説明

N−グルコノ−グルタミン酸エステル及びその製造方法、並びにその中間体

【課題】有機溶媒中でも高い触媒活性を発現することができ、例えば、医薬品工業、食品工業、化粧品工業、有機化学工業分野等における物質生産に利用可能な有用な触媒を提供する。
【解決手段】一般式(I):


(式中、m及びnは同一又は異なっていても良い1〜30の整数を示し、oは、0又は1の整数を示す。)で示されるN−グルコノ−グルタミン酸エステル;その中間体化合物;それらの製造方法;一般式(I)で示されるN−グルコノ−グルタミン酸エステルで修飾された界面活性剤修飾酵素。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N−グルコノ−グルタミン酸エステル、その製造中間体、それらの製造方法、及びこれを用いた界面活性剤修飾酵素に関する。本発明のN−グルコノ−グルタミン酸エステルは、界面活性剤修飾酵素の調製のための界面活性剤などとして使用される。
【背景技術】
【0002】
精製酵素と界面活性剤とから調製される酵素と界面活性剤の複合体である界面活性剤修飾酵素は、例えば、医薬品工業、食品工業、化粧品工業、有機化学工業分野等における物質生産に利用可能な有用な触媒である。
【0003】
酵素の多くは、水溶液中で安定であり、また水溶液中でその酵素活性を示す一方、その基質は有機溶媒のみに可溶であることがある。また、基質が水溶液中で不安定である場合もある。このような場合、有機溶媒中で酵素反応を行う必要があり、酵素を、有機溶媒中で実質的に懸濁した状態、即ち不均一触媒として使用せざるを得ない場合が多く、触媒効率が低いという問題がある。そこで、酵素と界面活性剤の複合体である界面活性剤修飾酵素を用いることにより、有機溶媒に可溶化した状態で酵素に触媒作用を発揮させることが行われており、未修飾の酵素を用いる場合よりも高活性が示される。
【0004】
このような界面活性剤修飾酵素の調製のために用いられる界面活性剤の一つとして、N−D−グルコノ−L−グルタミン酸エステル類が、使用されることは、既に知られている(例えば特許文献1〜6、及び非特許文献1〜3参照)。しかしながら、これらの界面活性剤修飾酵素は、未修飾の酵素よりも高い活性を示すものの、工業的に満足できる程度の活性は得られていなかった。そのため、より高い活性を発現させる界面活性剤修飾酵素の調製のための界面活性剤が望まれていた。
【0005】
そこで、先に挙げたN−D−グルコノ−L−グルタミン酸エステルのエステル構造を種々変換することも検討されており、各々の合成界面活性剤から調製した界面活性剤修飾酵素の活性を比較した結果、エステル部分がジオレイルの場合に活性が最も高いことが報告されている(例えば、非特許文献2参照)。しかし、最適とされる合成界面活性剤を用いた場合においても、既存界面活性剤よりも2倍程度の活性向上が得られるにとどまり、実際の活性値に関しても満足な結果は得られていない。
【0006】
【特許文献1】特開昭64−80282号公報
【特許文献2】特開平4−23981号公報
【特許文献3】特開平6−269285号公報
【特許文献4】特開平9−118844号公報
【特許文献5】特開平10−248558号公報
【特許文献6】特許第3218794号
【非特許文献1】J.Org.Chem.,60,2244(1995)
【非特許文献2】J.Chem.Eng.Japan,26(1),109(1993)
【非特許文献3】Biotechnol.Prog.16,583(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明者は、従来の界面活性剤修飾酵素よりも高い活性を有する界面活性剤修飾酵素の調製のための、工業的に好適な界面活性剤を提供することを目的として、界面活性剤であるN−グルコノ−グルタミン酸エステルのエステル部分の部分構造に着目し鋭意検討を行ったところ、末端に二重結合が存在する直鎖アルケニル基を有するN−グルコノ−グルタミン酸エステルを界面活性剤として用いた場合、それを用いて調製される界面活性剤修飾酵素の活性が特異的に著しく向上することを見出して、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、一般式(I):
【化6】


(式中、m及びnは同一又は異なっていても良い1〜30の整数を示す。)
で示されるN−グルコノ−グルタミン酸エステルに関する。
【0009】
本発明は、また一般式(II)
【化7】


(式中、m及びnは前記と同義である。)
で示されるグルタミン酸エステルを、δ−グルコノラクトンと反応させる、上記一般式(I)で示されるN−グルコノ−グルタミン酸エステルの製造方法にも関する。
【0010】
本発明は、また上記一般式(II)で示される中間体化合物であるグルタミン酸エステルにも関する。
【0011】
本発明は、さらにまた、(A)酸の存在下、グルタミン酸と、式:
【化8】


(式中、m及びnは前記と同義である。)
のアルケノールを反応させた後、(B)塩基で処理する、上記一般式(II)で示されるグルタミン酸エステルの製造方法にも関する。
本発明は、更にまた、上記一般式(I)で示されるN−グルコノ−グルタミン酸エステルで修飾された界面活性剤修飾酵素にも関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一般式(I)で示される化合物を用いて調製される界面活性剤修飾酵素は、有機溶媒中でも高い触媒活性を発現することができ、例えば、医薬品工業、食品工業、化粧品工業、有機化学工業分野等における物質生産に利用可能な有用な触媒である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明を以下に詳細に説明する。
本発明は、一般式(I):
【化9】


(式中、m及びnは同一又は異なっていても良い1〜30の整数を示す。)
で示されるN−グルコノ−グルタミン酸エステルに関する。
【0014】
上記式中、m及びnは同一又は異なっていても良い1〜30の整数であるが、mは、好ましくは4〜18の整数、更に好ましくは6〜14の整数、nは、好ましくは4〜18の整数、更に好ましくは6〜14の整数である。更に好ましくは、m及びnの少なくともひとつが9であり、特に好ましくはm=n=9である。
【0015】
また、一般式(I)の化合物は、不斉炭素を含むが、本発明化合物は、いずれの光学異性体及びそのラセミ体をも包含する。ただし、原料化合物の入手のしやすさなどから、グルタミン酸エステルに由来する部分は好ましくはL体であり、グルコン酸に由来する部分は好ましくはD体である。
【0016】
上記一般式(I)の化合物として、例えばN−グルコノ−グルタミン酸ジ(11−ドデセニル)エステル、N−グルコノ−グルタミン酸ジ(10−ウンデセニル)エステル、N−グルコノ−グルタミン酸ジ(9−デセニル)エステル、N−グルコノ−グルタミン酸ジ(8−ノネニル)エステルなどをあげることができ、特に好ましくはN−D−グルコノ−L−グルタミン酸ジ(10−ウンデセニル)エステルをあげることができる。
【0017】
本発明は、また、上記一般式(I)の化合物を合成するための中間体化合物である、一般式(II)
【化10】


(式中、m及びnは同一又は異なっていても良い1〜30の整数を示す。)
で示されるグルタミン酸エステル化合物にも関する。
【0018】
上記式中、m及びnは、上記式(I)の化合物におけるのと同義である。
【0019】
また、一般式(II)の化合物も、不斉炭素を含むが、本発明化合物は、いずれの光学異性体及びそのラセミ体をも包含する。ただし、原料化合物の入手のしやすさなどから、好ましくはL体である。
【0020】
上記一般式(II)の化合物として、例えばグルタミン酸ジ(11−ドデセニル)エステル、グルタミン酸ジ(10−ウンデセニル)エステル、グルタミン酸ジ(9−デセニル)エステル、グルタミン酸ジ(8−ノネニル)エステルなどをあげることができ、特に好ましくはL−グルタミン酸ジ(10−ウンデセニル)エステルをあげることができる。
【0021】
一般式(I)の化合物は、一般式(II)
【化11】


(式中、m及びnは前記と同義である。)
で示されるグルタミン酸エステルを、δ−グルコノラクトンと反応させることによって製造することができる。
【0022】
上記工程において使用するδ−グルコノラクトンは、D体及びL体のいずれであってもよいが、入手のしやすさなどから、D−グルコノ−δ−ラクトンを好ましく用いることができる。
【0023】
また、グルタミン酸エステルは、D体及びL体のいずれであってもよいが、入手のしやすさなどから、L−グルタミン酸エステルを好ましく用いることができる。
【0024】
δ−グルコノラクトンの量は、グルタミン酸エステル1.0モルに対し、好ましくは1.0〜10.0モル、更に好ましくは2.0〜3.0モルである。
【0025】
本発明の上記工程は、有機溶媒の存在下又は非存在下において行われる。使用する溶媒としては、反応を阻害しないものならば特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等のアルコール類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化脂肪族炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のカルボン酸エステル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の尿素類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類が挙げられるが、好ましくはアルコール類、更に好ましくはメタノール、エタノールである。なお、これらの溶媒は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0026】
前記溶媒の使用量は、グルタミン酸エステル1gに対して、好ましくは2〜50ml、更に好ましくは5〜30mlである。
【0027】
本発明の上記工程は、例えば、グルタミン酸エステル、δ−グルコノラクトン、及び必要であれば溶媒を混合して、撹拌しながら反応させる等の方法によって行われる。
【0028】
その際の反応温度は、使用する溶媒によっても限定されるが、好ましくは40〜100℃、更に好ましくは50〜80℃であり、なお、その際の反応圧力は特に制限されない。
【0029】
本発明の方法によって得られる一般式(I)で示されるN−グルコノ−グルタミン酸エステルは、反応終了後、例えば、濾過、抽出、濃縮、再結晶、晶析、カラムクロマトグラフィー等による一般的な方法によって単離・精製される。
【0030】
また、上記一般式(II)の化合物は、(A)酸の存在下、グルタミン酸と、式:
【化12】


(式中、m及びnは前記と同義である。)
のアルケノールを反応させた後、(B)塩基で処理することによって、製造することができる。
【0031】
本発明の工程(A)において使用されるグルタミン酸は、D体及びL体のいずれであってもよいが、入手のしやすさなどから、L−グルタミン酸を好ましく用いることができる。
【0032】
本発明の工程(A)において使用されるアルケノールの量は、グルタミン酸1モルに対して、好ましくは2.0〜10.0モル、更に好ましくは2.0〜3.0モルである。
【0033】
本発明の工程(A)において使用する酸触媒としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸等の無機酸、及びp−トルエンスルホン酸等の有機酸が挙げられるが、好ましくは塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、更に好ましくは硫酸、p−トルエンスルホン酸が使用される。なお、これらの酸は水和物でもよく、また、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0034】
本発明の工程(A)において使用する酸触媒の量は、グルタミン酸に対して、好ましくは0.1〜5.0モル、更に好ましくは0.5〜1.5モルである。
【0035】
本発明の工程(A)は、溶媒の存在下又は非存在下において行われる。使用する溶媒としては、反応を阻害しないものならば特に限定されず、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化脂肪族炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のカルボン酸エステル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のアミド類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類が挙げられるが、好ましくは芳香族炭化水素類、更に好ましくはトルエン、キシレンが使用される。なお、これらの溶媒は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0036】
前記溶媒の使用量は、反応液の均一性や撹拌性により適宜調節するが、グルタミン酸1gに対して、好ましくは2〜50ml、更に好ましくは5〜30mlである。
【0037】
本発明の第一工程(A)は、例えば、グルタミン酸、10−ウンデセン−1−オールなどのアルケノール、酸触媒、及び必要であれば有機溶媒とを混合して、撹拌しながら反応させる等の方法によって行われる。
【0038】
その際の反応温度は、使用する溶媒によっても限定されるが、好ましくは40〜200℃、更に好ましくは50〜150℃であり、反応圧力は特に制限されない。
【0039】
本発明の工程(B)に使用する塩基としては、例えば、トリエチルアミン等の有機塩基;炭酸カリウム、炭酸、水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基が挙げられるが、好ましくは、トリエチルアミン、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、更に好ましくは炭酸カリウムが使用される。なお、これらの塩基は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0040】
本発明の工程(B)は、例えば、工程(A)反応終了後に塩基あるいは塩基の水溶液を加え、室温にて撹拌させることにより行われる。
【0041】
本発明の工程(B)に使用する塩基の量は生成物に対し1当量以上であれば特に限定されない。
【0042】
本発明の工程によって得られる、一般式(II)で表されるグルタミン酸エステルは、反応終了後、例えば、濾過、抽出、濃縮、再結晶、晶析、カラムクロマトグラフィー等による一般的な方法によって単離・精製された後、次の一般式(I)で表される化合物の製造工程において使用することができる。
【0043】
本発明の一般式(I)で示されるN−グルコノ−グルタミン酸エステルで修飾された界面活性剤修飾酵素は、修飾をする酵素の水溶液と、上記一般式(I)で表されるN−グルコノ−グルタミン酸エステルを含む有機溶液とからエマルジョンを形成させ、凍結乾燥することにより容易に調製可能である(例えば非特許文献3参照)。具体的には、溶媒(シクロヘキサンなどの有機溶媒を好ましく用いることができる)に溶解した一般式(I)で表される界面活性剤溶液を、緩衝液(リン酸緩衝液などを好ましく用いることができる)に溶解した所望の酵素の溶液に加え、ホモジナイザーなどを用いて乳化させ、凍結し、凍結乾燥する方法を用いることができる。酵素:一般式(I)で表される界面活性剤の割合は、例えば、1:10〜200(重量比)、好ましくは1:50〜100(重量比)である。
【0044】
本発明の界面活性剤修飾酵素においては、一般式(I)で表される界面活性剤によって失活しない任意の酵素を用いることができる。このような酵素としては、加水分解酵素、転移酵素、付加酵素、異性化酵素などの酵素を上げることができる。
【0045】
加水分解酵素としては、例えば、プロテアーゼ、エステラーゼ、リパーゼ等が挙げられるが、好ましくは酵母又は細菌から単離可能な微生物のリパーゼ、更に好ましくはバルクホルデリア・セパシア(シュードモナス・セパシア)を起源とするリパーゼ(例えば、Amano PS(アマノエンザイム社製)等)及びカンジダ・アンタークティカ(Candida Antarctica)を起源とするリパーゼから選択される少なくとも1種が使用される。なお、これらの加水分解酵素は、天然の形又は固定化酵素として市販品をそのまま使用することができ、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。又、市販品に含有している酵素固定化剤を予め除去して使用することもできる。
【0046】
前記の加水分解酵素は、天然の形又は固定化酵素として市販されているものを、化学的処理又は物理的処理を行った後に使用することが望ましい。
【0047】
上記のように調製した本発明の界面活性剤修飾酵素を有機溶媒中での酵素反応に用いる場合、界面活性剤修飾酵素を基質及び有機溶媒と混合して反応させるなどの、溶媒に可溶な酵素を用いる場合の通常方法を用いることができる。用いる有機溶媒の種類、使用量、酵素反応の条件などは、用いる酵素、基質の種類によって適宜選択することができる。
【0048】
また、本発明の界面活性剤修飾酵素は、有機溶媒中、少量の水の存在下においても好ましく用いることができる。有機溶媒中飽和量の水が存在している系において、界面活性剤修飾酵素は有機溶媒に実質的に溶解した状態となり、よって有機溶媒中においてもその酵素活性を効率よく示すことができる。したがって、本発明の界面活性剤修飾酵素は特に、水の存在下で酵素活性を特に高く示す酵素と、水の存在下では不安定な基質との反応を、円滑に進行させることができる。例えば、水の存在下で特定の光学異性体に選択的に作用する酵素を用いて、水には不安定なラセミ体を基質とする場合には、酵素を本発明の界面活性剤修飾酵素として作用させることにより、ラセミ体が水により分解されることなく、特定の光学異性体のみに選択的に酵素による作用を受けさせることが可能である。
【実施例】
【0049】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0050】
実施例1(N−D−グルコノ−L−グルタミン酸ジ(10−ウンデセニル)エステルの合成)
トルエン1000mLに、10−ウンデセン−1−オール231g(1.36mol)、L−グルタミン酸100g(680mmol)及びp−トルエンスルホン酸142g(748mmol)を加えて撹拌し、反応により生成する水分を除去しながら加熱還流下にて4時間反応させた。反応終了後、室温まで冷却した後、10wt%炭酸カリウム水溶液を加え、室温にて1時間撹拌した。この溶液から水層を分液で除去し、有機層を10wt%炭酸カリウム水溶液で洗浄した。得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。次に得られた濃縮物に、メタノール600mL及びD−グルコノ−δ−ラクトン114g(642mmol)を加え、撹拌しながら加熱還流下で4時間反応させた。反応終了後、撹拌を続けながら0℃まで冷却した。析出物を濾過後、減圧乾燥し、白色結晶としてN−D−グルコノ−L−グルタミン酸ジ(10−ウンデセニル)エステル128gを得た(L−グルタミン酸基準の単離収率:31.7%)。
【0051】
なお、N−D−グルコノ−L−グルタミン酸ジ(10−ウンデセニル)エステルの物性値は以下の通りであった。
1H-NMR(500MHz,δ(ppm),CDCl3):1.28(s,20H),1.37(tt,4H,J=6.7,6.7Hz),1.61(tt,4H,J=6.8,6.8Hz),2.04(tt,5H,J=6.7,6.7Hz),2.22(m,1H),2.40(m,2H),3.62-3.82(m,3H),4.05(t,2H,J=6.8Hz),4.07-4.17(m,2H),4.36(d,1H,J=2.7Hz),4.57(dt,2H,J=5.5,9.1Hz),4.95(ddt,2H,J=1.7,10.2,1.2Hz),4.99(ddt,2H,J=1.7,17.1,1.7Hz),5.81(ddt,2H,J=6.7,10.2,17.1Hz),7.66(d,1H,J=7.7Hz)
13C-NMR(500MHz,δ(ppm),CDCl3):25.7,25.86,25.91,27.0,28.5,28.6,28.9,29.13,29.14,29.29,29.30,29.42,29.46,29.51,29.55,30.4,32.80,33.81,51.7,63.8,65.1,66.2,70.7,71.9,73.0,74.2,114.12,114.16,139.15,139.23,172.1,172.9,173.1
MS(FAB+)m/z:629
【0052】
実施例2(界面活性剤修飾酵素の調製)
シクロヘキサン18mLに、実施例1で調製したN−D−グルコノ−L−グルタミン酸ジ(10−ウンデセニル)エステル113mg(0.18mmol)を室温にて混合した。この混合溶液に、バルクホルデリア・セパシア(シュードモナス・セパシア)を起源とするリパーゼ(Amano Lipase PS(商品名);アルドリッチ社製)2.0mgを0.01mol/Lリン酸緩衝液(0.01mol/Lリン酸二水素ナトリウム水溶液と0.01mol/Lリン酸水素二ナトリウム水溶液からpH7に調整)2mLに混合した酵素溶液を加え、ホモジナイザー(11,000rpm、2min)で乳化させた。得られた乳化物を液体窒素下凍結後、凍結乾燥し、白色粉末として界面活性剤修飾酵素115mgを得た。
【0053】
参考例1(2−アミノ−3−フェニルプロピオン酸エチルエステル(ラセミ体混合物)の合成)
エタノール10.0mL(171mmol)に、2−アミノ3−フェニルプロピオン酸(ラセミ体混合物)2.00g(12.1mmol)及び濃硫酸1.42g(14.5mmol)とを加え、撹拌しながら60℃で4時間反応させた。反応終了後、得られた反応液を減圧濃縮した後、6mol/L水酸化ナトリウム水溶液を加えて、反応液のpHを8.5に調整した。次いで、t−ブチルメチルエーテル10mL及び水4mLを加えて抽出し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧濃縮し、無色液体として、2−アミノ−3−フェニルプロピオン酸エチルエステル(ラセミ体混合物)2.34gを得た(2−アミノ−3−フェニルプロピオン酸(ラセミ体混合物)基準の単離収率:89.0%)。
なお、2−アミノ−3−フェニルプロピオン酸エチルエステル(ラセミ体混合物)の物性値は以下の通りであった。
1H-NMR(500MHz,δ(ppm),CDCl3):1.22(t,3H,J=7.1Hz),2.85(dd,1H,J=7.8,13.5Hz),3.06(dd,1H,J=5.4,13.5Hz),3.69(dd,1H,J=5.4,7.8Hz)、7.17-7.30(m、5H)
13C-NMR(500MHz,δ(ppm),CDCl3):14.2,41.2,55.9,60.8,126.7,128.5,129.3,137.4,175.0
MS(CI、i-C4H10)m/z:194(MH+)
元素分析;Calcd:C,68.37%;H,7.82%;N,7.25%
Found:C,66.29%;H,7.69%;N,7.02%
【0054】
実施例3((S)−2−アミノ−3−フェニルプロピオン酸、及び(R)−2−アミノ−3−フェニルプロピオン酸エチルエステルの合成)
水を飽和させたt−ブチルメチルエーテル1.0mLに、参考例1で調製した2−アミノ−3−フェニルプロピオン酸エチルエステル(ラセミ体混合物)100mg(0.517mmol)、実施例2で調製した界面活性剤修飾酵素5.0mgを加え30℃で反応させた。24時間後、反応混合物にアセトン0.5mLを加えて濾過し、(S)−2−アミノ−3−フェニルプロピオン酸37.0mgを得た(2−アミノ−3−フェニルプロピオン酸エチルエステル(ラセミ体混合物)基準の単離収率=43.3%)。
得られた(S)−2−アミノ−3−フェニルプロピオン酸を常法により(S)−2−(2−フロイルアミノ)−3−フェニルプロピオン酸エチルエステルに誘導して、光学活性カラムを用いた高速液体クロマトグラフィーを使用して光学純度を測定したところ97.6%eeであった。
【0055】
また、界面活性剤修飾酵素による加水分解反応を受けずに反応母液に残存していた(R)−2−アミノ−3−フェニルプロピオン酸エチルエステルを常法により(R)−2−(2−フロイルアミノ)−3−フェニルプロピオン酸エチルエステルに誘導して、光学活性カラムを用いた高速液体クロマトグラフィーを使用して光学純度を測定したところ94.5%eeであった。
なお、本反応におけるE値は299であった。
【0056】
高速液体クロマトグラフィーの分析条件;(光学活性2−(2−フロイルアミノ)−3−フェニルプロピオン酸エチルエステル)
カラム:Chiralcel OJ−H(0.46cmΦ×25cm、ダイセル化学工業製)
溶媒:ヘキサン/イソプロピルアルコール(8/2(容量比))
流速 :0.5mL/min
温度 :30℃
波長 :220nm
次に、得られた(S)−2−アミノ−3−フェニルプロピオン酸の物性値は以下の通りであった。
1H-NMR(500MHz,δ(ppm),CD3OD):3.12(dd,1H,J=8.0,14.5Hz),3.29(dd,1H,J=5.2,14.5Hz),3.99(dd,1H、J=5.2,8.0Hz),7.32-7.45(m,5H)
13C-NMR(500MHz,δ(ppm),CD3OD):39.2,58.9,130.5,132.0,132.2,138.0,176.8
MS(CI,i-C4H10)m/z:166(MH+)
元素分析;Calcd:C,65.44%;H,6.71%;N,8.48%
Found:C,61.36%;H,6.69%;N,7.94%
また、得られた(R)−2−アミノ3−フェニルプロピオン酸エチルエステルの物性値は参考例1で示したものと同様であった。
上記の結果は、本発明の界面活性剤修飾酵素を水飽和有機溶媒中で用いたところ、リパーゼが(S)−2−アミノ−3−フェニルプロピオン酸エチルエステルを高度に選択的に加水分解したことを示しており、本発明の界面活性剤修飾酵素を用いることにより、酵素がその触媒活性を高度に発揮することができることが示された。
【0057】
比較例1((S)−2−アミノ−3−フェニルプロピオン酸、及び(R)−2−アミノ−3−フェニルプロピオン酸エチルエステルの合成)
水を飽和させたt−ブチルメチルエーテル1.00mLに、2−アミノ−3−フェニルプロピオン酸エチルエステル(ラセミ体混合物)100mg(0.517mmol)、バルクホルデリア・セパシア(シュードモナス・セパシア)を起源とするリパーゼ(Amano Lipase PS(商品名);アルドリッチ社製)20.0mgを加え、撹拌しながら30℃で反応させた。156時間後、反応混合物にアセトン0.5mLを加えて濾過し、(S)−2−アミノ−3−フェニルプロピオン酸36.1mg(2−アミノ−3−フェニルプロピオン酸エチルエステル(ラセミ体混合物)基準の単離収率=42.2%)とリパーゼの混合物として得た。
【0058】
(S)−2−アミノ−3−フェニルプロピオン酸を常法により(S)−2−(2−フロイルアミノ)−3−フェニルプロピオン酸エチルエステルに誘導して、光学活性カラムを用いた高速液体クロマトグラフィーを使用して光学純度を測定したところ96.5%eeであった。
(R)−2−アミノ−3−フェニルプロピオン酸エチルエステルを常法により(R)−2−(2−フロイルアミノ)−3−フェニルプロピオン酸エチルエステルに誘導して、光学活性カラムを用いた高速液体クロマトグラフィーを使用して光学純度を測定したところ89.5%eeであった。
なお、本反応におけるE値は170であった。
【0059】
高速液体クロマトグラフィーの分析条件;(光学活性2−(2−フロイルアミノ)−3−フェニルプロピオン酸エチルエステル)
カラム:Chiralcel OJ−H(0.46cmΦ×25cm、ダイセル化学工業製)
溶媒:ヘキサン/イソプロピルアルコール(8/2(容量比))
流速 :0.5mL/min
温度 :30℃
波長 :220nm
また、(S)−2−アミノ−3−フェニルプロピオン酸の物性値は実施例1で示したものと同様であった。
(R)−2−アミノ−3−フェニルプロピオン酸エチルエステルの物性値は参考例1で示したものと同様であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):
【化1】


(式中m及びnは同一又は異なっていても良い1〜30の整数を示す。)
で示されるN−グルコノ−グルタミン酸エステル。
【請求項2】
m及びnの少なくともひとつが9である、請求項1記載のN−グルコノ−グルタミン酸エステル。
【請求項3】
m=n=9である、請求項1記載のN−グルコノ−グルタミン酸エステル。
【請求項4】
N−D−グルコノ−L−グルタミン酸ジ(10−ウンデセニル)エステルである、請求項1記載のN−グルコノ−グルタミン酸エステル。
【請求項5】
一般式(II)
【化2】


(式中、m及びnは請求項1と同義である。)
で示されるグルタミン酸エステルを、δ−グルコノラクトンと反応させる、請求項1記載の一般式(I)で示されるN−グルコノ−グルタミン酸エステルの製造方法。
【請求項6】
一般式(II)
【化3】


(式中、m及びnは請求項1と同義である。)
で示されるグルタミン酸エステル。
【請求項7】
(A)酸の存在下、グルタミン酸と、式:
【化4】


(式中、m及びnは請求項1と同義である。)
のアルケノールを反応させた後、(B)塩基で処理する、請求項6記載の一般式(II)
【化5】


(式中、m及びnは前記と同義である。)
で示されるグルタミン酸エステルの製造方法。
【請求項8】
請求項1記載の一般式(I)で示されるN−グルコノ−グルタミン酸エステルで修飾された界面活性剤修飾酵素。
【請求項9】
N−D−グルコノ−L−グルタミン酸ジ(10−ウンデセニル)エステルで修飾された界面活性剤修飾酵素。
【請求項10】
酵素がリパーゼである、請求項8又は9記載の界面活性剤修飾酵素。

【公開番号】特開2008−308408(P2008−308408A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−154711(P2007−154711)
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】