説明

MSHのアゴニストであるトリペプチド複合体

本発明は、エナンチオマー又はジアステレオマー、ならびにラセミ混合物を含むそれらの混合物の形での、A−AA1−AA2−AA3−NH2という一般式Iを満たすトリペプチド複合体であって、式中、Aは、HOOC−Rという一般式IIのモノカルボン酸に対応する基であり(式中、Rは、一つ又は複数の不飽和、有利には1〜6の不飽和を含み得る、ヒドロキシル基により場合によっては置換された直鎖型又は分岐型のC1〜C24の脂肪族基、およびリポ酸又はその還元型であるジヒドロリポ酸、N−リポイル−リジン又はフェニル酪酸である)、同一のもの又は異なるものであるAA1、AA2およびAA3は、AA1、AA2又はAA3のうちの少なくとも一つがPhe、有利にはDPheであることを条件として、His、Phe、Ala、Arg、Lys、Orn、Trp、Nap、TpiおよびTicの中から選択されたアミノ酸を互いに独立して表している、トリペプチド複合体に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のMSHのアゴニストであるトリペプチド複合体、また、治療および美容におけるその応用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルファ−MSHは、解熱、抗炎症および色素沈着といったきわめて数多くの生理学的活性を有するものとして知られている、人体が自然に産生する物質である。
【0003】
伝達物質として、アルファ−MSHは、各々が7つの膜貫通ドメインを有する五つの既に開示された受容体を含む、複数の特異的受容体を有している。皮膚では、前述の活性には、「メラノコルチン−1」受容体(MC−1r)が介入する。ここで、アルファ−MSHの結合は、自身がアデニリルシクラーゼを刺激し、かくして環状アデノシン一リン酸(又はcAMP)を産生する、(Gγsタイプのサブユニットαを有する)プロテインGの活性化を誘発する。
【0004】
cAMPの産生は、細胞の遺伝子のDNAレベルでcAMPに対する応答エレメントに結合する能力をもつタンパク質(又はCREB)をリン酸化反応により活性化させる、プロテインキナーゼAの活性化を誘発する。こうして、伝達物質の発現が誘導され、これらの伝達物質はそのとき標的細胞に対しその効果を及ぼす。
【0005】
哺乳動物では、皮膚および体毛の着色は、メラニンという共通の色素カテゴリに起因する。皮膚の中でのこれらのメラニンの産生は、表皮基底膜および毛包の中に局在している細胞であるメラノサイトにより行われる。メラニンの合成はチロシナーゼという酵素の活性により制御される。アルファ−MSHがその受容体MC−1へ結合することによって、この酵素(ならびに関連酵素TRP−1およびTRP−2)の産生が刺激される。チロシナーゼによるメラニンの産生は、細胞小器官であるプレメラノソームの内部で起こる。ひとたびメラニンで満たされると、これらの細胞小器官はメラノソームと呼ばれ、メラノサイトの樹状突起を介して隣接細胞であるケラチノサイトまで移送される。こうしてメラニンは表皮内に分布し、その褐色化および保護を行う。
【0006】
抗ラジカルの特性と太陽光線を吸収する特性とを有するものとして認められている天然色素であるメラニンは、皮膚の生理学的な保護作用物質である。人間の体内でこの色素の産生を刺激できる化合物は、皮膚美容学においては存在しない。
【0007】
その上、アルファ−MSHの抗炎症効果の機序は完全に解明されていないが、数多くの実験事実により、アルファ−MSHがMC−1受容体に結合することでNOSi(又はNOS2)、NFΚBの誘発を阻害し、mRNAの発現とそれに続く抗炎症性サイトカインIL−10の産生を誘発すると考えられている。このサイトカインは、IL−1、IL−6、IL−8、TNF−α又はINFγといった炎症性サイトカインの放出に対抗する。
【0008】
表皮の細胞集団の95%を構成するケラチノサイトは、IL−1を蓄積しているとみなされており、その細胞表面にMC−1受容体を有する。かくして、これらの受容体へのアルファ−MSHの結合は、局所的な炎症現象の調節を可能にする。
【0009】
アルファ−MSHは、アセチル−Ser1−Tyr2−Ser3−Met4−Glu5−His6−Phe7−Arg8−Trp9−Gly10−Lys11−Pro12−Val13−NH2(つまりSer=セリン、Tyr=チロシン、Met=メチオニン、Glu=グルタミン酸、His=ヒスチジン、Phe=フェニルアラニン、Arg=アルギニン、Trp=トリプトファン、Gly=グリシン、Lys=リジン、Pro=プロリンおよびVal=バリン)という構造のトリデカペプチドである。非常に数多くの科学的研究作業により、ヘプタペプチド4〜10にメラノサイト刺激(melanotrope)効果があり(Haskell−Luevano他 J. Med. Chem. 1997,40,2133−2139)、トリペプチド11〜13に抗炎症効果がある(Hiltz M.EとLipton J.M. Peptides 1990,11,979−982)ものとして従来記載されている、アルファ−MSHの活性配列が立証された。
【特許文献1】米国特許第5674839号明細書
【特許文献2】米国特許第6054556号明細書
【特許文献3】仏国特許出願公開第2835528号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
さらに、近年の研究作業の結果、さまざまな出願人が環状構造を記載している特許を出願している(Hruby他 米国特許第5674839号明細書および米国特許第6054556号明細書)。なお、基本となるテトラペプチド配列を有するヘキサペプチドである「メリタン(melitane)(登録商標)」(仏国特許出願公開第2835528号明細書)(Ac−Nle−Ala−His−(D)Phe−Arg−Trp−NH2)は、α−MSHのアゴニストとして市販されている。しかしながら、この化合物は、高分子量のものであり、従って非常に制限された治療的又は美容的活性を有する。実際、そのサイズのため、最適化が困難であり、その生物学的利用能は制限されている。その上、それは高価で調製が困難である。
【0011】
反面、テトラペプチドPh(CH23CO−His−DPhe−Arg−Trpは、アルファ−MSHのアゴニストとして非常に大きな活性を有する(Koikov他 Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,13 (2003),2647〜2650頁)。このテトラペプチド配列は生物学的活性を有する最小断片として識別されてきており、これまでのところテトラペプチドのサイズについての他の修正は全く記載も示唆もされたことがない。ところが、このテトラペプチドのサイズおよび分子量はなお大きすぎるものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
驚くべきことに、発明者らは、N末端がパルミトイル化されたトリペプチドには、α−MSHの有意なアゴニスト活性をなおも示すものがあるということを発見した。これらのアゴニストは非常に低い分子量を有し、従って最適化が容易であり、優れた生物学的利用能をもち、調製が非常に容易である。
【0013】
従って、本発明は、エナンチオマー又はジアステレオマー、ならびにラセミ混合物を含むこれらの混合物の形での、下記の一般式Iを満たすトリペプチド複合体に関する。
A−AA1−AA2−AA3−NH2 (I)
式中、Aは下記の一般式IIのモノカルボン酸に対応する基であり、
HOOC−R (II)
式中、Rは、
−一つ又は複数の不飽和、有利には1〜6の不飽和を含み得る、ヒドロキシル基によって場合によっては置換された直鎖型又は分岐型のC1−C24の脂肪族基、
−リポ酸又はその還元型であるジヒドロリポ酸、N−リポイル−リジン又はフェニル酪酸、
であり、
同一のもの又は異なるものであるAA1、AA2およびAA3は、AA1、AA2又はAA3のうちの少なくとも一つがPhe、有利にはDPheであることを条件として、His、Phe、Ala、Arg、Lys、Orn、Trp、Nap、TpiおよびTicの中から選択されたアミノ酸を互いに独立して表す。
【0014】
式(I)のトリペプチド複合体の中のアミノ酸は、別途規定のない限り立体配置D、L又はDLを取り得る。
【0015】
かくして、式(I)のトリペプチド複合体は一つ又は複数の不斉炭素原子を有し得る。従ってこれらは、エナンチオマー又はジアステレオマーの形で存在することができる。これらのエナンチオマー、ジアステレオマーならびにラセミ混合物を含めたこれらの混合物は、本発明の一部を成す。
【0016】
本発明の枠内では以下のような意味がある:
−Ala、アラニン、
−Phe、フェニルアラニン、
−Trp、トリプトファン、
−Arg、アルギニン、
−Nap、ナフチルアラニン、
−Tpi、テトラヒドロノルハルマン−3−カルボン酸、
−Tic、テトラヒドロイソキノリン−3−カルボン酸、
−Orn、オルニチン、
−His、ヒスチジン、および
−Lys、リジン。
【0017】
同様に、本発明の目的である上述のトリペプチド複合体が、NH2末端の形態で(つまりアミド基を有する形で)得られるということも明示される。
【0018】
本発明に従ったトリペプチド複合体は、式IIの酸に塩又はエステルの形で結合している。本発明に従った複合は、式IIの酸の酸性官能基とアミノ酸の酸性官能基を反応させることにより実施され得、さらには式IIの酸のヒドロキシル基の存在を利用することも可能である。
【0019】
本発明はこれらの複合全体、ならびに非官能性複合体に関する。複合は物理的なもの又は化学的なものである。
【0020】
有利には、AA1、AA2又はAA3のうちの少なくとも一つ、有利には二つが、Arg、His又はTrpから成る群から選択される。
【0021】
有利には、AA2はDPheである。
【0022】
有利には、AA2又はAA3はArgである。
【0023】
有利には、AA1はHisである。
【0024】
有利には、AA2がArgであり、また、AA3がTrpである場合には、AA1はDPhe又はPheではない。
【0025】
有利には、式(II)の酸は多価不飽和脂肪酸、すなわち1〜6個の不飽和を含む脂肪酸である。さらに有利には、これはオメガ−3脂肪酸である。
【0026】
これらのオメガ−3脂肪酸としては、特にα−リノレン酸、セルボン酸、ティムノドン酸およびピノレン酸が挙げられる。セルボン酸、ティムノドン酸およびピノレン酸は同様に、それぞれ4,7,10,13,16,19−ドコサヘキサエン酸(DHC)、5,8,11,14,17−エイコサペンタエン酸(EPA)、および5,9,12−オクタデカトリエン酸の呼称でも知られている。
【0027】
Aが一般式(II)のモノカルボン酸のラジカルである場合には、これを酢酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ヒドロキシデセン酸およびデセン酸、そして特にトランス−10−ヒドロキシ−Δ2−デセン酸およびトランス−オキソ−9−デセン−2−酸の中から有利には選択し得る。
【0028】
有利には、式(II)の酸は、リポ酸(Lip)又はその還元型であるジヒドロリポ酸、N−リポイル−リジン又はフェニル酪酸(Pbu)の中から選択された酸である。
【0029】
有利には、Aはパルミチン酸(Palm)に対応する基である。
【0030】
本発明のトリペプチド複合体としては、Aが上述の定義を有するものとして、
a)A−His−DPhe−Arg−NH2
b)A−His−DPhe−Trp−NH2
から成る群から選択されたトリペプチド複合体を挙げることができる。
【0031】
本発明のトリペプチド複合体としては、
1)Palm−His−DPhe−Arg−NH2
2)Palm−His−DPhe−Trp−NH2
3)Pbu−His−DPhe−Arg−NH2
4)Lip−His−DPhe−Arg−NH2
から成る群から選択されたトリペプチド複合体を挙げることができる。
【0032】
本発明の目的であるトリペプチド複合体は、当業者にとって既知の任意の方法に従って、有利には従来の化学合成又は酵素合成により得ることができる。
【0033】
本発明はさらに、本発明に従ったトリペプチド複合体、および場合によっては美容的又は薬学的に受容可能な賦形剤を含む、美容用、皮膚科用又は薬学用組成物、又は食品サプリメントに関するものである。
【0034】
トリペプチド複合体は、局所適用による美容的又は薬学的な利用のために投与することができる。これらは同様に、食品サプリメント内、つまり栄養補助食品の分野で、経口で利用可能である。
【0035】
本発明に従ったトリペプチド複合体は、好ましくは局所適用により投与される。
【0036】
美容用、薬学用又は皮膚科用組成物は、このタイプの投与のためのものとして通常知られている形態、すなわち有効成分の特性および到達性を向上させるべく特に皮膚への浸透を可能にする賦形剤を伴うローション、フォーム、ジェル、分散物、スプレー、美容液、パック、全身用乳液、ポマード、溶液、エマルジョン、ジェル又はクリームなどの形態をとり得る。これらの組成物は殆どの場合、本発明に従ったトリペプチド複合体の他に、一般に水又は例えばアルコール、エーテルもしくはグリコールなどの溶媒をベースとした生理学的に受容可能な溶剤を含む。これらの複合体は同様に、界面活性剤、防腐剤、安定剤、乳化剤、増粘剤、相補的もしくは場合によっては相乗的な効果を導くその他の有効成分、微量元素、精油、香料、着色料、コラーゲン、化学フィルターもしくは無機フィルター、又は保湿剤、又は温泉水をも含み得る。
【0037】
局所用の美容用組成物においては、本発明に従ったトリペプチド複合体は、10-8M〜10-3Mの間、有利には10-7M〜10-5Mの間に含まれる濃度で含まれ得る。
【0038】
本発明はさらに、有利には癌を治療すること、糖尿病患者の慢性的病巣および創傷、静脈瘤性潰瘍、外科的創傷を癒合させること、線状皮膚萎縮、特に皮膚のアレルギー、炎症性反応、メラニン形成障害、アトピー性皮膚炎、湿疹、乾癬、白斑、紅斑、特に光誘起性の紅斑、炎症性脱毛症、ぜんそくを治療又は予防すること、又は肥満症を治療することを目的とした医薬品として利用するための、本発明に従ったトリペプチド複合体又は本発明に従った薬学用組成物に関する。
【0039】
本発明はさらに、癌を治療すること、糖尿病患者の慢性的病巣および創傷、静脈瘤性潰瘍、外科的創傷を癒合させること、線状皮膚萎縮、特に皮膚のアレルギー、炎症性反応、メラニン形成障害、アトピー性皮膚炎、湿疹、乾癬、白斑、紅斑、特に光誘起性の紅斑、炎症性脱毛、ぜんそくを治療又は予防すること、又は肥満症を治療することを目的とした医薬品の製造のために本発明に従ったトリペプチド複合体を利用することに関するものである。
【0040】
本発明はさらに、表皮のメラニン化を促進するため、皮膚の自然な日焼けを得るため、顔、首および手のシワの治癒的および予防的処置のため、又は日光の紫外線(UVA−UVB)に対する完全な保護を行うための、メラニン細胞刺激剤(melanotrope)および/又は紅斑防止薬として、本発明に従った美容用組成物を利用することに関する。
【0041】
最後に、本発明は、表皮のメラニン化を促進するため、皮膚の自然な日焼けを得るため、顔、首および手のシワの治癒的および予防的処置のため、又は日光の紫外線(UVA−UVB)に対する完全な保護を行うための、本発明に従った美容用組成物を皮膚に塗布することを含む、美容的処置方法に関する。
【0042】
以下の例は制限的意味なく例示を目的として示したものである。
【実施例1】
【0043】
本発明に従った2つのトリペプチドの調製
利用する化学薬品は以下のものである:
α−Fmoc基によりN末端が保護されたアミノ酸である、Fmoc−Arg(Pbf)−OH、Fmoc−D−Arg(Pbf)−OH、Fmoc−His(TrT)−OH、Fmoc−D−His(Trt)−OH、Fmoc−Phe−OH、Fmoc−D−Phe−OH、Fmoc−Trp(Boc)−OH、Fmoc−D−Trp(Boc)−OHは、SENN chemicalsおよびAdvanced Chemtechから購入した。
【0044】
カップリング剤であるHBTU(2−(1−H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチル−ウロニウムのヘキサフルオロリン酸塩)は、SENN chemicalsから購入した。
【0045】
N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジクロロメタン(DCM)、メタノール、アセトニトリル、エチルエーテル、トリフルオロ酢酸(TFA)、ピペリジン、無水酢酸は、Riedel de Haen、Carlo Erba又はAcros organicsから購入し、精製せずに利用した。
【0046】
塩化アセチル、無水酢酸、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、トリイソプロピルシラン、塩化ベンゼンスルホニル、3−ピリジンプロピオン酸、酪酸、ヘキサン酸、3−シクロヘキシル−プロピオン酸、プロピオン酸、安息香酸、トランス桂皮酸、パルミチン酸、塩化p−トルエンスルホニル、3,3’−ジフェニルプロピオン酸、ヘキサノン酸、ミリスチン酸、アダマンチルカルボン酸、インドール−3−酢酸、(2−ピリド−3−イル)チアゾール−4−カルボン酸、3−チオフェン酢酸、2−チオフェン酢酸、2−ベンズイミダゾールプロピオン酸、4−ビフェニル酢酸、4−ピリジル酢酸、α−メチル−p−(2−チエニル)フェニル酢酸(スプロフェン)およびα−メチル−4−(2−メチルプロピル)−ベンゼン酢酸(イブプロフェン)を、Aldrich又はAvocadoから購入した。全ての試薬および化学薬品はACS品質のものであり、別途精製すること無く利用した。
【0047】
Synphase、ポリアミド、Dシリーズ、Rinkアミドのランタン及びSynphase、ポリスチレン、Dシリーズ、ヒドロキシトリチルのランタンは、Mimotopes,Ptyにより提供された。
【0048】
競合結合試験のために利用した[125I]−NDP−MSHを、Tatro他の論文(Endocrinology 1987,121,1900)に記載された手順に従って調製した。
【0049】
固相ペプチド合成を、自動合成装置ACT496ΩでFmoc法を利用して行った。各ウェルを、150mgのPS−Rinkアミド樹脂で満たした。該樹脂を、DCM内で30分間膨脹させた。脱保護およびカップリング段階は、所望の配列の合成が完了するまで実施した。カップリング段階については、各反応キュベットに、N−メチルピロリドンに溶解した、N末端がFmoc基で保護されたアミノ酸の0.5M溶液400μl、DMFに溶解したN−メチルモルホリンの0.5M溶液400μl、およびDMFに溶解したHBTUの0.5M溶液400μlという三つの溶液を連続して添加した。カップリング時間は90分であった。20分間の脱保護段階は、1.2mlのDMF/ピペリジン(v/vが80/20の溶液)を利用して実施した。各段階の間で、DMFで2回、DCMで1回、メタノールで1回、そしてDMFで1回の、計5回、1.5mlで洗浄を行った。
【0050】
側鎖の脱保護およびペプチドの切り出しは、ウェルあたり1.5mlの切り出し混合物(トリフルオロ酢酸/水/トリイソプロピルシラン、v/v/vが95/2.5/2.5)を用いて、自動装置の96のリアクターのブロック内で2時間実施した。ろ過による樹脂の除去の後、切り出し混合物を真空遠心分離機Jouan RC10−10で濃縮した。ペプチドをジエチルエーテル中に沈殿させ、遠心分離によりペレットにし、エーテルを除去した。この傾瀉作業を、冷たいジエチルエーテルを用いて反復した。粗ペプチドを、0.1%のTFAを含むアセトニトリル/水(v/vが50/50)の中に可溶化させた。次に−80℃で試料を冷凍し、凍結乾燥させた。この作業を二回反復した。
【0051】
分析用と同じ溶媒系を利用して、二波長(214および254nm)検出器およびデルタパックC18カートリッジを伴うWaters Deltaprepシステムを用いて、逆相液体クロマトグラフィーにより、50mgの粗ペプチドの試料を精製した。
【0052】
逆相HPLCおよびLC/MSにより、単純ペプチドを分析した。凍結乾燥させた化合物上に、0.1%のTFAを含む500μlのアセトニトリル/水(v/vが50/50)を入れた。各管から10μlをHPLCおよびLC/ESI+MSの分析のために採取した。
【0053】
Waters Alliance 2690 HPLCシステムおよびWaters 996フォトダイオードアレイ検出器、および50×4.6mmのMerck Chromolith Speed ROD C18カラム上で、HPLC分析を実施した。5ml/分の流量、および100%のBから100%のCまでの3分間の濃度勾配を用いた(溶離液B:水/0.5%TFA、溶離液C:アセトニトリル/0.1%TFA)。純度の推定値は214nmで検出されたピークの面積の百分率に基づくものである。
【0054】
LC/MSシステムは、Micromass Platform II分光計(エレクトロスプレーによるイオン化モード、ESI+)と組み合わせたWaters Alliance 2690 HPLCシステムで構成した。全ての分析は、Waters Symmetry C18カラム、3.5μm、2.1×30mmを用いて実施した。600μl/分の流量、および100%のBから100%のCまでの3分間の濃度勾配を用いた(溶離液B:水/0.1%TFA、溶離液C:アセトニトリル/0.1%TFA)。
【0055】
エレクトロスプレー正イオンモードによる質量スペクトルを100ml/分の溶媒流量で得た。噴霧化ガスおよび乾燥ガスの両方に窒素を用いた。0.1-Sの間隔で400〜1400m/zの読取モードでデータを獲得した。10回の読取値を加算して最終的なスペクトルを作成した。
【0056】
モノアイソトピック質量を用いて、全ての化合物の分子量を計算した(C=12.000、H=1.007、N=14.003、O=15.994、S=31.972)。
【0057】
合成した二つのトリペプチドについての結果を、下の表1にまとめた。
【0058】
表1:トリペプチド合成の分析結果
【表1】

【実施例2】
【0059】
本発明に従った2つのトリペプチド複合体の生物学的特性
この研究においては、EC50の値を決定するために、メラニンを産生する能力をもつメラノサイトの細胞系であるヒト細胞系M4Be(Jacubovich他 Cancer Immunol. Immunother. 1979,7,59−64)を利用した。
【0060】
10%のFCS、1mMのグルタミン、100U/mlのペニシリン、および10-4g/mlのストレプトマイシンを加えたダルベッコ変法イーグル培地の中で細胞を維持した。
【0061】
全ての細胞系を5%のCO2雰囲気下で37℃に維持し、細胞培地を二日毎に新しくした。ペプチドと接触させる24時間前に、96ウェルプレート(Nunc,Roskilde,デンマーク)上に細胞を播種した。
【0062】
プレスクリーニングに、Cloudman S91マウスの黒色腫細胞系(Yasumura他 Science. 154,1186〜1189頁)を用いた。10%のウマ血清、2%のウシ胎児血清(FCS)、1mMのグルタミン、100U/mlのペニシリン、および10-4g/mlのストレプトマイシン(Eurobio,Les Ulis,フランス)と共に、HAM F10中で細胞を維持した。全ての細胞系を5%のCO2雰囲気下で37℃に維持し、細胞培地を二日毎に新しくした。ペプチドと接触させる24時間前に、96ウェルプレート(Nunc,Roskilde,デンマーク)上に細胞を播種した。
【0063】
cAMPの測定:
前日に播種した細胞を、10-4Mのアデニン(Sigma)と共に1時間手短にインキュベートし、次に10-4Mのイソブチル−1−メチルキサンチン(Sigma)、10-4Mの4−[(3−ブトキシ−4−メトキシフェニル)メチル]−2−イミダゾリジノン(Calbiochem)、および10-7Mの本発明に従ったトリペプチドと共に、Krebs Ringer Hepesの培地中で10分間インキュベートした。
【0064】
その後、メーカーの手順に従って細胞溶解を実施した。
【0065】
メーカーの指示事項に従って競合結合試験キット(RPN225,Amersham Pharmacia Biotech)を用いてcAMP含有量を測定した。各々の独立した実験を少なくとも3回を2セット実施した。
【0066】
かくして、cAMPの誘発について、50nMの濃度の本発明に従った1つのトリペプチドをテストし、該誘発は、α−MSH(50nM)によって誘発されたcAMP産生の応答に基づいて計算した。結果を下の表2に示した。
【0067】
表2:Cloudman S91マウスの黒色腫細胞系での本発明に従ったトリペプチドのcAMPの誘発(50nMの「メリタン(登録商標)」(1)の最大応答に対する百分率で表されたデータ)
【表2】

【0068】
EC50の決定:
曲線を調整し、GraphPad Prism(GraphPadソフトウェア)内の非線形回帰を用いてEC50の値を決定した。各EC50の値は、少なくとも2セットの独立した実験の平均である。
【0069】
結合研究:IC50の決定
MC1−Rに対するαMSHの結合親和性を、[125I]−NDP−MSHとの競合研究により決定した。トランスフェクトしたCos−1細胞をダルベッコ変法イーグル培地、0.2%のBSA、0.3mMのフェナントロリン緩衝液中で24時間インキュベートした。5.8×10-11Mの濃度で放射性標識したリガンドと共に24ウェルプレート上に105の細胞を播種した。さまざまな濃度のリガンドと共に24℃で2時間インキュベートした後、洗浄を実施し、放射能を測定する。
【0070】
本発明に従った2つのトリペプチドのEC50を下の表3にまとめ、メリタン(登録商標)およびα−MSHのEC50と比較した。
【0071】
表3:M4Be細胞内でのcAMPの産生についてα−MSHと比較した、本発明の二つのトリペプチドのEC50
【表3】

【0072】
結果は、147%のcAMPの誘発を示すPalm−トリペプチド1[Palm−His−(D)Phe−Arg−NH2]で得られたものと一致している。
【0073】
最も重要で最も驚くべき結果は、MC1受容体に対する、パルミトイル化したトリペプチドの活性にある。この研究で、我々はα−MSH配列のトリペプチドのC末端のパルミトイル化が、cAMPの産生を誘発する一方でMC1受容体に対して活性な化合物を誘導するということを示した。これらの分子は、α−MSHアゴニストの配列の最小配列として文献中に記述されているものの一部分しか有していない。
【0074】
興味深いことに、トリプトファン残基の除去により、ナノモルの範囲(EC50=2.3nM)の活性を示すトリペプチド1が生成した。Argが欠如しているトリペプチド2は、EC50が17.3nMである比較的低い効力を示した。これらのトリペプチドは、MC1Rに対するα−MSHの強力な活性を有するリガンドを設計するための優れたリーダー分子である。これらの結果は同様に、α−MSHの類似体のN末端上の疎水鎖、特にパルミトイル基の存在が、α−MSHの受容体MC1の活性化のための重要な構造的要素であることをも示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エナンチオマー又はジアステレオマー、ならびにラセミ混合物を含むこれらの混合物の形での、下記の一般式Iを満たすトリペプチド複合体であって、
A−AA1−AA2−AA3−NH2 (I)
式中、Aは下記の一般式IIのモノカルボン酸に対応する基であり、
HOOC−R (II)
式中、Rは、
−一つ又は複数の不飽和、有利には1〜6の不飽和を含み得る、ヒドロキシル基によ
り場合によっては置換された直鎖型又は分岐型のC1〜C24の脂肪族基、
−リポ酸又はその還元型であるジヒドロリポ酸、N−リポイル−リジン又はフェニル酪酸、
であり、
同一のもの又は異なるものであるAA1、AA2およびAA3は、AA1、AA2又はAA3のうちの少なくとも一つがPhe、有利にはDPheであることを条件として、His、Phe、Ala、Arg、Lys、Orn、Trp、Nap、TpiおよびTicの中から選択されたアミノ酸を互いに独立して表す、トリペプチド複合体。
【請求項2】
Aがパルミチン酸に対応する基であることを特徴とする、請求項1に記載のトリペプチド複合体。
【請求項3】
AA1、AA2又はAA3のうちの少なくとも一つが、Arg、His又はTrpから成る群から選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載のトリペプチド複合体。
【請求項4】
AA2がDPheであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つに記載のトリペプチド複合体。
【請求項5】
AA2又はAA3がArgであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つに記載のトリペプチド複合体。
【請求項6】
AA1がHisであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一つに記載のトリペプチド複合体。
【請求項7】
Aが請求項1又は2に記載の定義を有するとき、
a)A−His−DPhe−Arg−NH2
b)A−His−DPhe−Trp−NH2
という式のトリペプチド複合体により構成される群から選択されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一つに記載のトリペプチド複合体。
【請求項8】
1)Palm−His−DPhe−Arg−NH2
2)Palm−His−DPhe−Trp−NH2
3)Pbu−His−DPhe−Arg−NH2
4)Lip−His−DPhe−Arg−NH2
から選択されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一つに記載のトリペプチド複合体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一つに記載のトリペプチド複合体、および場合によっては美容的又は薬学的に受容可能な賦形剤を含むことを特徴とする、美容用、皮膚科用又は薬学用組成物。
【請求項10】
有利には癌を治療すること、糖尿病患者の慢性的病巣および創傷、静脈瘤性潰瘍、外科的創傷を癒合させること、線状皮膚萎縮、特に皮膚のアレルギー、炎症性反応、メラニン形成障害、アトピー性皮膚炎、湿疹、乾癬、白斑、紅斑、特に光誘起性の紅斑、炎症性脱毛症、ぜんそくを治療又は予防すること、又は肥満症を治療することを目的とした医薬品としての、請求項1〜8のいずれか一つに記載のトリペプチド複合体又は請求項9に記載の薬学用組成物。
【請求項11】
表皮のメラニン化を促進するため、皮膚の自然な日焼けを得るため、顔、首および手のシワの治癒的および予防的処置のため、又は日光の紫外線(UVA−UVB)に対する完全な保護を行うための、メラニン細胞刺激剤(melanotrope)および/又は紅斑防止薬としての、請求項9に記載の美容用組成物の利用方法。
【請求項12】
請求項9に記載の美容用組成物を皮膚へ塗布することを含む、表皮のメラニン化を促進するため、皮膚の自然な日焼けを得るため、顔、首および手のシワの治癒的および予防的処置のため、又は日光の紫外線(UVA−UVB)に対する完全な保護を行うための、美容的処置方法。

【公表番号】特表2008−502599(P2008−502599A)
【公表日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−512281(P2007−512281)
【出願日】平成17年5月10日(2005.5.10)
【国際出願番号】PCT/FR2005/001165
【国際公開番号】WO2005/116067
【国際公開日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【出願人】(500470482)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック(セーエヌエールエス) (25)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE (CNRS)
【出願人】(506376997)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT EUROPEEN DE BIOLOGIE CELLULAIRE
【出願人】(504462319)ユニヴェルシテ ドゥ モンぺリエ アン (9)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE MONTPELLIER 1
【出願人】(506075252)ユニベルシテ モンペリエ ドゥー (7)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE MONTPELLIER II
【Fターム(参考)】