説明

N−アシル−ホスファチジル−エタノールアミンを生産する方法

この文献は、式(I)のN−アシル−ホスファチジルエタノールアミンを工業規模で調製する方法を記載している。式中、R1、R2およびR3は、互いに独立して、飽和、単不飽和または多不飽和アシルC10−C30の純粋なまたは互いに混合したものであり、X=OHまたはOM、M=アルカリ金属またはアルカリ土類、アンモニウムまたはアルキルアンモニウムである。本件の方法は、合成または天然起源のレシチンを、限られたモル過剰のN−アシル−エタノールアミンを使用して、酵素ホスホリパーゼDの存在下および工業規模の生産に適した条件で、ホスファチジル基転移反応により、式(I)の高純度なN−アシル−ホスファチジルエタノールアミンに変換することを可能にする。ここでアシルは、式(I)に対して先に定義されたとおりである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、式(I)のN−アシル−ホスファチジル−エタノールアミンを工業規模で調製する方法である。
【0002】
【化1】

【0003】
式中、R1、R2およびR3は、互いに独立して、飽和、単不飽和または多不飽和アシルC10−C30の純粋なまたは互いに混合されたものであり、X=OHまたはOM、M=アルカリ金属またはアルカリ土類、アンモニウムまたはアルキルアンモニウムである。
【0004】
本発明の方法の対象は、合成または天然起源のレシチンを、限られたモル過剰の試薬N−アシル−エタノールアミンを使用して、酵素ホスホリパーゼDの存在下および工業規模の生産に適した条件で、ホスファチジル基転移反応(transphosphatidylation)により、高純度な式(I)のN−アシル−ホスファチジル−エタノールアミンに変換することを可能にする。ここでアシルは、式(I)に対して先に定義したとおりである。
【背景技術】
【0005】
N−アシル−ホスファチジル−エタノールアミン(以下“NAPE”とも呼ばれる)は、生物学的組織から抽出された脂質混合物の少数要素として存在する天然リン脂質である。
【0006】
小麦粉で最初に同定されているが(非特許文献1)、これらは大豆レシチンに含まれる約2%の極性脂質に代表される野菜起源の生産物内、および微生物内に存在する(非特許文献2)。
【0007】
NAPEsにおける興味は、例えばカンナビノイド受容体のためのリガンドの前駆体(アナンドアミド)としての研究およびそれらの天然における役割の両方、およびコレステロール低下薬(例えば特許文献1を参照)、食欲抑制薬(例えば特許文献2を参照)としての使用に関して絶えず拡大している。それらは、リポソーム製剤の主要成分として(例えば特許文献3を参照)および抗酸化剤としても使用される。
【0008】
天然起源の原料からNAPEsを単離することは、低パーセンテージのNAPEの存在および脂質抽出物の他の成分からの分離の困難性により、不利とされている。それ故に、求められる用途でNAPEsを使用するためには、それらを以下のスキームIに従って、ホスファチジルエタノールアミン(以後PEと呼ぶ)から分離するのが好ましい。
【0009】
【化2】

【0010】
この合成は、窒素に結合したアシル基が規定されたNAPEを得ることを可能にするが、これは高価で市場入手性の低いPEの使用を意味する。
【0011】
特許文献4は、NAPEsを含む種々の生産物へホスファチジルコリン(PC)を変換(転化)する可能性と、反応の収量への言及は依然として無いものの、ホスホリパーゼDMとして知られる新しい酵素の利用の可能性を記載している。この特許に示されている実験条件は、それらを工業規模での使用に役立たない。なぜなら、それらは反応がエチルエーテルを含む混合溶媒中で高希釈度の基質で行われることを見越したものだからである。更に、反応前に開始基質(PC)が超音波処理にかけられて乳化される。
【0012】
スキームIIに示されたホスファチジル基転移反応において、酵素ホスホリパーゼDは、異なるアルコール基の間の交換であって、リン脂質の極性頭部のホスフェート基をエステル化するものを促進する。
【0013】
【化3】

【0014】
この変換は、薬学的及び栄養学的に多大な興味のあるリン脂質の生産について、工業規模においても、非常に有用であることが示されている。
【0015】
アルコール型(alcoholic)試薬のセリン、グリセロールおよびエタノールアミンを使用して、PCをそれぞれホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロールおよびホスファチジルエタノールアミンへ転移する反応は、十分に実証されている。
【0016】
特許文献5は、ホスホリパーゼD存在下でのセリンとのホスファチジル基転移により、異なる起源のレシチンのホスファチジルセリンへの転移を記載している。この出願において、競合する加水分解反応に対してホスファチジル基転移反応を促進するために、リン脂質基質に対して少なくとも4モル/モルのセリンの量が使用された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特許US4254115
【特許文献2】特許出願WO03068210
【特許文献3】特許US6294191
【特許文献4】特許US4783402
【特許文献5】特許出願EP1048738
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Bomstein,R.A.Biochem.Biophys.Res.Commun.(1965)21 49
【非特許文献2】Clarke et al.Chem.Phys.Lipids(1976)17 222
【非特許文献3】Adv.Exp.Med.Biol.(1978)101 221
【非特許文献4】Biotechn.Techn.(1993)7 795
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上記の欠点を克服し、広く利用可能で安価な原料からNAPEを、市場で要求される量および純度で製造することを可能にする方法の必要性が現時点で存在する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、それゆえ、式(I)のN−アシル−ホスファチジル−エタノールアミンを調製する方法により代表される。
【0021】
【化4】

【0022】
式中、R1、R2およびR3は、互いに独立して、飽和、単不飽和および/または多不飽和アシルC10−C30、X=OHまたはOM、M=アルカリ金属、アルカリ土類、アンモニウムまたはアルキルアンモニウムであり、この方法は、式(II)のホスファチドと、
【0023】
【化5】

【0024】
(式中、R1およびR2は先に定義されたのと同じ意味を有し、R4=CH2−CH2−N+(CH33および/またはCH2−CH2−NH3+である。)式(III)の化合物を、
【0025】
【化6】

【0026】
(式中、R3は先に定義されたのと同じ意味を有する。)ホスホリパーゼDの存在下で反応することを含み、前記反応は水中、または、水と少なくとも1つの炭化水素との混合物中で行われることを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の一態様によれば、式(III)の化合物と式(II)のホスファチドとの間のモル比は、好ましくは4未満であり、更により好ましくは1および3の間である。
【0028】
本発明の更なる態様によれば、R1、R2および/またはR3は、好ましくはアシルC12−C24であり、更により好ましくは、R3はオレオイル、パルミトイルおよびアラキドイルから選択される。
【0029】
本発明の方法は、限られたモル過剰の試薬N−アシル−エタノールアミン(ここでアシル(基)は、式(I)に対して先に定義したとおりである。)を使用し、酵素ホスホリパーゼDの存在下及び工業規模での生産に適した条件で、ホスファチジル基転位反応により、合成又は天然起源のレシチンを高純度な式(I)のNAPEへ変換することを可能にする。
【0030】
先行技術に記載されているホスファチジル基転移反応に関与するアルコール型の種(セリン、グリセロールおよびエタノールアミン)は、水への高い溶解性によって特徴付けられるが、本発明のホスファチジル基転位反応に関与するアルコール型の種である脂肪酸でアシル化されたエタノールアミンは、水にほとんど溶解しない化合物である。更に、前記のアルコール型の種は、少なくとも12の炭素原子を含有する分子構造を有し、6を超える炭素原子からなる脂肪族鎖を備えたアルコールが、ホスファチジル基転移反応に関与する能力をほとんど有さないことが知られている(非特許文献3を参照)。
【0031】
これらの不利な条件にも関わらず、我々は、驚くべきことに、合成および天然レシチンのホスファチジル基転移反応を行い、工業規模での生産に役立つ状態でNAPEを得られることを見出した。
【0032】
本発明の方法によるNAPEsの生産は、必要とされる原材料の幅広い利用可能性と、合成スキームの簡素さとを考慮すると、特に魅力的である。
【0033】
スキームIIIは、本発明の方法に従った、N−オレオイル−ホスファチジルエタノールアミン(以後“NOPE”ともいう)の合成を示す。
【0034】
【化7】

【0035】
式中、R1、R2およびR4は、先に定義されたのと同じ意味を有する。
【0036】
驚くべきことに、本発明の方法により、開始レシチンの終了NAPEへの非常に高い転化率が得られることが見出された。このような条件において、ホスファチジン酸の形成につながる競合する加水分解が、実際上無視できるものであることも見出された。それゆえ、反応のために提供されたホスホリピドのモル当たり3モル未満のN−アシル−エタノールアミンのモル比を使用して、ホスファチジル基転移反応を行い、結果的に工業規模でのホスファチジル基転移においてホスファチジン酸の形成を制限するのに使用される大モル過剰を避けることができた。
【0037】
本発明の興味深い特徴は、次の事実に代表される。すなわち、30から35%のような低い値にまで制限されたホスファチジルコリン(PC)含有量の流体レシチンのような、安価で広く入手可能な原材料を使用しながら、高純度のNAPEsが得られ、これは、工業規模での生産手段に良く適合した単純な方法を使用することによって単離することができる。実際に、31P−NMR測定は、本発明の教示に従って得られた生産物の純度および含有量が、典型的には85%を超えることを示している。
【0038】
本発明のホスファチジル基転移反応は、水性緩衝液からなる水性成分と、炭化水素溶媒からなる任意選択的な有機成分とからなる媒体中で行われる。
【0039】
本発明を実行するためには、これらの成分の相対量は、明確に定義された範囲を守らなければならない。即ちこれは、そのような成分および本方法の原材料を構成する基質の量の間の比が制御されなければならないということである。
【0040】
特に、炭化水素溶媒の量は、好ましくは1リットル/水1リットル未満であり、更に好ましくは、それは0.3および0.7リットル/水1リットルの間である。この比が0.3および0.7リットル/リットルの間であるときは、ホスファチジン酸の形成が非常に少ないため、使用された分析方法(31P−NMR)の感度(0.2%)を下回ることが指摘されている。
【0041】
更に、反応のために提供されたホスファチドの量に対する、反応において存在する溶媒の全量(水と任意選択的な炭化水素溶媒との合計)は、好ましくはホスファチドのkg当たり5および40リットルの間であり、更により好ましくは6および20リットルの間である。
【0042】
本発明により効果的なホスファチジル基転移反応を行うことが可能であることは、酵素ホスホリパーゼDが存在する水相においてリン脂質基質も試薬アルコールも溶解しないことを考慮すれば、まったく驚くべきことである。実際に、リン脂質基質は水相に分散され、試薬アルコールもまた水相に分散されまたは任意選択的に使用されるときは炭化水素溶媒中に存在する。あるいは、ホスファチジル基転移反応のより十分に説明された場合においては、試薬アルコールは、酵素ホスホリパーゼDも存在する同じ水相に溶解され、こうして酵素ホスホリパーゼDが反応に関与するのをより容易にしていると思われる。
【0043】
これらの条件で操作することにより、反応は、驚くほど早くかつ選択的であり、6時間未満の反応時間でホスファチドのほぼ完全な変換:即ち31P−NMR分析が3%未満の残留PCの存在、および加水分解生成物(ホスファチジン酸)の同時形成を示すことに繋がることが見出されている。
【0044】
本発明のこの最後の態様は、ホスファチジン酸を他のリン脂質から分離する際の公知の困難性を考慮すると、特に有意義であり、従って、反応の過程でその形成を避けることは、後続のNAPEの精製にとって実質的に有利である。
【0045】
本発明の方法において原材料として用いられ得るリン脂質は、(大豆および向日葵のような)野菜起源または(卵、オキアミ、魚および魚卵のような)動物起源の天然レシチンである。単細胞種の発酵から得ることができるリン脂質の混合物も、この方法における基質として有利に使用することができる。
【0046】
このようなレシチンは、異なる純度にすることができ、かつ、50重量%を下回るホスファチジルコリン含有量を有することができる。
【0047】
本発明の一態様によれば、式(II)のホスファチドは、20および95重量%の間のホスファチジルコリンおよび/またはホスファチジルエタノールアミン含有量を有する天然起源のホスファチドの混合物であり;本発明の方法は、25および45重量%の間のホスファチジルコリンおよび/またはホスファチジルエタノールアミン含有量を有する天然起源のホスファチドの混合物を使用して有利に行うこともできる。
【0048】
規定された組成の脂肪酸を有するNAPEを得るためには、例えば1,2−ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、1−パルミトイル−2−オレオイルホスファチジルコリン(POPC)、1,2−ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)のような合成ホスファチドを使用することもできる。
【0049】
使用できるN−アシル−エタノールアミンは、異なる起源のものとすることができ、それらは異なる純度を有することができ、アシル基は、10から30までの炭素原子を含有するカルボン酸から誘導することができ、個別にまたは互いに混合されて存在することができる。このような酸は、飽和、不飽和または多不飽和脂肪酸とすることができる。特に、アラキドン酸、パルミチン酸およびオレイン酸が好ましい。
【0050】
炭化水素溶媒については、好ましくは4から10までの炭素原子、更により好ましくは6から8までの炭素原子を有する芳香族および脂肪族溶媒の両方を有利に使用することができ;より有利にはトルエンまたはn−ヘプタンが使用される。
【0051】
ホスファチジル基転移反応は、20および70℃の間、好ましくは30および50℃の間の温度で行うことができる。この反応のpHは、使用される酵素の起源によって変化することが可能であり、好ましくは、3.5および9の間、更により好ましくは4および5.5の間の範囲に入る。
【0052】
攪拌のタイプは、反応速度に影響を与え、機械的攪拌、任意選択的に磁気攪拌によって有利に行うことができる。水性の反応相は、好ましくは、0.01Mおよび0.2Mの間の濃度の緩衝液からなる。異なるタイプの緩衝液を使用することができ、好ましくは緩衝アセテートが使用される。
【0053】
例えばカルシウムまたはマグネシウムのような二価の金属イオンの存在は、ホスホリパーゼDにより触媒されるホスファチジル基転移反応を促進し;このようなイオンは好ましくは塩または酸化物の形で使用され;更により好ましくは、この反応は塩化カルシウムの存在下で行われる。前記二価の金属イオンの濃度は、好ましくは0.05および0.5Mの範囲に入る。
【0054】
反応を行うためには、加水分解活性に比べて高いホスファチジル基転移活性を示すホスホリパーゼD酵素を選択するのが有利である。
【0055】
このような酵素は、必ずしも精製される必要は無い。有利には、発酵起源の酵素を使用することが可能であり、これは好ましくはATCC55717として申請された微生物の発酵で得られるもののようなストレプトミセス属の菌株から産生される。
【0056】
酵素の量は、好ましくは、反応のために提供されるホスホリピドのグラムあたり10および100ユニットの間の範囲に入る。酵素活性は、非特許文献4に記載された方法で決定される。
【0057】
その例から明らかとなるように、反応混合物が水および少なくとも1つの炭化水素からなるとき、これは、式(II)のホスファチドを含む緩衝水性分散物を、式(III)の化合物の炭化水素溶液若しくは分散物と化合させることにより通常得られ;ホスホリパーゼDは式(II)のホスファチドを含む緩衝水性分散物に既に存在することができ、またはそれは既に形成された反応混合物に後の段階で添加され得る。代替的に、反応は、式(II)のホスファチド、式(III)の化合物、およびホスホリパーゼDを含有する緩衝水性分散物中で行うことができる。
【0058】
NAPEsを単離するためには、有利には、アセトンからの液液抽出および沈殿のような、当業者に知られた方法を使用することが可能である。
【実施例】
【0059】
以下の実施例は、本発明を実施する幾つかの方法を単に例示するだけの目的を有し、決して限定して考慮されてはならない。
【0060】
実施例1
75gのPhosal35(登録商標)、ホスホリピドGmbHによって35%に等しいPC含有量で生産された流動性大豆レシチンを、750mLのアセトンを含有する1Lフラスコ内に攪拌下で導入した。上澄みを除去し、10gの塩化カルシウムを含有する320mLのアセテート緩衝液0.1M pH=4.5をこのフラスコ内に添加した。残留アセトンを蒸発により低圧で除去した。混合物を43℃に加熱し、攪拌下で30分間維持した。温度と攪拌を維持しながら、n−ヘプタン140mL中のN−オレオイル−エタノールアミン31gの溶液、次いで同じ緩衝液20mL中の、ATCC55717(比活性度3200U/g)から得たホスホリパーゼD0.75gの懸濁液を添加した。
【0061】
混合物をその温度で機械攪拌しながら5時間維持した。これを室温に冷却し、反応生成物のサンプルを取り、それをNMRで分析した。
【0062】
31P−NMRスペクトルは、86.8%のNAPEと1.4%のPCの存在を示した。PAは検出限界(0.2%)を下回った。
【0063】
実施例2
28gのPhospholipon90(登録商標)、ホスホリピドGmbHによって95%に等しいPC含有量で生産された流動性大豆レシチンを、10gの塩化カルシウムを含有する320mLのアセテート緩衝液0.1M pH=4.5を入れた1Lフラスコ内に導入した。混合物を43℃に加熱し、攪拌下で60分間維持した。温度と攪拌を維持しながら、n−ヘプタン140mL中N−オレオイル−エタノールアミン31gの溶液、次いで同じ緩衝液20mL中の、ATCC55717(比活性度3200U/g)から得たホスホリパーゼD0.75gの懸濁液を添加した。
【0064】
混合物をその温度で機械攪拌しながら5時間維持した。これを室温に冷却し、反応生成物のサンプルを取り、それをNMRで分析した。
【0065】
31P−NMRスペクトルは、94.9%のNAPEと0.9%のPCの存在を示した。PAは検出限界(0.2%)を下回った。
【0066】
実施例3
28gの1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(POPC)、Chemi SpAによって生産された合成ホスホリピドを、10gの塩化カルシウムを含有する320mLのアセテート緩衝液0.1M pH=4.5を入れた1Lフラスコ内に導入した。残留アセトンを蒸発により低圧で除去した。混合物を43℃に加熱し、攪拌下で60分間維持した。温度と攪拌を維持しながら、n−ヘプタン140mL中N−オレオイル−エタノールアミン31gの溶液、次いで同じ緩衝液20mL中の、ATCC55717(比活性度3200U/g)から得たホスホリパーゼD0.75gの懸濁液を添加した。
【0067】
混合物をその温度で機械攪拌しながら5時間維持した。これを室温に冷却し、反応生成物のサンプルを取り、それをNMRで分析した。
【0068】
31P−NMRスペクトルは、94.4%のNAPEと1.9%のPCの存在を示した。PAは検出限界(0.2%)を下回った。
【0069】
実施例4
75gのPhosal35(登録商標)、ホスホリピドGmbHによって35%に等しいPC含有量で生産された流動性大豆レシチンを、750mLのアセトンを入れた1Lフラスコ内に攪拌下で導入した。上澄みを除去し、10gの塩化カルシウムを含有する320mLのアセテート緩衝液0.1M pH=4.5をこのフラスコ内に添加した。残留アセトンを蒸発により低圧で除去した。混合物を43℃に加熱し、攪拌下で30分間維持した。温度と攪拌を維持しながら、31gのN−オレオイル−エタノールアミン、次いで同じ緩衝液20mL中の、ATCC55717(比活性度3200U/g)から得たホスホリパーゼD0.75gの懸濁液とを添加した。
【0070】
混合物をその温度で機械攪拌しながら5時間維持した。これを室温に冷却し、反応生成物のサンプルを取り、それをNMRで分析した。
【0071】
31P−NMRスペクトルは、85.5%のNAPE、3.9%のPCおよび1.3%のPAの存在を示した。
【0072】
実施例5
75gのPhosal35(登録商標)、ホスホリピドGmbHによって35%に等しいPC含有量で生産された流動性大豆レシチンを、750mLのアセトンを入れた1Lフラスコ内に攪拌下で導入した。上澄みを除去し、10gの塩化カルシウムを含有する320mLのアセテート緩衝液0.1M pH=4.5をこのフラスコ内に添加した。残留アセトンを蒸発により低圧で除去した。混合物を43℃に加熱し、攪拌下で30分間維持した。温度と攪拌を維持しながら、トルエン140mL中のN−オレオイル−エタノールアミン31gの溶液、次いで同じ緩衝液20mL中の、ATCC55717(比活性度3200U/g)から得たホスホリパーゼD0.75gの懸濁液とを添加した。
【0073】
混合物をその温度で機械攪拌しながら5時間維持した。これを室温に冷却し、反応生成物のサンプルを取り、それをNMRで分析した。
【0074】
31P−NMRスペクトルは、86.2%のNAPEと1.6%のPCの存在を示した。PAは、検出限界(0.2%)を下回った。
【0075】
実施例6
75gのPhosal35(登録商標)、ホスホリピドGmbHによって35%に等しいPC含有量で生産された流動性大豆レシチンを、750mLのアセトンを入れた1Lフラスコ内に攪拌下で導入した。上澄みを除去し、10gの塩化カルシウムを含有する320mLのアセテート緩衝液0.1M pH=4.5をこのフラスコ内に添加した。残留アセトンを蒸発により低圧で除去した。混合物を43℃に加熱し攪拌下で30分間維持した。温度と攪拌を維持しながら、n−ヘプタン140mL中のN−オレオイル−エタノールアミン31gの溶液、次いで同じ緩衝液20mL中の、会社ヤクルト(比活性度8500U/g)によって生産されたホスホリパーゼD0.28gの懸濁液とを添加した。
【0076】
混合物をその温度で機械攪拌しながら5時間維持した。これを室温に冷却し、反応生成物のサンプルを取り、それをNMRで分析した。
【0077】
31P−NMRスペクトルは、85.2%のNAPEと2.4%のPCの存在を示した。PAは、検出限界(0.2%)を下回った。
【0078】
実施例7
75gのPhosal35(登録商標)、ホスホリピドGmbHによって35%に等しいPC含有量で生産された流動性大豆レシチンを、750mLのアセトンを入れた1Lフラスコ内に攪拌下で導入した。上澄みを除去し、10gの塩化カルシウムを含有する320mLのアセテート緩衝液0.1M pH=4.5をこのフラスコ内に添加した。残留アセトンを蒸発により低圧で除去した。混合物を43℃に加熱し、攪拌下で30分間維持した。温度と攪拌を維持しながら、n−ヘプタン230mL中のN−パルミトイル−エタノールアミン29gの溶液、次いで同じ緩衝液20mL中の、ATCC55717(比活性度3200U/g)から得たホスホリパーゼD0.75gの懸濁液とを添加した。
【0079】
混合物をその温度で機械攪拌しながら6時間維持した。これを室温に冷却し、反応生成物のサンプルを取り、それをNMRで分析した。
【0080】
31P−NMRスペクトルは、85.2%のNAPEと2.8%のPCの存在を示した。PAは、検出限界(0.2%)を下回った。
【0081】
実施例8
75gのPhosal35(登録商標)、ホスホリピドGmbHによって35%に等しいPC含有量で生産された流動性大豆レシチンを、750mLのアセトンを入れた1Lフラスコ内に攪拌下で導入した。上澄みを除去し、5gの塩化カルシウムを含む150mLのアセテート緩衝液0.1M pH=4.5をこのフラスコ内に添加した。残留アセトンを蒸発により低圧で除去した。混合物を43℃に加熱し、攪拌下で30分間維持した。温度と攪拌を維持しながら、n−ヘプタン310mL中のN−オレオイル−エタノールアミン31gの溶液、次いで同じ緩衝液20mL中の、ATCC55717(比活性度3200U/g)から得たホスホリパーゼD0.75gの懸濁液とを添加した。
【0082】
混合物をその温度で機械攪拌しながら5時間維持した。これを室温に冷却し、反応生成物のサンプルを取り、それをNMRで分析した。
【0083】
31P−NMRスペクトルは、38.6%のNAPE、44.7%のPCおよび1.3%のPAの存在を示した。
【0084】
実施例9
75gのPhosal35(登録商標)、ホスホリピドGmbHによって35%に等しいPC含有量で生産された流動性大豆レシチンを、750mLのアセトンを入れた1Lフラスコ内に攪拌下で導入した。上澄みを除去し、2gの塩化カルシウムを含有する60mLのアセテート緩衝液0.1M pH=4.5をこのフラスコ内に添加した。残留アセトンを蒸発により低圧で除去した。混合物を43℃に加熱し、攪拌下で30分間維持した。温度と攪拌を維持しながら、n−ヘプタン30mL中のN−オレオイル−エタノールアミン31g、次いで同じ緩衝液20mL中の、ATCC55717(比活性度3200U/g)から得たホスホリパーゼD0.75gの懸濁液とを添加した。
【0085】
混合物をその温度で機械攪拌しながら5時間維持した。これを室温に冷却し、反応生成物のサンプルを取り、それをNMRで分析した。
【0086】
31P−NMRスペクトルは、34.3%のNAPE、49.7%のPCおよび1.3%のPAの存在を示した。
【0087】
実施例10
75gのPhosal35(登録商標)、ホスホリピドGmbHによって35%に等しいPC含有量で生産された流動性大豆レシチンを、750mLのアセトンを入れた2Lフラスコ内に攪拌下で導入した。上澄みを除去し、35gの塩化カルシウムを含有する1.2Lのアセテート緩衝液0.1M pH=4.5をこのフラスコ内に添加した。残留アセトンを蒸発により低圧で除去した。混合物を43℃に加熱し、攪拌下で30分間維持した。温度と攪拌を維持しながら、n−ヘプタン560mL中のN−オレオイル−エタノールアミン31gの溶液、次いで同じ緩衝液20mL中のATCC55717(比活性度3200U/g)からの0.75gのホスホリパーゼDの懸濁液とを添加した。
【0088】
混合物をその温度で5時間機械攪拌して維持した。これを室温に冷却し、反応生成物のサンプルを得てそれをNMRで分析した。
【0089】
31P−NMRスペクトルは、83.2%のNAPE、4.6%のPCおよび2.6%のPAの存在を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)のN−アシル−ホスファチジル−エタノールアミンを調製する方法であって、
【化1】

(式中、R1、R2およびR3は、互いに独立して、飽和、単不飽和および/または多不飽和アシルC10−C30、X=OHまたはOM、M=アルカリ金属、アルカリ土類、アンモニウムまたはアルキルアンモニウムである。)式(II)のホスファチドを、
【化2】

(式中、R1およびR2が先に定義されたのと同じ意味を有し、およびR4=CH2−CH2−N+(CH33および/またはCH2−CH2−NH3+である。)式(III)の化合物と、
【化3】

(式中、R3は先に定義されたのと同じ意味を有する。)ホスホリパーゼDの存在下で反応することを含み、前記反応が、水中、または、水および少なくとも1つの炭化水素の混合物中で行われることを特徴とする方法。
【請求項2】
水および少なくとも1つの炭化水素の前記混合物が、式(II)のホスファチドを含有する緩衝水性分散物を、式(III)の化合物の炭化水素溶液若しくは分散物と組み合わせることにより得られることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反応が、式(II)のホスファチドおよび式(III)の化合物を含有する緩衝水性分散物中で行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
式(III)の化合物および式(II)のホスファチドの間のモル比が、4未満であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
式(III)の化合物および式(II)のホスファチドの間のモル比が、1および3の間であることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
1、R2および/またはR3が、アシルC12−C24であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
3が、オレオイル、パルミトイルおよびアラキドイルから選択されることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
水が、3.5および9の間、好ましくは4および5.5の間のpHで緩衝されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
カルシウムおよび/またはマグネシウムイオンの存在下で行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ホスホリパーゼDが、発酵起源であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記ホスホリパーゼDが、ストレプトミセス属の菌株から産生されることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
式(II)の前記ホスファチドが、20重量%および95重量%の間のホスファチジルコリンおよび/またはエタノールアミン含有量を有する天然起源のホスファチドの混合物であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
式(II)の前記ホスファチドが、25重量%および45重量%の間のホスファチジルコリンおよび/またはエタノールアミン含有量を有する天然起源のホスファチドの混合物であることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
式(II)の前記ホスファチドが、50重量%未満のホスファチジルコリン含有量を有するレシチンであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項15】
式(II)の前記ホスファチドが、大豆および/または卵レシチンであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項16】
式(II)の前記ホスファチドが、例えば1,2−ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、1−パルミトイル−2−オレオイルホスファチジルコリン(POPC)、1,2−ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)のような、合成起源のホスファチドであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記炭化水素が、炭化水素C4−C10、好ましくはC6−C8であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記炭化水素が、トルエンおよびh−ヘプタンから選択されることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記炭化水素が、1リットル/水1リットル未満の量で存在することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記炭化水素が、0.3および0.7リットル/水1リットルの間の量で存在することを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
水および任意選択的な炭化水素溶媒が、5および40リットル/Kgの間の式(II)のホスファチド、好ましくは6および20リットル/Kgの間のホスファチドの総量で存在することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項22】
20および70℃の間、好ましくは30および50℃の間の温度で行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項23】
界面活性剤の添加および/または超音波処理無しで行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2011−527566(P2011−527566A)
【公表日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517319(P2011−517319)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【国際出願番号】PCT/IT2008/000460
【国際公開番号】WO2010/004597
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(503375175)ケミー ソシエタ ペル アチオニ (3)
【Fターム(参考)】