MVAの使用に基づくワクチン
【課題】哺乳類、特にヒトにおいて、十分に高い免疫応答を達成するとともに、感染単位数が比較的低いかまたは低減されている、MVAに基づくワクチン投与システムの提供、およびMVAに基づくワクチン投与プロトコールのために改善され、選択した抗原に対する二次免疫応答の促進につながる追加免疫剤(boosting agent)の提供。
【解決手段】融合タンパク質をコードする核酸配列を保有する組換えMVAを含むキット。
【解決手段】融合タンパク質をコードする核酸配列を保有する組換えMVAを含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換え修飾ワクシニアウィルスアンカラ(MVA)に関し、前記MVAは、融合タンパク質をコードする核酸配列を有する。本発明は、さらに、前記組換えMVAを含むキット、および、哺乳類のT細胞応答を促進する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワクシニアウィルス(Vaccinia virus、VV)は、ポックスウィルス科オルソポックスウィルス属に属する。ワクシニアウィルスのうちのある株は、長年にわたって、天然痘に対して免疫を与えるための生ワクチンとして用いられており、例えば、英国(UK)リスター研究所(Lister Institute)のElstree株がある。ワクチン接種に由来する合併症のために(非特許文献1:Schar, Zeitschr. Fur Praventivmedizin 18, 41-44 [1973])、また、WHOによる1980年の天然痘根絶宣言のために、今日では、天然痘に対するワクチン接種は、リスクの高い人にのみ行われている。
【0003】
ワクシニアウィルスは、外来抗原の生産および送達のためのベクターとしても用いられてきた(非特許文献2:Smith et al., Biotechnology and Genetic Engineering Reviews 2, 383-407 [1984])。これには、DNA組換え技術によってワクシニアウィルスのゲノム中に導入される、外来抗原をコードするDNA配列(遺伝子)が必要である。ウィルスのライフサイクルに必須でないウィルスDNAのサイトに前記遺伝子が組み込まれた場合、新たに生産された組換えワクシニアウィルスを感染性とすることが可能である。すなわち、外来細胞を感染させ、それにより、組み込まれたDNA配列を発現させることができる(欧州特許出願番号第83,286および第110,385号)。この方法によって調製された前記組換えワクシニアウィルスは、一方では、感染予防のための生ワクチンとして使用することができる。他方では、真核細胞における異種タンパク質の調製に用いることができる。
【0004】
ワクシニアウィルスは、生ベクター(live vectors)の中で最も広範に評価されており、かつ、組換えワクチンとしての使用を支持する特性を有する。すなわち、ワクシニアウィルスは、安定性が高く、製造コストが安く、投与が容易であり、かつ、大量の外来DNAに適応可能である。ワクシニアウィルスは、抗体応答および細胞傷害性応答の両方の誘導に有利であり、より自然な方法で、免疫系への抗原の提示を可能にし、かつ、広範な動物モデルを感染症から保護するベクターワクチンとして有利に用いることができる。さらに、ワクシニアベクターは、組換えタンパク質の構造と機能との関係を解析するための、体液性のまたは細胞媒介による免疫応答の標的を特定するための、および、特定疾患に対する保護に必要な免疫防御の型を調査するための、非常に価値のある研究ツールである。
【0005】
しかしながら、ワクシニアウィルスは、ヒトに対して感染性であり、研究室における発現ベクターとしての使用は、安全性の関係および制御の影響を受けてきた。さらに、将来可能性のある組換えワクシニアウィルスの応用、例えば、ヒトに対する新規な治療的または予防的アプローチのために組換え体タンパク質または組換え体ウィルス粒子を生成させることは、組換えワクシニアベクターの増殖的複製により障害を受けている。文献に記述されている多くの組換えワクシニアウィルスは、ワクシニアウィルスのウェスタンリザーブ(Western Reserve、WR)株に基づいている。一方、この株は、高い神経毒性を有するため、ヒトおよび動物への適用にはほとんど適さないことが知られている(非特許文献3:Morita et al., Vaccine 5, 65-70 [1987])。
【0006】
VVの標準株の安全性に関しては、高度に弱毒化されたウィルス株に由来するワクシニアベクターの開発により取り組まれてきた。これらのワクシニアベクターは、in vitroでは、それらの制限された複製能力で特徴付けられ、in vivoではそれらの非病原性(弱毒性)で特徴付けられる。望ましくない副作用を避けるために特別に培養されたウィルス株は、長年にわたって知られていた。したがって、MVAを培養するために、ニワトリ胚繊維芽細胞でワクシニアウィルスのアンカラ株(CVA)を長期連続継代することが可能であった(例えば、非特許文献4:Mayr, A., Hochstein-Mintzel, V. and Stickl, H. (1975) Infection 3, 6-14; および特許文献1:スイス国特許第568392号明細書参照)。前記MVAウィルスは、微生物の寄託(CNCM)に関するブダペスト条約上の要請(Institut Pasteur, Collectione Nationale de Cultures de Microorganisms, 25, rue de Docteur Roux, 75724 Paris Cedex 15)に従って、1987年12月15日に寄託番号I−721で寄託された。
【0007】
MVAウィルスは、野生型CVA株と比較して、ゲノムの変化を特定するために解析されてきた。6つの主要な欠失(欠失I、II、III、IV、V、および VI)が確認されている(非特許文献5:Meyer, H., Sutter, G. and Mayr A. (1991) J. Gen. Virol. 72, 1031-1038)。この修飾ワクシニアウィルスアンカラは、低い病原性しか有さず、すなわち、ワクチン投与に用いたときに副作用を示さない。したがって、この修飾ワクシニアウィルスアンカラは、免疫不全患者の初期ワクチン投与に特に好適である。前記MVA株の優れた特性は、多数の臨床試験で示されてきた(非特許文献6:Mayr et al., Zbl. Bakt. Hyg. I, Abt. Org. B 167, 375-390 [1987],および非特許文献7:Stickl et al., Dtsch. med. Wschr. 99, 2386-2392 [1974])。
【0008】
修飾ワクシニアウィルスアンカラ(MVA)は、組換え遺伝子発現のための安全なウィルスベクターとして有用なツールであり、修飾ワクシニアウィルスアンカラは、タンパク質機能のin vitro研究または抗原特異性細胞性若しくは体液性免疫応答のin vivo誘発のような、様々な目的に使用できる。MVAの主要な利点は、ヒトおよび多くの哺乳類細胞において複製欠損であるにも関わらず、高レベルな遺伝子発現を許容可能なことである。ワクチンとしてのMVAは、優れた安全性実績を有し、バイオセーフティレベル1の条件下で取り扱うことができ、そして、動物の異種抗原を送達する際に免疫原性および保護性であることが証明されており(1−8)、かつ、臨床試験において、第1のヒト候補ワクチンとして推進されてきた。
【0009】
多くの哺乳類セルラインにおいて増殖不可能であるために、MVAは、ウィルス性および異種性遺伝子の未障害発現を保持する(Sutter and Moss, 1992)。prime−boost免疫化ストラテジー(prime-boost immunization strategies)(Meseda et al., 2002; Amara et al., 2002)および進行中の臨床試験(McConkey et al., 2003; Cosma et al., 2003; Hanke et al., 2002)における広い使用が示している通り、ヒトに対する病原性の欠落、免疫不全の宿主においてさえも本質的に非病原性(弱毒性)であること、外来抗原の高レベル発現および免疫応答における免疫賦活作用が、組換えMVA(rMVA)を、予防的および治療的ワクチン投与の両方に対して理想的なベクターとしている。
【0010】
事実、組換えMVA(rMVA)に基づくワクチンは、体液性および細胞媒介順応性の両方の免疫応答を誘発し(Ramirez et al., 2000)、いくつかの感染症の動物モデルにおいて(Hanke et al., 1999; Barouch et al., 2001; Weidinger et al., 2001; Schneider et al., 1998; Sutter et al., 1994b; Hirsch et al., 1996; Wyatt et al., 1996)、また、いくつかの腫瘍モデルにおいてさえも(Carroll et al., 1997; Rosales et al., 2000; Drexler et al., 1999)、保護性であることが証明されている。
【0011】
rVVを生成する標準的な方法は、詳細に述べられており(Earl et al., 1998)、アクセプターVV DNAと形質移入された伝達プラスミドとの間におけるin vivo相同組換えに依存し、外来遺伝子は、VV配列に隣接することとなる。組換えMVA生成のためのさらなるアプローチは、例えば、WO 04/074493、WO 03/023040およびWO 97/02355(特許文献2〜4)に開示されている。
【0012】
WANG et al., Blood, August 2004, Vol. 104, No. 3(非特許文献8)は、造血幹細胞移植(hematopoietic stem cell transplants)後のサイトメガロウィルス(CMV)罹患率および死亡率を制限する免疫療法アプローチを開示する。一つのアプローチは、ワクシニアウィルス(VV)の病原性(毒性)Western Reserve株および高度に弱毒化された株である修飾ワクシニアウィルスアンカラ(MVA)に、ユビキチン修飾CMV抗原を挿入する試みを含む。ユビキチン修飾CMV抗原は、ホスホプロテイン65(pp65)、ホスホプロテイン150(pp150)および最初期タンパク質1(IE1)免疫優性抗原であった。
【0013】
しかしながら、WANGらは、抗原のユビキチン化は、rMVAが有するCMV抗原に対する一次免疫には、影響が全くないか、ごくわずかであったことを示している。
【0014】
修飾ワクシニアウィルスアンカラは、組換え遺伝子の発現のための有用かつ安全なウィルスベクターであると考えられているが、哺乳類、特にヒトに対するMVA投与には上限があることが広く受け入れられている。例えば、ヒトに対する組換え体MVAの投与は、現在では、一回の投与につき5×108IU(infectious units、感染単位)に制限されている。しかしながら、このケースにおいて、それはrMVAにより引き起こされる免疫応答が、所望の治療効果の達成に不十分であるという理由により、不利となりうる。したがって、哺乳類において、ある特定の免疫応答の達成に必要な感染単位数を減少させることが、極めて望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】スイス国特許第568392号明細書
【特許文献2】国際公開第WO 04/074493号パンフレット
【特許文献3】国際公開第WO 03/023040号パンフレット
【特許文献4】国際公開第WO 97/02355号パンフレット
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Schar, Zeitschr. Fur Praventivmedizin 18, 41-44 [1973]
【非特許文献2】Smith et al., Biotechnology and Genetic Engineering Reviews 2, 383-407 [1984]
【非特許文献3】Morita et al., Vaccine 5, 65-70 [1987]
【非特許文献4】Mayr, A., Hochstein-Mintzel, V. and Stickl, H. (1975) Infection 3, 6-14;
【非特許文献5】Meyer, H., Sutter, G. and Mayr A. (1991) J. Gen. Virol. 72, 1031-1038
【非特許文献6】Mayr et al., Zbl. Bakt. Hyg. I, Abt. Org. B 167, 375-390 [1987]
【非特許文献7】Stickl et al., Dtsch. med. Wschr. 99, 2386-2392 [1974]
【非特許文献8】WANG et al., Blood, August 2004, Vol. 104, No. 3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、本発明の根底にある目的は、哺乳類、特にヒトにおいて、十分に高い免疫応答を達成するとともに、感染単位数が比較的低いかまたは低減されている、MVAに基づくワクチン投与システムを提供することである。本発明の根底にあるさらなる目的は、MVAに基づくワクチン投与プロトコールのために改善され、選択した抗原に対する二次免疫応答の促進につながる追加免疫剤(boosting agent)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
これらの課題は、独立請求項に記載されている対象により解決される。好ましい実施形態は、従属請求項で述べている。
【発明の効果】
【0019】
要約すると、本発明は、以下の利点および結果をもたらす。
【0020】
予期せぬことに、ワクチン投与プロトコール、すなわちprime−boostワクチン投与プロトコールにおいて、異なる種類の組換えMVA粒子を組み合わせることで、従来技術のアプローチと比較して促進された細胞免疫応答を示すことが判明した。言い換えれば、刺激(プライミング)のための外来タンパク質と、ユビキチン化外来タンパク質を産生する組換えMVAとの組み合わせが、免疫応答の促進につながり、そして、哺乳類に投与するrMVAにおいて、より少ない感染単位で十分な免疫応答を達成できることが判明した。これらの結果は、他の科学者、例えばWANGらが前述の刊行物Blood, Volume 104, No.3において、抗原のユビキチン化がrMVAの免疫原性に影響しなかったと示していることからみて、驚くべきことである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、ワクシニアウィルス特異的プロモーターP7.5の制御下で、ユビキチン/チロシナーゼ融合遺伝子を発現する組換えMVA(recMVA)構築物を示す。(A)は、ウィルスゲノムへの挿入部位(欠失III)と、相同組換え後に得られたウィルス性中間体および最終構築物とを示す模式的マップである。(B)は、ハイブリダイゼーションPCR法(アガロースゲル)後に得られた組換えユビキチン/チロシナーゼ融合遺伝子を示す。対照として、ユビキチンまたはチロシナーゼの一本鎖DNAフラグメントをも併せて示す。
【図2】図2は、真正チロシナーゼをコードするrecMVA(MVA−hTyr P7.5)、ユビキチン化チロシナーゼをコードするrecMVA(MVA−ubi/hTyr P7.5)または親MVA(MVA−wt)に感染したBHK細胞におけるヒトチロシナーゼ遺伝子発現のウェスタンブロット解析を示す。
【図3】図3は、ワクシニアウィルスに特異的なプロモーターP7.5(MVA−hTyr P7.5(●))またはそのユビキチン化形態(MVA−ubi/hTyr P7.5(n))の制御下で、ヒトチロシナーゼを発現するrecMVAに感染した標的細胞の抗原提示能力を示す。
【図4】図4は、真正またはユビキチン化チロシナーゼを産生するrecMVAウィルスでの単一免疫化により誘導される、急性期のチロシナーゼ特異的一次CD8+ T細胞応答を示す。(A)脾細胞は、ヒトチロシナーゼエピトープ369−377、VVエピトープVP35#1または対照としてのHER−2エピトープ 435に対して特異的なキメラA2Kb−テトラマーで染色した。(B)脾細胞は、ヒトチロシナーゼエピトープ369−377、VVエピトープVP35#1 または対照としてのHER−2エピトープ435でそれぞれペプチド刺激した。そして、その脾細胞を、続いて、細胞内インターフェロンγ産生(ICS)によりスクリーニングした。
【図5】図5は、非相同的DNA−MVA prime−boost免疫化により誘導される急性期のチロシナーゼ特異的二次CD8+ T細胞応答を示す。(A)は、キメラのA2Kbテトラマー染色による解析結果であり、(B)は、ICSによる解析結果である。
【図6】図6は、非相同的MVA−MVA prime−boost免疫化により誘導される急性期のチロシナーゼ特異的二次CD8+ T細胞応答を示す。
【図7】図7は、真正チロシナーゼをコードするrecMVA(MVA−hTyr P7.5)、ユビキチン化チロシナーゼをコードするrecMVA(MVA−ubi/hTyr P7.5)または親MVA(MVA−wt)に感染したRMA細胞のパルスチェイス実験を示す。
【図8】図8は、感染したRMAおよびHeLa細胞中でrecMVAにより発現されるユビキチン化ヒトチロシナーゼの免疫沈降を示す。
【図9】図9は、in vivoでのMVA−ubi/hTyrの免疫原性を示す。
【図10】図10は、比較的低用量の一次ワクチン投与後に、MVA−hTyr追加免疫した動物と比較した、MVA−Ub/hTyrの高効率なin vivo細胞傷害性を示す。HDDマウスは、107(A)または106(B)IUのMVA−hTyrで刺激し、続いて、刺激後30日目に、107IUのMVA−hTyrまたはMVA−Ub/hTyrで追加免疫した。
【図11】図11は、免疫化に先立ちrecMVAを形質導入した細胞の免疫化により追加免疫した、急性期のチロシナーゼ特異的二次CD8+ T細胞応答を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明において、ユビキチン化外来タンパク質を保有するrMVAの一次免疫応答は比較的低いが、前記rMVAを追加免疫剤として用いると、大規模な免疫応答が見られることが確認されている。本発明者等は、本発明のワクチン投与システムを用いることにより、ワクチン投与に用いるrMVAの感染単位の全量を劇的に減少可能であることを見出した。
【0023】
最初に、本発明者等は、ハイブリダイゼーションPCR法により、ユビキチン/チロシナーゼ融合遺伝子(Ub−Tyr)を構築した(図1b)。次に、相同組換えおよび引き続いての宿主細胞選択を通じて、組換えMVAウィルスを産生することに成功した。この組換えウィルスは、前記融合遺伝子がウィルスゲノム中に安定に組み込まれており、Ub−Tyrが、ユビキチン化融合タンパク質として生産された(図1a)。in vitroでは、ユビキチン化は、前記ユビキチン化融合タンパク質の半減期の有意な減少を導く急速かつほぼ完全なプロテアソーム依存性分解により、標的タンパク質の細胞質不安定性を導いた(図2)。前述の通り、in vivoでの免疫原性試験により、驚くべきことに、前記ユビキチン化抗原を含むMVAワクチンは、前記ユビキチン化抗原を含まないMVAと比較して弱い一次応答を示したにもかかわらず、有意に促進された二次免疫応答を示すことが判明した(図4および5参照)。
【0024】
本出願では、MHCクラスI特異的提示のためのペプチドプロセシングを促進する、急速なプロテアソーム分解のためにデザインされた抗原の生産により、rMVAベクターを用いてCTL生成を最適化するための新規なアプローチを請求する。ユビキチン/外来タンパク質融合タンパク質を発現するMVAワクチンは、ウェスタンブロット法、放射性免疫沈降法およびクロム放出法により、in vitroで構築され、特徴付けられた。
【0025】
in vivoでは、ワクチン投与研究は、HLA−A*0201−形質転換マウスを用いて行い、CTL応答は、細胞内サイトカイン合成およびテトラマー結合アッセイにより解析した。in vitroでは、MVAにより生産されたユビキチン化チロシナーゼ(Ub−Tyr)は、プロテアソーム阻害剤の存在下で特異的に阻害される急速分解にかけた。さらに、ユビキチン化は、ウィルス感染の初期の時点においてさえもペプチドプロセシングの増加および細胞表面における高いMHCクラスIペプチド密度の有効性を示す感染した標的細胞において、外来タンパク質特異的CTL認識の有意な促進という結果を生じた。prime−boostワクチン投与研究においては、MVA−Ub−外来タンパク質は、重要なことにワクチン容量が低い場合においても、Tyr−特異的CTLリコール応答を最も効果的に促進することが可能であった。
【0026】
ここで提示するデータは、抗原の特徴的な製剤形態を送達するMVAワクチンが、選択的に、刺激(プライミング)または追加免疫(boosting)に使用できることを示す。MVAに基づくワクチン投与プロトコールであって、改善された免疫原性を有し、最適化されたプロトコールの開発のために、前記MVAワクチンは、極めて重要である。
【0027】
第1の側面によれば、本発明は、下記第1構成要素および第2構成要素を含み、それら第1構成要素および第2構成要素が、任意に、薬学的に許容可能な担体をさらに含む、キットに関する。
a) 1以上の外来タンパク質、もしくは、前記外来タンパク質をコードする核酸、または、それらの機能的部分を含む第1構成要素;および、
b) 組換え修飾ワクシニアウィルスアンカラ(MVA)を含み、前記MVAは、融合タンパク質をコードする核酸配列を有し、
前記融合タンパク質は、ユビキチンまたはその機能的部分、および、1以上の外来タンパク質またはそれらの機能的部分を含む、
第2構成要素。
【0028】
なお、前記外来タンパク質は、通常、前記2つの構成要素において同じものを用いるが、異なっていてもよい。
【0029】
ここで使用する「外来タンパク質」という用語は、1つの組換えMVA粒子中に、1つだけでなく、2つ以上の特徴的な外来タンパク質を含む代替物(alternative)をも包含する。したがって、いくつかの疾患に対する免疫原性を、1つのみのワクチン投与により達成することができる。2つ以上の外来タンパク質を用いることは、あるウィルス性疾患および腫瘍性疾患の回避機構を避けるかまたは打破を補助し得る。
【0030】
さらに、「外来タンパク質」という用語は、天然にMVAの一部として存在しないタンパク質、すなわち異種タンパク質(およびそれをコードする核酸)をも示す。
【0031】
ユビキチンは、小サイズの細胞質タンパク質であり、高度に保存されている。ユビキチンは、組織中で、細胞内におけるコントロールされたタンパク質分解の制御における基本的な役割を担う。
【0032】
ユビキチンのポリペプチド鎖は、76個のアミノ酸からなる。しかしながら、本発明で使用する「ユビキチン」という用語は、この特定のタンパク質のみに制限されない。この用語は、「ユビキチン様タンパク質」と呼ばれるタンパク質スーパーファミリーをも含む。それは、すなわち、ユビキチン様の折りたたみモチーフを示すタンパク質、ならびにそれらのフラグメントおよび融合タンパク質である。したがって、本発明は、ユビキチン様タンパク質のタンパク質スーパーファミリーにおけるタンパク質から選択されるユビキチンタンパク質をも含む。それらのタンパク質は、置換、挿入、欠失、およびその他の全ての化学修飾により修飾されているが、それらの特異的な折りたたみモチーフを保持しているか、または、細胞分解機構に関係するタンパク質の導入という結果をもたらす。
【0033】
この観点において、使用可能なさらなるタンパク質の例は、小サイズのユビキチン様修飾因子(SUMO; Yun-Cai Liu, Annu. Rev. Immunol. 2004. 22:81-127参照)、PEST配列 (Duane A. Sewell et al., CANCER RESEARCH 64, 8821-8825, December 15, 2004)である。さらなる情報については、Chien-Fu Hung et al., CANCER RESEARCH 63, 2393-2398, May 15, 2003も参照のこと。
【0034】
前述の通り、本明細書中で使用する「機能的部分」という用語は、そのようなタンパク質またはそれをコードする核酸を意味し、野生型タンパク質/核酸と比較すると、その機能を変えることなく、1以上の置換、挿入および/または欠失を含む。それらは、好ましくは1つの、若しくは2、3、4若しくはそれ以上のヌクレオチドを、5’若しくは3’若しくは核酸配列中において欠いているか、または、それらのヌクレオチドが他のヌクレオチドで置換されている。外来タンパク質の「機能的部分」は、その生理学的機能を満たす限り、切断型タンパク質であっても良く、その生理学的機能とは、すなわち、特定疾患の治療および/または保護に有効な免疫原性を提供することである。したがって、本発明で用いる外来タンパク質は、それが、関連技術分野において共通であるという意味で、「抗原」であると考えることもできる。本明細書中における抗原は、免疫系により外来あるいは毒性と認識され、免疫応答を誘発する物質として定義する。
【0035】
工程a)で使用する前記外来タンパク質または抗原は、宿主中において前記外来タンパク質自体を発現する核酸の形態で、前記外来タンパク質を発現する組換えバクテリアの形態で、タンパク質形態の外来タンパク質として、および/または、ウィルスベクターにより保因される外来タンパク質の形態として存在する。
【0036】
好ましい実施形態においては、前記ウィルスベクターは、修飾ワクシニアウィルスアンカラ(MVA)である。
【0037】
好ましい実施形態によれば、前記融合タンパク質は、ユビキチンと前記外来タンパク質との間にリンカーをさらに含む。前記リンカーは、ユビキチン/タンパク質融合の安定性を強化するアミノ酸(例えば、前記融合タンパク質のユビキチン部分における第76位のアラニン)、または、ユビキチン部分の好ましい開裂を導くアミノ酸(例えば、前記融合タンパク質のユビキチン部分における第76位のグリシン)を含むことが好ましい。これによって、リンカーは、前記タンパク質のこの部分の開裂促進を導く、融合タンパク質内に含まれるアミノ酸(例えば、前記融合タンパク質の残部の第1位のアルギニン)、および/または、細胞内のさらなるユビキチン分子によりターゲットとされ、認識シグナルとして機能することにより開裂の促進を導くアミノ酸に含まれるアミノ酸を明らかにする。
【0038】
本明細書中において用いる「組換えMVA」という用語は、例えば、DNA組換え技術により遺伝子改変されたMVAや、例えば、ワクチンまたは発現ベクターとしての使用に供されるMVAを意味する。
【0039】
本発明によれば、組換えMVAワクシニアウィルスは、いくつかの周知技術、例えば、K1L−遺伝子に基づく選択プロトコールにより調製できる。一例として、ワクシニアウィルス(VV)K1Lタンパク質またはK1L誘導ポリペプチドをコードするDNA配列と、外来タンパク質(またはユビキチン/外来タンパク質の融合タンパク質)をコードするDNA配列とを含み、両者がMVAゲノムの非必須部位(例えば、自然に起こる欠失、例えば欠失III)に隣接しているDNA配列に隣接するDNA構築物を、細胞中に、好ましくは真核細胞に導入する。好ましくは、トリ、哺乳類およびヒトの細胞を用いる。好ましい真核細胞は、K1L遺伝子配列およびMVAゲノムのプロモーター配列または前記配列の機能的部分が不活性化されて相同組換えが可能である、変異MVAに生産的に感染したBHK−21(ATCC CCL−10)、BSC−1(ATCC CCL−26)、CV−1(ECACC 87032605)またはMA104(ECACC 85102918)細胞である。さらなる好ましい宿主細胞は、ニワトリ繊維芽細胞、ウズラ繊維芽細胞、QT−9細胞、ベロ細胞、MRC−5細胞、B細胞、またはヒト一次細胞(例えば、一次繊維芽細胞、樹状細胞)である。さらに詳細な情報は、WO 04/074493号公報を参照することにより、本明細書中に完全に組み込まれる。
【0040】
一旦前記DNA構築物が真核細胞中に導入され、前記K1LコードDNAおよび外来DNAが前記ウィルスDNAと組換えられると、ウィルス成長を助けるためにK1L機能が必要な細胞(例えば、RK−13細胞)の継代により、所望の組換えワクシニアウィルスMVAを単離できる。組換えウィルスのクローン化は、プラーク精製として知られる公知の方法により可能である(Nakano et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 79, 1593-1596 [1982], Franke et al., Mol. Cell. Biol. 1918-1924 [1985], Chakrabarti et al., Mol. Cell. Biol. 3403-3409 [1985], Fathi et al., Virology 97-105 [1986]を比較されたい)。
【0041】
挿入されるDNA構築物は、線状でも環状でもよい。好ましくは、環状DNAを用いる。特に、プラスミドを用いることが好ましい。
【0042】
前記DNA構築物は、MVAゲノムの非必須部位(例えば、欠失III部位、Sutter, G. and Moss, B. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89, 10847-10851)、MVAゲノムにおいて設計したK1L欠失部位、または、本発明の変異MVAゲノムにおける任意の非必須部位に対し、右側および左側に隣接する配列を含む。
【0043】
前記外来DNA配列は、前記非必須部位(例えば、自然に起こる欠失)に隣接する配列の間に挿入してもよい。
【0044】
前記外来DNA配列は、治療用ポリペプチド、または、病原性薬由来のポリペプチドをコードする遺伝子であっても良く、好ましくは、ワクチン投与目的、または、治療用若しくは科学的に有用なポリペプチドの生産のために用いることができる。前記治療用ポリペプチドとしては、例えば、分泌タンパク質、例えば、抗体、ケモカイン、サイトカイン若しくはインターフェロンのポリペプチドである。病原性薬は、疾患を引き起こすウィルス、バクテリアおよび寄生生物、ならびに、生体において無制限に増殖し、それにより病理成長を導く腫瘍細胞であると理解することができる。そのような病原性薬の例は、Davis, B.D. et al.,により記述されている(Microbiology, 3rd ed., Harper International Edition)。病原性薬の好ましい遺伝子は、インフルエンザウィルス、麻疹ウィルス、呼吸器合胞体ウィルス(RSウィルス)、デングウィルス、ヒト免疫不全ウィルス(HIV、例えばHIV IおよびHIV II)、ヒト肝炎ウィルス(例えば、HCVおよびHBV)、ヘルペスウィルス、パピローマウィルス、マラリア寄生生物の熱帯性マラリア原虫および結核の原因となるマイコバクテリアの遺伝子である。
【0045】
腫瘍関連抗原をコードする好ましい遺伝子は、メラノーマ関連分化抗原(例えば、チロシナーゼ、チロシナーゼ関連タンパク質1および2)、癌精巣抗原(例えば、MAGE−1、−2、−3、およびBAGE)、および、腫瘍において過剰発現された非変異型共有抗原(例えば、Her−2/neu、MUC−1、およびp53)をコードする遺伝子である。
【0046】
本発明の使用におけるさらなる外来配列は、人工的なエピトープに含まれるポリペプチド配列、または、エピトープを含む配列であり、例えば、ミニ遺伝子、ポリトープ等である。
【0047】
前記DNA構築物は、トランスフェクションにより細胞に導入してもよく、例えば、リン酸カルシウム沈降法(Graham et al., Virol. 52, 456-467 [1973]; Wigler et al., Cell 777-785 [1979])、エレクトロポレーション (Neumann et al., EMBO J. 1, 841-845 [1982])、マイクロインジェクション法 (Graessmann et al., Meth. Enzymology 101, 482-492 [1983])、リポソーム (Straubinger et al., Methods in Enzymology 101, 512-527 [1983])、スフェロプラスト (Schaffner, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77, 2163-2167 [1980])、または、当業者に公知の他の方法により、導入してもよい。リン酸カルシウム沈降法によるトランスフェクションを好ましく用いることができる。
【0048】
ワクチンを調製するために、本発明の前記組換えMVAを、生理学的に許容可能な形態に変換させ、続いて、キットに組み込む。このことは、天然痘に対するワクチン投与に使用するためのワクチンの調製における長年の経験に基づいて行うことができる(Kaplan, Br. Med. Bull. 25, 131-135 [1969])。典型的には、組換えMVA粒子106〜108個を、2%ペプトンおよび1%ヒトアルブミンを含むリン酸緩衝食塩水(PBS)100ml中で凍結乾燥する。前記凍結乾燥は、アンプル中で行い、好ましくはガラスアンプル中で行う。投与するMVAの用量に関するさらなる情報を、以下に示す。前記凍結乾燥物は、非経口投与に好適な増量剤(例えば、マンニトール、デキストラン、糖、グリシン、ラクトースまたはポリビニルピロリドン)または他の助剤(例えば、抗酸化剤、安定剤等)を含んでいてもよい。続いて、前記ガラスアンプルを密封し、保存してもよい。好ましくは、マイナス20℃以下で数ヶ月保存可能である。
【0049】
ワクチン投与のために、前記凍結乾燥物を、0.1〜0.2mlの水溶液、好ましくは生理食塩水に溶かし、そして、非経口的に、例えば、皮内接種により投与してもよい。本発明のワクチンは、皮内に注入することが好ましい。注射部位には、腫脹および発赤、ならびに時として掻痒が見られることがある(Stickl et al., supra)。投与方法、用量および投与回数は、当業者により、公知の方法で最適化することができる。外来抗原に対する高レベルな免疫応答を得るために、前記ワクチンを、長期間にわたり、数回、適切に投与することが好ましい。
【0050】
好ましい実施形態によれば、本発明のキットは、前記第1構成要素の量と前記第2構成要素の量との比が、組換えMVA粒子の感染単位(IU)による測定で、1:5から1:20、好ましくは1:10である。刺激(プライミング)工程に用いる組換えMVA(ユビキチンを含まない)のIUは、例えば、マウス1匹当たり105〜106である。これは、従来技術のアプローチと比較すると比較的に少量の粒子である。動物への追加免疫に用いる組換えMVA(ユビキチンを含む)の用量は、約106〜107で、ユビキチンを含まない組換え粒子(従来技術における追加免疫工程)107〜108IUの場合と同等のT細胞応答が達成できる。このように、前記追加免疫工程に用いるIU数は、従来技術と比較して約90%低減させることが可能である。
【0051】
ヒトに対する組換えMVA投与量の上限は、約5×108IUであり、この上限値よりも有意に低い量の組換えMVAを用いるのみで、促進された免疫応答を達成できる。
【0052】
第2の側面によれば、本明細書中で定義する前記組換えMVAまたは前記キットは、抗癌治療または感染症予防に用いることを目的とする。
【0053】
第3の側面によれば、本発明は、哺乳類のT細胞応答の促進方法に使用する医薬の製造のための、本明細書中で定義するキットの使用を目的とする。前記T細胞応答促進方法は、下記a)〜c)工程を含む。
a) 本明細書で定義するキットを準備する工程
b) 一次免疫応答を与えるために有効な量の前記第1構成要素により、哺乳類を刺激する工程
c) 二次免疫応答を与えるために有効な量の前記第2構成要素により、前記哺乳類を追加免疫する工程
【0054】
前記キットは、癌治療用または感染症予防用の医薬の製造に用いることが好ましい。
【0055】
さらに好ましい実施形態によれば、前記追加免疫工程を、前記刺激工程の後2〜12週間、好ましくは4〜8週間に行う。前述の通り、本明細書中に開示するキットは、ワクチン投与方法に使用する。
【0056】
好ましくは、処置される動物は、ヒトである。
【0057】
本発明は、さらに、下記a)〜c)工程を含む哺乳類のT細胞応答促進方法を提供する。
a) 本明細書中で定義するキットを準備する工程
b) 一次免疫応答を与えるために有効な量の前記第1構成要素により、哺乳類を刺激する工程
c) 二次免疫応答を与えるために有効な量の前記第2構成要素により、前記哺乳類を追加免疫する工程
【0058】
その他の方法では、樹状細胞(DC)を、患者から単離するか、または生体外(ex vivo)で生成させ、続いて、本発明に従い、ユビキチン化抗原を発現するrMVAに感染させる。続いて、これら感染DCをワクチンとして患者に養子性に転移させる。これにより、未処理のT細胞を直接刺激するか、または、それぞれの抗原に特異的なすでに存在するT細胞を拡大させる。これら感染DCは、in vitroでT細胞を刺激または拡大するために用いることもでき、これにより、これらin vitroで生成したT細胞を、レシピエントに対し養子性に転移させることができる。
【0059】
さらにその他の側面によれば、本発明は、組換えMVAを含み、前記MVAは、融合タンパク質をコードする核酸配列を保有し、前記融合タンパク質は、前述の通り定義した、
a) ユビキチンまたはその機能的部分、および、
b) 外来タンパク質またはそれらの機能的部分
を含む。ただし、サイトメガロウィルス由来抗原とユビキチンとの融合タンパク質を含む組換えMVAは除く。
【0060】
さらにその他の側面によれば、本発明は、組換えMVAの使用であって、前記組換えMVAは、prime−boostワクチン投与の追加免疫薬として、融合タンパク質をコードする核酸配列を保有し、前記融合タンパク質は、
ユビキチンまたはその機能的部分、および
1以上の外来タンパク質またはその機能的部分
を含む、
組換えMVAの使用を提供する。前述の通り、この組換えMVAは、驚くべきことに、関与する外来タンパク質とは独立に、促進された二次免疫応答を示すことが明らかになっている。
【0061】
本明細書中に記述する全ての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、参照により、それらの全てが本明細書中に組み込まれる。抵触が生じる場合には、本明細書は、定義を含め、調整することができる。さらに、物質、方法および実施例は、単なる例示であり、本発明を制限することを意図しない。
【0062】
以下、本発明を、添付の図面を用いてさらに説明する。
【0063】
図1
ワクシニアウィルス特異的プロモーターP7.5の制御下で、ユビキチン/チロシナーゼ融合遺伝子を発現する組換えMVA(recMVA)構築物。(A)は、ウィルスゲノムへの挿入部位(欠失III)と、相同組換え後に得られたウィルス性中間体および最終構築物とを示す模式的マップである。(B)は、ハイブリダイゼーションPCR法(アガロースゲル)後に得られた組換えユビキチン/チロシナーゼ融合遺伝子を示す。対照として、ユビキチンまたはチロシナーゼの一本鎖DNAフラグメントをも併せて示す。
【0064】
図2
真正チロシナーゼをコードするrecMVA(MVA−hTyr P7.5)、ユビキチン化チロシナーゼをコードするrecMVA(MVA−ubi/hTyr P7.5)または親MVA(MVA−wt)に感染したBHK細胞におけるヒトチロシナーゼ遺伝子発現のウェスタンブロット解析。細胞は、図示した感染後経過時間(h.p.i.)において回収した。細胞可溶化物は、8%SDS−PAGEにより分離した。このゲルから得られたブロットは、抗チロシナーゼmAb T311およびペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG二次抗体でブロットし、そして、高感度ケミルミネッセンス(ECL)により可視化した。
【0065】
図3
ワクシニアウィルスに特異的なプロモーターP7.5(MVA−hTyr P7.5(●))またはそのユビキチン化形態(MVA−ubi/hTyr P7.5(n))の制御下で、ヒトチロシナーゼを発現するrecMVAに感染した標的細胞の抗原提示能力。ヒトチロシナーゼペプチドエピトープ369−377に対して反応するA*0201拘束性マウスCTLによる特異的溶解は、6時間の[51Cr]放出法により測定した。
【0066】
図4
真正またはユビキチン化チロシナーゼを産生するrecMVAウィルスでの単一免疫化により誘導される、急性期のチロシナーゼ特異的一次CD8+ T細胞応答。HHDマウスは、i.p.を、107IU のMVA−hTyr P7.5(灰色のバー)、MVA−ubi/hTyr P7.5(黒色のバー)またはMVA−wt(白色のバー)で刺激した。MVA特異的T細胞応答およびチロシナーゼ特異的T細胞応答は、8日目に解析した。 (A)脾細胞は、ヒトチロシナーゼエピトープ369−377、VVエピトープVP35#1または対照としてのHER−2エピトープ435に対して特異的なキメラA2Kb−テトラマーで染色した。(B)脾細胞は、ヒトチロシナーゼエピトープ369−377、VVエピトープVP35#1または対照としてのHER−2エピトープ435でそれぞれペプチド刺激した。そして、その脾細胞を、続いて、細胞内インターフェロンγ産生(ICS)によりスクリーニングした。全ての結果は、4匹のマウスの平均値±標準偏差で表している。
【0067】
図5
非相同的DNA−MVA prime−boost免疫化により誘導される急性期のチロシナーゼ特異的二次CD8+ T細胞応答。A2Kbマウスは、i.m.を、DNAワクチンコード化チロシナーゼ(DNA-vaccine encoding tyrosinase)で二回刺激し、i.p.を、真正チロシナーゼを産生するrecMVA(MVA−hTyr) 107IUまたはユビキチン化チロシナーゼを産生するrecMVA(MVA−ubi/hTyr)107IUで一回追加免疫した。脾細胞は、ヒトチロシナーゼエピトープ369−377に対する特異性を、最終のワクチン投与から5日後に解析した。(A)は、キメラのA2Kbテトラマー染色による解析結果であり、(B)は、ICSによる解析結果である。結果は、少なくとも3回の独立した実験により表している。
【0068】
図6
非相同的MVA−MVA prime−boost免疫化により誘導される急性期のチロシナーゼ特異的二次CD8+ T細胞応答。HHDマウスは、i.p.を、真正チロシナーゼを産生するrecMVA(MVA−hTyr)107IUで刺激し、そして、i.p.を、真正チロシナーゼを産生するrecMVA(MVA−hTyr)またはユビキチン化チロシナーゼを産生するrecMVA(MVA−ubi/hTyr)108IUで追加免疫した。脾細胞は、最終のワクチン投与から5日後に回収し、ヒトチロシナーゼエピトープ369−377、VVエピトープB22Rまたは対照としてのHER−2エピトープ435でそれぞれペプチド刺激した。そして、その脾細胞を、続いて、細胞内インターフェロンγ産生(ICS)によりスクリーニングした。
【0069】
図7
真正チロシナーゼをコードするrecMVA(MVA−hTyr P7.5)、ユビキチン化チロシナーゼをコードするrecMVA(MVA−ubi/hTyr P7.5)または親MVA(MVA−wt)に感染したRMA細胞のパルスチェイス実験。感染から5時間後の細胞を20分間飢餓状態にし、続いて、50μCiの35S標識化メチオニンおよびシステインで45分間パルスし、さらに続いて、RPMI培地で追跡した。免疫沈降は、図示した時点において、抗チロシナーゼmAb C−19により行った。沈殿物は、8%SDS−PAGEにより分離し、ホスホイメージャー(phosphorimager)で可視化した。ユビキチン化チロシナーゼのin vivo半減期は、有意に減少し、30分未満であると評価することができた。一方、真正チロシナーゼのin vivo半減期は、10時間を越えると評価された(Jimenez et al., 1988)。
【0070】
図8
感染したRMAおよびHeLa細胞中でrecMVAにより発現されるユビキチン化ヒトチロシナーゼの免疫沈降。
【0071】
図9
in vivoでのMVA−ubi/hTyrの免疫原性。HLA−A*0201拘束性チロシナーゼエピトープ特異的CD8+ T細胞応答は、HHDマウスのMVA/MVA prime/boostワクチン投与(リコール)後に測定した。全てのマウスは、10e5 IU(A)または10e7 IU(B)のMVA−hTYRにより刺激し、10e7 IUのMVA−Ub−hTyrまたはMVA−hTyrで追加免疫した。脾細胞は、追加免疫から5日後に、細胞内インターフェロンγ産生によりスクリーニングした。
【0072】
図10
比較的低用量の一次ワクチン投与後に、MVA−hTyr追加免疫した動物と比較した、MVA−Ub/hTyrの高効率なin vivo細胞傷害性。HDDマウスは、107(A)または106(B)IUのMVA−hTyrで刺激し、続いて、刺激後30日目に、107IU のMVA−hTyrまたはMVA−Ub/hTyrで追加免疫した。ヒトチロシナーゼエピトープ369−377、または、対照としてのHER−2エピトープ 435−443で標識したi.v.注入自己脾細胞の急速in vivo死滅を、追加免疫後5日目に評価した。図示の通り、血液または脾臓における標的細胞の5時間での特異的なin vivo溶解を、異なる刺激用量(priming doses)において比較した。
【0073】
図11
免疫化に先立ちrecMVAを形質導入した細胞の免疫化により追加免疫した、急性期のチロシナーゼ特異的二次CD8+ T細胞応答。HHDマウスは、i.p.を、真正チロシナーゼを産生するrecMVA(MVA−hTyr)107IUで刺激し、そして、i.p.を、真正チロシナーゼを産生するrecMVA(MVA−hTyr)またはユビキチン化チロシナーゼを産生するrecMVA(MVA−ubi/hTyr)10 IU/細胞に感染したRMA−HHD細胞106個で追加免疫した。脾細胞は、最終のワクチン投与から5日後に回収し、ヒトチロシナーゼエピトープ369−377、または対照としてのHER−2エピトープ 435でそれぞれペプチド刺激した。そして、その脾細胞を、細胞内インターフェロンγ産生(ICS)によりスクリーニングした。
【実施例】
【0074】
[物質および方法]
[プラスミド構築]
ユビキチン/チロシナーゼ融合遺伝子は、MVAトランスファーベクターpIIIdHR−P7.5にクローン化して構築した。ここで、本発明者等は、他の非Ubまたは非hTyr DNA配列が挿入されることのなく、ユビキチン(Ub)遺伝子がチロシナーゼ(hTyr)cDNAと融合するハイブリダイゼーションPCR法を確立した。タンパク質への融合体として発現されたユビキチンは、そのG76残基が、細胞質プロテアーゼにより切断されるため、本発明者等は、G76を、プラスミドベクターにより発現された際に、細胞質切断を回避することが知られているA76に変異させることを目的とした(Rodriguez F et al, J Virol, 1997)。
【0075】
第1の工程において、ユビキチンは、標準的な逆転写PCR(Titan One Tube RT−PCR System(商品名)、Roche社)を用い、製品マニュアルにしたがって、マウスB16メラノーマ細胞のRNA標品から増幅させた。生成するフラグメントの5’−末端においてBamHI制限部位(下線部)を作成するため、3’−末端においてhTyrとの15bpのオーバーラップを作成するため、さらに、ユビキチン残基G76をA76(下線および全角で示した残基)に変異させるために、プライマーとして、5´-GGG CGG ATC CGA CCA TGC AGA TCT TCG TGA AGA CCC TGAC-3´ および 5´-CAA AAC AGC CAG GAG CAT CGC ACC TCT CAG GCG AAG GAC CAG-3´を選択した。
【0076】
第2工程において、ヒトチロシナーゼを、標準的なPCRを用いて、プラスミドpcDNAI−hTyrから増幅させた(Drexler et al. Cancer Res, 1999)。プライマー5´-CGC CTG AGA GGT GCG ATG CTC CTG GCT GTT TTG TAC TGC CTG- 3´ および 5´-GGG CGT TTA AAC TTA TAA ATG GCT CTG ATA CAA GCT GTG GT- 3´は、5’−末端におけるユビキチンとの18bpオーバーラップおよび3’−末端におけるPmeI制限部位(下線部)を有するhTyr cDNAを伸長させた。
【0077】
得られたフラグメントを精製し(商品名PCR−purification−kit、Qiagen社)、これを鋳型として、プライマー5´-GGG CGG ATC CGA CCA TGC AGA TCT TCG TGA AGA CCC TGAC-3´ および 5´-GGG CGT TTA AAC TTA TAA ATG GCT CTG ATA CAA GCT GTG GT-3´とともにハイブリダイゼーションPCR法に用いた。MVAトランスファーベクターpIIIdHR−P7.5−Ub−hTyrを産生するために、融合ユビキチン/チロシナーゼ遺伝子(Ub−hTyr)を、pIIIdHR−P7.5の特有のBamHI/PmeI制限部位にクローン化した。pIIIdHR−P7.5は、P7.5 early/lateプロモーター、lacZ遺伝子配列、K1L宿主範囲選択遺伝子、および、MVAゲノムの欠失IIIに組み込まれるフランキングMVA−DNA配列を含む。
【0078】
それから、ベクターpIIIdHR−P7.5−Ub−hTyrをエレクトロポレーション法によりEscherichia coli DH10B(Gibco社)に導入し、アンピシリン耐性により選択した。プラスミドDNAを増幅させ、調製した(商品名Maxiprep Kit、Qiagen社)。
【0079】
[組換え体ウィルスの産生]
組換え体ウィルスは、公知(Staib et al. 2004)である、相同組換えおよびその後の一過性な宿主範囲選択により得た。簡潔に述べると、ニワトリ胚繊維芽細胞(CEF)の単層を、6ウェル組織培養プレートで80%コンフルエンスまで増殖させ、続いて、1細胞当たり0.01の感染効率(MOI)でMVA−wtを感染させた。感染から1時間後の細胞に対し、形質移入剤(商品名FuGENE6、Roche社)を用い、プラスミドpIIIdHR−P7.5−Ub−hTyrをトランスフェクションした。そして、その細胞を無血清RPMI培地中で8時間インキュベートした。続いて、細胞を洗浄し、RPMI/10%FCS中における48時間のインキュベーション後、細胞を回収し、凍結および解凍を3回繰り返し、カップソニケーター(cup sonicator)で超音波処理した。遊離したウィルスは、連続的に希釈し、そして、宿主範囲選択のため、ウサギ腎臓細胞(RK−13)の感染に用いた。DNA抽出およびPCRにより、RK13細胞における2〜3回のプラーク継代の後、微視的に典型的なプラークを、組換え遺伝子およびwt−DNAについてスクリーニングした。組換えMVA−Ub−hTyrを産生するMVA−wtフリーなプラークを、CEF細胞におけるプラーク精製を進めるために用い、これによりK1L宿主範囲遺伝子を除去し、続いて増幅させた。ウィルスのストックを精製し、滴定し、MVA−wtの非存在およびMVA−Ub−hTyrの存在下、PCRにより解析した。
【0080】
[ウェスタンブロット解析]
ユビキチン化チロシナーゼの発現および分解を、ウェスタンブロット解析により確認した。ベビーハムスター腎臓細胞(BHK)、マウス繊維芽細胞(NIH 3T3)、マウスTリンパ腫細胞(RMA)およびヒト子宮頚部癌細胞(HeLa)を、図示した特異的プロテアソーム阻害剤の存在下、MOI=10の、真正チロシナーゼをコードするrecMVA(MVA−hTyr P7.5)、ユビキチン化チロシナーゼをコードするrecMVA(MVA−Ub−hTyr P7.5)または親MVA(MVA−wt)に感染させた。細胞を図示した時点で回収し、凍結および解凍し、超音波処理した。免疫沈降を、図示したとおり 行った(図8参照)。細胞可溶化物は、SDS−8%ポリアクリルアミドゲル上で電気泳動法により分離し、そして、25mMトリス、192mMグリシンおよび20%メタノールを含む緩衝液(pH8.6)中で、1時間、ニトロセルロース上に電気ブロットした。ブロットは、1%BSAおよび0.1%NP40を含むPBSブロッキング緩衝液中、室温で1時間ブロッキングし、続いて、ブロッキング緩衝液で100倍希釈したmAb T311(Novocastra社)を用いて室温で終夜インキュベートした。そのブロットを0.1%NP40を含むPBSで洗浄後、西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG二次抗体(Dianova社)を用いて室温で1時間インキュベートし、高感度ケミルミネッセンス(ECL)により可視化した。
【0081】
[結果]
MVA−Ub−Tyrにより発現したユビキチン化チロシナーゼは、MVA−Tyrにより発現した真正チロシナーゼよりわずかに大きいサイズであり、8kDのモノユビキチンとの融合を反映した。MVA−Ub−Tyrにより発現したユビキチン化チロシナーゼは、真正チロシナーゼの発現または検出に影響しない特異的なプロテアソーム阻害剤の存在下でのみ検出可能であった。プロテアソームが効果的に阻害された場合は、前記2つの構築物間において、発現したタンパク質の全量に差はなかった。プロテアソーム阻害がない場合、ユビキチン化チロシナーゼのタンパク質量は、ウェスタンブロット解析における検出レベル未満であり、このことは、チロシナーゼのユビキチン化が急速なプロテアソーム依存性分解につながることを示す。
【0082】
[免疫沈降]
細胞可溶化物は、ウェスタンブロット解析において前述した通りに調製し、ロッキングデバイスを用いて、0.2μgのmAb C−19(商品名、Santa Cruz Biotech社、ハイデルベルク)と4℃で1時間インキュベートした。続いて、注意深く振盪させた20μLのProtein−G−Agarose(商品名、Santa Cruz Biotech社、ハイデルベルク)を加え、プローブを、ロッカー(rocker)を用いて4℃で終夜インキュベートした。
【0083】
[パルスチェイス実験および放射性免疫沈降法]
パルスチェイス実験は、真正チロシナーゼをコードするrecMVA(MVA−hTyr P7.5)、ユビキチン化チロシナーゼをコードするrecMVA(MVA−ubi/hTyr P7.5)または親MVA(MVA−wt)に感染したRMA細胞について行った。感染から5時間後の細胞を、ウルトラグルタミン(ultraglutamin)およびピルビン酸を各1%ずつ含むメチオニン/システインフリーダルベッコ(Dubecco’s)培地で20分間飢餓状態にし、続いて、50μCiの35S標識化メチオニンおよびシステインで45分間パルスし、さらに、RPMI培地で追跡した。免疫沈降は、図示した時点において、抗チロシナーゼmAb C−19により行った。沈殿物は、8%SDS−PAGEにより分離し、そして、ホスホイメージャー(商品名)で可視化した。
【0084】
[結果]
パルスチェイス実験は、MVA−TyrおよびMVA−Ub−Tyrにより発現した放射標識タンパク質が等しい量であることを示した。ユビキチン化チロシナーゼは、再度、予期したとおりの増大したサイズを示した。MVA−Tyrにより発現した真正チロシナーゼは、4時間を越える観測期間において安定であった。一方、MVA−Ub−Tyrにより発現したユビキチン化チロシナーゼは、急速に分解した。ユビキチン化チロシナーゼのin vivo半減期は、有意に減少し、30分未満であると評価することができた。一方、真正チロシナーゼのin vivo半減期は、10時間を越えると評価された(Jimenez et al., 1988)。
【0085】
[クロム放出法]
ヒトチロシナーゼペプチドエピトープ369−377に対し反応するA*0201拘束性マウスCTLによる特異的溶解は、6時間の[51Cr]放出法により測定した。簡潔に述べると、HLA−A*0201陽性A375細胞を、MVA−wt、MVA−hTyrまたはMVA−Ub−TyrによりMOI=5で3時間感染させ、1回洗浄し、100μCiのNa51CrO4により37℃で1時間標識し、続いて4回洗浄した。標識した標的細胞は、U字底96ウェルプレートに1×104個細胞/ウェルで接種し、37℃で8時間インキュベートした。感染から15時間後、エフェクター細胞を、標的細胞と、種々のE:T比でインキュベートした。6時間後、1ウェル当たり100μLの上清を採取し、特異的な51Cr放出を測定した。
【0086】
[結果]
チロシナーゼのユビキチン化は、ウィルス感染初期の時点においてさえも、ペプチドプロセシングおよび細胞表面における高MHCクラスIペプチド密度の有効性の増加を示す、感染した標的細胞のTyr特異的CTL認識の有意な促進をもたらした。
【0087】
[マウスおよびワクチン投与スケジュール]
HLA−A*0201−トランスジェニック、HHD−、またはA2Kb−マウスは、病原体のない特別な環境下での室内繁殖により得た。マウスは、指示用量のrecMVA(i.p.)またはDNA(i.m.)によりワクチン投与した。単一免疫化マウスにより誘導される、急性期のチロシナーゼ特異的一次CD8+ T細胞応答は、ワクチン投与後8日目に解析した。MVA−MVAまたはDNA−MVA prime−boost免疫化により誘導される急性期のチロシナーゼ特異的二次CD8+ T細胞応答のために、マウスを1回刺激し(recMVA)、刺激から30日後に追加免疫するか、または、マウスを一週間間隔で2回刺激し(DNA)、最初の刺激から30日後に追加免疫し、そして最終の免疫化から5日後に解析した。マウスを殺し、脾臓を採取し、ICSまたはテトラマー結合アッセイにより解析した。
【0088】
[細胞内サイトカイン染色]
ワクチン投与したマウス由来の脾細胞を、ヒトチロシナーゼエピトープ369−377、VVエピトープVP35#1、B22R、または、対照としてのHER−2エピトープ435でそれぞれ5時間ペプチド刺激した。最後の3時間、Brefeldin A(GolgiPlug, Pharmingen)を加えた。IFNγ産生のための細胞内サイトカイン染色は、Cytofix/Cytopermキット(商品名、 Pharmingen社)を用い、製品マニュアルにしたがって行った。データは、FACSCaliburまたはFACSCanto(商品名、いずれも Becton Dickinson社)により取得した。取得データは、FLOWJO(商品名、Tree Star社)ソフトウェアを用いてさらに解析した。
【0089】
[MHCテトラマー染色による表現型T細胞の解析]
キメラA2Kbテトラマー試薬は、公知の方法(Busch et al. 1998)で調製した。細胞を、生死判別のためにエチジウムモノアジド(Molecular Probes社)と、また、表面マーカーAbsの非特異的結合を回避するために抗マウスFc−Abとインキュベートし、3回洗浄し、その後、mAbs抗 CD8α(クローン53−5.8)および抗CD62L(クローンMEL−14)(いずれもPharmingen社)により、45分間、MHCテトラマーおよび表面マーカー染色し、そして、再度3回洗浄した。全ての工程は、4℃で行った。データは、FACSCaliburまたはFACSCanto(商品名、いずれもBecton Dickinson社)により取得した。取得データは、FLOWJO(商品名、Tree Star社)ソフトウェアを用いてさらに解析した。
【0090】
[結果]
MVA−Ub−hTyrによる追加免疫を通じて誘発させたTyr−特異的CD8+ T細胞(CTL)応答は、MVA−hTyrと比較して、インターフェロンγ産生細胞中では2倍に増加し、テトラマー結合細胞中では3倍まで増加した。DNA−またはMVA−hTyrで刺激したマウスにおけるTyr特異的CTLリコール応答を最も効果的に促進するMVA−Ub−hTyrの能力は、A2Kb− およびHHD−マウスの両方において見られた。注目すべき点として、MVA−Ub−hTyrは、わずか10e5 IUのMVA−hTyrによる刺激ワクチン投与後でも、強いリコール応答を誘発することが可能であったのに対して、MVA−hTyrで追加免疫する際に、匹敵する量のインターフェロンγ産生エピトープ特異的CD8+ T細胞応答を誘発するためには、10e7 IUが必要であった(図9)。本実施例において、ユビキチン化抗原を発現するrecMVAを二次免疫応答誘発に使用することで、一次免疫のためのウィルス用量を100分の1まで低減することができる。このデータは、ユビキチン化抗原を発現するrecMVAを二次免疫応答の追加免疫に使用することで、より強力な標的抗原特異的細胞傷害性CD8+ T細胞応答を、有意に低減されたウィルス用量で誘発できることを示す。重要なことに、このことから、刺激における必要用量の低減は、例えば、VVエピトープB22Rに対する二次応答において、VV−特異的CD8+ T細胞をも減少させることがさらに示された。
【0091】
[In vivo CTLアッセイ]
未処理マウスの自己脾細胞を調製し、2つのグループに分けた。1つのグループは、ヒトチロシナーゼエピトープ369−377(1μM)でパルスし、続いて、高濃度(5μM)の5,6−カルボキシ−フルオレセインスクシンイミドエステル(CFSE, Molecular Probes社)で標識した。他のグループは、対照としてHER−2エピトープ435−443(1μM)でパルスし、低濃度のCFSE(0.5μM)で標識した。CFSE標識のために、PBS1mL当たり、ペプチドでパルスした細胞107個を、5%CO2インキュベーター中、37℃で10分間、CFSEとインキュベートした。標識反応を停止するために、RPMI/10%FCSを20mL加えた。フリーのCFSEを除くためにPBSで3回洗浄した後、1匹のレシピエントマウス当たり、各グループについて1×107個の細胞を、200μLのPBS中において1:1で混合し、尾静脈経由で静脈内注射した。5時間後、前記レシピエントマウスの脾臓および血液を回収し、標的細胞に対する特異的溶解を、FACSCanto cytometer(商品名、Becton−Dickinson社)により解析した。少なくとも5,000個の、CFSEで「低度に(low)」標識された細胞が得られた。特異的in vivo溶解は、以下の通り計算した。
100−([(% ワクチン投与レスポンダー中におけるCFSE「High」/ワクチン投与レスポンダー中におけるCFSE「low」)/(% 未処理レスポンダー中におけるCFSE「high」/未処理レスポンダー中におけるCFSE「low」)]×100)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換え修飾ワクシニアウィルスアンカラ(MVA)に関し、前記MVAは、融合タンパク質をコードする核酸配列を有する。本発明は、さらに、前記組換えMVAを含むキット、および、哺乳類のT細胞応答を促進する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワクシニアウィルス(Vaccinia virus、VV)は、ポックスウィルス科オルソポックスウィルス属に属する。ワクシニアウィルスのうちのある株は、長年にわたって、天然痘に対して免疫を与えるための生ワクチンとして用いられており、例えば、英国(UK)リスター研究所(Lister Institute)のElstree株がある。ワクチン接種に由来する合併症のために(非特許文献1:Schar, Zeitschr. Fur Praventivmedizin 18, 41-44 [1973])、また、WHOによる1980年の天然痘根絶宣言のために、今日では、天然痘に対するワクチン接種は、リスクの高い人にのみ行われている。
【0003】
ワクシニアウィルスは、外来抗原の生産および送達のためのベクターとしても用いられてきた(非特許文献2:Smith et al., Biotechnology and Genetic Engineering Reviews 2, 383-407 [1984])。これには、DNA組換え技術によってワクシニアウィルスのゲノム中に導入される、外来抗原をコードするDNA配列(遺伝子)が必要である。ウィルスのライフサイクルに必須でないウィルスDNAのサイトに前記遺伝子が組み込まれた場合、新たに生産された組換えワクシニアウィルスを感染性とすることが可能である。すなわち、外来細胞を感染させ、それにより、組み込まれたDNA配列を発現させることができる(欧州特許出願番号第83,286および第110,385号)。この方法によって調製された前記組換えワクシニアウィルスは、一方では、感染予防のための生ワクチンとして使用することができる。他方では、真核細胞における異種タンパク質の調製に用いることができる。
【0004】
ワクシニアウィルスは、生ベクター(live vectors)の中で最も広範に評価されており、かつ、組換えワクチンとしての使用を支持する特性を有する。すなわち、ワクシニアウィルスは、安定性が高く、製造コストが安く、投与が容易であり、かつ、大量の外来DNAに適応可能である。ワクシニアウィルスは、抗体応答および細胞傷害性応答の両方の誘導に有利であり、より自然な方法で、免疫系への抗原の提示を可能にし、かつ、広範な動物モデルを感染症から保護するベクターワクチンとして有利に用いることができる。さらに、ワクシニアベクターは、組換えタンパク質の構造と機能との関係を解析するための、体液性のまたは細胞媒介による免疫応答の標的を特定するための、および、特定疾患に対する保護に必要な免疫防御の型を調査するための、非常に価値のある研究ツールである。
【0005】
しかしながら、ワクシニアウィルスは、ヒトに対して感染性であり、研究室における発現ベクターとしての使用は、安全性の関係および制御の影響を受けてきた。さらに、将来可能性のある組換えワクシニアウィルスの応用、例えば、ヒトに対する新規な治療的または予防的アプローチのために組換え体タンパク質または組換え体ウィルス粒子を生成させることは、組換えワクシニアベクターの増殖的複製により障害を受けている。文献に記述されている多くの組換えワクシニアウィルスは、ワクシニアウィルスのウェスタンリザーブ(Western Reserve、WR)株に基づいている。一方、この株は、高い神経毒性を有するため、ヒトおよび動物への適用にはほとんど適さないことが知られている(非特許文献3:Morita et al., Vaccine 5, 65-70 [1987])。
【0006】
VVの標準株の安全性に関しては、高度に弱毒化されたウィルス株に由来するワクシニアベクターの開発により取り組まれてきた。これらのワクシニアベクターは、in vitroでは、それらの制限された複製能力で特徴付けられ、in vivoではそれらの非病原性(弱毒性)で特徴付けられる。望ましくない副作用を避けるために特別に培養されたウィルス株は、長年にわたって知られていた。したがって、MVAを培養するために、ニワトリ胚繊維芽細胞でワクシニアウィルスのアンカラ株(CVA)を長期連続継代することが可能であった(例えば、非特許文献4:Mayr, A., Hochstein-Mintzel, V. and Stickl, H. (1975) Infection 3, 6-14; および特許文献1:スイス国特許第568392号明細書参照)。前記MVAウィルスは、微生物の寄託(CNCM)に関するブダペスト条約上の要請(Institut Pasteur, Collectione Nationale de Cultures de Microorganisms, 25, rue de Docteur Roux, 75724 Paris Cedex 15)に従って、1987年12月15日に寄託番号I−721で寄託された。
【0007】
MVAウィルスは、野生型CVA株と比較して、ゲノムの変化を特定するために解析されてきた。6つの主要な欠失(欠失I、II、III、IV、V、および VI)が確認されている(非特許文献5:Meyer, H., Sutter, G. and Mayr A. (1991) J. Gen. Virol. 72, 1031-1038)。この修飾ワクシニアウィルスアンカラは、低い病原性しか有さず、すなわち、ワクチン投与に用いたときに副作用を示さない。したがって、この修飾ワクシニアウィルスアンカラは、免疫不全患者の初期ワクチン投与に特に好適である。前記MVA株の優れた特性は、多数の臨床試験で示されてきた(非特許文献6:Mayr et al., Zbl. Bakt. Hyg. I, Abt. Org. B 167, 375-390 [1987],および非特許文献7:Stickl et al., Dtsch. med. Wschr. 99, 2386-2392 [1974])。
【0008】
修飾ワクシニアウィルスアンカラ(MVA)は、組換え遺伝子発現のための安全なウィルスベクターとして有用なツールであり、修飾ワクシニアウィルスアンカラは、タンパク質機能のin vitro研究または抗原特異性細胞性若しくは体液性免疫応答のin vivo誘発のような、様々な目的に使用できる。MVAの主要な利点は、ヒトおよび多くの哺乳類細胞において複製欠損であるにも関わらず、高レベルな遺伝子発現を許容可能なことである。ワクチンとしてのMVAは、優れた安全性実績を有し、バイオセーフティレベル1の条件下で取り扱うことができ、そして、動物の異種抗原を送達する際に免疫原性および保護性であることが証明されており(1−8)、かつ、臨床試験において、第1のヒト候補ワクチンとして推進されてきた。
【0009】
多くの哺乳類セルラインにおいて増殖不可能であるために、MVAは、ウィルス性および異種性遺伝子の未障害発現を保持する(Sutter and Moss, 1992)。prime−boost免疫化ストラテジー(prime-boost immunization strategies)(Meseda et al., 2002; Amara et al., 2002)および進行中の臨床試験(McConkey et al., 2003; Cosma et al., 2003; Hanke et al., 2002)における広い使用が示している通り、ヒトに対する病原性の欠落、免疫不全の宿主においてさえも本質的に非病原性(弱毒性)であること、外来抗原の高レベル発現および免疫応答における免疫賦活作用が、組換えMVA(rMVA)を、予防的および治療的ワクチン投与の両方に対して理想的なベクターとしている。
【0010】
事実、組換えMVA(rMVA)に基づくワクチンは、体液性および細胞媒介順応性の両方の免疫応答を誘発し(Ramirez et al., 2000)、いくつかの感染症の動物モデルにおいて(Hanke et al., 1999; Barouch et al., 2001; Weidinger et al., 2001; Schneider et al., 1998; Sutter et al., 1994b; Hirsch et al., 1996; Wyatt et al., 1996)、また、いくつかの腫瘍モデルにおいてさえも(Carroll et al., 1997; Rosales et al., 2000; Drexler et al., 1999)、保護性であることが証明されている。
【0011】
rVVを生成する標準的な方法は、詳細に述べられており(Earl et al., 1998)、アクセプターVV DNAと形質移入された伝達プラスミドとの間におけるin vivo相同組換えに依存し、外来遺伝子は、VV配列に隣接することとなる。組換えMVA生成のためのさらなるアプローチは、例えば、WO 04/074493、WO 03/023040およびWO 97/02355(特許文献2〜4)に開示されている。
【0012】
WANG et al., Blood, August 2004, Vol. 104, No. 3(非特許文献8)は、造血幹細胞移植(hematopoietic stem cell transplants)後のサイトメガロウィルス(CMV)罹患率および死亡率を制限する免疫療法アプローチを開示する。一つのアプローチは、ワクシニアウィルス(VV)の病原性(毒性)Western Reserve株および高度に弱毒化された株である修飾ワクシニアウィルスアンカラ(MVA)に、ユビキチン修飾CMV抗原を挿入する試みを含む。ユビキチン修飾CMV抗原は、ホスホプロテイン65(pp65)、ホスホプロテイン150(pp150)および最初期タンパク質1(IE1)免疫優性抗原であった。
【0013】
しかしながら、WANGらは、抗原のユビキチン化は、rMVAが有するCMV抗原に対する一次免疫には、影響が全くないか、ごくわずかであったことを示している。
【0014】
修飾ワクシニアウィルスアンカラは、組換え遺伝子の発現のための有用かつ安全なウィルスベクターであると考えられているが、哺乳類、特にヒトに対するMVA投与には上限があることが広く受け入れられている。例えば、ヒトに対する組換え体MVAの投与は、現在では、一回の投与につき5×108IU(infectious units、感染単位)に制限されている。しかしながら、このケースにおいて、それはrMVAにより引き起こされる免疫応答が、所望の治療効果の達成に不十分であるという理由により、不利となりうる。したがって、哺乳類において、ある特定の免疫応答の達成に必要な感染単位数を減少させることが、極めて望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】スイス国特許第568392号明細書
【特許文献2】国際公開第WO 04/074493号パンフレット
【特許文献3】国際公開第WO 03/023040号パンフレット
【特許文献4】国際公開第WO 97/02355号パンフレット
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Schar, Zeitschr. Fur Praventivmedizin 18, 41-44 [1973]
【非特許文献2】Smith et al., Biotechnology and Genetic Engineering Reviews 2, 383-407 [1984]
【非特許文献3】Morita et al., Vaccine 5, 65-70 [1987]
【非特許文献4】Mayr, A., Hochstein-Mintzel, V. and Stickl, H. (1975) Infection 3, 6-14;
【非特許文献5】Meyer, H., Sutter, G. and Mayr A. (1991) J. Gen. Virol. 72, 1031-1038
【非特許文献6】Mayr et al., Zbl. Bakt. Hyg. I, Abt. Org. B 167, 375-390 [1987]
【非特許文献7】Stickl et al., Dtsch. med. Wschr. 99, 2386-2392 [1974]
【非特許文献8】WANG et al., Blood, August 2004, Vol. 104, No. 3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、本発明の根底にある目的は、哺乳類、特にヒトにおいて、十分に高い免疫応答を達成するとともに、感染単位数が比較的低いかまたは低減されている、MVAに基づくワクチン投与システムを提供することである。本発明の根底にあるさらなる目的は、MVAに基づくワクチン投与プロトコールのために改善され、選択した抗原に対する二次免疫応答の促進につながる追加免疫剤(boosting agent)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
これらの課題は、独立請求項に記載されている対象により解決される。好ましい実施形態は、従属請求項で述べている。
【発明の効果】
【0019】
要約すると、本発明は、以下の利点および結果をもたらす。
【0020】
予期せぬことに、ワクチン投与プロトコール、すなわちprime−boostワクチン投与プロトコールにおいて、異なる種類の組換えMVA粒子を組み合わせることで、従来技術のアプローチと比較して促進された細胞免疫応答を示すことが判明した。言い換えれば、刺激(プライミング)のための外来タンパク質と、ユビキチン化外来タンパク質を産生する組換えMVAとの組み合わせが、免疫応答の促進につながり、そして、哺乳類に投与するrMVAにおいて、より少ない感染単位で十分な免疫応答を達成できることが判明した。これらの結果は、他の科学者、例えばWANGらが前述の刊行物Blood, Volume 104, No.3において、抗原のユビキチン化がrMVAの免疫原性に影響しなかったと示していることからみて、驚くべきことである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、ワクシニアウィルス特異的プロモーターP7.5の制御下で、ユビキチン/チロシナーゼ融合遺伝子を発現する組換えMVA(recMVA)構築物を示す。(A)は、ウィルスゲノムへの挿入部位(欠失III)と、相同組換え後に得られたウィルス性中間体および最終構築物とを示す模式的マップである。(B)は、ハイブリダイゼーションPCR法(アガロースゲル)後に得られた組換えユビキチン/チロシナーゼ融合遺伝子を示す。対照として、ユビキチンまたはチロシナーゼの一本鎖DNAフラグメントをも併せて示す。
【図2】図2は、真正チロシナーゼをコードするrecMVA(MVA−hTyr P7.5)、ユビキチン化チロシナーゼをコードするrecMVA(MVA−ubi/hTyr P7.5)または親MVA(MVA−wt)に感染したBHK細胞におけるヒトチロシナーゼ遺伝子発現のウェスタンブロット解析を示す。
【図3】図3は、ワクシニアウィルスに特異的なプロモーターP7.5(MVA−hTyr P7.5(●))またはそのユビキチン化形態(MVA−ubi/hTyr P7.5(n))の制御下で、ヒトチロシナーゼを発現するrecMVAに感染した標的細胞の抗原提示能力を示す。
【図4】図4は、真正またはユビキチン化チロシナーゼを産生するrecMVAウィルスでの単一免疫化により誘導される、急性期のチロシナーゼ特異的一次CD8+ T細胞応答を示す。(A)脾細胞は、ヒトチロシナーゼエピトープ369−377、VVエピトープVP35#1または対照としてのHER−2エピトープ 435に対して特異的なキメラA2Kb−テトラマーで染色した。(B)脾細胞は、ヒトチロシナーゼエピトープ369−377、VVエピトープVP35#1 または対照としてのHER−2エピトープ435でそれぞれペプチド刺激した。そして、その脾細胞を、続いて、細胞内インターフェロンγ産生(ICS)によりスクリーニングした。
【図5】図5は、非相同的DNA−MVA prime−boost免疫化により誘導される急性期のチロシナーゼ特異的二次CD8+ T細胞応答を示す。(A)は、キメラのA2Kbテトラマー染色による解析結果であり、(B)は、ICSによる解析結果である。
【図6】図6は、非相同的MVA−MVA prime−boost免疫化により誘導される急性期のチロシナーゼ特異的二次CD8+ T細胞応答を示す。
【図7】図7は、真正チロシナーゼをコードするrecMVA(MVA−hTyr P7.5)、ユビキチン化チロシナーゼをコードするrecMVA(MVA−ubi/hTyr P7.5)または親MVA(MVA−wt)に感染したRMA細胞のパルスチェイス実験を示す。
【図8】図8は、感染したRMAおよびHeLa細胞中でrecMVAにより発現されるユビキチン化ヒトチロシナーゼの免疫沈降を示す。
【図9】図9は、in vivoでのMVA−ubi/hTyrの免疫原性を示す。
【図10】図10は、比較的低用量の一次ワクチン投与後に、MVA−hTyr追加免疫した動物と比較した、MVA−Ub/hTyrの高効率なin vivo細胞傷害性を示す。HDDマウスは、107(A)または106(B)IUのMVA−hTyrで刺激し、続いて、刺激後30日目に、107IUのMVA−hTyrまたはMVA−Ub/hTyrで追加免疫した。
【図11】図11は、免疫化に先立ちrecMVAを形質導入した細胞の免疫化により追加免疫した、急性期のチロシナーゼ特異的二次CD8+ T細胞応答を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明において、ユビキチン化外来タンパク質を保有するrMVAの一次免疫応答は比較的低いが、前記rMVAを追加免疫剤として用いると、大規模な免疫応答が見られることが確認されている。本発明者等は、本発明のワクチン投与システムを用いることにより、ワクチン投与に用いるrMVAの感染単位の全量を劇的に減少可能であることを見出した。
【0023】
最初に、本発明者等は、ハイブリダイゼーションPCR法により、ユビキチン/チロシナーゼ融合遺伝子(Ub−Tyr)を構築した(図1b)。次に、相同組換えおよび引き続いての宿主細胞選択を通じて、組換えMVAウィルスを産生することに成功した。この組換えウィルスは、前記融合遺伝子がウィルスゲノム中に安定に組み込まれており、Ub−Tyrが、ユビキチン化融合タンパク質として生産された(図1a)。in vitroでは、ユビキチン化は、前記ユビキチン化融合タンパク質の半減期の有意な減少を導く急速かつほぼ完全なプロテアソーム依存性分解により、標的タンパク質の細胞質不安定性を導いた(図2)。前述の通り、in vivoでの免疫原性試験により、驚くべきことに、前記ユビキチン化抗原を含むMVAワクチンは、前記ユビキチン化抗原を含まないMVAと比較して弱い一次応答を示したにもかかわらず、有意に促進された二次免疫応答を示すことが判明した(図4および5参照)。
【0024】
本出願では、MHCクラスI特異的提示のためのペプチドプロセシングを促進する、急速なプロテアソーム分解のためにデザインされた抗原の生産により、rMVAベクターを用いてCTL生成を最適化するための新規なアプローチを請求する。ユビキチン/外来タンパク質融合タンパク質を発現するMVAワクチンは、ウェスタンブロット法、放射性免疫沈降法およびクロム放出法により、in vitroで構築され、特徴付けられた。
【0025】
in vivoでは、ワクチン投与研究は、HLA−A*0201−形質転換マウスを用いて行い、CTL応答は、細胞内サイトカイン合成およびテトラマー結合アッセイにより解析した。in vitroでは、MVAにより生産されたユビキチン化チロシナーゼ(Ub−Tyr)は、プロテアソーム阻害剤の存在下で特異的に阻害される急速分解にかけた。さらに、ユビキチン化は、ウィルス感染の初期の時点においてさえもペプチドプロセシングの増加および細胞表面における高いMHCクラスIペプチド密度の有効性を示す感染した標的細胞において、外来タンパク質特異的CTL認識の有意な促進という結果を生じた。prime−boostワクチン投与研究においては、MVA−Ub−外来タンパク質は、重要なことにワクチン容量が低い場合においても、Tyr−特異的CTLリコール応答を最も効果的に促進することが可能であった。
【0026】
ここで提示するデータは、抗原の特徴的な製剤形態を送達するMVAワクチンが、選択的に、刺激(プライミング)または追加免疫(boosting)に使用できることを示す。MVAに基づくワクチン投与プロトコールであって、改善された免疫原性を有し、最適化されたプロトコールの開発のために、前記MVAワクチンは、極めて重要である。
【0027】
第1の側面によれば、本発明は、下記第1構成要素および第2構成要素を含み、それら第1構成要素および第2構成要素が、任意に、薬学的に許容可能な担体をさらに含む、キットに関する。
a) 1以上の外来タンパク質、もしくは、前記外来タンパク質をコードする核酸、または、それらの機能的部分を含む第1構成要素;および、
b) 組換え修飾ワクシニアウィルスアンカラ(MVA)を含み、前記MVAは、融合タンパク質をコードする核酸配列を有し、
前記融合タンパク質は、ユビキチンまたはその機能的部分、および、1以上の外来タンパク質またはそれらの機能的部分を含む、
第2構成要素。
【0028】
なお、前記外来タンパク質は、通常、前記2つの構成要素において同じものを用いるが、異なっていてもよい。
【0029】
ここで使用する「外来タンパク質」という用語は、1つの組換えMVA粒子中に、1つだけでなく、2つ以上の特徴的な外来タンパク質を含む代替物(alternative)をも包含する。したがって、いくつかの疾患に対する免疫原性を、1つのみのワクチン投与により達成することができる。2つ以上の外来タンパク質を用いることは、あるウィルス性疾患および腫瘍性疾患の回避機構を避けるかまたは打破を補助し得る。
【0030】
さらに、「外来タンパク質」という用語は、天然にMVAの一部として存在しないタンパク質、すなわち異種タンパク質(およびそれをコードする核酸)をも示す。
【0031】
ユビキチンは、小サイズの細胞質タンパク質であり、高度に保存されている。ユビキチンは、組織中で、細胞内におけるコントロールされたタンパク質分解の制御における基本的な役割を担う。
【0032】
ユビキチンのポリペプチド鎖は、76個のアミノ酸からなる。しかしながら、本発明で使用する「ユビキチン」という用語は、この特定のタンパク質のみに制限されない。この用語は、「ユビキチン様タンパク質」と呼ばれるタンパク質スーパーファミリーをも含む。それは、すなわち、ユビキチン様の折りたたみモチーフを示すタンパク質、ならびにそれらのフラグメントおよび融合タンパク質である。したがって、本発明は、ユビキチン様タンパク質のタンパク質スーパーファミリーにおけるタンパク質から選択されるユビキチンタンパク質をも含む。それらのタンパク質は、置換、挿入、欠失、およびその他の全ての化学修飾により修飾されているが、それらの特異的な折りたたみモチーフを保持しているか、または、細胞分解機構に関係するタンパク質の導入という結果をもたらす。
【0033】
この観点において、使用可能なさらなるタンパク質の例は、小サイズのユビキチン様修飾因子(SUMO; Yun-Cai Liu, Annu. Rev. Immunol. 2004. 22:81-127参照)、PEST配列 (Duane A. Sewell et al., CANCER RESEARCH 64, 8821-8825, December 15, 2004)である。さらなる情報については、Chien-Fu Hung et al., CANCER RESEARCH 63, 2393-2398, May 15, 2003も参照のこと。
【0034】
前述の通り、本明細書中で使用する「機能的部分」という用語は、そのようなタンパク質またはそれをコードする核酸を意味し、野生型タンパク質/核酸と比較すると、その機能を変えることなく、1以上の置換、挿入および/または欠失を含む。それらは、好ましくは1つの、若しくは2、3、4若しくはそれ以上のヌクレオチドを、5’若しくは3’若しくは核酸配列中において欠いているか、または、それらのヌクレオチドが他のヌクレオチドで置換されている。外来タンパク質の「機能的部分」は、その生理学的機能を満たす限り、切断型タンパク質であっても良く、その生理学的機能とは、すなわち、特定疾患の治療および/または保護に有効な免疫原性を提供することである。したがって、本発明で用いる外来タンパク質は、それが、関連技術分野において共通であるという意味で、「抗原」であると考えることもできる。本明細書中における抗原は、免疫系により外来あるいは毒性と認識され、免疫応答を誘発する物質として定義する。
【0035】
工程a)で使用する前記外来タンパク質または抗原は、宿主中において前記外来タンパク質自体を発現する核酸の形態で、前記外来タンパク質を発現する組換えバクテリアの形態で、タンパク質形態の外来タンパク質として、および/または、ウィルスベクターにより保因される外来タンパク質の形態として存在する。
【0036】
好ましい実施形態においては、前記ウィルスベクターは、修飾ワクシニアウィルスアンカラ(MVA)である。
【0037】
好ましい実施形態によれば、前記融合タンパク質は、ユビキチンと前記外来タンパク質との間にリンカーをさらに含む。前記リンカーは、ユビキチン/タンパク質融合の安定性を強化するアミノ酸(例えば、前記融合タンパク質のユビキチン部分における第76位のアラニン)、または、ユビキチン部分の好ましい開裂を導くアミノ酸(例えば、前記融合タンパク質のユビキチン部分における第76位のグリシン)を含むことが好ましい。これによって、リンカーは、前記タンパク質のこの部分の開裂促進を導く、融合タンパク質内に含まれるアミノ酸(例えば、前記融合タンパク質の残部の第1位のアルギニン)、および/または、細胞内のさらなるユビキチン分子によりターゲットとされ、認識シグナルとして機能することにより開裂の促進を導くアミノ酸に含まれるアミノ酸を明らかにする。
【0038】
本明細書中において用いる「組換えMVA」という用語は、例えば、DNA組換え技術により遺伝子改変されたMVAや、例えば、ワクチンまたは発現ベクターとしての使用に供されるMVAを意味する。
【0039】
本発明によれば、組換えMVAワクシニアウィルスは、いくつかの周知技術、例えば、K1L−遺伝子に基づく選択プロトコールにより調製できる。一例として、ワクシニアウィルス(VV)K1Lタンパク質またはK1L誘導ポリペプチドをコードするDNA配列と、外来タンパク質(またはユビキチン/外来タンパク質の融合タンパク質)をコードするDNA配列とを含み、両者がMVAゲノムの非必須部位(例えば、自然に起こる欠失、例えば欠失III)に隣接しているDNA配列に隣接するDNA構築物を、細胞中に、好ましくは真核細胞に導入する。好ましくは、トリ、哺乳類およびヒトの細胞を用いる。好ましい真核細胞は、K1L遺伝子配列およびMVAゲノムのプロモーター配列または前記配列の機能的部分が不活性化されて相同組換えが可能である、変異MVAに生産的に感染したBHK−21(ATCC CCL−10)、BSC−1(ATCC CCL−26)、CV−1(ECACC 87032605)またはMA104(ECACC 85102918)細胞である。さらなる好ましい宿主細胞は、ニワトリ繊維芽細胞、ウズラ繊維芽細胞、QT−9細胞、ベロ細胞、MRC−5細胞、B細胞、またはヒト一次細胞(例えば、一次繊維芽細胞、樹状細胞)である。さらに詳細な情報は、WO 04/074493号公報を参照することにより、本明細書中に完全に組み込まれる。
【0040】
一旦前記DNA構築物が真核細胞中に導入され、前記K1LコードDNAおよび外来DNAが前記ウィルスDNAと組換えられると、ウィルス成長を助けるためにK1L機能が必要な細胞(例えば、RK−13細胞)の継代により、所望の組換えワクシニアウィルスMVAを単離できる。組換えウィルスのクローン化は、プラーク精製として知られる公知の方法により可能である(Nakano et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 79, 1593-1596 [1982], Franke et al., Mol. Cell. Biol. 1918-1924 [1985], Chakrabarti et al., Mol. Cell. Biol. 3403-3409 [1985], Fathi et al., Virology 97-105 [1986]を比較されたい)。
【0041】
挿入されるDNA構築物は、線状でも環状でもよい。好ましくは、環状DNAを用いる。特に、プラスミドを用いることが好ましい。
【0042】
前記DNA構築物は、MVAゲノムの非必須部位(例えば、欠失III部位、Sutter, G. and Moss, B. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89, 10847-10851)、MVAゲノムにおいて設計したK1L欠失部位、または、本発明の変異MVAゲノムにおける任意の非必須部位に対し、右側および左側に隣接する配列を含む。
【0043】
前記外来DNA配列は、前記非必須部位(例えば、自然に起こる欠失)に隣接する配列の間に挿入してもよい。
【0044】
前記外来DNA配列は、治療用ポリペプチド、または、病原性薬由来のポリペプチドをコードする遺伝子であっても良く、好ましくは、ワクチン投与目的、または、治療用若しくは科学的に有用なポリペプチドの生産のために用いることができる。前記治療用ポリペプチドとしては、例えば、分泌タンパク質、例えば、抗体、ケモカイン、サイトカイン若しくはインターフェロンのポリペプチドである。病原性薬は、疾患を引き起こすウィルス、バクテリアおよび寄生生物、ならびに、生体において無制限に増殖し、それにより病理成長を導く腫瘍細胞であると理解することができる。そのような病原性薬の例は、Davis, B.D. et al.,により記述されている(Microbiology, 3rd ed., Harper International Edition)。病原性薬の好ましい遺伝子は、インフルエンザウィルス、麻疹ウィルス、呼吸器合胞体ウィルス(RSウィルス)、デングウィルス、ヒト免疫不全ウィルス(HIV、例えばHIV IおよびHIV II)、ヒト肝炎ウィルス(例えば、HCVおよびHBV)、ヘルペスウィルス、パピローマウィルス、マラリア寄生生物の熱帯性マラリア原虫および結核の原因となるマイコバクテリアの遺伝子である。
【0045】
腫瘍関連抗原をコードする好ましい遺伝子は、メラノーマ関連分化抗原(例えば、チロシナーゼ、チロシナーゼ関連タンパク質1および2)、癌精巣抗原(例えば、MAGE−1、−2、−3、およびBAGE)、および、腫瘍において過剰発現された非変異型共有抗原(例えば、Her−2/neu、MUC−1、およびp53)をコードする遺伝子である。
【0046】
本発明の使用におけるさらなる外来配列は、人工的なエピトープに含まれるポリペプチド配列、または、エピトープを含む配列であり、例えば、ミニ遺伝子、ポリトープ等である。
【0047】
前記DNA構築物は、トランスフェクションにより細胞に導入してもよく、例えば、リン酸カルシウム沈降法(Graham et al., Virol. 52, 456-467 [1973]; Wigler et al., Cell 777-785 [1979])、エレクトロポレーション (Neumann et al., EMBO J. 1, 841-845 [1982])、マイクロインジェクション法 (Graessmann et al., Meth. Enzymology 101, 482-492 [1983])、リポソーム (Straubinger et al., Methods in Enzymology 101, 512-527 [1983])、スフェロプラスト (Schaffner, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77, 2163-2167 [1980])、または、当業者に公知の他の方法により、導入してもよい。リン酸カルシウム沈降法によるトランスフェクションを好ましく用いることができる。
【0048】
ワクチンを調製するために、本発明の前記組換えMVAを、生理学的に許容可能な形態に変換させ、続いて、キットに組み込む。このことは、天然痘に対するワクチン投与に使用するためのワクチンの調製における長年の経験に基づいて行うことができる(Kaplan, Br. Med. Bull. 25, 131-135 [1969])。典型的には、組換えMVA粒子106〜108個を、2%ペプトンおよび1%ヒトアルブミンを含むリン酸緩衝食塩水(PBS)100ml中で凍結乾燥する。前記凍結乾燥は、アンプル中で行い、好ましくはガラスアンプル中で行う。投与するMVAの用量に関するさらなる情報を、以下に示す。前記凍結乾燥物は、非経口投与に好適な増量剤(例えば、マンニトール、デキストラン、糖、グリシン、ラクトースまたはポリビニルピロリドン)または他の助剤(例えば、抗酸化剤、安定剤等)を含んでいてもよい。続いて、前記ガラスアンプルを密封し、保存してもよい。好ましくは、マイナス20℃以下で数ヶ月保存可能である。
【0049】
ワクチン投与のために、前記凍結乾燥物を、0.1〜0.2mlの水溶液、好ましくは生理食塩水に溶かし、そして、非経口的に、例えば、皮内接種により投与してもよい。本発明のワクチンは、皮内に注入することが好ましい。注射部位には、腫脹および発赤、ならびに時として掻痒が見られることがある(Stickl et al., supra)。投与方法、用量および投与回数は、当業者により、公知の方法で最適化することができる。外来抗原に対する高レベルな免疫応答を得るために、前記ワクチンを、長期間にわたり、数回、適切に投与することが好ましい。
【0050】
好ましい実施形態によれば、本発明のキットは、前記第1構成要素の量と前記第2構成要素の量との比が、組換えMVA粒子の感染単位(IU)による測定で、1:5から1:20、好ましくは1:10である。刺激(プライミング)工程に用いる組換えMVA(ユビキチンを含まない)のIUは、例えば、マウス1匹当たり105〜106である。これは、従来技術のアプローチと比較すると比較的に少量の粒子である。動物への追加免疫に用いる組換えMVA(ユビキチンを含む)の用量は、約106〜107で、ユビキチンを含まない組換え粒子(従来技術における追加免疫工程)107〜108IUの場合と同等のT細胞応答が達成できる。このように、前記追加免疫工程に用いるIU数は、従来技術と比較して約90%低減させることが可能である。
【0051】
ヒトに対する組換えMVA投与量の上限は、約5×108IUであり、この上限値よりも有意に低い量の組換えMVAを用いるのみで、促進された免疫応答を達成できる。
【0052】
第2の側面によれば、本明細書中で定義する前記組換えMVAまたは前記キットは、抗癌治療または感染症予防に用いることを目的とする。
【0053】
第3の側面によれば、本発明は、哺乳類のT細胞応答の促進方法に使用する医薬の製造のための、本明細書中で定義するキットの使用を目的とする。前記T細胞応答促進方法は、下記a)〜c)工程を含む。
a) 本明細書で定義するキットを準備する工程
b) 一次免疫応答を与えるために有効な量の前記第1構成要素により、哺乳類を刺激する工程
c) 二次免疫応答を与えるために有効な量の前記第2構成要素により、前記哺乳類を追加免疫する工程
【0054】
前記キットは、癌治療用または感染症予防用の医薬の製造に用いることが好ましい。
【0055】
さらに好ましい実施形態によれば、前記追加免疫工程を、前記刺激工程の後2〜12週間、好ましくは4〜8週間に行う。前述の通り、本明細書中に開示するキットは、ワクチン投与方法に使用する。
【0056】
好ましくは、処置される動物は、ヒトである。
【0057】
本発明は、さらに、下記a)〜c)工程を含む哺乳類のT細胞応答促進方法を提供する。
a) 本明細書中で定義するキットを準備する工程
b) 一次免疫応答を与えるために有効な量の前記第1構成要素により、哺乳類を刺激する工程
c) 二次免疫応答を与えるために有効な量の前記第2構成要素により、前記哺乳類を追加免疫する工程
【0058】
その他の方法では、樹状細胞(DC)を、患者から単離するか、または生体外(ex vivo)で生成させ、続いて、本発明に従い、ユビキチン化抗原を発現するrMVAに感染させる。続いて、これら感染DCをワクチンとして患者に養子性に転移させる。これにより、未処理のT細胞を直接刺激するか、または、それぞれの抗原に特異的なすでに存在するT細胞を拡大させる。これら感染DCは、in vitroでT細胞を刺激または拡大するために用いることもでき、これにより、これらin vitroで生成したT細胞を、レシピエントに対し養子性に転移させることができる。
【0059】
さらにその他の側面によれば、本発明は、組換えMVAを含み、前記MVAは、融合タンパク質をコードする核酸配列を保有し、前記融合タンパク質は、前述の通り定義した、
a) ユビキチンまたはその機能的部分、および、
b) 外来タンパク質またはそれらの機能的部分
を含む。ただし、サイトメガロウィルス由来抗原とユビキチンとの融合タンパク質を含む組換えMVAは除く。
【0060】
さらにその他の側面によれば、本発明は、組換えMVAの使用であって、前記組換えMVAは、prime−boostワクチン投与の追加免疫薬として、融合タンパク質をコードする核酸配列を保有し、前記融合タンパク質は、
ユビキチンまたはその機能的部分、および
1以上の外来タンパク質またはその機能的部分
を含む、
組換えMVAの使用を提供する。前述の通り、この組換えMVAは、驚くべきことに、関与する外来タンパク質とは独立に、促進された二次免疫応答を示すことが明らかになっている。
【0061】
本明細書中に記述する全ての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、参照により、それらの全てが本明細書中に組み込まれる。抵触が生じる場合には、本明細書は、定義を含め、調整することができる。さらに、物質、方法および実施例は、単なる例示であり、本発明を制限することを意図しない。
【0062】
以下、本発明を、添付の図面を用いてさらに説明する。
【0063】
図1
ワクシニアウィルス特異的プロモーターP7.5の制御下で、ユビキチン/チロシナーゼ融合遺伝子を発現する組換えMVA(recMVA)構築物。(A)は、ウィルスゲノムへの挿入部位(欠失III)と、相同組換え後に得られたウィルス性中間体および最終構築物とを示す模式的マップである。(B)は、ハイブリダイゼーションPCR法(アガロースゲル)後に得られた組換えユビキチン/チロシナーゼ融合遺伝子を示す。対照として、ユビキチンまたはチロシナーゼの一本鎖DNAフラグメントをも併せて示す。
【0064】
図2
真正チロシナーゼをコードするrecMVA(MVA−hTyr P7.5)、ユビキチン化チロシナーゼをコードするrecMVA(MVA−ubi/hTyr P7.5)または親MVA(MVA−wt)に感染したBHK細胞におけるヒトチロシナーゼ遺伝子発現のウェスタンブロット解析。細胞は、図示した感染後経過時間(h.p.i.)において回収した。細胞可溶化物は、8%SDS−PAGEにより分離した。このゲルから得られたブロットは、抗チロシナーゼmAb T311およびペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG二次抗体でブロットし、そして、高感度ケミルミネッセンス(ECL)により可視化した。
【0065】
図3
ワクシニアウィルスに特異的なプロモーターP7.5(MVA−hTyr P7.5(●))またはそのユビキチン化形態(MVA−ubi/hTyr P7.5(n))の制御下で、ヒトチロシナーゼを発現するrecMVAに感染した標的細胞の抗原提示能力。ヒトチロシナーゼペプチドエピトープ369−377に対して反応するA*0201拘束性マウスCTLによる特異的溶解は、6時間の[51Cr]放出法により測定した。
【0066】
図4
真正またはユビキチン化チロシナーゼを産生するrecMVAウィルスでの単一免疫化により誘導される、急性期のチロシナーゼ特異的一次CD8+ T細胞応答。HHDマウスは、i.p.を、107IU のMVA−hTyr P7.5(灰色のバー)、MVA−ubi/hTyr P7.5(黒色のバー)またはMVA−wt(白色のバー)で刺激した。MVA特異的T細胞応答およびチロシナーゼ特異的T細胞応答は、8日目に解析した。 (A)脾細胞は、ヒトチロシナーゼエピトープ369−377、VVエピトープVP35#1または対照としてのHER−2エピトープ435に対して特異的なキメラA2Kb−テトラマーで染色した。(B)脾細胞は、ヒトチロシナーゼエピトープ369−377、VVエピトープVP35#1または対照としてのHER−2エピトープ435でそれぞれペプチド刺激した。そして、その脾細胞を、続いて、細胞内インターフェロンγ産生(ICS)によりスクリーニングした。全ての結果は、4匹のマウスの平均値±標準偏差で表している。
【0067】
図5
非相同的DNA−MVA prime−boost免疫化により誘導される急性期のチロシナーゼ特異的二次CD8+ T細胞応答。A2Kbマウスは、i.m.を、DNAワクチンコード化チロシナーゼ(DNA-vaccine encoding tyrosinase)で二回刺激し、i.p.を、真正チロシナーゼを産生するrecMVA(MVA−hTyr) 107IUまたはユビキチン化チロシナーゼを産生するrecMVA(MVA−ubi/hTyr)107IUで一回追加免疫した。脾細胞は、ヒトチロシナーゼエピトープ369−377に対する特異性を、最終のワクチン投与から5日後に解析した。(A)は、キメラのA2Kbテトラマー染色による解析結果であり、(B)は、ICSによる解析結果である。結果は、少なくとも3回の独立した実験により表している。
【0068】
図6
非相同的MVA−MVA prime−boost免疫化により誘導される急性期のチロシナーゼ特異的二次CD8+ T細胞応答。HHDマウスは、i.p.を、真正チロシナーゼを産生するrecMVA(MVA−hTyr)107IUで刺激し、そして、i.p.を、真正チロシナーゼを産生するrecMVA(MVA−hTyr)またはユビキチン化チロシナーゼを産生するrecMVA(MVA−ubi/hTyr)108IUで追加免疫した。脾細胞は、最終のワクチン投与から5日後に回収し、ヒトチロシナーゼエピトープ369−377、VVエピトープB22Rまたは対照としてのHER−2エピトープ435でそれぞれペプチド刺激した。そして、その脾細胞を、続いて、細胞内インターフェロンγ産生(ICS)によりスクリーニングした。
【0069】
図7
真正チロシナーゼをコードするrecMVA(MVA−hTyr P7.5)、ユビキチン化チロシナーゼをコードするrecMVA(MVA−ubi/hTyr P7.5)または親MVA(MVA−wt)に感染したRMA細胞のパルスチェイス実験。感染から5時間後の細胞を20分間飢餓状態にし、続いて、50μCiの35S標識化メチオニンおよびシステインで45分間パルスし、さらに続いて、RPMI培地で追跡した。免疫沈降は、図示した時点において、抗チロシナーゼmAb C−19により行った。沈殿物は、8%SDS−PAGEにより分離し、ホスホイメージャー(phosphorimager)で可視化した。ユビキチン化チロシナーゼのin vivo半減期は、有意に減少し、30分未満であると評価することができた。一方、真正チロシナーゼのin vivo半減期は、10時間を越えると評価された(Jimenez et al., 1988)。
【0070】
図8
感染したRMAおよびHeLa細胞中でrecMVAにより発現されるユビキチン化ヒトチロシナーゼの免疫沈降。
【0071】
図9
in vivoでのMVA−ubi/hTyrの免疫原性。HLA−A*0201拘束性チロシナーゼエピトープ特異的CD8+ T細胞応答は、HHDマウスのMVA/MVA prime/boostワクチン投与(リコール)後に測定した。全てのマウスは、10e5 IU(A)または10e7 IU(B)のMVA−hTYRにより刺激し、10e7 IUのMVA−Ub−hTyrまたはMVA−hTyrで追加免疫した。脾細胞は、追加免疫から5日後に、細胞内インターフェロンγ産生によりスクリーニングした。
【0072】
図10
比較的低用量の一次ワクチン投与後に、MVA−hTyr追加免疫した動物と比較した、MVA−Ub/hTyrの高効率なin vivo細胞傷害性。HDDマウスは、107(A)または106(B)IUのMVA−hTyrで刺激し、続いて、刺激後30日目に、107IU のMVA−hTyrまたはMVA−Ub/hTyrで追加免疫した。ヒトチロシナーゼエピトープ369−377、または、対照としてのHER−2エピトープ 435−443で標識したi.v.注入自己脾細胞の急速in vivo死滅を、追加免疫後5日目に評価した。図示の通り、血液または脾臓における標的細胞の5時間での特異的なin vivo溶解を、異なる刺激用量(priming doses)において比較した。
【0073】
図11
免疫化に先立ちrecMVAを形質導入した細胞の免疫化により追加免疫した、急性期のチロシナーゼ特異的二次CD8+ T細胞応答。HHDマウスは、i.p.を、真正チロシナーゼを産生するrecMVA(MVA−hTyr)107IUで刺激し、そして、i.p.を、真正チロシナーゼを産生するrecMVA(MVA−hTyr)またはユビキチン化チロシナーゼを産生するrecMVA(MVA−ubi/hTyr)10 IU/細胞に感染したRMA−HHD細胞106個で追加免疫した。脾細胞は、最終のワクチン投与から5日後に回収し、ヒトチロシナーゼエピトープ369−377、または対照としてのHER−2エピトープ 435でそれぞれペプチド刺激した。そして、その脾細胞を、細胞内インターフェロンγ産生(ICS)によりスクリーニングした。
【実施例】
【0074】
[物質および方法]
[プラスミド構築]
ユビキチン/チロシナーゼ融合遺伝子は、MVAトランスファーベクターpIIIdHR−P7.5にクローン化して構築した。ここで、本発明者等は、他の非Ubまたは非hTyr DNA配列が挿入されることのなく、ユビキチン(Ub)遺伝子がチロシナーゼ(hTyr)cDNAと融合するハイブリダイゼーションPCR法を確立した。タンパク質への融合体として発現されたユビキチンは、そのG76残基が、細胞質プロテアーゼにより切断されるため、本発明者等は、G76を、プラスミドベクターにより発現された際に、細胞質切断を回避することが知られているA76に変異させることを目的とした(Rodriguez F et al, J Virol, 1997)。
【0075】
第1の工程において、ユビキチンは、標準的な逆転写PCR(Titan One Tube RT−PCR System(商品名)、Roche社)を用い、製品マニュアルにしたがって、マウスB16メラノーマ細胞のRNA標品から増幅させた。生成するフラグメントの5’−末端においてBamHI制限部位(下線部)を作成するため、3’−末端においてhTyrとの15bpのオーバーラップを作成するため、さらに、ユビキチン残基G76をA76(下線および全角で示した残基)に変異させるために、プライマーとして、5´-GGG CGG ATC CGA CCA TGC AGA TCT TCG TGA AGA CCC TGAC-3´ および 5´-CAA AAC AGC CAG GAG CAT CGC ACC TCT CAG GCG AAG GAC CAG-3´を選択した。
【0076】
第2工程において、ヒトチロシナーゼを、標準的なPCRを用いて、プラスミドpcDNAI−hTyrから増幅させた(Drexler et al. Cancer Res, 1999)。プライマー5´-CGC CTG AGA GGT GCG ATG CTC CTG GCT GTT TTG TAC TGC CTG- 3´ および 5´-GGG CGT TTA AAC TTA TAA ATG GCT CTG ATA CAA GCT GTG GT- 3´は、5’−末端におけるユビキチンとの18bpオーバーラップおよび3’−末端におけるPmeI制限部位(下線部)を有するhTyr cDNAを伸長させた。
【0077】
得られたフラグメントを精製し(商品名PCR−purification−kit、Qiagen社)、これを鋳型として、プライマー5´-GGG CGG ATC CGA CCA TGC AGA TCT TCG TGA AGA CCC TGAC-3´ および 5´-GGG CGT TTA AAC TTA TAA ATG GCT CTG ATA CAA GCT GTG GT-3´とともにハイブリダイゼーションPCR法に用いた。MVAトランスファーベクターpIIIdHR−P7.5−Ub−hTyrを産生するために、融合ユビキチン/チロシナーゼ遺伝子(Ub−hTyr)を、pIIIdHR−P7.5の特有のBamHI/PmeI制限部位にクローン化した。pIIIdHR−P7.5は、P7.5 early/lateプロモーター、lacZ遺伝子配列、K1L宿主範囲選択遺伝子、および、MVAゲノムの欠失IIIに組み込まれるフランキングMVA−DNA配列を含む。
【0078】
それから、ベクターpIIIdHR−P7.5−Ub−hTyrをエレクトロポレーション法によりEscherichia coli DH10B(Gibco社)に導入し、アンピシリン耐性により選択した。プラスミドDNAを増幅させ、調製した(商品名Maxiprep Kit、Qiagen社)。
【0079】
[組換え体ウィルスの産生]
組換え体ウィルスは、公知(Staib et al. 2004)である、相同組換えおよびその後の一過性な宿主範囲選択により得た。簡潔に述べると、ニワトリ胚繊維芽細胞(CEF)の単層を、6ウェル組織培養プレートで80%コンフルエンスまで増殖させ、続いて、1細胞当たり0.01の感染効率(MOI)でMVA−wtを感染させた。感染から1時間後の細胞に対し、形質移入剤(商品名FuGENE6、Roche社)を用い、プラスミドpIIIdHR−P7.5−Ub−hTyrをトランスフェクションした。そして、その細胞を無血清RPMI培地中で8時間インキュベートした。続いて、細胞を洗浄し、RPMI/10%FCS中における48時間のインキュベーション後、細胞を回収し、凍結および解凍を3回繰り返し、カップソニケーター(cup sonicator)で超音波処理した。遊離したウィルスは、連続的に希釈し、そして、宿主範囲選択のため、ウサギ腎臓細胞(RK−13)の感染に用いた。DNA抽出およびPCRにより、RK13細胞における2〜3回のプラーク継代の後、微視的に典型的なプラークを、組換え遺伝子およびwt−DNAについてスクリーニングした。組換えMVA−Ub−hTyrを産生するMVA−wtフリーなプラークを、CEF細胞におけるプラーク精製を進めるために用い、これによりK1L宿主範囲遺伝子を除去し、続いて増幅させた。ウィルスのストックを精製し、滴定し、MVA−wtの非存在およびMVA−Ub−hTyrの存在下、PCRにより解析した。
【0080】
[ウェスタンブロット解析]
ユビキチン化チロシナーゼの発現および分解を、ウェスタンブロット解析により確認した。ベビーハムスター腎臓細胞(BHK)、マウス繊維芽細胞(NIH 3T3)、マウスTリンパ腫細胞(RMA)およびヒト子宮頚部癌細胞(HeLa)を、図示した特異的プロテアソーム阻害剤の存在下、MOI=10の、真正チロシナーゼをコードするrecMVA(MVA−hTyr P7.5)、ユビキチン化チロシナーゼをコードするrecMVA(MVA−Ub−hTyr P7.5)または親MVA(MVA−wt)に感染させた。細胞を図示した時点で回収し、凍結および解凍し、超音波処理した。免疫沈降を、図示したとおり 行った(図8参照)。細胞可溶化物は、SDS−8%ポリアクリルアミドゲル上で電気泳動法により分離し、そして、25mMトリス、192mMグリシンおよび20%メタノールを含む緩衝液(pH8.6)中で、1時間、ニトロセルロース上に電気ブロットした。ブロットは、1%BSAおよび0.1%NP40を含むPBSブロッキング緩衝液中、室温で1時間ブロッキングし、続いて、ブロッキング緩衝液で100倍希釈したmAb T311(Novocastra社)を用いて室温で終夜インキュベートした。そのブロットを0.1%NP40を含むPBSで洗浄後、西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG二次抗体(Dianova社)を用いて室温で1時間インキュベートし、高感度ケミルミネッセンス(ECL)により可視化した。
【0081】
[結果]
MVA−Ub−Tyrにより発現したユビキチン化チロシナーゼは、MVA−Tyrにより発現した真正チロシナーゼよりわずかに大きいサイズであり、8kDのモノユビキチンとの融合を反映した。MVA−Ub−Tyrにより発現したユビキチン化チロシナーゼは、真正チロシナーゼの発現または検出に影響しない特異的なプロテアソーム阻害剤の存在下でのみ検出可能であった。プロテアソームが効果的に阻害された場合は、前記2つの構築物間において、発現したタンパク質の全量に差はなかった。プロテアソーム阻害がない場合、ユビキチン化チロシナーゼのタンパク質量は、ウェスタンブロット解析における検出レベル未満であり、このことは、チロシナーゼのユビキチン化が急速なプロテアソーム依存性分解につながることを示す。
【0082】
[免疫沈降]
細胞可溶化物は、ウェスタンブロット解析において前述した通りに調製し、ロッキングデバイスを用いて、0.2μgのmAb C−19(商品名、Santa Cruz Biotech社、ハイデルベルク)と4℃で1時間インキュベートした。続いて、注意深く振盪させた20μLのProtein−G−Agarose(商品名、Santa Cruz Biotech社、ハイデルベルク)を加え、プローブを、ロッカー(rocker)を用いて4℃で終夜インキュベートした。
【0083】
[パルスチェイス実験および放射性免疫沈降法]
パルスチェイス実験は、真正チロシナーゼをコードするrecMVA(MVA−hTyr P7.5)、ユビキチン化チロシナーゼをコードするrecMVA(MVA−ubi/hTyr P7.5)または親MVA(MVA−wt)に感染したRMA細胞について行った。感染から5時間後の細胞を、ウルトラグルタミン(ultraglutamin)およびピルビン酸を各1%ずつ含むメチオニン/システインフリーダルベッコ(Dubecco’s)培地で20分間飢餓状態にし、続いて、50μCiの35S標識化メチオニンおよびシステインで45分間パルスし、さらに、RPMI培地で追跡した。免疫沈降は、図示した時点において、抗チロシナーゼmAb C−19により行った。沈殿物は、8%SDS−PAGEにより分離し、そして、ホスホイメージャー(商品名)で可視化した。
【0084】
[結果]
パルスチェイス実験は、MVA−TyrおよびMVA−Ub−Tyrにより発現した放射標識タンパク質が等しい量であることを示した。ユビキチン化チロシナーゼは、再度、予期したとおりの増大したサイズを示した。MVA−Tyrにより発現した真正チロシナーゼは、4時間を越える観測期間において安定であった。一方、MVA−Ub−Tyrにより発現したユビキチン化チロシナーゼは、急速に分解した。ユビキチン化チロシナーゼのin vivo半減期は、有意に減少し、30分未満であると評価することができた。一方、真正チロシナーゼのin vivo半減期は、10時間を越えると評価された(Jimenez et al., 1988)。
【0085】
[クロム放出法]
ヒトチロシナーゼペプチドエピトープ369−377に対し反応するA*0201拘束性マウスCTLによる特異的溶解は、6時間の[51Cr]放出法により測定した。簡潔に述べると、HLA−A*0201陽性A375細胞を、MVA−wt、MVA−hTyrまたはMVA−Ub−TyrによりMOI=5で3時間感染させ、1回洗浄し、100μCiのNa51CrO4により37℃で1時間標識し、続いて4回洗浄した。標識した標的細胞は、U字底96ウェルプレートに1×104個細胞/ウェルで接種し、37℃で8時間インキュベートした。感染から15時間後、エフェクター細胞を、標的細胞と、種々のE:T比でインキュベートした。6時間後、1ウェル当たり100μLの上清を採取し、特異的な51Cr放出を測定した。
【0086】
[結果]
チロシナーゼのユビキチン化は、ウィルス感染初期の時点においてさえも、ペプチドプロセシングおよび細胞表面における高MHCクラスIペプチド密度の有効性の増加を示す、感染した標的細胞のTyr特異的CTL認識の有意な促進をもたらした。
【0087】
[マウスおよびワクチン投与スケジュール]
HLA−A*0201−トランスジェニック、HHD−、またはA2Kb−マウスは、病原体のない特別な環境下での室内繁殖により得た。マウスは、指示用量のrecMVA(i.p.)またはDNA(i.m.)によりワクチン投与した。単一免疫化マウスにより誘導される、急性期のチロシナーゼ特異的一次CD8+ T細胞応答は、ワクチン投与後8日目に解析した。MVA−MVAまたはDNA−MVA prime−boost免疫化により誘導される急性期のチロシナーゼ特異的二次CD8+ T細胞応答のために、マウスを1回刺激し(recMVA)、刺激から30日後に追加免疫するか、または、マウスを一週間間隔で2回刺激し(DNA)、最初の刺激から30日後に追加免疫し、そして最終の免疫化から5日後に解析した。マウスを殺し、脾臓を採取し、ICSまたはテトラマー結合アッセイにより解析した。
【0088】
[細胞内サイトカイン染色]
ワクチン投与したマウス由来の脾細胞を、ヒトチロシナーゼエピトープ369−377、VVエピトープVP35#1、B22R、または、対照としてのHER−2エピトープ435でそれぞれ5時間ペプチド刺激した。最後の3時間、Brefeldin A(GolgiPlug, Pharmingen)を加えた。IFNγ産生のための細胞内サイトカイン染色は、Cytofix/Cytopermキット(商品名、 Pharmingen社)を用い、製品マニュアルにしたがって行った。データは、FACSCaliburまたはFACSCanto(商品名、いずれも Becton Dickinson社)により取得した。取得データは、FLOWJO(商品名、Tree Star社)ソフトウェアを用いてさらに解析した。
【0089】
[MHCテトラマー染色による表現型T細胞の解析]
キメラA2Kbテトラマー試薬は、公知の方法(Busch et al. 1998)で調製した。細胞を、生死判別のためにエチジウムモノアジド(Molecular Probes社)と、また、表面マーカーAbsの非特異的結合を回避するために抗マウスFc−Abとインキュベートし、3回洗浄し、その後、mAbs抗 CD8α(クローン53−5.8)および抗CD62L(クローンMEL−14)(いずれもPharmingen社)により、45分間、MHCテトラマーおよび表面マーカー染色し、そして、再度3回洗浄した。全ての工程は、4℃で行った。データは、FACSCaliburまたはFACSCanto(商品名、いずれもBecton Dickinson社)により取得した。取得データは、FLOWJO(商品名、Tree Star社)ソフトウェアを用いてさらに解析した。
【0090】
[結果]
MVA−Ub−hTyrによる追加免疫を通じて誘発させたTyr−特異的CD8+ T細胞(CTL)応答は、MVA−hTyrと比較して、インターフェロンγ産生細胞中では2倍に増加し、テトラマー結合細胞中では3倍まで増加した。DNA−またはMVA−hTyrで刺激したマウスにおけるTyr特異的CTLリコール応答を最も効果的に促進するMVA−Ub−hTyrの能力は、A2Kb− およびHHD−マウスの両方において見られた。注目すべき点として、MVA−Ub−hTyrは、わずか10e5 IUのMVA−hTyrによる刺激ワクチン投与後でも、強いリコール応答を誘発することが可能であったのに対して、MVA−hTyrで追加免疫する際に、匹敵する量のインターフェロンγ産生エピトープ特異的CD8+ T細胞応答を誘発するためには、10e7 IUが必要であった(図9)。本実施例において、ユビキチン化抗原を発現するrecMVAを二次免疫応答誘発に使用することで、一次免疫のためのウィルス用量を100分の1まで低減することができる。このデータは、ユビキチン化抗原を発現するrecMVAを二次免疫応答の追加免疫に使用することで、より強力な標的抗原特異的細胞傷害性CD8+ T細胞応答を、有意に低減されたウィルス用量で誘発できることを示す。重要なことに、このことから、刺激における必要用量の低減は、例えば、VVエピトープB22Rに対する二次応答において、VV−特異的CD8+ T細胞をも減少させることがさらに示された。
【0091】
[In vivo CTLアッセイ]
未処理マウスの自己脾細胞を調製し、2つのグループに分けた。1つのグループは、ヒトチロシナーゼエピトープ369−377(1μM)でパルスし、続いて、高濃度(5μM)の5,6−カルボキシ−フルオレセインスクシンイミドエステル(CFSE, Molecular Probes社)で標識した。他のグループは、対照としてHER−2エピトープ435−443(1μM)でパルスし、低濃度のCFSE(0.5μM)で標識した。CFSE標識のために、PBS1mL当たり、ペプチドでパルスした細胞107個を、5%CO2インキュベーター中、37℃で10分間、CFSEとインキュベートした。標識反応を停止するために、RPMI/10%FCSを20mL加えた。フリーのCFSEを除くためにPBSで3回洗浄した後、1匹のレシピエントマウス当たり、各グループについて1×107個の細胞を、200μLのPBS中において1:1で混合し、尾静脈経由で静脈内注射した。5時間後、前記レシピエントマウスの脾臓および血液を回収し、標的細胞に対する特異的溶解を、FACSCanto cytometer(商品名、Becton−Dickinson社)により解析した。少なくとも5,000個の、CFSEで「低度に(low)」標識された細胞が得られた。特異的in vivo溶解は、以下の通り計算した。
100−([(% ワクチン投与レスポンダー中におけるCFSE「High」/ワクチン投与レスポンダー中におけるCFSE「low」)/(% 未処理レスポンダー中におけるCFSE「high」/未処理レスポンダー中におけるCFSE「low」)]×100)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記第1構成要素および第2構成要素を含み、前記第1構成要素および第2構成要素が、任意に、薬学的に許容可能な担体をさらに含む、キット。
a) 1以上の外来タンパク質、もしくは、前記外来タンパク質をコードする核酸、または、それらの機能的部分を含む第1構成要素;および、
b) 組換え修飾ワクシニアウィルスアンカラ(MVA)を含み、前記MVAは、融合タンパク質をコードする核酸配列を有し、
前記融合タンパク質は、ユビキチンまたはその機能的部分、および、1以上の外来タンパク質またはそれらの機能的部分を含む、
第2構成要素。
【請求項2】
前記融合タンパク質が、さらに、ユビキチンと前記外来タンパク質との間にリンカーを含む請求項1記載のキット。
【請求項3】
前記外来タンパク質が、治療用ポリペプチド、病原性薬のポリペプチドおよびそれらの機能的部分からなる群に由来する異種タンパク質である請求項1または2記載のキット。
【請求項4】
前記治療用ポリペプチドが、分泌タンパク質からなる群に由来し、例えば、抗体、ケモカイン、サイトカインまたはインターフェロンのポリペプチドである請求項3記載のキット。
【請求項5】
前記病原性薬が、ウィルス、バクテリア、原生動物、および寄生生物、ならびに腫瘍細胞または腫瘍細胞関連抗原およびそれらの機能的部分からなる群に由来する請求項3記載のキット。
【請求項6】
前記ウィルスが、インフルエンザウィルス、麻疹ウィルス、呼吸器合胞体ウィルス、デングウィルス、ヒト免疫不全ウィルス、ヒト肝炎ウィルス、ヘルペスウィルス、またはパピローマウィルスからなる群から選択される請求項5記載のキット。
【請求項7】
前記原生動物が、熱帯性マラリア原虫(Plasmodium falciparum)である請求項5記載のキット。
【請求項8】
前記バクテリアが、結核の原因となるマイコバクテリアである請求項5記載のキット。
【請求項9】
前記腫瘍細胞関連抗原が、
メラノーマ関連分化抗原、例えば、チロシナーゼ、チロシナーゼ関連タンパク質1および2、
癌精巣抗原、例えば、MAGE−1、−2、−3、およびBAGE、
ならびに、
腫瘍において過剰発現された非変異型共有抗原、例えば、Her−2/neu、MUC−1、およびp53
からなる群から選択される請求項5記載のキット。
【請求項10】
前記融合タンパク質および/または外来タンパク質のコード領域が、それぞれ、MVAゲノム内の非必須部位に隣接しているDNA配列に隣接する、請求項1から9のいずれか一項に記載のキット。
【請求項11】
前記非必須部位が、MVAゲノム内の欠失IIIの部位である請求項10記載のキット。
【請求項12】
組換えMVA粒子の感染単位(IU)として測定された前記第1構成要素の量と前記第2構成要素の量との比が、1:5〜1:20、好ましくは1:10である請求項1から11のいずれか一項に記載のキット。
【請求項13】
抗癌治療または感染症予防に用いるための、請求項1bで定義した組換えMVAまたは請求項1から12のいずれか一項に記載したキット。
【請求項14】
哺乳類のT細胞応答の促進方法に使用する医薬の製造のための、請求項1から12のいずれか一項に記載したキットの使用であって、
前記T細胞応答促進方法が下記a)〜c)工程を含む使用。
a) 請求項1から12のいずれか一項に記載のキットを準備する工程
b) 一次免疫応答を与えるために有効な量の前記第1構成要素により、哺乳類を刺激する工程
c) 二次免疫応答を与えるために有効な量の前記第2構成要素により、前記哺乳類を追加免疫する工程
【請求項15】
癌治療用または感染症予防用の医薬を製造するための、請求項14記載の使用。
【請求項16】
前記追加免疫工程を、前記刺激工程の後2〜12週間、好ましくは4〜8週間に行う、請求項14または15記載の使用。
【請求項17】
ワクチン投与方法に用いる請求項14から16のいずれか一項に記載の使用。
【請求項18】
処置される動物がヒトである請求項14から17のいずれか一項に記載の使用。
【請求項19】
組換えMVAの使用であって、
前記組換えMVAは、prime−boostワクチン投与における追加免疫薬として、融合タンパク質をコードする核酸配列を有し、
前記融合タンパク質は、ユビキチンまたはその機能的部分、および、1以上の外来タンパク質またはその機能的部分を含む、
組換えMVAの使用。
【請求項1】
下記第1構成要素および第2構成要素を含み、前記第1構成要素および第2構成要素が、任意に、薬学的に許容可能な担体をさらに含む、キット。
a) 1以上の外来タンパク質、もしくは、前記外来タンパク質をコードする核酸、または、それらの機能的部分を含む第1構成要素;および、
b) 組換え修飾ワクシニアウィルスアンカラ(MVA)を含み、前記MVAは、融合タンパク質をコードする核酸配列を有し、
前記融合タンパク質は、ユビキチンまたはその機能的部分、および、1以上の外来タンパク質またはそれらの機能的部分を含む、
第2構成要素。
【請求項2】
前記融合タンパク質が、さらに、ユビキチンと前記外来タンパク質との間にリンカーを含む請求項1記載のキット。
【請求項3】
前記外来タンパク質が、治療用ポリペプチド、病原性薬のポリペプチドおよびそれらの機能的部分からなる群に由来する異種タンパク質である請求項1または2記載のキット。
【請求項4】
前記治療用ポリペプチドが、分泌タンパク質からなる群に由来し、例えば、抗体、ケモカイン、サイトカインまたはインターフェロンのポリペプチドである請求項3記載のキット。
【請求項5】
前記病原性薬が、ウィルス、バクテリア、原生動物、および寄生生物、ならびに腫瘍細胞または腫瘍細胞関連抗原およびそれらの機能的部分からなる群に由来する請求項3記載のキット。
【請求項6】
前記ウィルスが、インフルエンザウィルス、麻疹ウィルス、呼吸器合胞体ウィルス、デングウィルス、ヒト免疫不全ウィルス、ヒト肝炎ウィルス、ヘルペスウィルス、またはパピローマウィルスからなる群から選択される請求項5記載のキット。
【請求項7】
前記原生動物が、熱帯性マラリア原虫(Plasmodium falciparum)である請求項5記載のキット。
【請求項8】
前記バクテリアが、結核の原因となるマイコバクテリアである請求項5記載のキット。
【請求項9】
前記腫瘍細胞関連抗原が、
メラノーマ関連分化抗原、例えば、チロシナーゼ、チロシナーゼ関連タンパク質1および2、
癌精巣抗原、例えば、MAGE−1、−2、−3、およびBAGE、
ならびに、
腫瘍において過剰発現された非変異型共有抗原、例えば、Her−2/neu、MUC−1、およびp53
からなる群から選択される請求項5記載のキット。
【請求項10】
前記融合タンパク質および/または外来タンパク質のコード領域が、それぞれ、MVAゲノム内の非必須部位に隣接しているDNA配列に隣接する、請求項1から9のいずれか一項に記載のキット。
【請求項11】
前記非必須部位が、MVAゲノム内の欠失IIIの部位である請求項10記載のキット。
【請求項12】
組換えMVA粒子の感染単位(IU)として測定された前記第1構成要素の量と前記第2構成要素の量との比が、1:5〜1:20、好ましくは1:10である請求項1から11のいずれか一項に記載のキット。
【請求項13】
抗癌治療または感染症予防に用いるための、請求項1bで定義した組換えMVAまたは請求項1から12のいずれか一項に記載したキット。
【請求項14】
哺乳類のT細胞応答の促進方法に使用する医薬の製造のための、請求項1から12のいずれか一項に記載したキットの使用であって、
前記T細胞応答促進方法が下記a)〜c)工程を含む使用。
a) 請求項1から12のいずれか一項に記載のキットを準備する工程
b) 一次免疫応答を与えるために有効な量の前記第1構成要素により、哺乳類を刺激する工程
c) 二次免疫応答を与えるために有効な量の前記第2構成要素により、前記哺乳類を追加免疫する工程
【請求項15】
癌治療用または感染症予防用の医薬を製造するための、請求項14記載の使用。
【請求項16】
前記追加免疫工程を、前記刺激工程の後2〜12週間、好ましくは4〜8週間に行う、請求項14または15記載の使用。
【請求項17】
ワクチン投与方法に用いる請求項14から16のいずれか一項に記載の使用。
【請求項18】
処置される動物がヒトである請求項14から17のいずれか一項に記載の使用。
【請求項19】
組換えMVAの使用であって、
前記組換えMVAは、prime−boostワクチン投与における追加免疫薬として、融合タンパク質をコードする核酸配列を有し、
前記融合タンパク質は、ユビキチンまたはその機能的部分、および、1以上の外来タンパク質またはその機能的部分を含む、
組換えMVAの使用。
【図3】
【図5】
【図6】
【図11】
【図1】
【図2】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図5】
【図6】
【図11】
【図1】
【図2】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【公開番号】特開2013−14588(P2013−14588A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−158882(P2012−158882)
【出願日】平成24年7月17日(2012.7.17)
【分割の表示】特願2007−551633(P2007−551633)の分割
【原出願日】平成18年1月24日(2006.1.24)
【出願人】(507243131)ゲーエスエフ−フォルシュングスツェントルム フュア ウムヴェルト ウント ゲズンドハイト ゲーエムベーハー (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年7月17日(2012.7.17)
【分割の表示】特願2007−551633(P2007−551633)の分割
【原出願日】平成18年1月24日(2006.1.24)
【出願人】(507243131)ゲーエスエフ−フォルシュングスツェントルム フュア ウムヴェルト ウント ゲズンドハイト ゲーエムベーハー (2)
【Fターム(参考)】
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