説明

N−アルキルカルボニル−アミノ酸エステルおよびN−アルキルカルボニル−アミノラクトン化合物およびそれらの使用

本発明は、一般的に、感覚過程に作用して爽快感を与え、鎮静および冷却をおこなう化合物に関する。特に、本発明は、本明細書に記載される通りのある種のN-アルキルカルボニル-アミノ酸エステルおよびN-アルキルカルボニル-アミノラクトン化合物;前記化合物を含む組成物および物品;および治療方法、たとえば、皮膚ならびに口腔および上気道の内膜における刺激、かゆみ、および痛みの不快を緩和する方法、たとえば咳および/または喘息の治療方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
米国仮出願No. 60/667,166、2005年3月29日出願;
米国仮出願No. 60/683,384、2005年5月20日出願;
米国仮出願No. 60/702,505、2005年7月25日出願;
米国特許出願No. 11/203,728、2005年8月13日出願;および
米国仮出願No. 60/772,374、2006年2月9日出願
に関連しており、それぞれの出願の内容を全体として参照により本明細書に組み入れる。
【0002】
本発明は、感覚過程に作用して、爽快感を与え、鎮静および冷却をおこなう化合物に関する。特に、本発明はある種のN-アルキルカルボニル-アミノ酸エステルおよびN-アルキルカルボニル-アミノラクトン化合物;前記化合物を含む組成物および物品;および治療方法、たとえば、皮膚ならびに口腔および上気道の内膜における刺激、かゆみ、および痛みの不快を緩和する方法、たとえば咳および/または喘息の治療方法に関する。
【背景技術】
【0003】
本発明および本発明に関係する技術の状況をより完全に説明および開示するために、本明細書に多くの特許および出版物を引用する。個々の引用の際には特に参照により組み入れる旨を記載しないが、これらの参照文献のすべてを全体として参照により本明細書の開示に組み入れる。
【0004】
この明細書および特許請求の範囲の全体を通して、文脈上他に理解される場合を除いて、「含む」という用語およびその変化形は、記載された整数もしくは段階または整数もしくは段階の群を含むことを意味するが、他の整数もしくは段階または整数もしくは段階の群を除外することを意味しない。
【0005】
明細書および特許請求の範囲において、文脈上明白に異なる場合を除いて、記載される名詞は、単数および複数の両方の場合を含む。したがって、たとえば、「医薬担体」という表現は、1種の担体のみでなく、2種以上の担体の混合物を含む。
【0006】
範囲はしばしば、「『約』ある特定の値から」、および/または「『約』別の特定の値まで」という形で表現される。このような範囲が表現された場合、「前記のある特定の値から」、および/または「前記の別の特定の値まで」を含むもう一実施形態が存在する。同様に、値が「約」を用いて近似により表現される場合には、その特定の値は別の実施形態を形成すると理解される。
【0007】
メントールおよびメントール様化合物は、爽快、冷却、香味、抗刺激、および皮膚ならびに口および上気道の粘膜の麻酔のための成分として、洗面用品、菓子、食用品、および市販薬に使用される。しかしながら、感覚的不快の緩和におけるメントールの有用性は、その活性の持続時間の短さのため、およびその匂い、味の強さ、および刺激を含む感覚過程への多様な活性のために限定される。メントールの不快な効果は、たとえば、メントールを含有する軟膏を眼の表面の近くに持ってきた場合に容易に経験することができる。メントールの蒸気が目を傷つけ、涙が出る。同様に、メントールは鼻づまりを緩和し、咳を鎮静することができるが、前記効果、特に咳に対する効果は一時的であり、粘膜を刺激する特性のために高用量での使用が制限される。
【0008】
傷ついた皮膚の不快に対する最近の治療には、冷水による洗浄または湿布、および局所麻酔薬(たとえば、EMLA(登録商標))または非ステロイド抗炎症鎮痛薬(NSAID)を含有する軟膏が含まれる。咳に対する最近の医薬品は、デキストロルファン、コデイン、およびメントールである。これらの方法および化合物は穏和な効果および使用の容易さを有する。
【0009】
体表面に爽快感を与え、冷却および鎮静をおこなうが、匂い、刺激、および最も重要なこととして活性の持続時間の短さという欠点を持たないメントール様の化合物が必要である。掻痒性湿疹などの医学的に重要な皮膚の不快、または持続性の咳および喘息の喘鳴を治療するために、メントールよりもはるかに長く作用する化合物を有することが重要である。
【0010】
メントールは3個のキラル中心を有し、8個の光学異性体はすべて公知である。(-)-メントール(別名:1R-(1α-2β-5α)-5-メチル-2-(1-メチルエチル)シクロヘキサノール)と呼ばれる最も一般的な光学異性体を下に示す。
【化1】

【0011】
約30年前に、科学者のグループがメントールよりも優れた特性を有する冷却剤を見出すことを試みて1200以上の化合物を合成した。彼らの結果は論文(Watsonら、「メントールの冷却効果を有する新規化合物」(New compounds with the menthol cooling effect), J. Soc. Cosmet. Chem., 29: 185-200, 1978)にまとめられた。この研究から、N-アルキルシクロアルキルおよびN-アルキルアルキルカルボキシアミド、WS-3およびWS-23が市販されるようになり、菓子、食用品(たとえば、キャンディー、チューインガム)および洗面用品の添加剤として使用されている。
【0012】
米国特許第4,178,459号(1979年12月11日)に、Watsonらは、いくつかのN-アルコキシカルボニルアルキルにより置換されたp-メンタンカルボキシアミドの冷却特性について記載した。第5および6段の表にアラニンエチルエステル化合物(下記参照)が示されている。この記載はメンタン部分およびアラニン部分の両方の立体異性について述べていない。
【化2】

【0013】
皮膚および粘膜に適用するために商業的に使用される他のメントール様冷却化合物は、たとえば、乳酸メンチル(Frescolat(登録商標)ML)およびメントキシプロパンジオール(Cooling Agent 10)である。
【0014】
局所適用に使用される冷却剤に関する最近の情報は、M.B. Erman (「冷却剤およびスキンケアへの応用」(Cooling agents and skin care applications), Cosmetics & Toiletries, 120: 105-118, 2005年5月; 「生理的冷却剤の進歩」(Progress in physiological cooling agents), Perfumer & Flavorist, 29: 34-50, 2004)、ならびにP. JacobsおよびW. Johncock (「冷たいのがお好き」(Some like it cool), Parfumerie und Ksometik, 80: 26-31, 1999)により総論としてまとめられている。
【0015】
WS-5として知られるグリシンエチルエステル化合物(下記参照)は、上記のErmanによる総論の42ページの図F-11に示されている。この化合物にはα-メチル基またはα-エチル基が存在しない。
【化3】

【0016】
この化合物(WS-5)およびその光学異性体は、米国特許公報No. 2005/0222256 A1 (2005年10月6日)の主題でもある。
【0017】
最近の当業者に公知の化合物はいずれも、掻痒性湿疹などの重い皮膚疾患または喘息などの上気道の病気に使用するための処方薬としての条件を満たすような作用の効力または持続時間を有しない。
【発明の開示】
【0018】
本発明の一態様は、本明細書に記載される通りのある種のN-アルキルカルボニル-アミノ酸エステルおよびN-アルキルカルボニル-アミノラクトン化合物に関する。
【0019】
本発明の別の態様は、前記化合物および送達媒体(たとえば、化合物をヒトに送達するための)を含む組成物に関する。
【0020】
一実施形態において、送達媒体は製薬上許容される担体または希釈剤である。
【0021】
一実施形態において、送達媒体は化合物をヒトの皮膚に送達する目的に適合している。
【0022】
一実施形態において、送達媒体はウェットティッシュである。
【0023】
一実施形態において、送達媒体は化合物をヒトの口腔および/または上気道に送達する目的に適合している。
【0024】
一実施形態において、化合物は組成物中、たとえばトローチ中に1〜10 mgの量で存在する。
【0025】
一実施形態において、化合物は組成物中に0.01〜2% wt/volの量で存在する。
【0026】
一実施形態において、組成物はさらに多価アルコールを含む。
【0027】
一実施形態において、組成物はさらに粘膜粘着性ポリマーを含む。
【0028】
本発明の別の態様は、
前記化合物および送達媒体を含む組成物をヒトの皮膚、口腔、または上気道と接触させ、それにより有効量の化合物をヒトの皮膚または粘膜に送達すること
を含む、ヒトの皮膚、口腔、または上気道の治療方法に関する。
【0029】
本発明の別の態様は、
請求項1〜24のいずれか1項に記載の化合物および送達媒体を含む組成物を、たとえばヒトの皮膚、口腔、または上気道と接触させ、
それにより状態の治療(たとえば緩和)に治療上有効な量の化合物を送達すること
を含む、状態の治療方法に関する。
【0030】
本発明の別の態様は、治療によりヒトまたは動物の体を治療する方法に使用するための前記化合物に関する。
【0031】
本発明の別の態様は、治療方法に使用するための医薬品の製造における前記化合物の使用に関する。
【0032】
一実施形態において、治療は、皮膚の刺激、かゆみ、および/または痛みの治療(たとえば緩和)である(たとえば、接触により皮膚の刺激、かゆみ、および/または痛みの緩和に治療上有効な量の化合物を送達する)。
【0033】
一実施形態において、治療は、咳ならびに/または上気道の刺激および/もしくは閉塞の感覚の治療(たとえば緩和)である(たとえば、接触により咳ならびに/または上気道の刺激および/もしくは閉塞の感覚の緩和に治療上有効な量の化合物を送達する)。
【0034】
一実施形態において、治療は、喘息、慢性閉塞性肺疾患、または他の上気道の病気の症状および徴候の治療(たとえば緩和)である(たとえば、接触により喘息、慢性閉塞性肺疾患、または他の上気道の病気の症状および徴候の緩和に治療上有効な量の化合物を送達する)。
【0035】
一実施形態において、治療は咳の治療である(たとえば、接触により咳の治療に治療上有効な量の化合物を送達する)。
【0036】
一実施形態において、治療は喘息の治療である(たとえば、接触により喘息の治療に治療上有効な量の化合物を送達する)。
【0037】
一実施形態において、治療は禁煙治療である(たとえば、接触により禁煙治療に有効な量の化合物を送達する)。
【0038】
一実施形態において、治療は感染性微生物の宿主伝播を減少させる治療である(たとえば、接触により感染性微生物の宿主伝播を減少させるのに有効な量の化合物を送達する)。
【0039】
一実施形態において、治療は咳および感染性微生物の空気感染を予防するための治療である(たとえば、接触により咳および感染性微生物の空気感染を予防するのに有効な量の化合物を送達する)。
【0040】
一実施形態において、治療は覚醒を高めるため、または吐き気、食欲、疲労、熱感、もしくは発熱を減少させるための治療である(たとえば、接触により覚醒を高める、または吐き気、食欲、疲労、熱感、もしくは発熱を減少させるのに有効な量の化合物を送達する)。
【0041】
当業者に理解される通り、本発明の一態様の特徴および好ましい実施形態は本発明の他の態様にも関連する。
【0042】
本発明の他の利点および態様は下記の詳細な説明および添付する特許請求の範囲を読むことにより理解されるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
皮膚、唇、ならびに口腔および上気道の粘膜に使用するための製剤(たとえば医薬)の活性成分として使用するのに適したある種の化合物が発見された。
【0044】
これらの化合物は、たとえば、かゆみおよび痛みなどの不快を減少させるための治療薬としての使用、および食用品、菓子、化粧品および洗面用品の添加物としての使用に適している。
【0045】
これらの化合物は、次の性質:
(i) 皮膚、口腔、および/または喉の表面に対する爽快、鎮静、および冷却作用、および病的状態においては、抗刺激、止痒、鎮咳、および/または抗侵害受容作用;
(ii) 化合物を目の近くまたは周りの顔の皮膚、たとえば頬および眼窩周囲の皮膚に適用した場合、たとえば、40 mM(250ダルトンの分子の1% wt/volの混合物と等しい)以下の濃度で皮膚に適用した場合の、目に対する最小限の刺激作用(高い安全特性をも示す);
(iii) たとえば40 mM(250ダルトンの分子の1% wt/volの混合物と等しい)以下の濃度で皮膚に適用した場合の、約5分未満(たとえば、0.5〜5分)、好ましくは約3分未満(たとえば、0.5〜3分)、好ましくは約1分未満(たとえば、0.5〜1分)の迅速な活性の発現;
(iv) たとえば40 mM(250ダルトンの分子の1% wt/volの混合物と等しい)以下の濃度で皮膚に適用した場合の、1時間よりも長い活性の持続時間;
(v) 繰り返し適用しても、適用後の刺激に対する感受性が変化しないこと;および
(vi) 口腔中に適用した場合の、咳および喘鳴を引き起こす口および上気道におけるイライラする刺激を抑制する、強力な冷却、鎮静、および爽快の感覚
の1つ以上を有する。
【0046】
これらの化合物は、便利に、N-アルキルカルボニル-およびN-アルキル-N-アルキルカルボニル-D-、L-、またはDL-アミノ酸エステルまたはラクトン、または「NACE化合物」と呼ばれる。
【0047】
一実施形態において、化合物は式(1):
【化4】

【0048】
[式中、
R1は独立して水素またはメチルであり;
R2は独立してC1〜C2アルキルであり;
R3は独立してC1〜C4アルキルである]
の化合物から選択される。
【0049】
メンチル基(すなわち、5-メチル-2-(1-メチルエチル)シクロヘキサ-1-イル基)は(-)-メントール中に存在するものと同じ立体化学を有する。
【0050】
-NR1-基と-C(=O)OR3基の間のα炭素はD-アラニン中に存在するものと同じ立体化学を有する。これはカーン・インゴルド・プレローグ命名法により、R配置としても知られている。グリシンを除いて、すべてのα-アミノ酸はα炭素にキラル中心を有する。いくつかの抗生物質および微生物の細胞膜中にD配置のアミノ酸が見られるものの、タンパク質のアミノ酸は(ほとんど)すべてがL(またはS配置)である。
【0051】
一実施形態において、R1は独立して水素である。
【0052】
一実施形態において、R1は独立してメチルである。
【0053】
一実施形態において、R2は独立してメチルである。
【0054】
一実施形態において、R2は独立してエチルである。
【0055】
一実施形態において、R3は独立してメチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、s-ブチル、またはt-ブチルである。
【0056】
一実施形態において、R3は独立してメチルまたはエチルである。
【0057】
一実施形態において、R3は独立してメチルである。
【0058】
一実施形態において、R3は独立してエチルである。
【0059】
上記の実施形態のすべての可能な組合せは、それらの組合せを個々に明確に記載したのと同様に、明確に本明細書に開示されている。
【0060】
R2とD-配置の組合せは、作用の効力および持続時間を増大し、組織への刺激なしに選択的に爽快な冷却を与える効果を有する。
【0061】
好ましい実施形態において、R1は水素であり、R2はメチルであり、R3はメチルまたはエチルである(対応するD-アラニルメチルエステルまたはD-アラニルメチルエチルエステル誘導体を与える)。
【化5】

【0062】
D-アラニン
(R)-2-アミノプロピオン酸
【化6】

【0063】
D-アラニンメチルエステル
(R)-2-アミノプロピオン酸メチルエステル
【化7】

【0064】
D-アラニンエチルエステル
(R)-2-アミノプロピオン酸メチルエステル
いくつかの好ましい化合物の例には下記のものが含まれる。
【表1】

【0065】

【0066】
好ましい化合物の別の例には、下記のものが含まれる。
【表2】

【0067】
好ましい化合物の別の例には、下記のものが含まれる。
【表3】

【0068】
好ましい化合物の別の例には、下記のものが含まれる。
【表4】

【0069】
一実施形態において、化合物は式(2):
【化8】

【0070】
[式中、
nは独立して1、2、または3であり;
R1は独立して水素またはメチルである]
の化合物から選択される。
【0071】
ここでも、メンチル基(すなわち、5-メチル-2-(1-メチルエチル)シクロヘキサ-1-イル基)は(-)-メントール中に存在するものと同じ立体化学を有する。
【0072】
一実施形態において、nは独立して1である。
【0073】
一実施形態において、nは独立して2である。
【0074】
一実施形態において、nは独立して3である。
【0075】
一実施形態において、R1は独立して水素である。
【0076】
一実施形態において、R1は独立してメチルである。
【0077】
一実施形態において、α炭素は(R)配置である。
【0078】
一実施形態において、α炭素は(S)配置である。
【0079】
上記の実施形態のすべての可能な組合せは、それらの組合せを個々に明確に記載したのと同様に、明確に本明細書に開示されている。
【0080】
式(2)の化合物は、式(1)の基R2およびR3が一緒になってアルキレン鎖(たとえば、-(CH2)n-)を形成し、それらが結合する原子と一緒になって5、6、または7員ラクトン環を形成する点を除いて、式(1)の化合物と同様である。
【0081】
式(2)の化合物に関して、α炭素は独立してD-アミノ酸配置(すなわち、(R)配置)またはL-アミノ酸配置(すなわち、(S)配置)である。両方のエナンチオマーおよびその混合物(たとえばラセミ混合物)は、生物学的におよそ等しい効力を有する(下記参照)。ラクトンのキラル中心には、どちらかの活性配置を取るような有意なエネルギー障壁が存在しないと考えられる。したがって、ラクトンのラセミ混合物も有用である。
【0082】
ホモセリン(Hse)が環化して、ホモセリンラクトン(Hsl)と呼ばれる5員ラクトン環(γ-ラクトン環)を形成していてもよい。そこで、nが1である式(2)の化合物を、本明細書においてD-Hsl、L-Hsl、およびDL-Hsl類似物と呼ぶ。
【0083】
いくつかの好ましい化合物の例には下記のものが含まれる。
【表5】

【0084】
好ましい化合物の別の例には、下記のものが含まれる。
【表6】

【0085】
好ましい化合物の別の例には、下記のものが含まれる。
【表7】

【0086】
好ましい化合物の別の例には、下記のものが含まれる。
【表8】

【0087】
一実施形態において、化合物は実質的に精製された形および/または実質的に不純物を含まない形である。
【0088】
一実施形態において、実質的に精製された形は50重量%以上、たとえば60重量%以上、たとえば70重量%以上、たとえば80重量%以上、たとえば90重量%以上、たとえば95重量%以上、たとえば97重量%以上、たとえば98重量%以上、たとえば99重量%以上である。
【0089】
特定されない限り、実質的に精製された形は、すべての立体異性または鏡像異性型の化合物を指す。たとえば、一実施形態において、実質的に精製された形は、立体異性体の混合物、すなわち他の化合物に関して精製された形を指す。一実施形態において、実質的に精製された形は、一つの立体異性体、たとえば光学的に純粋な立体異性体を指す。一実施形態において、実質的に精製された形はエナンチオマーの混合物を指す。一実施形態において、実質的に精製された形はエナンチオマーの等モル混合物(すなわち、ラセミ混合物、ラセミ体)を指す。一実施形態において、実質的に精製された形は、一つのエナンチオマー、たとえば光学的に純粋なエナンチオマーを指す。
【0090】
一実施形態において、不純物は50重量%以下、たとえば40重量%以下、たとえば30重量%以下、たとえば20重量%以下、たとえば10重量%以下、たとえば5重量%以下、たとえば3重量%以下、たとえば2重量%以下、たとえば1重量%以下存在する。
【0091】
特定されない限り、不純物は他の化合物、すなわち、立地異性体またはエナンチオマー以外を指す。一実施形態において、不純物は他の化合物および他の立体異性体を指す。一実施形態において、不純物は他の化合物および他のエナンチオマーを指す。
【0092】
一実施形態において、実質的に精製された形は少なくとも少なくとも60%光学的に純粋であり(すなわち、モル単位で、60%の化合物が所望の立体異性体またはエナンチオマーであり、40%が望まれない立体異性体またはエナンチオマーである)、たとえば少なくとも70%光学的に純粋、たとえば少なくとも80%光学的に純粋、たとえば少なくとも90%光学的に純粋、たとえば少なくとも95%光学的に純粋、たとえば少なくとも97%光学的に純粋、たとえば少なくとも98%光学的に純粋、たとえば少なくとも99%光学的に純粋である。
【0093】
これらのNACE化合物の中で好ましいものは、皮膚または粘膜に適用された場合に、皮膚への刺激が少なく、最小限の目への刺激で、爽快、鎮静、および冷却の感覚を与え、40 mM以下で使用した場合に約1時間以上続く皮膚への作用持続時間を有し、約30分以上続く口腔および上気道の内膜への作用持続時間を有する、「持続性」NACE化合物である。(40 mMの濃度は、250ダルトンの分子量を有する化合物の、1% wt/vol、または10 mg/100 mlに相当する。)
持続性NACE化合物は、他のN-アルキルカルボニル-アミノ酸エステル(たとえば、WS-5およびWS-31;表2参照)およびN-アルキル置換カルボキシアミド(たとえば、WS-3、WS-12、WS-23;表5参照)(WS-23はN-2,3-トリメチル-2-イソプロピルブタンアミドである)とは区別される。それらの他の化合物は、冷却特性を有することが知られており、そのうちの二つ(WS-3およびWS-23)は食用品、菓子、および洗面用品に商業的に使用されている。
【0094】
実施例に示す通り、WS-3、WS-5、WS-12、WS-23およびWS-31は、40 mMにおいて短い作用持続時間(1時間未満)または遅い発現(5分以上)を有する。また、これらの化合物のいくつかは意義のある冷却を達成するということなく、皮膚にヒリヒリする、焼けるような、および刺激の感覚を与え、感覚過程に多様な作用を有する化合物である(-)-メントールを用いて観察されるものと同様の効果を有する。(-)-メントールはメントールの8種の立体異性体の1つであり、最も強い冷却作用を有し、商業的に使用されているものである点に留意されたい。
【0095】
それに対して、好ましい持続性NACE化合物は、迅速に発現し、作用持続時間が長く、また、以前には認められなかったことであるが、皮膚または目への刺激が最小限である、完全な冷却感をもたらす。
【0096】
さらに、N-p-メンタンカルボニルグリシンエチルエステル(WS-5)の窒素原子またはα-アミノ炭素のいずれかにメチル基を付加することにより、作用持続時間が少なくとも50%増加する。
【0097】
さらに、α炭素がD-配置であるアラニン誘導体では、作用の効力、持続時間、および選択性(刺激がない)が増加する。
【0098】
それに加えて、アミノ酸のα炭素のエステルのアルキル部分への環化により5-員γ-ラクトン環を形成することで、化合物に所望の生物活性を与える。
【0099】
その長時間の活性のために、前記化合物、組成物、および物品は治療に、たとえば体の皮膚ならびに上部消化管および呼吸器表面の傷および炎症の病態生理学的徴候に伴う不快を減少させるために使用することができる。
【0100】
これらの化合物は、強い掻痒性湿疹、および重く持続する咳および喘鳴などの感覚的不快の長時間の緩和が望まれる治療的状況において、刺激、かゆみおよび痛みを解消するために皮膚および口腔に使用することができる。
【0101】
これらの化合物は、皮膚ならびに口腔および上気道の粘膜からのかゆみ、痛み、および不快の知覚を阻害するので、これらの組織の感覚的障害を阻害するために使用することができる。
【0102】
これらの化合物は(たとえば、10 mgまでのユニットドーズのトローチまたは液体に製剤した場合)、1分未満の迅速な効果の発現を示し、喉を鎮静し、口または気道に刺激を与えることなく、数時間以上の強力な鎮咳作用を有する。
【0103】
これらの化合物は、顔の皮膚または口中において、匂い、ヒリヒリする、または焼けるような感覚がない。
【0104】
これらの化合物は、単独で、および/または化合物を皮膚に送達するための送達媒体などの送達媒体をさらに含む組成物として使用される。一実施形態において、化合物は、皮膚科学的に有効な量の化合物を皮膚に送達するのに適合した、またはそれに十分な構造を有するウェットティッシュに担持される。
【0105】
作用持続時間の延長により、持続性NACEの実施形態を、たとえば顔の皮膚の光力学またはレーザー手術、顔の皮膚の皮膚炎、またはひどい虫さされの後の、皮膚または粘膜の不快が1日以上存在するような治療的状況において使用することが可能になる。
【0106】
最近、このカテゴリーにおいて認可された皮膚の不快の治療的解消のための局所鎮痛薬は存在しないが、そのような薬物に対する需要は存在する。とりわけ、選択的に冷却し、爽快感を与える作用を有する効力の高いD-AlaおよびHsl誘導体は、口腔および上気道に使用することができる薬物の範囲を広げ、鎮咳および抗喘息製剤などの治療薬に組み入れることができる。
【0107】
効力の増強および刺激を伴わない爽快な冷却効果の存在という所望の効果を与える分子の特異的な構造的特徴は、予期しない、驚くべきものであって、当業者に知られていなかった。
【0108】
本明細書において状態を治療するという文脈で使用される「治療」という用語は、一般的にある所望の治療効果が達成される治療または療法を意味する。前記治療効果は、たとえば状態の進行の阻害であり、進行速度の減少、進行速度の停止、状態の症状の緩和、状態の改善、および状態の治癒を含む。予防的手段としての治療(すなわち、予防)も含まれる。たとえば、まだ状態が発生していないが、状態が発生するリスクがある患者への使用は、「治療」の用語に含まれる。
【0109】
本明細書において使用する「有効量」という用語は、所望の治療計画に従って投与した場合に、合理的な利益/リスクの比に見合った、ある所望の治療効果を与えるのに有効な活性化合物、または活性化合物を含む材料、組成物もしくは剤形の量を意味する。
【0110】
N-アルキルカルボニル-およびN-アルキル-N-アルキルカルボニル-アミノ酸エステルならびにラクトンの薬理学およびメカニズム
皮膚からの不快な刺激は、無髄C繊維および細い有髄Aδ繊維により伝達されると考えられている。機能的に、これらの繊維は、多モードとも呼ばれ、一つの群においてカルシトニン遺伝子関連ペプチドおよび物質Pなどの神経ペプチドを含有し、別の群においてホスファターゼおよびイソレクチンB4の結合部位を含有し得る。また、これらの感覚繊維は、熱感覚および痛みをコードする受容体の一過性受容体電位(TRP)ファミリーを含む種々の受容体をも含有する。咳の開始の求心性信号は気管および喉頭の表面の検出器から発生し、迷走神経の喉頭分枝を経て伝達される。これらのAδ繊維は下神経節内のニューロンに始まり、速順応性受容器を含有する。咳の刺激に対する感受性は、プロトン、炎症、およびカプサイシンなどのバニロイド受容体TRPV1アゴニストによりC繊維を通して別々に増大するが、正確な検出器およびC繊維の変換器回路は解明されていない(Canningら、J. Physiol. 557: 643-548, 2004を参照されたい)。
【0111】
皮膚ならびに口および上気道の粘膜には、冷却により改善される感覚的不快を作り出す多くの状態が存在する(下記参照)。顔の皮膚および粘膜の冷却は、神経終末に受容体を有する一次求心性感覚神経のサブセットにより検出される。これらの感覚繊維は中間的な温度で律動的で継続的な放電を示し、皮膚温度の冷却(33℃から23℃への段階的減少)に応答して増大し、温めることにより抑制される。動的情報は、20〜40インパルス/秒の速度でスパイク列として軸索を通って中枢ニューロンに伝播し、ヒトに冷却感を与える。このタイプの感覚は、顔を15〜22℃の温度の空気または水に曝すことにより再現される。顔の皮膚からの一次求心神経は三叉神経核尾部の表層において終結し、そこでそれらは95%以上の温度受容(thermoceptive)入力をおこなう(たとえば、Hutchinsonら、J. Neurophysiol., 77:3252-3266, 1997を参照されたい)。鼻咽頭および中咽頭からの冷却信号は、舌咽神経を通じて伝達される。
【0112】
心理学の教科書において感覚の人体模型の図に見ることができるように、顔および唇の表面には密に神経が分布しているので、顔および唇からの温度検出の入力は行動の調節に特に重要である。この事実は、我々が温度変化を顔の感覚からは容易に気づくが、体の他の部分からは気づきにくいことから容易に経験される。三叉神経の眼、上顎、下顎の3本の枝は、顔、頭、頭皮、唇、口膜、および舌の背面の皮膚表面からの求心温度感覚情報を脳幹の表面核に送る。これらの三叉神経上の温度受容ユニットは表面温度の低下に動的に応答し、暖かさにより阻害される。熱検出は緊張性に(tonically)活性ではないので、顔からの熱感覚はこれらの冷感受容体信号により支配される。
【0113】
口腔から検出される冷却信号は、三叉神経の入力とは区別される顔および舌咽神経により仲介される味覚信号および唾液の分泌などのさまざまなものにより信号の正確な同定が混乱し得るので、より複雑である。口腔、気管、および喉頭からの感覚信号は、舌神経、舌下神経、迷走神経の上喉頭神経、および三叉神経の分枝における神経終末上の検出器から発生する。
【0114】
感覚的不快に対する爽快な冷却の利点の根拠となる正確なメカニズムは明確に理解されていないが、このような効果は一般的な経験である。化学物質が複数の感覚の様相に影響を与える場合に、感覚は「混乱」し得る。これは特に(-)-メントール(L-メントール、(1R)-メントール、および(1R,2S,5R)-メントールとしても知られる)において当てはまる。(-)-メントールは冷却剤として広く使用されているが、感覚過程に対して多様な活性を有する。たとえば、上気道および口腔において、(-)-メントールは、身体感覚(冷却、刺激、ヒリヒリする感じ)、嗅覚(ミント臭)、および味覚(苦味)を引き出し得る。抗刺激剤として、(-)-メントールは口および咽頭膜の刺激を減少することができ(たとえば、強いミントまたは歯磨き)、筋肉において鎮痛作用を有する(たとえば、BenGay(登録商標)軟膏)。多様性はさらに混合して、特に眼の周りの刺激(焼けるような、チクチク、ヒリヒリと刺すような)、熱効果(冷却、温め)および触覚効果(ブンブン動き回るような、ヒリヒリする、くすぐるような、しびれる)の複合的知覚を起こし得る。鼻および口腔において、(-)-メントールを検出する優位な方式は嗅覚である(たとえば、Nagataら、J. Exptl. Psychol., 31: 101-109, 2005を参照されたい)。
【0115】
(-)-メントールの抗侵害受容作用が、侵害受容器などの末梢構造において直接仲介されるのか、「冷感」神経終末の冷却/冷受容体の活性化により間接的に仲介されるのかは明らかでない。後者の場合、侵害受容の抑制は入ってくる有害および刺激信号の中枢の「ゲート」を通しておこなわれる。末梢(-)-メントール冷感受容体はTRP-M8と呼ばれるタンパク質であると考えられている。しかしながら、化合物のTRP-M8を活性化する効力は冷却作用と相関しないことが見出されている(たとえば、A.K.Vogt-Eisele, D. Bura, H. HattおよびE.T.Wei.「N-アルキルカルボキシアミド冷却剤:皮膚ならびにTRPM8およびTRPA1受容体を有する細胞に対する活性」(N-Alkylcarboxamide Cooling Agents: Activities on Skin and Cells with TRPM8 and TRPA1 Receptors.) 3rd Annual Workshop on the Study of Itch, September 25〜27, 2005 in Heidelberg, Germany. Acta Dermato-Venereological 85: pg.468, 2005を参照されたい)。さらに、TRP-M8は、わさびの鼻につんと来る感覚を作り出す物質であるカラシ油により活性化される。したがって、本発明の化合物は単にTRP-M8受容体を通じて作用するのみであると見るべきではない。
【0116】
(-)-メントールおよび関連する物質の感覚過程への多様な作用は、食品、菓子、香味料、チューインガム、口紅、および他の食用品(口に入れる品目)、飲料、タバコ製品、洗面用品のための組成物、鼻および気道の症状の治療のためおよび消化管障害のための市販の医薬組成物において、ならびに皮膚、筋肉、および口腔およびのどの膜の不快を緩和するための抗刺激剤として利用される。菓子などのメントール製品は中枢神経系に覚醒効果を有するが、メントール組成物は、眼への刺激(刺すような、しみる、涙が出る、および痛み)を起こすので、覚醒に有効な濃度で顔の皮膚に適用することはできない。
【0117】
そこで、眼の表面を刺激しないが、覚醒させるために顔の皮膚に適用することができる薬物の同定は有用である。さらに、そのような薬物は爽快感を与えるため、および皮膚の刺激、かゆみおよび痛みを減少させるために目の周囲の皮膚に適用することができる。
【0118】
皮膚への局所適用のための商業的に使用される化粧品用のメントール様冷却化合物は、主に、乳酸メンチル(Frescolat(登録商標)ML)、メントングリセリンアセタール(Frescolat(登録商標)MGA)、およびメントキシプロパンジオール(Cooling Agent 10)である。これらの薬物は顔の皮膚において30分以上作用しない。他の2つの薬物、WS-3およびWS-23は、主に菓子、チューインガム、および洗面用品(マウスウォッシュ、アフターシェーブローション、シャンプー、デオドラント、歯磨き)に使用される。皮膚への適用に使用される冷却剤に関する最近の情報は、M.B. Erman (「冷却剤およびスキンケアへの適用」(Cooling agents and skin care applications), Cosmetics & Toiletries 120: 105-118, May 2005; 「生理的冷却剤の進歩」(Progress in physiological cooling agents), Perfumer & Flavorist 29: 34-50, 2004)、ならびにP. JacobsおよびW. Johncock (「冷たいのがお好き」(Some like it cool), Parfumerie und Kosmetik 80: 26-31, 1999)により総論としてまとめられている。
【0119】
この群の薬物はいずれも、(a)医薬製剤は一般的に単一の活性成分を必要とするため、および(b)最近の冷却剤はいずれも治療的に価値があると言うのに十分な活性の持続時間を有しないために、皮膚への治療的使用の基準を満たさない。
【0120】
皮膚の不快を治療するために、化合物は少なくとも1時間、好ましくはより長く作用しなければならない。そうでないと、患者は不快を緩和するために薬物を繰り返し適用しなければならない。気道における抗刺激または鎮咳作用のためには、理想的な薬物は、活性の迅速な発現、鎮静作用、および長時間、たとえば数時間に渡って不快を緩和する能力を有さなければならない。
【0121】
発明の概念の非技術的記載
記録電極を用いて、脳に入る冷感および熱感信号を音声信号に変換した(Hutchinsonら、上記参照)。「冷感」ニューロンは、雨滴が屋根に落ちるような「パタパタ」音を発生する。これらのニューロンは室温で緊張性に(tonically)活性である。たとえば角氷を受容表面の近くに持ってくることによりさらに冷却すると、「パタパタ」の音および頻度が強い夕立のようではあるが豪雨または放電の激流ほどではない程度に増大する。それに対して、「熱/痛み」ニューロンは熱源が皮膚温を43.3℃近くに上げるまでは静かである。そこまで皮膚温が上がると、これらのニューロンは、高い波または潮が浜に寄せる音のようなうなりを伴って同調して放電する。冷感および熱感ニューロンのパタパタおよびうなりは様相特異的であり、圧力または接触によっては活性化されない。本明細書に記載される持続性NACE化合物は冷感ニューロンのパタパタの伝達を起こすので、脳は室温を約15〜18℃であると知覚する。これらのニューロンの活性化は、暑い環境の中で強いエアコンのスイッチを入れるようなものである。正常な個体におけるこの感覚帯は、覚醒、爽快感、および冷感として感じられる。本明細書において、これを「完全な冷却」と呼ぶ。NACE化合物および完全な冷却の存在は、病的状態において、有害信号の脊髄および/または脳への通過のゲートとなる。こうして、治療効果を伴う鎮静抗侵害受容(抗刺激、抗掻痒および鎮咳)効果が達成される。
【0122】
発明者は、完全な冷却の強力で長時間の活性化を達成する分子を同定した。これらの分子は、20分未満の作用時間を有する(-)-メントールおよびWS-3と質的および量的に異なる。かゆみおよび咳のある事例において、完全な冷却の感覚がもはや意識的知覚として感じられなくなった時にもNACE化合物が持続的抗侵害受容活性を及ぼすこと、およびNACE化合物を繰り返して適用することにより受容侵害を封じ、消滅させることができることが観察された。これらの結果は、完全な冷却がさらに侵害受容の過程の可塑性を調節するおよび弱めることができることを示唆している。
【0123】
持続性NACE化合物は、体の表面に局所適用する場合、1〜10 mgの1回投与量、および10 mg/mL以下の濃度で活性である。局所とは、顔の皮膚、眼瞼、唇、上および下気道、および消化管の入り口および出口、すなわち口腔および肛門直腸を含む、空気と接触している体表面に適用することを意味する。
【0124】
また、持続性NACE化合物は他の化合物と比較して迅速な作用の発現(約0.5〜約3分)をも有する(たとえば、図1および2および実施例を参照されたい)。これらの化合物の作用の発現および消失は、最初に被験体の顔の皮膚での試験により、次いでそれらを口腔中に適用することにより明らかになった。
【0125】
N-アルキルカルボニル-、N-アルキル-N-アルキルカルボニル-アミノ酸エステルおよびラクトンのバイオアッセイ
動物は、爽快感、鎮静、冷却、刺激、かゆみ、および痛みなどの精神的事象を言葉で表現することができない(動物は「冷たい」、「痛い」、または「かゆい」と言うことができない)。そこで、動物における化学物質の感覚効果は間接的に推測しなければならない。温度感覚に関連するタンパク質(たとえば、TRP-M8、TRP-A1、TRP-V1)の遺伝子をトランスフェクトした細胞に基づく受容体アッセイを感覚過程のモデルとして使用することができる。受容体アッセイは定量的データを与える。しかしながら、これらのアッセイは活性の発現および消失、または化学物質により引き起こされるヒトの感覚の質に関する情報を与えない。さらに、受容体アッセイにおける半有効濃度(EC50)により測定された効力は抗侵害受容または冷却作用とは相関しない可能性がある。したがって、化学物質の薬理学的特性に関する最も良い情報はヒトにおける直接の試験により得られる。
【0126】
Watsonら(米国特許第4,178,459号)は、ボランティアを使って、被験体の舌の背面に既知の量の化合物を染みこませた濾紙(1×1 cm)を置くことにより、N-置換p-メンタンカルボキシアミドの特性を試験した。30秒後に、被験体に冷却効果の有無を報告することを求めた。これらのデータは「閾値、μg」として報告され、ヒトのボランティアの回答者の舌の上に適用した場合に冷却感を与える試験物質の量の閾値を表す。6人の被験体における(-)-メントールの平均閾値は0.25μgであったが、個々の感受性には100倍のばらつきがあった。上記のように、舌の背面から検出される冷感信号は、味覚、嗅覚、および他の可変物により、ならびに唾液による希釈により混乱する可能性がある。
【0127】
目的が局所適用に有用な薬物を見出すことであるならば、持続性NACE化合物の爽快な冷却および感覚の特性は、まず試験物質を軟膏(通常、41%のワセリン、および他に鉱油、セレシンおよびラノリンアルコールからなるAquaphor(登録商標))に懸濁または溶解し、プラスチック棒を用いて軟膏(40〜70 mg)を皮膚の表面に一つずつ適用することにより試験するのが一番良いことが見出された。信頼できる局所適用のための場所は上唇の上(唇の唇紅の上)、人中、人中の側面から鼻唇溝まで、および鼻孔下部(鼻下)の皮膚である。顔のこの部分は冷感受容体を有する神経が密に分布していることが知られており、これよりも多いのは眼球および肛門性器の表面のみである。第二の位置は頬部隆起部(頬骨)またはその下である。頬骨の上の皮膚は唇の上よりも厚いので、より高い活性化の閾値を有する。両方の位置において、皮膚における清涼および冷たさの感覚を経験することができ、発現時間および強度を評価することができる。
【0128】
主観的な皮膚感覚の強さは、0、1、2または3により、0は変化なし;1はわずかな清涼感、冷たさまたはヒリヒリする感じ;2は清涼感、冷たさ、またはヒリヒリする感じの明確な信号;および3は強い清涼感または冷たさとして評価する。感覚を記録する間隔は5〜10分で、2回連続して0が得られるまで続ける。結果(図1および2に示す)は、同じ個体でおこなった4〜6回の別々の試験の平均値である。データはSigmaPlot(登録商標)(Systat Software, Point Richmond CA)を用いてプロットし、結果の分析および統計的フィットに負の指数を有する平滑化関数を使用した。持続性NACE化合物の冷却作用の確認試験を2〜4人の個体においておこなったが、評価した化学物質が多かったために一部については定量化しなかった。
【0129】
薬物作用の発現は、段階2の冷却強度に達する時間として測定し、薬物作用の消失は冷却強度が一旦段階2を超えた後に2よりも下に下がった時間である。冷却作用の持続時間は消失時間から発現時間を引いたものとして定義される。不活性な化合物は、適用後5分たっても冷却が段階2を超えないものと定義される。感覚の質に関しては、たとえば、純粋な爽快な冷却として、または感覚が刺激(刺すような、または焼けるような)を伴っているかどうかを記録する。感覚の質は強度として評価しない。
【0130】
眼の近くの刺激性の試験のために眼窩周囲の皮膚(上および下眼瞼ならびに外眼角に隣接する皮膚)にも軟膏を適用し、被験体に刺激の有無を尋ねる。眼の感覚の強さは評価しない。
【0131】
上記の感覚情報は受容体アッセイでは得られない。そのため、局所薬に関して、最も信頼できる結果は第一に皮膚への直接の試験から得られる。試験の次の標的は口腔および上気道の受容体である。口腔内の液体の動的な状態ならびに味および舌の温度感覚に影響を与える適応因子の存在のために、味の閾値を舌の上で定量することは困難である。口腔は、皮膚には受容できない極度の高温および低温に耐える。たとえば、熱い飲み物(コーヒーなどの)は、口の中では、皮膚上にこぼした場合には痛く、火傷すると考えられる温度でも耐えられる。また、氷冷した飲み物は口に入れると清涼であるが、皮膚に載せた角氷はすぐに不快になる。
【0132】
口腔内での効果について化合物を試験する最も有効な方法は、1〜5 mgのサンプルを取り、それを舌の背面の、先端から2/3後部の正中線上に置くことであることが見出された。被験体に、口を閉じて少なくとも10秒間物質を口の中に保持して、飲み込まないように指示する、次に、5分ごとに感覚の記述を記録する。
【0133】
清涼感および冷却感の強度の質的側面
皮膚の静的および動的温度は質的に異なる感覚を与える。正常な皮膚温度は32〜34℃であって、水を皮膚に接触させた場合、27〜32℃ではぬるい;18〜27℃の間では清涼な、13〜18℃では冷たい、13℃未満では非常に冷たいと言われる。室温の涼しいと寒いの臨界範囲は18〜22℃である。たとえば、薄着で座っている個人は、室温が20℃(68oF)よりも1または2度下がるとしばしばサーモスタットの温度を上げたいと感じる。賭博施設においては、覚醒させ、警戒感を増し、ギャンブル活動を活性化するために、室温は意図的に18〜20℃に保たれている。戸外において、15〜21℃の冷たい空気を呼吸すると、爽快で、清涼感があり、覚醒し、感情的反応は肯定的で楽しいものとなる。けれども、15℃(55oF)以下の気温または皮膚表面温度においては、寒い感覚が苦しく嫌悪を伴うものになり、強い感情を伴う。すなわち、その人はこれらの寒い感覚を不快であると見なし、その環境から逃れようと努め、逃れることができない場合には、怒り、敵意、またはいらいらを感じる。
【0134】
本明細書に記載される持続性NACE化合物は皮膚の不快の緩和のための局所薬として有用であり、傷ついた皮膚の上を流れる冷たい水に似た効果を有する。冷却剤により模倣される「名目上の」皮膚表面周囲の温度は15〜22℃の範囲である。効果は、室温で水で濡らしたタオルを顔に置くことによってもシミュレートすることができる。適応と呼ばれる効果により、冷却刺激がまだ存在する場合でさえも、群れたタオルの冷たさはすぐに消失する。一方、顔の皮膚に適用された化学物質の場合には、刺激はより一定して存在する。本発明の化合物により複製する正確な生理的感覚は、爽快、鎮静、冷却のそれであり、刺激または刺すような感覚が最小限であるか存在せず、また、過剰な冷たさのないものである。
【0135】
実施例に示されるように、好ましい持続性NACE化合物は、40 mMで試験して、顔の皮膚に冷却感を与え、迅速な作用の発現(5分未満)および遅い消失(1時間以上)を有する。対照的に、種々の構造的に類似の化合物は、図1および2ならびに実施例において比較データにより示されるように、不活性であるか、短い作用持続時間を有しているかのいずれかであった。
【0136】
いくつかの好ましいNACE化合物の作用の持続性は予期せぬことであり、驚くべきことであった。NACE化合物のいくつか、特にアラニンのD-アミノ酸誘導体およびHsl類似物は、数時間の冷却作用という驚くべき予期せぬ効果を有することが見出された。
【0137】
正常な被験体の舌の上で、NACE化合物の効果は、1〜3秒の最初の「くすぐり」を引き出した後、強力で爽快な冷却の開始を検出することができた。通常、1〜2 mgの用量のD-Ala-OMeまたはD-Ala-OEt類似物などのNACE化合物で、冷却感は約30分間持続した。驚くべきことに、咳または喉に発生するイライラする刺激を有する被験体において、迅速な(1分以内)感覚的不快の減衰および咳の停止があった。また、驚くべきで予期せぬことに、鎮咳効果は少なくとも数時間持続し、冷却感が、あったとしても最小限に検出されたにすぎない時に発生した。この中咽頭および喉における鎮静効果は、頻繁な咳、胸苦しさ、および喘鳴を有した二人の喘息の被験体に特に有益であった。
【0138】
完全な冷却を与える化合物の構造活性相関
刺激または刺すような感じを最小限に抑えながら持続性の爽快、鎮静、および冷却効果を維持することができる化学物質という考えは、分子と神経終末の受容体との特異的な関係を暗示する。受容体における化学アゴニストの効力および選択性は、薬物作用の基本的概念である。冷感受容体の強力な候補は、それが感覚ニューロンに存在し、温度の低下ならびにイシリンおよびメントールなどの冷却剤に応答することから、TRP-M8である。しかしながら、N-p-メトキシフェニル-p-メンタンカルボキシアミド(WS-12)はTRP-M8においてWS-5 (Glyエチルエステル)よりも効力が高いが、WS-12はWS-5よりも冷却作用が低く、作用の発現がはるかに遅い。この観察は、TRP-M8受容体における効力は完全な冷却の主な決定要因ではないことを示している(Vogt-Eiseleら、上記も参照されたい)。驚くべきことに、表5に示されるように、11の化合物について、舌における冷却作用の効力と顔の皮膚における冷却の持続時間の間にも相関は存在しない。
【0139】
持続性NACE化合物が完全な冷却を与えるために2つ以上の受容体型に対して作用している可能性がある。有害刺激に関連する多くの受容体が感覚ニューロン上に存在する(TRPA1、TRP-バニロイド受容体、物質Pおよびブラジキニンのためのもののなどのペプチド受容体、ヒスタミン受容体、およびK+チャネル)。いくつか、たとえばTRP-V1は、TRP-M8の活性結合部位と同様の活性化の結合部位(受容体の細胞内膜貫通ループ2〜3上)を有する。暖かさ、熱感、刺激、かゆみ、および痛みを起こす有害受容体の正確な知識がないので、持続性NACE化合物の受容体選択性の問題は現時点では解決しない。
【0140】
アゴニスト分子の受容体部位への接近および滞留は、薬物作用の重要な因子である。薬物の皮膚への分布および送達の主な薬物動態学的決定因子は、オクタノール/水分配係数である。オクタノール/水分配係数の対数(log P)が2.0〜4.0の範囲にあると、皮膚中の冷感受容体の活性化に理想的であると見なされる。しかしながら、実施例において、持続性NACE化合物であるSarエチルエステルのlog Pは、WS-11などの非NACE類似物と同じであるが、WS-11は同等の「完全な冷却」を示さない。SarエチルエステルはWS-11よりも5倍長い作用持続時間を有するが、舌の閾値試験においては、それはWS-11よりも2.7倍低い効力を有する。
【0141】
現在の研究による構造活性相関の分析は、N-置換-p-メンタンカルボキシアミド上の1個のエステル基、好ましくはメチルまたはエチルエステルの存在が、望ましい生物活性を与えるが、それのみでは持続する冷却(>1時間)には十分ではないことを示している。SerまたはGlu(OMe)誘導体の場合などの、アミノ酸エステル上の別の極性基、たとえばヒドロキシル、アルコキシ、および/またはジエステル基の存在は効力を減少させる。アミノ官能基上の水素をメチル基により置換してN-メチルグリシン(Sarエチルエステル)にすると、活性の持続時間が長くなる。N-アルキル置換はアミド結合のシス-トランス比に影響を与え、シス異性体の相対エネルギーを低下させ、また、アミド結合を開裂する酵素(たとえばアミダーゼ)を阻害する。さらに、データはグリシンのα炭素が1または2個の炭素アルキル置換基を有して(2-アミノ-n-プロピオン酸または2-アミノ-n-酪酸)、たとえばアラニルエステル誘導体となった場合に、活性の持続時間が延長されることを示している。さらに、アラニンに関してα炭素原子の立体的配向がL-配置でなくD-配置である場合、またはα炭素原子がアルキルエステルと共に環化してラクトン環を形成する場合に、好ましい感覚効果の抗力、持続時間、および選択性が増大する。
【0142】
持続する爽快な冷却の(刺激を伴わない)重要な決定因子としてのD-配置でのα炭素アルキル化、およびα炭素のアルキルエステルへの環化によるラクトンの形成の利点が観察されたのは初めてである。
【0143】
好ましいシクロアルキル基はシクロアルキルが2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキシルであるp-メンタンであるにもかかわらず、アルキル置換シクロペンチル、シクロヘプチルおよびシクロオクチル、またはアルキル置換ビシクロヘプチルおよびビシクロオクチルなどの他の環構造もまた有効である。さらに、シクロアルキル部分を、WS-23の場合のように分枝鎖脂肪族基に置き換えてもよく、冷却作用に対する親和性が保持される。
【0144】
この構造活性相関から、完全な冷却を有する下記のクラスの化合物、特に、式(3)の化合物から選択される化合物、ならびにその塩および溶媒和物が得られる。
【化12】

【0145】
[式中、
RおよびR’はそれぞれ独立してC1〜C7アルキルであり;
R”は独立して水素またはC1〜C5アルキルであり;
ただし、
(1) R、R’、およびR”は全体として合計5個以上の炭素原子を、好ましくは合計7〜13個の炭素原子を有し;
(2) R”が水素である場合、Rは2個以上の炭素原子を含有しなければならず、かつR’は3個以上の炭素原子を含有しなければならず、かつRおよびR’の少なくとも一方は分枝鎖アルキル基でなければならない(好ましくは、C-CO-N基に対してαまたはβ位で分枝している);
(3) R”が水素である場合、RおよびR”の少なくとも一方はイソプロピルまたはsec-ブチルであることが好ましく;
または、
RおよびR’は、それらが結合する炭素と一緒になって、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、[3.1.1]ビシクロヘプタン、[2.2.1]ビシクロヘプタン、および[2.2.2]ビシクロオクタンから選択され、場合によりエチレン性不飽和を有するアルキル置換シクロアルキル基(好ましくは(-)-メントールに存在するメンチル基)を形成し;
R”は水素または直鎖もしくは分枝鎖C1〜C5アルキルであり;
ただし、
(i) アルキル置換シクロアルキル環は合計7〜14個の炭素原子(好ましくは合計8〜12個の炭素原子)を含有し;
(ii) アルキル置換シクロアルキル環は合計1〜3個の直鎖または分枝鎖C1〜C5アルキル置換基を有し;
(iii) R”が水素である場合、直鎖または分枝鎖C1〜C5アルキル置換基はシクロアルキル環の2または3位に存在し(好ましくは2位)(好ましくは前記アルキル置換基は環に対してαまたはβ位で分枝しており)(好ましくは前記アルキル置換基はイソプロピルまたはsec-ブチルであり);
および、ここで、
R1は、水素またはメチルであり;
Yは、-CHR2-、-CH2CHR2-、および-CHR2CH2-から選択される2価のアルキリデン基であり、ここで、R2は水素またはC1〜C2アルキルであり;
R3は、直鎖または分枝鎖C1〜C4アルキルであり;
ただし、
(a) さらに、R2およびR3はそれらが結合する原子と一緒になって、5、6、または7員ラクトン環を形成していてもよく;
(b) さらに、R1およびR3はそれらが結合する原子と一緒になって、飽和5、6、または7員3’-オキソ-1’,4’-アゾキサ(azoxa)環を形成していてもよく;
(c) さらに、R1およびR2はそれらが結合する原子と一緒になって、2’または3’位にアルコキシカルボニル置換基を有し、場合により1個以上のC1〜C2アルキル基により置換された5、6、または7員飽和含窒素複素環を形成するように結合していてもよい]。
【0146】
これらの化合物(すなわち、式(3)の化合物ならびにその塩および溶媒和物から選択される化合物)は、本明細書に記載される方法、特に咳および感染性微生物の空気感染を予防する方法、および感染性微生物の宿主伝播を減少させる方法にも有用である。
【0147】
顔および他の表面への持続性NACE化合物の使用
好ましい使用において、1種以上の持続性NACE化合物を、炎症を起こした皮膚ならびに/または口腔および/もしくは上気道の炎症を起こした組織の、刺激、かゆみ、および/または痛みを治療的に緩和するために局所適用する。
【0148】
他の意図される使用には、顔の皮膚に持続性の爽快感を与えるため、ならびに覚醒および警戒を増すための使用が含まれる。
【0149】
意図される治療以外の使用には、食用品(たとえば、チューインガム、マウスウォッシュ、抗歯肉炎製品、歯磨き)、化粧品、口紅、香味料、タバコ添加物、菓子、または洗面用品の成分としての使用が含まれる。
【0150】
「局所的」とは、皮膚、眼の表面、唇、上気道(鼻)および下気道、および消化管の入口および出口、すなわち口腔および肛門直腸を含む、空気と接触している体の表面への適用を意味する。特に好ましい適用部位は、皮膚、頭皮、ならびに眼窩、唇、鼻および口の内膜を含む、三叉神経により支配される顔および頭の表面組織である。第2の好ましい部位は、鼻咽頭および中咽頭における舌咽神経の神経終末である。
【0151】
「経口投与」とは、活性成分を固体、液体、またはエアロゾルとして、好ましくは送達媒体を用いて、口腔中に送達することを意味する。
【0152】
局所使用のために、好ましくは持続性NACE化合物を、迅速な発現および遅い消失を有するように製剤する。
【0153】
好ましくは、化合物は眼窩の近くの顔に適用した時に刺すような感じまたは刺激を与えないものであり、冷たいというよりも爽快な清涼感を与えるものである。
【0154】
使用のいくつかはさらに次のように分類することができる。
【0155】
治療:持続性NACE化合物を、たとえば、炎症を起こした皮膚に局所鎮痛薬として、または抗掻痒薬として使用することができる。また、鎮咳薬または抗刺激薬として喘息の治療に経口投与することもできる。
【0156】
抗刺激:持続性NACE化合物を、レチノイドまたはα-もしくはω-脂肪酸などの刺激性物質を含有するスキンケア製品に混合することができる。
【0157】
覚醒:正常で健康な個体において、持続性NACE化合物を覚醒するためおよび爽快感を得るため、疲労を克服するため、および個体の熱中症、鼻および眼の刺激、および閉塞性呼吸不快を緩和するために使用することができる。持続性NACE化合物は、その爽快感を与える特性のために、元気で機敏な様子を増すために使用することができる。それは暑い環境において練習する運動選手、たとえばアリゾナで春のトレーニング中の野球選手またはスペインもしくは南アメリカのサッカー選手にとって貴重である。
【0158】
洗浄:持続性NACEは、化粧、特に眼の周りのマスカラを落とすためのウェットティッシュに配合することができる。
【0159】
食品およびパーソナルケア製品:持続性NACE化合物は、食用品(たとえば、チューインガム、歯磨き)、化粧品、口紅、香味料、菓子、タバコ、飲料、または洗面用品に、爽快感を与えるために配合することができる。
【0160】
1種以上の持続性NACE化合物の局所用製剤を治療的に使用するために、ウェットティッシュ、ローション、クリーム、軟膏、または経口または吸入用製剤の形が考えられ、下記の用途が含まれる。
【0161】
(a) 種々の形の皮膚炎(アトピー性、接触、および刺激性)による刺激、かゆみ、および/または痛みの緩和、
(b) 熱傷、外傷、または刺激を受けた皮膚(たとえば、レーザー手術)の痛み、および傷の創面切除に関連する処置の痛み、
(c) 皮膚の感染、虫さされ、日焼け、皮膚の光線力学治療(たとえば、光線角化症、基底細胞癌)によるかゆみおよび不快、
(d) 乾皮症による掻痒、
(e) たとえばアフタ性潰瘍または癌化学療法による粘膜炎および口内炎、口唇炎またはヘルペスおよび歯肉炎による唇のかゆみ、
(f) 肛門掻痒、痔の不快、裂肛による痛み、痔瘻の痛みまたはかゆみ、痔核切除の痛み、会陰炎症、肛門性器皮膚感染、および失禁、おむつかぶれ、会陰の炎症などの種々の局所的原因による不快、
(g) 外陰部の掻痒および痛み(たとえば、外陰前庭炎およびブルボディニア(vulvodynia)などのカンジダ症または突発性疾患)、性交疼痛症、疣および性感染症を含む肛門性器感染症、皮膚のウイルス感染(特に免疫不全の患者における)、
(h) 呼吸に対する閉塞、たとえば鼻炎、喘息、気管支炎、気腫および慢性閉塞性肺疾患、呼吸困難、睡眠時無呼吸およびいびきによる鼻孔および鼻または上気道の不快、および
(i) 結膜炎、眼の表面の刺激、角膜の擦過傷による痛み、および眼の手術による痛み。
【0162】
感覚過程は管腔臓器においても重要であるので、消化管、膀胱、および気道への全身および局所送達のために、持続性NACE化合物を経口、または吸入、またはカプセル化することにより送達できる。消化管には、胸焼け、消化性の痛み、および過敏性腸疾患および炎症性腸疾患の不快を緩和するために持続性NACE化合物を使用することができる。下部消化管への好ましい送達方法は腸溶性カプセルである。あるいは、体温で液体の油として存在するSarエチルエステル類似物などの持続性NACE化合物は、浸透圧ミニポンプなどの制御放出手段を用いて腸の表面に押し出してもよい。膀胱の表面には、間質性膀胱炎の不快を抑制するため、および過活動膀胱の症状を緩和するために持続性NACEの経口製剤を使用することができる。上気道には、吸入送達またはミストもしくはスプレーとしての送達により、持続性NACE化合物を(-)-メントールと同様に用いて、うっ血を緩和し、気管支平滑筋を弛緩させ、呼吸困難の息苦しい感覚を対症的に緩和することができる。
【0163】
持続性NACEの抗加齢治療における使用
寿命が延びたので、個人は老化する皮膚への対処を可能にする治療方法を求めている。年齢と共に、しわ、しみ、および皮膚の成長および質感の変化が現れる。種々のカルボン酸、たとえば、ヒドロキシ酸およびレチノイン酸はこれらの皮膚の状態の局所治療剤である。これらの薬物は皮膚上層の剥離を起こすことによりその効果を達成する。老化した皮膚を若返らせる別の方法は、機械的、化学的、光線力学またはレーザー(熱)エネルギーによる皮膚のリサーフェシングである。皮膚のリサーフェシングにより、皮膚の不快を伴う皮膚の傷ができる。持続性NACE化合物は抗加齢法および治療により引き起こされた皮膚の損傷に関連する不快を軽減するために使用することができる。
【0164】
年齢と共に、皮膚は適正な水分含有量を保持する能力が減少する。この状態は、高齢者の乾皮症として知られるが、落屑および腐肉形成を伴う皮膚のかゆみ、乾燥およびひび割れの徴候を示す。ある場合には、乾皮症の皮膚はひびの入った磁器のようである。皮膚は水の損失のために割れ、深い場合には、毛細血管が断裂し、出血を起こす。かゆいと引っ掻いたりこすったりしがちで、それにより病状を悪化させ、苔蘚化と呼ばれる皮革様の状態を作り出す。乾皮症を誘発する因子は、冬またはエアコンなどの寒い、乾燥した気候である。老人ホームにおける研究により、患者のそれぞれ29%および37%が乾皮症および湿疹であると診断された。治療法には保湿剤およびステロイド軟膏の頻繁な適用が含まれるが、持続性NACE組成物を軟膏中に入れて送達することにより皮膚の不快の緩和の助けとなる。同様に、尋常性魚鱗癬および乾癬において生じる皮膚の疾患も治療することができる。
【0165】
咳、および気道の刺激および閉塞における持続性NACEの使用
咳を起こす刺激の感覚および咳の身体行動は、気道の刺激および閉塞に対する体の反応である。気道の刺激および閉塞の原因は多元的であり、急性の咳の原因には上気道のウイルスまたは細菌感染、点鼻後、アレルギー、空気汚染物質による気道の炎症、咽頭炎、喉頭炎などの状態が含まれ、および慢性の咳の原因には喘息、慢性閉塞性肺疾患、胃食道逆流性疾患、肺癌、肺炎、睡眠時無呼吸、いびき、肺水腫、うっ血性心不全、および呼吸困難などの状態が含まれる。NACE化合物が気道の刺激および閉塞の信号のゲートとなり、支配することにより、たとえば咽頭炎(喉の痛み)および喉頭炎(嗄声および声が出ない)による喉の不快を起こす刺激の感覚を弱めることが見出された。咳の欲求が鈍り、咳の頻度が減る。しかしながら、気道閉塞感は影響されず、閉塞をなくすために自発的な咳が容易に刺激され得る。
【0166】
個体の咳をする能力は抑制されないので、咳における持続性NACE化合物の作用を記述する用語は、「咳拮抗剤」であって、「咳抑制剤」ではない。そのかわり、NACE化合物は不随意の咳を開始する刺激の感覚を鎮静する。NACEの作用は、OTC製剤に通常存在する最大の量である10 mgの(-)-メントールを含有する咳止めドロップよりも、質的により強く、浸透性で、爽快で、冷却効果がある。NACE化合物の作用の部位は、中咽頭における舌咽神経の感覚神経終末上であると思われる。脳幹への求心信号は、迷走神経の喉頭分枝の求心神経から入って来る咳を刺激する信号を「ゲート」、または減衰する。最終的な効果は、咳の信号がもはや刺激として、または咳反射を開始するのに十分な程度に知覚されないことである。上気道におけるNACE作用の他の可能なメカニズムは、直接気管支平滑筋を弛緩させることおよび/または炎症性メディエーターに対する気道過敏性または過反応性を減少させることである。
【0167】
喘息または慢性閉塞性肺疾患の治療に使用する場合、持続性NACE化合物を、ホルモテロール(formoterol)などのβ-アドレナリン受容体アゴニスト、ベタメタソン(betamethasone)などの抗炎症糖質コルチコステロイド、またはイプラトロピウム(ipratropium)もしくはチオトロピウム(tiotropium)などのムスカリン受容体アンタゴニストと組み合わせて使用してもよい。
【0168】
インフルエンザ流行時のウイルス伝染を限定するための持続性NACEの使用
インフルエンザの流行を抑制する方法は、ワクチン、感染した個体の分離(隔離)、およびノイラミニダーゼ阻害剤の使用などの戦略に限られている。ウイルスは感染した宿主から、大粒子、飛沫、および吸入可能な大きさの物質の吐出物により発散される。くしゃみはインフルエンザの特徴的な徴候ではないが、咳は頻繁に起こる。喉の痛みおよび咳は通常感染の3日後に始まり、咳は3週間続く場合がある。
【0169】
呼吸性病原体からの感染のリスクを評価するための定量的モデルにおいて、Nicasら(J. Occupational and Environmental Hygiene 2: 143-154)は、空気感染する病原体からの感染の可能性は咳の頻度に直接相関することを示した。1人の個体が4.5時間閉じた空間にいると、72%の隣人にインフルエンザを感染させ得ることが見出された(M.B. Gregg、「ヒトにおけるインフルエンザの疫学」(The epidemiology of influenza in humans), Ann. N.Y. Acad. Sciences, 353: 45-53, 1980)。この病気の個体は、「乾いた、金属音の咳」をしていたと記載されている。
【0170】
効力の高いNACE化合物をインフルエンザ流行時のウイルスの拡散および伝染を減少させるために咳抑制剤として使用することは新しい概念である。それは、感染した個体を治療する医療従事者を保護するために特に有用である。咳の阻害は、たとえば学校、病院、または他の人混みにおいて起こり得るウイルス感染を限定するための一般的な方法である。この伝染および拡散を制限する方法は、呼吸器合胞体ウイルス、ライノウイルス、およびコロナウイルスなどの病原性呼吸器系ウイルスにも適用することができる。
【0171】
持続性NACEの禁煙治療への使用
メントール入りのタバコの銘柄はアメリカ合衆国において販売されている巻きタバコのおよそ25%を占める。フィリピンなどいくつかの国では、それは60%の高さである。アメリカ国内で、69%のアフリカ系アメリカ人および22%の白人がメントール入りの巻きタバコを吸っている。メントールの好みの民族格差は、メントール入りのタバコは(a)健康的で薬効がある、(b)清涼、清潔、はっきりした、新鮮、および爽快、(c)若々しい、ばかげて楽しい、および(d)民族特有であるというメッセージと共に一部の集団への巻きタバコの意図的なマーケティングをおこなった結果である。
【0172】
禁煙治療の薬理的方法において、一つの目的は、吸入以外の経路によりタバコの感覚を送達することにより、タバコの煙の中のタールと一酸化炭素の有毒作用を避けることである。本発明の化合物は、口腔および上気道に持続性の爽快感を提供することによりメントール入りのタバコのメントール感を代替することができる。さらに、本発明の化合物は、ニコチンまたはロベリン、または他のニコチン受容体アゴニストと組み合わせて、ニコチンの強い味を減少させ、かつメントール入りのタバコの冷却および中枢刺激効果に類似の効果を示すように設計された製品を形成することができる。送達法は、口および中咽頭の粘膜の冷却およびニコチンの口腔吸収の両方のために設計したトローチ、チューインガム、スプレー、エアロゾル、シロップ、うがい薬、マウスウォッシュ、薄膜、またはキャンディーであってよい。
【0173】
吐き気、嚥下障害、および倦怠感のための持続性NACEの使用
特定の風味を有する香辛料が、種々の病気による吐き気、嚥下障害、過食症、および倦怠感を解消する場合があることが知られている。たとえば、ある人々には、ショウガ風味の飲料またはキャンディーが乗り物酔いの吐き気に効く。NACE化合物はこのような適用にも、また、食欲抑制法としても使用することができる。
【0174】
熱ストレスおよび発熱への持続性NACEの使用
熱ストレスは、体にその体温を調節するために負担を強いるような、作業、気流、湿度、気温、熱放射、または体内の状態のいずれかの組合せであると定義される。発熱は熱の発生が放熱を上回った場合に起こり、口腔または直腸および耳内温度が、それぞれ37.8℃および38.3℃を超える。体温を調節するための負担が体の調節能力を超えた場合、熱ストレスにより作業能力、意欲、覚醒状態が低下し、事故の危険が増大し、熱関連疾患につながり得る。通常5 mg以上のNACE化合物の経口投与が胸郭上部に冷却感を与えることが見出されている。これらの効果は上部消化管の温度センサーで発生していると思われる。したがって、NACE化合物を体内および冷却の温度受容体に送達することは、発熱および熱ストレスの問題に対処し、それらを緩和する方法となり得る。
【0175】
N-アルキルカルボニル-アミノ酸エステルの標的への送達および効用
局所および経口組成物の製剤において、持続性NACE化合物を、それ自体は不活性である、または他の活性成分を含有してもよい媒体中に混合することができる。
【0176】
好適な製剤には、たとえば、液体、エアロゾル、粉末、ペースト、ローション、塗布薬、クリームおよび軟膏、ならびに化粧品などの組成物が含まれる。関係する特定の製品に応じて、固体、液体、エマルション、泡およびゲルを含む非常にさまざまな媒体が好適である。典型的な媒体には、炭化水素油などの油および脂肪、多価アルコール、ステアリン酸カルシウムおよびマグネシウム、脂肪酸エステル、長鎖アルコールおよびシリコーン油;デンプンまたはタルクなどの微細に粉砕された固体;低沸点炭化水素;ガムおよび天然または合成樹脂が含まれる。
【0177】
口腔および喉に適した製剤には、たとえば、液体、粉末、錠剤、薄膜またはペーストなどの組成物が含まれる。トローチ(咳止めドロップ、ロゼンジ、パスティールとも呼ばれる)は、口腔および喉の中に含まれる組織を治療するために使用する医薬剤形である。典型的なトローチは、大部分は不活性媒体、担体または希釈剤からなる。薬物はこの担体の中に散在している。トローチは、口腔中に置かれた時に溶解することにより薬剤を放出して、その薬剤が口および喉の組織と接触する。典型的な希釈剤、担体、または媒体は「多価アルコール」であり、次の物質:キシリトール、マンニトール、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、およびβ-結合-グルコピラノシドソルビトールを指すものと解釈される。何らかの味を隠すために甘味料、アスパルテーム、スクラロース、またはアリテームなどの香味剤を加えてもよい。合わせたものを顆粒化して均一に分散した混合物として(この時、分散剤、固結防止剤、および滑沢剤を加えてもよい)、次いで混合物を圧縮して経口投与用の錠剤を形成する。あるいは、活性成分をチューインガム製剤中に入れてもよい。これらの方法は当業者に公知であり、たとえば、米国特許第5,322,694号(David Sixsmith, 「医薬トローチ」(Pharmaceutical Lozenges))および米国特許第5,846,557号(Eisenstadtら、「鎮咳剤を含有するチューインガム」(Chewing gum containing cough suppressing agent))に記載されている。
【0178】
粘膜粘着性または生物粘着性物質を組み入れることにより、活性製剤の作用の持続時間をさらに延長し、その作用の部位(たとえば、中咽頭)を局在化することができる。このような粘膜粘着剤または生物粘着剤は、たとえば、米国特許第6,638,521号(D.J. Dobrozsi, 「経口液体粘膜粘着性組成物」(Oral liquid mucoadhesive compositions))および米国特許第6,562,363号(J. Mantelleら、「生物粘着性組成物および活性物質の局所投与の方法」(Bioadhesive compositions and methods for topical administration of active agents))に記載されている。典型的な粘着性分子は、糖、アルコール、ビニルピロリドン、セルロース等のポリマーである。固体の活性成分の口腔内における溶解は、トローチを噛むまたは飲み込むことにより、または口内での水和の程度により妨げられる場合がある。そのため、送達のための液体の製剤が好ましい場合がある。NACE化合物は、多価アルコール、シクロデキストリン、糖等を含有する水溶液に容易に溶解する(場合によっては加温することにより)。これらの液体は、濾過により殺菌した後、保存剤、香味料、溶媒と混合し、次いで貯蔵型の保存容器(たとえば、スポイト型の開口部を有するプラスチック容器)から、または商業的に容易に利用できるものなどの単位用量容器から投薬することができる。たとえば、Unicep Corporation (Sandpoint, Idaho, USA)には、0.3〜0.5 mLの容積のユニットドーズ契約包装法がある。これらの体積で送達する場合には、2〜20 mg/mLの用量のNACE化合物が理想的な単位用量の形であろう。あるいは、NACE化合物は、ネブライザー、口腔噴霧器、または当業者に公知のものなどの手動ポンプ型の気管支吸入器を用いて送達してもよい。
【0179】
実際上、持続性NACE化合物を、皮膚にNACE化合物を送達するのに十分なまたは適合した構造を有するウェットティッシュを用いて皮膚に適用してもよい。そのために、所望のNACE化合物を懸濁、溶解、および/または分散してウェットティッシュと接触させる。好適なウェットティッシュには、通常個別の取り出し容器に入った織布または不織布素材のパッドが含まれる。ウェットティッシュまたはパッドにより皮膚を拭くと、皮膚に対して活性な成分が皮膚に送達される。すなわち、実質的に皮膚に薬物が適用される。ヒトへの局所使用に適した他の薬物、薬用化粧品、生薬、伝統薬、および活性化粧品成分をウェットティッシュに組み入れてもよい。
【0180】
持続性NACE化合物を、老化した皮膚を治療するために;ニキビ、日焼け、発熱、異常高熱、真菌感染、酵母感染、酒さ、光により損傷を受けた皮膚の皮膚不快感を治療するために;色素の増加した皮膚、湿疹、アレルギー性または接触皮膚炎、脂漏性皮膚炎、粘膜炎、紅斑、または乾癬の治療の不快を軽減するために;およびカルボン酸、抗生物質、角質溶解剤またはそれらの組合せなどの他の皮膚科薬と共に含ませて;ウェットティッシュに組み入れることができることが意図されている。持続する完全な冷却を達成するために、持続性NACE化合物を、メントールの部位とは異なる分子部位に作用する冷却剤であるイシリンと組み合わせてもよい。好ましくは、製剤は、均一性の標準的な分析試験において少なくとも95〜99%純粋な合成化合物を用いて調製する。
【0181】
ウェットティッシュ中の持続性NACE化合物の、刺すような感じ、焼けるような感じまたは刺激(特に眼に対する)を伴わずに冷却および爽快感を与える能力は、冷却剤における最近の技術よりも進歩している。公知のウェットティッシュはしばしば、溶媒および/または冷却剤として存在するSDアルコール(特定変性アルコール:通常エタノール、イソプロピルアルコールまたはメタノール)を含有する。アルコールは、蒸発する時にその環境から熱を奪って冷却をおこなう。このような製剤において短鎖炭素アルコールを使用することの欠点は、アルコールが組織を脱水し、刺激を起こすことである。このようなウェットティッシュを眼球の近くで使用すると、アルコールの蒸気が眼の表面を刺激する。同様に、芳香および冷却を与えるためにウェットティッシュに加えるメントール、カンファー、オイカリプトール、および他の成分も、皮膚および眼を刺激する。
【0182】
一実施形態において、持続性NACE化合物をウェットティッシュにより保持することにより、たとえばこれを顔に使用した場合に、疲労を軽減し、覚醒およびより強い警戒を与えるために、たとえば、長時間の車の運転または暑い環境での作業の疲労と戦うために特に有用である。
【0183】
バイオアッセイの実験結果の概要
皮膚上で実施した実験から得られた主な知見を表1に要約する。持続性NACE化合物の有益な効果は、重大な眼の刺激がなく、活性の持続時間が長いことである。
【表9】

【0184】
化学合成
N-アルキルカルボニル-アミノ酸エステルの合成
NACE化合物の合成は、遊離のアミンを、通常好適な塩化水素の受容体の存在下で適切な酸塩化物と反応させることにより達成される。前記塩化水素の受容体は過剰の遊離のアミンまたは別の塩基、たとえばトリエチルアミンであってよい。
【0185】
典型的には、反応は好適な有機溶媒中で実施するが、酸塩化物の反応性に応じて、水/有機溶媒混合系中で実施してもよく、その場合には塩基として炭酸水素ナトリウムを用いると便利である。
【0186】
合成は塩化カルボニルと適切なアミノ酸エステル誘導体の反応により開始する。酸塩化物、または塩化カルボニルは当業者に公知の多くの方法により得ることができる。一例として、(1R,2S,5R)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボニルクロリドは、(-)-メントールから次の経路により調製することができる。すなわち、まず、塩酸中で塩化亜鉛と反応させて2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキシルクロリドを調製し、次いでグリニャール試薬の調製および炭酸化により2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボン酸を調製し、最後に塩化チオニルと反応させて塩化カルボニルを得る。
【0187】
NACE化合物の精製の問題を回避するために、酸塩化物の調製に使用する塩化チオニルを使用前に2回蒸留すると有利である。また、最終生成物に微量の遊離のアミンが混入することを防ぐために、NACE化合物に応じて、少し過剰の酸塩化物を使用して、または高温で反応をおこなうと有利である。
【0188】
前記のような、変換を促進し、および/またはある不純物の混入を防止するために反応を調節する方法は当業者に公知である。
【0189】
多くの置換アミノ酸エステルを、Sigma-Aldrich Corp., St. Louis, MO, USAなどの販売元から入手できる。たとえば、サルコシンエチルエステル、β-アラニンエチルエステル、R-またはS-アミノブチロラクトン、およびL-またはD-アラニンメチルエステルは、2003-2004 Aldrich Catalogに記載されている。前駆体であるD-アラニンエチルエステルはIndofine Chemicals, Co., Hillsborough, NJから入手可能である。酸塩化物を適切なアミノ酸エステルと反応させてNACE化合物を形成する。
【0190】
2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボニル-L-Hslの合成
(別名:(1R,2S,5R)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボン酸(S)-(2-オキソテトラヒドロフラン-3-イル)アミド):
(S)-α-アミノ-γ-ブチロラクトン塩酸塩はAldrich Chemical Co.から入手した。500 mgを18 mLのジエチルエーテルおよび1.5 mLの2回蒸留した水に溶解した。少量の触媒、ジアミノピリミジンを加えた。次に、0.68 mLの塩化p-メントイル、次いで1.02 mLのトリエチルアミンを滴下した。混合物を室温で一晩撹拌した。沈殿を酢酸エチルに溶解し、2回蒸留した水により洗浄し、硫酸ナトリウムにより乾燥した。次に、有機相を減圧蒸発させ、最終生成物を得た。これは室温で結晶化した。質量分析により予想した分子量が確認され、核磁気共鳴により吸収スペクトルを得た。
【0191】
2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボニル-D-Alaメチルエステルの合成
(別名:(R)-2-[((1R,2S,5R)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボニル)アミノ]プロピオン酸メチルエステル):
D-Alaメチルエステル塩酸塩はAldrich Chemical Co.から入手した。1.0 gを28 mLのジエチルエーテルおよび1 mLの2回蒸留した水に溶解し、0℃に冷却した。少量の触媒、ジアミノピリミジンを加えた。次に、1.62 mLの塩化p-メントイル、次いで2 mLのトリエチルアミンを滴下した。混合物中に白色の沈殿の塊ができたが、これを室温で一晩撹拌した。沈殿を酢酸エチルに溶解し、2回蒸留した水により洗浄し、硫酸ナトリウムにより乾燥した。次に、有機相を減圧蒸発させ、最終生成物(2 g)を得た。これは室温で結晶化した。質量分析により予想した分子量が確認され、核磁気共鳴により吸収スペクトルを得た。
【0192】
2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボニル-D-Alaメチルエステルの合成
(別名:(R)-2-[((1R,2S,5R)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボニル)アミノ]プロピオン酸メチルエステル):
D-Alaエチルエステル塩酸塩は、Indofine Chemical Co.に特別注文した。HCl.H-D-Ala-OEt (11.6 g; 71.6 mmol)の100 mLの無水EtOAc中の懸濁液を撹拌し、21.14 mL (143.2 mmol)のEt3Nを加えて、反応混合物を0℃に冷却した。13.2 g (65.14 mmol)の塩化p-メントイルを加えて、溶液を0℃で1時間、室温でさらに2時間攪拌した。反応混合物をEtOAcにより300 mLに希釈し、1 N HCl、5% NaHCO3、および水により洗浄し、乾燥した(Na2SO4)。溶媒を除去して、残渣をEt2O-ヘキサン混合物中で結晶化した。この最初の生成物の純度は、HPLCにより、約93%であった。さらに精製するために、生成物を100 mLのイソプロパノールに溶解して、100 mLの蒸留水を加えた。イソプロパノールを蒸発させ、沈殿を濾過して減圧乾燥した。最終生成物の純度は、HPLCにより>96%であった。収量14.2 g (76%)。融点99〜103℃。
【0193】
バイオアッセイ法
持続性NACE化合物は、室温でほとんどが白色の結晶性の固体であり、例外は室温でオイル性の液体であるSarエチルエステル誘導体である。
【0194】
皮膚上でのバイオアッセイのために、およそ30 mgを3 gの温めた液体Aquaphor(登録商標)軟膏中で撹拌して溶解し、40 mM (〜1% wt/vol)の軟膏を得た。正確な量は、モル当量が約35〜40 mMとなるように調節した。冷却した後、40〜70 mgの固体の軟膏をプラスチック棒の先に載せ、被験体の上唇の上、人中、および人中側面、鼻唇溝までの皮膚に適用し、冷却感の発現および持続時間を記録した。
【0195】
被験体の皮膚感覚の強さは0、1、2または3により、0は変化なし、1はわずかな清涼感、冷たさ、またはヒリヒリする感じ、2は清涼感、冷たさ、またはヒリヒリする感じの明確な信号、および3は強い清涼感または冷たさとして評価した。感覚を記録する間隔は、5〜10分で、0が2回連続して得られるまで続けた。結果(図1および2に示す)は、同じ個体でおこなった4〜6回の別の試験の平均値である。データはSigmaPlot(登録商標)(Systat Software, Point Richmond, CA, USA)を用いてプロットし、結果の分析および統計的フィットに負の指数を有する平滑化関数を使用した。
【0196】
眼の近くの刺激性の試験には、軟膏を眼窩周囲の皮膚(上および下眼瞼および外眼角に隣接する皮膚)に適用し、被験体に刺激の有無を尋ねた。眼の感覚の強さは評価せず、単に存在するか否かを記録する。
【0197】
薬物作用の発現は、段階2の冷却強度に達した時間とし、薬物作用の消失は、冷却強度が一旦段階2を超えた後に、2未満に下がった時間とした。冷却作用の持続時間は消失時間から発現時間を引いたものと定義した。不活性な化合物は、適用後に冷却が段階2を超えなかったものと定義する。感覚の質も、純粋な爽快な冷感、または感覚が刺激(刺すようなまたは焼けるような)を伴うか、などのように記録した。感覚の質は強度として評価しなかった。
【0198】
研究1
多くの化合物を合成し、試験した。結果を図1および2に示す。試験化合物は、1% wt/vol軟膏として40〜70 mgの用量で上唇の上の皮膚に単独で適用した。
【0199】
図1において、いくつかの公知の薬物、たとえば、(-)-メントール、WS-3およびWS-5の冷却効果の持続時間はそれぞれ0.3、0.3、および0.5時間であって、NACE化合物、特にD-Hsl、D-Ala-OMeおよびD-Ala-OEt類似物がそれぞれ1.3、1.9、および2.4であるのと比較して短い。
【0200】
図2に、作用の持続時間に影響を与える化学的特徴を示す。TRP-M8受容体アッセイに効力の高いWS-12は皮膚において持続性がない。Sar-OEtのN-窒素上のメチル基の存在は効力を増大する。同様に、D-Hslにおけるラクトン環、α炭素上のもう1個の炭素ならびにD-Ala-OMeおよびD-Ala-OEtのD-配置は活性の持続時間を顕著に延長する。
【0201】
別のデータを表2および表3に示す。表2および表3において、皮膚または眼の刺激性を伴わずに爽快な冷却を与える持続性NACE誘導体を(*)により示す。D-AlaおよびHsl類似物が特に有用である。
【表10】

【表11】

【0202】
(*)は、顔の皮膚または眼窩周囲に適用した後に爽快な冷感を有し、皮膚の刺激または眼の刺激のない化合物、「完全な冷却」を示す。
【0203】
(Gly = グリシン;Sar = サルコシン;Ala = アラニン;Hsl = ホモセリンラクトン(別名:α-アミノブチロ-γ-ラクトン))
40 mMで上唇の皮膚において試験した場合に不活性であった化合物の例を表4および表5に示す。(Ser = セリン;Glu = グルタミン酸;Lys = リシン;Tyr = チロシン;Val = バリン;Leu = ロイシン)
【表12】

【表13】

【0204】
40 mMで試験した場合に上唇の皮膚において短い冷却作用を有するN-アルキルまたはアリールシクロアルキルカルボキシアミド化合物の例を表6に示す。
【表14】

【0205】
研究2
種々の化合物の物理的特性および舌の冷却の閾値
多くの化合物のオクタノール/水分配係数(log P単位で表す)を測定し、結果を、40 mMで試験した舌における冷却の閾値と共に表7に示す。このデータから見て取れるように、舌の冷却と冷却の持続時間の間には相関は存在しない。作用持続時間の長さはlog Pの値と正確には一致しない。
【表15】

【0206】
(*)は、持続性NACE化合物であるための基準(すなわち、>1時間の作用の持続)を満たす化合物を示す。
【0207】
ここでも、D-AlaメチルエステルおよびHsl類似物には重大な皮膚または眼の刺激が存在しないことを特に注意しておく。
【0208】
研究3
2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボニルD-アラニンメチルエステルを、0.1または0.5% wt/vol (1または5 mg/mL)のいずれかの濃度となるように、温めた10%プロピレングリコール/90%蒸留水の溶液に溶解した。次に、6〜7 mLのこれらの溶液をピペットを用いてペーパーナプキン(Luncheon Napkins, Kirkland Signatureブランド、Costco, Inc.製)上に適用した。ナプキンは1層で、30.4×29.5 cmの大きさであった。次に、それぞれのナプキンをプラスチック袋(Foodsaver、Tilia製)に入れて密封した。アメリカ合衆国カリフォルニア州ロサンゼルスへの2回の別のゴルフ旅行において、この時気温が33.2℃(90oF)を超えていたが、これらのウェットティッシュを顔を拭くために使用した。濃度0.1%のウェットティッシュにより約10分間続く心地よい冷却感が得られ、0.5%のウェットティッシュでは約60分間続いた。どちらの濃度でも眼への刺激は観察されなかった。
【0209】
研究4
2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボニルD-アラニンメチルエステルのAquaphor(登録商標)軟膏中の1%の製剤を4人の個体の両方の眼窩周囲に適用した。皮膚の冷却の発現は1分で感じられ、平均30分間続いた。眼の表面への刺激は感じられなかった。驚くべきことに、4人全員が覚醒効果および集中する能力を感じ、視覚がよりはっきりした。この覚醒効果は約1時間続いた。次に、3日後の夕方に、同じ個体においてこの実験を繰り返した。彼らは、1日中コンピューターの画面の前で仕事をしなければならない職業に就いていた。再び、眼窩周囲に軟膏を適用すると、疲労の緩和、視覚の鋭さの増大、ならびに注意の時間および集中の増加が報告された。爽快感および気分の改善も感じられた。それに対して、他のカルボキシアミド、WS-3、WS-23、WS-11、およびWS-14を同様の条件で試験した場合、それらは顕著な皮膚および眼の刺激を起こし、皮膚の冷却を増大せず、満足できる爽快感を与えなかった。
【0210】
研究5
20歳の女性の頬のざ瘡様皮膚炎をTazorac(登録商標)(タザロテン局所用ゲル)により治療した。これらの薬物を使用してから数日後に、彼女は、これらの薬物を塗った皮膚に赤み、かゆみ、および不快な焼けるような感覚を感じた。その時点で、2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボニルD-アラニンメチルエステルのAquaphor(登録商標)軟膏中の1.5%の製剤を刺激の部位に適用した。5分以内に皮膚に冷却の感覚が感じられ、平均30分間続いた。刺激された皮膚の不快は5分以内に和らぎ、被験者は気分が良くなった。
【0211】
研究6
活性成分の安全性プロファイル
好ましい式(1)の化合物の多くは3つの構成要素:(1R,2S,5R)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボニル部分;D-アラニン;およびアルキルエステルを有すると見ることができる。
【0212】
第1の構成要素は、一般に安全であると認識されており(GRAS)、化粧品、洗面用品および菓子に使用を認可されている冷却剤であるWS-3に含まれる。WS-3はQaroma, Baytown, Texas, USAから純度99.5+%で、およびMillennium Specialty Chemicalsから純度99〜100%で販売されている。香料抽出物製造者協会(The Flavor and Extract Manufacturer Association) (FEMA)の定めるWS-3のGRASコードは3455であり、その安全性プロファイルは完全に文書化されている。
【0213】
第2の構成要素であるD-アラニンは、人工甘味料アスパルテームおよびアリテームの一部であるので、安全性は既に評価されている。D-アラニンは細菌の細胞壁に組み込まれているが、ヒトには組み込まれていない。C14-標識D-アラニンはラットにおいて二酸化炭素および水に代謝される。
【0214】
アルキルエステルはアミノ酸から加水分解されてアルコールを形成した後、さらに二酸化炭素と水に分解される。アルキルエステルは毒性を有しない。したがって、これらの分子は十分な安全性プロファイルを有する。
【0215】
研究7
D-およびL-化合物の比較
L-ホモセリンラクトン、(1R,2S,5R)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボン酸(S)-(2-オキソテトラヒドロフラン-3-イル)アミド(式(2)の化合物の類似物)は、グラム陰性細菌が分泌するN-アシルホモセリンラクトンファミリーの分子といくつかの類似点を有する。これらの「クオラムセンシング」信号分子は、細菌が互いに情報伝達することができる数少ないメカニズムの一つである。クオラムセンシング活性に必要な正確な構造とは一致しないが、L-ホモセリンラクトン類似物は、薬物としての適用には厳しい毒性の精査を必要とするであろう。
【0216】
D-ホモセリンラクトンはクオラムセンシング活性を持たないが、D-Hsl出発物質は、バルク量で最終生成物を製造するには高価であると思われる。そのため、D-ホモセリンラクトン化合物、(1R,2S,5R)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボン酸(R)-(2-オキソテトラヒドロフラン-3-イル)アミド(式(2)の化合物の類似物)は、鎮咳剤として使用することができるものの、式1の化合物よりも高価である。
【0217】
式(1)および(2)の化合物は室温で白色の結晶性の固体である。これらの化合物をそのままで、または粉末もしくは顆粒の砂糖と1:1で混合して試験した。試験物質を、金属のへらまたはプラスチックアプリケーターを用いて舌の背面の中間点に1〜5 mgの量で適用した。試験物質を舌の上に置いた後、被験体に口を閉じたままにして口内の液体を試験物質と混合させ、それを口の後方(中咽頭)に分布させるように指示した。次に被験体の口からの感覚の存在および持続時間を記録した。
【0218】
正常な被験体において、D-Alaメチルおよび式(1)の範囲に含まれるエチルエステル化合物((R)-2-[((1R,2S,5R)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボニル)アミノ]プロピオン酸メチルまたはエチルエステル)の効果を試験した。適用あたり1、2および4 mgの3種の用量を試験して、同じ用量のL-Alaメチルまたはエチルエステル類似物(((S)-2-[((1R,2S,5R)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボニル)アミノ]プロピオン酸メチルまたはエチルエステル)と比較した。2または4 mgの用量では、すべての化合物が、舌から喉の奥に広がる心地よく強い冷却感を与え、これは約30分以上続いた。効果の発現は通常適用後30秒以内であった。
【0219】
D-類似物は明らかに対応するL-類似物よりも活性が高い。より高い用量において、胸部においても冷却感が存在した。これはおそらく食道の受容体の活性化およびその感覚の胸部への放射のためである。この独特の感覚には寒い環境では嫌悪が感じられる。そこで、活性成分を粘着性分子と組合せて薬物作用を喉に局所化すると有利である
冷却-持続時間反応(曲線の下の面積)の分析に基づいて、D-類似物は、L-類似物よりも少なくとも3倍効力および爽快感が高い。同じ条件で試験したメントールは、主に鼻咽頭を冷却し、口腔の冷却は少なかった。また、メントールの効果は短く、8〜12分程度であった。すべての類似物は(-)-メントールと同様の少し苦い味を伴った。
【0220】
式(2)((1R,2S,5R)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボン酸(R/S)-(2-オキソテトラヒドロフラン-3-イル)アミド)の範囲に含まれるD-、L-およびラセミHsl類似物を2 mgの用量で試験した。これらの化合物も喉の後方に強い、持続する冷却を与えた。これらの化合物は心地よく芳香性のエステル様の味を有した。
【0221】
同じ試験条件で、どちらもD-Ala立体配置を持たないWS-5およびサルコシンエチルエステル類似物も冷却特性を有したが、作用の持続時間は10分未満であり、これらの化合物にはいくらかの感覚的な刺激が存在した。
【0222】
研究8
どちらも60歳の2名の男性は、1日あたり3〜5本の葉巻タバコを吸う習慣的喫煙者であった。彼らはどちらも、乾いた、痰を伴わない、空咳の頻繁な発作を有した。夜間、呼吸困難、胸および喉への重苦しい圧力、およびそれに続く息苦しい感覚を伴った目覚めを特徴とする不眠の発作があった。日中頻繁に起こり持続する感覚は、喉の後方をくすぐられ、刺激される感じであって、それにより咳が出た。
【0223】
患者あたり10回ずつの、計20回の試験において、2 mgの、式(1)の範囲に含まれるD-Alaエチル化合物((R)-2-[((1R,2S,5R)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボニル)アミノ]プロピオン酸エチルエステル)の純度95%+の粉末をこれらの2名の被験体の舌の中央部に置いた。どちらの被験体も適用後1分以内に咳の欲求が緩和されたことを報告した。喉の後方に強い冷却の感覚が感じられ、約30分間続いた。同量の粉末の砂糖の適用は有効ではなかったが、偽薬は冷却感がなかったために活性化合物とは明白に区別することができた。
【0224】
試験物質を適用した後、喉の後方の刺激およびかゆみ(咳信号)のない状態は約4〜5時間続き、個体は6〜8時間咳をしなかったことが観察された。驚くべきことに、2日間以内に一方の個体に4回適用した後、および第2の個体に6回適用した後に、個体らは少なくとも5日間、葉巻の喫煙を続けたにもかかわらず咳の欲求が除去されたと感じた。これは、試験化合物が咳受容体メカニズムを抑制的に調節し、咳の刺激の閾値を永続的に上げたことを示唆している。この治療効果は試験物質がもはや中咽頭に冷却感を引き出さなくなっている時に生じた。
【0225】
研究9
31年間の喘息発作歴の記録がある61歳の女性が、ボランティアで式(1)の範囲に含まれる化合物の一つの試験をおこなった。彼女は、タバコの煙、埃、花粉、匂い、羽毛/羊毛素材、住居用洗剤、ペット、および気温の突然の変化などの要因に対して非常に敏感であり、激しい咳、粘液分泌、喘鳴、息苦しさ、および呼吸が速くなるという反応を示した。この試験の時点で彼女はその状態のために次の薬物:テオフィリン(theophylline)、Allegra(登録商標)、Advair(登録商標)、Intal(登録商標)、およびSingulair(登録商標)を服用していた。咳の発作中の5回の試験において、彼女は、1〜2 mgの、式(1)の範囲に含まれるD-Alaエチルエステル((R)-2-[((1R,2S,5R)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボニル)アミノ]プロピオン酸エチルエステル)の純度95%+の粉末を舌の中央部に置いた。彼女は、口および喉の中にユーカリ油に似たわずかな味が伴う鎮静および冷却の感覚を報告した。3〜5分後に咳が止まり、呼吸は正常になった。彼女は粘液の増加または他の副作用を感じなかった。夜間に化合物を適用した3回の試験において、彼女は咳により目覚めることなく一晩中眠った。彼女の夫は、30年間の結婚生活で彼女の咳に有効な薬物投与を見たのはこれが初めてであったと述べた。彼女は適用した化学物質が存在する間は咳を刺激する信号がなかったと感じたが、依然として気道に機械的な分泌の増加を感じ、必要な場合には自発的に咳によりその分泌物を出すことができた。彼女は、かかりつけの医師の承知および同意の下に、喘息を管理するために試験化合物を使い続けた。驚くべきことに、彼女の喘息の咳の発作はいかなる強さのものも1か月間再発しなかった。この効果は、喘息の病態生理学的徴候の一つである、気道過敏性が、治療により弱まり得ることを示唆している。
【0226】
研究10
74歳の男性は20年間成人発症型喘息にかかっていた。発作の引き金は、タバコの煙、埃、および気温の変化であった。彼は喘息を抑制するためにForadil(登録商標)(フマル酸ホルモテロール(formoterol fumarate))およびAsmanex(登録商標)(モメタソン・フオレート(mometasone fuorate))を1日2回使用しており、最大呼気流量を測定するための携帯用装置により肺機能をモニターしていた。彼は毎日痰を伴う咳および伴わない咳の両方の発作があった。彼が喉の刺激および咳の欲求を感じた時の5回の試験において、1〜3 mgの(R)-2-[((1R,2S,5R)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボニル)アミノ]プロピオン酸エチルエステルを置くことにより迅速な緩和が得られ、それは鎮静し、胸の「圧迫感」を除去するものであったと表現された。最大呼気流量は320 L/分から370 L/分に改善した。痰を伴う咳の発作の最中に試験物質を投与した3回の発作においては、顕著な効果は観察されず、被験体は適用した化合物ははき出されたと言った。持続性NACE化合物に対する被験体の反応は結論として良好であった。被験体はNACE化合物を使用するのに最も良い時間は結晶Foradil(登録商標)を吸入した後であったと述べた。それは、この吸入薬が喉を刺激するからであった。メントールトローチは、穏やかな抗刺激作用しかなく、トローチに含まれる砂糖が食欲を減退させるので、彼の気道の不快には有効でなかった。
【0227】
以上において、本発明の原理、好ましい実施形態、および実施の方式を説明した。しかしながら、本発明は論じられた特定の実施形態に限定されるものと解釈されるべきではない。上記の実施形態は限定的ではなく説明的であると見なされるべきであり、当業者が本発明の範囲から離れることなく前記実施形態を変更することができると理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0228】
【図1】図1は、6種の化合物:WS-3(黒丸)、(-)-メントール(白丸)、WS-5(黒三角)、D-Hsl(白三角)、D-Ala-OMe(黒四角)、およびD-Ala-OEt(白四角)の適用後の時間(時間)に対する冷却強度のグラフである。
【図2】図2は、8種の化合物:(順に)D-Ala-OEt、D-Ala-OMe、D-Hsl、Sar-OEt、WS-5、WS-12、WS-3、および(-)-メントールの冷却の持続時間(時間)を示す棒グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】

[式中、
R1は独立して水素またはメチルであり;
R2は独立してC1〜C2アルキルであり;
R3は独立してC1〜C4アルキルである]
の化合物ならびにその塩および溶媒和物から選択される化合物。
【請求項2】
R1が独立して水素である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
R1が独立してメチルである、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
R2が独立してメチルである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
R2が独立してエチルである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項6】
R3が独立してメチルである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項7】
R3が独立してエチルである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項8】
次の化合物:
(R)-2-[((1R,2S,5R)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボニル)アミノ]プロピオン酸メチルエステル
ならびにその塩および溶媒和物から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項9】
次の化合物:
(R)-2-[((1R,2S,5R)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボニル)アミノ]プロピオン酸エチルエステル
ならびにその塩および溶媒和物から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項10】
次の化合物:
(R)-2-[((1R,2S,5R)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボニル)アミノ]プロピオン酸n-プロピルエステル
ならびにその塩および溶媒和物から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項11】
次の化合物:
(R)-2-[((1R,2S,5R)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボニル)アミノ]プロピオン酸i-プロピルエステル
ならびにその塩および溶媒和物から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項12】
次の化合物:
(R)-2-[((1R,2S,5R)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボニル)アミノ]プロピオン酸n-ブチルエステル
ならびにその塩および溶媒和物から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項13】
次の化合物:
(R)-2-[((1R,2S,5R)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボニル)アミノ]プロピオン酸sec-ブチルエステル
ならびにその塩および溶媒和物から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項14】
次の化合物:
(R)-2-[((1R,2S,5R)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボニル)アミノ]プロピオン酸i-ブチルエステル
ならびにその塩および溶媒和物から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項15】
次の化合物:
(R)-2-[((1R,2S,5R)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボニル)アミノ]プロピオン酸t-ブチルエステル
ならびにその塩および溶媒和物から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項16】
式(2):
【化2】

[式中、
nは独立して1、2、または3であり;
R1は独立して水素またはメチルである]
の化合物ならびにその塩および溶媒和物から選択される化合物。
【請求項17】
nが独立して1である、請求項16に記載の化合物。
【請求項18】
nが独立して2である、請求項16に記載の化合物。
【請求項19】
nが独立して3である、請求項16に記載の化合物。
【請求項20】
R1が独立して水素である、請求項16〜19のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項21】
R1が独立してメチルである、請求項16〜19のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項22】
α炭素が(R)-配置である、請求項16〜21のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項23】
α炭素が(S)-配置である、請求項16〜21のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項24】
次の化合物:
(1R,2S,5R)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボン酸((S)-2-オキソテトラヒドロフラン-3-イル)アミド
ならびにその塩および溶媒和物から選択される、請求項16に記載の化合物。
【請求項25】
次の化合物:
(1R,2S,5R)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボン酸((R)-2-オキソテトラヒドロフラン-3-イル)アミド
ならびにその塩および溶媒和物から選択される、請求項16に記載の化合物。
【請求項26】
次の化合物:
(1R,2S,5R)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボン酸(2-オキソテトラヒドロフラン-3-イル)アミド
ならびにその塩および溶媒和物から選択される、請求項16に記載の化合物。
【請求項27】
請求項1〜26のいずれか1項に記載の化合物、および化合物をヒトに送達するための送達媒体を含む組成物。
【請求項28】
送達媒体が製薬上許容される担体または希釈剤である、請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
送達媒体が化合物をヒトの皮膚に送達するのに適合している、請求項27または請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
送達媒体がウェットティッシュである、請求項27から28のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項31】
送達媒体が化合物をヒトの口腔および/または上気道に送達するのに適合している、請求項27または請求項28に記載の組成物。
【請求項32】
化合物が組成物中に1〜10 mgの量で存在する、請求項27〜31のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項33】
化合物が組成物中に0.01〜2% wt/volの量で存在する、請求項27〜31のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項34】
組成物がさらに多価アルコールを含む、請求項27〜33のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項35】
組成物がさらに粘膜粘着性ポリマーを含む、請求項27〜33のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項36】
治療によりヒトまたは動物の体を治療する方法に使用するための、請求項1〜26のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項37】
皮膚の刺激、かゆみ、および/または痛みを緩和する方法に使用する医薬品の製造における、請求項1〜26のいずれか1項に記載の化合物の使用。
【請求項38】
咳ならびに/または上気道の刺激および/もしくは閉塞の感覚を緩和する方法に使用する医薬品の製造における、請求項1〜26のいずれか1項に記載の化合物の使用。
【請求項39】
喘息、慢性閉塞性肺疾患、または他の上気道の病気の症状および徴候を緩和する方法に使用する医薬品の製造における、請求項1〜26のいずれか1項に記載の化合物の使用。
【請求項40】
咳の治療方法に使用する医薬品の製造における、請求項1〜26のいずれか1項に記載の化合物の使用。
【請求項41】
喘息の治療方法に使用する医薬品の製造における、請求項1〜26のいずれか1項に記載の化合物の使用。
【請求項42】
禁煙治療の方法に使用する医薬品の製造における、請求項1〜26のいずれか1項に記載の化合物の使用。
【請求項43】
感染性微生物の宿主伝播を減少させるための治療方法に使用する医薬品の製造における、請求項1〜26のいずれか1項に記載の化合物の使用。
【請求項44】
咳および感染性微生物の空気感染を予防するための治療方法に使用する医薬品の製造における、請求項1〜26のいずれか1項に記載の化合物の使用。
【請求項45】
覚醒を高めるための、または吐き気、食欲、疲労、熱感、もしくは発熱を減少させるための治療方法に使用する医薬品の製造における、請求項1〜26のいずれか1項に記載の化合物の使用。
【請求項46】
ヒトの皮膚、口腔、または上気道の治療方法であって、
請求項1〜26のいずれか1項に記載の化合物および送達媒体を含む組成物をヒトの皮膚、口腔、または上気道と接触させ、
それにより有効量の前記化合物をヒトの皮膚または粘膜に送達すること
を含む、前記方法。
【請求項47】
皮膚の刺激、かゆみ、および/または痛みの治療方法であって、
請求項1〜26のいずれか1項に記載の化合物および送達媒体を含む組成物をヒトの皮膚、口腔、または上気道と接触させ、
それにより皮膚の刺激、かゆみ、および/または痛みの緩和に治療上有効な量の前記化合物を送達すること
を含む、前記方法。
【請求項48】
咳、および/または上気道における刺激および/または閉塞の感覚の治療方法であって、
請求項1〜26のいずれか1項に記載の化合物および送達媒体を含む組成物をヒトの口腔または上気道と接触させ、
それにより咳、および/または上気道における刺激および/または閉塞の感覚の緩和に治療上有効な量の前記化合物を送達すること
を含む、前記方法。
【請求項49】
喘息、慢性閉塞性肺疾患、または他の上気道の病気の症状および徴候の治療方法であって、
請求項1〜26のいずれか1項に記載の化合物および送達媒体を含む組成物をヒトの口腔または上気道と接触させ、
それにより喘息、慢性閉塞性肺疾患、または他の上気道の病気の症状および徴候の緩和に治療上有効な量の前記化合物を送達すること
を含む、前記方法。
【請求項50】
喘息の治療方法であって、
請求項1〜26のいずれか1項に記載の化合物および送達媒体を含む組成物をヒトの口腔または上気道と接触させ、
それにより喘息の緩和に治療上有効な量の前記化合物を送達すること
を含む、前記方法。
【請求項51】
咳の治療方法であって、
請求項1〜26のいずれか1項に記載の化合物および送達媒体を含む組成物をヒトの口腔または上気道と接触させ、
それにより咳の緩和に治療上有効な量の前記化合物を送達すること
を含む、前記方法。
【請求項52】
禁煙治療の方法であって、
請求項1〜26のいずれか1項に記載の化合物および送達媒体を含む組成物をヒトの口腔または上気道と接触させ、
それにより禁煙治療に治療上有効な量の前記化合物を送達すること
を含む、前記方法。
【請求項53】
感染性微生物の宿主伝播を減少させる方法であって、
請求項1〜26のいずれか1項に記載の化合物および送達媒体を含む組成物をヒトの口腔または上気道と接触させ、
それにより感染性微生物の宿主伝播を減少させるのに治療上有効な量の前記化合物を送達すること
を含む、前記方法。
【請求項54】
咳および感染性微生物の空気感染を予防する方法であって、
請求項1〜26のいずれか1項に記載の化合物および送達媒体を含む組成物をヒトの口腔または上気道と接触させ、
それにより咳および感染性微生物の空気感染を予防するのに治療上有効な量の前記化合物を送達すること
を含む、前記方法。
【請求項55】
組成物が1〜20 mgの化合物を含み、かつ組成物がトローチの剤形である、請求項46〜54のいずれか1項に記載の方法。
【請求項56】
組成物が0.01〜2% wt/volの化合物を含む、請求項46〜54のいずれか1項に記載の方法。
【請求項57】
化合物が、さらに多価アルコールを含む組成物として投与される、請求項46〜54のいずれか1項に記載の方法。
【請求項58】
化合物が、さらに粘膜粘着性ポリマーを含む組成物として投与される、請求項46〜54のいずれか1項に記載の方法。
【請求項59】
咳または感染性微生物の空気感染を予防する治療のための医薬品の製造における化合物の使用であって、ここで、前記化合物が式(3):
【化3】

[式中、
RおよびR’はそれぞれ独立してC1〜C7アルキルであり;
R”は独立して水素またはC1〜C5アルキルであり;
ただし、
(1) R、R’、およびR”は全体として合計5個以上の炭素原子を、好ましくは合計7〜13個の炭素原子を有し;
(2) R”が水素である場合、Rは2個以上の炭素原子を含有しなければならず、かつR’は3個以上の炭素原子を含有しなければならず、かつRおよびR’の少なくとも一方は分枝鎖アルキル基でなければならない(好ましくは、C-CO-N基に対してαまたはβ位で分枝している);
(3) R”が水素である場合、RおよびR”の少なくとも一方はイソプロピルまたはsec-ブチルであることが好ましく;
または、
RおよびR’は、それらが結合する炭素と一緒になって、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、[3.1.1]ビシクロヘプタン、[2.2.1]ビシクロヘプタン、および[2.2.2]ビシクロオクタンから選択され、場合によりエチレン性不飽和を有するアルキル置換シクロアルキル基(好ましくは(-)-メントールに存在するメンチル基)を形成し;
R”は水素または直鎖もしくは分枝鎖C1〜C5アルキルであり;
ただし、
(i) アルキル置換シクロアルキル環は合計7〜14個の炭素原子(好ましくは合計8〜12個の炭素原子)を含有し;
(ii) アルキル置換シクロアルキル環は合計1〜3個の直鎖または分枝鎖C1〜C5アルキル置換基を有し;
(iii) R”が水素である場合、直鎖または分枝鎖C1〜C5アルキル置換基はシクロアルキル環の2または3位に存在し(好ましくは2位)(好ましくは前記アルキル置換基は環に対してαまたはβ位で分枝しており)(好ましくは前記アルキル置換基はイソプロピルまたはsec-ブチルであり);
および、ここで、
R1は、水素またはメチルであり;
Yは、-CHR2-、-CH2CHR2-、および-CHR2CH2-から選択される2価のアルキリデン基であり、ここで、R2は水素またはC1〜C2アルキルであり;
R3は、直鎖または分枝鎖C1〜C4アルキルであり;
ただし、
(a) さらに、R2およびR3はそれらが結合する原子と一緒になって、5、6、または7員ラクトン環を形成していてもよく;
(b) さらに、R1およびR3はそれらが結合する原子と一緒になって、飽和5、6、または7員3’-オキソ-1’,4’-アゾキサ(azoxa)環を形成していてもよく;
(c) さらに、R1およびR2はそれらが結合する原子と一緒になって、2’または3’位にアルコキシカルボニル置換基を有し、場合により1個以上のC1〜C2アルキル基により置換された5、6、または7員飽和含窒素複素環を形成するように結合していてもよい]
の化合物、ならびにその塩および溶媒和物から選択される、前記使用。
【請求項60】
医薬品がさらに多価アルコールを含む、請求項59に記載の使用。
【請求項61】
医薬品がさらに粘膜粘着性ポリマーを含む、請求項59に記載の使用。
【請求項62】
ヒトの患者に請求項59に記載された通りの化合物を経口投与することを含む、咳および感染性微生物の空気感染を予防する方法。
【請求項63】
化合物をさらに多価アルコールを含む組成物として投与する、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
化合物をさらに粘膜粘着性ポリマーを含む組成物として投与する、請求項62に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−538115(P2008−538115A)
【公表日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−503573(P2008−503573)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際出願番号】PCT/GB2006/001093
【国際公開番号】WO2006/103401
【国際公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(507324072)
【Fターム(参考)】