説明

Mycoplasmahyopneumoniaeの温度感受性ワクチン株およびその使用

本発明は、列挙された遺伝子のうちの少なくとも1つに変異を含むか、またはNational Measurements Institute(オーストラリア)に受入番号NM04/41259で寄託されているMycoplasma hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)ワクチン株であって、温度感受性でありかつ弱毒化されている株、このような株を含むワクチンならびに方法そのおよび使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Mycoplasma hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)株、このような株を含むワクチン、およびブタにおいてマイコプラズマ性肺炎から保護するためのこのようなワクチンの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
Mycoplasma hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)は、豚マイコプラズマ性肺炎(流行性肺炎(EP)とも呼ばれる)の病原体である。豚マイコプラズマ性肺炎は、世界中のブタ生産に影響を及ぼす最も一般的でかつ経済的に重要な呼吸器疾患のうちの1つである。この疾患は二次感染、高罹患率および低死亡率、低飼料要求率と関係し、1年あたり約10億ドルと見積もられる全世界の経済的損失の原因となりうる。
【0003】
EPにおいては、Mycoplasma hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)細菌は、ブタの肺の中の上皮細胞の繊毛に付着し、健常な正常な繊毛を破壊して、平素無害菌(opportunistic organisms)がその呼吸器組織に定着することを可能にし、疾患を引き起こす。ひとたび定着すると、M.hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)はブタの肺に病変を引き起こす。
【0004】
この疾患は非常に感染性が高く、伝染は、通常、感染した呼吸器分泌物、例えばくしゃみまたは咳嗽の際に鼻部または口から放出される液滴、との直接接触による。
【0005】
M.hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)に対するいくつかのワクチンが、現在、存在する。ほとんどの現在のワクチンは約10社によって提供されており、22のワクチン銘柄が一価または二価/多価のいずれかとして登録されている。すべては、死滅したまたは不活化したM.hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)調製物である。
【0006】
全細胞性の不活化したM.hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)ワクチンの例としては、RESPISURE(商標)およびSTELLAMUNE(商標)(Pfizer(ファイザー))、SUVAXYN M.HYO(商標)(Fort Dodge(フォート・ドッジ))、HYORESP(商標)(Meriel(メリアル))、M+PAC(商標)(Schering−Plough(シェリング・プラウ))およびPORCILIS(商標)(Intervet(インターベット))が挙げられる。
【0007】
いくつかのワクチンはEPの重症度を低減できる一方で、入手できる全細胞性の死菌ワクチンまたは不活化ワクチンのうちで、M.hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)感染からの完全防御を提供するものはない。このため、より有効なワクチンについてのニーズがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
流行性肺炎を防止するためのワクチン接種における使用に適したMycoplasma pneumoniae(マイコプラズマ・ニューモニエ、肺炎マイコプラズマ)の生きた株を提供することが、本発明の好ましい実施形態の目的である。
【0009】
本願明細書で引用されるすべての引用文献(あらゆる特許または特許出願を含む)は、参照により本願明細書に援用する。いくつかの先行技術の刊行物が本願明細書中で言及されるが、この引用は、これらの文献のいずれかが当該技術分野における共通の一般的な知識の一部を形成するということを認めるものではない、ということは明確に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、全体として、ブタにおいて流行性肺炎から保護することにおいて有効である生ワクチンを生産するために使用することができる、生きた弱毒化されたMycoplasma hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)株を提供する。
【0011】
第1の態様は、表1に列挙されている遺伝子のうちの少なくとも1つにおいて変異を含む弱毒化されたMycoplasma hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)ワクチン株を提供する。
【0012】
1つの実施形態では、このワクチン株は、表1に列挙されている遺伝子のうちのすべてにおいて変異を含む。
【0013】
1つの実施形態では、このワクチン株は温度感受性である。
【0014】
弱毒ワクチンは一般に好都合である。なぜなら、弱毒ワクチンは、自然の形態にある感染病原体の関係する免疫原性決定因子のすべてを宿主の免疫系に提示し、そしてワクチン接種を受けた宿主の中で免疫剤が増殖することができるため、比較的少量のその免疫剤しか必要としないからである。弱毒化するための方法としては、毒性のある株を複数回継代すること、または照射もしくは化学物質への曝露が挙げられる。これらの方法は、ゲノムの中に変異を導入し、その変異が当該微生物を、毒性はより低いがまだ複製することができるものにするということが想定される。
【0015】
これらのアプローチの短所は、これらのアプローチが、分子レベルで特徴づけられないランダム変異を導入するということである。また、関係づけられた温度感受性について選択することによるなど、弱毒化のために選択するための方法は、時間がかかることが多く、誤った結果をもたらすことが多い。というのも、温度感受性株は弱毒化されていないかもしれず、そして弱毒株は温度感受性でない必要があり、そして多大な試行錯誤を必要とするからである。加えて、この弱毒株は、さらなる変異を受けて病原性に戻る可能性がある。
【0016】
マイコプラズマ性肺炎に対する生ワクチンを提供することを目的として、本発明者らは、Mycoplasma hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)分離株を化学的な変異生成にかけて、温度感受性であるクローンを選択した。本発明者らは、生きた変異体細菌を凍結乾燥し、そして、その細菌が一週間後に再構成することができ、連続継代後も生存能力があり続け、従ってMycoplasma hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)についてのワクチン株として適切である、ということを見出した。このワクチン株およびマスター株は配列決定され、その配列の比較から、そのワクチンにおいて変異している遺伝子を特定した。これにより、その弱毒株の遺伝子的特徴づけが可能となった。
【0017】
第2の態様は、National Measurements Institute(国立標準研究所)(オーストラリア)に受入番号NM04/41259で寄託された弱毒化されたMycoplasma hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)ワクチン株を提供する。この株は温度感受性でありかつ弱毒化されている。
【0018】
この第2の態様のワクチン株は、防御免疫を与えることは示されるが、この株は連続継代にもかかわらず病原性への復帰変異は示さない(データは示さず)。
【0019】
第3の態様は、第1または第2の態様のワクチン株を製造する方法であって、Mycoplasma hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)の適切な出発分離株を化学的変異生成にかける工程と、連続継代後に生存率を保持する変異体を選択する工程とを含む方法を含む。
【0020】
1つの実施形態では、変異体は、温度感受性に基づき最初に選択される。
【0021】
第4の態様は、第1または第2の態様のM.hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)ワクチン株と、担体、任意に佐剤,および/または任意に少なくとも1つの付加的な感染病原体とを含むワクチン組成物であって、免疫量の当該ワクチンはM.hyopneumonia(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)によって引き起こされる疾患に対する防御免疫を誘発することができる、ワクチン組成物を提供する。この感染病原体は、ウイルス、細菌、真菌または寄生生物であってもよい。
【0022】
第5の態様は、ブタ類動物においてMycoplasma hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)によって引き起こされる疾患から防御するための方法であって、免疫量の第4の態様のワクチン組成物をブタ類動物に投与することを含む方法を提供する。
【0023】
第6の態様は、ブタ類動物においてMycoplasma hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)によって引き起こされる疾患から防御するための、第4の態様のワクチンを提供する。
【0024】
第7の態様は、第4の態様に係るワクチンを製造する方法であって、第1または第2の態様のMycoplasma hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)株を担体、任意に佐剤および/または任意に少なくとも1つの付加的な感染病原体と合わせる工程を含む方法を提供する。感染病原体は、ウイルス、細菌、真菌または寄生生物であってもよい。
【0025】
第8の態様は、ブタ類動物においてMycoplasma hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)によって引き起こされる疾患から防御するための医薬の製造における、第1または第2の態様のMycoplasma hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)ワクチン株の使用を提供する。
【0026】
第4から第7の態様の実施形態では、「Mycoplasma hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)によって引き起こされる疾患」は、流行性肺炎またはブタマイコプラズマ性肺炎である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】高過量でワクチン接種を受けたブタにおけるts19ワクチン株の鼻内コロニー形成。
【図2】ts19ワクチンを用いて高過量でワクチン接種を受けたブタにおける、ワクチン接種後の日数(DPV)59日での気管でのコロニー形成。
【図3】種々の用量でts19ワクチン株を用いてワクチン接種を受けたブタにおける鼻内コロニー形成。
【図4】研究期間(105日間)にわたる全体重の差。
【図5】ts19についての最小防御用量の決定。
【図6】肺病変の重症度の軽減に基づくts19および市販のワクチンの防御指数。
【発明を実施するための形態】
【0028】
M.hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)株「LKR」は、もともと、屠殺場検体から単離された(LloydおよびEtheridge 1981、J of Comp Path 91:77−83)。この生物は、無細胞培地中で約10回継代される前に、実験的に感染したブタから再単離され、クローン単離に到達した(CSIRO(オーストラリア連邦科学産業研究機構)、ビクトリア州(Victoria))。次いでこのクローンは、University of Adelaide Mycoplasma collection(アデレード大学マイコプラズマコレクション)、南オーストラリア州に提出された。次いでこのLKR分離株は、University of Melbourne,Department of Veterinary Science(メルボルン大学獣医学科)(マイコプラズマグループ)によって得られ、そこでは、このLKR分離株は保存のために改変Frissブロス中での3回のインビトロでの継代を経た。保存されたバイアルは、「LKR P3 29/5/97」と名付けられた。このクローンは親株を表す。
【0029】
LKR P3 29/5/97はインビトロで継代され、これまでに記載された方法(NonamuraおよびImada(1982) Avian Diseases 26:763−775)を使用してNTG変異生成(200mg/mL)にかけられた。温度感受性クローン(「ts−19」)は、寒天プレートから選択され、3mLの改変Frissブロス中で培養された。このクローンについての継代数は、「P0」と名付けられ、その後、改変Frissブロス中での継代1回あたり1:4 v/v希釈でさらに4回のインビトロでの継代を経た。最終継代レベルを「LKR ts−19 P4 MS」と名付けた。
【0030】
LKR ts−19 P4 MSは、改変Frissブロス中での何回かのインビトロでの希釈継代を経て、3.2×10−21の希釈に到達した。この最終変異体クローンを「LKR ts−19 3.2×10−21」と名付けた。
【0031】
LKR ts−19 3.2×10−21は凍結乾燥され、Australian Government Analytical Laboratories(オーストラリア政府分析研究室)(特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約)に、受入番号NM04/41259で提出された。
【0032】
Mycoplasma(マイコプラズマ)は、非常に縮小されたゲノムサイズを有し、これは、その限定された生合成能力および宿主に対するその寄生生物のような依存性を反映するものである。そのゲノムにおける限定された冗長度を考慮すると、経路の特定の成分のNTG変異生成は、Mycoplasma(マイコプラズマ)細胞の生存に対して著しい効果を有する可能性がある。NTG変異生成は、ゲノム内でランダム変異(ヌクレオチドのトランジション(transition)、トランスバージョン(transversion)、欠失または挿入)を生じる。これは、各々いずれか1以上の変異を含有するバリアントゲノムの集団を生じるであろう。おそらくは、このバリアントゲノムのうちの多くは、重大な遺伝子(1つまたは複数)が機能不全にされることに起因して、生存しないであろう。この変異が、生物が生長する能力に対して有害な効果を蒙らないのであれば、生存しているバリアント生物は、さらなる選択(例えば、温度選択)を受けることができる。ts19の開発において、選択は、バリアント株が33℃の温度で高力価まで成長する能力、および39.5℃で成長する能力の低下に基づいていた。Mycoplasma hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)ワクチン株ts19と、親株(LKR)との間の全ゲノム配列比較に基づいて、いくつかの変異(ヌクレオチド変化)が、ts19のゲノム内で特定された。これらの変異としては、ヌクレオチド置換(トランジションおよびトランスバージョン)、ならびに欠失および挿入が挙げられた。
【0033】
この変異は、ゲノム全体のあちこちに位置しており、ある範囲の発現された遺伝子、ならびに機能未知タンパク質(hypothetical protein)および非コード配列を含んでいる。表1は、塩基置換、欠失または挿入によって変異された公知の遺伝子を列挙する。これらの遺伝子は、それらの主な機能に従って分類されてきた。当業者なら、提供された参照配列(例えばYP_278901.1)と当該弱毒株の配列との間に差異があるかどうかを判定することにより、M.hyo株が表1に列挙される遺伝子のうちの1つにおいて変異を含有するかどうかを検出する方法をすぐに理解するであろう。NM04/41259として寄託されたts19は、表1に列挙される変異のうちのすべてを含む弱毒株である。
【0034】
1つの実施形態では、当該弱毒株は、表1に列挙される変異のうちの少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34またはすべてを含む。1つの実施形態では、当該弱毒株は、上記病原因子のうちの1つもしくは各々、ならびに/または炭水化物代謝に関与する遺伝子、および/もしくはリン脂質代謝に関与する遺伝子、および/もしくは補因子代謝に関与する遺伝子のうちの1つもしくは各々、ならびに/または転写または翻訳に関与する遺伝子のうちの1つもしくは各々、ならびに/または膜輸送に関与する遺伝子のうちの1つもしくは各々、ならびに/またはDNA複製、修復または代謝に関与する遺伝子のうちの1つもしくは各々、ならびに/または表1に列挙されるトランスポサーゼ遺伝子において変異を含む。
【0035】
1つの実施形態では、当該弱毒株は、病原因子の各々において変異を含む。
【0036】
【表1】

【表2】

【表3】

【0037】
本願明細書に記載される菌種は、生きた温度感受性でかつ弱毒化された株であり、生ワクチンにおいて使用することができる。
【0038】
生きた弱毒株は、菌種の病原特性を低下または「弱毒化」する条件下で培養された生きた菌種である。生ワクチンは、典型的には、不活化されたまたは死滅した微生物よりも耐久性のある免疫反応を引き起こす。
【0039】
第1の態様に係るワクチン株は、Mycoplasma hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)分離株の化学的変異によって生成されてもよい。この化学的変異は、特に、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)を用いた処理による変異生成(NonamuraおよびImada(1982)、Avian Diseases 26; 763−775)を含む。温度感受性変異体細菌は、許容温度(33℃)で成長しかつ非許容温度(39.5℃)で成長できないという能力について選択されてもよい。ワクチンにおける使用のために、この温度感受性変異体は連続継代および希釈を経る。
【0040】
第1の態様に係るMycoplasma(マイコプラズマ)細菌ワクチン株は生存可能である(または生きている)。生存率は、一般に「生存のための能力」を意味し、より具体的には、好ましい条件下で生きること、発生分化すること、または発芽することのための能力を意味するために使用される。細菌細胞が適切なブロスまたは寒天培地のいずれかの中で成長することができる場合は、その細菌細胞は生存可能である。
【0041】
ブダペスト条約に基づいてNM04/41259として寄託された菌種は、University of Melbourne Mycoplasma Group(メルボルン大学マイコプラズマグループ)によって、オーストラリアのMycoplasma hyopneumonia(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)分離株LKR(University of Adelaide Mycoplasma collection(アデレード大学マイコプラズマコレクション)から入手した)を3回(3×)インビトロで継代(改変Frissブロス中1:4 v/v)してLKR P3を生成することによって生成された。次いでこのLKR P3分離株は、NTG変異生成にかけられた。突然変異を誘発されたLKR P3は、33℃(許容温度)および39.5℃(非許容温度)で、寒天上で成長させた。33℃では成長したが39.5℃では成長しなかった変異体クローンが選択された。選択されたクローンは、数回のインビトロ継代および段階希釈を経た。継代の最終回で、選択されたクローン(ts19)は、ブダペスト条約に基づき、National Measurements Institute(国立標準研究所)(後に、Australian Government Analytical Laboratories(オーストラリア政府分析研究室)と呼ばれる)に凍結乾燥された培養物として寄託された。これらの試料は、保存の一週間後に再構成され、生存可能であることが見出された。
【0042】
用語「インビトロでの連続継代」は、培地中での細菌の繰り返された継代の実施を指す。これには、ブロス培地に生きた細菌培養物を接種することが伴い、この生きた細菌培養物には、適切な温度でインキュベーションするためのいくらかの時間が与えられる。次いで、インキュベーションした培養物の一部は、新しい滅菌された培養物を接種するために使用され、今度は、この新しい滅菌された培養物に、インキュベーションするためのいくらかの時間が与えられる。このサイクルが続けられ、所望の数の継代が成し遂げられる。成長および再接種の各回は、一代継代と呼ばれる。
【0043】
第3の態様は、第1の態様の菌種と、M.hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)増殖培地、滅菌水または滅菌された等張性生理食塩水などの担体とを含むワクチンを提供する。
【0044】
ワクチンは、特定の疾患への免疫を確立するかまたは改善する生物学的調製物である。ワクチンは、予防的(例えば、病原体による将来の感染の効果を防止または改善するため)、または治療的(例えば、感染を処置するため)であることができる。第2の態様のワクチンは、Mycoplasma hyopneumonia(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)によって引き起こされる疾患に対して予防的である。
【0045】
上記適切な担体は、当業者にとっては明らかであろうし、主に投与経路に依存することになろう。当該ワクチンは、1以上の付加的な成分(懸濁剤、安定剤、または分散剤が挙げられるが、これらに限定されない)をさらに含んでもよい。
【0046】
当該ワクチンの中に存在してもよいさらに付加的な構成成分は、佐剤、防腐剤、化学的安定剤、または他の抗原タンパク質である。典型的には、安定剤、佐剤、および防腐剤は、標的動物における有効性のための最良の製剤化(formulation)を確定する(determine)ように最適化される。適切な例示的な防腐剤としては、クロロブタノール、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸、二酸化硫黄、没食子酸プロピル、パラベン類、エチルバニリン、グリセリン、フェノール、およびパラクロロフェノールが挙げられる。使用されてもよい適切な安定化成分としては、例えば、カザミノ酸、スクロース、ゼラチン、フェノールレッド、N−Zアミン、リン酸一カリウム、ラクトース、ラクトアルブミン加水分解生成物、および粉乳が挙げられる。白血球を誘引するかまたは免疫応答を増進させるために、従来の佐剤が使用される。このような佐剤としては、とりわけ、MPL(商標)(3−O−脱アシル化脱アシル化モノホスホリルリピドA;RIBI ImmunoChem Research,Inc.(リビ・イムノケム・リサーチ社)、モンタナ州、ハミルトン(Hamilton))、鉱油および水、水酸化アルミニウム、アンフィジェン(Amphigen)、アブリジン(Avridine)、L121/スクアレン、D−ラクチド−ポリラクチド/グリコシド、プルロニックポリオール(pluronic plyois)、ムラミルジペプチド、死滅したBordetella(ボルデテラ)、サポニン、Quil AまたはStiitiulon(商標) QS−21(Aquila Biopharmaceuticals,Inc.(アクイラ・バイオファーマシューティカルズ社)、マサチューセッツ州、フレーミングハム(Framingham)など)およびコレラ毒素(野生型または変異型のいずれかにあるもの、例えば、国際特許出願第PCT/US99/22520号に従って、アミノ酸位置29にあるグルタミン酸が、別のアミノ酸、好ましくはヒスチジンによって置き換えられているもの)が挙げられる。
【0047】
1つの実施形態では、当該ワクチンは、注入されても、注入の部位での有害反応または望まれない反応、例えば、皮膚刺激作用、腫脹、発疹、壊死、皮膚感作がほとんどないか、またはまったくない。
【0048】
第4の態様における本発明は、Mycoplasma hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)によって引き起こされる疾患から防御することに関する。第3の態様のワクチンは、Mycoplasma hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)によって引き起こされる疾患に対して予防的である。
【0049】
本願明細書中で言及される場合の「予防」または「予防的」または「防止的」治療または「〜から防御すること」は、感染が発生しないようにすること、またはMycoplasma hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)によって引き起こされる疾患の発生もしくは重症度を妨げるかもしくはそれらから守るかもしくは防御することを包含し、これは、ある疾患に感染しやすい可能性があるが、まだその疾患に罹っているとは診断されていない対象において、その疾患の症候または特徴の重症度を防止すること、防御することまたは軽減することを包含する。また、「予防」または「予防的」または「防止的」治療または「〜から防御すること」は、感染の期間を短くすることまたは症候の発生率を下げること、および何らかの病変のサイズを減少させることを包含する。
【0050】
本願明細書で使用する場合の「予防」は、疾患の防止全体または疾患の程度または症候の軽減に及ぶ。また「予防」は、Mycoplasma hyopnemonia(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)の伝染の軽減もしくは阻害、または細菌が宿主に定着することを防止すること、または他のMycoplasma hyopnemonia(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)株または他の感染病原体による二次感染からの防御を指す。
【0051】
第3の態様のワクチンは、例えば、液体、粉末、エアロゾル、錠剤、カプセル、腸溶性の被覆錠剤またはカプセル、または座薬の形態での、ブタへの投与のために調製されてもよい。投与経路としては、非経口投与、腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経口投与、局所投与、鼻腔内投与、肺内投与、直腸投与、膣内投与などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0052】
好ましい実施形態では、当該ワクチンは、例えば鼻腔内投与、エアロゾル投与または口または鼻による吸入による投与によって、気道に投与するために製剤化される。M.hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)に対する防御免疫の本質は、循環抗体からではなく、疾患を防止することにおける局所(肺)免疫および細胞性免疫であってもよいので、この投与経路は好ましい。気道へのワクチンの提示は、局所免疫応答を刺激する可能性がある。それゆえ、当該ワクチンの局所的な投与は、より有効である可能性がある。さらには、当該ワクチンを囲まれた家畜小屋または空間の中で投与すること(粗スプレーによる大量投与(coarse spray mass administration))およびブタに当該ワクチンを吸入させることにより、多数の動物をワクチン接種することに伴う労力は少なくなる。エアロゾルワクチン接種(またはスプレーワクチン接種(spray vaccination))は、特定の疾患に対して家禽を有効にワクチン接種するために、現在、商業ベースで使用されており、本発明の実施例で、ブタをワクチン接種するのに適していることが示された。
【0053】
鼻腔内投与は、鼻孔または鼻部を介したあらゆる投与に及ぶ。当該ワクチンは、溶液、懸濁液または乾燥粉末として鼻腔に付与される。溶液および懸濁液は、例えばピペット、点滴器またはスプレー、任意にエアロゾルスプレーを使用して鼻腔内に投与されてもよい。乾燥粉末は、吸入によって鼻腔内に投与されてもよい。
【0054】
エアロゾル投与は、ガスの中の微細な固体粒子または液滴の懸濁物としての当該ワクチンの投与を指す。
【0055】
吸入(吸気としても知られる)は、外部環境からの、気道を通っての、および肺の中の肺胞の中への空気の移動である。
【0056】
治療的に用いられるべきワクチンの有効用量は、例えば治療目的、投与経路、およびブタの状態に依存することになる。
【0057】
当該ワクチンについての投与量レベルは、通常、1用量あたり、1mLあたり約10〜10の色調変化単位(colour changing units、CCU)、好ましくは1用量あたり、1mLあたり約10〜10CCUの程度にあるであろう。
【0058】
しかしながら、いずれかの特定のブタ類動物についての具体的な用量レベルは、用いられる具体的な化合物の活性、年齢、体重、全般的な健康状態、性別、食習慣、投与の時期および投与経路を含めた様々な要因に依存することになるということは理解されたい。
【0059】
有効用量の選択および増大方向または減少方向の調整は、当該技術分野の技術の範囲内である。
【0060】
好ましい実施形態では、当該ワクチンは、エアロゾルによりまたは吸入により、鼻腔内に投与される。
【0061】
用語「ブタ類」および「ブタ」は、本願明細書では交換可能に使用されて、子ブタ、成体の雌ブタ、若い雌ブタ、去勢ブタ、雄ブタおよびイノシシ科の仲間を指す。
【0062】
本願明細書全体を通して、文脈と矛盾しない限り、語「含む(comprise)」、または「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」などの変化形は、明記された要素もしくは整数または要素もしくは整数の群を内包することを意味するが、いずれの他の要素もしくは整数または要素もしくは整数の群の排除は意味しないと理解されたい。
【0063】
本願明細書中で使用される場合、単数形「1つの(a、an)」および「その、当該(the)」は、文脈と明らかに矛盾する場合を除いて、複数の態様を包含するということにも留意されたい。
【0064】
本発明は明確さおよび理解を目的として少し詳しく説明されたが、本願明細書に記載される実施形態および方法に対する種々の改変および変更が、本願明細書に開示される本発明の技術思想の範囲から逸脱せずになされてもよいということは、当業者には明らかであろう。
【0065】
本発明は、これより、以下の実施例を参照して詳細にさらに説明される。この実施例は、説明のためだけに提供され、特段の記載がない限り、限定するものであるとは意図されていない。従って、本発明は、本願明細書に提示される教示の結果として明らかになるいずれかおよびすべての変化形を包含する。
【実施例】
【0066】
実施例1:ワクチン株の調製
オーストラリアのMycoplasma hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)分離株LKRは、典型的な流行性肺炎疾患を呈するブタの肺の、屠殺場検体である(LloydおよびEtheridge(1981)、J.Comp.Path. 91:77−83)。この分離株を培養し、南オーストラリア州のUniversity of Adelaide(アデレード大学)のMycoplasma reference culture collection(マイコプラズマ・リファレンス・カルチャー・コレクション)で保存した。その後、この分離株の培養物は、ビクトリア州のUniversity of Melbourne(メルボルン大学)のMycoplasma group(マイコプラズマグループ)によって得られた。
【0067】
この培養物をインビトロで3回継代し、その後、これまでに記載された方法(NonamuraおよびImada(1982)Avian Diseases 26:763−775)を使用して、200mg/mLのN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)を使用する変異生成にかけた。簡潔に言えば、M.hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)株LKRの培養物を対数増殖期後期まで成長させ、遠心分離によってペレット化した。この細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で洗浄し、NTGに曝した。この細胞をペレット化し、改変Friis培地(Friis,N.F. 1975)中に再懸濁し、33℃で4時間インキュベーションした。次いでこの培養物を0.45μmのフィルターに通し、適切な希釈を行い、一定分量を寒天プレートの上に置いて、33℃でインキュベーションした。成長したコロニーを3mLのブロスの中へとクローン化し、33℃でインキュベーションした。このクローンのアンプルを−70℃で保存し、各クローンの温度感受性を決定した。
【0068】
33℃および39.5℃での二重の滴定およびインキュベーションを行うことにより、ts19の温度感受性を判定した。力価は、典型的には、33℃で>1×10CCU/mL、および39.5℃で<1×10CCU/mLである。
【0069】
このts19株を、ブダペスト条約に基づきNM04/41259として寄託した。
【0070】
標準的な技術を使用してts19株およびLKR株を配列決定し、これにより、当該弱毒株が遺伝子的に特徴づけられることとなった。ts19株は、そのマスター株と比べていくつかの遺伝子的変異を含有することが判明した。これらの変異を含有する遺伝子を表1で特定する。
【0071】
実施例2:ワクチン調製
ワクチンを調製するために、ts19の培養物を、酸による色調変化が観察されるまで、フェノールレッド(pH指示薬)を含有する改変Friis培地中、33℃で成長させた。96穴のマイクロタイタープレートを使用して、ワクチンを改変Friis培地中で滴定した。マイクロタイタープレートの12列のうちの最初の10列にわたって、一連の10倍希釈を行った。最後の2レーンは接種しないまま残り、培地のみの(陰性)対照としての役割を果たした。6つまでのマイクロタイタープレートを、各滴定で使用した。
【0072】
3週間までのインキュベーション後、色調変化について当該プレートを採点し、最確数(MPN)を使用して平均力価を決定した。最終の平均力価は、1mLあたりの色調変化単位(CCU)として表される。
【0073】
ts19ワクチン培養物は、−70℃〜−80℃での長期の保存で、「湿潤凍結(wet frozen)」型として保たれた。あるいは、ts19ワクチン培養物は、凍結乾燥され(フリーズドライされ)、−20℃での長期の保存で保たれた。
【0074】
実施例3:ワクチンの安全性およびコロニー形成の研究
ts19ワクチン株の安全性プロファイルを評価するために、研究を行った。この研究デザインは、Mycoplasma(マイコプラズマ)を含まないブタ群から得た6週齢のブタの使用を必要とした。この研究は、CSIRO(Commonwealth Serum Industry Research Organisation(オーストラリア連邦科学産業研究機構)、オーストラリア、ビクトリア州、ウェロビー(Werribee)で、PC2バイオセキュリティーレベルのもとで行った。合計20匹のブタを、各10匹のブタの2つの群に無作為に割り当てた(表2を参照)。
【0075】
【表4】

【0076】
当該ワクチンを鼻腔内経路を介して送達し、これにより当該ワクチンの粘膜提示についての安全性だけを試験した。群1(ワクチン接種をしていない対照)および群2(高過量でワクチン接種を受けたブタ)を、臨床所見のために59日間保持した(表2)。
【0077】
ワクチン接種の1日前に始めて、さらにワクチン接種後4日間、この安全性研究におけるすべてのブタを、直腸温について毎日2回モニターした。また、すべてのブタを、咳嗽、くしゃみ、呼吸困難および頻呼吸を含めた呼吸の徴候についてモニターした。すべてのブタを、顕微鏡的な肺病変および巨視的な肺病変について評価した。巨視的な肺病変は、Hannanら、1982の方法を使用して採点した。加えて、拭き取り検体試料を、PCR分析のために鼻内、肺および気管から採取した。
【0078】
また、各群からのブタを、PCR技術を使用して、ワクチン接種後3週間、鼻腔中のM.hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)の存在について、試験した。最後に、ブタを、研究期間にわたって、体重増加についてモニターした。結果から、いずれのブタにも臨床徴候はまったく認められないということが示された。ワクチン接種を受けた群とワクチン接種をしていない対照群との間で、有意な体温上昇は検出されなかった。さらには、ワクチン接種を受けた群とワクチン接種をしていない対照群との間で、体重増加の有意差は認められなかった。剖検で、高過量群からの10匹のうちの2匹のブタが、各々、流行性肺炎に典型的な小さい巨視的病変を有していた。さらなる病変は、肺組織の顕微鏡分析によって認められなかった。全体としては、温度感受性ワクチン株ts19は、高過量においてさえも安全であるということが示された。
【0079】
(M.hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)に特異的なプライマーを使用する)PCR分析によって、ワクチン接種後3週間および8週間で、ワクチン接種を受けたブタの鼻孔中のM.hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)の存在が示された(図1を参照)。また、PCR分析を使用するM.hyopnuemoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)コロニー形成研究によっても、気管中(上部、中央部および下部領域のいずれか)、および集団として見たワクチン接種を受けたブタの気管の少なくとも60%におけるM.hyopnuemoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)の存在が示された(図2を参照)。これらの結果は、鼻孔および気管の孔でのts19ワクチン株のコロニー形成を示す。
【0080】
実施例4:ワクチンの有効性研究 抗原投与モデル − 防御を示す
ts19ワクチン株の有効性を評価するために、研究を行った。この研究デザインは、Mycoplasma(マイコプラズマ)を含まないブタ群から得た6週齢のブタの使用を必要とした。この研究は、CSIRO(Commonwealth Serum Industry Research Organisation(オーストラリア連邦科学産業研究機構)、オーストラリア、ビクトリア州、ウェロビー(Werribee)で、PC2バイオセキュリティーレベルのもとで行った。合計56匹のブタを、各ワクチン接種を受けた群について12匹のブタの3群および対照群の各々について10匹のブタに無作為に割り当てた(表3を参照)。
【0081】
【表5】

【0082】
当該ワクチンを鼻腔内経路を介して送達し、これにより当該ワクチンの粘膜提示についての有効性だけを試験した。ワクチン接種をせず、抗原投与をしない陰性群を除くすべての群を、ワクチン接種後22日目に、M.hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)のオーストラリア野外分離株の鼻腔内投与によって抗原投与した。死後検査を、3日間(ワクチン接種後57日目、58日目および59日目)にわたって行った。この研究全体を通して、すべての群を、咳嗽、くしゃみ、呼吸困難および頻呼吸を含めた呼吸の徴候について毎日モニターした。体重測定を、この研究の開始時および終了時に行った。ワクチン接種後22日目に(かつ抗原投与に先立って)、PCR分析のために鼻内拭き取り検体を採取し、各群から、M.hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)の存在について判定した。
【0083】
結果から、試験したすべての群において、臨床徴候も体重増加の有意差も認められないということが示された。鼻内拭き取り検体分析から、抗原投与前の、ワクチン接種を受けたブタのうちの60〜70%において、ワクチン接種後22日目に、M.hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)の存在が示された(図3を参照)。すべての偽ワクチン接種を受けた対照のブタは、PCR分析によっては、M.hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)について陰性であった。剖検において、巨視的病変分析(Hannanら、1982)から、偽ワクチン接種を受けた対照群、ならびに10および10CCU/mL/用量でワクチン接種を受けた群における病変の不存在が示された。10CCU/mL/用量でワクチン接種を受けた10匹のブタのうちの1匹は、小さい巨視的病変の存在を示した。しかしながら、ワクチン接種をしていないが抗原投与を受けた10匹のブタのうちの4匹は、咳嗽およびくしゃみの臨床徴候を示した。剖検で、上記4匹のブタからの肺の検査から、M.hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)感染に典型的な巨視的な肺病変が示された。
【0084】
全体としては、温度感受性ワクチン株ts19は、M.hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)感染から防御することにおいて有効であるということが示された。
【0085】
実施例5:異なる用量におけるワクチン有効性および市販の死菌ワクチンとの比較
4つの異なる用量におけるts19ワクチン株の有効性を評価するために、研究を行った。この研究デザインは、3〜4週齢のspfブタの使用を必要とした。この研究は、Centro de Nacional de Servicios de Diagnostico en Salud Animal(国立家畜衛生診断サービスセンター)、CENASA) − メキシコ、テカマック(Tecamac)にある政府機関の試験施設 − にあるPC2施設の中で行った。合計70匹のブタを、各々10匹のブタを含む7つの群に無作為に割り当てた(表4)。
【0086】
【表6】

【0087】
4つの異なる用量のts19ワクチン(10、10、10、10CCU/mL)を、4つの別々の群のブタに鼻腔内経路によって送達した。5番目の群は2mLの市販の不活化ワクチンを投与され、この不活化ワクチンは筋肉内経路によって送達された。陽性(ワクチン接種をしていないが抗原投与した)および陰性(ワクチン接種をせず、抗原投与をしない)群もこの研究の中に含めた。陰性対照群を除くすべての群を、2つの時間点で抗原投与した。第1の抗原投与は、ワクチン接種後22日目に、M.hyopneumoniae(マイコプラズマ・ハイオニューモニエ)(アイオワ(IOWA)株194)という米国分離株を使用して鼻腔内投与によって行った。第2の抗原投与は、同じ抗原投与株を使用してワクチン接種後84日目に行った。この研究全体を通して、すべての群を、咳嗽、くしゃみ、呼吸困難および頻呼吸を含めた臨床徴候について毎日モニターした。体重測定を、この研究の開始時および終了時に行った。
【0088】
結果から、105日間の試験期間全体にわたって臨床徴候がないことが示された。陽性対照群とワクチン接種を受けた群の各々との間の体重成績についての分散分析から、10および10CCU/mLの用量のts19は、陽性対照群と比較して有意な体重増加を示すということが示された(図4)。市販のワクチンでワクチン接種を受けた群は、陽性対照群と比較しても、体重増加の有意差をまったく示さなかった(図4、表5)。剖検で、巨視的な病変分析を、各群について行った。最小防御用量(minimum protective dose)の決定についての基準は、肺病変の重症度の低下に関する70%以上の防御指数(protective index)に基づいていた。ts19についての最小防御用量は、10CCU/mLであると決定された。なぜなら70%という防御指数は、肺病変の重症度の低下に関してはこの用量で達成されたからである(図5)。より高い用量のts19(10および10CCU/mL)も試験し、肺病変の重症度の低下に関しては、それぞれ83%および88%というPIを与えることを見出した(図6)。市販の不活化ワクチンはわずか37%というPIしか成し遂げず、この値は、使用したts19の最小用量(10CCU/mL。これは60%のPIを成し遂げた)よりもかなり低い。
【0089】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表1に列挙されている遺伝子のうちの少なくとも1つにおいて変異を含むMycoplasma hyopneumoniaeワクチン株。
【請求項2】
温度感受性でありかつ弱毒化されている、National Measurements Institute(オーストラリア)に受入番号NM04/41259で寄託されたMycoplasma hyopneumoniaeワクチン株。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の株を製造する方法であって、Mycoplasma hyopneumoniaeの適切な出発株を化学的変異生成にかける工程と、連続的なインビトロでの継代後に生存可能であり続ける温度感受性変異体を選択する工程と、を含む方法。
【請求項4】
前記出発株は、Mycoplasma hyopneumoniae株LKR P3である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ワクチン組成物であって、請求項1もしくは請求項2に記載のMycoplasma hyopneumoniae株、または請求項3に記載の方法によって調製されたMycoplasma hyopneumoniae株と、担体と、任意に佐剤と,および/または任意に少なくとも1つの付加的な感染病原体とを含み、免疫量の前記ワクチンは、Mycoplasma hyopneumoniaeによって引き起こされる疾患に対する防御免疫を誘発することができる、ワクチン組成物。
【請求項6】
前記感染病原体はウイルス、細菌、真菌または寄生生物である、請求項5に記載のワクチン組成物。
【請求項7】
気道への投与のために製剤化されている、請求項5または請求項6に記載のワクチン組成物。
【請求項8】
エアロゾル製剤の状態の、請求項5または請求項6に記載のワクチン組成物。
【請求項9】
ブタ類動物における、Mycoplasma hyopneumoniaeによって引き起こされる疾患を防止するための方法であって、免疫量の、請求項5から請求項8のいずれか1項に記載のワクチン組成物を前記ブタ類動物に投与することを含む、方法。
【請求項10】
ブタ類動物における、Mycoplasma hyopneumoniaeによって引き起こされる疾患を防止するための、請求項5から請求項8のいずれか1項に記載のワクチン。
【請求項11】
前記ワクチンは気道に投与される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記ワクチンは、吸入によって、鼻腔内に、またはエアロゾルによって投与される、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
請求項5に記載のワクチンを製造する方法であって、請求項1または請求項2に記載のMycoplasma hyopneumoniae株を担体、任意に佐剤および/または任意に少なくとも1つの付加的な感染病原体と合わせる工程と含む、方法。
【請求項14】
ブタ類動物における、Mycoplasma hyopneumoniaeによって引き起こされる疾患を防止するための医薬の製造における、請求項1または請求項2に記載のMycoplasma hyopneumoniae株の使用。
【請求項15】
Mycoplasma hyopneumoniaeによって引き起こされる前記疾患は流行性肺炎またはブタマイコプラズマ性肺炎である、請求項5に記載のワクチン、請求項9に記載の方法、または請求項10に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−527218(P2012−527218A)
【公表日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−511093(P2012−511093)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【国際出願番号】PCT/AU2010/000590
【国際公開番号】WO2010/132932
【国際公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(511281084)バイオプロパティーズ ピーティーワイ リミテッド (1)
【出願人】(509060039)ザ ユニヴァーシティー オブ メルボルン (6)
【Fターム(参考)】