説明

N−オキシル化合物担持磁性粒子

【課題】アルコール類や多糖類の酸化にはN−オキシル基を有する有機化合物が使われるが、N−オキシル基を有する有機化合物は高価でありアルコール類や多糖類の酸化コストが高くなる。
【解決手段】磁力により容易に分離・回収できる粒子状磁性物質にN−オキシル基を有する有機化合物を結合させた磁性粒子およびその製造法、ならびに本発明の磁性粒子を用いて多糖類を酸化する工程を含むことを特徴とする多糖類誘導体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁力により容易に分離・回収できる磁性物質にN−オキシル基を有する有機化合物を結合させた磁性粒子およびその製造法、ならびに本発明の磁性粒子を用いて多糖類を酸化する工程を含むことを特徴とする多糖類誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生物学・医学的な分野において、磁性物質をポリマーにて被覆し、核酸・タンパク・糖等の分離精製担体や、薬物をポリマー鎖に固定化したドラッグデリバリー用薬物担体、あるいは酵素をポリマー鎖に固定化することによる触媒担体、抗体・抗原反応による病原菌の検出担体等に利用することが検討されている。また、近年情報通信の著しい進歩と共に、情報記録媒体が広く利用されてきているが、これら媒体中には情報を記憶する部分を有している。情報記録の手法としては、光学的な記録と並んで、磁気記録は有用な記録方法であり、磁性物質のポリマー被覆物は、印刷・転写・インクジェット等の手法により磁気記録層をパターン形成するのに広く利用されてきた。このように磁性物質は、生化学・医療用素材の分野や情報・通信・電子材料の分野において、その利用が広く検討されている。
【0003】
また近年、非特許文献1に示された実験を契機として、従来の重金属を用いた酸化剤に代えて、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン N−オキシル(2,2,6,6−tetramethylpiperidine N−oxyl、以下「TEMPO」ともいう)を、アルコール類の酸化触媒として広く利用するようになっている。TEMPOは、重金属に比べて、低環境負荷型の有機酸化触媒であるといわれており、低環境負荷型の次亜塩素酸ナトリウムやヨードベンゼンジアセテートなど、非特許文献2、非特許文献3に示されるように、様々なバルク酸化剤とTEMPOの組み合わせが試行されている。
【0004】
さらに、特許文献1、特許文献2に示すように、TEMPOはアルコール類だけでなくC6位にグルコース残基のヒドロキシ基をもつ多糖類も高効率で酸化できることが知られている。しかし、TEMPOは高価な触媒であり、また反応中はTEMPOが溶媒に溶解しているため、回収が困難であり、アルコール類や多糖類などの酸化にコストがかかるという問題が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−250565号公報
【特許文献2】特開2008−308802号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Golubev V.A. et al,Izv. Akad. Nauk SSSR, Ser. Khim. ,1965, p.1927
【非特許文献2】Lidia D.L., et al,J. Org. Chem., 2003, vol.68, p.4999
【非特許文献3】Miller R.A., et al,Org. Lett. 2003, vol.53, p.285
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的はアルコール類や多糖類の酸化コストを低下させるため、当該酸化反応において良好な反応性を有し、かつ、反応後に分離・回収が可能で容易に繰り返し利用できる、N−オキシル基を有する化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、磁力により容易に分離・回収できる磁性粒子にN−オキシル基を有する有機化合物を結合させた磁性粒子によって上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成さするに至った。本発明の要旨を以下に示す。
1. N−オキシル基を有することを特徴とする磁性粒子。
2. 粒子状磁性物質にN−オキシル化合物を化学結合させることにより得られる、該粒子状磁性物質の表面にN−オキシル基を有する上記1項記載の磁性粒子。
3. 粒子状磁性物質が酸化鉄である上記2項に記載の磁性粒子。
4. 上記1〜3項のいずれかに記載の磁性粒子と共酸化剤を用いることを特徴とする酸化方法。
5. 上記1〜3項のいずれかに記載の磁性粒子と共酸化剤を使用して多糖類を酸化する工程を含むことを特徴とする多糖類誘導体の製造方法。
6. 上記5項において、多糖類がキチン及びセルロースよりなる群から選ばれる少なくとも1種である多糖類誘導体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の磁性粒子は、N−オキシル基を有していて酸化触媒として使用することが可能であり、反応終了後に磁力により反応溶液から容易に分離・回収することができ、特に、アルコール類や多糖類の酸化反応の製造コスト低下に役立つ。また、本発明の磁性粒子を多糖類の酸化に用いた場合、酸化する相手が液体ではない、繊維状の多糖類であっても容易に分離・回収することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明はN−オキシル基を有することを特徴とする磁性粒子およびその製造方法、ならびに合成した磁性粒子と共酸化剤を使用して多糖類を酸化する工程を含むことを特徴とする多糖類誘導体の製造方法に関する。
【0011】
本発明に用いる粒子状磁性物質としては、Fe、Co、Ni、Ce等の強磁性を示す金属もしくは合金又はこれらの元素を含む化合物、あるいは強磁性元素を含まないが適当な熱処理を施すことによって強磁性を示すようになる合金、例えば、Mn−Cu−Al、Mn−Cu−Sn等のホイスラー合金と呼ばれる種類の合金などの磁気材料の粒子状のものを挙げることができる。また、Fe、Fe等の酸化鉄、酸化クロム等の酸化物、さらに、(MO)(Fe)で、Mとしては、Pb、Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Br等の金属であるフェライトも好ましく、とくに、このなかで、Fe、Fe等の酸化鉄が好ましく、さらに、Fe(マグネタイト)が好ましい。これは、マグネタイトは、飽和磁化が高く、かつ残留磁化が低い磁気材料であり、また酸化物磁性体として最も単位質量当たりの磁化が大きいことから、磁性粒子に高い磁気応答性を持たせることができるからである。
【0012】
また、本発明において用いられる粒子状磁性物質としては、上記の磁気材料の粒子状のものだけでなく、それらをN−オキシル化合物以外の化合物により化学修飾したものも好ましい。
【0013】
上記の“N−オキシル化合物以外の化合物”とは、粒子状の磁気材料とN−オキシル化合物とのスペーサーの役割をする化合物であり、N−オキシル基を有さない(以下スペーサー化合物と略称することもある)。該スペーサー化合物としてはメルカプト基などの硫黄原子を保有した官能基を含む化合物や、カルボン酸を含む化合物が好ましく、特に、硫黄原子を含む官能基、アミノ基、カルボキシ基よりなる群から選ばれる2つ以上の官能基を有するものが好ましい。また、上記の硫黄原子を含む官能基としてはメルカプト基、スルフィド基、ジスルフィド基、ポリスルフィド基、チオカルボニル基など硫黄原子が2価の官能基のものが好ましい。
【0014】
メルカプト基などの硫黄原子を保有した官能基を含む化合物としては、下記式(1)又は(2)で示されるものを挙げることができる。
【0015】
【化1】

【化2】

(上記式(1)中のR、上記式(2)中のR、及びRはそれぞれ独立に、炭素数2〜12の炭化水素基またはヘテロ原子を含む炭化水素基であり、上記式(1)中のX、上記式(2)中のX、及びXはそれぞれ独立に、−NHまたは−COOHである。)
【0016】
また、炭化水素基は枝分かれ構造を有していてもよく、例えば、メチレン、エチレン、n−プロピレン、t−プロピレン、n−ブチレン、t−ブチレン、n−ペンチレン、t−ペンチレンなどが挙げられる。また芳香族基としては、フェニレン基、ビフェニレン基などが挙げられる。このような上記式に値する化合物を具体的に示すと、例えば、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオジグリコール酸、システインなどが挙げられる。
【0017】
またカルボン酸を含む化合物としては、下記式(3)で示されるものを挙げることができる。
【化3】

(上記式(3)中のRは炭素数2〜12の炭化水素基またはヘテロ原子を含む炭化水素基であり、Xは−NHまたは−COOHである。)
【0018】
また炭化水素基は枝分かれ構造を有していてもよく、例えば、メチレン、エチレン、n−プロピレン、t−プロピレン、n−ブチレン、t−ブチレン、n−ペンチレン、t−ペンチレンなどが挙げられる。また芳香族基としては、フェニレン基、ビフェニレン基などが挙げられる。さらに式中のXは、−NHまたは−COOHである。このような上記式に値する化合物を具体的に示すと、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ヒメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、クエン酸、グリシン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸などが挙げられる。
【0019】
本発明のN−オキシル基を有することを特徴とする磁性粒子として、上記の粒子状磁性物質にN−オキシル化合物を物理的に吸着させたもの、上記の粒子状磁性物質をN−オキシル化合物にて被覆したものなども挙げられるが、上記の粒子状磁性物質にN−オキシル化合物を化学結合させたものが好ましい。
【0020】
さらに、このN−オキシル化合物を化学結合させた磁性粒子では、磁性体の平均粒径が3nm〜1000μmであると好ましく、10nm〜500μmであるとより好ましく、50nm〜100μmであると更に好ましく、100nm〜10μmであるとより一層好ましく、200nm〜1μmであると特に好ましい。3nm未満であると、磁性粒子の回収が困難となる。また、1000μmを超えると、磁性粒子表面に結合するN−オキシル化合物の量が減少し、酸化効率が低下する。
【0021】
本発明に用いられるN−オキシル化合物は、一般に酸化触媒として用いられるニトロキシラジカルを有する化合物であれば特に制限されない。本発明において用いられるN−オキシル化合物は水溶性の化合物であることが好ましい。このようなN−オキシル化合物の具体例としては、次式で表されるピペリジンニトロキシラジカル化合物およびピロリジンニトロキシラジカル化合物などが挙げられる。
【0022】
【化4】

【0023】
さらに、この磁性粒子は、以下のように製造する事が可能である。ここでは好ましい製造方法について示すが、これに限られるものではない。
特開2005−60221号公報に記載される方法に従って粒子状磁性物質を合成する。本発明において用いられる磁性体としては水系溶媒の湿式で合成される酸化鉄、またはフェライトが好ましい。また、Fe、Co等の合金製の磁性体では、所望の大きさに粉砕した磁性体を水系溶媒中に懸濁させても良い。
【0024】
粒子状磁性物質の生成した溶液中に上記のN−オキシル化合物を加え、粒子状磁性物質と化学結合させる。これらN−オキシル化合物の添加量は触媒量で十分であり、N−オキシル化合物の添加量は好ましくは0.1〜4.0mmol/L、さらに好ましくは0.2〜2mmol/Lである。なお、粒子状磁性物質とN−オキシル化合物とを強固に化学結合させるため、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド、WSCD(水溶性カルボジイミド)などのカルボジイミド類、ジフェニルリン酸アジド、4-(4, 6-ジメトキシ-1, 3, 5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMT-MM)などの脱水縮合剤を用いても良い。
【0025】
反応終了後、洗浄、乾燥することによって、N−オキシル基を有する磁性粒子を得ることができる。
また、例えば、N.shamim, et al: Colloids and surfaces B 2007, vol.55, p.51-58に記載される方法に従って磁性体を合成する。つまり、磁性体を合成する溶液中に磁性体に担持させたい有機物をあらかじめ一緒に投入しておく方法である。
【0026】
以下に、N−オキシル基を有する磁性粒子と共酸化剤を用いることを特徴とする酸化方法について説明する。
本発明に用いられる共酸化剤としては、次亜ハロゲン酸またはその塩、亜ハロゲン酸またはその塩、過ハロゲン酸またはその塩、過酸化水素、および過有機酸などが本発明において使用可能であるが、好ましくはアルカリ金属次亜ハロゲン酸塩、例えば、次亜塩素酸ナトリウムや次亜臭素酸ナトリウムである。次亜塩素酸ナトリウムを使用する場合、臭化アルカリ金属、例えば臭化ナトリウムの存在下で反応を進めることが反応において好ましい。この臭化アルカリ添加量は、N−オキシル化合物に対して約1〜40倍モル量、好ましくは約10〜20倍モル量である。
【0027】
本発明の方法にて酸化を行う間、媒体のpHは、共酸化剤が作用するのに適した範囲に保持することが好ましい。
例えば、共酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを用いるときは、処理中の媒体のpHを8〜11に保持することが好ましい。また例えば、共酸化剤として亜塩素酸ナトリウムを用いるときは、処理中の水系媒体のpHを4〜7に保持することが好ましい。媒体のpHは使用する共酸化剤の種類によって適宜選択すればよい。水系媒体のpHの調整は、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどの塩基性物質、あるいは酢酸、シュウ酸、コハク酸、グリコール酸、リンゴ酸、クエン酸、安息香酸等の有機酸及び、硝酸、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸等の酸性物質を適宜添加して行うことができる。
また反応溶液の温度は約4〜40℃の範囲において任意であるが、反応は室温で行うことが可能であり、特に温度の制御は必要としない。
【0028】
本発明の酸化方法による処理に好適な物質としては、アルコール類および多糖類が挙げられ、アルコールに関しては一級アルコール、多糖類に関してはC6位にグルコース残基のヒドロキシ基をもつ多糖類であることが好ましい。例えば、一級アルコールとはメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、オクタノール、エチレングリコール、などが挙げられる。
【0029】
また、例えば、多糖類とは、アミロース、アミロペクチン、ニゲラン、プルラン、セルロース、リケナン、スクレロタン、ラミナラン、β−1,3−グルカン、β−1,2’−グルカン、β−1,4’−ガラクタン、アガロース、カラゲナン、β−1,4’−マンナン、β−1,3’−マンナン、β−1,4’−マンナン、イヌリン、キチン(ポリ−N−アセチル・グルコサミン)、ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸B、ケラト硫酸、ヘパリチン硫酸、テイカン、グリコウロノグリカン、コンニャク・マンナン、ガラクトマンナンなどよりなる群から選ばれる1種類以上が挙げられる。なかでも、セルロース、キチンよりなる群から選ばれる少なくとも1種類が特に好ましい。
【0030】
上記から明らかなように、本発明は、上記の磁性粒子と共酸化剤とを使用して多糖類を酸化する工程を含むことを特徴とする多糖類誘導体、すなわち該多糖類の1級ヒドロキシ基が酸化された多糖類誘導体の製造方法に関する発明でもある。当該製造方法における酸化反応の条件は、本発明の酸化方法について前記したとおりである。酸化反応後、磁性体により磁性粒子を引き寄せて保持して、デカンテーション等により反応混合物を分離するなどして、磁気を用いて反応系から磁性粒子を容易かつ効率的にできる。
【0031】
反応終了後、反応混合液に、貧溶媒を添加し、多糖類誘導体を沈殿させた後、遠心分離又は濾過によって単離し、さらに洗浄液で洗浄した後、乾燥することによって多糖類誘導体が得ることができる。
【0032】
本発明の製造方法によって得られる多糖類誘導体は、種々の用途、例えば、製紙用添加剤、糊剤、接着剤、乳化剤や保護コロイド、懸濁剤、合成洗剤のビルダー、粘性安定剤、結合剤、粘調剤などとして広い用途に利用できる。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
体積平均粒子径については、磁性粒子の水分散体を用いて、MASTERSIZER2000(MALNERN製)により測定した。
合成したN−オキシル基を有する磁性粒子の表面のN−オキシル基量は元素分析によってN−オキシル化合物の窒素量を測定定量した。使用した装置は微量全窒素分析装置TN−10型(ダイアインスツルメンツ製)である。
酸化されたアルコール類の酸化効率はJNM−EX270型NMR装置(日本電子製)を用いて、または多糖類の酸化効率はDSX300WB型固体NMR装置(ブルカー・バイオスピン社製)を用いて、具体的にはCP/MAS法によって測定した。
【0034】
[実施例1]
窒素雰囲気下で、0.86gのFeCl・4HOと2.35gのFeClをイオン交換水40mLに溶解し、80℃に昇温した。この水溶液にチオジグリコール酸0.1gを添加し、続いて25%のアンモニア水5mLを加えた。その後、粒子の生成過程の早い段階で粒子が凝集するのを防ぐために、残りのチオジグリコール酸を0.2gずつ5分置きに5回にわけて添加し、30分間攪拌し反応させた。次いで、上記反応物粒子をイオン交換水によって3回洗浄し、フリーズドライによって乾燥を行い、N−オキシル化合物を粒子表面に化学結合させるためのスペーサー化合物(チオグリコール酸)が表面に結合された粒子状磁性物質を得た。この粒子状磁性物質1gと、0.32gの4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカルと1.70gの1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(WSC)を20mLのリン酸緩衝液(PH6.0)中に添加し、室温で24時間攪拌し反応させた。続いて、反応物粒子をイオン交換水で3回洗浄し、フリーズドライによって乾燥を行う操作を2回繰返し、N−オキシル化合物を化学結合させた磁性粒子2gを得た。
上記の方法で得られた磁性粒子の体積平均粒子径および表面N−オキシル基量を測定した結果、体積平均粒子径は2.5×10−4、mmであり、表面N−オキシル基量は67μg/gであった。
【0035】
[実施例2]
窒素雰囲気下で、0.86gのFeCl・4HOと2.35gのFeClをイオン交換水40mLに溶解し、この水溶液に25%のアンモニア水5mLを加え、粒子状磁性物質の懸濁液を得た。次にイオン交換水で3回洗浄をし、フリーズドライによって乾燥を行い、粒子状磁性物質を単離した。
この粒子状磁性物質のを水に懸濁させ、そこへクエン酸三ナトリウム塩0.44gを添加して1時間攪拌し反応させた後、その反応物粒子をイオン交換水で3回洗浄をし、フリーズドライによって乾燥を行い、N−オキシル化合物を磁性粒子表面に化学結合させるためのスペーサー化合物(クエン酸)が表面に結合した粒子状磁性物質を得た。この粒子状磁性物質1gと、0.32gの4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン 1−オキシルフリーラジカルと1.70gの1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(WSC)を20mLのリン酸緩衝液(PH6.0)中に添加し、室温で24時間攪拌し反応させた。続いて、その反応物粒子をイオン交換水で3回洗浄し、フリーズドライによって乾燥を行い、N−オキシル化合物を化学結合させた磁性粒子を得た。
上記の方法で得られた磁性粒子の体積平均粒子径およびN−オキシル基量を測定した結果、体積平均粒子径は2.5×10−4mmであり、N−オキシル基量は110μg/gであった。
【0036】
[実施例3]
イオン交換水(1000mL)中に絶乾質量で10gの未乾燥セルロース(針葉樹由来のパルプ)を分散させた。その中に、実施例1で合成した磁性粒子(2g)、NaBr(1g)を添加し、室温で15分攪拌した。市販の約12%NaClO水溶液を、NaClO分として5.5mmol/g(セルロース)になるように測り取り、セルロース、実施例1で合成した磁性粒子、NaBrを含む常温の水分散液中に、スターラーで攪拌している状態で添加した。pHスタット(東亜電波社製:pHを一定に保つようにアルカリや酸を常に添加する装置)を用いて、反応中は反応液がpH10を保つように、0.5mol/L−NaOH水溶液を添加するようにセットした。酸化反応が進むとセルロースミクロフィブリル表面にカルボキシル基(R−COOH)が生成するために、pHが下がってくる。これを0.5mol/L−NaOH水溶液で中和してpHを10に保つことになる。酸化反応の終点をNaOH水溶液の消費が止まった時点とすると、酸化反応は約3時間で終了した。反応後に溶液上層部をゆっくり攪拌しながら、マグネティックスターラーを用いて磁気によるデカンテーションを行い、反応溶液中の磁性粒子と繊維状固形分(TEMPO酸化物)を分離し、分離した繊維状固形物はガラスフィルター上で蒸留水によって十分に濾過洗浄を行った。
このTEMPO酸化物の酸化効率を、固体NMRを用いて測定したところ、13.6グルコースユニット/−COOH(13.6個に1個の−CHOHが酸化されている酸化効率)であった。
【0037】
[比較例1]
イオン交換水(1000mL)中に絶乾質量で10gの未乾燥セルロース(針葉樹由来のパルプ)を分散させた。その中に、TEMPOが修飾されたシリカ粒子(Aldrich製、1g)、NaBr(1g)を添加し、室温で15分攪拌した。市販の約12%NaClO水溶液を、NaClO分として5.5mmol/g(セルロース)になるように測り取り、セルロース、TEMPO修飾シリカ粒子、NaBrを含む常温の水分散液中に、スターラーで攪拌している状態で添加した。pHスタット(東亜電波社製:pHを一定に保つようにアルカリや酸を常に添加する装置)を用いて、反応中は反応液がpH10を保つように、0.5mol/L−水溶液を添加するようにセットした。酸化反応が進むとセルロースミクロフィブリル表面にカルボキシル基(R−COOH)が生成するために、pHが下がってくる。これを0.5mol/L−NaOH水溶液で中和してpHを10に保つことになる。酸化反応の終点をNaOH水溶液の消費が止まった時点とすると、酸化反応は約3時間で終了した。反応後に溶液上層部をゆっくり攪拌しながらデカンテーションを行い、反応溶液中のシリカ粒子と繊維状固形分(TEMPO酸化物)を分離し、分離した繊維状固形物はガラスフィルター上で蒸留水によって十分に濾過洗浄を行ったが、繊維状固形分とシリカ粒子を分離することは困難であった。
このTEMPO酸化物の酸化効率を、固体NMRを用いて測定したところ、8.4グルコースユニット/−COOH(8.4個に1個の−CHOHが酸化されている酸化効率)であった。
【0038】
[比較例2]
イオン交換水(1000mL)中に絶乾質量で10gの未乾燥セルロース(針葉樹由来のパルプ)を分散させた。その中に、TEMPO(0.08g)、NaBr(1g)を添加し、室温で15分攪拌した。市販の約12%NaClO水溶液を、NaClO分として5.5mmol/g(セルロース)になるように測り取り、セルロース、TEMPO、NaBr を含む常温の水分散液中に、スターラーで攪拌している状態で添加した。pHスタット(東亜電波社製:pHを一定に保つようにアルカリや酸を常に添加する装置)を用いて、反応中は反応液がpH10を保つように、2.5mol/L−NaOH水溶液を添加するようにセットした。酸化反応は約3時間で終了した。ガラスフィルター上で繊維状固形分(TEMPO酸化物)と反応溶液とを分離し、この分離した反応溶液に対して同容積のジクロロメタンにより抽出処理を行いTEMPOの回収を試みたが、ジクロロメタン層の溶媒を除去し、残った有機物の分析を行ったところ、TEMPOだけでなく多くの不純物を含むものであり、再び酸化反応に用いることができるものでは無かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N−オキシル基を有することを特徴とする磁性粒子。
【請求項2】
粒子状磁性物質にN−オキシル化合物を化学結合させることにより得られる、該粒子状磁性物質の表面にN−オキシル基を有する請求項1記載の磁性粒子。
【請求項3】
粒子状磁性物質が酸化鉄である請求項2に記載の磁性粒子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の磁性粒子と共酸化剤を用いることを特徴とする酸化方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の磁性粒子と共酸化剤を使用して多糖類を酸化する工程を含むことを特徴とする多糖類誘導体の製造方法。
【請求項6】
請求項5において、多糖類がキチン及びセルロースよりなる群から選ばれる少なくとも1種である多糖類誘導体の製造方法。

【公開番号】特開2011−162377(P2011−162377A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25241(P2010−25241)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】