説明

N−シアノモルホリンの精製方法及び製造方法

【課題】N−カルバモイルモルホリンを含む粗N−シアノモルホリンを精製処理することにより、N−カルバモイルモルホリンやその分解物の混入が抑制された、純度の高いN−シアノモルホリンを取得する。
【解決手段】N−カルバモイルモルホリンを含む粗N−シアノモルホリンを、熱処理した後、蒸留する。熱処理の温度は、好ましくは100〜170℃であり、熱処理の時間は、好ましくは1〜5時間である。蒸留は、減圧条件下、単蒸留により行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N−シアノモルホリンを精製する方法に関する。この化合物は、次式
【0002】
【化1】

【0003】
で示され、医薬、農薬、電子材料の原料等として有用である。また、本発明は、N−シアノモルホリンを製造する方法にも関係している。
【背景技術】
【0004】
N−シアノモルホリンを製造する方法として、例えば、ベルギー特許第641601号明細書には、モルホリンを水中で塩化シアンと反応させた後、反応混合物を油水分離することにより、油層として粗N−シアノモルホリンを得、これをさらに蒸留することにより、留分として製品のN−シアノモルホリンを得ることが開示されている。また、ドイツ特許出願公開第10063023号明細書には、モルホリンを水中で塩化シアンと反応させた後、反応混合物を濃縮し、次いで濾過することにより、濾液として粗N−シアノモルホリンを得、これをさらに蒸留することにより、留分として製品のN−シアノモルホリンを得ることが開示されている。
【0005】
【特許文献1】ベルギー特許第641601号明細書
【特許文献2】ドイツ特許出願公開第10063023号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や2に開示の如く、反応溶媒に水を使用すると、反応条件や後処理条件にもよるが、生成したN−シアノモルホリンの一部が反応時や後処理時に水和されることにより、次式
【0007】
【化2】

【0008】
で示されるN−カルバモイルモルホリンが副生し、これが粗N−シアノモルホリン中に含まれる。そして、この粗N−シアノモルホリンを次いで蒸留する際、N−カルバモイルモルホリンやその分解物が、N−シアノモルホリンの製品留分中に混入して、品質乃至純度の点で問題となることがある。また、反応溶媒に水を使用しなくても、後処理で水を添加したり、水分が混入したりすることにより、同様の問題が生じうる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らは、かかる問題を解決すべく鋭意検討を行った結果、N−カルバモイルモルホリンを含む粗N−シアノモルホリンを、熱処理してから蒸留することにより、N−カルバモイルモルホリンやその分解物の混入が抑制された、純度の高いN−シアノモルホリンが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、N−カルバモイルモルホリンを含む粗N−シアノモルホリンを、熱処理した後、蒸留することを特徴とするN−シアノモルホリンの精製方法を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、モルホリンをハロゲン化シアンと反応させ、得られたN−カルバモイルモルホリンを含む粗N−シアノモルホリンを、上記の方法により精製処理することにより、N−シアノモルホリンを製造する方法にも関係している。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、N−カルバモイルモルホリンを含む粗N−シアノモルホリンから、純度の高いN−シアノモルホリンを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
N−シアノモルホリンは、例えば、特許文献1や2に記載される如く、モルホリンをハロゲン化シアンと反応させることにより製造することができる。ハロゲン化シアンとしては、塩化シアンを用いてもよいし、臭化シアンを用いてもよいが、液体又は気体として取り扱いが容易であることから、塩化シアンが好ましく用いられる。ハロゲン化シアンの使用量は、モルホリンに対し、通常0.8〜1.5モル倍程度である。
【0013】
反応溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、メタノール、イソプロピルアルコール、アセトニトリル、ブチロニトリル、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼンの如き有機溶媒や、水を用いることができ、必要に応じてそれらの2種以上からなる混合溶媒を用いることもできる。中でも、水単独溶媒や、水とこれに混和性又は非混和性の有機溶媒との混合溶媒の如き、水性溶媒が好ましく用いられる。反応溶媒の使用量は、モルホリンに対し、通常0.5〜10重量倍、好ましくは0.5〜5重量倍である。
【0014】
反応は、反応混合物を中性乃至塩基性に、具体的には反応混合物のpHを7〜13、好ましくは7〜11に調整しながら行うのがよく、このためには、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、炭酸カリウムの如き無機塩基を、反応系内に加えながら反応を行うのが望ましい。
【0015】
反応温度は、通常0〜100℃、好ましくは20〜70℃である。反応の経過は、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、核磁気共鳴スペクトル等で追跡することができる。
【0016】
なお、N−シアノモルホリンは、上記の如くモルホリンをハロゲン化シアンと反応させる方法の他、例えば、N−クロロモルホリンの如きN−ハロモルホリンを、シアン化水素、シアン化ナトリウム、トリメチルシリルシアニドの如きシアン化物と反応させる方法によっても、製造することができる。
【0017】
反応混合物からの粗N−シアノモルホリンの取り出しは、例えば、反応混合物を、必要により有機溶媒や水、塩析用の無機化合物と混合した後、油水分離し、得られた油層を必要により濃縮して溶媒を留去することにより、行うことができる。また、反応混合物を濃縮して溶媒を留去し、得られた濃縮物を必要により濾過して無機塩等の不溶物を濾別することによっても、行うことができる。
【0018】
こうして得られる粗N−シアノモルホリン中には、反応条件や後処理条件にもよるが、N−シアノモルホリンの一部が反応時や後処理時に水和されることにより副生するN−カルバモイルモルホリンが含まれる。そして、この粗N−シアノモルホリンを蒸留して、精製されたN−シアノモルホリンを製品留分として得ようとする場合、N−カルバモイルモルホリンや、これが蒸留中に徐々に分解することにより生成するモルホリン等の不純物が、該留分に混入して、品質乃至純度の点で問題となることがある。そこで、本発明では、上記のN−カルバモイルモルホリンやその分解物の製品留分への混入を抑制するため、粗N−シアノモルホリンを蒸留する前に、熱処理して、N−カルバモイルモルホリンを予め分解しておく。
【0019】
なお、粗N−シアノモルホリン中のN−カルバモイルモルホリンの含量は、通常10重量%以下であり、N−シアノモルホリンの含量は通常80重量%以上である。また、粗N−シアノモルホリン中の水分があまり多いと、N−シアノモルホリンが水和乃至加水分解を受け易くなるため、水分は5重量%以下程度に調整しておくのがよい。
【0020】
粗N−シアノモルホリンの熱処理温度は、粗N−シアノモルホリンの組成や熱処理時間等にもよるが、N−カルバモイルモルホリンの分解促進と、N−シアノモルホリンの分解抑制とのバランスの点から、100〜170℃程度であるのがよい。また、粗N−シアノモルホリンの熱処理時間は、粗N−シアノモルホリンの組成や熱処理温度等にもよるが、これもN−カルバモイルモルホリンの分解促進と、N−シアノモルホリンの分解抑制とのバランスの点から、1〜5時間程度であるのがよい。具体的には、熱処理温度を所定値に定めて、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、核磁気共鳴スペクトル等で追跡しながら、N−カルバモイルモルホリンが所定の含量以下となるまで、熱処理を行えばよい。
【0021】
続く蒸留は、通常、1〜10kPa程度の減圧下に、加熱しながら行われる。この蒸留により、水や、N−カルバモイルモルホリンの上記熱処理による分解物であるモルホリン等の低沸点成分を留去することができ、それより高沸点の製品留分として、純度の高いN−カルバモイルモルホリンを取得することができる。蒸留の方式は、例えば、単蒸留であってもよいし、精留であってもよく、また、バッチ式蒸留であってもよいし、連続式蒸留であってもよい。本発明によれば、上記熱処理を行うことで、単蒸留であっても十分に純度の高い、例えば純度99%以上のN−シアノモルホリンを取得することができる。N−シアノモルホリンの純度や不純物の分析は、ガスクロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィー等により行えばよい。なお、上記の熱処理と蒸留とは、構成上、前者では留出物を実質的に発生させない点で、区別される。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれによって限定されるものではない。例中、濃度乃至含量を表す%は、特記ない限り重量基準である。
【0023】
参考例1
1Lのナスフラスコに、モルホリン267gと水492gをいれて攪拌し、この中に、塩化シアン180gを50℃にて3時間かけて滴下した後、50℃にて0.5時間保持した。また、この滴下と保持の間、反応液のpHが10.5に保たれるように、48%水酸化ナトリウム水溶液245gを加えた。得られた反応液を20Torr(2.6kPa)の減圧下に濃縮して水を留去した後、濃縮物を濾過して無機塩を濾別し、濾液として粗N−シアノモルホリン318gを得た。この粗N−シアノモルホリン中のN−シアノモルホリンの含量は90.1%、N−カルバモイルモルホリンの含量は3.05%、水分は2.5%であった。
【0024】
実施例1
参考例1で得られた粗N−シアノモルホリン138g(N−シアノモルホリン124g含有)を、150℃にて4時間保持した後、20Torr(2.6kPa)の減圧下に単蒸留した。初留3gを除去後、沸点124〜127℃の留分106gを取得し、この留分をガスクロマトグラフィーで分析した結果、N−シアノモルホリンの含量は99.4%(105g、回収率85%)、N−カルバモイルモルホリンの含量は0.03%であった。なお、蒸留後、未留出の缶液29g〔N−シアノモルホリン含量61%(17.7g、回収率14%)〕が回収された。
【0025】
比較例1
参考例1で得られたN−シアノモルホリン150g(N−シアノモルホリン135g含有)を、20Torr(2.6kPa)の減圧下に単蒸留した。初留5gを除去後、沸点124〜127℃の留分116gを取得し、この留分をガスクロマトグラフィーで分析した結果、N−シアノモルホリンの含量は96.3%(112g、回収率83%)、N−カルバモイルモルホリンの含量は0.29%であった。なお、蒸留後、未留出の缶液28g〔N−シアノモルホリン含量64%(17.9g、回収率13%)〕が回収された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N−カルバモイルモルホリンを含む粗N−シアノモルホリンを、熱処理した後、蒸留することを特徴とするN−シアノモルホリンの精製方法。
【請求項2】
熱処理の温度が100〜170℃である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
熱処理の時間が1〜5時間である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
モルホリンをハロゲン化シアンと反応させ、得られたN−カルバモイルモルホリンを含む粗N−シアノモルホリンを、請求項1〜3のいずれかに記載の方法により精製処理することを特徴とするN−シアノモルホリンの製造方法。

【公開番号】特開2006−282608(P2006−282608A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−105854(P2005−105854)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)