説明

MgB2超電導線材の製造方法

【課題】
本発明は、実用的な超電導線材とするために必要な、長尺線材化,高Jc化を、同時に達成することのできるMgB2超電導線材の製造方法を提供することにある。
【解決手段】
本発明のMgB2 超電導線材の製造方法は、第1のMg一次粒子とB一次粒子とを混合し、第1のMg一次粒子の表面に、B一次粒子を付着・反応させ、第1のMg一次粒子の表面にMgB4又はMgB7を生成させ、表面にMgB4又はMgB7が生成した第1のMg一次粒子と、表面にMgB4又はMgB7が生成した第1のMg一次粒子より粒子径が大きい第2のMg一次粒子とを混合し、第2のMg一次粒子の表面に、表面にMgB4 又は
MgB7 が生成した第1のMg一次粒子を付着・反応させ、第2のMg一次粒子の表面にMgB2 を生成させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MgB2超電導線材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
21世紀に入って、非特許文献1に記載のように、ニホウ化マグネシウム(MgB2 )が39Kで超電導特性を示すことが発見された。この材料は、主に、以下の特徴が知られている。
【0003】
(1)臨界温度(以下、Tc)が39Kと、従来の金属系超電導体と比べて20K以上 高い。
【0004】
(2)上部臨界磁界(以下、Hc2 )が20T程度あるいはそれ以上と、従来の金属系 超電導体より大きい。
【0005】
(3)輸送臨界電流密度(以下、Jc)は、最大で1000A/mm2 オーダーである。
【0006】
(4)磁気異方性が小さく、結晶のa軸,b軸およびc軸のどの方向にも同様の電流を 流すことができる。
【0007】
このように、MgB2 超電導体は、Tc及びHc2 が、従来の金属系超電導体より高いため、超電導マグネットに適用される場合、クエンチ事故のない、極めて安定したシステムを構築できるというメリットが生じる。
【0008】
線材作製に適用される一般的なMgB2 の線材化手法としては、主に工業化に適するパウダー・イン・チューブ(PIT)法が用いられる。このPIT法は、
(i)MgB2 超電導粉末を比較的強度の高いステンレス鋼等の金属管に充填するex− situ法
(ii)MgとBとの混合粉末を鉄等の金属管に充填し熱処理することによって超電導化 するin−situ法
の2方式に大別される。
【0009】
【非特許文献1】Nature 410,63−64(2001年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ex−situ法の場合、MgB2 超電導粉末同士の反応となるため、高温長時間の熱処理が実質的に避けられない。熱処理において、温度の高温化,時間の長時間化は、コスト増大につながるため、応用上好ましくない。
【0011】
また、ex−situ法では、充填するMgB2 超電導粉末の特性に左右されるところが大きく、具体的には、MgB2 超電導粉末の表面に酸化膜が形成されると、最終的な熱処理の際に、粉末の界面で異相が生成され、電流パスを遮断する。このため、現段階では、特に高磁場中でのJcに課題がある。
【0012】
一方、in−situ法の場合、Mg粉末とB粉末との拡散反応で、MgB2 を生成する方法が一般的である。この反応形態(Mg+2B→MgB2 )を考えると、モル体積として
Mg:14×10-33/mol,2B:9×10-33/molの各粉末を熱処理によって、
MgB2:17×10-33/mol とすることになるため、焼結密度は約26%減少することになる。これより、線材中の高密度化が困難となる。
【0013】
また、in−situ法では、金属管として、Feが使用されることが多いが、FeはBと熱的に反応することから、超電導化するための熱処理の際に、FeとBとの化合物が形成される。これにより、Jcが低下するという課題がある。
【0014】
そこで、本発明は、実用的な超電導線材とするために必要な、長尺線材化,高Jc化を、同時に達成することのできるMgB2 超電導線材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のMgB2 超電導線材の製造方法は、第1のMg一次粒子とB一次粒子とを混合し、第1のMg一次粒子の表面に、B一次粒子を付着させ、第一の熱処理をすることにより、第1のMg一次粒子と、第1のMg一次粒子の表面に付着したB一次粒子とを反応させ、第1のMg一次粒子の表面にMgB4又はMgB7を生成させる工程と、表面にMgB4又はMgB7 が生成した第1のMg一次粒子と、表面にMgB4 又はMgB7 が生成した第1のMg一次粒子より粒子径が大きい第2のMg一次粒子とを混合し、第2のMg一次粒子の表面に、表面にMgB4 又はMgB7 が生成した第1のMg一次粒子を付着させ、表面にMgB4 又はMgB7 が生成した第1のMg一次粒子を表面に付着させた第2の
Mg一次粒子を、チューブ状の金属管(シース)に充填し、伸線加工を施し、第二の熱処理をすることにより、第2のMg一次粒子と、MgB4 又はMgB7 とを反応させ、第2のMg一次粒子の表面にMgB2 を生成させる工程とを有することを特徴とする。
【0016】
なお、本発明において、一次粒子は単結晶の粒子である。
【0017】
また、第1のMg一次粒子と、第1のMg一次粒子の表面に付着したB一次粒子とを反応させ、第1のMg一次粒子の表面にMgB4 又はMgB7 を生成させた場合、及び、第2のMg一次粒子と、MgB4又はMgB7とを反応させ、第2のMg一次粒子の表面に
MgB2 を生成させた場合、のいずれの場合においても、第1のMg一次粒子の粒子径及び第2のMg一次粒子の粒子径が、それぞれ反応前より小さくなっている。
【0018】
なお、生成されたMgB2 は、金属管の内部に連続的に、つまり電気的に連続に生成されている。また、生成されたMgB2 は、金属管の内部に焼結密度がMgB2 の理論密度(2.63g/cm3)に対して85%以上で生成されている。
【0019】
また、第一の熱処理は、800〜1200℃の温度で施され、第二の熱処理は、600〜750℃の温度で施されることが好ましい。
【0020】
さらに、第1のMg一次粒子と第1のMg一次粒子の表面に付着したB一次粒子との反応や第2のMg一次粒子とMgB4又はMgB7 との反応は、拡散反応である。
【0021】
なお、第1のMg一次粒子の粒子径は10〜30μmであり、B一次粒子の粒子径は第1のMg一次粒子の粒子径に対して1/10〜1/100であり、第2のMg一次粒子の粒子径が40〜60μmであることが好ましい。
【0022】
また、本発明のMgB2 超電導線材は、線材の長手方向に連続的にMgB2 が形成され、MgB2が形成されている線材の任意の位置(断面)において、Mg粒子の周囲にMgB2が形成され、Mg粒子の平均半径が5μm以下であり、MgB2 の平均的な厚みがMg粒子の平均半径に対して、等しいかそれ以上(1倍以上)である。
【0023】
そして、本発明のMgB2 超電導線材は、線材の長手方向に連続的にMgB2 が形成され、MgB2 が形成されている線材の任意の位置(断面)において、第1のMg一次粒子と、第1のMg一次粒子より粒子径の大きい第2のMg一次粒子を有し、それぞれの粒子の周囲にMgB2 が生成されていることを特徴とする。
【0024】
なお、Mg粒子の表面に、Bあるいは、MgとBとで構成される化合物を成膜する工程を含む製造方法を用いることも有効である。
【0025】
また、本発明の製造方法により作製した線材は、Mg粉とB粉とをそれぞれ単独で用い、拡散反応させて、MgB2 を生成させる場合に比べて、体積収縮率が小さいため、熱処理後のMgB2 超電導線材のコア中における焼結密度を向上させることができ、高Jc化が可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明による超電導線材の製造方法は、実用的な超電導線材とするために必要な、長尺線材化,高Jc化を、同時に達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明者らは、超電導線材およびそのマグネットの研究開発を進め、高性能の超電導線材を作製するために必要不可欠な項目として、特に、以下の4項目が重要であることを明らかにした。すなわち、
(1)超電導体と熱的に反応しない金属管の材料の選定
(2)最終形状に加工したときの超電導体の充填密度の向上
(3)結晶粒同士の接合性の向上
(4)量子化された磁束線をトラップして、侵入した磁束線を動かないようにするピン ニングセンターの導入
である。
【0028】
以上の項目を同時に実現することで、高い特性を有する超電導線材が得られる。
【0029】
しかし、Jcは、物質固有の値ではなく、線材の構成や線材の製造方法にも大きく依存する。このため、従来の金属系超電導線材および酸化物系超電導線材に適用してきた製造方法では、MgB2超電導線材のJcはあまり向上しないことが分かった。
【0030】
したがって、超電導材料によってそれぞれ最適化を行う必要があり、MgB2 超電導体についても独自の検討が必要になった。
【0031】
そこで、本発明者らは、MgB2 超電導線材の製造方法を鋭意検討した結果、本発明のような手段を見出した。この手段を適用することにより、線材形状がどのような場合であっても、高いJcを持ち、長尺線材化が容易なMgB2 超電導線材を製造することができる。
【0032】
さらに、本実施形態をより詳細に図面を用いて説明する。但し、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0033】
図1に、本実施形態における超電導線材の製造方法の作製フロー図を示す。
【0034】
粒径が10μmの第1のMg一次粒子と、粒径が0.3μm のB一次粒子とを用いて、MgとBとの原子モル比が1:4となるように秤量した後、両者を遊星ボールミルで混合した。
【0035】
混合の際の雰囲気は、Ar中とし、時間は2時間とした。また、ポット及びボールの材質は、アルミナ製とした。
【0036】
混合した後の粉末を走査型電子顕微鏡で観察すると、粒径が10μmの第1のMg一次粒子の表面に、粒径が0.3μm のB一次粒子が、ほぼまんべんなく付着していることがわかった。
【0037】
次に、得られた粉末を用いて、800℃の温度で第一の熱処理を施した。
【0038】
熱処理した後の粉末を走査型電子顕微鏡で観察すると、第1のMg一次粒子の表面に
MgB4 が生成していることがわかった。以下、これを第1のMg一次粒子+MgB4 と略す。
【0039】
第1のMg一次粒子+MgB4 における各値は、線材の位置(断面)によって若干異なるが、第1のMg一次粒子が3μm、MgB4が3.5μmであり、粒子径は概ね10μmであった。
【0040】
なお、第1のMg一次粒子と、前記第1のMg一次粒子の表面に付着したB一次粒子との反応は、拡散反応である。
【0041】
次に、第1のMg一次粒子+MgB4 の粉末と、粒径が45μmの第2のMg一次粒子とを、MgとBとの原子モル比が1:2となるように秤量した後、両者を遊星ボールミルで混合した。
【0042】
混合の際の雰囲気は、Ar中とし、時間は2時間とした。また、ポット及びボールの材質は、アルミナ製とした。
【0043】
混合した後の粉末を走査型電子顕微鏡で観察すると、第2のMg一次粒子の表面に、第1のMg一次粒子+MgB4が、ほぼまんべんなく付着していることがわかった。
【0044】
各粒径は、第2のMg一次粒子が45μm、第1のMg一次粒子+MgB4 が10μmであった。
【0045】
得られた粉末を、外周がCuで、内周がNbのCu/Nb複合管に充填した。管の外径は12mm、内径は7mm、長さは300mmとした。
【0046】
その後、伸線加工を施すことにより、線材の直径で1.0mmまで縮径した。
【0047】
得られた線材を用いて、Ar雰囲気において、640℃,1時間、第二の熱処理を施すことにより、超電導線材とした。
【0048】
線材の横断面を走査型電子顕微鏡で観察した結果、第2のMg一次粒子の表面にMgB2が生成していることが確認できた。なお、未反応のMgが観察され、第1のMg一次粒子及び第2のMg一次粒子のいずれもが未反応Mgとして確認された。
【0049】
各粒子の粒子径は、場所によって若干異なるが、第2のMg一次粒子が33μm、
MgB2 が10μm、第1のMg一次粒子が3μmであった。こうした状態を模式的に示したものが、図3である。
【0050】
なお、第2のMg一次粒子と、MgB4又はMgB7との反応は、拡散反応である。
【0051】
次に、作製したMgB2超電導線材における断面コア部の焼結密度を評価した。ここで、焼結密度は以下のような方法により算出した。
【0052】
具体例を以下に述べる。
【0053】
一定重量(Mt(g))のMgB2超電導線材を切り分ける。次に、切り分けた超電導線材をアルコールに浸し、アルコール中での線材の重量(W(g))を計測し、超電導線材に働く浮力を算出する。
【0054】
そして、アルコール密度(ρ=0.789(g/cm3)を用いて超電導線材の体積(Vt(cm3))を算出する。具体的には、浮力をFtとすると、以下の(1)式,(2)式により、Vtが算出される。
【0055】
t=Mt−W …(1)
t=Ft/ρ …(2)
続いて、超電導線材を硝酸に溶解し、その溶液をICP(Inductive Coupled Plasma)発光分析することにより、CuとNbとで構成される金属管のシース部を定量し、超電導線材の重量に占めるシース部の割合(Y)が算出する。
【0056】
そして、超電導線材の重量から、断面コア部の重量(Mf(g))と、シース部の重量(Ms(g))とが以下の(3)式,(4)式により、算出される。
【0057】
s=Mt×Y …(3)
f=Mt−Ms …(4)
次に、シース部の体積(Vs(cm3))が、既知の比重(たとえばシース部がCuの場合、8.82(g/cm3)、Nbの場合、8.57(g/cm3))より算出され、シース部の体積から断面コア部の体積(Vf(cm3))が算出される。
【0058】
そして、断面コア部の体積から断面コア部の密度ρfが算出される。具体的には、以下の(5)式〜(7)式によりρfが算出される。
【0059】
s=Ms/シース材質の比重 …(5)
f=Vt−Vs …(6)
ρf=Mf/Vf …(7)
一方、断面コア部がMgB2 よりなっている場合、その理論密度は2.63g/cm3という値が採用されている。この理論密度と断面コア部の密度ρとの比から、断面コア部の焼結密度を算出する。
【0060】
具体的には、(8)式により、算出される。
【0061】
焼結密度(%)=(ρf/2.63)×100 …(8)
本実施例で作製した超電導線材において、第二の熱処理の後における焼結密度を評価した結果、断面コア部の密度は2.32g/cm3であり、88%の焼結密度であることがわかった。
【0062】
次に、温度4.2K で、Jc測定を行った。ここでは、超電導線材に4〜7Tの磁場を印加した。
【0063】
その結果を、図2に示す。温度4.2K,印加磁場4T中で、4100A/mm2、印加磁場6T中で、1050A/mm2のJcが得られた。
【0064】
〔比較例1〕
比較例として、以下に述べる工程により、実施例1に対する比較例としての超電導線材を作製した。
【0065】
粒径が10μmの第1のMg一次粒子と粒径が0.3μm のB一次粒子を用いて、MgとBとの原子モル比が1:2となるように秤量した後、両者を遊星ボールミルで混合した。混合の際の雰囲気は、Ar中とし、時間は2時間とした。また、ポット及びボールの材質はアルミナ製とした。
【0066】
混合した後の粉末を、走査型電子顕微鏡で観察すると、第1のMg一次粒子の表面にB一次粒子がまんべんなく付着していることがわかった。
【0067】
得られた粉末を外周がCuで、内周がNbのCu/Nb複合管に充填した。管の外径は12mm、内径は7mm、長さは150mmとした。
【0068】
その後、伸線加工を施すことにより、線材の直径で1.0mmまで縮径した。
【0069】
得られた線材を、Ar雰囲気において、640℃,1時間で熱処理することにより、超電導線材とした。
【0070】
線材の横断面を走査型電子顕微鏡で観察した結果、第1のMg一次粒子の表面に拡散反応によって生成したMgB2が存在していることが確認できた。
【0071】
本比較例で作製した超電導線材において、640℃,1時間の熱処理後における焼結密度を評価した結果、断面コア部の密度は、1.88g/cm3であり、71%の焼結密度であることがわかった。
【0072】
次に、温度4.2K で、Jc測定を行った。ここでは、超電導線材に4〜7Tの磁場を印加した。
【0073】
その結果を、図2に示す。
【0074】
Jcは、実施例1で作製した超電導線材に比べて、低い値に溜まった。これは、焼結密度の減少分が空隙となり、電流パスを遮断したためと推察される。
【実施例2】
【0075】
実施例1における第一の熱処理温度を600℃〜1300℃に100℃刻みで変化させた以外は、実施例1と同様の製造方法を用いて、MgB2 超電導線材を作製した。
【0076】
表1に第一の熱処理温度と第一の熱処理の後に、走査型顕微鏡で観察された結晶相を示す。
【0077】
また、最終熱処理後の超電導線材の断面コア部の焼結密度、及び4.2K ,4T中でのJcも併せて示す。
【0078】
【表1】

【0079】
600℃及び700℃での熱処理では、MgとB以外にMgB2 相が観察されたが、
800℃〜1000℃での熱処理では、MgB4 相が生成していることがわかった。また、1100℃及び1200℃での熱処理では、MgB7 が生成していた。しかし、1300℃まで温度を上げると同定できない相が大部分であり、超電導特性を示さなくなることがわかった。
【0080】
一方、800℃〜1200℃で熱処理することにより、超電導線材の断面コア部の焼結密度は、MgB2 理論密度の85%以上が得られ、これを反映してJcも高くなることが明らかになった。
【0081】
このことから、第一の熱処理温度は800℃〜1200℃の範囲にすることが効果的であることがわかった。
【実施例3】
【0082】
実施例1における第二の熱処理温度を500℃〜850℃に50℃刻みで変化させた以外は、実施例1と同様の製造方法を用いて、MgB2 超電導線材を作製した。
【0083】
表2に第二の熱処理温度と第二の熱処理の後に、走査型顕微鏡で観察された結晶相を示す。
【0084】
また。4.2K,4T中でのJcも併せて示す。
【0085】
【表2】

【0086】
500℃では、MgB2 が生成しないため、Jcはゼロであった。550℃まで温度を上げると、MgB2 が生成し始めるが、温度としては不十分なため、MgB2 とMgB4 とが混ざった状態になっていた。
【0087】
また、800℃以上の温度では、一旦生成したMgB2 がMgB4 に変化するため、
Jcが低下した。そして、550℃,800℃,850℃での熱処理では、4.2K ,4T中で、Jcは200〜720A/mm2に溜まった。
【0088】
熱処理温度を600℃〜750℃にすると、MgB2が生成し、4.2K,4T中で、
3900A/mm2 を超えるJcが得られた。このことから、第二の熱処理は600℃〜
750℃の範囲内にすることが効果的であることがわかった。
【0089】
本実施形態においては、パイプ状の金属管に、粉末を充填して塑性加工を施すPIT法を用いて超電導線材を作製したが、粉末を成形した圧粉成形体をパイプ状の金属管に充填し、塑性加工を施すロッド・イン・チューブ法等を採用しても構わない。超電導体と金属管とが熱的に反応し、Jcが低下するおそれがあるので、超電導体と直接接する、金属管としての金属シース材には、超電導体と反応しない材料を選択することが好ましい。
【0090】
超電導線材を縮径するために行う伸線加工には、ドローベンチ,静水圧押出,スエージャー,カセットローラーダイスあるいは溝ロールを用いることができ、1パス当たりの断面減少率が8%〜12%程度の伸線加工を繰り返し行う。
【0091】
また、曲げ特性の改善や超電導コア部の高密度化を行うために、必要に応じて多芯化を行う。多芯化に際しては、一般に、丸断面形状あるいは六角断面形状に伸線加工した線材を多芯用の金属パイプの中に組み込み、1パス当たりの断面減少率を5%〜30%程度として所定の線径まで伸線する方法が採られる。
【0092】
また、これらの方法以外にも、たとえば、溶射法,ドクターブレード法,ディップコート法,スプレーパイロシス法あるいはジェリーロール法等により作製した超電導線材を用いても、同等の超電導特性を得ることが可能である。
【0093】
作製した超電導線材は、目的に応じて2本以上複合させてスパイラル状に巻くことや、リード線状やケーブル線状に成形して利用することもできる。
【0094】
また、本実施形態は、臨界温度以下の環境において、超電導特性を発現する超電導体を用いることによって、高いJcが得られる。
【0095】
そして、液体ヘリウムによる冷却はもちろんのこと、液体水素,冷凍機伝導冷却等による冷却によっても機器の運転が可能となり、かつ磁場中においても高いJcが得られる。
【0096】
具体的には、電流リード,送電ケーブル,大型マグネット,核磁気共鳴分析装置,医療用磁気共鳴診断装置,超電導電力貯蔵装置,磁気分離装置,磁場中単結晶引き上げ装置,冷凍機冷却超電導マグネット装置,超電導エネルギー貯蔵,超電導発電機,核融合炉用マグネット等の機器(超電導機器)に適用されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、MgB2超電導線材を利用する超電導機器に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本実施形態における超電導線材の製造方法を示すフロー図。
【図2】実施例1と比較例1にて製造した超電導線材の印加磁場に関する臨界電流密度を示す図。
【図3】本実施形態における超電導線材の断面模式図。
【符号の説明】
【0099】
1 Mg(二次)
2 Mg(一次)
3 MgB2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のMg一次粒子とB一次粒子とを混合し、前記第1のMg一次粒子の表面に、前記B一次粒子を付着させ、
第一の熱処理をすることにより、前記第1のMg一次粒子と、前記第1のMg一次粒子の表面に付着した前記B一次粒子とを反応させ、前記第1のMg一次粒子の表面にMgB4又はMgB7を生成させ、
表面にMgB4又はMgB7が生成した前記第1のMg一次粒子と、表面にMgB4 又はMgB7 が生成した前記第1のMg一次粒子より粒子径が大きい第2のMg一次粒子とを混合し、前記第2のMg一次粒子の表面に、表面にMgB4又はMgB7が生成した前記第1のMg一次粒子を付着させ、
表面にMgB4又はMgB7が生成した前記第1のMg一次粒子を表面に付着させた前記第2のMg一次粒子を、チューブ状の金属管に充填し、伸線加工を施し、
第二の熱処理をすることにより、前記第2のMg一次粒子と、前記MgB4又はMgB7とを反応させ、前記第2のMg一次粒子の表面にMgB2 を生成させたことを特徴とするMgB2 超電導線材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のMgB2 超電導線材の製造方法であって、前記生成されたMgB2 は、前記金属管の内部に連続的に生成されていることを特徴とするMgB2 超電導線材の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のMgB2 超電導線材の製造方法であって、前記生成されたMgB2 は、前記金属管の内部に焼結密度がMgB2 の理論密度に対して85%以上で生成されていることを特徴とするMgB2 超電導線材の製造方法。
【請求項4】
前記第一の熱処理が、800〜1200℃の温度で施されることを特徴とする請求項1に記載のMgB2 超電導線材の製造方法。
【請求項5】
前記第二の熱処理が、600〜750℃の温度で施されることを特徴とする請求項1に記載のMgB2 超電導線材の製造方法。
【請求項6】
前記第1のMg一次粒子と、前記第1のMg一次粒子の表面に付着した前記B一次粒子との反応が、拡散反応であることを特徴とする請求項1に記載のMgB2 超電導線材の製造方法。
【請求項7】
前記第2のMg一次粒子と、前記MgB4 又はMgB7 との反応が、拡散反応であることを特徴とする請求項1に記載のMgB2 超電導線材の製造方法。
【請求項8】
MgB2超電導線材であって、
前記線材の長手方向に連続的にMgB2 が形成され、前記MgB2 が形成されている線材の任意の断面において、Mg粒子の周囲にMgB2 が形成され、Mg粒子の平均半径が5μm以下であり、MgB2 の平均的な厚みがMg粒子の平均半径に対して、等しいかそれ以上であることを特徴とするMgB2 超電導線材。
【請求項9】
MgB2超電導線材であって、
前記線材の長手方向に連続的にMgB2 が形成され、前記MgB2 が形成されている線材の任意の断面において、第1のMg一次粒子と、前記第1のMg一次粒子より粒子径の大きい第2のMg一次粒子を有し、それぞれの粒子の周囲にMgB2 が生成されていることを特徴とするMgB2 超電導線材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−140556(P2008−140556A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−322751(P2006−322751)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】