説明

N−オキシル化合物の製法

【課題】高純度のN−オキシル化合物を高収率で製造することのできるN−オキシル化合物の製法の提供を目的とする。
【解決手段】二級アミンと過酸化水素とを反応させてN−オキシル化合物を製造するに際して、上記反応を非反応触媒系にて行なうことによりN−オキシル化合物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高収率にてN−オキシル化合物を製造することが可能となるN−オキシル化合物の製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル等のN−オキシル化合物は、例えば、不飽和化合物のラジカル重合禁止剤、有機高分子化合物の光安定剤、耐光剤、レドックス触媒等に多用されている。
【0003】
一般的に、上記N−オキシル化合物は、二級アミンを過酸化水素で酸化することにより得られることは知られている。しかしながら、上記過酸化水素は容易に分解して水と酸素を生成することから、いかに上記酸化反応に供することができるようにするかが重要である。
【0004】
このようなことから、二級アミンと過酸化水素との反応において二価の金属塩を触媒として使用することが提案されている(特許文献1参照)。また、二級アミンと過酸化水素との反応において、タングステン化合物を触媒として使用することが提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
さらに、二級アミンと過酸化水素との反応において、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルを触媒として使用することが提案されている(特許文献3参照)。このように、上記触媒を用いることによって過酸化水素が効率的に酸化反応に寄与されるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−100538号公報
【特許文献2】特開2004−149513号公報
【特許文献3】特開2003−55347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1および特許文献2の製法では、反応時に用いた上記金属系触媒を除くための精製工程が必要となることから、製造工程が煩雑となってしまい、決して簡便な製法であるとはいい難い。
【0008】
また、特許文献3の製法では、反応生成物を精製する際に、触媒として使用した4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルを、製造目的であるN−オキシル化合物と分離することが困難であるため、不純物として残存しやすく、高純度のものを得ることが困難であった。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、高純度のN−オキシル化合物を高収率で製造することのできるN−オキシル化合物の製法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明のN−オキシル化合物の製法は、二級アミンと過酸化水素とを反応させてN−オキシル化合物を製造する方法であって、上記反応を非反応触媒系にて行なうという構成をとる。
【0011】
すなわち、本発明者らは、N−オキシル化合物の製造に際して、高純度のものをより収率良く製造できる方法はないか研究を重ねた。そして、触媒を用いて反応を行なうという従来の技術常識にとらわれず、新たな視点から検討を重ね結果、二級アミンと過酸化水素との反応に際して、反応触媒を用いずに両者を反応させることを想起した。この思想に基づき反応触媒を用いないという非反応触媒系にて二級アミンと過酸化水素との反応を行なうと、高純度のN−オキシル化合物が得られることはもちろん、触媒を用いないことから、反応生成物から触媒を除去するという工程を経由する必要もなく、高収率でN−オキシル化合物が得られることを見出し、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0012】
このように、本発明のN−オキシル化合物の製法は、二級アミンと過酸化水素とを反応させてN−オキシル化合物を製造するに際して、上記反応を非反応触媒系にて行なうものである。このため、反応生成物に触媒である不純物が混入することもなく高純度のN−オキシル化合物を高収率で得ることが可能となる。しかも、触媒を使用しないことから、触媒を除去するための精製工程を経由する必要もなく、製造工程の簡略化が図られる。
【0013】
そして、上記反応を、上記二級アミンを含む溶液に、上記過酸化水素を含む溶液を複数回に分けて添加することにより行なうと、より一層反応性が向上して高収率でN−オキシル化合物を製造することができる。
【0014】
また、上記反応を、70〜100℃の温度雰囲気下にて行なうと、反応性の制御が容易となり、反応性の向上により高収率でN−オキシル化合物を製造することができる。
【0015】
さらに、上記反応を、水および水との二層形成可能な有機溶媒からなる混合溶媒中にて行なうと、反応後の反応生成物含有溶液から、水層の除去が容易となり、後の精製工程を容易にすることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
つぎに、本発明の実施の形態について詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限られるものではない。
【0017】
本発明のN−オキシル化合物の製法は、二級アミンと過酸化水素とを反応させてN−オキシル化合物を製造する方法であり、上記反応を非反応触媒系にて行なうことを最大の特徴とする。なお、本発明において、二級アミンと過酸化水素との反応を非反応触媒系にて行なうとは、二級アミンと過酸化水素とを反応させる際に、上記反応を促進させるための触媒を一切使用しないことを意味する。
【0018】
<反応材料>
上記二級アミンは、2つの三級炭素原子が結合した二級アミノ基を有する化合物である。このような化合物としては、例えば、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン(TEMP)、4−アセトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−プロピオニルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ベンジルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、2,2,5,5−テトラメチルピロリジン、ジ−tert−ブチルアミン、2−アザアダマンタン、1−メチル−2−アザアダマンタン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。中でも、入手し易さ等の観点から、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン(TEMP)が好ましく用いられる。
【0019】
上記過酸化水素は、反応に供する際には、取り扱い性、後の精製工程等を考慮して溶液、好適には水溶液として用いられる。この過酸化水素水溶液の濃度としては、適宜設定されるが、例えば、5〜100重量%の濃度範囲に設定することが好ましく、より好ましくは10〜80重量%、特に好ましくは20〜80重量%である。
【0020】
上記過酸化水素の使用量は、上記二級アミン1モルに対して過酸化水素1.5〜10.0モルに設定することが好ましく、特に好ましくは3.0〜6.0モルに設定することである。すなわち、過酸化水素の使用量が少なすぎると、反応率が低下する傾向がみられ、逆に過酸化水素の使用量が多すぎると、過剰供給により反応に供しない過酸化水素が残存してしまいコストの面で好ましくない傾向がみられるからである。
【0021】
<反応工程>
本発明のN−オキシル化合物の製法は、前述のとおり、二級アミンと過酸化水素とを反応させてN−オキシル化合物を製造する方法であり、上記反応を非反応触媒系にて行なうことを特徴とするが、その反応工程としては、具体的には、(1)二級アミンを含む溶液に、過酸化水素を含む溶液を複数回に分けて添加することにより行なう方法、(2)二級アミンを含む溶液に、過酸化水素を含む溶液を一度に大量に添加する方法があげられる。中でも、工業的生産性が良好であるという点から、上記(1)の方法が好ましい。
【0022】
上記(1)二級アミンを含む溶液に、過酸化水素を含む溶液を複数回に分けて添加することにより行なう方法は、例えば、つぎのようにして行なわれる。すなわち、二級アミンを有機溶媒に溶解して均一溶液を調製し、これに過酸化水素水溶液を複数回に分けて添加して、二級アミンと過酸化水素を反応させて、N−オキシル化合物を作製するというものである。
【0023】
上記二級アミンを含む溶液に、過酸化水素を含む溶液を複数回に分けて添加する際の回数としては、例えば、2〜50回に設定することが好ましく、特に好ましくは3〜10回である。また、上記過酸化水素を含む溶液を複数回に分けて添加する際の添加の間隔(時間)としては、例えば、5〜300分間に設定することが好ましく、特に好ましくは10〜120分間である。
【0024】
上記過酸化水素を含む溶液を複数回に分けて添加して二級アミンと過酸化水素とを反応させるための反応時間の合計は、例えば、1〜20時間に設定することが好ましく、特に好ましくは2〜10時間である。
【0025】
なお、上記過酸化水素を含む溶液を複数回に分けて添加するという工程には、間隔を空けて複数回に分けて添加するという態様以外に、例えば、二級アミンを有機溶媒に溶解して均一溶液を調製し、これに過酸化水素水溶液を継続的に滴下して添加し、二級アミンと過酸化水素を反応させるという態様も含む。
【0026】
一方、上記(2)二級アミンを含む溶液に、過酸化水素を含む溶液を一度に大量に添加する方法としては、過酸化水素を含む溶液の添加量を二級アミン1モルに対して6モル以下に設定することが好ましい。なお、この方法における添加量の下限は、通常2モルである。このような添加量に設定することにより、急激な反応熱による過度の温度上昇を防止することが可能となる。
【0027】
このような二級アミンと過酸化水素との反応工程では、その反応温度を70〜100℃に設定することが好ましく、特に好ましくは75〜90℃である。すなわち、反応温度が低すぎると、酸化反応に要する時間が長くなることから、過酸化水素の自己分解の割合が多くなり、多くの酸化剤が必要となる傾向がみられる。また、反応温度が高すぎると、特に規模の大きい回分反応工程の場合、発熱反応による反応温度の制御が困難となる傾向がみられるからである。
【0028】
上記反応工程は、水および水との二層形成可能な有機溶媒からなる混合溶媒中にて行なうことが好ましい。すなわち、上記二層形成可能な有機溶媒を用いることにより、反応生成物含有溶液から溶媒の除去が容易となり、例えば、分離した水層を除去した後、有機溶媒を減圧除去するというように、後の精製工程を容易にすることが可能となる。
【0029】
上記水との二層形成可能な有機溶媒としては、反応温度より高い沸点を有する有機溶媒であればよく、例えば、2−プロパノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、2−ペンタノール、2−ヘキサノール、シクロヘキサノール等の炭素数3〜6の2級または3級アルコール、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒等があげられる。これらのうち、炭素数3〜6のアルコールを用いることがより好ましく、具体的には、2−プロパノール等が好ましく用いられる。
【0030】
上記混合溶媒の使用態様としては、具体的には、水および水との二層形成可能な有機溶媒からなる混合溶媒をそのまま用いるのではなく、二級アミンと上記有機溶媒とを混合して二級アミン溶液を調整するとともに、過酸化水素の水溶液を調整して両者を反応工程に供して反応系を上記水および水との二層形成可能な有機溶媒からなる混合溶媒とする態様が好ましい。
【0031】
上記二級アミンと上記有機溶媒とを混合して二級アミン溶液を調整する際の二級アミン溶液の二級アミン濃度としては、例えば、5〜80重量%に設定することが好ましく、特に好ましくは20〜60重量%である。
【0032】
したがって、例えば、反応工程が、上記(1)二級アミンを含む溶液に、過酸化水素を含む溶液を複数回に分けて添加することにより行なう方法である場合には、二級アミンと上記有機溶媒とを混合して所定濃度の二級アミン溶液を調整するとともに、所定の濃度の過酸化水素水溶液を調整した後、上記二級アミン溶液に過酸化水素水溶液を複数回に分けて添加する方法が行なわれる。
【0033】
<精製工程>
上記二級アミンと過酸化水素との反応終了後、得られた反応液中には、不純物等が含まれる可能性があるため、上記不純物と、反応生成物であるN−オキシル化合物とを分離してN−オキシル化合物を精製することが好ましい。上記精製方法としては、例えば、減圧留去、ろ過等の方法が用いられる。
【0034】
例えば、反応系に上記水および水との二層形成可能な有機溶媒からなる混合溶媒を用いた場合には、反応終了液を静置して水と有機溶媒の二層に分離させた後、反応生成物であるN−オキシル化合物を含む上層を採取し、ついで水および有機溶媒を減圧留去することにより、N−オキシル化合物を精製することができる。
【0035】
本発明の製法における、N−オキシル化合物の収率(精製工程後の不純物を含むN−オキシル化合物の生成重量/原料である二級アミンが100%反応した場合の理論上のN−オキシル化合物の生成重量)は、通常、90〜100%である。
【0036】
本発明の製法により得られたN−オキシル化合物は、例えば、不飽和化合物のラジカル重合禁止剤、有機高分子化合物の光安定剤、耐光剤、レドックス触媒等の用途に用いることができる。
【実施例】
【0037】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、例中、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0038】
〔実施例1〕(複数回に分けての添加)
500mlフラスコに、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン(TEMP)20g(0.142mol)と2−プロパノール34gを各々投入して混合することにより均一溶液とし、80℃に調整した。ついで、これに35重量%過酸化水素水溶液68g(0.70mol)を添加し、6時間反応させた。なお、上記過酸化水素の添加に際しては、6等分して1時間毎に添加した(計6回の添加)。上記TEMPと過酸化水素との反応率(仕込んだ2,2,6,6−テトラメチルピペリジンの2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルへの変換率)は99%以上であった。
【0039】
つぎに、反応溶液を冷却、静置することにより二層に分離させ、上層を採取し、水および2−プロパノールを減圧留去することにより、2,2,6,6−テトラメチルピペラジン−N−オキシル(TEMPO)20.1g(収率91%、純度99%以上)を得た。得られた2,2,6,6−テトラメチルピペラジン−N−オキシルからタングステン酸ナトリウムは検出されなかった。
【0040】
〔実施例2〕(複数回に分けての添加)
500mlフラスコに、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン(TEMP)20g(0.142mol)と2−プロパノール34gを各々投入して混合することにより均一溶液とし、80℃に調整した。ついで、これに35重量%過酸化水素水溶液45.3g(0.47mol)を添加し、4時間反応させた。なお、過酸化水素は4等分して1時間毎に添加した(計4回の添加)。上記TEMPと過酸化水素との反応率(仕込んだ2,2,6,6−テトラメチルピペリジンの2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルへの変換率)は99%以上であった。
【0041】
つぎに、反応溶液を冷却、静置することにより二層に分離させ、上層を採取し、水および2−プロパノールを減圧留去することにより、2,2,6,6−テトラメチルピペラジン−N−オキシル(TEMPO)20.3g(収率92%、純度99%以上)を得た。得られた2,2,6,6−テトラメチルピペラジン−N−オキシルからタングステン酸ナトリウムは検出されなかった。
【0042】
〔実施例3〕(一括にて添加)
35重量%過酸化水素水溶液68g(0.70mol)を1度に全て添加した以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、上記TEMPと過酸化水素との反応率(仕込んだ2,2,6,6−テトラメチルピペリジンの2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルへの変換率)は95%であった。
【0043】
つぎに、反応溶液を冷却、静置することにより二層に分離させ、上層を採取し、水および2−プロパノールを減圧留去することにより、2,2,6,6−テトラメチルピペラジン−N−オキシル(TEMPO)20.0g(収率90%、純度95%)を得た。得られた2,2,6,6−テトラメチルピペラジン−N−オキシルからタングステン酸ナトリウムは検出されなかった。
【0044】
〔実施例4〕(複数回に分けての添加)
2−プロパノール34gに代えて2−ブタノール24gを用いた。また、反応温度を90℃に変えた。それ以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、上記TEMPと過酸化水素との反応率(仕込んだ2,2,6,6−テトラメチルピペリジンの2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルへの変換率)は99%以上であった。
【0045】
つぎに、反応溶液を冷却、静置することにより二層に分離させ、上層を採取し、水および2−プロパノールを減圧留去することにより、2,2,6,6−テトラメチルピペラジン−N−オキシル(TEMPO)20.8g(収率94%、純度99%以上)を得た。得られた2,2,6,6−テトラメチルピペラジン−N−オキシルからタングステン酸ナトリウムは検出されなかった。
【0046】
〔実施例5〕(複数回に分けての添加)
2,2,6,6−テトラメチルピペリジン(TEMP)20g(0.142mol)を、2−アザアダマンタン19.5g(0.142mol)に代えた。それ以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、上記2−アザアダマンタンと過酸化水素との反応率(仕込んだ2−アザアダマンタンの2−アザアダマンタン−N−オキシルへの変換率)は99%以上であった。
【0047】
つぎに、反応溶液を冷却、静置することにより二層に分離させ、上層を採取し、水および2−プロパノールを減圧留去することにより、2−アザアダマンタン−N−オキシル19.9g(収率92%、純度99%以上)を得た。得られた2−アザアダマンタン−N−オキシルからタングステン酸ナトリウムは検出されなかった。
【0048】
〔実施例6〕(複数回に分けての添加)
35重量%過酸化水素水溶液の合計添加量を41.8g(0.43mol)に変えた。それ以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果、上記TEMPと過酸化水素との反応率(仕込んだ2,2,6,6−テトラメチルピペリジンの2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルへの変換率)は99%以上であった。
【0049】
つぎに、反応溶液を冷却、静置することにより二層に分離させ、上層を採取し、水および2−プロパノールを減圧留去することにより、2,2,6,6−テトラメチルピペラジン−N−オキシル(TEMPO)20.0g(収率90%、純度99%以上)を得た。得られた2,2,6,6−テトラメチルピペラジン−N−オキシルからタングステン酸ナトリウムは検出されなかった。
【0050】
〔実施例7〕(複数回に分けての添加)
35重量%過酸化水素水溶液の合計添加量を82.6g(0.85mol)に変えた。それ以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果、上記TEMPと過酸化水素との反応率(仕込んだ2,2,6,6−テトラメチルピペリジンの2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルへの変換率)は99%以上であった。
【0051】
つぎに、反応溶液を冷却、静置することにより二層に分離させ、上層を採取し、水および2−プロパノールを減圧留去することにより、2,2,6,6−テトラメチルピペラジン−N−オキシル(TEMPO)20.8g(収率94%、純度99%以上)を得た。得られた2,2,6,6−テトラメチルピペラジン−N−オキシルからタングステン酸ナトリウムは検出されなかった。
【0052】
〔比較例1〕
500mlフラスコに、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン(TEMP)20g(0.142mol)とメタノール34gを各々投入して混合することにより均一溶液とし、50℃に調整した。ついで、これに触媒としてタングステン酸ナトリウムを1.8g、35重量%過酸化水素水溶液68g(0.70mol)を添加し、6時間反応させた。なお、上記35重量%過酸化水素水溶液は一回で全て添加した。上記TEMPと過酸化水素との反応率(仕込んだ2,2,6,6−テトラメチルピペリジンの2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルへの変換率)は96.0%であった。
【0053】
つぎに、反応溶液を冷却後、水およびメタノールを減圧留去することにより、2,2,6,6−テトラメチルピペラジン−N−オキシル23.8g(収率108%、純度92%)を得た。得られた2,2,6,6−テトラメチルピペラジン−N−オキシル中からはタングステン酸ナトリウムが80000ppm検出された。
【0054】
さらに、以下に示す精製工程を実施した。まず、触媒であるタングステン酸ナトリウムを含む2,2,6,6−テトラメチルピペラジン−N−オキシル23.8gに水60gと2−プロパノール30gを加え、40℃にて混合した後、溶液を冷却、静置することにより二層に分離させ、下層を廃棄した。さらに、水を30g加え40℃で混合後、溶液を冷却、静置することにより二層に分離させ、下層を廃棄した。そして、上層を採取し、水および2−プロパノールを減圧留去することにより、2,2,6,6−テトラメチルピペラジン−N−オキシル(TEMPO)16.8g(収率76%、純度99%以上)を得た。得られた2,2,6,6−テトラメチルピペラジン−N−オキシル中からタングステン酸ナトリウムが25ppm検出された。
【0055】
上記各実施例および比較例における、反応率、収率、タングステン酸ナトリウムの検出方法および測定方法を下記に示す。さらに、各実施例および比較例にて用いる反応材料、反応条件、反応結果(反応率、収率、純度)を後記の表1に併せて示す。
【0056】
上記反応率は、仕込んだ2,2,6,6−テトラメチルピペリジンの2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルへの変換率、あるいは仕込んだ2−アザアダマンタンの2−アザアダマンタン−N−オキシルへの変換率である。
【0057】
上記収率は、〔(精製後に得られた不純物を含む2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルまたは2−アザアダマンタン−N−オキシルの重量)/(仕込んだ2,2,6,6−テトラメチルピペリジンまたは2−アザアダマンタンが100%反応した場合の理論生成2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル重量または2−アザアダマンタン−N−オキシル重量)×100〕にて算出される。
【0058】
上記タングステン酸ナトリウムの検出は、ICP発光分光分析によりタングステン濃度を分析し、検出された場合にタングステン酸Na量に換算した。
【0059】
〔反応溶液の測定方法〕
(測定条件)
反応溶液の測定は、ガスクロマトグラフ(商品名:7890A、Agilent Technology社製)を用いて下記の条件で行った。
カラム:DB−1(J&W Scientific社製)
検出器:FID(温度:250℃)
カラム温度:初期温度50℃。開始5分後に毎分15℃で250℃まで昇温し、さらに250℃で5分間保持。
注入口温度:115℃
【0060】
(検量線作成)
TEMPO(純度98%、ALDRICH社製)の2体積%エチレングリコールモノイソプロピルエーテル水溶液を用いて検量線を作成した。また、2−アザアダマンタン−N−オキシルの場合も、上記TEMPOと同様、2−アザアダマンタン−N−オキシル(純度98%、和光純薬社製)の2体積%エチレングリコールモノイソプロピルエーテル水溶液を用いて検量線を作成した。
【0061】
(測定)
反応後の溶液を静置して分層した後、上層(有機層)約500μlを採取した。これを精秤し、2体積%エチレングリコールモノイソプロピルエーテル水溶液1mlを加えた後、メタノール10mlで希釈した溶液を、上記方法にて測定した。
【0062】
(反応率)
検量線から反応液のTEMPO濃度を算出し、下記計算式よりTEMPO反応率を算出した。
(TEMPO反応率)=(TEMPO濃度)÷(理論TEMPO濃度)×100
【0063】
(純度)
下記計算式により算出した。
(純度)=〔100−タングステン酸濃度(%)〕×(TEMPOのピーク面積)÷(溶媒成分を除くピーク面積の和)×100
【0064】
【表1】

【0065】
上記結果から、実施例での製法では、反応率が高く、高収率で純度の高いN−オキシル化合物が得られた。もちろん、触媒を一切使用していないことから、タングステン酸ナトリウムは検出されなかった。なかでも2,2,6,6−テトラメチルピペリジン(TEMP)あるいは2−アザアダマンタンを含む2−プロパノール溶液に35重量%過酸化水素水溶液を複数回に分けて添加した実施例では、特に収率が高く純度の高いTEMPOあるいは2−アザアダマンタン−N−オキシルが得られた。
【0066】
これに対して、比較例での製法では、収率が低く、触媒であるタングステン酸ナトリウムを除去するために精製工程を経なければならなかった。しかも、精製工程を経由したにも関わらず、タングステン酸ナトリウムが検出され、高純度のものが得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の製法により得られたN−オキシル化合物は、例えば、不飽和化合物のラジカル重合禁止剤、有機高分子化合物の光安定剤、耐光剤、レドックス触媒等に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二級アミンと過酸化水素とを反応させてN−オキシル化合物を製造する方法であって、上記反応を非反応触媒系にて行なうことを特徴とするN−オキシル化合物の製法。
【請求項2】
上記二級アミンと過酸化水素との反応が、上記二級アミンを含む溶液に、上記過酸化水素を含む溶液を複数回に分けて添加することにより行なわれる請求項1記載のN−オキシル化合物の製法。
【請求項3】
上記二級アミンと過酸化水素との反応が、70〜100℃の温度雰囲気下にて行なわれる請求項1または2記載のN−オキシル化合物の製法。
【請求項4】
上記二級アミンと過酸化水素との反応が、水および水との二層形成可能な有機溶媒からなる混合溶媒中にて行なわれる請求項1〜3のいずれか一項に記載のN−オキシル化合物の製法。

【公開番号】特開2011−219382(P2011−219382A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87441(P2010−87441)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】