説明

MS及び同時無走査MS/MS用の飛行距離スペクトロメーター

様々なイオン質量間における分解能を、時間ではなく、空間において実現する飛行距離(DOF)による質量分析法である。別個の検出器が、それぞれのイオン質量分解能要素と関連付けられている。このDOF質量分析計は、タンデム構成における1つの要素として機能可能であり、これは、ソースから抽出されたイオンのそれぞれの群ごとに完全な2次元前駆/生成スペクトルを生成する能力を具備している。保存装置(22、23)にイオン抽出電圧パルスを印加するイオン保存装置(21)手段と、無電界領域と、検出器(29)と、を具備する飛行距離(DOF)質量アナライザを、前駆及び生成分散のための飛行時間(TOF)質量分析と組み合わせて使用する。すべての前駆イオンが、それぞれの生成m/z値の生成源である特定の前駆m/z値に関する不可欠な情報を依然として保持しつつ、質量変化反応を同時に経験することができる。2次元検出器を使用することにより、分析対象のイオンのそれぞれのバッチごとに、すべての前駆イオンからのすべての生成イオンを検出可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(同時係属特許出願に対する相互参照)
本出願は、2003年3月20日付けで出願された仮特許出願第60/456,269号の優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、質量対電荷比に関連した所与の時間におけるイオンの飛行距離に基づいた質量分析用の質量分析計に関するものである。これは、飛行時間質量分析に通常必要とされる高速電子回路が不要であるという利点を具備している。この質量分析計をタンデム構成にすることにより、前駆スペクトルと生成スペクトルの同時収集を実現することができる。
【0003】
このタンデム質量分析計(MS/MS)構成において、ソース内で生成されたすべてのイオンの完全な(MS/MS)スペクトルを同時生成することにより、生物医学的研究、薬剤供給、環境分析、及びその他のアプリケーションに適用される質量分光測定分析の効率と速度が向上する。
【背景技術】
【0004】
飛行時間質量分析計は、真空中において、異なる質量対電荷比(m/z)のイオンが電界によって加速された際に獲得する速度の差に基づいたものである。この速度を計測するための一般的な構成は、飛行経路の端部に検出器を配置し、加速の後にイオンが検出器に到達するのに要する時間を判定するというものである。従って、加速領域と検出器間における距離をd、加速と検出の時点間における飛行時間をtとすると、速度vは、v=d/tとなる。すべてのイオンについて距離が同一であるため、それぞれの到着時間は異なり、まず、小さなm/zのイオンが到着し、大きなm/zのイオンは後から到着することになる。この方法は、「飛行時間(Time−Of−Flight:TOF)」質量分析と呼ばれている。
【0005】
従来の線形TOF装置の場合には、イオンは、無電界領域を横断し、この端部において、そのm/z値の順番に検出器に到達することになる。そして、この「検出器信号の強度」対「時間」を記録し、質量スペクトルとして提示している。
【0006】
質量分析計には、単一の検出器を有する走査質量対電荷比(m/z)フィルタ(例:4重極又はセクタ質量アナライザ)、単一の検出器を有するバッチm/zソーター(例:イオントラップ、FTMS装置、又は飛行時間質量アナライザ)、又は複数の検出器を有するm/z空間分散装置(例:線形検出器アレイを有する磁気セクタ)のいずれかを使用可能である。但し、完全なスペクトル情報を必要とする場合には、走査フィルタ装置の効率は極小化される。この理由は、それぞれの状況においてフィルタが設定されているm/z値を具備したイオンを検出する一方で、サンプルイオンビームの大多数の部分を無視することになるためである。
【0007】
一方、バッチm/zソーティング装置の場合には、サンプルの消費形態をパルス化してサンプルイオンの新しいバッチの導入とタイミングを一致させることにより、その効率が極大化される。クロマトグラフィー検出におけるように、サンプルが、連続ストリームとして到来する場合には、装置のデューティサイクルが、その効率に影響を及ぼすことになる。デューティサイクルとは、装置がサンプルを最終的に検出可能なイオンに変換可能な時間の比率である。このような連続サンプルストリームを分析するバッチ装置のデューティサイクルは、多くの場合に、連続的なサンプルのイオン化とイオンバッチの導入間におけるイオン保存の組み合わせにより、改善することができる。
【0008】
質量分析の有用性は、2つ(又は、これを上回る数)の質量分析段階をタンデム構成によって実行することにより、大幅に向上させることができる。この2段階の装置が、MS/MS装置であり、この場合には、2つ(又は、これを上回る数)の独立した質量分析を順番に実行することになる。MS/MSの最も頻繁に使用される形態によれば、質量分析の第1段階において、ソースで形成された様々なm/z値のすべてのイオンの中から特定のm/z値のイオンを選択する。そして、この選択されたイオン(これを前駆イオンと呼ぶ)に対して、(通常は、中性ガス分子との衝突によって)エネルギーを供給することにより、イオンの解離を引き起こす。そして、この解離によるイオン生成物を、質量分析の第2段階において、生成イオンの質量スペクトルとしてソートするのである。
【0009】
このようなタンデム質量分析計は、空間内において連続動作する複数の質量アナライザ(Reinhold及びVerentchikov 2002)、又は時間軸上で連続動作する単一の質量アナライザから構成されている。そして、この質量分析の2つの段階の間においては、衝突解離などのなんらかの質量変化反応をイオンに適用することにより、分析対象である異なるm/z値の分布を後続の質量アナライザに供給しなければならない。サンプルから生成されるイオンの分布は、前駆質量スペクトルと呼ばれ、これは、非タンデム装置内において生成されるものと同一のスペクトルである。そして、このそれぞれの前駆イオンのエンティティごとに、生成イオンスペクトルと呼ばれる反応生成イオンの分布が存在することになるのである。
【0010】
前駆m/z値と生成m/z値の組み合わせとして表現されるイオンは、前駆m/z値のみの場合と比べて、特定の検体を更に限定することになるため、タンデム質量分析計によれば、検出の特定性が大幅に向上することになる。この2つのm/z値のすべての組み合わせにおけるイオン強度を計測することにより、3次元配列(「前駆m/z」対「生成m/z」対「強度」)のデータが生成される。そして、このようなデータセットから、分子を事前に分離することなしに、イオンの混合物を解明し、個々の化合物に関する大量の構造情報を取得することができる。従って、このようなMS/MSの開発は、質量分析のすべての適用領域における質量分析の分析的有用性に対して非常に大きな影響を及ぼしている。
【0011】
但し、完全なMS/MSスペクトル(それぞれの前駆m/z値ごとのすべての生成m/zの強度)を取得するには、相当な量のサンプルと時間を必要とすることになる。2つの質量アナライザが走査装置であれば、すべての前駆/生成m/zの組み合わせにおけるイオン強度を別個に計測しなければならない。この結果、すべての走査装置に固有の問題であるサンプル使用効率の問題が悪化することになる。
【0012】
一方、2つの質量アナライザが、イオントラップ及びFTMS装置のように、連続的に使用される同一の装置である場合には、前駆質量スペクトル内の特定のm/z値を具備するイオンを分離し、反応させた後に、生成イオンの質量スペクトルを取得することになる(Roussis 2001)。このプロセスは、前駆質量スペクトル内のそれぞれのm/z値ごとに反復しなければならない。そして、この一連の作業に必要とされる時間のために、バッチ装置のデューティサイクルの非効率性が悪化することになる。従って、完全な単一MSスペクトルの生成においては、質量フィルタアナライザ(線形4重極及びセクタアナライザ)よりも、バッチ質量アナライザ(例:飛行時間質量分析(TOF)、イオントラップ質量分析(ITD)、フーリエ変換質量分析(FTMS))のほうが、高いサンプル利用効率と高速のスペクトル生成レートを具備している。
【0013】
ITD及びFTMSは、いずれもバッチ技法であり、イオンを分析用の「バッチ」として取得し、このバッチ内のすべてのイオンを検出することにより、それぞれのバッチごとに完全なスペクトルを生成可能である。MS/MS用に独立的に使用した場合には、所望のm/zを有するものを除いて、バッチ内のすベてのイオンを排出し、この同一のセル内において、この選択されたイオンに衝突フラグメント化を経験させ、このフラグメント化により、生成スペクトルに含まれるイオンを生成する。前駆イオンの選択と生成イオンスペクトルの生成のために同一のセルを使用しているため、この技法は、しばしば、「時間的タンデム構成」と呼ばれている。尚、ITDの場合には、セル内におけるイオンの閉じ込めのためにRF電圧を使用し、FTMSの場合には、強力な磁場を使用している。又、これらは、異なるイオン検出法を具備している。
【0014】
サンプル利用効率とは、検出可能なイオンに変換可能なサンプルの比率のことである。このサンプル利用効率は、質量フィルタの使用によるサンプルイオンの排除や別の作業を実行中の装置のサンプル導入に対する注意の欠如により、低下することになる。後者の例がITDであり、この場合には、新しいサンプルのイオンソースへの導入が継続している際に、前駆イオンの選択と生成スペクトルの生成を実行している(即ち、新しいサンプルが浪費されている)。
【0015】
多くの質量分析のアプリケーションにおいては、可能な限り少量のサンプルを使用して所望の情報を提供する必要がある。アプリケーションのレンジ、細胞を培養するのに所要する日数、及び薬品代謝試験に必要な動物のサイズのいずれもが、所望の情報を提供するのに要するサンプルの量がどれだけ少ないか、によって左右されることになる。このため、完全なスペクトルを生成するには、高いサンプル利用効率と高速のスペクトル生成レートが好ましい。スペクトル生成レートの観点においては、サンプル導入の好ましい形態は、液体クロマトグラフィーによるものであり、これは、通過するカラム上における滞留時間によってサンプル成分をソートする技法である。様々な化合物がカラムを離れ、ソースに流入する際に、それぞれ、約数十秒(又は、これ以下)だけ存在することになる。これが、溶離化合物に関するすべての情報を取得するのに利用可能な時間量である。又、化合物は、多くの場合に、その溶離がオーバーラップしている。迅速なスペクトルの生成により、それぞれの化合物の溶離プロファイルの生成が可能になり、この結果、オーバーラップした化合物を別個に識別できるようになる。
【0016】
質量フィルタ質量アナライザ(例:4重極)の場合には、一度に、狭いm/z値のレンジを具備したイオンのみを通過させる。スペクトルを取得するには、質量フィルタが、対象のm/z値レンジを走査している際に、質量フィルタに対してイオンを安定供給しなければならない。これは、バッチ内のすべてのイオンを検出し、適切なm/z値を割り当てることができる「バッチ」アナライザ(TOF、ITD、FTMS)と比べて、イオンの浪費である。
【0017】
4重極及び飛行時間質量アナライザのタンデムの組み合わせ(Q−TOFと呼ばれる装置)における大きな成功は、4重極質量アナライザのm/z設定のかなり低速の掃引においても完全なMS/MSスペクトルを取得できるほどの高レートで生成スペクトルを生成する飛行時間アナライザの能力に起因するものである。尚、飛行時間質量アナライザのデューティサイクルの問題は、その直前にイオン保存装置を導入することにより、相殺可能である(Van Fong、 2001)。但し、この場合にも、走査4重極装置の不良なサンプル利用効率と、所望の前駆m/z値のレンジにおける相対的に長い走査時間が、この非常に人気のある装置の制約事項として残っている。
【0018】
タンデムTOF装置においては、この問題をある程度軽減可能であるが(Barofsky 2002)、この場合にも、これらは、それぞれの選択された前駆m/z値ごとに1つの生成スペクトルを生成する能力を有しているのみである。Q−TOFと比べた場合のTOF−TOF構成の主な利点は、特定の前駆m/z値に対する相対的に高速のアクセスと完全なMS/MSスペクトルの潜在的に高速の生成にある。
【0019】
事前選択なしに、すべての前駆イオンに対してフラグメント化メカニズムを適用した後に、これに続く加速によって生成質量を判定する飛行時間質量分析計の変形を既に何人かの研究者が着想している。この場合には、フラグメント化のイオン及び中性生成物の検出における時間差(Alderdice、Derrick他、1993)により、或いは、フラグメント化の時点と生成物検出の時点間の時間差により、生成イオンの前駆質量を識別することになる(Wollnik、1933)。このような方法は、サンプルの利用効率の観点においては、非常に効率的であるが、必要な時間相関を実行するべく、イオンフラックスを低レベルに維持しければならないという問題点を具備している。このような低レベルのイオンフラックスは、複雑な混合物のクロマトグラフィー検出及び迅速なスクリーニング用の装置アプリケーションとは矛盾するものである。
【0020】
従来のMS/MS装置においては、イオンのフラグメント化が完了した後に前駆m/zに関する情報を維持する方法を具備していない。従って、一度に1つのm/z値のみのイオンをフラグメント化し、この選択されたm/z値のイオンのフラグメントを質量分析の第2段階に伝達しなければならない。このため、MS/MS装置内のMSの第1段階に使用する質量アナライザは、そのタイプとは無関係に、一度にm/z値の狭いレンジのイオンのみを伝達する質量フィルタとして使用されている。そして、その他のm/z値を具備するイオンから生成スペクトルを取得するには、実験を再度反復し、それぞれの異なる前駆m/z値からイオンを生成しなければならず、これは、サンプルの浪費である。又、前駆値の所望の組を選択しつつ、フラグメント化及び分析を実行する場合には、ソース内のサンプル組成が変化することにより、データの分析が更に複雑化することになる(液体クロマトグラフィーによる導入のケースが、これに相当しよう)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
従来、多くの研究者の目標は、走査質量アナライザを使用することなしに、完全なMS/MSスペクトルを取得し、それぞれのバッチサンプルイオンごとに、完全な3次元データ配列を生成するというものであった(McLafferty 1983、並びに、Conzemius及びSvec 1990)。従って、これを実行する装置を提供することが望ましいであろう。
【0022】
飛行時間質量アナライザは、従来、MS/MS装置内における生成イオン分散のために使用されている。このような装置においては、第1質量アナライザは、しばしば、4重極であり(Bateman及びHoyes 2000、Whitehouse及びAndrien 2001)、TOF、セクタ、及びその他の形態の質量アナライザも前駆イオンm/z値の選択に使用されている。前述のように、このようなシステム内において、質量変化反応を一度に経験できるのは、狭いm/z値のレンジのイオンのみである。従って、それぞれのイオンのバッチ全体が、一度にフラグメント化を経験した後に、検出されたそれぞれの生成イオンごとに前駆m/z情報が保持されるように分散させる装置を提供することが有利であろう。
【0023】
逆畳み込み(deconvolution)とは、単独で存在しておれば、それぞれの化合物が生成していたであろう信号内にクロマトグラフピークがオーバーラップしている成分から信号を解明することである。これは、溶離化合物のピーク幅当たり20〜50回のレートでスペクトル情報を取得した場合にのみ、オーバーラップするクロマトグラフピークによって実現することができる。従来、これが実現されているのは、2次元(「強度」対「m/z」)質量スペクトルについてのみである。本発明の1つの特徴は、クロマトグラフ逆畳み込みに適した完全な3次元スペクトルデータを時間尺度上において提供することにある。このMS/MSデータによって提供される更なる次元により、複雑な混合物の分析において、逆畳み込みが更に効果的なものになろう。現在の液体クロマトグラフィー及びMS/MSにおいては、完全な3次元のMS/MS情報を数回/秒以上の頻度で取得することが望ましい。クロマトグラフィーの改善によるピーク幅の短縮に伴って、迅速なスペクトルの生成が更に重要となろう。クロマトグラフ逆畳み込みに関係する本発明の更なる特徴は、ソースからの同一のイオンバッチについて、すべてのMS/MSデータを収集することにより、逆畳み込み段階において使用するデータの要素間にクロマトグラフ時間の差が存在しないことである。このスペクトルスキューの欠落は、逆畳み込みアルゴリズムのアプリケーションにおいて、非常に有益である。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の一態様においては、望ましいものとして先程説明した内容を実現する装置を提供している。この本発明による装置は、前駆イオン及び生成イオンのm/z値を同時デュアル軸分散して3次元で指定されたデータを提供するべく、飛行時間(TOF)質量分析との組み合わせにおいて、飛行距離(DOF)質量アナライザを使用することにより、実現されている。
【0025】
従来のTOF質量アナライザは、m/z値による前駆イオンの選択を実行する4重極、TOF、セクタ、及びその他の形態の質量アナライザとの組み合わせにおいて、生成イオンの分散のために使用されている。このような従来のシステムにおいては、前駆m/z値の狭いレンジのイオンのみをフラグメント化し、これらのフラグメントを一度に分散させて検出している。
【0026】
本発明においては、すべての前駆イオンがm/z変化反応を同時に経験すると共に(通常、これは、フラグメント化であるが、これに限定されるものではない)、それぞれの生成イオンの生成源である前駆m/z値に関する情報がDOF分散に含まれている。そして、2次元検出器(「X−Y」又は「X−時間」)を使用することにより、分析対象のイオンのそれぞれのバッチごとに、すべての前駆イオンからのすべての生成イオンを検出することができる。
【0027】
イオンが獲得する速度を、所与の時間量において移動した距離によって判定可能である。この場合に、抽出と直交加速間における飛行時間は、すべてのイオンについて同一であるが、移動する距離は異なり、相対的に低いm/z値を具備するイオンが、高いm/zを有するものと比べて、更に移動することになる。この方法は、これまで提案又は実装されていないが、その理由は、恐らく、イオン移動のそれぞれの増分ごとに別個の検出器が必要になるためであろう。しかしながら、いまや、廉価な検出器アレイの登場により、この方法は、非常に実際的であり、この結果、いくつかの明確な利点が提供されることになる。以下、この質量分析法を「飛行距離(Distance−Of−Flight:DOF)」質量分析と呼ぶことにする。
【0028】
TOF法と比べた場合のDOF法の主な利点は、様々なイオン質量間における分解能が、時間ではなく、空間において実現することにある。この結果、特定の時間において検出器に到来するイオンの数を判定するための高速電子回路及びカウンティングシステムに対するニーズが除去される。そして、その代わりに、それぞれのイオン質量分解要素ごとに、別個の検出器が存在している。このそれぞれの検出器は、任意の妥当な数のイオンバッチにわたってイオンの電荷を蓄積し、検出限度、精度、及びダイナミックレンジを改善する積算型のものであってよい。そして、この検出器の信号強度を、最も遠い検出器要素から最も近い検出器に至る順番に提示することにより、質量スペクトルを生成する。或いは、この代わりに、それぞれの検出器が、独立した信号を提供し、これにより、1つ又は複数の質量分解要素のイオン強度の尺度を時間の関数として提供することも可能である。この後者の形態は、高速クロマトグラフィーによる検出に特に有用であろう。
【0029】
このDOF質量分析計は、ソースから抽出されたイオンのそれぞれの群ごとに完全な3次元の「強度」対「前駆/生成m/z」スペクトルを生成する能力を具備するMS/MS装置の1つの要素として機能することができる。この「飛行距離(DOF)」質量アナライザは、前駆及び生成イオン分散用の飛行時間(TOF)質量分析との組み合わせにおいて使用する。或いは、この代わりに、このDOF質量アナライザを第2次元の分散において使用することにより、MS/MSスペクトルを生成することも可能である。
【0030】
すべての前駆イオンが同時に質量変化反応を経験することが可能であり、且つ、それぞれの生成イオンの生成源である特定の前駆m/z値に関する不可欠の情報を依然として保持している。2次元の検出器(飛行距離と飛行時間、又は2次元アレイ)を使用することにより、分析対象のイオンのそれぞれのバッチごとに、すべての前駆イオンからのすべての生成イオンを検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明を更に理解できるように、以下の説明と添付の図面を参照されたい。但し、本発明の範囲は、添付の請求項に規定されているとおりである。
【0032】
図1及び図2に示されているのは、飛行距離質量分析計の一実装である。サンプル11が、液体の形態で、エレクトロスプレーイオン化(ESI)装置12に導入される。そして、サンプル導入毛細管13の端部と第1注入開口部14の間の領域に、イオンが形成される。このエレクトロスプレーからのイオン以外にも、ESI領域内に含まれているガスの分子も入口の開口部に進入する。入口開口部に進入したイオンは、平行なロッド又はスタックされたディスクからなるRFイオンガイド16を使用することにより、随伴しているガスから分離される。この装置は、第1真空チャンバ17に装着された真空ポンプによってガスを除去できるようになっており、イオンに対する閉じ込め電界を提供している。イオンは、チャンバ間のオリフィス19を介し、電界、ガスフロー、又は、この両方によって案内され、第1真空チャンバ17から第2真空チャンバ18に伝達される。この第2真空チャンバも、平行なロッド又はスタックされたディスクからなるRFイオン閉じ込め装置21を含んでいる。そして、この装置を使用することにより、第1真空チャンバから導入されたイオンを保存し、装着されたポンプによってガス圧の可能な更なる低減を提供すると共に、後続のイオン飛行経路用のイオンのパルス又は群を提供している。このイオンのパルス化は、DC電圧をグリッド22及び23に印加した後に、この長手方向の電界を変化させることによって保存装置内に長手方向の電位井戸を生成し、これにより、保存されているイオンのパルスを装置の出口側の端部から外に、そして、後続の真空チャンバ24内に移動させることによって実現可能である。
【0033】
このイオンパルス化装置からのイオンのバッチは、第3真空チャンバ内の無電界領域に進入することになる。このイオンのパルス26は、いくつかのm/z値のイオンを含んでいる。図には、異なるサイズの円によって、これが示されている。先行するイオン保存及びパルス装置から一定の抽出パルスが供給されておれば、イオンは、すべて、略同一のエネルギーを具備することになる。この場合には、その速度は、そのm/zの関数になり、相対的に低いm/z値のイオンは、高いm/zの値を有するイオンと比べて、高い速度を具備している。従って、これらのイオンは、直交電界抽出プレート27に到達する時点までに、そのm/z値に応じて分散することになる。次いで、抽出プレート27とグリッド28の間に抽出パルスを印加することにより、直交する力をこの領域内のイオンに対して提供する。尚、イオン保存及びパルス装置からのイオンのパルス化に対するこの抽出パルスのタイミングは、慎重に制御されており、この結果、抽出パルスの時点において、対象のイオンが直交抽出領域内に位置するようになっている。異なるm/zのイオンが、パルス化装置からの同一軸方向運動エネルギーを具備しておれば、これらのイオンは、抽出グリッドを通過する際に、図示のように、略平行な経路を具備することになる。そして、これらのイオンは、グリッドを通過した後に、グリッドのもう一方の側に配置された検出器のアレイ29によって検出されることになる。これらの検出器の位置は、イオンが偏向する位置に対して線形の関係を有している。そして、この検出器アレイの角度は、設計者の選択肢であり、異なるm/z比を有するイオンのイオン強度が、アレイの異なる要素によって検出されることになる。この結果、これらのアレイ要素を調べることにより、質量スペクトルを作成可能な情報が得られる。
【0034】
尚、この装置は、既存の、並びに今後開発されるであろうサンプルイオンのその他の好適なソースのいずれにも使用可能であることを理解されたい。このようなソースには、固体及び液体サンプルからの大気圧マトリックス支援レーザー脱離イオン化及びその他の形態のイオン脱離、液体サンプルのナノスプレーイオン化及びエレクトロスプレーイオン化のその他の変形、ガス状サンプルの大気圧化学イオン化、ガス状サンプルのグロー放電イオン化、及びその他の形態のガス状イオン化法、並びに、電子衝撃イオン化、化学イオン化、及びマトリックス支援レーザー脱離イオン化を含む真空イオン化法が含まれる。
【0035】
又、イオン保存及びパルス化装置内へのイオンの導入も、イオンの案内及び圧力低減における様々な既存の手段によって実現可能であることを理解されたい。これには、平行なロッド又はスタックされたディスクからなるRF閉じ込め装置、イオンレンズ、及びその他のイオン光学要素が含まれよう。同様に、イオン保存及びパルス化装置自体も、平行なロッド、円筒形のイオントラップ、又はその内部にイオンを導入し、最小限の損失によって保存し、後続の質量分析のためにバッチとしてパルス化可能なその他の類似の装置から構成可能である。そして、抽出されたイオンには、異なるm/z値を有するイオンが異なる速度でパルス化装置を離れる限り、基本的に、同一のエネルギー、同一の運動量、又はm/z依存エネルギーを付与することができる。
【0036】
一実施例による飛行距離質量分析計の通常動作においては、イオンパルス化装置と直交抽出プレート及びグリッドの間に、衝突やその他のフラグメント化セルが含まれてはいない。この領域は、主として無電界の状態におかれることになるが、イオンの閉じ込め又は合焦用のイオン光学要素を含むことも可能であり、或いは、動作可能な又は動作不能なフラグメント化セルを含むことも可能である。
【0037】
直交抽出パルス生成器は、通常、そのパルスにわたって一定の振幅を有している。しかしながら、イオン保存及びパルス化装置からの抽出と同様に、時間依存抽出電界を印加することも可能である。そして、イオン抽出パルスとイオン群に対するこの直交抽出パルスのタイミングは、高精度のタイミング回路によって制御し、イオン群が偏向プレート27の反対側に位置している際に抽出パルスを印加する。
【0038】
検出器に関しては、本発明に使用するのに好適な検出器が、「American Laboratory」の2003年10月号のBarns、Hieftje、Denton他による論文に記述されている(この論文は、単純なイオン電荷検出装置について記述すると共に、質量分析計におけるその適用について実証している)。関連回路を有する31個のファラデーカップのアレイが示されている。又、磁場によってイオンの空間分散を提供するセクタ装置用のアレイ検出器も市販されており、このようなアレイ検出器も同様に本発明に使用するのに適している。マサチューセッツ州スターブリッジに所在するBurle Industries社(Burle Industries of Sturbridge MA)が、マイクロチャネルプレートによる電子増殖を有するイメージング検出器を製造しており、これは、質量分析におけるイオン検出において機能することが実証済みであり、本発明に使用するのに適している。
【0039】
本発明による飛行距離質量分析計(DOF−MS)は、重要な特徴を有している。即ち、すべてのイオンが、同時に検出器に向かって偏向され、その時間内において、異なる距離だけ移動している。保存及びパルス装置の出口から偏向の地点まで、それぞれのイオンが移動する距離は、次のように算出することができる。即ち、E(V/m)の電界によって、ソース内おいてlsメートルだけ加速されたイオンの場合には、イオンの加速度aは、次のとおりである。
【0040】
【数1】

【0041】
そして、イオンの速度を得るべく積分することにより、次の各式が得られる。
【0042】
【数2】

【0043】
ここで、Mは、イオンの質量(単位;キログラム)であり、qは、イオンの電荷(単位:クーロン)である。所与の時間内において、ソース内においてイオンが移動する距離は、次式
【0044】
【数3】

を次の形態
【0045】
【数4】

【0046】
によって積分することにより、次のように得られる。
【0047】
【数5】

【0048】
イオンは、時間ts秒において、速度vsメートル/秒でソースを離れる。以前の式においてこれらの項を使用すれば、次式が得られる。
【0049】
【数6】

ここでは、イオンの質量が、mトムソンに変化し、イオンの電荷が、電子電荷数zになっている。イオン加速領域を離れ、無電界飛行領域に進入するイオンの速度は、次のとおりである。
【0050】
【数7】

【0051】
偏向パルスを時間tdefにおいて印加する。イオンが、偏向の時点において、パルス化装置の出口から移動している距離ddefは、次のとおりである。
【0052】
【数8】

【0053】
イオンの偏向角度は、偏向領域内におけるその横方向の加速度に対するパルス化装置内におけるその軸方向の加速度の比率によって左右される。式8を結果的に導出したものと同様の議論を辿ることにより、直交方向における速度は、次のようになる。
【0054】
【数9】

【0055】
直交加速の後のイオン軌道の角度の接線は、次のとおりであり、これは、m/zとは無関係である。
【0056】
【数10】

【0057】
従って、図1に示されているように、偏向の時点において存在していた様々なm/z比を有するイオン間における同一の空間的関係が、偏向の瞬間まで維持されている。この結果、検出器アレイ内のそれぞれの検出器要素が、異なる前駆m/z値を検出することになる。これらの検出器要素は、保存及びパルス化装置からの多数の抽出にわたって、イオンの到来をカウントするか、又は電荷を積算することができる。この多数の抽出の積算により、向上した信号対雑音比が結果的に得られることになる。又、この積算の最中に検出器要素を調査し、飽和している要素を読み取ってクリアすることができる場合には、有用なイオン強度のダイナミックレンジを増大させることができる。
【0058】
まず、イオンが空間内の同一地点に群集しており、それらが、いずれも、無視可能な運動エネルギーを具備していると仮定しよう。抽出の際に、吸引電界Vextを横断すると、これらのイオンは、次の速度vを獲得することになる。
【0059】
【数11】

【0060】
ここで、eは、1つの電子の電荷であり、Mは、イオンの質量(単位:kg)であり、zは、イオンの単位電荷数である。速度vの単位は、メートル/秒となる。Vextの電界を移動した質量がmiダルトンであってzi電荷のイオンを考えてみよう。この速度は、次のようになり、1000ダルトン、単位電荷、及び抽出電界が500Vであるイオンの場合には、v=9.83x103メートル/秒となる。
【0061】
【数12】

【0062】
尚、すべての抽出イオンが、基本的に同一の運動エネルギーを具備しているため、この方式を「一定エネルギー抽出法」と呼ぶことにする。保存及びパルス化装置から抽出されたイオンが、基本的に無電界の状態にある領域に進入し、この中において、それぞれの異なる速度により、その経路に沿って、所与の時点において、異なる距離だけ搬送されることになる。
【0063】
(一定エネルギー抽出法)
イオンがソースを離れるまで抽出パルスが印加される一定エネルギー抽出法の場合には、その偏向の時点tdefにおけるm/zのそれぞれの値ごとの飛行経路に沿った位置ddefは、次のとおりである。
【0064】
【数13】

【0065】
100〜2000ダルトンのm/zの所望のレンジを具備する質量分析計を考えてみよう。この装置の場合には、「m/zが100であるイオンのddef」=4.47x「m/zが2000であるイオンのddef」である。換言すれば、m/zが2000である検出器は、m/z=100のイオンの検出器よりも、飛行経路に沿って、4.47倍だけ遠くに配置されることになる。それぞれのイオンの偏向地点の位置は、そのイオンのm/zに対して平方根の関係を具備しており、即ち、これは、隣接する単位m/z値を検出する検出器間の距離が、その検出器アレイのm/zが大きいほうの端部に近づくほど、近接することを意味している。この関係が図3のプロットに示されている。
【0066】
この図3のプロットにおいては、Vとして500Vの値を、そして、抽出時間として20μsを使用している。尚、これらの値を変更しても、距離軸の尺度が変化するだけで、曲線の全体的な形状は変化しない。この例の場合には、略1/2メールにわたって広がっている検出器が、100〜2000のすべてのm/z値を検出することになる。傾きは、m/z200における0.13cm/ダルトンから、m/z1900における0.004cm/ダルトンまで変化している。40ミクロンだけ離隔した検出器により、このスケールのm/zが大きいほうの端部においても、単位m/z分解能が得られることになる。検出器は、ソースからの距離が増大するに伴って、更に離隔して配置可能である。前述の式及び説明内容に応じて異なる電圧及び距離を使用することにより、その他の検出器寸法を実装可能であることを理解されたい。
【0067】
これよりも多少実際的な実装は、所与の実験用に更に制限されたm/zレンジを有する装置におけるものであろう。例えば、700〜1200ダルトンのレンジは、ペプチドのエレクトロスプレーイオン化分析に非常に有用であろう。図4には、このアプリケーション用のプロットが示されている。このプロットは、ちょうど、図3のプロットの一部を拡大したものである。このm/zレンジにわたって、隣接する単位m/z値間の検出器の長さは、m/z1200における80ミクロンから、m/z700における170ミクロンに(即ち、スケールの一端から他端まで、2倍の変化量を少し上回る分量だけ)変化している。検出器の合計長は5.6cmとなろう。そして、検出器が、80ミクロンの間隔で700個の要素を格納しているアレイであれば、700〜1200ダルトンのm/zレンジにわたって、単位m/z分解能が得られることになろう。
【0068】
一定電界抽出法の場合には、移動距離は、図5に示されているように、前駆イオンm/zの非線形関数になる(図5は、一定抽出電界を有する「飛行距離」対「m/z」を示している)。この結果、先程導出及び算出したように、m/zの関数として、m/z分解能の潜在的に大きな変動がもたらされることになる。そして、相対的に大きなm/zレンジにおける所望の分解能を実現するべく、格段に小さなm/z値のイオンの検出を要する場合には、非常に大きな検出器アレイが必要となるため、この非線形性は、望ましいものではないであろう。
【0069】
(抽出の線形化と小型化)
m/zと距離間の関係を線形化し、m/z値の所与のレンジをカバーするのに必要な検出器の長さを低減することが可能な別の方法は、非線形抽出法を使用するものである。即ち、低い抽出電圧から開始し、抽出電圧を時間と共に増大させるのである。
【0070】
この抽出電圧の傾斜は、所望のm/zレンジの高いほうの端部におけるイオンが抽出領域を離れる前に完了する必要がある。低いm/z値を有するイオンが経験する加速度は、小さく、従って、一定エネルギー抽出法の場合と比べて、低い速度を具備することになるが、高いm/z値を有するイオンが経験する抽出加速度は、大きく、従って、一定エネルギー抽出法の場合に具備するものと比べて、高い速度を実現することになる。この結果、最低m/zから最高m/zへの速度レンジが圧縮され、m/zのすべての値の関係が潜在的に線形化されることになる。m/zレンジが広い装置の場合には、恐らく、これが最も望ましい実装であろう。
【0071】
飛行距離の関数としてのm/z値の線形化と小型化を実現する別の方法は、保存及びパルス化装置内に含まれている抽出領域をちょうど過ぎたところに、追加の抽出領域を適用する方法である。この第2抽出領域内の電界強度は、抽出を開始した後に、時間と共に増大し、この結果、小さなm/zを有するイオンよりもソースから遅く出現する大きなm/z値を有するイオンに対して、先行する小さなm/zのイオンと比べて、大きな抽出電界が印加されることになる。図6の挿入画には、この追加抽出電圧の可能な時間依存値が示されている。この図示の時間依存性によれば、検出されたイオンの検出器距離と電荷対質量(m/z)値の間に線形の関係が結果的にもたらされることになる。
【0072】
図6に示されているように、この2電界抽出ソース内の第2電界領域に対して成形された抽出パルスを印加することにより、非常に広いm/zレンジにわたって前駆m/zと飛行距離間の線形関係を得ることができる。この図示の実装においては、第1電界は、1cmにわたって200v/cmである。そして、第2電界を生成する電圧は、図6の挿入画に示されているように、抽出の開始時点から時間と共に増大している。そして、偏向パルスの時間は、20μsであり、傾斜は、18ミクロン/トムソンにおいて一定である。尚、この図5及び図6は、いずれも、理論的な計算から導出されたものである。又、初期電界と傾斜電界の曲線のその他の組み合わせを使用することにより、等価な効果を実現することも可能であることを理解されたい。
【0073】
又、この代わりに、成形された抽出パルスを変化させることにより、検出器アレイの領域において、質量レンジの任意の部分を提示することも可能である。この結果、この装置は、固定検出器アレイが実現するm/zレンジ及び分解能を動的に選択可能となる。
【0074】
又、連続的に増大する抽出エネルギーにより、スペクトルのなんらかの空間的な合焦を提供することも可能であると思われる(Kovtoun及びCotter 2000)。即ち、ソース内の奥に位置している(従って、相対的に長い飛行経路を具備する)イオンに対して、多少大きな加速度を付与することにより、これらのイオンが、検出パルスの時点までに、ソースの前面の近くからスタートした同一のm/zのイオンに追い付くことが可能となろう。
【0075】
(一定運動量抽出法)
別のイオン抽出法においては、イオン群のすべてに同一の加速力が作用するように、非常に短い抽出パルスを保存及びパルス化装置内のイオン群に対して印加している。この抽出パルスは、イオンのいずれかが加速領域を離れる前に、終了しなければならない。この「一定運動量」加速法の場合には、イオンは、次の速度を獲得することになる。
【0076】
【数14】

【0077】
ここで、Eは、加速電界の強度(単位:ボルト/メートル)であり、tpは、抽出パルスの持続時間である。miダルトンのイオンの速度は、次のようになる(単位:メートル/秒)。
【0078】
【数15】

【0079】
単一電荷を搬送し、100nsにわたって5000V/cmの抽出電界が印加される1000ダルトンのイオンを考えてみよう。この速度は、48.15メートル/秒となる。そして、ソースから抽出されたイオンは、基本的に無電界な状態にある領域に進入し、この中において、それぞれ、その異なる速度により、その経路に沿って、所与の時点おいて、異なる距離だけ搬送される。
【0080】
非常に短いパルスを印加するこの一定運動量抽出法の場合には(このパルスは、非常に短いため、このパルスが終了する時点までに、いずれのイオンもソースを離れていない)、ある意味において、パルスの終了後にイオンが自らソースを離れるようにするエネルギーバーストがイオンに対して付与されている。この運動量は、電荷と電界強度の積である。一定の運動量を提供することにより、同一量の加速力がそれぞれのイオンに印加されることになる。これらのイオン用の検出器の距離は、次の式を使用して算出可能である。
【0081】
【数16】

【0082】
100〜2000ダルトンのm/zレンジを有する装置の場合には、「100のm/zを有するイオンのDdet」=20 x 「2000のm/zを有するイオンのDdet」である。この装置の場合には、偏向地点における距離と検出イオンのm/z値の間に、逆比例の関係が存在している。図7のプロットには、100〜2000ダルトンのレンジについて、これが示されている。このプロットにおいて使用したパラメータは、5,000V/cmのE、100nsの加速パルス、及び20μsの抽出時間であった。この場合にも、これらのパラメータを変化させても、距離の尺度には影響するが、全体的な曲線の形状には影響しない。図3と図7を比較すれば、この逆比例関係により、プロットされたm/zのレンジにおける傾斜に、平方根関係の場合と比べて、大きな差が生じており、従って、一定エネルギー加速実装のほうが好ましいことがわかる。
【0083】
しかしながら、この傾斜の差は、m/zレンジが制限されている装置の場合には、極小化される。図8には、このような装置におけるプロットが示されている。この図においては、図4のプロットと同一のm/zレンジを使用している。この場合には、傾斜は、m/z1200における67ミクロン/ダルトンと、m/z700における200ミクロン/ダルトンである。そして、検出器の合計長は5.7cmになっている。
【0084】
以上の計算及び例は、実装において、DOF質量分析計が完全に実用的であることを明瞭に示している。又、この装置は、潜在的に多数の利点を有している。即ち、これは、構造が簡単である。これは、検出システム内における高速電子回路のニーズを除去している。検出器は、ソースからの多数のイオン抽出の結果を蓄積する積算型の装置であるか、又は、それぞれの「m/z値の強度」対「時間」を連続してプロットする瞬時値検出器であってもよい。これは、非常に小型化することができよう。目標とする分析のために使用する対象のm/z値用の距離に配置される検出器の数がわずかであり、この結果、更に装置が単純化されることになる。但し、本発明の最も興味深い態様は、恐らく、MS/MS装置内におけるm/zの分離手段としてのその可能性であろう。尚、MS/MS機能のためには、イオンフラグメント化セル、直交抽出TOFセクション、及び2次元検出システムを追加する必要がある。
【0085】
(MS/MS装置内におけるDOF−MSアプリケーション)
図9には、本発明によるDOF−TOFの組み合わせの質量分析計装置の概略図が示されている。サンプル分子の前駆イオンが、イオンバンチャーから抽出され、抽出領域41内における抽出パルスの突然の印加により、加速される。尚、この図1に示されているものを含む様々な周知の選択肢が利用可能であるため、バンチャー内におけるイオンの生成及び収集の様々な方法は、この図には示されていない。このバンチャーの選択肢には、4重極及び線形イオントラップが含まれている。これらのイオンには、前述のいくつかの方法のいずれかにより、m/z依存速度が付与されることになる。但し、MS/MSを実現するには、前駆イオンが、フラグメント化を経験し、生成イオンを形成しなければならない。
【0086】
イオン群内の前駆イオンは、例えば、フラグメント化領域内において、イオン群が出現するのと一致したタイミングで、光の非常に強力なビームを印加することにより、フラグメント化される。このフラグメント化領域は、イオンの光励起の可能性を極大化するための内部反射表面を有するセル42の形態になっている。イオンが自発的に解離すると、そのフラグメントは、前駆イオンと同一の方向及び速度を保持することになる(接合エネルギーが生成イオンの運動エネルギーに変化するわずかな変換を除く)。従って、生成イオンは、その前駆イオンと同一の速度と、異なる(一般的には、相対的に低い)m/zを有する状態で、質量分析の次の段階に進入することになる。尚、前駆イオンにエネルギーを供給するその他の方法も使用可能であることを理解されたい。これらには、衝突解離(単一の衝突によるもの)や電子励起が含まれている。
【0087】
直交加速飛行時間を使用することにより、生成m/z値に応じて生成イオンを選別する(Chernushevich、Ens他 1999、Cotter 1999)。DOF飛行経路に部分的に沿って(但し、フラグメント化プロセスの後に)、イオンビームに対して、DOF飛行経路と直交する第2抽出パルス43を印加する。この結果、異なるm/zのイオンフラグメントが、異なる速度で移動することになる。この地点からのイオンの動きは、オリジナルの線形DOF速度ベクトル(これは、前駆m/zに依存している)と、第2抽出パルスによって印加された直交する速度ベクトル(これは、生成m/zに依存している)から構成される速度ベクトルとなる。次節においては、このソーティングの実行方法の詳細について数学的に説明する。
【0088】
(イオン軌道の理論的分析)
検出までの合計飛行時間Tdetは、次式に示されているように、ソースと直交抽出パルス間における時間Toeと、直交TOFセクション内においてイオンが消費する時間の合計である。
【0089】
orth−tdet=toe+torth (17)
【0090】
直交抽出の時間は、すべてのイオンについて同一であるが、この装置の直交セクション内において消費される時間は、生成イオンのm/zによってのみ左右される。そして、この時間は、直交飛行経路の有効長Lorthと直交速度ベクトルVorthの関数である。直交抽出が、一定エネルギーであるため、Vorthは、式2によって与えられる。従って、次のようになる。
【0091】
【数17】

【0092】
ここで、Vorthは、生成イオンが経験する抽出電界の値である。この式16及び式17から、検出の時間は、生成イオンのm/zの関数であり、前駆m/z値とは無関係であることがわかる。
【0093】
【数18】

【0094】
しかしながら、直交抽出の時点における生成イオンの場所と、その水平速度ベクトルの値は、前駆m/zによってのみ左右される。そして、イオンの検出位置は、水平抽出位置と、直交セクション内においてイオンが移動した追加の水平距離Dorthの合計である。この後者の項は、生成イオンm/zによって左右される。従って、次の各式のとおりである。
【0095】
【数19】

【0096】
式18及び式20は、検出器位置及び検出時間の計測値から、検出されたそれぞれのイオンごとに、前駆m/zと生成m/zを一意に判定可能であることを示している。
【0097】
図10には、前述の導出した式によって生成されたポイントが更に示されている。この場合には、m/zが800、1000、及び1200ダルトンである前駆イオンから導出された100のm/z値ごとの生成イオンの検出器位置に対して検出時間をプロットしている。この計算において仮定した値は、VextとVorthが、200Vと2000Vであり、直交抽出時間が、10μsであって、直交飛行経路は、0.5メートルに等しくなっている。式20からわかるように、所与の前駆m/z値からのすべての生成イオンは、同一の直線上の値をとり、所与の(m/z)precの値について、Ddet/tdet比は、一定になっている。
【0098】
先程提示した計算においては、イオンソースからのイオンの一定エネルギーによる加速を仮定していた。前述のように、傾斜した抽出電圧によれば、隣接するm/z値間の間隔が一定になり、改善された性能と小型の検出領域を提供することができる。このような抽出電界の実装は、式20に示されている関係に対しては影響を与えるが、前駆m/z及び生成m/z値のそれぞれの組み合わせにおける距離−時間電界内の固有の位置は維持されることになる。
【0099】
(イオンフラグメント化セル)
図9のイオンフラグメント化セルの図における重要な特徴は、ソースからの前駆イオンの抽出の後であって、且つ、直交抽出電界の印加領域の前におけるその位置にある。励起されたイオンに対して大きな運動量が転移しないように、フラグメント化エネルギーを印加することが重要である。これは、ソースと直交抽出間の無電界領域内において自発的に分解し得る準安定イオンを生成可能な相対的に高エネルギーのイオン化を使用することによって実現可能である。このようなイオンは、一般に、MALDIイオン化法によって生成される。
【0100】
ソース内において安定したイオンが生成されたら、なんらかの方法で、これらのイオンを励起し、フラグメント化しなければならない。この励起に使用する粒子は、前駆イオンのm/zのDOF判定の一部を構成している前駆依存速度の変化を回避するべく、非常に低い質量を具備していることが不可欠である。これは、好ましくは、光子の使用によって実現される(Vanderhart 1992)。光子励起は、赤外線領域(Little、Speir他 1994、Stephenson、Booth他 1994、Price、Schnier他 1996、Payne及びGlish 2001)又は、可視紫外線領域(Gimonkinsel、Kinsel他 1995、Guan、Kelleher他 1996)の光子によって実行可能である。光子によるフラグメント化の効率は、ミラーを設置したフラグメント化チャンバを使用し、それぞれの光子がイオン飛行経路を複数回横断するようにして、光子が前駆イオンによって吸収される可能性を増大させることにより、向上させることができる。
【0101】
別の可能性は、光源の代わりに、強力な電子ビームを使用する方法である。但し、電界を妨げることのなしに電子を導入することは困難であろう。高エネルギーモードにおいて、衝突誘発解離を使用することも可能であり、この場合には、運動量の転移を最小限に抑えつつ、エネルギーの転移が実現することになる。
【0102】
(直交抽出TOF)
イオンには、この装置の直交抽出セクションにおいて、イオンソースからのその軌道に直交する動きのベクトルが付与されている。尚、直交抽出装置において標準となっているように、使用する加速モードは、一定エネルギーであるが、これは、時間依存抽出電界を排除するものではない。このセクション内においてイオンに付与される直交速度は、生成イオンm/zによって左右される。この直交セクションは、「線形」であってもよく(即ち、直交飛行経路の端部に検出器を具備可能であり)、或いは、イオンミラーを含むこともできる。図9には、この両方の可能性が示されている。イオンミラーを使用する場合には、このセクションは、Lorthとして使用される有効長を具備することになる。一般に、イオンミラーによれば、相対的に小さな空間において、良好な生成イオン分解能が得られる(Kerley 1998、Doroshenko及びCotter 1999、Berkout、Cotter他 2001)。
【0103】
多くの既存の装置において使用されている通常の直交TOFセクションとの大きな相違点は、その直交加速領域の軸方向の長さにある。これは、抽出の時点において、対象のm/z値のフルレンジにわたるイオン位置を収容するのに十分な長さでなければならない。又、任意選択のイオンミラーは、この飛行経路の全長にわたって、イオンに正確な反射と空間合焦を提供しなければならない。このアプリケーションには、広アパーチャミラーが必要となろう。
【0104】
(アレイ検出器)
図9に示されている検出器アレイは、線形アレイとして配列された一連の検出器である。そして、それぞれの検出器は、検出器におけるイオン強度を時間の関数として記録可能な電子装置に接続されている。これらの装置は、アナログ/デジタルコンバータ(ADC)又は時間/デジタルコンバータ(TDC)のいずれかであってよい。この結果、時間及び距離の2次元におけるすべてのポイントを検出可能であり、検出されたすべてのイオンの前駆及び生成m/z値を算出することができる。
【0105】
すべてのイオンは、同一時点において、m/z依存の速度により、直交抽出されるため、イオンの飛行時間は、生成イオンのm/zのみの関数になっている。イオンの軸方向の距離は、前駆イオンの速度と合計飛行時間によって左右される。図10には、3つの異なる前駆イオンm/z値の生成物の合計飛行時間と軸方向の距離について導出したプロットが示されている。
【0106】
図11、図12、及び図13は、様々な軸方向の飛行距離と直交速度を有するイオンを2次元X−Y検出器アレイによって検出する質量分析計を示している。前述のDOF−TOF装置と同様に、イオン束に第2抽出パルスを印加し、これらのイオンを、その軸方向の位置とその飛行時間によって検出する。但し、この実施例においては、イオンは、時間依存偏向電圧が印加された偏向プレート46を通過している。この偏向は、もう1つの直交方向(図11が印刷されている紙面の中に向かう方向)において行われている。この結果、イオンミラーから最初に出現する相対的に小さなm/z値のイオンは、後から出現する大きなm/z値のイオンと比べて、相対的に小さな電界によって偏向されることになる。従って、イオンは、m/zに依存した角度で偏向され、この結果、異なるm/zのイオンが、2次元検出器アレイの異なる部分上に落下する。ここで、この2次元アレイにおける検出器の位置を示している図13を参照すれば、それぞれのアレイ内の列48が、時間依存偏向電界46からの異なる角度と、従って、異なる飛行時間(これは、生成m/zに依存している)に対応しており、検出器の行47が、様々な飛行距離(これは、前駆m/z及び生成m/zに依存している)に対応している。この2次元検出器アレイの読み取り値は、3次元質量分析を示している(前駆イオン質量:フラグメントイオン質量:強度)。
【0107】
図14及び図15は、同時MS/MSを実現するDOF−MSの代替実装例を示している。まず、図14に示されている構成について検討してみよう。この図の場合には、前述のように、直交加速の後に、生成イオンは、それぞれの異なる直交速度のために、その前駆イオンとは異なる軌道を具備することになる。そして、これらの生成イオンは、その前駆イオンとは異なる検出器アレイ上の地点に出現することになる。この生成イオンの検出を、前駆イオンの検出と弁別することが望ましい。これは、生成イオンのm/z値に依存した横方向(紙面に出入りする)次元におけるイオンの動きを付与することにより、第3次元として実行することができよう。すべてのイオンの直交エネルギーベクトルは同一であるため、水平に設定された静電気偏向器の場合には、すべてのイオンに対して同様に影響が及んで、弁別されない。従って、偏向プレートは、垂直に設定しなければならない。これは、直交偏向の前段、又は、これと同時に、或いは、この後段において実行可能である。好適な実施例が図15に示されており、この場合には、この横方向偏向プレートは、直交偏向プレートの前段に配置されている。尚、この横方向偏向電界は、一定に印加可能である。又、これらのプレートに印加する平均電圧は、無電界領域の平均電圧と同一電位でなければならないことを理解されたい。
【0108】
これらの計算及び例は、ソース内のすべての前駆イオンのすべての生成イオンを同時検出するMS/MS質量分析計が実用的であることを明瞭に示している。この装置は、所望の情報を取得するべく完全なスペクトルの取得を要するアプリケーションの領域におけるMS/MS質量分析に有益である。このようなアプリケーションの例は、疾病や薬品代謝に関係する生物学的変異のサーチにおいて見出されよう。別の例は、2つの環境(例:健康な身体と不健康な身体)の間における化学的組成の相違を調査する場合である。これは、固有の特性が判明していない生物学的活動用の薬剤をスクリーニングするのに有用であろう。
【0109】
取得したそれぞれの3次元スペクトルから、3つのタイプのMS/MS走査から得られるすべてのデータを入手可能であるという点は重要である。この3つの走査タイプとは、生成イオン走査(特定の前駆イオンのすべての生成イオン)、前駆イオン走査(特定の生成イオンを生成したすべての前駆イオン)、及び中性損失走査(フラグメント化の際に特定のm/zの変化を経験したすべての前駆イオン)である。生成イオン走査は、質量分析の第2段階においてバッチ質量アナライザを使用するすべてのMS/MS装置に固有のものである。しかしながら、後者の2つの走査(これらは、一般的なQ−TOF又はITMS質量分析計において得られるものである)は、4重極前駆イオン質量アナライザを走査することによってのみ実現されるものである(Chernushevich及びThompson 2001)。前駆イオン及び中性損失走査により、研究者は、フラグメント化によって特定の生成m/z又は特定の中性質量の損失が生成される化学的又は生化学的な反応生成物をサーチすることができる。このような走査のために多くのアプリケーションが開発されているが、現在の水準では、前駆イオン質量アナライザの走査が余りに非効率的であるため、ほとんど見落とされているのが現状である。
【0110】
同時2次元分散の必要性を感じるようになってから既に長時間が経過している(McLafferty 1983)。このような分散の実現は、本出願において前述した効率性の目標を達成するために望ましいものであり、本発明においては、この分散を実現している。実際に、MS/MS装置から得られる情報は、基本的に、その特性が3次元である。このような情報は、「強度」対「前駆イオンm/z」対「生成イオンm/z」のプロットとして使用可能である。1つの軸のみに沿った分散が付与できるのは、その軸に沿った強度のみである。完全な3次元を得るには、2次元分散を具備するか、又は第2次元を生成するのに十分な回数だけプロセスを反復しなければならない。本発明においては、同時2次元分散を可能にしている。
【0111】
そして、同時2次元分散を実現する本発明のMS/MS装置は、多数の更なる利点を有している。即ち、これは、構造が単純である。これは、検出システム内の高速電子回路のニーズを除去している(2次元アレイ検出器と共に直交セクション内の時間依存掃引を使用する場合や横方向加速の場合)。2次元検出器は、ソースからの多数のイオン抽出の結果を蓄積し、改善された信号対雑音比と相対的に広いダイナミックレンジを提供する積算型の装置であってよい。そして、この装置は、非常に小型であり、潜在的に、すぐれた分解能と非常に高いデータ生成レートを様々な環境及びセキュリティアプリケーション分野にもたらすことができる。
【0112】
以上の説明及び図面は、本発明の好適な実施例を表すものであるが、本発明の精神と範囲を逸脱することなしに、様々な変更と変形を加えることが可能であることを理解されたい。
【0113】
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・Stephenson,J.L.、M.M.Booth、J.A.Shalosky、J.R.Eyler、及びR.A.Yost(1994)、「Infrared Multiple Photon Dissociation in the Quadrupole Ion Trap Via a Multipass Optical Arrangement」、Journal of the American Society for Mass Spectrometry 5(10):886〜893
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・Wollnik,H.(1993)、「Time of flight mass spectrometer as the second stage for a tandem mass spectrometer」、USA
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の一実施例によるDOFスペクトロメータの概略図を示している。
【図2】イオンの抽出及び検出の概略図である。
【図3】一定エネルギー抽出法を使用した場合の「飛行距離」対「イオンm/z」のグラフを示している。
【図4】ペプチドのエレクトロスプレーイオン化分析に有用な図2の拡大セクションのグラフを示している。
【図5】一定エネルギー抽出電界が印加されたイオンの「飛行距離」対「m/z」のグラフを示している。
【図6】飛行距離とm/z間の線形関係を実現するべく設計されたイオンの2電界時変抽出のグラフを示している。
【図7】一定運動量抽出法を使用した場合の「飛行距離」対「イオンm/z」のグラフを示している。
【図8】図4のものと同一のm/zレンジを使用する(m/zレンジが制限された装置における)図7のグラフを示している。
【図9】本発明による時間依存型のアレイ検出器と光解離を有するDOF−TOF質量分光装置の概略図を示している。
【図10】図9のシステムの動作パラメータの1つの組について、生成イオンの検出器位置に対してプロットされた検出時間のグラフを示している。
【図11】本発明よるDOF及びTOF質量分析計の組み合わせの概略図を示しており、この場合には、偏向プレートに印加された掃引電圧によってTOFが横方向の距離に変換されている。
【図12】図11のライン12−12に沿って取得した図11の質量分析計の端面図である。
【図13】図12のライン13−13に沿って取得した検出器アレイの平面図である。
【図14】DOF前駆及びフラグメントアナライザの概略図を示している。
【図15】別のDOF前駆及びフラグメントアナライザの概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)イオンを受領し保存するイオン保存装置と、
(b)前記保存装置にイオン抽出電圧パルスを印加して前記イオンを加速し、これにより、前記保存手段を離れるイオンが質量対電荷比に依存した速度を具備するようにする手段と、
(c)異なる質量対電荷比を有する前記イオンが、既定の時間内に異なる距離だけ移動する無電界領域と、
(d)前記既定の時間内に異なる距離だけ移動した異なる質量対電荷比のイオンを受領するべく離隔しており、前記受領したイオンの前記質量対電荷比を示す出力を提供する検出器と、
を含む質量アナライザ。
【請求項2】
請求項1に記載の質量アナライザにおいて、分析対象のサンプルを受領し、前記イオン保存装置が受領する前記イオンを形成するイオン化器を含む、質量アナライザ。
【請求項3】
請求項2に記載の質量アナライザにおいて、前記イオン化器は、エレクトロスプレーイオン化器、マトリックス支援レーザー脱離イオン化器、大気圧化学イオン化器、グロー放電イオン化器、電子衝撃イオン化器、及びナノスプレーイオン化器から構成された群から選択される、質量アナライザ。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の質量アナライザにおいて、前記受領したイオンの質量対電荷比を示す出力は、特定の質量対電荷比のイオンを受領するべく配置された検出器から導出される、質量アナライザ。
【請求項5】
請求項1又は2記載の質量アナライザにおいて、前記無電界領域内を移動するイオンを、直交方向において、前記検出器に向かって偏向させる偏向器を含んでいる、質量アナライザ。
【請求項6】
請求項1又は2記載の質量アナライザにおいて、前記無電界領域内の前記イオンを生成イオンに解離させ又はその前記質量対電荷比を変化させ、これにより、前記生成イオンが、その前駆イオンと実質的に同一の速度で移動するようにする手段と、
前記生成イオン及び前駆イオンに直交加速電圧を印加し、これにより、前記変化していない前駆イオンと、異なる質量対電荷比の生成イオンが、異なる速度で移動するようにする手段と、
を含み、
前記検出器は、前記変化していない前駆イオンと、生成イオンを検出し、前記生成イオンとその前駆イオンの前記質量対電荷比の両方を識別する質量スペクトルを提供するべく配列されている、質量アナライザ。
【請求項7】
請求項6記載の質量アナライザにおいて、前記イオンの前記質量対電荷比を変化させる変化手段は、フラグメント化、分解、分子との反応、付加物形成、及び電荷のはぎ取りを行う手段を含んでいる、質量アナライザ。
【請求項8】
請求項6記載の質量アナライザにおいて、前記生成イオンは、飛行時間検出器によって検出される、質量アナライザ。
【請求項9】
請求項6記載の質量アナライザにおいて、前記生成イオンに直交電界を印加して前記イオンを偏向させる手段を含み、前記検出器は、位置に依存した検出を可能にするべく配置されている、質量アナライザ。
【請求項10】
請求項6記載の質量アナライザにおいて、前記前駆及び生成イオンが、その質量対電荷比に応じて横方向に分離されるように、生成イオンの形成後に、前記イオンストリームに横方向の偏向電界を印加する手段を含んでいる、質量アナライザ。
【請求項11】
請求項10記載の質量アナライザにおいて、前記横方向の偏向電界を印加する手段は、前記直交加速領域の前段に配置されている、質量アナライザ。
【請求項12】
請求項10記載の質量アナライザにおいて、前記横方向の偏向電界を印加する手段は、前記直交加速領域の後段に配置されている、質量アナライザ。
【請求項13】
請求項10に記載の質量アナライザにおいて、その前駆質量対電荷比に応じて軸方向に、且つ、その生成質量対電荷比に応じて横方向に拡散した前記イオンは、イオン検出器の2次元アレイを使用して検出される、質量アナライザ。
【請求項14】
イオンストリームを質量分析する方法であって、
イオン保存装置内においてイオンをトラップする段階と、
前記保存装置に長手方向の抽出電圧を印加し、これにより、相対的に小さな質量対電荷比を具備するイオンが、大きな質量対電荷比のイオンと比べて、大きな速度で移動するようにする段階と、
前記イオンが、無電界領域内を既定の時間にわたって移動することを許容し、これにより、それらが異なる距離だけ移動するようにする段階と、
前記移動のラインに対して実質的に平行に離隔した検出器によって前記異なる質量対電荷比のイオンを検出する段階と、
を有する、イオンストリームの質量分析方法。
【請求項15】
異なる質量対電荷比のイオンのストリームを分析する方法であって、
既定の数の前記イオンを受領し保存する段階と、
前記保存されたイオンを加速し、これにより、異なる質量対電荷比のイオンが異なる速度を獲得するようにする段階と、
前記既定の時間内において異なる質量対電荷比のイオンが移動した距離により、前記イオンの前記質量対電荷比を判定する段階と、
を有する、イオンストリームの分析方法。
【請求項16】
異なる質量対電荷比のイオンのストリームを質量分析する方法であって、
前記イオンストリームをイオン保存手段に案内する段階と、
前記保存手段に抽出電圧を周期的に印加し、前記保存手段から、前記イオンの前記質量対電荷比に依存した速度を有するイオンを抽出する段階と、
前記イオンが無電界領域を移動することを許容する段階と、
既定の時間内に異なる距離だけ移動した異なる質量対電荷比のイオンを受領するべく離隔したイオン検出器により、前記イオンを検出する段階と、
を有する、イオンストリームの質量分析方法。
【請求項17】
請求項14に記載の方法において、前記無電界領域内において前記イオンを解離させ、これにより、前記前駆イオンと同一の速度を具備するフラグメントイオン束を形成した後に、直交電圧パルスを前記フラグメントイオン束に印加して、前記フラグメントイオンがその質量対電荷比に依存した速度を獲得するようにする段階と、
前記フラグメントイオンを検出し、その質量対電荷比とその前駆イオンの質量対電荷比に関する情報を提供する段階と、
を更に含む、イオンストリームの質量分析方法。
【請求項18】
請求項14に記載の方法において、前記フラグメントイオンは、その飛行時間を検出することによって検出される、イオンストリームの質量分析方法。
【請求項19】
請求項17に記載の方法において、前記フラグメントイオンは、前記直交パルス後の既定の時間におけるその移動の距離を検出することによって検出される、イオンストリームの質量分析方法。
【請求項20】
イオン保存装置と、
前記イオン保存装置からイオン群を抽出して加速する抽出器電界を提供し、相対的に小さな質量対電荷比のイオンを、大きな電荷対質量比のイオンと比べて、大きな速度で加速するべく構成及び配列されている抽出器と、
前記イオン群が移動する無電界領域と、
互いに異なる個々の距離だけそれぞれ前記加速領域から離隔した複数の別個の検出器と、
前記イオンがその移動の方向を横に変更して前記別個の検出器の隣接するものに到達するようにする横方向電界を前記無電界領域内に生成するべく構成及び配列された横方向加速器と、
を有しており、
前記別個の検出器は、到来した前記相対的に小さな及び大きな質量対電荷比のイオンのイオン強度を検出するべく構成及び配列されている、質量分析計。
【請求項21】
請求項20に記載の質量分析計において、前記別個の検出器は、前記移動のラインに対して平行に配列されている、質量分析計。
【請求項22】
請求項20に記載の質量分析計において、前記複数の別個の検出器は、前記抽出領域からの前記別個の検出器の距離の逆の順番に前記イオン強度を提示して質量スペクトルを生成する、質量分析計。
【請求項23】
請求項20記載の質量分析計において、前記別個の検出器のそれぞれは、一定の時間にわたってイオンの電荷を蓄積するべく構成されている、質量分析計。
【請求項24】
請求項20記載の質量分析計において、前記質量アナライザは、時系列順に群として保存及び加速するべく動作するように構成されている、質量分析計。
【請求項25】
請求項20記載の質量分析計において、イオンフラグメント化セルが、前記無電界領域内において、前記加速されたイオン群の経路内に存在し、前記イオンを解離させてイオンフラグメントを形成するべく構成されており、前記横方向の加速器は、相対的に小さな電荷対質量比のイオンを、大きな電荷対質量比のイオンと比べて、大きな速度に加速し、前記検出器は、前記イオンが横方向に加速された後の前記イオンの飛行時間を計測して、前記フラグメントイオンを検出し、これにより、前記(親及び)フラグメントイオンとその前駆イオンに関する情報を提供するべく構成されている、質量分析計。
【請求項26】
請求項25に記載の質量分析計において、前記イオンの解離においては、解離を誘発する中性ガス分子との衝突により、前記イオンストリームの前駆イオンにエネルギーを供給する、質量分析計。
【請求項27】
請求項25に記載の質量分析計において、前記フラグメント化セルは、前記フラグメントイオンに対する大きな運動量の転移を回避しつつ、前記イオンストリームにフラグメント化エネルギーを印加する、質量分析計。
【請求項28】
請求項20に記載の質量分析計において、前記別個の検出器は、それぞれのイオンの検出位置がそのイオンの電荷対質量比に対して平方根の関係を具備するように相互に配列されている、質量分析計。
【請求項29】
請求項20に記載の質量分析計において、前記抽出器によって生成される前記抽出電界は、時間と共に大きさが増大する抽出電圧から導出される、質量分析計。
【請求項30】
請求項20に記載の質量分析計において、前記抽出器によって生成される前記抽出電界は、その形状が変化する抽出パルスから導出される、質量分析計。
【請求項31】
請求項20に記載の質量分析計において、前記イオンストリームをフラグメント化するべく構成されたフラグメント化セクションと、質量対電荷比の値に応じて前記フラグメント化されたイオンストリームの前記イオンをソートするべく構成された直交飛行時間セクションと、を更に有しており、前記検出器は、前記ソートされたイオンの到着時間を検出するべく構成されている、質量分析計。
【請求項32】
請求項25記載の質量分析計において、前記フラグメント化セルに到着するイオンの出現とタイミングが一致した強力な光のビームを印加するフラグメント化器を更に有する、質量分析計。
【請求項33】
請求項32記載の質量分析計において、前記フラグメント化セクションは、内部反射表面を有するセルを含んでいる、質量分析計。
【請求項34】
請求項25記載の質量分析計において、前記フラグメントイオンが飛行距離によって分離されるように、前記フラグメントイオンに対して偏向電界を提供する偏向器を含み、前記検出器アレイは、前記イオンの到着を検出し、それぞれのイオンの前記イオンフラグメントの前記質量対電荷比を提供する2次元アレイを有している、質量分析計。
【請求項35】
質量分析計によるイオン検出の方法であって、
抽出電界を印加してイオン保存装置からイオンを加速し、相対的に小さな質量対電荷比のイオンを、大きな電荷対質量比のイオンと比べて、大きな速度に加速させることにより、無電界領域を通過する飛行経路を辿るイオンストリームを形成する段階と、
前記無電界領域内の前記イオンストリームを横方向に加速し、検出器アレイ内の別個の検出器の隣接するものに到達させる段階であって、前記別個の検出器は、互いに異なる個々の距離だけ、それぞれ前記加速領域から離隔している、段階と、
前記別個の検出器によってイオン強度を検出する段階と、
を有する、イオン検出方法。
【請求項36】
請求項35記載の方法において、前記横方向の加速は、前記飛行経路に直交する電界を印加することによって実行される、イオン検出方法。
【請求項37】
請求項35に記載の方法において、前記イオンストリームをフラグメント化する段階と、質量対電荷比の値に応じて前記フラグメント化されたイオンストリームの前記イオンをソートする段階と、前記ソートされたイオンを検出する段階と、を更に有する、イオン検出方法。
【請求項38】
請求項36記載の方法において、前記レンジ内の隣接する単位質量対電荷比値に対する前記飛行経路に沿った位置の関係から導出される前記別個の検出器間の離隔距離を判定することにより、もう1つの特定の質量対電荷比の分解能の1質量単位を提供する前記別個のイオン検出器を構成する段階を更に有する、イオン検出方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)イオンを受領し保存するイオン保存装置と、
(b)前記保存装置にイオン抽出電圧パルスを印加して前記イオンを加速し、これにより、前記保存手段を離れるイオンが質量対電荷比に依存した速度を具備するようにする手段と、
(c)異なる質量対電荷比を有する前記イオンが、既定の時間内に異なる距離だけ移動する無電界領域と、
(d)前記既定の時間内に異なる距離だけ移動した異なる質量対電荷比のイオンを受領するべく離隔しており、前記受領したイオンの前記質量対電荷比を示す出力を提供する検出器と、
を含む質量アナライザ。
【請求項2】
請求項1に記載の質量アナライザにおいて、分析対象のサンプルを受領し、前記イオン保存装置が受領する前記イオンを形成するイオン化器を含む、質量アナライザ。
【請求項3】
請求項2に記載の質量アナライザにおいて、前記イオン化器は、エレクトロスプレーイオン化器、マトリックス支援レーザー脱離イオン化器、大気圧化学イオン化器、グロー放電イオン化器、電子衝撃イオン化器、及びナノスプレーイオン化器から構成された群から選択される、質量アナライザ。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の質量アナライザにおいて、前記受領したイオンの質量対電荷比を示す出力は、特定の質量対電荷比のイオンを受領するべく配置された検出器から導出される、質量アナライザ。
【請求項5】
請求項1又は2記載の質量アナライザにおいて、前記無電界領域内を移動するイオンを、直交方向において、前記検出器に向かって偏向させる偏向器を含んでいる、質量アナライザ。
【請求項6】
請求項1又は2記載の質量アナライザにおいて、前記無電界領域内の前記イオンを生成イオンに解離させ又はその前記質量対電荷比を変化させ、これにより、前記生成イオンが、その前駆イオンと実質的に同一の速度で移動するようにする手段と、
前記生成イオン及び前駆イオンに直交加速電圧を印加し、これにより、前記変化していない前駆イオンと、異なる質量対電荷比の生成イオンが、異なる速度で移動するようにする手段と、
を含み、
前記検出器は、前記変化していない前駆イオンと、生成イオンを検出し、前記生成イオンとその前駆イオンの前記質量対電荷比の両方を識別する質量スペクトルを提供するべく配列されている、質量アナライザ。
【請求項7】
請求項6記載の質量アナライザにおいて、前記イオンの前記質量対電荷比を変化させる変化手段は、フラグメント化、分解、分子との反応、付加物形成、及び電荷のはぎ取りを行う手段を含んでいる、質量アナライザ。
【請求項8】
請求項6記載の質量アナライザにおいて、前記生成イオンは、飛行時間検出器によって検出される、質量アナライザ。
【請求項9】
請求項6記載の質量アナライザにおいて、前記生成イオンに直交電界を印加して前記イオンを偏向させる手段を含み、前記検出器は、位置に依存した検出を可能にするべく配置されている、質量アナライザ。
【請求項10】
請求項6記載の質量アナライザにおいて、前記前駆及び生成イオンが、その質量対電荷比に応じて横方向に分離されるように、生成イオンの形成後に、前記イオンストリームに横方向の偏向電界を印加する手段を含んでいる、質量アナライザ。
【請求項11】
請求項10記載の質量アナライザにおいて、前記横方向の偏向電界を印加する手段は、前記直交加速領域の前段に配置されている、質量アナライザ。
【請求項12】
請求項10記載の質量アナライザにおいて、前記横方向の偏向電界を印加する手段は、前記直交加速領域の後段に配置されている、質量アナライザ。
【請求項13】
請求項10に記載の質量アナライザにおいて、その前駆質量対電荷比に応じて軸方向に、且つ、その生成質量対電荷比に応じて横方向に拡散した前記イオンは、イオン検出器の2次元アレイを使用して検出される、質量アナライザ。
【請求項14】
イオンストリームを質量分析する方法であって、
イオン保存装置内においてイオンをトラップする段階と、
前記保存装置に長手方向の抽出電圧を印加し、これにより、相対的に小さな質量対電荷比を具備するイオンが、大きな質量対電荷比のイオンと比べて、大きな速度で移動するようにする段階と、
前記イオンが、無電界領域内を既定の時間にわたって移動することを許容し、これにより、それらが異なる距離だけ移動するようにする段階と、
前記移動のラインに対して実質的に平行に離隔した検出器によって前記異なる質量対電荷比のイオンを検出する段階と、
を有する、イオンストリームの質量分析方法。
【請求項15】
異なる質量対電荷比のイオンのストリームを分析する方法であって、
既定の数の前記イオンを受領し保存する段階と、
前記保存されたイオンを加速し、これにより、異なる質量対電荷比のイオンが異なる速度を獲得するようにする段階と、
前記既定の時間内において異なる質量対電荷比のイオンが移動した距離により、前記イオンの前記質量対電荷比を判定する段階と、
を有する、イオンストリームの分析方法。
【請求項16】
異なる質量対電荷比のイオンのストリームを質量分析する方法であって、
前記イオンストリームをイオン保存手段に案内する段階と、
前記保存手段に抽出電圧を周期的に印加し、前記保存手段から、前記イオンの前記質量対電荷比に依存した速度を有するイオンを抽出する段階と、
前記イオンが無電界領域を移動することを許容する段階と、
既定の時間内に異なる距離だけ移動した異なる質量対電荷比のイオンを受領するべく離隔したイオン検出器により、前記イオンを検出する段階と、
を有する、イオンストリームの質量分析方法。
【請求項17】
請求項14に記載の方法において、前記無電界領域内において前記イオンを解離させ、これにより、前記前駆イオンと同一の速度を具備するフラグメントイオン束を形成した後に、直交電圧パルスを前記フラグメントイオン束に印加して、前記フラグメントイオンがその質量対電荷比に依存した速度を獲得するようにする段階と、
前記フラグメントイオンを検出し、その質量対電荷比とその前駆イオンの質量対電荷比に関する情報を提供する段階と、
を更に含む、イオンストリームの質量分析方法。
【請求項18】
請求項14に記載の方法において、前記フラグメントイオンは、その飛行時間を検出することによって検出される、イオンストリームの質量分析方法。
【請求項19】
請求項17に記載の方法において、前記フラグメントイオンは、前記直交パルス後の既定の時間におけるその移動の距離を検出することによって検出される、イオンストリームの質量分析方法。
【請求項20】
イオン保存装置と、
前記イオン保存装置からイオン群を抽出して加速するパルス化抽出器電界を提供し、相対的に小さな質量対電荷比のイオンを、大きな質量対電荷比のイオンと比べて、大きな速度で加速するべく構成及び配列されている抽出器と、
既定の時間にわたって前記イオン群が移動し、これにより、異なる質量対電荷比を有する前記イオンが異なる距離を移動するようにする無電界領域と、
互いに異なる個々の距離だけそれぞれ前記加速領域から離隔した複数の別個の検出器と、
前記イオンがその移動の方向を横に変更して前記別個の検出器の隣接するものに到達するようにする横方向電界を前記無電界領域内に生成するべく構成及び配列された横方向加速器と、
を有しており、
前記別個の検出器は、到来した前記相対的に小さな及び大きな質量対電荷比のイオンのイオン強度を検出するべく構成及び配列されている、質量分析計。
【請求項21】
請求項20に記載の質量分析計において、前記別個の検出器は、前記移動のラインに対して平行に配列されている、質量分析計。
【請求項22】
請求項20記載の質量分析計において、前記複数の別個の検出器は、前記抽出領域からの前記別個の検出器の距離の逆の順番に前記イオン強度を提示して質量スペクトルを生成する、質量分析計。
【請求項23】
請求項20記載の質量分析計において、前記別個の検出器のそれぞれは、一定の時間にわたってイオンの電荷を蓄積するべく構成されている、質量分析計。
【請求項24】
請求項20記載の質量分析計において、前記質量アナライザは、時系列順に群として保存及び加速するべく動作するように構成されている、質量分析計。
【請求項25】
請求項20記載の質量分析計において、イオンフラグメント化セルが、前記無電界領域内において、前記加速されたイオン群の経路内に存在し、前記イオンを解離させてイオンフラグメントを形成するべく構成されており、前記横方向の加速器は、相対的に小さな電荷対質量比のイオンを、大きな電荷対質量比のイオンと比べて、大きな速度に加速し、前記検出器は、前記イオンが横方向に加速された後の前記イオンの飛行時間を計測して、前記フラグメントイオンを検出し、これにより、前記(親及び)フラグメントイオンとその前駆イオンに関する情報を提供するべく構成されている、質量分析計。
【請求項26】
請求項25に記載の質量分析計において、前記イオンの解離においては、解離を誘発する中性ガス分子との衝突により、前記イオンストリームの前駆イオンにエネルギーを供給する、質量分析計。
【請求項27】
請求項25に記載の質量分析計において、前記フラグメント化セルは、前記フラグメントイオンに対する大きな運動量の転移を回避しつつ、前記イオンストリームにフラグメント化エネルギーを印加する、質量分析計。
【請求項28】
請求項20に記載の質量分析計において、前記別個の検出器は、それぞれのイオンの検出位置がそのイオンの電荷対質量比に対して平方根の関係を具備するように相互に配列されている、質量分析計。
【請求項29】
請求項20に記載の質量分析計において、前記抽出器によって生成される前記抽出電界は、時間と共に大きさが増大する抽出電圧から導出される、質量分析計。
【請求項30】
請求項20に記載の質量分析計において、前記抽出器によって生成される前記抽出電界は、その形状が変化する抽出パルスから導出される、質量分析計。
【請求項31】
請求項20に記載の質量分析計において、前記イオンストリームをフラグメント化するべく構成されたフラグメント化セクションと、質量対電荷比の値に応じて前記フラグメント化されたイオンストリームの前記イオンをソートするべく構成された直交飛行時間セクションと、を更に有しており、前記検出器は、前記ソートされたイオンの到着時間を検出するべく構成されている、質量分析計。
【請求項32】
請求項25記載の質量分析計において、前記フラグメント化セルに到着するイオンの出現とタイミングが一致した強力な光のビームを印加するフラグメント化器を更に有する、質量分析計。
【請求項33】
請求項32記載の質量分析計において、前記フラグメント化セクションは、内部反射表面を有するセルを含んでいる、質量分析計。
【請求項34】
請求項25記載の質量分析計において、前記フラグメントイオンが飛行距離によって分離されるように、前記フラグメントイオンに対して偏向電界を提供する偏向器を含み、前記検出器アレイは、前記イオンの到着を検出し、それぞれのイオンの前記イオンフラグメントの前記質量対電荷比を提供する2次元アレイを有している、質量分析計。
【請求項35】
質量分析計によるイオン検出の方法であって、
パルス化抽出電界を印加してイオン保存装置からイオンを加速し、相対的に小さな質量対電荷比のイオンを、大きな電荷対質量比のイオンと比べて、大きな速度に加速させることにより、無電界領域を通過する飛行経路を辿るイオンストリームを形成する段階と、
前記イオンが既定の時間にわたって無電界領域内を移動することを許容し、これにより、異なる質量対電荷比を有する前記イオンが異なる距離だけ移動するようにする段階と、
前記無電界領域内の前記イオンストリームを横方向に加速し、検出器アレイ内の別個の検出器の隣接するものに到達させる段階であって、前記別個の検出器は、互いに異なる個々の距離だけ、それぞれ前記加速領域から離隔している、段階と、
前記別個の検出器によってイオン強度を検出する段階と、
を有する、イオン検出方法。
【請求項36】
請求項35記載の方法において、前記横方向の加速は、前記飛行経路に直交する電界を印加することによって実行される、イオン検出方法。
【請求項37】
請求項35に記載の方法において、前記イオンストリームをフラグメント化する段階と、質量対電荷比の値に応じて前記フラグメント化されたイオンストリームの前記イオンをソートする段階と、前記ソートされたイオンを検出する段階と、を更に有する、イオン検出方法。
【請求項38】
請求項36に記載の方法において、前記レンジ内の隣接する単位質量対電荷比値に対する前記飛行経路に沿った位置の関係から導出される前記別個の検出器間の離隔距離を判定することにより、もう1つの特定の質量対電荷比の分解能の1質量単位を提供する前記別個のイオン検出器を構成する段階を更に有する、イオン検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2006−521005(P2006−521005A)
【公表日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−507362(P2006−507362)
【出願日】平成16年3月19日(2004.3.19)
【国際出願番号】PCT/US2004/008424
【国際公開番号】WO2004/085992
【国際公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(505350134)サイエンス アンド テクノロジー コーポレイション アット ユニバーシティ オブ ニューメキシコ (1)
【Fターム(参考)】