説明

N−オキシル化合物の製法

【課題】高純度のN−オキシル化合物を高収率で製造することのできるN−オキシル化合物の製法の提供を目的とする。
【解決手段】二級アミンと過酸化水素とを反応させてN−オキシル化合物を製造する方法であって、上記二級アミンを含む成分(A)と、上記過酸化水素を含む成分(B)とを、溶液供給装置1a,1bと、混合装置2と、微小径反応流路(反応管)3とを備えた連続式マイクロ反応装置に投入して上記微小径反応流路(反応管)3内にて反応させることによりN−オキシル化合物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高収率にてN−オキシル化合物を製造することが可能となるN−オキシル化合物の製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル等のN−オキシル化合物は、例えば、不飽和化合物のラジカル重合禁止剤、有機高分子化合物の光安定剤、耐光剤、レドックス触媒等に多用されている。
【0003】
一般的に、上記N−オキシル化合物は、二級アミンを過酸化水素で酸化することにより得られることは知られている。しかしながら、上記過酸化水素は容易に分解して水と酸素を生成することから、いかに上記酸化反応に供することができるようにするかが重要である。
【0004】
このようなことから、二級アミンと過酸化水素との反応において二価の金属塩を触媒として使用することが提案されている(特許文献1参照)。また、二級アミンと過酸化水素との反応において、タングステン化合物を触媒として使用することが提案されている(特許文献2参照)。このように、上記触媒を用いることによって過酸化水素が効率的に酸化反応に寄与されるのである。
【0005】
さらに、二級アミンと過酸化水素との反応において、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルを触媒として使用することが提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−100538号公報
【特許文献2】特開2004−149513号公報
【特許文献3】特開2003−55347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1および特許文献2の製法では、反応時に用いた上記金属系触媒を除くための精製工程が必要となることから、製造工程が煩雑となってしまい、決して簡便な製法であるとはいい難い。
【0008】
また、特許文献3の製法では、反応生成物を精製する際に、触媒として使用した4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルを、目的とするN−オキシル化合物と分離することが困難であるため、不純物として残存しやすく、高純度のものを得ることが困難であった。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、高純度のN−オキシル化合物を高収率で製造することのできるN−オキシル化合物の製法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明のN−オキシル化合物の製法は、二級アミンと過酸化水素とを反応させてN−オキシル化合物を製造する方法であって、上記二級アミンを含む成分(A)と、上記過酸化水素を含む成分(B)とを、微小径反応流路を備えた連続式マイクロ反応装置に投入して上記微小径反応流路内にて反応させるという構成をとる。
【0011】
すなわち、本発明者らは、N−オキシル化合物の製造に際して、高純度のものをより収率良く製造できる手段はないか鋭意検討を重ねた。そして、製造工程,使用する装置等に関してさらに研究を重ねた結果、二級アミンと過酸化水素との反応に際して、微小径反応流路を備えた連続式マイクロ反応装置を用い、これに反応原料である二級アミンと過酸化水素を投入し、上記微小径反応流路内にて二級アミンと過酸化水素を反応させると、反応効率良く高純度のN−オキシル化合物が得られることを見出し、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0012】
このように、本発明のN−オキシル化合物の製法は、二級アミンと過酸化水素とを反応させてN−オキシル化合物を製造するに際して、微小径反応流路を備えた連続式マイクロ反応装置を用い、これに反応原料である二級アミンを含む成分(A)と過酸化水素を含む成分(B)を投入し、上記微小径反応流路内にて二級アミンと過酸化水素を反応させることによりN−オキシル化合物を製造する方法である。このため、高純度のN−オキシル化合物を高収率で得ることが可能となる。しかも、反応を微小径反応流路にて行なうことから、反応の際に生じる発熱を容易に除去することができる。
【0013】
そして、上記二級アミンと過酸化水素との反応を、非反応系触媒にて行なうと、反応系触媒を用いないことから、反応生成物の精製工程を省略もしくは簡略化することができ、煩雑な工程を経由することなく高純度のN−オキシル化合物を製造することができる。
【0014】
また、上記二級アミンと過酸化水素との反応を、非有機溶媒系にて行なうと、環境への影響の低減および低コスト化が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のN−オキシル化合物の製法にて用いられる連続式マイクロ反応装置の構成を示すチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
つぎに、本発明の実施の形態について詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。
【0017】
本発明のN−オキシル化合物の製法は、二級アミンと過酸化水素とを反応させてN−オキシル化合物を製造する方法であり、微小径反応流路を備えた連続式マイクロ反応装置を用いることを最大の特徴とする。そして、上記二級アミンと過酸化水素との反応では、上記二級アミンを含有する成分(A)と、過酸化水素を含む成分(B)を上記連続式マイクロ反応装置に投入し、上記微小径反応流路内にて二級アミンと過酸化水素との反応を行なうというものである。
【0018】
《反応材料》
<二級アミンを含む成分(A)>
上記二級アミンは、2つの三級炭素原子が結合した二級アミノ基を有する化合物である。このような化合物としては、例えば、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン(TEMP)、4−アセトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−プロピオニルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ベンジルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、2,2,5,5−テトラメチルピロリジン、ジ−tert−ブチルアミン、2−アザアダマンタン、1−メチル−2−アザアダマンタン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。中でも、入手し易さ等の観点から、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン(TEMP)が好ましく用いられる。
【0019】
本発明において、二級アミンを含む成分(A)は、上記二級アミンを含むものであり、例えば、上記二級アミンが溶解可能な溶媒を配合することができる。このような溶媒としては、水、さらには、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール類、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒等の有機溶媒があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。このような溶媒を用いることにより、供給する成分(A)自体の粘度を低下させることができる。ただし、環境に対する影響および経済性の観点から、有機溶媒を使用しないことが好ましい。このようなことから、二級アミンを含む成分(A)としては、二級アミンのみから構成されることが好ましい。
【0020】
なお、上記二級アミンと上記溶媒とを混合して二級アミン溶液を調整する際の二級アミン溶液の二級アミン濃度としては、例えば、10〜100重量%に設定することが好ましく、特に好ましくは50〜100重量%である。
【0021】
<過酸化水素を含む成分(B)>
上記過酸化水素は、反応に供する際には、取り扱い性、後の精製工程等を考慮して溶液、好適には水溶液として用いられる。したがって、本発明において、過酸化水素を含む成分(B)の好ましい態様としては、所定濃度の過酸化水素水溶液があげられる。この過酸化水素水溶液の濃度は、適宜設定されるが、例えば、1〜60重量%の濃度範囲に設定することが好ましく、より好ましくは5〜50重量%、特に好ましくは20〜35重量%である。
【0022】
つぎに、反応材料の使用割合についで述べる。上記過酸化水素の使用量は、上記二級アミン1モルに対して過酸化水素1.5〜5.0モルであることが好ましく、特に好ましくは1.5〜3.0モルである。すなわち、過酸化水素の使用量が少なすぎると、反応率が低下するという傾向がみられ、逆に過酸化水素の使用量が多すぎると、過剰供給により反応に供しない過酸化水素が残存してしまいコストの面で好ましくない傾向がみられるからである。
【0023】
《連続式マイクロ反応装置》
本発明のN−オキシル化合物の製法は、先に述べたように、上記二級アミンと過酸化水素との反応を、微小径反応流路(反応管)を備えた連続式マイクロ反応装置を用いて行なうことを特徴とする。
【0024】
上記連続式マイクロ反応装置は、例えば、図1に示すように、二種類の反応原料〔二級アミンを含む成分(A)、過酸化水素を含む成分(B)〕を供給する各溶液供給装置1a,1bと、上記各溶液供給装置1a,1bから供給された反応原料を混合する混合装置2と、上記混合装置2にて混合した反応原料を反応させるための微小径反応流路(反応管)3とを備えた構成からなる。
【0025】
上記各溶液供給装置1a,1bは、反応原料である二級アミンを含む成分(A)および上記過酸化水素を含む成分(B)をそれぞれ一定流量で供給可能とする装置であり、例えば、シリンジポンプ、プランジャポンプ、ギアポンプ、チューブポンプ等の定量式ポンプを用いることができる。これらのうち、流量の精度や耐久性に優れることからシリンジポンプまたはプランジャポンプを用いることが好ましい。
【0026】
上記溶液供給装置1a,1bでは、反応原料である二級アミンを含む成分(A)と、上記過酸化水素を含む成分(B)をそれぞれ一定流量で供給するが、互いの流量比は、各成分の粘度等により適宜に設定され、先に述べたように二級アミンと過酸化水素とのモル比となるようであればよい。具体的には、経済性,反応性等の点から、反応原料である二級アミンを含む成分(A)の流量と、上記過酸化水素を含む成分(B)の流量の比が、体積基準(体積比)で、〔成分(A)の流量〕/〔成分(B)の流量〕=0.2/1〜10/1であることが好ましく、より好ましくは0.5/1〜3/1である。
【0027】
上記混合装置2は、上記溶液供給装置1a,1bから供給された反応原料〔液状:成分(A),成分(B)〕を混合するものであり、上記反応原料の2液が合流可能な混合形式を備えるものであればよく、例えば、T字コネクタ、Y字コネクタ、グラジエントミキサー等の微量流体用静止型混合器、マイクロチップ等があげられる。中でも、価格が安価であり、装置設計が容易であるT字コネクタが好ましい。
【0028】
上記微小径反応流路(反応管)3は、上記混合装置2にて混合された反応原料からなる混合液を滞留させ内部で反応させるものであり、例えば、SUS(ステンレス鋼)や鉄、チタンやハステロイ(登録商標)(ニッケルやモリブデン、クロム等からなる耐食合金)等の金属製反応管、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、ポリエーテルエーテルケトンやガラス、セラミックス等の非金属製反応管があげられる。これらのうち、過酸化水素の分解反応を促進しないという点から非金属製反応管を用いることが好ましく、さらにはフッ素樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、ガラスからなる反応管がより好ましい。上記反応管3の断面形状は、円形の他、楕円形や四角形等各種形状があげられる。また、上記反応管3は、途中で2以上の経路に分岐していてもよく、2以上の経路が合流していてもよい。
【0029】
そして、上記反応管3は、内径が0.1〜10mmであることが好ましい。前記内径は、管内の最も長い部分であり、円形の場合は直径、楕円の場合は長径、四角形の場合は対角線がこれに該当する。
【0030】
さらに、上記反応管3の長さに関しては、二級アミンと過酸化水素との反応を充分に促進させ完結させることが可能な長さであればよく、反応管3の内径等にもよるが、具体的には、上記反応管3の長さは0.1〜20mであることが好ましく、より好ましくは1〜10mである。
【0031】
また、上記反応管3としては、例えば、螺旋状に数巻〜数十巻程度巻回した状態にて使用する態様等の使用方法があげられる。
【0032】
そして、上記反応管3の反応領域から反応生成物取り出し口までの間に、反応により上記反応管3内部で一定圧力を超えた場合に、圧力を外部に逃がすための圧力調整装置(例えば、背圧弁等)を設けることが好ましい。
【0033】
上記溶液供給装置1a,1bと、上記溶液供給装置1a,1bから供給された反応原料を混合する混合装置2、および、上記混合装置2と微小径反応流路(反応管)3は、例えば、それぞれ微小径反応流路(反応管)3と同じもので接続される態様が好ましい。
【0034】
《反応条件》
上記反応管3での反応温度は、40〜120℃に設定することが好ましく、より好ましくは60〜100℃、特に好ましくは80〜95℃である。すなわち、反応温度が低すぎると、酸化反応の時間が長くなることから、過酸化水素の自己分解の割合が多くなり、多くの過酸化水素が必要となる傾向がある。また、反応温度が高すぎると、過酸化水素の分解速度が大きくなり、目的の反応(酸化反応)が進みにくくなる傾向がみられるからである。
【0035】
このような反応温度に設定するには、例えば、反応管3を所望の温度に設定したウォーターバスやオイルバス等の媒体槽に浸漬する態様、反応管3全体に加熱ヒーター等を設置する態様、反応管3を所望の温度に設定した加熱炉内に設置する態様等があげられる。
【0036】
上記連続式マイクロ反応装置内の圧力は、0.1〜2MPaであることが好ましく、より好ましくは0.2〜1MPa、特に好ましくは0.2〜0.5MPaである。すなわち、圧力が低すぎると、副反応である過酸化水素の分解によって生じる気体(酸素)により、充分な反応時間を確保できなくなる傾向が生じる。また、圧力が高すぎると、連続式マイクロ反応装置を構成する各装置を耐圧仕様としなければならず、経済的ではないからである。なお、上記連続式マイクロ反応装置内の圧力調整は、例えば、上述の背圧弁等の圧力調整装置(図示せず)を反応管3の末端に接続することにより行なうことができる。
【0037】
本発明における反応液の反応管3内での滞留時間は、10〜120分間であることが好ましく、より好ましくは30〜90分間である。すなわち、滞留時間が短すぎると、反応が完了していないおそれがあり、滞留時間が長すぎると、すでに反応が完了している場合が多く経済的ではないからである。なお、上記滞留時間とは、反応管3容量を、1分間における上記成分(A)および成分(B)の流量の和で除したものをいう。
【0038】
そして、本発明においては、上記二級アミンと過酸化水素との反応を連続式マイクロ反応装置の微小径反応流路(反応管)3内にて行なう際には、上記反応を非反応触媒系にて行なうことが好ましい。このように、非反応系触媒を用いず反応を行なうことにより、反応液からは溶媒を除去するのみで、高純度の反応生成物であるN−オキシル化合物を容易に得ることができ、生産性の向上が図られる。なお、上記非反応系触媒にて行なうとは、二級アミンと過酸化水素とを反応させる際に、上記反応を促進させるための触媒を一切使用しないことを意味する。
【0039】
また、本発明においては、上記二級アミンと過酸化水素との反応を連続式マイクロ反応装置の微小径反応流路(反応管)3内にて行なう際には、上記反応を非有機溶媒系にて行なうことが好ましい。具体的には、先に述べたように、前記二級アミンを含む成分(A)として、二級アミンのみから構成されてなるものを用いることが好ましい。このように、非有機溶媒系、すなわち、実質的に有機溶媒を用いずに反応を行なうことが環境に対する影響および経済性の観点から好ましい。
【0040】
《精製工程》
上記二級アミンと過酸化水素との反応終了後、得られた反応液中には、不純物等が含まれる可能性があるため、上記不純物と、生成した反応生成物であるN−オキシル化合物とを分離してN−オキシル化合物を精製することが好ましい。上記精製方法としては、例えば、減圧留去、ろ過等の方法が用いられる。
【0041】
例えば、反応系に水および水との二層形成可能な有機溶媒からなる混合溶媒を用いた場合には、反応終了液を静置して水と有機溶媒の二層に分離させた後、反応生成物であるN−オキシル化合物を含む上層を採取し、ついで水および有機溶媒を減圧留去することにより、N−オキシル化合物を精製することができる。
【0042】
本発明の製法における、N−オキシル化合物の収率(精製工程後の不純物を含むN−オキシル化合物の生成重量/原料である二級アミンが100%反応した場合の理論上のN−オキシル化合物の生成重量)は、通常、90〜100%である。
【0043】
本発明の製法により得られたN−オキシル化合物は、例えば、不飽和化合物のラジカル重合禁止剤、有機高分子化合物の光安定剤、耐光剤、レドックス触媒等の用途に用いることができる。
【実施例】
【0044】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、例中、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0045】
<連続式マイクロ反応装置>
連続式マイクロ反応装置として下記の構成からなる装置を用いた。
溶液供給装置:シリンジポンプ(商品名:Model11−Plus、ハーバード社製)
混合装置:T字型コネクタ(商品名:T字型ユニオン(ジーエルサイエンス社製)、材質:ポリエーテルエーテルケトン)
微小径反応流路(反応管):円筒形ポリテトラフルオロエチレン製チューブ(内径1mm×長さ10m)
圧力調整装置:背圧弁(商品名:バックプレッシャーレギュレーター(ジーエルサイエンス社製)、材質:ポリエーテルエーテルケトン、動作圧:0.28MPa)
【0046】
<反応原料>
二級アミン:2,2,6,6−テトラメチルピペリジン(TEMP)
過酸化水素:35重量%過酸化水素水溶液
【0047】
<装置の構成>
二つの上記シリンジポンプにそれぞれ上記円筒形ポリテトラフルオロエチレン製チューブ(外周を各々アルミニウム箔にて被覆してなる)を接続し、各チューブ他端をT字型コネクタに接続する。このT字型コネクタの出口には、混合してなる反応原料を流通させる円筒形ポリテトラフルオロエチレン製チューブを接続し、さらに上記チューブを直径15cm程度で30回巻回して、この巻回部分を所定温度に設定したウォーターバスに浸漬する。ついで、ウォーターバスから延びた上記チューブを、途中、圧力調整装置(背圧弁)を介して反応液取り出し口に接続する。
【0048】
〔実施例1〕(水−有機溶媒系での反応)
成分(A)として、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン(TEMP)20g(0.14mol)と2−プロパノール20gとの混合液を、また成分(B)として、35重量%過酸化水素水溶液22.6g(0.23mol)を準備し、それぞれの溶液供給装置(シリンジポンプ)に設置した。ついで、流量比が成分(A)/成分(B)=2.0/1(体積比)で滞留時間(反応時間)が30分間となる流量で混合装置(T字型コネクタ)にて混合した後、90℃のウォーターバスに浸漬した反応管内にて反応させた。得られた反応溶液の有機相中の2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(TEMPO)転化率(仕込んだ2,2,6,6−テトラメチルピペリジンの2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルへの変換率)は98.2%、副生成物0.14%、水相中の過酸化水素濃度は10.2%であった。
【0049】
〔実施例2〕(非有機溶媒系での反応)
成分(A)として、TEMP20g(0.14mol)、成分(B)として35重量%過酸化水素水溶液22.6g(0.23mol)を準備し、それぞれの溶液供給装置(シリンジポンプ)に設置した。ついで、流量比が成分(A)/成分(B)=0.9/1(体積比)で滞留時間(反応時間)が90分間となる流量で混合装置(T字型コネクタ)にて混合した後、90℃のウォーターバスに浸漬した反応管内にて反応させた。得られた反応溶液のTEMPO転化率は93.3%、水相中の過酸化水素濃度は4.2%であり、副生成物は検出されなかった。
【0050】
〔実施例3〕(非有機溶媒系での反応)
流量比を成分(A)/成分(B)=0.9/1(体積比)に、また滞留時間を10分間に変えた。それ以外は実施例2と同様にして反応原料を90℃のウォーターバスに浸漬した反応管内にて反応させた。得られた反応溶液のTEMPO転化率(仕込んだTEMPのTEMPOへの変換率)は90.3%、水相中の過酸化水素濃度は8.4%であり、副生成物は検出されなかった。
【0051】
〔実施例4〕(非有機溶媒系での反応)
流量比を成分(A)/成分(B)=0.9/1(体積比)に、また滞留時間を120分間に変えた。それ以外は実施例2と同様にして反応原料を90℃のウォーターバスに浸漬した反応管内にて反応させた。得られた反応溶液のTEMPO転化率(仕込んだTEMPのTEMPOへの変換率)は97.2%、水相中の過酸化水素濃度は1.6%であり、副生成物は検出されなかった。
【0052】
上記各実施例における、転化率(反応率)、収率、副生成率、残存過酸化水素濃度の算出方法および測定方法を下記に示す。さらに、各実施例における、反応条件〔反応温度,反応時間,成分(A)/成分(B)の流量比(体積比)〕、反応結果(転化率、収率、副生成率、残存過酸化水素濃度)を後記の表1に併せて示す。
【0053】
上記転化率は、仕込んだ2,2,6,6−テトラメチルピペリジンの2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルへの変換率である。
【0054】
上記収率は、〔(精製後に得られた不純物を含む2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルの重量)/(仕込んだ2,2,6,6−テトラメチルピペリジンが100%反応した場合の理論生成2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル重量)×100〕にて算出される。
【0055】
〔反応溶液の測定方法〕
(測定条件)
反応溶液の測定は、ガスクロマトグラフ(商品名:7890A、Agilent Technology社製)を用いて下記の条件で行った。
カラム:DB−1(J&W Scientific社製)
検出器:FID(温度:250℃)
カラム温度:初期温度50℃。開始5分後に毎分15℃で250℃まで昇温し、さらに250℃で5分間保持。
注入口温度:115℃
【0056】
(検量線作成)
TEMPO(純度98%、ALDRICH社製)の2体積%エチレングリコールモノイソプロピルエーテル水溶液を用いて検量線を作成した。
【0057】
(測定)
反応後の溶液を静置して分層した後、上層(有機層)約500μlを採取した。これを精秤し、2体積%エチレングリコールモノイソプロピルエーテル水溶液1mlを加えた後、メタノール10mlで希釈した溶液を、上記方法にて測定した。
【0058】
(転化率)
検量線から反応液のTEMPO濃度を算出し、下記計算式よりTEMPO転化率を算出した。
(TEMPO転化率)=(TEMPO濃度)/(理論TEMPO濃度)×100
【0059】
(副生成率)
上記ガスクロマトグラフの測定結果から、下記計算式より副生成率を算出した。
(副生成率)=(溶媒、TEMP、TEMPO以外のピーク面積の和)/(TEMPOのピーク面積)×100
【0060】
(残存過酸化水素濃度)
反応溶液に残存する過酸化水素濃度は、過マンガン酸カリウムによる電位差滴定(JIS K1463:2007)により測定した。
【0061】
【表1】

【0062】
上記結果から、実施例での製法では、転化率(反応率)が高く高収率で、副生成率および残存過酸化水素濃度がともに低いことから純度の高いN−オキシル化合物が得られたことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の製法により得られたN−オキシル化合物は、例えば、不飽和化合物のラジカル重合禁止剤、有機高分子化合物の光安定剤、耐光剤、レドックス触媒等に用いることができる。
【符号の説明】
【0064】
1a,1b 溶液供給装置
2 混合装置
3 微小径反応流路(反応管)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二級アミンと過酸化水素とを反応させてN−オキシル化合物を製造する方法であって、上記二級アミンを含む成分(A)と、上記過酸化水素を含む成分(B)とを、微小径反応流路を備えた連続式マイクロ反応装置に投入して上記微小径反応流路内にて反応させることを特徴とするN−オキシル化合物の製法。
【請求項2】
上記二級アミンと過酸化水素との反応が、非反応触媒系にて行なわれる請求項1記載のN−オキシル化合物の製法。
【請求項3】
上記二級アミンと過酸化水素との反応が、非有機溶媒系にて行なわれる請求項1または2記載のN−オキシル化合物の製法。
【請求項4】
上記過酸化水素の使用量が、二級アミン1モルに対して1.5〜5.0モルである請求項1〜3のいずれか一項に記載のN−オキシル化合物の製法。

【図1】
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