説明

N−ハロゲノアセチルピロリジン−2−カルボニトリルの製造法

【課題】工程数が少なく、かつ高純度のN−ハロゲノアセチルピロリジン−2−カルボニトリル(2)を高収率で製造する方法を提供する。
【解決手段】S−ピロリジン−2−カルボニトリル類又はその塩に、疎水性有機溶媒と水の混合溶媒中、塩基の存在下、ハロゲノアセチルハライドを反応させることを特徴とする。


(式中、n個のR1は同一又は異なって水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、又はハロゲノ低級アルキル基を示し、nは1〜3の数を示す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品の製造中間体として有用なS−N−ハロゲノアセチルピロリジン−2−カルボニトリルの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジペプチジルペプチダーゼIV(DPP−IV)阻害剤は、インスリン分泌促進ホルモンであるGLP−1の分解を抑制し、GLP−1の作用を強めることから、インスリン抵抗性であるII型糖尿病の治療薬として重要である。かかるDPP−IV阻害剤の中には、その構造中にN−アセチルピロリジン−2−カルボニトリル構造を有するものが多い(特許文献1〜3)。
【0003】
これらのDPP−IV阻害剤の製造にあたっては、N−ハロゲノアセチルピロリジン−2−カルボニトリルを経由することが多いことから、当該化合物は多くのDPP−IV阻害剤の製造中間体として重要である。当該N−ハロゲノアセチルピロリジン−2−カルボニトリルの製造法としては、(1)ピロリジン−2−カルボキサミドを原料として用い、トリエチルアミン及びジメチルアミノピリジンの存在下、この原料にハロゲノアセチルハライドを反応させて、N−ハロゲノアセチルピロリジン−2−カルボキサミドを得、次いで当該カルボキサミドを、トリフルオロ酢酸無水物を用いてニトリルに変換する方法(特許文献1及び2)、(2)ピロリジン−2−カルボニトリルを原料して用い、N,N−ジイソプロピルエチルアミン又はトリエチルアミンの存在下、塩化メチレン中で、この原料にハロゲノアセチルハライドを反応させる方法(特許文献3)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開 WO98/19998号パンフレット
【特許文献2】国際公開 WO2004/067509号パンフレット
【特許文献3】国際公開 WO2003/002553号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記(1)の方法では、原料としてピロリジン−2−カルボキサミドを用いることから、工程数が多く、結果として収率が低くなるという問題がある。一方、前記(2)の方法では、原料としてピロリジン−2−カルボニトリルを用いるため工程数が少ないものの、反応の制御が困難であり、得られる生成物中には不純物が多く含まれてしまうという問題がある。
従って、本発明の課題は、工程数が少なく、かつ高純度のN−ハロゲノアセチルピロリジン−2−カルボニトリルを高収率で製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、ピロリジン−2−カルボニトリルを原料として用いる方法について検討したところ、ハロゲノアセチルハライドは加水分解を受けやすく、含水溶媒系で反応を行うことは困難と考えられていたところ、疎水性有機溶媒と少量の水との混合溶媒中で反応を行えば、全く意外にもハロゲノアセチルハライドの分解は概ね抑制され、生成物が疎水性有機溶媒中に移行することで、高純度かつ高収率でN−ハロゲノアセチルピロリジン−2−カルボニトリルが得られ、精製工程が容易であり、工業的に有利であることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、一般式(1)
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、n個のR1は同一又は異なって水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、又はハロゲノ低級アルキル基を示し、nは1〜3の数を示す)
で表されるS−ピロリジン−2−カルボニトリル類又はその塩に、疎水性有機溶媒と水の混合溶媒中、塩基の存在下、ハロゲノアセチルハライドを反応させることを特徴とする一般式(2)
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、Xはハロゲン原子を示し、R1及びnは前記と同じ)
で表されるS−N−ハロゲノアセチルピロリジン−2−カルボニトリルの製造法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明方法によれば、医薬品の製造中間体として有用な高純度のS−N−ハロゲノアセチルピロリジン−2−カルボニトリルが、少ない工程数で、高収率で得られる。また、反応終了後の目的物の単離操作が簡便であり、煩雑な後処理を必要としないこと、また反応系がクリアであり溶剤の回収が容易であることから工業的にも有利である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
一般式(1)及び(2)中のn個のR1は、同一又は異なって水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基又はハロゲノ低級アルキル基を示す。ここでハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられるが、フッ素原子が好ましい。低級アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基等の炭素数1〜6のアルキル基が挙げられ、このうち炭素数1〜4のアルキル基がより好ましい。ハロゲノ低級アルキル基としては、ハロゲノC1−C6アルキル基が挙げられ、ハロゲノC1−C4アルキル基がより好ましく、具体的にはトリクロロメチル基、トリフルオロメチル基、トリブロモメチル基等が挙げられる。
【0014】
一般式(1)及び(2)中のnとしては、1〜3の数が挙げられるが、1又は2がより好ましい。
【0015】
上記一般式(1)及び(2)中のR1としては、水素原子、フッ素原子、C1−C4アルキル基又はハロゲノC1−C4アルキル基が好ましく、さらに水素原子又はフッ素原子がより好ましく、水素原子が特に好ましい。
【0016】
S−ピロリジン−2−カルボニトリル類の塩としては、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸塩、酢酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、酒石酸、カンファースルホン酸等の有機酸塩が挙げられるが、無機酸塩が好ましく、特に塩酸塩が好ましい。
【0017】
本発明方法に用いられるハロゲノアセチルハライドとしては、クロロアセチルクロリド、ブロモアセチルブロミドが挙げられる。
【0018】
本発明の反応は、疎水性有機溶媒と水との混合溶媒中で行われる。疎水性有機溶媒としては、水と相互に混じり合わない有機溶媒であればよく、例えば酢酸アルキル等のエステル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒が挙げられる。これらの有機溶媒は、塩化メチレンのように塩素原子を含有しないため安全性、環境への影響、腐食性等から、好ましい。このうち、酢酸アルキルがより好ましく、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピルまたは酢酸イソプロピルがさらに好ましく、酢酸エチルが特に好ましい。
【0019】
前記混合溶媒における疎水性有機溶媒(A)と水(B)との混合容量比(A:B)は、100:1〜100:20であるのが好ましく、100:2〜100:10がより好ましく、100:5〜100:10が特に好ましい。水の量が多すぎる場合には、原料であるハロゲノアセチルハライドの加水分解が進行してしまう。一方、有機溶媒のみでは、反応の制御が困難であり、副反応も生じてしまう傾向がある。本発明においては、ハロゲノアセチルハライドが有機溶媒層に存在し、当該ハロゲノアセチルハライドが、原料である式(1)の化合物と塩基を含む少量の水層に移行した瞬間に反応が進行し、生成した式(2)の化合物は有機溶媒層に移るため、副反応が抑制されるものと考えられる。
【0020】
本発明に用いられる塩基としては、水層中に存在させる点から無機塩基が好ましく、さらに炭酸アルカリ又は炭酸水素アルカリが好ましい。より具体的な塩基としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムが挙げられる。
【0021】
反応に際して、式(1)の化合物とハロゲノアセチルハライドの使用量は、式(1)の化合物1モルに対してハロゲノアセチルハライドは1.2〜2.5モルが好ましく、1.5〜2.0モルがより好ましい。前記混合溶媒の使用量は、式(1)の化合物の1質量部に対して5〜15容量/質量倍が好ましく、8〜12容量/質量倍がより好ましい。また塩基の使用量は、式(1)の化合物1モルに対して1.2〜2.0モルが好ましく、1.6〜1.8モルがより好ましい。
【0022】
反応温度は、反応の進行と副反応防止の点から0〜40℃が好ましく、0〜10℃がより好ましい。また、反応時間は1〜24時間が好ましく、1〜5時間がより好ましい。なお、塩基は、粉末状のものを使用してもよいが、水溶液として用いてもよい。
【0023】
反応終了後、式(2)の化合物を反応混合物から単離するには、有機溶媒に対し6割程度の水を加え、有機層を分離した後濃縮することにより、あるいは有機層にn−へキサンやn−ヘプタン等の貧溶媒を適量加えることにより、目的物を晶析採取するのが好ましい。
【0024】
得られた式(2)の化合物は、純度が高いので、医薬品の製造中間体として特に有用である。
【実施例】
【0025】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
【0026】
実施例1〜4及び比較例1
S−ピロリジン−2−カルボニトリル塩酸塩1g(7.54mmol)及びクロロアセチルクロリド1.70g(15.1mmol)を酢酸エチル10mLに加えて撹拌した。この懸濁液を5℃に冷却しながら、炭酸カリウム1.67g(12.1mmol)及び水0.1〜2mLを添加した。3〜18時間撹拌した後、水5.5mLを加えて反応を終結させ、有機層と水層を分離した。
逆相HPLC法により、水層及び有機層中のS−N−クロロアセチルピロリジン−2−カルボニトリル量を定量し、合計量を収率とした。
得られた結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1から明らかなように、水を添加せず疎水性有機溶媒だけで反応させた場合に比べて、疎水性有機溶媒に水を加えて混合溶媒として反応を行うと収率が向上することがわかる。また水の添加量は酢酸エチルに対して1〜20%(対酢酸エチル容量比、以下同様)が良好であり、5〜10%が特に良好である。
【0029】
実施例5〜9
水の添加量を酢酸エチルに対して5%に固定し、炭酸カリウムの添加量を変化させる以外は、実施例1〜4と同様に反応を行った。その結果を表2に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
表2から明らかように、炭酸カリウムの添加量は式(1)の化合物1モルに対して1.2〜2.0モルでもよいが、1.6〜1.8モルが良好であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、n個のR1は同一又は異なって水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、又はハロゲノ低級アルキル基を示し、nは1〜3の数を示す)
で表されるS−ピロリジン−2−カルボニトリル類又はその塩に、疎水性有機溶媒と水の混合溶媒中、塩基の存在下、ハロゲノアセチルハライドを反応させることを特徴とする一般式(2)
【化2】

(式中、Xはハロゲン原子を示し、R1及びnは前記と同じ)
で表されるS−N−ハロゲノアセチルピロリジン−2−カルボニトリルの製造法。
【請求項2】
混合溶媒が、疎水性有機溶媒(A)と水(B)の混合容量比(A:B)が100:1〜100:20の混合溶媒である請求項1記載の製造法。
【請求項3】
混合溶媒が、疎水性有機溶媒(A)と水(B)の混合容量比(A:B)が100:5〜100:10の混合溶媒である請求項1又は2記載の製造法。
【請求項4】
疎水性有機溶媒が、酢酸アルキル、ベンゼン、キシレン及びトルエンから選ばれる1種又は2種以上である請求項1〜3のいずれか1項記載の製造法。
【請求項5】
塩基が、炭酸アルカリ又は炭酸水素アルカリである請求項1〜4のいずれか1項記載の製造法。

【公開番号】特開2013−56872(P2013−56872A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197553(P2011−197553)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(000144577)株式会社三和化学研究所 (29)
【Fターム(参考)】