N−アルケニルカルボン酸3級アミド組成物
【課題】物性の変動の少ない、安定して長期に亘り保存可能なN−アルケニルカルボン酸3級アミド組成物を提供する。
【解決手段】特定のアミン類を添加し、pH範囲を制御することにより、pHおよび色価の変動を抑制でき、長期に亘り保存安定性を実現するN−アルケニルカルボン酸3級アミド組成物。
【解決手段】特定のアミン類を添加し、pH範囲を制御することにより、pHおよび色価の変動を抑制でき、長期に亘り保存安定性を実現するN−アルケニルカルボン酸3級アミド組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のアミン類を添加することにより長期安定性を有するN−アルケニルカルボン酸3級アミド組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
N−アルケニルカルボン酸3級アミド組成物は、保管・輸送・貯蔵時などに重合しやすい性質を有する。
【0003】
このため、重合を抑制する目的で、アンモニア、N,N’−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、水酸化ナトリウムなどを添加することが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、重合防止のため、N,N’−sec−ブチル−p−フェニレンジアミンとともに、他のアミンを用いてもよいとの記載があるが、色価(APHA)の安定のためにどのようなアミンがよいのかについての記載または示唆はない(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特表平8−506580号公報
【特許文献2】特開平7−252221号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特表平8−506580号公報に記載されているN,N’−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン(フェニレンジアミン骨格を有する芳香族アミン)は、少量では安定剤としての効果が低く、また効果を発現させるために多量に添加することが必要となる。しかし、該化合物を多量に添加すると、製品の着色の原因となることが、我々の検討で明らかとなった。
【0006】
また、特開平7−252221号公報では、N,N’−sec−ブチル−p−フェニレンジアミンなどは、生成工程での重合を防止する目的で添加されたものであり、安定性を目的とするpHの維持や色価の変化を低減するために添加されるものではない。すなわち、本発明における貯蔵安定性を目的としたものではなく、貯蔵安定性の問題を解決しているとはいい難い。
【0007】
従来からN−アルケニルカルボン酸3級アミド類はラジカル重合しやすいことが知られており、保管・輸送・貯蔵時には細心の注意を払うことが求められている。そのため、本発明では、N−アルケニルカルボン酸3級アミドを、安定的に長期に亘り貯蔵を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、N−アルケニルカルボン酸3級アミドと、フェニレンジアミン骨格を有しないアミン化合物(A)を含有することを特徴とするN−アルケニルカルボン酸3級アミド組成物、に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、特定のアミン類を配合し、必要によりpH範囲を限定することによって、pHの変動が少なく、かつ、色価(APHA)の上昇が少なくて、長期にわたって貯蔵安定性に優れるN−アルケニルカルボン酸3級アミド組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
我々は、N−アルケニルカルボン酸3級アミド類を安定的に長期にわたり貯蔵することについて鋭意検討を重ねてきた結果、N−アルケニルカルボン酸3級アミド類に特定のアミン類を添加し、必要によりそのpHを8〜12の範囲に調整することによって、30℃の温度範囲で、pHや色価(APHA)の変動を抑制し、長期に安定的に貯蔵できることを見出した。なお、「貯蔵」の代わりに「保存」を使っても本発明の範囲内に含まれる。そのほかに、単に貯蔵する場合だけでなく、移送や輸送の場合も含まれる。
【0011】
本発明で使用されるN−アルケニルカルボン酸3級アミド類としては、N−ビニルホルムアミドなどの直鎖状アルケニルカルボン酸アミド類、N−ビニル−ε−カプロラクタムやN−ビニルピロリドン(NVP)などの環状アルケニルカルボン酸アミド類が挙げられる。
【0012】
前記N−アルケニルカルボン酸3級アミド組成物中のN−アルケニルカルボン酸3級アミド類の含有率は、全組成物中に80質量%以上あれば特に制限はないが、好ましくは85質量%以上、より好ましくは90質量%以上、最も好ましくは95質量%以上である。この範囲であれば、前記組成物の貯蔵安定性を十分に発現しうるものである。
【0013】
また、本組成物中には、N−アルケニルカルボン酸3級アミド類の他に、長期にわたる貯蔵安定性を低下させない範囲内で緩衝剤や消臭剤、あるいは溶媒として、水、アルコール類などを添加してもよい。
【0014】
本発明で添加するアミン類は、フェニレンジアミン骨格を有しないアミンであればよい。ここで、フェニレンジアミン骨格は、化学式1で示されるものをいう:
【0015】
【化1】
【0016】
ただし、式中、R1〜R4は、それぞれ独立に炭素数15以下のアルキル基を示す。
【0017】
フェニレンジアミン骨格を有しないアミン化合物(A)としては、安定効果に優れる点から有機アミン化合物が好ましく、さらに20℃における蒸気圧が3×10−6hPa以上の有機アミン化合物が好ましい。その具体例としては、脂肪族アミン類、アルカノールアミン類、ヒドロキシルアミン類などが挙げられる。
【0018】
具体的には、下記のアミンが好ましい。
【0019】
<フェニレンジアミン骨格を有しないアミン化合物(A)>
メチルアミン(MA)、エチルアミン(EA)、イソプロピルアミン、t−ブチルアミン(tBA)、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、シクロヘキシルアミンなどの脂肪族アミン類;モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン類;N,N−ジメチルヒドロキシルアミンなどのヒドロキシルアミン類;アンモニア;アニリン、トルイジン、ベンジルアミン、2−ナフチルアミン、p−アミノ安息香酸などの芳香族アミン類;4−アミノキノリンなどの複素環式芳香族アミン類。
【0020】
前記アミン化合物(A)、特に脂肪族アミン類、アルカノールアミン類及びヒドロキシルアミン類と併用できる芳香族アミン類(B)としては、芳香環を有するアミンであればよく、具体的には、アニリン、トルイジン、ベンジルアミン、2−ナフチルアミン、p−アミノ安息香酸、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン(KEROBIT,BASF社の登録商標)などの芳香族アミン類;4−アミノキノリンなどの複素環式芳香族アミン類などが挙げられる。
【0021】
前記アミン化合物(A)は、単独で用いてもよく、また2種類以上を併用してもよい。さらに、芳香族アミン(B)と併用することも可能であり、この場合、芳香族アミン(B)を2種類以上添加してもよい。
【0022】
前記アミン化合物(A)の全組成物に対する含有率は、添加するアミンの種類によって異なり、貯蔵の長期安定性を効率よく発現させることができる範囲内で決定することができる。
【0023】
前記アミン化合物(A)の添加量としては、空気雰囲気下30℃の温度において3ヶ月の間貯蔵した後の所定のpH測定法によるpHが8〜12の範囲になるように配合制御すればよいが、好ましくはN−アルケニルカルボン酸3級アミド類に対し、1ppm以上、3質量%以下の範囲であれば十分であり、好ましくは1ppm以上、1質量%以下、より好ましくは3ppm以上、5000ppm以下、最も好ましくは5ppm以上、1000ppm以下の範囲にある。この範囲に制御することにより、前記組成物の長期にわたる貯蔵安定性に優れるという効果を十分に発揮できる。
【0024】
一方、芳香族アミン(B)の前記アミン化合物(A)に対する比率は、添加するアミンの種類によって異なるが、前記アミン化合物(A)との組み合わせのなかで、貯蔵安定性を効率よく発現させることができる範囲内で決定することができる。具体的には、質量比で、前記芳香族アミン(B)が前記アミン化合物(A)に対し、1/2以下、好ましくは1/5以下、最も好ましくは1/10以下である。この範囲であれば、前記組成物の安定化効果が発揮できるからである。添加量は、上記の条件を満たすとともに、N−アルケニルカルボン酸3級アミド類に対し、通常、1ppm以上、1質量%以下の範囲であれば十分であり、好ましくは1ppm以上、5000ppm以下、より好ましくは3ppm以上、1000ppm以下、最も好ましくは3ppm以上、500ppm以下の範囲にある。
【0025】
前記組成物をさらに安定にするためには、pHを好ましくは8〜11、より好ましくは8.5〜10.5の範囲に制御すればよい。
【0026】
本発明の組成物は、90℃の高温においても2ヶ月にわたり安定性を維持できる場合もあり、非常に安定性の高い組成物といえる。
【0027】
本発明の組成物を製造する手段としては、蒸留などの精製工程を通して得られた高純度のN−アルケニルカルボン酸3級アミド組成物に対して、または精製することなく得られたN−アルケニルカルボン酸3級アミド組成物に対して、特定のアミン類を添加すればよい。前記アミン化合物(A)と前記芳香族アミン(B)を添加する順序は、特に限定はなく、同時添加することも可能である。
【0028】
N−アルケニルカルボン酸3級アミド組成物の貯蔵には、密閉されたタンク、ドラム缶などを用いることができる。
【0029】
本発明に用いられるN−アルケニルカルボン酸3級アミド組成物の貯蔵容器の気相部の雰囲気は、特に限定はされないが、炭酸ガスなど、酸性ガスとの接触を断って取り扱うことが好ましく、具体的には窒素などの不活性ガスが好ましい。不活性ガスをあらかじめ容器に充填した後、N−アルケニルカルボン酸3級アミド組成物を投入してもよいし、あるいはN−アルケニルカルボン酸3級アミド組成物を投入した後、不活性ガスを充填してもよい。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。ただし、下記の実施例は本発明を説明するためのものであり、限定するものではない。
【0031】
安定性の確認のための促進試験方法、pH、及び色価(APHA)の測定方法を以下に示す。
【0032】
<試験方法>
100mLスクリュー管に組成物サンプル100gを入れて蓋をし、空気雰囲気下30℃の温度に設定したオーブン(三洋電機社製)に保管する。
【0033】
貯蔵の開始前及び3ヶ月経過後の物性値を下記の方法で測定する。
【0034】
<pHの測定方法>
50mLのスクリュー管にpH6から7に調整した純水45gを秤量し、次いで該サンプル5gを秤量して混合し、該組成物の10質量%水溶液を作製する。1分以内にpH計にセットし、25℃で1分間、200rpmで攪拌後、2分間静置して、その時のpH値を読み取る。
【0035】
pH計(堀場製作所製;F−12型、電極形式#6366−10D)
<色価(APHA)の測定方法>
色度試験用試薬(色度1000:和光純薬製)を純水で希釈し、各種の色度標準液を調製する。25mL比色管に組成物サンプル25mLを入れ、標準液と比較して同色度のAPHA番号を測定値とする。
【0036】
(実施例1〜12及び比較例1〜4)
NVPに各種のアミン類を添加し、貯蔵の開始時と3ヶ月経過後とにおいて、pHと色価(APHA)について測定し、下記表1に示す。
【0037】
ただし、実施例1〜14及び比較例1〜6で使用したNVPは、市販のNVP(安定剤:N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン10ppm含有)を蒸留などの精製処理を行い、安定剤を除去したものである。このような精製処理の例としては、特許3435598号公報参照。
【0038】
【表1】
【0039】
ただし、表中NN: N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン。
【0040】
実施例1〜12に示されるように、前記アミン化合物(A)および場合によっては芳香族アミン(B)を添加することによって、pHの値は貯蔵の開始前に比べて殆ど低下せず、さらに、色価(APHA)の変動幅も50以内に制御できており、これらの特定のアミン類が安定性に非常に寄与していることがわかった。
【0041】
これに対し、比較例1〜3では、前記アミン化合物(A)を添加しないことからpHの低下が大きく、また、色価(APHA)の変動幅も大きくなっており、安定性が不十分であるといえる。
【0042】
さらに、比較例4においては、フェニレンジアミン骨格を有するアミンを過剰に添加しているため、pH、特に色価(APHA)の変動幅が大きく、これも安定性が不十分であった。
【0043】
以上の促進試験の結果から、通常の貯蔵方法においても、本発明が優れていることが推測される。
【0044】
(実施例13および比較例5)
NVPを、表2に示される内容で、200kg入りケミドラム(ポリエチレン内袋)に投入した。
【0045】
貯蔵の開始時と3ヶ月経過後とにおいて、pHと色価(APHA)について測定し、表2に示す。なお、貯蔵条件は、室温(20〜25℃)であった。
【0046】
(実施例14および比較例6)
NVPを、表2に示される内容で、18L入りハイブリッド缶に投入した。その後、窒素ガスを充填し、容器を密閉した。
【0047】
貯蔵の開始時と3ヶ月経過後とにおいて、pHと色価(APHA)について測定し、表2に示す。
【0048】
なお、貯蔵条件は、室温(20〜25℃)であった。
【0049】
【表2】
【0050】
表2に示されるように、実際の貯蔵条件において実施した場合においても、本発明による組成物が優れていることが確認された。
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のアミン類を添加することにより長期安定性を有するN−アルケニルカルボン酸3級アミド組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
N−アルケニルカルボン酸3級アミド組成物は、保管・輸送・貯蔵時などに重合しやすい性質を有する。
【0003】
このため、重合を抑制する目的で、アンモニア、N,N’−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、水酸化ナトリウムなどを添加することが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、重合防止のため、N,N’−sec−ブチル−p−フェニレンジアミンとともに、他のアミンを用いてもよいとの記載があるが、色価(APHA)の安定のためにどのようなアミンがよいのかについての記載または示唆はない(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特表平8−506580号公報
【特許文献2】特開平7−252221号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特表平8−506580号公報に記載されているN,N’−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン(フェニレンジアミン骨格を有する芳香族アミン)は、少量では安定剤としての効果が低く、また効果を発現させるために多量に添加することが必要となる。しかし、該化合物を多量に添加すると、製品の着色の原因となることが、我々の検討で明らかとなった。
【0006】
また、特開平7−252221号公報では、N,N’−sec−ブチル−p−フェニレンジアミンなどは、生成工程での重合を防止する目的で添加されたものであり、安定性を目的とするpHの維持や色価の変化を低減するために添加されるものではない。すなわち、本発明における貯蔵安定性を目的としたものではなく、貯蔵安定性の問題を解決しているとはいい難い。
【0007】
従来からN−アルケニルカルボン酸3級アミド類はラジカル重合しやすいことが知られており、保管・輸送・貯蔵時には細心の注意を払うことが求められている。そのため、本発明では、N−アルケニルカルボン酸3級アミドを、安定的に長期に亘り貯蔵を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、N−アルケニルカルボン酸3級アミドと、フェニレンジアミン骨格を有しないアミン化合物(A)を含有することを特徴とするN−アルケニルカルボン酸3級アミド組成物、に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、特定のアミン類を配合し、必要によりpH範囲を限定することによって、pHの変動が少なく、かつ、色価(APHA)の上昇が少なくて、長期にわたって貯蔵安定性に優れるN−アルケニルカルボン酸3級アミド組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
我々は、N−アルケニルカルボン酸3級アミド類を安定的に長期にわたり貯蔵することについて鋭意検討を重ねてきた結果、N−アルケニルカルボン酸3級アミド類に特定のアミン類を添加し、必要によりそのpHを8〜12の範囲に調整することによって、30℃の温度範囲で、pHや色価(APHA)の変動を抑制し、長期に安定的に貯蔵できることを見出した。なお、「貯蔵」の代わりに「保存」を使っても本発明の範囲内に含まれる。そのほかに、単に貯蔵する場合だけでなく、移送や輸送の場合も含まれる。
【0011】
本発明で使用されるN−アルケニルカルボン酸3級アミド類としては、N−ビニルホルムアミドなどの直鎖状アルケニルカルボン酸アミド類、N−ビニル−ε−カプロラクタムやN−ビニルピロリドン(NVP)などの環状アルケニルカルボン酸アミド類が挙げられる。
【0012】
前記N−アルケニルカルボン酸3級アミド組成物中のN−アルケニルカルボン酸3級アミド類の含有率は、全組成物中に80質量%以上あれば特に制限はないが、好ましくは85質量%以上、より好ましくは90質量%以上、最も好ましくは95質量%以上である。この範囲であれば、前記組成物の貯蔵安定性を十分に発現しうるものである。
【0013】
また、本組成物中には、N−アルケニルカルボン酸3級アミド類の他に、長期にわたる貯蔵安定性を低下させない範囲内で緩衝剤や消臭剤、あるいは溶媒として、水、アルコール類などを添加してもよい。
【0014】
本発明で添加するアミン類は、フェニレンジアミン骨格を有しないアミンであればよい。ここで、フェニレンジアミン骨格は、化学式1で示されるものをいう:
【0015】
【化1】
【0016】
ただし、式中、R1〜R4は、それぞれ独立に炭素数15以下のアルキル基を示す。
【0017】
フェニレンジアミン骨格を有しないアミン化合物(A)としては、安定効果に優れる点から有機アミン化合物が好ましく、さらに20℃における蒸気圧が3×10−6hPa以上の有機アミン化合物が好ましい。その具体例としては、脂肪族アミン類、アルカノールアミン類、ヒドロキシルアミン類などが挙げられる。
【0018】
具体的には、下記のアミンが好ましい。
【0019】
<フェニレンジアミン骨格を有しないアミン化合物(A)>
メチルアミン(MA)、エチルアミン(EA)、イソプロピルアミン、t−ブチルアミン(tBA)、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、シクロヘキシルアミンなどの脂肪族アミン類;モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン類;N,N−ジメチルヒドロキシルアミンなどのヒドロキシルアミン類;アンモニア;アニリン、トルイジン、ベンジルアミン、2−ナフチルアミン、p−アミノ安息香酸などの芳香族アミン類;4−アミノキノリンなどの複素環式芳香族アミン類。
【0020】
前記アミン化合物(A)、特に脂肪族アミン類、アルカノールアミン類及びヒドロキシルアミン類と併用できる芳香族アミン類(B)としては、芳香環を有するアミンであればよく、具体的には、アニリン、トルイジン、ベンジルアミン、2−ナフチルアミン、p−アミノ安息香酸、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン(KEROBIT,BASF社の登録商標)などの芳香族アミン類;4−アミノキノリンなどの複素環式芳香族アミン類などが挙げられる。
【0021】
前記アミン化合物(A)は、単独で用いてもよく、また2種類以上を併用してもよい。さらに、芳香族アミン(B)と併用することも可能であり、この場合、芳香族アミン(B)を2種類以上添加してもよい。
【0022】
前記アミン化合物(A)の全組成物に対する含有率は、添加するアミンの種類によって異なり、貯蔵の長期安定性を効率よく発現させることができる範囲内で決定することができる。
【0023】
前記アミン化合物(A)の添加量としては、空気雰囲気下30℃の温度において3ヶ月の間貯蔵した後の所定のpH測定法によるpHが8〜12の範囲になるように配合制御すればよいが、好ましくはN−アルケニルカルボン酸3級アミド類に対し、1ppm以上、3質量%以下の範囲であれば十分であり、好ましくは1ppm以上、1質量%以下、より好ましくは3ppm以上、5000ppm以下、最も好ましくは5ppm以上、1000ppm以下の範囲にある。この範囲に制御することにより、前記組成物の長期にわたる貯蔵安定性に優れるという効果を十分に発揮できる。
【0024】
一方、芳香族アミン(B)の前記アミン化合物(A)に対する比率は、添加するアミンの種類によって異なるが、前記アミン化合物(A)との組み合わせのなかで、貯蔵安定性を効率よく発現させることができる範囲内で決定することができる。具体的には、質量比で、前記芳香族アミン(B)が前記アミン化合物(A)に対し、1/2以下、好ましくは1/5以下、最も好ましくは1/10以下である。この範囲であれば、前記組成物の安定化効果が発揮できるからである。添加量は、上記の条件を満たすとともに、N−アルケニルカルボン酸3級アミド類に対し、通常、1ppm以上、1質量%以下の範囲であれば十分であり、好ましくは1ppm以上、5000ppm以下、より好ましくは3ppm以上、1000ppm以下、最も好ましくは3ppm以上、500ppm以下の範囲にある。
【0025】
前記組成物をさらに安定にするためには、pHを好ましくは8〜11、より好ましくは8.5〜10.5の範囲に制御すればよい。
【0026】
本発明の組成物は、90℃の高温においても2ヶ月にわたり安定性を維持できる場合もあり、非常に安定性の高い組成物といえる。
【0027】
本発明の組成物を製造する手段としては、蒸留などの精製工程を通して得られた高純度のN−アルケニルカルボン酸3級アミド組成物に対して、または精製することなく得られたN−アルケニルカルボン酸3級アミド組成物に対して、特定のアミン類を添加すればよい。前記アミン化合物(A)と前記芳香族アミン(B)を添加する順序は、特に限定はなく、同時添加することも可能である。
【0028】
N−アルケニルカルボン酸3級アミド組成物の貯蔵には、密閉されたタンク、ドラム缶などを用いることができる。
【0029】
本発明に用いられるN−アルケニルカルボン酸3級アミド組成物の貯蔵容器の気相部の雰囲気は、特に限定はされないが、炭酸ガスなど、酸性ガスとの接触を断って取り扱うことが好ましく、具体的には窒素などの不活性ガスが好ましい。不活性ガスをあらかじめ容器に充填した後、N−アルケニルカルボン酸3級アミド組成物を投入してもよいし、あるいはN−アルケニルカルボン酸3級アミド組成物を投入した後、不活性ガスを充填してもよい。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。ただし、下記の実施例は本発明を説明するためのものであり、限定するものではない。
【0031】
安定性の確認のための促進試験方法、pH、及び色価(APHA)の測定方法を以下に示す。
【0032】
<試験方法>
100mLスクリュー管に組成物サンプル100gを入れて蓋をし、空気雰囲気下30℃の温度に設定したオーブン(三洋電機社製)に保管する。
【0033】
貯蔵の開始前及び3ヶ月経過後の物性値を下記の方法で測定する。
【0034】
<pHの測定方法>
50mLのスクリュー管にpH6から7に調整した純水45gを秤量し、次いで該サンプル5gを秤量して混合し、該組成物の10質量%水溶液を作製する。1分以内にpH計にセットし、25℃で1分間、200rpmで攪拌後、2分間静置して、その時のpH値を読み取る。
【0035】
pH計(堀場製作所製;F−12型、電極形式#6366−10D)
<色価(APHA)の測定方法>
色度試験用試薬(色度1000:和光純薬製)を純水で希釈し、各種の色度標準液を調製する。25mL比色管に組成物サンプル25mLを入れ、標準液と比較して同色度のAPHA番号を測定値とする。
【0036】
(実施例1〜12及び比較例1〜4)
NVPに各種のアミン類を添加し、貯蔵の開始時と3ヶ月経過後とにおいて、pHと色価(APHA)について測定し、下記表1に示す。
【0037】
ただし、実施例1〜14及び比較例1〜6で使用したNVPは、市販のNVP(安定剤:N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン10ppm含有)を蒸留などの精製処理を行い、安定剤を除去したものである。このような精製処理の例としては、特許3435598号公報参照。
【0038】
【表1】
【0039】
ただし、表中NN: N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン。
【0040】
実施例1〜12に示されるように、前記アミン化合物(A)および場合によっては芳香族アミン(B)を添加することによって、pHの値は貯蔵の開始前に比べて殆ど低下せず、さらに、色価(APHA)の変動幅も50以内に制御できており、これらの特定のアミン類が安定性に非常に寄与していることがわかった。
【0041】
これに対し、比較例1〜3では、前記アミン化合物(A)を添加しないことからpHの低下が大きく、また、色価(APHA)の変動幅も大きくなっており、安定性が不十分であるといえる。
【0042】
さらに、比較例4においては、フェニレンジアミン骨格を有するアミンを過剰に添加しているため、pH、特に色価(APHA)の変動幅が大きく、これも安定性が不十分であった。
【0043】
以上の促進試験の結果から、通常の貯蔵方法においても、本発明が優れていることが推測される。
【0044】
(実施例13および比較例5)
NVPを、表2に示される内容で、200kg入りケミドラム(ポリエチレン内袋)に投入した。
【0045】
貯蔵の開始時と3ヶ月経過後とにおいて、pHと色価(APHA)について測定し、表2に示す。なお、貯蔵条件は、室温(20〜25℃)であった。
【0046】
(実施例14および比較例6)
NVPを、表2に示される内容で、18L入りハイブリッド缶に投入した。その後、窒素ガスを充填し、容器を密閉した。
【0047】
貯蔵の開始時と3ヶ月経過後とにおいて、pHと色価(APHA)について測定し、表2に示す。
【0048】
なお、貯蔵条件は、室温(20〜25℃)であった。
【0049】
【表2】
【0050】
表2に示されるように、実際の貯蔵条件において実施した場合においても、本発明による組成物が優れていることが確認された。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
N−アルケニルカルボン酸3級アミドと、フェニレンジアミン骨格を有しないアミン化合物(A)を含有することを特徴とするN−アルケニルカルボン酸3級アミド組成物。
【請求項2】
前記アミン化合物(A)は、20℃における蒸気圧が3×10−6hPa以上のアミンである請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記アミン化合物(A)は、脂肪族アミン類、アルカノールアミン類、及びヒドロキシアミン類よりなる群から選ばれた少なくとも1種である請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
前記フェニレンジアミン骨格を有しないアミン化合物(A)の含有量は、前記N−アルケニルカルボン酸3級アミドの質量に対し、1ppm以上、3質量%以下の範囲にある請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
さらに芳香族アミン(B)を含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
さらに溶媒を加えてなる請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記溶媒の添加量は、得られる組成物の総量に対し、20質量%までである請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物を、空気雰囲気下30℃の温度で3ヶ月間、促進試験を行った後の所定のpH測定法によるpHが、8〜12の範囲にある請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物を、空気雰囲気下30℃の温度で3ヶ月間、促進試験を行った後の色価(APHA)変動値が、貯蔵開始前の値に比べて50以内である請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記N−アルケニルカルボン酸3級アミドは、N−ビニル−ピロリドンである請求項1〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項1】
N−アルケニルカルボン酸3級アミドと、フェニレンジアミン骨格を有しないアミン化合物(A)を含有することを特徴とするN−アルケニルカルボン酸3級アミド組成物。
【請求項2】
前記アミン化合物(A)は、20℃における蒸気圧が3×10−6hPa以上のアミンである請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記アミン化合物(A)は、脂肪族アミン類、アルカノールアミン類、及びヒドロキシアミン類よりなる群から選ばれた少なくとも1種である請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
前記フェニレンジアミン骨格を有しないアミン化合物(A)の含有量は、前記N−アルケニルカルボン酸3級アミドの質量に対し、1ppm以上、3質量%以下の範囲にある請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
さらに芳香族アミン(B)を含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
さらに溶媒を加えてなる請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記溶媒の添加量は、得られる組成物の総量に対し、20質量%までである請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物を、空気雰囲気下30℃の温度で3ヶ月間、促進試験を行った後の所定のpH測定法によるpHが、8〜12の範囲にある請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物を、空気雰囲気下30℃の温度で3ヶ月間、促進試験を行った後の色価(APHA)変動値が、貯蔵開始前の値に比べて50以内である請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記N−アルケニルカルボン酸3級アミドは、N−ビニル−ピロリドンである請求項1〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【公開番号】特開2006−328061(P2006−328061A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−124309(P2006−124309)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】
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