説明

MgB2超電導バルク磁石の製造方法、およびMgB2超電導バルク磁石

【課題】すぐれた超電導性能を有し、強力コイル磁石としての使用の可能性も高いMgB2に着目し、これを線材ではなく、バルク磁石として利用するための、MgB2超電導バルク磁石の製造方法、および当該方法によって製造したMgB2超電導バルク磁石を提供すること。
【解決手段】粒径10μm以下のホウ素元素含有粉末と、マグネシウム元素含有粉末とが混合されてなる原料粉末を調整する原料粉末調整工程と、前記原料粉末調整工程により調整された原料粉末を任意のバルク形状に成型するバルク成型工程と、前記バルク成型工程により形成されたバルクを熱処理する熱処理工程と、前記熱処理工程後のバルクを着磁して磁石とする着磁工程と、からなることを特徴とするMgB2超電導バルク磁石の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MgB2超電導バルク磁石の製造方法、および当該方法によって製造されたMgB2超電導バルク磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境への配慮から二酸化炭素削減技術が注目を集めており、たとえば電気自動車に代表されるように、化石燃料を用いた動力(内燃機関)から電気を用いた動力(モータ)への移管が図られている。高性能高出力のモータには強力磁石が不可欠であることから、当該強力磁石の需要も日に日に高まってきている。
【0003】
従来から、強力磁石としてはネオジム磁石(Nd−Fe−B)に代表される永久磁石やREBCO超電導バルク体磁石などが知られている。
【0004】
しかしながら、これらの磁石は機械的強度が必ずしも十分ではなく、また近年はレアアースメタルの価格が高騰し、かつ供給が不安定であるため、これらに代わる強力磁石の開発が望まれている。
【0005】
一方で、二ホウ化マグネシウム(MgB2)は、2001年に永松氏らにより超電導を示すことが見出されて以来、これを線材とし、超電導コイル磁石として磁場発生に用いる研究はされている(たとえば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−296156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、MgB2を超電導バルク磁石として使用することは行われておらず、したがって、MgB2超電導バルク磁石の製造方法についてもさほどの研究はなされていなかったのが現状である。
【0008】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、すぐれた超電導性能を有し、強力磁石としての使用の可能性も高いMgB2に着目し、これを線材ではなく、バルク磁石として利用するための、MgB2超電導バルク磁石の製造方法、および当該方法によって製造したMgB2超電導バルク磁石を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、粒径10μm以下のホウ素元素含有粉末と、マグネシウム元素含有粉末とが混合されてなる原料粉末を調整する原料粉末調整工程と、前記原料粉末調整工程により調整された原料粉末を任意のバルク形状に成型するバルク成型工程と、前記バルク成型工程により形成されたバルクを熱処理する熱処理工程と、前記熱処理工程後のバルクを着磁して磁石とする着磁工程と、からなることを特徴とするMgB2超電導バルク磁石の製造方法である。
【0010】
上記の発明にあっては、前記原料粉末調整工程において用いられるホウ素元素含有粉末がアモルファスホウ素粉末であってもよい。
【0011】
また、上記の発明にあっては、前記原料粉末調整工程において用いられるマグネシウム元素含有粉末が、酸化物不純物の含有率が5%以下の高純度マグネシウム粉末であってもよい。
【0012】
また、上記の発明にあっては、前記熱処理工程が、酸素濃度30%以下の低酸素雰囲気において、500℃以上の温度で、1分間以上行われてもよい。
【0013】
また、上記の発明にあっては、前記熱処理工程が、密閉状態において行われてもよい。
【0014】
さらに、上記課題を解決するための本発明は、前記本発明のMgB2超電導バルク磁石の製造方法によって製造され、当該磁石は、その磁力線に対し垂直な平面で考えた場合、当該平面内の磁力線の中心から平面端部までの長さが最も長い平面において、当該磁石の磁力線の中心から当該平面端部までの長さが最も短い部分の長さが1〜1000mmとなる形状であることを特徴とするMgB2超電導バルク磁石である。
である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高価なレアアースメタルを含まず、比較的安価なホウ素とマグネシウムからなり、かつ1.5テスラ以上の強力な磁力を持ち得るMgB2超電導バルク磁石を任意の形状で簡単に製造することができる。また、本発明により製造された本発明のMgB2超電導バルク磁石は、軽量であって、磁場均一性、磁束クリープ特性、さらには機械的特性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のMgB2超電導バルク磁石の製造方法を説明するためのフローチャート図である。
【図2】実施例の型がついた状態のMgB2バルクの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明のMgB2超電導バルク磁石の製造方法について説明する。
【0018】
図1は、本発明のMgB2超電導バルク磁石の製造方法を説明するためのフローチャート図である。
【0019】
図1に示すように、本発明のMgB2超電導バルク磁石の製造方法は、粒径10μm以下のホウ素元素含有粉末とマグネシウム元素含有粉末とを混合されてなる原料粉末を調整する原料粉末調整工程S1と、前記原料粉末調整工程により調整された原料粉末を任意のバルク形状に成型するバルク成型工程S2と、前記バルク成型工程により形成されたバルクを熱処理する熱処理工程S3と、前記熱処理工程後のバルクを着磁して磁石とする着磁工程S4と、からなる。以下に各工程について詳細に説明する。
【0020】
(1)原料粉末調整工程
この工程は、MgB2超電導バルク磁石を製造するための原料となる粉末、より具体的には、ホウ素元素含有粉末とマグネシウム元素含有粉末を調整する工程である。
【0021】
そして、本発明は、当該工程において粒径10μm以下の微細なホウ素元素含有粉末を使用することを特徴とする。このような微細なホウ素元素含有粉末を用いることにより、製造されるバルク磁石にクラックや巨大な空隙が発生することを抑制することができ、その結果、磁場の均一性の向上、および機械的強度の向上を図ることができる。また、微細なホウ素元素含有粉末を用いることで、製造されるバルク磁石の結晶粒界密度を上げてピン力を向上することもでき、その結果、磁場の強度の向上、およびクリープ特性の向上を図ることができる。さらに、微細なホウ素元素含有粉末を用いることにより、製造されるバルク磁石全体に対するMgB2結晶の大きさの比率を小さくすることができるので、製造されるバルク磁石各々の個体差を小さくすることができ、その結果、歩留まりの向上を図ることもできる。
【0022】
本発明において用いられるホウ素元素含有粉末の粒径は、10μm以下であればよく、好ましくは3μm以下、より好ましくは500nm以下である。
【0023】
本発明において、ホウ素元素含有粉末の粒径を10μm以下とする方法については特に限定することはなく、ホウ素元素含有粉末単体を公知の手段で粉砕するなどしてもよい。粉砕手段としては、乳鉢を用いた粉砕やボールミルを用いた粉砕などを挙げることができる。また、ナノレベルの粉末を購入してもよい。
【0024】
本発明において用いられるホウ素元素含有粉末とは、単純に単体のホウ素粉末のみならず、ホウ素元素を含有する粉末であればよく、例えば、種々のホウ素化合物の粉末、さらには二ホウ化マグネシウムの粉末であってもよい。さらには、液体に溶解しているホウ素元素に由来するものであってもよい。中でも、単体のホウ素粉末であることが好ましく、この場合にあっては、結晶性のホウ素粉末であってもアモルファス(非結晶性)のホウ素粉末であってもよい。しかしながらアモルファスホウ素粉末を用いることにより、この後に行われる熱処理工程を短時間・低温とすることができるため好ましい。
【0025】
一方で、当該工程において用いられるマグネシウム元素含有粉末にあっては、本発明は特に限定することはなく、たとえば、従来からのMgB2超電導線材を製造する際に用いられているマグネシウム元素含有粉末を用いることができる。なお、上記ホウ素元素含有粉末と同様、マグネシウム単体の粉末のみならず、種々のマグネシウム化合物の粉末であってもよい。しかしながら、マグネシウム粉末として、酸化物不純物の含有率が5%以下、より好ましくは1%以下の高純度マグネシウム粉末を用いるのが特に好ましい。高純度のマグネシウムを用いることにより、製造されるバルク体の磁場の均一性と強度を向上することができる。このような高純度マグネシウム粉末を得る方法については、本発明は特に限定することはなく、たとえば市販されている高純度試薬を購入することなどにより得ることができる。
【0026】
また、当該マグネシウム元素含有粉末の粒径については特に限定されることはなく適宜設計可能であるが、結合するホウ素元素含有粉末の粒径を考慮し、1mm以下とすることが好ましく、特に100μm以下とすることが好ましく、45μm以下が特に好ましい。
【0027】
ここで、当該工程において用いられるホウ素元素含有粉末とマグネシウム元素含有粉末との配合割合については、特に限定されることはなく、最終的に製造されるバルク磁石に求める性能等によって適宜調整可能である。たとえば、マグネシウム元素含有粉末に含まれるマグネシウムのモル数を1とした場合、ホウ素元素含有粉末に含まれるホウ素を0.5以上の割合で配合することが好ましく、1.9〜2.1の割合で配合することが特に好ましい。
【0028】
また、本発明は、当該工程において調整される原料粉末中に上記で説明したホウ素元素とマグネシウム元素以外の成分が含有されることを禁止することはなく、これら以外の成分が含有せしめられてもよい。具体的には、たとえば、炭素元素が含有せしめられてもよくこの場合、マグネシウム元素含有粉末に含まれるマグネシウムのモル数を1として、0以上0.1以下の割合で配合されていることが好ましい。炭素をこの割合で配合することにより、ピン力およびクリープ特性の向上を図ることができる。
【0029】
(2)バルク成型工程
この工程は、前記原料粉末調整工程S1により調整された原料粉末を任意のバルク形状に成型する工程である。
【0030】
当該工程は、従来公知の手段・方法により適宜行えばよく、本発明において特に限定することはない。より具体的には、例えばネオジム磁石と同様、粉末に圧力を加えて固めることで成型する方法などを採用することができる。また、バルクの形状についても特に限定することはなく、円柱状、板状、リング状など任意の形状とすることができる。さらに、バルクの大きさについても特に限定することはなく、例えば、最終的に磁石となった際において、その磁力線に対し垂直な平面で考えた場合、当該平面内の磁力線の中心から平面端部までの長さが最も長い平面において、当該磁石の磁力線の中心から当該平面端部までの長さが最も短い部分の長さが1〜1000mmとなる形状とすることが好ましい。
【0031】
なお、上記のような形状のバルクとする場合、マグネシウムやホウ素と反応しない材質、たとえばステンレスや金属、さらにはセラミックスなどにより形成された型を用い、この型のままで次の熱処理工程を行うことが好ましい。これにより、熱処理中のクラックの発生を抑制できる。
【0032】
(3)熱処理工程
この工程は、前記バルク成型工程により形成されたバルクを熱処理する工程である。
【0033】
当該工程についても本発明は特に限定することなく、従来行われてきた熱処理と同様に行えばよい。
【0034】
本発明においては、上記で説明したように、微細なホウ素元素含有粉末を用いているため、熱処理工程を省エネルギー化することができ、具体的には、酸素濃度30%以下の低酸素雰囲気において、500℃以上の温度で、1分間以上で行うことができる(通常は600℃以上の温度で行われる)。
【0035】
また、本発明は、前記のように従来に比べて低温で熱処理ができるため、熱処理に用いる装置についてもその選択の幅を広げることができ、具体的にはステンレスや鉄など、バルク体の原料となるマグネシウムやホウ素と高温で反応する材質からなる熱処理装置も用いることもできる。また、本発明における熱処理工程は、高圧力下で行う必要がなく、大気中で行うことが可能であるため、装置等の自由度が増す。
【0036】
さらに、本発明における熱処理工程は、密閉状態で行うことが好ましい。マグネシウムの融点は650℃と比較的に低温であるため、熱処理中に蒸発し得るが、密閉状態で熱処理工程を行うことにより、蒸発によるマグネシウムのロスを抑えることができる。ここで、本発明でいう「密閉状態」とは、蒸発によるマグネシウムのロスを実質的に抑えることができる程度の密閉性を意味し、厳密な意味での物質の出入りがゼロの状態を意味するものではない。
【0037】
なお、本発明の方法における熱処理工程とは、加熱炉内で外部からバルクを加熱することのみならず、電磁波をバルクに照射したり電流をバルクに流すことによりバルクを内部から加熱することも含む。
【0038】
(4)着磁工程
この工程は、熱処理工程後のバルクを着磁して磁石とする工程である。
【0039】
当該工程についても本発明は特に限定することなく、従来の超電導バルク磁石において行われてきた着磁の方法を適宜選択して採用すればよい。
【0040】
(5)その他の工程
本発明の製造方法にあっては、上記で説明した4つの工程以外の工程を適宜行ってもよい。たとえば熱処理工程S3と着磁工程S4との間に、機械的強度の向上を目的として、金属複合化処理や含浸処理などを行ってもよい。
【0041】
(6)本発明のMgB2超電導バルク磁石
上記の方法により製造した本発明のMgB2超電導バルク磁石は、40K以下の温度で使用可能であり、その強い磁力と優れた磁場均一性を活かしてMRI(核磁気共鳴画像法)やNMR(核磁気共鳴)に用いてもよく、またその形状の自由度を活かしてDDSに用いてもよい。さらには、その軽量性と優れた機械的強度を活かしてモータ等に用いることもできる。
【0042】
また、RE系バルク超電導磁石と併用して用いることも考えられる。
【実施例】
【0043】
純度99.9%の粒径150nmのアモルファスホウ素粉末を約1.3g用意した。純度99.6%の粒径45μmのマグネシウム粉末を約1.3g用意した。これを、メノウ乳鉢を用いて混合した。その後、直径20mmφ、高さ5mmの円柱状形状に成型し、1mm厚のステンレス(SUS316)製のリング状の型とともに750℃で1時間の熱処理を施すことでMgB2バルクを得た。光学顕微鏡で観察したところ、クラック、巨大な空隙は観察されず、微細組織は一様であった。得られたバルクの粉末に対しX線回折測定を行った結果、バルクはほぼ単相のMgB2からなり、不純物はほぼないことが分かった。
【0044】
図2は、型がついた状態のMgB2バルクの写真である。
【0045】
熱処理後に得られたMgB2バルクをヘリウム冷凍機で20K以下まで冷却し、超電導マグネットを用いて無磁場下冷却、または磁場下冷却条件により5テスラの磁場下で着磁を行い、MgB2超電導バルク磁石とした。
【0046】
MgB2超電導バルク磁石表面に配置したホール素子を用いてMgB2超電導バルク磁石の磁束密度の測定を行った。約20KにおいてMgB2超電導バルク磁石表面が1.5テスラの磁束密度を有することが分かった。また、ホール素子を走査してバルク表面の磁束密度の均一性を評価したところ、超電導バルク磁石として極めて高い磁束密度均一性を有していた。
【符号の説明】
【0047】
S1・・・原料粉末調製工程
S2・・・バルク体成型工程
S3・・・熱処理工程
S4・・・着磁工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径10μm以下のホウ素元素含有粉末と、マグネシウム元素含有粉末とが混合されてなる原料粉末を調整する原料粉末調整工程と、
前記原料粉末調整工程により調整された原料粉末を任意のバルク形状に成型するバルク成型工程と、
前記バルク成型工程により形成されたバルクを熱処理する熱処理工程と、
前記熱処理工程後のバルクを着磁して磁石とする着磁工程と、
からなることを特徴とするMgB2超電導バルク磁石の製造方法。
【請求項2】
前記原料粉末調整工程において用いられるホウ素元素含有粉末がアモルファスホウ素粉末であることを特徴とする請求項1に記載のMgB2超電導バルク磁石の製造方法。
【請求項3】
前記原料粉末調整工程において用いられるマグネシウム元素含有粉末が、酸化物不純物の含有率が5%以下の高純度マグネシウム粉末であることを特徴とする請求項1または2に記載のMgB2超電導バルク磁石の製造方法。
【請求項4】
前記熱処理工程が、酸素濃度30%以下の低酸素雰囲気において、500℃以上の温度で、1分間以上行われることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のMgB2超電導バルク磁石の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理工程が、密閉状態において行われることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のMgB2超電導バルク磁石の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のMgB2超電導バルク磁石の製造方法によって製造されており、
当該磁石は、その磁力線に対し垂直な平面で考えた場合、当該平面内の磁力線の中心から平面端部までの長さが最も長い平面において、当該磁石の磁力線の中心から当該平面端部までの長さが最も短い部分の長さが1〜1000mmとなる形状であることを特徴とするMgB2超電導バルク磁石。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−99564(P2012−99564A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244166(P2010−244166)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】