説明

MSDS提供管理システム

【課題】化学製品を取り扱う者に対する製品安全データシート(MSDS)の提供を、確実かつ継続的に実施する。
【解決手段】MSDSを提供するのに必要な情報を全て管理するサーバを備え、当該サーバ内情報に一定の役割に基づいて関与することを業務とする部門によって構成される、MSDS提供管理システムを構築する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、危険有害な化学製品について安全な取扱等を確保するための情報を掲載した「製品安全データシート」(MSDS)を提供するためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
化学製品を取り扱う上で、その有害性により予期せぬ環境汚染および健康障害を発生させ、またその危険性により誤使用によって災害を誘因するといった事態を引き起こす可能性についての情報を取扱事業者に提供し周知させることによって、化学製品による事故を未然に防止することを目的に収集された情報資料を、平成4年8月以降一定様式の基に作成された「製品安全データシート」(MSDS)として、主に供給事業者の自主的判断によって提供されてきた。
【0003】
その後関連各法の改正により、一定の危険有害性を持つ化学製品について上記情報資料を提供するこが義務化されたことを機に、化学製品を提供する供給事業者は義務化法令に則した対応を要求されることになった。ここでいう関係法令とは、化学物質管理促進法(PRTR法)、労働安全衛生法及び毒物及び劇物取扱法を指す。
【0004】
義務化法令である化学物質管理促進法(PRTR法)によれば、人の健康や生態系に有害な恐れのある化学物質として定義された物質又はそれらを含有する製品を取引する際、その性状及び取扱いに関する情報を義務付けたものであり、平成13年1月より施行されている。
【0005】
また、平成11年5月改正の労働安全衛生法によれば、労働者に健康障害を生ずる恐れのある化学物質(通知対象物)とその混合物を譲渡又は提供する者は、一定の方法により、通知対象物の名称、成分およびその含有量、物理的及び化学的性質、人体に及ぼす作用等の事項を、譲渡又は提供する相手方に通知しなければならない、としている。
【0006】
平成13年1月より施行の毒物及び劇物取締法施行令では、法律上毒物及び劇物、並びに特定毒物として定義された化学物質を販売又は授与する場合、毒物劇物営業者等は譲受人に対し、その性状及び取扱いに関する情報を提供することを義務付けている。
【0007】
前記3法は目的の差異こそあれ、化学物質を事業者間で取引する際、性状及び取扱いに関する情報を含めて事業者間で授受されることについては同様の制度として位置付けることができ、一般的には「MSDS制度」といわれている。また、前記3法を遵守するための対応として、関連省庁においては国内規格として記載内容が標準化されたJIS Z 7250:2000に基づいた製品安全データシート(MSDS)を作成し提供することを推奨している。
【0008】
MSDS制度への対応として、例えば特許文献1では、法令に対応してMSDSに記載する定型的な語句を正確に統一して記載することができ、またMSDSに記載する物質や混合物の名称、および記載内容レベルを、法令や化学物質等を含む製品の種類に応じて変更することができるMSDS作成システム、MSDS作成方法およびそのプログラムについて開示している。
特許文献2では、JIS Z 7250:2000に基づき、正確で統一のとれたMSDSを、最小限の人手で迅速に作成し、顧客へ確実に発行することを可能とするMSDS自動作成システムについて開示している。
また法令遵守のための手段として、特許文献3にて、多数の法規に関するコンプライアンス問題(遵守、準拠問題)を管理するためのシステムと方法についての記載がある。
【特許文献1】特開2003−216693号公報
【特許文献2】特開2003−331077号公報
【特許文献3】特開2001−250023号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1によれば、適用した法令に応じた標準語句抽出、製品に含まれる成分含有値を考慮した法令適用判断機能等により、供給事業者が持ち合わせる有用な製品情報を提供するためのMSDS作成を可能としており、MSDS制度により義務化された情報事項の提供を実践する一助となっているが、あくまでもMSDSの作成に関する技術内容であり、当該技術により作成されたMSDSの顧客への提供方法等については明記されていない。
【0010】
また特許文献2は、MSDSの作成部、承認登録部、発行履歴管理部、マスタ情報管理部を備えることで、最小限の人員で迅速に、正確で統一のとれたMSDSを作成するシステムを構成しており、顧客へ確実に発行することを可能としている。特に前記各部における工程(ワークフロー)管理を行う工程管理部を設けることにより、MSDSの作成依頼、作成、承認、決済などの失念するようなケアレスミスを防ぎ、MSDS文書に対する信頼度を向上させている。このワークフローについて、特許文献2の明細書中では新規製品出現時、顧客へのMSDS提供時については具体的に記載があるものの、各種マスタデータ情報に変更が発生した場合については、製品MSDSの物質情報が変更される可能性を考慮し、細心の注意を払って情報の変更をするようにしている、という表現に留まり、MSDS文書に変更が発生した場合のワークフローについては記載されていない。
【0011】
法令に則り事業を遂行することは社会的にも要求されている事項であり、これを正確確実に実施するための管理(コンプライアンス管理)システム及び方法について特許文献3に記載があるものの、具体的には金融サービス産業における管理問題についての解決手段以外については明確にされていない。
【0012】
この様に、従来公開の文献技術はMSDS制度のうち、MSDSの正確な作成等、部分的遂行に関しては比較的有効な技術であったり、化学製品の安全な取扱いを趣旨とした制度とは別な分野におけるコンプライアンス管理には有効な技術であるものの、化学製品を取り扱う者へ確実に製品安全取扱情報を提供することについて、これを継続的に実施することに注力した技術については知られていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以上の問題に鑑み、従来技術で特徴的であった一過性の解決策を更に改善し、MSDS制度に対し、日常的かつ反復継続的なコンプライアンス管理を可能とする、MSDS提供管理システムを確立した。
【0014】
ここでいう解決手段は以下のとおりである。
(1)危険有害な化学製品について安全な取扱等を確保するための情報を掲載した「製品安全データシート」(MSDS)を提供するためのシステムであって、顧客等へMSDSを提供するに必要な情報をすべて管理するサーバを備え、当該サーバ内に蓄積された情報のうち、MSDSに関する情報の追加、変更が発生した場合、その追加変更情報に連動してサーバ内情報を変動させることを業務とする部門と、MSDSを顧客等へ提供し、その履歴情報を管理サーバ内に蓄積すると共に、MSDSに関する追加変更情報が発生した場合、その情報を提供すべき履歴情報を抽出した上、最新のMSDSを迅速に顧客等に提供することを業務とする部門によって構成されることを特徴とする、MSDS提供管理システム。
ここでいう「顧客」とは、通常の商取引において最終的に製品を譲り受け、これを使用する対象として記載しているが、MSDS制度の趣旨に則すれば、化学製品を取り扱うことにより発生する恐れがある災害事故等を未然に防ぐため、「顧客」についてその定義を固定するものではなく、輸送運搬、保管、廃棄等を含め、あらゆる状況に応じて「製品を取り扱う者」のようにその対象を広義に捉えるべきものであることから、以上を総じて「顧客等」として記載する。
【0015】
(2)顧客等へMSDSを提供するに必要な情報のうち、各種媒体によって入手されたことによって分散している情報を電子化し一元管理するためのデータベースを備えた、前記MSDS管理サーバを利用することを特徴とする上記(1)に記載のMSDS提供管理システム。
ここでいう「各種媒体」とは、事業者間および部門間の情報伝達手段として一般的に使用される通信手段、具体的には郵送、ファクシミリ、電子メール等によって入手される、必要情報が記録された、例えば紙及び各種形式ファイル等を指す。
【0016】
(3)MSDSを受領した顧客等から受領の証となる証明を受取り、前記データベースに履歴情報として蓄積することにより、既に提供したMSDSの所在を明確にすることを特徴とする、上記(1)ないし(2)に記載のMSDS提供管理システム。
【0017】
(4)MSDSを受領した顧客等から、従前提供された同製品に関するMSDSが返却され、かつその返却されたことを示す情報を前記データベースに履歴情報として蓄積することにより、既に提供したMSDSが最新の情報であることを顧客等に明示した証として記録することを特徴とする、前記(1)ないし(2)に記載のMSDS提供管理システム。
【0018】
(5)MSDSに記載の内容のうち、顧客等に提出すべき最新のMSDSであることを識別することが可能な情報を任意に設定し、この識別情報を前記データベースに反映させることで、MSDSに関する情報の追加変更情報に連動したサーバ内情報の変動の1つがあったものとみなすことを特徴とする、上記(1)ないし(2)に記載のMSDS提供管理システム。
【0019】
(6)商品として販売するために必要な情報のうち、製品概要を識別することが可能な情報を前記データベースに反映させることで、MSDSに関する情報の追加変更情報に連動したサーバ内情報の変動の1つがあったものとみなすことを特徴とする、上記(1)ないし(2)に記載のMSDS提供管理システム。
【0020】
(7)MSDSを顧客等へ提供し、その履歴情報を管理サーバ内に蓄積する業務、及びMSDSに関する追加変更情報が発生した場合、その情報を提供すべき履歴情報を抽出した上、最新のMSDSを迅速に顧客等に提供する業務を、前記データベースを操作することで完了させることを可能とする、上記(1)ないし(2)に記載のMSDS提供管理システム。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、MSDS制度に対し、日常的かつ反復継続的なコンプライアンス管理が可能となる。つまりは、特定の危険有害性を持つ製品に対し、MSDSの提供を義務付けている関連3法(化学物質管理促進法、労働安全衛生法、毒物及び劇物取締法)に従い、製品の性状及び取扱いに関する情報を確実に提供すると同時に、日常的かつ反復継続的運用を特徴とするシステムであることから、当該3法で努力義務とされている、通知事項変更時における従前提供先への報告を最新MSDSの提供により迅速確実に実施することが可能となる。結果、製品取扱い時に発生する恐れのある災害事故を未然に防ぎ、顧客等の安全及び健康の確保、環境保全の実現に配慮した、関連情報のコンプライアンス管理が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明を実施するにあたり、システムを運用するに要する必須ツールである専用サーバ(以下、MSDS管理サーバという)を手配する。これは顧客等へMSDSを提供するのに必要な情報を全て管理することを特徴としており、よってこの目的を果たすに足りる記憶容量を備えるべきことを必須とするものである。顧客等へMSDSを提供するのに必要な情報としては、MSDS、MSDS提供依頼書、受領証の他、商品情報、履歴情報等をいう。これらに記録、記載のある情報以外はサーバ内で管理すべき情報に含まない。例えば、原材料情報、法令情報、物性性状データ等、MSDSを作成するのに必要な情報等は含まれない。
【0023】
MSDS管理サーバ内の情報の取扱いについては、MSDSの提供に係る役割と業務分担によってその操作権限をあらかじめ決定しておく。特に本発明に要する役割として、MSDS管理サーバ内に蓄積された情報のうち、(a)MSDSに関する情報の追加、変更が発生した場合、その追加変更情報に連動してサーバ内情報を変動させる業務、(b)MSDSを顧客等へ提供し、その履歴情報を管理サーバ内に蓄積すると共に、MSDSに関する追加変更情報が発生した場合、その情報を提供すべき履歴情報を抽出した上、最新のMSDSを迅速に顧客等に提供する業務、の2業務を必須とする。(a)を役割とする部門についてはMSDS管理サーバへの一定情報に関する追加変更の権限のみを与え、その他情報への接続、変更については制限する。一方(b)を役割とする部門は特にMSDS管理サーバの主管として位置付け、MSDS管理サーバ内全ての情報に接続、閲覧できる権限を与える。ただし、(a)についての権限に関しては(b)を業務とする部門権限を上回るものとする。
【0024】
以上のような業務分担を実施する理由として、MSDS管理サーバを常に正常な状態で継続的に維持することが挙げられる。例えばMSDSを作成承認することを業務とする部門においては、これを実現するに必要な情報に基づいて業務がなされるべきであり、そのような情報を持ち合わせない、例えば上記(a)及び(b)を役割とする部門がMSDSを作成することは、MSDSに有用な情報が収載されない可能性が高くなる。逆に(b)を役割とする部門以外が顧客等へMSDSを提供することは、顧客等への提供履歴を一元管理できないことから、MSDSの追加変更情報が発生した場合の遡及結果に不備欠陥を生じさせる。つまり、業務分担に伴うMSDS管理サーバの操作権限の付与により、(a)及び(b)が適切な部門によってのみ実施され、MSDS制度の適切な遂行に有効である。ただし、MSDS管理サーバの正常な維持管理が可能であれば、部門の設定条件等により操作権限内容を変動させても差し支えない。
【0025】
図1にてMSDS提供管理システムを概念的に示す。この中で(a)を役割とする部門は「MSDS登録部門」、「商品情報管理部門」として記載される。具体的には、「MSDS登録部門」はMSDS管理サーバに対し、作成承認が完了したMSDS及びその文書に関連する情報を記録することを業務とする。その記録は追加、変更を問わず、MSDS管理サーバに記録された情報に変動が生じる毎に都度実施するものとする。またMSDSは化学製品の取引に則して提供されるものであるため、商取引上化学製品を特定するために提供先に提示する商品情報(主たる情報の1つとして「商品名」がある)を管理する「商品情報管理部門」は、従前より変動のある商品情報のうちMSDSに記載された情報及び顧客等への製品提供条件等、MSDS管理サーバにて管理されるべき情報を1つでも含む場合、その変動情報を連動してMSDS管理サーバに対し記録することを業務とする。例えば生産中止が決定された商品は商取引はなされないはずであることから、出荷停止という決定がされて以降、その確定情報に連動してMSDS管理サーバ内に当該商品のMSDS提供を不可とする情報として追加することで、MSDSについても新たに提供されないことになる。
【0026】
また(b)を役割とする部門は図1において「提供履歴管理部門」として記載される。ここでは、MSDSを提供するに要する全情報を管理し、顧客等に対する提供情報が常に製品情報に則したものとなるよう、これをMSDS管理サーバの適正な管理運用を以って実施することを業務とする。また(b)のうち特に、他部門によって発生する情報の変動を迅速かつ的確に顧客等へ提供することについては、その情報管理手段としてデータベースを用意し、これをMSDS管理サーバへ設置することで実現される。
【0027】
また、MSDS管理サーバの正常な維持管理のため、業務分担に基づく操作権限の決定について述べたが、これを厳格に設定管理することについて上記データベースは大いに有効である。決定した業務上の権限をそのままデータベースの接続制限に反映させることができ、これにより情報の閲覧操作が制限され、結果権限内の業務遂行が可能となる。具体的には、パスワード付与、ユーザー登録者以外の接続制限、データベースオブジェクト毎の権限設定等があり、部門の設定条件等により適切な操作権限内容を設定するものとする。
【0028】
更に(a)を役割とする部門による記録について、MSDS管理サーバに記録された情報に変動が生じる毎に都度実施することを、設置したデータベースを介して実施することが可能であり、かつ、情報の変動をもれなく記録することを併せて可能とする。データベースという形でMSDS管理サーバ内の情報を管理した場合、図1でいえば商品情報管理部門は、ここで管理される商品マスタ情報を含むデータベースを操作した場合、MSDS管理サーバ内に設置のデータベースが前記データベースのデータを取り入れる(インポート)よう設定しておくことで、自動的にMSDS管理サーバ内情報を追加変更する業務を完了させることになる。各部門による他業務の煩雑性に影響されず、正確な情報の処理を実現することに関しても、MSDS管理サーバ内へのデータベースの設置は有効である。
【0029】
(b)を役割とする部門がMSDS管理サーバへ蓄積すべき情報には、MSDSを顧客等へ提供した履歴情報がある。このうち、提供先等、MSDS提供に要する情報は、図1において、顧客等もしくは営業部門よりMSDSの提供を依頼される段階で依頼者より提示される。具体的には、MSDS提供に要する事項を記載した定型ファイル、書面等を受領し、これをMSDS管理サーバへ記録する。口頭及び紙媒体等直接MSDS管理サーバへ記録できない場合は、データ変換等により電子化し記録できる形式に変更する場合もある。
【0030】
MSDS管理サーバに蓄積された情報に基づき、提供履歴管理部門は顧客等に対しMSDSを提供する。この段階では既に顧客等へ提供すべき最新の情報の全てが完備され、顧客等への提供に支障ない手段、ルートが明確化されており、これに則すれば適切な発送処理が実現される。
【0031】
顧客等へのMSDS発送後、その情報がどこにあるかを追跡し明らかにすることで初めてMSDS制度に則った情報の提供が完了したことを認識できる。とすればこれを履歴情報として後に付加すべき情報であり、(b)を役割とする部門によって記録される必要がある。当該情報を得るため、図1において、提供履歴管理部門は受領の証となる証明(仮に受領証と呼ぶ)を提供完了後に受領できるような手配を、MSDSを発送すると同時に実施することを要する。この場合、事業規模及び事業形態等、不特定な個人または法人を対象に証明を依頼することを前提とせねばならず、よって証明方法としては最も一般的で標準的な「書類への署名」とすることが望ましい。これに基づき、提供履歴管理部門は、MSDSの所在を明確にするに必要な情報が証明されるよう、場合によっては事情説明を伴った受領証を作成し、MSDSに添付して発送する。
受領証の返却については、書面である場合、郵送、ファクスシミリ送信の他商品取引に関与する代理店、営業部門等の経由を想定できるが、最終返却先は(b)を役割とする部門とし、当該部門は、返却された受領証に記載の内容を履歴情報としてMSDS管理サーバに付加する。
【0032】
以上の他、履歴情報としてMSDS提供後に付加すべき内容として、提供し受領されたMSDSが最新の情報であることを示し、仮に従前提供された同商品に関するMSDS(以降「旧版MSDS」という)が顧客等に存在する場合、従前提供された旧版MSDSは既に有効ではないことを意識付けることを目的に、その返却を促すよう手配した結果返却された旧版MSDSに関する記録である。従前提供されたMSDSに対し改めてMSDSを提供するのは、MSDSの記載内容に変更が生じていることが前提であり、変更があった旨及びその変更内容を顧客等に明示することは、製品の安全な取扱い等を確保する上で非常に重要である。よって、旧版MSDSが顧客等によって従来通り保管管理された場合、最新のMSDSと混同され、従来通り有効なものとして利用される可能性が残り、MSDS制度を考慮すれば適切ではない。旧版MSDSの返却に関する依頼は、MSDSの発送に伴う受領証の添付と同時に実施されるのが適当であるが、返却については受領証の返却と同時、もしくはそれ以降実施されることで差し支えない。というのも旧版MSDSの返却についてはMSDS制度によって規定されるものではなく、MSDS制度の趣旨に基づき、あくまでも自主的に実施されるような内容のもので、顧客等にその返却を促すにとどめることが適当である。受領証と同様、最終返却先は(b)を役割とする部門とし、当該部門は、返却された旧版MSDSに関する情報を履歴情報としてMSDS管理サーバに付加する。
【0033】
(b)のうち、MSDSに関する追加変更情報が発生した場合、その情報を提供すべき履歴情報を抽出した上最新のMSDSを迅速に顧客等に提供する業務について、これを遂行する部門は、追加変更情報の発生を迅速に認識し、顧客等へ提供するための処理に移る必要がある。迅速な認識を実現させる手段として何らかの識別情報を設定しておくことが必要となる。MSDSに記載の識別情報の例としては、MSDS管理サーバ内に新たに記録されたMSDSの改訂日、改訂版番号、整理番号、その他の項目のうち少なくとも1つ、MSDSに記載されている以外の識別情報としては(a)を役割とする部門による、口頭、書面、社内メール等の任意手段により追加変更のあった旨を示し、場合によってはその追加変更内容を添付した業務連絡の受領等が想定されるが、識別情報はこれらに限定されるものではなく、また複数の識別情報を組み合わせて使用することは一向に差し支えない。ただしこれらの識別情報は、旧版MSDSに記載の性状及び取扱いに関する情報が変動した場合には従前より必ず変動されることが条件となる。また、これら情報の授受を関係部門毎に管理されるデータベースを介して実施する場合、追加変更情報の発生について、より明確に認識するためにも、上記手段を一例とする業務連絡を併せて受領することが望ましい。
【0034】
(b)を役割とする部門は、MSDSに関する追加変更情報として商品販売上要する情報についても併せて管理しておくことが重要である。製品内容を識別する情報の例としては、商品名、製品コードが一般的である。その他の情報として、新規商品及び製品の登録もしくはそれぞれの廃止に関する情報、継続的生産体制の有無、出荷の可否等が挙げられる。MSDSは化学製品の取引に則して提供されるものであるため、MSDSに記載のないこれら情報も含めて商品概要を識別する情報として管理する。当該情報の追加変更発生を認識する手段は、上記と同様、MSDS記載内容に追加変更情報が発生した場合と同等として差し支えない。
【0035】
更に(b)を迅速に実施するためには、これに必要な情報が一元管理された、MSDS管理サーバ内に設置されたデータベースの活用が有効である。当該データベースに記録される情報例を図2ないし図4に示す。
図1において、提供履歴管理部門は履歴情報を蓄積するため、依頼者より提示されたMSDS提供に要する事項を記載した情報を定型ファイルとして入手することで、その情報をデータベース操作により図2ないし図3のテーブルに取り込むことができ、これに後日入手される受領証に関する情報を付加することで、依頼に対するMSDS提供の完了を記録する。この場合、受領証に関する情報、および旧版MSDSの返却に関する情報を付加するため、図6に示すような入力フォームが用意されればより効率的に付加情報を記録できる。また提供先に受領証への署名を依頼するには、MSDSを発送する際に同時添付することが最良であるが、発送する製品のMSDSに関する情報、図4においては商品名、改訂日等を記録し、かつ署名欄を設けた、図5に示すようなレポートの作成をデータベースで実施することも可能である。発送方法によっては、送付先情報をレポートとして出力し宛先ラベルを作成することもできる。
更に、MSDSに関する追加変更情報発生時における履歴情報抽出においては、MSDSに記載の商品名を抽出条件とする他、例えば履歴情報として記録している受領証に関する情報を参照し、従前のMSDS提供が完了している提供先を抽出条件として追加する等、データベースを用いれば抽出条件を迅速かつ自在に設定できる。これによって抽出した結果である履歴情報に従い、そのまま受領証及び宛先ラベルの作成に移行できる。
以上のとおり、(b)を役割とする部門である提供履歴管理部門は、MSDS管理サーバ内に設置されたデータベースを操作することでその役割を完了させることができ、結果、この業務は確実に遂行されることとなる。
【0036】
またデータベースを用いた履歴情報の抽出については、上記記載の様なMSDSに関する追加変更情報発生時の他、災害事故等発生時における対応に要する情報の遡及、関連機関への情報提供等、迅速性を要求される緊急対応時においても、データベース操作による履歴抽出機能が効果的に機能することは明らかであり、結果顧客等の製品取扱いに対する安全性確保に更に貢献できる効果も含むといえる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に基づくMSDS提供管理システムに関する概念図の一例である。
【図2】本発明に基づくMSDS提供管理システムが備えるMSDS管理サーバ内データベースに蓄積される履歴情報のうち、提供明細を示すテーブルの一例である。
【図3】本発明に基づくMSDS提供管理システムが備えるMSDS管理サーバ内データベースに蓄積される履歴情報のうち、提供記録を示すテーブルの一例である。
【図4】本発明に基づくMSDS提供管理システムが備えるMSDS管理サーバ内データベースに蓄積される履歴情報のうち、原紙管理状況を示すテーブルの一例である。
【図5】本発明に基づくMSDS提供管理システムが備えるMSDS管理サーバ内データベースに蓄積される履歴情報を掲載し、受領署名欄を設けたレポート(受領証)の一例である。
【図6】本発明に基づくMSDS提供管理システムが備えるMSDS管理サーバ内データベースに蓄積される履歴情報のうち、受領証に関する情報及び旧版MSDS返却に関する情報を付加するために用意する専用入力フォームの一例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
危険有害な化学製品について安全な取扱等を確保するための情報を掲載した「製品安全データシート」(MSDS)を提供するためのシステムであって、
顧客等へMSDSを提供するに必要な情報をすべて管理するサーバを備え、
当該サーバ内に蓄積された情報のうち、MSDSに関する情報の追加、変更が発生した場合、その追加変更情報に連動してサーバ内情報を変動させることを業務とする部門と、MSDSを顧客等へ提供し、その履歴情報を管理サーバ内に蓄積すると共に、MSDSに関する追加変更情報が発生した場合、その情報を提供すべき履歴情報を抽出した上、最新のMSDSを迅速に顧客等に提供することを業務とする部門によって構成されることを特徴とする、MSDS提供管理システム。
【請求項2】
顧客等へMSDSを提供するに必要な情報のうち、各種媒体によって入手されたことによって分散している情報を電子化し一元管理するためのデータベースを備えた、前記MSDS管理サーバを利用することを特徴とする請求項1に記載のMSDS提供管理システム。
【請求項3】
MSDSを受領した顧客等から受領の証となる証明を受取り、前記データベースに履歴情報として蓄積することにより、既に提供したMSDSの所在を明確にすることを特徴とする、請求項1ないし請求項2に記載のMSDS提供管理システム。
【請求項4】
MSDSを受領した顧客等から、従前提供された同製品に関するMSDSが返却され、かつその返却されたことを示す情報を前記データベースに履歴情報として蓄積することにより、既に提供したMSDSが最新の情報であることを顧客等に明示した証として記録することを特徴とする、請求項1ないし請求項2に記載のMSDS提供管理システム。
【請求項5】
MSDSに記載の内容のうち、顧客等に提出すべき最新のMSDSであることを識別することが可能な情報を任意に設定し、この識別情報を前記データベースに反映させることで、MSDSに関する情報の追加変更情報に連動したサーバ内情報の変動の1つがあったものとみなすことを特徴とする、請求項1ないし請求項2に記載のMSDS提供管理システム。
【請求項6】
商品として販売するために必要な情報のうち、製品概要を識別することが可能な情報を前記データベースに反映させることで、MSDSに関する情報の追加変更情報に連動したサーバ内情報の変動の1つがあったものとみなすことを特徴とする、請求項1ないし請求項2に記載のMSDS提供管理システム。
【請求項7】
MSDSを顧客等へ提供し、その履歴情報を管理サーバ内に蓄積する業務、及びMSDSに関する追加変更情報が発生した場合、その情報を提供すべき履歴情報を抽出した上、最新のMSDSを迅速に顧客等に提供する業務を、前記データベースを操作することで完了させることを可能とする、請求項1ないし請求項2に記載のMSDS提供管理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−113996(P2006−113996A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−331205(P2004−331205)
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【出願人】(000115072)ユケン工業株式会社 (33)