説明

MgF2単結晶体の製造方法

【課題】 偏光照明露光装置の偏光材料として要求される結晶性が良く、かつ、光を透過させる主軸方向が<100>方向であるMgF単結晶体からなる光学部材の製造方法を提供する。
【解決手段】 チョクラルスキー法でMgF単結晶体を製造するに際し、種結晶体として、<100>軸が、鉛直方向から<001>方向に向かって7°乃至45°、好ましくは7°乃至15°傾いた種結晶体を用いる。傾けた種結晶体を用いることにより、育成される単結晶体の軸方向も同じ角度で傾いたものとなるが、このようにして育成された単結晶体の結晶性は、育成方向を<001>軸方向とした場合と遜色ない結晶性を示す。また育成方向を<001>軸方向とした場合に比べて、{100}面からなる平行2面を有する板状体の取得効率がよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空紫外光透過用光学部材、特に偏光素子などの光リソグラフィー用光学部材として好適な、光を透過させる主軸方向が<100>方向であるMgF単結晶体の光学特性を向上させることのできる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化カルシウム(CaF)、フッ化マグネシウム(MgF)等のフッ化金属の単結晶は、真空紫外から赤外領域までの広範囲の波長帯域にわたって高い透過性と低屈折率・低分散を有し、化学的安定性にも優れている。そのため、広い領域での光学材料として、窓材、レンズ、プリズムなどに用いられている。とりわけ、光リソグラフィー技術において、次世代の短波長光源として開発が進められているArFレーザー(193nm)やFレーザー(157nm)光源を使用するステッパー(縮小投影型露光装置)などの装置の、窓材、光源系レンズ、照明系レンズ、投影系レンズ、偏光板等として開発が進められている。
【0003】
このような高精細ステッパーに用いるレンズには、高い結像性能(解像度、焦点深度)が求められる。このため、レンズに用いる材料は、残留応力・歪(複屈折分布)が小さい、光線透過率が高い、レーザー耐久性が高い、格子欠陥が少ないなど高度の光学特性が要求される。
【0004】
残留応力・歪が大きい場合は、これに起因して複屈折が大きくなり、ステッパーの投影系レンズなどの極めて厳密な光学特性を要求される用途には適さなくなる。格子欠陥が多いと、光の散乱による透過率の低下、コントラストの低下、フレアやゴーストの発生に繋がり、材料の特性を大きく低下させる。そのため残留応力・歪が大きい場合と同様に、高度の光学特性を要求される光学材料には適さなくなる。また、近年、レーザーのエネルギー強度が増してきており、それに伴い、レンズにおけるレーザーの繰返し照射による透過性の低下防止(レーザー耐久性)の要求も高くなってきている。
【0005】
MgF単結晶は正方晶の結晶構造であるため、{100}面を透過した光を偏光させることができ、既に偏光材料として使用されている。現状では、使用レーザーのエネルギー強度が小さく、レーザー耐久性に関しては大きな問題とならない。しかしながら、光リソグラフィーの分野では、スループットを向上させるため、高エネルギー強度のレーザーを用いて短時間露光することが進められており、今まで以上にレーザー耐久性に優れた単結晶が必要となっている。光リソグラフィーの光学部材として用いられている合成石英や人工水晶と比較して、フッ化物単結晶は、バンドギャップが極めて大きいため、紫外/真空紫外(UV/VUV)領域で非常に高い透過性を有するとともに、理論上はレーザー耐久性の高い材料である。これらのことから、その単結晶は現行の合成石英や人工水晶の代替品として期待されているとともに、一部においては使用されている。
【0006】
更に、半導体素子の集積度を上げるために露光パターンの微細化が要求されており、その解決策の一つとして偏光照明技術が開発されている。この技術に使用される偏光素子は人工水晶であるが、上述のとおり、レーザー耐久性の点でMgF単結晶が期待されている。
【0007】
更にまた、上述の光リソグラフィー分野の部材、例えばレーザー透過レンズにおいては、ステッパー装置の形状に合わせて、大口径(大直径)の部材、即ち大口径の単結晶が必要となる。しかも、工業的には安価に供給されなければならない。
【0008】
従来、こうしたフッ化金属単結晶は坩堝引下げ法(「ブリッジマン法」とも称される)や単結晶引上げ法(「チョクラルスキー法」とも称される)により製造されることが一般的である。ここで、坩堝引下げ法とは、坩堝中の単結晶製造原料の融液を、坩堝ごと徐々に下降させながら冷却することにより、坩堝中に単結晶を育成させる方法である。一方、チョクラルスキー法とは、坩堝中の単結晶製造原料の溶融液面に、目的とする単結晶からなる種結晶を接触させ、次いで、その種結晶を坩堝の加熱域から徐々に引上げて冷却することにより、該種結晶の下方に単結晶を成長させる方法である。
【0009】
ところが、坩堝引下げ法により製造したMgF単結晶は、坩堝内壁と原料融液の液面とが接した状態で単結晶が形成されていくため、異方性結晶である該単結晶の歪を許容しきれずに多結晶化したり、クラックが生じて白化したりする。そのため、完全な大口径の単結晶を工業的に安定して製造することができないのが現状である。一方、チョクラルスキー法は、製造される単結晶体が坩堝壁に接触することなく育成できる(成長する)ため、多結晶化したり、クラックが生じて白化したりする可能性が低く、また大型で歪の少ない単結晶体を効率よく製造することができる優れた方法である。更には、種結晶の結晶方位を選択することによって、単結晶体の塊(以下、「インゴット」という)の結晶成長方向を容易に制御することが可能であり、結晶成長方向が<100>方向であるインゴットは、結晶成長方向に対して<100>方向を向いた種結晶を原料溶融液に接触させた後に、該種結晶を引き上げることで製造することが可能である。(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0010】
通常、チョクラルスキー法によりレンズ等の光学部材用の単結晶を製造する際には、その方法の簡便さや加工効率の点から、光を透過させる主軸方向と同じ方向に結晶を成長させてインゴットを得た後に、該インゴットを結晶成長方向に対して垂直な面に沿って輪切りにすることで所望の結晶方向を有する板状体(以下、「ディスク」という)を切り出す工程が採用されている(図1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−182587号公報
【特許文献2】特開2004−182588号公報
【特許文献3】特開2005−029455号公報
【特許文献4】特開2006−347834号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記のようにチョクラルスキー法で<100>方向に成長させたインゴットを、成長方向に対して垂直に輪切りにしてMgF単結晶体のディスクを得た場合には、ディスク面内の結晶性が悪くなることがしばしばあることが本発明者らの検討によって明らかになった。
【0013】
結晶性は、偏光照明露光装置の偏光材料として使用する際に必要な特性であり、結晶性が悪い場合には露光時の解像度が低下して、極めて重大な問題となる。
【0014】
本発明者らが更に検討を進めた結果、上記の方法で製造したMgF単結晶体のディスクについてX線トポグラフィーという手法で結晶性の分布状態を観察したところ、結晶面内でスリップしたような直線状の乱れが観察された。これは、MgF単結晶体育成中に結晶軸の物性の差異が歪として蓄積され、スリップすることによって部分的に緩和されたものと推測される。
【0015】
また、上記のようにチョクラルスキー法で<001>方向に成長させたインゴットを成長方向に対して垂直に輪切りにしてMgF単結晶体のディスクを得た場合には、ディスク面内でのスリップしたような直線状の乱れは無いことを確認した。しかしながら、当該インゴットから<100>方向に垂直なMgF単結晶体のディスクを取得する場合には、<001>方向に対して平行に輪切りにしなければならず、収率が大きく低下してしまう。
【0016】
従って本発明は、MgF単結晶体育成中のスリップを抑えることにより、偏光照明露光装置の偏光材料として要求される結晶性が良く、かつ、光を透過させる主軸方向が<100>方向であるMgF単結晶体からなる光学部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行い、その結果、チョクラスルキー法で該種結晶体として、<100>軸が、鉛直方向から<001>方向に向かって7°乃至45°傾いた種結晶体を用い、インゴットの成長方向を上記種結晶体の鉛直方向とすることで、育成中に結晶面内においてスリップを抑えることが可能であり、該インゴットから、光を透過させる主軸方向が<100>方向になるように光学部材を切り出すことにより、結晶性の良い光学部材を製造できることを見出し、さらに検討を進めた結果、本発明を完成させるに至った。
【0018】
即ち、本発明は、MgF単結晶体からなり、光を透過させる主軸方向が該単結晶体における<100>方向である光学部材の製造方法であって、MgF溶融液に種結晶を接触させた後に引上げるチョクラルスキー法によってインゴットを<100>軸が、鉛直方向から<001>方向に向かって7°乃至45°傾いた方向に成長させて単結晶体を得、その後、該インゴットを加工して{100}面からなる平行2面を有するディスクを得る工程、を含むことを特徴とするMgF単結晶体からなる光学部材の製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
上記方法で、チョクラルスキー法で、インゴットを<100>軸が、鉛直方向から<001>方向に向かって7°乃至45°傾いた方向に成長させた後に、このインゴットから{100}面に平行な面を有するディスクを切り出してMgF単結晶体からなる光学部材の製造をした場合には、育成中の結晶面のスリップの発生を抑えることが可能であり、結晶性の高い光学部材を安定的に、また簡便かつ安価に得ることができる。
【0020】
本発明により製造される、光を透過させる主軸方向が<100>方向であるMgF単結晶体からなる光学部材は、結晶性が良く、偏光材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】板状体(ディスク)を得る従来の方法を示す模式図。
【図2】本発明におけるインゴットの加工例を示す模式図。
【図3】本発明を実施するための単結晶育成装置の模式図。
【図4】実験例および比較例で得られたディスクのX線トポグラフ像。
【図5】参考例で得られたディスクのX線トポグラフ像。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のMgF単結晶体の製造方法は、原料溶融液に種結晶を接触させた後に引上げることによりインゴットを成長させて単結晶体を得るチョクラルスキー法である。
【0023】
原料として用いるMgFとしては可能な限り不純物の少ないものを用いることが望ましく、アルカリ土類金属以外の金属不純物濃度が10ppm以下、さらには5ppm以下、特に1ppm以下であることが望ましい。また、水分や酸化物(MgO等)も可能な限り除去された原料を用いることが望ましい。
【0024】
引上げに際しては、上記原料MgFを高密度黒鉛焼結体などのカーボン製坩堝、白金坩堝等に充填し、チョクラルスキー炉内で溶融温度以上に昇温する。ここで、坩堝として特開2006−199577などに記載された二重坩堝を用いると、原料を溶融させた際に、ゴミが溶融液表面に浮いた場合に容易にゴミを除くことができ、更に結晶育成中の融液対流を安定化させて、結晶中に泡などの混入を防ぐことができるため好ましい。
【0025】
坩堝に充填する原料としては、粉末状態のものを用いても、あるいは焼結体や溶融固化体を用いても良い。チョクラルスキー炉内で溶融に先立ち、550〜650℃程度までは炉内を真空排気(好ましくは10−5Pa〜10−2Pa程度)することも、吸着水分等の揮発性不純物を除去できる点で好ましい。
【0026】
また、上記加熱により除去しきれない不純物についてはスカベンジャーを用いて除去することが好ましい。スカベンジャーとしては固体スカベンジャー、気体スカベンジャーのいずれがでもよい。
【0027】
該固体スカベンジャーとしては、フッ化亜鉛、フッ化鉛、ポリ四フッ化エチレン、フッ化銀、フッ化銅などが挙げられる。不純物の除去効果、環境負荷の点でフッ化亜鉛が好ましい。該固体スカベンジャーはフッ化物であるため育成炉内で加熱されることにより揮発拡散し、断熱材、炉壁等に吸着している水分等の不純物と接触しやすい。
【0028】
固体スカベンジャーの使用方法は、坩堝内に原料MgFとともに装入する方法、坩堝や坩堝台等に設けられたスカベンジャー装入溝に入れておく方法(例えば、特開2009−040630参照)、坩堝近傍に設置したスカベンジャー保管容器内に入れておく方法等がある。
【0029】
固体スカベンジャーの使用量は、MgF原料に対して、0.005〜0.2mol%程度使用することが一般的である。
【0030】
さらには真空排気後、または真空排気せずにCHF、CF、C等のフッ素化炭化水素ガス、或いはHF、F、COF等のフッ素系ガスを用いても良い。
【0031】
十分に溶融した原料溶融液にMgF単結晶からなる種単結晶体を接触させて徐々に引上げる。本発明の特徴は、該種結晶体として、<100>軸が、鉛直方向から<001>方向に向かって7°乃至45°傾いた種結晶体を用い、インゴットの成長方向を上記種結晶体の鉛直方向と同じ方向として単結晶体を得ることにある。
【0032】
チョクラルスキー法により単結晶体を育成すると、得られる単結晶体のインゴットの結晶方位は種結晶の方位と同じ方向となる。従って、該インゴットの結晶方位も用いた種結晶と同じく<001>方向に向かって傾いたものとなる。
【0033】
前述したような偏光性を得るために{100}面からなる平行2面を有するディスクを取得する場合には、<100>軸が鉛直方向である種単結晶体を用いることで得られた単結晶体を水平方向に切断・加工することが、最も取得効率が良い。しかしながら本発明者等の検討によればチョクラルスキー法によりMgF単結晶を<100>方向に成長させると得られる単結晶体の結晶性は著しく悪い。さらには、クラックを生じたり、多結晶化する場合もある。クラックのない部分や、多結晶化していない単結晶体から目的とするディスクを得ることも可能ではあるが、工業的に安価に供給する点では現実的でない。
【0034】
また、<001>軸が鉛直方向である種単結晶体を用いることで得られる単結晶体を加工して{100}面からなる2面を有するディスクを取得する場合、結晶性は良いが、サンプルを引上げ軸方向に対して平行(垂直)に切断しなければならず、収率や最大取得可能サイズ等の観点から効率的ではない。
【0035】
そこで本発明においては、種結晶体として、<100>軸が、鉛直方向から<001>方向に向かって7°乃至45°傾いた種結晶体を用いるものである。即ち、本発明者等の検討により、驚くべきことに結晶育成方向をわずかに<100>方向から<001>方向へと傾けるだけで、直接<001>方向で育成した場合と同レベルの結晶性が得られることを見出し、そのような方向で結晶を育成(成長)させるために種結晶を上記方向に傾けるものである。
【0036】
この傾斜角は小さければ小さいほどインゴットから{100}面からなる2面を有するディスクを取得できる効率が良いが、0°〜5°の範囲では、結晶性向上の効果は得られない。また、傾ける方向を<001>から<010>方向へとしても同じく効果は得られない。一方、傾きを大きくするほど上記面を有するディスクの取得効率が低下するため、本発明においては45°以下とする。好ましくは30°以下、特に好ましくは15°以下である。
【0037】
当該種結晶体を別の観点からみると、傾斜角度をX°(但し7≦X≦45。以下、同じ)としたとき、該引き上げ軸方向に対して垂直に切断した場合の切断面は{100}面が鉛直方向から{001}面方向に向ってX°傾いた面となる。
【0038】
なお用いる種結晶体の形状は、チョクラルスキー法に用いられる公知の形状であれば特に限定無く採用することができ、具体的には、円柱状や角柱状の棒状の先端部を有するものが挙げられる。さらにはその最先端部の形状、即ち原料溶融液と接触する部分の形状は特に限定されず、平面状でも錐上でも如何なる形状でも良い。
【0039】
上記の如き種結晶体を用いることにより、育成されるMgF単結晶体もその鉛直方向の軸の向きが<100>方向から<001>方向へと傾いたものとなる。より具体的には、種結晶体が<100>方向から<001>方向へとX°傾いたものを用いれば、育成される単結晶体も<100>軸が、鉛直方向から<001>方向に向かってX°傾いた方向に一致して単結晶体が成長する。
【0040】
本発明におけるMgF単結晶体の引上げは、上述の如き種結晶体を用いる以外は公知のチョクラルスキー法における手法を適用することができる。具体的には、例えば育成炉内の圧力は常圧、減圧または加圧下で行うことができる。負結晶などの結晶欠陥の少ないMgF単結晶体が得られやすい点で、減圧下で行うことが好ましい。また雰囲気としてはHF、CF等のフッ素系ガスや、Ar、He、Ne、Nなどの不活性ガス、或いは該不活性ガスで希釈したフッ素系ガス等の雰囲気下で行うことができる。引上げ速度は通常0.1〜20mm/hである。引き上げに際しては、引上げ軸を中心として回転させることが好ましく、回転速度は0.1〜40回/分であることが好ましい。また、上記種結晶の回転に併せて坩堝も、該種結晶体の回転方向と反対方向に同様の回転速度で回転させても良い。
【0041】
所望の長さのMgF単結晶体を引上げた後、室温程度まで冷却し、チョクラルスキー炉内から取り出す。冷却速度に際しては、極端に速いと熱衝撃により、製造した(引上げた)単結晶体にヒビが入るなどの問題が生じる場合がある。従って、冷却速度は1〜500℃/hとすることが好ましく、3〜50℃/hとすることがより好ましい。
【0042】
このようにしてチョクラルスキー法によりMgF単結晶体のインゴットが得られる。通常、インゴットは単結晶体として得られるが、育成中の変動などの影響により多結晶化した部分がある場合でも、インゴットから単結晶体の部分を切り出すことにより単結晶体を得ることができる。
【0043】
上記方法によりインゴット<100>から<001>方向に向かってX°傾いた方向に成長させることにより、育成中の結晶面のスリップが少なく、また、結晶中に生じる散乱体も少ない。
【0044】
さらに、このインゴットから{100}面からなる平行2面を有するディスクを得、これをさらに加工して光を透過させる主軸方向が<100>方向である光学部材を製造すれば、<100>方向などのほかの方向に成長させたインゴットから得る場合に比べて、光学特性に優れた光学部材を得ることが可能であるという点で有利である。
【0045】
{100}面からなる平行2面を有するディスクを得る方法は特に限定されないが、通常は、概ね{100}面からなる2面を有するディスクを切り出し、次いで研削・研磨等により{100}面からなる平行2面を有するように加工する(図2参照)。また、製造された単結晶体を成長方向に対して水平方向に厚めに切断し、ついで{100}面が出るように斜めに研削加工等して製造してもよい。
【0046】
このように{100}面と平行な面のディスクに加工することにより、最終的に製造する光学部材の光を透過させる方向を、容易に<100>にそろえる事が可能になる。{100}面と平行な面で切り出す工程は、最終的な光学部材の結晶方向を合わせる操作を実施できるようにする工程であるため、切り出す面は実質的に{100}面と平行であれば良い。
【0047】
切り出した面の垂線とMgF単結晶体の<100>方向ベクトルとのなす角度は、X線を用いた結晶方位測定などの公知の評価方法を用いて特定することができる。更に、最終的な光学部材の形状に加工する段階において、十分な光学的な性能を達成するために、光の透過する主軸方向を更に精密に調整してよい。
【0048】
インゴットを切り出す際の加工方法は、公知のいずれかの方法を用いても良く、外周刃や無端状のいわゆるバンドソー、ワイヤソー等の切断刃を備えた切断装置を用いて切り出すことが一般的であり、特に、切断時の被加工物のロスを考慮するとバンドソー、ワイヤソー等の無端状の切断刃を使用することが好ましい。
【0049】
インゴットが切断加工中に割れやすい場合には、円筒研削機を用いてインゴットの端部から徐々に削りこむことによっても割れの発生を防いで所望の形状にすることもできる。
【0050】
このようにして得られたディスクは公知の方法に従って加工すれば、光学部材を得ることができる。
【0051】
当該光学部材を光リソグラフィー用とする場合には、十分な解像度が得られるように、上記加工の前にアニール処理を行って歪除去を行うことが望ましい。
【0052】
当該アニール処理は、フッ化物単結晶のアニール処理の方法として知られる公知の方法を適用すれば良い。具体的にはMgFの融点(1265℃)よりも5〜100℃程度低い温度まで加熱し、その後、徐々に降温すれば良い。降温速度は0.1〜5℃/h程度、特に0.1〜3℃/h程度である。また、より高い温度領域ではゆっくりと降温し、温度が低下するにつれて徐々に降温速度を速くしていくことも効果的である。
【0053】
アニール処理は、インゴット状態で行っても良いが、最終部品形状に近い大きさまで加工した後に行うことがより効果的である。例えば、外周部等を加工して円板状とする前に行なっても良いし、外周部を加工して円板状とした後にアニール処理を行い、その後さらに研削・研磨して光学部材とすることもできる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
実施例1
図3に模式図を示す抵抗加熱式ヒーターを有する単結晶製造用引上げ装置を用いて、MgF単結晶の製造を行った。
【0056】
この単結晶製造用引上げ装置において、チャンバー(4)内に設置された高純度グラファイト製の外坩堝(1)は、内直径22.5cm、外直径23.8cm、高さ17cmのものである。この外坩堝(1)内に、リッド材(18)に固定された内坩堝吊り具(20)によって、内坩堝が吊り下げられ、固定されている。内坩堝(2)は、内直径18cm、外直径19.2cmであり、高さ9.4cmのものである。
【0057】
内坩堝の底壁は、水平面に対して下方向への傾斜角度が30度で傾斜する縦断面の形状がV字状(すり鉢状)の形状である。該内坩堝の下端部には、直径が6mmの円筒状の連通孔(3)が1つ形成されている。断熱材壁(8)は、ピッチ系グラファイト成型断熱材であり、内径が40cmである。天井板(16)は、グラファイト製板の二重構造であり、厚み方向の放熱能力は5000W/m・Kのものである。
【0058】
MgF粉末を溶融、固化させることにより得られた塊状のMgF原料を、上記外坩堝内に、装入した。次に炉内を1×10−3Pa以下の真空度に保ち坩堝を250℃まで昇温した後、この温度で19時間保持した。その後600℃まで昇温し、この温度で20時間保持した。
【0059】
続いて、Arガス50kPaを炉内に供給した後、1300℃まで昇温し、MgF原料を溶融した。原料が完全に溶融した後、支持棒(5)を上昇させて、内坩堝内に、MgFの溶融液を流入させた。外坩堝及び内坩堝内にMgFの溶融液(12)が収容された状態で1時間保持した。
【0060】
その後、覗き窓(14)より、内坩堝内に収容された溶融液の表面状態を確認したところ、固体不純物の浮遊が確認された。そこで、支持軸を下降させて、内坩堝内に収容された溶融液の全量を外坩堝内に流出させた。その後再度、支持棒を上昇させて、外坩堝内の溶融液を内坩堝内に流入させる操作を実施した。覗き窓から、内坩堝内に収容された溶融液の表面状態を再度確認したが、このときには固体不純物は確認できなかった。
【0061】
次いで、1265℃まで温度を下げて1時間保持した後、単結晶引き上げ棒(11)を垂下させて、<100>軸が、鉛直方向から<001>方向に向かって10°傾いた種結晶(9)を接触させ、この種結晶を8rpmで回転させながら2.0mm/hの速度で引上げることにより、MgF単結晶体のインゴットを成長させた。MgF単結晶体のインゴットを所定の大きさまで成長させた後、溶融液からインゴットを切り離した。次いで、チョクラルスキー炉を80時間かけて冷却した後に、インゴットをチョクラルスキー炉から取り出した。得られたインゴットは全長145mm、直胴部の長さが100mmであった。
【0062】
上記のインゴットについて、直胴部から{100}面と平行な2つの面で切断してディスクの部材を得て、さらに得られたディスクの部材の側面を円筒研削した後に、更に切断面を研磨して、厚み10mmのMgF単結晶体のディスクを得た。
【0063】
得られたMgF単結晶体のディスクについて、X線トポグラフにて状態を観察したところ、結晶面内でスリップしたような直線状の乱れは確認されなかった。
【0064】
比較例1
種結晶の鉛直方向である<100>方向であるMgF単結晶体を用いた以外は実施例1と同様の方法で、チョクラルスキー法によりMgF単結晶体のインゴットを成長させた。得られたインゴットは全長145mm、直胴部の長さが100mmであった。上記インゴットの直胴部から、インゴットの成長方向に垂直な{100}面と平行な面(結晶引上げ方向に垂直な面)で切断してディスク状にした後に、更に切断面を研磨することで、厚み10mmのMgFのディスクを得た。更に、実施例1と同様の方法で、得られたMgFのディスクについて、X線トポグラフにて状態を観察したところ、結晶面内でスリップしたような直線状の乱れが確認された。
【0065】
比較例2
種結晶の鉛直方向である<100>軸が、鉛直方向から<001>方向に向かって5°傾いた種結晶を用いた。また、溶融液からインゴットを切り離した後にチョクラルスキー炉を48時間かけて冷却した以外は比較例1と同様の方法で、チョクラルスキー法により、MgF単結晶体のインゴットを成長させた。得られたインゴットは全長145mm、直胴部の長さが100mmであった。上記インゴットの直胴部から、{100}面と平行な面で切断してディスク状にした後に、更に切断面を研磨することで、厚み10mmのMgFのディスクを得た。更に、実施例1と同様の方法で、得られたMgFのディスクについて、X線トポグラフにて状態を観察したところ、対向する2ヶ所で結晶性が大きく乱れていることが確認された。
【0066】
比較例3
種結晶の鉛直方向である<100>軸が、鉛直方向から<010>方向に向かって10°傾いた種結晶を用いた以外は比較例2と同様の方法で、チョクラルスキー法により、MgF単結晶体のインゴットを成長させた。得られたインゴットは全長145mm、直胴部の長さが100mmであった。しかし、インゴットをチョクラルスキー炉から取り出す時点でヒビが発生していた。上記インゴットの直胴部から、{100}面と平行な面で切断してディスク状にした後に、更に切断面を研磨することで、厚み10mmのMgFのディスクを得た。更に、実施例1と同様の方法で、得られたMgFのディスクについて、X線トポグラフにて状態を観察したところ、ヒビのない部分について結晶面内でスリップしたような直線状の乱れが確認された。
【0067】
参考例1
種結晶の鉛直方向である<001>方向であるMgF単結晶体を用いた以外は実施例1と同様の方法で、チョクラルスキー法によりMgF単結晶体のインゴットを成長させた。得られたインゴットは全長145mm、直胴部の長さが100mmであった。上記インゴットの直胴部から、インゴットの成長方向に垂直な{001}面と平行な面(結晶引上げ方向に垂直な面)で切断してディスク状にした後に、更に切断面を研磨することで、厚み10mmのMgFのディスクを得た。更に、実施例1と同様の方法で、得られたMgFのディスクについて、X線トポグラフにて状態を観察したところ、結晶面内でスリップしたような直線状の乱れは観察されなかった。
【符号の説明】
【0068】
1;外坩堝
2;内坩堝
3;連通孔
4;チャンバー
5;支持棒
6;受け台
7;抵抗加熱ヒーター
8;断熱材壁
9;種結晶
10:保持具
11;単結晶引上げ棒
12;原料の溶融液
13;インゴット
14;覗き窓
15;単結晶引上げ棒の挿入孔
16;天井板
17;隔離壁
18;リッド材
19;底部断熱材
20;内坩堝吊り具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料溶融液に種結晶体を接触させた後に引上げることによりインゴットを成長させて単結晶体を得るチョクラルスキー法によりMgF単結晶体を製造する方法であって、該種結晶体として、<100>軸が、鉛直方向から<001>方向に向かって7°乃至45°傾いた種結晶体を用い、インゴットの成長方向を上記種結晶体の鉛直方向と同じ方向として単結晶体を得ることを特徴とするMgF単結晶体の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法でMgF単結晶体のインゴットを得る工程、及び得られたインゴットを加工して{100}面からなる平行2面を有する板状体を得る工程を含む、MgF単結晶体からなる光学部材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−60335(P2013−60335A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200598(P2011−200598)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】