説明

N−パルミトイル−バニルアミドを含有する局所使用用薬理学的製剤

【課題】ヒト及び動物分野における神経障害性炎症及び慢性炎症、又は神経障害性疼痛を特徴とする疾患において、有効性及び安全性の両方において、カプサイシンよりも優れた抗痛覚過敏性の医薬製剤を提供すること。
【解決手段】N−パルミトイル−バニルアミドが、外因性及び内因性の侵害受容親和的で、且つ炎症誘発性の刺激によって作動される活性化から、TRPV1を脱感作できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗痛覚過敏活性を有するN−パルミトイル−バニルアミドを含有する局所用製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
バニロイド1型一過性受容体電位(TRPV1)チャネルは、非特異的な陽イオンチャネルであり、また侵害受容性の熱温度知覚及び炎症性痛覚過敏において、主要な役割を果たす。そのチャネルは、Aδ型及びC型の無髄性知覚線維、及び脊髄において大量に発現され、また脊髄後根神経節の末梢求心性線維におけるその活性化は、カルシウムの流入、脱分極及び、カルシトニン遺伝子関連ペプチド及びサブスタンスPなどの発痛ペプチドの局所的放出、並びに疼痛伝達の上行路の活性化を引き起こす。TRPV1チャネルは、とうがらし(Capsicum annum)の辛味成分であるカプサイシンの侵害受容親和的(pronociceptive)で熱痛疑似的な作用の作用メカニズムに関する研究により発見された。慢性疼痛状態の間の上方調節とは別に、TRPV1はいくつかのリン酸化/活性型、及び脱リン酸化/不活性型で存在しており、これらの前者のみが、チャネルポアを介して細胞外カルシウムのニューロン中へのゲート通過、及びその後の脱分極を媒介することができる。TRPV1のリン酸化反応は、主にタンパク質キナーゼC及びAを介して、いくつかの発痛メディエーターによって誘発でき、この反応は、PI3キナーゼ又はホスホリパーゼCの活性化を介して得られるホスファチジル−イノシトール二リン酸の持続的阻害作用からのチャネルの解放と共に、温度、低pH(プロトン)、内因性アゴニスト(エンドバニロイド)及びカプサイシンのような毒素の作用に対する感作の主要な分子メカニズムである。カルシウムの流入はまた、カルシニューリンなどのCa2+感受性タンパク質ホスファターゼの作用を介して、チャネルの脱感作を引き起こす。したがって、TRPV1はそのアゴニストによって、侵害熱刺激(noxious heat)又は内因性の発痛メディエーターによる更なる刺激に対して不応性になり、こうして逆説的な抗痛覚過敏性作用に至るが、これが慢性疼痛に対してカプサイシン系クリーム剤を使用することの基礎となる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
パルバニルという名前で知られ、非常に安定な合成TRPV1アゴニストであるN−パルミトイル−バニルアミドは、刺激作用を示すことなく、且つ侵害受容のインビボ試験において抗侵害受容活性を示すことなく、侵害受容親和的で炎症誘発性の外因性及び内因性刺激によって作動される活性化から、TRPV1を脱感作できることが今や発見された。
【0004】
カプサイシンと比較すると、パルバニルはHEK293−TRPV1細胞における細胞内カルシウムのTRPV1媒介上昇のモニタリングで評価した場合、TRPV1活性化の速度が遅いことを示し、HEK293−TRPV1細胞における、TRPV1のカプサイシン誘発、及びアナンダミド/pH誘発活性化の脱感作に、有意に効力があることが観察され、その最大脱感作効果はより迅速な開始が認められた。TRPV1が上方調節され、アナンダミドが過剰産生され、pHが低下する「炎症経路」において生じ得る状態をいくらか模倣した、アナンダミド0.25μM+pH6.5に対する、パルバニルによる強力な脱感作効果が、18倍高い濃度で50%阻害を起こしたカプサイシンと比較すると、0.5nMという低いパルバニル濃度において観察された。3)カプサイシンとは異なり、パルバニルはアイワイピングアッセイにおいて刺激性が全くない。4)それ自体非刺激性であるが、このアッセイにおいては、パルバニルは長期持続的且つ用量依存的に、TRPV1アンタゴニストによって拮抗されるように、カプサイシン誘発性の応答を阻害する。ヒト及び動物分野における神経障害性炎症及び慢性炎症、又は神経障害性疼痛を特徴とする疾患において、パルバニルを用いると、有効性及び安全性の両方において、カプサイシンよりも優れた抗痛覚過敏性の医薬製剤を得ることが可能なことを示しているので、これらは非常に意義のある、革新的な結果である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1A】カプサイシン及びパルバニルによる、TRPV1が媒介する細胞内[Ca2+]の上昇速度を示す図である。パルバニル及びカプサイシンの様々な濃度における、HEK−293−TRPV1細胞中の細胞内カルシウムの最大上昇を生じさせる所用時間。データはn=4の異なる決定値の平均値±SEMである。ANOVAとそれに続くボンフェローニ(Bonferroni’s)検定(P<0.05)によって評価したところ、パルバニルの値は、カプサイシンの値とは常に有意に異なっていた。
【図1B】カプサイシン及びパルバニルによる、TRPV1が媒介する細胞内[Ca2+]の上昇速度を示す図である。1μMのカプサイシン(実線)及びパルバニル(点線)による細胞内カルシウムの上昇速度。矢印は、細胞に化合物を投与した時点を表している。
【図2】HEK−293−TRPV1細胞中の細胞内カルシウムに対するカプサイシン(10nM)効果の、カプサイシン及びパルバニルによる脱感作に関する用量応答曲線を示す図である。データはn=4の異なる決定値の平均値±SEMである。ANOVAとそれに続くボンフェローニ検定(P<0.05)によって評価したところ、パルバニルの値は、log][アゴニスト]が−9から−8の範囲において、カプサイシンの値とは有意に異なっていた。
【図3】カプサイシン又はパルバニルを用いた細胞の様々なプレインキュベーション時間後に測定した場合の、HEK−293−TRPV1細胞中の細胞内カルシウムに対するカプサイシン(10nM)効果のそれぞれの化合物による脱感作の程度を示す図である。データはn=4の異なる決定値の平均値である。SEM線は図示しておらず、常に平均値の<5%であった。ANOVAとそれに続くボンフェローニ検定(P<0.05)によって評価したところ、すべての時間において、パルバニルの値は、カプサイシンの値とは有意に異なっていた。
【図4A】pH7.4及び6.5における、アナンダミド0.5μMによるHEK−293−TRPV1細胞中の細胞内カルシウムに対する効果に及ぼす、パルバニル又はカプサイシンの用量依存効果を示す図である。データはn=4の異なる決定値の平均値である。SEM線は図示しておらず、常に平均値の<5%であった。
【図4B】pH6.5における、アナンダミド0.25μMによるHEK−293−TRPV1細胞中の細胞内カルシウムに対する効果に及ぼす、パルバニル又はカプサイシンの用量依存効果を示す図である。データはn=4の異なる決定値の平均値である。SEM線は図示しておらず、常に平均値の<5%であった。
【図5】左眼にカプサイシン(CAP)溶液(10μg/ml)を点眼することによって誘発されるワイピング動作の回数に対する、パルバニル(10及び30μg/ml)の単独による、又は5’−ヨード−レシニフェラトキシン(I−RTX)での予備処置(1μg/ml)後における効果を示す図である。パルバニルは、カプサイシン点眼の1、3及び6時間前に投与し、I−RTXはパルバニルの30分前に投与した。データは、1群あたりn=6のマウスの平均値±S.E.Mとして表される。*は、CAP処置マウスに対してP<0.05、及び°は、パルバニル処置マウスに対してP<0.05を示す。一元配置ANOVA、事後テューキー法(Tukey’s)。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明の目的は、ほ乳類における炎症性及び神経障害性の痛覚過敏の処置に使用するためのN−パルミトイル−バニルアミドである。
【0007】
本発明の更なる目的は、ヘルペス後神経痛、三叉神経痛、後頭神経痛、歯性神経痛、舌咽神経痛(glottofaryngeal neuralgia)、尿毒性神経痛、糖尿病性神経痛、発生源の異なる頭痛、神経障害性掻痒、神経因性掻痒、尿毒性掻痒、外陰部痛(vulvodinia)、外陰部前庭炎、肛門直腸の(ano−rettal)疼痛及び掻痒、亀頭包皮の疼痛及び掻痒、イヌ及びネコの有痛性の泌尿生殖器障害、乾癬が関与する掻痒及び疼痛、ヒト及び動物分野における掻痒性の皮膚疾患(例えば、アトピー性皮膚炎)、筋肉痛、腱痛、ヒト、イヌ及びネコにおける変形性関節炎に関連する疼痛、ヒト及び動物分野における有痛性の眼の疾患、ヒト及び動物分野における口腔の炎症性病変から選択される病変の処置に使用するためのN−パルミトイル−バニルアミドである。
【0008】
一実施形態によれば、ヒトにおける口腔の前記炎症性病変は、歯肉炎、歯周炎、口内炎、移植後疼痛、口腔灼熱症候群である。
【0009】
一実施形態によれば、動物分野における口腔の前記炎症性病変は、イヌ及びネコの歯肉炎、歯周炎、歯肉口内炎、及びネコ破歯細胞性吸収病巣(FORL)である。
【0010】
本発明の他の目的は、ほ乳類における炎症性及び神経障害性の痛覚過敏の処置に使用するためのN−パルミトイル−バニルアミドを含有する局所用製剤である。
【0011】
N−パルトイル−バニルアミドは公知の薬物であり、且つ、本明細書の実施例で開示された方法などの、従来の方法に準拠して調製され得る。
【0012】
本発明による局所用組成物は、クリーム剤、ゲル剤、ローション剤、耳施用のための点剤、貼付剤、眼洗浄剤、口腔洗浄剤、座剤の形態、又は任意の他の適切な医薬剤型とすることができ、且つ従来の添加剤を含有してもよい。本発明の局所用組成物の調製は、Remington’s Pharmaceutical Sciences Handbook、Mack Pub.Co.、NY、米国、第17版、1985年に記載されている技術などの、周知の技術に準拠して実施することができる。
【0013】
組成物は、アデルミドロール、トランス−トラウマチン酸、メントール、ヒアルロン酸若しくはその塩、又はビタミンAなどの追加の活性成分を含有してもよい。
【0014】
パルバニルは、体重が約70kgの対象に、投薬量単位あたり0.1mgから1gの間、好ましくは1mgから100mgの間の投薬量で投与し得る。投薬量単位は、例えば1日に1回から4回投与してよい。処置される病変及び患者の状態に応じて、投薬量は調節し得る。本発明の組成物は、0.05重量%から5重量%のN−パルミトイル−バニルアミドを含むことができる。
【実施例】
【0015】
(例1)
N−パルミトイル−バニルアミド(パルバニル)の調製
4−ヒドロキシ−3−メトキシベンジルアミン塩酸塩4.475g及び4−メチルモルホリン0.556gをジメチルホルムアミド10mlに0℃で溶解させる。パルミトイルクロリド0.605gのクロロホルム5ml溶液を、連続撹拌しながら30分かけてゆっくり滴下して加える。
【0016】
得られた混合物を0℃で一晩撹拌し、次に25mlの水を加えて、この混合物を酢酸エチル10mlで3回抽出する。
【0017】
有機相を1N塩酸5mlで2回及び水4mlで2回洗浄し、次いで有機相を合わせて、動物性活性炭で脱色し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、真空下で蒸発させる。
【0018】
残渣をtert−ブチルメチルエーテル7mlから結晶化させ、濾過によって分離した生成物を冷tert−ブチルメチルエーテル3mlで2回洗浄し、最後に高真空下で乾燥する。
【0019】
反応収率は約91%である。
【0020】
生成物N−(4−ヒドロキシ−3−メトキシベンジル)パルミトイルアミドの物理化学的特性は以下の通りである。
物理的状態:白色結晶性粉末
実験式:C24H41NO3
分子量:391.60
元素分析:C=73.61%、H=10.55%、N=3.58%、0=12.26%
有機溶媒への溶解度:DMSO中>10mg/ml、エタノール中>10mg/ml
水への溶解度:やや溶けにくい
TLC:65/30/5のトルエン/エタノール/酢酸の溶離液でRf=0.65。
【0021】
TRPV1が媒介する細胞内[Ca2+]の上昇のアッセイ
HEK−293細胞を安定的に過剰発現する組換えヒトTRPV1をG−418(ジェネティシン、600μg/ml)によって選択し、100mmの直径のペトリ皿上、非必須アミノ酸、10%ウシ胎児血清、及び2mMグルタミンを補った最小必須培地中で単層として成長させ、37℃において5%のCO2で維持した。実験当日に、0.02%Pluronic F−127(Invitrogen)を含有するジメチルスルホキシド中4μMの細胞質カルシウム指示薬Fluo−4AM(Invitrogen)を、細胞に25℃において1時間ロードした。ロードした後、細胞をTyrode’s緩衝液(145mM NaCl、2.5mM KCl、1.5mM CaCl、1.2mM MgCl、10mM D−グルコース及び10mM HEPES、pH7.4)中で2回洗浄し、同じ緩衝液に再懸濁して、連続撹拌しながら蛍光分光光度計(励起λ=488nm、発光λ=516nm)(Perkin−Elmer LS50B)の石英キュベットに移した。実験は、様々な濃度の化合物の添加前後に細胞の蛍光を測定することにより実施した。試験化合物の効力(EC50値)は、[Ca2+]iの最大半数の増加を生じさせるために必要な試験物質の濃度として決定した。アゴニストの有効性は、これらの効果を、4μMのイオノマイシンで観察された類似の効果と比較することによって決定した。アンタゴニスト挙動は、アゴニスト(カプサイシン又はアナンダミド)の5分前に石英キュベットに化合物を添加することによって、異なるpH値におけるカプサイシン(10nM)又はアナンダミド0.5及び0.25μMについて評価した。データは、アゴニスト効果の50%阻害(IC50)を発揮する濃度として表した。アゴニスト単独によって発揮される[Ca2+]iに対する効果を100%と見なした。決定はすべて、少なくとも3回実施した。用量応答曲線は、傾きが変化するS字形回帰にあてはめた。曲線のあてはめ及びパラメータ評価は、GraphPad Prism(GraphPad Software Inc.、San Diego、CA)を用いて実施した。
【0022】
マウスでのアイワイピングアッセイ
パルバニルの疼痛誘発効力は、ラットについて以前に記載されたプロトコール(Szallasi A、Blumberg PM. Neuroscience、1989年、30巻、515〜520頁)と同様のプロトコールを用いて、マウスでのアイワイピングアッセイによって決定し、カプサイシン誘発性ワイピングに対するその効果も同様に評価した。雄のCD1マウス(体重25g)を管理された照明環境に維持し、動物6匹の群を各処置のために用いた。動物は左眼に薬物の点眼(10μl)を受け、1度だけ処置するために使用した。眼への薬物点眼後のアイワイピング動作の回数を、刺激の指標と見なした。さらに、眼に溶液で滴下されるカプサイシン(10μg/ml)単独に対する、又はパルバニル後又はTRPV1アンタゴニストである5’−ヨード−レシニフェラトキシン(I−RTX)後にカプサイシンに対するアイワイピングの反射作用を点眼後30秒間決定した。動物は以下のように処置した。
カプサイシン(10μg/ml)
カプサイシン(10μg/ml)+パルバニル(10及び30μg/ml)
I−RTX(1μg/ml)+パルバニル(10及び30μg/ml)+カプサイシン(10μg/ml)
I−RTX(1μg/ml)
【0023】
I−RTXの用量はパイロット実験に基づいて選択し、またカプサイシンそれ自体10μg/mlの効果に拮抗しないアンタゴニストの最大用量であった。
【0024】
結果
カプサイシン及びパルバニルによる、TRPV1が媒介する細胞内[Ca2+]の上昇速度
カプサイシン及びパルバニルは様々な濃度で添加され、細胞内カルシウムの用量依存的な増加を生じさせ、それぞれEC50=3.9±0.4nM及び0.65±0.04nMであった。様々な濃度において、TRPV1が媒介する総カルシウム流入の90%をアゴニストが達成するのに必要な時間を本発明者らが解析すると、カプサイシンによるTRPV1の活性化の方が常に、パルバニルによって得られる活性化よりも常に有意に速くなり、差は1μMで最大となることが判った(図1A及び1B)。
【0025】
カプサイシン誘発性のTRPV1が媒介する細胞内[Ca2+]の上昇に対するパルバニル及びカプサイシンの効果
本発明者らは、カプサイシンに曝露させる5分前に、パルバニル及びカプサイシンを細胞に投与し、10nMのカプサイシンによって誘発されるTRPV1媒介性の細胞内Ca2+の上昇に対するこれらの2種の化合物の脱感作効果を評価した。パルバニルは、カプサイシンよりも有意により強力にカプサイシンの効果に対してTRPV1を脱感作した(IC50は、それぞれ0.81±0.07及び3.8±0.5nM、P<0.01)(図2)。
【0026】
次に本発明者らは、TRPV1が媒介して細胞内カルシウムを上昇する10nMのカプサイシン刺激に対する2種のTRPV1アゴニストの脱感作効果に対する予備インキュベーション時間の影響を評価した。2nMパルバニル及び10nMカプサイシン(それらの濃度自体が、細胞内カルシウムの同様な上昇を生じさせる)の効果を比較した。パルバニルの脱感作効果は、50分の予備インキュベーションでほぼ最大に達した一方、カプサイシンは有意に明白度の低い脱感作効果を生じさせ、5時間のインキュベーションでのみ増加する傾向にあった(図3)。したがって、パルバニル及びカプサイシンは、時間依存性が異なる脱感作能力を示す。
【0027】
アナンダミド/低pH誘発性のTRPV1が媒介する細胞内[Ca2+]の上昇に対するパルバニル及びカプサイシンの効果
生理的pH(7.4)及び酸性pH(6.5)における、内因性のアゴニストであるアナンダミドによって誘発されるTRPV1媒介性の細胞内Ca2+の上昇に対するパルバニル及びカプサイシンの効果を評価した。用量応答曲線から、パルバニル及びカプサイシンのいずれも予備インキュベートすると0.5μMのAEAの活性に対して強力な脱感作効果を有することが示される。生理的pH(パルバニル及びカプサイシンに対するIC50は、それぞれ0.9±0.1nM及び7.4±0.3nM)及び酸性pH(パルバニル及びカプサイシンに対するIC50は、それぞれ0.3±0.01nM及び3.8±0.06nM)のいずれでも、この効果は、カプサイシンと比較するとパルバニルでより明らかである。低い方のpHで、いずれの化合物もより大きな阻害活性を有するが、パルバニルはこのpHにおいて90倍も強力であり、カプサイシンはわずか約2倍強力であるに過ぎなかった。両方のpH値において、パルバニルは1nMという低い濃度で著しい阻害効果(>50%)を有することに留意されたい(図4A)。同様に、より低い濃度(0.25mM)でアナンダミドを使用した場合、酸性pHでは、パルバニルの脱感作効果はやはりカプサイシンよりも顕著であった(パルバニル及びカプサイシンに対するIC50は、それぞれ0.5±0.02及び8.9±0.3nM)(図4B)。
【0028】
マウスでのアイワイピングに対する局所的なカプサイシン及びパルバニルの効果
マウスにおける局所的なパルバニルの疼痛発生効果を評価するために、アイワイピング試験をインビボの刺激試験として使用した。本発明者らは、パルバニル溶液(10及び30g/ml)を眼に点眼しても、マウスではいかなるアイワイピング反射作用も誘発しないことを見出し、本化合物には刺激が全くないことを示した(図5)。反対に、カプサイシン溶液(10μg/ml)を投与すると、30秒以内にモニタリングされる12±0.9回のワイピング動作を引き起こした。しかし、同一の眼に、カプサイシンの1時間及び3時間前に実施したパルバニル処置(10及び30μg/ml)により、疼痛挙動がそれぞれ8.2±0.9及び6.7±0.7、並びに7.0±0.9及び6.0±0.8へと有意に低減した(図5)。この効果は、それ自体何ら反射作用を引き起こさないI−RTX(1μg/ml)で予備処置することによって、完全に元に戻った。
【0029】
医薬製剤の実施例
(例1)−傷のある皮膚に施用するためのクリーム剤
100gに以下のものを含有する。
パルバニル 0.50g
ビタミンEアセテート 2.00g
ヒアルロン酸ナトリウム 0.02g
ブロノポール 0.005g
水素化ひまし油 1.50g
ノベオン AA1 1.60g
水 100.00gとする量
【0030】
(例2)−健康な皮膚に施用するためのクリーム剤
100gに以下のものを含有する。
パルバニル 0.50g
PEG−5植物性ステロール 4.50g
ステアリン酸 3.00g
セトステアリリックアルコール 3.00g
アデルミドロール 0.50g
グリセリルモノステアレート 1.50g
カルボポール 940 0.40g
2,4−ジクロロベンジリックアルコール 0.15g
ブロノポール 0.05g
水 100.00gとする量
【0031】
(例3)−広範囲の皮膚領域に施用するための液状クリーム剤
100gに以下のものを含有する。
パルバニル 1.00g
グリセリン 5.00g
白色鉱油 3.00g
シリコーン油 1.00g
グリセリルモノステアレート 1.40g
セトステアリリックアルコール 2.80g
ステアリン酸 2.40g
PEG植物性ステロール 5.00g
カルボマー 0.10g
ブロノポール 0.005g
水 100.00gとする量
【0032】
(例4)−経口用ゲル剤
100gに以下のものを含有する。
パルバニル 1.20g
グリセリン 10.00g
エキナセア・プルプレア(Echinacea purpurea)グリセリン抽出物 10.00g
アルギン酸ナトリウム 2.50g
ヒアルロン酸ナトリウム 0.02g
トリクロサン 0.25g
ブロノポール 0.005g
水 100.00gとする量
【0033】
(例5)−毛髪用ローション剤
100gに以下のものを含有する。
パルバニル 0.50g
アデルミドロール 0.20g
D−ビオチン 0.04g
エキナセア・プルプレアグリセリン抽出物 10.00g
エチルアルコール 40.00g
水 100.00gとする量
【0034】
(例6)−膣用ゲル剤
100gに以下のものを含有する。
パルバニル 0.50g
グリセリン 10.00g
ビタミンAパルミテート 0.20g
2−フェニルエタノール 0.15g
水素化ひまし油 40(OE) 1.00g
パラオキシ安息香酸メチル 0.05g
ノベオン AA1 1.00g
ヒアルロン酸ナトリウム 0.04g
水 100.00gとする量
【0035】
(例7)−亀頭包皮用ゲル剤
100gに以下のものを含有する。
パルバニル 0.25g
グリセリン 10.00g
ビタミンAパルミテート 0.20g
2−フェニルエタノール 0.18g
ブロノポール 0.05g
ノベオン AA1 0.80g
ヒアルロン酸ナトリウム 0.04g
水 100.00gとする量
【0036】
(例8)−耳施用のための点剤
100gに以下のものを含有する。
パルバニル 0.30g
トランスクトール P 49.00g
プロピレングリコール 30.00g
デオ−ウスネート 0.30g
トリクロサン 0.20g
フィトスフィンゴシン 0.15g
トランス−トラウマチン酸 0.06g
水 100.00gとする量
【0037】
(例9)−直腸マイクロ浣腸(microclysma)用ゲル剤
100gに以下のものを含有する。
パルバニル 0.25g
グリセリン 8.00g
トランス−トラウマチン酸 0.50g
2−フェニルエタノール 0.10g
水素化ひまし油 40(OE) 1.00g
パラオキシ安息香酸メチル 0.05g
ノベオン AA1 0.50g
水 100.00gとする量
【0038】
(例10)−持続性皮膚施用貼付剤
100cmに、以下のものを含有する。
パルバニル 20.00mg
トランス−トラウマチン酸 2.00mg
アデルミドロール 10.00mg
接着用媒体で80.00mgとする。
【0039】
(例11)−爪周囲用ゲル剤
100gに以下のものを含有する。
パルバニル 0.50g
トランス−トラウマチン酸 0.10g
アルギン酸ナトリウム 2.50g
ユームルギン L 1.00g
ウンデシレン酸 0.25g
ブロノポール 0.10g
ヒアルロン酸 0.10g
水 100.00gとする量
【0040】
(例12)−角膜用無菌眼洗浄剤
100gに以下のものを含有する。
パルバニル 0.10g
トランス−トラウマチン酸 0.05g
リン酸緩衝液0.1Mで2.50gとする。
【0041】
(例13)−経口用口腔洗浄剤
100gに以下のものを含有する。
パルバニル 1.00g
アデルミドロール 0.50g
トランス−トラウマチン酸 0.05g
グリセリン 7.00g
ピログルタミン酸ナトリウム 3.00g
水素化ひまし油 40(OE) 2.00g
ノベオン AA1 0.50g
ヒアルロン酸ナトリウム塩 0.05g
2,4−ジクロロベンジリックアルコール 0.15g
ブロノポール 0.10g
水 100.00gとする量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ほ乳類における炎症性及び神経障害性の痛覚過敏の処置に使用するためのN−パルミトイル−バニルアミド。
【請求項2】
ほ乳類がヒトである、請求項1に記載のN−パルミトイル−バニルアミド。
【請求項3】
ほ乳類がネコ又はイヌである、請求項1に記載のN−パルミトイル−バニルアミド。
【請求項4】
ヘルペス後神経痛、三叉神経痛、後頭神経痛、歯性神経痛、舌咽神経痛、発生源の異なる頭痛、尿毒性神経痛、糖尿病性神経痛、神経障害性掻痒、神経因性掻痒、尿毒性掻痒、外陰部痛、外陰部前庭炎、肛門直腸の疼痛及び掻痒、亀頭包皮の疼痛及び掻痒、イヌ及びネコの有痛性の泌尿生殖器障害、乾癬が関与する掻痒及び疼痛、ヒト及び動物分野における掻痒性の皮膚疾患(例えば、アトピー性皮膚炎)、筋肉痛、腱痛、ヒト、イヌ及びネコにおける変形性関節炎に関連する疼痛、ヒト及び動物分野における有痛性の眼の疾患、ヒト及び動物分野における口腔の炎症性病変から選択される病変の処置に使用するための、請求項1から3までのいずれか一項に記載のN−パルミトイル−バニルアミド。
【請求項5】
ヒトにおける口腔の前記炎症性病変が、歯肉炎、歯周炎、口内炎、移植後疼痛、口腔灼熱症候群である、請求項4に記載のN−パルミトイル−バニルアミド。
【請求項6】
動物分野における口腔の前記炎症性病変が、イヌ及びネコの歯肉炎、歯周炎、歯肉口内炎及びネコ破歯細胞性吸収病巣(FORL)である、請求項4に記載のN−パルミトイル−バニルアミド。
【請求項7】
局所用組成物の形態である、請求項1から6までのいずれか一項に記載のN−パルミトイル−バニルアミド。
【請求項8】
前記局所用組成物がクリーム剤、ゲル剤、ローション剤、耳施用のための点剤、貼付剤、眼洗浄剤、口腔洗浄剤又は座剤である、請求項7に記載のN−パルミトイル−バニルアミド。
【請求項9】
前記組成物が、0.05重量%から5重量%のN−パルミトイル−バニルアミドを含有する、請求項7又は8に記載のN−パルミトイル−バニルアミド。
【請求項10】
前記組成物が、アデルミドロール、トランス−トラウマチン酸、メントール、ヒアルロン酸又はその塩、及びビタミンAから選択される1つ又は複数の追加の活性成分を含有する、請求項7から9までのいずれか一項に記載のN−パルミトイル−バニルアミド。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−102097(P2012−102097A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−244155(P2011−244155)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(511270859)
【Fターム(参考)】