説明

N−ビニルラクタム系重合体の製造方法

【課題】着色を抑えたN−ビニルラクタム系重合体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】アゾ系重合開始剤および/または有機過酸化物と還元剤との存在下、アルコールを必須に含む水性溶媒中で、N−ビニルラクタムを必須とする単量体成分を重合する工程を含むことを特徴とするN−ビニルラクタム系重合体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N−ビニルラクタム系重合体の製造方法に関する。より詳しくは、加熱後の着色の少ないN−ビニルラクタム系重合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
N−ビニルラクタム系重合体、例えばポリビニルピロリドンは、水溶性で安全な機能性ポリマーとして、幅広い分野で用いられている。例えば、化粧品、医農薬中間体、食品添加物、感光性電子材料、粘着付与剤等の用途や、種々の特殊工業用途(例えば、中空糸膜の製造)に用いられている。特に、低分子量のポリビニルピロリドンは、上記各種用途に有用である。
【0003】
低分子量のポリビニルピロリドンは、一般的に、水媒体中、金属触媒の存在下で、過酸化水素を重合開始剤として、N−ビニル−2−ピロリドンを重合することにより製造される(特許文献1、2、3参照)。特に、各種用途に有用な、分子量が比較的低いポリビニルピロリドンを、低温・短時間で、安全に製造する方法として、過酸化水素、金属触媒、アンモニアおよび/またはアミン化合物の存在下で、ビニルピロリドンを含む単量体成分の重合反応を行い、ポリビニルピロリドンを製造する方法が報告されている(特許文献3参照)。
【0004】
しかし、上記方法によって得られたポリビニルピロリドンは、乾燥して粉体化した後、長期保存すると、着色することがあり、製品価値を著しく下げるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−62804号公報
【特許文献2】特開平11−71414号公報
【特許文献3】特開2002−155108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明では、N−ビニルラクタム系重合体の着色を抑えることのできる製造方法を提供することを課題として掲げた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アゾ系重合開始剤および/または有機過酸化物と還元剤との存在下、アルコールを必須に含む水性溶媒中で、N−ビニルラクタムを必須とする単量体成分を重合する工程を含むN−ビニルラクタム系重合体の製造方法である。
【0008】
上記重合工程では、さらに、次亜リン酸および/またはその塩の存在下で重合を行うことが好ましい。
【0009】
本発明には、上記製造方法で得られ、窒素通気下、260℃で60分加熱後の黄色度が25以下であり、かつ、ハンターLab色空間におけるb値が13以下であるN−ビニルラクタム系重合体、あるいはさらに主鎖末端に次亜リン酸および/またはその塩に由来する構造単位を有するN−ビニルラクタム系重合体も包含される。
【発明の効果】
【0010】
本発明のN−ビニルラクタム系重合体の製造方法は、アルコールを必須に含む水性溶媒中で特定の重合開始剤および還元剤を用いて重合を行っているため、高温で加熱しても着色が起こらないN−ビニルラクタム系重合体を容易に得ることができた。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のN−ビニルラクタム系重合体の製造方法は、アゾ系重合開始剤および/または有機過酸化物と還元剤との存在下、アルコールを必須に含む水性溶媒中で、重合を行うところに特徴を有する。以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
[N−ビニルラクタム系重合体の製造方法(重合工程)]
<単量体成分>
本発明法は、N−ビニルラクタムを必須とする単量体成分を重合する方法である。N−ビニルラクタムは、ラクタム環を有する単量体であり、例えば、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニル−4−ブチルピロリドン、N−ビニル−4−プロピルピロリドン、N−ビニル−4−エチルピロリドン、N−ビニル−4−メチルピロリドン、N−ビニル−4−メチル−5−エチルピロリドン、N−ビニル−4−メチル−5−プロピルピロリドン、N−ビニル−5−メチル−5−エチルピロリドン、N−ビニル−5−プロピルピロリドン、N−ビニル−5−ブチルピロリドン、N−ビニル−4−メチルカプロラクタム、N−ビニル−6−メチルカプロラクタム、N−ビニル−6−プロピルカプロラクタム、N−ビニル−7−ブチルカプロラクタム等が挙げられる。
【0013】
N−ビニルラクタムの中でも、重合性が良好であり、得られる重合体の高温での色調の安定性が良好であることから、N−ビニル−2−ピロリドンおよび/またはN−ビニルカプロラクタムを必須単量体とすることが好ましい。
【0014】
単量体として、N−ビニルラクタム以外のその他の単量体(以下、その他の単量体と称する)を併用してもよい。その他の単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸のアルキルエステル(メチルアクリレート、エチルアクリレート等)、メタクリル酸のアルキルエステル(メチルメタクリレート、エチルメタクリレート等)、アクリル酸のアミノアルキルエステル(ジエチルアミノエチルアクリレート等)、メタクリル酸のアミノアルキルエステル、アクリル酸とグリコールとのモノエステル、メタクリル酸とグリコールとのモノエステル(ヒドロキシエチルメタクリレート等)、アクリル酸のアルカリ金属塩、メタクリル酸のアルカリ金属塩、アクリル酸のアンモニウム塩、メタクリル酸のアンモニウム塩、アクリル酸のアミノアルキルエステルの第4級アンモニウム誘導体、メタクリル酸のアミノアルキルエステルの第4級アンモニウム誘導体、ジエチルアミノエチルアクリレートとメチルサルフェートとの第4級アンモニウム化合物、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルスルホン酸のアルカリ金属塩、ビニルスルホン酸のアンモニウム塩、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸塩、アリルスルホン酸、アリルスルホン酸塩、メタリルスルホン酸、メタリルスルホン酸塩、酢酸ビニル、ビニルステアレート、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルカルバゾール、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−メチレンビスアクリルアミド、グリコールジアクリレート、グリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、グリコールジアリルエーテル等が挙げられる。
【0015】
得られる重合体を例えば中空糸膜の製造に使用した場合に中空糸膜の生産性が向上することから、N−ビニルラクタムとその他の単量体の合計(以下、全単量体成分)を100質量%とした場合のN−ビニルラクタムの使用割合は50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、100質量%であることが最も好ましい。従って、全単量体成分におけるその他の単量体の使用割合は、50質量%未満が好ましく、20質量%未満がより好ましく、10質量%未満がさらに好ましく、0質量%が最も好ましい。
【0016】
なお、全単量体成分中のその他の単量体等の使用割合を計算するときは、その他の単量体が酸基の塩を有する場合は当該酸基の塩を対応する酸基として(酸換算)、アミノ基の塩を有する場合には当該アミノ基の塩を対応するアミノ基として(アミン換算)、計算するものとする。全単量体成分由来の構造単位に対するその他の単量体に由来する構造等を計算する場合、N−ビニルラクタム系重合体の全質量に対する、還元剤(連鎖移動剤)由来の構造単位を計算する場合も同様に、該当する場合には酸換算、アミン換算で計算するものとする。
【0017】
<重合開始剤>
単量体の重合に際しては、重合開始剤を用いる。本発明では、重合開始剤として、アゾ系重合開始剤および/または有機過酸化物を用いる。アゾ系重合開始剤とは、アゾ結合を有し、熱等によりラジカルを発生する化合物を言う。
【0018】
本発明で使用可能なアゾ系重合開始剤としては、2,2’−アゾビス−2−アミジノプロパン二塩酸塩、2,2’−ビス(2−イミダゾリン−2−イル)[2,2’−アゾビスプロパン]二塩酸塩、2,2’−ビス(2−イミダゾリン−2−イル)[2,2’−アゾビスプロパン]二硫酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二硫酸塩二水和物、2,2’−アゾビス−(プロパン−2−カルボアミジン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−メチルプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[N−(2−ヒドロキシエチル)−2−メチルプロパンアミド]、4,4’−アゾビス−4−シアノバレリン酸、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等が例示される。これらの中でも、低分子量のN−ビニルラクタム系重合体を効率よく製造できることから、また、得られる重合体の高温での色調が良好になることから、10時間半減温度が30℃以上90℃以下であるものが好ましく、より好ましくは10時間半減温度が40℃以上70℃以下であるものである。具体的には、2,2’−アゾビス−2−アミジノプロパン二塩酸塩が好ましい。また、カルボキシル基を有するアゾ系重合開始剤(2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]等)は、着色に悪影響を及ぼすことがあるので、使用は控えた方がよい。
【0019】
本発明で使用可能な有機過酸化物としては、ターシャリーブチルヒドロペルオキシド、ジターシャリーブチルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ターシャリーヘキシルヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド等のアルキルヒドロペルオキシド;ターシャリーブチルペルオキシアセテート、ジスクシノイルペルオキシド、過酢酸等が例示される。上記有機過酸化物の中でも、低分子量のN−ビニルラクタム系重合体を効率よく製造でき、また、得られる重合体の高温での色調が良好になることから、アルキルヒドロペルオキシドが好ましく、ターシャリーブチルヒドロペルオキシドが特に好ましい。また、これらの有機過酸化物の中でも、10時間半減温度が30℃以上180℃以下のものが好ましく、より好ましくは10時間半減温度が40℃以上170℃以下のものである。
【0020】
本発明で使用する重合開始剤は、上記アゾ系重合開始剤、上記有機過酸化物から選択される1種または2種以上を必須とするが、その他の重合開始剤を併用しても構わない。そのような開始剤としては、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過酸化水素等が例示される。
【0021】
上記重合開始剤の使用量(複数種使用する場合はその総量)は、特に言及する場合を除き、全単量体成分1モルに対して、15g以下、より好ましくは0.1〜12gであることが好ましい。
【0022】
上記重合開始剤の中でも、低分子量のN−ビニルラクタム系重合体を効率よく製造でき、かつ、得られる重合体の高温での色調が良好になることから、アゾ系重合開始剤を使用する場合には、全単量体成分の1モルに対して、1.9g以下とすることが好ましく、1.6g以下とすることがより好ましく、1.2g以下とすることがさらに好ましく、1.1g以下とすることが特に好ましい。アゾ系重合開始剤の使用量の下限は、全単量体成分1モルに対して、0.1g以上が好ましく、0.2g以上がより好ましい。有機過酸化物を使用する場合も、その使用量の好適範囲は、アゾ系重合開始剤と同様である。
【0023】
重合開始剤の反応系(重合釜)への添加方法としては、特に限定はされないが、重合中に実質的に連続的に添加する量が、重合開始剤の全使用量の50質量%以上であることが好ましい。特に好ましくは80質量%以上であり、全量を連続的に添加することが最も好ましい。重合開始剤を連続的に添加する場合、その滴下速度は変えてもよい。
【0024】
なお、本発明において「重合中」とは、重合開始時点以降、重合終了時点以前を表す。本発明において、「重合開始時点」とは重合装置に単量体の少なくとも一部および開始剤の少なくとも一部の両方が添加された時点を指し、「重合終了時点」とは、単量体成分の全量の重合装置への添加が終了した時点を指す。
【0025】
重合開始剤は、水性溶媒に溶解せずにそのまま添加してもよいが、水性溶媒に溶解して反応系(重合釜)へ添加することが好ましい。
【0026】
<還元剤>
本発明では、低分子量のN−ビニルラクタム系重合体を得るために、還元剤(連鎖移動剤)を用いる。使用可能な還元剤は、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、チオグリコール酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸オクチル、2−メルカプトエタンスルホン酸、n−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ブチルチオグリコレート等の、チオール化合物;四塩化炭素、塩化メチレン、ブロモホルム、ブロモトリクロロエタン等の、ハロゲン化物;イソプロパノール、グリセリン等の、第2級アルコール;亜リン酸、亜リン酸塩、次亜リン酸、次亜リン酸塩、およびこれらの水和物等;亜硫酸、亜硫酸水素、亜二チオン酸、メタ重亜硫酸、およびその塩等の重亜硫酸塩(水に溶解して重亜硫酸塩を発生する化合物を含む)等の、低級酸化物およびその塩等が挙げられる。これらの塩は、ナトリウム等の金属塩、アンモニウム塩または有機アミン塩である。上記還元剤は、2種以上用いてもよい。
【0027】
本発明では、還元剤(連鎖移動剤)として、次亜リン酸および/またはその塩(以下、次亜リン酸(塩))を含むものを用いることが好ましい。これにより、N−ビニルラクタム系重合体の主鎖末端に次亜リン酸(塩)に由来する構造を導入することができる。次亜リン酸(塩)に由来する構造を主鎖末端に導入するのは、N−ビニルラクタム系重合体の高温における色調が特に良好になるためである。また、低分子量のN−ビニルラクタム系重合体を効率よく製造できる。
【0028】
還元剤(連鎖移動剤)として次亜リン酸(塩)を用いる場合、次亜リン酸塩か、10質量%水溶液に調製したときの25℃でのpHが6以上の次亜リン酸部分中和塩が好ましい。上記調製時のpHが6未満の次亜リン酸部分中和塩や次亜リン酸を用いると、N−ビニルラクタム系単量体が加水分解するおそれがある。
【0029】
次亜リン酸(塩)を反応系(重合釜)に存在させるには、次亜リン酸(塩)を反応系に添加する態様、次亜リン酸と、これと塩を形成する化合物とを別々に反応系に添加する態様のいずれでも構わない。
【0030】
還元剤(連鎖移動剤)は、重合開始前に反応容器(重合釜)に添加してもよい(初期仕込みという)し、全部またはその一部を重合中に反応容器(重合釜)に添加してもよいが、重合開始前に全量を反応容器(重合釜)に添加する(初期仕込みする)態様が好ましい。この態様により、還元剤(連鎖移動剤)が効率よく反応するので、低いK値の重合体が得られるばかりでなく、還元剤(連鎖移動剤)の残存量を少なくすることができる。なお、本発明において「重合開始前」とは、上記重合開始時点より前を表し、「重合終了後」とは、上記重合終了時点より後を表す。還元剤(連鎖移動剤)は、重合中に反応系(重合釜)へ実質的に連続的に添加する場合は、例えば、実質的に連続的に添加する量を全使用量の50質量%以上とすることができる。
【0031】
反応系における次亜リン酸(塩)の存在量は、全単量体成分1モルに対して、5.0g以下とすることが好ましく、4.5g以下とすることがより好ましく、4.0g以下とすることがさらに好ましい。次亜リン酸(塩)の存在量の下限は、全単量体成分1モルに対して、0.5g以上が好ましく、1.0g以上がより好ましい。次亜リン酸(塩)の存在量が多すぎると、連鎖移動に寄与しない次亜リン酸(塩)(重合体末端に取り込まれない次亜リン酸(塩))が増加し、例えば中空糸膜の製造に使用した場合に性能が低下する傾向にある。また、存在量が少なすぎると、次亜リン酸(塩)に由来する構造の量が好適範囲より少なくなって、着色や吸湿性を抑制する効果が充分発現しないおそれがある。次亜リン酸(塩)には水和物も含まれる。次亜リン酸アンモニウム塩も連鎖移動剤としての作用を有するため、重合の際に用いても構わないが、アンモニウム塩は臭気の原因となるため、多量に使用しないことが望ましい。
【0032】
還元剤(連鎖移動剤)の添加量(総量)は、特に言及する場合を除き、次亜リン酸(塩)も含めて、全単量体成分1モルに対して、0.5〜20g、より好ましくは1.0〜15gである。0.5g未満であると、分子量の制御ができなかったり、着色を抑制する効果が発現しないおそれがあり、逆に、20gを超えると、連鎖移動剤が残留し、重合体組成物の純度が低下するおそれがある。
【0033】
<還元性化合物>
重合開始剤の分解触媒等として作用する還元性化合物として、重金属イオン(あるいは重金属塩)を使用してもよい。本発明で重金属とは、比重が4g/cm3以上の金属を意味する。重金属の中でも鉄および/または銅が好ましく、上記還元性化合物として、モール塩(Fe(NH42(SO42・6H2O)、硫酸第一鉄・7水和物、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸銅(I)および/またはその水和物、硫酸銅(II)および/またはその水和物、塩化銅(II)および/またはその水和物等の重金属塩等を用いることが好ましい。
【0034】
上記重金属イオンを使用する場合、その使用量は、重合反応完結時における重合反応液の全質量に対して好ましくは0.1〜10ppmであることが好ましい。重金属イオンの含有量が0.1ppm未満であると、重金属イオンによる効果が十分に発現しないおそれがある。一方、重金属イオンの含有量が10ppmを超えると、得られる重合体の色調の悪化を来たすおそれがある。
【0035】
<その他の添加剤>
上記重合反応においては、重合反応の促進やN−ビニルラクタムの加水分解の防止等を目的として、アンモニアおよび/またはアミン化合物を用いてもよい。アンモニアやアミン化合物は、重合反応において、助触媒として機能する。すなわち、アンモニアおよび/またはアミン化合物が反応系に含まれると、含まれない場合に比較して、重合反応の進行がより一層促進される。また、塩基性pH調節剤としても機能しうる。なお、アンモニアは臭気の原因となり、また着色にも影響を及ぼすため、量を抑えて用いることが好ましい。アンモニアを用いるときは、常温にて気体状の単体としてそのまま用いてもよいし、水溶液(アンモニア水)として用いてもよい。アンモニアおよび/またはアミン化合物の添加は、任意の適切な方法で行うことができ、例えば、重合初期より反応容器内に仕込んでおいてもよいし、重合中に反応容器中に逐次添加してもよい。
【0036】
アミン化合物としては、任意の適切なアミン化合物を採用し得る。具体的には、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンが挙げられる。上記アミンは、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0037】
上記第1級アミンとしては、例えば、モノエタノールアミン、アリルアミン、イソプロピルアミン、ジアミノプロピルアミン、エチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−(ジエチルアミノ)プロピルアミン、3−(ジブチルアミノ)プロピルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、t−ブチルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、3−(メチルアミノ)プロピルアミン、3−(ジメチルアミノ)プロピルアミン、3−メトキシプロピルアミンが挙げられる。上記第1級アミンは、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
上記第2級アミンとしては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、N−メチルエチルアミン、N−メチルプロピルアミン、N−メチルイソプロピルアミン、N−メチルブチルアミン、N−メチルイソブチルアミン、N−メチルシクロヘキシルアミン、N−エチルプロピルアミン、N−エチルイソプロピルアミン、N−エチルブチルアミン、N−エチルイソブチルアミン、N−エチルシクロヘキシルアミン、N−メチルビニルアミン、N−メチルアリルアミン等の脂肪族第2級アミン;N−メチルエチレンジアミン、N−エチルエチレンジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジエチルエチレンジアミン、N−メチルトリメチレンジアミン、N−エチルトリメチレンジアミン、N,N’−ジメチルトリメチレンジアミン、N,N’−ジエチルトリメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン等の脂肪族ジアミンおよびトリアミン;N−メチルベンジルアミン、N−エチルベンジルアミン、N−メチルフェネチルアミン、N−エチルフェネチルアミン等の芳香族アミン;N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−プロピルエタノールアミン、N−イソプロピルエタノールアミン、N−ブチルエタノールアミン、N−イソブチルエタノールアミン等のモノアルカノールアミン;ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジブタノールアミン等のジアルカノールアミン;ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、N−メチルピペラジン、N−エチルピペラジン、モルホリン、チオモルホリン等の環状アミン;が挙げられる。上記第2級アミンは、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの第2級アミンのうち、ジアルカノールアミンおよびジアルキルアミンが好ましく、ジアルカノールアミンがより好ましく、中でもジエタノールアミンが特に好適である。
【0039】
上記第3級アミンとしては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリブタノールアミン等のトリアルカノールアミンが挙げられる。上記第3級アミンは、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの第3級アミンのうち、トリアルカノールアミンが好ましく、中でもトリエタノールアミンが特に好適である。
【0040】
上記アンモニアおよびアミン化合物を使用する場合の使用量は、両者の合計で、N−ビニルラクタム100質量部に対して0.02質量部以上が好ましく、0.05〜1質量部がより好ましい。上記範囲であれば、反応速度が向上する傾向にあり、反応中のpHの低下に伴うN−ビニルラクタムの加水分解や着色を抑制する効果が得られる。
【0041】
なお、上記重金属塩として銅塩を用い、さらに上記アンモニアを用いる場合、銅のアンミン錯塩が形成し得る。銅のアンミン錯塩としては、例えば、ジアンミン銅塩([Cu(NH322SO4・H2O、[Cu(NH32]Cl等)、テトラアンミン銅塩([Cu(NH34]SO4・H2O、[Cu(NH34]Cl2等)が挙げられる。
【0042】
<重合溶媒>
本発明のN−ビニルラクタム系重合体の製造方法は、N−ビニルラクタムを必須とする単量体成分をアルコールを必須に含む水性溶媒中で重合する方法である。用い得るアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール等が挙げられる。アルコールは2種以上を用いてもよい。アルコールを含む水性溶媒を用いるのは、理由は定かではないが、得られる重合体の着色(特に高温加熱着色)を抑制する効果が見出されたからである。
【0043】
本発明において水性溶媒とは、水とアルコールを含む混合溶媒を表す。水とアルコール以外に、グリセリン;ポリエチレングリコール;ジメチルホルムアルデヒド等のアミド類;ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類等を混合してもよいが、水とアルコールからなることが好ましい。水性溶媒中、アルコール量は、20〜95質量%が好ましく、40〜90質量%がより好ましい。アルコール量が20質量%より少ないと着色を抑制する効果が充分発現しないことがある。一方で、95質量%を超えると、還元剤の反応性が低下するおそれがある。なお、この場合、残部は水である。
【0044】
重合工程は、好ましくは、重合終了後の固形分濃度(溶液のうちの不揮発分の濃度である)が、重合溶液100質量%に対して10〜80質量%となるように行うことが好ましく、20〜70質量%がより好ましく、30〜60質量%がさらに好ましい。
【0045】
<その他の重合条件>
重合の際の温度は好ましくは70℃以上であり、より好ましくは75〜110℃であり、さらに好ましくは80〜105℃である。重合時の温度が上記範囲であれば、残存単量体成分が少なくなり、重合体の分散性が向上する傾向にある。なお、重合時の温度は、重合反応の進行中において、常に一定に保持する必要はなく、例えば、室温から重合を開始し、適当な昇温時間または昇温速度で設定温度まで昇温し、その後、設定温度を保持するようにしてもよいし、単量体成分や開始剤等の滴下方法に応じて、重合反応の進行中に経時的に重合温度を変動(昇温または降温)させてもよい。
【0046】
重合時のpHとしては、不純物あるいは副生成物の発生を抑制する観点から、6以上が好ましく、7以上がより好ましく、11以下が好ましい。
【0047】
反応系内の圧力としては、常圧(大気圧)下、減圧下、加圧下のいずれであってもよいが、得られる重合体の分子量の点では、常圧下、または、反応系内を密閉し、加圧下で行うことが好ましい。また、加圧装置や減圧装置、耐圧性の反応容器や配管等の設備の点では、常圧(大気圧)下で行うことが好ましい。反応系内の雰囲気としては、空気雰囲気でもよいが、不活性雰囲気とするのが好ましく、例えば、重合開始前に系内を窒素等の不活性ガスで置換することが好ましい。
【0048】
重合時間(上記重合開始時点から重合終了時点の間)は、30分以上、5時間以下であることが好ましい。重合時間が長くなると、重合液の着色が大きくなる傾向にある。上記重合終了時点後、重合液に残存する単量体を低減する目的等で、熟成工程(重合後、加温・保温条件下で保持する工程をいう)を設けてもよい。熟成時間は通常、1分以上、4時間以内である。熟成時間中に、更に重合開始剤(ブースター)を添加すれば、重合液に残存する単量体を低減できることから好ましい。
【0049】
重合後期においては、単量体の添加終了時間よりも、開始剤の滴下終了時間を遅らすことが、重合液に残存する単量体を低減することができることから好ましい。より好ましくは1〜120分遅らせることであり、5〜60分遅らせることがさらに好ましい。
【0050】
<有機酸の添加>
本発明では、重合反応終了後、反応液に有機酸またはその水溶液を添加することが好ましい。この際、重合反応時の反応温度を維持して行うことが好ましい。これにより、残存するN−ビニルラクタムが、酸によって加水分解されるので、未反応の単量体量(すなわち、反応液中における単量体の残存量)を低減することができる。例えば、単量体がN−ビニル−2−ピロリドンであるならば、酸によって2−ピロリドンへと加水分解される。
【0051】
残存単量体量を低減するのに使用可能な有機酸として好ましいものは、有機酸添加時の反応液温度より高い沸点(例えば100℃以上)を有するカルボン酸であり、具体的には、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アスパラギン酸、クエン酸、グルタミン酸、フマル酸、リンゴ酸、マレイン酸、フタル酸、トリメリト酸、ピロメリト酸等が挙げられる。これらの有機酸は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0052】
有機酸の使用量は、重合反応時のN−ビニルラクタムの使用量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、重合後の反応液のpHが好ましくは5以下、より好ましくは3以上、4以下になるようにすればよい。具体的には、有機酸の使用量は、N−ビニルラクタムの使用量に対して、好ましくは100ppm以上、30,000ppm以下、より好ましくは500ppm以上、20,000ppm以下である。
【0053】
<乾燥工程>
重合工程で得られたN−ビニルラクタム系重合体溶液から、N−ビニルラクタム系重合体を得るには、乾燥する工程を行う。乾燥工程は、粉体化等を行う工程であり、粉砕工程も含む。乾燥や粉砕は、公知の一般的方法で行えばよく、例えば、噴霧乾燥、凍結乾燥、流動床乾燥、ドラム乾燥、ベルト式乾燥等により、粉末を得ることができる。常圧で加熱乾燥する場合は、乾燥温度は100〜200℃程度、乾燥時間は0.2〜180分程度が好ましい。減圧下で乾燥する場合は、減圧度に応じて乾燥温度を適宜選択すればよい。
【0054】
<その他の工程>
N−ビニルラクタム系重合体の粉末(製品)を得るには、乾燥工程の前に、精製工程、脱塩工程、濃縮工程、希釈工程等を含んでいてもよい。反応液(重合液)を陽イオン交換樹脂で処理することにより、得られるN−ビニルラクタム系重合体溶液の色調を改善することができる。陽イオン交換樹脂で処理する工程は、重合中(重合工程と並行して)または重合後に行うことができる。重合反応中における陽イオン交換樹脂による処理は、任意の適切な方法で処理し得る。好ましくは、単量体成分の重合反応が行われている反応容器中へ陽イオン交換樹脂を添加することにより行う。具体的には、例えば、重合反応が行われている反応容器中へ陽イオン交換樹脂を添加して微細に懸濁させ、その後に濾過する方法が挙げられる。陽イオン交換樹脂による処理の時間は、任意の適切な時間を採用し得る。好ましくは1分〜24時間であり、より好ましくは3分〜12時間であり、さらに好ましくは5分〜2時間である。処理時間が短すぎると色調改善効果が充分に発現しないおそれがある。処理時間が長すぎると生産性が悪くなるおそれがある。
【0055】
<本発明のN−ビニルラクタム系重合体>
本発明のN−ビニルラクタム系重合体は、N−ビニルラクタムに由来する構造単位を必須として含んでいる。N−ビニルラクタムに由来する構造単位とは、N−ビニルラクタムがラジカル重合して形成される構造単位であり、N−ビニルラクタムの重合性炭素炭素二重結合が炭素炭素単結合になった構造である。
【0056】
本発明のN−ビニルラクタム系重合体に含まれる全単量体成分由来の構造単位(N−ビニルラクタムに由来する構造単位とその他の単量体に由来する構造単位の総量)100質量%中のN−ビニルラクタムに由来する構造単位の割合(質量%)は、得られる重合体を例えば中空糸膜の製造に使用した場合に中空糸膜の生産性が向上することから、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であることが最も好ましい。従って、その他の単量体に由来する構造単位の割合(質量%)は、50質量%未満であることが好ましく、20質量%未満であることがより好ましく、10質量%未満であることがさらに好ましく、0質量%であることが最も好ましい。
【0057】
本発明のN−ビニルラクタム系重合体は、高温で熱処理するといった加熱促進試験を行っても、着色が少ないという特徴を有している。具体的には、例えば窒素通気下260℃で60分加熱した際の黄色度が25以下であることが好ましく、より好ましくは20以下である。また、ハンターLab色空間におけるb値が13以下であることが好ましく、より好ましくは10以下である。この範囲であれば、長期保存においても着色が少なく、製品価値を下げることはない。
【0058】
本発明のN−ビニルラクタム系重合体は、次亜リン酸(塩)を含む還元剤を用いた場合には、次亜リン酸(塩)由来の構造単位(リンを含む構造単位)を有している。N−ビニルラクタム系重合体の全質量100質量%における、次亜リン酸(塩)由来の構造単位の割合(質量%)は、0.01質量%以上、5質量%以下であることが好ましい。ここで、次亜リン酸塩由来の構造単位とは、−PH(=O)(OM)(Mは金属元素、または有機アミン残基)で表される。この構造単位が上記範囲であれば、N−ビニルラクタム系重合体の高温における色調が特に良好になる。この構造単位の割合は、後述する実施例で説明するように、31P−NMRを用いて行える。
【0059】
他の亜リン酸(塩)等を用いる場合も、リン系連鎖移動剤に由来する構造単位(リンを含む原子団ともいう)の合計が上記範囲であることが好ましい。
【0060】
本発明のN−ビニルラクタム系重合体のフィケンチャー法によるK値は、10〜50が好ましく、20〜40がより好ましく、25〜35がさらに好ましい。本発明の製造方法は、低分子量のN−ビニルラクタム系重合体の着色を抑制する効果が大きいためである。K値が上記範囲であれば、分散対象を分散させる能力や、重合体自体が媒体に分散する能力が高い。フィケンチャー法によるK値は、以下の測定方法によって求めることができる。K値が20未満である場合には5質量%(g/100ml)溶液の粘度を測定し、K値が20以上の場合は1質量%(g/100ml)溶液の粘度を測定する。試料濃度は乾燥物換算する。K値が20以上の場合、試料は1.0gを精密に計りとり、100mlのメスフラスコに入れ、室温で蒸留水を加え、振とうしながら完全に溶かして蒸留水を加えて正確に100mlとする。この試料溶液を恒温槽(25±0.2℃)で30分放置後、ウベローデ型粘度計を用いて測定する。溶液が2つの印線の間を流れる時間を測定する。数回測定し、平均値をとる。相対粘度を測定するために、蒸留水についても同様に測定する。2つの得られた流動時間をハーゲンバッハ−キュッテ(Hagenbach−Couette)の補正に基づいて補正する。
【0061】
【数1】

上記式中、Zは濃度Cの溶液の相対粘度(ηrel)、Cは濃度(質量%:g/100ml)である。相対粘度ηrelは次式により得られる。
ηrel=(溶液の流動時間)÷(水の流動時間)
【実施例】
【0062】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0063】
また、重合体のK値、主鎖末端の次亜リン酸(塩)に由来する構造単位量、黄色度、ハンター色空間b値は、下記の方法に従って測定した。
【0064】
<重合体のK値の測定>
上記のK値の測定法により測定した。
【0065】
<重合体主鎖末端の次亜リン酸(塩)に由来する構造単位の分析>
重合体主鎖末端の次亜リン酸(塩)に由来する構造単位は、31P−NMRを用いて、主鎖末端の次亜リン酸構造を定量することにより測定した。すなわち、31P−NMRの積分強度比から、全てのリン化合物に対する重合体の主鎖末端の次亜リン酸基の割合を計算した。さらに、単量体とリン化合物の使用量から、N−ビニルラクタムの全質量100質量%における主鎖末端のリンを含む構造単位の割合(質量%)を算出した。
31P−NMRの測定条件:
測定する重合体を室温で減圧乾燥し、得られた固形分を重水(アルドリッチ社製)に10%となるように溶解し、Varian社製UnityPlus−400(400MHz、パルスシーケンス:s2pu1、測定間隔:10.000秒、パルス:45.0度、捕捉時間:0.800秒、積算回数:128回)にて測定した。
【0066】
<黄色度、ハンター色空間b値>
以下の手順で高温条件下での色調の評価を行った。
(1)実施例、比較例で得られた重合体(粉体)を、窒素通気下、260℃で60分間加熱した後、空気中で放冷した。
(2)続いて、デシケーター中で空冷し、室温に戻ったサンプルを、色差計を用いて以下の条件で、L、a、bを測定した。
装置:日本電色工業株式会社「色差計SE−2000」
測定方法:加熱後のサンプルを石英セルに入れ、遮光下「反射モード」にて測定する。得られたL、a、bから黄色度(YI)を算出した。
【0067】
【数2】

【0068】
実施例1
N−ビニルピロリドン(NVP)の重合を行った。まず、マックスブレンド(住友重機械工業株式会社の登録商標)型の攪拌翼、ガラス製の蓋を備えたSUS製反応容器に、イオン交換水237.80部、イソプロパノール(IPA)237.80部、次亜リン酸ナトリウム(SHP)3.90部、ジエタノールアミン(DEA)0.50部を仕込み、83〜86℃に昇温した。
【0069】
NVP500.00部を滴下ロートに入れ、別の滴下ロートに2,2’−アゾビス−2−アミジノプロパン二塩酸塩(和光純薬工業社製;V−50)1.00部をイオン交換水19.00部に溶解させた開始剤溶液を入れ、同時に滴下を開始した。NVPは180分かけて滴下し、開始剤溶液は210分かけて滴下した。反応温度は83〜86℃に維持した。重合開始から210分後と240分後に、それぞれ、10%のV−50水溶液5部を一括で添加した。83〜86℃を保ったまま撹拌を続け、重合開始から270分経過後、重合および熟成を終了した。
【0070】
重合後の水溶液を、マルチロールフィールド方式ドラムドライヤー(カツラギ工業社製)で130℃で20秒間乾燥した後、ハンマーミルにて粉砕し、粉砕後の粉体をJISの試験用の目開き250μmのふるいと、目開き150μmのふるいを用いて分級し、粒径が150〜250μmの粉体(本発明の重合体)を調製した。得られた重合体の特性値を表3に示した。また、上記方法で測定した主鎖末端のリンを含む構造単位の割合は、0.42質量%であった。
【0071】
実施例2および比較例1〜3
表1に示した各成分を用い、表2に示した条件で重合した以外は、実施例1と同様にしてNVPの重合を行った。得られた重合体の特性値を表3に示した。なお、「V−59」は、和光純薬工業社製の2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)である。また、比較例3のB−2に1.0/6とあるのは、1.0部を6回に均等に分けて入れたことを意味する。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明法で得られるN−ビニルラクタム系重合体は、着色が少なく、広範囲な用途に有用である。用途の一例を挙げれば、各種無機物や有機物の分散剤、凝集剤、増粘剤、粘着剤、接着剤、表面コーティング剤、架橋性組成物等であり、より具体的には、泥土分散剤、セメント材料分散剤、セメント材料用増粘剤、洗剤用ビルダー、洗剤用色移り防止剤、重金属捕捉剤、金属表面処理剤、染色助剤、染料定着剤、泡安定剤、乳化安定剤、インク染料分散剤、水性インク安定剤、塗料用顔料分散剤、塗料用シックナー、感圧接着剤、紙用接着剤、スティック糊、医療用接着剤、貼付剤用粘着剤、化粧パック用粘着剤、樹脂用フィラー分散剤、記録紙用コーティング剤、インクジェット紙用表面処理剤、感光性樹脂用分散剤、帯電防止剤、保湿剤、肥料用バインダー、高分子架橋剤、樹脂相溶化剤、写真薬添加剤、化粧用調剤添加剤、整髪料助剤、ヘアスプレー添加剤、サンスクリーン組成物用添加剤、あるいは、種々の工業用途(例えば、中空糸膜の製造)に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アゾ系重合開始剤および/または有機過酸化物と還元剤との存在下、アルコールを必須に含む水性溶媒中で、N−ビニルラクタムを必須とする単量体成分を重合する工程を含むことを特徴とするN−ビニルラクタム系重合体の製造方法。
【請求項2】
上記還元剤には、次亜リン酸および/またはその塩が含まれる請求項1に記載のN−ビニルラクタム系重合体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法で得られるN−ビニルラクタム系重合体であって、窒素通気下、260℃で60分加熱後の黄色度が25以下であり、かつ、ハンターLab色空間におけるb値が13以下であることを特徴とするN−ビニルラクタム系重合体。
【請求項4】
請求項2に記載の製造方法で得られるN−ビニルラクタム系重合体であって、主鎖末端に次亜リン酸および/またはその塩に由来する構造単位を有する請求項3に記載のN−ビニルラクタム系重合体。

【公開番号】特開2013−64041(P2013−64041A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202306(P2011−202306)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】