説明

MS/MS型質量分析装置

【課題】3連四重極型質量分析装置において、第1段四重極又は第3段四重極の一方又は両方でスキャンが実行される際の時間分解能を向上させる。
【解決手段】測定モードやスキャン条件を含む分析条件が設定されると、データ生成部40は各部に印加する電圧値を1組とした1スキャン分の制御データテーブルを作成し、内部RAM41に格納する。このテーブルはDMA転送によりFPGA23のテーブル保持部51に格納される。一方、m/z差算出43がスキャン開始m/zと終了m/zとの差DZを算出し、予め作成されたテーブル44を参照してスキャン間時間決定部45がスキャン間時間Tmを決める。m/z差DZが小さいほど電源の電圧安定化時間が短いため時間Tmも短い。タイミング制御部53は1回のスキャン終了時点から時間Tmだけ待ち、次のスキャンを実行するようにデータ読み出し部52を制御する。これにより、m/z差に応じて単位時間当たりのスキャン回数が変化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はMS/MS型質量分析装置に関し、さらに詳しくは、いわゆる三連四重極型の質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
分子量が大きな物質の同定やその構造の解析を行うために、質量分析の1つの手法としてMS/MS分析(タンデム分析)という手法が知られている。MS/MS分析を行うために、最も操作や扱いが容易であるのが三連四重極(TQ)型質量分析装置である。
【0003】
特許文献1などに記載されているように、三連四重極型質量分析装置では、イオン源で生成された試料成分由来のイオンが第1段四重極に導入され、特定のm/zを有するイオンがプリカーサイオンとして選別される。このプリカーサイオンが、第2段四重極が内装されたコリジョンセルに導入される。コリジョンセルにはアルゴン等の衝突誘起解離(CID)ガスが供給され、コリジョンセル内でプリカーサイオンはCIDガスに衝突して開裂し、各種のプロダクトイオンが生成される。このプロダクトイオンが第3段四重極に導入され、特定のm/zを有するプロダクトイオンが選別されて検出器に到達し検出される。なお、各段の四重極、特に第2段四重極は実際には4本のロッド電極から成る構成でなく、例えば8本のロッド電極から成る構成である場合もあるが、ここでは、これらを含めて四重極と呼ぶ。
【0004】
こうした三連四重極型質量分析装置による定性を目的としたMS/MS測定モードとして、プロダクトイオンスキャン、プリカーサイオンスキャン、ニュートラルロススキャンの3種類が知られている(非特許文献1参照)。
【0005】
プロダクトイオンスキャンでは、第1段四重極を通過させるイオンのm/zを固定し、第1段四重極で選択されたプリカーサイオンをコリジョンセルにおいてCIDにより開裂させる。それにより生成された各種プロダクトイオンに対し、第3段四重極において所定のm/z範囲のスキャン測定を行うことでMS/MSスペクトルを得る。
【0006】
プリカーサイオンスキャンではプロダクトイオンスキャンとは逆に、第1段四重極で所定のm/z範囲のスキャンを行い、第3段四重極を通過させるイオンのm/zを固定する。即ち、第1段四重極のスキャンにより通過したイオンをコリジョンセルにおいて開裂させ、それにより生成されたプロダクトイオンの中で特定のm/zを有するイオンのみを第3段四重極を通過させて検出する。これにより、特定のプロダクトイオンが検出されたときに第1段四重極を通過したプリカーサイオンを特定することができる。
【0007】
ニュートラルロススキャンは特定の中性断片(中性化学種)が脱離する全てのプリカーサイオンを検出する測定方法であり、第1段四重極で選択されるm/zと第3段四重極で選択されるm/zとの差を一定に保ちつつ、第1段四重極と第3段四重極との両方をそれぞれ所定のm/z範囲で同時にスキャンする。これにより、プリカーサイオンに対して特定のm/z差を持つプロダクトイオンが検出されたときに、第1段四重極を通過したプリカーサイオンを特定することができる。
【0008】
上述のように三連四重極型質量分析装置では、分析目的等に応じて適宜の測定モードを選ぶことができ、それによって第1段四重極と第3段四重極とはそれぞれ、通過するm/zが固定されたり、或いは通過するm/zが時間とともに変化するようにスキャンが行われたりする。
【0009】
ところで、四重極質量フィルタを通過するイオンのm/zはロッド電極への印加電圧に応じて変化するから、スキャン測定の際には印加電圧を走査する。この印加電圧は一般に、直流電圧に高周波電圧を重畳した電圧であり、走査されるのは高周波電圧の振幅及び直流電圧の電圧値である。図6は、スキャン測定の際のm/zの変化の概略図である。このように、ロッド電極への印加電圧を最小のm/z:M1に対応した電圧から徐々に増加させてゆき、最大のm/z:M2に対応した電圧に到達したならば、電圧をm/z:M1に対応した電圧に速やかに戻す。現実の電源回路は応答特性を持つため、電圧を元の値に戻すのには或る程度の時間が掛かる。また、電圧を急激に変化させるとオーバーシュート(アンダーシュート)が発生するため、変化の後に電圧が安定するまでのセトリングタイムをとることも必要である。
【0010】
例えば特許文献1には、選択イオンモニタリング(SIM)測定においてセトリングタイムを設けることが不可避であると記載されているが、これはスキャン測定でも同様である。このため、図6に示すように、スキャンを繰り返す際に、或るスキャンを終了した時点から次のスキャンを開始するまでの間には、或る程度のスキャン間時間Tmを設ける必要がある。従来、このスキャン間時間Tmは、高周波電圧出力が最大の変化を生じるときの、つまり測定可能範囲で最大のm/zから最小のm/zにm/zを戻す際に必要とされる電圧安定化時間よりも大きい一定値に固定されており、スキャン条件には依存しないようになっている。
【0011】
【特許文献1】特開2006−278024号公報
【非特許文献1】「資料室>標準技術集>質量分析技術 質量分析技術全般/測定方法/MS/MS(MSn)モード/構造解析」、[online]、特許庁、[平成20年7月4日検索]、インターネット<URL : http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/hyoujun_gijutsu/mass/2-5-2.pdf>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記三連四重極型質量分析装置において、上記のような各測定モードによる測定を実行する際も同様にスキャン間時間は一定に決められている。スキャン間時間中には質量分析は実施されないから、例えば液体クロマトグラフ(LC)やガスクロマトグラフ(GC)で時間的に成分分離された試料をMS/MS分析する場合、スキャン間時間中にイオン源に導入された成分は分析に供されないことになる。即ち、成分の検出見逃しや精度を上げるために時間分解能を上げるためには、スキャン間時間が障害の1つとなる。
【0013】
本発明は上記課題に鑑みて成されたものであり、その主な目的は、上記のような各種の測定モードにおいて、実質的に質量分析に寄与しないスキャン間時間をできるだけ短縮することにより、単位時間当たりのスキャンの繰り返し回数を増やし、分析の時間分解能を向上させることができるMS/MS型質量分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために成された本発明は、イオン源と、該イオン源で生成される各種のイオンから特定のm/zを有するイオンをプリカーサイオンとして選択して通過させる第1段多重極と、プリカーサイオンを開裂させるコリジョンセルの内部に配設され、プリカーサイオン及び開裂により生成されたプロダクトイオンを収束させつつ後方へ輸送する第2段多重極と、前記プロダクトイオンの中の特定のm/zを有するイオンを選択して通過させる第3段多重極と、該第3段多重極を通過したイオンを検出するイオン検出器と、を具備し、第1段多重極及び第3段多重極のいずれか一方又は両方において通過するイオンのm/zをスキャンする測定モードを実行するMS/MS型質量分析装置において、
a)測定モード及びスキャン条件を含む分析条件をユーザが設定するための設定手段と、
b)前記設定手段により設定されたスキャン条件に基づき、スキャン開始m/zと終了m/zとの差からスキャン間時間を決定する時間決定手段と、
c)前記設定手段により設定されたスキャン条件に基づいて1回のスキャンに対応した印加電圧の変化のパターンを決定するとともに、前記時間決定手段により決定されたスキャン間時間に基づいて前記印加電圧の変化のパターンの繰り返しのタイミングを決め、前記第1段多重極及び第3段多重極への印加電圧を制御する制御手段と、
を備えることを特徴としている。
【0015】
上記測定モードとは、例えば、プロダクトイオンスキャン、プリカーサイオンスキャン、ニュートラルロススキャン、などである。このうち、プロダクトイオンスキャン及びプリカーサイオンスキャンでは、第1段多重極又は第3段多重極の一方でのみm/zのスキャンが実施されるから、時間決定手段は、そのスキャンの開始m/zと終了m/zとの差からスキャン間時間を決定すればよい。
【0016】
これに対し、ニュートラルロススキャンでは、第1段多重極と第3段多重極との両方でそれぞれ所定の(一般に同一ではない)m/z範囲のスキャンが同期的に実施される。そこで、この場合、時間決定手段は、第1段多重極及び第3段多重極についてそれぞれ設定されたスキャン条件に基づき、スキャン開始m/zと終了m/zとの差が大きいほうの差からスキャン間時間を決定するようにするとよい。
【0017】
スキャン間時間は、第1段及び第3段の多重極へ印加される電圧(高周波電圧と直流電圧との重畳電圧)がスキャン終了時のm/zに対応した値からスキャン開始時のm/zに対応した値に変化されるときの電圧安定化時間よりも長くしておく必要がある。電圧の変化量(幅)と電圧安定化時間との関係は、主として電圧発生回路の応答特性により決まり、予め装置の製造メーカが測定しておくことができる。そこで、その測定結果に応じて、例えばm/zの変化幅(スキャン終了時のm/zとスキャン開始時のm/zとの差)と適切なスキャン間時間とを対応付けたテーブルや計算式などを作成して記憶しておくようにすれば、制御手段は、このテーブルや計算式などを用いて簡単に、可能な限り最短のスキャン間時間を求めることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るMS/MS型質量分析装置によれば、第1段多重極と第3段多重極のいずれか一方又は両方でm/zのスキャンを実施する際に、そのスキャン開始m/zとスキャン終了m/zとの差が小さければ、スキャン間時間は相対的に短くなる。このため、仮にスキャン時間が同じであっても、単位時間当たりに実行されるスキャン繰り返し回数が増加し、質量分析が実質的に実行されていない期間も短くなるので、分析の時間分解能が向上する。それによって、本発明に係るMS/MS型質量分析装置をLCやGCの検出器として使用する場合でも、時間経過に伴って順に導入される各種の成分の見逃しを軽減することができ、単位時間当たりの信号感度の向上も達成できる。また、単位時間当たりのスキャン繰り返し回数の増加は、或る1つのm/zに対してサンプリング周期が短くなったことを意味するので、それに合わせてLCやGCの成分分離の速度を上げ、スループットの向上を図ることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の一実施例であるMS/MS型質量分析装置を、添付図面を参照して説明する。図1は本実施例によるMS/MS型質量分析装置の要部の構成図である。図示しないが、この質量分析装置の前段にはLCが接続され、LCのカラムからの溶出液がこの質量分析装置に連続的に供給される。
【0020】
この質量分析装置は、略大気圧雰囲気に維持される初段のイオン化室1と、図示しないターボ分子ポンプにより高真空雰囲気に維持される分析室5との間に、段階的に真空度を高めた三段の中間真空室2、3、4を備える、多段差動排気系の構成である。試料成分を含む溶出液がエレクトロスプレイ(ESI)ノズル6に供給されると、溶出液はESIノズル6で片寄った電荷を付与されつつイオン化室1中に噴霧される。この帯電した微小液滴は大気ガスと衝突して分裂するとともに乾燥され、その過程で試料成分はイオン化される。生成されたイオンを含む微小液滴は差圧によって脱溶媒管7に引き込まれる。加熱されている脱溶媒管7中を通過する間に溶媒の気化は一層進み、イオン化が促進される。
【0021】
イオンはイオン光軸Cの周りに配設された複数の電極板から成るイオンレンズ8により収束されて、円錐形状であるスキマー9の頂部に形成されたオリフィスを通過して次の中間真空室3へ送られる。イオンはイオン光軸Cの周りに配設された複数のロッド電極から成るイオンガイド10により収束され、隔壁11に穿設された通過孔を通過する。さらに同様に、イオンは複数のロッド電極から成るイオンガイド12により収束され、隔壁13に穿設された通過孔を通過して分析室5へと入る。
【0022】
分析室5内でまず最初にイオンが導入される第1段四重極14は、プリロッド電極、メインロッド電極、及びポストロッド電極から成る。この第1段四重極14には様々なm/zを有するイオンが導入されるが、特定のm/zを有するイオンのみがプリカーサイオンとして選択的に通過し、それ以外のイオンは途中で発散する。
【0023】
コリジョンセル15の内部には、第2段四重極に相当する多重極イオンガイド16が設置されている。コリジョンセル15内に入ったイオン(プリカーサイオン)は、アルゴンガス等のCIDガスに衝突し、開裂を生じて各種のプロダクトイオンを生成する。このプロダクトイオンや開裂しなかったプリカーサイオンは多重極イオンガイド16によって収束されつつ進みコリジョンセル15から出射する。第3段四重極17はプリロッド電極とメインロッド電極とから成る。第3段四重極17に導入された各種のイオンのうち、特定のm/zを有するイオンのみが選択的に通過し、それ以外のイオンは途中で発散する。第3段四重極17を通り抜けたイオンはイオン検出器18に到達し、イオン検出器18は到達したイオンの数に応じた電流信号を検出信号として出力する。
【0024】
例えば第1段四重極14で選択するプリカーサイオンのm/zをスキャンする際には、第1段四重極14のロッド電極へ印加する高周波電圧及び直流電圧を、所定の関係を保ってリアルタイムで変化させる必要がある。第3段四重極17で選択するイオンのm/zを走査する場合も同様に、第3段四重極17のロッド電極へ印加する高周波電圧及び直流電圧を、所定の関係を保ってリアルタイムで変化させる必要がある。また、イオンレンズ8、イオンガイド10、12、16などにはイオンを収束させつつ輸送するために高周波電圧が印加されるが、最適な輸送効率を達成するための高周波電圧はイオンのm/zに依存する。そのため、通過するイオンのm/zに応じて印加電圧はリアルタイムで調整される。質量分析の際にこのように各部に適宜の電圧を印加するために、それぞれ独立した電圧発生部24が設けられ、全ての電圧発生部24は分析制御部20により統括的に制御される。
【0025】
分析制御部20は、図示しないROMに格納された制御プログラムを実行するCPU21、制御用のパラメータデータが格納された記憶部22、プログラム可能なロジックデバイスであるFPGA23、などを備える。CPU21は、実際にはCPUを内蔵したシステム制御用の汎用マイクロコントローラを用いて構成することができる。電圧発生部24はそれぞれD/A変換器やパワーアンプなどを含み、D/A変換器はFPGA23からシリアルデータとして送られてくる制御データを一斉にパラレルデータに変換して読み込み、そのデータに応じたアナログ値を出力する機能を有する。分析制御部20の上位には、複雑なデータ演算処理やユーザインタフェイスなどを担うパーソナルコンピュータ(PC)25が設けられ、入力部26より分析条件などの入力設定を受けて分析制御部20に指示を与えるとともに、PC25上で作成されたマススペクトルやマスクロマトグラムなどを表示部27に描出する。
【0026】
図2は分析制御部20の機能ブロック図である。CPU21は、記憶部22に格納されているパラメータデータを利用して分析条件に応じた1サイクル分の電圧制御データを生成するデータ生成部40、データ生成部40で生成された電圧制御データを一時的に保持する内部RAM41、内部RAM41に保持されたデータを非同期でFPGA23へ転送するDMA転送部42、分析条件に基づいてスキャンの開始m/zと終了m/zとの差を算出するm/z差算出部43、予めm/zの変化幅とスキャン間時間とを対応付けて格納したスキャン間時間情報テーブル44、このテーブル44を利用してm/z差からスキャン間時間を求めるスキャン間時間決定部45、FPGA23に動作開始、終了等のタイミングを指示する動作制御部46を含む。
【0027】
スキャン間時間情報テーブル44は、電圧発生部24、特に第1段四重極14と第3段四重極17に印加する高周波電圧を発生する電圧発生部24の応答特性(電圧安定化時間)を予め製造メーカが測定し、この測定結果に基づいて、予め作成しておくものとする。図4は、スキャン終了m/とスキャン開始m/zとの差DZとスキャン間時間Tmとの適切な関係の一例を示す図である。スキャン終了m/とスキャン開始m/zとの差DZが小さいほど、四重極14、17への印加電圧のそれぞれの電圧差も小さくなるから、電圧安定化時間は短くて済み、スキャン間時間Tmも短くなる。従来、スキャン条件に依らずスキャン間時間Tmを一定にする場合には、図4中のTmmax以上の値をスキャン間時間Tmとして定めていることになる。ここでは、図4に示したような関係を元に、m/z差DZを入力としてスキャン間時間Tmが出力されるテーブルを作成してスキャン間時間情報テーブル44とすればよい。
【0028】
次に、本実施例のMS/MS型質量分析装置における特徴的な動作を説明する。このMS/MS型質量分析装置により分析を行う際には、分析に先立って、オペレータは分析条件を入力部2から入力設定する。この分析条件には、測定モード、スキャンを行う場合のスキャン条件(スキャン開始m/z、スキャン終了m/z、スキャン速度など)、イオンの開裂条件(CIDガス供給量など)、イオン化極性、などを含む。測定モードの種類には、プロダクトイオンスキャン、プリカーサイオンスキャン、ニュートラルロススキャンなどのほか、開裂を伴わない測定モードや、スキャンを全く実行しない測定モードなどもある。いずれにしても、オペレータが分析条件を設定してそれが確定すると、PC25からCPU21へ分析条件が送られ、CPU21においてデータ生成部40は、記憶部22に格納されているパラメータデータに基づいて、各部に印加する電圧の時間的な変化を一定時間間隔毎のデジタル値で表した制御データをテーブル形式で記述した制御データテーブルを作成する。
【0029】
制御データテーブルは、図3に示すように、一定時間間隔毎(例えばt1、t2、…、tn )に四重極14、17を含む各部に印加される電圧に対応したnビットの制御データが格納されたテーブルである。スキャンを実行する測定モードが指定された場合には、t1〜tnまでの制御データは1回のスキャンに対応した制御データの組である。同じ条件のスキャンを繰り返す場合には、制御データテーブルの先頭の時刻t1から最後の時刻tnまでの制御データの読み出しを繰り返せばよい。1つの制御データのビット数は、電圧発生部24に内蔵されたD/A変換器のビット数により異なるが、一般には12〜16ビット程度である。なお、第1段四重極(図3中ではQ1)14、第3段四重極(図3中ではQ3)17のように高周波電圧と直流電圧との重畳電圧が印加される場合には、図3中に記載のように、制御データは直流電圧DCと高周波電圧RFとに分けて用意され、2つのD/A変換器によりそれぞれアナログ電圧値に変換された後に加算を行うことにより、重畳電圧を生成する。
【0030】
データ生成部40では、図3に示したような制御データテーブルが作成され、これが内部RAM41に保存される。DMA転送部42は、内部RAM41に保存されている制御データテーブルを、FPGA23からの転送要求に応じて転送する機能を有する。一方、CPU21においてm/z差算出部43は設定されたスキャン条件から、スキャン終了m/zとスキャン開始m/zとの差DZを求め、スキャン間時間決定部45がこのm/z差DZをスキャン間時間情報テーブル44に照らしてスキャン間時間Tmを求める。但し、スキャンを伴う測定モードでない場合には、これら処理は実行されない。また、ニュートラルロススキャンのように第1段四重極14と第3段四重極17とでそれぞれ異なるスキャン条件の下でのスキャンが実行される場合には、両方のスキャン条件からそれぞれm/z差DZを計算し、いずれか大きいほうの値を選んでそれに対応したスキャン間時間Tmを求める。
【0031】
FPGA23においてDMA制御部50がDMA転送部42にデータ転送要求を出すと、DMA転送部42は内部RAM41に格納されている制御データテーブルを読み出してDMA制御部50へ送る。DMA制御部50はこれをパラメータテーブル保持部51に格納する。この制御データテーブルのDMA転送は、後述するFPGA23から電圧発生部24へのデータの読み出しとは非同期で行われる。一方、CPU21のスキャン間時間決定部45で決定されたスキャン間時間TmはFPGA23のタイミング制御部53に送られる。なお、このデータ転送はDMA転送と同時に実行してもよい。
【0032】
いずれにしても、タイミング制御部53にスキャン間時間Tmが設定され、パラメータテーブル保持部51に制御データテーブルが設定されると、実際にスキャンを伴う測定の実行が可能となる。CPU21の動作制御部46はPC25からの測定開始の指令を受けた後に、測定の開始のためのスタート信号をタイミング制御部53へ送る。
【0033】
タイミング制御部53は読み出し開始信号をデータ読み出し部52へと与え、データ読み出し部52はパラメータテーブル保持部51に格納されている制御データテーブルの制御データをその先頭(つまり時刻t1)から各時刻毎、つまり図3に示したテーブルで横方向に1行ずつ読み出し、それぞれに対応付けられた電圧発生部24へと送出する。この1行分の制御データの読み出し及び各電圧発生部24へのデータの送出は、一定時間間隔で与えられる同期信号の時間間隔内で終了するように制御される。各電圧発生部24において、D/A変換器はシリアル入力される制御データを1ビットずつ読み込んでパラレル出力に変換し、その出力を同期信号に応じて全てのD/A変換器で一斉にラッチしてD/A変換する。したがって、電圧発生部24への制御データの読み込みは同時ではないが、各部へ印加される電圧の更新は全て一斉に行われる。
【0034】
こうして図3に示した制御データテーブルの各行の制御データで表される電圧が、所定時間間隔毎に順番に、第1段四重極14や第3段四重極17を含む各部に印加される。例えば、いまプロダクトイオンスキャン測定モードが指定され、スキャン条件としてスキャン開始m/z:M1、スキャン終了m/z:M2であるとすると、第3段四重極17への印加電圧は図5(a)に示したようにように変化する。そして、データ読み出し部52はtnの制御データを読み出した次にt1のデータを読み出して読み出しを一旦終了する。これにより、第3段四重極17への印加電圧はスキャン開始m/z:M1に対応した電圧に戻る。
【0035】
タイミング制御部53は1スキャン分の制御データ読み出しを指示した後、スキャン間時間Tmだけ待機し、そのTmが経過したならば次の1スキャン分の制御データの読み出しを指示する。したがって、或る1つのスキャンの終了時点から次のスキャンの開始時点までの間にはスキャン間時間Tmだけの待ち時間が生じる。これが繰り返されることにより、図5(a)に示すような、間にスキャン間時間Tmを挟んだスキャンが実行されることになる。タイミング制御部53は、測定の終了のためのエンド信号が動作制御部46から送られてくるまで、上記のような制御を繰り返す。
【0036】
上述のように、スキャン間時間Tmは図4に示したような関係に基づいて決められる。したがって、図5(b)に示すように図5(a)に比べてスキャン開始m/zとスキャン終了m/zとの差DZが小さい場合には、スキャン間時間Tmも短くなる。スキャン間時間Tmが短いほど、単位時間当たりのスキャン実行回数は増加し、時間分解能が向上することになる。もちろん、スキャン間時間Tmが短くなっても、その間に四重極14、17への印加電圧は十分に安定するから、質量分析の精度に悪影響を及ぼすことはない。
【0037】
なお、上記実施例本発明の一例であり、本発明の趣旨の範囲で適宜変更や修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施例によるMS/MS型質量分析装置の要部の構成図。
【図2】本実施例のMS/MS型質量分析装置における分析制御部の機能ブロック図
【図3】パラメータテーブルの構造を示す概念図。
【図4】スキャン終了m/とスキャン開始m/zとの差DZとスキャン間時間Tmとの関係の一例を示す図。
【図5】本実施例のMS/MS型質量分析装置におけるスキャン測定の際のm/zの変化の一例を示す図。
【図6】スキャン測定の際のm/zの変化の一例を示す図。
【符号の説明】
【0039】
1…イオン化室
2、3、4…中間真空室
5…分析室
6…ESIノズル
7…脱溶媒管
8…イオンレンズ
9…スキマー
10、12…イオンガイド
11、13…隔壁
14…第1段四重極
15…コリジョンセル
16…多重極イオンガイド
17…第3段四重極
18…イオン検出器
20…分析制御部
21…CPU
22…記憶部
23…FPGA
24…電圧発生部
25…PC
26…入力部
27…表示部
40…データ生成部
41…内部RAM
42…DMA転送部
43…m/z差算出部
44…スキャン間時間情報テーブル
45…スキャン間時間決定部
46…動作制御部
50…DMA制御部
51…パラメータテーブル保持部
52…データ読み出し部部
53…タイミング制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン源と、該イオン源で生成される各種のイオンから特定のm/zを有するイオンをプリカーサイオンとして選択して通過させる第1段多重極と、プリカーサイオンを開裂させるコリジョンセルの内部に配設され、プリカーサイオン及び開裂により生成されたプロダクトイオンを収束させつつ後方へ輸送する第2段多重極と、前記プロダクトイオンの中の特定のm/zを有するイオンを選択して通過させる第3段多重極と、該第3段多重極を通過したイオンを検出するイオン検出器と、を具備し、第1段多重極及び第3段多重極のいずれか一方又は両方において通過するイオンのm/zをスキャンする測定モードを実行するMS/MS型質量分析装置において、
a)測定モード及びスキャン条件を含む分析条件をユーザが設定するための設定手段と、
b)前記設定手段により設定されたスキャン条件に基づき、スキャン開始m/zと終了m/zとの差からスキャン間時間を決定する時間決定手段と、
c)前記設定手段により設定されたスキャン条件に基づいて1回のスキャンに対応した印加電圧の変化のパターンを決定するとともに、前記時間決定手段により決定されたスキャン間時間に基づいて前記印加電圧の変化のパターンの繰り返しのタイミングを決め、前記第1段多重極及び第3段多重極への印加電圧を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とするMS/MS型質量分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載のMS/MS型質量分析装置であって、
前記測定モードがニュートラルロススキャンであるとき、前記時間決定手段は、第1段多重極及び第3段多重極についてそれぞれ設定されたスキャン条件に基づき、スキャン開始m/zと終了m/zとの差が大きいほうの差からスキャン間時間を決定することを特徴とするMS/MS型質量分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−20916(P2010−20916A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177809(P2008−177809)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】