説明

N−ビニルラクタム系重合体及びその製造方法

【課題】高温条件下においても、色調の変化(黄変)が少なく、色調の維持が可能なN−ビニルラクタム系重合体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】N−ビニルラクタム系単量体に由来する構造単位を有する重合体を製造する方法であって、アゾ系重合開始剤及び/又は水溶性有機過酸化物と、還元剤との存在下、水性溶媒中で、N−ビニルラクタム系単量体を含有する単量体成分を重合する工程を含むN−ビニルラクタム系重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N−ビニルラクタム系重合体及びその製造方法に関する。より詳しくは、ポリビニルピロリドン等の、各種用途に有用なN−ビニルラクタム系重合体を製造する方法、及び、N−ビニルラクタム系重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
N−ビニルラクタム系重合体としては、例えば、ポリビニルピロリドンが代表的であり、安全な機能性ポリマーとして幅広い分野で用いられている。例えば、化粧品、医農薬中間体、食品添加物、感光性電子材料、粘着付与剤等の各種用途や、種々の特殊工業用途(例えば、中空糸膜の製造)で用いられている。特に、低分子量のポリビニルピロリドンは、これらの各種用途に有用である。
【0003】
低分子量のポリビニルピロリドンは、一般に、水媒体中、金属触媒の存在下で、過酸化水素を重合開始剤として、N−ビニル−2−ピロリドンを重合することにより製造される(特許文献1、2、3参照)。例えば、分子量が比較的低いポリビニルピロリドンを、低温・短時間で安全に製造する方法として、過酸化水素、金属触媒、アンモニア及び/又はアミン化合物の存在下で、ビニルピロリドンを含む単量体成分の重合反応を行い、ポリビニルピロリドンを製造する方法が報告されている(特許文献3参照)。
【0004】
しかしながら、過酸化水素、金属触媒、アンモニア及び/又はアミン化合物を用いる製造方法においては、生成するポリビニルピロリドンが、重合時や保存時に、茶色や黄色に着色するという課題があった。このように着色したポリビニルピロリドンは、用途によっては使用することができない。なお、着色の原因は、過酸化水素、金属触媒、アンモニア及び/又はアミン化合物の併用系において、過酸化水素による生成物の酸化反応、アミン化合物の酸化、アンモニアによる生成物の酸化反応の促進等が原因であると考えられる。
【0005】
そこで、重合時や保存時におけるポリビニルピロリドンの着色を抑制する手法として、過酸化水素、金属触媒、アンモニア及び/又はアミン化合物の存在下で、ビニルピロリドンを含む単量体成分の重合反応を行ってポリビニルピロリドンを製造する際に、重合反応中及び/又は重合反応後に陽イオン交換樹脂によって処理を行う方法が開示されている(特許文献4参照)。この手法は、重合時や保存時におけるポリビニルピロリドンの着色を抑制しつつ、分子量が比較的低いポリビニルピロリドンを製造する方法として、工業的に有用なものである。
【0006】
またビニルラクタム単位を90質量%以上有する、K値28以下の重合体を含有する染料移行防止剤であって、酸基を有する連鎖移動剤を含む染料移行防止剤が開示されている(特許文献5参照)。この特許文献5には、酸基を有する連鎖移動剤を、ビニルラクタム単位を有する重合体の末端に結合させることにより、染料に対する作用効果を向上させることができ、特にアニオン性界面活性剤存在下においても、染料移行防止剤に要求される性能を充分に発揮することができることが開示されている。特許文献5にはまた、重合開始剤として4,4’−アゾビス−4−シアノ吉草酸0.94部とトリエタノールアミン0.98部との混合物、連鎖移動剤として次亜リン酸アンモニウムを使用したポリN−ビニルピロリドンであって、K値が17.3のポリN−ビニルピロリドンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−62804号公報
【特許文献2】特開平11−71414号公報
【特許文献3】特開2002−155108号公報
【特許文献4】特開2008−255147号公報
【特許文献5】特開2007−238918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、種々のポリビニルピロリドンの製造方法が提案されている。しかしながら、ポリビニルピロリドン等のN−ビニルラクタム系重合体を、例えば中空糸膜の製造に使用する場合等では、溶融したN−ビニルラクタム系重合体を繊維に練り込むこととなるが、従来の重合体では、高温に加熱した際に黄変してしまうとの課題があった。このように、従来は、高温(例えば、溶融温度以上)に加熱した場合にも着色を抑制でき、充分に良好な色調を維持することが可能なN−ビニルラクタム系重合体を製造する方法は知られていなかった。
【0009】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、高温条件下においても、色調の変化(黄変)が少なく、色調の維持が可能なN−ビニルラクタム系重合体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、N−ビニルラクタム系単量体に由来する構造単位を有する重合体の製造方法について鋭意研究を行ったところ、アゾ系重合開始剤及び/又は水溶性有機過酸化物と、還元剤との存在下、水性溶媒中で、N−ビニルラクタム系単量体を含有する単量体成分を重合する工程を含む方法とすると、高温状態においても着色を抑制し、色調を維持することが可能なN−ビニルラクタム系重合体を、効果的に得ることができることを見いだした。このような重合体は、特に200〜270℃付近において、色調変化(黄変)を充分に抑制することができることを見いだした。
【0011】
本発明者らはまた、N−ビニルラクタム系単量体に由来する構造単位を有する重合体についても検討を行い、主鎖末端にリンを含む構造単位を有するN−ビニルラクタム系重合体や、特定条件下での黄色度及びb値が特定範囲に設定されたN−ビニルラクタム系重合体が、高温状態においても着色を抑制し、色調を維持することが可能であることを見いだした。特に、200〜270℃付近において、色調変化(黄変)が充分に抑制されることを見いだした。そして、これらのN−ビニルラクタム系重合体が、中空糸膜の製造等、種々の工業用途に好ましく採用されることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち本発明は、N−ビニルラクタム系単量体に由来する構造単位を有する重合体を製造する方法であって、該N−ビニルラクタム系重合体の製造方法は、アゾ系重合開始剤及び/又は水溶性有機過酸化物と、還元剤との存在下、水性溶媒中で、N−ビニルラクタム系単量体を含有する単量体成分を重合する工程を含むN−ビニルラクタム系重合体の製造方法である。
【0013】
本発明はまた、N−ビニルラクタム系単量体に由来する構造単位を有する重合体であって、該N−ビニルラクタム系重合体は、主鎖末端に、リンを含む構造単位を有するN−ビニルラクタム系重合体でもある。
【0014】
本発明は更に、N−ビニルラクタム系単量体に由来する構造単位を有する重合体であって、該N−ビニルラクタム系重合体は、窒素通気下260℃で60分加熱した際の黄色度が25以下であり、かつハンターLab色空間におけるb値が13以下であるN−ビニルラクタム系重合体でもある。
以下に本発明を詳述する。なお、以下に記載される本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせた形態も本発明の好ましい形態である。
【0015】
<N−ビニルラクタム系重合体の製造方法>
本発明にかかるN−ビニルラクタム系重合体の製造方法は、アゾ系重合開始剤及び/又は水溶性有機過酸化物と、還元剤との存在下、水性溶媒中で、N−ビニルラクタム系単量体を含有する単量体成分を重合する工程を含む。
なお、N−ビニルラクタム系重合体とは、N−ビニルラクタム系単量体に由来する構造単位を有する重合体をいう。N−ビニルラクタム系単量体に由来する構造単位とは、N−ビニルラクタム系単量体がラジカル重合して形成される構造単位をいい、具体的には、N−ビニルラクタム系単量体の重合性炭素炭素二重結合が炭素炭素単結合になった構造単位をいう。
【0016】
−単量体成分−
上記N−ビニルラクタム系単量体とは、環状のラクタム環を有する単量体であり、例えば、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニル−4−ブチルピロリドン、N−ビニル−4−プロピルピロリドン、N−ビニル−4−エチルピロリドン、N−ビニル−4−メチルピロリドン、N−ビニル−4−メチル−5−エチルピロリドン、N−ビニル−4−メチル−5−プロピルピロリドン、N−ビニル−5−メチル−5−エチルピロリドン、N−ビニル−5−プロピルビロリドン、N−ビニル−5−ブチルピロリドン、N−ビニル−4−メチルカプロラクタム、N−ビニル−6−メチルカプロラクタム、N−ビニル−6−プロピルカプロラクタム、N−ビニル−7−ブチルカプロラクタム等が挙げられる。これらの中でも、重合性が良好であり、また、得られる重合体の高温での色調の安定性が良好であることから、N−ビニル−2−ピロリドン、及び/又は、N−ビニルカプロラクタムを用いることが好適である。
なお、上記N−ビニルラクタム系単量体は、1種又は2種以上を使用することができる。
【0017】
上記重合工程に供される単量体成分としては、N−ビニルラクタム系単量体以外の単量体(他の単量体とも称す)を、1種又は2種以上含んでもよい。すなわち、上記N−ビニルラクタム系重合体は、1種又は2種以上の他の単量体に由来する構造単位(他の単量体がラジカル重合して形成される構造単位)を有していてもよい。
【0018】
このような他の単量体としては特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、(メタ)アクリル酸塩等のカルボキシル基含有単量体;ビニルスルホン酸、ビニルスルホン酸塩、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸塩、(メタ)アリルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸塩等のスルホン酸基含有単量体;(メタ)アクリル酸のアルキルエステル(メチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート等)、(メタ)アクリル酸とグリコールとのモノエステル(ヒドロキシエチルメタクリレート等)等;(メタ)アクリル酸のアミノアルキルエステル(ジエチルアミノエチルアクリレート等)、(メタ)アクリル酸のアミノアルキルエステルの第4級アンモニウム誘導体、(メタ)アクリル酸のアミノアルキルエステルの第4級アンモニウム誘導体、ジエチルアミノエチルアクリレートとメチルサルフェートとの第4級アンモニウム化合物、N−ビニルイミダゾール等のアミノ基含有単量体;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル類;N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルカルバゾール、(メタ)アクリルアミド、N−アルキル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−メチレンビス(メタ)アクリルアミド等のアミド系単量体;酢酸ビニル、ビニルステアレート;グリコールジアクリレート、グリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、グリコールジアリルエーテル等の複数の重合性炭素炭素二重結合を含む単量体;等が挙げられる。
ここで、塩としては、例えば、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩が挙げられ、金属塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;遷移金属塩;等が例示されるが、アルカリ金属塩が好ましい。また、加熱時の臭気や着色(黄変)をより充分に抑制する観点から、アンモニウム塩をなるべく用いないことが好ましい。
なお、本明細書中、(メタ)アクリル酸とはメタクリル酸又はアクリル酸を、(メタ)アリルスルホン酸とはメタリルスルホン酸又はアリルスルホン酸を、(メタ)アクリルアミドとはメタクリルアミド又はアクリルアミドを、(メタ)アクリレートとはメタクリレート又はアクリレートを、それぞれ意味する。
【0019】
上記単量体成分において、N−ビニルラクタム系単量体の含有割合(使用割合)は、全単量体成分(N−ビニルラクタム系単量体及び他の単量体)100質量%に対して、50質量%以上100質量%以下であることが好ましい。これにより、得られる重合体を、例えば中空糸膜の製造に使用した場合に、中空糸膜の生産性がより向上される。より好ましくは、80質量%以上100質量%以下であり、更に好ましくは、90質量%以上100質量%以下である。特に好ましくは100質量%、すなわち、本発明のN−ビニルラクタム系重合体が、N−ビニルラクタム系単量体の単独重合体である形態が特に好ましい。
【0020】
また上記他の単量体の含有割合(使用割合)は、全単量体成分(N−ビニルラクタム系単量体及び他の単量体)100質量%に対して、0質量%以上50質量%以下であることが好ましく、0質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、0質量%以上10質量%以下であることが更に好ましく、0質量%であることが特に好ましい。
なお、全単量体成分(100質量%)に対する他の単量体等の含有割合を計算する際、他の単量体が、カルボキシル基の塩やスルホン酸基の塩等の酸基の塩を有する場合は、当該酸基の塩を、対応する酸基として計算する(酸換算)。また、他の単量体がアミノ基の塩を有する場合には、当該アミノ基の塩を、対応するアミノ基として計算する(アミン換算)。後述する全単量体由来の構造単位の総量(100質量%)に対する、他の単量体に由来する構造単位を計算する場合や、N−ビニルラクタム系重合体の全質量(100質量%)に対する、還元剤由来の構造単位を計算する場合も同様に、該当する場合には酸換算、アミン換算で計算するものとする。例えば、アクリル酸ナトリウムに由来する構造単位である場合、対応する酸であるアクリル酸に由来する構造単位として質量%を計算する。
【0021】
−アゾ系重合開始剤及び/又は水溶性有機過酸化物−
上記重合工程は、アゾ系重合開始剤及び/又は水溶性有機過酸化物の存在下で行われる。なお、アゾ系重合開始剤及び/又は水溶性有機過酸化物は、上記重合工程における重合開始剤として使用される。
ここで、アゾ系重合開始剤とは、アゾ結合を有し熱等によりラジカルを発生する化合物を意味し、1種又は2種以上を使用することができる。水溶性有機過酸化物もまた、1種又は2種以上を使用することができる。
【0022】
上記重合工程で使用可能なアゾ系重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二硫酸塩二水和物、2,2’−アゾビス−(プロパン−2−カルボアミジン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−メチルプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[N−(2−ヒドロキシエチル)−2−メチルプロパンアミド、4,4’−アゾビス−4−シアノパレリン酸、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等が例示される。これらの中でも、水溶性アゾ系重合開始剤を用いることが好適である。より好ましくは、後述するように、カルボキシル基を含まないものである。
ここで、「水溶性」とは、20℃において、水100質量部に対し、1質量部以上溶解する性質をいう。
【0023】
上記アゾ系重合開始剤としてはまた、10時間半減温度が30℃以上90℃以下であるものが好適である。これにより、低分子量のN−ビニルラクタム系重合体をより効率よく製造することが可能になり、また、得られる重合体の高温での色調がより良好になる。より好ましくは、10時間半減温度が40℃以上70℃以下であるものである。
【0024】
上記重合工程で使用可能な水溶性有機過酸化物としては、例えば、ターシャリーブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ターシャリーヘキシルヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド等のアルキルヒドロペルオキシド;ターシャリーブチルペルオキシアセテート;ジスクシノイルペルオキシド;過酢酸等が例示される。これらの中でも、低分子量のN−ビニルラクタム系重合体をより効率よく製造することが可能になり、また、得られる重合体の高温での色調がより良好になることから、アルキルヒドロペルオキシドを用いることが好適である。より好ましくは、ターシャリーブチルヒドロペルオキシドを用いることである。
【0025】
上記有機過酸化物としてはまた、10時間半減温度が30℃以上180℃以下であるものが好適である。これにより、低分子量のN−ビニルラクタム系重合体をより効率よく製造することが可能になり、また、得られる重合体の高温での色調がより良好になる。より好ましくは、10時間半減温度が40℃以上170℃以下であるものである。
【0026】
上記重合工程においては、重合開始剤として、アゾ系重合開始剤及び水溶性有機過酸化物からなる群より選択される1種又は2種以上が使用されるが、その他の重合開始剤を併用しても構わない。そのような重合開始剤としては、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過酸化水素等が例示される。
ここで、上記製造方法により得られるN−ビニルラクタム系重合体は、重合開始剤に由来する構造単位を有することがある。このような重合開始剤に由来する構造単位は、典型的には重合体の開始末端に形成されるが、重合体の主鎖末端にカルボキシル基が形成されると、加熱時の着色(黄変)が増加する傾向にあるため、重合体の主鎖末端にはカルボキシル基(塩)を含まないことが好ましい。よって、重合開始剤はカルボキシル基(塩)を有さないことが好ましい。
【0027】
上記重合開始剤の使用量(複数使用される場合は、その総量)は、特に言及する場合を除き、全単量体成分1モルに対して、15g以下とすることが好適である。より好ましくは、0.1〜12gである。
ここでいう重合開始剤の使用量には、アゾ系重合開始剤及び水溶性有機過酸化物の使用量も含む。
【0028】
上記重合開始剤としてアゾ系重合開始剤を使用する場合には、全単量体成分1モルに対して、アゾ系重合開始剤の使用量を1.9g以下とすることが好ましい。これにより、低分子量のN−ビニルラクタム系重合体をより効率よく製造することが可能になり、また、得られる重合体の高温での色調がより良好になる。より好ましくは1.6g以下、更に好ましくは1.2g以下、特に好ましくは1.1g以下とすることである。また、使用量の下限は、全単量体成分1モルに対して、0.1g以上が好ましく、0.2g以上がより好ましい。
【0029】
上記重合開始剤として水溶性有機過酸化物を使用する場合には、全単量体成分1モルに対して、水溶性有機過酸化物の使用量を1.9g以下とすることが好ましい。これにより、低分子量のN−ビニルラクタム系重合体をより効率よく製造することが可能になり、また、得られる重合体の高温での色調がより良好になる。より好ましくは1.6g以下、更に好ましくは1.2g以下、特に好ましくは1.1g以下とすることである。また、使用量の下限は、全単量体成分1モルに対して、0.1g以上が好ましく、0.2g以上がより好ましい。
【0030】
上記重合開始剤の反応系(重合釜)への添加方法としては特に限定されないが、例えば、重合開始剤の全使用量(必要所定量の総量)100質量%に対し、重合中に実質的に連続的に添加する量が50質量%以上であることが好ましい。より好ましくは80質量%以上であり、更に好ましくは100質量%、すなわち全量を連続的に添加することである。重合開始剤を連続的に添加する場合、その滴下速度は変えてもよい。また、重合開始剤は、水等の溶媒に溶解せずにそのまま添加しても良いが、水等の溶媒に溶解して反応系(重合釜)へ添加することが好ましい。
なお、本発明において「重合中」とは、重合開始時点以降、重合終了時点以前を表す。
また、「重合開始時点」とは、重合装置に単量体成分の少なくとも一部及び開始剤の少なくとも一部の両方が添加された時点を指し、「重合終了時点」とは、単量体の全量の重合装置への添加が終了した時点を指す。
【0031】
−還元剤−
上記重合工程はまた、還元剤の存在下で行われる。還元剤の存在下で重合することにより、低分子量のN−ビニルラクタム系重合体を効率よく製造できる。
上記還元剤は、単独で使用されてもよいし、2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。このような還元剤として具体的には、例えば、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、チオグリコール酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸オクチル、2−メルカプトエタンスルホン酸、n−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ブチルチオグリコレート等のチオール化合物;四塩化炭素、塩化メチレン、ブロモホルム、ブロモトリクロロエタン等のハロゲン化物;イソプロパノール、グリセリン等の第2級アルコール;亜リン酸、亜リン酸塩、次亜リン酸、次亜リン酸塩及びこれらの水和物等のリンを含む化合物;亜硫酸、亜硫酸水素、亜二チオン酸、メタ重亜硫酸及びその塩等の重亜硫酸塩(水に溶解して重亜硫酸塩を発生する化合物を含む)等の低級酸化物及びその塩等が挙げられる。
上記塩としては、例えば、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩が挙げられ、好ましくは、金属塩である。金属塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;遷移金属塩;等が例示されるが、アルカリ金属塩が好ましい。また、加熱時の臭気や着色(黄変)をより充分に抑制する観点から、アンモニウム塩をなるべく用いないことが好ましい。
【0032】
上記還元剤の中でも、得られるN−ビニルラクタム系重合体の高温における色調が特に良好になることから、次亜リン酸(塩)及び/又は亜リン酸(塩)を使用することが好ましい。すなわち、上記重合工程は、次亜リン酸(塩)及び/又は亜リン酸(塩)の存在下で重合を行う形態であることが好適である。中でも、連鎖移動効率が良いことから、少なくとも次亜リン酸(塩)を使用することがより好ましい。更に好ましくは、次亜リン酸及び/又は次亜リン酸の金属塩であり、特に好ましくは、次亜リン酸及び/又は次亜リン酸のアルカリ金属塩である。
なお、次亜リン酸(塩)とは、次亜リン酸又は次亜リン酸塩であり、その水和物も含むものを意味し、亜リン酸(塩)とは、亜リン酸又は亜リン酸塩であり、その水和物も含むものを意味する。
【0033】
上記還元剤の使用量は、特に言及する場合を除き、全単量体成分1モルに対して、0.05〜20gとすることが好適である。0.05g未満であると、分子量をより制御することができないおそれがあり、逆に20gを超えると、還元剤が残留し、重合体純分を充分に高めることができないおそれがある。より好ましくは0.1〜15gである。
【0034】
上記還元剤として次亜リン酸(塩)及び/又は亜リン酸(塩)を使用する場合には、全単量体成分1モルに対して、次亜リン酸(塩)及び/又は亜リン酸(塩)の使用量(複数使用される場合は、その総量)を5.0g以下とすることが好ましい。この上限を超えると、連鎖移動に寄与しない次亜リン酸(塩)及び/又は亜リン酸(塩)(重合体末端に取り込まれない次亜リン酸(塩)及び/又は亜リン酸(塩))が増加し、無機陰イオン量が増加することに起因して、例えば、中空糸膜の製造に使用した場合に性能がより充分なものとはならないことがある。より好ましくは4.5g以下、更に好ましくは4.0g以下である。また、使用量の下限は、全単量体1モルに対して、0.5g以上が好ましく、1.0g以上がより好ましい。
【0035】
上記還元剤の添加方法としては、重合開始前に反応容器(重合釜)に添加してもよいし(初期仕込みという)、全部又はその一部を重合中に反応容器(重合釜)に添加してもよい。本発明において「重合開始前」とは、上記重合開始時点より前を表し、「重合終了後」とは、上記重合終了時点より後を表す。
上記還元剤はまた、重合中に反応系(重合釜)へ実質的に連続的に添加する量が、還元剤の全使用量100質量%に対して50質量%以上であることが好ましい。より好ましくは80質量%以上であり、更に好ましくは95質量%以上である。還元剤を連続的に添加する場合、その滴下速度は変えてもよい。
【0036】
−その他の添加剤−
上記重合工程では、重合開始剤の分解触媒等として作用する還元性化合物として、重金属イオン(又は重金属塩)を使用してもよい。重金属とは、比重が4g/cm以上の金属を意味する。
上記重金属の中でも鉄が好ましく、上記還元性化合物として、モール塩(Fe(NH(SO・6HO)、硫酸第一鉄・7水和物、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸銅(I)及び/又はその水和物、硫酸銅(II)及び/又はその水和物、塩化銅(II)及び/又はその水和物等の重金属塩等を用いることが好ましい。
上記重金属イオンを使用する場合、その使用量は、重合反応完結時における重合反応液の全質量に対して、0.01〜10ppmであることが好ましい。重金属イオンの含有量が0.01ppm未満であると、重金属イオンによる効果が充分に発現しないおそれがある。一方、重金属イオンの含有量が10ppmを超えると、得られる重合体の色調がより良好なものとはならないおそれがある。
【0037】
上記重合工程ではまた、重合反応の促進やN−ビニルラクタムの加水分解の防止等を目的として、アンモニア及び/又はアミン化合物を用いることができる。アンモニア及び/又はアミン化合物は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記アンモニア及び/又はアミン化合物は、重合反応において、助触媒として機能し得る。すなわち、アンモニア及び/又はアミン化合物が反応系に含まれると、含まれない場合と比較して、重合反応の進行がより一層促進され得る。また、上記アンモニア及び/又はアミン化合物は、重合反応の反応系において、塩基性pH調節剤としても機能し得る。
【0038】
ここで、得られるN−ビニルラクタム系重合体においては、加熱時の臭気や着色(黄変)をより充分に抑制する目的から、アンモニウム塩構造(例えば、−COONHや、−SONH等の酸のアンモニウム塩構造)をなるべく含まないように設定することが好ましい。N−ビニルラクタム系重合体中のアンモニウム塩構造(NHとして質量を計算する)の好ましい範囲は、N−ビニルラクタム系重合体100質量%に対して(ただし、水溶液等の組成物である場合には、固形分100質量部に対して)、0〜0.001質量%である。また、このような観点から、アンモニア及び/又はアミン化合物を用いる場合、アミン化合物を使用することが好ましい。
【0039】
上記アンモニア及び/又はアミン化合物の添加は、任意の適切な方法で行うことができ、例えば、重合初期より反応容器内に仕込んでおいてもよいし、重合中に反応容器中に逐次添加してもよい。
【0040】
上記アンモニアは、常温にて気体状の単体としてそのまま用いてもよいし、水溶液(アンモニア水)として用いてもよい。
上記アミン化合物としては、任意の適切なアミン化合物を採用し得る。具体的には、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンが挙げられる。アミン化合物は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0041】
上記第1級アミンとしては、例えば、モノエタノールアミン、アリルアミン、イソプロピルアミン、ジアミノプロピルアミン、エチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−(ジエチルアミノ)プロピルアミン、3−(ジブチルアミノ)プロピルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、t−ブチルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、3−(メチルアミノ)プロピルアミン、3−(ジメチルアミノ)プロピルアミン、3−メトキシプロピルアミンが挙げられる。上記第1級アミンは、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0042】
上記第2級アミンとしては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、N−メチルエチルアミン、N−メチルプロピルアミン、N−メチルイソプロピルアミン、N−メチルブチルアミン、N−メチルイソブチルアミン、N−メチルシクロヘキシルアミン、N−エチルプロピルアミン、N−エチルイソプロピルアミン、N−エチルブチルアミン、N−エチルイソブチルアミン、N−エチルシクロヘキシルアミン、N−メチルビニルアミン、N−メチルアリルアミン等の脂肪族第2級アミン;N−メチルエチレンジアミン、N−エチルエチレンジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジエチルエチレンジアミン、N−メチルトリメチレンジアミン、N−エチルトリメチレンジアミン、N,N’−ジメチルトリメチレンジアミン、N,N’−ジエチルトリメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン等の脂肪族ジアミン及びトリアミン;N−メチルベンジルアミン、N−エチルベンジルアミン、N−メチルフェニチルアミン、N−エチルフェネチルアミン等の芳香族アミン;N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−プロピルエタノールアミン、N−イソプロピルエタノールアミン、N−ブチルエタノールアミン、N−イソブチルエタノールアミン等のモノアルカノールアミン;ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジブタノールアミン等のジアルカノールアミン;ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、N−メチルピペラジン、N−エチルピペラジン、モルホリン、チオモルホリン等の環状アミン;が挙げられる。これらのうち、ジアルカノールアミン及びジアルキルアミンが好ましく、ジアルカノールアミンがより好ましく、中でもジエタノールアミンが特に好適である。上記第2級アミンは、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0043】
上記第3級アミンとしては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリブタノールアミン等のトリアルカノールアミンが挙げられる。これらのうち、トリアルカノールアミンが好ましく、中でもトリエタノールアミンが特に好適である。上記第3級アミンは、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0044】
上記アンモニア及びアミン化合物を使用する場合の合計量は、使用する開始剤の種類やその他の原料等にも関係するため一概には言えないが、重合中のpHが後述の範囲を維持できるように設定することが好ましい。アンモニアの使用量は極力低減することが好ましい。
なお、上記重金属塩として銅塩を用い、更に上記アンモニアを用いる場合、銅のアンミン錯塩が形成し得る。銅のアンミン錯塩としては、例えば、ジアンミン銅塩([Cu(NHSO・HO、[Cu(NH]Cl等)、テトラアンミン銅塩([Cu(NH]SO・HO、[Cu(NH]Cl等)が挙げられる。
【0045】
−重合溶媒−
上記重合工程は、水性溶媒中で行われる。
上記水性溶媒とは、水、又は、水を含む混合溶媒を意味する。水を含む混合溶媒としては、全溶媒100質量%に対し、50質量%以上が水である混合溶媒であることが好ましく、80質量%以上が水であることがより好ましい。上記水性溶媒として特に好ましくは、水のみを使用することである。水のみを使用する場合には、有機溶剤の残存が回避できる点で好適である。
なお、重合の際、水とともに使用できる溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;グリセリン;ポリエチレングリコール;ジメチルホルムアルデヒド等のアミド類;ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類等が好適であり、1種又は2種以上を使用することができる。
【0046】
上記重合工程は、重合終了後の固形分濃度(溶液のうち不揮発分の濃度であり、後述する測定方法により測定することができる)が、重合溶液100質量%に対して10〜70質量%となるように行うことが好ましい。より好ましくは15〜60質量%、更に好ましくは20〜55質量%である。
【0047】
−その他の重合条件−
上記重合工程の重合条件に関し、重合の際の温度は、好ましくは70℃以上である。重合時の温度がこの範囲にあれば、残存単量体成分が少なくなり、重合体の分散性が向上する傾向にある。より好ましくは75〜110℃、更に好ましくは80〜105℃である。
なお、重合時の温度は、重合反応の進行中において、常に一定に保持する必要はなく、例えば、室温から重合を開始し、適当な昇温時間又は昇温速度で設定温度まで昇温し、その後、設定温度を保持するようにしてもよいし、また、単量体成分や開始剤等の滴下方法に応じて、重合反応の進行中に経時的に重合温度を変動(昇温又は降温)させてもよい。
【0048】
上記重合工程において、重合時のpH(すなわち、重合に供する重合溶液のpH)としては、不純物又は副生成物を充分に抑制する観点から、4以上が好ましく、6以上がより好ましい。また、11以下が好ましい。
【0049】
上記重合工程の重合時間(重合開始時点から重合終了時点の間)は、30分以上、5時間以下であることが好ましい。重合時間が長くなると、重合液の着色が大きくなる傾向にある。また、上記重合終了時点後、重合液に残存する単量体を低減する目的等で、熟成工程(重合後、加温・保温条件下で保持する工程をいう)を設けてもよい。熟成時間は、通常、1分以上、4時間以内である。熟成時間中に、更に重合開始剤を添加すれば、重合液に残存する単量体を低減できることから好ましい。
また上記重合工程では、単量体の添加終了時間よりも、開始剤の滴下終了時間を遅らすことが、重合液に残存する単量体を低減することができることから好ましい。より好ましくは1〜120分遅らせることであり、5〜60分遅らせることが更に好ましい。
【0050】
上記重合工程において、反応系内の圧力は、常圧(大気圧)下、減圧下、加圧下のいずれであってもよいが、得られる重合体の分子量の点では、常圧下、又は、反応系内を密閉し、加圧下で行うことが好ましい。また、加圧装置や減圧装置、耐圧性の反応容器や配管等の設備の点では、常圧(大気圧)下で行うことが好ましい。
また反応系内の雰囲気は、空気雰囲気でもよいが、不活性雰囲気とするのが好ましく、例えば、重合開始前に系内を窒素等の不活性ガスで置換することが好ましい。
【0051】
−重合工程以外の工程−
本発明の製造方法は、上記重合工程を含むが、必要に応じて、精製工程、脱塩工程、濃縮工程、希釈工程、乾燥工程等を含んでいてもよい。
上記乾燥工程は、粉体化等を行う工程であり、一般的方法で行えばよい。例えば、噴霧乾燥、凍結乾燥、流動床乾燥、ドラム乾燥、ベルト式乾燥等により、粉末に移行させることができる。
【0052】
上記製造方法ではまた、反応液(重合液)を陽イオン交換樹脂で処理することにより、得られるN−ビニルラクタム系重合体溶液の色調をより改善することができる。このような陽イオン交換樹脂で処理する工程は、重合中(重合工程と並行して)又は重合後に行うことができる。
上記重合反応中における陽イオン交換樹脂による処理は、任意の適切な方法で処理し得る。好ましくは、上記単量体成分の重合反応が行われている反応容器中へ、陽イオン交換樹脂を添加することにより行うことができる。具体的には、例えば、重合反応が行われている反応容器中へ陽イオン交換樹脂を添加して微細に懸濁させ、その後に濾過する形態が挙げられる。
上記陽イオン交換樹脂による処理の時間は、任意の適切な時間を採用し得る。好ましくは1分〜24時間である。処理時間が短すぎると本発明の効果が充分に発現できないおそれがあり、また、処理時間が長すぎると生産性がより向上されないおそれがある。より好ましくは3分〜12時間であり、更に好ましくは5分〜2時間である。
【0053】
−本発明の製造方法により得られるN−ビニルラクタム系重合体−
本発明の製造方法により得られるN−ビニルラクタム系重合体は、N−ビニルラクタム系単量体に由来する構造単位を含む。
上記N−ビニルラクタム系単量体に由来する構造単位の含有割合は、N−ビニルラクタム系重合体に含まれる全単量体由来の構造単位(N−ビニルラクタム系単量体に由来する構造単位と、他の単量体に由来する構造単位との総量)100質量%に対して、50質量%以上100質量%以下であることが好ましい。これにより、得られる重合体を、例えば中空糸膜の製造に使用した場合に、中空糸膜の生産性がより向上される。より好ましくは、80質量%以上100質量%以下であり、更に好ましくは、90質量%以上100質量%以下である。特に好ましくは100質量%、すなわち、上記N−ビニルラクタム系重合体が、N−ビニルラクタム系単量体の単独重合体である形態が特に好ましい。
また上記他の単量体に由来する構造単位の含有割合は、N−ビニルラクタム系重合体に含まれる全単量体由来の構造単位100質量%に対して、0質量%以上50質量%以下であることが好ましく、0質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、0質量%以上10質量%以下であることが更に好ましく、0質量%であることが特に好ましい。
【0054】
上記製造方法により得られるN−ビニルラクタム系重合体はまた、還元剤由来の構造単位を有することが好ましい。
ここで、還元剤由来の構造単位とは、N−ビニルラクタム系重合体の分子内に取り込まれた還元剤片である。例えば、亜リン酸(ホスホン酸)由来の構造単位であれば、ホスホン酸基、−P(=O)(OH)で表され、次亜リン酸(ホスフィン酸)ナトリウム由来の構造単位であれば、ホスフィン酸基、−PH(=O)(ONa)、−P(=O)(ONa)−、で表され、亜硫酸水素ナトリウム由来の構造単位であれば、スルホン酸基、−SONa、で表される。
【0055】
上記還元剤由来の構造単位として好ましくは、亜リン酸(塩)や次亜リン酸(塩)等の含リン還元剤に由来する構造単位(リンを含む原子団ともいう)であり、これにより、N−ビニルラクタム系重合体の高温における色調が特に良好なものとなる。この場合、上記ビニルラクタム系重合体は、リンを含む構造単位を有する形態となるが、このような形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。また、N−ビニルラクタム系重合体の高温における色調がより良好なものとなることから、含リン還元剤に由来する構造単位の含有割合が、後述する範囲内にあることが更に好適である。
【0056】
上記還元剤由来の構造単位の割合は、N−ビニルラクタム系重合体の全質量100質量%に対して、0.01質量%以上、5質量%以下であることが好適である。より好ましくは0.1質量%以上、3質量%以下である。
なお、還元剤由来の構造単位の割合(質量%)は、NMR測定により求めることができる。例えば、含リン還元剤に由来する構造単位の割合は、後述するように、31P−NMR測定により求めることができる。
【0057】
上記製造方法により得られるN−ビニルラクタム系重合体はまた、フィケンチャー法によるK値が100以下であることが好適であり、これにより、各種用途により有用なものとなる。なお、K値が高すぎると、分散対象を分散させた分散液の粘度が高くなる傾向にある。より好ましくは80以下、更に好ましくは70以下、特に好ましくは60以下である。また、例えばN−ビニルラクタム系重合体を繊維原料ポリマーに練り込む際に、該ポリマー分子鎖との絡み合いが強くなる観点や、N−ビニルラクタム系重合体自体が基材に吸着する特性をより向上させる等の観点から、20以上であることが好ましい。より好ましくは23以上、更に好ましくは26以上、特に好ましくは29以上である。
【0058】
上記フィケンチャー法によるK値は、以下の測定方法によって求めることができる。
K値が20未満である場合には5%(g/100ml)溶液の粘度を測定し、K値が20以上の場合は1%(g/100ml)溶液の粘度を測定する。
試料濃度は乾燥物換算する。
K値が20以上の場合、試料は1.0gを精密に計りとり、100mlのメスフラスコに入れ、室温で蒸留水を加え、振とうしながら完全に溶かして蒸留水を加えて正確に100mlとする。この試料溶液を恒温槽(25±0.2℃)で30分放置後、ウベローデ型粘度計を用いて測定する。溶液が2つの印線の間を流れる時間(溶液の流動時間)を測定する。数回測定し、平均値をとる。相対粘度を測定するために、蒸留水についても同様に測定する(水の流動時間)。2つの得られた流動時間をハーゲンバッハ−キュッテ(Hagenbach−Couette)の補正に基づいて補正する。なお、K値が20未満の場合は、試料の質量を5.0gとすること以外は、上記と同様にして、溶液の流動時間を求める。
このようにして測定された溶液及び水の流動時間から、下記式により、K値を算出する。
【0059】
【数1】

【0060】
上記式中、Zは、濃度Cの溶液の相対粘度(ηrel)を表す。Cは、濃度(%:g/100ml)である。
相対粘度ηrelは、次式により得られる。
ηrel=(溶液の流動時間)÷(水の流動時間)
【0061】
上記製造方法により得られるN−ビニルラクタム系重合体(又は、後述するN−ビニルラクタム系重合体組成物)はまた、高温条件下での色調が良好である、すなわち着色し難いものである。例えば、窒素通気下260℃で60分加熱した際の黄色度(YI)が25以下であることが好ましく、より好ましくは20以下である。また、ハンターLab色空間におけるb値が13以下であることが好ましく、より好ましくは10以下である。
黄色度(YI)及びハンターLab色空間におけるb値については、後述する測定方法により求めることができる。
【0062】
<N−ビニルラクタム系重合体>
本発明はまた、N−ビニルラクタム系単量体に由来する構造単位を有する重合体であって、該N−ビニルラクタム系重合体は、主鎖末端に、リンを含む構造単位を有するN−ビニルラクタム系重合体でもある。主鎖末端にリンを含む構造単位を有することにより、N−ビニルラクタム系重合体を加熱したときの着色(黄変)を低く抑えることが可能になる。
ここで、主鎖末端のリンを含む構造単位としては、例えば、次亜リン酸(塩)基(次亜リン酸基又は次亜リン酸塩基を意味する)、亜リン酸(塩)基(亜リン酸基又は亜リン酸塩基を意味する)等が挙げられ、これらからなる群より選択される少なくとも1種であることが好適である。より具体的には、ホスホン酸(塩)基、ホスフィン酸(塩)基等が挙げられる。これらの中でも、ホスフィン酸(塩)基が好ましい。すなわち、上記N−ビニルラクタム系重合体は、主鎖末端にホスフィン酸(塩)基を有することが好適である。
【0063】
上記塩としては、例えば、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩が挙げられ、好ましくは、金属塩である。金属塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;遷移金属塩;等が例示されるが、アルカリ金属塩が好ましい。また、加熱時の臭気や着色(黄変)をより充分に抑制する観点から、アンモニウム塩をなるべく用いないことが好ましい。
なお、上記リンを含む構造単位が、次亜リン酸基、亜リン酸基、又は、これらの金属塩基からなる構造単位である場合には、例えば、重合体の主鎖末端に、次亜リン酸(塩)基及び/又は亜リン酸(塩)基を形成した後に、酸又は塩基の追加により、所望の酸又は金属塩に変換することも可能である。同様に、イオン交換樹脂等で処理することにより変換することも可能である。
【0064】
上記主鎖末端にリンを含む構造単位を有するN−ビニルラクタム系重合体において、当該主鎖末端のリンを含む構造単位の含有割合は、N−ビニルラクタム系重合体の全質量100質量%に対し、0.01質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.1質量%以上であり、更に好ましくは0.3質量%以上である。また、10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは7質量%以下であり、更に好ましくは6質量%以下である。
なお、N−ビニルラクタム系重合体の全質量に対する、主鎖末端のリンを含む構造単位の質量%を計算する場合も、上述した場合に該当するときには、酸換算、アミン換算で計算するものとする。
【0065】
上記主鎖末端にリンを含む構造単位を有するN−ビニルラクタム系重合体において、N−ビニルラクタム系単量体に由来する構造単位の含有割合の好ましい範囲は、上述した本発明の製造方法により得られるN−ビニルラクタム系重合体における、当該含有割合と同様である。
【0066】
上記主鎖末端にリンを含む構造単位を有するN−ビニルラクタム系重合体はまた、N−ビニルラクタム系単量体以外の単量体(他の単量体)に由来する構造単位を有していてもよいが、その含有割合の好ましい範囲についても、上述した本発明の製造方法により得られるN−ビニルラクタム系重合体における、当該含有割合と同様である。
【0067】
上記主鎖末端にリンを含む構造単位を有するN−ビニルラクタム系重合体はまた、単量体成分に由来する構造単位及びリンを含む構造単位に加えて、その他の構造単位を有していてもよい。その他の構造単位としては、例えば、重合開始剤に由来する構造単位や、リンを含まない還元剤に由来する構造単位等が挙げられる。すなわち、単量体や含リン還元剤以外の原料に由来する構造単位等が挙げられる。
このような、その他の構造単位の含有割合は、N−ビニルラクタム系重合体の全質量100質量%に対し、0.1質量%以上、10質量%以下であることが好適である。
【0068】
上記主鎖末端にリンを含む構造単位を有するN−ビニルラクタム系重合体は、好ましくは、上述した本発明の製造方法において、還元剤として、亜リン酸(塩)や次亜リン酸(塩)、これらの水和物等の含リン還元剤を用いることにより、得ることができる。すなわち、N−ビニルラクタム系単量体を含む単量体成分を、これら含リン還元剤を必須とする還元剤の存在下で重合することにより得ることができる。この場合、リンを含む構造単位は、還元剤片として重合体分子内に取り込まれることとなる。含リン還元剤として特に好ましくは、次亜リン酸(塩)を少なくとも用いることである。
【0069】
上記リンを含む構造単位の分析は、例えば、31P−NMR測定等により可能である。具体的には、後述する測定方法により分析することができる。
なお、上記還元剤として、次亜リン酸(塩)のように2度以上還元剤として寄与する化合物を使用する場合、N−ビニルラクタム系重合体の分子末端以外にリンを含む構造単位が形成される場合があり得る(例えば、ホスフィン酸ナトリウム基は、分子末端以外にも−P(=O)(ONa)−として分子内に取り込まれ得る)。この場合であっても、31PNMR等により分子末端のリンを含む構造単位を測定することは可能である。
【0070】
本発明は更に、N−ビニルラクタム系単量体に由来する構造単位を有する重合体であって、該N−ビニルラクタム系重合体は、窒素通気下260℃で60分加熱した際の黄色度が25以下であり、かつハンターLab色空間におけるb値が13以下であるN−ビニルラクタム系重合体でもある。このようなN−ビニルラクタム系重合体は、好ましくは、上述した本発明の製造方法により得ることができる。黄色度として好ましくは20以下であり、また、ハンターLab色空間におけるb値としてより好ましくは10以下である。
【0071】
<N−ビニルラクタム系重合体組成物>
本発明の製造方法により得られたN−ビニルラクタム系重合体や、上述した本発明のN−ビニルラクタム系重合体はまた、他の成分(例えば、単量体や重合時の副生成物、開始剤や還元剤等の残渣、溶媒等)とともに存在することがある。このような、上記N−ビニルラクタム系重合体を含むN−ビニルラクタム系重合体組成物もまた、本発明の好適な形態の1つである。
なお、上記N−ビニルラクタム系重合体組成物として好ましくは、該N−ビニルラクタム系重合体組成物中のアンモニア及びアンモニウム塩の合計(アンモニウム換算)が、N−ビニルラクタム系重合体組成物100質量%に対し、0〜0.1質量%である形態である。これにより、臭気及び着色(黄変)がより軽減できる。より好ましくは0〜0.01質量%であり、更に好ましくは、実質的にアンモニア及びアンモニウム塩を含まないことである。
【0072】
上記N−ビニルラクタム系重合体組成物が水溶液である場合の好ましい形態としては、N−ビニルラクタム系重合体を1〜70質量%、水を30〜99質量%、その他の成分(残存N−ビニルラクタム系単量体等)を0〜1質量%含む形態が挙げられる。
また上記N−ビニルラクタム系重合体組成物が固体である場合の好ましい形態としては、N−ビニルラクタム系重合体を95〜100質量%、その他の成分(水や残存N−ビニルラクタム等)を0〜5質量%含む形態が挙げられる。
【0073】
<N−ビニルラクタム系重合体の用途>
本発明のN−ビニルラクタム系重合体及び本発明の製造方法によって得られるN−ビニルラクタム系重合体は、任意の適切な用途に用いることができる。その用途の一例を挙げれば、各種無機物や有機物の分散剤、凝集剤、増粘剤、粘着剤、接着剤、表面コーティング剤、架橋性組成物等であり、より具体的には、泥土分散剤、セメント材料分散剤、金属微粒子分散剤、炭素繊維分散剤、カーボンブラック分散剤、セメント材料用増粘剤、洗剤用ビルダー、洗剤用色移り防止剤、重金属補足剤、スケール防止剤、金属表面処理剤、染色助剤、染料定着剤、泡安定剤、乳化安定剤、インク染料分散剤、水性インク安定剤、塗料用顔料分散剤、塗料用シックナー、感圧接着剤、紙用接着剤、スティック糊、医療用接着剤、貼付剤用粘着剤、化粧パック用粘着剤、樹脂用フィラー分散剤、樹脂用親水化剤、記録紙用コーティング剤、インクジェット紙用表面処理剤、感光性樹脂用分散剤、帯電防止剤、保湿剤、肥料用バインダー、医薬錠剤用バインダー、高分子架橋剤、樹脂相溶化剤、写真薬添加剤、化粧用調剤添加剤、整髪料助剤、ヘアスプレー添加剤、サンスクリーン組成物用添加剤等の他、種々の工業用途(例えば、中空糸膜の製造)に用いられる。
【発明の効果】
【0074】
本発明のN−ビニルラクタム系重合体の製造方法は、上述のような構成であるので、高温状態においても着色を抑制し、色調を維持することが可能なN−ビニルラクタム系重合体を効果的に得ることができる。このような重合体は、特に200〜270℃付近において、色調変化(黄変)を充分に抑制することができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0075】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
なお、重合体の重量平均分子量及び数平均分子量、未反応の単量体の定量、重合体組成物(重合体水溶液)の固形分量、アンモニウム含有量は、下記の方法に従って測定した。
【0076】
<重合体組成物(重合体水溶液)の固形分測定方法>
窒素雰囲気下、150℃に加熱したオーブンで重合体組成物(重合体水溶液)2.0gを1時間放置して乾燥処理した。乾燥前後の重量変化から、固形分(%)と、揮発成分(%)を算出した。
【0077】
<単量体の分析>
単量体の分析は、以下の条件で、液体クロマトグラフィーを用いて分析した。
装置:資生堂社製「NANOSPACESI−2」
カラム:資生堂社製「CAPCELLPAK C18 UG120」、20℃
溶離液:LC用メタノール(和光純薬工業社製)/超純水=1/24(質量比)、1−ヘプタンスルホン酸0.4質量%添加
流速:100μL/min。
【0078】
<重合体の分子量の測定>
上記のK値の測定法により測定した。
【0079】
<重合体中の含リン還元剤に由来する構造単位の分析>
重合体中の含リン還元剤に由来する構造単位(すなわち、リンを含む構造単位)の定量は、31P−NMRの測定により行った。
31P−NMRの測定条件:
測定する重合体を室温で減圧乾燥し、得られた固形分を重水(アルドリッチ社製)に10質量%となるように溶解し、Varian社製UnityPlus−400(400MHz、パルスシーケンス:s2pu1、測定間隔:10.000秒、パルス:45.0度、捕捉時間:0.800秒、積算回数:128回)にて測定した。
なお、31P−NMRの積分強度比から、重合体の主鎖末端のリンを含む構造単位(例えば、実施例1〜5ではホスフィン酸基)の、全ての含リン還元剤に対する割合を定量した。その後、N−ビニルラクタム系単量体と含リン還元剤との使用量から、N−ビニルラクタム系重合体の全質量100質量%に対する、主鎖末端(分子末端)のリンを含む構造単位の割合(質量%)、及び、分子中のリンを含む構造単位の割合(質量%)を算出した。
【0080】
<重合体組成物に含まれるアンモニウム塩構造の測定>
重合体組成物(重合体水溶液)中のアンモニウム含有量を、イオンクロマトグラフ(日本ダイオネクス社製、「イオンクロマトグラフシステムICS2000」、塩基性物質測定用カラム:IonpacCS17、溶離液:メタンスルホン酸、流量:1.4mL/min)を用いて定量し、別途算出した重合体水溶液中のポリビニルピロリドンの全量に対する質量ppmとしてアンモニア含有量(アンモニウム含有量とも称す)を算出した。
なお、アンモニウム含有量の検出限界は1ppmである。
【0081】
実施例1
マックスブレンド(住友重機械工業社の登録商標)型の攪拌翼、ガラス製の蓋を備えたSUS製反応容器に、イオン交換水78.2質量部、CuSO0.000125質量部を仕込み、95〜98℃に昇温した。N−ビニルピロリドン(以下、「NVP」と称する)250質量部、ジエタノールアミン(以下、「DEA」と称する)0.25質量部、イオン交換水37.5質量部からなる単量体水溶液を180分かけて、69質量%ターシャリーブチルヒドロペルオキシド水溶液(日油社製、以下「69%TBHP」と称する)0.72質量部、イオン交換水100部からなる重合開始剤水溶液を210分かけて、15質量%次亜リン酸ナトリウム水溶液(以下、「15%SHP」と称する)5質量部、イオン交換水28.3質量部からなる還元剤水溶液を165分かけて、反応容器に添加した。更に2,2’−アゾビス−2−アミジノプロパン二塩酸塩(和光純薬工業社製、以下「V−50」と称する)0.5質量部、イオン交換水4.5質量部からなるブースター水溶液をそれぞれ重合開始から210分後、240分後に一括で添加することにより、重合体(1)を含む重合体組成物(1)を得た。
【0082】
実施例2〜5
表1及び2に示す条件で、実施例1と同様に、重合体(2)〜(5)を各々含む重合体組成物(2)〜(5)を得た。
【0083】
比較例1
攪拌機、温度計、還流管を備えた反応器に、イオン交換水634.5部及びN−ビニルピロリドン160部を仕込み、ジエタノールアミン0.02部を添加して、単量体水溶液をpH8.3に調整した。この単量体水溶液を攪拌しながら、窒素ガスを導入して溶存酸素を除去した後、攪拌しながら、反応器の内温が70℃になるように加熱した。
この反応器に、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(和光純薬工業社製、以下「V−59」と称する)0.35部をイソプロパノール3.7部に溶解した重合開始剤溶液を添加して重合を開始した。
重合開始剤溶液を添加した後、重合反応による内温の上昇が認められた時点から、ジャケット温水温度を内温に合わせて昇温し、90℃に到達した時点で維持した。
重合開始剤溶液を添加してから約3時間反応を継続した後、10質量%マロン酸水溶液1.4部とイオン交換水0.5部とを混合した溶液を添加して、反応液をpH3.7に調整し、90℃で90分間内温を維持した。
次いで、ジエタノールアミン0.2部をイオン交換水2.3部に溶解したアルカリ水溶液を添加して、反応液をpH6.6に調整し、90℃で30分間内温を維持して、20wt%のポリビニルピロリドンを含有する比較重合体(1)を含む比較重合体組成物(1)を得た。表1に重合処方を、表2に重合結果をまとめた。
【0084】
比較例2
反応容器に水93.8部と0.1%硫酸銅(II)0.0046部とを仕込み、これを60℃まで昇温した。
次いで、60℃を維持しながら、N−ビニルピロリドン100部と25%アンモニア水0.6部とを混合した単量体水溶液、及び、35%過酸化水素水溶液3.4部を、夫々別々に180分間かけて滴下した。
滴下終了後、25%アンモニア水0.2部を添加した。反応開始から4時間後、80℃に昇温し、35%過酸化水素水0.5部を添加した。次いで、反応開始から5.5時間後、35%過酸化水素水0.5部を添加し、更に80℃で1時間保持して50%のポリビニルピロリドンを含有する比較重合体(2)を含む比較重合体組成物(2)を得た。表1に重合処方を、表2に重合結果をまとめた。
【0085】
比較例3
0.025%硫酸銅(II)1.0部と、イオン交換水371.0部とを反応容器に仕込み、窒素脱気(100ml/minで30分バブリング)を行った。
次いで、30ml/minの流速で気相部に窒素フローを行いながら80℃まで昇温した。
80℃及び窒素フローを維持しながら、N−ビニルピロリドン500.0部、25%アンモニア水0.6部、ジエタノールアミン1.4部、及び、イオン交換水63.6部を混合した単量体溶液と、35%過酸化水素12.5部及びイオン交換水31.9部を混合した開始剤溶液とを、各々それぞれ180分間かけて滴下した。滴下終了後、35%過酸化水素1.0部を6回に均等に分けて1時間間隔で添加し、6回目の添加後、更に80℃で1時間保持して、50%のポリビニルピロリドンを含有する比較重合体(3)を含む比較重合体組成物(3)を得た。表1に重合処方を、表2に重合結果をまとめた。
【0086】
評価試験(実施例1〜5、比較例1〜3)
以下の手順で高温条件下での色調の評価を行った。
上記実施例及び比較例で得られた各重合体組成物を、減圧乾燥機で12時間乾燥した。
乾燥後の各組成物を、窒素雰囲気下260℃で60分間加熱後、空気中にて放冷した。デシケーター中で、空冷し、室温に戻ったサンプルを、以下の条件で色差計を用い、L、a、bを測定した。
装置:日本電色工業社製「色差計SE−2000」
方法:加熱前後のサンプルを石英セルに敷き、遮光下「反射モード」にて測定する。
得られたL、a、bから、下記式により黄色度(YI)を算出した。結果を表2に示す。
【0087】
【数2】

【0088】
【表1】

【0089】
表1中、「V−59」は、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(和光純薬工業社製)を表す。「IPA」は、イソプロパノールを表す。また、「aq」は、水溶液であることを意味する。
【0090】
【表2】

【0091】
表2中、ブースター欄の滴下時間(分)は、ブースター水溶液の一括投入を何分後に行ったのかを示している。例えば、実施例1〜5の滴下時間におけるブースター(2)欄の「210、240」は、210分後にブースター(2)の全量を一括投入した後、更に、240分後にもブースター(2)の全量を一括投入したことを意味する。
【0092】
比較例4
冷却管、窒素導入ライン、温度計を設置した重合容器に、イオン交換水78部を加え、窒素を導入して窒素雰囲気下とした。重合容器を加熱し内温を98℃とした後、攪拌しながら、N−ビニルピロリドン46.8部、30%次亜リン酸5.46部、25%アンモニア水溶液2.11部及びイオン交換水1.2部からなるモノマー溶液と4,4’−アゾビス−4−シアノ吉草酸(日宝化学社製NC−25)0.94部、トリエタノールアミン0.98部をイオン交換水22.6部に溶解させた開始剤溶液をそれぞれ連続的に1時間かけて滴下した。更に、加熱攪拌を1時間続ける間に、0.06部のNC−25、0.06部のエタノールアミンをイオン交換水1部に溶解させた開始剤溶液を2回に分けて投入してポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液について、上述した色調評価試験に従って、高温条件下での色調の評価を行った。結果を表3に示す。
【0093】
【表3】

【0094】
表2及び3の結果から、本発明の製造方法で製造されたN−ビニルラクタム系重合体は、従来のN−ビニルラクタム系重合体と比較して高温条件下における耐着色性(良好な色調)を示すことが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N−ビニルラクタム系単量体に由来する構造単位を有する重合体を製造する方法であって、
該N−ビニルラクタム系重合体の製造方法は、アゾ系重合開始剤及び/又は水溶性有機過酸化物と、還元剤との存在下、水性溶媒中で、N−ビニルラクタム系単量体を含有する単量体成分を重合する工程を含む
ことを特徴とするN−ビニルラクタム系重合体の製造方法。
【請求項2】
N−ビニルラクタム系単量体に由来する構造単位を有する重合体であって、
該N−ビニルラクタム系重合体は、主鎖末端に、リンを含む構造単位を有する
ことを特徴とするN−ビニルラクタム系重合体。
【請求項3】
N−ビニルラクタム系単量体に由来する構造単位を有する重合体であって、
該N−ビニルラクタム系重合体は、窒素通気下260℃で60分加熱した際の黄色度が25以下であり、かつハンターLab色空間におけるb値が13以下である
ことを特徴とするN−ビニルラクタム系重合体。

【公開番号】特開2012−82409(P2012−82409A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203144(P2011−203144)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】