説明

N−デベンゾイルパクリタキセルの製造のための半合成法

【課題】抗腫瘍活性を有するパクリタキセルの前駆体であるN−デベンゾイルパクリタキセルの新規製造方法の提供。
【解決手段】一般式(II)


(式中、R1は、アリール又はヘテロアリール基である)で示されるカルボン酸、又はその塩若しくは活性化誘導体を、7−保護バッカチンと縮合させた化合物を得たのち、それを酸触媒による加溶媒分解に付して一部の保護基を除去すること及びオキサゾリン環を開環すること、を特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の開示
本発明は、抗腫瘍活性を有する既知の分子の有用な前駆体である、下記式(I):
【0002】
【化1】

【0003】
で示されるN−デベンゾイルパクリタキセル(I)の製造方法に関する。
【0004】
本発明により、式(I)の誘導体は、一般式(II):
【0005】
【化2】

【0006】
[式中、R1は、アリール又はヘテロアリール基である]で示されるオキサゾリジン又はその反応性誘導体と一般式(III):
【0007】
【化3】

【0008】
[式中、R2は、酸触媒の加溶媒分解により除去可能なヒドロキシ保護基である]で示されるバッカチン誘導体との縮合により得られるのであるが、こうして一般式(IV):
【0009】
【化4】

【0010】
[式中、R1及びR2は、上記と同義である]で示される化合物が得られ、次にこの化合物を制御された酸性条件に付すことにより、単一工程で、既知の抗腫瘍性化合物の製造に有用な中間体である式(I)の化合物が得られる。
【0011】
本発明は、以下の点で先行技術の合成法よりも有利である:
− 一般式(II)のオキサゾリジンは、C2のエピマーの一方を驚くほど多く含むこと;
− 全ての窒素及び酸素保護基が、単純な加溶媒分解により同時に除去されること;
− 反応条件が、異性体化又は分解生成物の形成を最小限に抑えること。
【0012】
R1は、好ましくはフェニル、又は1つ以上のC1−C3アルコキシ、ハロゲン、C1−C3アルキル、ハロゲン−C1−C2アルキル基で置換されているフェニルである。更に好ましくは、R1は、2,4−ジメトキシフェニルである。
【0013】
R2は、酸触媒の加溶媒分解により除去することができる、任意のヒドロキシ保護基であってよい。適切な保護基の例は、アセタール類(特にメトキシプロピル)、アルコキシカルボニル類(t−ブトキシカルボニルなど)、スルフェニル誘導体(2−ニトロベンゼンスルフェニルなど)である。特に好ましいのは、2−ニトロベンゼンスルフェニル基での保護である。
【0014】
本発明により、一般式(III)のバッカチン誘導体は、一般式(II)の酸、塩又は反応性誘導体によって、縮合剤、例えば、シクロヘキシルカルボジイミド又は1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミドのようなカルボジイミド、及び4−ジメチルアミノピリジン又はN−メチルイミダゾールのような活性化剤の存在下で、エーテル(特にテトラヒドロフラン)、炭化水素(トルエン又はヘキサンなど)、ハロゲン化炭化水素(特にジクロロメタン)、又はその混合物から選択される有機溶媒中で、0〜90℃の範囲の温度でエステル化される。この反応は、トルエン及びジクロロメタン中で約70℃の温度で実施するのが特に有利である。
【0015】
式(II)の酸誘導体の中で、特に好ましいのは、式(V):
【0016】
【化5】

【0017】
[式中、R1は、上記と同義であり、そしてR3、R4及びR5は、同一であっても異なっていてもよく、C1−C6アルキル基(特にエチル)、アリール又はアリールアルキル(好ましくはベンジル)である]で示されるアンモニウム塩の使用である。アンモニウム塩の使用により、反応条件があまり激しくなくなり、かつ関わる生成物の安定性が良好になる。
【0018】
原則として、混合無水物、ハロゲン化アシル、ペンタフルオロフェニルエステル、チオエステルのような、任意の活性化カルボン酸誘導体(III)を、既知の手順により本発明の方法において使用することができる。
【0019】
酸素及び窒素保護基は、酸触媒の加溶媒分解により、好ましくはメタノール及びp−トルエンスルホン酸での処理により、−20〜50℃の範囲の温度で、単一工程で脱離される。
【0020】
式(II)の酸は、式(VI):
【0021】
【化6】

【0022】
で示されるエステルの加水分解[これにより式(VII):
【0023】
【化7】

【0024】
(式中、Mは、1〜2の範囲のy個の電荷を有する金属であり、そしてnは、常にyに等しい整数である)で示される塩が得られる]により得ることができる。
【0025】
加水分解は、通常0〜40℃の範囲の温度で水性アルコール性媒体中で、金属水酸化物又は金属炭酸塩のような無機塩基を用いることによって、アルカリ媒体中で行われる。
【0026】
式(VIII):
【0027】
【化8】

【0028】
で示されるトリエチルアンモニウム塩は、広い範囲の温度で式(VII)の塩を塩化トリエチルアンモニウムのメタノール溶液で処理することにより得ることができる。
【0029】
R1が、2,4−ジメトキシフェニルである、エステル(VI)は、2,4−ジメトキシベンズアルデヒドジメチルアセタール(X)を式(IX):
【0030】
【化9】

【0031】
で示されるN−(2−ニトロベンゼンスルフェニル)−3−フェニルイソセリンと、不活性有機溶媒中で、又は不活性有機溶媒の混合物中で、p−トルエンスルホン酸ピリジニウムのような弱酸触媒の存在下で、0℃〜混合物の沸点の範囲の温度で反応させることにより得ることができる。適切な溶媒は、芳香族炭化水素類である。
【0032】
式(IX)の化合物は、3−フェニルイソセリン塩酸塩メチルエステルを塩化2−ニトロベンゼンスルフェニルと、水不混和性不活性有機溶媒(好ましくは酢酸エチル又はジクロロメタン)と水性塩基性緩衝液(重炭酸ナトリウム飽和溶液など)とからなる二相性混合物中で、4〜50℃の範囲の温度で反応させることにより調製することができる。
【0033】
7−(2−ニトロベンゼンスルフェニル)−バッカチンIIIは、バッカチンIIIを塩化2−ニトロベンゼンスルフェニルと、不活性溶媒(特にエーテル類又はハロゲン化炭化水素)中で、有機又は無機塩基の存在下で、−10〜40℃の範囲の温度で反応させることにより、容易に調製することができる。
【0034】
下記化合物:
− 7−(2−ニトロベンゼンスルフェニル)−バッカチンIII;
− 13−[N−(2−ニトロベンゼンスルフェニル)−N,O−(2,4−ジメトキシベンジリデン)−3−フェニルイソセリノイル]−7−(2−ニトロベンゼンスルフェニル)−バッカチンIII;
− 2−(2,4−ジメトキシフェニル)−3−(2−ニトロベンゼンスルフェニル)−4−フェニル−5−オキサゾリジンカルボン酸並びにその塩及びC1−C3アルキルエステル、特にナトリウム及びトリエチルアンモニウム塩並びにメチルエステル;
− N−(2−ニトロベンゼンスルフェニル)−3−フェニルイソセリン
は、新規で有用な中間体であり、そして本発明の更に別の目的である。
【0035】
下記実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【0036】
実施例
実施例I:N−(2−ニトロベンゼンスルフェニル)−3−フェニルイソセリン
酢酸エチル100ml及び飽和NaHCO3溶液130mlに溶解したフェニルイソセリンメチルエステル5gを、500ml丸底フラスコ中で混合した。この二相性混合物を激しく撹拌しながら保持して、塩化2−ニトロベンゼンスルフェニル5gをここに30分で加えた。この混合物を撹拌下に30分間放置し、次に有機相を分離し、硫酸ナトリウムで乾燥して減圧下で溶媒を留去した。残留した黄色の油状物をクロマトグラフィー(シリカ、ヘキサン−酢酸エチル、勾配25〜50%酢酸エチル)により精製して、目的生成物を収率74%で得た。
【0037】
実施例II:2−(2,4−ジメトキシフェニル)−3−(2−ニトロベンゼンスルフェニル)−4−フェニル−5−オキサゾリジンカルボン酸メチルエステル
無水ベンゼン100ml中のN−(2−ニトロベンゼンスルフェニル)−3−フェニルイソセリン6.6gの熱溶液に、p−トルエンスルホン酸ピリジニウム0.5g及び2,4−ジメトキシベンズアルデヒドジメチルアセタール5.3gを加えた。この溶液を4時間還流し、次に室温まで冷却するのを待った。その後、NaHCO3飽和溶液10mlを加え、相を分離した。水相を酢酸エチルで抽出して、合わせた有機相をNa2SO4で乾燥し、減圧下で溶媒を留去した。残留した黄色の油状物をクロマトグラフィー(シリカ、ヘキサン−酢酸エチル、5:1、2%トリエチルアミンを含む)により精製して、目的生成物を収率74%で得た。
【0038】
実施例III:2−(2,4−ジメトキシフェニル)−3−(2−ニトロベンゼンスルフェニル)−4−フェニル−5−オキサゾリジンカルボン酸ナトリウム
メタノール150ml中の2−(2,4−ジメトキシフェニル)−3−(2−ニトロベンゼンスルフェニル)−4−フェニル−5−オキサゾリジンカルボン酸メチルエステル5gの溶液に、2%水酸化ナトリウム22mlを加えた。この混合物を1時間還流した。溶媒を留去して、残渣を40℃で真空下一晩乾燥した。
【0039】
実施例IV:2−(2,4−ジメトキシフェニル)−3−(2−ニトロベンゼンスルフェニル)−4−フェニル−5−オキサゾリジンカルボン酸トリエチルアンモニウム
無水メタノール20ml中の上述の塩13mmolの溶液に、塩化トリエチルアンモニウム1.83gを加えた。この混合物を撹拌下3時間保持し、次にトルエン150mlで希釈した。生じた懸濁液を吸引濾過して、母液から溶媒を留去することにより、目的生成物をほぼ定量的収率で得た。この生成物を更に精製することなく使用した。
【0040】
実施例V:7−(2−ニトロベンゼンスルフェニル)−バッカチンIII
バッカチンIII8.8g及び塩化2−ニトロベンゼンスルフェニル3.13gを、500ml丸底フラスコ中、無水塩化メチレン100mlに溶解した。溶液を0℃で冷却後、温度を5℃未満に保持するような速度で、ピリジン5mlをここに滴下した。次にこの混合物を撹拌下0℃で30分間保持し、次いで塩化メチレン50mlで希釈して、5%NaHCO3で、そして次に食塩水で洗浄した。硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下で有機相から溶媒を留去した。生じた粗生成物をクロマトグラフィー(シリカ、ヘキサン−酢酸エチル、6:4)により精製して、目的生成物5.4gを得た。
【0041】
実施例VI:13−[N−(2−ニトロベンゼンスルフェニル)−N,O−(2,4−ジメトキシベンジリデン)−3−フェニルイソセリノイル]−7−(2−ニトロベンゼンスルフェニル)−バッカチンIII
塩化メチレン15ml及び無水トルエン30ml中の7−(2−ニトロベンゼンスルフェニル)−バッカチンIII2.9g、2−(2,4−ジメトキシフェニル)−3−(2−ニトロベンゼンスルフェニル)−4−フェニル−5−オキサゾリジンカルボン酸トリエチルアンモニウム2.9gの混合物に、ジシクロヘキシルカルボジイミド1.5g及び4−ジメチルアミノピリジン0.24gを加えた。この反応混合物を2時間還流し、次に撹拌下室温で一晩放置した。有機相を吸引濾過し、次に飽和炭酸水素ナトリウム30mlで、次いで食塩水で洗浄して、減圧下で溶媒を留去した。残渣をクロマトグラフィー(シリカ、ヘキサン−酢酸エチル、7:3)により精製して、目的生成物を収率75%で得た。
【0042】
実施例VII:N−デベンゾイルパクリタキセル
13−[N−(2−ニトロベンゼンスルフェニル)−N,O−(2,4−ジメトキシベンジリデン)−3−フェニルイソセリノイル]−7−(2−ニトロベンゼンスルフェニル)−バッカチンIII4.4g及びp−トルエンスルホン酸1.4gを無水メタノール15mlに0℃で溶解した。この溶液を撹拌下0℃で3〜8時間放置した。反応は、TLCによりモニターした。次に重炭酸ナトリウム飽和溶液15mlを加え、溶媒を留去して、残渣を酢酸エチルに溶解した。有機層を水で洗浄してNa2SO4で乾燥した。溶媒を留去して、カラム(塩化メチレン−メタノール、95:5)で精製することにより、目的生成物を収率80%で得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化10】


で示されるN−デベンゾイルパクリタキセルの製造方法であって、
a)一般式(II):
【化11】


[式中、R1は、アリール又はヘテロアリール基である]で示されるカルボン酸、又はその塩若しくは活性化誘導体を、一般式(III):
【化12】


[式中、R2は、酸触媒の加溶媒分解により除去可能なヒドロキシ保護基である]で示されるバッカチン誘導体と縮合することにより、式(IV):
【化13】


[式中、R1及びR2は、上記と同義である]で示される化合物を得ること;
b)酸触媒の加溶媒分解により式(IV)の化合物中のR2基を除去すること及びオキサゾリジン環を開環すること
を特徴とする方法。
【請求項2】
R1が、2,4−ジメトキシフェニルであり、そしてR2が、2−ニトロベンゼンスルフェニルである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程a)が、縮合剤及び活性化剤の存在下で、エーテル、炭化水素、ハロゲン化炭化水素、又はその混合物から選択される有機溶媒中で、0〜90℃の範囲の温度で行われる、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
溶媒が、トルエンとジクロロメタンとの混合物であり、そして反応温度が、約70℃である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
化合物(III)を式(V):
【化14】


[式中、R1は、上記と同義であり、そしてR3、R4及びR5は、C1−C6アルキル、アリール又はアリールアルキル基である]で示されるアンモニウム塩と反応させる、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
酸素及び窒素保護基が、−20〜50℃の範囲の温度での、メタノール及びp−トルエンスルホン酸での処理により、単一工程で除去される、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
式(II)の化合物の製造方法であって、
a)式(IX):
【化15】


で示されるN−(2−ニトロベンゼンスルフェニル)−3−フェニルイソセリンメチルエステルの調製;
b)アルデヒドジメチルアセタールで化合物(IX)を処理して式(VI):
【化16】


(式中、R1は、請求項1におけるのと同義である)で示される化合物を得る工程;
c)式(VI)のエステルを加水分解して式(VII):
【化17】


(式中、R1は、上記と同義であり、Mは、1〜2の範囲のy個の正電荷を持つ金属であり、そしてnは、常にyに等しい整数である)で示される塩を得る工程;
d)式(VII)の塩を酸性化して式(II)の化合物を得る工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
加水分解が、0〜40℃の範囲の温度で水性アルコール性媒体中で、金属水酸化物又は金属炭酸塩を用いることによって、アルカリ媒体中で行われる、請求項7記載の方法。
【請求項9】
工程b)が、化合物(IX)を2,4−ジメトキシベンズアルデヒドジメチルアセタールと一緒に、不活性有機溶媒、又は不活性有機溶媒の混合物中で、弱酸触媒の存在下で、0℃〜混合物の沸点の範囲の温度で加熱することにより行われる、請求項7記載の方法。
【請求項10】
R3、R4及びR5が、エチルである、式(V)の化合物の製造方法であって、塩化トリエチルアンモニウムのメタノール溶液での、請求項7に記載のとおりの式(VII)[式中、Mは、好ましくはナトリウムである]の化合物の処理による方法。
【請求項11】
7−(2−ニトロベンゼンスルフェニル)−バッカチンIII;
13−[N−(2−ニトロベンゼンスルフェニル)−N,O−(2,4−ジメトキシベンジリデン)−3−フェニルイソセリノイル]−7−(2−ニトロベンゼンスルフェニル)−バッカチンIII;
2−(2,4−ジメトキシフェニル)−3−(2−ニトロベンゼンスルフェニル)−4−フェニル−5−オキサゾリジンカルボン酸並びにその塩及びC1−C3アルキルエステル、特にナトリウム及びトリエチルアンモニウム塩並びにメチルエステル;
N−(2−ニトロベンゼンスルフェニル)−3−フェニルイソセリン
から選択される化合物。

【公開番号】特開2010−265274(P2010−265274A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137314(P2010−137314)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【分割の表示】特願2003−584033(P2003−584033)の分割
【原出願日】平成15年3月24日(2003.3.24)
【出願人】(397068654)インデナ・ソチエタ・ペル・アチオニ (20)
【Fターム(参考)】