されるものである、請求項1〜のいずれか1項に記載の複合体。
【化20】

【化21】

【化22】

【化23】

【請求項8】
金属錯体(B)が、下記式(8-a)、(9-a)、(10-a)又は(11-a)で示されるものである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合体。
【化24】

【化25】

【化26】

【化27】

【請求項9】
ブロック共重合体(A)中、非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントが、ポリエチレングリコール、ポリ(2−メチル−2−オキサゾリン)、ポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)、ポリ(2−イソプロピル−2−オキサゾリン)、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ヒドロキシエチル及びポリ(メタクリル酸ヒドロキシエチル)からなる群より選ばれる水溶性ポリマーに由来するものである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項10】
ブロック共重合体(A)が、下記一般式(I)又は(II)で示されるものである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の複合体。
【化28】

〔一般式(I)及び(II)中、R1a及びR1bはそれぞれ独立して水素原子又は未置換もしくは置換された直鎖もしくは分枝のC1-12アルキル基を表し、L1及びL2は連結基を表し、R2a及びR2bはそれぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表し、R3及びR4は水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表し、R5a、R5b、R5c及びR5dはそれぞれ独立して水酸基、オキシベンジル基、又はNH−(CH2a−X基を表し(ここで、aは1〜5の整数であり、Xはそれぞれ独立して一級、二級、三級アミン又は四級アンモニウム塩の内の一種類又は二種類以上を含むアミン化合物残基であるか、あるいはアミンでない化合物残基である)、R5aとR5bとの総数及びR5cとR5dとの総数のうち、−NH−(CH2a−X基(ここで、Xは(NH(CH22e−NH2であり、eは1〜5の整数である)が少なくとも2つ以上存在し、R6a及びR6bはそれぞれ独立して水素原子又は保護基(ここで、保護基は通常アミノ基の保護基として用いられているZ基、Boc基、アセチル基又はトリフルオロアセチル基である)であり、mは5〜20,000の整数であり、nは2〜5,000の整数であり、yは0〜5,000の整数であり、zは0〜5,000の整数であり、y+zはnより大きくないものとし、また、一般式(I)及び(II)における各繰り返し単位は記載の便宜上特定した順で示しているが、各繰り返し単位はランダムな順で存在することができる。〕
【請求項11】
前記ブロック共重合体(A)の非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントをシェル部分とし、カチオン性のポリマー鎖セグメントをコア部分として形成されたミセル状粒子に、前記金属原子(M)及び前記金属錯体(B)が内包されてなる、請求項1〜10のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項12】
前記金属原子(M)及び前記金属錯体(B)は、前記カチオン性のポリマー鎖セグメントとともにミセル状粒子のコア部分を形成してなる、請求項11記載の複合体。
【請求項13】
水性媒体中における動的光散乱法により測定した平均分散粒子径が10nm〜0.2μmである、請求項1〜12のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の複合体を含むことを特徴とする、MRI造影用組成物。
【請求項15】
被験動物の体内に請求項1〜13のいずれか1項に記載の複合体を投与することを特徴とする、腫瘍検出用MRI造影方法。
【請求項16】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の複合体を含むことを特徴とする、MRI造影用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−197323(P2012−197323A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169671(P2009−169671)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】