説明

N−ニトロソアニリン誘導体、並びに、それを用いた高反応性ROS発生剤及び高反応性ROSの発生方法

【課題】パーオキシナイトライト(ONOO-)の発生を、紫外線照射によって位置的・時間的に制御することが可能なN−ニトロソアニリン誘導体、並びに、それを用いた高反応性ROS発生剤及び高反応性ROSの発生方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のN−ニトロソアニリン誘導体は、下記構造式(a)で示されることを特徴とする(ここで、R、R、R及びRは互いに同じ又は異なっていてもよい水素又はアルキル基を示し、Rはアルキル基、カルボン酸基、カルボン酸エルテル基及びカルボン酸アミド基のいずれかであることを示す。ただし、R=R=R=メチル基であって且つR=R=水素である場合、及びR=メチル基であって且つR=R=R=R=水素である場合を除く。)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の照射によって高反応性ROSを放出するN−ニトロソアニリン誘導体、並びに、それを用いた高反応性ROS発生剤及び高反応性ROSの発生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
活性酸素(reactive oxygen species:以下「ROS」という)とは、酸素が化学的に活性になった化学種である。具体的には、スーパーオキシドアニオン(O-)、ヒドロキシルラジカル(・OH)、過酸化水素(HOOH)、一重項酸素()、一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO)、パーオキシナイトライト(ONOO-)、オゾン(O)、過酸化脂質等が挙げられる。
【0003】
ROSは生体内におけるミトコンドリアの電子伝達系やある種の酸化酵素において、酸素を起源として発生し、生体内で重要な役割を担っている。また、ROSの中でも特に活性の高いパーオキシナイトライト(ONOO-)やヒドロキシルラジカル(・OH)等の高反応性ROSは、癌治療への応用が期待されている。
【0004】
こうしたことから、生体内におけるROSの挙動を調べたり、癌の治療等の医薬品研究を行ったりするために、ROSの発生剤(特に高反応性ROSの発生剤)の開発が望まれている。
【0005】
従来、ROS発生剤として過酸化水素や酸化チタンが知られているが、過酸化水素は、それ自体が生物に対して活性を有するROSの一種であり、細胞に対する毒性も有するため、研究用のROS発生剤としては適当ではない。また、酸化チタンは固体物質であり、投与困難であるため、研究用や医薬用としては利用し難い。
【0006】
研究用の高反応性ROS発生剤としては、SIN−1(同仁化学研究所製)(下記化1参照)が知られている。この化合物は、水に溶解させるとNOラジカルとスーパーオキシドアニオン(O)とが1:1で発生し、それらがさらに反応してパーオキシナイトライト(ONOO-)が生成する(下記化1参照)。しかし、この化合物は水に溶解させると同時にパーオキシナイトライト(ONOO-)が生成するため、発生を位置的あるいは時間的に制御することが難しいという問題がある。
【0007】
【化1】

【0008】
また、医薬品として使用されているROS発生剤としては、ポルフィリン誘導体(例えばレザフィリン(明治製菓 登録商標))がある。レザフィリンは、ポルフィリン骨格を有する化合物であり、レーザー光の照射によって一重項酸素を主としたROSが発生する。このため、紫外線を発するレーザーによってROS発生の位置的・時間的制御が可能であり、癌細胞の存在する箇所にレーザーからの紫外線を照射することによって、癌細胞を壊死に導くことができる(光線力学療法)。
【0009】
一方、本発明者らは、紫外線の照射によってNOラジカルを発生する一連のニトロベンゼン誘導体101〜114(下記化2参照)を見出し、既に論文で発表している(非特許文献1)。
【0010】
【化2】

【0011】
これらのニトロベンゼン誘導体は、紫外線を照射されることによりROSの一種であるNOラジカルが発生するため、ROS発生の位置的・時間的制御が可能となる。
【0012】
なお、本発明に関連する技術として、下記化学反応式に示すようにN,N´ジニトロソ−p−フェニレンジアミン誘導体(IA,IB)が光照射によってNOラジカルを発生することが知られている(非特許文献2)。
【0013】
【化3】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Journal of the American Chemical Society, 2005, 127, 11720-11726
【非特許文献2】Journal of the American Chemical Society, 1997, 119, 3840-3841
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記非特許文献1のROS発生剤では、紫外線を照射することによりROSの一種であるNOラジカルを発生させることはできるものの、高反応性ROSの一種であるパーオキシナイトライト(ONOO-)を発生させることはできない。このため、パーオキシナイトライト(ONOO-)の作用等を調べるための実験に用いることはできなかった。
【0016】
この点、上記SIN−1であればパーオキシナイトライト(ONOO-)を発生させることはできる。しかし、SIN−1は水に溶解させると同時にパーオキシナイトライト(ONOO-)が生成し、その半減期も短いため、紫外線等によってパーオキシナイトライト(ONOO-)の発生を位置的・時間的に制御することはできなかった。
【0017】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、パーオキシナイトライト(ONOO-)の発生を、紫外線照射によって位置的・時間的に制御することが可能なN−ニトロソアニリン誘導体、並びに、それを用いた高反応性ROS発生剤及び高反応性ROSの発生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上述したように、本発明者らは既に、紫外線照射によってNOラジカルを発生するニトロベンゼン誘導体を開発している(非特許文献1)。また、NOラジカルとスーパーオキシドアニオン(O-)とが1:1で瞬時に反応し、パーオキシナイトライト(ONOO-)を生成することが知られている。
【0019】
そこで、本発明者らは、NOラジカルを生成するニトロベンゼン誘導体にスーパーオキシドアニオン(O-)を発生させる置換基を導入すれば、光照射によりNOラジカルとスーパーオキシドアニオン(O-)とが1:1の割合で発生し、NOラジカルやスーパーオキシドアニオン(O-)が残存することなく、定量的にパーオキシナイトライト(ONOO-)を発生させることができるのではないかと考えた。
【0020】
そして、鋭意研究を行った結果、下記構造式(A)で示されるニトロベンゼン誘導体(ただし、R及びRは同じ又は異なっていてもよいアルキル基又はハロゲンを示し、R及びRは同じ又は異なってもよいアルキル基を示し、nは1以上の整数を示す。)を用いることにより、パーオキシナイトライト(ONOO-)の発生を、紫外線照射によって位置的・時間的に制御することが可能となることを見出し、既に特許出願を行なっている(PCT/JP2010/69473)。
【0021】
【化4】

【0022】
さらに本発明者らは、非特許文献2に示された前述のN,N´ジニトロソ−p−フェニレンジアミン誘導体(IA,IB)が光照射によってNOラジカルを発生することが示されていることに鑑み、その一方のN−ニトロソ基をフェノール性の水酸基に替えることによって、NOラジカルと同量のスーパーオキシドアニオン(O-)をNOラジカルと同時に発生させることを考えた。そして鋭意研究を行った結果、本発明を完成するに至った。
【0023】
すなわち、本発明のN−ニトロソアニリン誘導体は、下記構造式(a)で示されることを特徴とする(ここで、R、R、R及びRは互いに同じ又は異なっていてもよい水素又はアルキル基を示し、Rはアルキル基、カルボン酸基、カルボン酸エルテル基及びカルボン酸アミド基のいずれかであることを示す。ただし、R=R=R=メチル基であって且つR=R=水素である場合、及びR=メチル基であって且つR=R=R=R=水素である場合を除く。)。
【0024】
【化5】

【0025】
本発明者らの試験結果によれば、N−ニトロソアニリン誘導体(a)に紫外線を照射すると、高反応性ROSが生成する。このため、紫外線を照射した箇所で、位置選択的に高反応性ROSを発生させることができる。また、必要な時に紫外線を照射することにより、任意の時に高反応性ROSを発生させることができる。すなわち、高反応性ROSの発生を、紫外線照射によって位置的・時間的に制御することができる。このため、研究用のROS発生剤や光線力学療法に好適に用いることができる。
【0026】
また、本発明のN−ニトロソアニリン誘導体は、紫外線の照射によって一分子当たり、NOラジカルとスーパーオキシドアニオン(O-)とが1つずつ発生し、それらが瞬時に反応してパーオキシナイトライトとなる。このため、NOラジカルやスーパーオキシドアニオン(O-)が残存することはなく、NOラジカルやスーパーオキシドアニオン(O-)の影響を受けることなく、パーオキシナイトライト(ONOO-)に基づく高反応性ROSの研究を行うことができるという利点を有している。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】Fe-MGDをスピントラップ剤として用いた場合の、実施例1〜3のN−ニトロソアニリン誘導体(I),(J),(K)のESRスペクトルである。
【図2】DMPOをスピントラップ剤として用いた場合の、実施例1〜3のN−ニトロソアニリン誘導体(I),(J),(K)のESRスペクトルである。
【図3】実施例1〜4のN−ニトロソアニリン誘導体について空気飽和下においてHKGreen-3によるONOO生成の検出試験を行った結果を示すグラフである。
【図4】実施例4のN−ニトロソアニリン誘導体について空気飽和下(酸素存在下)及びアルゴン飽和下(無酸素下)においてHKGreen-3によるONOO生成の検出試験を行った結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明のN−ニトロソアニリン誘導体(a)が、光照射によって高反応性ROSを発生する反応機構については、以下に示す反応経路が推定される。
【0029】
【化6】

【0030】
すなわち、まず上記化学式に示すように、N−ニトロソアニリン誘導体(a)に紫外線が照射されると、N−ニトロソ基(−N−N=O)からNOラジカルが脱離するとともにフェノール性水酸基からHが解離してアニオンラジカル(b)となる。そして、さらに分子状の酸素がアニオンラジカル(b)から電子を奪ってスーパーオキシドアニオン(O-)となり、アニオンラジカル(b)は電子の移動にともなってキノンイミン(c)となる。
【0031】
さらに、上記化学式に示す反応によって生じたNOラジカルとスーパーオキシドアニオン(O-)とが1:1で瞬時に反応し、高反応性ROSであるパーオキシナイトライト(ONOO-)となる。なお、パーオキシナイトライト(ONOO-)は水素イオンの存在によりNOラジカルとヒドロキシルラジカル(・OH)に分解する。このヒドロキシラジカル(・OH)も高反応性ROSの1種である。
【0032】
【化7】

【0033】
以上の反応機構から、本発明のN−ニトロソアニリン誘導体(a)は紫外線の照射によって、一分子当たり、NOラジカルとスーパーオキシドアニオン(O-)とが1つずつ発生し、それらが瞬時に反応してパーオキシナイトライト(ONOO-)となることが分かる。このため、NOラジカルやスーパーオキシドアニオン(O-)が残存することはなく、全てがパーオキシナイトライト(ONOO-)の生成のために使われる。このため、NOラジカルやスーパーオキシドアニオン(O-)の影響を受けることなくパーオキシナイトライト(ONOO-)に関する高反応性ROSを研究することができる。
【0034】
本発明のN−ニトロソアニリン誘導体(a)において、Rはアルキル基、カルボン酸基、カルボン酸エルテル基及びカルボン酸アミド基のいずれかであるであるが、アルキル基の場合は炭素数が1〜6が好ましく、さらには1〜3が好ましい。また、Rがカルボン酸基の場合は水溶性が高められるので、水系において用いる場合には特に好ましい。
【0035】
また、R、R、R及びRは互いに同じ又は異なっていてもよい水素又はアルキル基であるが、製造の容易性の観点からはR=RであってR=Rであることが好ましい。
【0036】
及びRは水素又はメチル基であるとすることができる。また、R及びRは水素又はメチル基であるとすることができる。発明者らの試験結果によれば、これらの組み合わせの中でもR、R、R及びRがメチル基の場合、並びに、R及びRが水素であって、R及びRがメチル基の場合には、特に反応が円滑に進行するため好ましい。さらに、好ましいのは、R、R、R、R及びRが全てメチル基の場合である。
【実施例】
【0037】
以下、本発明をさらに具体化した実施例について述べる。実施例1〜4では、下記に示す4種類のN−ニトロソアニリン誘導体(I),(J),(K)及び(L)を合成し、その特性を調べた。
【0038】
【化8】

【0039】
(実施例1)
実施例1のN−ニトロソアニリン誘導体(I)は、下記合成ルートによって合成した。
【0040】
【化9】

【0041】
4-(N-メチル-N-ニトロソ)アミノフェノール (I)の合成
4-メチルアミノフェノール (I-1) (482 mg, 3.91 mmol)を氷冷した6 mLの酢酸に溶解した。この溶液にNaNO2 (280 mg, 4.06 mmol, 1.0 eq)水溶液(30 mL)を添加した。この混合液を氷浴上で1.5時間撹拌したのち、飽和NaHCO3で中和した。この溶液を酢酸エチルで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄した後、無水Na2SO4で乾燥した。濾過、減圧濃縮、およびシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィー(n-hexane : AcOEt = 2:1)により335 mg (56 %) の4-(N-メチル-N-ニトロソ)アミノフェノール (I)を茶色固体として得た。これをn-hexane, AcOEt, MeOHの混合溶媒を用いて再結晶し、210 mg (63 %)のIを濃茶色の固体として得た。mp 140.3-141.5 °C; 1H-NMR (DMSO-d6, 500 MHz, δ; ppm) 9.78 (1H, s), 7.41 (2H, d, J = 8.5 Hz), 6.89 (2H, d, J = 8.8 Hz), 3.37 (3H, s); 13C-NMR (DMSO-d6, 125 MHz, δ; ppm) 156.9, 133.9, 121.6, 115.7, 32.4; Anal.Calcd for C7H8N2O2 ; C:55.26, H:5.30, N:18.41. Found ; C:55.07, H:5.36, N:18.15; MS (FAB) : m/z 154 [(M+2)+].
【0042】
(実施例2)
実施例2のN−ニトロソアニリン誘導体(J)は、下記合成ルートによって合成した。
【0043】
【化10】

【0044】
3,5-ジメチル-4-メトキシメトキシベンツアルデヒド (J-2)の合成
3,5-ジメチル-4-ヒドロキシベンツアルデヒド (J-1, 5.000 g, 33.296 mmol)のCH2Cl2溶液 (250 mL)にN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)(7.5 mL, 42.015 mmol, 1.3 eq), N,N-ジメチル-4-アミノピリジン(DMAP)(88 mg, 0.720 mmol, 0.02 mmol)およびクロロメチルメチルエーテル(MOMCl) (3.5 mL, 36.882 mmol, 1.1 eq)を添加した. この混合液を室温で3時間撹拌した。反応液を0.1 N HClおよび飽和食塩水で洗浄し、無水Na2SO4で乾燥した。濾過、減圧濃縮およびシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィー (n-hexane: AcOEt = 4:1)により、J-2を無色油状物質として5.373 g (83 %)得た。1H-NMR (CDCl3, 500 MHz, δ; ppm) 9.89 (1H, s), 7.57 (2H, s), 5.03 (2H, s), 3.62 (3H, s), 2.36 (6H, s).
【0045】
3,5-ジメチル-4-メトキシメトキシ安息香酸 (J-3)の合成
J-2 (5.366 g, 27.627 mmol)のt-BuOH溶液 (25 mL) に2-メチル-2-ブテン (9 mL, 84.700 mmol, 3.1 eq)を添加した。さらにNaClO2 (5.705 g, 56.115 mmol, 2.0 eq)およびKH2PO4 (36.123 g, 277.677 mmol, 10 eq)を水溶液(250 mL)として添加し、この混合液を室温で11時間撹拌した。これにNaClO2 (2.516 g, 27.820 mmol, 1.0 eq)を添加し、室温でさらに13時間撹拌した。この反応液をクロロホルムで抽出し、この有機層を2N-NaOHで再び抽出した。得られた水層を濃塩酸で酸性にした後、クロロホルムで抽出した。この有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水Na2SO4で乾燥した。濾過、減圧濃縮により、J-3を白色固体として、5.042 g (87 %)得た。1H-NMR (DMSO-d6, 500 MHz, δ; ppm) 7.63 (2H, s), 5.00 (2H, s), 3.51 (3H, s), 2.27 (6H, s).
【0046】
N-t-ブトキシカルボニル-3,5-ジメチル-4-メトキシメトキシアニリン (J-4)の合成
J-3 (5.042 g, 23.983 mmol)とトリエチルアミン (4 mL, 28.724 mmol, .12 eq)をt-BuOH (150 mL) に溶解し、室温で30分間撹拌した。これにジフェニルリン酸アジドDPPA (7.5 mL, 34.799 mmol, 1.5 eq)を添加した。反応液を還流下2.5時間撹拌した。その後反応液を酢酸エチル中に加えて飽和NaHCO3および飽和食塩水で洗浄して、無水Na2SO4で乾燥した。濾過、減圧濃縮およびシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィー (n-hexane: AcOEt = 6:1)により、J-4を無色時油状物質として4.8045 g (72 %)得た。1H-NMR (CDCl3, 500 MHz, δ; ppm) 7.02 (2H, s), 6.36 (1H, s), 4.91 (2H, s), 3.59 (3H, s), 2.26 (6H, s), 1.50 (9H, s).
【0047】
N-t-ブトキシカルボニル- 3,5-ジメチル-4-メトキシメトキシ-N-メチルアニリン (J-5)の合成
NaH (60 % in oil; 3.976 g, 99.4 mmol, 5.8 eq) を無水DMF (120 mL)を用いて懸濁液とし、これに、氷浴上かつ窒素雰囲気下、J-4 (4.805 g, 17.078 mmol)を無水DMF (10 mL)に溶解したもの添加した。この混合物を氷浴上1時間撹拌し、その後MeI (6 mL, 96.332 mmol, 5.6 eq)を添加して室温でさらに2時間撹拌した。反応液を水中に注ぎ、これをクロロホルムで抽出した。有機層を水および飽和食塩水で洗浄し、無水Na2SO4で乾燥した。濾過、減圧濃縮およびシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィー (n-hexane: AcOEt = 10:1) により、J-5を無色油状物質として、1.853 g得た。1H-NMR (DMSO-d6, 500 MHz, δ; ppm) 6.92 (2H, s), 4.91 (2H, s), 3.50 (3H, s), 2.20 (6H, s), 1.99 (3H, s) 1.38 (3H, s).
【0048】
2,6-ジメチル-4-メチルアミノフェノール (J-6)の合成
反応で得られたJ-5 (1.853 g)をTFA (10 mL)に溶解し、15分間室温にて撹拌した。この溶液を飽和NaHCO3水溶液で中和し、クロロホルムで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し無水Na2SO4で乾燥した。濾過、減圧濃縮およびシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーにより、J-6を淡橙色固体として809 mg得た。1H-NMR (CDCl3, 500 MHz, δ; ppm) 6.30 (2H, s), 2.78 (3H, s), 2.20 (6H, s).
【0049】
4-(N-メチル-N-ニトロソアミノ)-2,6-ジメチルフェノール (J)の合成
J-6 (600 mg, 3.968 mmol) のAcOH溶液 (20 mL)にNaNO2 (304 mg, 4.406 mmol, 1.1 eq) の水溶液 (60 mL)を氷浴上で添加した。この反応液を氷浴上で10分間撹拌した。この溶液を飽和NaHCO3水溶液中に注ぎ入れ、これをクロロホルムで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水Na2SO4で乾燥した。濾過、減圧濃縮およびシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィー (n-hexane: AcOEt = 1:4)により、Jを淡橙色固体として457 mg (64 %)得た。この固体をn-hexaneと酢酸エチルの混合溶媒から再結晶し、Jの淡橙色結晶を287 mg得た。mp 108.8 - 111.5 °C; 1H-NMR (CDCl3, 500 MHz, δ; ppm) 7.14 (2H, s), 4.75 (1H, s), 3.43 (3H, s), 2.31 (6H, s); 13C-NMR (CDCl3, 125 MHz, δ; ppm) 151.9, 134.8, 124.3, 120.3, 32.6, 16.1; Anal.Calcd for C7H8N2O2 ; C:59.99, H:6.71, N:15.55. Found ; C:59.79, H:6.67, N:15.33; MS (FAB) : m/z 181 [(M+1)+].
【0050】
(実施例3)
実施例3のN−ニトロソアニリン誘導体(K)は、下記合成ルートによって合成した。
【化11】

【0051】
4-アセトキシ-2,6-ジメチルアニリン (K-2)の合成
4-アミノ-3,5-ジメチルフェノール (K-1, 3.997 g, 29.137 mmol)のアセトニトリル溶液 (250 mL)にトリエチルアミン(5 mL, 35.905 mmol, 1.2 eq)、N,N-ジメチル-4-アミノピリジンDMAP (41 mg, 0.336 mmol, 0.01 eq) を添加し、その後無水酢酸 (3.5 mL, 37.026 mmol, 1.3 eq)を加えた。室温で1時間撹拌後、反応液を減圧濃縮し、残渣を酢酸エチルに溶解した。これを水、飽和食塩水で洗浄した後、無水Na2SO4で乾燥した。不溶物を濾去した後、溶液をシリカゲルに通し、溶出液を減圧濃縮することでK-2を褐色固体として3.390 (65 %)得た。1H-NMR (CDCl3, 500 MHz, δ; ppm) 6.68 (2H, s), 3.51 (2H, brs), 2.25 (3H, s), 2.16 (6H, s).
【0052】
4-アセトキシ-2,6-ジメチルホルムアニリド (K-3)の合成
ギ酸(3 mL)および無水酢酸 (3.5 mL)を氷浴上で1時間撹拌した。これに、K-2 (3.390 g, 18.915 mmol)のCH2Cl2溶液 (50 mL)を添加した。室温で40分間撹拌した後、混合液を水、飽和食塩水で洗浄し、無水Na2SO4で乾燥した。濾過および減圧濃縮により、K-3を淡橙色固体として3.708 g (95 %)得た。1H-NMR (DMSO-d6, 500 MHz, δ; ppm) 9.46 (1H, brs), 8.25 (1H, d, J = 1.5 Hz), 6.85 (2H, s), 2.25 (3H, s), 2.14 (6H, s).
【0053】
3,5-ジメチル-4-メチルアミノフェノール (K-4)の合成
LiAlH4 (2.036 g, 60.758 mmol, 3.4 eq)を無水THF (20 mL) に懸濁してスラリー状にし、これにK-3 (3.708 g, 17.893 mmol)の無水THF溶液 (90 mL)を氷浴上かつ窒素雰囲気下添加した。反応液を窒素雰囲気下のまま室温で4時間撹拌した。さらに15分間室温で撹拌後、反応液を水 (2 mL)にゆっくりと加え、更に続けて2N NaOH水溶液 (4 mL)中、さらに水 (6 mL)中へと順次ゆっくりと加えた。これを30分間撹拌した後、析出物をセライトを用いて濾去した。濾液を濃縮した後、残渣に水を加えてクロロホルムで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水Na2SO4で乾燥した。濾過、減圧濃縮およびシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィー (n-hexane:AcOEt = 1:2) によりK-4を淡橙色固体として1.107 g (41 %)得た。1H-NMR (CDCl3, 500 MHz, δ; ppm) 6.51 (2H, s), 2.68 (3H, s), 2.26 (6H, s), 2.15 (1H, s).
【0054】
4-(N-メチル-N-ニトロソアミノ)-3,5-ジメチルフェノール (K)の合成
K-4 (1.107 g, 7.321 mmol)の酢酸溶液 (20 mL)にNaNO2 (653 mg, 1.3 eq) の水溶液 (60 mL)を氷浴上添加した。氷浴上で15分間撹拌した後、反応液を2N NaOH水溶液で中和した。この反応液をクロロホルムで抽出した。有機層を飽和NaHCO3水溶液および飽和食塩水で洗浄後、無水Na2SO4で乾燥した。濾過、減圧濃縮およびシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィー (n-hexane:AcOEt = 3:1→1:1)により、Kを淡橙色固体として981 mg (74 %)得た。この固体をn-hexaneと酢酸エチルの混合溶媒から再結晶し、Kの淡橙色結晶を660 mg (67 %) 得た。 mp 118.1 - 123.4 °C; 1H-NMR (CDCl3, 500 MHz, δ; ppm) (6:5 mixture of two rotamers) (major) 6.58 (2H, s), 4.84 (1H, s), 3.98 (3H, s), 1.96 (6H, s), (minor) 6.65 (2H, s), 4.89 (1H, s), 3.32 (3H, s), 2.10 (6H, s); 13C-NMR (CDCl3, 125 MHz, δ; ppm) (major) 156.1, 137.2, 133.7, 115.2, 35.2, 17.9, (minor) 156.3, 136.0, 115.3, 102.3, 40.0, 17.6; Anal.Calcd for C7H8N2O2 ; C:59.99, H:6.71, N:15.55. Found ; C:59.86, H:6.57, N:15.38; MS (FAB) : m/z 181 [(M+1)+].
【0055】
(実施例4)
実施例4のN−ニトロソアニリン誘導体(L)は、下記合成ルートによって合成した。
【化12】

【0056】
(L-2)の合成
L-1 (999 mg, 4.688 mmol) をアセトニトリル (40 mL) に溶かした溶液にNO2BF4
(880 mg, 6.626 mmol, 1.4 eq) を加え、室温で10分間撹拌した。10分後、反応液に水を過剰量加え、クロロホルムで抽出した。有機層を飽和塩化ナトリウム水で洗い、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶液をろ過し、溶媒留去することによってL-2の白色固体を1.236
g (q. y.) 得た。1H-NMR
(CDCl3, 500 MHz, δ; ppm) 2.44 (6H, s), 2.21 (6H, s).
【0057】
(L-3)の合成
フラスコにL-2 (1.236 g, 4.789 mmol)、Pd2dba3
(171 mg, 0.187 mmol, 0.04 eq)、2-di-tert-butylphosphino-2’-4’-6’-triisopropylbiphenyl
(161 mg, 0.379 mmol, 0.08 eq)、と撹拌子を入れ、密封し、フラスコ内を窒素で置換した。このフラスコにジオキサン
(20 mL)、1規定水酸化カリウム溶液
(20 mL)を加え、窒素雰囲気下、90℃で7時間、撹拌した。冷却後、2規定塩酸を加えて反応液を酸性にし、ろ過後、ろ液を酢酸エチルで抽出した。さらに、有機層を飽和塩化ナトリウム水で洗い、無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥した。溶液をろ過し、溶媒を留去させた後、残渣をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィー
(n-ヘキサン:酢酸エチル
= 9:1)で精製し、L-3の黄色固体を763
mg (82 %) 得た。1H-NMR
(CDCl3, 500 MHz, δ; ppm) 4.85 (1H, s), 2.18 (6H, s), 2.16 (6H, s).
【0058】
(L-4)の合成
L-3 (520 mg,
2.664 mmol) をメタノール (15 mL) に溶かし、Raney Niの懸濁液を2
mL加え、反応フラスコ内を水素ガスで置換した。反応液を13時間、水素ガス雰囲気下で撹拌し、反応溶液をセライトでろ過した。ろ液の溶媒を留去し、残渣をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィー
(n-ヘキサン:酢酸エチル
= 4:1 → 酢酸エチル)
で精製し、L-4の白色固体を292
mg (66 %) 得た。1H-NMR
(CDCl3, 500 MHz, δ; ppm) 4.15 (1H, s), 3.35 (2H, s), 2.20 (6H, s),
2.17 (6H, s).
【0059】
(L-5)の合成
ギ酸 (270 mL,
7.155 mmol, 4.0 eq) と無水酢酸 (200 mL, 2.116
mmol, 1.2 eq) を混ぜ、1時間放置した。この混合液をL-4 (292 mg,
1.767 mmol) のジクロロメタン (15 mL) 懸濁液に加え、15分間撹拌した。そして、反応液にMeOHを加え、溶媒を留去させることにより、L-5の肌色固体を340
mg (q. y.) 得た。1H-NMR
(CDCl3, 500 MHz, δ; ppm) 9.21 (1H, s), 8.20 (1H, d, J = 1.2
Hz), 7.97 (1H, s), 2.08 (6H, s), 1.99 (6H, s).
【0060】
(L-6)の合成
フラスコに水素化アルミニウムリチウム
(215 mg, 5.665 mmol, 3.2 eq)及び撹拌子を入れ、窒素ガスを流して1時間乾燥した後、脱水テトラヒドロフランを5
mL加えた。さらに、L-5
(340 mg, 1.759 mmol) を脱水テトラヒドロフラン (30 mL) に懸濁させた懸濁液を、氷冷下で加えた。反応液を2時間、窒素雰囲気下で、加熱還流しながら撹拌した後、室温まで放冷した。そして反応液に氷冷下で水0.5
mL、2規定水酸化ナトリウム水溶液1
mL、水1.5
mLを順次滴下し、さらに30分間撹拌した。反応液をセライトでろ過し、ろ液の溶媒を留去させた。最後に残渣をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィー
(n-ヘキサン:酢酸エチル
= 4:1 → 酢酸エチル)
で精製し、L-6の白色固体を75
mg (24 %)得た。1H-NMR
(CDCl3, 500 MHz, δ; ppm) 4.40 (1H, br), 2.63 (3H, s), 2.24 (6H, s),
2.18 (6H, s), 1.60 (1H, br).
【0061】
(L)の合成
L-6 (75 mg
0.418 mmol) を酢酸 (3 mL)に溶かし、氷冷下、亜硝酸ナトリウム (37 mg, 1.3
eq)の水溶液
(6 mL) を加えた。反応液を氷冷しながら15分間撹拌し、飽和重曹水を加えた。反応液をクロロホルムで抽出した。有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。ろ過、溶媒留去後、残渣をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィー
(n-ヘキサン:酢酸エチル
= 2:1) で精製し、Lの白色固体を30
mg (34 %) 得た。
mp 161.8-171.0℃
; 1H-NMR
(CDCl3, 500 MHz, δ; ppm) major 4.77 (1H, s), 3.96 (3H, s),
2.16 (6H, s), 1.90 (6H, s), minor 4.84 (1H, s), 3.31 (3H, s), 2.22 (6H,
s), 2.01 (6H, s) (major:minor = 3:2); 13C-NMR (CDCl3,
150 MHz, δ; ppm) 152.5, 152.5, 133.9, 132.4, 130.8, 130.7, 120.5, 120.3, 77.5,
40.4, 35.5, 14.9, 14.7, 12.3; MS (EI-GC) : m/z 178 [(M-30)+].
【0062】
−評 価−
【0063】
以上のようにして合成した実施例1〜3のN−ニトロソアニリン誘導体(I),(J),(K)について、ESRによるスピントラッピング実験を行った。
また、実施例1〜4のN−ニトロソアニリン誘導体(I),(J),(K)及び(L)について、HKGreen-3を用いて光照射によるパーオキシナイトライト(ONOO-)の検出試験を行った。HKGreen-3は香港大学のYang Dan教授らにより報告されたパーオキシナイトライト(ONOO-)選択的蛍光検出薬である(Org. Lett., 2010, 12, 4932-4935)。この試薬は、下記化学式に示すように、パーオキシナイトライト(ONOO-)の求核的な攻撃によって反応を開始し、最終的にRhodol骨格を有する蛍光色素を遊離することによって、蛍光性を示す。今回用いたHKGreen-3はYang Dan教授よりご提供いただいたものを使用した。
【0064】
【化13】

【0065】
以下に実験の詳細を示す。なお、本明細書では、ESR測定において用いた試薬について、以下の略号を用いることがある。
MGD:N-(Dithiocarbamoyl)-N-methyl-D-glucamine, sodium salt
DMPO:5,5-dimethyl-1-pyrroline-N-oxide
PBS:リン酸緩衝生理食塩水
DMF:ジメチルホルムアミド
SOD:スーパーオキシドディスムターゼ
CAT:カタラーゼ
【0066】
<Fe-MGDをスピントラップ剤として用いたNOラジカルの検出>
FeSO4・6H2O (1.5 mM)、MGD (6 mM)、実施例のN−ニトロソアニリン誘導体(100 μM)を含む10 mM PBS 溶液 (pH = 7.0, 共溶媒として1% DMFを含む)を試料溶液として200μL調製し、これに室温で、大気雰囲気下あるいはアルゴン雰囲気下で、光照射を15分間行った。また、上記試料溶液に加えてSOD (1 kU/mL)を添加した溶液についても、同条件で光照射を行った。照射に用いたUltraviolet A (UVA)領域の紫外光は、蛍光顕微鏡 (Olympus BX60/BX-FLA)の100W水銀ランプを光源としてWU filter (330-380 nm バンドパスフィルター)を装着して用いた。減光フィルターは装着せずに照射した。ESRスペクトルは、JES-RE2X spectrometer (日本電子株式会社)を用いて測定した。測定条件は次のように設定した;microwave power, 10mW; frequency, 9.4200 GHz; field, 330 mT; sweep width, 7.5 mT; sweep time, 4 min; modulation width, 0.125 mT; gain, 500; time constant; 0.10 s.
【0067】
この実験では、NOラジカルと結合するFe-MGDをスピントラップ剤として用いているため、NOラジカルを間接的に検出することができる。
結果を図1に示す。空気雰囲気下では、実施例2においてNOラジカルが検出されず、実施例3においては僅かに検出された。なお、実施例2で表れている吸収及び実施例1,3で表れている両サイドの吸収は、標準物質として添加したMn2+の吸収である。一方、アルゴン雰囲気下では実施例1〜3のいずれにおいてもNOラジカルが明確に検出された。さらに、SODを添加した空気雰囲気下では、アルゴン雰囲気下の場合よりも小さいものの、NOラジカルが検出された。以上の結果は、次のように説明することができる。
【0068】
すなわち、空気雰囲気下では、下記反応式に示すように、NOラジカルとスーパーオキシドアニオン(O-)が1:1発生するが、それらは即座に反応してパーオキシナイトライト(ONOO-)となる。このため、NOラジカルはほとんど検出されない。一方、アルゴン雰囲気では酸素がないためスーパーオキシドアニオン(O-)が発生せず、NOラジカルはパーオキシナイトライト(ONOO-)となることなくFe-MGDにトラップされて特有のESR吸収スペクトルが検出される。これにより、間接的にNOラジカルが検出されたこととなる。一さらに、大気雰囲気下であってSODの存在下では、スーパーオキシドアニオン(O-)がさらにSODの存在によって過酸化水素となる。このため、NOラジカルの発生量よりもスーパーオキシドアニオン(O-)の発生量のほうが少なくなり、パーオキシナイトライト(ONOO-)とならなかったNOラジカルが残留する。このため、NOラジカルが少ないながらも検出されるのである。
【0069】
【化14】

【0070】
<DMPOをスピントラップ剤として用いたOHラジカルの検出>
DMPO (10 mM) および化合物 (100 μM)を含む10 mM PBS (pH = 7.0, 共溶媒としてDMFを1%含む)溶液を試料溶液として200 μL調製し、これに室温で15分間光照射した。照射に用いたUltraviolet A (UVA)領域の紫外光は、蛍光顕微鏡 (Olympus BX60/BX-FLA)の100W水銀ランプを光源としてWU filter (330-380 nm バンドパスフィルター)を装着して用いた。減光フィルターは装着せずに照射した。ESRスペクトルは、JES-RE2X spectrometer (日本電子株式会社)を用いて測定した。測定条件は次のように設定した;microwave power, 10mW; frequency, 9.4200 GHz; field, 336.5 mT; sweep width, 7.5 mT; sweep time, 1 min; modulation width, 0.100 mT; time constant; 0.10 s.
【0071】
この実験では、スピントラップ剤としてOHラジカルと結合するDMPOを系に添加しているため、OHラジカルを間接的に検出することができる。
【0072】
結果を図2に示す。空気雰囲気下では、実施例1〜3においてOHラジカルが明確に検出された。一方、アルゴン雰囲気下では実施例1〜3においてOHラジカルは明確には検出されなかった。さらに、SOD及びカタラーゼを添加した空気雰囲気下では、OHラジカルが明確に検出された。以上の結果は、次のように説明することができる。
【0073】
すなわち、空気雰囲気下では、下記反応式に示すように、NOラジカルとスーパーオキシドアニオン(O-)とが1:1で発生し、これらが速やかに反応することでONOO-が生成し、さらにこれが分解してOHラジカルとなり、これがDMPOによってトラップされて特有のESR吸収スペクトルが検出される。これにより、間接的にOHラジカルが検出されたこととなる。一方、アルゴン雰囲気では酸素がないためスーパーオキシドアニオン(O-)が生成しないためOHラジカルは発生しない。さらに、大気雰囲気下であってSOD及びCAT(カタラーゼ)の存在下では、スーパーオキシドアニオン(O-)が過酸化水素となり、さらに過酸化水素がカタラーゼの触媒作用によって酸素と水に分解する。このため、OHラジカルはほとんど検出されないのである。
【0074】
以上のFe-MGDをスピントラップ剤として用いたNOラジカルの検出及びDMPOをスピントラップ剤として用いたOHラジカルの検出の実験結果から、実施例1〜3のN−ニトロソアニリン誘導体(I),(J),(K)は、空気存在下において光照射することにより、パーオキシナイトライト(ONOO-)の生成を経て高反応性ROSが発生することが間接的に明らかとなった。それらの中でも実施例2のN−ニトロソアニリン誘導体 (J)は、特にすぐれた高反応性ROS発生機能を有することが分かった。
【0075】
<HKGreen-3によるパーオキシナイトライト(ONOO)生成の検出>
(酸素存在下)
実施例1〜4のN−ニトロソアニリン誘導体およびHKGreen-3をそれぞれ10μMとなるようリン酸カリウムバッファー(10 mM, pH 7.5, 共溶媒として1% DMFを含む)に溶解し、空気飽和下においてキセノンランプ(300W)を光源とした光照射装置を用いて、325 nm-385 nmの光を15分間照射した。これを直ちに蛍光分光光度計(励起波長520 nm、蛍光波長535 nm)で蛍光強度測定を行った。また、N−ニトロソアニリン誘導体を添加しない条件であるcontrolについても同様に試験を行った。
【0076】
その結果、図3に示すように、実施例2〜4のN−ニトロソアニリン誘導体について蛍光強度の上昇が認められた。特に実施例4のN−ニトロソアニリン誘導体は蛍光強度の上昇が著しかった。なお、実施例1については蛍光強度の上昇が認められなかったが、NOラジカル及びOHラジカルは実施例1でも検出されていることから(図1及び図2参照)、HKGreen-3によるパーオキシナイトライト(ONOO)生成の検出感度が低いことによるものと考えられる。
【0077】
(酸素存在下と無酸素下との比較)
また、実施例4のN−ニトロソアニリン誘導体について、空気飽和下およびアルゴン飽和下でのHKGreen-3によるパーオキシナイトライト(ONOO)の検出試験を行った。なお、controlはアルゴン飽和下においてN−ニトロソアニリン誘導体を添加しなかった場合である。
【0078】
その結果、図4に示すように、N−ニトロソアニリン誘導体を添加しないcontrolでは蛍光強度が変わらなかったのに対して、N−ニトロソアニリン誘導体を添加した場合には蛍光強度が有意に上昇し、パーオキシナイトライト(ONOO)が光照射依存的に化合物から生成することが分かった。これに対して、無酸素下であるアルゴン飽和下では、N−ニトロソアニリン誘導体を添加しないcontrolの蛍光強度と同じであり、蛍光強度の上昇は認められなかった。以上の結果から、N−ニトロソアニリン誘導体から光依存的に生成するパーオキシナイトライト(ONOO)は系中の酸素を利用することが示され、パーオキシナイトライト(ONOO)の発生がNOラジカルとスーパーオキシドアニオン(O-)との反応によるものであることが強く示唆された。
【0079】
この発明は上記発明の実施の態様及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、高反応性ROSの発生剤の研究用試薬、医薬品に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(a)で示されることを特徴とするN−ニトロソアニリン誘導体(ここで、R、R、R及びRは互いに同じ又は異なっていてもよい水素又はアルキル基を示し、Rはアルキル基、カルボン酸基、カルボン酸エルテル基及びカルボン酸アミド基のいずれかであることを示す。ただし、R=R=R=メチル基であって且つR=R=水素である場合、及びR=メチル基であって且つR=R=R=R=水素である場合を除く。)。
【化1】

【請求項2】
はアルキル基であることを特徴とする請求項1記載のN−ニトロソアニリン誘導体。
【請求項3】
=Rであり、R=Rであることを特徴とする請求項1又は2に記載のN−ニトロソアニリン誘導体。
【請求項4】
及びRは水素又はメチル基であることを特徴とする請求項3に記載のN−ニトロソアニリン誘導体。
【請求項5】
及びRは水素又はメチル基であることを特徴とする請求項3に記載のN−ニトロソアニリン誘導体。
【請求項6】
、R、R、R及びRはメチル基であることを特徴とする請求項3に記載のN−ニトロソアニリン誘導体。
【請求項7】
下記構造式(a)で示されるN−ニトロソアニリン誘導体(ここで、R、R、R及びRは互いに同じ又は異なっていてもよい水素又はアルキル基を示し、Rはアルキル基、カルボン酸基、カルボン酸エルテル基及びカルボン酸アミド基のいずれかであることを示す。)からなることを特徴とする高反応性ROS発生剤。
【化2】

【請求項8】
請求項7の高反応性ROS発生剤に光を照射することによって高反応性ROSを発生させることを特徴とする高反応性ROSの発生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−188412(P2012−188412A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131937(P2011−131937)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(506218664)公立大学法人名古屋市立大学 (48)
【Fターム(参考)】