説明

MUC1抗体

本発明は、改善された抗原結合および/または抗原認識特性を有する抗ムチン抗体、ならびに抗ムチン抗体の抗原結合および/または抗原認識を改善するための方法に関する。詳細には、本発明は、癌の治療で有用である抗MUC1抗体を対象とする。一実施形態において、ムチンタンパク質に結合することができる抗体またはその断片もしくは誘導体が提供され、この抗体またはその断片もしくは誘導体は、Kabat番号付けによるアミノ酸28位にプロリン残基を含む重鎖可変領域の少なくとも一部を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体の分野に関する。詳細には、改善された抗原結合性および/または認識を示す改善された抗ムチン抗体、ならびに抗ムチン抗体の抗原結合性および/または認識を改善する方法が提供される。具体的な実施形態では、本発明は、癌の治療に役立つ改善された抗MUC1抗体を対象とする。
【背景技術】
【0002】
今日、抗体は医療および研究の分野で広く使われている作用物質である。医療では、それらは多くの異なる分野で用途を有する。例えば、疾患の診断および/または予後診断、または例えば特定のホルモンの存在または濃度などの特定の身体パラメータの判定を可能にする、特定のマーカーを検出するための標識物質として抗体は用いられる。
【0003】
さらに、抗体は、癌、心血管疾患、炎症性疾患、黄斑部変性、移植拒絶、多発性硬化症およびウイルス感染症などの様々な疾患の治療および予防で療法剤としても用いられる。これらの療法では、抗体は、例えば受容体またはメッセンジャー分子をブロックし、それによってそれらの疾患関連の機能を阻害することによって、または患者の免疫系の構成要素を動員および活性化することによってそれ自体で治療活性を有することができる。あるいは、治療活性を有する別の作用物質に抗体を結合することができる。詳細には、癌および感染症の治療では、前記さらなる作用物質は細胞殺傷活性を有し、例えば放射性同位体または細胞毒であってよい。別の適用では、患者の循環に適する抗体を移すことによって患者を受動免疫化するために抗体を用いることができる。
【0004】
哺乳動物、例えばマウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ヒツジまたはウマに抗原を注入することによって、特異的抗体が生成される。これらの動物から単離された血液は、血清中の前記抗原に対するポリクローナル抗体を含む。抗原の単一のエピトープに特異的である抗体を得るために、抗体を分泌するリンパ球が動物から単離され、それらを癌細胞系と融合することによって不死化されて、ハイブリドーマ細胞になる。単一のハイブリドーマ細胞が次に希釈クローニングによって単離され、すべてが同じモノクローナル抗体を産生する細胞クローンを生成する。
【0005】
しかし、治療的な適用では、これらのモノクローナル抗体は、それらが動物生物体に由来し、それらのアミノ酸配列がヒト抗体と異なる問題点を有する。ヒト免疫系は、したがってこれらの動物抗体を異物と認識して、循環からそれらを速やかに除去する。さらに、全身性の炎症作用が引き起こされることがある。この問題点への解決法は、ヒト抗体の対応する部分によるモノクローナル抗体の特定の定常部分の置換である。重鎖および軽鎖定常領域だけが置換される場合にはキメラ抗体が得られ、重鎖および軽鎖可変領域のフレームワーク領域のさらなる置換はいわゆるヒト化抗体をもたらす。
【0006】
研究では、精製された抗体が多くの適用で用いられる。それらは、特にタンパク質などの生体分子を同定し、位置を見つけるために最も一般的に用いられる。生体分子は、例えばそれらの存在、濃度、完全性またはサイズを判定するために、それらが単離された後に検出されてもよい。他方、例えばそれらの存在または場所を判定するために、それらは細胞または組織試料で検出されてもよい。さらに、抗体は、特定の生体物質、特にタンパク質の単離手順で用いられ、そこでは、抗体は対象の生体物質を、それを含む試料から特異的に分離する。
【0007】
すべてのこれらの適用で、抗原の密接した結合および特異的認識が、用いられる抗体にとって極めて重要である。それによって、治療的適用でより高い活性およびより少ない交差反応性、特により有害でない副作用が得られる。しかし、モノクローナル抗体のヒト化の過程で、多くの場合操作された抗体の親和性および特異性は低下する。
【0008】
抗体の興味深く重要な群は、ムチンタンパク質に対するものである。ムチンは、脊椎動物で多くの上皮組織によって生成される、高分子量のかなりグリコシル化されたタンパク質のファミリーである。それらは、原形質膜での保持を有利にする疎水性の膜貫通ドメインの存在のために膜に結合しているムチンタンパク質、および粘膜表面に分泌されるか、分泌されて唾液の成分になるムチンに細分化することができる。ヒトムチンタンパク質ファミリーは、少なくともファミリーメンバーMUC1、MUC2、MUC3A、MUC3B、MUC4、MUC5AC、MUC5B、MUC6、MUC7、MUC8、MUC12、MUC13、MUC15、MUC16、MUC17、MUC19およびMUC20からなり、そこで、MUC1、MUC3A(アイソフォーム1)、MUC3BおよびMUC4は膜に結合している。
【0009】
ムチン生成の増加は、膵臓、肺、乳房、卵巣、結腸などの癌を含む、多くの腺癌で起こる。ムチンは、喘息、気管支炎、慢性閉塞性肺疾患または嚢胞性線維症などの肺疾患でも過剰発現される。2つの膜ムチン、MUC1およびMUC4は、疾患過程におけるそれらの病理学的関連に関して広く研究されてきた。さらに、ムチンは診断マーカーとしてそれらの可能性についても調査されている。
【0010】
ムチンタンパク質、特にMUC1に対するいくつかの抗体が、当技術分野で公知である。それらの一部は、医療適用のために既に承認されている。しかし、それらの抗原親和性および/または特異性を増強することができるならば、それらの使用をまだ改善することができよう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
これを考慮すれば、好ましくは増強された抗原結合性および/または認識特性を有する改善された抗ムチン抗体、ならびに既知の抗体、特に治療的なMUC1抗体の抗原結合性および/または認識を改善するのに適する方法を提供する必要性が当技術分野にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、プロリン残基が、Kabat番号付けによる抗体の重鎖可変領域の28位に存在する場合、ムチンタンパク質に対する抗体の抗原結合特性は良好であることを見出した。
【0013】
したがって第一の態様では、本発明は、ムチンタンパク質に結合することができる抗体またはその断片もしくは誘導体であって、Kabat番号付けによるアミノ酸28位にプロリン残基を含む重鎖可変領域の少なくとも一部を含む抗体またはその断片もしくは誘導体を対象とする。
【0014】
第二の態様では、本発明は、本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体をコードする核酸を提供する。さらに、第三の態様では、本発明による核酸および前記核酸に作動可能に連結しているプロモーターを含む発現カセットまたはベクター、第四の態様では、本発明による核酸または発現カセットもしくはベクターを含む宿主細胞が提供される。
【0015】
第五の態様では、本発明は、本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体、本発明による核酸、本発明による発現カセットまたはベクター、あるいは本発明による宿主細胞を含む組成物を対象とする。
【0016】
第六の態様により、本発明は、医療、特に癌の治療、予後診断、診断および/またはモニタリングで使用するための、本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体、核酸、発現カセットまたはベクター、宿主細胞または組成物を提供し、癌は、結腸、胃、肝臓、膵臓、腎臓、血液、肺および卵巣の癌からなる群から好ましくは選択される。
【0017】
第七の態様では、本発明は、ムチンタンパク質に結合することができ、重鎖可変領域を含む抗体またはその断片もしくは誘導体の抗原結合性および/または認識を改善するための方法であって、Kabat番号付けによる重鎖可変領域の28位にプロリン残基を提供するステップを含む方法を対象とする。
【0018】
第八の態様では、本発明は、
(a)MUC1に結合することができる抗体またはその断片もしくは誘導体であって、Kabat番号付けによるアミノ酸28位にプロリン残基を含まない重鎖可変領域を含む抗体またはその断片もしくは誘導体をコードする核酸配列を含む核酸を提供するステップと、
(b)前記重鎖可変領域のKabat番号付けによるアミノ酸番号28をコードするコドンに、前記コドンがプロリン残基をコードするように変異を導入するステップと
を含む、本発明による核酸を調製するための方法を対象とする。
【0019】
本発明の他の目的、特徴、利点および態様は、以下の説明および添付の請求項から当業者に明らかになる。しかし、以下の説明、添付の請求項および具体的実施例は、本出願の好ましい実施形態を示し、例示だけのために提供されていることを理解されたい。開示される発明の精神および範囲内の様々な変更および改変は、以下のものを読むことによって当業者に容易に明らかとなる。
【0020】
定義:
本明細書で用いるように、以下の表現は、それらが用いられる文脈が別途示す場合を除き、好ましくは下に示す意味を一般に有するものとする。
【0021】
本明細書で用いる表現「含む」は、その文字通りの意味のほかに、表現「から事実上なる」および「からなる」も含み、かつ具体的に指している。したがって、表現「含む」は、具体的に記載される要素を「含む」対象がさらなる要素を含まない実施形態に加えて、具体的に記載される要素を「含む」対象がさらなる要素を包含することができ、および/または実際に包含する実施形態を指す。同様に、表現「有する」は、表現「含む」のように、表現「から事実上なる」および「からなる」も含み、かつ具体的に指していると理解すべきである。
【0022】
用語「抗体」は、ジスルフィド結合によって連結される少なくとも2つの重鎖および2つの軽鎖を含むタンパク質を特に指す。用語「抗体」には、天然に存在する抗体だけでなく、抗体のすべての組換え体、例えば原核生物で発現される抗体、非グリコシル化抗体、ヒト化抗体およびキメラ抗体が含まれる。各重鎖は、重鎖可変領域(VH)および重鎖定常領域(CH)を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)および軽鎖定常領域(CL)を含む。重鎖定常領域は、3つの、またはIgM型またはIgE型の抗体の場合は4つの重鎖定常ドメイン(CH1、CH2、CH3およびCH4)を含み、そこで、第一の定常ドメインCH1は可変領域に隣接し、ヒンジ領域によって第二の定常ドメインCH2に連結させることができる。軽鎖定常領域は、1つの定常ドメインだけからなる。可変領域は、より保存されているフレームワーク領域(FR)と呼ばれる領域が間にある、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域にさらに細分化することができ、そこでは、各可変領域は3つのCDRおよび4つのFRを含む。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合性ドメインを含む。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)および古典的補体系の第一成分(C1q)を含む宿主組織または因子への免疫グロブリンの結合を媒介することができる。しかし、本発明による用語「抗体」には、重鎖抗体、すなわち1つまたは複数、特に2つの重鎖だけで構成される抗体、およびナノボディ、すなわち単一の単量体可変ドメインだけで構成される抗体などの普通でない抗体も含まれる。
【0023】
重鎖および軽鎖可変領域のアミノ酸位置を示すために、本明細書ではKabat番号付け方式が用いられる(Kabat, E.A.ら(1991年)Sequences of Proteins of Immunological Interest、5版、NIH Publication番号91−3242)。前記方式によると、重鎖は、35A、35B、52A〜52C、82A〜82Cおよび100A〜100Kの位置を含む0位から113位までのアミノ酸位置を含む。Kabat番号付けによると、重鎖可変領域のCDRは、31位〜35B位(CDR1)、50位〜65位(CDR2)および95位〜102位(CDR3)に位置する。残りのアミノ酸位置は、フレームワーク領域FR1〜FR4を形成する。軽鎖可変領域は、27A〜27F、95A〜95Fおよび106Aの位置を含む0〜109位を含む。CDRは、24位〜34位(CDR1)、50位〜56位(CDR2)および89位〜97位(CDR3)に位置する。抗体の特定の遺伝子の最初の形成によって、これらの位置のすべてが所与の重鎖可変領域または軽鎖可変領域に存在する必要があるわけではない。重鎖または軽鎖可変領域のアミノ酸位置が本明細書で指摘されている場合には、特に明記しない限り、それはKabat番号付けによる位置に参照されている。
【0024】
抗体の「断片または誘導体」は、特に前記抗体に由来するタンパク質または糖タンパク質であり、同じ抗原、特に抗体と同じエピトープに結合することができる。したがって、本明細書の抗体の断片または誘導体は、一般に機能的断片または誘導体を指す。特に好ましい実施形態では、抗体の断片または誘導体は、重鎖可変領域を含む。抗体の抗原結合性機能は、完全長抗体の断片またはその誘導体に発揮させることができることが示された。
抗体の断片または誘導体の例には、(i)Fab断片、重鎖および軽鎖各々の可変領域および第一の定常ドメインからなる一価の断片、(ii)F(ab)断片、ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結される2つのFab断片を含む二価の断片、(iii)可変領域および重鎖の第一の定常ドメインCH1からなるFd断片、(iv)抗体の単一の腕の重鎖および軽鎖可変領域からなるFv断片、(v)scFv断片、単一のポリペプチド鎖からなるFv断片、(vi)共有結合で一緒に連結される2つのFv断片からなる(Fv)断片、(vii)重鎖可変ドメイン、ならびに(viii)重鎖および軽鎖可変領域の結合が分子間だけで起こることができるが分子内では起こらない方法で共有結合によって一緒に連結される、重鎖可変領域および軽鎖可変領域からなるマルチボディが含まれる。これらの抗体断片および誘導体は、当業者に公知である従来の技術を用いて得られる。
【0025】
例えば標的アミノ酸配列がその全長にわたって参照アミノ酸配列の対応する部分と少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも93%、少なくとも95%または少なくとも97%の相同性または同一性を共有する場合、その標的アミノ酸配列はその参照アミノ酸配列に「由来する」。例えば、ヒト化抗体のフレームワーク領域が特定のヒト抗体の可変領域に由来する場合、そのヒト化抗体のフレームワーク領域のアミノ酸は、その全長にわたってそのヒト抗体の対応するフレームワーク領域と少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも93%、少なくとも95%または少なくとも97%の相同性または同一性を共有する。「対応する部分」または「対応するフレームワーク領域」は、例えば、標的抗体の重鎖可変領域のフレームワーク領域1(FRH1)は参照抗体の重鎖可変領域のフレームワーク領域1に対応することを意味する。例えばFRH2、FRH3、FRH4、FRL1、FRL2、FRL3およびFRL4についても同じである。特定の実施形態では、参照アミノ酸配列に「由来する」標的アミノ酸配列は、その全長にわたって参照アミノ酸配列の対応する部分と100%相同であるか、または特に100%同一である。
【0026】
好ましくは、「特異的結合」は、抗体などの作用物質が、別の標的への結合と比較してそれが特異的であるエピトープなどの標的により強く結合することを意味する。作用物質が第二の標的のための解離定数より低い解離定数(K)で第一の標的に結合する場合、その作用物質は第二の標的と比較して第一の標的により強く結合する。好ましくは、作用物質が特異的に結合する標的の解離定数は、作用物質が特異的に結合しない標的の解離定数より2倍を超えて、好ましくは5倍を超えて、より好ましくは10倍を超えて、さらにより好ましくは20倍、50倍、100倍、200倍、500倍、または1000倍を超えて低い。
【0027】
本明細書で用いるように、用語「タンパク質」は、アミノ酸の分子鎖または複数のアミノ酸鎖の複合体を指す。タンパク質は天然に存在するアミノ酸だけでなく人工アミノ酸のいずれかを含むことができ、生物起源または合成起源であってよい。タンパク質は、例えばグリコシル化、アミド化、カルボキシル化および/またはリン酸化によって、天然に(翻訳後修飾)または合成的に改変されてもよい。タンパク質は少なくとも2つのアミノ酸を含むが、いかなる特定の長さである必要がない。この用語は、いかなるサイズ制限も含まない。本出願では、用語「タンパク質」、「ポリペプチド」および「ペプチド」は、互換的に用いられる。好ましくは、タンパク質は少なくとも10アミノ酸、好ましくは少なくとも50アミノ酸、少なくとも100アミノ酸、最も好ましくは少なくとも100アミノ酸を含む。
【0028】
用語「核酸」は、一本鎖および二本鎖の核酸およびリボ核酸、ならびにデオキシリボ核酸を含む。それは、天然に存在する、ならびに合成のヌクレオチドを含むことができ、例えばメチル化、5’および/または3’キャッピングによって、天然または合成的に改変されてもよい。
【0029】
用語「コンジュゲート」は、各化合物の特性の少なくともいくつかがコンジュゲートで保持されるように連結される、2つ以上の化合物を特に意味する。連結は、共有または非共有結合によって達成することができる。好ましくは、コンジュゲートの化合物は、共有結合を通して連結される。コンジュゲートの異なる化合物は、化合物の原子間の1つ以上の共有結合を通して互いに直接に結合されてよい。あるいは、化合物はリンカー分子を通して互いに結合されてよく、そこにおいてリンカーは化合物の原子に共有結合する。コンジュゲートが2つを超える化合物で構成される場合、これらの化合物は、例えば、1つの化合物が次の化合物に結合する鎖構造で連結されてよく、またはいくつかの化合物が各々1つの中心化合物に結合されてもよい。
【0030】
用語「発現カセット」は、そこに導入されるコード核酸配列の発現を可能にすることおよび調節することができる核酸構築物を特に指す。発現カセットは、遺伝子の転写またはmRNAの翻訳を調節するプロモーター、リボソーム結合部位、エンハンサーおよび他の制御エレメントを含むことができる。発現カセットの正確な構造は、種または細胞型の機能によって異なってもよいが、TATAボックス、キャッピング配列、CAAT配列などの、それぞれ転写および翻訳の開始に関与する5’非転写ならびに5’および3’非翻訳配列を一般に含む。より具体的には、5’非転写発現制御配列は、作動可能に連結された核酸の転写制御のためのプロモーター配列を含むプロモーター領域を含む。発現カセットは、エンハンサー配列または上流の活性化因子配列を含むこともできる。
【0031】
本発明によると、用語「プロモーター」は、発現される核酸配列の上流(5’)に位置し、RNAポリメラーゼに認識および結合部位を提供することによって配列の発現を制御する核酸配列を指す。「プロモーター」は、遺伝子の転写の調節に関与するさらなる因子のための、さらなる認識および結合部位を含むことができる。プロモーターは、原核生物または真核生物の遺伝子の転写を制御することができる。さらに、プロモーターは「誘導可能」であってよく、すなわち誘導剤に応じて転写を開始することができ、または転写が誘導剤によって制御されない場合は「構成的」であってよい。誘導剤が存在しない場合、誘導可能なプロモーターの支配下にある遺伝子は発現されないか、またはわずかな程度で発現されるだけである。誘導剤の存在下では、遺伝子はスイッチオンされるか、または転写レベルが増加する。これは、一般に特異的転写因子の結合によって媒介される。
【0032】
用語「ベクター」は、本明細書でその最も一般的な意味で用いられ、前記核酸が、例えば原核生物および/または真核生物の細胞に導入され、および適当な場合は、ゲノムに組み込まれることを可能にする核酸のための任意の仲介媒体を含む。この種のベクターは、好ましくは細胞で複製および/または発現される。ベクターは、プラスミド、ファージミド、バクテリオファージまたはウイルスゲノムを含む。本明細書で用いる用語「プラスミド」は、染色体DNAとは独立に複製することができる染色体外遺伝子物質の構築物、通常環状DNA二重鎖に一般に関する。
【0033】
本発明によると、用語「宿主細胞」は、外因性核酸で形質転換またはトランスフェクトさせることができる任意の細胞に関する。本発明によると、用語「宿主細胞」は、原核生物(例えばE.coli)または真核生物の細胞(例えば哺乳動物の細胞、特にヒト細胞、酵母細胞および昆虫細胞)を含む。ヒト、マウス、ハムスター、ブタ、ヤギまたは霊長類の細胞などの哺乳動物の細胞が特に好ましい。細胞は、複数の組織型に由来することができ、一次細胞および細胞系を含むことができる。核酸は、単一コピー、または2つ以上のコピーの形で宿主細胞に存在してもよく、一実施形態では宿主細胞で発現される。
【0034】
本発明によると、用語「患者」は、ヒト、ヒト以外の霊長類または別の動物、特に哺乳動物、例えばウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、またはマウスおよびラットなどの齧歯動物を意味する。特に好ましい実施形態では、患者はヒトである。
【0035】
本発明によると、用語「癌」は、白血病、セミノーマ、黒色腫、奇形腫、リンパ腫、神経芽細胞腫、神経膠腫、直腸癌、子宮体癌、腎臓癌、副腎癌、甲状腺癌、血液癌、皮膚癌、脳の癌、子宮頸癌、腸癌、肝癌、結腸癌、胃癌、腸癌、頭頚部癌、胃腸癌、リンパ節癌、食道癌、結腸直腸癌、膵臓癌、耳、鼻および咽喉(ENT)癌、乳癌、前立腺癌、子宮癌、卵巣癌および肺癌およびそれらの転移を特に含む。その例は、肺癌腫、乳房癌腫、前立腺癌腫、結腸癌腫、腎細胞癌、子宮頸部の癌腫または上記の癌型もしくは腫瘍の転移である。本発明によると、用語癌は癌転移も含む。
【0036】
「腫瘍」は、誤調節された細胞増殖によって形成される細胞または組織の群を意味する。腫瘍は、構造組織および正常な組織との機能的協調の部分的または完全な欠如を示すことができ、良性または悪性であってよい、周囲と異なる組織塊を通常形成することができる。
【0037】
「転移」は、その元の部位から体の別の部分への癌細胞の拡散を意味する。転移の形成は非常に複雑な過程であり、原発性腫瘍からの癌細胞の脱離、体循環への侵入、および体の他の場所の正常な組織の中で定着、生育することを通常含む。腫瘍細胞が転移する場合、新しい腫瘍は二次性または転移性腫瘍と呼ばれ、その細胞は元の腫瘍でのそれらに通常似ている。これは、例えば乳癌が肺に転移する場合、二次性腫瘍は異常な肺細胞ではなく、異常な乳房細胞で形成されることを意味する。肺での腫瘍は、その結果肺癌ではなく、転移性乳癌と呼ばれる。
【0038】
用語「医薬組成物」は、ヒトまたは動物への投与に適する組成物、すなわち薬学的に許容される成分を含む組成物を特に指す。好ましくは、医薬組成物は、担体、希釈剤または医薬用の賦形剤、例えば緩衝液、保存剤および張性調整剤と一緒に、活性化合物またはその塩もしくはプロドラッグを含む。
【0039】
本発明は、重鎖可変領域(VH)の、Kabat番号付けによるアミノ酸28位にプロリン残基を含む抗ムチン抗体が、良好な抗原結合特性を示すとの知見に基づく。重鎖可変領域のアミノ酸28位は、相補性決定領域1(CDR1)の近くの、第一のフレームワーク領域(FR1)に位置する。通常、ヒト抗体では、トレオニンまたはセリン残基がこの位置にある。例えば、NCBIのデータベースに記載される抗体の229ヒト生殖細胞系配列のすべては、重鎖可変領域の28位にトレオニンまたはセリン残基を含む。特にモノクローナル抗体のヒト化では、重鎖可変領域の28位ではトレオニンまたはセリン残基を用いるように当技術分野で一般に教示される。
【0040】
得られたデータに基づき、VHの28位のプロリンは、CDR1の構造特性に有益に影響するようである。特に、前記プロリン残基は、見かけ上、CDR1がMUC1抗原の構造に最も適合する三次元構造を採用することを可能にする。それによって、抗体の特性を改善することができる。
【0041】
これらの知見を考慮し、第一の態様では、本発明は、ムチンタンパク質に結合することができ、Kabat番号付けによるアミノ酸28位にプロリン残基を含む重鎖可変領域の少なくとも一部を含む抗体またはその断片もしくは誘導体を提供する。
【0042】
好ましい実施形態では、本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体に含まれる重鎖可変領域の一部は、少なくとも50アミノ酸、好ましくは少なくとも70アミノ酸、少なくとも90アミノ酸、少なくとも100アミノ酸または少なくとも110のアミノ酸の長さを有する。より好ましくは、重鎖可変領域の一部は、フレームワーク領域1の全体および少なくとも1つ、好ましくは2つまたは3つすべてのCDRを少なくとも含む。最も好ましくは、本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体は、Kabat番号付けによるアミノ酸28位にプロリン残基を含む完全な重鎖可変領域を含む。
【0043】
本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体は、MUC1、MUC2、MUC3A、MUC3B、MUC4、MUC5AC、MUC5B、MUC6、MUC7、MUC8、MUC12、MUC13、MUC15、MUC16、MUC17、MUC19および/またはMUC20などのムチンファミリータンパク質の1つまたは複数に特異的に結合することができてよい。好ましくは、本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体は、膜結合ムチンMUC1、MUC3A(アイソフォーム1)、MUC3BおよびMUC4の1つまたは複数、最も好ましくはMUC1に特異的に結合することができる。好ましい実施形態では、それは腫瘍関連MUC1に特異的に結合するが、正常な非腫瘍細胞のMUC1には結合しないかまたはずっと低い程度で結合する。特に、本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体は、特にタンデムリピートが、トレオニン残基において、N−アセチルガラクトサミン(Tn)、シアリルα2−6N−アセチルガラクトサミン(sTn)、ガラクトースβ1−3N−アセチルガラクトサミン(TF)またはガラクトースβ1−3(シアリルα2−6)N−アセチルガラクトサミン(sTF)、好ましくはTnまたはTFによってグリコシル化される場合、MUC1の細胞外ドメイン、好ましくはそのタンデムリピートに、最も好ましくはコンフォメーション依存的および/またはグリコシル化依存的方法で結合する。好ましくは、炭水化物部分はα−O−グリコシド結合によってトレオニン残基に結合している。
【0044】
本発明による特に好ましい抗ムチン抗体は、ペプチド部分を含むエピトープに特異的に結合することができる抗体である。エピトープは、好ましくはグリコシル化されたペプチド部分であり、抗体の特異的結合は、好ましくはエピトープのグリコシル化に、特にエピトープの特異的グリコシル化パターンに依存する。すなわち、好ましい実施形態では、炭水化物部分を担持していないエピトープと比較して、抗体が結合する特異的エピトープが炭水化物部分を担持している場合、その抗原に対する抗体の結合親和性はより高い。別の好ましい実施形態では、別の炭水化物部分を担持しているか全く担持していないエピトープと比較して、ムチンタンパク質上のエピトープが特異的炭水化物部分を担持している場合、親和性はより高い。この場合、エピトープが別の炭水化物部分を担持している場合の抗原に対する親和性は、非グリコシル化エピトープを有する抗原に対してよりもさらに低くなることがある。これらの実施形態では、抗体が結合するエピトープは、ペプチド部分ならびに炭水化物部分を含むことができる。すなわち、抗体はペプチド部分および炭水化物部分に結合する。
【0045】
しかし、抗体は代わりにペプチド部分だけに結合することができる。この実施形態では、ペプチドエピトープに結合している炭水化物部分は、抗体によって結合されない。しかし、それでも、それがエピトープのペプチド部分の三次元構造に影響するという点で、炭水化物部分は抗体の結合性に対して影響を及ぼすことができる。ここで、エピトープの柔軟性および三次元構造は、炭水化物部分がそれに結合するかどうかに、および好ましくはどの炭水化物部分が結合するかに依存する。その結果、好ましくは、炭水化物部分、特に特異的炭水化物部分がエピトープに結合している場合に採用される三次元構造を有するエピトープに抗体は結合する。上の実施形態では、エピトープに結合するときに抗体の結合の増強をもたらす特異的炭水化物部分は、好ましくはN−アセチルガラクトサミン(Tn)、シアリルα2−6N−アセチルガラクトサミン(sTn)、ガラクトースβ1−3N−アセチルガラクトサミン(TF)またはガラクトースβ1−3(シアリルα2−6)N−アセチルガラクトサミン(sTF)、好ましくはTnまたはTFである。好ましくは、炭水化物部分はα−O−グリコシド結合によってペプチド部分に結合している。
【0046】
したがって、さらなる実施形態では、そのエピトープに対する抗体の特異的結合は、エピトープのコンフォメーションに依存する。上に述べたように、エピトープのコンフォメーションは、エピトープのグリコシル化パターンに依存することがある。しかし、コンフォメーションは、エピトープが提示される状況、例えばエピトープを含むタンパク質の全体的三次元構造によって決まることもある。本質的には、エピトープに対する抗体の結合がコンフォメーション依存性である場合、エピトープは異なる三次元コンフォメーションを採用することができ、エピトープのコンフォメーションの1つまたは複数に対する抗体の結合親和性はエピトープの他のコンフォメーションに対してよりも高い。詳細には、エピトープが特異的コンフォメーション(複数可)を示す場合だけに、抗体はエピトープに結合することができる。
【0047】
特に好ましい実施形態では、抗体は、アミノ酸配列PDTR(配列番号49)、またはより好ましくはPDTRP(配列番号50)を含むエピトープに特異的に結合することができる。上に述べたように、このエピトープへの結合は好ましくはグリコシル化依存性であり、そこでは、詳細には、炭水化物部分が配列PDTRまたはPDTRPそれぞれのトレオニン残基に結合する場合に結合が増強される。好ましくは、エピトープがトレオニン残基において、N−アセチルガラクトサミン(Tn)、シアリルα2−6N−アセチルガラクトサミン(sTn)、ガラクトースβ1−3N−アセチルガラクトサミン(TF)およびガラクトースβ1−3(シアリルα2−6)N−アセチルガラクトサミン(sTF)からなる群より選択される炭水化物部分、好ましくはTnまたはTFによってグリコシル化される場合に結合は増強される。好ましくは、炭水化物部分はα−O−グリコシド結合によってトレオニン残基に結合している。一部の実施形態では、結合のグリコシル化依存は、特に上で指摘される特異的炭水化物部分によってグリコシル化されるときにエピトープが採用する特異的コンフォメーションによる。この場合、抗体は炭水化物部分に必ずしも結合しなければならないわけでなく、エピトープのペプチド部分にだけ結合することができ、その場合、この結合の親和性はエピトープのコンフォメーションに依存する。好ましくは、エピトープは、ムチンタンパク質、特にMUC1の細胞外のタンデムリピートに含まれる。詳細には、本発明による抗体は、腫瘍関連ムチンエピトープ、特にエピトープTA−MUC1などの腫瘍関連MUC1エピトープに結合することができる(Karsten, U.ら(2004年)Glycobiology14巻、681〜692頁およびDanielczyk, A.ら(2006年)Cancer Immunol. Immunother.55巻、1337〜1347頁を参照)。好ましくは、腫瘍関連MUC1エピトープを発現する細胞への本発明による抗体の結合は、正常な非腫瘍MUC1を発現する細胞への結合よりも強い。好ましくは、前記結合は、少なくとも1.5倍強いか、好ましくは少なくとも2倍強いか、少なくとも5倍強いか、少なくとも10倍強いか、または少なくとも100倍強い。
【0048】
腫瘍関連ムチンエピトープ、特にMUC1腫瘍エピトープは、好ましくはムチンタンパク質、特にMUC1のエピトープを指し、それは、腫瘍細胞に存在するが正常細胞に存在せず、および/または腫瘍細胞に存在する場合にだけ宿主の循環中の抗体によってアクセス可能であるが、正常細胞に存在する場合はアクセスできない。詳細には、MUC1腫瘍エピトープは、好ましくは、MUC1タンデムリピートの少なくとも1つのPDTRP配列を含み、PDTRP配列のトレオニンにおいてN−アセチルガラクトサミン(Tn)またはガラクトースβ1−3N−アセチルガラクトサミン(TF)によって、好ましくはα−O−グリコシド結合を通してグリコシル化されているエピトープである。腫瘍特異的MUC1結合については、抗体またはその断片もしくは誘導体は、同一の長さおよび同一のペプチド配列の非グリコシル化ペプチドへの結合と比較すると、結合力価が少なくとも2倍、好ましくは4倍または10倍、最も好ましくは20倍増加するように、グリコシル化MUC1腫瘍エピトープに好ましくは特異的に結合する。結合力価は、例えばELISAを用いて測定することができ、その場合、標的エピトープは固定化され、本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体の結合は、酵素結合、特にペルオキシダーゼ結合二次抗体および適する検出試薬を用いて検出される。例示的な結合アッセイは、国際公開第2004/065423号に、例えば実施例5.1に記載されている。
【0049】
さらに、抗体は、配列番号29のアミノ酸配列の重鎖可変領域および配列番号30のアミノ酸配列の軽鎖可変領域を含む参照抗体PankoMabのそれらに類似した抗原結合特性を示すことができる。詳細には、本発明による抗体は、PankoMabと同じ抗原、好ましくは同じエピトープに特異的に結合することができ、好ましくは前記抗原またはエピトープそれぞれに同等の親和性で結合することができる。すなわち、好ましくは、抗体は、PankoMabのそれより多くとも100倍高い、より好ましくは多くとも10倍高い解離定数を有する親和性、最も好ましくは解離定数がPankoMabのそれと同じであるかまたはより低い親和性で抗原またはエピトープに結合する。さらに、抗体は、好ましくは参照抗体PankoMabと交差特異性を示す。詳細には、十分に高い濃度で存在する場合、抗体はMUC1へのPankoMabの結合をブロックすることができる。本発明による抗体が抗原MUC1に既に結合しているときにMUC1へのPankoMabの結合が妨害される場合に、これが可能なことがある。
【0050】
PankoMabの結合の阻害は、例えば、立体障害、すなわち本発明による抗体が、MUC1に正しく結合するためにPankoMabが必要とする空間の部分を占めること、またはコンフォメーション障害、すなわち本発明による抗体の結合のために、PankoMabのエピトープがPankoMabの結合にとって好ましくないコンフォメーションを採用することによることがある。
【0051】
好ましい一実施形態によると、抗体は、
(a)グリコシル化MUC1腫瘍エピトープに特異的に結合する特性、ならびに
(b)配列番号16のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および配列番号28のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む特性、
を有する、あるいは特性(a)および(b)を有する抗体の機能的断片または誘導体であり、前記機能的断片または誘導体は、配列番号16および配列番号28のアミノ酸配列を含む抗体と交差特異性を示す。
【0052】
本発明による抗体ならびにその抗原および/またはエピトープ結合特性に関する上記実施形態は、本発明によるその断片または誘導体に同様に適用することができる。
【0053】
本発明による抗体は、好ましくはモノクローナル抗体である。さらに、抗体は、好ましくはヒト、マウス、ヤギ、霊長類またはラクダの抗体であるか、それに由来する。それは、キメラ抗体またはヒト化抗体であってよい。それは、任意のアイソタイプまたはそのサブクラス、特にIgG、IgM、IgA、IgEまたはIgDアイソタイプ、またはIgG1などのそのサブクラスの抗体であってよい。好ましくは、本発明による抗体の断片または誘導体は、Fab断片、F(ab)断片、Fd断片、Fv断片、scFv断片、(Fv)断片およびマルチボディからなる群より選択される。抗体またはその断片もしくは誘導体は、1アミノ酸分子だけを含む一本鎖の構築物、または好ましくは例えばジスルフィド結合によって互いに共有結合で連結される複数のアミノ酸分子を含む多重鎖構築物であってよい。
【0054】
特定の実施形態では、本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体は、その中に含まれる重鎖可変領域(VH)が、残りのVHの少なくとも一部と異なる抗体に由来する少なくとも1つのCDRを含むような方法で操作される。例えば、VHは、1つの抗体、例えばマウス、ラクダ、ヤギまたは霊長類の抗体に由来する少なくとも1つのCDR、好ましくは2つまたは3つのCDR、および別の抗体または抗体群、好ましくは別種の抗体、特にヒト抗体に由来する少なくとも1つのFR、好ましくは2つ、3つまたは4つのFRを含む。この実施形態では、抗体またはその断片もしくは誘導体は、軽鎖可変領域(VL)をさらに含むことができる。詳細には、VLは、VHの1つ以上のCDRが由来する抗体に由来することができるか、あるいはVLは、1つ、2つまたは3つのCDRがVHの1つ以上のCDRと同じ抗体に由来し、1つ、2つ、3つまたは好ましくは4つすべてのFRがVHの1つ以上のFRと同じ種、特に同じ抗体または抗体群に由来する構築物であってよい。さらに、抗体またはその断片もしくは誘導体は、好ましくは可変領域のFRと同じ種、特に同じ抗体または抗体群に由来する1つ、2つ、3つまたは4つの重鎖定常領域(CH)および/または1つの軽鎖定常領域(CL)をさらに含むことができる。好ましい実施形態では、可変領域および定常領域のFRは、1つの特定の抗体に由来しないが、特定の抗体群、例えばヒト抗体群に由来するコンセンサス配列または別の好ましい配列を表すアミノ酸配列を有する。
【0055】
別の実施形態では、本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体はキメラであり、1つの抗体に由来する1つ以上の重鎖および任意選択で軽鎖の可変領域、ならびに別の抗体に由来する1つ以上の重鎖および任意選択で軽鎖の定常領域を含む。好ましくは、2つの異なる抗体は異なる種のものであり、例えば可変領域はマウス抗体に由来し、定常領域はヒト抗体に由来する。
【0056】
本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体は、好ましくはグリコシル化される。好ましい実施形態では、それは、人体によって生成される天然に存在する抗体でも見られるグリコシル化パターンである、ヒトグリコシル化パターンを有する。さらに、好ましくは、抗体またはその断片もしくは誘導体は、その1つ以上の活性を調整、特に増強するグリコシル化パターンを含むことができる。例えば、グリコシル化パターンは、その特異的なエピトープに対する抗体、断片もしくは誘導体の親和性を、および/またはFc受容体、特にFcガンマ、FcアルファもしくはFcイプシロン受容体などのその下流受容体に対するその親和性を増強することができる。さらに、または代わりに、グリコシル化パターンは、その補体依存性細胞傷害(CDC)および/またはその抗体依存性細胞媒介細胞傷害(ADCC)を増強することができる。この目的のために、抗体またはその断片もしくは誘導体のグリコシル化パターンは、例えば所望のグリコシル化パターンを生成することが可能な特定の細胞系を用いることによって操作または最適化されてもよい。そのような細胞系は、例えばK562、KG1、MUTZ−3、NM−F9[DSM ACC2606]、NM−D4[DSM ACC2605]、NM−H9D8[DSM ACC2806]、NM−H9D8−E6[DSM ACC2807]、NM H9D8−E6Q12[DSM ACC2856]およびGT−2X[DSM ACC2858]である。したがって、抗体またはその断片もしくは誘導体は、好ましくはこれらの細胞系の1つで発現されるときに提供されるグリコシル化パターンを有する。
【0057】
本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体は、好ましくは医療で、特に疾患、特に本明細書に記載される疾患、好ましくは癌の療法、診断、予後診断および/またはモニタリングで有用である。
【0058】
好ましくは、本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体に含まれる重鎖可変領域は、配列番号1または2のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号3または4のアミノ酸配列を有するCDR2および配列番号5または6のアミノ酸配列を有するCDR3からなる群より選択される少なくとも1つのCDR、好ましくは配列番号1のアミノ酸配列を有するCDR1を少なくとも含む。詳細には、それは、CDR1が配列番号1のアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号3のアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号5のアミノ酸配列を有する一組のCDR、またはCDR1が配列番号2のアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号4のアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号6のアミノ酸配列を有する一組のCDRを含むことができる。
【0059】
一実施形態によると、好ましくは、本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体は、配列番号7、特に配列番号8のアミノ酸配列を有するFR1、配列番号9、特に配列番号10のアミノ酸配列を有するFR2、配列番号11、特に配列番号12のアミノ酸配列を有するFR3、および配列番号13、特に配列番号14のアミノ酸配列を有するFR4からなる群より選択される少なくとも1つのフレームワーク領域を有する重鎖可変領域を含む。配列番号8のアミノ酸配列を有するFR1の存在が、特に好ましい。したがって、重鎖可変領域は、好ましくは配列番号15、特に配列番号16のアミノ酸配列を含む。
【0060】
さらなる実施形態では、本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体は、上記のセグメントまたは配列の1つまたは複数を含む抗体に由来する。
【0061】
本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体は、配列番号17または18のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号19または20のアミノ酸配列を有するCDR2および配列番号21または22のアミノ酸配列を有するCDR3からなる群より選択される少なくとも1つのさらなる相補性決定領域をさらに含むことができ、そこにおいて、前記少なくとも1つのさらなる相補性決定領域は、好ましくは軽鎖可変領域に存在する。詳細には、抗体またはその断片もしくは誘導体は、重鎖可変領域のCDRが配列番号1、3および5のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域のCDRが配列番号17、19および21のアミノ酸配列を有する一組のCDR、または重鎖可変領域のCDRが配列番号2、4および6のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域のCDRが配列番号18、20および22のアミノ酸配列を有する一組のCDRを好ましくは含む。前記軽鎖可変領域は、好ましくは配列番号27、特に配列番号28のアミノ酸配列を含む。特定の好ましい実施形態では、本発明による抗体は、配列番号16のアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号28のアミノ酸配列を含むVL、またはその機能的変異体もしくは誘導体を含む。
【0062】
一実施形態によると、抗体は、
(i)重鎖可変領域VHのFRH1、FRH2、FRH3およびFRH4が以下のアミノ酸配列:
【0063】
【化1−1】

【0064】
【化1−2】

【0065】
【化1−3】

【0066】
【化1−4】

を有し、アミノ酸位置がKabatによる記数法に対応し、
(ii)任意選択で、軽鎖可変領域VLのFRL1、FRL2、FRL3およびFRL4が以下のアミノ酸配列:
【0067】
【化2−1】

【0068】
【化2−2】

【0069】
【化2−3】

【0070】
【化2−4】

を有し、アミノ酸位置がKabatによる記数法に対応する
抗体フレームワーク領域を含む。
【0071】
特定の実施形態では、本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体は、重鎖可変領域のKabat番号付けによるアミノ酸28位にプロリン残基を本来含まない抗体に由来する。詳細には、Kabat番号付けによるアミノ酸28位を含む、本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体の重鎖可変領域のFR1は、VHの28位にプロリン残基を含まない抗体に由来する。さらに、残りのFRの1つまたは複数、および/またはVHの1つ、2つまたは3つのCDR、特にCDR1も、好ましくはVHの28位にプロリン残基を含まない抗体に由来する。本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体を得るために、VHの28位のアミノ酸はプロリン残基で次に置換される。
【0072】
好ましくは、特異的抗原への本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体の親和性は、それが由来する抗体またはその断片もしくは誘導体、特に、それが重鎖可変領域(複数可)のKabat番号付けによるアミノ酸28位にプロリン残基を含まないこと以外は本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体と同一である抗体またはその断片もしくは誘導体の親和性と少なくとも同じくらい高い。すなわち、好ましくは、本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体は、前記他の抗体またはその断片もしくは誘導体のそれと同じであるかより低い解離定数、好ましくは少なくとも2倍低いか、少なくとも3倍低いか、少なくとも5倍低いか、より好ましくは少なくとも10倍低い解離定数を有する親和性で抗原またはエピトープに結合する。
【0073】
特定の一実施形態では、本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体は、PankoMab(配列番号29の重鎖可変領域、配列番号30の軽鎖可変領域)に由来する。PankoMabは、MUC1のタンデムリピート中のグリコシル化された細胞外エピトープに対するマウスモノクローナル抗体である(Danielczyk, A.ら(2006年)Cancer Immunol. Immunother.55巻、1337〜1347頁)。
【0074】
さらに、本発明による抗体は、配列番号31のアミノ酸配列を含む少なくとも1つの重鎖、および任意選択で配列番号32のアミノ酸配列を含む少なくとも1つの軽鎖を含むことができ、またはその断片もしくは誘導体である。好ましくは、それは、それぞれ配列番号31および32のアミノ酸配列を含む一組の重鎖および軽鎖を含む。前記抗体またはその断片もしくは誘導体は、一本鎖のFv断片であってもよい。
【0075】
特定の実施形態では、本発明による操作された抗体またはその断片もしくは誘導体はさらなる作用物質に結合されて、コンジュゲートを形成する。好ましくは、さらなる作用物質は、疾患、特に癌の療法、診断、予後診断および/またはモニタリングで有用である。例えば、さらなる作用物質は、抗体または抗体の断片、特に異なる種および/または異なる特異性のもの、酵素、相互作用ドメイン、安定化ドメイン、シグナル伝達配列、検出可能な標識、蛍光色素、毒素、触媒抗体、細胞溶解性成分、免疫調節薬、免疫エフェクター、MHCクラスIまたはクラスII抗原、放射性標識化のためのキレート化剤、放射性同位体、リポソーム、膜貫通ドメイン、ウイルスおよび細胞からなる群より選択することができる。それは共有結合で、特に融合もしくは化学的結合によって、または非共有結合で抗体またはその断片もしくは誘導体に結合されてもよい。特定の好ましいさらなる作用物質は、癌細胞を死滅させることが可能な作用物質である。
【0076】
さらなる態様では、本発明は、本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体をコードする核酸を提供する。本発明による核酸の核酸配列は、本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体をコードするために適する任意のヌクレオチド配列を有することができる。しかし、好ましくは、核酸配列は、本発明による核酸が発現される宿主細胞または生物体の特異的なコドン利用に少なくとも部分的に適合している。本発明による核酸は、二本鎖または一本鎖のDNAまたはRNA、好ましくはcDNAなどの二本鎖DNA、またはmRNAなどの一本鎖RNAであってよい。それは1つの連続的な核酸分子であるか、またはそれは、本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体の異なる部分をそれぞれコードするいくつかの核酸分子で構成されてもよい。
【0077】
本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体が一本鎖の構築物である場合には、好ましくは、本発明による核酸は、抗体全体またはその断片もしくは誘導体をコードするコード領域を含む単一の核酸分子である。本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体が複数のアミノ酸鎖で構成される場合には、本発明による核酸は、例えば、分離されたアミノ酸鎖を生成するために、IRESエレメントなどの調節エレメントによって好ましくは分離されている、抗体またはその断片もしくは誘導体のアミノ酸鎖の1つをそれぞれコードするいくつかのコード領域を含む単一の核酸分子であるか、あるいは、本発明による核酸は、各核酸分子が、抗体またはその断片もしくは誘導体のアミノ酸鎖の1つをそれぞれコードする1つ以上のコード領域を含む、いくつかの核酸分子で構成されてもよい。本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体をコードするコード領域に加えて、本発明による核酸は、例えば、他のタンパク質をコードすること、コード領域(複数可)の転写および/または翻訳に影響すること、核酸の安定性または他の物理的もしくは化学的特性に影響することができるか、あるいはいかなる機能も有することができないさらなる核酸配列または他の改変体を含むこともできる。
【0078】
さらなる態様では、本発明は、本発明による核酸および前記核酸に作動可能に連結されるプロモーターを含む発現カセットまたはベクターを提供する。さらに、発現カセットまたはベクターは、さらなるエレメント、特に本発明による核酸の転写および/または翻訳、発現カセットまたはベクターの増幅および/または複製、宿主細胞のゲノムへの発現カセットまたはベクターの組込み、ならびに/または宿主細胞での発現カセットまたはベクターのコピー数に影響することおよび/または調節することが可能であるエレメントを含むことができる。抗体を発現するためのそれぞれの発現カセットを含む適切な発現カセットおよびベクターは当技術分野で周知であり、したがってここではさらなる説明を必要としない。
【0079】
さらに、本発明は、本発明による核酸または本発明による発現カセットもしくはベクターを含む宿主細胞を提供する。本発明による宿主細胞は、任意の宿主細胞であってよい。それは、単離細胞または組織に含まれる細胞であってよい。好ましくは、宿主細胞は培養細胞、特に一次細胞または樹立細胞系の細胞、好ましくは腫瘍由来細胞である。好ましくは、それはE.coliなどの細菌細胞、Saccharomyces属、特にS.cerevisiaeの細胞などの酵母細胞、Sf9細胞などの昆虫細胞、または哺乳動物細胞、特に腫瘍由来ヒト細胞などのヒト細胞、CHOなどのハムスター細胞もしくは霊長類細胞である。本発明の好ましい一実施形態では、宿主細胞はヒト骨髄性白血病細胞に由来する。好ましくは、それは以下の細胞または細胞系から選択される。K562、KG1、MUTZ−3、NM−F9[DSM ACC2606]、NM−D4[DSM ACC2605]またはそれに由来する細胞もしくは細胞系、またはそれらの前記細胞の少なくとも1つを含む細胞もしくは細胞系の混合物。宿主細胞は、NM−F9[DSM ACC2606]、NM−D4[DSM ACC2605]、NM−H9D8[DSM ACC2806]、NM−H9D8−E6[DSM ACC2807]、NM H9D8−E6Q12[DSM ACC2856]、GT−2X[DSM ACC2858]および前記宿主細胞の任意の1つに由来する細胞もしくは細胞系、またはそれらの前記細胞の少なくとも1つを含む細胞もしくは細胞系の混合物からなる群から好ましくは選択される。これらの細胞系は、DSMZ−Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen、Mascheroder Weg 1b/Inhoffenstrasse 7B、38124 Braunschweig(DE)に、上に示す受託番号の下に寄託された。好ましい実施形態では、宿主細胞は特異的なグリコシル化パターンを有する糖タンパク質、特に抗体の発現のために最適化される。好ましくは、発現カセットまたはベクターの本発明による核酸のコード領域、および/またはプロモーターおよびさらなるエレメントでのコドン利用は、用いられる宿主細胞の種類に適合し、およびより好ましくはそのために最適化される。好ましくは、本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体は、上記の宿主細胞または細胞系によって生成される。
【0080】
別の態様では、本発明は、本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体、本発明による核酸、本発明による発現カセットもしくはベクター、または本発明による宿主細胞を含む組成物を提供する。組成物は、これらの成分の複数を含むこともできる。さらに、組成物は、溶媒、希釈液および賦形剤からなる群より選択される1つ以上のさらなる成分を含むことができる。好ましくは、組成物は医薬組成物である。この実施形態では、組成物の成分のすべてが好ましくは薬学的に許容される。組成物は、固体または流体の組成物、特に、好ましくは水性の溶液、乳濁液または懸濁液または凍結乾燥粉末であってよい。
【0081】
さらなる態様では、本発明は、医療用の本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体、本発明による核酸、本発明による発現カセットもしくはベクター、本発明による宿主細胞、または本発明による組成物を提供する。好ましくは、医療での使用は、例えば癌、ウイルスおよび細菌の感染症などの感染症、自己免疫疾患、心臓血管疾患、炎症性疾患、黄斑部変性、移植拒絶および多発性硬化症などの疾患の治療、予後診断、診断および/またはモニタリングでの使用である。好ましい実施形態では、疾患は癌である。好ましくは、癌は、結腸、胃、肝臓、膵臓、腎臓、血液、肺および卵巣の癌ならびにそれらに起因する転移からなる群より選択される。
【0082】
癌などの異常な細胞増殖と関連する疾患の治療での使用のために、本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体は前記のさらなる作用物質に結合されてもよく、そこにおいて、さらなる作用物質は好ましくは放射性核種または細胞毒などの細胞傷害剤である。さらに、抗体またはその断片もしくは誘導体は、患者の免疫応答を活性化するその能力、特にADCC(抗体依存性細胞媒介細胞傷害)および/またはCDC(補体依存性細胞傷害)を活性化する能力を増強するように操作されてもよい。例えば、これは、抗体、特に定常領域のアミノ酸配列および/またはグリコシル化パターンを最適化することによって達成することができる。
【0083】
疾患の診断、予後診断および/またはモニタリングでの検出剤としての使用のために、好ましくは、本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体は、検出可能なシグナルを生成することが可能である標識物質に結合される。詳細には、前記標識物質は、放射性核種、蛍光団または酵素であってよい。
【0084】
別の態様では、本発明は、ムチンタンパク質に結合することができ、重鎖可変領域を含む抗体またはその断片もしくは誘導体の抗原結合および/または抗原認識を改善するための方法であって、重鎖可変領域の、Kabat番号付けによる28位にプロリン残基を提供するステップを含む方法を提供する。
【0085】
好ましい実施形態では、28位のプロリン残基は、抗体またはその断片もしくは誘導体をコードする核酸の配列を改変することによって得られる。詳細には、核酸配列は、前記アミノ酸残基をコードするコドンに変異を導入することによって改変される。置換される予定のアミノ酸残基に従い、プロリン残基をコードするコドンが得られるように、前記コドンの1ヌクレオチドだけ、2ヌクレオチドまたは3ヌクレオチドのすべてが置換される。汎用遺伝子コードによると、コドンCCA、CCG、CCC、CCUおよびCCTは、アミノ酸プロリンをコードする。したがって、抗体またはその断片もしくは誘導体をコードする核酸は、VHのアミノ酸番号28をコードするコドンが、CCA、CCG、CCC、CCUおよびCCTからなる群より選択される核酸配列を有するように、改変、特に変異させるべきである。その結果、VHの28位のアミノ酸がプロリン残基によって置換される抗体またはその断片もしくは誘導体は、適する発現系で前記改変された核酸を発現させることによって得られる。
【0086】
抗体またはその断片もしくは誘導体をコードする核酸中のVHのアミノ酸残基28のコドンは、プロリンをコードするコドンを得るために、当技術分野で公知である任意の方法によって改変されてもよい。詳細には、それは,特異的またはランダムな変異、ならびに親和性成熟などの定方向変異によって改変されてもよい。例えば、抗体またはその断片もしくは誘導体をコードし、所望の変異を運ぶ核酸の一部に相補的なオリゴヌクレオチドプライマーが、前記核酸を増幅するための反応、特にPCRに基づく増幅反応で用いられてもよい。
【0087】
しかし、タンパク質にプロリン残基を提供するための他のいかなる公知の方法も用いることができる。詳細には、改変されたアミノ酸配列を有するタンパク質の化学合成、またはタンパク質の化学修飾を用いることができる。
【0088】
VHの28位にプロリン残基を提供することによって、抗体またはその断片もしくは誘導体の抗原結合および/または抗原認識特性は改善される。抗体またはその断片もしくは誘導体の抗原結合および/または抗原認識を改善することには、その抗原への親和性を増強することおよび/またはその抗原への特異性を増加させることが特に含まれる。詳細には、抗体またはその断片もしくは誘導体は、VHの28位にプロリン残基を提供した後に、VHのアミノ酸28位にプロリン残基を有していない同一の抗体またはその断片もしくは誘導体と比較して、改善された抗原結合および/または抗原認識特性を有する。
【0089】
この点で、好ましくは、親和性を増強することは、その特異的抗原またはエピトープへの抗体の結合の解離定数の低下を指す。好ましくは、解離定数は、少なくとも1.2倍、より好ましくは少なくとも1.3倍、少なくとも1.5倍、少なくとも1.7倍、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、最も好ましくは少なくとも50倍または少なくとも100倍低下される。この点で、好ましくは、特異性を増加させることは、特異的抗原またはエピトープとともに通常存在する他の任意の分子に対するその親和性と比較した、その特異的抗原またはエピトープに対する抗原の親和性の差の増加を指す。好ましくは、これらの2つの親和性の解離定数の差は、少なくとも1.2倍、より好ましくは少なくとも1.3倍、少なくとも1.5倍、少なくとも1.7倍、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、最も好ましくは少なくとも50倍または少なくとも100倍増加される。
【0090】
好ましくは、抗体またはその断片もしくは誘導体によって認識されるムチン抗原は、腫瘍関連抗原、すなわち正常組織から腫瘍組織を区別するためにおよび/または腫瘍組織を療法剤の特異標的とするためのマーカーとして用いることができる抗原である。VHの28位にプロリン残基を提供することによって、抗体またはその断片もしくは誘導体の医療での有用性は、好ましくは例えば腫瘍組織および正常組織を区別する能力を増強することによって、および/または所望の薬効を達成するために必要な抗体または抗体含有コンジュゲートの濃度を下げることによって改善することができる。
【0091】
その抗原結合および/または認識が本発明による方法によって改善されるべき抗体またはその断片もしくは誘導体は、少なくとも1つの重鎖可変領域のKabat番号付けによる28位にプロリン残基を含むないものでありうる。さらに、本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体に関して上で記載される実施形態または特徴は、その抗原結合および/または認識が本発明による方法によって改善されるべき抗体またはその断片もしくは誘導体にも、単独でまたは様々な可能な組合せで適用される。詳細には、その抗原結合および/または認識が改善されるべき抗体またはその断片もしくは誘導体は、上記のアミノ酸配列またはアミノ酸配列の組合せのいずれかを有することができるが、そこでは、少なくとも1つの重鎖可変領域のKabat番号付けによる28位のアミノ酸残基は、プロリン以外のアミノ酸残基である。
【0092】
好ましくは、その抗原結合および/または認識が本発明による方法によって改善されるべき抗体またはその断片もしくは誘導体は、MUC1、特にMUC1の細胞外タンデムリピート上のエピトープに、好ましくはコンフォメーション依存的および/またはグリコシル化依存的に特異的に結合することができる。エピトープまたは抗原の具体的な実施形態が、本発明による抗原または断片または誘導体に関して上に記載されている。特に好ましい実施形態では、その抗原結合および/または認識が本発明による方法によって改善されるべき抗体またはその断片もしくは誘導体の重鎖可変領域は、
(i)配列番号1を有するCDR1、配列番号3を有するCDR2、および配列番号5を有するCDR3からなる群のCDRの1つまたは複数、好ましくはすべて、または配列番号2を有するCDR1、配列番号4を有するCDR2および配列番号6を有するCDR3からなる群のCDRの1つまたは複数、好ましくはすべて、特に好ましくは少なくとも配列番号1を有するCDR1、ならびに/あるいは
(ii)配列番号33または34を有するFR1、配列番号9または35を有するFR2、配列番号11または36を有するFR3、配列番号13または37を有するFR4からなる群のFRの1つまたは複数、好ましくはすべて、特に好ましくは少なくとも配列番号33を有するFR1を含む。
【0093】
好ましくは、重鎖可変領域は、配列番号38または29のアミノ酸配列を含む。さらに、その抗原結合および/または認識が改善されるべき抗体は、配列番号39のアミノ酸配列を含む1つ以上の重鎖、および/または配列番号32のアミノ酸配列を含む1つ以上の軽鎖を含むことができる。好ましくは、それは、それぞれ配列番号39および32のアミノ酸配列を含む少なくとも一対の重鎖および軽鎖を含むか、または上記の機能的断片もしくは誘導体である。代わりに、一本鎖のFv断片が、本発明による方法で用いられてもよい。特に好ましい実施形態では、PankoMabまたはそれから誘導される抗体もしくは断片、あるいはPankoMabと交差特異性を示す抗体またはその断片が、本発明による方法で用いられる。
【0094】
本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体は、本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体の抗原結合および/または認識を改善するための方法によって入手すること、または調製することができる。
【0095】
さらに、本発明は、本発明による核酸を調製するための方法であって、
(a)重鎖可変領域のKabat番号付けによるアミノ酸28位にプロリン残基を含まない、抗体またはその断片もしくは誘導体の核酸配列を含む核酸を提供するステップと、
(b)重鎖可変領域のKabat番号付けによるアミノ酸番号28をコードするコドンに、前記コドンがプロリン残基をコードするように変異を導入するステップとを含む方法を提供する。
【0096】
変異は、このために適当な任意の方法によって導入されてよい。種々の適する方法が、当技術分野で公知である。例えば、変異は、最初の核酸のランダムまたは定方向変異によって、例えばPCRに基づく方法で変異を運ぶオリゴヌクレオチドプライマーを用いることによって導入されてもよい。代わりに、変異を含む核酸またはその部分は、適当な場合、化学的に合成し、核酸の残りの部分に連結することができる。
【0097】
さらに、本発明による操作された抗体またはその断片もしくは誘導体を調製するための方法は、本発明による核酸を調製するための上記の方法に基づくことができる。本発明による操作された抗体またはその断片もしくは誘導体を調製するための前記方法は、本発明による核酸を調製するための方法のステップ(a)および(b)を含み、さらに、ステップ(b)で得られる核酸を発現系で発現させ、それによって前記核酸によってコードされる本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体を生成するステップを含む。
【0098】
適当な発現系は、無細胞発現系または上記の宿主細胞に基づく発現系であってよい。詳細には、哺乳動物の宿主細胞の使用、特にヒト宿主細胞、好ましくは上で開示される宿主細胞の使用が好ましい。好ましくは、抗体またはその断片もしくは誘導体を発現させるために用いられる宿主細胞は、宿主細胞によって発現される抗体のグリコシル化パターンに関して最適化される。
【0099】
本発明の他の態様、特に本発明による抗体、本発明による核酸、本発明による発現カセット、ベクターまたは宿主細胞、または本発明による抗体またはその断片もしくは誘導体の抗原結合および/または認識を改善するための方法に関して開示される特徴は、単独で、または組合せによって、本発明による核酸を調製するための方法に適用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】図1は、PankoMabのMUC1エピトープを含むグリコシル化(256.1)および非グリコシル化(258.1)30量体ポリペプチド、ならびに2、4または5個のMUC1タンデムリピート(それぞれTR2、TR4およびTR5)を含む異なるグリコシル化ポリペプチドへの、キメラマウス/ヒトおよびいくつかのヒト化されたPankoMab由来の抗体の結合を示す。BSAへの結合は対照として用いられた。実験は、力価の調整の後、抗体を含有する細胞上清の異なる希釈溶液で実行した(グラフの左側に示す)。
【図2−1】図2は、PankoMabのMUC1エピトープを含む(A)非グリコシル化(258.1)および(B)グリコシル化(256.1)30量体ポリペプチドへの、キメラマウス/ヒトおよびいくつかのヒト化されたPankoMab由来の抗体の結合を示す。対照(ブランク)として、一次抗体を用いなかった。さらなる対照として、サッカライド環を切断し、したがってポリペプチド256.1のグリコシル化を破壊する過ヨウ素酸塩(POを有する)による30量体ポリペプチドの処理の後にも実験を実行した。
【図2−2】図2は、PankoMabのMUC1エピトープを含む(A)非グリコシル化(258.1)および(B)グリコシル化(256.1)30量体ポリペプチドへの、キメラマウス/ヒトおよびいくつかのヒト化されたPankoMab由来の抗体の結合を示す。対照(ブランク)として、一次抗体を用いなかった。さらなる対照として、サッカライド環を切断し、したがってポリペプチド256.1のグリコシル化を破壊する過ヨウ素酸塩(POを有する)による30量体ポリペプチドの処理の後にも実験を実行した。
【図3】図3は、PankoMabのMUC1エピトープを含むグリコシル化30量体標的ペプチド256.1への、VH16m/VL6.1抗体(重鎖可変領域の28位にプロリン残基を有する)およびVH16/VL6.1抗体(重鎖可変領域の28位にトレオニン残基を有する)の結合の直接比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0101】
(実施例1)
PankoMabのマウス重鎖および軽鎖可変領域のヒト化
PankoMabは、ヒトMUC1の細胞外タンデムリピート中のグリコシル化された、腫瘍関連エピトープに対するモノクローナル抗体である。マウス抗体PankoMabの調製の後(Danielczyk, A.ら(2006年)Cancer Immunol. Immunother.55巻、1337〜1347頁)、重鎖および軽鎖可変領域(VHおよびVL)をコードする核酸配列を、それぞれヒト定常γ1領域(CH)およびヒト定常κ領域(CL)のゲノム配列に連結した。このクローニング手順の詳細な説明のために、それは国際公開第2004/065423 A2号、特に実施例3に参照される。
【0102】
これらのキメラクローン(重鎖:配列番号40、軽鎖:配列番号41)に基づいて、ヒト化PankoMab抗体が構築された。この目的のために、対応するヒトフレームワーク領域を生成するために、VHおよびVLのマウスフレームワーク領域の核酸配列に、点変異を導入した。標的ヒトフレームワーク領域は、ヒト生殖細胞系抗体ライブラリーから選択された。詳細には、最も関連するフレームワーク領域が、それらの全体的な配列類似性およびそれらのCDRループ分類に従ってライブラリーから選択された。次に、異常アミノ酸を同定するために、重鎖および軽鎖可変領域のためのヒトコンセンサス配列が用いられた。ヒト化可変軽鎖(10変異体)および可変重鎖(15変異体)の異なる可変配列のセットを設計するために、得られた全データを考慮した。変異体は、重要な位置のマウス配列への復帰変異、および/または希アミノ酸、すなわちヒトフレームワーク領域のそれらの特異的な位置でむしろ珍しいアミノ酸のそれらの一般的な対応物への変異を含む。異なる構築物の発現に続いて、ヒト化抗体変異体を256.1特異的ELISAでスクリーニングし、最良の結合剤を選択した。
【0103】
上記の方法によって、以下のヒト化抗体の重鎖および軽鎖可変領域が得られ、さらに特徴づけされた。
【0104】
【表1】

mVHおよびmVLは、それぞれマウスの重鎖および軽鎖可変領域を表し、それらはヒト化のための基礎として用いられた。
【0105】
(実施例2)
グリコシル化および非グリコシル化エピトープに対するヒト化PankoMab変異体の親和性
異なる組合せでこれらの重鎖および軽鎖可変領域を含むIgG抗体を用いて、PankoMab(ペプチド258.1:APPAHGVTSAPDTRPAPGSTAPPAHGVTSA、配列番号51)のエピトープを含む30量体ポリペプチドによる2つの結合アッセイを実施し、そこで、1つのアッセイでは、ペプチドはN−アセチルガラクトサミンで中央のトレオニンがグリコシル化され(ペプチド256.1:APPAHGVTSAPDT[GalNAcα]RPAPGSTAPPAHGVTSA)、他のアッセイではペプチドはグリコシル化されなかった。さらに、2、4または5個のタンデムリピート(TR2、TR4およびTR5:それぞれ配列番号52、53および54)を含む複数のTN−グリコシル化MUC1タンデムリピートによる結合アッセイを実施した。
【0106】
これらのアッセイの結果を、図1および2に示す。これらのアッセイを用いて、28位に普通でないプロリン残基を有する重鎖可変領域VH16mを含む抗体が、重鎖可変領域の28位にプロリン残基を有していないそれらよりも、グリコシル化エピトープを含むポリペプチドに対して高い親和性を有することを実証することができた。
【0107】
かつてプロリン(重鎖可変領域VH16m、軽鎖可変領域VL6.1)であって、かつてトレオニン(重鎖可変領域VH16、軽鎖可変領域VL6.1)であった、重鎖可変領域の28位のアミノ酸残基で異なるだけである2つのヒト化抗MUC1抗体の直接比較は、このアミノ酸置換がグリコシル化エピトープを含む標的ペプチド256.1への結合の改善の原因であることを実証する(図3を参照)。
【0108】
寄託された生体物質の識別
細胞系DSM ACC2606およびDSM ACC2605は、DSMZ−Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH、Mascheroder Weg 1b、38124 Braunschweig(DE)に、Nemod Biotherapeutics GmbH & Co.KG、Robert−Roessle−Str.10、13125 Berlin(DE)によって寄託された。それらはNemod Biotherapeutics GmbH & Co.KGからGlycotope GmbHに割り当てられたので、Glycotopeはこれらの生体物質を指す権利がある。
【0109】
細胞系DSM ACC2806、DSM ACC2807、DSM ACC2856およびDSM ACC2858は、DSMZ−Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH、Inhoffenstrasse 7B、38124 Braunschweig(DE)に、Glycotope GmbH、Robert−Roessle−Str.10、13125 Berlin(DE)によって寄託された。
【0110】
【表2】

【0111】
【化3−1】

受託番号DSM ACC2606のための様式PCT/RO/134による追加の指示:
出願人は、これにより、それぞれの規定を有する国に対し、本出願で言及する寄託物の試料の提供が、独立した、指名された専門家へのみ許可されることを要請する(該当する場合、特にオーストラリア、カナダ、クロアチア、デンマーク、フィンランド、ドイツ、アイスランド、ノルウェー、シンガポール、スペイン、スウェーデン、英国、ヨーロッパにおける、「専門家の解決」の要請)。
【0112】
ヨーロッパについては、出願人はしたがって、規則33(1)(2)EPCに規定されるように、特許の許可への言及の発表まで、または出願が拒絶されるか、取り下げられるか、取り下げられるとみなされる場合には出願日から20年の間、試料を要請する者によって指名される専門家への試料の付与によってだけ、寄託生体物質の試料が入手できるようにされることを要請する(規則32EPC)。
【0113】
【化3−2】

【0114】
【化4−1】

受託番号DSM ACC2605のための様式PCT/RO/134による追加の指示:
出願人は、これにより、それぞれの規定を有する国に対し、本出願で言及する寄託物の試料の提供が、独立した、指名された専門家へのみ許可されることを要請する(該当する場合、特にオーストラリア、カナダ、クロアチア、デンマーク、フィンランド、ドイツ、アイスランド、ノルウェー、シンガポール、スペイン、スウェーデン、英国、ヨーロッパにおける、「専門家の解決」の要請)。
【0115】
ヨーロッパについては、出願人はしたがって、規則33(1)(2)EPCに規定されるように、特許の許可への言及の発表まで、または出願が拒絶されるか、取り下げられるか、取り下げられるとみなされる場合には出願日から20年の間、試料を要請する者によって指名される専門家への試料の付与によってだけ、寄託生体物質の試料が入手できるようにされることを要請する(規則32EPC)。
【0116】
【化4−2】

【0117】
【化5−1】

受託番号DSM ACC2806のための様式PCT/RO/134による追加の指示:
出願人は、これにより、それぞれの規定を有する国に対し、本出願で言及する寄託物の試料の提供が、独立した、指名された専門家へのみ許可されることを要請する(該当する場合、特にオーストラリア、カナダ、クロアチア、デンマーク、フィンランド、ドイツ、アイスランド、ノルウェー、シンガポール、スペイン、スウェーデン、英国、ヨーロッパにおける、「専門家の解決」の要請)。
【0118】
ヨーロッパについては、出願人はしたがって、規則33(1)(2)EPCに規定されるように、特許の許可への言及の発表まで、または出願が拒絶されるか、取り下げられるか、取り下げられるとみなされる場合には出願日から20年の間、試料を要請する者によって指名される専門家への試料の付与によってだけ、寄託生体物質の試料が入手できるようにされることを要請する(規則32EPC)。
【0119】
【化5−2】

【0120】
【化6−1】

受託番号DSM ACC2807のための様式PCT/RO/134による追加の指示:
出願人は、これにより、それぞれの規定を有する国に対し、本出願で言及する寄託物の試料の提供が、独立した、指名された専門家へのみ許可されることを要請する(該当する場合、特にオーストラリア、カナダ、クロアチア、デンマーク、フィンランド、ドイツ、アイスランド、ノルウェー、シンガポール、スペイン、スウェーデン、英国、ヨーロッパにおける、「専門家の解決」の要請)。
【0121】
ヨーロッパについては、出願人はしたがって、規則33(1)(2)EPCに規定されるように、特許の許可への言及の発表まで、または出願が拒絶されるか、取り下げられるか、取り下げられるとみなされる場合には出願日から20年の間、試料を要請する者によって指名される専門家への試料の付与によってだけ、寄託生体物質の試料が入手できるようにされることを要請する(規則32EPC)。
【0122】
【化6−2】

【0123】
【化7−1】

受託番号DSM ACC2856のための様式PCT/RO/134による追加の指示:
出願人は、これにより、それぞれの規定を有する国に対し、本出願で言及する寄託物の試料の提供が、独立した、指名された専門家へのみ許可されることを要請する(該当する場合、特にオーストラリア、カナダ、クロアチア、デンマーク、フィンランド、ドイツ、アイスランド、ノルウェー、シンガポール、スペイン、スウェーデン、英国、ヨーロッパにおける、「専門家の解決」の要請)。
【0124】
ヨーロッパについては、出願人はしたがって、規則33(1)(2)EPCに規定されるように、特許の許可への言及の発表まで、または出願が拒絶されるか、取り下げられるか、取り下げられるとみなされる場合には出願日から20年の間、試料を要請する者によって指名される専門家への試料の付与によってだけ、寄託生体物質の試料が入手できるようにされることを要請する(規則32EPC)。
【0125】
【化7−2】

【0126】
【化8−1】

受託番号DSM ACC2858のための様式PCT/RO/134による追加の指示:
出願人は、これにより、それぞれの規定を有する国に対し、本出願で言及する寄託物の試料の提供が、独立した、指名された専門家へのみ許可されることを要請する(該当する場合、特にオーストラリア、カナダ、クロアチア、デンマーク、フィンランド、ドイツ、アイスランド、ノルウェー、シンガポール、スペイン、スウェーデン、英国、ヨーロッパにおける、「専門家の解決」の要請)。
【0127】
ヨーロッパについては、出願人はしたがって、規則33(1)(2)EPCに規定されるように、特許の許可への言及の発表まで、または出願が拒絶されるか、取り下げられるか、取り下げられるとみなされる場合には出願日から20年の間、試料を要請する者によって指名される専門家への試料の付与によってだけ、寄託生体物質の試料が入手できるようにされることを要請する(規則32EPC)。
【0128】
【化8−2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ムチンタンパク質に結合することができる抗体またはその断片もしくは誘導体であって、Kabat番号付けによるアミノ酸28位にプロリン残基を含む重鎖可変領域の少なくとも一部を含む抗体またはその断片もしくは誘導体。
【請求項2】
請求項1に記載の抗体であって、該抗体は、以下の特性:
(a)該抗体は、グリコシル化MUC1腫瘍エピトープに特異的に結合する、および
(b)該抗体は、配列番号16のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および配列番号28のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む
を有するか、あるいは該抗体は、特性(a)および(b)を有する該抗体の機能的断片または誘導体であり、ここで、該機能的断片または誘導体は、配列番号16および配列番号28のアミノ酸配列を含む抗体と交差特異性を示す、抗体。
【請求項3】
請求項1に記載の抗体またはその断片もしくは誘導体であって、該抗体またはその断片もしくは誘導体は、以下の特性:
(a)該抗体またはその断片もしくは誘導体のエピトープへの特異的結合が、該エピトープのコンフォメーションおよび/またはグリコシル化パターンに依存する、
(b)該抗体またはその断片もしくは誘導体は、トレオニン残基で、N−アセチルガラクトサミン(Tn)またはガラクトースβ1−3N−アセチルガラクトサミン(TF)によって好ましくはグリコシル化されている、アミノ酸配列PDTRを含むペプチドに特異的に結合することができる、
(c)該抗体またはその断片もしくは誘導体は、MUC1、特に腫瘍由来のMUC1のグリコシル化細胞外タンデムリピートの少なくとも一部に特異的に結合することができる、
(d)該抗体またはその断片もしくは誘導体は、同一の長さおよび同一のペプチド配列の非グリコシル化ペプチドへの結合と比較して結合強度が少なくとも20倍増加するように、グリコシル化MUC1腫瘍エピトープに特異的に結合する、
(e)該抗体またはその断片もしくは誘導体は、操作、好ましくはヒト化されている、
(f)該抗体またはその断片もしくは誘導体は、
(i)配列番号1のアミノ酸配列を有するCDR1、
(ii)配列番号3のアミノ酸配列を有するCDR2、および
(iii)配列番号5のアミノ酸配列を有するCDR3
からなる群より選択される、少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つの相補性決定領域を含む、
(g)該抗体またはその断片もしくは誘導体は、以下:
(i)可変重鎖VHのFRH1、FRH2、FRH3およびFRH4が、アミノ酸位置がKabatによる記数法に対応する以下のアミノ酸配列:
【化9−1】

【化9−2】

【化9−3】

【化9−4】

を有し、
(ii)かつ任意選択で、軽鎖可変領域VLのFRL1、FRL2、FRL3およびFRL4が、アミノ酸位置がKabatによる記数法に対応する以下のアミノ酸配列:
【化10−1】

【化10−2】

【化10−3】

【化10−4】

を有する、
抗体フレームワーク領域から選択される抗体フレームワーク領域を含む、
(h)該抗体またはその断片もしくは誘導体は、配列番号7、特に配列番号8のアミノ酸配列を含むフレームワーク領域1を含む、
(i)該抗体またはその断片もしくは誘導体は、配列番号15、好ましくは配列番号16のアミノ酸配列を含む抗体の重鎖可変領域を含む、
(j)該抗体またはその断片もしくは誘導体は、配列番号27、好ましくは配列番号28のアミノ酸配列を含む抗体の軽鎖可変領域を含む、
(k)該抗体またはその断片もしくは誘導体は、配列番号16のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および配列番号28のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含むか、またはその機能的断片もしくは誘導体である、
(l)該抗体またはその断片もしくは誘導体は、重鎖可変領域として配列番号29のアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域として配列番号30のアミノ酸配列を含む抗体Pankomabと交差特異性を示す、ならびに/あるいは
(m)該抗体またはその断片もしくは誘導体は、重鎖可変領域として配列番号16のアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域として配列番号28のアミノ酸配列を含む抗体と交差特異性を示す
のうちの1つまたは複数を有する、抗体またはその断片もしくは誘導体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の抗体またはその断片もしくは誘導体をコードする核酸。
【請求項5】
請求項4に記載の核酸および該核酸に作動可能に連結しているプロモーターを含む発現カセットまたはベクター。
【請求項6】
請求項4に記載の核酸または請求項5に記載の発現カセットもしくはベクターを含む宿主細胞。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の抗体またはその断片もしくは誘導体、請求項4に記載の核酸、請求項5に記載の発現カセットまたはベクター、あるいは請求項6に記載の宿主細胞を含む組成物。
【請求項8】
溶媒、希釈剤および賦形剤からなる群より選択される1つ以上の成分を好ましくはさらに含む医薬組成物である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
医薬に使用するための、請求項1〜3のいずれか一項に記載の抗体またはその断片もしくは誘導体、請求項4に記載の核酸、請求項5に記載の発現カセットまたはベクター、請求項6に記載の宿主細胞、あるいは請求項7または8に記載の組成物。
【請求項10】
癌、好ましくは結腸、胃、肝臓、膵臓、腎臓、血液、肺および卵巣の癌からなる群より選択される癌の治療、予後診断、診断および/またはモニタリングで用いるための、請求項1〜3のいずれか一項に記載の抗体またはその断片もしくは誘導体、請求項4に記載の核酸、請求項5に記載の発現カセットまたはベクター、請求項6に記載の宿主細胞、あるいは請求項7または8に記載の組成物。
【請求項11】
ムチンタンパク質に結合することができ、重鎖可変領域の少なくとも一部を含む抗体またはその断片もしくは誘導体の抗原結合および/または抗原認識を改善するための方法であって、Kabat番号付けによる該重鎖可変領域の28位にプロリン残基を提供するステップを含む、方法。
【請求項12】
以下の特性:
(a)28位のアミノ酸残基が、前記抗体またはその断片もしくは誘導体をコードする核酸に変異を導入することによって得られ、該アミノ酸残基をコードするコドンに該変異が導入される、ならびに/あるいは
(b)前記抗原結合および/または抗原認識を改善することには、該抗体またはその断片もしくは誘導体の、その抗原への親和性を増強することおよび/または該抗体またはその断片もしくは誘導体の、その抗原への特異性を増加させることが含まれる
のうちの少なくとも1つまたは複数を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記抗体またはその断片もしくは誘導体が、以下の特性:
(a)該抗体またはその断片もしくは誘導体のエピトープへの特異的結合が、該エピトープのコンフォメーションおよび/またはグリコシル化パターンに依存する、
(b)該抗体またはその断片もしくは誘導体は、トレオニン残基で、N−アセチルガラクトサミン(Tn)またはガラクトースβ1−3N−アセチルガラクトサミン(TF)によって好ましくはグリコシル化されている、アミノ酸配列PDTRを含むペプチドに特異的に結合することができる、
(c)該抗体またはその断片もしくは誘導体は、MUC1、特に腫瘍由来のMUC1のグリコシル化細胞外タンデムリピートの少なくとも一部に特異的に結合することができる、
(d)該抗体またはその断片もしくは誘導体は、同一の長さおよび同一のペプチド配列の非グリコシル化ペプチドへの結合と比較して結合強度が少なくとも20倍増加するように、グリコシル化MUC1腫瘍エピトープに特異的に結合する、
(e)該抗体またはその断片もしくは誘導体は、操作、好ましくはヒト化されている、
(f)該抗体またはその断片もしくは誘導体は、以下:
(i)配列番号1のアミノ酸配列を有するCDR1、
(ii)配列番号3のアミノ酸配列を有するCDR2、および
(iii)配列番号5のアミノ酸配列を有するCDR3
からなる群より選択される、少なくとも1つの相補性決定領域を含む、
(g)該抗体またはその断片もしくは誘導体は、以下:
(i)可変重鎖VHのFRH1、FRH2、FRH3およびFRH4が、アミノ酸位置がKabatによる記数法に対応する以下のアミノ酸配列:
【化11−1】

【化11−2】

【化11−3】

【化11−4】

を有し、
(ii)かつ任意選択で、軽鎖可変領域VLのFRL1、FRL2、FRL3およびFRL4が、アミノ酸位置がKabatによる記数法に対応する以下のアミノ酸配列:
【化12−1】

【化12−2】

【化12−3】

【化12−4】

を有する、
抗体フレームワーク領域から選択される抗体フレームワーク領域を含む、
(h)該抗体またはその断片もしくは誘導体は、配列番号33または34のアミノ酸配列を含むフレームワーク領域1を含む、
(i)該抗体またはその断片もしくは誘導体は、配列番号38または29のアミノ酸配列を含む抗体の重鎖可変領域を含む、
(j)該抗体またはその断片もしくは誘導体は、配列番号27または30のアミノ酸配列を含む抗体の重鎖可変領域を含む、
(k)該抗体またはその断片もしくは誘導体は、配列番号38のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および配列番号27のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含むか、またはその機能的断片もしくは誘導体である、
(l)該抗体またはその断片もしくは誘導体は、配列番号29のアミノ酸配列(重鎖可変領域)および配列番号30のアミノ酸配列(軽鎖可変領域)を含む抗体Pankomabと交差特異性を示す、ならびに/あるいは
(m)該抗体またはその断片もしくは誘導体は、重鎖可変領域として配列番号16のアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域として配列番号28のアミノ酸配列を含む抗体と交差特異性を示す
のうちの1つまたは複数を有する、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
請求項4に記載の核酸を調製するための方法であって、該方法は:
(a)MUC1に結合することができる抗体またはその断片もしくは誘導体であって、Kabat番号付けによるアミノ酸28位にプロリン残基を含まない重鎖可変領域を含む抗体またはその断片もしくは誘導体をコードする核酸配列を含む核酸を提供するステップと、
(b)該重鎖可変領域のKabat番号付けによるアミノ酸番号28をコードするコドンに、該コドンがプロリン残基をコードするように変異を導入するステップと
を含む、方法。
【請求項15】
以下の特性:
(a)ヒトグリコシル化パターンである、
(b)前記抗体の活性、特にその特異的エピトープへの該抗体の結合親和性、Fc受容体などのその下流受容体の1つまたは複数への該抗体の結合親和性、該抗体の補体依存性細胞傷害(CDC)および/または該抗体の抗体依存性細胞媒介細胞傷害(ADCC)を増強する、ならびに/あるいは
(c)該抗体またはその断片もしくは誘導体をK562、KG1、MUTZ−3、NM−F9[DSM ACC2606]、NM−D4[DSM ACC2605]、NM−H9D8[DSM ACC2806]、NM−H9D8−E6[DSM ACC2807]、NM H9D8−E6Q12[DSM ACC2856]およびGT−2X[DSM ACC2858]からなる群より選択される細胞系で発現させたときに得られるグリコシル化パターンである
のうちの1つまたは複数を有するグリコシル化パターンを有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の抗体またはその断片もしくは誘導体。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−500703(P2013−500703A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522029(P2012−522029)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【国際出願番号】PCT/EP2010/004663
【国際公開番号】WO2011/012309
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(509067887)グリコトープ ゲーエムベーハー (7)
【Fターム(参考)】