説明

N−アルキル−tert−ブチルアミンの製造方法

【課題】 本発明は、tert−ブチルアミンを第1級アルキルアルコールと気相接触反応させて、工業的に有用な化合物であるN−アルキル−tert−ブチルアミンを高収率で製造する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 元素として銅を含有する酸化物触媒の存在下、tert−ブチルアミンを式(1):
RCHOH (1)
(式中、Rは水素原子又はアルキル基を示す。)で表される第1級アルキルアルコールと気相接触反応させることを特徴とするN−アルキル−tert−ブチルアミンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N−アルキル−tert−ブチルアミンの製造方法、更に詳しくはtert−ブチルアミンを第1級アルキルアルコールと気相接触反応させてN−アルキル−tert−ブチルアミンを製造する方法に関する。
N−アルキル−tert−ブチルアミンは、有機色素原料(例えば、特開2005−049635号公報)、エポキシ樹脂硬化遅延剤原料(例えば、特開2008−189824号公報)、オレフィン重合用触媒原料(例えば、国際公開WO2006/129773号公報)等として、工業的に有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
従来、N−アルキル−tert−ブチルアミンの製造方法としては、tert−ブチルアミンをハロゲン化アルキルと液相反応させてN−アルキル−tert−ブチルアミンを製造する方法が知られている(非特許文献1)。この方法は、ハロゲン化アルキルが比較的高価なものであり、副生物としてハロゲンの無機物が生成するので、工業的に満足しがたいものである。
また、触媒の存在下、第1級アミンと第1級アルキルアルコールを気相接触反応させて第2級アミンを製造する方法は公知である。たとえば、CuO−ZnO触媒の存在下、イソプロピルアミンをエタノールと気相接触反応させてN−エチルイソプロピルアミンを製造する方法(特許文献1)、アルミナを含むCuO−ZnO触媒の存在下、エチルアミンをn−ブタノールと気相接触反応させてN−エチル−n−ブチルアミンを製造する方法が知られている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60−41544号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Journal of the American Chemical Society,78巻,4039頁,1956年
【非特許文献2】Progress in Catalysis,6巻,123頁,1997年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の通り、触媒の存在下、第1級アミンと第1級アルキルアルコールとを反応させて第2級アミンを製造する方法についてはいくつかの方法が報告されている。しかし、tert−ブチルアミンを第1級アルキルアルコールと気相接触反応させてN−アルキル−tert−ブチルアミンを製造する方法については報告されていなかった。そこで、工業的に有用な化合物であるN−アルキル−tert−ブチルアミンを収率よく製造する方法が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、かかる事情に鑑み鋭意検討した結果、元素として銅を含有する酸化物触媒の存在下にtert−ブチルアミンと第1級アルキルアルコールを気相接触反応させると、N−アルキル−tert−ブチルアミンが高収率で得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、元素として銅を含有する酸化物触媒の存在下、tert−ブチルアミンと第1級アルキルアルコールを気相接触反応させることを特徴とするN−アルキル−tert−ブチルアミンの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、N−アルキル−tert−ブチルアミンを収率よく得ることができる。そのため、本発明の方法は工業的に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0010】
本発明における原料としては、tert−ブチルアミン及び第1級アルキルアルコールが用いられる。本発明の第1級アルキルアルコールとは、式(1):
RCHOH (1)
(式中、Rは水素原子又はアルキル基を示す。)で表される脂肪族アルコールである。好ましい第1級アルキルアルコールは、式(1)においてRが炭素数0〜3のアルキル基である脂肪族アルコールであり、具体的には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール等が挙げられ、より好ましくは式(1)においてRが炭素数1〜3のアルキル基である脂肪族アルコールであり、中でもエタノールが特に好ましい。
【0011】
本発明は、第1級アルキルアルコールをアルキル化剤として用いるものである。用いられる第1級アルキルアルコールの量は、tert−ブチルアミン1モルに対して1モル以上、好ましくは2以上モル、より好ましくは2.5〜10モルである。
【0012】
本発明で用いる触媒は、元素として銅を含有する酸化物触媒である。酸化物触媒中の銅の含有量はCuOとして、10〜80重量%が好ましく、更に好ましくは25〜60重量%である。
【0013】
触媒には第二成分が含まれていてもよく、Zn、Cr、Ni、Co、Fe、Sn、Pd、Pt、Ag、Ru、Rh、Ir、Re等の元素を含むものが例示される。その中でも活性、選択性の点からZn、Crが好ましく、特にZnが好ましい。
触媒の具体例としては、CuO、CuO−ZnO、CuO−Cr、CuO−Cr−MnO等が挙げられ、CuO−ZnOが好ましい。
【0014】
本発明で用いる触媒は、元素として銅を含有していればよいが、担体や他の金属酸化物と組み合わせて使用することもできる。担体の表面積は、40〜500m/g、好ましくは100〜350m/gである。担体は通常の触媒調製で用いられるものであればよく、例えば、Al、SiO、ZrO、MgO、CeO、TiO、各種ゼオライト等が例示される。触媒活性の点からは、Al、SiOが好ましく、特にAlが好ましい。
【0015】
触媒の調製法は限定されるものではなく、混練法、含浸法、共沈法等により調製されたいずれの触媒も使用できる。
【0016】
触媒は、反応前に水素で還元処理することが好ましい。触媒の還元方法は、特に限定されないが、水素流通下での熱処理が好ましい。水素の流通速度は、SV=100〜500/hr、好ましくはSV=200〜400/hrである。また、その際に水素を窒素、アルゴン等の不活性ガスで希釈してもよいが、水素のみで行うのが好ましい。水素による還元温度は100〜400℃、好ましくは200〜350℃である。
【0017】
本発明は、通常100〜400℃の範囲の温度で、好ましくは150〜300℃の範囲の温度で、常圧下又は加圧下で行われる。反応方式は特に制限されず、固定床、流動床又は移動床で行われ、バッチ式、連続式のいずれの方式も採用することができる。
【0018】
反応時にtert−ブチルアミンと第1級アルキルアルコールとともに水素を流通させると、N−アルキル−tert−ブチルアミンの収率が向上するので好ましい。
【0019】
tert−ブチルアミンと第1級アルキルアルコールの混合物の空間速度は、通常LHSV(液空間速度)で0.01〜2(g/cc−触媒・h)であり、好ましくは0.1〜1(g/cc−触媒・h)である。
【0020】
反応は、希釈剤の存在下又は不存在下に行われる。希釈剤としては、反応に不活性なものであれば特に限定されることなく、任意のものを用いることができる。具体的には、窒素、アルゴン等の不活性ガス、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカンなどの脂肪族炭化水素、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化脂肪族炭化水素などを用いることができる。これらは、単独又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0021】
反応終了後、反応ガスを溶剤に吸収させるなどの適宜手段にて生成物を捕集した後、蒸留等の通常の手段によって目的物であるN−アルキル−tert−ブチルアミンを得ることができる。
【0022】
生成物として得られるN−アルキル−tert−ブチルアミンとしては、N−メチル−tert−ブチルアミン、N−エチル−tert−ブチルアミン、N−n−プロピル−tert−ブチルアミン、N−n−ブチル−tert−ブチルアミン等が挙げられる。
【実施例】
【0023】
つぎに、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はなんらこれらに限定されるものではない。なお、実施例中のガスクロマトグラフィーによる分析は、以下の条件で行った。
【0024】
ガスクロマトグラフィー分析条件
ガスクロマトグラフ:島津製作所製GC−2010
カラム:J&W社製、HP−1,50m、内径0.32mm,膜厚1.05μm
温度:50℃→(10℃/min)→250℃
【0025】
実施例1
内径19mmのガラス製反応管に、CuO−ZnO(ズードケミー触媒株式会社製「Actisorb301(商品名)」、CuO:53重量%、ZnO:27重量%)を10ml詰め、その上下にカーボランダムをそれぞれ12cmの長さに詰めた。この反応管を250℃に昇温して、上部から水素を50ml/minで1時間流して触媒の前処理を行った。触媒の前処理終了後、この反応管に窒素を30ml/minで、tert−ブチルアミンとエタノールの混合物(混合モル比、tert−ブチルアミン:エタノール=1:5)をLHSV=0.5g/cc−触媒・hrで流して、N−エチル−tert−ブチルアミンの合成を行った。反応生成物は水に吸収させた後、ガスクロマトグラフィーで分析した。反応開始から6時間のtert−ブチルアミンの平均転化率及びN−エチル−tert−ブチルアミンの平均収率を表1に示す。
【0026】
実施例2
tert−ブチルアミンとエタノールの混合物の混合モル比を、tert−ブチルアミン:エタノール=1:1.5とした以外は実施例1と同様にして反応を行った。その結果を表1に示す。
【0027】
実施例3
tert−ブチルアミンとエタノールの混合物の混合モル比を、tert−ブチルアミン:エタノール=1:2.5とした以外は実施例1と同様にして反応を行った。その結果を表1に示す。
【0028】
実施例4
tert−ブチルアミンとエタノールの混合物の混合モル比を、tert−ブチルアミン:エタノール=1:3とした以外は実施例1と同様にして反応を行った。その結果を表1に示す。
【0029】
実施例5
tert−ブチルアミンとエタノールの混合物の混合モル比を、tert−ブチルアミン:エタノール=1:4とした以外は実施例1と同様にして反応を行った。その結果を表1に示す。
【0030】
実施例6
tert−ブチルアミンとエタノールの混合物の混合モル比を、tert−ブチルアミン:エタノール=1:6とした以外は実施例1と同様にして反応を行った。その結果を表1に示す。
【0031】
実施例7
tert−ブチルアミンとエタノールの混合物の混合モル比を、tert−ブチルアミン:エタノール=1:8とした以外は実施例1と同様にして反応を行った。その結果を表1に示す。
【0032】
実施例8
tert−ブチルアミンとエタノールの混合物の混合モル比を、tert−ブチルアミン:エタノール=1:10とした以外は実施例1と同様にして反応を行った。その結果を表1に示す。
【0033】
実施例9
窒素30ml/minに代えて、窒素25ml/min及び水素5ml/minを流した以外は実施例2と同様にして反応を行った。その結果を表1に示す。
【0034】
実施例10
窒素30ml/minに代えて、窒素25ml/min及び水素5ml/minを流した以外は実施例3と同様にして反応を行った。その結果を表1に示す。
【0035】
実施例11
窒素30ml/minに代えて、窒素25ml/min及び水素5ml/minを流した以外は実施例4と同様にして反応を行った。その結果を表1に示す。
【0036】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
元素として銅を含有する酸化物触媒の存在下、tert−ブチルアミンを第1級アルキルアルコールと気相接触反応させることを特徴とするN−アルキル−tert−ブチルアミンの製造方法。
【請求項2】
元素として銅を含有する酸化物触媒がCuO−ZnOである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第1級アルキルアルコールが、式(1):
RCHOH (1)
(式中、Rは炭素数1〜3のアルキル基を示す。)で表される脂肪族アルコールである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
第1級アルキルアルコールの使用量が、tert−ブチルアミン1モルに対して2.5〜10モルである請求項1〜3のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2011−26214(P2011−26214A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−170901(P2009−170901)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(000167646)広栄化学工業株式会社 (114)
【Fターム(参考)】